説明

外部制御式ファンクラッチの制御方法

【課題】 エンジン冷却システムの機能を保証し得る外部制御式ファンクラッチの制御方法を提案すること。
【解決手段】 電磁石により作動させる弁部材をラジエーター冷却液温度、ファン回転速度、トランスミッションオイル温度、車速、エンジン回転速度、エアコンディショナーのコンプレッサー圧力および同エアコンディショナーのOnまたはOff信号の少なくとも1つの信号に基づいてPID制御により開閉制御する方法において、ファン回転速度センサーの誤作動が一時的に発生した場合、1スキャン前のファン回転速度データに基づいてPID演算を行い、制御信号を演算することでファン回転を安定させ、また、ファン回転速度センサー系統が故障した場合、ファン回転速度をゼロrpmとしてPID演算を行い、演算後の制御出力が常に100%となるようにしてエンジンの冷却性能を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に自動車等における内燃機関冷却用のファン回転速度を外部周囲の温度変化あるいはエンジンの回転速度変化に追従して制御する方式の外部制御式ファンクラッチの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の外部制御式ファンクラッチとしては、先端に駆動ディスクを固着した回転軸体上に、軸受を介して支承された非磁性体のケースと該ケースに取着されたカバーとからなる密封器匣の内部を、仕切板により油溜り室と、前記駆動ディスクを内装するトルク伝達室とに区劃し、回転時の油の集溜する駆動ディスクの外周壁部に対向するカバーの内周壁面の一部にダムと、これに連なってトルク伝達室と油溜り室間に形成された油循環流通路を開閉する磁性を有する弁部材を油溜り室内に備え、前記密封器匣の油溜り室側に電磁石を前記回転軸体に軸受を介して支持し、該電磁石により前記弁部材を作動させて油循環流通路を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御する方式となした外部制御式ファンクラッチ(特許文献1、2、3参照)において、前記弁部材をラジエーター冷却液の温度、ファン回転速度、トランスミッションオイル温度、車速、エンジン回転速度、エアコンディショナーのコンプレッサー圧力および同エアコンディショナーのOnまたはOff信号の少なくとも1つの信号に基づいてPID制御(比例、微分、積分によるフィードバック制御方式)により開閉制御するものと、前記と同様の、電磁石により弁部材を作動させて油循環流通路を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御する方式となし、かつ前記電磁石と弁部材との間にリング形状の磁性体を配置し、電磁石の磁束が該磁性体を介して弁部材に伝達されるごとく該磁性体を密封器匣に組込んだ構成となした外部制御式ファンクラッチにおいて、エンジン側から要求される最適ファン回転速度に上限回転速度を設定するか、またはエンジン回転速度とファン回転速度および前記最適ファン回転速度との差速に基づいてファン回転速度制御信号を一時的に停止するか、あるいはエンジン回転加速度またはアクセル(スロットル)ポジション加速度に基づいてファン回転速度制御信号を一時的に停止(カット)するか、または前記最適ファン回転速度の変化率に基づいて当該最適ファン回転速度の変化率に制限を与え、PID制御(比例、微分、積分によるフィードバック制御方式)によりファンクラッチを制御するものがある(特許文献4参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2911623号
【特許文献2】特開2003−239741号公報
【特許文献3】特開平9−119455号公報
【特許文献4】特願2004−113606号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した特許文献1〜4等に記載されているのは、該ファンクラッチを制御する際にファン回転センサーからの信号にプラスやマイナスのノイズが乗る等に起因して一時的に誤作動したり、センサー自身がショートや断線により故障したり、ケーブルの断線やコネクターの外れ等が発生した場合、これらのトラブルに対応する機能を備えていないため、ファン回転の制御性が不安定になったり、ファン回転制御が不能となりオーバーヒートに至る可能性があり、ファンクラッチの動作の信頼性に問題があった。
【0005】
本発明は、特にファン回転の制御方式にPID制御を採用する外部制御式ファンクラッチの制御方法における前記問題を解消するためになされたもので、外部制御式ファンクラッチ制御システム中にファン回転センサー系統の異常判定システムを組込むことにより、エンジン冷却システムの機能を保証し得る外部制御式ファンクラッチの制御方法を提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る外部制御式ファンクラッチの制御方法は、電磁石により弁部材を作動させて油循環流通路を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御する方式となした外部制御式ファンクラッチのファン回転センサーの一時的な誤作動(プラスやマイナスのノイズ等が信号に乗る時)あるいは故障等のトラブルをファン回転データから判断し、状況に応じて仮想ファン回転速度を設定しPID演算を行い制御信号を出力するもので、その要旨は、前記ファンクラッチの弁部材をラジエーター冷却液温度、ファン回転速度、トランスミッションオイル温度、車速、エンジン回転速度、エアコンディショナーのコンプレッサー圧力および同エアコンディショナーのOnまたはOff信号の少なくとも1つの信号に基づいてPID制御(比例、微分、積分によるフィードバック制御方式)により開閉制御する方法において、ファン回転速度センサーの計測結果より、
(1)タイムtのファン回転速度(FSt)と、t-1 のファン回転速度(FSt-1 )の関係が、|FSt −FSt-1 |>X(X:ファン回転速度の変化量の絶対値の上限値)の場合、
(2)タイムtのファン回転速度(FSt)が、FSt >FSmaxまたはFSt <FSmin(FSmax:ファン回転速度上限値、FSmin:ファン回転速度下限値)の場合、
前記(1)または(2)が一時的に発生した場合は、FSt=FSt-1 としてPID演算を行い制御信号を出力し、前記(1)または(2)の状態がある時間以上続いた場合は、FSt=ゼロrpmとしてPID演算を行い、制御信号が常時100%となるように出力することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、外部制御式ファンクラッチ制御システム中にファン回転の異常判定システム(ソフトウェア)を組込むことにより、ファン回転センサー系統の一時的な誤作動によるクラッチ動作の信頼性を確保することができ、またファン回転センサー等の故障時のエンジン冷却性能を確保することができ、さらにソフトウェアのみでファン回転センサーの異常判定システムを構築できるので当該システムのシンプル化もはかられ、またさらにセンサーエラーが発生した場合、エンジン冷却システム内の記憶装置に当該エラーを記憶することで、故障時の原因調査が可能になるのみならず、そのエラーを運転者にモニターあるいは信号等で警告してエンジン故障を未然に防ぐことができる等、安全性の確保にも多大な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明に係る外部制御式ファンクラッチ装置の一実施例を示す縦断面図、図2は同上外部制御式ファンクラッチ装置の制御方法を実施するための制御システムの全体構成の一例を示す概略図、図3は同上外部制御式ファンクラッチ装置の制御方法の一実施例を示すフローチャートである。
【0009】
すなわち、図1に示す外部制御式ファンクラッチ装置は、駆動部(エンジン(図示せず))の駆動によって回転する回転軸体(駆動軸)1に、軸受13を介してケース2−1とカバー2−2とからなる密封器匣2が支承され、この密封器匣2内は油供給調整孔8付き仕切板4にて油溜り室5とトルク伝達室6とに区劃され、トルク伝達室6内には回転軸体1の先端に固着された駆動ディスク3が該トルク伝達室の内周面との間にトルク伝達間隙が形成されるように収納されている。
なお、ダム15は回転時の油の集溜する駆動ディスク3の外周壁部と対向するカバー2−2の内周壁面の一部に設けたものであり、ケース2−1に設けられた油回収用循環流通路7へ油を圧送する機能を有するものである。仕切板4に設けられた油供給調整孔8を開閉する油供給用弁部材9は、板バネ9−1とアーマチャー9−2とからなり、ファン回転時に油溜り室5内の油の抵抗を受けにくくするために、弁部材のアーマチャー9−2が回転軸体(駆動軸)1近傍に位置するように板バネ9−1基端部をケース2−1に取付ける。
【0010】
密封器匣2の駆動部側には、回転軸体1に軸受14を介して支承された電磁石支持体12に電磁石11が支持され、かつケース2−1に組込まれたリング状の磁気ループエレメント(磁性体)10が前記弁部材のアーマチャー9−2と対向して取付けられ、前記電磁石支持体12の一部が磁気ループエレメント10に凹凸嵌合されている。すなわち、電磁石11の磁束を効率よく弁部材のアーマチャー9−2に伝えるため、リング状の磁気ループエレメント10を用いて油供給用弁部材9の作動機構を構成している。
【0011】
上記構成のファンクラッチ装置において、電磁石11がOFF(非励磁)の時はアーマチャー9−2が当該板バネ9−1の作用により磁気ループエレメント10より離間することにより油供給調整孔8が閉じられ、トルク伝達室6内への油の供給が停止し、電磁石11がON(励磁)の時はアーマチャー9−2が当該板バネ9−1に抗して磁気ループエレメント10側に吸引されることにより、当該板バネ9−1がケース2−1側に移動して油供給調整孔8が開き、トルク伝達室6内へ油が供給される。
【0012】
次に、上記外部制御式ファンクラッチ装置の制御方法を実施するための制御システムを図2に基づいて説明する。
まず、ラジエーター冷却液温度(エンジン水温)、ファン回転速度、トランスミッションオイル温度、車速、エンジン回転速度、エアコンディショナーのコンプレッサー圧力および同エアコンディショナーのOnまたはOff信号等を主演算制御器22に取込み、該主演算制御器で最適なファン回転速度(ターゲットファン回転速度)を判断する。そして、その最適なファン回転速度を主演算制御器22内のPID演算部へ送り、ここで算出した弁開閉信号に基づいて電源供給装置(PWM装置)21により電源を外部制御ファンクラッチ装置20の電磁石11へ供給し、油供給弁9を開閉させる。この弁開閉による油供給により変動したファン回転速度をセンシングしてデータを主演算制御器22へフィードバックし、再びラジエーター冷却液温度、トランスミッションオイル温度、車速、エンジ
ン回転速度等のデータに基づいて最適なファン回転速度(ターゲットファン回転速度)を判断するシステムとなっている。
上記制御システムにおける電源供給装置(PWM装置)21は、電源が直流であるため、電圧を一定としてパルス幅(通電時間)を制御することにより電力量をコントロールして外部制御ファンクラッチ装置20へ出力する仕組みとなっている。
【0013】
続いて、図2に示す制御システムによる本発明の制御方法を図3に基づいて説明する。
すなわち、車両走行中におけるファン回転速度FSが当該ファン回転速度センサー(図示せず)により計測され、その実測データが主演算制御器22のファン回転異常判定部(ソフトウェア)に取込まれ、ここで前記計測データより、次の(1)(2)に示す誤作動と判断される現象の有無が確認される。

(1)タイムtのファン回転速度(FSt)と、t-1 のファン回転速度(FSt-1 )の関係が、|FSt −FSt-1 |>X(X:ファン回転速度の変化量の絶対値の上限値)の場合。
(2)タイムtのファン回転速度(FSt)が、FSt >FSmaxまたはFSt <FSmin(FSmax:ファン回転速度上限値、FSmin:ファン回転速度下限値)の場合。
そして、前記(1)または(2)が一時的に発生した場合は、ファン回転速度センサーの誤作動と判断され、FSt=FSt-1 としてPID演算部へ入力されて弁開閉信号が算出され、その算出された弁開閉信号(制御信号)が電源供給装置(PWM装置)21へ出力される。一方、前記(1)または(2)の状態がある時間以上続いた場合は、ファン回転速度センサーの故障と判断され、タイムtのファン回転速度(FSt)=ゼロrpmとしてPID演算部へ入力されて弁開閉信号が算出され、その算出された制御信号が常時100%となるように電源供給装置(PWM装置)21へ出力される。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、外部制御式ファンクラッチ装置の制御システム内にファン回転異常判定手段を組込むことにより、一時的なファン回転速度センサー系統の誤作動によるクラッチ動作の信頼性の確保、ファン回転速度センサー故障時のエンジン冷却性能の保証(Failsafe機構)が可能であり、さらに前記センサーエラーが発生した場合、エンジン冷却システム内の記憶装置に当該エラーを記憶することで、故障時の原因調査が可能になるのみならず、そのエラーを運転者にモニターあるいは信号等で警告してエンジン故障を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る外部制御式ファン・カップリング装置の一実施例を示す縦断面図である。
【図2】同上外部制御式ファンクラッチ装置の制御方法を実施するための制御システムの全体構成の一例を示す概略図である。
【図3】同上外部制御式ファンクラッチ装置の制御方法の一実施例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0016】
1 回転軸体(駆動軸)
2 密封器匣
2−1 ケース
2−2 カバー
3 駆動ディスク
4 仕切板
5 油溜り室
6 トルク伝達室
7 油回収用循環流通路
8 油供給調整孔
9 油供給用弁部材
9−1 板バネ
9−2 アーマチャー
10 磁気ループエレメント(磁性体)
11 電磁石
12 電磁石支持体
13、14 軸受
15 ダム
20 外部制御ファンクラッチ装置
21 電源供給装置(PWM装置)
22 主演算制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石により弁部材を作動させて油循環流通路を開閉制御する仕組みとなし、駆動側と被駆動側とのなすトルク伝達間隙部での油の有効接触面積を増減させて駆動側から被駆動側への回転トルク伝達を制御する方式となした外部制御式ファンクラッチの制御方法であって、前記弁部材をラジエーター冷却液温度、ファン回転速度、トランスミッションオイル温度、車速、エンジン回転速度、エアコンディショナーのコンプレッサー圧力および同エアコンディショナーのOnまたはOff信号の少なくとも1つの信号に基づいてPID制御(比例、微分、積分によるフィードバック制御方式)により開閉制御する方法において、ファン回転速度センサーの計測結果より、
(1)タイムtのファン回転速度(FSt)と、t-1 のファン回転速度(FSt-1 )の関係が、|FSt −FSt-1 |>X(X:ファン回転速度の変化量の絶対値の上限値)の場合、
(2)タイムtのファン回転速度(FSt)が、FSt >FSmaxまたはFSt <FSmin(FSmax:ファン回転速度上限値、FSmin:ファン回転速度下限値)の場合、
前記(1)または(2)が一時的に発生した場合は、FSt=FSt-1 としてPID演算を行って制御信号を出力し、前記(1)または(2)の状態がある時間以上続いた場合は、FSt=ゼロrpmとしてPID演算を行い、制御信号が常時100%となるように出力することを特徴とする外部制御式ファンクラッチの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−177163(P2006−177163A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368164(P2004−368164)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000120249)臼井国際産業株式会社 (168)
【Fターム(参考)】