説明

多金属デバイス処理のためのグルコン酸含有フォトレジスト洗浄組成物

【課題】金属を電気科学的腐食から保護しながら、良好な洗浄結果を生じる、多金属マイクロエレクトロニックデバイスのための良好な洗浄組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するために適切なマイクロエレクトロニックフォトレジスト洗浄組成物、および引き続いて水を使用するすすぎ工程が存在する場合に、実質的または有意なあらゆる電気化学的腐食を起こさずに、多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄することに関する。本発明はまた、このような多金属マイクロエレクトロニックデバイスを、本発明の組成物を用いて洗浄するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するために適切なマイクロエレクトロニックフォトレジスト洗浄組成物、および引き続いて水を使用するすすぎ工程が存在する場合に、実質的または有意なあらゆる電気化学的腐食を起こさずに、多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄することに関する。本発明はまた、このような多金属マイクロエレクトロニックデバイスを、本発明の組成物を用いて洗浄するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在利用可能なアルカリベースのフォトレジスト洗浄組成物の多くは、多金属(例えば、Al/MoまたはAl/Ti)マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄する際に使用されることが試みられる場合、良好な洗浄が起こる。しかし、この洗浄組成物をこのデバイスの表面から除去するために、引き続く従来の水すすぎ工程が使用される場合、ほぼpH9以上のアルカリ性水溶液が生じ、このアルカリ性水溶液は、マイクロエレクトロニックデバイス上の多金属スタックと接触すると、2種以上の異なる金属間でガルバニ電流が形成され、このガルバニ電流は、電食(電気化学的腐食)を生じ、そして加速する。従って、「中間」のすすぎ工程(例えば、従来の溶媒(通常、イソプロピルアルコール)を用いる)が使用されることが必要になっている。この中間のすすぎ工程は、マイクロエレクトロニックデバイスが水すすぎにおいて水と接触する前に、洗浄組成物中のアルカリ性化合物をこのマイクロエレクトロニックデバイスから除去する際に役立つ。この中間のすすぎ工程は、排除されることが当然である、別の追加プロセス工程である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
さらに、金属を電気科学的腐食から保護しながら、良好な洗浄結果を生じる、多金属マイクロエレクトロニックデバイスのための良好な洗浄組成物を提供することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するための、半水性のアルカリ性洗浄組成物であって、
(a)約10%〜約35%の水;
(b)約5%〜約15%の少なくとも1種のアルカノールアミン;
(c)N−メチルピロリドン、およびN−メチルピロリドンとスルホランとの混合物からなる群より選択される、約10%〜約50%の溶媒;
(d)約2%〜約10%のグルコン酸、または水中での加水分解によりグルコン酸を生成する化合物;
(e)約1%〜約8%の、式HO(CHCHO)CHCHOHの少なくとも1種のオリゴエチレングリコールであって、nは1以上である、オリゴエチレングリコール;ならびに
(f)必要に応じて、約10%〜約40%の、少なくとも1種のジエチレングリコールモノアルキルエーテルであって、該アルキル基が、1個〜4個の炭素原子を含む、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、
からなり、該百分率は、該組成物の総重量に基づく重量%であり、そして該アルカノールアミンの百分率が6%未満である場合、該組成物中のN−メチルピロリドン溶媒の量は、20%以上であり、そしてアルカノールアミンの百分率が9%以上である場合、N−メチルピロリドンの量は、20%未満であり得る、半水性のアルカリ性洗浄組成物。
【0005】
(項目2)
(a)約10%〜約30%の水;
(b)約6%〜約10%の少なくとも1種のアルカノールアミン;
(c)約20%〜約50%の溶媒;
(d)約2%〜約6%のグルコン酸、または水中での加水分解によりグルコン酸を生成する化合物;
(e)約2%〜約6%の、式HO(CHCHO)CHCHOHのオリゴエチレングリコールであって、nは1、2、3または4である、オリゴエチレングリコール;および
(f)約20%〜約30%の、少なくとも1種のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、
からなる、上記項目のいずれかに記載の半水性のアルカリ性洗浄組成物。
【0006】
(項目3)
前記アルカノールアミンが、モノイソプロパノールアミンからなり;
前記オリゴエチレングリコールが、テトラエチレングリコールからなり;そして
前記ジエチレングリコールモノアルキルエーテルが、ジエチレングリコールモノメチルエーテルからなる、
上記項目のいずれかに記載の半水性のアルカリ性洗浄組成物。
【0007】
(項目4)
15%〜30%の水;
6%〜8%のモノイソプロパノールアミン;
10%〜30%のN−メチルピロリドンおよび0%〜20%のスルホラン;
2%〜6%のグルコン酸;
3%〜5%のオリゴエチレングリコール;ならびに
20%〜30%のジエチレングリコールモノメチルエーテル、
からなる、上記項目のいずれかに記載の半水性のアルカリ性洗浄組成物。
【0008】
(項目5)
約28%の水;
約6%のモノイソプロパノールアミン;
約10%のスルホランおよび20%のN−メチルピロリドン;
約3%のグルコン酸;
約5%のテトラエチレングリコール;ならびに
約28%のジエチレングリコールモノメチルエーテル、
からなる、上記項目のいずれかに記載の半水性のアルカリ性洗浄組成物。
【0009】
(項目6)
約25%の水;
約7%のジエタノールアミン;
約40%のN−メチルピロリドン;
約5%のグルコン酸δ−ラクトン;
約3%のテトラエチレングリコール;ならびに
約20%のジエチレングリコールモノメチルエーテル、
からなる、上記項目のいずれかに記載の半水性のアルカリ性洗浄組成物。
【0010】
(項目7)
多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するためのプロセスであって、該デバイスを、項目1〜6のいずれか1項に記載の洗浄組成物と、該デバイスの洗浄を達成するための時間および温度で接触させる工程を包含する、プロセス。
【0011】
(項目8)
前記洗浄が、約50℃〜約60℃の温度で実施される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(摘要)
多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するために適切なマイクロエレクトロニックフォトレジスト洗浄組成物、および引き続いて水を使用するすすぎ工程が存在する場合に、実質的または有意なあらゆる電気化学的腐食を起こさずに、多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄すること。
【0012】
(発明の要旨)
本発明によれば、多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するための、半水性のアルカリ性洗浄組成物が提供され、この組成物は、
(a)約10%〜約35%の水;
(b)約5%〜約15%の少なくとも1種のアルカノールアミン;
(c)N−メチルピロリドン、およびN−メチルピロリドンとスルホランとの混合物からなる群より選択される、約10%〜約50%の溶媒;
(d)約2%〜約10%のグルコン酸、または水中での加水分解によりグルコン酸を生成する化合物;
(e)約1%〜約8%の、式HO(CHCHO)CHCHOHの少なくとも1種のオリゴエチレングリコールであって、nは1以上である、オリゴエチレングリコール;ならびに
(f)必要に応じて、約10%〜約40%の、少なくとも1種のジエチレングリコールモノアルキルエーテルであって、このアルキル基は1個〜4個の炭素原子を含む、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、
からなる。これらの百分率は、この組成物の総重量に基づく重量%であり、そしてアルカノールアミンの百分率が6%未満である場合、この組成物中のN−メチルピロリドン溶媒の量は、20%以上であり、そしてアルカノールアミンの百分率が9%以上である場合、N−メチルピロリドンの量は、20%未満であり得る。本発明の洗浄組成物は、多金属マイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するために特に有用であり、このマイクロエレクトロニックデバイス中の金属の電気化学的腐食を抑制する。この組成物は、マイクロエレクトロニックデバイス中の金属の有意または実質的なあらゆる電気化学的腐食なしで、このマイクロエレクトロニックデバイスを洗浄するために、約50℃〜約60℃の温度で使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明の半水性のアルカリ性洗浄組成物は、この組成物中に存在する、約10重量%〜約35重量%の水を有する。この水は、水自体に由来しても、この組成物の別の成分の水溶液の一部である水であっても、これらの両方の供給源に由来する混合物であってもよい。この組成物中の水の好ましい量は、約10重量%〜約30重量%、より好ましくは、約15重量%〜約30重量%、そしてなおより好ましくは、約18重量%〜約25重量%である。
【0014】
少なくとも1種のアルカノールアミンは、任意の適切なアルカノールアミンであり得、1個〜6個、好ましくは1個〜4個、より好ましくは1個〜3個の炭素原子のアルカノールアミンが挙げられる。特に好ましいものは、モノイソプロパノールアミンおよびジエタノールアミンである。この組成物中に存在するアルカノールアミン成分の量は、約5%〜約15%、好ましくは、約6%〜約10%、より好ましくは、約6%〜約8%、そしてなおより好ましくは、6%〜7%であり得る。
【0015】
本発明の洗浄組成物において使用される溶媒は、N−メチルピロリドン、またはN−メチルピロリドンとスルホランとの混合物のいずれかである。この溶媒は、約0%〜約20%のスルホランおよび約10%〜約30%のN−メチルピロリドンの量で、この組成物中に存在する。溶媒の総量は、約10%〜約50%、好ましくは、約20%〜約50%、より好ましくは、約30%〜約50%、そしてなおより好ましくは、約30%〜約40%である。本発明の組成物において、アルカノールアミンの百分率が6%未満である場合、この組成物中のN−メチルピロリドン溶媒の量は、20%以上であり、そしてアルカノールアミンの百分率が9%以上である場合、N−メチルピロリドンの量は、20%未満であり得る。
【0016】
グルコン酸、または水中での加水分解の際にグルコン酸を生成する化合物が、この組成物の電気化学的腐食抑制剤成分として使用される。グルコン酸が使用される場合、このグルコン酸は、一般に、50%水溶液として使用され、この50%の水は、この組成物中で認容される水の総量の一部である。加水分解の際にグルコン酸を生成する化合物の例としては、グルコン酸δ−ラクトンが挙げられ得る。この組成物中での、グルコン酸としてのグルコン酸の総量は、約2%〜約10%、好ましくは、約2%〜約6%、より好ましくは、約3%〜約6%、そして最も好ましくは、約3%であり得る。従って、例えば、この組成物中に3%のグルコン酸を含むことが望ましい場合、グルコン酸の50%水溶液が6%使用される。
【0017】
グルコン酸は、本発明の洗浄組成物中で有効な電気化学的腐食抑制剤であることが見出されたが、グルコン酸は、この組成物中で使用される有機溶媒との混和性が高くないことが見出されている。本発明の洗浄組成物の調製の時点で、その処方物中に充分な水が存在するので、この混和性は問題にならない。しかし、この洗浄組成物の使用中に、特に、洗浄が約50℃〜約60℃という非常に好ましい温度で実施される場合、水が蒸発し、相分離が起こり、この洗浄組成物が曇ることが見出されている。この問題および欠点を克服するために、この洗浄組成物中には、式HO(CHCHO)CHCHOH(ここで、nは1以上であり、好ましくは1〜4である)の、少なくとも1種のオリゴエチレングリコール成分が存在しなければならないことが見出された。この成分の存在は、相分離が起こることを抑制または防止し、そして本発明の洗浄組成物が、グルコン酸成分の電気化学的腐食の抑制特性を維持することを可能にする。このオリゴエチレングリコール成分は、好ましくは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールである。これらのオリゴエチレングリコール成分が、本発明の組成物において上記相分離を抑制または防止し、そして電気化学的腐食を低下させることが可能であることは、驚くべきことである。なぜなら、エチレングリコールおよびグリセロールは、本発明の組成物において、上記相分離を抑制または防止し、そして電気化学的腐食を低下させるこの能力を有さないからである。少なくとも1種のオリゴエチレングリコールは、この組成物中に、約1%〜約8%、好ましくは、約2%〜約6%、より好ましくは、約3%〜約5%、そしてなおより好ましくは、約5%の量で存在する。
【0018】
必要に応じて、本発明の洗浄組成物中には、少なくとも1種のジエチレングリコールモノアルキルアミンが存在し、このアルキル基は、1個〜4個の炭素原子を含む。少なくとも1種のジエチレングリコールモノアルキルアミン成分が本発明の組成物中に存在し、そして好ましくは、このような成分が存在する場合、この成分は、約10%〜約40%、好ましくは、約10%〜約30%、より好ましくは、約20%〜約30%、そしてなおより好ましくは、約25%〜約28%の量で存在する。
【0019】
本発明の洗浄組成物は、多金属マイクロエレクトロニックデバイスのフォトレジストおよび他の残渣(例えば、プラズマ残渣およびエッチング残渣)を洗浄するために充分な、適切な任意の洗浄温度および時間で使用され得るが、特に、約50℃〜約60℃の温度で、約30秒〜約60秒の時間にわたって、このような多金属デバイスを洗浄し得、そして洗浄されたデバイスが引き続く水性すすぎに供される場合でさえも、このデバイス中の金属の電気化学的腐食を抑制しながら、このように洗浄し得る。
【実施例】
【0020】
以下の表1は、本発明の洗浄組成物の例を記載する。この表1および引き続く表2において、以下の略号が使用される。百分率は、重量%である。
【0021】
MIPA=モノイソプロパノールアミン
DEA=ジエタノールアミン
GLU=グルコン酸50%水溶液
δ−LAC=グルコン酸δ−ラクトン
SFL=スルホラン
NMP=N−メチルピロリドン
DEG=ジエチレングリコール
EG=エチレングリコール
TEG=テトラエチレングリコール
CAR=カルビトール(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)
GLY=グリセロール
【0022】
【表1】

上記組成物A〜Iの評価のために、Al/Tiバイメタルラインを有するTFTガラスマイクロエレクトロニック基材を使用した。これらの基材を、50℃〜約60℃で、約30秒〜約60秒の時間にわたって、洗浄溶液で処理した。次いで、洗浄された基材を、クリーナーの5%溶液(95%水)に1分〜3分浸漬し(中間のすすぎなしでの水でのすすぎの環境をシミュレートし)、次いで、任意の電気化学的腐食の規模を評価した。上記組成物A〜Iの全てが、顕著な電気化学的腐食も起こさず、曇りの発生もなしで、基材を徹底的に洗浄した。
【0023】
比較の目的で、以下の表2の比較組成物AA〜EEを処方し、そして同じ試験条件に供した。
【0024】
【表2】

組成物AA(グルコン酸を含まない)は、有意な電気化学的腐食を有する。組成物BBおよびCCは、テトラエチレングリコールの代わりにエチレングリコールおよびグリセロールが使用されたことを除いて、本発明の組成物AおよびBと同じである。これらの比較組成物BBおよびCCは、望ましくない曇りを発生させ、そしてグルコン酸の相分離を起こした。比較組成物DDとEEとの両方が、顕著な曇りを発生させ、相分離をもたらした。これらの比較組成物中の、低濃度(6%)のMIPAと低濃度(15%)のNMPとの組み合わせは、このような結果を生じ、一方で、本発明の、アルカノールアミン(MIPA)の百分率が6%未満である類似の組成物、および組成物中のNMP溶媒の量が20%以上であるか、またはアルカノールアミン(MIPA)の百分率が9%以上である場合にはNMPの量が20%未満である類似の組成物は、このような曇りおよび相分離を起こさなかった。従って、MIPA溶媒またはNMP溶媒のいずれかが、本発明の組成物中に、高濃度の範囲で存在しなければならない。すなわち、アルカノールアミンの百分率が6%未満である場合、組成物中のN−メチルピロリドン溶媒の量は20%以上であり、そしてアルカノールアミンの百分率が9%以上である場合、N−メチルピロリドンの量は20%未満であり得る。
【0025】
本発明は、その具体的な実施形態を参照しながら本明細書中に記載されたが、変更、改変およびバリエーションが、本明細書中に開示される新規概念の趣旨および範囲から逸脱することなくなされ得ることが明らかである。従って、このような変更、改変およびバリエーションの全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2012−84917(P2012−84917A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106(P2012−106)
【出願日】平成24年1月4日(2012.1.4)
【分割の表示】特願2009−110155(P2009−110155)の分割
【原出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(592162807)アバントール パフォーマンス マテリアルズ, インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】J T BAKER INCORPORATED
【Fターム(参考)】