説明

安定化された複合体及びその製造方法

【課題】イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物を含む安定化された複合体及びその製造方法の提供。
【解決手段】イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物、特にファルネソール、ゲファルナート、スクアレン、マナキノン、トコトリエノール、トコフェロール、コエンザイムQ10からなる群より選ばれるいずれか1つ以上の化合物をγシクロデキストリンに包接させることにより、安定化された複合体とすることができ、飲食品、化粧品、医薬品へ適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物をγシクロデキストリン(以下、γCDと示す)に包接させることを特徴とする、安定化された複合体及びその製造方法に関する。さらに、この複合体を含有せしめた飲食品、化粧品及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプレノイド構造を有する化合物及び/又はキノン構造を有する化合物として、ファルネゾール(farnesol)、ゲファルナート(gefarnate)、スクアレン(squalene)、メナキノン(menaquinone)、トコトリエノール(tocotrienol)、トコフェロール(tocopherol)及びコエンザイムQ10(coenzyme Q10:以下、CoQ10とする)等が知られている。これらは化粧品、健康食品や抗潰瘍剤等の医薬品の有効成分として利用されているが、光や熱等に対して不安定であるという問題があった(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
これは、これらの化合物が有するイソプレノイド構造及び/又はキノン構造に、カルボカチオンの反応点が多いために反応しやすく、様々な化合物に変換されるためと考えられる。そこで、これらの反応を避け、化合物の本来の効果を維持できる、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物を含む安定した複合体の開発や、これを含有せしめた化粧品、飲食品、医薬品等の提供が望まれていた。
【0004】
現在、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物のうち、CoQ10及びビタミン類を含有し、これらの少なくとも一方をシクロデキストリン(以下、CDとする)に包接することで、安定化されたCoQ10含有組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
ここでは、CoQ10をβCDに包接させたCoQ10含有固体複合体にビタミンEを配合したソフトカプセルや、ビタミンEをβCDに包接させたビタミンE含有固体複合体にCoQ10を配合したソフトカプセルを得ており、これらの保存安定性について40℃、1〜3ヶ月間の保存におけるCoQ10の残存率(%)より示している。
ここでは、CoQ10含有組成物を得るにあたり、いずれのCDの複合体も用いることができるとしているが、実施例ではβCDのみしか使用しておらず、これと同様の方法で本発明者らが実験したところ、βCDを用いたCoQ10含有複合体では、3ヶ月後の残存率が96.9%というような、高い保存安定性は得られなかった。
【特許文献1】特開2005−2005号公報
【非特許文献1】生化学辞典(第3版)、株式会社東京化学同人、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物をγCDに包接することを特徴とする安定化された複合体及びその製造方法の提供を課題とする。さらに、この複合体を含有せしめた飲食品、化粧品及び医薬品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物をγCDに包接させることにより、安定化された複合体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、この複合体を含有せしめることで、複合体に含まれる化合物の効果を、長期にわたって維持できる飲食品、化粧品及び医薬品を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は次の(1)〜(8)のいずれかの安定化された複合体、その製造方法及びその複合体を用いた飲食品、化粧品及び医薬品に関する。
(1)イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物をγシクロデキストリン(γCD)に包接させることを特徴とする、安定化された複合体の製造方法。
(2)イソプレノイド構造が、(A)以下の構造式:
[化1]

[式中nは1以上20以下の整数を意味する]を有する化合物である上記(1)に記載の複合体の製造方法。
(3)キノン構造が、(B)以下の構造式:
[化2]

[式中Rは水素、ヒドロキシル又はヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルからなる群より選ばれる]を有する化合物である、上記(1)に記載の複合体の製造方法。
(4)化合物が、ファルネゾール、ゲファルナート、スクアレン、メナキノン、トコトリ エノール、トコフェロール、コエンザイムQ10(CoQ10)からなる群より選ばれるいず れか1つ以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により製造された複合体。
(6)上記(5)に記載の複合体を含有せしめた飲食品。
(7)上記(5)に記載の複合体を含有せしめた化粧品。
(8)上記(5)に記載の複合体を含有せしめた医薬品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合体は、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物の効果を維持することができ、十分な保存安定性が得られる。従って、これらを有効成分とする飲食品、化粧品及び医薬品等の製造及び保存を容易とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の「安定化された複合体」とは、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物をγCDに包接させることにより、熱、光等への安定性が高められた物質のことをいう。本発明の複合体は、その用途に応じ、粉末、顆粒、水溶液等の形態で用いることができる。
【0010】
本発明の「イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物」には、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物であればいずれも含まれるが、特に構造式[化1]に示したイソプレノイド構造のうち、nは1以上20以下の整数である化合物が好ましい。また、構造式[化2]に示したキノン構造のうち、Rは水素、ヒドロキシル又はヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルからなる群より選ばれる化合物であることが好ましい。さらに、飲食品、化粧品、医薬品等の有効成分として利用できる、ファルネゾール、ゲファルナート、スクアレン、メナキノン、トコトリエノール、トコフェロール、CoQ10のいずれか1つ以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の「イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物をγCDに包接させる」とは、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物のγCD包接体を製造することをいい、この包接体の製造には、噴霧乾燥、凍結乾燥法、飽和水溶液法、混錬法、混合粉砕法等の一般的な包接体の製造方法を用いることができる。
噴霧乾燥、凍結乾燥法とは、CDの10〜40%水溶液を調製し、一定量のゲスト化合物を添加し、ホモジナイズ(回転数;1,000−3,000r.p.m.、30分〜5時間、室温)し、これによって得られた包接乳化液を次いで噴霧乾燥、凍結乾燥し、包接体を得る方法である。また、飽和水溶液法とは、CDの飽和水溶液を作り、一定量のゲスト化合物を混合し、CDの種類やゲスト化合物の種類に応じ30分〜数時間攪拌混合することで、包接物が沈殿を得て、続いて、水を蒸発させるか、温度を下げて沈殿物を取り出した後、乾燥することで、包接体を単離する方法である。
混練法とは、CDに水を少量加えてペースト状にして、一定量のゲスト化合物を添加してミキサー等でよく攪拌し、続いて水を蒸発させることで包接体を単離する方法であり、混合時間は飽和水溶液法より長めとなる。そして混合粉砕法とは、CDとゲスト化合物を振動ミルにより粉砕して得る方法である。
【0012】
混練法又は加熱方法については、例えば、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物が例えば、CoQ10の場合では、Journal Acta Poloniae, Pharmaceutica(1995)、Vol.52,No5,S.379-386及び(1996),Vol.53,No3,S.193-196においてCoQ10と種々のCD及びCD誘導体との複合化が記載されている。また、特表2003-520827号公報には、γCDとCoQ10との水性混合物を用いることで、さらに迅速かつ簡便に複合体を得る方法が記載されている。
【0013】
得られた複合体のうち、包接体が形成されているか否かは、溶液状態においては円二色性スペクトルやNMRスペクトルを用い、固体状態においては熱分析DSC、粉末X線等でCD、ゲスト化合物単独、物理的混合物と包接体を比較して確認することができる。
【0014】
複合体を形成するにあたり、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物は含有率が40%以下に、γCDは含有率が60〜100%未満となるように用いることが好ましい。さらに、イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物の含有率を20%前後とする、言い換えればγCD含有量を化合物の4倍以上とするのがより好ましい。化合物の含有率が低いほうが複合体の安定性は高いが、40%以下であれば十分な安定性が得られる。
【0015】
本発明の複合体は、含有するイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物の効果や使用の目的によって、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、注射剤等の形態とすることができる。本発明の複合体は飲食品、化粧品や医薬品として、1日当たりの可能摂取量に該当する範囲であれば、そのまま又は添加物を加えた後に、摂取したり、塗布したりしてもよい。
【0016】
本発明の複合体を含有せしめた飲食品として、サプリメント、機能性食品、栄養ドリンク等を製造することができる。本発明の複合体を用い、飲食品を製造する場合には、複合体に含まれるイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物として、例えば、スクアレン、メナキノン、トコトリエノール、トコフェロール、CoQ10等を含む複合体を用い、これらの成分を有効に利用することが好ましい。また、本発明の複合体に、その他のイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物等を組み合わせ、多様な効果を有する組成物として利用することもできる。
本発明の複合体を用い、サプリメントを製造する場合には、本発明の複合体をそのまま打錠成型することもできるが、さらに必要に応じて、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の製剤に通常用いられている添加物を加えることができる。
【0017】
また、本発明の複合体を含有せしめた化粧品として、化粧水、乳液、美容クリーム等を製造することができる。本発明の複合体を用い、化粧品を製造する場合には、複合体に含まれるイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物として、例えば、スクアレン、メナキノン、トコトリエノール、トコフェロール、CoQ10等を含む複合体を用い、これらの成分を有効に利用することが好ましい。また、本発明の複合体に、その他のイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物等を組み合わせ、多様な効果を有する組成物として利用することもできる。
さらに、本発明の複合体に加え、皮膚繊維芽細胞の増殖等の効果を有するレチノール等の美容成分や、ホホバ油、植物エキス等の保湿成分を必要に応じて配合することもできる。
【0018】
さらに、本発明の複合体を含有せしめた医薬品を製造することができる。医薬品を製造するにあたり、本発明の複合体を用い、医薬品を製造する場合には、複合体に含まれるイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物として、例えば、ファルネゾール、ゲファルナート等を含む複合体を用い、これらの成分を有効に利用することが好ましい。また、本発明の複合体に、その他のイソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物等を組み合わせ、多様な効果を有する組成物として利用することもできる。
本発明の複合体を用い、医薬品を製造する場合には、本発明の複合体に加え、必要な成分を配合することもできる。
【0019】
以下、本発明の詳細を実施例等で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
安定化された複合体の製造方法
イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物として、表1に記載の化合物を用い、γCD(Wacker Biochem社製)と混合し、混練法により複合体を得た。
1)ファルネゾール(シグマ社製)1.5gと、γCD 8.5gを混合し、混練法によりファルネゾール-γCD包接体の粉末を10g得て、複合体(A)とした。
2)メナキノン(シグマ社製)1.5gと、γCD 8.5gを混合し、混練法によりメナキノン-γCD包接体の粉末を10g得て、複合体(B)とした。
3)トコフェロール(備前化成社製)1gと、γCD 9gを混合し、混練法によりトコフェロール-γCD包接体の粉末を10g得て、複合体(C)とした。
4)CoQ10(日清ファルマ社製)2gと、γCD 8gを混合し、混練法によりCoQ10-γCD包接体の粉末を10g得て、複合体(D)とした。
表1の含有率とは、それぞれの複合体に含まれる化合物の含有率を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
複合体の包接体形成の確認
イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物として、CoQ10(日清ファルマ社製)を用い、γCD(シクロケム社製)と混合し、混練法により複合体を得た。得られた複合体が包接体を形成していることを、CoQ10のみまたは、CoQ10とγCDの混合物を対照として、粉末X線及び熱分析DSC法により調べた。
対照試料として、a)CoQ10のみ、b)CoQ10とγCDの1:1混合物、c)CoQ10とγCDの1:3混合物、d)CoQ10とγCDの1:5混合物、e)CoQ10とγCDの1:10混合物のa)〜e)を用い、試料としてf)CoQ10とγCDの1:1混練体、g)CoQ10とγCDの1:3混練体、h)CoQ10とγCDの1:5混練体、i)CoQ10とγCDの1:10混練体のf)〜i)を用いた。
得られた結果を図1に示したところ、a)及びb)〜e)の混合物では1箇所に強いピークがみられたが、f)〜i)の混練体ではピークが弱くなり、複合体の包接体形成が示された。従って、本発明の製造方法により、安定化された複合体が得られることが確認できた。
【実施例1】
【0023】
<複合体の安定性の検討>
(1)複合体(A)の熱及び光における安定性の検討
実施例1の複合体(A)と、対照としてファルネゾール(20%含有)-γCD混合物を用いた。ファルネゾール(20%含有)-γCD混合物は、ファルネゾールとγCDを単に混合しただけの物であり、特に包接化させてはいない。
これらをガラス瓶中にそれぞれ入れ、開放系、50℃で0〜100日間保存し、保存期間ごとにファルネゾール含有量を定量し、複合体(A)の熱に対する安定性を調べた。
また、同様に開放系、室温における日光露光下で0〜100日間保存し、保存期間ごとにファルネゾール含有量を定量し、複合体(A)の光に対する安定性を調べた。
ファルネゾールの含有率は、測定する保存期間ごとに回収したサンプルを10mg精密に量り取り、DMFを5ml加え、5分間超音波処理を行い、シリンジフィルターでろ過した後、HPLCを用いて以下の分析条件で複合体中のファルネゾール量を測定し、サンプルに含まれるファルネゾールの含有率を算出した。含有率を以下の式により求めた。
【0024】
<HPLC分析条件>
カラム: Waters SunFire 5.0μm C18 4.6×150mm
カラム温度:40℃
移動相: DMF100%
流量: 1.0mL/min
検出波長: UV280nm
注入量: 10μL
【0025】
[式1]
含有率(%)=(ファルネゾール含有量/サンプル重量)×100
【0026】
結果
複合体(A)の熱におけるファルネゾールの含有率を図2a)に示し、光におけるファルネゾールの含有率を図2b)に示した。
図2a)及びb)に示されるように、ファルネゾール(20%含有)-γCD混合物のファルネゾールの含有率は、熱及び光によって、日数の経過に伴い、0%近くまで低下することが確認された。一方で、本発明の複合体(A)のファルネゾールの含有率は時間の経過に伴って若干低下するものの、対照混合物と比べ、熱及び光に対し、安定性を有することが示された。
【0027】
(2)複合体(B)の光における安定性の検討
実施例1の複合体(B)と、対照としてγCDのかわりにαCD又はβCD(いずれもWacker Biochem社製)を用い、実施例1と同様に製造したメナキノン(15%含有)-αCD複合体及びメナキノン(15%含有)-βCD複合体と、メナキノンそのものを用い、ガラス瓶中に入れ、室温における1,000ルクスの強さで光を照射することによって、1週間後、2週間後のメナキノンの含有量を定量し、複合体(B)の光に対する安定性を調べた。定量された含有量より試験開始時の含有量を100%として、メナキノンの残存率を算出した。残存率を以下の式により求めた。
【0028】
[式2]
残存率(%)=(実測値のファルネゾール含有量/理論値のファルネゾール含有量サンプル量)×100
(理論値:処方から計算された値)
【0029】
結果
複合体(B)の光におけるメナキノンの残存率を図3に示した。図3に示されるように、メナキノンそのもの、メナキノン(15%含有)-αCD複合体及びメナキノン(15%含有)-βCD複合体のメナキノンの残存率は、光によって、1週間で10%以下に低下し、2週間で0%近くまで低下することが確認された。一方で、本発明の複合体(B)のメナキノンの残存率は時間の経過に伴って低下するものの、光に対し、長期間に亘り安定性を有することが示された。このことにより、安定な複合体を提供するにあたり、αCD及びβCDと比較して、γCDが最も有効であることが示された。
【0030】
(3)複合体(C)の熱及び光における安定性の検討
実施例1の複合体(C)として、トコフェロール(9%含有)-γCD複合体及びトコフェロール(13%含有)-γCD複合体と、対照としてトコフェロール(13%含有)−デンプン混合物を用いた。トコフェロール(13%含有)−デンプン混合物は、トコフェロールとデンプンを単に混合しただけの物であり、特に包接化させてはいない。
これらをガラス瓶中にそれぞれ入れ、45℃における日光露光下で0〜60時間保存し、保存期間ごとにトコフェロールの含有量を定量し、複合体(C)の光に対する安定性を調べた。トコフェロールの残存率は実施例1、(2)と同様に求めた。
【0031】
結果
複合体(C)の熱及び光におけるトコフェロールの残存率を図4に示した。図4に示されるように、トコフェロール(13%含有)−デンプン混合物のトコフェロールの残存率は、熱及び光によって、30時間経過後に50%近くまで低下し、60時間経過後には0%まで低下することが確認された。一方で、本発明の複合体(C)のトコフェロールの残存率は時間の経過に伴って若干低下するものの、対照混合物と比べ熱及び光に対し、安定性を有することが示された。
【0032】
(4)複合体(D)の熱及び光における安定性の検討
実施例1の複合体(D)と、対照としてCoQ10(20%含有)−デンプン混合物を用いた。CoQ10(20%含有)−デンプン混合物は、CoQ10とデンプンを単に混合しただけの物であり、特に包接化させてはいない。
これらをガラス瓶中にそれぞれ入れ、45℃における日光露光下で0〜25時間保存し、保存期間ごとにCoQ10の含有量を定量し、複合体(D)の光に対する安定性を調べた。
また、同様に開放系、60℃で0〜6週間保存することによって、CoQ10の残存率を調べ、複合体(D)の熱に対する安定性を調べた。CoQ10の残存率は実施例1、(2)と同様に求めた。
【0033】
結果
複合体(D)の光におけるCoQ10の残存率を図5a)に示し、熱におけるCoQ10の残存率を図5b)に示した。
図5a)及びb)に示されるように、CoQ10(20%含有)−デンプン混合物のCoQ10の残存率は、光及び熱によって、日数の経過に伴い、半分以下〜0%近くまで低下することが確認された。一方で、本発明の複合体(D)のCoQ10の残存率は、図5a)に示されるように光によって低下するものの、図5b)に示されるように、熱によっては低下せず、対照混合物と比べ安定性を有することが示された。
【実施例2】
【0034】
<ビタミン類存在下での複合体(D)の安定性の検討>
実施例1の複合体(D)と、対照としてγCDのかわりにαCD又はβCDを用い、実施例1と同様に製造したCoQ10(20%含有)-αCD複合体及びCoQ10(20%含有)-βCD複合体と、CoQ10そのものを用いた。
【0035】
(1)ビタミンE存在下での複合体(D)の安定性の検討
上記で製造した、複合体(D)、CoQ10(20%含有)-αCD複合体及びCoQ10(20%含有)-βCD複合体をそれぞれ2.125g用い、ビタミンE(備前化成社製)0.354g、グリセリン脂肪酸(花王社製)2.521gと混合し、ペースト状のCoQ10含有組成物を得た。
さらに比較として、CoQ10(日清ファルマ社製)0.425gを結晶セルロース(備前化成社製)1.7g、ビタミンE(備前化成社製)0.354g、グリセリン脂肪酸(花王社製)2.521gと混合し、ペースト状のQ10含有組成物を得た。
【0036】
上記(1)で得たCoQ10含有組成物を、次の保存条件で保存し、保存期間ごとにHPLCを用いて以下の分析条件で組成物中のコエンザイムQ10量を測定し、保存開始時を100%としたコエンザイムQ10の残存率を算出した。
<保存条件>
保存温度: 40℃
保存容器: 遮光ガラス瓶気密容器
保存期間: 20日間
<HPLC分析条件>
カラム: Waters SunFire 5.0μm C18 4.6×150mm
カラム温度:40℃
移動相: DMF100%
流量: 1.0mL/min
検出波長: UV280nm
注入量: 10μL
【0037】
結果
ビタミンE存在下での複合体(D)のCoQ10の残存率を図6a)に示した。
図6a)に示されるように、ビタミンE存在下での、CoQ10そのもの、CoQ10(20%含有)-αCD複合体及びCoQ10(20%含有)-βCD複合体のCoQ10の残存率は、日数の経過とともに徐々に低下し、試験開始から20日後には、75〜85%前後まで低下することが確認された。一方で、本発明の複合体(D)のCoQ10の残存率はほとんど低下せず、ビタミンE存在下でも高い安定性を有することが示された。
【0038】
(2)ビタミンC存在下での複合体(D)の安定性の検討
上記で製造した、複合体(D)、CoQ10(20%含有)-αCD複合体及びCoQ10(20%含有)-βCD複合体をそれぞれ2.125g用い、ビタミンC(三共ライフテック社製)2.875gと混合し、粉末状のCoQ10含有組成物を得た。
さらに比較として、CoQ10(日清ファルマ社製)0.425gを結晶セルロース(備前化成社製)1.7g、ビタミンC(三共ライフテック社製)2.875gと混合し、粉末状のCoQ10含有組成物を得た。
【0039】
上記(2)で得たCoQ10含有組成物を、上記(1)と同様の保存条件で保存し、保存期間ごとにHPLCを用いて組成物中のCoQ10量を測定し、保存開始時を100%としたCoQ10の残存率を算出した。
【0040】
結果
ビタミンC存在下での複合体(D)のCoQ10の残存率を図6b)に示した。図6b)に示されるように、ビタミンC存在下での、CoQ10そのもの、CoQ10(20%含有)-αCD複合体及びCoQ10(20%含有)-βCD複合体のCoQ10の残存率は、日数の経過とともに徐々に低下し、試験開始から20日後には、80〜85%前後まで低下することが確認された。一方で、本発明の複合体(D)のCoQ10の残存率は日数の経過に伴って若干低下するものの、ビタミンC存在下でも高い安定性を有することが示された。
以上の結果より、ビタミンE又はビタミンC存在下においても、αCD及びβCDと比較して、γCDを用いた複合体では高い安定性が得られることが示された。
【実施例3】
【0041】
CoQ10含有量の違いによるビタミンE存在下での複合体の安定性の検討
試料としてγCDとCoQ10が4:1となるように調製した複合体(γCD/CoQ10(4:1)複合体)と、2:1となるように調製した複合体(γCD/CoQ10(2:1)複合体)、1:1となるように調製した複合体(γCD/CoQ10(1:1)複合体)を、対照試料としてCoQ10を用い、ビタミンE存在下でのこれらの安定性を検討した。
上記の試料をそれぞれ2.125g用い、ビタミンE(備前化成社製)0.354g、グリセリン脂肪酸(花王社製)2.521gと混合し、ペースト状のCoQ10含有組成物を得た。
【0042】
上記で得たCoQ10含有組成物を、上記実施例2と同様の保存条件で保存し、保存期間ごとにHPLCを用いて以下の分析条件で組成物中のコエンザイムQ10量を測定し、保存開始時を100%としたコエンザイムQ10の残存率を算出した。
【0043】
結果
ビタミンE存在下での各試料のCoQ10の残存率を図7に示した。
図7に示されるように、ビタミンE存在下での、CoQ10そのものの残存率は、日数の経過とともに徐々に低下し、試験開始から20日後には、75〜85%前後まで低下することが確認された。一方で、γCD/CoQ10(4:1)複合体のCoQ10の残存率はほとんど低下せず、ビタミンE存在下でも高い安定性を有することが示された。また、γCD/CoQ10(2:1)複合体のCoQ10の残存率は日数の経過とともに若干低下し、γCD/CoQ10(1:1)複合体ではさらに低下したが、CoQ10のみと比較して十分な安定性が示された。この結果により、CoQ10の含有量が少ない複合体ほど、安定性が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によって製造された複合体は、成分として含有する化合物の効果を安定して維持することができる。また、この複合体を成分として利用することで長期にわたって、効果を維持できる飲食品、化粧品及び医薬品等の提供を容易とする。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】複合体が包接体を形成していることを示した図である。
【図2】a)複合体(A)の熱におけるファルネゾールの含有率を示した図である。 b)複合体(A)の光におけるファルネゾールの残存率を示した図である。(実施例1)
【図3】複合体(B)の光におけるメナキノンの残存率を示した図である。(実施例1)
【図4】複合体(C)の熱及び光におけるトコフェロールの残存率を示した図である。(実施例1)
【図5】a)複合体(D)の光におけるCoQ10の残存率を示した図である。(実施例1) b)複合体(D)の熱におけるCoQ10の残存率を図4b)に示した図である。(実施例1)
【図6】a)ビタミンE存在下での複合体(D)のCoQ10の残存率を示した図である。 b)ビタミンC存在下での複合体(D)のCoQ10の残存率を示した図である。(実施例2)
【図7】CoQ10含有量の違いによるビタミンE存在下での各複合体のCoQ10の残存率を示した図である(実施例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレノイド構造及び/又はキノン構造を有する化合物をγシクロデキストリン(γCD)に包接させることを特徴とする、安定化された複合体の製造方法。
【請求項2】
イソプレノイド構造が、(A)以下の構造式:
[化1]

[式中nは1以上20以下の整数を意味する]を有する化合物である請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
キノン構造が、(B)以下の構造式:
[化2]

[式中Rは水素、ヒドロキシル又はヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルからなる群より選ばれる]を有する化合物である、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
化合物が、ファルネゾール、ゲファルナート、スクアレン、メナキノン、トコトリエノール、トコフェロール、コエンザイムQ10(CoQ10)からなる群より選ばれるいずれか1つ以上である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造された複合体。
【請求項6】
請求項5に記載の複合体を含有せしめた飲食品。
【請求項7】
請求項5に記載の複合体を含有せしめた化粧品。
【請求項8】
請求項5に記載の複合体を含有せしめた医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−249050(P2006−249050A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71649(P2005−71649)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(503065302)株式会社シクロケム (22)
【Fターム(参考)】