説明

姿勢角検出装置

【課題】取付位置にずれが生じたときにも取付部位の姿勢角を正確に検出することができる姿勢角検出装置を提供する。
【解決手段】人体の部位100の姿勢角を検出する姿勢角検出装置10であって、姿勢角センサ20と、移動量検出手段31、32と演算手段60を備えている。姿勢角センサ20は、人体の部位100の表面に取り付けられ、自己の姿勢角を検出する。移動量検出手段31、32は、取付部位100の表面を移動したときの姿勢角センサ20の初期位置からの移動量を検出する。演算手段60は、検出された姿勢角を検出された移動量に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕や頭などの人体の部位の姿勢角を検出する姿勢角検出装置に関する。なお、本明細書における姿勢角とは、絶対座標系に対する人体の部位の傾斜角を意味する。検出する姿勢角は、1軸周りのみであってよく、2軸周りあるいは3軸周りの姿勢角であってもよい。
【背景技術】
【0002】
人体の部位の姿勢角を検出する姿勢角検出装置が知られている。姿勢角検出装置には、ジャイロや傾斜角センサが用いられる。例えば、特許文献1には、頭部に取り付けられ、その頭部の姿勢角を検出する姿勢角検出装置が記載されている。このような姿勢角検出装置によって、動作時における頭部の姿勢角の変化を検出し、人の動作を解析することができる。また、検出した姿勢角に基づいてロボット等への指令値を生成するなど、姿勢角検出装置はユーザインタフェイスとして活用することもできる。
【0003】
【特許文献1】特開平9−81308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
姿勢角検出装置は、通常は、取付バンド等により人体に取り付けられる。姿勢角検出装置をボルトなどで人体に固定することはできない。従って、人が動作をすることによって姿勢角検出装置の取付位置がずれてしまうことがある。姿勢角検出装置の取付位置がずれてしまうと、取付部位の正確な姿勢角を検出することができないという問題があった。
本発明は、上記の実情に鑑みて創作されたものであり、取付位置にずれが生じても取付部位の姿勢角を正確に検出することができる姿勢角検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ずれが生じても人体部位の姿勢角を正確に検出するには、人体部位と姿勢角検出装置との相対姿勢角(すなわち、姿勢角のずれ)を検出し、検出した相対姿勢角に基づいて姿勢角検出装置で検出された姿勢角を補正すればよい。しかしながら、ジャイロや傾斜角センサ等の相対姿勢角検出手段を設けても、相対姿勢角検出手段にも取付位置のずれが生じてしまう可能性があるため、相対姿勢角を検出することは難しい。
本発明は、姿勢角検出装置が人体部位の表面上を移動してしまうことによって姿勢角が不正確になるという事実に着目する。本発明は、取付部位の表面を移動したときの姿勢角センサの初期位置からの移動量を直接に検出し、その移動量を姿勢角の補正に用いるという手法を採用する。長さの次元を有する移動量は、本来姿勢角の補正には用いられない。他方、直接に検出するのであるから、姿勢角センサの初期位置からの移動量は正確に検出できる。本発明は、長さの次元を有する移動量によって姿勢角を補正するという新規な発想によって、取付位置にずれが生じても人体部位の姿勢角を正確に検出する姿勢角検出装置を実現する。
【0006】
本発明の姿勢角検出装置は、姿勢角センサと、移動量検出手段と、演算手段を備えている。姿勢角センサは、人体の部位の表面に取り付けられ、自己の姿勢角を検出する。移動量検出手段は、取付部位の表面を移動したときの姿勢角センサの初期位置からの移動量を検出する。演算手段は、姿勢角センサによって検出された姿勢角を移動量検出手段によって検出された移動量に基づいて補正する。
姿勢角センサは、前述したようにジャイロや傾斜センサであってよい。移動量検出手段は、コンピュータのマウスに用いられている技術を採用すればよい。移動量検出手段は、光学式マウスや機械式マウスのいずれの技術を採用してよい。コンピュータのマウスは、直交する2方向の移動量を夫々検出できる。マウスの技術を用いると、取付部位の表面における姿勢角センサの移動方向も検出できる。本明細書では、「移動量」という用語を、「移動方向」を含む意味で用いる。即ち「移動量」は、移動量ベクトルと換言してよい。
この姿勢角検出装置は、移動量検出手段によって、姿勢角センサの初期位置からの移動量を正確に検出することができる。この姿勢角検出装置は、正確に検出することのできる移動量に基づいて姿勢角を補正するので、取付位置がずれても人体部位の正確な姿勢角を出力できる。
【0007】
姿勢角の補正は、一つには次のとおりである。移動量検出手段は、取付部位の表面に対する垂線周りの姿勢角センサの初期位置からのずれ角をさらに検出する。演算手段は、検出された姿勢角を検出されたずれ角に基づいて補正する。この姿勢角検出装置は、取付位置が前記の垂線周りにずれても人体部位の正確な姿勢角を出力できる。
【0008】
姿勢角の補正は、一つには次のとおりであってもよい。姿勢角検出装置は、取付部位の断面形状を円形に近似したときのその円形の半径を記憶する記憶手段をさらに備えている。この場合、演算手段は、検出された移動量のうちの前記円形の周方向の成分と前記半径から、前記円形の中心軸周りの姿勢角センサの初期位置からのずれ角を算出し、検出された姿勢角を算出された前記中心軸周りのずれ角に基づいて補正する。
頭、腕、足、或いは胴体など、人体の部位の多くは円柱或いは球で近似することができる。したがって、人体部位の断面形状は、円形に近似することができる。このように、人体部位の断面形状を円形に近似すると、姿勢角センサが表面上を移動したときに、その円形断面の周方向に沿った移動量とその円形断面の半径から、その円形断面の中心軸周りの姿勢角センサの初期位置からのずれ角を算出できる。この姿勢角検出装置は、取付位置が円形断面の周方向にずれても人体部位の正確な姿勢角を出力できる。また、このように取付部位の断面形状を円形に近似することで、複雑な演算を用いることなく、姿勢角センサのずれ角を算出できる。したがって、姿勢角センサが検出する姿勢角を容易に補正することができる。
【0009】
姿勢角の補正は、一つには次のとおりであってもよい。演算手段は、検出された移動量のうちの取付部位の長手方向に直交する方向の成分を抽出し、検出された姿勢角を抽出した前記直交方向の成分に基づいて補正する。
腕、足、或いは胴体など、人体の部位の多くは、例えば円柱のように、1方向に長く伸びる形状を備えている。このような部位に姿勢角センサが取り付けられている場合は、取付部位の長手方向に姿勢角センサが移動しても、その移動は平行移動とみなすことができる。平行移動は、姿勢角センサが検出する姿勢角に影響を与えない。この姿勢角センサは、検出された移動量から取付部位の長手方向に直交する方向の成分を抽出する。そして、抽出した直交方向の成分に基づいて姿勢角を補正する。このように、長手方向への移動を平行移動とみなし、移動量の直交方向の成分を姿勢角の補正に用いる(すなわち、移動量の長手方向の成分を姿勢角の補正に用いない)ことで、姿勢角をより簡単に補正することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の姿勢角検出装置によれば、姿勢角検出装置の取付位置がずれても取付部位の正確な姿勢角を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
下記に詳細に説明する実施例の姿勢角検装置は、以下の特徴をさらに備えている。
(特徴1)移動量検出手段は、異なる位置に配置されている複数の移動量センサを備えている。各移動量センサは、姿勢角センサに対する相対位置が固定されている。各移動量センサは、取付部位の表面を移動したときの自己の移動量を検出する。移動量検出手段は、各移動量センサの移動量から、姿勢角センサの初期位置からの移動量と、取付部位の表面に対する垂線周りの姿勢角センサの初期位置からのずれ角を算出する。
【実施例】
【0012】
本発明の実施例に係る姿勢角検出装置について、図面を参照しながら説明する。実施例の姿勢角検出装置は、人の腕や脚等のように、1方向に伸びている部位に取り付けて使用される。図1は、姿勢角検出装置10を取付部位100(本実施例では腕)に取り付けた状態を示す外観図であり、図2は姿勢角検出装置10の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、姿勢角検出装置10は、本体12と取付バンド90を備えている。取付バンド90によって、本体12が取付部位100に取り付けられている。図2に示す各構成部品は、本体12に内蔵されている。
図2に示すように、姿勢角検出装置10は、姿勢角センサ20と、2つの移動量センサ31、32と、記憶装置40と、リセットボタン50と、演算装置60と、アンテナ70を備えている。
【0013】
姿勢角検出装置10の動作の説明で参照する座標系について説明する。図1のXYZ座標系は、絶対座標系(地面に固定された座標系)を示している。図1のXaYaZa座標系は、姿勢角検出装置10に固定された座標系を示しており、XbYbZb座標系は、取付部位100に固定された座標系を示している。以下では、XaYaZa座標系を装置固定座標系と称し、XbYbZb座標系を部位固定座標系と称する場合がある。図1では、装置固定座標系(XaYaZa座標系)と部位固定座標系(XbYbZb座標系)が一致している状態を示している。装置固定座標系の原点は、移動量センサ31と32の中点33に設定されている。Xa軸は、原点33から移動量センサ32へ向かう方向に設定されており、Ya軸は本体12の下面(取付部位100と接触する面)内でXa軸と直交する方向に設定されている。Za軸は、Xa軸とYa軸に交差する方向に設定されている。Xb軸は、取付部位100の周方向(湾曲方向)を向いており、Yb軸は、取付部位100の長手方向を向いている。Zb軸は、取付部位100の表面の垂線方向を向いている。装置固定座標系と部位固定座標系は、演算装置60が認識している。
【0014】
姿勢角センサ20は、絶対座標系(XYZ座標系)の3軸周りの自己の姿勢角をする。具体的には姿勢角センサ20は、3軸ジャイロと、ジャイロの出力を積分する積分器から構成されている。姿勢角センサ20が検出する3軸周りの姿勢角を(θx、θy、θz)で表現する。後述するように、絶対座標系に対する姿勢角センサ20の姿勢角は、絶対座標系から装置固定座標系への座標変換行列で表現される。姿勢角センサ20には、従来公知の種々の3軸姿勢角センサを用いることができる。
【0015】
移動量センサ31、32は、本体12の下面(取付部位100と接触する面)に設置されている。図1に示すように、移動量センサ31、32は、所定距離を隔てて配置されている。移動量センサ31は、CCDやLED等により構成されており、本体12が取付部位100の表面上を移動したときに、自己の移動量を光学的に検出する。移動量センサ31は、取付部位100の表面上でXb軸が向いている方向とYb軸が向いている方向の移動量をそれぞれ検出する。すなわち、移動量センサ31は、移動方向を含めた移動量を検出する。移動量センサ32も、移動量センサ31と同様に構成されている。なお、移動量センサ31、32として、本体12の移動に伴って取付部位の表面上を転がるボール等を備え、そのボールの回転量及び回転方向から、方向を含む移動量を検出するタイプのものを採用することもできる。
【0016】
記憶装置40には、種々のデータが記憶されている。データのひとつとして、記憶装置40は、取付部位100の半径rのデータを記憶している。より具体的には、半径rは、取付部位100の形状を円柱で近似し、その近似した円柱の半径rである。取付部位100の半径rのデータは、取付部位100の形状に基づいて決定されており、予め作業者によって記憶装置40に入力されている。なお、取付部位100の半径のデータは、取付部位100の形状に応じてその都度変更してもよいし、取付部位100の形状に個体差がほとんど無いと考えられる場合には固定値としてもよい。
【0017】
リセットボタン50は、図1に示すように、本体12の上面に設置されている。後に詳述するが、演算装置60は、移動量センサ31、32が検出した移動量を記憶している。リセットボタン50を押すと、演算装置60は、記憶している移動量をゼロにリセットする。
【0018】
演算装置60は、姿勢角センサ20と移動量センサ31、32と、記憶装置40と、リセットボタン50と、アンテナ70に接続されている。演算装置60は、移動量センサ31、32が検出する移動量に基づいて、姿勢角センサ20が検出する姿勢角を補正する。
【0019】
アンテナ70は、演算装置60が算出した補正後の姿勢角を、無線により図示しない外部装置(例えば、パソコン等)に送信する。
【0020】
次に、姿勢角検出装置10の動作について説明する。
まず、姿勢角検出装置10を測定対象の人体部位に取り付ける。このとき、図1に示すように、移動量センサ31、32を結ぶ直線と直交する方向(装置座標系におけるYa軸の方向)が取付部位100の長手方向と平行となるように取り付ける。
【0021】
次に、リセットボタン50を押す。前述したようにこのとき演算装置60は、過去に移動量センサ31、32が検出した移動量をゼロにリセットする。同時に演算装置60は、装置固定座標系に一致する座標系を新たな部位固定座標系として認識する(図1参照)。以下では、リセットボタン50を押したときに新たに認識する部位固定座標系の原点を初期位置と称し、このときのYb軸の方向を初期方向と称する。
【0022】
リセットボタン50を押した後、演算装置60は、図3に示すフローチャートの処理を繰り返し実行する。なお、図4は、図3に示すフローチャートに従って演算装置60が実行する処理を説明する概念図である。まず、図4を参照して、演算装置60が実行する処理を概説する。図3のフローチャートの各処理については後に詳述する。
演算装置60は、姿勢角センサ20が検出する姿勢角(θx,θy,θz)を読み取る。そして、読み取った姿勢角(θx,θy,θz)に基づいて、絶対座標系(XYZ座標系)を装置固定座標系(XaYaZa座標系)に変換する座標変換行列Tsを算出する。座標変換行列Tsは、姿勢角(θx,θy,θz)の関数として表される。すなわち、座標変換行列Tsそのものが、絶対座標系に対する姿勢角検出装置10の姿勢角を表している。
一方、演算装置60は、移動量センサ31、32の検出値から、装置固定座標系と部位固定座標系の間の相対角度を算出する。相対角度は、装置固定座標系のYa軸と部位固定座標系のYb軸がなす角度φと、装置固定座標系のZa軸と部位固定座標系のZb軸がなす角度ψで表される。姿勢角検出装置10は、取付部位100の表面を移動するので、相対角度φは、取付部位100の表面に対する垂線(Zb軸)周りの姿勢角検出装置10のずれ角(初期位置からのずれ角)に相当する。相対角度ψは、姿勢角検出装置10が取付部位100の周方向(Xb軸の向く方向)に沿って移動したときのずれ角(初期位置からのずれ角)に相当する。相対角度ψは、取付部位100の長手方向に沿って伸びる線(Yb軸)周りの姿勢角検出装置10のずれ角と別言できる。
演算装置60は、所定の周期で移動量センサ31、32の検出値を取り込み、それらを積分し、常に最新の相対角度φと相対角度ψを保持している。
【0023】
次に、演算装置60は、相対角度φとψに基づいて、装置固定座標系を部位固定座標系に変換する座標変換行列Tbsを算出する。即ち、座標変換行列Tbsは、相対角度φとψの関数として表現される。
次に、座標変換行列Tsと座標変換行列Tbsから、絶対座標系(XYZ座標系)を部位固定座標系(XbYbZb座標系)に変換する座標変換行列Tbを算出する。座標変換行列Tbそのものが、絶対座標系に対する取付部位100の姿勢角を意味する。即ち、座標変換行列Tbは、姿勢角センサ20が検出した姿勢角を相対角度φとψで補正した姿勢角を意味する。
以下、図3のフローチャートの各ステップについて説明する。
【0024】
ステップS2では、演算装置60は、姿勢角センサ20が検出する姿勢角(θx,θy,θz)を読み取る。そして、読み取った姿勢角(θx,θy,θz)に基づいて、座標変換行列Tsを算出する。座標変換行列Tsは、以下の数式により算出される。
【0025】
【数1】

なお、座標変換行列Tsは、絶対座標系(XYZ座標系)を、X軸周りにθx度、Y軸周りにθy度、Z軸周りにθz度だけ回転させる回転行列である。
【0026】
ステップS4では、演算装置60は、移動量センサ31、32の検出値(すなわち、移動量と移動方向示すベクトル値)を所定のサンプリング周期で取得するとともに、それらを積分することによって、移動量センサ31と32のそれぞれの移動量を算出する。移動量センサ31の移動量は、取付部位100の表面における部位固定座標系のXb軸に沿った移動量A1と、Yb軸に沿った移動量B1で表される。以下、移動量センサ31の移動量を2次元ベクトル(A1,B1)で表現する。同様に、移動量センサ32の移動量を、2次元ベクトル(A2,B2)で表現する。2次元ベクトルで表される移動量は、移動量センサ31、32の移動方向も表している。
【0027】
次に演算装置60は、移動量(A1,B1)及び(A2,B2)に基づいて、本体12の移動量(A3,B3)を算出する。本体12の移動量(A3,B3)は、移動量センサ31、32の間の中点33の位置で表される。また、演算装置60は、移動量(A1,B1)及び(A2,B2)から、相対角度φとψを算出する(ステップS6)。
【0028】
相対角度φの算出方法を説明する。例えば、図5に示すように、本体12が初期位置(部位固定座標系の原点330)から移動している場合を考える。この場合、中点33の現在の位置(装置固定座標系の原点)と初期位置330(部位固定座標系の原点)との差について、Yb軸方向の差が移動量A3として算出され、Xb軸方向の差が移動量B3として算出される。また、Yb軸とYa軸がなす相対角度φが、取付部位の表面の垂線周りの姿勢角検出装置10のずれ角として算出される。
本体12の移動量(A3,B3)は、移動量センサ31、32が検出する移動量(A1,B1)と(A2,B2)の平均値として算出される。
相対角度φは、以下の数式により算出される。
φ=sin−1{(A2−A1)/L}
なお、記号Lは、移動量センサ31、32間の距離である。
【0029】
相対角度ψの算出方法を説明する。相対角度ψは、本体12の移動量(A3,B3)と、半径rに基づいて算出する。
図6は、円柱形状に近似した取付部位100を中心線C(取付部位100の長手方向に伸びる軸)に沿って見た断面図を示している。図示するように、円柱形状に近似することで、取付部位100の断面は円形として近似される。したがって、移動量B3は、取付部位100の円周面上における本体12の部位固定座標系原点330からの位置ずれを示す。この場合、本体12が原点330に存在する場合に比べて、本体12の姿勢角に相対角度ψだけのずれ角(取付部位100の長手方向に沿ったYb軸周りの回転ずれ)が生じる。この移動量B3により生じる姿勢角の相対角度ψは、以下のように算出される。
まず、演算装置60は、記憶装置40から取付部位100の半径rを読み出す。半径rのデータは、予め記憶装置40に入力されている。そして、以下の数式により相対角度ψを算出する。
ψ=B3/r
【0030】
次に演算装置60は、相対角度φとψに基づいて、装置固定座標系を部位固定座標系に変換する座標変換行列Tbs算出をする(ステップS8)。座標変換行列Tbsは、相対角度φに基づく変換行列Tbsφと相対角度ψに基づく変換行列Tbsψを乗じた形式、即ち、Tbs=Tbsφ・Tbsψで求められる。変換行列Tbsψは、次の数式により求められる。
【0031】
【数2】

変換行列Tbsψは、装置固定座標系を、部位固定座標系のYb軸(即ち、取付部位100の長手軸)の周りに角度ψだけ回転させる回転行列である。
【0032】
変換行列Tbsφは、以下の数式により算出される。
【0033】
【数3】

変換行列Tbsφは、装置固定座標系を、部位固定座標系のZb軸(即ち、取付部位100の表面の垂線)の周りに角度φだけ回転させる回転行列である。
【0034】
変換行列TbsψとTbsφから、演算装置60は、以下の数式により座標変換行列Tbsを算出する。
Tbs=Tbsψ・Tbsφ
このように算出した座標変換行列Tbsは、装置固定座標系を部位固定座標系に変換する行列となる。
【0035】
ステップS10では、演算装置60は、座標変換行列Tsと座標変換行列Tbsに基づいて、座標変換行列Tbを算出する。座標変換行列Tbは、以下の数式により算出される。
Tb=Ts・Tbs
このように算出した座標変換行列Tbは、絶対座標系を部位固定座標系に変換する行列となる。即ち、座標変換行列Tbが、絶対座標系に対する取付部位100の姿勢を表す。座標変換行列Tbは、姿勢角検出装置10の移動によるずれ角(装置固定座標系と部位固定座標系の間の相対角度φとψ)によって補正された取付部位100の姿勢角を表す。
【0036】
最後に演算装置60は、算出した座標変換行列Tbのデータをアンテナ70から外部装置(パソコン等)に送信する(ステップS12)。これによって、外部装置で取付部位100の姿勢角が確認できる。
【0037】
演算装置60は、以上に説明した図3の処理を繰り返し実行する。したがって、取付部位100の姿勢角を経時的に検出することができる。
【0038】
以上に説明したように、本実施例の姿勢角検出装置10は、本体12の初期位置からの移動量(A3,B3)に基づいて、姿勢角センサ20が検出した姿勢角を補正する。したがって、本体12の取付位置が初期位置からずれた場合にも、本体12が初期位置に位置していたときに検出される姿勢角が算出される。本体12の位置ずれの影響を受けることなく、正確に取付部位100の姿勢角を検出することができる。
また、本実施例の姿勢角検出装置10は、2つの移動量センサ31、32を備えている。そして、移動量センサ31、32の検出値に基づいて、本体12の取付部位100の表面上の垂線周りのずれ角(すなわち、相対角度φ)を算出する。このずれ角に基づいて姿勢角センサ20が検出した姿勢角を補正するので、垂線周りのずれ角の影響を受けることなく、取付部位100の姿勢角を正確に検出することができる。
また、本実施例の姿勢角検出装置10は、取付部位100の形状を円柱形状として近似する。したがって、本体12の周方向への移動(すなわち、移動量B3)と取付部位100の半径rに基づいて、そのずれ角ψを補正する変換行列Tbsψを算出することができる。このように、取付部位100の形状を近似して演算を行うことで、取付部位100の周方向における本体12の位置ずれの補正を容易に行うことができる。したがって、高速で姿勢角を補正することができる。
また、このように取付部位100の形状を円柱形状として近似するので、本体12の長手方向への移動(すなわち、移動量A3)は平行移動とみなすことができる。このため、姿勢角検出装置10は、本体12の移動量B3を用いて(即ち、移動量(A3,B3)から移動量B3を抽出して)姿勢角を補正する。移動量A3を姿勢角の補正に用いないので、姿勢角の補正がより容易となり、姿勢角の補正がより高速となる。
【0039】
なお、上述した姿勢角検出装置10では、本体12が記憶装置40、演算装置60を備えていたが、これらの構成部品は、外部装置(例えば、パソコン等)に設置してもよい。すなわち、姿勢角センサ20、移動量センサ31、32の検出値をアンテナ70によって外部装置に送信し、外部装置の演算装置と記憶装置を用いて姿勢角の補正を行ってもよい。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】姿勢角検出装置10の外観図。
【図2】姿勢角検出装置10のブロック図。
【図3】姿勢角を補正する処理を示すフローチャート。
【図4】姿勢角を補正する処理の概要を説明する図。
【図5】相対角度φを説明する図。
【図6】相対角度ψを説明する図。
【符号の説明】
【0042】
10:姿勢角検出装置
12:本体
20:姿勢角センサ
31:移動量センサ
32:移動量センサ
33:装置固定座標系の原点
40:記憶装置
50:リセットボタン
60:演算装置
70:アンテナ
90:取付バンド
100:取付部位
330:部位固定座標系の原点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の部位の姿勢角を検出する姿勢角検出装置であって、
人体の部位の表面に取り付けられ、自己の姿勢角を検出する姿勢角センサと、
取付部位の表面を移動したときの姿勢角センサの初期位置からの移動量を検出する移動量検出手段と、
検出された姿勢角を検出された移動量に基づいて補正する演算手段と、
を備えていることを特徴とする姿勢角検出装置。
【請求項2】
移動量検出手段は、取付部位の表面に対する垂線周りの姿勢角センサの初期位置からのずれ角を検出し、
演算手段は、検出された姿勢角を検出されたずれ角に基づいて補正することを特徴とする請求項1に記載の姿勢角検出装置。
【請求項3】
取付部位の断面形状を円形に近似したときのその円形の半径を記憶する記憶手段をさらに備えており、
演算手段は、検出された移動量のうちの前記円形の周方向の成分と前記半径から、前記円形の中心軸周りの姿勢角センサの初期位置からのずれ角を算出し、検出された姿勢角を算出された前記中心軸周りのずれ角に基づいて補正することを特徴とする請求項1または2に記載の姿勢角検出装置。
【請求項4】
演算手段は、検出された移動量のうちの取付部位の長手方向に直交する方向の成分を抽出し、検出された姿勢角を抽出した前記直交方向の成分に基づいて補正することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の姿勢角検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−265911(P2009−265911A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114221(P2008−114221)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】