説明

多軸式トランスミッション

【課題】トランスミッションを大型化することなく、多段化することのできる多軸式トランスミッションを提供する。
【解決手段】入力軸6と、第1中間軸7と、第2中間軸9と、第1中間軸7と同軸上に設けられる第3中間軸8と、第2中間軸9と同軸上に設けられる後側出力軸10と、前側出力軸11と、入力軸6上に配され、この入力軸6からの動力を接断するLクラッチ14、Mクラッチ15およびRクラッチ16と、第1中間軸7上に配され、入力軸6からの動力を接断するHクラッチ21および第1速用速度段クラッチ22と、第2中間軸9上に配され、入力軸6からの動力を接断する第2速用変速段クラッチ30および第3速用変速段クラッチ29と、第2中間軸9上に配され、第2中間軸9の出力端に伝達された動力を後側出力軸10および前側出力軸11に伝達するインターアクスルディファレンシャル34とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーティキュレートダンプトラック等の作業車両に用いられる多軸式トランスミッションに関し、より詳しくはインターアクスルディファレンシャルを備えた前進9速後進3速の多軸式トランスミッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、運転室およびエンジンを搭載した前部車体とベッセルを搭載した後部車体とが鉛直軸線を中心に屈折操向できるようにした作業車両としてアーティキュレートダンプトラックが知られている。このアーティキュレートダンプトラックは、旋回半径が小さく、かつ凹凸路における走破性に優れていることから、砕石、鉱山、トンネル工事などにおいて多く使用されている。このアーティキュレートダンプトラックには、多軸式のトランスミッションが搭載されるとともに、エンジンの出力を前輪と後輪とに所定の比率で分配する差動装置であるインターアクスルディファレンシャルが設けられている。このインターアクスルディファレンシャルは、例えば車両の旋回時などに前輪と後輪とで負荷が異なる場合に、前輪と後輪との回転差を吸収するために、タイヤの移動距離に応じて前後輪の回転差をつけることによって、車両の走行をスムーズにする働きをしている。
【0003】
次に、この種従来の多軸式トランスミッションを図3によって説明する。この従来例の多軸式トランスミッション50は、前進6速後進3速(F6R3)のインターアクスルディファレンシャル付きトランスミッションであって、入力軸51と、インターアクスルディファレンシャル52の前側出力軸53および後側出力軸54と、これら入力軸51と出力軸53,54との間に配される第1中間軸55および第2中間軸56とを備えた軸構成とされている。
【0004】
前記入力軸51には、第1ギヤ58が固着されるとともに、FLクラッチ(前進ロークラッチ)59とRクラッチ(後進クラッチ)60とが設けられ、さらにFLクラッチ59の出力側の第2ギヤ61と、Rクラッチ60の出力側の第3ギヤ62とがそれぞれ回転自在に設けられている。
【0005】
前記第1中間軸55には、前記第1ギヤ58と噛み合う第4ギヤ63が回転自在に設けられるとともに、FHクラッチ(前進ハイクラッチ)64と第1速用クラッチ65とが設けられ、これらFHクラッチ64および第1速用クラッチ65用の一体の第5ギヤ66が前記第2ギヤ61と噛み合うように設けられている。さらに、この第1中間軸55には、第6ギヤ67が回転自在に設けられるとともに、第7ギヤ68が固着されている。第7ギヤ68は、アイドル軸57に回転自在に設けられた第8ギヤ69を介して第3ギヤ62と噛み合うよう構成されている。
【0006】
前記第2中間軸56には、第3速用クラッチ70と第2速用クラッチ71とが設けられるとともに、これら第3速用クラッチ70および第2速用クラッチ71用の一体の第9ギヤ72および第10ギヤ73がそれぞれ設けられている。また、前記第2中間軸56には、第3速用クラッチ70の入力用の第11ギヤ74と、第2速用クラッチ71の入力用の第12ギヤ75が回転自在に設けられている。そして、第10ギヤ73が第6ギヤ67と、第11ギヤ74が第5ギヤ66と、第12ギヤ75が第7ギヤ68と、それぞれ噛み合っている。
【0007】
前記出力軸53,54に配されるインターアクスルディファレンシャル52は、第9ギヤ72に噛み合う第13ギヤ76にキャリア77が固定され、このキャリア77に複数個のプラネタリギヤ78が軸支され、これらプラネタリギヤ78に噛み合うリングギヤ79が後側出力軸54に固定される一方、サンギヤ80が前側出力軸53に固定されるとともに、キャリア77と前側出力軸53とのトルク伝達状態を制御するために係合、解放されるクラッチ81が配されて構成されている。
【0008】
なお、トランスミッションにインターアクスルディファレンシャルを一体的に設ける構造は、特許文献1に開示されるように広く知られたものであるが、図3に示されるようなインターアクスルディファレンシャル付き前進6速後進3速トランスミッションの具体的構造が開示された特許文献について、発明者は把握していない。
【0009】
【特許文献1】特開2004−197884号公報
【0010】
ところで、図3に示されているような前進6速後進3速(F6R3)のギヤトレーンを、例えば前進9速後進3速(F9R3)に多段化したい場合、通常は、スピードクラッチが装着された軸を第2中間軸56と、前後の出力軸53,54との間に1軸追加した軸構成を採用することが考えられる。しかしながら、このようにスピードクラッチ付きの軸を1軸追加した場合には、入力軸と出力軸との軸間距離が長くなって、トランスミッションが大型化し、最低地上高が下がってしまうという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、トランスミッションを大型化することなく、多段化することのできる多軸式トランスミッションを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、第1発明による多軸式トランスミッションは、
インターアクスルディファレンシャルを介して結合される2つの出力軸を有する前進9速後進3速の多軸式トランスミッションであって、
入力軸と、
入力軸よりも下方で、入力軸に並列に配される第1中間軸と、
第1中間軸に並列に配される第2中間軸と、
第1中間軸と同軸上に配される第3中間軸と、
第1中間軸と第3中間軸とを接続可能な第1速用変速段クラッチと、
第2中間軸よりも下方で、第2中間軸に並列に配される第1出力軸と、
第2中間軸と同軸上に配される第2出力軸と、
入力軸上に固着される第1ギヤと、
入力軸上に回転自在に配される第2ギヤと、
入力軸と第2ギヤとを接続可能な前進低速用副変速段クラッチと、
入力軸上に回転自在に配される第3ギヤと、
入力軸と第3ギヤとを接続可能な前進中速用副速度段クラッチと、
入力軸に回転自在に配される第4ギヤと、
入力軸と第4ギヤとを接続可能な後進用クラッチと、
第4ギヤに噛み合うアイドル回転用の第5ギヤと、
第1中間軸に固着され、第2ギヤと噛み合う第6ギヤと、
第1中間軸に固着される第7ギヤと、
第1中間軸に固着され、第3ギヤと第5ギヤとに噛み合う第8ギヤと、
第1中間軸上に回転自在に配され、第1ギヤと噛み合う第9ギヤと、
第1中間軸と第9ギヤとを接続可能な前進高速用変速段クラッチと、
第3中間軸に固着される第10ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第7ギヤと噛み合う第11ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第8ギヤと噛み合う第12ギヤと、
第2中間軸に固着され、第10ギヤと噛み合う第13ギヤと、
第2中間軸と第12ギヤとを接続可能な第2速用変速段クラッチと、
第2中間軸と第11ギヤとを接続可能な第3速用変速段クラッチと、
第2中間軸と同軸に配され、第2中間軸の回転を第1出力軸と第2出力軸に伝達するインターアクスルディファレンシャルとを備える
ことを特徴とするものである。
【0013】
また、第2発明による多軸式トランスミッションは、
インターアクスルディファレンシャルを介して結合される2つの出力軸を有する前進9速後進3速の多軸式トランスミッションであって、
入力軸と、
入力軸よりも下方で、入力軸に並列に配される第1中間軸と、
第1中間軸に並列に配される第2中間軸と、
第1中間軸と同軸上に配される第3中間軸と、
第1中間軸と第3中間軸とを接続可能な第1速用変速段クラッチと、
第2中間軸よりも下方で、第2中間軸に並列に配される第1出力軸と、
第1出力軸と同軸上に配される第2出力軸と、
入力軸上に固着される第1ギヤと、
入力軸上に回転自在に配される第2ギヤと、
入力軸と第2ギヤとを接続可能な前進低速用副変速段クラッチと、
入力軸上に回転自在に配される第3ギヤと、
入力軸と第3ギヤとを接続可能な前進中速用副速度段クラッチと、
入力軸に回転自在に配される第4ギヤと、
入力軸と第4ギヤとを接続可能な後進用クラッチと、
第4ギヤに噛み合うアイドル回転用の第5ギヤと、
第1中間軸に固着され、第2ギヤと噛み合う第6ギヤと、
第1中間軸に固着される第7ギヤと、
第1中間軸に固着され、第3ギヤと第5ギヤとに噛み合う第8ギヤと、
第1中間軸上に回転自在に配され、第1ギヤと噛み合う第9ギヤと、
第1中間軸と第9ギヤとを接続可能な前進高速用変速段クラッチと、
第3中間軸に固着される第10ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第7ギヤと噛み合う第11ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第8ギヤと噛み合う第12ギヤと、
第2中間軸に固着され、第10ギヤと噛み合う第13ギヤと、
第2中間軸と第12ギヤとを接続可能な第2速用変速段クラッチと、
第2中間軸と第11ギヤとを接続可能な第3速用変速段クラッチと、
第1出力軸および第2出力軸と同軸に配され、第13ギヤから伝達される第2中間軸の回転を第1出力軸と第2出力軸に伝達するインターアクスルディファレンシャルとを備える
ことを特徴とするものである。
【0014】
本発明において、インターアクスルディファレンシャルは、前記第2速用変速段クラッチおよび前記第3速用変速段クラッチに対して、中壁を挟んで反対側に配置されるのが好ましい(第3発明)。
【0015】
また、後進用クラッチは、前進低速用副変速段クラッチおよび前進中速用副変速段クラッチに対して、中壁を挟んで反対側に配置されるのが好ましい(第4発明)。
【0016】
また、インターアクスルディファレンシャルは遊星歯車式であるのが好ましい(第5発明)。
【発明の効果】
【0017】
前記各発明によれば、前進6速後進3速(F6R3)のトランスミッションを多段化するに際し、入力軸と出力軸との軸間距離が大きくなるのを防止でき、トランスミッションを小型化することができる。また、前記第1発明によれば、上述の効果に加えて、インターアクスルディファレンシャルを最下段の軸上に配さず、第2中間軸上に配しているので、オイルパン内のオイルの撹拌ロスが低減されるという効果もある。
【0018】
前記第3発明または第4発明によれば、インターアクスルディファレンシャルまたは後進用クラッチが中壁の外側(中壁とミッションケースとの間)に配されているので、軸間距離を短くすることができて剛性アップを図ることができ、大トルクによる軸の撓みを抑えることができる。さらに、第5発明によれば、前後のトルク配分を1:1以外の任意の比率に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明による多軸式トランスミッションの具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
〔第1の実施形態〕
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る多軸式トランスミッションのギヤトレーンを示すスケルトン図である。なお、図1(a)では、各軸のギヤの噛み合い関係をわかりやすくするために、断面を展開して示してしている。このため、図1(a)ではすべての軸が縦に並ぶように表現されているが、ギヤトレーン全体の高さを低くするために、各軸を図1(b)に示すように配置することができる。
【0021】
本実施形態の多軸式トランスミッション1は、前進9速後進3速(F9R3)のインターアクスルディファレンシャル付きトランスミッションであって、ケース本体とそのケース本体を覆うカバー部とにより形成されるボックス型のミッションケース2内に収納された構成とされている。ミッションケース2内には、3分割された中壁、すなわち第1の中壁3、第2の中壁4および第3の中壁5が設けられている。そして、両端部がミッションケース2に、中間部が各中壁3,4,5にそれぞれ回転可能に支承されるように、上部に入力軸6が配され、この入力軸6の下方に、第1中間軸7とその第1中間軸7と同軸上の第3中間軸8とが配され、第1中間軸7/第3中間軸8の側方に、第2中間軸9とその第2中間軸9と同軸上の後側出力軸(第2出力軸)10が配され、第2中間軸9/後側出力軸10の下方に前側出力軸(第1出力軸)11が配されている。また、入力軸6と第1中間軸7との間にはアイドル軸12が第1の中壁3とミッションケース2とに支承されている。
【0022】
以下の説明においては、図1(a)における左側(入力軸6の入力側、前側出力軸11側)を「前側」と表現し、図1(a)における右側(入力軸6の入力側とは反対側、後側出力軸10側)を「後側」と表現することとする。
【0023】
前記入力軸6には第1ギヤ13が固着されるとともに、この第1ギヤ13に隣接した後側位置に、前進低速用クラッチパックであるLクラッチ(前進低速用副変速段クラッチ)14が、このLクラッチ14に隣接して後側に前進中速用クラッチパックであるMクラッチ(前進中速用副変速段クラッチ)15がそれぞれ設けられている。また、前記Mクラッチ15に対して、第1の中壁3を挟んで反対側(後側)に後進用クラッチであるRクラッチ16が設けられている。前記入力軸6には第2ギヤ17が回転自在に配され、この第2ギヤ17はLクラッチ14を係合することにより入力軸6と一体で回転可能とされている。また、前記入力軸6には第3ギヤ18が回転自在に配され、この第3ギヤ18はMクラッチ15を係合することにより入力軸6と一体で回転可能とされている。さらに、前記入力軸6には第4ギヤ19が回転自在に配され、この第4ギヤ19はRクラッチ16を係合することにより入力軸6と一体で回転可能とされている。
【0024】
前記第1中間軸7には、前進高速用クラッチパックであるHクラッチ(前進高速用副変速段クラッチ)21と、第1速用変速段クラッチである第1クラッチ22が設けられる。第1中間軸7には第9ギヤ26が回転自在に配される。第9ギヤ26は前記第1ギヤ13と噛み合うとともにHクラッチ21を係合することにより第1中間軸7と一体で回転可能とされている。また、第1中間軸7には、第6ギヤ23と、第6ギヤ23の後方に隣接する第7ギヤ24と、第7ギヤ24の後方に隣接する第8ギヤ25とがそれぞれ固着される。第6ギヤ23は、第2ギヤ17に噛み合うとともにHクラッチ21を係合することにより第1中間軸7と一体で回転可能とされている。また、第8ギヤ25は、第3ギヤ18に噛み合うとともに第1クラッチ22を係合することにより第1中間軸7と一体で回転可能とされている。前記第1中間軸7と同軸に設けられた第3中間軸8は第2の中壁4を貫通して第1中間軸7側まで延長され、第3中間軸8の端部には軸継手27が設けられている。こうして、第1中間軸7は軸継手27により第3中間軸8に回転自在に支承されている。第3中間軸8には第10ギヤ28が固着されている。
【0025】
前記第2中間軸9は、中間部が第3の中壁5によって支承されており、この第2中間軸9と同軸上に後側出力軸10が配されている。前記第2中間軸9には、第3速用変速段クラッチである第3クラッチ29と、第2速用変速段クラッチである第2クラッチ30とがそれぞれ設けられる。第2中間軸9には第11ギヤ31が回転自在に設けられる。第11ギヤ31は、第7ギヤ24と噛み合うとともに第3クラッチ29を係合することにより第2中間軸9と一体で回転可能とされている。また、第2中間軸9には第12ギヤ32が回転自在に設けられる。第12ギヤ32は、第8ギヤ25と噛み合うとともに第2クラッチ30を係合することにより第2中間軸9と一体で回転可能とされている。第12ギヤ32と第3の中壁5を挟んで反対側に第13ギヤ33が固着される。第13ギヤ33は第10ギヤ28と噛み合っている。第13ギヤ33の後側にインターアクスルディファレンシャル34が配されている。
【0026】
前記インターアクスルディファレンシャル34は、第1サンギヤ36および第2サンギヤ35と、第1サンギヤ36に噛み合う第1プラネタリギヤ37と、第2サンギヤ35および第1プラネタリギヤ37の各々に噛み合う第2プラネタリギヤ38と、この第2プラネタリギヤ38を支持する軸方向のキャリア39とを備え、前記キャリア39が前記第2中間軸9に結合されるとともに、前記第2サンギヤ35が後側出力軸10に結合されて構成されている。第1サンギヤ36には第14ギヤ40が固着されている。また、第1サンギヤ36とキャリア39との相対回転を不能とするデフロッククラッチ42が設けられている。前側出力軸11は第3の中壁5を貫通してインターアクスルディファレンシャル34側まで延びている。前側出力軸11には、第14ギヤ40と噛み合う第15ギヤ41が固着される。キャリア39から入力される駆動力は、インターアクスルディファレンシャル34のギヤ比によって決まる所定のトルク比で前側出力軸11と後側出力軸10とに配分される。
【0027】
このように構成されている多軸式トランスミッション1は次のように作動する。
【0028】
前進第1速(F1)の速度状態にする際には、第1クラッチ22とLクラッチ14とを係合させると、入力軸6の動力は、第2ギヤ17、第6ギヤ23、軸継手27、第10ギヤ28および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。前進第1速(F1)から前進第2速(F2)にシフトするには、Lクラッチ14を解放してMクラッチ15を係合させると、入力軸6の動力は、第3ギヤ18、第8ギヤ25、軸継手27、第10ギヤ28および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。前進第2速(F2)から前進第3速(F3)にシフトするには、Mクラッチ15を解放してHクラッチ21を係合させると、入力軸6の動力は、第1ギヤ13、第9ギヤ26、軸継手27、第10ギヤ28および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。
【0029】
また、前進第3速(F3)から前進第4速(F4)にシフトするには、第1クラッチ22とHクラッチ21とを解放して第2クラッチ30とLクラッチ14とを係合させると、入力軸6の動力は、第2ギヤ17、第6ギヤ23、第8ギヤ25、第12ギヤ32および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。前進第4速(F4)から前進第5速(F5)にシフトするには、Lクラッチ14を解放してMクラッチ15を係合させると、入力軸6の動力は、第3ギヤ18、第8ギヤ25、第12ギヤ32および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。前進第5速(F5)から前進第6速(F6)にシフトするには、Mクラッチ15を解放してHクラッチ21を係合させると、入力軸6の動力は、第1ギヤ13、第9ギヤ26、第8ギヤ25、第12ギヤ32および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。
【0030】
また、前進第6速(F6)から前進第7速(F7)にシフトするには、第2クラッチ30とHクラッチ21とを解放して第3クラッチ29とLクラッチ14とを係合させると、入力軸6の動力は、第2ギヤ17、第6ギヤ23、第7ギヤ24、第11ギヤ31および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。前進第7速(F7)から前進第8速(F8)にシフトするには、Lクラッチ14を解放してMクラッチ15を係合させると、入力軸6の動力は、第3ギヤ18、第8ギヤ25、第7ギヤ24、第11ギヤ31および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。前進第8速(F8)から前進第9速(F9)にシフトするには、Mクラッチ15を解放してHクラッチ21を係合させると、入力軸6の動力は、第1ギヤ13、第9ギヤ26、第7ギヤ24、第11ギヤ31および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。
【0031】
一方、後進第1速(R1)の速度状態にする際には、第1クラッチ22とRクラッチ16とを係合させると、入力軸6の動力は、第4ギヤ19、第5ギヤ20、第8ギヤ25、軸継手27、第10ギヤ28および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。後進第1速(R1)から後進第2速(R2)にシフトするには、第1クラッチ22を解放して第2クラッチ30を係合させると、入力軸6の動力は、第4ギヤ19、第5ギヤ20、第8ギヤ25、第12ギヤ32および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。後進第2速(R2)から後進第3速(R3)にシフトするには、第2クラッチ30を解放して第3クラッチ29を係合させると、入力軸6の動力は、第4ギヤ19、第5ギヤ20、第7ギヤ24、第8ギヤ25、第11ギヤ31および第13ギヤ33を介してインターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達される。
【0032】
こうして、各速度段において、インターアクスルディファレンシャル34のキャリア39に伝達された駆動力は、所定のトルク比で第1サンギヤ36および第2サンギヤ35に配分され、第2サンギヤ35から後側出力軸10へ伝達されるとともに、第1サンギヤ36から第14ギヤ40および第15ギヤ41を介して前側出力軸11へ伝達される。なお、本実施形態において、前側出力軸11および後側出力軸10へのトルク配分は遊星歯車の歯数により適宜設定可能であり、例えば2:3に設定されている。
【0033】
本実施形態によれば、入力軸と出力軸との軸間距離の小さな小型の前進9速後進3速の多軸式トランスミッションを得ることができる。また、Rクラッチ16、第1中間軸7と同軸上の第3中間軸8およびインターアクスルディファレンシャル34がそれぞれ第1の中壁3、第2の中壁4および第3の中壁5の外側に配置されているので、軸間距離を短くすることができ、大トルクによる軸の撓みを抑えることができる。さらに、インターアクスルディファレンシャル34が最下段の前側出力軸11上ではなく、最下段より1段上の第2中間軸9上に配されているので、オイルパン内のオイル撹拌ロスを低減することができる。
【0034】
〔第2の実施形態〕
図2は、本発明の第2の実施形態に係る多軸式トランスミッションのギヤトレーンを示すスケルトン図である。本実施形態の多軸式トランスミッション1Aにおいては、インターアクスルディファレンシャルの構造およびその配設位置を除き、その基本的構成は第1の実施形態と異なるところがない。したがって、第1の実施形態と共通する部分には図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとする。
【0035】
本実施形態のインターアクスルディファレンシャル43および後側出力軸10Aは、第1の実施形態と異なり、前側出力軸11Aと同軸に設けられている。インターアクスルディファレンシャル43は、その外周に第13ギヤ33に噛み合う第16ギヤ44を有する。第16ギヤ44にキャリア45が固定され、このキャリア45に複数個のプラネタリギヤ46が軸支される。これらプラネタリギヤ46に噛み合うリングギヤ47が後側出力軸10Aに固定される一方、サンギヤ48が前側出力軸11Aに固定される。また、キャリア45とサンギヤ48との相対回転を不能とするデフロッククラッチ49が設けられている。
【0036】
本実施形態の多軸式トランスミッション1Aによれば、第1の実施形態のものに対して、インターアクスルディファレンシャル43が4軸目に配されているので、オイル撹拌ロスの低減効果を得ることができないものの、それ以外については、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。本実施形態は、前側出力軸と後側出力軸を同軸上に配置したい場合に好適である。
【0037】
なお、上記2つの実施形態においては、インターアクスルディファレンシャルとして遊星歯車タイプのものを用いた例を説明したが、他のタイプのもの、すなわち特許文献1に「ディファレンシャル8」として示されるタイプのものを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の多軸式トランスミッションは、アーティキュレートダンプトラックのトランスミッションに適用して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る多軸式トランスミッションのギヤトレーンを示すスケルトン図で、(a)は断面図、(b)は(a)の側面方向から見た模式図
【図2】本発明の第2の実施形態に係る多軸式トランスミッションのギヤトレーンを示すスケルトン図
【図3】従来の多軸式トランスミッションのギヤトレーンを示すスケルトン図
【符号の説明】
【0040】
1,1A 多軸式トランスミッション
2 ミッションケース
3,4,5 中壁
6 入力軸
7 第1中間軸
8 第3中間軸
9 第2中間軸
10,10A 後側出力軸(第2出力軸)
11,11A 前側出力軸(第1出力軸)
14 Lクラッチ(前進低速用副変速段クラッチ)
15 Mクラッチ(前進中速用副変速段クラッチ)
16 Rクラッチ(後進用クラッチ)
21 Hクラッチ(前進高速用副変速段クラッチ)
22 第1クラッチ(第1速用速度段クラッチ)
29 第3クラッチ(第3速用速度段クラッチ)
30 第2クラッチ(第2速用速度段クラッチ)
34,43 インターアクスルディファレンシャル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターアクスルディファレンシャルを介して結合される2つの出力軸を有する前進9速後進3速の多軸式トランスミッションであって、
入力軸と、
入力軸よりも下方で、入力軸に並列に配される第1中間軸と、
第1中間軸に並列に配される第2中間軸と、
第1中間軸と同軸上に配される第3中間軸と、
第1中間軸と第3中間軸とを接続可能な第1速用変速段クラッチと、
第2中間軸よりも下方で、第2中間軸に並列に配される第1出力軸と、
第2中間軸と同軸上に配される第2出力軸と、
入力軸上に固着される第1ギヤと、
入力軸上に回転自在に配される第2ギヤと、
入力軸と第2ギヤとを接続可能な前進低速用副変速段クラッチと、
入力軸上に回転自在に配される第3ギヤと、
入力軸と第3ギヤとを接続可能な前進中速用副速度段クラッチと、
入力軸に回転自在に配される第4ギヤと、
入力軸と第4ギヤとを接続可能な後進用クラッチと、
第4ギヤに噛み合うアイドル回転用の第5ギヤと、
第1中間軸に固着され、第2ギヤと噛み合う第6ギヤと、
第1中間軸に固着される第7ギヤと、
第1中間軸に固着され、第3ギヤと第5ギヤとに噛み合う第8ギヤと、
第1中間軸上に回転自在に配され、第1ギヤと噛み合う第9ギヤと、
第1中間軸と第9ギヤとを接続可能な前進高速用変速段クラッチと、
第3中間軸に固着される第10ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第7ギヤと噛み合う第11ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第8ギヤと噛み合う第12ギヤと、
第2中間軸に固着され、第10ギヤと噛み合う第13ギヤと、
第2中間軸と第12ギヤとを接続可能な第2速用変速段クラッチと、
第2中間軸と第11ギヤとを接続可能な第3速用変速段クラッチと、
第2中間軸と同軸に配され、第2中間軸の回転を第1出力軸と第2出力軸に伝達するインターアクスルディファレンシャルとを備える
ことを特徴とする多軸式トランスミッション。
【請求項2】
インターアクスルディファレンシャルを介して結合される2つの出力軸を有する前進9速後進3速の多軸式トランスミッションであって、
入力軸と、
入力軸よりも下方で、入力軸に並列に配される第1中間軸と、
第1中間軸に並列に配される第2中間軸と、
第1中間軸と同軸上に配される第3中間軸と、
第1中間軸と第3中間軸とを接続可能な第1速用変速段クラッチと、
第2中間軸よりも下方で、第2中間軸に並列に配される第1出力軸と、
第1出力軸と同軸上に配される第2出力軸と、
入力軸上に固着される第1ギヤと、
入力軸上に回転自在に配される第2ギヤと、
入力軸と第2ギヤとを接続可能な前進低速用副変速段クラッチと、
入力軸上に回転自在に配される第3ギヤと、
入力軸と第3ギヤとを接続可能な前進中速用副速度段クラッチと、
入力軸に回転自在に配される第4ギヤと、
入力軸と第4ギヤとを接続可能な後進用クラッチと、
第4ギヤに噛み合うアイドル回転用の第5ギヤと、
第1中間軸に固着され、第2ギヤと噛み合う第6ギヤと、
第1中間軸に固着される第7ギヤと、
第1中間軸に固着され、第3ギヤと第5ギヤとに噛み合う第8ギヤと、
第1中間軸上に回転自在に配され、第1ギヤと噛み合う第9ギヤと、
第1中間軸と第9ギヤとを接続可能な前進高速用変速段クラッチと、
第3中間軸に固着される第10ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第7ギヤと噛み合う第11ギヤと、
第2中間軸上に回転自在に配され、第8ギヤと噛み合う第12ギヤと、
第2中間軸に固着され、第10ギヤと噛み合う第13ギヤと、
第2中間軸と第12ギヤとを接続可能な第2速用変速段クラッチと、
第2中間軸と第11ギヤとを接続可能な第3速用変速段クラッチと、
第1出力軸および第2出力軸と同軸に配され、第13ギヤから伝達される第2中間軸の回転を第1出力軸と第2出力軸に伝達するインターアクスルディファレンシャルとを備える
ことを特徴とする多軸式トランスミッション。
【請求項3】
インターアクスルディファレンシャルが、第2速用変速段クラッチおよび第3速用変速段クラッチに対して、中壁を挟んで反対側に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の多軸式トランスミッション。
【請求項4】
後進用クラッチが、前進低速用副変速段クラッチおよび前進中速用副変速段クラッチに対して、中壁を挟んで反対側に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多軸式トランスミッション。
【請求項5】
前記インターアクスルディファレンシャルは遊星歯車式であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多軸式トランスミッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−281514(P2009−281514A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134681(P2008−134681)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】