説明

変形性骨疾患を処置するための方法および組成物

本開示は、変形性骨疾患の処置のため及び骨損失を防ぐための予防的処置としての、Syk阻害化合物を使用する方法及び組成物を提供する。これらの処置は、骨損失及び骨強度の減弱に関連する骨折の危険を減少し得る。この阻害剤化合物は骨損失を低減させ得、及び/または骨ミネラル濃度を増加させて、罹患した被験体における骨折の危険を低減し得る。Syk阻害化合物により処置され得る変形性骨疾患は、特に各種の形態の骨粗鬆症(例えば閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症)、骨形成異常症及び骨減少症を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.関連出願への相互参照)
この出願は、米国特許法§119(e)の下、2005年6月13日に出願された出願番号60/690,351への利益を主張し、この内容は、参考として本明細書に援用される。
【0002】
(2.技術分野)
本開示は変形性骨疾患を処置するため及び骨損失を防ぐための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(3.背景)
骨は、骨吸収及び骨沈着を通じて連続的に置き換わる動的な器官である。この再形成のプロセスは、カルシウムのバランスを維持し、機械的ストレスから損傷を受けた骨を修復し、機械的負荷による変化に順応し、また、加齢と共に劣化する古い骨素材を除去するために機能する。骨量は、破骨細胞により介在される骨吸収と、骨芽細胞により介在される骨形成との間の微妙なバランスによって調節されている。
【0004】
骨芽細胞は、間葉性の起源を有する細胞であり、類骨または細胞間質とも称され、主としてタイプIコラーゲン及びオステオカルシン、オステオポンチン、オステオネクチン、プロテオグリカン、及びアルカリホスファターゼなどの各種の非コラーゲンタンパク質からなる有機細胞外マトリックスを形成する前駆体を合成する。骨芽細胞により、有機マトリックス層がひとたび形成されると、その有機マトリックスに沿って、さらにその中へヒドロキシアパタイトが沈着して石化が生じる。骨芽細胞により産生されるタンパク質のオステオカルシンは、マトリックス中のカルシウムに結合してそれを濃縮する。類骨の分泌及び石化(付加成長)のサイクルを通じて骨芽細胞により付加される有機マトリックスの連続的な層は、互いに融合して連結された骨の格子構造を形成する石化されたマトリックスのシートまたは環を形成する。一定の割合の骨芽細胞は骨小腔中の骨細胞として捕捉されるようになり、骨小管中のシステムにより連結される。胎児の場合、ある種の骨疾患の場合など、ある条件下になると、この有機マトリックスは織物様の形態に配置されて、線維性骨、幼若骨または原始骨と称されるタイプの骨をもたらす。マトリックス中のヒドロキシアパタイトのレベルを調節することによって骨の剛性の変化が生じ、ミネラル含量が高ければ剛性及び堅さが提供され、ミネラル含量が低ければ骨の柔軟性が提供される。
【0005】
骨吸収に関与する主要な細胞である破骨細胞は、マクロファージ/単球系統の造血細胞から生じるもので、単球の融合により形成される多核細胞(すなわち、ポリカリオン)である。破骨細胞は、骨素材の分解に作用する各種の酵素を分泌する。例えば、酒石酸塩耐性アルカリホスファターゼ(TRAP)は骨を脱灰化し、一方カテプシンKは骨マトリックスタンパク質を消化する。破骨細胞はまた、液胞H−ATPase活性を通じて周辺環境を酸性化し、それにより、骨の破壊をさらに促進する。
【0006】
破骨細胞の発達及び機能は、破骨細胞の分化及び活性に影響を及ぼす細胞因子を分泌する骨芽細胞の活性と密に連動する。骨芽細胞タンパク質のRANKL(receptor for activating NFkB ligand)は、破骨細胞前駆体細胞の分化を刺激し、成熟破骨細胞を活性化する鍵となる調節因子である。骨芽細胞はまた、RANKLと競合し、その活性を阻害するおとり(decoy)リガンドであるオステオプロテグリン(OPG)を産生する。RANKLの発現は、サイトカイン(例えばIL−I、IL−6、IL−11及びTNF−α)、グルココルチコイド、及び副甲状腺ホルモン(PTH)により調節される。RANKLアップレギュレーターの存在は、骨吸収の促進及び相当する骨量の低下を導く。OPGの産生は、サイトカインIL−I及びTNF−α、ステロイドホルモンβ−エストラジオール、及び機械的ストレスにより上方調節され、それにより骨形成を刺激する。対照的に、グルココルチコイド、PTH、及びプロスタグランジンはOPGの産生を抑制し、従って骨吸収を促進する。骨芽細胞と破骨細胞との間にこのような複雑な相互作用があるため、さらなる骨量が要求される条件(例えば、機械的負荷の増加)ならびに骨量の維持に適合する機序が得られる。
【0007】
破骨細胞及び骨芽細胞活性の異常調節は、各種の変形性骨疾患を導き得る。これらの状態の臨床的な実例には、骨量低下及び/または骨マトリックスの構造的堅さの減少等が含まれる。両者の状態は骨折リスクの増加を導き得る。最もよくある骨変性の形態である原発性骨粗鬆症は、重大な健康上の問題である、なぜなら、ヒト女性人口のほぼ5〜20%がこの状態に苦しんでいるためである。女性人口におけるほどは一般的ではないものの、加齢に関連する骨粗鬆症は、男性においても高い割合で発症する。
【0008】
変形性骨疾患に対する現在の処置には、骨吸収を制限し、骨量低下を防止するビスホスホネート、カルシトニン、エストロゲンなどの再吸収阻害薬及びビタミンDの補充が含まれる。骨折の危険を低下させるのに十分なレベルへと骨量を回復させる、または増加させることを期待させる、PTHペプチドのテリパラタイド及びストロンチウムレネレート(strontium renelate)を用いた骨形成を促進する骨同化薬も研究されてきている。エストロゲンなど望ましくない副作用を有する治療法があり、ビタミンD補充など、既に骨変性に苦しんでいる者へ適用しても効果が疑わしい治療法もある。従って、変形性骨疾患を処置するため、及び、骨損失に対する予防薬として、独立した処置、またはその他の治療薬との有用な組み合わせとして適用可能な代替的な治療法を見出すことが望まれている。さらに、細胞ベースの骨代謝及び再形成に対して特異的に向けられた治療法は、現在のいくつかの治療的処置に関連した望ましくない副作用の回避を可能にするかもしれない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(4.概要)
本開示は、変形性骨疾患の治療に関するSyk阻害化合物の使用を提供する。通常、この使用は、変形性骨疾患を患う被験体に対し、この疾患を処置するために一定量のSyk阻害化合物を投与することを含む。この阻害剤化合物は骨損失を減弱させ得、及び/または骨ミネラル濃度を増加させて、罹患した被験体における骨折の危険を低減し得る。Syk阻害化合物により処置され得る変形性骨疾患は、特に各種の形態の骨粗鬆症(例えば閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症)、骨形成異常症及び骨減少症を含む。
【0010】
Syk阻害剤により処置されるその他の変形性骨疾患には、骨代謝に影響を及ぼすホルモンの異常な分泌と関連するもの(すなわち、内分泌障害)を含む。骨代謝に影響を与える例示的なホルモンには、アンドロゲン(例えば、テストステロン)、エストロゲン、副甲状腺ホルモン、カルシトリオール、及びカルシトニンを含む。骨変性をもたらす内分泌障害には、特に、副腎皮質機能亢進症、性腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症及び副甲状腺機能低下症を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、遺伝的異常と関連する変形性骨疾患の処置のために使用され得る。遺伝的異常は、破骨細胞活性、骨芽細胞活性、または破骨細胞及び骨芽細胞の機能の組み合わせに影響を及ぼし、骨形成を上回る骨吸収という不均衡を生じるように機能する場合がある。ある種の遺伝的異常においては、構造的に障害を有する骨構造を生じる過剰な骨の再形成が起こり、骨折可能性の増加がもたらされる。Syk阻害化合物は、これらの疾患の多くにおいて存在する骨吸収増加を減弱させるために使用でき、骨折の危険を低減させるために十分な骨量を適切に増加させることができる。骨変性により特徴付けられる例示的な遺伝的疾患には、骨形成不全症、ホモシスチン尿症、性腺発育障害、及び低ホスファターゼ血症を含む。
【0012】
その他の態様において、Syk阻害化合物は、骨損失を低減し、または防止するための予防法として使用することができ、それにより骨折リスクを低減することができる。この阻害化合物を、骨損失と関連するリスク因子を有する被験体に投与することができる。これらの因子は性(例えば、女性)または年齢に関連する。その他のリスク因子は、食事中のカルシウム摂取量の低さ、喫煙、ほとんど体を動かさない生活習慣、及び遺伝的バックグラウンドに関連する。
【0013】
Sykキナーゼ活性を阻害するための選択性を有する各種のSyk阻害剤を、本明細書中に記載の用途に用いることができる。いくつかの実施形態において、処置に好適なSyk阻害剤は、2,4−ピリミジンジアミン化合物及び各種のその誘導体である。これらには、適用可能な、相当する2,4−ピリミジンジアミンの塩、水和物、溶媒和物、及びN−オキシドを含む。いくつかの実施形態において、この2,4−ピリミジンジアミン化合物はプロドラッグの形態をとることができ、特に、1以上の利用可能な1級または2級アミン基がプログループ(pro基)と共にマスクされる2,4−ピリミジンジアミンを含む。その他の使用可能なSyk阻害剤には、特に、トリアゾール、アザインドール、ピロロピリミジン、及びインダゾールをベースとしたSyk阻害剤を含む。
【0014】
Syk阻害化合物は、単独で、または骨損失のレベルを低減させる骨調節薬(すなわち、再吸収阻害薬)、または骨形成を増加させる骨調節薬(すなわち、骨同化薬)と組み合わせて用いることができる。再吸収阻害薬は骨吸収を減弱または阻害し、1,25ジヒドロキシビタミンD3、ビスホスホネート、カルシトニン及びエストロゲンなどの薬剤を含む。骨同化薬は骨形成を促進し、また、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンアナログ、アンドロゲン、フッ化物、ストロンチウム、ビタミンK2、及び成長ホルモンなどの薬剤を含む。骨調節薬は組成物として補助的に投与され、または別個にあるいはSyk阻害化合物と組み合わせて連続的に投与される。
【0015】
さらに、Syk阻害化合物及び/または骨調節化合物を含むキットが、投与のために好適な形態で提供される。この化合物及び薬剤は、投与を容易にするための投与単位であり得、または液状である場合には、適正量を投与するための投与用の器具(例えば、注射器、目盛り付きピペット、秤量カップ、その他)と共に供給される。キットはまた、Syk阻害剤の適正な使用を説明するための各種の媒体(例えばコンパクトディスク、ビデオ、メモリーカード、及び印刷された媒体)中の記載及び説明を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(6.詳細な説明)
6.1 定義
本明細書中の記載に使用される用語は、別に特定的に定義されない限り、それらの本来の意味、及び、当業者により理解されるような共通的な意味を有するものとする。本出願にわたって使用されるとき、以下の用語は以下の意味を有する:
「再吸収阻害薬」は、骨吸収を減弱または阻害する薬剤などの化合物または組成物をいう。この薬剤は、特に破骨細胞の発達、破骨細胞活性、骨マトリックス構造(すなわち、骨吸収を阻害または遅らせる)及び吸収プロセスに関与する酵素/タンパク質を含む任意の態様の骨吸収に影響を及ぼし得る。
【0017】
「自己免疫疾患」は、免疫システムの不適切な応答により引き起こされる状態または疾患をいい、通常は、1以上の免疫原物質に対する被験体自身の体液性の、及び/または、細胞介在性の応答の結果として生じる非アナフィラキシー性の超過敏反応(例えば、タイプII、タイプIII、及び/またはタイプIVの超過敏反応)と関連する。例示的な自己免疫疾患には、関節リウマチ、糸球体腎炎、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、及び変形性関節症を含む。
【0018】
「骨形成」及び「骨沈着」は、新しい骨素材の貯蔵プロセスをいう。骨芽細胞は、骨の有機マトリックス形成及びマトリックスの石化の間におけるヒドロキシアパタイト結晶の取り込みに関与する主要な細胞である。そのようなものとして、骨形成は、有機マトリックスの合成及びヒドロキシアパタイトの取り込みに関与する石化プロセスを包含する。
【0019】
「骨調節薬」は、骨損失の低減、骨量増加、及び/または骨の構造的完全性の増加(すなわち、骨の強度)を可能にする化合物または組成物をいう。これらの薬剤の効果は、骨折の危険を低減することである。骨調節薬は、再吸収阻害薬及び骨同化薬を包含する。用語「再吸収阻害薬」及び「骨同化薬」は、限定的な意味ではないことが理解されるべきである、なぜなら、薬剤のうちあるものは、再吸収阻害薬及び骨同化薬の両方の特性を有し得るからである。あるグループまたはその他のグループにおける薬剤の分類は、骨の代謝に関連する薬剤の特性に関する知識の現状を反映し、限定されることを意図しない。
【0020】
「骨吸収」は、骨の除去または分解のプロセスをいう。破骨細胞は、骨マトリックスの分解に関与する主たる細胞である。
【0021】
「骨ミネラル含量」は、骨1cmあたりの骨量として表現される骨量をいう。それは通常、骨の成長が停止する前に蓄積された骨の量を調べるために、いくつかの実施形態で使用される。
【0022】
「骨ミネラル濃度」または「骨密度」または「BMP」は、骨の所定の面積または容積中の骨量をいい、骨の健康度の測定値として、また、変形性骨疾患の診断において用いられる。当該技術分野で知られているように、骨ミネラル濃度は、骨密度を測定するために用いられる手法に依存する。面積あたりの質量が面積骨ミネラル濃度であり、通常gm/cmで表される。DEXA及び超音波は、面積骨密度測定手法の例である。体積あたりの質量が体積骨ミネラル濃度であり、通常gm/cmで表される。定量的コンピュータ断層撮影法及び核磁気共鳴映像法は、体積骨密度測定手法の例である。骨ミネラル濃度は用いられる手法によって変化するため、密度測定値は、世界保健機関(WHO)により定義される「T」及び「Z」スコアへと変換される。Tスコアは、被験体の骨ミネラル濃度を、通常、正常で健康な30代の被験体として設定される参照標準のものと比較したものである。Zスコアは、年齢及び性別を合わせた標準に対して被験体の骨ミネラル濃度を比較したものである。
【0023】
「変形性骨疾患」は、骨の構造的完全性が損なわれることによる骨量の減少及び/または骨折可能性の増加により特徴づけられる疾患または状態をいう。多くの変形性骨疾患は、骨形成及び骨吸収の間の不均衡から生じる。この不均衡は、骨芽細胞に介在される骨形成の減少、破骨細胞に介在される骨吸収の増加、または骨芽細胞活性及び破骨細胞活性に対する変化の組み合わせにより引き起こされ得る。
【0024】
「内分泌障害」は、ホルモンの異常分泌を有する疾患または状態をいう。異常とは、医学的状態を引き起こし得る特定のホルモンレベルの増加または減少を意味する。内分泌障害は内分泌腺の機能障害に限定されず、任意の細胞または臓器によるホルモン分泌の異常に対して適用される。
【0025】
「エストロゲン欠乏症」は、低いエストロゲンレベルと関連する医学的な状態を導き得るエストロゲンレベルの減少をいうが、それが実際に、その状態の臨床的またはその他の診断的な表現をもたらすこともあり、そうでないこともあるであろう。
【0026】
「エストロゲン受容体モジュレーター」は、エストロゲンのアゴニスト及びアンタゴニスト効果を生じることにより、エストロゲン受容体上に作用する化合物をいう。エストロゲン受容体モジュレーターは、エストロゲン受容体に依存的なシグナル伝達カスケードを開始させる。例示的なエストロゲン受容体モジュレーターは17β−エストラジオールである。「選択的エストロゲン受容体モジュレーター」または「SERM」は、SERMの作用が各種の組織に対して異なるという点でエストロゲン受容体アゴニスト及びアンタゴニストとは区別される。理論と結び付けられてはいないが、異なる細胞は各種のエストロゲン受容体のサブタイプ(例えば、α及びβホモダイマー及びα/βヘテロダイマー)を異なる形で発現し、それらは特定のセットの遺伝子を抑制及び/または刺激することにより作用する。SERMはエストロゲン受容体アイソフォームに対し異なる親和性を有し、したがって特定の組織タイプにおいて異なる効果を有し得る。従って、SERMは、組織に依存的なエストロゲン様の作用を選択的に阻害または刺激するために用いることができる。例示的なSERMには、特に、クロミフェン、ラロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェン、バゼドキシフェン及びラソフォキシフェンを含む。
【0027】
「遺伝性の遺伝的異常」は、変化を受けた1遺伝子または遺伝子の組み合わせの影響から生じる疾患または医学的状態をいう。遺伝性の遺伝子疾患は、被験体の親の配偶子(すなわち、精子及び/または卵子)中に、または胚形成の早期において変化が存在して、胚性突然変異が子孫へと渡され得る点で、体細胞中の遺伝的変化とは区別される。一方、体細胞変異は通常子孫には伝わらない。本明細書中で使用されるような遺伝的な遺伝的異常は、変異が単一遺伝子中に生じる単一遺伝子の異常;疾患が複数の遺伝子における変異の結果である多重遺伝子疾患;及び、疾患が染色体構造における大規模な変化(例えば重複、反転、挿入、転座、増幅など)の結果である染色体疾患を含む。
【0028】
「閉経期」及び「閉経期の」は、卵巣がエストロゲン及びプロゲステロン産生を減少させ、生殖システムが徐々に月経を停止するときに起こるヒト女性の生殖サイクルのステージをいう。閉経期は、どの場合でも約6ヶ月から約8年継続し得る。閉経期の平均的な開始は約50.5歳であるが、より若い時期にまたはより遅い時期に閉経期に入る女性もいる。早発閉経とも称される早すぎる閉経期は、40歳より前に生じる閉経期であり、これになった被験体では、異常に低レベルのエストロゲンと高レベルのFSHが見られ、これにより特徴付けられる。閉経後とは、閉経期に続く期間をいう。卵巣が外科的に除去(例えば、両側卵巣摘出術により)されたり、放射線または薬物により損傷されたりした場合に、誘導された閉経期が生じる。閉経前後期とは、加齢した卵巣により産生されるホルモンのレベルが変動して不順な月経パターンを導く、自然な閉経期の約6年前に始まる閉経期への移行をいう。
【0029】
「骨組織発生」は、間充織幹細胞が機能的な骨芽細胞へと分化するなどの、幹細胞及び前駆細胞の分化のプロセスをいう。
【0030】
「破骨細胞形成」は、単球/マクロファージ前駆細胞が機能的な破骨細胞へと分化するなどの、幹細胞及び前駆細胞の分化のプロセスをいう。
【0031】
「骨形成異常症」は、慢性腎不全から生じる骨疾患の一群をいう。それは、生来の腎臓における異常からも生じ得る。腎臓が損なわれる場合、被験体の生存を保つために透析が必要とされ、結果として、骨形成異常症を伴う患者は通常透析療法を受ける。すなわち「腎性骨形成異常症」は、腎臓疾患から引き起こされる骨の疾患の一群をいい、日常的な透析を受ける患者において共通的に見出される。骨形成異常症と関連する骨の疾患には、様々な組み合わせ及び程度の骨粗鬆症、骨軟化症、線維性骨炎及び骨硬化症を含む。線維性骨炎及び骨硬化症は通常、長期の腎機能障害の後に生じる。骨粗鬆症は、腎臓の不全を伴う患者において常に存在し得る。
【0032】
「骨同化薬」は、骨形成を誘導または促進する化合物または組成物をいう。通常、骨同化薬の主たる標的は、骨の沈着に関与する細胞である骨芽細胞であるか、または間充織幹細胞などの骨芽細胞を生じさせる細胞である。しかし、骨同化薬は、ヒドロキシアパタイトへの結合に関与するオステオカルシンなどの、骨形成に関与する物質または細胞性産物を変化させる化合物及び組成物を含むこともできる。
【0033】
「骨減少症」は、骨粗鬆症としては重篤でない骨ミネラル濃度の減少をいう。骨減少症は、X線撮影法などの好適な診断手法により検出されるように、どこに骨ミネラル濃度の減少が存在するか、骨粗鬆症が存在するか否かで示される。WHOは、骨減少症を、参照標準(すなわち、通常約30歳の健康な若い成人)の骨密度を下回る標準偏差1〜標準偏差2.5の間の骨密度として定義している。
【0034】
「骨粗鬆症」は、骨のもろさの促進及び骨折の危険増加を導く低骨量及び骨組織の微小構造の劣化により特徴付けられる、変形性骨疾患をいう。原発性骨粗鬆症は、任意のその他の疾患と関連しない骨量損失を表し、通常的には、加齢及び加齢に関連した生殖腺機能の損失と関連する。原発性骨粗鬆症の形態は閉経後の骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症である。原発性骨粗鬆症はまた、その骨変性の根本的な及び二次的な原因が未知である骨粗鬆症である、突発性骨粗鬆症を含む。続発性骨粗鬆症は、原発性骨粗鬆症に包含される加齢に関連した骨変性以外の別の状態または疾患から生じる骨粗鬆症をいう。WHOは、骨粗鬆症を、参照標準(すなわち、通常約30歳の健康な若い成人)の骨密度を下回る標準偏差2.5の骨密度として定義している。
【0035】
「ピーク骨量」は、寿命の中で被験体が到達する最大の骨量をいう。通常、ヒトの場合、このピーク骨量は、ほぼ30歳において生じる。ピーク骨量は熟年時の骨粗鬆症のリスクと相関する、なぜなら、ピーク骨量は晩年期の骨損失を和らげ、それにより骨折リスクのどのような増加も制限し得るからである。
【0036】
「Syk依存的シグナルカスケード」は、Sykキナーゼが役割を果たすシグナル伝達カスケードをいう。このようなSyk依存的なシグナルカスケードの非限定的な例は、FcαRI、FcεRI、FcγRI、FcγRIII、B−細胞受容体(BCR)及びインテグリンと関連する細胞シグナリングを含む。
【0037】
「Sykキナーゼ」または「Syk」は、B−細胞及びその他の造血細胞中で発現される約72kDaの非受容体(細胞質性)脾臓タンパク質チロシンキナーゼをいう。Sykキナーゼは、リン酸化された免疫受容体チロシンをベースとした活性化ドメイン(immunoreceptor tyrosine−based activation motifs)(「ITAM」)へと結合する、前後して並んだ2つのコンセンサスSrc−ホモロジー2(SH2)ドメイン、「リンカー」ドメイン、及び触媒ドメイン(概説については、Sadaら、2001,J Biochem.(Tokyo) 130:177−186、さらにTurnerら、2000,Immunology Today 21:148−154及びWongら、2004,Expert Opin Investig Drugs.13(7):743−62参照)を含む多数の構造的特徴により特徴付けられる。Sykキナーゼはまた、Ca2+の動員及び、マイトジェンによって活性化されるタンパク質キナーゼ(MAPK)カスケード及び分解などの、免疫受容体から導かれる重要な経路を調節する複数のタンパク質のチロシンリン酸化にとって重要である。Sykキナーゼはまた、好中球でのインテグリンシグナリングにおいて重要な役割を果たす(例えば、Mocsai et al.2002,Immunity 16:547−558参照)。Sykキナーゼは、限定するものではないが、Sykファミリーに属するとされている、ヒト、類人猿、ウシ、ブタ、齧歯類などの任意の種類の動物に由来するキナーゼを含む。具体的には、天然及び人為的なものの両方によるアイソフォーム、スプライス変異体、アレル変異体、突然変異が含まれる。このようなSykキナーゼのアミノ酸配列はGENBANKから入手することができる。ヒトSykキナーゼの各種のアイソフォームは、GENBANKアクセッション番号gi|21361552|ref|NM_003177.2、gi|496899|emb|Z29630.1|HSSYKPTK[496899]及びgi|15030258|gb|BC011399.1|BC011399[15030258]において入手可能であり、参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0038】
6.2 変形性骨疾患の処置
骨の再形成は、破骨細胞による骨吸収及び骨芽細胞による骨形成を含む、複雑なプロセスである。骨量を増大させ、あるいは維持するためには、骨形成及び骨吸収の比率が適切なバランスになければならない。過剰な骨の再形成、または骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収などのような、この2つのプロセス間におけるなんらかの異常な不均衡が、骨の構造における弱さ及びそれに相応する骨折リスクの増加をもたらし得る。本開示は、これらの変形性骨疾患を処置するための組成物およびその組成物の使用、ならびに骨折の危険の増加を導く骨損失防止のための予防的アプローチを提供する。これらの処置は、破骨細胞形成及び破骨細胞の活性を減弱もしくは阻害するためのSyk阻害剤の使用に基づき、それにより、破骨細胞の異常な活性に関連する過度の骨損失を低減または阻害する。さらに、不適切な再形成が顕著な骨損失を伴うことなく骨の剛性に障害をもたらすそれらの変形性骨疾患においては、骨吸収の阻害によりもたらされる骨量の増加は、骨強度を十分に増加させて、骨折の危険を低減させ得る。本明細書中に開示する目的のために、Syk阻害化合物は独立して、または骨再形成におけるその他のモジュレーター(すなわち、再吸収阻害薬及び骨同化薬)と組み合わせて処置ならびに予防のために用いることができる。従ってSyk阻害化合物は、各種の薬剤の調製において使用することができる。
【0039】
本開示において、投与の必要がある被験体に対し、変形性骨疾患を処置するために有効な量のSyk阻害化合物を投与することにより、各種の変形性骨疾患を処置することができる。特定の疾患の診断は、その疾患を診断するために当業者により通常的に用いられる臨床的実例に基づいて行うことができる。本明細書中でさらに論じられるように、疾患の生化学的及び分子的なマーカーの存在などの、その他の診断基準は、独立して、または臨床的実例における試験に対する追加として使用することができる。標準的な診断基準は、非限定的な1例として、the World Health Organization’s International Classification of Diseases,Tenth Revision(ICD−10);Resnick,D.,Diagnosis of Bone and Joint Disorders,4th Ed.,W.B.Saunders Company(2002);及び、AACE Medical Guidelines for Clinical Practice for the Prevention and Treatment of Postmenopausal Osteoporosis:2001 Edition,with Selected Updates for 2003、を含む各種の参考文献中に見出し得る。全ての出版物は参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0040】
従って、いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、その他の根本的な疾患または病気のいずれにも関係しない骨量低下である原発性骨粗鬆症を処置するために使用できる。言い換えれば、この骨量低下は、病理学的状態からもたらされるホルモンの不均衡、または骨代謝に間接的に影響を及ぼすその他の疾患などのその他の状態により引き起こされない。2つの一般的なタイプの原発性骨粗鬆症が当該技術分野において記載されている。タイプIは、高ターンオーバーまたは閉経後骨粗鬆症とも称され、閉経後に卵巣により分泌されるホルモンレベルの減少と相関する。この疾患の厳密な病因は、完全には解明されていない。この状態は女性人口の約5〜20%に生じ、骨折の危険の増加をもたらす。この疾患は、女性が罹り、急激な骨量低下が閉経期に始まり約4〜約8年続き、その後、高齢期になると骨量がゆっくりではあるが減少する。タイプIIは、低ターンオーバーまたは老人性骨粗鬆症とも称され、骨吸収及び骨形成のプロセスが協調せずに、骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収が起こるようになった場合に発症し得る。タイプIの骨粗鬆症が主として女性に発症する一方で、タイプIIの骨粗鬆症は女性及び男性に等しい頻度で発症し得る。従って、タイプI及びタイプIIの骨粗鬆症を同時に発症し得る女性もいる。
【0041】
その他の形態の原発性骨粗鬆症としては、骨損失に関する特定的な原因が存在しない場合の骨粗鬆症状態である、突発性骨粗鬆症がある。突発性骨粗鬆症は、子供及び成人が罹る。若年性骨粗鬆症は、約8〜約14歳の間の子供に生じる骨粗鬆症である。若年性骨粗鬆症においては、骨の成長不全が数年に亘って生じ、ほとんどの場合は小康状態に入る。しかし、骨の成長及び再形成の不全は、背骨の湾曲及び低身長などの骨格奇形をもたらし得る。さらに、不十分な骨量蓄積は、以後の人生での骨折リスクの増加を導くおそれもある。
【0042】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、骨変性が根本的な病状または疾患の結果であるような、2次的条件から生じる変形性骨疾患を処置するために使用することができる。いくつかの実施形態において、免疫系の活性の異常調節により生じる骨変性は、本明細書中に記載の処置から特定的に除外される。これらは、骨の破壊を促進する自己免疫疾患、及び骨代謝に間接的に影響を及ぼす臓器を標的とする疾患を含む。骨の破壊と関連する例示的な自己免疫疾患は、関節リウマチ及び変形性関節症である。関節リウマチは、関節の滑膜及び関節構造に関する慢性炎症性疾患である。骨代謝の調節に関与する臓器に影響を及ぼす例示的な自己免疫疾患は、糸球体腎炎及び膜糸球体腎炎である。糸球体腎炎は、免疫学的機序が糸球体組織の炎症及び増殖の引き金となる特定の一連の腎疾患をいう。糸球体中に沈着するか、または形成される免疫複合体は、腎機能障害を導く慢性的な炎症反応の引き金となる。腎臓は、ビタミンD、すなわち、1,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールの活性型を生産するための鍵となる臓器であり、カルシウム及びリン酸のレベルの調節に関与しているため、腎臓の損傷は、腸のカルシウム吸収を不能にし、相当する副甲状腺ホルモンレベルの増加をもたらして、骨からのカルシウムの動員を誘導する。同様に、膜性糸球体腎炎は、免疫に関連した疾患であり、糸球体基底膜抗原への抗体の結合を介して形成される免疫複合体が、糸球体上皮細胞上に作用するこの補体系の応答を活性化する。この複合体は、完全な糸球体を含んでなる毛細血管壁を損傷させるプロテアーゼ及びオキシダントの放出を順に刺激する。
【0043】
いくつかの実施形態において、ある種の腫瘍形成的に引き起こされる骨粗鬆症の処置も、本明細書中に記載の方法から特定的に除外される。その骨粗鬆症とは、良性及び転移性の両方の腫瘍から生じる骨損失をいう。腫瘍は、特に、破骨細胞または骨芽細胞の活性に影響を及ぼす因子の放出、骨代謝に関与する細胞の集合と破壊、ホルモン分泌に及ぼす影響(例えば、エストロゲン及び副甲状腺ホルモン)、及び、カルシウム代謝に関与する臓器における副作用を含む各種の機序によって、骨の再形成に影響を及ぼすことができる。骨に転移しやすいことが知られる例示的な腫瘍は、乳癌、prostrate癌、肺癌、及び腎臓癌である。これらの各腫瘍は、上述の任意の1以上のプロセスにより、骨損失を引き起こす。例えば、乳癌は、IL−1、IL−6、TGFα、及び腫瘍壊死因子(TNF)などの破骨細胞の発達を刺激する因子を産生することにより、骨吸収を促進することができる。乳癌細胞は副甲状腺ホルモン様タンパク質(PTHrP)を産生することも知られており、PTH受容体に結合して高カルシウム血症を誘導し、破骨細胞活性を活性化して、カルシウムの腎臓での吸収及びリン酸の排泄を増加させる。
【0044】
脊髄腫瘍及びリンパ系腫瘍などの造血系腫瘍は、破骨細胞及び骨芽細胞の発達を調節する因子を産生し、骨髄中の破骨細胞及び骨芽細胞を破壊し、さらに、骨の再形成に関与する細胞への分化することにより、骨の完全性にも影響を及ぼし得る。例えば、多発性骨髄腫において、骨髄腫細胞はTNF−α、TNF−β、RANKL、IL−1及びIL−6を分泌し、それらの全ては破骨細胞の発達及び骨吸収に影響を及ぼすことが知られている。この作用の現れとして、骨髄腫瘍細胞の付近には破骨細胞が見られるが、骨髄腫瘍細胞が存在しない骨の部分には見られない。
【0045】
上記記載のように、各種の2次的条件により引き起こされる変形性骨疾患を処置するためにSyk阻害化合物を使用することができる。いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、異常なホルモン分泌により特徴付けられる内分泌障害によって引き起こされる骨損失を処置するために使用することができる。異常なホルモン分泌は、ホルモンレベルの増加または減少のいずれかであり得る。各種のホルモンは、骨代謝に影響を及ぼし得、限定するものではないが、エストロゲン、テストステロン、成長ホルモン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン関連タンパク質、グルココルチコイド及びカルシトリオールを含む。エストロゲン、テストステロン、ヒト成長ホルモン、カルシトリオール、ヒト成長ホルモン、及びカルシトニンのレベルの減少は、骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収を導き得る。副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン関連タンパク質、及びグルココルチコイドにおける増加もまた、骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収を導き得る。従って、特定のホルモンの減少または増加をもたらす内分泌腺における病理学的条件は、骨損失及び骨折の危険の増加をもたらし得る。
【0046】
各種の形態の内分泌障害は、骨量及び相当する骨変性の損失と関連する。いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、副腎皮質機能亢進症から生じる骨変性、または副腎によるグルココルチコイドの産生における異常な増加(例えばクッシング症候群)を処置するために使用することができる。グルココルチコイドの内因性の過剰生産は、副腎腺腫、副腎癌、または結節状副腎皮質過形成などの原発性副腎病変から生じ得る。これらの形態の副腎皮質機能亢進症は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に依存しない。副腎皮質機能亢進症はまた、脳下垂体による過剰なACTH産生、及び必然的に起こる副腎皮質刺激によるグルココルチコイド分泌から生じ得る。場合によっては、小細胞肺腫瘍またはカルシノイド腫瘍は、ACTHを過剰産生し、また、グルココルチコイドの分泌を刺激し得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、骨変性と関連する内分泌障害は性腺機能低下症である。この状態は、男性と女性においては異なる現れ方をし、男性における精巣、及び女性における卵巣の機能が欠損または低減されることにより特徴付けられる。性腺機能低下症のいくつかの形態は、視床下部−下垂体−性腺調節経路の破壊を通じて生じ得る。視床下部は、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH))とも称される黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)のパルスを、視床下部−下垂体門脈系へと放出する。これらのLHRHのパルスに応答して、下垂体前葉は、順に生殖腺活性を刺激する卵胞刺激ホルモン(FSH)及び黄体形成ホルモン(LH)を分泌する。フィードバック調節機序の一部として、生殖腺ホルモンの増加は、下垂体レベルにおけるFSH及びLHの分泌低下をもたらす。精巣では、LHがライディック細胞を刺激してテストステロンを分泌させる一方、FSHが尿細管の成長に不可欠となる。卵巣では、LHが作用してプロゲスチン及びアンドロゲンの産生を誘導し、一方、FSHが顆粒膜細胞上に作用してこれらのステロイド前駆体の芳香族化を刺激し、エストロゲンを生成させる。性腺機能低下症は、視床下部−下垂体−性腺の連結における何らかの部分が破壊されたときに生じ得る。性腺機能低下症は、卵巣または精巣が機能しないまたは異常に機能する原発性性腺機能低下症、または黄体形成ホルモン放出ホルモンの視床下部での産生が破壊される中枢性の性腺機能低下症であり得る。その他の状況において、性腺機能低下症は、黄体形成ホルモンまたは卵胞刺激ホルモンを分泌できないときに生じ得る。以下にさらに論じるように、性腺機能低下症は、生殖腺の発達に影響を及ぼす変異から生じる性腺発育不全を包含する。男性のゴナドトロピン過剰性の性腺機能低下症の最も一般的な形態は、クラインフェルター症候群である。女性のゴナドトロピン過剰性の性腺機能低下症の最も一般的な形態は、ターナー症候群である。いくつかの実施形態において、生殖腺機能の欠損は、以下にさらに論じるような、卵巣切除または睾丸摘出などの外科的介入による。
【0048】
その他の実施形態において、内分泌障害は、副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌により特徴付けられる状態である副甲状腺機能亢進症である。このホルモンは、血清カルシウムを上昇させ、また血清リン酸レベルを低下させることによって、カルシウム及びリン酸のホメオスタシスを調節する。そのホルモンはまた、破骨細胞を刺激して骨吸収を増加させる。PTHはまた、アデニルシクラーゼの刺激を通じて、腎尿細管カルシウムの吸収及びリン酸の排出を増加させるのに間接的に働く。最終的に、PTHは、25−ヒドロキシビタミンDを、胃腸管からのカルシウム及びリン酸の吸収を刺激する活性型のビタミンDである1,25−ジヒドロキシビタミンDへの変換を活性化する。高カルシウム血症は、PTHの過剰な放出からもたらされる。
【0049】
副甲状腺機能亢進症の2つの一般的な形態が、臨床的臨床所見に基づいて記載されている。甲状腺による副甲状腺ホルモンの過剰産生である原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺腺腫、副甲状腺肥大、または副甲状腺悪性腫瘍から生じ得る。副甲状腺機能亢進症を生じさせる副甲状腺の新生組織形成はしばしば、多発性内分泌腺腫MEN1及びMEN2Aと関連する。二次性副甲状腺機能亢進症は、低いカルシウムレベルに応答し、長期に亘って副甲状腺の刺激が続いた後に過形成が起こると進行し得る。従って、二次性副甲状腺機能亢進症は、慢性腎不全、くる病及びカルシウム吸着不良を伴う被験体においてよくみられる。高カルシウム血症により通常特徴付けられる原発性副甲状腺機能亢進症とは異なり、二次性副甲状腺機能亢進症は通常、高カルシウム血症と関連しない。低いカルシウムレベルによる継続した長期の刺激によって、副甲状腺は、低カルシウム血症が解決されるか否かによらず高レベルのPTHを分泌し続け、三次性副甲状腺機能亢進症と通常称される状態へと導く。
【0050】
逆に、PTHの分泌または活性が低下している、すなわち副甲状腺機能低下症を有する被験体では、骨変性の異常が生じ得る。この病気は、副甲状腺機能亢進症に比べるとあまり見られないが、先天性疾患(例えば副甲状腺形成不全、ディジョージ症候群等)、医原性の原因(例えば、甲状腺または副甲状腺の外科手術、放射線療法等の間における副甲状腺の除去)、及び副甲状腺の浸潤(例えば転移性癌、ウィルソン病、サルコイドーシス等)によりもたらされ得る。副甲状腺機能低下症はまた、不活性型のPTHの分泌から、または骨及び腎臓によるPTHに対する応答の減衰からもたらされ得るが、これらの病気は通常起こることはまれである。生理学的レベルにおいて、低いPTH活性は低カルシウム血症及び高リン血症を引き起こし得る。カルシウム吸収の減少及び低PTHから生じる骨の可動化の増加は骨変性をもたらし得、それはSyk阻害化合物により処置することができる。
【0051】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、腎機能障害からもたらされる骨の変性である骨形成異常症の治療に用いることができる。骨形成異常症の臨床所見は、骨粗鬆症、骨軟化症、線維性骨炎、先天性骨硬化症、骨軟化症、及び二次的副甲状腺機能亢進症の形態であり得る。慢性腎不全を有する被験体は、それに伴う骨代謝及びカルシウムバランスに影響を及ぼすホルモンのアンバランスによって、これらの状態を進行させる。例えば、腎機能障害は高リン血症及び低カルシウム血症を導き、それにより二次的副甲状腺機能亢進症を導く。この病気は、機能不全の腎臓中における1,25−ジヒドロキシビタミンD3形成能の減少により悪化する。このビタミン欠乏症は、骨の成長の停止に続く小柱及び皮質骨の低石灰化である、骨軟化症を導き得る。骨軟化症においては、高リン血症に対抗するため用いられる透析液、酸中和剤、またはアルミニウム含有リン酸結合剤からアルミニウムが入り込んで沈着し、これがさらに骨形成の障害となる形態もある。腎臓障害の共通的な原因は、特に、糖尿病、高血圧、糸球体腎炎、多発性嚢胞腎、腎閉塞、及び腎感染(例えば腎盂腎炎)を含む。しかし、腎臓障害の多くのケースは、腎機能障害の特定できる原因を有さない特発性のものである。
【0052】
透析処置は、腎機能障害と共に蓄積する毒性の廃棄物を取り除くことができるけれども、多くの場合、1,25−ジヒドロキシビタミンD3の合成不能及び継続的な低カルシウム血症状態が、副甲状腺ホルモンの連続的な放出を導き、その結果、骨の分解が生じる。従って、Syk阻害化合物は、透析処置を受けている患者にとって、過剰な骨吸収のいずれをも減弱させ、骨損失を制限するものとして、有用であり得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、Syk阻害化合物を用いて処置可能な骨変性を、外科手術(すなわち、卵巣切除または卵巣摘除術等)などによる、1つまたは両方の生殖腺の破壊と関連する骨損失とすることができる。卵巣切除は、卵巣または子宮腫瘍の存在、乳癌リスクを低減する予防措置としての卵巣嚢胞の除去、子宮内膜症により引き起こされる骨盤痛の処置、卵巣中に移植された胚の除去、及び、骨盤感染症の処置など各種の医学的理由により実施される。多くの場合、子宮筋腫、子宮癌、子宮内膜症、子宮脱、及び過剰な子宮出血を処置するために子宮を摘出した被験体のうち何パーセントかが、卵巣切除も受けている。先に論じたように、卵巣の欠如は、閉経期の生理学的条件を模したエストロゲンレベル及びその他のホルモンにおける突然の減少をもたらす。結果として、骨粗鬆症のリスクは、卵巣切除を受けている女性において顕著に増加する。エストロゲンまたはその他のホルモン置換療法は、エストロゲン減少の影響を一部埋めあわせるものの、このことは、卵巣を切除した個人に蓄積され得る骨粗鬆症の進行を妨げ得ない。Syk阻害化合物を用いた処置は、卵巣の除去と関連する骨損失を緩和するために使用できる。
【0054】
睾丸摘出による精巣の欠損、またはGnRHアゴニスト処置により誘導される性腺機能低下症は、男性における骨粗鬆症を導き得る。これは、アンドロゲン産生の減少が、おそらく一因である。理屈はわかっていないが、アンドロゲンは、年齢または性別によらず、網目状の骨の骨量及び完全性を維持するのに機能し得る。テストステロンの投与による置換療法は骨ミネラル濃度を増加させることが示されている。継続的な長期のホルモン置換療法により、骨密度は通常レベルに維持され得る(Katznelsonら、1996,J.Clin Endocrin. Metab.81:4358−4365)。Syk阻害剤化合物は、単独またはアンドロゲン療法と組み合わせて、睾丸摘出と関連する骨損失を阻害または減少させるために使用することができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、遺伝性の遺伝子疾患と関連する骨変性を処置するためのSyk阻害化合物の使用を本方法の目的とすることができる。遺伝による遺伝子疾患は、特に、単一遺伝子遺伝、多因子遺伝またはポリジーン遺伝、染色体異常、及び親からのインプリンティングから生じ得る。骨形成不全症、ホモシスチン尿症、性腺発育障害及び低ホスファターゼ血症を含む、骨の代謝に影響を及ぼす各種の遺伝性の遺伝子異常が同定されている。
【0056】
上記に関し、いくつかの実施形態において、骨量低下及び高い骨折頻度という共通的な特性を有する広範な臨床的徴候を示す遺伝性疾患である骨形成不全症(OI)を処置するために、Syk阻害化合物を使用することができる。骨形成不全症は、臨床所見及び骨構造に基づく少なくとも7つの異なる状態からなる。タイプIは軽症型であり、罹患した被験体は正常な身長を達成するが、思春期以降に減少する通常の骨折発生率よりも高い発生率を示す。タイプIIは最も重篤な型であり、通常的には周産期における死をもたらす。この型のOIを有する被験体は、多発性骨折を有し、重篤な骨格奇形及び付随する皮質骨及び海綿の厚さの減少を示す。タイプIIIの疾患は、出生直後からの骨格奇形を示し、骨の脆弱性による多発性骨折をもたらす。タイプIVの疾患は多様な一連の臨床所見を示し、タイプI〜IIIの中には分類されない表現型特性を含む。共通するのは、骨格奇形及び骨折である。タイプVの型は、中等度の奇形、及び、中程度から重篤な骨のもろさを形成する。この分類に罹患した被験体は、骨折部位における肥大型のカルス形成、骨間膜の石灰化、及び成長板に隣接したX線で乳白色となる領域の存在を呈する。層板骨は網目状の外見を示す。タイプVIの疾患は、中等度から重篤な骨格奇形、過剰な類骨、及び顕著な魚鱗様の外見を有する層板骨を示す。タイプVIIの型は、中等度から重篤な骨格奇形及び骨のもろさ、及び上腕及び大腿の短縮を示す。タイプI〜IVの骨形成不全症は、タイプIコラーゲン遺伝子中の変異と関連する。骨形成不全症に対する現在の処置は、骨吸収を制限することにより骨を強化するための再吸収阻害薬であるビスホスホネートを利用する。この処置は骨の質を向上させないが、骨折可能性を減少させ、疾患に関連する痛みを低減するため十分なだけ骨量を増加させることができる。Syk阻害剤の使用は、骨吸収を制限することによって、それにより骨の強度を増加させることによって、同様の治療効果を提供することができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、この阻害剤化合物で処置され得る遺伝性の遺伝子疾患はホモシスチン尿症である。この遺伝的異常は、アミノ酸であるホモシステインの血中の高いレベルから生じ、アミノ酸であるメチオニンをアミノ酸であるシステインへと変換する酵素の欠乏、またはホモシステインのメチオニンへの変換の欠乏によりもたらされ得る。酵素であるシスタチオニンβシンターゼ(CBS)における変異は、ホモシスチン尿症の最も一般的な型を示す。この酵素は、B6依存的なCBS酵素により触媒される律速反応において、ホモシステインがセリンと縮合してシスタチオニンを形成する経硫化(transsulfuration)経路中で作用する。このシスタチオニンは次いで変換され、システインが得られる。ホモシステインを変換できないことが、ホモシステインの蓄積をもたらす。ホモシスチン尿症の生理学的影響は多面的であり、罹患した被験体は、血栓症、アテローム性動脈硬化症、水晶体脱臼、手足が長いか細い体型、クモ指症(spidery fingers)、及び脊柱側弯症(curvature of the spine)リスクの増加などの多くの症状を呈する。この疾患はまた、骨粗鬆症及び骨折リスクの増加によっても特徴付けられる。理屈はわかっていないが、ホモシステインレベルの増加は、骨中のコラーゲンの架橋に干渉すると考えられている(Lubecら、1996,Biochim. Biophys.Acta 1315:159−62)。骨吸収の阻害は有機マトリックスの質には影響を及ぼさないかもしれないが、Syk阻害化合物の使用による骨損失の制限は、独立して、または再吸収阻害薬及び/または骨同化薬と組み合わせて、骨折可能性を低減させるのに十分な骨強度の増加を提供し得る。
【0058】
いくつかの実施形態において、阻害剤化合物は、臨床症状が胎児の生殖腺の発達が異常である遺伝性型の性腺発育障害の処置をするために使用することができる。性腺機能低下症に関し先に論じたように、性腺機能の欠損または不十分さは、ホルモンの不均衡よる骨粗鬆症状態を導き得る。性腺発育障害は、通常的には、性腺が適切に発達できないことを導く染色体異常から引き起こされる。性腺発育障害の最も一般的な型は、2つのX染色体のうち1つが欠損しているかあるいは不完全である、女性が罹る疾患であるターナー症候群である。しかし、この疾患はまた、性腺の分化及び精巣の決定を調節する遺伝子における変異から生じ得る。例えば、高移動性グループ(HMG)のファミリーにおいて転写因子をコードする性決定遺伝子SRYにおける変異は、純粋なXY性腺発育障害とも称されるスワイヤー症候群を引き起こす。SRY変異を有する被験体は、表現形としては女性であるがXY核型を呈し、結果として、思春期における第2次性徴特性が進行せず、生理も起こらない。性腺発育障害の別の型は、ステロイドの生合成において鍵となる点に関与する17−α−ヒドロキシラーゼであるCYP17の欠乏から生じる。ヒドロキシラーゼの欠乏を有する被験体は、出生前及び出生後にアンドロゲン及びエストロゲンを合成することができないために、彼女らがXXであるかXYであるかによらず、女性である。性腺発育障害を有する被験体では、エストロゲン及びゴナドトロピンレベルが異常に低くなるために、骨粗鬆症及びそれに関連する骨折の発症率が増加する。性腺発育障害に関する現在の療法には、特に、エストロゲン投与及び成長ホルモン療法が挙げられる。そのような療法に加えて、Syk阻害剤を使用すれば骨損失が低減され、これらの患者において生じる骨粗鬆症の程度を減少させることができる。
【0059】
本明細書中に記載の方法により処置するために許容され得るその他の遺伝性の変形性骨疾患は、低ホスファターゼ血症である。少なくとも6つの形態の低ホスファターゼ血症が当該技術分野で認識されている。周産期の(致死性)低ホスファターゼ血症は、最も重篤な型であり、子宮内で発現される。生存する新生児においては、石化程度が低く、骨の骨化が乏しいことがみられる。幼児の低ホスファターゼ血症は、6月齢前に臨床所見が現れ、くる病に似た骨の奇形、低石灰化、高カルシウム血症、及び腎機能障害により特徴付けられる。子供の低ホスファターゼ血症は、歯の早期喪失により特徴付けられ、内反膝、拡大した骨幹端、低身長及び非進行性ミオパシーなどの骨格奇形を示す。成人の低ホスファターゼ血症は、中年期に臨床所見を示し、共通の属性は、歯の早期喪失、くる病様の症状、骨軟化症、高い骨折頻度、副甲状腺機能亢進症及び異常なカルシウムピロリン酸塩の沈着である。低ホスファターゼ血症の別の形態である、歯限局型低ホスファターゼ血症は、早発型歯周病などの歯の疾病が存在する場合に診断されるが、くる病または骨軟化症といった何らかの症状を伴わない。最終的に、偽性低ホスファターゼ血症は、検出可能なアルカリホスファターゼのレベルが正常であるか増加されている低ホスファターゼ血症の稀な型である。擬似的低ホスファターゼ血症におけるホスファターゼ酵素は生理学的pHにおいて活性を有さないが、アルカリホスファターゼ活性を検出するために用いられる試験条件下では活性を有する。
【0060】
この疾患の様々な症状にも関わらず、低ホスファターゼ血症もまた、多くの臨床的徴候を示す。これらには、ホスホエタノールアミン、ピリドキサール5リン酸、及びピロリン酸の血中及び尿中の増加;一貫して正常値以下の血清アルカリホスファターゼレベル;骨構造における放射線的な変化;及び異常なレベルの石化されていない骨を含む。低リン血症はアルカリホスファターゼ活性の変化と関連しているが、この疾患はアルカリホスファターゼにおける異常に限定されない。最近の分子解析により示唆されるように、骨及び軟骨中で発現されるZn−金属エンドペプチダーゼ(PHEX)中の変異はX関連低リン酸血症性くる病(HYP)と関連し、一方、繊維芽細胞成長因子23における変異は常染色体優性遺伝性低リン血症性くる病(ADHR)と関連する(Rowe, 2004,Crit. Rev. Oral Biol Med. 15(5):264−81)。疾患の分子的原因によらず、骨吸収を緩和または阻害し、また、骨沈着を増加し、それによってこの疾患の症状におけるいくつかを緩和するために、Syk阻害化合物を使用することができる。
【0061】
いくつかの実施形態において、Syk阻害剤化合物は、変形性骨炎としても知られるパジェット病を処置するために使用することができる。この病気は男性及び女性の両方に影響を及ぼし、患者であると診断されるのは通常50歳以上となる。症状は多様であるが、臨床所見には、骨格痛、骨格奇形、骨折の増加、及び難聴を含む。罹りやすい骨は、骨盤、脊柱、頭がい骨、下肢、大腿骨及び上腕骨である。パジェット病では、過剰な骨の再形成が、局所的な領域に見られる。この疾患の最初の段階は、放射線検査において通常検出される異常である溶骨性病変を伴う局所領域での骨吸収増加によって特徴付けられる。破骨細胞は正常な成人の破骨細胞よりも大きく、核の数が多くなっている。過剰な骨吸収に次いで骨形成の増加が生じるこの段階は、通常みられる骨芽細胞の数が増加することにより特徴付けられる。しかし、迅速に沈着される骨は、外見上構造的に解体されており、柔らかくて孔だらけの特性を有し、骨格奇形及び骨折の危険増加の原因となる。骨の再形成速度の増加を反映して、血清アルカリホスファターゼのレベル及びヒドロキシプロリン及びピリジノリンの尿中への排出のレベル上昇が存在する。パジェット病は、破骨細胞形成を阻害する原発性の破骨細胞の疾患であると考えられるため、Syk阻害に基づいて破骨細胞活性を阻害することで、この疾患の変性の影響を処置するための治療的なアプローチを提供することができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、処置される変形性骨疾患は歯周病である。歯周病は固有の歯垢形成バクテリアによる日和見感染から生じ、下部結合組織及び骨の再形成を含む時間依存性の免疫応答がそれに続くと考えられている。厳密な疾患の機序は未知であるが、バクテリアは、破骨細胞活性を最終的に活性化させる各種のエンドトキシン及びリポサッカライドを放出することができる。これらのバクテリア因子は、宿主の免疫細胞が破骨細胞形成を刺激し得る細胞外因子を放出することを誘導し、及び/または、骨芽細胞が破骨細胞の集合及び活性化に関与する因子を放出することを誘導することもできる。各種のエンドトキシンは、骨芽細胞によるコラーゲン合成を阻害することにより、さらに骨芽細胞の発達を妨げることにより、骨形成を阻害する場合もできる。その結果は、骨吸収及び骨形成の間の不均等及び、相当する歯を支持する骨の分解が生じ、最終的には歯を失う。破骨細胞の活性を阻害することにより、骨の吸収速度は阻害されまたは減弱され、それにより歯周病と関連する合併症を防止する。
【0063】
当然のことながら、Syk阻害剤の使用は、本明細書中に記載された変形性骨疾患に限定されず、骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収により特徴付けられる変形性骨疾患へと適用され得る。このような病気は、破骨細胞形成の増加、破骨細胞の活性化の増加、骨芽細胞形成の減少、骨芽細胞活性の減少、または破骨細胞形成の増加及び骨芽細胞形成の減少の組み合わせから生じ得る。従って、本明細書中に記載の方法は、通常、骨形成を上回る骨吸収という不均衡が存在する変形性骨疾患の処置を包含する。
【0064】
変形性骨疾患の処置に加えて、Syk阻害化合物は、骨損失のリスクを有する被験体における骨損失を防止し、骨折の危険増加させるための予防法として、独立して、または骨調節薬と組み合わせでのいずれかにより使用することができる。骨粗鬆症及びその他の変形性骨疾患を進行させるリスク因子が複数存在する。ヒト集団においては、2つの重要なリスク因子は年齢及び性別である。加齢に伴い、骨の侵食領域へと集合される骨芽細胞の数が減少し、骨芽細胞の複製寿命が短くなることにより、男性及び女性のいずれにおいても骨密度は減少する。この骨損失のゆっくりとしたプロセスは、男性及び女性のいずれにおいても共通である。しかし、女性では、閉経期のエストロゲンレベルにおける急激な低下が、約4−8年間継続して骨の再形成を加速させる。エストロゲンの低下は、破骨細胞の活性増加、骨細胞生存の減少、及び機械的刺激に対する感受性の低下をもたらすと思われる。したがって、骨損失の可能性を防止するまたは低減するための予防的処置として、Syk阻害化合物を、約35歳以上、または45歳以上、または55歳以上、または65歳以上の年齢の女性に対し与えることができる。閉経期または閉経後の女性に対しては、エストロゲンレベルの減少から生じる骨損失を制限する処置が有用となる。男性については、この化合物を、約35歳以上、または45歳以上、または55歳以上、または65歳以上の年齢の被験体で骨損失を制限するために与えることができる。骨量密度がその被験体が属する年齢グループにおける集団の平均骨ミネラル濃度の約50パーセンタイル未満、約40パーセンタイル未満、約30パーセンタイル未満である男性及び女性の両方では予防的措置になり得る。これらには、35〜44歳、45〜54歳、55〜65歳、65〜74歳、及び75歳以上の年齢グループを含む。
【0065】
その他の実施形態において、その処置は、骨損失に関するリスク因子が、年齢または性別以外のリスク因子を1以上有する被験体に向けられ得る。骨ミネラル濃度の損失は、栄養、生活習慣、地理的系統(例えば白色人種系統)、及び家族歴などの多数の外部因子に相関する。栄養不良、文化的な食習慣、または摂食障害を原因とする食事中のカルシウムの欠乏は、骨ミネラル濃度の一層の低下をもたらす。このような個人における骨粗鬆症を進行させる可能性は、加齢に関連するもしくは閉経期に関連する、骨形成を上回る骨吸収の不均衡が始まった時点で、蓄積された骨量が少なければ増加する。骨粗鬆症のリスクに影響を及ぼす重要な因子は、ピーク骨量及び晩年に失われる骨の割合である。被験体が属する集団グループの平均よりもピーク骨量が低い場合には、その被験体は骨粗鬆症のリスクを有すると考えられる。従って、食事からの摂取が不十分であって変形性骨疾患が進行するリスクが増加するようなそれらの被験体に対し、Syk阻害化合物を使用することができる。本明細書中では、ピーク骨量を達成し、及び/または骨損失を制限するために必要とされる推奨1日量を下回る取り込みのことを低い食事性カルシウムとする。このような推奨値は、National Institutes of Health Consensus Development Conference),Optimal Calcium Intake,NIH Consensus Statement Online 1994 June 6−8;12(4):1−31(本明細書中に参照により組み入れるものとする)に示されている。以下のカルシウム最適1日取り込み量が推奨されている:6月齢以下の乳児は400mg;6月齢〜1歳の乳児は600mg;1〜5歳の幼児は800mg;6〜10歳の児童は800〜1200mg;11〜24歳の青年及び若い成人は1200〜1500mg;25〜64歳の男性は1000mg;65歳以上の男性は1500mg、25〜50歳の女性は1000mg;エストロゲン療法を受けている50歳以上の女性は1000mg;エストロゲン療法を受けていない50歳以上の女性は1500mg;65歳以上の女性は1500mg;妊娠中及び授乳中の女性は1200〜1500mg。当然のことながら、カルシウム取り込みが十分であるのかについては、数ヶ月から数年の期間、例えば6ヶ月以上の期間で測定される。ここで、低いカルシウム取り込みとは、加齢に伴って生じる骨損失の悪い結果を妨げるために必要とされるレベルを下回る骨ミネラル濃度と相関するレベルである。
【0066】
いくつかの実施形態において、骨損失と関連するリスク因子はタバコの使用である。多くの研究において、喫煙と骨ミネラル濃度の減少との相関が示されている(Sewonら、2004,Arch Oral Biol.49(5):355−8;MacInnis et al,2003,J Bone Miner Res. 18(9):1650−6)。中程度の喫煙者(1−10本/日)及びヘビースモーカー(>10本/日)は、非喫煙者よりも低い骨密度を示し、ヘビースモーカーは非喫煙者よりも顕著に低い骨密度を有する(Sewon,上掲)。同一の年齢グループにおける非喫煙者と比較して骨ミネラル濃度を減少させるのに十分な量のタバコを使用する被験体には、Syk阻害化合物を用いた予防的処置を講じることができる。タバコの使用とは、シガレット、葉巻及びパイプタバコなどの有煙タバコを含む各種形態のタバコの使用をいう。タバコはまた、嗅ぎタバコ及び噛みタバコなどの無煙タバコを含み、それらのいずれもが骨の石化密度と相関するようにみえる(Spanglerら、2001,Med Hypotheses 56(5):553−7)。
【0067】
いくつかの実施形態において、骨損失と関連するリスク因子は運動不足である。運動不足及び長期のベッド休養は、高カルシウム尿症及び骨損失を引き起こし得る。対照的に、筋肉活動がない状態で骨に体重をかける負荷は、骨量を維持することができる(Toddら、2003,Postgrad Med. J,79:320−323)。従って、体重負荷運動によって、骨は、通常適用される機械的な力に対して骨の石化密度を高めることによって適応する。体重負荷運動とは、骨の石化密度を維持または増加させるように骨に十分な機械的負荷を加える任意の物理的活動である。例えば、水泳は骨の石化密度にほとんど影響を与えないが、ウォーキング及び軽いエアロビクスなどの運動は、さらなる骨の損失から身を守る。ウェイトトレーニング、またはランニングなどの運動量の多いエアロビクスは、腰及び腰椎における骨の石化密度を増加させる。従って、本明細書中に記載の処置は、座ることの多い、及び/または、骨の上に不適切な機械的ストレスを有する被験体に骨の石化密度を維持または増加させるために、好適であり得る。
【0068】
その他の実施形態において、骨損失と関連するリスク因子は、骨粗鬆症などの低骨密度または変形性骨疾患における家族歴である。双子及びその他の兄弟姉妹の研究によれば、骨の石化密度に対する遺伝的因子が存在する。例えば双子は、二卵性双生児よりも骨密度との関係が強く、骨粗鬆症の被験体における家族を調べると、骨粗鬆症の男性及びその子供の骨密度の相関性が高く、骨密度が低い傾向を示す。その低い骨密度は、その家族に共有する任意の確認可能な環境因子とは相関せず、従って、遺伝的な因子があることを示す。ピーク骨密度は晩年における骨粗鬆症の可能性と相関するため、低骨密度の家族歴を有する人は、骨粗鬆症を進行させるリスクが増える。
【0069】
当然のことながら、予防的治療の適合性を評価するためのリスク因子は、単一のリスク因子に限定されず、低い骨石化密度及び変形性骨疾患と相関することが知られているまたは考えられているリスク因子と組み合わせられる。
【0070】
6.3 変形性骨疾患の診断及び骨吸収/回転に関する試験
変形性骨疾患及び骨粗鬆症の状態は、当該技術分野で知られた標準的な方法を用いて検出及び診断することができる。これらは、被験体における臨床的評価及び/または生化学的測定及び骨代謝及び骨損失に相関する分子マーカーの測定を含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、変形性骨疾患の診断基準はは骨ミネラル濃度とすることができる。骨ミネラル濃度を測定するために使用される各種の診断技術における相違を考慮するには、絶対測定値を、世界保健機関(WHO)により推奨されるものなどの標準的な基準のセットと比較する。WHOの標準では、測定される骨ミネラル濃度は、「T」及び「Z」スコアという相対的な用語で表現される。「T」スコアは被験体に関する骨折の危険に相当し、30代の通常の健康な成人(YN=若年正常)における参照骨ミネラル濃度から、測定される骨ミネラル濃度を差し引くことにより計算される。この数を次いで標準偏差(SD)で割る:
Tスコア=(BMD−YN)/SD。
【0072】
WHOのガイドラインでは、若年正常基準のBMDに対して標準偏差が−1より大きいと正常なBMDであり;若年成人正常参照のBMDに対して−1〜−2.5の標準偏差のBMDであれば、低骨量または骨減少症である。若年成人正常参照のBMDに対して<−2.5の標準偏差を有する場合、骨粗鬆症と診断されるが、BMDが若年成人正常参照のBMDに対して<−2.5の標準偏差であって、1以上の骨粗鬆症的骨折があれば、重篤な骨粗鬆症である。通常、ヒト被験体の骨折の危険は、若年成人参照範囲を標準偏差が1つ下がるごとに倍化すると思われる。
【0073】
Zスコアは、年齢相当の骨ミネラル濃度を上回るか、下回るBMD値の標準偏差の値である。Zスコアは骨粗鬆症に関する診断的な基準ではないが、骨粗鬆症の長期的なリスク及び骨粗鬆症の二次的原因の試験に関するさらなる評価を必要とするそれらの被験体を同定するのであれば有用であり得る。ZスコアはTスコアに関連して経時的に変化する。−1.5を下回る標準偏差のZスコアは原発性骨粗鬆症を示唆し、−1.5以上の標準偏差は二次的骨粗鬆症を示唆する。当業者であればわかることであるが、参照集団でT及びZスコアを測定し、新たな参照集団が特定されれば見直しをし、これによって、骨粗鬆症及びその他の変形性骨疾患における、より一貫した予測測定が提供される。
【0074】
BMDの評価においては、複数の手法が有用であり得る。広く使用されている手法の一つには、二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)がある。本手法におけるX線ビームは、異なる密度を有する2つの組織タイプ(例えば骨及び柔軟組織)における測定を可能にするための、少なくとも2つの別々な放射エネルギーを有する。いくつかの実施形態において、脊椎及び腰が投影される。寛骨密度の測定は有益情報であり、信頼性が高い、なぜなら腰は,加齢と共にみられる関節の変化によりほとんど影響を受けないからである。脊椎は、脊椎を形成する骨梁中で、骨粗鬆症における骨の損失が最も目立つために投影される。全身の骨ミネラル含量及び密度の測定もDEXAを用いて行うことができ、また、成長及び発達の間における骨ミネラルの蓄積の評価(例えばピークBMD)及び体組成物分析も有用であり得る。
【0075】
骨密度を評価するための別の方法は、骨に反射する音の速度を測定する定量的超音波診断である。超音波減衰率(BUA)が骨密度及び骨の構造を調べるのに対し、骨を通過する音の速度(VOS)は骨密度及び弾力性を評価する。超音波ビームの減衰は、構造体が複雑になればなるほど、超音波の減衰が大きくなるという原理に基づく。例えば、小柱の連結性の程度が高くなればなるほど、音はその骨を通じて、より早く移動する。超音波測定は通常、末梢骨を評価するために用いられるが、高い精度を有している。DEXA及び超音波的手法の両方が、単位面積あたりの骨ミネラル含量(g/cm)として計算される見かけの骨密度を調べるために使用され得る。
【0076】
骨容積辺りの骨密度を調べるために、定量的コンピュータ断層撮影法(quantitative computed tomography(QCT))を使用することができる。CT画像上の選択された領域の密度を、CTの視野領域範囲内に画像化した、異なる濃度のカルシウム溶液を満たした一連のチューブなど一連の既知の標準的な物の濃度と比較する。CTは皮質骨及び骨梁骨の骨ミネラル濃度を別々に測定することができ、構造的強度が通常それらに依存するために、QCT手法は脊椎骨折の危険のよりよい予測となり得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、骨の構造は、核磁気共鳴映像法(MRI)により直接的に調べることができる。男性の性腺機能低下症などにおけるいくつかのタイプの変形性骨疾患は、骨ミネラル濃度を測定するためにイメージングされる2つのタイプの骨である脊柱及び腰の骨ミネラル濃度に大きな差異がない。微小核磁気共鳴映像法高解像度を含む核磁気共鳴映像法は、個々の骨梁を識別し、骨の微小構造特性を解明するのに十分に高い解像度において画像をin vivoで蓄積することを可能にする。このように、このイメージング手法は、骨梁の完全性に影響を及ぼす因子の定量、及び、その他の放射線的または超音波的な骨密度状態に基づいては区別できない骨の異常の同定を可能にする(Jiangら、2000,J Musculoskelet Neuronal Interact. 1(1):45−51)。MRIイメージは、定常状態プロセスによる3次元グラジェントエコーMRの連続により得ることができる(Boutryら、2003,Radiology 227:708−717;Linら、1998,Osteoporos Int. 8:16−24)。
【0078】
骨密度の測定のために用いることができるその他のタイプの手法には、例えば、通常、手首または踵における骨密度を測定するために用いられ得る単一エネルギーX線吸収測定法(SXA);骨密度を計算するために手及び小さな金属製くさびにX線をあてて利用するX線吸光光度分析法(RA);脊柱、腰または全身を測定する二重光子吸収法(DPA);及び通常手首の骨密度を測定する単一光子吸収法(SPA)を含む。
【0079】
骨密度の測定のほかに、生化学的マーカーに関するアッセイで、骨の再形成状態の示唆を提供することができる。これらのマーカーは、独立して、または骨密度の測定値を調整するために使用することができる。そのようなことから、マーカー分析は、二次的な骨粗鬆症が疑われる場合に妥当であり得る。骨形成のマーカーには血清中に見られるものもあるし、尿中に検出されるものもある。血清中の例示的なマーカーとしては、特に、タイプ1コラーゲンのカルボキシ末端及びアミノ末端のプロペプチド、骨特異的なアルカリポスファターゼ及びオステオカルシンが挙げられる。
【0080】
コラーゲンのカルボキシ末端及びアミノ末端ペプチドは、コラーゲンを構築する間に、プロコラーゲンの形をとるタイプIコラーゲン分子の末端部分が開裂して、血清中に生じる。これらのペプチド産物の血清中濃度は、骨形成の指標であり得る。ペプチドは、免疫アッセイにより検出することができる。しかし、これらの免疫アッセイは、皮膚などのその他のコラーゲンIの供給源から生じるペプチドを区別しない。マーカーである骨特異的なアルカリホスファターゼは、骨芽細胞により産生され、骨格の適切な石化に不可欠である。その他の組織由来(例えば、肝臓)のアルカリホスファターゼとの最小交差活性を有する抗体を用いるアッセイは、骨形成のよい指標であり得る(Hillら、1989,Clin Chim Acta 186:315−320)。その他の有用な血清中の骨形成のマーカーは、いくつかの形体で血清中を循環する骨芽細胞由来の小さな非コラーゲン性のタンパク質であるオステオカルシンである。オステオカルシンは、骨の中のコラーゲンに対し2番目に多く、このタンパク質の血清レベルは、骨マトリックスへと取り込まれない過剰なタンパク質を反映し得る。オステオカルシンの完全分子または大きなアミノ末端断片(1〜43残基)のいずれかを検出するアッセイが、骨形成の信頼性の高い指標であり得る。
【0081】
骨吸収のマーカーもまた、尿中及び/または血清中に検出可能である。骨吸収マーカーの有意な種類は、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、総ピリジノリン及び遊離ピリジノリン(Pyd)、及び総デオキシピリジノリン及び遊離デオキシピリジノリン(Dpd);及びコラーゲン架橋のN−テロペプチド及びC−テロペプチドを含むコラーゲン分解産物である。ヒドロキシプロリン及びヒドロキシリジンは、コラーゲンの翻訳後プロセスの間に骨芽細胞により形成されるアミノ酸である。骨が分解されるとき、これらのアミノ酸は循環中へと放出され、肝臓中で代謝され、尿中に排出される。骨以外のヒドロキシプロリン供給源は、皮膚及び食事中のコラーゲンである。このため、厳密なヒドロキシプロリンの測定は、コラーゲン除去食を摂取している間に行われる。一方、ヒドロキシリジンの測定は食事によっては影響されず、また、特別の食事計画を必要とせずに測定することができる。ヒドロキシプロリン及びヒドロキシリジンのアッセイは、HPLCなどの任意の既成の手法を用いることができる。
【0082】
生化学的マーカーであるピリジノリン(Pyd)及びデオキシピリジノリン(Dpd)もまた、コラーゲンの分解に由来し、コラーゲン分子を橋渡しする架橋から生じて、コラーゲンマトリックスを安定化させる。これらの架橋は3−ヒドロキシピリジニウムの誘導体であり、コラーゲン分子の1つのC−及びN−末端におけるヒドロキシリジンまたはリジン残基、及び別のコラーゲン分子におけるヘリックス部分の間に生成する。架橋には2つの主要なタイプ;ピリジノリン架橋及びデオキシピリジノリン架橋が存在する。Pydは骨に対してより特異的であるが、量は多くない。コラーゲンの分解において、両タイプの架橋が遊離またはペプチド結合形態として循環中へと入り、尿中へと排泄される。これらの産物を測定するための標準的な手法には、免疫アッセイ及び高性能液体クロマトグラフィー(HLPC)などが挙げられる(Seyedinら、1993,J Bone Miner Res 8:635−42;Robinsら、1994,J Bone Miner Res 9:1643−9;Pyrilinks−D,Metra Biosystems)。Pydの産生は骨吸収の感度のよいマーカーであり、特に、骨粗鬆症、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能亢進症及びパジェット病を含む代謝的な骨の疾患の良い指標である。
【0083】
マーカーであるタイプIコラーゲンのN−テロペプチド(NTx)及びC−テロペプチド(CTx)は、循環中へと放出され、尿中でコラーゲン分解がそれに続く、先に論じられた架橋を含む単純なペプチド形態である。ピリジノリン及びデオキシピリジノリンと同様に、N−テロペプチド及びC−テロペプチドはHPLCまたは免疫アッセイを用いて検出可能である(例えば、Garneroら、2001,Clin Chem 47:4−694−702;Rosenquistら、1998,Clin Chem 44:2281−9;Clemensら、1997,Clin Chem 43:2058−63参照)。免疫アッセイは、NTxの検出に関してOsteomark(登録商標)の商品名(Oxtex International及びWampole Laboratories,Princeton,NJ,USA)で、またCTxの検出に関してCrossLapsの商品名(Osteometer Biotech,Copenhagen,Denmark;米国特許第6,107,047号)で市販されている。
【0084】
その他の骨吸収の指標として有用なマーカーは、酒石酸耐性酸性ホスファターゼ及び骨のシアロタンパク質である。本明細書中の記載に示されるように、酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAPまたはTRACP)は、骨吸収に関与すると考えられる酵素である。3タイプのTRACP、アイソフォーム5a、アイソフォーム5b、及び骨芽細胞中のアイソフォームが知られている。TRACP 5bは、破骨細胞及びマクロファージ中に存在し、骨吸収の間に放出されるようにみえる。研究により、それが、再吸収された破骨細胞内の骨産物を断片化する活性酸素種の生成に役割を果たすことが示唆されている(Halleenら、1999,J Biol Chem,274(22):907−10)。TRACP 5aの起源はあまりよく知られていないが、研究により、in vitroで培養されたマクロファージ中および樹状細胞中でそれが示され、リューマチ関節炎のマーカーとなり得る(Janckilaら、2003,J Bone Mineral Res 18(10):1916)。TRACPの3番目の形態は骨芽細胞中に存在するが、十分には特徴付けられていない。研究によれば、フッ化物に介在される骨形成における第3のアイソフォームの役割を果たしているとみなされる(Lauら、2003,J Bone Mineral Res 18(10):1987)。
【0085】
各種のTRACPアイソフォームのうちで、TRACP 5bは、破骨細胞中のその存在及び骨吸収の間のその放出に基づいて、骨吸収における有用な生化学的指標であるようにみえる。その血清中での増加は、骨粗鬆症及び腎性骨形成異常症においてみられる骨の再形成の増加と相関する。TRACP 5bは、免疫アッセイなどの好適な手法により測定される血清中の総TRACPの一部として検出することができる。血清中のTRAPC 5bアイソフォームはしかし、不活性型及び活性型としても分泌される。破骨細胞は活性な酵素を分泌し、それは血清中で不活性化されるようになるが、一方でマクロファージは不活性な酵素を分泌する(Nakasatoら、1999,Clin Chem 45:2150−7;Halleenら、2001,Clin Chem 47:597:−600)。活性な及び不活性な酵素を区別するアッセイが市販され、TRACP 5bのより正確な測定を提供する(例えば、BoneTRAP(登録商標)assay,Suomen Bioanalytiikka,Finland参照)。
【0086】
骨の再形成及び吸収を調べるためのin vivoアッセイに加えて、破骨細胞活性における化合物及び組み合わせの効果を調べるために、各種のin vitroアッセイを用いることが可能である。例示的なin vitroアッセイは、象牙質吸収ピットアッセイであり、各種のその変形が当技術分野分野において記載されている(例えば、Tamuraら、1993,J Bone Miner Res 8:953−960参照)。通常、破骨細胞を好適な培地(例えば、改変イーグル培地(MEM))中で生育させ、象牙質スライス上に載せ、象牙質スライス上にてさらなる時間をおいてインキュベートを行う。細胞を機械的、化学的、及び/または酵素的な処置により除去後、破骨細胞の活性により形成された吸収ピットを、電子顕微鏡またはマイヤーズヘマトキシリン(Mayer’s hematoxylin)を用いた染色により調べる。象牙質表面の総面積に対する、吸収された面積の割合が、吸収速度の相対的測定値を与える。
【0087】
また、In vitro分析には、破骨細胞形成及び骨芽細胞の発生におけるSyk阻害剤及び組み合わせ処置の効果を調べるために、破骨細胞及び骨芽細胞により発現される各種のマーカーを使用することができる。上述のように、例示的な破骨細胞形成のマーカーはTRACP 5bである。その他の破骨細胞分化マーカーは当業者にとって明白であろう(例えば、ビトロネクチン受容体、カルシトニン受容体、カテプシンKなど;Nomiyamaら、2005,J Interferon Cytokine Res.25(4):227−31参照)。例示的な骨芽細胞マーカーには、骨芽細胞/骨細胞因子45(OF45)(Petersonら、2000,J Biol Chem.275(46):36172−80)、骨特異的アルカリホスファターゼ、STRO−I、RANKL、及びオステオプロテグリン(Atkinsら、2003,J Bone Miner Res. 18(6):1088−98)を含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、治療目的に関する有効性及び投与量を調べるために、骨粗鬆症の動物モデルが用いられる。1つの動物モデルは、卵巣切除ラット及びマウスであり、ヒト骨粗鬆症に類似した骨粗鬆症を発症する。骨粗鬆症及び骨変性は、グルココルチコイド投与により、または動物を固定して、制限された機械的ストレスを骨に与えることにより、動物においても誘導することができる。
【0089】
実験的に誘導した系に加えて、各種のタイプの変形性骨疾患を模倣したトランスジェニック動物モデルを使用することができる。老人性骨粗鬆症に関する1つのトランスジェニック系システムは、単純ヘルペスウイルスのキナーゼ遺伝子に対してオステオカルシン遺伝子に対するプロモーターを融合させることにより方向付けられた、骨芽細胞のアポトーシスの誘導を用いる。ガンシクロビルを用いたトランスジェニック動物の処置は、チミジンキナーゼを発現する骨芽細胞の除去を導く(Corralら、1998,Proc Natl Acad Sci USA 95(23):13835−40)。その他のトランスジェニックモデルは、破骨細胞形成を活性化し、骨吸収を促進させるための、遍在的な、または肝臓に限定的なもののいずれかでのRANKLの過剰発現を利用する(Mizunoら、2000,J Bone Miner Metab. 20(6):337−44)。このトランスジェニック動物は、ヒトにおける骨粗鬆症に特徴的な、骨ミネラル濃度の減少及び骨のもろさの増加を示す。ヒト被験体において見られるものと類似した遺伝子の異常アナログを有するその他のタイプの動物モデルもまた、変形性骨疾患の処置におけるSykキナーゼ阻害剤の有効性を調べるために使用することができる。
【0090】
6.4 変形性骨疾患の処置に対する化合物及び組成物
各種のSyk阻害剤化合物に関し、その化合物を記載するために用いられる用語は、別に本明細書中に定義が与えられるか、または特定の阻害剤化合物を記載した参考文献が提供されない限り、それらの本来の意味、及び、当業者により理解されるような共通的な意味を有するものとする。
【0091】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アルキル」とは、親アルカン、アルケン又はアルキンの1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより得られる、規定された数の炭素原子(すなわち、C−Cは1〜6個の炭素原子を意味する)を有する、飽和又は不飽和の、分枝鎖状、直鎖状、又は環状一価の炭化水素基のことをいう。アルキル基には、限定するものではないが、メチル;エタニル、エテニル、エチニルなどのエチル類;プロパン−1−イル、プロパン−2−イル、シクロプロパン−1−イル、プロパ−1−エン−1−イル、プロパ−1−エン−2−イル、プロパ−2−エン−1−イル(アリル)、シクロプロパ−1−エン−1−イルなどのプロピル類;シクロプロパ−2−エン−1−イル、プロパ−1−イン−1−イル、プロパ−2−イン−1−イル等;ブタン−1−イル、ブタン−2−イル、2−メチル−プロパン−1−イル、2−メチル−プロパン−2−イル、シクロブタン−1−イル、ブタ−1−エン−1−イル、ブタ−1−エン−2−イル、2−メチル−プロパ−1−エン−1−イル、ブタ−2−エン−1−イル、ブタ−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブタ−1−エン−1−イル、シクロブタ−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1−イン−1−イル、ブタ−1−イン−3−イル、ブタ−3−イン−1−イル等などのブチル類等が含まれる。用語「アルキル」は、任意の飽和の程度又はレベルを有する基、すなわち、もっぱら一重炭素−炭素結合を有する基、1つ又はそれ以上の二重炭素−炭素結合を有する基、1つ又はそれ以上の三重炭素−炭素結合を有する基並びに一重、二重及び三重炭素−炭素結合の混合を有する基を含むことが特に意図される。特定の飽和レベルが意図される場合、「アルカニル」、「アルケニル」及び「アルキニル」という表現が使用される。「低級アルキル」という表現は、1〜6個の炭素原子から構成されるアルキル基のことをいう。いくつかの実施形態において、アルキル基は(C1〜C6)アルキルである。
【0092】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アルカニル」とは、飽和した分枝鎖状、直鎖状、又は環状アルキル基のことをいう。アルカニル基には、限定するものではないが、メタニル;エタニル;プロパン−1−イル、プロパン−2−イル(イソプロピル)、シクロプロパン−1−イル等などのプロパニル類;ブタン−1−イル、ブタン−2−イル(sec−ブチル)、2−メチル−プロパン−1−イル(イソブチル)、2−メチル−プロパン−2−イル(t−ブチル)、シクロブタン−1−イルなどのbutyanyl類等が含まれる。いくつかの実施形態において、アルカニル基は(C1〜C6)アルカニルである。
【0093】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アルケニル」とは、親アルケンの1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより得られる少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する、不飽和の分枝鎖状、直鎖状又は環状アルキル基のことをいう。この基は二重結合についてシス又はトランス立体構造のいずれかでありうる。アルケニル基には、限定するものではないが、エテニル;プロパ−1−エン−1−イル、プロパ−1−エン−2−イル、プロパ−2−エン−1−イル(アリル)、プロパ−2−エン−2−イル、シクロプロパ−1−エン−1−イルなどのプロペニル類;シクロプロパ−2−エン−1−イル;ブタ−1−エン−1−イル、ブタ−1−エン−2−イル、2−メチル−プロパ−1−エン−1−イル、ブタ−2−エン−1−イル、ブタ−2−エン−1−イル、ブタ−2−エン−2イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブタ−1−エン−1−イル、シクロブタ−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イルなどのブテニル等が含まれる。いくつかの実施形態において、アルケニル基は(C2〜C6)アルケニルである。
【0094】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アルキニル」とは、親アルキンの1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより得られる少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する、不飽和の分枝鎖状、直鎖状、又は環状アルキル基のことをいう。アルキニル基には、限定するものではないが、エチニル;プロパ−1−イン−1−イル、プロパ−2−イン−1−イル等などのプロピニル類;ブタ−1−イン−1−イル、ブタ−1−イン−3−イル、ブタ−3−イン−1−イル等などのブチニル類が含まれる。いくつかの実施形態において、アルキニル基は(C2〜C6)アルキニルである。
【0095】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アルキルジイル」とは、親アルカン、アルケン又はアルキンの2つの異なる炭素原子のそれぞれから1つの水素原子を除去することにより、又は、親アルカン、アルケン又はアルキンの1つの炭素原子から2つの水素原子を除去することにより、得られる、規定された数の炭素原子(すなわち、C〜Cは1〜6個の炭素原子を意味する)を有する、飽和又は不飽和の、分枝鎖状、直鎖状、又は環状の二価炭化水素基のことをいう。2つの一価のラジカル中心又は二価のラジカル中心の各結合価が同一又は異なる原子との結合を構成し得る。アルキルジイル基には、限定するものではないが、メタンジイル;エタン−1,1−ジイル、エタン−1,2−ジイル、エテン−1,1−ジイル、エテン−1,2−ジイルなどのエチルジイル類;プロパン−1,1−ジイル、プロパン−1,2−ジイル、プロパン−2,2−ジイル、プロパン−1,3−ジイル、シクロプロパン−1,1−ジイル、シクロプロパン−1,2−ジイル、プロパ−1−エン−1,1−ジイル、プロパ−1−エン−1,2−ジイル、プロパ−2−エン−1,2−ジイル、プロパ−1−エン−1,3−ジイル、シクロプロパ−1−エン−1,2−ジイル、シクロプロパ−2−エン−1,2−ジイル、シクロプロパ−2−エン−1,1−ジイル、プロパ−1−イン−1,3−ジイル等などのプロピルジイル類;ブタン−1,1−ジイル、ブタン−1,2−ジイル、ブタン−1,3−ジイル、ブタン−1,4−ジイル、ブタン−2,2−ジイル、2−メチル−プロパン−1,1−ジイル、2−メチル−プロパン−1,2−ジイル、シクロブタン−1,1−ジイルなどのブチルジイル類;シクロブタン−1,2−ジイル、シクロブタン−1,3−ジイル、ブタ−1−エン−1,1−ジイル、ブタ−1−エン−1,2−ジイル、ブタ−1−エン−1,3−ジイル、ブタ−1−エン−1,4−ジイル、2−メチル−プロパ−1−エン−1,1−ジイル、2−メタニリデン−プロパン−1,1−ジイル、ブタ−1,3−ジエン−1,1−ジイル、ブタ−1,3−ジエン−1,2−ジイル、ブタ−1,3−ジエン−1,3−ジイル、ブタ−1,3−ジエン−1,4−ジイル、シクロブタ−1−エン−1,2−ジイル、シクロブタ−1−エン−1,3−ジイル、シクロブタ−2−エン−1,2−ジイル、シクロブタ−1,3−ジエン−1,2−ジイル、シクロブタ−1,3−ジエン−1,3−ジイル、ブタ−1−イン−1,3−ジイル、ブタ−1−イン−1,4−ジイル、ブタ−1,3−ジイン−1,4−ジイル等が含まれる。特定の飽和レベルが意図される場合、用語アルカニルジイル、アルケニルジイル及び/又はアルキニルジイルが使用される。2つの原子価が同一炭素原子で存在することが特に意図される場合、用語「アルキリデン」が使用される。いくつかの実施形態において、アルキルジイル基は(C1−C6)アルキルジイルである。いくつかの実施形態において、アルキルジイル基は、ラジカル中心が末端炭素にある飽和非環状アルカニルジイル基であり、例えば、メタンジイル(メタノ);エタン−1,2−ジイル(エタノ);プロパン−1,3−ジイル(プロパノ);ブタン−1,4−ジイル(ブタノ)等である(以下に定義されるアルキレノとも称される)。
【0096】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アルキレノ」とは、直鎖状の親アルカン、アルケン又はアルキンにおける2つの末端炭素原子のそれぞれから1つの水素原子を除去することにより得られる、2つの末端の一価ラジカル中心を有する直鎖状の飽和又は不飽和アルキルジイル基のことをいう。二重結合又は三重結合のロカントを、存在している場合、特定のアルキレノにおいて大括弧の中に示す。アルキレノ基には、限定するものではないが、メタノ;エタノ、エテノ、エチノなどのエチレノ類;プロパノ、プロパ[1]エノ、プロパ[1,2]ジエノ、プロパ[1]イノ等などのプロピレノ類;ブタノ、ブタ[1]エノ、ブタ[2]エノ、ブタ[1,3]ジエノ、ブタ[1]イノ、ブタ[2]イノ、ブタ[1,3]ジイノ等などのブチレノ類等が含まれる。特定の飽和レベルが意図される場合、用語アルカノ、アルケノ及び/又はアルキノが使用される。いくつかの実施形態において、アルキレノ基は(C1〜C6)又は(C1〜C3)アルキレノである。いくつかの実施形態において、アルキレノ基は、直鎖状の飽和アルカノ基であり、例えば、メタノ、エタノ、プロパノ、ブタノ等である。
【0097】
それら自体、又は別の置換基の一部としての「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルカニル」、「ヘテロアルケニル」、「ヘテロアルキニル」、「ヘテロアルキルジイル」及び「ヘテロアルキレノ」とは、それぞれ、1以上の炭素原子がそれぞれ独立して同一又は異なるヘテロ原子又はヘテロ原子基と置換されている、アルキル、アルカニル、アルケニル、アルキニル、アルキルジイル及びアルキレノ基のことをいう。炭素原子を置換し得るヘテロ原子及び/又はヘテロ原子基には、限定するものではないが、−O−、−S−、−S−O−、−NR’−、−PH−、−S(O)−、−S(O)−、−S(O)NR’−、−S(O)NR’−等、及びそれらの組み合わせが含まれ、各R’は独立して水素又は(C1−C6)アルキルである。
【0098】
それら自体、又は別の置換基の一部としての「シクロアルキル」及び「ヘテロシクロアルキル」とは、それぞれ、「アルキル」及び「ヘテロアルキル」の環式版のことをいう。ヘテロアルキル基について、ヘテロ原子は、分子の残りの部分に結合している位置を占有し得る。典型的なシクロアルキルには、限定するものではないが、シクロプロピル;シクロブタニル及びシクロブテニルなどのシクロブチル類;シクロペンタニル及びシクロペンテニルなどのシクロペンチル類;シクロヘキサニル及びシクロヘキセニルなどのシクロヘキシル類等が含まれる。典型的なヘテロシクロアルキル基には、限定するものではないが、テトラヒドロフラニル(例えば、テトラヒドロフラン−2−イル、テトラヒドロフラン−3−イル等)、ピペリジニル(例えば、ピペリジン−1−イル、ピペリジン−2−イル等)、モルホリニル(例えば、モルホリン−3−イル、モルホリン−4−イル等)、ピペラジニル(例えば、ピペラジン−1−イル、ピペラジン−2−イル等)等が含まれる。
【0099】
「非環式ヘテロ原子架橋」とは、骨格原子がもっぱらヘテロ原子及び/又はヘテロ原子基である二価の架橋のことをいう。非環式ヘテロ原子架橋には、限定するものではないが、−O−、−S−、−S−O−、−NR’−、−PH−、−S(O)−、−S(O)−、−S(O)NR’−、−S(O)NR’−等、及びそれらの組み合わせが含まれ、各R’は独立して水素又は(C1〜C6)アルキルである。
【0100】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アリール」とは、親芳香族環系の1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより得られる、規定された数の炭素環原子(すなわち、C〜C14とは5〜14個の炭素環原子を意味する)を有する一価の芳香族炭化水素基のことをいう。アリール基には、限定するものではないが、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as−インダセン、s−インダセン、インダン、インデン、ナフタリン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ−2,4−ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタリン等から得られる基が含まれる。いくつかの実施形態において、アリール基は(C〜C14)アリール又は(C〜C10)アリールである。いくつかの実施形態において、アリールは、シクロペンタジエニル、フェニル及びnapthylである。
【0101】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アリールアリール」とは、2つ又はそれ以上の同一又は非同一の親芳香族環系が一重結合によって直接連結されており、かかる直接の環の連結が、関係している親芳香族環系の数より少ない、環系の1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより得られる一価の炭化水素基のことをいう。アリールアリール基には、限定するものではないが、ビフェニル、トリフェニル、フェニル−ナフチル、ビナフチルナフチル、ビナフチル、ビフェニル−ナフチル等が含まれる。アリールアリール基における炭素原子の数が特定される場合、その数は各親芳香族環を含む炭素原子のことをいう。例えば、(C5〜C15)アリールアリールは、それぞれの芳香族環が5〜15個の炭素を含むアリールアリール基であり、例えば、ビフェニル、トリフェニル、ビナフチル、フェニルナフチル等である。いくつかの実施形態において、アリールアリール基のそれぞれの親芳香族環系は、独立して、(C5〜C15)芳香族であり、より好ましくは(C5〜C10)芳香族である。いくつかの実施形態において、アリールアリール基は、全ての親芳香族環系が同一である基であり、例えば、ビフェニル、トリフェニル、ビナフチル、トリナフチル等である。
【0102】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「ビアリール」とは、一重結合によって直接一緒に結合している2つの同一の親芳香族系を有するアリールアリール基のことをいう。ビアリール基には、限定するものではないが、ビフェニル、ビナフチル、ビアントラシル等が含まれる。いくつかの実施形態において、芳香族環系は(C5〜C15)芳香族環であり、より好ましくは(C5〜C10)芳香族環である。いくつかの実施形態において、ビアリール基はビフェニルである。
【0103】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「アリールアルキル」とは、炭素原子、通常は末端の又はSp3炭素原子、に結合している水素原子がアリール基と置換されている、非環状アルキル基のことをいう。アリールアルキル基には、限定するものではないが、ベンジル、2−フェニルエタン−1−イル、2−フェニルエテン−1−イル、ナフチルメチル、2−ナフチルエタン−1−イル、2−ナフチルエテン−1−イル、ナフトベンジル、2−ナフトフェニルエタン−1−イル等が含まれる。特定のアルキル部分が意図される場合、用語アリールアルカニル、アリールアルケニル及び/又はアリールアルキニルが使用される。いくつかの実施形態において、アリールアルキル基は(C〜C16)アリールアルキルであり、例えば、アリールアルキル基のアルカニル、アルケニル又はアルキニル部分は(C〜C)であり、アリール部分は(C〜C10)である。いくつかの実施形態において、アリールアルキル基は(C〜C13)であり、例えば、アリールアルキル基のアルカニル、アルケニル又はアルキニル部分は(C〜C)であり、アリール部分は(C〜C10)である。
【0104】
「親芳香族環系」とは、共役π電子系を有する不飽和環系又は多環式系のことをいう。特に「親芳香族環系」の定義に含まれるのは、1以上の環が芳香族であり、1以上の環が飽和又は不飽和である融合環系であり、例えば、フルオレン、インダン、インデン、フェナレン等である。親芳香族環系には、限定するものではないが、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as−インダセン、s−インダセン、インダン、インデン、ナフタリン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ−2,4−ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタリン等、並びにそれらの各種ハイドロアイソマーが含まれる。
【0105】
「親複素環式芳香環系」とは、1つ又はそれ以上の炭素原子がそれぞれ独立して同一又は異なるヘテロ原子又はヘテロ原子基と置換されている親芳香族環系のことをいう。炭素原子と置換するヘテロ原子又はヘテロ原子基には、限定するものではないが、N、NH、P、O、S、Si等が含まれる。特に「親ヘテロ芳香族環系」の定義に含まれるのは、1以上の環が芳香族であり、1以上の環が飽和又は不飽和である融合環系であり、例えば、アルシンドール、ベンゾジオキサン、ベンゾフラン、クロマン、クロメン、インドール、インドリン、キサンチン等である。さらに「親ヘテロ芳香族環系」の定義に含まれるのは、置換基を含む環として認められるものであり、例えば、ベンゾピロンである。親ヘテロ芳香族環系には、限定するものではないが、アルシンドール、ベンゾジオキサン、ベンゾフイラン、ベンゾピロン、カルバゾール、β−カルボリン、クロマン、クロメン、カルボリン、クロマン、クロメン、シノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソオキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、キサンチン等が含まれる。
【0106】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「ヘテロアリール」とは、親ヘテロ芳香族環系の1つの原子から1つの水素原子を除去することにより得られる、規定された数の環の原子(すなわち、「5〜14員」とは5〜14個の環の原子を意味する)を有する一価のヘテロ芳香族基のことをいう。ヘテロアリール基には、限定するものではないが、アルシンドール、カルバゾール、β−カルボリン、クロマン、クロメン、シノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソオキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、キサンチン等から得られる基が含まれる。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール基は5〜14員のヘテロアリール又は5〜10員のヘテロアリールである。
【0107】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「ヘテロアリールアルキル」とは、末端の又はSp3炭素原子などの炭素原子に結合している水素原子の1つがヘテロアリール基と置換されている、非環状アルキル基のことをいう。特定のアルキル部分が意図される場合、用語ヘテロアリールアルカニル、ヘテロアリールアルケニル及び/又はheterorylalkynylが使用される。いくつかの実施形態において、ヘテロアリールアルキル基は6〜20員のヘテロアリールアルキルであり、例えば、ヘテロアリールアルキルのアルカニル、アルケニル又はアルキニル部分は1〜6員であり、ヘテロアリール部分は5〜14員のヘテロアリールである。いくつかの実施形態において、ヘテロアリールアルキルは6〜13員のヘテロアリールアルキルであり、例えば、アルカニル、アルケニル又はアルキニル部分は1〜3員であり、ヘテロアリール部分は5〜10員のヘテロアリールである。
【0108】
「置換アルキル、アリールアリールアルキル、ヘテロアリール又はヘテロアリールアルキル」とは、1つ又はそれ以上の水素原子が別の置換基と置換されているアルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール又はヘテロアリールアルキル基のことをいう。例示的な置換基には、限定するものではないが、各Rが水素及び(C〜C)アルキルからなる群より独立して選択される−OR、−SR、−NR、−NO、−NO、−CN、−CF、ハロゲン(例えば、−F、−Cl、−Br及び−I)、−C(O)R、−C(O)OR、−C(O)NR、−S(O)、−S(O)NRが含まれる。
【0109】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「ヘテロアリール−ヘテロアリール」とは、2つ又はそれ以上の同一又は非同一の親ヘテロ芳香族環系が一重結合によって直接連結されており、かかる直接の環の連結が、関係している親ヘテロ芳香族環系の数より少ない、環系の1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより得られる一価のヘテロ芳香族基のことをいう。ヘテロアリール−ヘテロアリール基には、限定するものではないが、ビピリジル、トリピリジル、ピリジルプリニル、ビプリニル等が含まれる。原子の数が特定される場合、その数は各親ヘテロ芳香族系が含む原子の数を意味する。例えば、5〜15員のヘテロアリール−ヘテロアリールは、各親ヘテロ芳香族環系が5〜15個の原子を含むヘテロアリール−ヘテロアリール基であり、例えば、ビピリジル、トリプリジル等である。いくつかの実施形態において、各親ヘテロ芳香族環系は、独立して、5〜15員のヘテロ芳香族であり、より好ましくは5〜10員のヘテロ芳香族である。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール−ヘテロアリール基は親ヘテロ芳香族環系の全てが同一であるものである。
【0110】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「ビヘテロアリール」とは、一重結合によって直接連結されている2つの同一の親ヘテロ芳香族環系を有するヘテロアリール−ヘテロアリール基のことをいう。典型的なビヘテロアリール基には、限定するものではないが、ビピリジル、ビプリニル、ビキノリニル等が含まれる。好ましくは、ヘテロ芳香族環系は、5〜15員のヘテロ芳香族環であり、より好ましくは5〜10員のヘテロ芳香族環である。
【0111】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「ハロゲン」又は「ハロ」とは、別に記載がない限り、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードのことをいう。
【0112】
それ自体、又は別の置換基の一部としての「ハロアルキル」とは、1以上の水素原子がハロゲンと置換されているアルキル基のことをいう。従って、用語「ハロアルキル」は、モノハロアルキル、ジハロアルキル、トリハロアルキル等、ペルハロアルキルまでを含むことが意味される。例えば、表現「(C1 C2)ハロアルキル」には、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、1−フルオロエチル、1,1−ジフルオロエチル、1,2−ジフルオロエチル、1,1,1−トリフルオロエチル、ペルフルオロエチル等が含まれる。
【0113】
上記に定義した基は、付加的な良く認識されている置換基を作成するために当技術分野において一般的に使用されている接頭辞及び/又は接尾辞を含んでもよい。例として、「アルキルオキシ」又は「アルコキシ」は式−ORで示される基のことをいい、「アルキルアミン」は式−NHR’’で示される基のことをいい、「ジアルキルアミン」は式−NR’’R’’で示される基のことをいい、この場合、各R’’は独立してアルキルである。別の例として、「ハロアルコキシ」又は「ハロアルキルオキシ」とは、R’’’がハロアルキルである、式−OR’’’で表される基をいう。
【0114】
「保護基」とは、分子の反応性官能基に結合した場合に、官能基の反応性をマスクする、低減する又は妨げる原子の基のことをいう。通常、保護基は合成工程時に所望のように選択的に除去され得る。保護基の例は、Greene and Wuts,Protective Groups in Organic Chemistry,3rd Ed.,1999,John Wiley&Sons,NY及びHarrison et al,Compendium of Synthetic Organic Methods,Vols.1−8,1971−1996,John Wiley&Sons,NY中に見ることができる。代表的なアミノ保護には、限定するものではないが、ホルミル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニル(「CBZ」)、tert−ブトキシカルボニル(「Boc」)、トリメチルシリル(「TMS」)、2−トリメチルシリル−エタンスルホニル(「TES」)、トリチル及び置換トリチル基、アリルオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(「FMOC」)、ニトロベラトリルオキシカルボニル(「NVOC」)等が含まれる。代表的なヒドロキシル保護基には、限定するものではないが、ヒドロキシル基がアシル化又はアルキル化のいずれかされるもの、例えば、ベンジル及びトリチルエーテル、並びにアルキルエーテル、テトラヒドロピラニルエーテル、トリアルキルシリルエーテル(例えば、TMS又はTIPPS基)及びアリルエーテルが含まれる。
【0115】
「プロドラッグ」とは、活性薬物を放出するために使用条件下、例えば体内、で変換することを必要とする活性化合物(薬物)誘導体のことをいう。プロドラッグはしばしば、必ずしも必要でないが、活性薬物に変換されるまで薬理学的に不活性である。プロドラッグは、通常、プロ基(progroup)(以下に定義する)を伴う活性のために部分的に必要とされると信じられている薬物中の官能基をマスクすることにより得られ、例えば開裂などの変換を受けるプロ部分(promoiety)を形成し、特定の条件下で使用されてその官能基を放出し、活性な薬剤となる。プロ部分の開裂は、例えば加水分解によって、自然発生的に進行し得るか、或いは、触媒されるか又は別の因子、例えば酵素により、光により、酸により、若しくは物理的若しくは環境的パラメーター、例えば温度の変化、により誘導され得る。その因子は、使用条件、例えば、プロドラッグが投与される細胞中に存在する酵素、若しくは胃の酸性条件、に対して内因性であってもよく、又は外因的に提供されてもよい。
【0116】
活性薬物中の官能基をマスクしてプロドラッグを得るために好適な、広範なプロ基、ならびに得られるプロ部分は当業者に周知である。例えば、ヒドロキシル官能基は、スルホネート、エステル又はカルボネートプロ部分としてマスクされることができ、in vivoで加水分解されてヒドロキシル基を提供し得る。アミノ官能基は、アミド、カルバメート、イミン、ウレア、ホスフェニル、ホスホリル又はスルフェニルプロ部分としてマスクされることができ、in vivoで加水分解されてアミノ基を提供し得る。カルボキシル基は、エステル(シリルエステル及びチオエステルを含む)、アミド、又はヒドラジドプロ部分としてマスクされることができ、in vivoで加水分解されてカルボキシル基を提供し得る。その他の好適なプロ基及びそれらの各プロ部分の具体例は、当業者に明白であろう。
【0117】
「プロ基」とは、活性な2,4−ピリミジンジアミン薬剤内の官能基をマスクしてプロ部分を形成させるために使用した場合、その薬剤をプロドラッグへと変換する保護基の1タイプをいう。プロ基は通常的には薬剤の官能基へと、特定の条件で使用した場合に開裂する結合を介して結合する。従って、プロ基は、特定の使用条件下で官能基を放出するために開裂するプロ部分の一部である。具体例として、式−NH−C(O)CHのアミドプロ部分はプロ基−C(O)CHを含む。
【0118】
Syk活性を阻害する各種の化合物が、本明細書中に記載される処置において使用され得る。これらは、特に、低分子の有機分子、ペプチド又はタンパク質、又は核酸を含む。本明細書において使用するとき、「Syk阻害剤」又は「Sykキナーゼ阻害剤」とは、本明細書において記載されたIC50の範囲で、Sykキナーゼ自体の活性を直接阻害する、又は適切なSyk機能のために必要とされるその他の細胞標的との相互作用を阻害する任意の化合物のことをいう。阻害剤には、競合的、非拮抗及び非競合阻害剤など、伝統的記載の酵素阻害剤が含まれる。「Syk阻害剤」である化合物は、Sykキナーゼ活性、例えば、in vitro又は細胞アッセイにおいて、合成又は内在性基質をリン酸化するSykキナーゼの能力、に関して、約5μM又はそれ未満、約1μM又はそれ未満、約500nm又はそれ未満、約100nM又はそれ未満、約50nM又はそれ未満、約10nM又はそれ未満、或いは約1nM又はそれ未満の範囲でIC50を示すものである。当業者であれば、より低いIC50、例えば、約100nM、10nM、1nM、又はさらに低い濃度範囲のIC50を示す化合物が、本明細書において記載される方法に関し有用であることが理解されるであろう。
【0119】
いくつかの実施形態において、阻害剤化合物はSykキナーゼに対して選択的であり得る。「Sykキナーゼ選択的阻害化合物」とは、規定のアッセイセットにおける、SykキナーゼのIC50に対する参照キナーゼのIC50の比率として定義され得るSykに対する選択性を示す化合物のことをいう。通常、Sykキナーゼ選択的阻害化合物は、約10より高い、約50より高い、約100より高い、約1000より高い、又はそれより高い、Sykキナーゼに対する選択性を有し得る。参照キナーゼは、例えば、限定するものではないが、Aurora−A、AKT、CDK1/サイクリンB、CDK2/サイクリンA、CDK3/サイクリンE、CDK5/p35、CDK6/サイクリンD3、CDK7/サイクリンH/MAT1、CHK1、CHK2、EGFR、c−RAF、RAS、cSRC、Yes、Fyn、Lck、Fes、Lyn、Bmx、FGFR3、GSK3α.、GSK3β、P13、IGF−1R、MAPK2、MAPKAP−K2、JNK、MEK1、p70S6K、PAK2、PDGFRα、PDGFRβ、PDK1、PKA、PKCε、PKC、PKD2、VEGF、PRAK、PRK2、ROCK−II、Rsk1、Rsk2、Rsk3、及びSGKなどのキナーゼを含む、任意のキナーゼ活性であり得る。それぞれのキナーゼに対する各種アッセイは、当業者には明らかであろう。例えば、Auroraキナーゼ活性に対するアッセイは、in vitroアッセイ又は細胞中のリン酸化生成物の測定において、天然又は合成基質(例えば、蛍光ペプチド、ヒストンH3)を使用することができる(Walterら、2000,Oncogene 19(42):4906−16)。キナーゼ活性は、例えば、限定するものではないが、免疫沈降法(例えば、Cyclex Aurora Aキナーゼアッセイ;MBL Corp,Woburn,MA,USA)、移動度シフト(例えば、Caliper Technologies,Mountain View,CA,USA)、自己蛍光融合タンパク質基質(例えば、米国特許第6,248,550号)、及びFRET型アッセイ(Z−LYTE(登録商標);Invitrogen,CA,USA)などの各種方法を用いて検出することができる。
【0120】
各種のSykキナーゼ阻害剤を、本明細書中に記載の処置のための薬剤を調製する際に使用することができ、適用可能な、相当する阻害剤化合物の塩、水和物、溶媒和物、及びN−オキシドを含むことが意図される。いくつかの実施形態において、このSyk阻害剤は、2,4−ピリミジンジアミン化合物及び各種のその誘導体、例えば、米国特許出願第10/631,029号;国際公開第2004/014382号、及び、その他、以下に記載される参考文献中に記載されたものなどの各種のその誘導体を含み、その全文を参照により本明細書に組み入れるものとする。これらの化合物は通常、以下の構造及び番号付けを有する2,4−ピリミジンジアミンの「コア」を含んでなる:
【0121】
【化1】

この化合物は、C2窒素(N2)の位置で置換されており、2級アミンを形成し、所望により、1以上の以下の位置:C4窒素(N4)、C5の位置及び/またはC6の位置でさらに置換される。N4において置換される場合、この置換基は2級アミンを形成する。N2における置換基ならびにその他の位置における付加的な置換基は、特徴及び物理化学的特性において広範囲に渡る。例えば、置換基は、分岐されていることができ、直鎖であることができ、または環状アルキル、分枝鎖上、直鎖状または環状のヘテロアルキル、単環または多環のアリール、単環または多環のヘテロアリール、またはこれらの基の組み合わせであることができる。これらの置換基は、特に、米国特許出願第10/355,543号(米国特許出願公開2004/0029902号として公開されている);米国特許出願第10/631,029号;及び国際公開第2004/014382号中に記載されるような、さらなる置換であり得る。
【0122】
N2及び/またはN4置換基は、それらのそれぞれの窒素原子へと連結されることができ、またはそれらは同一の、あるいは別々のリンカーを介して、それらのそれぞれの窒素原子から距離を置いて配置されることができる。リンカーの種類は多岐に渡り、ある分子部分を他の部分から間隔を置かせるために有用な、原子または基における実質的に任意の組み合わせを含み得る。例えば、リンカーは、非環状の炭化水素架橋(例えば、メタノ、エタノ、エテノ、プロパノ、プロプ[1]エノ、ブタノ、ブタ[1]エノ、ブタ[2]エノ、ブタ[1,3]ジエノなどの飽和または不飽和アルキレノ)、単環または多環炭化水素架橋(例えば[1,2]ベンゼノ、[2,3]ナフタレノなど)、単純非環状ヘテロ原子またはヘテロアルキルジイル架橋(例えば、−O−、−S−、−S−O−、−NH−、−PH−、−C(O)−、−C(O)NH−、−S(O)−、−S(O)−、−S(O)NH−、−S(O)NH−、−O−CH−、−CH−O−CH−、−O−CH=CH−CH−等)、単環または多環ヘテロアリール架橋(例えば、[3,4]フラノ、ピリジノ、チオフェノ、ピペリジノ、ピペラジノ、ピラジジノ(pyrazidino)、ピロリジノ(pyrrolidino)など)、またはそのような架橋の組み合わせであることができる。
【0123】
N2、N4、C5及び/またはC6の位置における置換基、ならびに付加的なリンカーは、1以上の同一または異なる置換基により、さらに置換され得る。これらの置換基の種類は多岐に渡る。好適な置換基の非限定的な例としては、分枝鎖上、直鎖状または環状のアルキル、単環または多環のアリール、分枝鎖上、直鎖状または環状のヘテロアルキル、単環または多環のヘテロアリール、ハロ、分枝鎖上、直鎖状または環状のハロアルキル、ヒドロキシル、オキソ、チオキソ、分枝鎖上、直鎖状または環状のアルコキシ、分枝鎖上、直鎖状または環状のハロアルコキシ、トリフルオロメトキシ、単環または多環のアリールオキシ、単環または多環のヘテロアリールオキシ、エーテル、アルコール、スルフィド、チオエーテル、スルファニル(チオール)、イミン、アゾ、アジド、アミン(1級、2級及び3級)、ニトリル(任意のアイソマー)、シアネート(任意のアイソマー)、チオシアネート(任意のアイソマー)、ニトロソ、ニトロ、ジアゾ、スルホキシド、スルホニル、スルホン酸、スルファミド、スルホンアミド、スルファミンエステル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アミド、アミジン、ホルマジン、アセチレン、カルバメート、ラクトン、ラクタム、グルコシド、グルコヌリド(gluconuride)、スルホン、ケタール、アセタール、チオケタール、オキシム、オキサム酸、オキサムエステルなど、及び、これらの基の組み合わせを含む。反応性の機能を有する置換基は、当技術分野でよく知られているように、保護されているか、あるいは保護されていないものであり得る。
【0124】
いくつかの実施形態において、2,4−ピリミジンジアミンは、その塩、水和物、溶媒和物、及びN−オキシドを含む、構造式(I)に記載の化合物を含んでなる:
【0125】
【化2】

式中:
及びLはそれぞれ、互いに独立して、直接結合及びリンカーからなる群から選択され;
は、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C1〜C6)アルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C3〜C8)シクロアルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換されたシクロヘキシル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された3〜8員シクロヘテロアルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C5〜C15)アリール、所望により1以上の同一または異なるR基により置換されたフェニル、及び所望により1以上の同一または異なるR基により置換された5〜15員ヘテロアリールからなる群から選択され;
は、水素、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C1〜C6)アルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C3〜C8)シクロアルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換されたシクロヘキシル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された3〜8員シクロヘテロアルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C5〜C15)アリール、所望により1以上の同一または異なるR基により置換されたフェニル、及び所望により1以上の同一または異なるR基により置換された5〜15員ヘテロアリールからなる群から選択され;
は、R、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C1〜C6)アルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C1〜C4)アルカニル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C2〜C4)アルケニル、及び、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C2〜C4)アルキニルからなる群から選択され;
それぞれのRは、水素、負に帯電した基である、−OR、−SR、(C1−C3)ハロアルキルオキシ、(C1−C3)ペルハロアルキルオキシ、−NR、ハロゲン、(C1−C3)ハロアルキル、(C1−C3)ペルハロアルキル、−CF、−CHCF、−CFCF、−CN、−NC、−OCN、−SCN、−NO、−NO、−N、−S(O)R、−S(O)、−S(O)OR、−S(O)NR、−S(O)NR、−OS(O)R、−OS(O)、−OS(O)OR、−OS(O)NR、−OS(O)NR、−C(O)R、−C(O)OR、−C(O)NR、−C(NH)NR、−OC(O)R、−SC(O)R、−OC(O)OR、−SC(O)OR、−OC(O)NR、−SC(O)NR、−OC(NH)NR、−SC(NH)NR、−[NHC(O)]、−[NHC(O)]OR、−[NHC(O)]NR及び−[NHC(NH)]NR、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C5〜C10)アリール、所望により1以上の同一または異なるR基により置換されたフェニル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C6〜C16)アリールアルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された5〜10員ヘテロアリール、及び所望により1以上の同一または異なるR基により置換された6〜16員ヘテロアリールからなる群から独立して選択され;
は、R、R、1以上の同一または異なるRまたはRにより置換されたR、1以上の同一または異なるRまたはRにより置換された−OR、−B(OR、−B(NR、−(CH−R、−(CHR−R、−O−(CH−R、−S−(CH−R、−O−CHR、−O−CR(R、−O−(CHR−R、−O−(CH−CH[(CH]R、−S−(CHR−R、−C(O)NH−(CH−R、−C(O)NH−(CHR−R、−O−(CH−C(O)NH−(CH−R、−S−(CH−C(O)NH−(CH−R、−O−(CHR−C(O)NH−(CHR−R、−S−(CHR−C(O)NH−(CHR−R、−NH−(CH−R、−NH−(CHR−R、−NH[(CH]、−N[(CH、−NH−C(O)−NH−(CH−R、−NH−C(O)−(CH−CHR及び−NH−(CH−C(O)−NH−(CH−Rからなる群から選択され;
各Rは独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C8)シクロアルキル、シクロヘキシル、(C4〜C11)シクロアルキルアルキル、(C5〜C10)アリール、フェニル、(C6〜C16)アリールアルキル、ベンジル、2〜6員ヘテロアルキル、3〜8員シクロヘテロアルキル、モルホリニル、ピペラジニル、ホモピペラジニル、ピペリジニル、4〜11員シクロヘテロアルキルアルキル、5〜10員ヘテロアリール及び6〜16員ヘテロアリールアルキルからなる群から選択され;
各Rは独立して、=O、−OR、(C1〜C3)ハロアルキルオキシ、−OCF、=S、−SR、=NR、=NOR、−NR、ハロゲン、−CF、−CN、−NC、−OCN、−SCN、−NO、−NO、=N、−N、−S(O)R、−S(O)、−S(O)OR、−S(O)NR、−S(O)NR、−OS(O)R、−OS(O)、−OS(O)OR、−OS(O)NR、−C(O)R、−C(O)OR、−C(O)NR、−C(NH)NR、−C(NR)NR、−C(NOH)R、−C(NOH)NR、−OC(O)R、−OC(O)OR、−OC(O)NR、−OC(NH)NR、−OC(NR)NR、−[NHC(O)]、−[NRC(O)]、−[NHC(O)]OR、−[NRC(O)]OR、−[NHC(O)]NR、−[NRC(O)]NR、−[NHC(NH)]NR及び−[NRC(NR)]NRからなる群から選択される好適な基であり;
各Rは独立してRであり、あるいは各Rは、それに対し結合した窒素原子と共に、1以上の同一または異なる付加的なヘテロ原子を含み得、1以上の同一のまたは異なるR、または好適なR基に任意に置換されていてもよい5〜8員シクロヘテロアルキルまたはヘテロアリールを形成し;
それぞれのRは独立してRであり;
それぞれのmは独立して1〜3の整数であり;及び
それぞれのnは独立して0〜3の整数である。
【0126】
いくつかの実施形態において、上記の構造式(I)の2,4−ピリミジンジアミン化合物は、L及びLがそれぞれ直接結合である化合物を含んでなる;
は、R基により3−または5−位が置換されたフェニルモノ、1以上の同一または異なるR基により置換されたフェニルジ−またはトリ−、及び所望により1以上の同一または異なるR基により置換された5〜15員からなる群から選択され;
は、1以上の同一または異なるR基により置換されたフェニル、及び所望により1以上の同一または異なるR基により置換された5〜15員ヘテロアリールからなる群から選択され;
は、−CN、−NC、−NO、フルオロ、(C1〜C3)ハロアルキル、(C1〜C3)ペルハロアルキル、(C1〜C3)フルオロアルキル、(C1〜C3)ペルフルオロアルキル、−CF、(C1〜C3)ハロアルコキシ、(C1〜C3)ペルハロアルコキシ、(C1〜C3)フルオロアルコキシ、(C1〜C3)ペルフルオロアルコキシ、−OCF、−C(O)R、−C(O)OR、−C(O)CF及び−C(O)OCFからなる群から選択され;
は水素であり;
は、R、R、1以上の同一または異なるRまたはRにより置換されたR、1以上の同一または異なるRまたはRにより置換された−OR、−B(OR、−B(NR、−(CH−R、−(CHR−R、−O−(CH−R、−S−(CH−R、−O−CHR、−O−CR(R、−O−(CHR−R、−O−(CH−CH[(CH]R、−S−(CHR−R、−C(O)NH−(CH−R、−C(O)NH−(CHR−R、−O−(CH−C(O)NH−(CH−R、−S−(CH−C(O)NH−(CH−R、−O−(CHR−C(O)NH−(CHR−R、−S−(CHR−C(O)NH−(CHR−R、−NH−(CH−R、−NH−(CHR−R、−NH[(CH]、−N[(CH、−NH−C(O)−NH−(CH−R、−NH−C(O)−(CH−CHR及び−NH−(CH−C(O)−NH−(CH−R
各Rは独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C3〜C8)シクロアルキル、シクロヘキシル、(C4〜C11)シクロアルキルアルキル、(C5〜C10)アリール、フェニル、(C6〜C16)アリールアルキル、ベンジル、2〜6員ヘテロアルキル、3〜8員シクロヘテロアルキル、モルホリニル、ピペラジニル、ホモピペラジニル、ピペリジニル、4〜11員シクロヘテロアルキルアルキル、5〜10員ヘテロアリール及び6〜16員ヘテロアリールアルキルからなる群から選択され;
各Rは独立して、=O、−OR、(C1〜C3)ハロアルキルオキシ、−OCF、=S、−SR、=NR、=NOR、−NR、ハロゲン、−CF、−CN、−NC、−OCN、−SCN、−NO、−NO、=N、−N、−S(O)R、−S(O)、−S(O)OR、−S(O)NR、−S(O)NR、−OS(O)R、−OS(O)、−OS(O)OR、−OS(O)NR、−C(O)R、−C(O)OR、−C(O)NR、−C(NH)NR、−C(NR)NR、−C(NOH)R、−C(NOH)NR、−OC(O)R、−OC(O)OR、−OC(O)NR、−OC(NH)NR、−OC(NR)NR、−[NHC(O)]、−[NRC(O)]、−[NHC(O)]OR、−[NRC(O)]OR、−[NHC(O)]NR、−[NRC(O)]NR、−[NHC(NH)]NR及び−[NRC(NR)]NRからなる群から選択される好適な基であり;
各Rは独立して保護基またはRであり、あるいは2つのRは、それに対し結合した窒素原子と共に、1以上の同一または異なる付加的なヘテロ原子を含み得、1以上の同一のまたは異なるR、または好適なR基に任意に置換されていてもよい5〜8員シクロヘテロアルキルまたはヘテロアリールを形成し;
それぞれのRは独立して保護基またはRであり;
それぞれのRは独立して(C1〜C6)アルキル、(C3〜C8)シクロアルキル、シクロヘキシル、(C4〜C11)シクロアルキルアルキル、(C5〜C10)アリール、フェニル、(C6〜C16)アリールアルキル、ベンジル、2〜6員ヘテロアルキル、3〜8員シクロヘテロアルキル、モルホリニル、ピペラジニル、ホモピペラジニル、ピペリジニル、4〜11員シクロヘテロアルキルアルキル、5〜10員ヘテロアリール及び6〜16員ヘテロアリールアルキルからなる群から選択され;
それぞれのmは独立して1〜3の整数であり;及び
それぞれのnは独立して0〜3の整数であり、以下の条件を伴う:
(1)Rが置換されたフェニルである場合、Rはシアノ以外であり;及び
(2)R及びRがそれぞれ独立して置換されたまたは非置換のピロールまたはインドールである場合、そのR及びRは環状炭素原子を介して残りの分子へと結合する。
【0127】
Sykキナーゼ阻害剤である2,4−ピリミジンジアミン化合物の具体的実施形態は、2005年6月13日に出願された米国特許仮出願第60/690,351号の付表A、B、C及びD中に記載されている。本明細書中に記載された方法において有用なこれらの化合物は、実施例7.3.1〜7.3.1098の例示的な2,4−ピリミジンジアミン化合物、実施例7.3.1099の化合物、及び実施例7.3.1100〜7.3.1165の化合物を含む、米国特許出願第10/355,543号(米国特許出願公開第2004/0029902号);実施例7.3.1〜7.3.1165及び実施例7.4.1〜7.4.445として開示された特定の化合物のそれぞれを含む、2003年7月29日に出願され、国際公開第2004/014382号に対応する米国特許出願10/631,029号;表1中に記載された特定の化合物(すなわち、化合物番号200〜1358)のそれぞれを含む、2004年7月30日に同時に出願された米国特許出願10/903,263号及び同第10/903,870号(それぞれ、米国特許出願公開第2005/0234049号及び同第2005/0209224号);及び、2004年11月24日に出願された米国特許出願第60/630,808号中に記載された2,4−ピリミジンジアミン化合物をも含む。全ての刊行物及び特許出願はその全文を、参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0128】
いくつかの実施形態において、Syk阻害剤化合物は、2005年6月13日に出願された米国特許仮出願第60/690,351号の付表A、B、C及びD中に記載された特定の実施形態を含まない。これらの化合物は、米国特許出願第10/913,270号の表1〜14中に開示される特定の化合物のそれぞれ(例えば、化合物番号101〜1164)を含む、2003年8月7日に出願された米国特許仮出願第60/494,008号及び2004年8月6日に出願された米国特許出願第10/913,270号(米国特許出願公開2005/0113398号);及び、米国特許出願第11/133,419号の実施例7.10〜7.14及び表I中に開示された特定の化合物のそれぞれ(例えば、化合物番号100〜288)を含む、2004年5月18日に出願された米国特許出願第60/572,534号、及び、2005年5月18日に出願された米国特許出願第11/133,419号中にも記載されている。全ての刊行物及び特許出願はその全文を、参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0129】
本明細書中に記載の方法に使用するための例示的な2,4−ピリミジンジアミンSyk阻害剤化合物は、米国特許出願10/903,263号及び同第10/903,870号中に記載されるような、化合物1007として記される、N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2,4−ピリミジンジアミンである。
【0130】
上述のように、いくつかの実施形態において、阻害化合物は、生物学的に活性な2,4−ピリミジンジアミンのプロドラッグを含んでなることができる。いくつかの実施形態において、このSyk阻害化合物は、米国特許出願10/355,543号(米国特許出願公開2004/0029902号);国際公開第2004/014382号に対応し、2003年1月29日に出願された米国特許出願第10/631,029号;及び、「Prodrugs of 2,4−pyrimidinediamine conpounds and their uses」と題され、2006年1月19日に同時に出願された、米国特許出願第11/337,049号及び国際特許出願PCT/US2006/001945号、に記載されたプロドラッグを含んでなる。
【0131】
いくつかの実施形態において、このプロドラッグは、そのような活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物を含み、そこにおいて1以上の利用可能な1級または2級アミン基は、in vivoで代謝されて活性な2,4−ピリミジンジアミン薬剤を生じるプログループRによりマスクされている。このプロドラッグの種類は多様なものであり得、その種類は、その他の因子の中で、そのプロドラッグにおける所望の水溶性、意図される投与様式、及びまたは、活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物への代謝において意図される機序または部位に依存するであろう。
【0132】
いくつかの実施形態において、活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物は、2,4−ピリミジン部分のN4−置換基が、置換されたまたは非置換の窒素含有ヘテロアリール環である、以下の構造式のピリミジンジアミンを含む:
【0133】
【化3】

式中、Z及びZはそれぞれ、互いに独立してCH及びNから選択され、及びYは、CH、NH、O、S、S(O)及びS(O)から選択される。このようなプロドラッグは、ヘテロアリール環の非芳香環窒素の1つまたは両方、2,4−ピリミジンジアミン部分のN2−窒素、2,4−ピリミジンジアミン部分のN4−窒素原子、及び/または2,4−ピリミジンジアミン部分のN2窒素原子へと結合した置換基における任意の利用可能な窒素原子において、プログループRを含み得る。
【0134】
いくつかの実施形態において、2,4−ピリミジンジアミンのプロドラッグは、その塩、水和物、溶媒和物、及びN−オキシドを含む、以下の構造式に記載の化合物を含んでなる:
【0135】
【化4】

式中:
YはCH、NR24、O、S、S(O)及びS(O)から選択され;
及びZは、それぞれ、互いに独立してCH及びNから選択され;
は、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された低級アルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された低級シクロアルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換されたシクロヘキシル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された3〜8員シクロヘテロアルキル、所望により1以上の同一または異なるR基により置換された(C6〜C14)アリール、所望により1以上の同一または異なるR基により置換されたフェニル、及び所望により1以上の同一または異なるR基により置換された5〜15員ヘテロアリールからなる群から選択され;
は、ハロ、フルオロ、シアノ、ニトロ、トリハロメチル、及びトリフルオロメチルから選択され;
は、R、R、1以上、例えば1〜4個の同一または異なるRまたはRにより置換されたR、1以上の同一または異なるRまたはRにより置換された−OR、−B(OR、−B(NR、−(CH−R、−(CHR−R、−O−(CH−R、−S−(CH−R、−O−CHR、−O−CR(R、−O−(CHR−R、−O−(CH−CH[(CH]R、−S−(CHR−R、−C(O)NH−(CH−R、−C(O)NH−(CHR−R、−O−(CH−C(O)NH−(CH−R、−S−(CH−C(O)NH−(CH−R、−O−(CHR−C(O)NH−(CHR−R、−S−(CHR−C(O)NH−(CHR−R、−NH−(CH−R、−NH−(CHR−R、−NH[(CH]、−N[(CH、−NH−C(O)−NH−(CH−R、−NH−C(O)−(CH−CHR及び−NH−(CH−C(O)−NH−(CH−Rから選択され;
17は、水素、ハロゲン、フルオロ、低級アルキル及びメチルから選択されるか、その代わりにR17がR18と共にオキソ(=O)基を形成するか、あるいはそこに対し結合した炭素原子と共に、3〜7個の炭素原子を含むスピロ環を形成し;
18は、水素、ハロゲン、フルオロ、低級アルキル及びメチルから選択されるか、その代わりにR18がR17と共にオキソ(=O)基を形成するか、あるいはそこに対し結合した炭素原子と共に、3〜7個の炭素原子を含むスピロ環を形成し;
19は、水素、低級アルキル及びメチルから選択されるか、その代わりにR19がR20と共にオキソ(=O)基を形成するか、あるいはそこに対し結合した炭素原子と共に、3〜7個の炭素原子を含むスピロ環を形成し;
20は、水素、低級アルキル及びメチルから選択されるか、その代わりにR20がR19と共にオキソ(=O)基を形成するか、あるいはそこに対し結合した炭素原子と共に、3〜7個の炭素原子を含むスピロ環を形成し;
各Rは、その他のものから独立して、水素、低級アルキル、低級シクロアルキル、シクロヘキシル、(C4〜C11)シクロアルキルアルキル、(C6〜C10)アリール、フェニル、(C7〜C16)アリールアルキル、ベンジル、2〜6員ヘテロアルキル、3〜8員シクロヘテロアルキル、モルホリニル、ピペラジニル、ホモピペラジニル、ピペリジニル、4〜11員シクロヘテロアルキルアルキル、5〜10員ヘテロアリール及び6〜16員ヘテロアリールアルキルからなる群から選択され;
各Rは独立して、=O、−OR、(C1〜C3)ハロアルキルオキシ、=S、−SR、=NR、=NOR、−NR、ハロゲン、−CF、−CN、−NC、−OCN、−SCN、−NO、−NO、=N、−N、−S(O)R、−S(O)、−S(O)OR、−S(O)NR、−S(O)NR、−OS(O)R、−OS(O)、−OS(O)OR、−OS(O)NR、−C(O)R、−C(O)OR、−C(O)NR、−C(NH)NR、−C(NR)NR、−C(NOH)R、−C(NOH)NR、−OC(O)R、−OC(O)OR、−OC(O)NR、−OC(NH)NR、−OC(NR)NR、−[NHC(O)]、−[NRC(O)]、−[NHC(O)]0R、−[NRC(O)]OR、−[NHC(O)]NR、−[NRC(O)]NR、−[NHC(NH)]NR及び−[NRC(NR)]NRからなる群から選択される好適な基であり;
各Rは、その他のものから独立して、保護基またはRであり、あるいは、同一の窒素原子に結合した2つのRは、その窒素原子と共に、1以上の同一または異なる付加的なヘテロ原子を含み得、1以上の同一のまたは異なるR、または好適なR基に任意に置換されていてもよい5〜8員シクロヘテロアルキルまたはヘテロアリールを形成し;
21、R22及びR23はそれぞれ、互いに独立して水素及びプログループRから選択され;
24は、水素、低級アルキル及びプログループRから選択され;
それぞれのmは独立して1〜3の整数であり;及び
それぞれのnは独立して0〜3の整数であり、少なくともR21、R22、R23及びR24がプログループではないという条件を伴う。
【0136】
本明細書中に記載の方法において有用な例示的なプロドラッグ化合物は、上述の米国特許出願第10/355,543号(米国特許出願公開第2004/0029902号)の実施例7.4中に開示された特定の化合物、2003年7月29日に出願された米国特許出願第10/631,029号の実施例7.4.1〜7.4.445、及び対応する国際公開第2004/014382号中に開示された特定の化合物;及び米国特許出願第11/337,049号及び対応する国際特許出願第PCT/US2006/001945の実施例7.1、7.2、7.3及び7.4中に開示された特定の化合物を含む。
【0137】
いくつかの実施形態において、キナーゼ阻害剤は、米国特許出願公開第2004/0106615号及び国際公開第2004/016597号中に記載され、参照により本明細書に組み入れるものとするもののような、ピリジン、ピリミジン、またはトリアジン環をベースとする化合物を含んでなる。通常、このピリジン、ピリミジン、またはトリアジン環は、0〜3個の窒素原子を有する6員アリールまたはヘテロアリール環へと直接的に結合する。
【0138】
いくつかの実施形態において、キナーゼ阻害剤は、国際公開第2005/013982号及び国際公開第2004/046120号、及び米国特許出願公開第20040214817号中に記載され、参照により本明細書に組み入れるものとするもののような、アミノまたはジアミノトリアゾールをベースとする化合物を含んでなる。このアミノトリアゾール化合物は通常、トリアゾール環の3位または4位の窒素原子上に置換を有し、またはその環上にアミノ置換を有する。例示的なアミノトリアゾールは、特に、アミノトリアゾールピリジン及びアミノトリアゾールピリミジン(国際公開第2005/013982号参照)を含む。同様に、キナーゼを阻害するジアミノトリアゾール化合物は、アミノ基の1つにおける置換及びトリアゾール環の3位または4位の窒素原子における置換を有する。ジアミノトリアゾールをベースとする例示的なキナーゼ阻害剤は、国際公開第2004/046120号及び米国特許出願公開第20040214817号中に記載されている。
【0139】
その他の実施形態において、キナーゼ阻害剤は、米国特許第6,849,641号、米国特許出願公開第2004/0053931号、及び国際公開第03/000688号中に記載され、その全てを参照により本明細書に組み入れるものとするもののような、アザインドールをベースとする化合物を含んでなる。米国特許第6,849,641号は、3−ヘテロアリリデンアザインドリン−2−オン化合物を記載する。同様に、米国特許出願公開第2004/0053931号及び国際公開第03/000688号は、特に、ピロロピリジンが2位または3位に芳香族または複素環置換基(例えば、ベンジルまたはインドリル)を有するアザインドール化合物を記載する。
【0140】
その他の実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許出願公開第2004/0048868号及び国際公開第03/020698号中に記載され、その両者を、その全文を参照により本明細書に組み入れるものとするもののような、ベンジミダゾールをベースとする化合物を含んでなる。これらの化合物は通常、ベンジル環上の付加的な置換を伴って、1位及び2位のイミダゾリルにおける置換を有する。2位における例示的な置換基は、ピラゾリル、トリアゾリル、イミダゾリル、インドリル、インダゾリル、チエノピラゾリル、テトラヒドロインダゾリル、テトラヒドロシクロペンタピラゾリル、ジヒドロフロピラゾリル(dihydrofuropyrazoyl)、オキソヒドロピリダジニル、テトラヒドロピロロピラゾリル、オキソテトラヒドロピロロピラゾリル、テトラヒドロピラノピラゾリル、テトラヒドロピリジノピラゾリル、またはオキソジヒドロピリジノピラゾリル基などのアリールまたはヘテロアリールである。
【0141】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,762,179号、米国特許出願公開第2003/0119856号及び同第2005/0004152号、及び国際公開第02/096905号中に記載され、参照により本明細書に組み入れるものとするもののような、チアゾールをベースとした化合物を含んでなることができる。例示的なチアゾールをベースとする阻害剤は、ピリミジンが2位及び4位で置換された4−チアゾリルピリミジンである。典型的には、2位の基は非置換または置換されたアミンである。アミンにおける置換基は通常、置換されたフェニル、インダニル、ナフチル、ピリミジニル、またはピリジル環などの単環及び多環である。
【0142】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、公開された米国特許出願第2004/0142947号及び国際公開第03/000695号及び国際公開第2004/016597号中に記載され、参照により本明細書に組み入れるものとするもののような、ピロロピリミジンをベースとした化合物を含んでなることができる。いくつかの実施形態において、このピロロピリミジンは、インドール環の3位へと結合される。通常、インドールは1位及び/または5位に置換基を有する。特に、シアノ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ、アリール、ヘテロアリール、アルケニル、またはアルキニルを含む付加的な置換が、ピロロピリミジンの4位において生じる。
【0143】
さらなる実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許出願公開第2005/0009876号及び米国特許第6,534,524号中に記載され、参照によりその全文を本明細書に組み入れるものとするもののような、インダゾールをベースとした化合物を含んでなることができる。米国特許第6,534,524号は、インダゾールが3位及び/または5位における置換を有する阻害剤化合物を開示する。3位における置換は、特に、非置換アリールまたは置換されたまたは非置換のヘテロアリール、またはCH=CH−RまたはCH=N−Rであり、Rは置換または非置換アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールである。5位における置換は、特に、置換または非置換アリール、ヘテロアリール、またはY−Xであり、YはO、S、C=CH、C=O、S=O、SO、アルキリデン、NH、N−アルキルであり、Rは置換または非置換アリール、ヘテロアリール、またはN−R’であり、R’はアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシル、またはジアルキルアミドである。同様に、米国特許出願公開第2005/0009876号は、インダゾールが、そのインダゾールの3位及び/または5位における置換を有する化合物を開示する。3位において、置換または非置換アリール、またはヘテロアリールまたはフェニルへと融合されたヘテロ環が、アルカニル、アルケニル、またはアルキニルなどのアルキルを介して結合する。5位における置換は、特に、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、アシルオキシ、チオアルキル、スルフィニルアルキル、スルホニルアルキル、ヒドロキシアルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロ環、置換ヘテロ環、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、エステル、アミド、シアノ、または置換または非置換のアミンである。
【0144】
いくつかの実施形態において、Sykキナーゼ阻害剤は、米国特許第6,573,295号、米国特許出願公開第2002/0062031号、及び国際公開第00/27802号中に記載され、その全てを参照によりその全文を本明細書に組み入れるものとするもののような、二環式化合物を含んでなることができる。これらの実施形態のいくつかにおいては、非置換または置換されたベンジルが、これも置換されたもしくは非置換のシクロアルキルへと融合される。例示的なシクロアルキルは、ヘプテニルである。例示的な二環式阻害剤化合物は、{4−[2−(7−カルバモイル−8−cylohexylmethoxy−2,3,4,5−テトラヒドロ−ベンゾ[b]オキセピン−(S)−5−イルカルバモイル)−2−フェニルアセチルアミノ−エチル]−2−ホスホノ−フェニル}−ホスホン酸;{4−[(S)−2−アセチルアミノ−2−(3−カルバモイル−2−cycycloxylmethoxy−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−(S)−5−イルカルバモイル)−エチル]−フェノキシ}−酢酸;及び(4−[(s)−2−アセチルアミノ−2−(3−カルバモイル−2−cycycloxylmethoxy−6,7,8,9−テトラヒドロ−5H−ベンゾシクロヘプテン−(S)−5−イルカルバモイル)−エチル]−2−カルボキシメチル−フェノキシ−酢酸である。
【0145】
いくつかの実施形態において、キナーゼ阻害剤は、米国特許出願公開第2004/0198750号及び国際公開第2004/092154号号中に記載され、参照により本明細書に組み入れるものとするもののような、クロメノンオキシム(chromenone oxime)を含んでなることができる。通常、置換は、クロメノンオキシム核の2位及び7位に存在する。
【0146】
その他のキナーゼ阻害剤化合物は、国際公開第99/47529号中に記載された置換ヘテロ環(例えばチアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、ジアゾール、オキサジアゾール、ジオキサゾール、フラン、及びピリジン)、及び、国際公開第2004/085388号中に記載されるような置換アリールまたは5または6員ヘテロアリール環;及び、Laiら、2003,Bioorg Med Chem Lett,13(18):3111−4中に記載されたスルホンアミドを含み得る。その他のキナーゼ阻害剤化合物は、当業者にとって明白であり、また、本明細書中に提供される手引きを用いて、Sykキナーゼ阻害活性及び骨代謝に及ぼす効果を試験することができる。
【0147】
化合物は、Sykキナーゼに及ぼすそれらの阻害効果に関して、各種の生物学的及び細胞学的アッセイ中で試験することができる。Sykキナーゼは、特に、マスト細胞及び/または好塩基球の脱顆粒を導くLAT及びPLC−γlをリン酸化する。Sykキナーゼ活性はまた、T−細胞受容体の刺激に対する応答において観察される。これらの活性のうちの任意のものが、Syk阻害剤化合物の活性を確認するために使用可能であることが理解されるべきである。いくつかの実施形態において、このSykキナーゼアッセイは、抗−IgEを用いた刺激後の顆粒成分放出を測定することに基づく分解アッセイである。これらのアッセイは、例えば、トリプターゼ、ヒスタミン、ロイコトリエンLTC4、またはヘキソサミニダーゼの放出の測定を含む。その他の実施形態において、活性は、単離されたSykキナーゼ、またはその活性な断片を、Sykキナーゼ基質(例えば、シグナルカスケード中で、Sykによりリン酸化することが知られている合成ペプチドまたはタンパク質)存在下で阻害剤化合物と接触させることにより調べられ、また、Sykキナーゼがこの基質をリン酸化するのか否かを調べることにより調べられる。あるいは、このアッセイは、Sykキナーゼを発現する細胞を用いて実行することができる。細胞はSykキナーゼを内生的に発現でき、またはそれらは、組換えSykキナーゼを発現するように設計することができる。細胞はまた、所望によりSykキナーゼ基質を発現する場合もある。このような確認アッセイならびに好適な細胞を設計する方法を実行するために好適な細胞は、当業者に明らかである。好適なSykキナーゼ基質は、限定的でない一例としては、ヒトband3タンパク質(Wang et al,1999,J Biol Chem.274(45),32159−32166);プロテインキナーゼC(Kawakamiら、2003,Proc Natl Acad Sci USA,100(16):9470−5)、チューブリン(Petersら、1996,J. Biol. Chem.271:4755)、コンタクチン(Maruyamaら、1996,J. Biol. Chem.271:6631)、及びp50/HSl(Ruzzeneら、1996,Biochemistry 35:1527)が挙げられる。Syk阻害剤化合物の活性を確認するために好適な生化学的及び細胞学的アッセイの具体例は、Foxら、1998,Protein Science,7:2249、米国特許出願第10/631,029号、国際公開第2004/014382号、及びそれらに引用される参考文献中に記載され、それらの全てを参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0148】
6.5 変形性骨疾患の処置及び骨量低下の防止のための補助的療法
本明細書中に記載された処置方法において、Syk阻害化合物は、独立して、または骨吸収を減弱/阻害する(すなわち、再吸収阻害薬)または骨形成を促進する(すなわち、骨同化薬)骨調節薬と組み合わせて用いることができる。いくつかの実施形態において、この組み合わせは、Syk阻害化合物及び1以上の適合可能な再吸収阻害薬または骨同化薬含む組成物の形態であり得る。いくつかの実施形態において、この組成物は、1以上の適合可能な再吸収阻害薬及び骨同化薬の組み合わせにおけるSyk阻害化合物であることができる。その他の実施形態において、この組み合わせは、同時または連続的のいずれかによるSyk阻害化合物の投与を伴って、骨調節薬を補助的に含むことができる。投与が連続的である場合、Syk阻害剤及び骨調節薬の投与間隔は短時間である場合もあり(例えば、分〜時間)、または長時間である場合もある(例えば日、週、月)。さらに、変形性骨疾患が二次性骨粗鬆症である場合、根本的な疾患または状態を処置するために通常用いられる化合物との適合可能な組み合わせにおいて、Syk阻害剤を使用することもできる。
【0149】
上記に関し、いくつかの実施形態において、Syk阻害剤と共に補助的に使用する薬剤は、骨の吸収を阻害または減弱する再吸収阻害薬を含んでなる。各種の再吸収阻害薬が、米国特許第6,835,722号及び同第6,284,730号中に記載されている。通常的に使用される再吸収阻害薬は、1,25−ジヒドロキシビタミンD3(カルシトリオールまたは1,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールとも称する)及びカルシトリオールの好適なアナログである。当該技術分野において知られているように、ビタミンDは、カルシウム及びリン酸のホメオスタシス調節に関与するステロイド分子の1ファミリーである。通常、ビタミンD3(コレカルシフェロール)は、7−デヒドロコレステロールに紫外光が作用して形成される。肝臓内で、コレカルシフェロールはヒドロキシル化されて25−ヒドロキシルコレカルシフェロールとなり、次いで、主として腎臓内に存在する酵素により1,25−ジヒドロキシルコレカルシフェロールへと変換される。1,25−ジヒドロキシルコレカルシフェロールは、腸管腔からの、及び上皮細胞を通過してのカルシウム輸送に関与するタンパク質の発現を調節する。食事としての形態で約800IUのビタミンD/日が十分な摂取量であると考えられているが、血清及び尿のビタミンD及びカルシウム検査は、より正確に必要量を決定することができる。高カルシウム血症は、1,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールの投与と関連する問題であるため、Syk阻害化合物と共にビタミンD療法が補助的に使用される場合には、高カルシウム血症を発症しないある種のその他のビタミンDアナログ、ビタミンD化合物が都合がよい。重い高カルシウム血症を引き起こさない好適なアナログとしては、非限定的な1例として、1,25−ジヒドロキシ−19−ノルビタミンD2、1α−ヒドロキシビタミンD2、1α−ヒドロキシビタミンD3、1,25−ジヒドロキシ−22−オキサビタミンD3(オキサカルシトリル)、1,25−ジヒドロキシ−26,26,26,27,27,27−ヘキサフルオロビタミンD3(ファレカルシトリル);及び1,25−ジヒドロキシヒドロキシタキステロールが挙げられる。その他の好適なビタミンDアナログは、米国特許第6,242,434号;同第5,532,228号;同第5,446,035号;同第5,206,229号;同第5,292,728号;同第5,194,431号;及び同第4,866,048号中に記載されている。全ての刊行物は参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0150】
いくつかの実施形態において、再吸収阻害薬は、骨吸収を阻害するポリホスホネートであり得る。通常用いられるポリホスホネートは、酸素架橋が各種の置換を有する炭素により置き換えられている、ピロリン酸アナログのビスホスホネートである。ビスホスホネート化合物は骨の中のヒドロキシアパタイトに結合し、また、酵素的加水分解に耐性である。しかし、作用の厳密な機序は不明であり、(1)骨表面に対する破骨細胞の回復阻害;(2)骨表面に対する破骨細胞の活性阻害;(3)破骨細胞寿命の短縮化;及び(4)骨の分解速度を遅くさせる骨または骨ミネラルの変動、などの多様な機能を果たしている可能性がある。各種のビスホスホネートは、非限定的な1例として、アレンドロネート;リセドロネート;エチドロネート;Skelid(登録商標)の商品名で市販されているチルドロネート;パミドロネート;イバンドロネート;クロドネート及びZometa(登録商標)の商品名で市販されているゾレドネートなどを含み、Syk阻害化合物と共に補助的に使用することができる。
【0151】
Fosamax(登録商標)の商品名で市販されているアレンドロネートは、脊椎、大腿頸部及び大転子領域におけるBMDを増加させ、また、閉経後の女性に10mg/日で投与した場合、彼女らがすでに脊椎を骨折している場合や、75歳を超えている場合においてさえも、脊椎及び非脊椎の骨折リスクを低減させる。アレンドロネートは、通常、骨粗鬆症の処置及び予防のために使用される。いくつかの実施形態において、アレンドロネートは、骨粗鬆症の処置及び防止のため、及びステロイド誘導性骨粗鬆症の処置のために、週1回の投与計画において投与することができる。Actonel(登録商標)の商品名で市販されているリセドロネートは、コルチコステロイドにより引き起こされる骨損失、及び、正常な骨密度を有する閉経後の女性における骨損失の防止に効果的である。リセドロネートは、脊椎及び腰の密度を増加させ、また、脊椎及び腰の骨折を防止する。Didronel(登録商標)の商品名で市販されているエチドロネートは、繰り返し与えられて、閉経後女性における脊椎骨粗鬆症の処置及び脊椎骨折の低減、及びグルココルチコイドを与えられた患者における骨損失の低減に効果的であることが立証されている。Aredia(登録商標)の商品名で市販されているパミドロネートは、パジェット病、閉経後及びコルチコステロイド誘導性の骨粗鬆症の処置、及び閉経後骨粗鬆症の防止のために使用される。本明細書中に開示される各種のビスホスホネート及びその他の化合物の標準的な投与量は、Physicians Desk Reference,59th Ed.,Thomson PDR(2005)などの標準的な参考文献中に見出すことができ、参照により本明細書に組み入れるものとする。
【0152】
いくつかの実施形態において、再吸収阻害薬は、カルシトニン及びその各種の誘導体であり得る。カルシトニンは、約32アミノ酸からなるペプチドであり、低カルシウム血症性の効果及びその骨吸収阻害能により特徴付けられる。本明細書中に使用されるカルシトニンは、天然の環状形態、ならびに変異体及びアナログを対象とすることが意図され、天然の環状形態における生物学的活性を呈するペプチド断片を含む。各種の形態のカルシトニンのアミノ酸配列としては:ヒト(gi|223389|prf||0802187A[223389])、サケ(gi|345282|emb|CAA00272.1|[345282]);ラット(Amarら、1980,Proc Natl Acad Sci USA 77(8):4444−8);ブタ(gi|226251|prf||1503150A[226251]);及びニワトリ(Lasmolesら、1985,EMBO J. 4(10):2603−7)が挙げられる。カルシトニンの変異体、アナログ及び製剤は、Azria,M.,The Calcitonins:Physiology and Pharmacology,Karger,Basal(1989);Siligardiら、Eur J. Biochem 221:1117−1125(1994);Epandら、Biochem Biophys Res Commun 152:203−207(1988);及び米国特許第6,617,423号、同第6,562,946号、同第5,977,298号、同第5,831,000号、同第5,428,129号、同第5,310,727号、及び同第4,845,080号、及び同第4,604,238号(全ての刊行物を参照により本明細書に組み入れるものとする)中に記載されている。異種由来のカルシトニンは、生物学的な効果において広範なバリエーションを示し、下級脊椎動物における鰓腺由来のカルシトニンが最も高い力価を有する一方、ヒト型のものはやや低い力価を示す。結果として、治療的に適用される例示的なカルシトニンの形態は、サケカルシトニンである。カルシトニンは、皮下または筋肉内への注射または鼻腔内スプレー(例えば、Miacalcin(登録商標)の商品名で市販されているスプレー状サケカルシトニン)の形態で利用することができる。カルシトニン処置(例えば、毎日または一日おきに50〜10IU)は、脊椎中の骨ミネラル濃度を及び増加させ、脊椎の骨折を低減させることが示されている。
【0153】
いくつかの実施形態において、変形性骨疾患がエストロゲン欠乏症と相関する場合には、エストロゲン受容体の活性を調節するエストロゲン、またはその他の化合物を、Syk阻害剤化合物と共に補助的に投与することができる。エストロゲン化合物を用いたホルモン置換療法(HRT)は、閉経後骨粗鬆症の防止及び処置のための標準的な手当てである。上述の考察で記載したように、エストロゲン欠乏症は、破骨細胞の回復を増加させ、また、破骨細胞形成及び破骨細胞活性の誘導に関与するIL−I、IL−6、TNF−α、及びRANKLなどの細胞性因子を上方調節する。エストロゲン療法は、エストロゲン欠乏症に関連する破骨細胞形成及び破骨細胞活性を減少させるために、Syk阻害剤とコンジュゲート化して使用することができる。通常、エストロゲンの補充は、骨損失を妨げるために必要なレベルで投与することができる。しかし、Sykキナーゼ阻害剤の使用は、より低量のエストロゲン投与を可能とし、それによって長期に渡るエストロゲン使用における望ましくない副作用を低減させることができる。エストロゲン置換の典型的な形態は、17β−エストラジオール、コンジュゲート化エクインエストロゲン(CEE)(Premarin(登録商標)の商品名で市販されている)、及びメドロキシプロゲステロンアセテートなどのC−21プロゲスチンを含む。その他のエストロゲン化合物は当業者に明らかであろう。
【0154】
その他の実施形態において、エストロゲン欠乏症は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)を用いて処置され得る。各種のSERM化合物が知られており、組織依存的なエストロゲン受容体アンタゴニスト及びアゴニストとして作用する。補助療法としての好適なSERMの使用は、非限定的な1例として、ラノキシフェン、タノキシフェン、チボロン、オスミフェン、ラソフォキシフェン及びアルゾキシフェンを含む。本方法と共に使用するための例示的なSERMは、エストロゲンのアゴニスト及びアンタゴニストの両方の特性を有する、組織選択的受容体アゴニストであるラノキシフェンである。ラノキシフェンは、骨のエストロゲン受容体及び心臓血管組織においてエストロゲン様の活性を有するが、子宮内膜及び胸部においてはそうでない。従って、ラノキシフェンは、骨密度を維持し、また血清総コレステロールレベルを減少させるが、子宮内膜増殖症及び胸部組織の過形成における望まない副作用を示すことはない。
【0155】
再吸収阻害薬に加えて、補助的に投与される薬剤は、骨形成を促進する骨同化薬を含んでなる。従って、本明細書中に使用するとき、骨同化薬は、骨芽細胞形成を促進し、及び/または骨芽細胞活性を活性化して、骨形成を増加させる薬剤をいう。骨同化薬のうちのあるものは、破骨細胞及び骨芽細胞の両方の活性を活性化させるが、骨吸収を上回るよりも多くの骨形成を引き起こすことによる正味の効果を伴って、骨の再形成を増加させる。
【0156】
従って、いくつかの実施形態において、骨同化薬は、甲状腺ホルモン及び各種のそれらのアナログであり得る。ヒト副甲状腺ホルモンは、カルシウムレベルの減少への応答において副甲状腺細胞により分泌される84アミノ酸からなるペプチドであり、副甲状腺細胞膜上のカルシウム感知官受容体により検出される。PTHは、尿細管のカルシウム吸収を直接的に増加させるために、また、腎臓1−αコレアカルシフェノールヒドロキシラーゼ活性の刺激を通じてカルシトリオールの循環レベルを増加させることにより腸のカルシウム吸収を間接的に増加させるために作用する。骨の再形成速度を減少させるその他のタイプ再吸収阻害薬とは対照的に、PHTは骨芽細胞による骨形成を刺激し、それにより、再形成の各サイクルにおいて形成される骨の再形成速度及び量を増加させる。PTHの間欠的な投与は、ホルモンの同化特性を促進するようにみえる(例えば、米国特許第6,284,730号参照、参照により本明細書に組み入れるものとする)。天然の環状ヒト副甲状腺ホルモンの配列は、NCBI GenBankデータベースのアクセッション番号gi|131547|sp|P01270|PTHY_HUMAN[131547]により入手可能である。
【0157】
本明細書中に使用されるとき、副甲状腺ホルモンは、天然に、合成により、または組換えにより生産される全長タンパク質、ならびに、全長ペプチドにより示される骨誘導活性を有するPTHの断片を含む変異体及び合成アナログを含む。従って、有用なPTH断片は、少なくとも骨を誘導する生物学的活性にとって必要とされるアミノ酸残基を含む。副甲状腺ホルモンの活性のほとんどは、テリパラタイドとも称される1〜34番目のアミノ酸残基を含むN−末端配列中に備わっているが、骨同化活性は、1〜31番目のアミノ酸残基のみを含むペプチド中に維持されている。テリパラタイドは、骨梁厚さ及び連結性を増加させることにより、閉経後骨粗鬆症に対抗する治療的有効性を有することが立証されている(Neerら、2001,N. Engl. J. Med.344:1434−1441;Dempsterら、2001,J Bone Miner. Res.16:1846−1853;Jiangら、2003,J. Bone Miner. Res.18:1932−1941)。その他の例示的な骨誘導活性を伴うPTH断片には、1〜36、1〜37及び1〜38番目のアミノ酸残基を有するPTHペプチドが挙げられる。副甲状腺ホルモンにおける各種の合成アナログは、GenBankアクセッション番号gi|21694083|emb|CAA00791.1|[21694083];gi|21694081|emb|CAA00790.1|[21694081];gi|565142|gb|AAB31748.1||bbm|344998|bbs|151318[565142];gi|413488|emb|CAA00792.1|[413488];及びgi|413485|emb|CAA00789.1|[4l3485]としても与えられる。当業者により明らかであるように、PTH処置は、一時性及び二次性の副甲状腺機能亢進症、及び、腎性骨形成異常症を含むPTHレベルの上昇により特徴付けられるある種の代謝的骨疾患にとっては禁忌である。
【0158】
いくつかの実施形態において、骨同化薬はアンドロゲンであり得る。本明細書中に使用するとき、アンドロゲンは、男性らしい特徴を発達させ、維持するために影響を及ぼすテストステロンまたはアンドロステロンなどのステロイドホルモンをいう。上述のように、性腺機能低下症の男性におけるテストステロン交換療法は骨量密度を増加させることを示した。骨粗鬆症の女性を処置するために用いることも可能であるが、アンドロゲンは女性の患者において望まない性質の男性化効果を有する。結果として、アンドロゲンを用いた骨粗鬆症の処置は、通常男性に対して行われる。アンドロゲンは、各種の形態のテストステロン(Andro(登録商標)、Andryl(登録商標)、Delatest(登録商標)、Depotest(登録商標)、Duratest(登録商標)、Everone(登録商標)、Histerone(登録商標)、Tesanone(登録商標)、Testex(登録商標)、Testrin(登録商標)P.A.)及び17−αメチルテストステロン(Android(登録商標)、Metandren(登録商標)、Oreton(登録商標)Methyl、Virilon(登録商標))を含む。その他のタイプのアンドロゲンは、デカン酸ナンドロロン(例えばAndrolone(登録商標)、Duraboline(登録商標)、HybolinTM Improved、Neo−Durabolic)、酢酸ノルエチステロン、フルオキシメステロン(Halotestin(登録商標))及び各種のそれらの誘導体を含む。
【0159】
いくつかの実施形態において、骨同化薬は、メナキノン−7またはメナテトレノンなどの各種の形態が知られるビタミンK2であり得る。ビタミンK2はγ−カルボキシラーゼの補酵素であり、オステオカルシンのカルボキシル化に関与する。証拠により、ビタミンK2がオステオカルシンの蓄積及び/または細胞外マトリックス中の活性を促進し、また、骨の石化の間にヒドロキシアパタイト結晶の成長を調節することが示唆されている(Mawatariら、2000,J Bone Miner Res 15(9):1810−7)。ビタミンK2の投与は、骨折可能性及の減少をもたらし、また、骨ミネラル濃度を維持しているようにみえる(Shirakiら、2000,J Bone Miner Res 15(3):515−21)。
【0160】
いくつかの実施形態において、骨同化薬はフッ化物である。フッ化ナトリウムは骨形成を顕著に刺激し、また、軸方向の骨ミネラル濃度を増加させる。低投与量のフッ化物が骨折リスクを低減し、骨密度を増加させる(Pakら、1995,Ann Inter Med 123:401−408)。フッ化物の各種の塩及び処方が、補助的な処置において使用可能である。NaFの持続的放出製剤が、Pakら、1996,J Bone Miner Res.5:561−564中に記載されている。推奨される投与量は1日2回、25mgであり、通常は、食事中のカルシウム補充と組み合わせられる。骨同化活性を有することが示されているフッ化物のその他の形態は、Ringeら、1999,Osteop Int.9:171−178中に記載されるような、メノフルオロホスフェートである。メノフルオロホスフェートの推奨される投与量の処方は、通常1日あたり20mgのフッ化物に相当する。その他の有効な投与量は当業者によって決定することができる。閉経後の女性における骨密度に及ぼす正の効果を生じるために、フッ化物及びホルモン補充療法(例えば、17β−エストラジオール)の組み合わせ処置を使用することができる(Alexandersenら、2001,J Clin.Endocrinol.Metab.86(3):957−964)。
【0161】
いくつかの実施形態において、骨同化薬は、カルシウムに関連する微量元素であるストロンチウムであり得る。ストロンチウムの2原子に対しレネル酸(renelic acid)が結合したものであり、Protelos(登録商標)の商品名で市販されている、ストロンチウムレネレートの形態におけるストロンチウムは、骨芽細胞に介在される骨形成を刺激し、また破骨細胞に介在される骨吸収を阻害するようにみえる。ストロンチウムレネレートは、in vitroで、ヒト軟骨マトリックスの形成を刺激する(Henrotinら、2001,J Bone Miner Res. 16(2):299−308)。1日あたり1〜2gで投与されるストロンチウムレネレートは、骨吸収の生化学的マーカーを減少させ、骨形成のマーカーを増加させ、骨ミネラル濃度を増加させ、また、相対的な脊椎骨折リスクを低減する(Meunierら、J Clin Endocrinol Metab.87(5):2060−6;Reginster,J.Y,2002,CurrPharm Des.8(21):1907−16.)。骨同化薬として好適なその他の形態のストロンチウム化合物は、Takahashiら、2002,J Bone Miner Res 18(6):1082中に記載されている。
【0162】
いくつかの実施形態において、骨同化薬は成長ホルモン(GH)であることができ、環状の形態から天然に生じ、骨を誘導する生物学的活性を示す各種の誘導体及び断片を含み得る。ヒト成長ホルモン(hGH)は、2つのスルフィド結合を有する191アミノ酸からなる単一ポリペプチド鎖であり、Cys−53及びCys−165間の1つの結合は分子中に大きなループを形成し、また、Cys−182及びCys−189間の別の結合はC末端付近の小さなループを形成する(Roskamら、1979,Nucleic Acids Res.7(2):305−20;DeNotoら、1981,Nucleic Acids Res.9(15):3719−30)。天然の環状誘導体、及び、組換え手法により産生されるhGHの設計された変異体を含む、hGHの別の形態が知られている。天然の全長hGHにおける骨形成活性を示す任意の形態のhGHを使用することができる。hGHの短縮化された形態が、酵素の作用または組換え手法のいずれかを通じて生産されている。hGH断片は、トリプシンを用いた制御された処置によって除去される、hGHのN末端における最初の8残基を有する、2−CAPを含む。天然及び合成による形態のhGHを含む例示的な処方は、米国特許第6,136,563号;同第6,022,711号;同第5,849,535’号;同第5,763,394号;同第5,654,010号;同第5,633,352号;同第5,424,199号;及び同第5,096,885号中に記載される。全ての参考文献は参照により組み入れるものとする。
【0163】
いくつかの実施形態において、骨同化薬は、インスリン様成長因子(IGH−I)であり得る。IGH−Iは、軟骨細胞及び骨芽細胞の分化及び成長を促進する。hGHと同様に、IGH−Iレベルの減少は骨粗鬆症の原因となる因子ではないかと考えられている。組換えヒトIGH−Iの多量の投与(例えば、60μg/kg/日)は、骨吸収及び骨形成のマーカーを増加させることにより示されるように骨の再形成を刺激し、一方、少量の投与(例えば、15mg/kg/日)は、マーカーであるオステオカルシン及びタイプIプロコラーゲンカルボキシ末端ペプチドを、ピリジノリンレベルを増加させることなく増加させる(Ghironら、1995,J Bone Miner Res 10:1844−1852)。従って、少量の投与は、骨吸収を上回る骨形成への偏向をもたらすようにみえる。長期投与は、骨粗鬆症女性における骨損失を低減することによる正の効果を示す。
【0164】
いくつかの実施形態において、Syk阻害化合物は、上述の付加的な治療的薬剤の任意の1つまたは組み合わせを伴わずに、あるいは伴って、食事中のカルシウム補充と組み合わせて投与することができる。腸内で迅速に吸収される形態のカルシウムは、補助的な療法として有用である。これらは炭酸カルシウム及びクエン酸カルシウム、calsium citrate malate、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、アルパラギン酸カルシウム及びオロチン酸カルシウムなどのカルシウムキレートを含む。上述のように、各種の年齢のグループに関する推奨値のセットが、National Institutes of Health Consensus Development Conference,Optimal Calsium Intake,NIH Consensus Statement Online 1994 June 6−8;12(4):1−31中に提供されている。健康な成人に関する、例示的な推奨される平均摂取量は、1日あたり約1,000〜約1,500ミリグラムのカルシウムである(Geusensら、1998,Bone 23:5257)。
【0165】
6.6 医薬組成物及び投与
変形性骨疾患を処置し、または骨損失を妨げるために使用されるとき、Syk阻害剤化合物を単独で、1以上の活性化合物の混合物として、または、そのような疾患及び/またはそのような疾患に関連する症状を処置するために有用なその他の薬剤と組み合わせて投与することができる。活性化合物は、それ自体で、または医薬組成物として投与することができる。
【0166】
本発明の活性化合物を含んでなる医薬組成物は、従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠を製造するための粉末、エマルジョン化、カプセル化、封入または凍結乾燥工程の手段により製造することができる。組成物は、医薬的に用いることが可能な調製物へと活性化合物を加工することを助ける1以上の生理学的に許容可能な単体、希釈剤、賦形剤または助剤を用いて、従来の方法で製剤化することができる。投与される実際の医薬組成物は、投与の様式に依存する。例えば、局所、経口、全身、吸入、注射、経皮などを含む、実質的に任意の投与様式を用いることができる。
【0167】
活性化合物は、医薬組成物それ自体で、または医薬的に許容可能な塩の形態で製剤化することができる。本明細書中で使用するとき、「医薬的に許容可能な塩」という表現は、高い生物学的有効性及び活性化合物の特性を有し、かつ、生物学的またはその他の理由で望ましくないものではない、それらの塩を意味する。このような塩は無機酸及び有機酸及び塩基から調製することができ、当技術分野においてよく知られている。通常的には、このような塩は、水性溶液中で、相当する遊離の酸及び塩基よりも溶解性が高い。
【0168】
局所投与のためには、活性化合物は、当技術分野においてよく知られているように、溶液、ジェル、軟膏、クリーム、懸濁液などとして製剤化することができる。
【0169】
全身性の処方は、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、髄腔内または腹腔内注射などの注射により投与するために設計されたもの、ならびに経皮、経粘膜、経口、または肺投与のために設計されたものを含む。
【0170】
有用な注射可能な調製物は、活性化合物の、水性または油性のビヒクル中での滅菌懸濁液、溶液またはエマルジョンを含む。組成物はまた、懸濁剤、安定剤及び/または分散剤などの製剤化用薬剤を含有し得る。注射用の処方は、単位投与量の形態、例えばアンプルまたは複数投与用の容器に入れて提供することができ、また、保存料を添加することもできる。
【0171】
あるいは、注射可能な製剤は、限定するものではないが、滅菌され発熱物質を含まない水、緩衝液、デキストロース溶液などを含む好適なビヒクルを用いて使用前に再構成するために、粉末形態にて提供することができる。この目的を達成するために、活性化合物は、凍結乾燥などの技術的に知られた手法により乾燥することができ、使用前に再構成される。
【0172】
経粘膜投与のためには、浸透されるべきバリアに対して好適な浸透剤を製剤中に使用する。このような浸透剤は当該技術分野で周知である。
【0173】
経口投与のためには、医薬組成物は、例えば、結合剤(例えば、α化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム);滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの医薬的に許容可能な賦形剤を用いた、従来の手段により調製される錠剤またはカプセルの形態をとることができる。錠剤は、例えば、糖類または腸溶コーティングにより、当該技術分野で周知の方法により被覆することができる。
【0174】
経口投与のための液状の調製物は、例えば、エリキシル剤、溶液、シロップ、または懸濁液の形態をとることができ、また、それらは、使用前に水またはその他の好適なビヒクルを用いて構成するための乾燥製品として提供することができる。そのような液状調製物は、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化ated食用脂);エマルジョン化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンドオイル、油性エステル、エチルアルコールまたは分画植物性油脂);及び保存剤(例えば、メチルまたはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)などの医薬的に許容可能な添加剤を用いて、従来の方法により調製することができる。調製物は、緩衝液塩、香料、色素及び甘味料を適度に含んでもよい。経口投与のための調製物は、制御された活性化合物の放出を与えるために好適であるように処方され得る。
【0175】
口腔投与のためには、組成物は、従来の手法により製剤化される錠剤またはトローチ剤の形態をとることができる。
【0176】
直腸及び経膣投与のためには、活性化合物は、(保持浣腸剤用の)溶液、座剤または、カカオバターまたはその他のグリセリドなどの従来の座剤用基材を含有する軟膏の形態として製剤化することができる。
【0177】
吸入による投与のためには、加圧した容器またはネブライザーから、例えばジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、二酸化炭素、またはその他の好適なガスなどの好適な高圧ガスを用いて、活性化合物をエアロゾルスプレーの形態で簡便に取り出すことができる。加圧したエアロゾルの場合、投与量単位は、測定された量を送達するためのバルブを提供することにより決定できる。吸入具または吸入器中で使用するために、化合物の粉末ミックス及びラクトースまたはスターチなどの好適な粉末基材を含むゼラチンなどのカプセル及びカートリッジを処方することができる。
【0178】
持続的な輸送のためには、活性化合物を、例えば皮下、皮内、または筋肉内注入などの埋め込みにより投与するための持続性製剤として処方することができる。従って、例えば、活性成分を、好適なポリマーまたは疎水性素材(例えば許容可能なオイル中のエマルジョンとして)、またはイオン交換樹脂と共に、または、難溶性の塩等の難溶性誘導体として処方することができる。
【0179】
あるいは、経皮輸送系を使用し、活性化合物を経皮吸収のためにゆっくりと放出する粘着性ディスクまたはパッチとして製造することができる。この目的を達成するために、活性化合物の経皮浸透を助ける浸透促進剤を用いることができる。好適な経皮パッチは、例えば、米国特許第5,407,713号;同第5,352,456号;同第5,332,213号;同第5,336,168号;同第5,290,561号;同第5,254,346号;同第5,164,189号;同第5,163,899号;同第5,088,977号;同第5,087,240号;同第5,008,110号;及び同第4,921,475号中に記載されている。
【0180】
あるいは、その他の医薬輸送系を利用することもできる。リポソーム及びエマルジョンは、化合物を送達するために使用可能な輸送ビヒクルの良く知られた例である。通常は毒性が高いという犠牲を伴うが、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの特定の有機溶媒も利用することができる。
【0181】
医薬組成物は、所望であれば、活性化合物を含む1以上の単位投与量を収納可能な包装容器または取り出し装置に入れて提供することができる。包装容器は、例えば,ブリスターパックなどの金属またはプラスチック箔を含み得る。この包装または取り出し装置には、投与のための説明書を添付することができる。
【0182】
6.7 効果的投与量
活性化合物、またはその組成物は、通常、処置される特定の疾患を処置する、または予防するために効果的な量で、使用されるであろう。この化合物は、処置的便益を達成するために処置的に投与され、または、予防的便益を達成するために予防的に投与される。処置的便益とは、処置される変形性骨疾患の根本的な撲滅または改善、及び/または、患者が依然として根本的な疾患を患っているにもかかわらず、その患者が状態における改善を報告するような、根本的な疾患に関連する1以上の症状を撲滅または改善することを意味する。処置的便益はまた、改善が自覚されるか否かにかかわりなく、その疾患の進行を食い止め、あるいは遅延させることを含む。予防的投与については、骨損失及び/または骨の堅さの弱体化により引き起こされる、またはそれらと関連することにより特徴付けられる疾患の進行リスクを有する患者に対し、活性化合物を投与することができる。
【0183】
投与される阻害剤化合物の量は、例えば、処置される特定の状況、投与様式、望まれる便益が予防的または処置的のいずれであるか、処置される状況の重篤度、及び患者の年齢及び体重、特定の活性化合物の生物適合性等を含む各種の因子に依存するであろう。効果的な投与量を調べることは、十分に当業者の能力範囲内である。
【0184】
最初の投与量は、まずin vitroアッセイから算出することができる。例えば、象牙質ピットアッセイにおいて破骨細胞活性を阻害するために十分な程度にSykを阻害する化合物の循環血または血清中濃度を達成するために、動物に使用するための最初の投与量が処方され得る。あるいは、動物に使用するための最初の投与量を、Sykキナーゼ阻害アッセイにおいて測定されるようなIC50と等しい、またはそれを上回る活性化合物の循環血または血清中濃度を達成するように処方することができる。特定の阻害剤化合物の生物適合性に配慮しながら、このような循環または血清中濃度を達成するための投与量の計算は、十分に当業者の能力範囲内である。手引きのため、The Parmaceutical Basis of Therapertics,Chapter 1,pp.1−46,1975中のFingl and Woodbury,“General Principles”及びその中に引用される参考文献が参照される。
【0185】
最初の投与量は、上述の動物モデルなどのin vivoデータから算出することができる。投与量は通常、約1mg/kg/日〜約100mg/kg/日、200mg/kg/日、300mg/kg/日、400mg/kg/日または500mg/kg/日の範囲内にあるが、上述のその他の因子、阻害化合物の活性、その生物適合性、投与形態及び各種の因子の中のものに依存して、より高い場合も、あるいはより低い場合もあり得る。投与の量及び間隔は、処置的または予防的効果を維持するために十分な活性化合物の血漿中レベルを提供するために、個々に調整することができる。部分的な局部投与などの局所的投与、または選択的取り込みの場合、効果的な活性化合物の局所的濃度は血漿中濃度と関連し得ない。当業者であれば、過度な実験を行うことなく、効果的な投与量を最適化できるであろう。
【0186】
化合物は、その他の状況、処置される症状、及び処方する医師の判断に依存して、1日1回、1日少数回、または1日多数回投与され得る。
【0187】
好ましくは、活性化合物は、高い毒性をもたらすことなく、処置的または予防的な便益を提供するであろう。活性化合物の毒性は、標準的な医薬的手法を用いて調べることができる。毒性及び治療(または予防)効果の間の投与量割合が治療指数である。高い治療指数を呈する活性化合物が好ましい。
【0188】
6.8 キット
化合物の投与及び骨損失を妨げるための変形性骨疾患を処置するために、Syk阻害化合物、再吸収阻害薬、及び骨同化薬をキットの形態で提供することができる。このようなキットは、一つずつ取り出せるような容器またはブリスター包装中に調製された丸薬またはカプセルなどの投与量単位へとパッケージングされた化合物または組成物を含み得る。その治療的化合物が液状である場合には、適正量を投与するための測定用器具、例えば、注射器、目盛り付きピペット、秤量カップ、点滴用器などをキット中に含めることができる。キットはさらに、適正な投与を行うために有用な付加的な要素を含んでも良い。例示的な付加的な要素には、使用方法を教示する説明書を含む。様式は、コンパクトディスク、ビデオ、メモリーカード、及び印刷された媒体を含む。
【実施例】
【0189】
7.1 実施例1:コラーゲンで誘導される骨変性における骨損失の防止におけるSyk阻害剤2,4−ピリミジンジアミン化合物の効果
骨変性の防止におけるSyk阻害剤2,4−ピリミジンジアミン化合物の効果を調べるために、ラットコラーゲン誘導性関節炎モデルを使用した(例えば、国際公開第2004/014382号参照、参照により本明細書に組み入れるものとする)。ウシコラーゲンIIを用いて0日目にラットを免疫し、7日目に追加免疫した。この動物が(11〜14日目に)関節炎臨床スコア1を示した時に、ビヒクルまたは2,4−ピリミジンジアミン化合物1007を用いて動物を処置した。次いでこの動物を、1日2回、阻害剤化合物またはビヒクルのみによって処置した。処置の18日後、後足の骨の構造及び完全性をX線、組織病理学、及び血清中の骨マーカーであるCOMPによって評価した。
【0190】
7.2 実施例2:破骨細胞形成及び骨吸収に及ぼすSyk阻害剤化合物のin vitro効果
破骨細胞形成の検出 マウス破骨細胞前駆体細胞を、30ng/mlのマウスCSF−I及び300ng/mlのRANKL存在下で、マイクロタイタープレート(1×10/ml、200μl/ウェル)中で培養した。破骨細胞形成に関する試験は、酒石酸塩耐性アルカリホスファターゼ(TRAP)酵素の発現に依存し(Shiotaniら、2002,Anat.Rec.268,137−146)、市販品が入手可能である。TRAP陽性の多核細胞を、破骨細胞様多核細胞として計数する。
【0191】
象牙質(象牙質)ピット形成アッセイ 破骨細胞活性に関するin vitro吸収アッセイは象牙質上のピットの形成を利用する。このアッセイにおいて、マウス破骨細胞前駆体(約5×10個の細胞/0.2ml/ウェル)を96ウェル培養プレート中の象牙質スライス(直径4mm)の上に置き、30ng/mlのM−CSFと共に1時間培養する。次いで象牙質スライスを48ウェル培養プレート(Corning Glass)中へと移す。象牙質スライス上の細胞を、200ng/mlのRANKLを伴って、または伴わずに、約1ng/ml〜約20mg/mlの2,4−ピリミジンジアミン化合物非存在下または存在下で、30ng/mlのM−CSFを用いて4日間培養する。培地を3日目に交換する。4日目に綿を用いて象牙質スライスから細胞を除去し、次いでこのスライスをマイヤーズヘマトキシリン(Mayer’s hematoxylin)(Sigma)中に浸透させ、破骨細胞により形成された吸収ピットを染色する。
【0192】
7.3 実施例3:卵巣切除マウスにおける骨粗鬆症に及ぼすSyk阻害剤化合物の効果
動物における骨吸収の制限に及ぼすSyk阻害化合物の効果を、卵巣切除マウスを用いて試験する。8週齢の雌C57BL/6マウスの背面皮膚を切開し、卵巣を切除する。擬似的に処置された及び卵巣切除された動物を0.1〜100mg/kgの2,4−ピリミジンジアミン化合物を用いて1日1〜3回、4週間まで処置する。マウスを安楽死させ、脛骨及び大腿を取り出し、軟組織を除いて、10%のホルマリン中で固定する。大腿を末梢骨定量的コンピュータ断層撮影法(peripheral quantitative computed tomography)(pQCT)によりスキャンし、総骨密度を調べる。あるいは、二重エネルギーX線吸収測定法(例えば、Jilkaら、1966,J Clin. Invest.97:1732−1740)により骨密度を測定する。
【0193】
7.4 実施例4:グルココルチコイド処置マウスにおける骨吸収に及ぼすSyk阻害剤化合物の効果
プラセボまたは2.1mg/km/日のプレドニゾロンの徐放性ペレットを28日間埋め込むことにより、マウスにおいて、グルココルチコイドにより誘導される骨粗鬆症を発症させる。グルココルチコステロイドのこの投与量は、ヒトに対する約20mgに相当する。各群において、約6〜11匹の試験動物を使用するものとする。未処置及びグルココルチコステロイド処置した動物に、0.1〜100mg/kgの2,4−ピリミジンジアミン化合物を、1日1〜3回、4週間まで投与する。総骨密度を調べるために、背骨の骨密度を、DEXA(二重エネルギーX線吸収測定法)測定により、または末梢骨定量的コンピュータ断層撮影法(pQCT)により測定する。動的な組織学的測定のために、マウスを死亡させる6日前及び2日前に、テトラサイクリンHCl(30mg/kg体重)を腹腔内投与する。組織学的測定のために、腰椎(L1〜L4)を固定化し、メチルメタクリレート中で非脱石灰化して包埋する。コンピュータ及び数値化タブレットを用いて、組織学的検査を行う。骨梁幅、骨梁間隔、及び骨壁厚さは直接的に測定し、一方、海綿状の周囲(cancellous perimeter)辺りの骨形成速度及び活性化頻度は算出する(Weinsteinら、1998,J Clin.Invest.102:274−282;Weinsteinら、1997,Endocrinology 138:4013−4021)。
【0194】
具体的な実施形態に関する先の記載は、実例及び説明を意図して示されてきたものである。それらは完全なものであることを意図するものではなく、あるいは、本開示の範囲を記載された厳密な様式へと限定することを意図するものではなく、明らかに、上記の教示に照らした多くの改変及びバリエーションが可能である。
【0195】
全ての特許、特許出願、刊行物、及び本明細書中に引用される参考文献は、各刊行物または特許出願を具体的かつ個別的に参照により組み入れて示したものと同様の範囲で、参照により明確に組み入れるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】図1は、ラットコラーゲンにより誘導される関節炎(CIA)モデルにおける、30mg/kgの2,4−ピリミジンジアミン化合物1007により処置したラット後足の解析結果を示す。データは平均値±標準誤差であり、未投与(n=4)を除き、各群あたりn=13である。後肢のレントゲン写真を本試験の終わりに得て、盲検的にスコア化した。結果は、10mg/kg(p<0.05)及び30mg/kg(p<0.001)のSyk阻害剤により処置した動物において、骨の弱体化が顕著に減弱されていることを示す。
【図2】図2は、Syk阻害剤化合物1007により処置した動物から得た骨切片の、組織病理学な評価を示す。阻害剤の投与は、骨の破壊の重篤度における顕著な低減をもたらす。
【図3】図3は、2,4−ピリミジンジアミン化合物1007により処置した際の、ラットコラーゲンにより誘導される関節炎における、骨の弱体化、破骨細胞活性、及びパンヌス形成の減弱を示す。上図左側−未処置ラット;上図右側−ビヒクル投与ラット;下図左側−ビヒクル投与ラット;下図右側−化合物1007処置ラット。顕微鏡写真は、CIAラットの後足のサフラニン−O染色切片、倍率は40倍である。
【図4】図4は、2,4−ピリミジンジアミン化合物1007によりラットを処置した後の、コラーゲン破壊のマーカーである軟骨オリゴメトリックス(oligometrix)マトリックスタンパク質(COMP)の血清レベルにおける減少を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形性骨疾患を処置するための方法であって、投与を必要とする被験体に、骨損失を低減させるために有効な量のSyk阻害化合物を投与する工程を包含し、該変形性骨疾患が自己免疫疾患と関連しない、方法。
【請求項2】
前記Syk阻害化合物が2,4−ピリミジンジアミン化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記変形性骨疾患が原発性骨粗鬆症である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記原発性骨粗鬆症が、閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、及び若年性骨粗鬆症から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記変形性骨疾患が内分泌障害と関連する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記内分泌障害が、副腎皮質機能亢進症、性腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症及び副甲状腺機能低下症から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記変形性骨疾患が骨形成異常症である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記変形性骨疾患が骨減少症である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記変形性骨疾患が、骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収をもたらす、破骨細胞活性および骨芽細胞活性の不均衡により引き起こされる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
再吸収阻害薬を補助的に投与する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記再吸収阻害薬が、ビスホスホネート;カルシトニン及びカルシトニンアナログ;エストロゲン及びエストロゲンアナログ;及び選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
骨同化薬を補助的に投与する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記骨同化薬が副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンアナログ、ストロンチウムレネレート(strontium renelate)、及び成長ホルモン(GH)から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
被験体に或る量のSyk阻害化合物及び骨調節薬を投与する工程を含む、骨の損失を防止する方法。
【請求項15】
前記Syk阻害化合物が2,4−ピリミジンジアミン化合物である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記骨調節薬が再吸収阻害薬である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記再吸収阻害薬が、ビスホスホネート;カルシトニン及びカルシトニンアナログ;エストロゲン及びエストロゲンアナログ;及び選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記骨調節薬が骨同化薬である、請求項14記載の方法。
【請求項19】
前記骨同化薬が、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンアナログ、ストロンチウムレネレート、及び成長ホルモン(GH)から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記被験体が、閉経期または閉経後のヒト女性である、請求項14記載の方法。
【請求項21】
前記被験体がエストロゲン欠乏症を有しているヒト女性である、請求項14記載の方法。
【請求項22】
前記Syk阻害化合物が、骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収を導く破骨細胞形成を妨げる、請求項14記載の方法。
【請求項23】
Syk阻害化合物及び骨調節薬を含む組成物。
【請求項24】
前記Syk阻害化合物が2,4−ピリミジンジアミン化合物である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
前記骨調節薬が再吸収阻害薬である、請求項23記載の組成物。
【請求項26】
前記再吸収阻害薬が、ビスホスホネート;カルシトニン及びカルシトニンアナログ;エストロゲン及びエストロゲンアナログ;及び選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)から選択される、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
前記骨調節薬が骨同化薬である、請求項23記載の組成物。
【請求項28】
前記骨同化薬が、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンアナログ、ストロンチウムレネレート、及び成長ホルモン(GH)から選択される、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
変形性骨疾患の処置のための薬剤の調製における、Sykキナーゼ阻害化合物の使用。
【請求項30】
前記Sykキナーゼ阻害化合物が2,4−ピリミジンジアミン化合物を含む、請求項29記載の使用。
【請求項31】
前記変形性骨疾患が原発性骨粗鬆症である、請求項29記載の使用。
【請求項32】
前記原発性骨粗鬆症が、閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、及び若年性骨粗鬆症からなる群より選択される、請求項31記載の使用。
【請求項33】
前記変形性骨疾患が内分泌障害と関連している、請求項29記載の使用。
【請求項34】
前記内分泌障害が、副腎皮質機能亢進症、性腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、及び副甲状腺機能低下症からなる群より選択される、請求項33記載の使用。
【請求項35】
前記変形性骨疾患が骨形成異常症である、請求項29記載の使用。
【請求項36】
前記変形性骨疾患が骨減少症である、請求項29記載の使用。
【請求項37】
前記変形性骨疾患が、骨形成を上回る正味の過剰な骨吸収をもたらす、破骨細胞活性および骨芽細胞活性の不均衡により引き起こされる、請求項29記載の使用。
【請求項38】
変形性骨疾患の処置のための薬剤の調製における、Sykキナーゼ阻害化合物及び骨調節薬の組み合わせの使用。
【請求項39】
前記Sykキナーゼ阻害剤が2,4−ピリミジンジアミン化合物を含む、請求項38記載の使用。
【請求項40】
前記骨調節薬が再吸収阻害薬を含む、請求項38記載の使用。
【請求項41】
前記再吸収阻害薬が、ビスホスホネート、カルシトニン及びカルシトニンアナログ、エストロゲン及びエストロゲンアナログ、並びに、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)からなる群より選択される、請求項40記載の使用。
【請求項42】
前記骨調節薬が骨同化薬を含む、請求項38記載の使用。
【請求項43】
前記骨同化薬が、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンアナログ、ストロンチウムレネレート、及び成長ホルモン(GH)から選択される、請求項42記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−543855(P2008−543855A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517037(P2008−517037)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/023070
【国際公開番号】WO2006/135915
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(504294145)ライジェル ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (63)
【Fターム(参考)】