説明

変速機の変速操作機構

【課題】本発明は、変速機の変速操作機構において、変速スイッチを設置するにあたり、できるだけ変速スイッチの検出精度を高めつつ、変速機の大型化を防いで、変速機をコンパクトに構成することができる変速機の変速操作機構を提供することを目的とする。
【解決手段】コントロールロッド35の前端部にクラッチハウジング2の支持部23よりも変速機前方側に延びる延設部35aを設け、その延設部35aに対応するクラッチハウジング2に形成した収容凹部24内に、ニュートラル状態を検出するニュートラルスイッチ50を設置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変速機の変速操作機構に関し、特に、クラッチハウジングと、該クラッチハウジングに連接する変速機ケースとを備え、変速機構を切換えるシフトフォークと、該シフトフォークに運転者の変速操作を伝達するコントロールロッドとを具備する変速機の変速操作機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、手動変速機等の変速機でも、エンジン制御等に用いるため、変速機の変速状態を検出する変速スイッチ(例えば、ニュートラルスイッチ)を設置することが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1でも、運転者の変速操作を変速機構に伝達する変速操作機構の動きを検出して、変速機の変速状態を検出する変速スイッチを設けている。
【0004】
具体的には、特許文献1の図3に示すように、変速機1の変速操作機構のうち、ガイドプレート205に係合するガイドロッド201の動きを検出するように、該ガイドロッド201に近接したケースに変速スイッチ208を設置している。
【0005】
これにより、運転者の変速操作に伴ってガイドロッド201が軸方向に移動又は周方向に回転する動きを変速スイッチで検出して、変速機の変速状態を検出している。
【0006】
【特許文献1】特開2003−14115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、変速機は、近年ドライブフィーリングを向上する目的等のため、多段化されており、例えば、前述の特許文献1の変速機も前進6段、後進1段の変速段を有している。
【0008】
このように、変速機を多段化すると必然的に変速機が大型化してしまい、従前の収容スペースに変速機を収容できなくなるおそれがある。特に、車両前部のエンジンルーム内に収容する場合にあっては、車両衝突の際のクラッシュスペースも確保しなければならないため、また車幅方向のスペースも制限されるため、できるだけ変速機をコンパクトに構成することが要請される。
【0009】
この点、前述の特許文献1の変速機の場合、変速操作機構の伝達経路に直接関係ないガイドロッド201を設置していたため、変速機内にガイドロッド201の収容スペースが必要となり、コンパクト化を阻害していた。そこで、ガイドロッドを廃止して、変速機を可及的にコンパクトに構成することが考えられる。
【0010】
もっとも、この場合には、ガイドロッドに設けていた変速スイッチを何処に配置するのかといった問題が新たに生じる。
【0011】
通常、一般的に変速スイッチは、できるだけ変速機の変速状態を、迅速且つ正確に検出する必要があるため、変速機構の動きを直接検出できる部材を、被検出部材とするのが望ましい。よって、例えば、シフトフォークに変速操作を伝達するコントロールロッドを、被検出部材とすることが考えられる。
【0012】
しかしながら、変速機ケース内のコントロールロッドには、複数のシフトフォーク等の部材が連係されていることから、コントロールロッドに近接した変速機ケースに変速スイッチに設置することは困難である。
【0013】
また、コントロールロッドをエンドカバー側に延長して、その延長部分を利用して変速スイッチを当接させることが考えられるが、コントロールロッドは、変速機のメインシャフト等と並行に配置されるため、コントロールロッドを単にエンドカバー側に延長した場合には、変速機が長手方向に大型化してしまうという問題が生じてしまう。
【0014】
そこで、本発明は、変速機の変速操作機構において、変速スイッチを設置するにあたり、できるだけ変速スイッチの検出精度を高めつつ、変速機の大型化を防いで、変速機をコンパクトに構成することができる変速機の変速操作機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の変速機の変速操作機構は、エンジンのシリンダブロックに連接され、エンジンの出力軸と変速機の入力軸を断接するクラッチ装置を収容するクラッチハウジングと、該クラッチハウジングに連接され、変速機構を収容する変速機ケースと、前記変速機構を切換え動作するシフトフォークと、該シフトフォークに運転者の変速操作を伝達するコントロールロッドとを備えた変速機の変速操作機構であって、前記クラッチハウジングに形成され、前記コントロールロッドを支持するコントロールロッド支持部と、前記コントロールロッドに形成され、該コントロールロッド支持部を越えてクラッチハウジング側方向に延びる延設部と、前記クラッチハウジングにおける前記延設部に対応する位置に配設され、コントロールロッドの動作を検出して変速機の変速状態を検出する変速スイッチとを備えたものである。
【0016】
上記構成によれば、クラッチハウジングのコントロールロッド支持部を越えたコントロールロッドの延設部において、変速スイッチがコントロールロッドの動作を検出して、変速機の変速状態を検出することになる。
このため、コントロールロッドをエンドカバー側に延長することなく、クラッチハウジング側に延ばした延設部で、コントロールロッドの動作を検出することができる。
このように、クラッチハウジング側にコントロールロッドを延設して変速スイッチで変速状態を検出することで、クラッチ装置の外側部分にあるデッドスペースを有効に利用して、変速スイッチを配置でき、変速機の大型化を防止することができる。
なお、ここでいう「変速スイッチ」は、変速機のニュートラル状態を検出するニュートラルスイッチだけでなく、変速機の変速段位を検出する変速段位スイッチや、後退段位を検出をリバーススイッチであってもよい。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記クラッチハウジングに形成され、前記コントロールロッド支持部と前記コントロールロッドの延設部を収容する部分からなる袋状凹部と、前記コントロールロッド支持部と前記コントロールロッドの間に設けるブッシュとを備えたものである。
上記構成によれば、コントロールロッドの延設部は、袋状凹部とブッシュによって、変速機ケース内のギア空間から隔離された密閉空間内に位置することになり、この延設部には、変速機ケースのミッションオイルが付着しにくくなる。
このため、コントロールロッドの延設部に当接する変速スイッチにも、ミッションオイルが流れ込みにくくなる。
よって、変速スイッチ内には、ミッションオイルに含まれる鉄粉等が混入しにくくなり、所謂コンタミネーション(目詰まり)による故障が防止でき、変速スイッチの信頼性を向上することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記コントロールロッドの延設部に形成され、該コントロールロッドの軸方向に凹凸面を有するカム部と、前記変速スイッチに設けられ、該カム部に当接する凸状のセンシング部とを備えたものである。
上記構成によれば、変速スイッチの変速信号を検出する構造を、延設部の凹凸面のカム部と凸状のセンシング部で構成しても、その延設部が密閉空間に位置しているため、ミッションオイルに含まれる鉄粉が凹凸面のカム部と凸状のセンシング部との間に挟み込まれるおそれがなくなる。
よって、凹凸面のカム部と凸状のセンシング部とによって構成される検出構造による検出精度を、より安定して高めることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記コントロールロッド上に、該コントロールロッドの軸方向に凹凸面を有するように設置されたディテント荷重特性設定部と、前記クラッチハウジングに設置され、該ディテント荷重特性設定部に常時当接するように押圧付勢されたディテント部材とを有するディテント機構を備えたものである。
上記構成によれば、ディテント荷重を付与するディテント荷重特性設定部をコントロールロッド上に設けたことで、変速操作を行った際のコントロールロッドの位置がより確実に規定され、また、ディテント機構を変速スイッチと同じクラッチケーシングに設けたことで、変速スイッチとディテント機構との相対的な位置ズレも生じない。
よって、コントロールロッドの動作を、さらに精度よく検出することができ、変速スイッチの検出精度をより高めることができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、前記ディテント荷重特性設定部は、前記コントロールロッドの延設部に隣接して設置されたものである。
上記構成によれば、変速スイッチの検出位置である延設部と、ディテント荷重特性設定部が隣接しているため、変速スイッチは、コントロールロッド自体の経年変化、弾性変形、熱変形等の影響を受けることなく、コントロールロッドの動作を検出できる。
よって、変速スイッチは、より正確に精度よく、コントロールロッドの動作位置を検出することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記変速スイッチは、前記クラッチハウジングの外表面に形成した収容凹部内に設置されたものである。
上記構成によれば、変速スイッチがクラッチハウジングの収容凹部内に設置されることから、変速スイッチを変速機に装着した状態で、変速スイッチが変速機の外表面から外方へ大きく突出することがない。
このため、変速スイッチは収容凹部周縁のクラッチハウジングで保護されることになり、脱落や損傷のおそれを可及的に防止することができる。
よって、変速スイッチの耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0022】
この発明の一実施態様においては、前記クラッチハウジングを前記エンジンのシリンダブロックへ取付ける取付けボルトを備え、前記変速スイッチの設置位置を、該変速スイッチをクラッチハウジングに装着した状態で、前記取付けボルトの締結治具と干渉しない部位に設定したものである。
【0023】
上記構成によれば、変速スイッチを変速機に装着した状態で、クラッチケーシングをエンジンのシリンダブロックに取付ける際に、取付けボルトの締結治具が変速スイッチに干渉しないため、変速機のエンジンへの組付け性を向上することができる。
すなわち、変速機のエンジンへの組付けの際には、予め変速スイッチを変速機に装着した状態(サブアッセンブリ)にして、組付けを行なうが、変速スイッチの設置方向とクラッチケーシングを取付ける取付けボルトの締結方向が直交するため、取付けボルトの締結治具と干渉するおそれがある。これを、干渉しない部位に設置位置を設定することにより、変速機へのエンジンへの組付け性を向上しているのである。
よって、変速スイッチを予め変速機に装着した状態であっても、変速機をエンジンへ組付けることができ、変速機の組付け性を向上することができる。
【0024】
この発明の一実施態様においては、前記変速スイッチの設置角度を、クラッチハウジングの外表面の接線方向に傾斜させたものである。
上記構成によれば、変速スイッチの設置角度を傾斜させたことにより、変速スイッチから延びるハーネスを、大きく屈曲させることなくクラッチハウジングの外表面に沿わせて配設することができる。
よって、変速スイッチのハーネスのクラッチハウジング外表面からの突出量を、ハーネスを大きく屈曲させることなく可及的に抑えることができ、ハーネスに負荷をかけることなく、変速機をコンパクトに構成することができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、コントロールロッドをエンドカバー側に延長することなく、クラッチハウジング側に延ばした延設部で、コントロールロッドの動作を検出することができる。
よって、クラッチハウジング側にコントロールロッドを延設して変速スイッチで変速状態を検出することで、クラッチ装置の外側部分にあるデッドスペースを有効に利用して、変速スイッチを配置でき、変速機の大型化を防止することができる。
したがって、変速機の変速操作機構において、変速スイッチを設置するにあたり、変速スイッチの検出精度を高めつつ、変速機の大型化を防いで、変速機をコンパクトに構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
まず、図1〜図7により、第一実施形態について説明する。図1は本発明の変速操作機構が採用された変速機の縦断断面図、図2はその変速機を後面から透視した変速操作機構周辺の要部後面図、図3は図2のA−A線矢視断面図、図4は図3の要部詳細図、図5は図3のB−B線矢視断面図、図6は変速機を車両に搭載した状態でのハーネスの取り回しを説明する説明図、図7はニュートラルスイッチの取り付け状態を変速機下方から見た底面図である。なお、以下の説明では、変速機のエンジン締結側を変速機前方、エンジン反締結側を変速機後方として説明する。
【0027】
本実施形態の変速機1は、図1に示すように、変速機前方側に位置してエンジンのシリンダブロックEに締結固定されるクラッチハウジング2と、中央に位置してクラッチハウジング2に締結固定されるミッションケース3と、変速機後方側に位置してミッションケース3に締結固定されるエンドカバー4との三つのケース収容体2,3,4によって構成される変速機ケーシング10を、備えている。
【0028】
前述のクラッチハウジング2は、その内部に、エンジンの出力軸に固定されたフライホイールFに断接されてエンジン出力を伝達するクラッチ装置5を収容する略コーン形状のクラッチ収容部21と、ドライブシャフト軸D上に配置された差動装置6を収容するデフ収容部22とを形成し、それぞれの収容部21,22でクラッチ装置5と差動装置6を収容している。
【0029】
前述のミッションケース3は、略円筒形状に形成され、内部に、プライマリーシャフト7、セカンダリーシャフト8、及びリバースアイドルシャフト(図1では図示せず)をそれぞれ軸支して収容し、各シャフト上に設置された複数の変速ギア、同期装置等(具体的には図示せず)も収容している。
【0030】
前述のエンドカバー4は、略有底円筒形状に形成され、内部に、プライマリーシャフト7、セカンダリーシャフト8の後端部を軸支して収容し、比較的高速段(例えば、5速段や6速段)の変速ギア、同期装置等を収容している。
【0031】
また、各シャフト7,8類等は、それぞれ変速機1の前方から後方に向って並列に配置され、軸受ベアリングを介して各ケース収容体2,3,4に回動自在に軸支されている。
まず、プライマリーシャフト7は、前部をクラッチハウジング2に設置した軸受ベアリング11に軸支され、中央部をミッションケース3に設置した軸受ベアリング12、後端部をエンドカバー4に設置した軸受ベアリング13によって、それぞれ軸支されている。
【0032】
また、セカンダリーシャフト8も、前部をクラッチハウジング2に設置した軸受ベアリング14、中央部をミッションケース3に設置した軸受ベアリング15、後端部をエンドカバー4に設置した軸受ベアリング16によって、それぞれ軸支されている。
【0033】
一方、差動装置6は、その前端部をクラッチハウジング2に設置した軸受ベアリング17で軸支され、後端部をミッションケース3に設置した軸受ベアリング18で軸支されている。
【0034】
本実施形態の変速操作機構30は、図2に示すように、運転者によって操作されるチェンジ操作レバー(図示せず)の動きが伝達されるセレクトレバー31及びシフトレバー32と、変速機ケーシング10内に配設される第一ロッド33と第二ロッド34と、前記プライマリーシャフト7と並列に配置されるコントロールロッド35と、同期装置(図示せず)を移動させる複数のシフトフォーク36,37,38(図5参照)とを備える。
【0035】
前述のセレクトレバー31は、変速機ケーシング10の外側に設置したブラケット39に回動自在に支持されており、セレクトレバー31の一端部にはセレクトケーブル31aの一端が取付けられ、セレクトケーブル31aの他端にはチェンジ操作レバー(図示せず)が連結されている。また、セレクトレバー31の他端部には前述のシフトレバー32が連結されている。
【0036】
このシフトレバー32は、変速機ケーシング10外部に突出した前述の第一ロッド33の上端にピンで固定されている。また、この第一ロッド33は、その軸方向の移動と軸廻りの回動が自在に行えるように変速機ケーシング10に支持されている。これにより、第一ロッド33はシフトレバー32と一体的に動作するようになっている。さらに、このシフトレバー32には、シフトケーブル32aの一端が連結されていると共に、このシフトケーブル32aの他端には、チェンジ操作レバー(図示せず)が連結されている。
【0037】
このように構成されていることにより、運転者がチェンジ操作レバー(図示せず)をセレクト操作すると、セレクトケーブル31aを介してセレクトレバー31がS1−S1′方向に揺動し、その揺動により上記第一ロッド33がシフトレバー32を介してその軸方向、即ちS2−S2′方向に移動することになる。また、運転者がチェンジ操作レバーをシフト操作すると、シフトケーブル32aに連結されたシフトレバー32がT1−T1′方向に回動し、第一ロッド33がその軸廻りであるT2−T2′方向に回動することになる。
【0038】
また、図2、図3に示すように、第一ロッド33の下部には、曲がりながら第二ロッド34方向に延びると共に二股状の先端部にピン40が設けられた第一レバー41が固定されている。この第一レバー41は、第一ロッド33が軸方向へ移動又は軸廻りに回動した際には、一体的に移動又は回動するようになっている。
【0039】
前述の第二ロッド34は、変速機ケーシング10に下端がピンで固定されている。また、この第二ロッド34は、第一レバー41方向に延びて第一レバー41のピン40に回動自在に係合する二股状の先端部を有する第二レバー42を、軸方向の移動又は軸廻りの回動が可能となるように支持している。
【0040】
このため、第一レバー41が第一ロッド33を中心としてT2−T2′方向に揺動した際には、第二レバー42が第二ロッド34を中心としてT3−T3′方向に揺動すると共に、第一レバー41が軸方向、即ちS2−S2′方向に移動した際には、第二レバー42が第二ロッド34の軸方向、即ちS3−S3′方向に移動することになる。
【0041】
また、第二レバー42の突設部42aに設けた凹部43には、上記コントロールロッド35上にピンで固定した係合部材44の球状突設部44aが摺動自在に係合している。
【0042】
このため、第二レバー42が軸方向(S3−S3′方向)に移動したときには、コントロールロッド35は軸廻り、即ちS4−S4′方向に回動し、第二レバー42が軸廻り(T3−T3′方向)に回動したときには、コントロールロッド35は軸方向、即ちT4−T4′方向に移動することとなる。
【0043】
また、このコントロールロッド35上には、図5に示すように、セレクト操作(S4−S4′方向の回動)により、シフトフォーク36,37,38のゲート部36a、37a、38aのいずれかに係合し、シフト操作(T4−T4′方向の移動)により、そのシフトフォーク36,37,38のいずれかを択一的に軸方向に移動させるゲート機構45を設けている。
【0044】
つまり、この変速操作機構30の動作についてまとめると、運転者がチェンジ操作レバー(図示せず)をセレクト操作したときに、コントロールロッド35が軸廻り(S4−S4′方向)に回動して、シフトフォーク36,37,38のいずれかが選択され、チェンジ操作レバーをシフト操作したときに、コントロールロッド35が軸方向(T4−T4′方向)に移動して、この選択されたシフトフォークが択一的に軸方向に移動し、これにより、シフトフォークに係合する同期装置が作動して、変速ギア列が非伝動状態から、伝動状態に移行することになる。こうして、変速機1の変速操作が行われることになる。
【0045】
次に、この実施形態のニュートラルスイッチ50の設置構造について説明する。
一般に、変速機のニュートラルスイッチは、エンジン制御を行なうエンジン制御ユニットに対して、変速機のニュートラル状態を検出して、ニュートラル信号を送信する。このため、ニュートラルスイッチには、できるだけ変速機のニュートラル状態を正確且つ迅速に検出することが求められる。
【0046】
この実施形態では、図4に示すように、前述のコントロールロッド35の前端部にクラッチハウジング2の支持部23よりも変速機前方側に延びる延設部35aを設け、その延設部35aに対応するクラッチハウジング2に形成した収容凹部24内に、ニュートラル状態を検出するニュートラルスイッチ50を設置して、コントロールロッド35の動作(位置)によって変速機1のニュートラル状態を検出するように構成している。
【0047】
このため、変速機1のニュートラル状態を、直接、変速動作を司るコントロールロッド35から検出することができ、精度よくニュートラル信号を得ることができる。
【0048】
また、このニュートラルスイッチ50は、先端部に出没自在の凸状のセンシング部51を備え、その周囲にクラッチハウジング2の開口孔25に締結されるオネジ部52を備え、その後方位置に六角部53を備え、さらにその後端部にハーネス取付け部54を備えている。
【0049】
そして、コントロールロッド35の延設部35aに、前記センシング部51が当接する凹凸面のカム部55を形成し、コントロールロッド35がシフト操作(T4−T4′方向の移動)された場合には、凸状のセンシング部51の当接位置を変化させて出没させることにより、ニュートラルスイッチ50が変速機1のニュートラル状態を検出できるように構成している。なお、図4に示したコントロールロッド35の位置は、ニュートラル状態の位置を示している。
【0050】
また、クラッチハウジング2には、このコントロールロッド35の延設部35aを収容する円筒有底形状の袋状凹部26を形成している。この袋状凹部26の開口近傍によって、前述のコントロールロッド35の支持部23を構成している。
【0051】
さらに、この支持部23の内周面には、コントロールロッド35との間の摺動抵抗を低減する軸受ブッシュ56を介装している。これにより、袋状凹部26は、変速ギア等が収容されたギア空間Gから隔離されることになり、袋状凹部26内にミッションオイルが流れ込みにくくなる。
【0052】
また、この袋状凹部26を形成したことで、クラッチ収容部21内に膨出部27が形成されることになるが、クラッチ装置5の外側部分に対応するデッドスペースの位置で膨出しているため、クラッチ装置5に悪影響を与えることはない。
【0053】
このコントロールロッド35の延出部35aの隣接位置には、図4に示すように、前述の係合部材44を設置しているが、この係合部材44には、チェンジ操作に節度感を与えるディテント機構60と、コントロールロッド35のセレクト・シフト位置を案内するガイド機構70とを設けている。
【0054】
まず、ディテント機構60は、クラッチケーシング2の外部から内部に貫通する孔に嵌合される筒状部材61と、その筒状部材の内側に内嵌される蓋状部材62と、蓋状部材61を係合部材44側に付勢するバネ部材63と、蓋状部材62の先端凹部に自由回動可能なボール64とを備え、このボール64を、係合部材44に設けた複数の凹部65・・・(荷重特性設定部)に押圧状態で係合させることにより、変速操作時に、ボール64が凹部65間を乗り越えることで節度感を発生するように構成している。
【0055】
また、ガイド機構70は、クラッチハウジング2の内面に固定ボルト71で固定されるガイドプレート72と、ガイドプレート72に形成したシフトパターン溝72aに係合するガイドピン73と、ガイドピン73を固定した係合部材44の腕部74とを備え、ガイドプレート72に形成した所定のシフトパターン溝によって、コントロールロッド35の動作位置(移動位置)を案内するように構成している。
【0056】
このように、コントロールロッド35上に設けた係合部材44に、ディテント機構60とガイド機構70を設けたことにより、より確実にガタツキなく、コントロールロッド35の位置が規定される。よって、コントロールロッド35の動作を検出してニュートラル状態を検出する本実施形態において、ニュートラル状態の検出精度が高まる。
【0057】
また、その係合部材44の設置位置がニュートラルスイッチ50に隣接していることで、コントロールロッド35の経年変化、弾性変形、熱変形等による軸方向長さの変化の影響も受けにくく、また係合部材44とニュートラルスイッチ50との間にコントロールロッド35に負荷を与えるシフトフォーク等も設置していないため、さらにニュートラルスイッチ50の検出精度が高まる。
【0058】
このニュートラルスイッチ50は、図6に示すように、変速機1を車両に搭載した状態では、変速機ケーシング10の下面部に位置するように設置している。
【0059】
すなわち、車両に搭載した状態で変速機1は、車両前部(図6で左側が車両前方)のエンジンルームERに横置き配置したエンジン(図6では図示せず)の側方に、横置き配置(プライマリーシャフト7等を車幅方向に延びるように配置)されており、コントロールロッド35が変速機1の下部に位置することから、ニュートラルスイッチ50を変速機ケーシング10の下面部10aに配設しているのである。
【0060】
また、このニュートラルスイッチ50は、前述のようにクラッチハウジング2の外表面に形成した収容凹部24内に設置していることから、変速機ケーシング10の下面部10aから離間した奥まった位置に設置されることになる。このことは、クラッチハウジング2の外表面に立設した複数の補強リブ28…(図7参照)が存在することと相俟って、路面Rに近接した位置に設置したニュートラルスイッチ50を、路面Rから確実に保護することになる。
【0061】
さらに、このニュートラルスイッチ50の設置角度は、図6に示すように、やや車両後方側に傾斜(傾斜角α)して、変速機ケーシング10の外表面の接線T方向側に傾くようにしている。これにより、ニュートラルスイッチ50から変速機1外方側に突出して延びるハーネス56を、大きく屈曲させることなく変速機ケーシング10の外表面に沿わすことができる。特に、路面Rに近接したニュートラルスイッチ50近傍のハーネス56aの突出を防ぐことができる。
【0062】
また、このように設置角度を傾斜させて、ニュートラルスイッチ50を設置していることで、図7に示すように、クラッチハウジング2をエンジンのシリンダーブロックEに締結する際に、取付けボルト80の締結治具81(一点差線で示す)と、ニュートラルスイッチ50との干渉を防ぐことができる。
【0063】
このため、予めニュートラルスイッチ50を変速機1に装着(サブアッセンブリ)した状態で、変速機1をエンジンに組み付けることができる。
【0064】
なお、図6に示す57は、ニュートラルスイッチ50のハーネス56を変速機1に係止固定する係止クリップ部材であり、58はハーネス56をエンジン制御ユニットに組み付けるためのコネクターである。
【0065】
次に、このように構成された本実施形態の作用効果について説明する。
この実施形態では、クラッチハウジング2に形成され、コントロールロッド35を支持する支持部23と、コントロールロッド35に形成され、この支持部23を越えてクラッチハウジング2側に延びる延設部35aと、この延設部35aに対応するクラッチハウジング2に配設され、コントロールロッド35の動作を検出して変速機1のニュートラル状態を検出するニュートラルスイッチ50とを備えるものである。
【0066】
上記構成によれば、クラッチハウジング2の支持部23を越えたコントロールロッド35の延設部35aで、ニュートラルスイッチ50がコントロールロッド35の動作を検出して、変速機1のニュートラル状態を検出することになる。
このため、コントロールロッド35をエンドカバー4側に延長することなく、クラッチハウジング2側に延ばした延設部35aで、コントロールロッド35の動作を検出することができる。
このように、クラッチハウジング2側にコントロールロッド35を延設してニュートラルスイッチ50でニュートラル状態を検出することで、クラッチ装置5の外側部分にあるデッドスペースを有効に利用して、ニュートラルスイッチ50を配置でき、変速機1の大型化を防止することができる。
よって、変速機1の変速操作機構30において、ニュートラルスイッチ50を設置するにあたり、ニュートラルスイッチ50の検出精度を高めつつ、変速機1の大型化を防いで、変速機1をコンパクトに構成することができる。
【0067】
なお、この実施形態のニュートラルスイッチ50の代わりに、変速機1の変速段位を検出する変速段位スイッチや、後退段位を検出をリバーススイッチを設置してもよい。
【0068】
また、この実施形態では、クラッチハウジング2に、コントロールロッド35の支持部23とコントロールロッド35の延設部35aを収容する部分からなる袋状凹部26を形成し、この支持部23とコントロールロッド35の間に軸受ブッシュ56を設けている。
【0069】
これにより、コントロールロッド35の延設部35aは、袋状凹部26と軸受ブッシュ56によって変速機ケーシング10内のギア空間Gから隔離された密閉空間内に位置することになり、ミッションオイルが付着しにくくなる。
このため、延設部35aに当接するニュートラルスイッチ50にも、ミッションオイルが流れ込みにくくなり、ニュートラルスイッチ50内には、ミッションオイルに含まれる鉄粉等が混入しにくくなる。
よって、所謂コンタミネーション(目詰まり)によるニュートラルスイッチ50の故障が防止でき、ニュートラルスイッチ50の信頼性を向上することができる。
【0070】
また、この実施形態では、コントロールロッド35の延設部35aに形成した凹凸面を有するカム部55と、そのカム部55に当接する凸状のセンシング部51とで、ニュートラル状態を検出するように構成している。
このように、ニュートラル状態を検出する構造を、延設部35aの凹凸面のカム部55と凸状のセンシング部51で構成しても、延設部35aが袋状凹部26の密閉空間に位置しているため、ミッションオイルに含まれる鉄粉が凹凸面のカム部55と凸状のセンシング部51との間に挟み込まれるおそれがない。
よって、凹凸面のカム部55と凸状のセンシング部51とによって構成される検出構造の検出精度を、より安定して高めることができる。
【0071】
また、この実施形態では、コントロールロッド35上に設置した係合部材44に、荷重特性設定部(複数の凹部)65を設け、その荷重特性設定部65に常時当接するように押圧付勢されたボール64を有するディテント機構60をクラッチケーシング2に設けている。
これにより、変速操作を行った際のコントロールロッド35の位置がより確実に規定され、また、ディテント機構60をニュートラルスイッチ50と同じクラッチケーシング2に設けたことで、ニュートラルスイッチ50とディテント機構60との相対的な位置ズレも生じない。
よって、コントロールロッド35の動作を、さらに精度よく検出することができ、ニュートラルスイッチ50の検出精度をより高めることができる。
【0072】
また、この実施形態では、荷重特性設定部65を設けた係合部材44を、コントロールロッド35の延設部35aに隣接して設置している。
これにより、ニュートラルスイッチ50は、コントロールロッド35自体の経年変化、弾性変形、熱変形等による軸長変化の影響を受けることなく、コントロールロッド35の動作を確実に検出できる。
よって、ニュートラルスイッチ50は、より正確に精度よく、コントロールロッド35の動作位置を検出することができる。
【0073】
また、この実施形態では、ニュートラルスイッチ50を、クラッチハウジング2の外表面に形成した収容凹部24内に設置している。
これにより、ニュートラルスイッチ50を変速機に装着した状態で、ニュートラルスイッチ50は、変速機ケーシング10の外表面から外方へ大きく突出しないため、収容凹部24周縁のクラッチハウジング2で保護されることになり、ニュートラルスイッチ50の脱落や損傷のおそれを可及的に防止することができる。
よって、ニュートラルスイッチ50の耐久性及び信頼性を向上することができる。
【0074】
また、この実施形態では、ニュートラルスイッチ50の設置位置を、ニュートラルスイッチ50をクラッチハウジング2に装着した状態で、取付けボルト80の締結治具81と干渉しない部位、具体的には、変速機ケーシング10の下面部10aでやや車両後方側に傾斜した位置に設定している。
これにより、ニュートラルスイッチ50を変速機1に装着した状態で、クラッチハウジング2をエンジンのシリンダブロックEに取付ける際に、取付けボルト80の締結治具81がニュートラルスイッチ50に干渉せず、変速機1のエンジンへの組付け性を向上することができる。
よって、ニュートラルスイッチ50を予め変速機に装着した状態であっても、変速機1をエンジンへ組付けることができ、変速機の組付け性を向上することができる。
【0075】
また、この実施形態では、ニュートラルスイッチ50の設置角度(傾斜角α)を、クラッチハウジング2の外表面の接線方向に傾斜させている。
これにより、ニュートラルスイッチ50から延びるハーネス56を、大きく屈曲させることなくクラッチハウジング2の外表面に沿わせて配設することができる。
よって、ニュートラルスイッチ50のハーネス56のクラッチハウジング2外表面からの突出量を、ハーネス56を大きく屈曲させることなく可及的に抑えることができ、ハーネス56に負荷をかけることなく、変速機1をコンパクトに構成することができる。
【0076】
なお、この実施形態では、ニュートラルスイッチ50をクラッチハウジングに形成した収容凹部24内に設置しているが、クラッチハウジングの形状に応じては、収容凹部を形成することなく、そのままクラッチハウジングにニュートラルスイッチ50を設置してもよい。
このように、収容凹部24を設けずにニュートラルスイッチ50を設置した場合には、ニュートラルスイッチのクラッチハウジングでの保護という効果を得ることができないが、ニュートラルスイッチの組付け性やメンテナンス性を向上できるという効果を得ることができる。
【0077】
また、ニュートラルスイッチ50の設置角度も傾斜させることなく、そのまま、鉛直に設置してもよい。この場合にも、ニュートラルスイッチの組付け性やメンテナンス性を向上できるという効果を得ることができる。
【0078】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明の変速機ケースは、ミッションケース3に対応し、
以下、同様に、
コントロールロッド支持部は、支持部23に対応し、
変速スイッチは、ニュートラルスイッチ50対応し、
ブッシュは、軸受ブッシュ56対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる変速機の変速操作機構に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の変速操作機構が採用された変速機の縦断断面図。
【図2】変速機を後面から透視した変速操作機構周辺の要部後面図。
【図3】図2のA−A線矢視断面図。
【図4】図3の要部詳細図。
【図5】図3のB−B線矢視断面図。
【図6】変速機を車両に搭載した状態でのハーネスの取り回しを説明する説明図。
【図7】ニュートラルスイッチの取り付け状態を変速機下方から見た底面図。
【符号の説明】
【0080】
E…エンジンのシリンダブロック
1…変速機
2…クラッチハウジング
3…ミッションケース
5…クラッチ装置
23…支持部
24…収容凹部
26…袋状凹部
35…コントロールロッド
35a…延設部
50…ニュートラルスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダブロックに連接され、エンジンの出力軸と変速機の入力軸を断接するクラッチ装置を収容するクラッチハウジングと、該クラッチハウジングに連接され、変速機構を収容する変速機ケースと、前記変速機構を切換え動作するシフトフォークと、該シフトフォークに運転者の変速操作を伝達するコントロールロッドとを備えた変速機の変速操作機構であって、
前記クラッチハウジングに形成され、前記コントロールロッドを支持するコントロールロッド支持部と、
前記コントロールロッドに形成され、該コントロールロッド支持部を越えてクラッチハウジング側方向に延びる延設部と、
前記クラッチハウジングにおける前記延設部に対応する位置に配設され、コントロールロッドの動作を検出して変速機の変速状態を検出する変速スイッチとを備えた
変速機の変速操作機構。
【請求項2】
前記クラッチハウジングに形成され、前記コントロールロッド支持部と前記コントロールロッドの延設部を収容する部分からなる袋状凹部と、
前記コントロールロッド支持部と前記コントロールロッドの間に設けるブッシュとを備えた
請求項1記載の変速操作機構。
【請求項3】
前記コントロールロッドの延設部に形成され、該コントロールロッドの軸方向に凹凸面を有するカム部と、
前記変速スイッチに設けられ、該カム部に当接する凸状のセンシング部とを備えた
請求項2記載の変速機の変速操作機構。
【請求項4】
前記コントロールロッド上に、該コントロールロッドの軸方向に凹凸面を有するように設置されたディテント荷重特性設定部と、
前記クラッチハウジングに設置され、該ディテント荷重特性設定部に常時当接するように押圧付勢されたディテント部材とを有するディテント機構を備えた
請求項1記載の変速機の変速操作機構。
【請求項5】
前記ディテント荷重特性設定部は、前記コントロールロッドの延設部に隣接して設置された
請求項4記載の変速機の変速操作機構。
【請求項6】
前記変速スイッチは、前記クラッチハウジングの外表面に形成した収容凹部内に設置された
請求項1〜5いずれか記載の変速機の変速操作機構。
【請求項7】
前記クラッチハウジングを前記エンジンのシリンダブロックへ取付ける取付けボルトを備え、
前記変速スイッチの設置位置を、該変速スイッチをクラッチハウジングに装着した状態で、前記取付けボルトの締結治具と干渉しない部位に設定した
請求項1〜6いずれか記載の変速機の変速操作機構。
【請求項8】
前記変速スイッチの設置角度を、クラッチハウジングの外表面の接線方向に傾斜させた
請求項1〜7いずれか記載の変速機の変速操作機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−192353(P2007−192353A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12437(P2006−12437)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】