説明

変位検出装置、車両用操舵装置及びモータ

【課題】検出精度を低下させることなく、装置全体としての回路規模をより縮小することができる変位検出装置、車両用操舵装置及びモータ。
【解決手段】モータ回転角センサ16は、複数のホール素子HA〜HCと、これら複数のホール素子HA〜HCを動作させるための電力供給をそれぞれ遮断可能な複数のスイッチSWA〜SWCとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位検出装置、車両用操舵装置及びモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、変位検出センサを備えた変位検出装置として種々のものが提案されている。例えば特許文献1に記載されたものは、変位検出センサとしてのホール素子を備えており、同ホール素子により検出対象物(車輪)の回転に伴って発生する磁束密度の変化を変位として検出している。
【0003】
尚、ホール素子は、その動作のための電力供給を行う電源と電気的に接続されている。そして、冗長性の向上等のためにホール素子を複数備える変位検出装置では、いずれかのホール素子がショート故障を発生した場合の対策として、以下の手段が取られている。
【0004】
第1の手段は、電源を分離して、いずれかのホール素子がショート故障しても、残りのホール素子を生かすというものである。すなわち、図5に示すように、複数のホール素子HA〜HCには、個別に電源回路PA〜PCが接続されている。この場合、例えばホール素子HAがショート故障したとしても、他のホール素子HB,HCには依然として別の電源回路PB,PCからの電力供給が可能であり、これらホール素子HB,HCによる変位検出を継続することができる。
【0005】
また、第2の手段は、電源を分離せず、いずれかのホール素子がショート故障しても電圧が低下しないだけの電流供給能力を有する電源を採用するというものである。すなわち、図6に示すように、単一の電源回路Pに複数のホール素子HA〜HCが並列接続されるとともに、これらホール素子HA〜HCにそれぞれ制限抵抗RA〜RCが直列接続されている。この場合、例えばホール素子HAがショート故障したとしても、該ホール素子HAを流れる電流値以上の電流供給能力が電源回路Pにあれば、他のホール素子HB,HCによる変位検出を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第2596621号公報(第4図)
【特許文献2】特開平9−318305号公報(第[0027]−[0028]、[0034]、第7図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記した第1の手段(図5参照)では、複数の電源回路(PA〜PC)が必要になるため、装置全体としての回路規模が大きくなってしまう。また、複数のホール素子(HA〜HC)に個別に電源回路が接続されるため、各ホール素子に加わる電圧に差が発生して検出誤差となってしまう。
【0008】
一方、前記した第2の手段(図6参照)では、電源回路(P)の電流供給能力を高くするために、該電源回路の規模が大きくなってしまう。また、ショート故障したホール素子を流れる電流値(電流制限値)を小さくするために制限抵抗(RA〜RC)の抵抗値を大きくしてしまうと、該制限抵抗での電圧降下が増大する分、ホール素子に加わる電圧が小さくなって、変位検出のダイナミックレンジが小さくなってしまう。
【0009】
本発明の目的は、検出精度を低下させることなく、装置全体としての回路規模をより縮小することができる変位検出装置、車両用操舵装置及びモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の変位検出センサと、前記複数の変位検出センサを動作させるための電力供給をそれぞれ遮断可能な複数の遮断手段とを備えたことを要旨とする。
【0011】
同構成によれば、前記複数の変位検出センサの全てが正常なとき、前記複数の遮断手段の全てで前記複数の変位検出センサを動作させるための電力供給を許容することで、これら複数の変位検出センサの全てで変位検出することができる。一方、前記複数の変位検出センサのいずれかがショート故障を発生した場合、当該変位検出センサに過電流が流れる。このとき、ショート故障を発生した当該変位検出センサに接続される前記遮断手段により当該変位検出センサへの電力供給を遮断することで、該変位検出センサに過電流が流れ続けることを解消できる。
【0012】
従って、例えば前記複数の変位検出センサへの電力供給を単一の電源回路で全て行う場合、これら複数の変位検出センサのいずれかがショート故障を発生したとしても、正常な他の変位検出センサへの電力供給に対する影響が解消され、当該変位検出センサによる変位検出を継続することができる。これにより、電源回路の規模を縮小することができ、ひいては装置全体としての回路規模を縮小することができる。また、前記複数の変位検出センサへの電力供給を単一の電源回路で全て行う場合、該電力供給を個別の電源回路で行う場合に比べて前記複数の変位検出センサ間でそれらへの電力供給に差が発生しにくくなる。つまり、前記複数の変位検出センサ間でそれらの検出精度にばらつきが発生しにくくなる。これにより、特に前記複数の変位検出センサによる変位検出の協働で所定の物理量を検出する場合には、当該物理量の検出精度を向上することができる。
【0013】
尚、特許文献2では、二つの変位検出センサとしてのホール素子と、スイッチのように見えるフォトインタラプタとが共通の電源に電気的に接続されてなる位置検出装置が提案されている。しかしながら、このフォトインタラプタは、検出誤差の大きかったホール素子による検出を追加で補正するためのものでスイッチとして機能し得ず、電力供給を遮断するものではない。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の変位検出装置において、前記変位検出センサは、磁気センサであることを要旨とする。
同構成によれば、前記変位検出センサが磁気センサ(例えばホール素子、磁気抵抗効果素子(MR)、磁気インピーダンス素子(MI)など)であることで、例えば検出対象物と接触することなく該検出対象物の変位を検出することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の変位検出装置において、前記変位検出センサは、ホール素子であることを要旨とする。
同構成によれば、前記変位検出センサを、小型で信頼性の高い前記ホール素子とすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の変位検出装置において、前記各変位検出センサには、制限抵抗が直列接続されていることを要旨とする。
同構成によれば、前記複数の変位検出センサのいずれかがショート故障を発生した場合、当該変位検出センサと共にこれに接続される該当の前記遮断手段に過電流が流れる。しかしながら、前記遮断手段等に流れる電流は、前記制限抵抗における電圧降下分だけ低減されることで、前記遮断手段の耐久性を向上することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変位検出装置を備えた車両用操舵装置であることを要旨とする。
同構成によれば、検出精度を低下させることなく、装置全体としての回路規模をより縮小することができる変位検出装置を備えた車両用操舵装置を提供することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変位検出装置を、モータの回転角を検出可能なモータ回転角センサとして備えたモータであることを要旨とする。
【0019】
同構成によれば、例えば前記モータ回転角センサ又は前記トルクセンサが、前記複数の変位検出センサの一部のみでモータの回転角又はモータのねじりを検出可能な場合には、例えば一の前記変位検出センサがショート故障を発生した場合であっても、残りの前記変位検出センサでモータの回転角又はモータのねじりを検出し続けることができ、該モータの信頼性を応急的に維持することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、検出精度を低下させることなく、装置全体としての回路規模をより縮小することができる変位検出装置、車両用操舵装置及びモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】モータ回転角センサの概略構成図。
【図3】電気角(回転角)とホール電圧との関係を示す説明図。
【図4】同実施形態の電気的構成を概略的に示す回路図。
【図5】従来形態の電気的構成を概略的に示すブロック図。
【図6】別の従来形態の電気的構成を概略的に示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0023】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御するECU11とを備えている。
【0024】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態のモータ12には、三相(U,V,W)の駆動電力に基づき回転するブラシレスモータが採用されている。そして、EPSアクチュエータ10は、同モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する。
【0025】
一方、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。そして、そのトルクセンサ14により検出される操舵トルクτ及び車速センサ15により検出される車速Vに基づいて、操舵系に付与するアシスト力の目標値(目標アシスト力)を決定する。
【0026】
また、本実施形態のモータ12には、その回転角(電気角)θを検出するための変位検出装置としてのモータ回転角センサ16が設けられている。具体的には、検出対象物としてのモータ12の回転軸の先端には、これに同軸で円盤状の永久磁石(図示略)が固定されている。この永久磁石は、例えば等角度(36deg)間隔で10極に着磁されており、極対数「5(=10/2)」を有する。
【0027】
一方、図2に示すように、前述の永久磁石に近接してこれに対向配置される基板21上には、モータ12の回転軸(永久磁石の中心)を中心とする周方向に等角度(24deg)間隔に複数(3つ)の変位検出センサ及び磁気センサとしてのホール素子HA,HB,HCが配設されている。尚、各ホール素子HA〜HCは、自らを流れる電流(制御電流)と垂直な方向に加わった磁束密度に応じた電圧(ホール電圧VhA,VhB,VhC)を発生・出力する。
【0028】
ここで、モータ12の1周に対して永久磁石が極対数「5」で着磁されていることから以下の関係が成立する。
電気角360deg=機械角72deg
∴電気角120deg=機械角24deg
つまり、ホール素子HA〜HCは、電気角120deg毎に配置されている。そして、図3に示すように、ホール素子HA〜HCのホール電圧VhA〜VhCは、モータ12の回転に対して振幅変化の位相が互いに電気角120deg毎ずれている。各ホール電圧VhA〜VhCは、振動中心の嵩上げ分及び位相を無視すれば「SINθ」で表されることから、ECU11は、回転角θの検出自体はいずれか一つのホール電圧VhA〜VhCのみで下式により可能である。
【0029】
θ=ARCSIN(SINθ)
ただし、ECU11は、一つのホール電圧VhA〜VhCのみではモータ12の回転方向が把握できない。従って、ECU11は、ホール電圧VhA〜VhCのいずれか二つを利用してモータ12の回転方向を把握するようにしている。
【0030】
即ち、ECU11は、全てのホール素子HA〜HCのホール電圧VhA〜VhCに基づいてそれぞれ回転角θを演算しており、いずれか二つのホール電圧VhA〜VhC(本実施形態ではホール電圧VhA,VhB)を利用して回転角θ及び回転方向を検出している。尚、残りのホール電圧VhA〜VhC(本実施形態ではホール電圧VhC)はバックアップ用である。
【0031】
ECU11は、回転角θ等を用いた電流制御の実行により、モータ12に対して三相の駆動電力を供給する。即ち、本実施形態のECU11は、その駆動電力の供給を通じてモータ12の作動、即ちEPSアクチュエータ10の作動を制御する。そして、上記目標アシスト力に相当するモータトルクが発生するようにモータ電流を制御することにより、最適なアシスト力を操舵系に付与することが可能である(パワーアシスト制御)。
【0032】
次に、本実施形態のモータ回転角センサ16の電気的構成について説明する。
図4に示すように、ECU11のD/A出力端子(図示略)にその非反転入力端子(+)が電気的に接続されたオペアンプ31の出力端子には、複数(3つ)の回転角検出回路部32A,32B,32Cが並列接続されている。即ち、これら回転角検出回路部32A〜32Cの各々は、例えばトランジスタ(FET、バイポーラトランジスタなど)からなる遮断手段としてのスイッチSWA,SWB,SWCと、前記ホール素子HA〜HCと、制限抵抗RA,RB,RCとが直列接続されてなる。そして、スイッチSWA〜SWCにおいてオペアンプ31の出力端子にそれぞれ電気的に接続されるとともに、制限抵抗RA〜RCにおいてそれぞれ接地されている。尚、オペアンプ31の出力端子は、同オペアンプ31の反転入力端子(−)にも電気的に接続されている。そして、各回転角検出回路部32A〜32Cには、ECU11からオペアンプ31を介して電力としての一定電圧Vpが供給されるように構成されている。オペアンプ31は、回転角検出回路部32A〜32Cの全てに共有の電源回路(定電圧回路)を構成する。
【0033】
スイッチSWA〜SWCは、その制御端子(例えばFETにおけるゲート)においてECU11と電気的に接続されており、該ECU11からの制御信号に基づいてそのオン・オフが切替制御される。スイッチSWA〜SWCは、通常はオン状態に維持されており、例えばいずれかのホール素子HA〜HCがショート故障を発生した場合に当該ホール素子HA〜HCに接続される該当のスイッチSWA〜SWCがオフ状態に切り替えられる。これは、ショート故障を発生したホール素子HA〜HCを有する回転角検出回路部32A〜32Cをオペアンプ31(システム)から切り離すためである。
【0034】
ホール素子HA〜HCには、スイッチSWA〜SWCがオン状態にあるときに、オペアンプ31からの一定電圧Vpが供給されることで、自らの抵抗値及び制限抵抗RA〜RCの抵抗値に応じた電流(制御電流)がそれぞれ流れる。各ホール素子HA〜HCが、自らを流れる電流と垂直な方向に加わった磁束密度に応じたホール電圧VhA〜VhCを発生することは既述のとおりである。ホール素子HA〜HCは、それらのホール電圧VhA〜VhCをそれぞれECU11のA/D入力端子(図示略)に出力する。ECU11は、これらホール電圧VhA〜VhCに基づいて前述の態様でモータ12の回転角θ等を検出する。
【0035】
尚、いずれかのホール素子HA〜HCがショート故障を発生した場合、当該ホール素子HA〜HCのホール電圧VhA〜VhCは、Lowレベルまで落ちることになる。ECU11は、ホール電圧VhA〜VhCがLowレベルまで落ちることを、例えば閾値判定にて確認することで、当該ホール電圧VhA〜VhCを出力した該当のホール素子HA〜HCのショート故障を検知するように構成されている。
【0036】
制限抵抗RA〜RCは、互いに同等の抵抗値を有しており、電流が流れることで各々の抵抗値に応じて電圧を降下させる。制限抵抗RA〜RCは、例えばいずれかのホール素子HA〜HCがショート故障を発生した場合に当該ホール素子HA〜HCに接続される該当のスイッチSWA〜SWCに流れる電流値を抑えるためのものである。具体的には、例えばホール素子HAがショート故障を発生したとして、制限抵抗RAの抵抗値がraであるとすると、スイッチSWA(回転角検出回路部32A)に流れる電流値iaは最大でも「Vp/ra」となる。従って、この電流値iaがスイッチSWAの最大定格を下回るように制限抵抗RAの抵抗値raを設定しておくことで、スイッチSWAにその最大定格を超える電流が流れることが回避され、同スイッチSWAの耐久性が向上される。他のホール素子HB,HCがショート故障を発生した場合についても同様である。
【0037】
尚、既述のように、本実施形態では、ホール素子HA〜HCのいずれか二つでモータ12の回転角θ等を検出可能である。従って、ホール素子HA〜HC(回転角検出回路部32A〜32C)のいずれか一つをシステムから切り離したとしても、モータ12の回転角θの検出に直ちに支障を来すことはない。
【0038】
次に、本実施形態の動作について説明する。
まず、全てのホール素子HA〜HCが正常に動作しており、全てのスイッチSWA〜SWCがオン状態に維持されているものとする。このとき、全てのホール素子HA〜HCにそれぞれ制御電流が流れることで、これらホール素子HA〜HCは前述の磁束密度に応じたホール電圧VhA〜VhCをそれぞれ発生する。ECU11は、これらホール電圧VhA〜VhCのいずれか二つ(本実施形態ではホール電圧VhA,VhB)を利用してモータ12の回転角θ等を検出する。
【0039】
ここで、ホール素子HA〜HCのいずれか一つ(例えばホール素子HA)がショート故障を発生したとする。このとき、ショート故障を発生した当該ホール素子HAを有する回転角検出回路部32Aに、図4中の破線で表すように過電流が流れる。同時に、当該ホール素子HAのホール電圧VhAがLowレベルまで落ちる。ECU11は、ホール電圧VhAがLowレベルまで落ちることを確認することで、当該ホール電圧VhAを出力した該当のホール素子HAのショート故障を検出するとともに、同ホール素子HAを有する回転角検出回路部32Aをシステムから切り離すべく、該当のスイッチSWAをオフ状態に切り替える。これにより、回転角検出回路部32Aに流れようとする過電流が遮断され、オペアンプ31による電力供給の動作が安定化される。従って、他の回転角検出回路部32B,32C(ホール素子HB,HC)への電圧供給に対する影響が解消される。同時に、ECU11は、正常な二つのホール電圧VhB,VhCを利用してモータ12の回転角θ等を検出するように切り替える。これにより、ホール素子HB,HCによる回転角θ等の検出が継続可能となる。そして、ECU11は、ショート故障したホール素子HAに影響されることなく、正常な他のホール素子HB,HCのホール電圧VhB,VhCに基づいてモータ12の回転角θ等の検出を継続することができる(バックアップ動作)。
【0040】
尚、既述のように、ホール素子HAがショート故障を発生したとしても、スイッチSWAに流れる電流値iaが制限抵抗RAによって最大でも「Vp/ra」に抑えられている。これにより、スイッチSWAにその最大定格を超える電流が流れることが回避される。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、ホール素子HA〜HCのいずれかがショート故障を発生した場合、当該ホール素子HA〜HCに接続される該当のスイッチSWA〜SWCにより電力供給を遮断することで、該ホール素子HA〜HCに過電流が流れ続けることを解消できる。
【0042】
従って、ホール素子HA〜HCのいずれかがショート故障を発生したとしても、正常な他のホール素子HA〜HCへの電力供給に対する影響が解消され、当該ホール素子HA〜HCによる回転角θ等の検出を継続することができる。換言すれば、オペアンプ31の電力供給能力は、全てのホール素子HA〜HCが動作可能な通常のレベルを有していればよい。これにより、電力供給に係るオペアンプ31の回路規模を縮小することができ、ひいては装置全体としての回路規模を縮小することができる。また、ホール素子HA〜HCへの電力供給をオペアンプ31で全て行う場合、該電力供給を個別の電源回路で行う場合に比べてホール素子HA〜HC間でそれらへの電力供給に差が発生しにくくなる。つまり、ホール素子HA〜HC間でそれらの検出精度にばらつきが発生しにくくなる。これにより、ホール素子HA〜HCのいずれか二つのホール電圧VhA〜VhC(通常はホール電圧VhA,VhB)の協働でモータ12の回転角θ及び回転方向を検出する際の検出精度を向上することができる。
【0043】
(2)本実施形態では、磁気センサであるホール素子HA〜HCにより、モータ12の回転軸(永久磁石)と接触することなくその回転角θを検出することができる。
(3)本実施形態では、小型で信頼性の高いホール素子HA〜HCにより、モータ12の回転角θを検出することができる。
【0044】
(4)本実施形態では、ホール素子HA〜HCのいずれかがショート故障を発生した場合、当該ホール素子HA〜HCと共にこれに接続される該当のスイッチSWA〜SWCに過電流が流れる。しかしながら、スイッチSWA〜SWCに流れる電流は、制限抵抗RA〜RCにおける電圧降下分だけ低減されることで、スイッチSWA〜SWCの耐久性を向上することができる。
【0045】
(5)本実施形態では、検出精度を低下させることなく、装置全体としての回路規模をより縮小することができるモータ回転角センサ16を備えたEPS1を提供することができる。
【0046】
(6)本実施形態では、ホール素子HA〜HCの一つがショート故障を発生した場合であっても、残りのホール素子HA〜HCでモータ12の回転角θを検出し続けることができ、該モータ12の信頼性を応急的に維持することができる。
【0047】
(7)本実施形態では、制限抵抗RA〜RCの各抵抗値は、ホール素子HA〜HCがショート故障を発生した場合にスイッチSWA〜SWCに流れる過電流が、その最大定格を超えないように電圧を降下させ得るものであればよく、比較的小さく設定することができる。従って、ホール素子HA〜HCが正常なとき、制限抵抗RA〜RCでの電圧降下が低減する分、ホール素子HA〜HCに加わる電圧が大きくなって、回転角θの検出のダイナミックレンジを大きくすることができる。
【0048】
(8)本実施形態では、ホール素子HA〜HCのいずれかがショート故障を発生した場合、当該ホール素子HA〜HCを有する回転角検出回路部32A〜32Cをシステムから切り離すことができ、正常な他のホール素子HA〜HCによるバックアップ動作をより安定した状態で行うことができる。
【0049】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、オペアンプ31に回転角検出回路部32A〜32C(スイッチSWA〜SWC、ホール素子HA〜HC及び制限抵抗RA〜RCの直列回路)を並列接続した。これに対し、例えばオペアンプ31にスイッチSWA〜SWC及びホール素子HA〜HCの直列回路を並列接続するとともに、同並列回路に共通の制限抵抗を直列接続するようにしてもよい。このように変更することで回路構成がより簡素化される。
【0050】
・上記実施形態では、ホール素子HA〜HC(回転角検出回路部32A〜32C)に対しECU11からオペアンプ31を介して一定電圧Vpを供給するようにしたが、例えばホール素子HA〜HCに対しECU11とは独立の定電圧回路から一定電圧(Vp)を供給するようにしてもよい。あるいは、ホール素子HA〜HCに対し電源回路としてのバッテリから直に一定電圧(Vp)を供給するようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、バックアップ用を含めて3つのホール素子HA〜HCを備えたモータ回転角センサ16とした。これに対し、例えばモータ12の回転角θのみの検出であれば、バックアップ用を含めて2つのホール素子を備えたモータ回転角センサでもよい。あるいは、バックアップ用を増やして4つ以上のホール素子を備えたモータ回転角センサでもよい。
【0052】
・上記実施形態では、3つのホール素子HA〜HCを電気角120deg(機械角24deg)毎に配置した。これに対し、3つのホール素子HA〜HCを、その検出対象に応じて適宜の電気角又は機械角毎に配置してもよい。また、ホール素子を2つ又は4つ以上備えたモータ回転角センサの場合には、その検出対象に応じて適宜の電気角又は機械角毎に配置してもよい。
【0053】
・上記実施形態では、磁気センサとしてホール素子(HA〜HC)を採用したが、磁気抵抗効果素子(MR)や磁気インピーダンス素子(MI)などのその他の磁気センサでもよい。
【0054】
・上記実施形態では、変位検出センサとしてホール素子(HA〜HC)を採用したが、例えばフォトインタラプタなどのその他の変位検出センサでもよい。要は、その動作のために電力供給を要する変位検出センサであればよい。
【0055】
・上記実施形態では、遮断手段としてトランジスタからなるスイッチ(SWA〜SWC)を採用したが、例えばリレー式のスイッチでもよい。
・上記実施形態では、本発明をモータ12の回転角θを検出するモータ回転角センサ16に具体化したが、例えばモータ12の回転軸のねじりを検出するトルクセンサに具体化してもよい。あるいは、操舵トルク(ステアリングシャフト3のねじり)を検出するトルクセンサに具体化してもよい。要は、冗長性の向上のために複数の変位検出センサを備えた変位検出装置であればよい。
【0056】
・上記実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、所謂ピニオン型やラックアシスト型のEPSに具体化してもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPS1に具体化したが、パワーアシスト機能を有しない車両用操舵装置やこれら以外の適宜の装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0057】
HA〜HC…ホール素子(変位検出センサ、磁気センサ)、RA〜RC…制限抵抗、SWA〜SWC…スイッチ(遮断手段)、1…電動パワーステアリング装置(EPS)、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、16…モータ回転角センサ(変位検出装置)、31…オペアンプ、32A〜32C…回転角検出回路部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変位検出センサと、
前記複数の変位検出センサを動作させるための電力供給をそれぞれ遮断可能な複数の遮断手段とを備えたことを特徴とする変位検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変位検出装置において、
前記変位検出センサは、磁気センサであることを特徴とする変位検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変位検出装置において、
前記変位検出センサは、ホール素子であることを特徴とする変位検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の変位検出装置において、
前記各変位検出センサには、制限抵抗が直列接続されていることを特徴とする変位検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変位検出装置を備えた車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変位検出装置を、モータの回転角を検出可能なモータ回転角センサ又はモータのねじりを検出可能なトルクセンサとして備えたモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−64684(P2013−64684A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204384(P2011−204384)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】