説明

密閉型圧縮機

【課題】バランスウェイトの軌道を規制することで無用な振動を抑制し、さらに重心移動の制御性を高めることができる密閉型圧縮機を得る。
【解決手段】密閉型圧縮機100は、回転子5の下端にガイド機構10を介して取り付けられたバランスウェイト7と、駆動軸軸受4の外周の一部に設置された楕円型のカム機構8と、バランスウェイト7をカム機構8のカム面8aに押し付けるバネ9とを有し、回転子5の回転角に応じて、バランスウェイト7の重心位置を変更可能にすることによって、圧縮機構偏心部2に生じる回転トルクの変動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密閉型圧縮機、特に、シングルロータリ型の密閉型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉型圧縮機は、固定側の圧縮要素と可動側の圧縮要素とによって容積が変動する空間を形成し、容積が減少する行程において冷媒ガスを圧縮し、容積が増加する行程において圧縮された冷媒ガスを排出すると共に、新たに冷媒ガス(圧縮される前)を吸引するものである。このため、冷媒ガスの圧縮に伴って空間の圧力が変動している。すなわち、可動側の圧縮要素を回転させる場合、回転に要するトルクが変動し、かかるトルクの変動に伴って回転角速度が変動し、これが振動の発生原因になっている。
【0003】
そこで、前記トルク変動を相殺するために、回転部にバランスウェイト(バランサーに同じ)を設置し、その偏心荷重による遠心力を利用する発明が開示されている。
たとえば、回転子(可動側の圧縮要素に駆動軸を介して連結され、電動機構を構成している)の上部に、2つの振り子で構成されている動吸振器を設置し、かかる振り子に作用する遠心力によって一回転する間の前記トルク変動を打ち消す圧縮機が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、回転子の上部に円環状の溝を設け、回転子の回転に伴って前記溝に冷凍機油が貯まるようにした回転型圧縮機が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−201195号公報(第12頁、第3−7図)
【特許文献2】特開昭59−176493号公報(第3頁、第1−3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1、2に開示された圧縮機は、バランスウェイトの重心を、遠心力のみによって移動させるものであるため、運転周波数によっては無用な振動がおこる可能性がある。また、重心移動の軌道が規制されていないため、あるいは軌道変更が困難であるため、回転角に応じて変動するトルク変動に対する柔軟な重心移動が困難であるという問題点があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、バランスウェイトの軌道を規制することで無用な振動を抑制し、さらに重心移動の制御性を高めることができる密閉型圧縮機を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密閉型圧縮機は、固定子および回転子を具備する電動機構と、
冷媒ガスを圧縮する圧縮機構偏心部を具備する圧縮機構と、
前記回転子と前記圧縮機構偏心部とを連結する駆動軸と、
該駆動軸を回転自在に軸支する駆動軸軸受と、
前記回転子に回転中心からの距離が変動自在に設置されたバランスウェイトと、
前記駆動軸軸受の外周に設置され、前記バランスウェイトが押し付けられるカム面を具備するカム機構と、
前記バランスウェイトを前記カム面に押し付けるための付勢手段と、を有し、
前記回転軸の回転角に応じて前記バランスウェイトの重心位置を変更可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の冷凍空調装置は、回転軸の回転角に応じてバランスウェイトの重心位置を変更可能、すなわち、一回転中にバランスウェイトが移動する軌跡(回転角毎の重心位置に同じ)を規制されているから、圧縮機構偏心部に作用する冷媒ガスの圧力変動によって発生した回転トルクの変動(回転角速度の変動に同じ)を、抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1〜図4は本発明の実施の形態1に係る密閉型圧縮機を説明するものであって、図1は要部を示す縦断面図、図2は部分を示す平面図、図3はバランスウェイトの動作を示す平面図、図4は回転時の挙動を示す特性図である。なお、以下の説明および図において、同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0010】
(全体構成)
図1において、密閉型圧縮機(以下、「圧縮機」と称す)100は、板からなる円筒状密閉容器11と、円筒状密閉容器11内の上部空間に配置された電動機構12と、円筒状密閉容器11内の下部空間に配置された回転圧縮機構(以下「圧縮機構」と称す)1とを有している。
【0011】
(電動要素)
電動機構12は、回転子5と固定子6とによって構成され、固定子6は円筒状密閉容器11の上部空間の内周に沿って環状に取り付けられ、回転子5は固定子6の内側に若干の間隙を設けて配置されている。そして、回転子5には、その中心を通り鉛直方向に延びるクランク軸(以下「駆動軸」と称す)3が一体に設けられ、駆動軸3は円筒状密閉容器11に固定された駆動軸軸受4によって軸支されている。
【0012】
(圧縮機構)
圧縮機構1は、冷媒ガスを吸入して圧縮するものであって、固定側の圧縮要素と可動側の圧縮要素(以下「圧縮機構偏心部」と称す)2とを具備し、圧縮機構偏心部2は駆動軸3に接続され、電動機構12によって回転駆動されるものである。
【0013】
(運動規制手段)
さらに、回転子5の下端には、圧縮機構偏心部2と重心バランスをとるためのバランスウェイト7が取り付けられている。すなわち、バランスウェイト7は、回転子5の下端に設けられたガイド機構10によって、回転中心から離れる方向(半径方向に同じ)に移動自在に案内され、バネ9によって回転中心側に付勢されている。なお、バネ9は、回転子5が回転した際、バランスウェイト7に作用する遠心力に打ち勝つだけの力を発揮するものである。
一方、駆動軸軸受4の外周の一部には、駆動軸3の回転中心から離れる方向に突出する楕円型のカム機構8が取り付けられ、バランスウェイト7の回転中心側の面(以下「当接面」と称す)7aがカム機構8のカム面8aに当接(摺動)している。
したがって、バランスウェイト7はバネ9によって回転中心側に付勢されているから、バランスウェイト7の当接面7aがカム機構8のカム面8aに当接(摺動)している間は、カム面8aの形状に沿って回転中心からの距離が変動し、一方、駆動軸軸受4の外周4aに当接(摺動)している間は、その円筒面に沿って回転中心からの距離が一定に保たれることになる。
【0014】
(動作)
次にバランスウェイト7の動作について説明する。
図3の(a)〜(h)において、以下の説明の便宜上、回転子5が時計回り方向に回転するとし、その回転開始位置を図中の上方向(以下「12時の方向」と称す)と、カム機構8のカム面8aが回転中心から最も遠くなる位置を図中の右方向(以下「3時の方向」と称す)とする。
図3の(a)において、回転子5が12時の位置(回転角が0°に同じ)にあるとき、バランスウェイト7の当接面7aが駆動軸軸受4の外周4aに当接(摺動)しているから、バランスウェイト7は回転中心に最も近い位置にある。
【0015】
そして、図3の(b)〜(d)において、回転子5の回転(回転角の増加に同じ)によって、バランスウェイト7の当接面7aはカム機構8のカム面8aに当接(摺動)し、除々に回転中心から遠ざかり、そして、回転子5が1/4円だけ回転(回転角が90°に同じ)したところで、バランスウェイト7は回転中心から最も遠ざかっている(図3の(d)参照)。この間、バランスウェイト7の重心位置と回転中心とを結ぶ線と当接面7aの垂線(バネ9の付勢方向に同じ)とが形成する角度(θ)が変動している。
【0016】
さらに、図3の(e)〜(g)において、回転子5の回転によって、バランスウェイト7の当接面7aは、除々に回転中心に近づき、そして、回転子5が1/2円だけ回転(回転角が180°に同じ)したところで、バランスウェイト7は回転中心に最も近づいている(図3の(g)参照)。この間、バランスウェイト7の重心位置と回転中心とを結ぶ線と当接面7aの垂線とが形成する角度(θ)が変動している。
【0017】
さらに、回転子5が1/2円から元の位置(回転角が180°〜360°に同じ)に回転している間は、バランスウェイト7の当接面7aが駆動軸軸受4の外周4aに当接(摺動)しているから、回転に伴って回転中心から距離が変動することはなく、バランスウェイト7は回転中心に最も近い位置にある(図3の(h)参照)。
【0018】
以上のように、圧縮機100は、回転子5の回転角に応じて、バランスウェイト7の重心が移動(回転中心からの距離が変動)するから、回転する部分(回転子5、駆動軸3、および圧縮機構偏心部)の回転角ごとの遠心力と、同じ回転角における圧縮室(前記固定側の圧縮要素と可動側の圧縮要素とによって形成される)のガス負荷による回転トルクとをバランスすることができる。
【0019】
図4において、縦軸は回転する部分に作用する遠心力および圧縮室のガス負荷であり、それぞれ最大1として正規化したものであり、横軸は回転子5(バランスウェイト7に同じ)の回転角(図中、クランク角としている)である。
すなわち、圧縮室のガス圧が変動する回転角に対応して、バランスウェイトの重心が移動して、バランスウェイトに作用する遠心力が圧縮室ガス負荷(圧縮室において冷媒ガスを圧縮する負荷)に起因する回転トルクとバランスしていることが示されている。よって、電動要素の負荷が平準化され回転部の回転角速度の変動が抑えられるから、無用な振動の発生が防止される。
【0020】
以上のように、圧縮機100は、圧縮機構1の駆動軸3の一回転中の重心位置を制御可能にしているので、一回転中に、その回転角に応じて生じるガス圧縮等による回転アンバランスを相殺することができ、さらにその回転アンバランスの発生状況に応じて重心移動軌跡を変化させることができる。
なお、本発明はカム機構8のカム面8aを楕円型に限定したり、バランスウェイト7の当接面7aを平面に限定するものではなく、前記回転アンバランスの発生状況に応じた重心移動軌跡を実現する適宜の形状にすることができる。また、ガイド機構10の構成や、バネ9の形態も限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によれば、簡素な構成によって無用な振動を抑制することができるから、家庭用および業務用の各種圧縮機として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係る密閉型圧縮機を説明する要部を示す縦断面図。
【図2】図1に示す密閉型圧縮機の部分を示す平面図。
【図3】図1に示す密閉型圧縮機に設置されたバランスウェイトの動作を示す平面図。
【図4】図1に示す密閉型圧縮機の回転時の挙動を示す特性図。
【符号の説明】
【0023】
1:圧縮機構、2:圧縮機構偏心部、3:駆動軸、4:駆動軸軸受、4a:駆動軸軸受の外周、5:回転子、6:固定子、7:バランスウェイト、7a:バランスウェイトの当接面、8:カム機構、8a:カム面、9:バネ、10:ガイド機構、11:円筒状密閉容器、12:電動機構、100:密閉型圧縮機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子および回転子を具備する電動機構と、
冷媒ガスを圧縮する圧縮機構偏心部を具備する圧縮機構と、
前記回転子と前記圧縮機構偏心部とを連結する駆動軸と、
該駆動軸を回転自在に軸支する駆動軸軸受と、
前記回転子に回転中心からの距離が変動自在に設置されたバランスウェイトと、
前記駆動軸軸受の外周に設置され、前記バランスウェイトが押し付けられるカム面を具備するカム機構と、
前記バランスウェイトを前記カム面に押し付けるための付勢手段と、を有し、
前記回転軸の回転角に応じて前記バランスウェイトの重心位置を変更可能にしたことを特徴とする密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記カム機構が楕円型のカム面を具備し、
前記バランスウェイトが、前記カム面に当接する平面状の当接面を具備し、
前記バランスウェイトの重心位置と回転中心とを結ぶ線と、前記当接面とが形成する角度が、前記回転子の回転角に伴って変動することを特徴とする請求項1記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
前記付勢手段が、前記バランスウェイトを回転中心からの距離が変動自在に案内するガイド機構に取り付けられたバネであることを特徴とする請求項1または2記載の密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−144517(P2010−144517A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319128(P2008−319128)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】