説明

多層プリント回路板の製造

本発明は、多層プリント回路板の製造方法及びそれにより形成された物品、特にIC基板に関する。本発明による方法は、個々のプロセスステップにおいて、無機ケイ酸塩及びオルガノシラン結合混合物を利用して、銅の層と誘電性材料との間の付着を提供する。前記方法は、多層プリント回路板及びIC基板の高められた接着強度、改善された機械抵抗及び熱応力耐性並びに耐湿性をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プリント回路板、IC基板、高周波用のプリント回路板及びフレキシブル基板を形成する方法;それにより得ることができる多層プリント回路板及びIC基板、オルガノシラン結合混合物及び少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる組成物を用いる処理に関する。多層PCB及びIC基板は、典型的には、画像化された導電性層、例えば銅を含有する導電性層の間に誘電層、例えば部分的に硬化されたBステージ樹脂、すなわちプリプレグを差込んで多層サンドイッチにし、これがついで熱及び圧力を適用することで一緒に結合されることによって組み立てられる。滑らかな銅表面を有する導電性層はプリプレグに十分に結合しないので、粗い銅表面が誘電体へのより良好な結合を得るために使用されていた。故に、一部の多層PCB工業は、より良好な結合を保証するために機械的又は化学的な粗にするプロセスステップを適用する。しかしながら、回路パターンが微細になればなるほど、この表面製造中に導体トレースを物理的に損傷させるリスクがますます増加する。導電性層と誘電層との間の結合を改良するために前記工業により使用される他のプロセスは、良好な界面付着を保証するために、めっき工業において広範に実施される多様な銅表面酸化法である。
【0002】
選択的なプロセスにおいて、オルガノシランは、銅表面とプリプレグ表面との間の付着を増加させるのに利用される。前記オルガノシランは銅表面上へ薄層で堆積され、かつ積層中にオルガノシラン分子は、エポキシ、すなわちプリプレグ表面に結合する。前記オルガノシランと銅表面との間の付着を増加させるために、前記銅表面は、オルガノシランと反応するスズのような金属でプレコートされる。適切に施与された場合には、オルガノシラン処理は極めて安定であり、かつ化学的攻撃及び層間剥離に対して耐性である。オルガノシランプロセスは、それがインラインプロセスシステムにおいて搬送されることができるという利点を有する。
【0003】
欧州特許(EP-B1)第0 431 501号明細書には、オルガノシラン結合混合物が酸化されたスズ表面に施与されることによる、多層プリント回路板を製造する方法が開示されている。前記方法はファインラインIC基板の製造においていかない。
【0004】
欧州特許出願公開(EP-A1)第1 978 024号明細書には、多層プリント回路板を製造するための、オルガノシラン及びコロイドシリカ粒子の多様な混合物並びにアルカリ性ケイ酸塩及びコロイドシリカを含んでなる結合混合物が開示されている。
【0005】
特開(JP)2007-10780号公報には、多層プリント回路板の製造方法が開示されており、前記方法においてオルガノシラン結合剤は、例えばパラジウムの層上へ施与される。
【0006】
先行技術に記載された方法の主要な弱点は、オルガノシラン層が、一部の環境において及び≦20μmのフィーチャサイズを有するIC基板の製造においてうまくできず、かつSAP技術(Semi-Additive Process、セミアディティブ法)を用いて製造されることである。
【0007】
発明の概要
故に、本発明の目的は、多層プリント回路板又はIC基板、特に極めて微細な回路構造を有するSAP技術により製造された多層プリント回路板又はIC基板を形成する方法を提供することである。前記方法は次のステップ:
(a)導電性の銅回路を誘電層支持体の表面上に形成するステップ、その際前記回路は少なくとも4μmの厚さを有する;
(b)銅回路上に、スズの酸化物、水酸化物又はそれらの組合せの層を、銅回路へのスズの施与により形成させるステップ、それにより施与中に又はその後に、施与されたスズは、その表面上で酸化物、水酸化物又はそれらの組合せに変換される。好ましくは、酸化物、水酸化物又は組合せの層は、厚さが40μm以下である;
(c)少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる混合物を、ステップ(b)において形成され、酸化物、水酸化物又はその組合せの表面に又は絶縁層に施与して、銅回路に結合させるステップ、その際に、絶縁層は部分的に硬化された熱硬化性ポリマー組成物を含んでなる;
(d)オルガノシラン結合混合物を、ステップ(c)において形成され、少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる層に施与するステップ;
(e)ステップ(a)、(b)、(c)及び(d)を繰り返すステップ;
(f)ステップ(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)により形成された材料を結合させて単品にするステップ、それによりオルガノシランコーティングは、少なくとも1種の無機ケイ酸塩の層と絶縁層との間に存在し、それにより結合中に部分的に硬化された絶縁層が硬化される;かつ任意に
(g)多数のホールを、ステップ(f)において形成された結合品を貫通して形成するステップ;
(h)スルーホールの反対の開口部から導電性パスを形成するためにスルーホールの壁をメタライゼーションして、多層回路板を形成するステップ
を含んでなり;
前記方法は、オルガノシラン結合混合物が、次のもの:
(i)式I
【化1】

[式中、Aは炭素原子1〜8個を有するアルキレンであり、Bはヒドロキシル又は炭素原子1〜8個を有するアルコキシであり、かつnは1、2又は3の整数であり、ただし、nが1又は2である場合には、それぞれBは同一である必要はない]で示される構造を有する少なくとも1種のウレイドシラン;及び
(ii)式II及び式IIIの構造
【化2】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は互いに独立して、炭素原子1〜8個を有するアルキルであり、かつRは炭素原子1〜8個を有するアルキレン基を表す]、及び
Si(OR74 式III
[式中、R7は、メチル、エチル及びプロピルからなる群から選択される]を有する化合物
及び式II及びIIIを有する化合物の混合物
からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤
を含んでなることにより特徴付けられており、
かつ式Iの構造を有する少なくとも1種のウレイドシラン及び少なくとも1種の架橋剤の全濃度が1g/l〜50g/lであり、かつ上記方法により得ることができる回路板及びIC基板に関する。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明は、請求項1に定義されたとおりの多層プリント回路板又はIC基板を形成する方法に関する。前記回路板は、銅回路を支持する誘電性材料の交互層を有し、これらは中間層を貫通して絶縁層に付着される。前記回路板は、前記板の全厚を横切り電気パスを形成するスルーホールを有する。
【0009】
本発明による方法は、50μm及びそれどころか25μm又はそれ未満の高密度相互接続(HDI)フィーチャサイズを有するファインラインレジスト構造を有する回路に特に適している。
【0010】
IC基板は通常、SAP技術を用いて製作され、かつ≦20μmのラインフィーチャサイズ及びスペースフィーチャサイズを有する。IC基板は、アセンブリにおける他の電子部品と組み合わせて、電子機器の機能を制御する、ICパッケージの基本部品である。ICパッケージは、シングルチップモジュール(又はSCM)及びマルチチップモジュール(又はMCM)へおおざっぱに分類されることができ、その際に、前者は1個のICチップを含有し、かつ後者はマルチプルチップ及び他の電子デバイスを含有する。
【0011】
多層回路板又はIC基板の形成において、数十の(several dozen)導電層及び非導電層が使用されることができる。また、多層回路板又はIC基板の形成のためには、ホールをあけることが必要であり、かつ欠陥は層の層間剥離のために、ホールのすぐそばを包囲する領域中に生じうる。欠陥が前記層の1つ中に存在するか又は層間剥離が起こる場合に、一般的に、前記板又はIC基板全体がスクラップされなければならない。故に、プリント回路板又はIC基板の形成のステップのそれぞれにおける高い品質は、商業生産にとって本質的である。前記技術を用いて、多様な物品が形成されることができる。例示的に、ある物品は、順番に、誘電層、スズ及びその下にあるスズの酸化物、水酸化物又はそれらの組合せの層を有する銅回路、少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる層、オルガノシラン結合混合物の層、絶縁層、第二誘電層、スズ、その下にあるスズの酸化物、水酸化物又はそれらの組合せの第二層を有する第二銅回路、少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる第二層、オルガノシラン結合混合物の第二層及び第二絶縁層を含有していてよい。上記物品において、(第一)絶縁層は、第二誘電層に直接又は接着層を介して、接触されることができる。そのような接着剤は、当工業界において十分知られており、例えば高温エポキシである。選択的な物品において、第二誘電層は、同じ順序を有する他の全ての層を有して存在しなくてもよい。本発明のさらなる選択的な実施態様において、反対の表面上で銅回路を有する誘電層が存在していてよい。その後、反対の表面上で、多様な層が、任意に、スズとその下にあるスズの酸化物、水酸化物又はそれらの組合せとの層、無機ケイ酸塩、オルガノシラン結合混合物及び絶縁層を含めて、施与される。
【0012】
本発明の方法における出発物質は、一方の表面又は反対の表面上に銅張を有する誘電層である。この銅層は、少なくとも1μm及びより好ましくは15μmの厚さのものであり、かつ導電性回路を形成するために使用される。先行技術において十分知られた技術は、そのような回路を、例えば光感受性レジストフィルムの光画像化技術、引き続き銅の保護されない領域のエッチングにより、形成するのに使用されることができる。適した技術の例は米国特許第3,469,982号明細書に開示されている。誘電層の組成は、電気絶縁体として機能する限りは決定的ではない。有用な担持材料は、米国特許第4,499,152号明細書に開示されており、例えばガラス繊維で強化されたエポキシである。好ましくは部分的に硬化された熱硬化性ポリマー組成物が使用され、これは当工業界においてプリプレグ又は"B"ステージ樹脂として知られる。
【0013】
有用な誘電性基板又は誘電層は、織物ガラス強化材料を部分的に硬化された樹脂、通常エポキシ樹脂(例えば、二官能性、四官能性及び多官能性のエポキシ)に含浸することにより製造されてよい。エポキシ樹脂は特に適している。本発明のオルガノシラン組成物の利点は、それらが基板材料のガラス領域及び樹脂領域の双方への極めて良好な付着を示すことであり、これはしばしば先行技術から知られた組成物に伴う問題である。
【0014】
有用な樹脂の例は、ホルムアルデヒド及び尿素、又はホルムアルデヒド及びメラミンの反応から製造されたアミノ型樹脂、ポリエステル、フェノール樹脂、シリコーン、ポリアミド、ポリイミド、ジアリルフタラート、フェニルシラン、ポリベンゾイミダゾール、ジフェニルオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、シアナートエステル等を包含する。これらの誘電性基板はしばしばプリプレグと呼ばれる。最新世代のエポキシ基板はAjinomoto GX-3及びGX-13であり、これはガラスボール充填剤を含有し、かつ本発明による方法で処理されることもできる。絶縁層及び誘電層は、織物ガラス強化材料を、前記のように部分的に硬化された樹脂に含浸することにより製造されることができる。故に、1又は複数の絶縁層はプリプレグであってもよい。
【0015】
多層プリント回路板又はIC基板の形成において、少なくとも1の表面及び幾つかの絶縁層上に導電性金属コーティング又は金属回路を有する幾つかの誘電層が使用されてよい。
【0016】
導電性回路の形成後に、典型的には、酸化物、水酸化物又はその組合せの薄い外層を形成することが必要である。1.5μm以下及びより好ましくは1.0μm以下の厚さであるこの層は、銅回路の酸化により直接形成されることができる。
【0017】
本発明の一実施態様において、導電性層はスズから形成される。以下により完全に記載されるように、コーティングの施与の好ましい技術は、浸漬金属めっきによるものである。金属層の厚さは決定的ではなく、かつ例えば、0.06〜0.25μmであってよい。スズの施与中及びその後に、酸化物、水酸化物又はそれらの組合せの薄いコーティングが形成される。このコーティングは、極端に薄くてよく、好ましくは1.5μm以下又は一部の場合に厚さが単層のみであるので、空気酸化が使用されることができる。そのような場合に、酸化物/水酸化物は、室温で放置する際に形成されることができ、その際に銅表面は、周囲酸素及び水蒸気と反応する。酸化物/水酸化物の形成のための他の技術は、酸化性水性浴中への浸漬又は暴露を含む。
【0018】
好ましい浸漬スズ塗料組成物は、チオ尿素化合物、スズ塩、還元剤、酸及び尿素化合物を含有する。スズ塩は好ましくは第一スズ塩を含んでなる。無機(鉱)酸又は有機酸の第一スズ塩が使用されてよいけれども(例えば、ギ酸第一スズ及び酢酸第一スズ)、スズ塩は、鉱酸、例えば硫黄、リン、及びハロゲンの酸、特に硫黄の酸、例えば硫酸又はスルファミン酸の第一スズ塩を含んでなってよい。アルカリ金属スズ酸塩、例えばスズ酸ナトリウム又はスズ酸カリウム及び当業者に知られたそれらの等価物が使用されてもよい。一実施態様において、硫酸第一スズ、スルファミン酸第一スズ又は酢酸第一スズがスズ塩として使用される。スズ鉛コーティングが堆積される場合には、酢酸鉛が鉛塩として使用されてよい。使用される酸は、硫黄、リン、又はハロゲンをベースとする有機酸又は無機酸(鉱酸)であってよく、その際に硫黄をベースとする酸、例えば硫酸、メタンスルホン酸(MSA)又はスルファミン酸が好ましい。使用されてよい有機酸の一部は、約6個までの炭素原子を有するモノカルボン酸又はジカルボン酸、例えばギ酸、酢酸、リンゴ酸及びマレイン酸を含んでなる。できればハロゲンの酸又はハロゲン塩を使用しないことが好ましい、なぜなら、ハロゲン化物残留物が、堆積されたスズコーティング中に生じ、その際にこれらの塩は、スズの電気的性質を妨害し、かつコーティング中で腐食性材料としても作用しうるからである。本発明の一実施態様において、浸漬スズ塗料組成物はさらに、少なくとも1種のキレート化剤を含んでなる。特に好ましいキレート化剤は、アミノカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸を含んでなる。これに関して使用されてよい一部の特殊なアミノカルボン酸は、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ニトリロ三酢酸、N−ジヒドロキシエチルグリシン、及びエチレンビス(ヒドロキシフェニルグリシン)を含んでなる。使用されてよいヒドロキシカルボン酸は、酒石酸、クエン酸、グルコン酸及び5−スルホサリチル酸を含んでなる。
【0019】
使用されてよい多様な還元剤は、当工業界において十分知られており、かつ一般的に飽和又は不飽和の、脂肪族又は環式の、10個までの炭素原子を有する、有機アルデヒドを含んでなる。6個までの炭素原子を有する低級アルキルアルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等がこれに関して使用されてよい。特に好ましいアルデヒドは、ヒドロキシ脂肪族アルデヒド、例えばグリセルアルデヒド;エリトロース;トレオース;アラビノース及びそれらの多様な位置異性体及びグルコース及びその多様な位置異性体を含んでなる。グルコースは、より高い酸化状態、例えば、Sn(II)〜Sn(IV)への金属塩の酸化を防止するために、しかしまたキレート化剤として作用することが見出され、かつこれらの理由のために特に有用である。使用されてよい界面活性剤は、任意の非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤又は両性界面活性剤を含んでなる。非イオン界面活性剤が特に好ましい。
【0020】
少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる組成物はステップ(c)においてコーティングとして、酸化スズ、水酸化スズ又は組合せに又は当工業界においてプリプレグ又は"B"ステージ樹脂としても知られている、部分的に硬化された熱硬化性ポリマー組成物のいずれかに施与される。誘電層と同じ構造材料が、この層のために使用されることができ、この層はこれらの層を互いにより容易に区別するために絶縁層と呼ぶ。少なくとも1種の無機ケイ酸塩は、一般式xM2O・SiO2・nH2O[式中、xは1〜4、好ましくは1〜3であり、nは0〜9であり、かつMはNa+、K+及びNH4+からなる群から選択される]により特徴付けられる水溶性無機ケイ酸塩から選択される。少なくとも1種の無機ケイ酸塩の濃度は、0.05g/l〜50g/l、より好ましくは0.5g/l〜10g/lである。任意に、前記混合物は付加的に、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、二塩基性リン酸ナトリウム、三塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸カリウム、三塩基性リン酸カリウム、二塩基性リン酸アンモニウム、三塩基性リン酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム及びトリポリリン酸アンモニウム等からなる群から選択される、少なくとも1種の水溶性リン酸塩を含有する。少なくとも1種の水溶性リン酸塩の濃度は、0.05g/l〜50g/l、より好ましくは0.5g/l〜10g/lである。
【0021】
少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる組成物は、酸化されたスズ表面を有する銅層上へ、任意の常用の手段により、例えばディッピング、吹付け、はけ塗及び浸漬により、堆積される。組成物は、酸化されたスズ表面上へ15℃〜60℃、より好ましくは20℃〜40℃の範囲内の温度で堆積される。
【0022】
本発明の一実施態様において、基板は、少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる組成物中へ5s〜100s、より好ましくは10s〜30sにわたってディッピングされる。
【0023】
さらに他の実施態様において、少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる層は、オルガノシラン結合混合物の堆積前に乾燥されない。
【0024】
次に、本発明によるオルガノシラン結合混合物は、ステップ(d)においてコーティングとして少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる層に施与される。本発明において使用されることができるオルガノシラン結合混合物に向けると、オルガノシラン結合混合物が、付着性の中間層を形成し、これが、少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる層に及び部分的に硬化され、かつ変換された完全に硬化された絶縁層に結合することが要件である。少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる層及びオルガノシラン結合混合物が、本明細書に定義されたような熱応力試験による層間剥離を防止するように機能することが要件である。好ましい態様において、完全に硬化された絶縁層を有する多層回路板は、MIL-P-55110Dの全ての規格に適合する。
【0025】
ウレイドシランが、オルガノシランのシラノール(SIGH)基と水素結合を形成するか及び/又は金属−O−Si共有結合を縮合反応において形成することが考慮される。オルガノシランは、隣接した層と官能基置換された有機基を介して相互作用して、ファンデルワールス力相互作用、強い極性力の水素結合相互作用、又は誘電性樹脂との共有結合形成を提供することが考慮される。架橋剤が、ウレイドシランとネットワーク形成して、生じる付着性のオルガノシラン層の感湿性を低下させることが考慮される。本発明の防湿性で付着性のオルガノシラン層は、その本質的な成分として、
(I)式I:
【化3】

[式中、Aは、炭素原子1〜8個を有するアルキレンであり、Bは、ヒドロキシ又は炭素原子1〜8個を有するアルコキシであり、かつnは、1、2、又は3の整数であり、ただしnが2又は3である場合には、Bは同一である必要はない]による構造を有する少なくとも1種のウレイドシラン;及び
(II)式II
【化4】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は互いに独立して、炭素原子1〜8個を有するアルキルであり、かつRは、炭素原子1〜8個を有するアルキレン基を表す]による構造を有する化合物、式III
Si(OR74 式III
[式中、R7は、メチル、エチル及びプロピルからなる群から選択される]を有する化合物、
及び式II及びIIIを有する化合物の混合物
からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤
を有するオルガノシラン結合混合物から製造される。
【0026】
好ましくは式I中で、1個よりも多いB基が存在する場合には、それぞれB基は同一である。また、好ましくはR1、R2、R3、R4、R5及びR6は同一である。ウレイドシラン中で、アルキレン基、Aは好ましくは、二価のエチレン又はプロピレンであり、かつアルコキシ基、Bは好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基である。特に好ましいウレイドシランは、γ−ウレイドプロピル−トリエトキシ−シランである。式IIによる架橋剤中で、アルキル基は好ましくは、メチル又はエチルであり、かつアルキレン基、Rは好ましくは、二価のエチレン又はプロピレン基である。式IIによる特に好ましい架橋剤はヘキサメトキシジシリルエタンである。シラン結合混合物の成分濃度は、大幅に変えて個々の施与の要件に適合することができる。故に、ウレイドシラン対架橋剤の質量比は、99:1〜1:99であってよい。好ましくは、ウレイドシラン及び架橋剤の質量比は、10:1〜1:1である。典型的には、唯一のウレイドシランが、唯一の架橋剤と共に使用されるが、しかしながら、本発明の範囲内で、シラン結合混合物中で、定義されたような2種又はそれ以上のウレイドシラン及び/又は定義されたような2種又はそれ以上の架橋剤が使用されることができる。本発明の実地において、オルガノシラン結合混合物は、液体溶液として少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる層又は絶縁層表面に施与されてよい。この例において、オルガノシラン結合混合物は、ウレイドシラン及び架橋剤のための相互溶剤を含有する。オルガノシランの全濃度は、1g/l〜50g/l、より好ましくは2g/l〜10g/lである。前記溶液は、任意の常用の手段により、例えば、ディッピング、吹付け、はけ塗及び浸漬により、施与される。
【0027】
前記のように製造された多層プリント回路板又はIC基板は、積層プレスのプレート間で常用の積層温度及び圧力にかけられることができる。このようにして、積層操作は一般的に、1.72MPa〜5.17MPaの範囲内の圧力、130℃〜約350℃の範囲内の温度及び30min〜2hの積層サイクルを含む。選択的に、真空積層法は、IC基板におけるビルドアップフィルムに使用される。積層板は、銅表面上に置かれ、100℃で積層され、かつ3kg/cm2で30sにわたってプレスされる。
【0028】
本発明による方法の利点は、特に高密度相互接続及びIC基板用に、高められた付着、高められた耐酸化性及び高められた防湿性を含む。
【実施例】
【0029】
実験に使用される試験試料は次のものである:
(i)35μmの銅層厚及び310×500mmのサイズを有する0.8mmの厚さの標準FR4材料層から形成されたフル銅ボードパネル
(ii)35μmの銅厚及び200×150mmのサイズを有し、1.6mm厚さのFR4片面構造化面を有する構造化されたボードパネル
(iii)32μmの厚さを有するABFフィルム(Ajinomoto GX13)。
【0030】
試験試料(i)及び(ii)の銅表面を、化学的に洗浄し、浸漬スズ組成物及びオルガノシラン結合混合物で、及び任意にオルガノシラン結合混合物での処理前に無機ケイ酸塩を含んでなる組成物で、インラインスプレーシステムにおいて処理し、かつ欧州特許(EP-B1)第0 431 501号明細書の実施例1に記載された試料A(すなわち、オルガノシラン結合混合物の堆積前の無機ケイ酸塩での処理なし)に対して評価した。
【0031】
全ての例を通じて使用される化学的洗浄及び浸漬スズ組成物での処理は第1表にまとめられている:
【表1】

【0032】
例1〜5において施与されたプロセスステップ(c)〜(d)は第2表にまとめられている:
【表2】

【0033】
全ての実験において、タイプ(i)又は(ii)のパネルを、無機ケイ酸塩及びオルガノシラン結合混合物の施与後に、ABFフィルムと積層する。積層前に、パネルを65℃で5min予熱する。積層を、ホットロールラミネータを用い、ローラー温度100℃で1m/minの積層速度で行う。パネル両面の積層に、2の積層ステップを必要とする。その後、PETカバーフィルムを除去する。
【0034】
積層後に、積層板を空気循環炉中で180℃で30minにわたって硬化させる。
【0035】
次に、全てのパネルを、デスミアプロセスを用いて2回処理し、その後、めっきスルーホールプロセスを適用し、その際に銅を、無電解銅プロセスで堆積させ、かつ電気めっきされた銅10μmで補強する。
【0036】
熱アニールを、銅の電気めっき後に適用する。三段アニールを適用する:第一アニール 180℃で60min、第二アニール 200℃で60min及び第三アニール 200℃で60min。
【0037】
ついで膨れを試料の光学的検査によりカウントする。2つのタイプの膨れが観察される:一方のタイプ スズ層からのABFフィルムの局所的な層間剥離により引き起こされる(すなわち接着促進剤層の不良)、他方のタイプ FR4ベースマテリアルからのめっき銅層の層間剥離により引き起こされる。タイプ1の膨れのみが、例1〜5中で考慮される。
【0038】
例1(比較)
この例において、欧州特許(EP-B1)第0431 501号明細書の実施例1に記載された試料Aと同じ、3−[トリ(エトキシ/メトキシ)シリル]プロピル]尿素1.0質量%及び2−ビス(トリエトキシシリル)エタン0.2質量%を含んでなるオルガノシラン結合混合物を、酸化されたスズ表面上へ堆積させる。ステップ(c)のタイプの処理を適用しない。
【0039】
膨れが観察される。
【0040】
例2(比較)
パネルを、ステップ(d)において3−[トリ(エトキシ/メトキシ)シリル]プロピル]尿素1.0質量%及び2−ビス(トリエトキシシリル)エタン1.0質量%を含んでなるオルガノシラン結合混合物で処理する。ステップ(c)による処理を適用しない。
【0041】
膨れが観察される。
【0042】
例3
例1において使用されたのと同じオルガノシラン結合混合物を適用する。前記オルガノシラン結合混合物を適用する前に、パネルを、段落0007に記載されたプロセス順序のステップ(c)によりメタケイ酸ナトリウム(x=1)2g/lを含んでなる組成物で処理する。
【0043】
膨れは観察されない。
【0044】
例4
パネルを、段落0007に記載されたプロセス順序のステップ(c)によりメタケイ酸ナトリウム(x=1)2g/lを含んでなる組成物で、及びステップ(d)において3−[トリ(エトキシ/メトキシ)シリル]プロピル]尿素1.0質量%及び2−ビス(トリエトキシシリル)エタン1.0質量%を含んでなるオルガノシラン結合混合物で、処理する。
【0045】
膨れは観察されない。
【0046】
例5
この例は、無機ケイ酸塩の層が、オルガノシラン結合混合物の堆積前に前記酸化されたスズ表面上に堆積される場合に、酸化されたスズ表面の湿潤性がどのように、オルガノシラン結合混合物について増加されるかを示す。
【0047】
銅表面を有するFR4基板を、第1表にまとめられたプロセスにより処理する。その後、メタケイ酸ナトリウム(x=1)2g/lを含んでなる組成物を、酸化されたスズ表面上へ堆積させ(T=35℃、t=30sでの堆積)、すすぎ、かつ乾燥させる。洗浄した銅表面、酸化されたスズ表面及びメタケイ酸ナトリウムコートされた酸化されたスズ表面の湿潤性を、グリセリンを試験液として用いる静滴試験(sessile drop-test)法により比較する。
【0048】
100s後のグリセリンに対する接触角は、それぞれ85゜(洗浄した銅表面)、50゜(酸化されたスズ表面)及び35゜(メタケイ酸ナトリウムを含んでなる組成物でコートされた酸化されたスズ表面)である。
【0049】
グリセリンに対して生じる接触角が低ければ低いほど、オルガノシラン結合混合物についての表面の湿潤性はより良好になる。
【0050】
例6
本発明による方法により製造された積層板の湿度に対する高められた耐性は、圧力鍋試験を適用した前後で、銅表面を有するFR4ベース基板とABFフィルムとの間の界面の剥離強さを測定することにより示される。
【0051】
対照試料を、第1及び2表に従うが、しかし無機ケイ酸塩のコーティングを施与することなく製造する。本発明の方法による試料を、第1及び2表に記載されたプロセスに従って製造する。
【0052】
双方の種類の試料をついでJedec Standard JESD22-A102-C(121℃、100% RH、205kPa、24h)による圧力鍋試験にかける。剥離強さを、IPC-TM-650 No.2.4.8に従って測定した。
【0053】
双方のタイプの試料の剥離強さは積層後に13.33N/cmであり、かつ圧力鍋試験後に対照試料については10.75N/cmであり、かつ本発明の方法により製造された試料については11.96N/cmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数個の絶縁層を貫通して一連の導電性層への電気コネクタを形成する導電性スルーホールを含有する多層プリント回路板の製造方法であって、次のステップ:
(a)導電性の銅回路を、誘電層支持体の表面上に形成するステップ、ここで前記回路は少なくとも4μmの厚さを有する;
(b)銅回路上に、スズの酸化物、水酸化物又はそれらの組合せの層を、銅回路へのスズの施与により形成するステップ、それにより施与中又はその後に、適用されたスズはその表面上で酸化スズ、水酸化スズ又はそれらの組合せに変換され、ただし酸化スズ、水酸化スズ又は組合せの層は、厚さが40μm以下であり;
(c)少なくとも1種の無機ケイ酸塩を含んでなる混合物を、ステップ(b)において形成された酸化物、水酸化物又はそれらの組合せの表面に又は絶縁層に施与して、銅回路に結合させるステップ、ここで絶縁層は部分的に硬化された熱硬化性ポリマー組成物を含んでなり;
(d)オルガノシラン結合混合物を、ステップ(c)において形成された酸化物、水酸化物又はそれらの組合せの表面に施与するステップ;
(e)ステップ(a)、(b)、(c)及び(d)を少なくとも1回繰り返すステップ;
(f)ステップ(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)により形成された材料を結合して単品にするステップ、それによりオルガノシランコーティングは酸化物、水酸化物又は組合せの層と絶縁層との間にあり、それにより結合中に部分的に硬化された絶縁層は硬化される
を含んでなり、
シラン結合混合物が、次のもの:
(I)式I
【化1】

[式中、Aは、炭素原子1〜8個を有するアルキレンであり、Bは、ヒドロキシル又は炭素原子1〜8個を有するアルコキシであり、かつnは、1、2又は3の整数であり、ただしnが1又は2である場合には、それぞれBは同一である必要はない]
で示される構造を有する少なくとも1種のウレイドシラン;及び
(II)式II
【化2】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は互いに独立して、炭素原子1〜8個を有するアルキルであり、かつRは、炭素原子1〜8個を有するアルキレン基を表す]で示される構造を有する化合物、式III
Si(OR74 式III
[式中、R7は、メチル、エチル及びプロピルからなる群から選択される]を有する化合物、
及び式II及びIIIを有する化合物の混合物
からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤
から本質的になることを特徴とする、導電性スルーホールを含有する多層プリント回路板の製造方法。
【請求項2】
式Iの構造を有するウレイドシラン、式II及び式IIIの構造を有する架橋剤の全濃度が1〜50g/lである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップ(c)において使用される少なくとも1種の無機ケイ酸塩が、一般式xM2O・SiO2・nH2O[式中、xは1〜4であり、nは0〜9であり、かつMはNa+、K+及びNH4+からなる群から選択される]を有する群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)において使用される組成物がさらに、少なくとも1種の水溶性リン酸塩化合物を含んでなる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種の水溶性のリン酸塩化合物が、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、二塩基性リン酸ナトリウム、三塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸カリウム、三塩基性リン酸カリウム、二塩基性リン酸アンモニウム、三塩基性リン酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム及びトリポリリン酸アンモニウムからなる群から選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種のウレイドシラン及び少なくとも1種の架橋剤の質量比が10:1〜1:1である、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ウレイドシランが3−[トリ(エトキシ/メトキシ)シリル]プロピル]尿素である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
架橋剤が2−ビス(トリエトキシシリル)エタンである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
ステップ(f)の後にさらに次のステップ:
(g)ステップ(f)において形成された結合品を貫通する多数のホールを形成するステップ;
(h)スルーホールの反対の開口部から導電パスを形成するためにスルーホールの壁をメタライゼーションして、多層回路板を形成するステップ
を含んでなる、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2012−524990(P2012−524990A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506446(P2012−506446)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054923
【国際公開番号】WO2010/121938
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(300081877)アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (13)
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D−10553 Berlin, Germany
【Fターム(参考)】