説明

塗布装置及び塗布方法

【課題】 基板に塗布された塗布液の乾燥を基板の塗布された領域内で均一にすることを可能にして、塗布物のムラを防止するとともに、乾燥後の塗布物の形状を効果的に均一にすることのできる塗布装置及び塗布方法を提供する。
【解決手段】 溶質と溶媒とを含む塗布液を基板上の所定領域に塗布して溶媒を揮発させ、溶質の固化物を前記基板上に形成するにあたり、前記基板上の所定領域への塗布を終えるまで、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置又は液晶パネルあるいは有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネルを用いた表示装置などのような電子デバイスの製造の際に用いられる塗布装置及び塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶パネルあるいは有機ELパネルを用いた表示装置などのような電子デバイスの製造の際には、水溶液や、無機又は有機溶媒を含む塗布液を基板上に塗布することにより、基板上の機能層やレジスト層等の膜を形成させることが行われている。その塗布方法としては、スピンコート法やインクジェット法、スリットコート法などがある。これらの塗布方法のうち、インクジェット法は、表示装置の発光層やカラーフィルター層などといった微細なパターニングを行う成膜に用いられている。
【0003】
このような電子デバイスの製造の際に塗布工程を行ったときに、塗布された塗布液の乾燥の仕方が、基板上の所定領域内で均一にならない場合があり、乾燥ムラや乾燥固化した塗布物の形状が一様にならないなどの問題があった。
【0004】
例えば、インクジェット法によりインクジェット塗布装置の塗布ヘッドから有機ELインクなどの溶液を吐出させてガラス基板上に塗布する場合に、ガラス基板上の塗布された領域内で乾燥ムラが生じたり、塗布液が乾燥した固化物(インク)の形状にばらつきが生じたりすることがあった。このような乾燥ムラや塗布物の形状の相違は、電子デバイスの製造に悪影響を及ぼすため、できる限り抑制することが望まれる。
【0005】
特許文献1には、インクジェット法等の吐出法により機能層形成用液を塗布し乾燥させて機能性素子を製造する方法に関して、製造される機能層の平坦性を得るために、機能層の形状を検査して、その形状に応じて乾燥工程における溶媒の揮発速度を速く又は遅くする方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、吐出法により基板上に着弾した個々の機能層の形状に着目して、形状を制御しようとする方法であり、基板上の塗布された領域にわたって乾燥ムラ及び形状のばらつきを防止するものでは必ずしもなかった。
【特許文献1】特開2003−266003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたものであり、基板に塗布された塗布液の乾燥を基板の塗布された領域内で均一にすることを可能にして、塗布物のムラを防止するとともに、乾燥後の塗布物の形状を効果的に均一にすることのできる塗布装置及び塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗布装置は、溶質と溶媒とを含む塗布液を、基板上の所定領域に塗布する塗布手段と、前記基板上の所定領域への塗布を終えるまで、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持する雰囲気保持手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の塗布装置においては、塗布手段が、インクジェット塗布手段である場合に、有利に適用される。
【0010】
また、本発明の塗布装置においては、前記基板上に塗布された領域の均一乾燥化手段を、更に備えることは、塗布領域における乾燥ムラをいっそう防止し、塗布物の形状をより均一にすることができるので有利である。この均一乾燥化手段としては、塗布液が塗布された基板上の所定領域近傍に設けられた吸引フードとすることができるし、また、前記塗布液が塗布された基板上の所定領域近傍にガスの放出口と吸引口とが設けられたエアナイフ装置とすることもできる。
【0011】
また、本発明の塗布方法は、溶質と溶媒とを含む塗布液を基板上の所定領域に塗布して溶媒を揮発させ、溶質の固化物を前記基板上に形成する塗布方法において、前記基板上の所定領域への塗布を終えるまで、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の塗布方法においては、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の飽和濃度の40%以上100%以下の雰囲気にすることが好ましく、前記塗布液が水を含むものである場合には、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、湿度が40%以上85%以下の雰囲気にすることが好ましい。
【0013】
また、本発明の塗布方法においては、基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記塗布液中の溶媒とは異なる種類の溶媒雰囲気にして、基板上に塗布された塗布液が乾燥するまでにこの塗布液中の溶媒を置換することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗布ムラを防止することができ、塗布物の形状を均一にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗布装置としての、インクジェット塗布装置1の全体構成を示す斜視図である。同図において、インクジェット塗布装置1は、ベース2の上面部21に設けられている塗布手段を覆って、雰囲気保持手段としてのインク塗布ボックス11が設けられている。このインク塗布ボックス11には、図示しないガス供給源からのガスをインク塗布ボックス11に導く供給パイプ12と、及びインク塗布ボックス11内のガスを排出する排気装置に接続されている排出パイプ13が取り付けられている。インク塗布ボックス11の所定位置には、ガス濃度の検出器が設けられており、インク塗布ボックス11内のガスや水分の濃度検出することができるようになっている。インク塗布ボックス11に供給されるガスの種類やガスの濃度又は湿度やガスの流量は、変更又は調整が可能になっており、これらのガスの種類やガスの濃度又は湿度やガスの流量を制御することにより、インク塗布ボックス11内の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持することができるようになっている。
【0017】
このインク塗布ボックス11内の塗布手段の構成を、図2を用いて説明する。
【0018】
ベース2の上面部21上にXテーブル22、Yテーブル23が順次に設けられていて、このYテーブル23上に、塗布しようとする基板を保持するステージ24が支持されている。このステージ24の上面には、基板Sが保持されている。この基板Sは、例えば有機エレクトロルミネッセンスパネル用のガラス基板であるが、本発明の塗布装置を用いて塗布される基板は、かようなガラス基板に限定されるものではない。
【0019】
また、ベース2の上面部21には、門形の支持体25が、ステージ24を跨ぐように立設されていて、この門形の支持体25に、塗布ヘッドユニット26が取り付けられている。この塗布ヘッドユニット26は、上下方向に移動可能に門形の支持体25に取り付けられている昇降部材26aと、この昇降部材26aの側面に取り付けられているL形支持具26bと、このL形支持具26bの水平部から下方に、垂直方向を回転軸として回動可能に取り付けられている塗布ヘッド26cとを有している。
【0020】
図2に示した塗布手段においては、ステージ24上で保持された基板Sに近接するよう配置された塗布ヘッド26cに図示しないインク供給タンクからインクが供給されて、塗布ヘッド26cから基板Sに向けて塗布液を吐出するとともに、基板SをXテーブル22及びYテーブル23の移動によって移動させることにより、基板S上の所定領域が塗布されるようになっている。
【0021】
このとき、従来技術においては、塗布ヘッド26cから吐出させ基板S上に着弾させ乾燥させたインクの形状にばらつきが生じる場合があったのは、既に述べたとおりである。この原因は、基板上でインクが塗布された領域近傍における雰囲気条件や気流条件の相違、変動によって着弾したインクの乾燥速度が塗布領域内で異なる結果、形状にばらつきが生じるものと考えられる。また、基板上の塗布された領域において、ステージ24上の基板Sを塗布ヘッド26cに対して相対的に移動させて所定領域の塗布を行ったときに、最初に着弾したインクから順次に溶媒が揮発するため、塗布された領域近傍における雰囲気中の溶媒濃度が次第に高くなる場合があり、この点でも乾燥速度に相違が生じて、乾燥ムラや形状の相違が生じる場合があった。
【0022】
インクジェット装置により基板上に塗布された塗布液(インク)の蒸発機構を、図3に示す模式図を用いて説明する。塗布液Lが基板S上に塗布された直後の形状は図3(a)に示す形状となる。かような形状は、例えば、有機ELのインクをガラス基板上に塗布する場合には、微細なパターニングでインクを形成すべく、塗布液の粘度の調整や基板の濡れ性の制御を行うことにより、図示したような形状になる。
【0023】
基板S上で塗布液Lの乾燥が始まると、図3(b)に示すように、塗布液Lの表面から溶媒が外気中に拡散して蒸気層Gが形成されるとともに、塗布液Lの内部では対流が発生する。このとき、塗布液Lの幅方向のエッジ部は、中央部よりも表面積が広く、かつエッジ部近傍における雰囲気中の溶媒濃度も中央部よりも薄くなる。したがって、エッジ部から優先的に乾燥が進行することになる。その結果、図3(c)に示すように、エッジ部は、蒸発が速いがゆえに表面張力が上昇し、塗布液を引っ張るような作用が働く結果、塗布液全体としてはエッジ部が盛り上がった凹部形状になる。塗布液中の溶媒の揮発性が高く、乾燥速度が速すぎる場合は、このような形状で乾燥が終了するので、塗布液は、凹形状の固化物になる。
【0024】
なお、乾燥速度が適切である場合には、図3(c)の状態から更に乾燥が進行し、図3(d)に示すように幅方向中央部からも蒸発が多くなり、中央部の表面張力が上昇して、塗布液全体の形状としては元の形状に戻るような形になる。次に、エッジ部の乾燥が終了すると図3(e)に示すように中央部のみで蒸発が続き、塗液がセンター方向に引っ張られるような作用が働く結果、最終的には、図3(f)に示すように、センター部とエッジ部がほぼ同じ高さになる固化物となる。
【0025】
このように、基板上に塗布された塗布液の乾燥速度によって、得られる固化物の形状が異なり、また、塗布された領域内において乾燥速度に相違が生じると、乾燥ムラや固化物の形状の不揃いが生じてしまうのである。
【0026】
そこで、図1に示す本発明の一実施形態の塗布装置1においては、基板S上の塗布された領域近傍の雰囲気を、溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持する雰囲気保持手段として、インク塗布ボックス11を具備することとして、このインク塗布ボックス11内に、ベース2の上面部21上で保持された基板Sを塗布手段とともに、気密状態にて収容するようにしている。そして、このインク塗布ボックス11の雰囲気を調整するために、供給パイプ12からインク塗布ボックス11内に導くガスの種類やガスの濃度又は湿度やガスの流量を制御して基板上の所定領域への塗布を終えるまでは、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持するから、塗布された領域の全ての領域において乾燥が起こらないか、又は著しく遅延する。そして、塗布を終えた後はインク塗布ボックス11内のガス種類及び/又は雰囲気(ガス濃度、湿度、ガス気流)を変えることにより、塗布された領域を同じ条件で乾燥させることができるので、基板上における塗布液の局部的な乾燥速度の違いが起こりにくくなり、よって塗布ムラを防止することができ、形状の不均一化を防ぐことができる。
【0027】
このようにインク塗布ボックス11における溶媒の揮発を抑制する雰囲気は、溶媒の飽和濃度の40%以上100%以下の雰囲気とすることが好ましい。溶媒が水である水溶液を塗布液に用いる場合には、溶媒の飽和濃度の40%以上85%以下の雰囲気とすること、すなわち、雰囲気の湿度を40%以上85%以下とすることが好ましい。
【0028】
溶媒の飽和濃度の40%未満の雰囲気では、塗布液に対して乾燥速度が速すぎて塗布物について良好な形状が得られない。また、塗布の工程を行うクリーンルーム内は通常、湿度が40%以上である雰囲気になっているため、水溶液の塗布液を用いる場合に、クリーンルーム内の湿度よりも低い湿度に制御することは現実的でなく、むしろ形状に悪影響を及ぼす。一方、所定領域を塗布している間の揮発を抑制するという観点からは、雰囲気中の溶媒濃度は高いほうがよく、溶媒の飽和濃度の100%の雰囲気としてもよい。もっとも、塗布液が水溶液である場合には、湿度が100%の雰囲気にすると、塗布装置内が露点に達して、塗布装置の電気回路のショートや錆の発生を生じてしまうおそれがあるので、雰囲気中の湿度の上限は85%とすることが望ましい。実用上70%前後であれば、上述の電気回路のショートや錆の問題が生じないので、好適である。
【0029】
次に、塗布液を基板の所定領域に塗布を終えた後においては、塗布された領域にわたって、均一に乾燥させることが望ましい。そのため本発明の塗布装置においては、前記基板上に塗布された領域の均一乾燥化手段を、更に備えることができる。
【0030】
この均一乾燥化手段を備える本発明の塗布装置の一実施形態を図4に示す斜視図を用いて説明する。なお、同図では均一化手段の説明の便宜のために、図1に示したインク塗布ボックス11は図示していないが、同図に示した実施形態においても、前記基板上の所定領域への塗布を終えるまでは基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持するために、インク塗布ボックス11は設けられている。また、同図において図1及び図2と同一の部材については、同一の符号を付してあり、以下では重複する説明を省略する。
【0031】
均一乾燥化手段として、図4に示す塗布装置では、塗布ヘッドユニット26の塗布ヘッド26c及びステージ24上の基板S近傍を覆う吸引フード31が基板Sに近接して設けられている。この吸引フード31は、基板Sに向かう部分に開口を有する箱形のものであり、図示しない支持装置を介して門形の支持体25から支持されている。図示した吸引フード31では側面部に排気管32が接続されていて、この排気管32が図示しない排気装置に接続されていることにより、吸引フード31内の雰囲気ガスを排気するようになっている。
【0032】
かくして、図示した吸引フード31により、基板S上の塗布された領域近傍の雰囲気ガスを局部的に吸引排気できることから、吸引フード31内に覆われている領域内に相当する塗布された領域を均一に乾燥させることができる。また、吸引フード31近傍には、図示しない風速計又は風量計が設けられることにより、乾燥速度を調整することができる。
【0033】
図4に示した塗布装置のように、吸引排気により乾燥させることは、基板表面に向けて気流を吐出させて乾燥させる乾燥手段と比べて、気流の影響が及ぶ範囲が限定されるので、周囲の気流を乱しにくい。そのため、乾燥させたい領域以外の領域に悪影響を及ぼすことなく、乾燥させたい領域を局所的に均一乾燥させることができる点で有利である。
【0034】
図5及び図6に、均一乾燥化手段を備える本発明の塗布装置の他の実施形態を全体斜視図(図5)及び要部斜視図(図6)で示す。なお、図5及び図6においても、均一化手段の説明の便宜のために、図1に示したインク塗布ボックス11は図示していないが、これらの図面に示した実施形態においても、基板上の所定領域への塗布を終えるまでは基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持するため、インク塗布ボックス11は設けられている。また、これらの図面において図1及び図2と同一の部材については、同一の符号を付してあり、以下では重複する説明を省略する。
【0035】
図5及び図6に示した実施形態においては、均一乾燥化手段がエアナイフ装置41である。このエアナイフ装置41は、吐出用エアナイフノズル41aと吸引用エアナイフノズル41bとを有し、図示しない支持装置により基板Sと平行な面内を移動可能に門形の支持体25から支持されていて、この吐出用エアナイフノズル41aのノズル開口と吸引用エアナイフノズル41bのノズル開口とが互いに平行になるように、ほぼ基板Sに近接して配置されている。吐出用エアナイフノズル41aには、図示しないブロアに一方の端部が接続するパイプ41cの他端部が接続されていて、吸引用エアナイフノズル41bには、図示しないポンプに一方の端部が接続するパイプ41dの他端部が接続されている。そして、吐出用エアナイフノズル41aのノズル開口からガス(空気)を吐出し、吸引用エアナイフノズル41bのノズル開口から吸引することにより、この吐出用エアナイフノズル41aと吸引用エアナイフノズル41bとの間の塗布された領域近傍に局所的に気流を生じさせることができるので、この局所的な領域を均一に乾燥させることができる。また、この実施形態では、吐出用エアナイフノズル41aから局所的に気体を吹き付けているが、吸引用エアナイフノズル41bにより吹き付けた気体を吸引回収しているため、乾燥させたい領域以外の領域に悪影響を及ぼすことなく、乾燥させたい領域を局所的に均一乾燥させることができる。
【0036】
本発明の均一乾燥化手段は、図4〜6に示した実施の形態に限られるものではない。例えば、図1に示した塗布装置1において、基板上の所定領域への塗布を終えるまでは、インク塗布ボックス11内の雰囲気を前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持し、塗布を終えた後に、排出パイプ13からインク塗布ボックス11内のガスを排気してインク塗布ボックス11内を減圧雰囲気にすることにより、基板上に塗布された塗布液を均一に乾燥させることもできる。
【0037】
次に、本発明の塗布方法においては、基板上の所定領域への塗布を終えるまで、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持する際に、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記塗布液中の溶媒とは異なる種類の溶媒雰囲気にして、基板上に塗布された塗布液が乾燥するまでにこの塗布液中の溶媒を置換することもできる。例えば、塗布液に関して、溶質を溶かす溶媒として求められる溶媒の特性と、基板上に塗布された後に求められる溶媒の乾燥速度の特性とが一種類の溶媒では十分に満足できない場合がある。このように塗布の前後において複数の特性が求められる場合に、基板上に塗布液が塗布されて乾燥していない状態のときに、塗布液近傍の雰囲気を塗布液の溶媒とは異なる溶媒が飽和した雰囲気にすることにより、見かけ上は塗布液が乾いていない状態で、基板上に塗布された塗布液の溶媒を置換することが可能になり、複数の要求特性を満足させることが可能になる。具体的には、インク塗布ボックス11内に塗布液の溶媒とは異なる溶媒になるガスを供給すればよい。
【0038】
以下、本発明の塗布装置を用いた実施例について説明する。
【0039】
(1)図1に示すインクジェット塗布装置内で、テトラリン溶媒に高分子有機ELインクを1%加えたものを塗布液として、窒素雰囲気にパージしながら排気を行い、基板上のバンク内に塗布を行った(従来例)。続いてホットプレートで乾燥させた。その結果、基板面内での隣接輝度ムラは塗布条件を変化させても2〜7%の範囲となった。
【0040】
これに対して、図1に示すインクジェット塗布装置内で基板上のバンク内に塗布を行うにあたり、テトラリンで飽和させた窒素を塗布装置のインク塗布ボックス内に供給し、十分置換されたところで同様にインクジェット印刷を行うと、塗布中の乾燥が抑制され、ホットプレートで乾燥させた後で隣接輝度ムラを測定すると0.5%〜2%の範囲に収まった。
【0041】
(2)次に、塗布液として、PEDOTを水に0.2%溶解させたものを用い、上記(1)と同様に塗布実験を行った。本実験では塗布液の溶媒としてテトラリンのかわりに水を用いている。その結果、バンク内の面内膜厚ばらつきは、雰囲気制御を行わなかった場合が30%前後となったのに対して、塗布中にインク塗布ボックス内の湿度を70%に雰囲気制御した場合が5%以下に収まった。
【0042】
(3)上記(1)、(2)のケースで、塗布終了後にホットプレートで加熱する前に図5に示すようにエアナイフを一対近接させた状態で乾燥用の窒素を放出・吸引させながら基板上を一定速度でスキャンさせた場合は、風速にもよるが、更に20〜40%程度の改善が見られた。
【0043】
(4)次に、基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、塗布液中の溶媒とは異なる種類の溶媒雰囲気にする実験を行った。塗布液には、色レジストをシクロヘキサノンに溶解させたものを用いた。この塗布液をガラス基板(約5cm角)上に塗布し、PEGMIAが飽和した雰囲気になる塗布装置内に置いた。一方、比較例として、流量0.34m/sの大気雰囲気になる塗布装置内に置いた場合の実験も行った。
【0044】
放置処理前後での重量変化を精密天秤で測定した。その結果を表1及び図7に示す。
【表1】

【0045】
表1及び図7より明らかなように、塗布液の溶媒であるシクロヘキサノンとは異なる溶媒(PEGMIA)の雰囲気にした場合であっても、長時間にわたって乾燥が抑制されたことが確認できた。
【0046】
以上の結果より、本発明に従い、塗布する際に溶媒雰囲気に基板表面を保持することで、塗布物の均質平坦化と乾燥遅延を促し、塗布物の形状均一性を出しやすくなっていることがわかる。
【0047】
なお、溶媒が水の場合は85%以上の雰囲気濃度にした場合は露結によりさびや電気回路のショートが発生しやすかった。概ね上記の効果は40%以上の雰囲気濃度であれば見られ始め、100%で効果は最大となっていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗布装置としての、インクジェット塗布装置1の全体構成を示す斜視図。
【図2】図1の塗布装置の塗布手段の説明図。
【図3】塗布液の蒸発機構を説明する模式図。
【図4】均一乾燥化手段を備える本発明の塗布装置の一実施形態を示す斜視図。
【図5】均一乾燥化手段を備える本発明の塗布装置の他の実施形態を示す斜視図。
【図6】図5の要部説明図。
【図7】放置環境雰囲気とレジスト乾燥状態との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0049】
1…インクジェット塗布装置、11…インク塗布ボックス(雰囲気保持手段)、12…供給パイプ、13…排出パイプ、31…吸引フード(均一乾燥化手段)、41…エアナイフ装置(均一乾燥化手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶質と溶媒とを含む塗布液を、基板上の所定領域に塗布する塗布手段と、
前記基板上の所定領域への塗布を終えるまで、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持する雰囲気保持手段と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記塗布手段が、インクジェット塗布手段であることを特徴とする請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
前記基板上に塗布された領域の均一乾燥化手段を、更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記均一乾燥化手段が、前記塗布液が塗布された基板上の所定領域近傍に設けられた吸引フードである請求項3に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記均一乾燥化手段が、前記塗布液が塗布された基板上の所定領域近傍にガスの放出口と吸引口とが設けられたエアナイフ装置である請求項3に記載の塗布装置。
【請求項6】
溶質と溶媒とを含む塗布液を基板上の所定領域に塗布して溶媒を揮発させ、溶質の固化物を前記基板上に形成する塗布方法において、
前記基板上の所定領域への塗布を終えるまで、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の揮発を抑制する雰囲気に保持することを特徴とする塗布方法。
【請求項7】
前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記溶媒の飽和濃度の40%以上100%以下の雰囲気にすることを特徴とする請求項6記載の塗布方法。
【請求項8】
前記塗布液が水を含むものである場合に、前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、湿度が40%以上85%以下の雰囲気にすることを特徴とする請求項6記載の塗布方法。
【請求項9】
前記基板上の塗布された領域近傍の雰囲気を、前記塗布液中の溶媒とは異なる種類の溶媒雰囲気にして、基板上に塗布された塗布液が乾燥するまでにこの塗布液中の溶媒を置換することを特徴とする請求項6記載の塗布方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−26463(P2006−26463A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204927(P2004−204927)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】