説明

大気圧プラズマ処理方法および大気圧プラズマ処理装置

【課題】 大気圧プラズマ処理において安定して均一なプラズマ処理を実現することができるようにする。
【解決手段】 大気圧プラズマ処理方法は、大気圧近傍の圧力下で、プラズマ処理部20を経由するガス流路23に処理ガスを供給しながら、対向する一対の電極26,27間に電力を印加することによりプラズマ処理部20にプラズマ29を発生させ、プラズマ29によって被処理物24の表面処理を行なうプラズマ処理方法であって、この表面処理中におけるプラズマ処理部20近傍におけるガス流路23に沿った圧力勾配の変動を、ガス流調整機構としての圧力弁30a,30bを用いて低減する圧力勾配変動低減工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧近傍の圧力下におけるプラズマを用いたプラズマ処理方法およびプラズマ処理装置、すなわちいわゆる大気圧プラズマ処理方法および大気圧プラズマ処理装置に関するものである。より詳しくは、半導体素子や液晶表示素子などの各種デバイスの多層構造における薄膜形成、表面改質あるいはエッチング処理をプラズマを用いて行なう場合であって、その処理を高速かつ均一に行なうことが重視されるような局面における表面処理方法および表面処理装置に関するともいうことができる。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶表示素子などの各種デバイスの多層構造における、薄膜形成、表面改質あるいはエッチング処理を行なう方法としては、低圧プラズマCVD、低圧プラズマエッチングに代表されるように、低圧条件下でグロー放電プラズマを発生させて被処理物に所望の処理を行なう方法が既に広く実用化されている。これらの低圧条件下におけるプラズマ処理は、目的とする処理に応じた処理ガスに対して高電圧の電界を印加することにより処理ガスをプラズマ状態にし、このプラズマ中に発生した活性種を用いて薄膜形成、表面改質、エッチング等の処理を行う方法である。しかし、これらのプラズマ処理では、プラズマを発生させる環境の圧力が低圧であるため活性種の密度が小さくならざるを得ず、その結果、薄膜形成、表面改質、エッチングなどの処理速度が小さくなる。したがって、装置自体の単位時間当たり処理個数、すなわちいわゆるスループット、が少なくなってしまう。また、低圧環境を実現するための真空チャンバ、真空排気装置などが必要となることや、それに伴い被処理物を処理空間へと移送する手段が複雑化することなどにより、装置自体の価格も高価なものとなるため、結果として製品コスト上昇の一因となっていた。
【0003】
これらの問題を解決する方法として、近年、大気圧近傍の圧力下でプラズマを発生させるプラズマ処理方法およびプラズマ処理装置(それぞれ「大気圧プラズマ処理方法」、「大気圧プラズマ処理装置」ともいう。)が提案されている。大気圧プラズマ処理方法としては、たとえば、平行平板型電極に電圧を印加することでプラズマを発生させ、このプラズマ放電空間中に被処理物を配置して処理を行なう「平行平板型」や、プラズマ放電空間中に被処理物を配置せず、対向電極間で発生させたプラズマをプラズマ放電空間の外に配置された被処理物に向けて噴出する「プラズマ噴出型」が挙げられる。しかし、これらの方式は、それぞれプラズマダメージが大きいことや処理速度が十分確保できないことなどの問題を有していた。プラズマダメージの低減と高い処理速度とを両立するプラズマ処理方法として、特開2000−306848号公報(特許文献1)で開示されている方法がある。特に、特許文献1の図9に装置の概略図が示されている。特許文献1に示された装置においては、内側電極と外側電極とが誘電体を挟んで設けられ、これらの電極の試料対向面は高硬度絶縁体で覆われている。これを試料と対向して設置することにより、高硬度絶縁体と被処理物との間に処理ガス流路が形成される。特許文献1に示されたプラズマ処理方法では、このガス流路に高圧反応ガス供給装置から反応ガスを供給すると共に、内側電極と外側電極との間に電圧を印加することで、処理ガス流路にプラズマを発生させ、このプラズマによって被処理物の表面処理が行なわれる。
【0004】
特許文献1に示された装置および方法によれば内側電極と外側電極との間にプラズマが発生し、プラズマを生成するための電界が被処理物表面に垂直には印加されないため、被処理物へのプラズマダメージが少なく、また高硬度絶縁体と被処理物との間にガス流路が形成され、その空間で放電が起こるためプラズマ噴出型と比べて処理が高速となるという利点がある。
【0005】
しかし、これまで上述したいずれのプラズマ処理方法においても、大気圧近傍の圧力下でプラズマ処理を行なう場合、実際にプラズマによって被処理物の表面処理が行なわれる領域の近傍のガス雰囲気により、被処理物の表面、形成された膜、あるいはエッチングで生成した新たな面の酸化などが生じてしまう場合がある。そのため、安定して良質の半導体素子、液晶表示素子を得ることができないという問題があった。
【0006】
また、装置設置環境や被処理物搬出入などに伴う外乱気流の影響により、実際にプラズマによって被処理物の表面処理が行なわれる領域の近傍における処理ガスの流速が変動し、表面処理状態、形成された薄膜の膜厚、エッチング量などにばらつきが生じてしまうという問題もある。
【0007】
なお、特開平4−212253号公報(特許文献2)では、大気圧近傍のヘリウムガス雰囲気中において処理ガスのプラズマを発生させて処理を行なう方法が開示されている。また、特開平5−44041号公報(特許文献3)や特開2002−151494号公報(特許文献4)では、処理プラズマ部および被処理物の表面処理部近傍の外周を窒素、アルゴン、ネオンなどの比較的安価な不活性ガスによるガスカーテンで覆うことにより大気中の酸素を遮断する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−306848号公報
【特許文献2】特開平4−212253号公報
【特許文献3】特開平5−44041号公報
【特許文献4】特開2002−151494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示されている方法では、プラズマ生成に用いるとされるヘリウムガスの消費量を少なくすることができない。ヘリウムガスは自然界での存在量が極めて少なく非常に高価であるため処理コストの面では非常に不利となってしまう。特許文献3や特許文献4に開示されている方法では、装置設置環境における外乱気流などがなく、実処理中に被処理物の表面処理が行なわれている領域の近傍への被処理物の搬入出が行われないような準静的な環境である場合には大気中の酸素を遮断することが可能である。しかしながら、実際には装置設置環境(クリーンルームなど)においてはダストの飛散/浮遊防止のためのダウンフローによる気流が生じている。さらに、実処理では相対的にプラズマが被処理物上を走査することにより被処理物全面を処理する方法が一般的であり、その場合には不活性ガスカーテンを越えて被処理物の搬出入が行われるため、被処理物搬出入に伴う外乱気流も生じてしまうのが一般的である。そのため、被処理物の表面処理が行なわれている領域の近傍における処理ガス流速が変動してしまい、安定して均一なプラズマ処理を実現することが困難となっている。
【0009】
たとえば、装置設置環境に伴う外乱気流の影響を除去するために、プラズマ処理部を容器で囲い込んだ構造とし、この容器の内部を不活性ガスで充たし、さらに被処理物を搬入した後で、プラズマ処理を開始することも考えられる。しかし、そのような方法を用いた場合には、被処理物を1枚処理する毎に不活性ガスの開放および充填が必要となり、処理時間の大幅な増大を招いてしまうことになる。
【0010】
そこで、本発明は、安定して均一なプラズマ処理を実現することができる大気圧プラズマ処理方法および大気圧プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に基づく大気圧プラズマ処理方法は、大気圧近傍の圧力下で、プラズマ処理部を経由するガス流路に処理ガスを供給しながら、対向する一対の電極間に電力を印加することにより上記プラズマ処理部にプラズマを発生させ、上記プラズマによって被処理物の表面処理を行なうプラズマ処理方法であって、上記表面処理中における上記プラズマ処理部近傍における上記ガス流路に沿った圧力勾配の変動を、ガス流調整機構を用いて低減する圧力勾配変動低減工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガス流路内の圧力勾配に対する外乱気流の影響を低減することができるので、プラズマ処理部において処理ガス流速が不用意に変動する度合いを低減でき、その結果として、従来よりも安定して均一なプラズマ処理を実現することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決すべく上記特許文献1で開示されている方法を用いたガラス基板上Si膜エッチングにおいて、エッチング速度の処理ガス流速に対する依存性を調査した。その結果は図7に示す。図7に示すように、処理ガス流速が遅くなるほどエッチング速度が増し、処理ガス流速に敏感になる傾向が、すなわち、処理ガス流速の変化に対して変動が顕著になる傾向が見られた。
【0014】
さらに発明者らは鋭意検討・研究を行なった結果、大気圧近傍条件下で安定した放電状態を実現できるプラズマ処理装置において、装置設置環境および被処理物搬出入状態による外乱気流の有無に関わらず、処理プラズマ部および被処理物の表面処理部近傍の圧力勾配を一定に保持する機構を付与することにより、安定して均一なプラズマ処理を実現することができることを見出し、本発明を完成させた。被処理物の搬出入状態あるいは装置設置環境における外乱気流の有無に関わらず、プラズマが被処理物の表面処理を行なう領域の近傍の圧力勾配を一定に保持することにより、処理ガス流速を一定に保つことが可能となるため、安定かつ均一なプラズマ処理を実現することが可能となる。
【0015】
(実施の形態1)
(構成)
図1を参照して、本発明に基づく実施の形態1における大気圧プラズマ処理方法および大気圧プラズマ処理装置について説明する。
【0016】
(大気圧プラズマ処理装置)
本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置101は、図1に示すように、被処理物24を通過させるためのガス流路23を備える。ガス流路23は途中にプラズマ処理部20を含む。大気圧プラズマ処理装置101は、プラズマ処理部20に電界を生じさせるための少なくとも一対の互いに対向する電極として内部電極26および外部電極27と、これらの電極同士の間に電力を印加するための電力供給部としての電源25とを備える。内側電極26と外側電極27との間およびこれらの電極がガス流路23に対向する面には誘電体28が配置されている。さらに大気圧プラズマ処理装置101は、ガス流路23に処理ガスを導入するためのガス供給部としての処理ガス供給口21と、ガス流路23から処理ガスを排出するための処理ガス排気口22a,22bとを備える。さらに大気圧プラズマ処理装置101は、ガス流路23内のプラズマ処理部20近傍におけるガス流路23に沿った圧力勾配の変動を低減するためのガス流調整機構を備える。本実施の形態におけるガス流調整機構は、ガス流路23の途中においてガス流路23の内部を外部に連通させることのできる複数の圧力弁である。図1に示した例では、大気圧プラズマ処理装置101はガス流調整機構として圧力弁30a,30bを備える。圧力弁30a,30bはそれぞれ圧力検出手段を備え、圧力検出手段による検出結果に応じて自動的に開閉できるようになっている。
【0017】
(大気圧プラズマ処理方法)
以下、本実施の形態における大気圧プラズマ処理方法の手順を説明する。まず、処理ガス供給口21から処理ガスを導入する。処理ガスは大気圧グロー放電の維持を目的としたヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスと、薄膜形成、表面改質あるいはエッチングといった目的に応じた種類の反応ガスとを混合させたものである。反応ガスは、行なう処理の種類により異なるが、たとえば空気、窒素、酸素、四フッ化炭素ガス、六フッ化珪素ガス、メタン、アンモニアなどの単独ガスまたはこれらの混合ガスである。供給された処理ガスは、ガス流路23内に配置された被処理物24に沿って流れ、処理ガス排気口22a,22bから排気される。このとき、処理ガス排気口22a,22bの各々へのガス流量分流比は、ガス流路のコンダクタンス比、処理ガス供給口21の供給流量および処理ガス排気口22a,22bの排気流量により決定される。したがって、処理ガス供給口21から導かれた処理ガスがガス流路23に到達する点33から見てプラズマ処理部20がある側,すなわち処理ガス排気口22aの側において所望の処理ガス流量が得られるよう各パラメータを設定する必要がある。
【0018】
次に、電源25により高周波電力、たとえば13.56MHzの電力を発生させる。この電力は電力伝送路34を通って内側電極26と外側電極27との間に電界を生じさせる。誘電体28の厚みについては、厚過ぎるとプラズマを発生させるのに非常に高い電圧が必要となり、逆に薄すぎると電圧印加時に絶縁破壊が生じてしまうため、投入電力に応じて適当な厚みに設定することが必要である。誘電体28の材料は、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウムなどであってよい。内側電極26と外側電極27との間に印加する電圧を徐々に上げていくと、図1に示すように両電極の間隙に対応する位置のガス流路23側面にプラズマ29が生じる。このプラズマ29によって生じた活性種が被処理物24の表面に到達し、反応することにより被処理物24の表面に所望の表面処理がなされる。
【0019】
初期設定状態を準静的状態とみなすと、この状態におけるガス流路23内における位置A〜Eでの圧力値は図2の2Aに示すような圧力勾配を示している。縦軸の"arb.unit"とあるのは"arbitrarily unit"の略で1目盛りが任意の単位量であることを意味する。位置Aは被処理物搬入口であり、位置Eは被処理物搬出口である。本実施の形態では、予め準静的状態における圧力値を、圧力弁30a,30bの開閉を決定する閾値としてそれぞれ個別に設定しておく。ガス流調整機構としての圧力弁30a,30bはそれぞれ、閾値を超えた圧力を検知したときのみ開き、閾値以下の圧力では閉じるように設定しておく。
【0020】
ここで仮に外乱気流によりA−E間に圧力差Xが生じた場合、ガス流路23では図2の2Bに示したように各位置の圧力が上昇し、結果的にB−C間の圧力勾配が大きく変化してしまう。しかし、ガス流調整機構として圧力弁30a,30bが設定圧力値以上の圧力を感知した場合、ガス流路23内圧力が設定圧力値以下に減じられるまで圧力弁30a,30bが開放状態となるので、ガス流路23内の圧力勾配は直ちに図2の2Aの状態に戻る。その結果、プラズマ処理部20(B−C間)の処理ガス流速は一定に保持され、高速かつ均一な表面処理を実現することができる。なお、逆に被処理物搬出口から影響を及ぼす外乱気流に対しては、被処理物搬出口側にある圧力弁30bを制御し、圧力変動を除去してやることにより同等の効果を得ることができる。
【0021】
言い換えると、本実施の形態における大気圧プラズマ処理方法は、大気圧近傍の圧力下で、プラズマ処理部20を経由するガス流路23に処理ガスを供給しながら、対向する一対の電極である内部電極26および外部電極27の間に電力を印加することによりプラズマ処理部20にプラズマ29を発生させ、このプラズマ29によって被処理物24の表面処理を行なうプラズマ処理方法であって、この表面処理中におけるプラズマ処理部20近傍におけるガス流路23に沿った圧力勾配の変動を、ガス流調整機構としての圧力弁30a,30bを用いて低減する圧力勾配変動低減工程を含む。好ましくは、ガス流調整機構としてガス流路23の途中においてガス流路23の内部を外部に連通させることのできる複数の圧力弁として圧力弁30a,30bを用意しておき、圧力勾配変動低減工程は、これらの複数の圧力弁間の圧力勾配が一定となるように圧力弁30a,30bを制御することによって行なう。ここでは、ガス流調整機構は圧力弁30a,30bという2つの弁であったが、ガス流調整機構はより多くの数の弁であってもよい。
【0022】
(実施の形態2)
(構成)
図3を参照して、本発明に基づく実施の形態2における大気圧プラズマ処理方法および大気圧プラズマ処理装置について説明する。
【0023】
(大気圧プラズマ処理装置)
本実施の形態における大気圧プラズマ処理装置102は、図3に示すように、基本的に実施の形態1で説明した大気圧プラズマ処理装置101と同様の構成となっているが、大気圧プラズマ処理装置101に比べてガス流調整機構が異なる。大気圧プラズマ処理装置102では、ガス流調整機構は、ガス流路23のうちプラズマ処理部20よりも被処理物24の出口に近い側においてガス流路23を封鎖するためのシャッタ31を含む。図3の例ではシャッタ31は被処理物24の出口すなわち被処理物搬出口に設置されている。図3に示す大気圧プラズマ処理装置102では大気圧プラズマ処理装置101と共通する構成要素には同じ符号を付して表示している。
【0024】
(大気圧プラズマ処理方法)
以下、本実施の形態における大気圧プラズマ処理方法の手順を説明する。まず、被処理物搬出口に設置されているシャッタ31を閉じる。次に、処理ガス供給口21から処理ガスを導入する。処理ガスの詳細は実施の形態1で説明したので説明を繰り返さない。所望の処理ガス流量が得られるよう各パラメータを設定する必要がある点も実施の形態1で説明したのと同様である。
【0025】
次に、電源25により高周波電力を発生させて電極同士の間に電界を生じさせる点も実施の形態1で説明したのと同様であるので説明を繰り返さない。誘電体28の厚みや材料についても実施の形態1と同様である。ガス流路23側面にプラズマ29が生じ、このプラズマ29によって生じた活性種が被処理物24の表面に到達・反応することにより被処理物24の表面に所望の表面処理がなされるという点も実施の形態1と同様である。
【0026】
初期設定状態を準静的状態とみなし、この状態におけるガス流路23内における位置A〜Eでの圧力値は図4の4Aに示すような圧力勾配を示しているものとする。ここで外乱気流により、A−E間に圧力差Xが生じた場合、本実施の形態においては、被処理物搬出口がシャッタ31により封止されているため、ガス流路23内の圧力勾配は図4の4Bに示すようになる。図4の4Bは、4Aに比べてAからEまでの各位置における圧力の絶対値が全て同じ圧力分だけ増大したものであり、隣接位置間の圧力勾配には変化が見られない。したがって、プラズマ処理部20(B−C間)の処理ガス流速は一定に保持され、高速かつ均一な表面処理を実現することができる。
【0027】
言い換えると、本実施の形態における大気圧プラズマ処理方法は、大気圧近傍の圧力下で、プラズマ処理部20を経由するガス流路23に処理ガスを供給しながら、対向する一対の電極である内部電極26および外部電極27の間に電力を印加することによりプラズマ処理部20にプラズマ29を発生させ、このプラズマ29によって被処理物24の表面処理を行なうプラズマ処理方法であって、この表面処理中におけるプラズマ処理部20近傍におけるガス流路23に沿った圧力勾配の変動を、ガス流調整機構としてのシャッタ31を用いて低減する圧力勾配変動低減工程を含む。本実施の形態における大気圧プラズマ処理方法では、ガス流調整機構としてガス流路23のうちプラズマ処理部20よりも被処理物の出口に近い側にガス流路23を封鎖するためのシャッタ31を用意しておき、圧力勾配変動低減工程は、シャッタ31を閉じるように制御する工程を含む。
【0028】
(参考技術)
次に、図5を参照して、参考技術に基づく大気圧プラズマ処理装置103について説明する。この参考技術は、上記特許文献4などに開示されている技術を利用したものである。図5に示すように、大気圧プラズマ処理装置103は、プラズマ処理部近傍の外周を不活性ガスによるガスカーテンで囲むことができるようにガスカーテン形成部32を備えている。図5において、実施の形態1,2と同様の構成要素に対しては、図1、図3と同じ符号を割り当てている。
【0029】
大気圧プラズマ処理装置103において、ガスカーテンを形成するための不活性ガスとして窒素を用い、ガスカーテン形成部32の供給ガス流量および排気ガス流量の設定値を、ガス流路23内におけるガスカーテンの流速が外乱気流に比べて同等以上となるように設定し、実施の形態1,2と同様の検討を実施した。
【0030】
その結果、初期設定状態には各位置での圧力勾配は図6の6Aに示すようになった。これに対して、外乱気流が生じた場合の圧力勾配は図6の6Bに示すようになった。すなわち、位置F,Gにおいても位置Aと同じくXだけ圧力が上昇している。また、ガスカーテンの内側の部分(位置Gから位置H)の部分の圧力勾配の変動は、ガスカーテンを設置せずに外乱気流の影響を受けた場合(図2における位置Aから位置E)の圧力勾配と同じであった。図2と図6とで縦軸の目盛りが異なるが、これは図2と図6とでは1目盛りの大きさが異なるためであって、実際には図6における位置Gから位置Hにかけての区間での圧力勾配の変動は、図2における位置Aから位置Eの圧力勾配の変動に一致していた。このことから、このガスカーテンを用いる参考技術によっては外乱気流の影響を除去することができていないことがわかった。
【0031】
(比較実験)
以上、実施の形態1,2および上記参考技術に示した大気圧プラズマ処理装置101,102,103によって、2インチSiウェハをエッチングし、その平均加工量と加工量のばらつきを比較した。「加工量」とはエッチングの進行した深さをいう。さらに、従来技術として外乱気流に対して何も防止機構を設けない大気圧プラズマ処理装置も用意し、この装置においても同様にエッチングを行なった。
【0032】
なお、この実験にあたっては、各大気圧プラズマ処理装置の電極付近の基本構成は全て共通の構成とした。詳細な条件としては、内側電極26―外側電極27間のギャップは3mm、内側電極26と外側電極27とが対向する区間の上下方向の長さは80mm、投入電力は550W、処理ガス流路幅は150mm、ウェハと電極との間の距離は4mmとした。なお、処理ガスとしては、ヘリウムガス1.35SLM+酸素ガス0.3SLM+四フッ化炭素ガス0.15SLMの混合ガスを用いた。比較例におけるガスカーテン用の不活性ガスとしては100%窒素ガスを用いた。なお、「SLM」とは、ガス流量を表す単位であり、1分間当たりに流れるガスの0℃、101.3kPaにおける体積をリットルで表した数値に相当する。
【0033】
【表1】

【0034】
結果を表1に示す。表1に示すように、実施の形態1,2の大気圧プラズマ処理装置101,102を用いることにより、何も防止機構を設けない従来技術に基づく大気圧プラズマ処理装置に比べて、加工量のばらつきを1/3から1/4に低減することができた。
【0035】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に基づく実施の形態1における大気圧プラズマ処理装置の断面図である。
【図2】本発明に基づく実施の形態1において外乱気流による圧力変動を示すグラフである。
【図3】本発明に基づく実施の形態2における大気圧プラズマ処理装置の断面図である。
【図4】本発明に基づく実施の形態2において外乱気流による圧力変動を示すグラフである。
【図5】参考技術に基づく大気圧プラズマ処理装置の断面図である。
【図6】参考技術に基づく大気圧プラズマ処理装置における外乱気流による圧力変動を示すグラフである。
【図7】エッチング速度の処理ガス流速に対する依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
20 プラズマ処理部、21 処理ガス供給口、22a,22b 処理ガス排気口、23 ガス流路、24 被処理物、25 電源、26 内部電極、27 外部電極、28 誘電体、29 プラズマ、30a,30b 圧力弁、31 シャッタ、32 ガスカーテン、33 (処理ガスがガス流路に到達する)点、34 電力伝送路、101,102,103 大気圧プラズマ処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧近傍の圧力下で、プラズマ処理部を経由するガス流路に処理ガスを供給しながら、対向する一対の電極間に電力を印加することにより前記プラズマ処理部にプラズマを発生させ、前記プラズマによって被処理物の表面処理を行なうプラズマ処理方法であって、前記表面処理中における前記プラズマ処理部近傍における前記ガス流路に沿った圧力勾配の変動を、ガス流調整機構を用いて低減する圧力勾配変動低減工程を含む、大気圧プラズマ処理方法。
【請求項2】
ガス流調整機構として前記ガス流路の途中において前記ガス流路の内部を外部に連通させることのできる複数の圧力弁を用意しておき、前記圧力勾配変動低減工程は、前記複数の圧力弁間の圧力勾配が一定となるように前記複数の圧力弁を制御することによって行なう、請求項1に記載の大気圧プラズマ処理方法。
【請求項3】
ガス流調整機構として前記ガス流路のうち前記プラズマ処理部よりも前記被処理物の出口に近い側に前記ガス流路を封鎖するためのシャッタを用意しておき、前記圧力勾配変動低減工程は、前記シャッタを閉じるように制御する工程を含む、請求項1に記載の大気圧プラズマ処理方法。
【請求項4】
途中にプラズマ処理部を含み、被処理物を通過させるためのガス流路と、
前記プラズマ処理部に電界を生じさせるための少なくとも一対の互いに対向する電極と、
前記電極同士の間に電力を印加するための電力供給部と、
前記ガス流路に処理ガスを導入するためのガス供給部と、
前記ガス流路内の前記プラズマ処理部近傍における前記ガス流路に沿った圧力勾配の変動を低減するためのガス流調整機構とを備える、大気圧プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記ガス流調整機構は、前記ガス流路の途中において前記ガス流路の内部を外部に連通させることのできる複数の圧力弁である、請求項4に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記ガス流調整機構は、前記ガス流路のうち前記プラズマ処理部よりも前記被処理物の出口に近い側において前記ガス流路を封鎖するためのシャッタである、請求項4に記載の大気圧プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−351480(P2006−351480A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179596(P2005−179596)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】