説明

封止機構及びこれを用いた熱処理炉

【課題】(1)開口部の封止を迅速に行うと共に、開口部の封止を継続して確実に行う。
(2)被処理品を遅滞なく一定の雰囲気下で熱処理して、被処理品について所望の性質を得る。
【解決手段】開口部2を有する壁部3と開口部2を閉塞する扉5とを備えた構造を対象として、開口部2を扉5で閉塞した状態において壁部3と扉5との互いに対抗する面のいずれか一方又は双方に開口部2を囲繞する環状溝部11が形成され、該環状溝部11内に内部が流体Aの封入部13sとされた封止部材13が配置され、流体Aを制御することにより封止部材13を変形せしめて、開口部2の封止を行う封止機構において、封止部材13は、少なくとも環状溝部11開放側に肉厚に構成された剛性パッド部13aを備えると共に該剛性パッド部13aに連設し該剛性パッド部13aよりも肉薄に構成されて環状溝部11内で伸縮可能な可撓伸縮部13bを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部を有する壁部と開口部を閉塞する扉とを備えた構造を対象とした封止機構及びこれを用いた熱処理炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属等の熱処理を行う熱処理炉においては、被処理品に対して加熱処理を行う加熱処理室と冷却処理を行う冷却処理室とを隣接配置させ、これら加熱処理室と冷却処理室とを隔絶する隔壁に被処理品を移動させるための開口部と、この開口部を閉塞可能な中間扉と、この中間扉に配置され前記開口部を封止する封止機構とを設けて、特に冷却処理室に不活性ガスを充填して被処理品に冷却処理を行う際に開口部を閉塞すると共にこの開口部を封止している。
【0003】
このような構造を対象とした封止機構の一つとして、周知のように、開口部と対向する扉の対向面に固定され開口部を扉で閉塞した状態において開口部を囲繞するOリングと、開口部を扉で閉塞した状態で扉を壁部に押し付ける押し付け装置とを備えたものがある。
【0004】
また、下記特許文献1には、気密室の開口部の周縁又は扉の該気密室の開口部の周縁に対応する部位に形成された環状の凹溝と、該凹溝の開口部の両口縁に凹溝に沿って設けられたパッキン保持部と、環状の外形を有して凹溝の開口部全体を覆うように配され、両側縁がパッキン保持部で保持されたシート状パッキンとを具備した封止機構が開示されている。すなわち、凹溝とパッキンとの間の空間内に高圧の作動流体を供給して該パッキンを膨出させ、凹溝と対向する扉又は気密室の部位と接触させることにより気密室の開口部を封止するものである。
【特許文献1】特開平11−257498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記Oリングを設けた構成のものでは、扉を壁部に押し付けて開口部を封止するまでに相当時間を要するという問題がある。このような封止機構を上記例示した熱処理炉に用いると、封止完了まで冷却処理が行えないので熱処理が遅延し、被処理品について所望する品質が得られないという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の構成のものでは、封止機構が高圧下又は減圧下で使用される場合にシート状パッキンが該圧力により大きく変形し、このシート状パッキンと、凹溝と対向する扉又は気密室の部位との接触が解消されて、開口部が封止されなくなってしまうという問題がある。このような封止機構を上記例示した熱処理炉に用いると、冷却処理室に充填した不活性ガスが熱処理室に漏出する可能性が高くなり、冷却処理中に雰囲気が変化して被処理品について所望する品質が得られないおそれがあるという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、以下を目的とする。
(1)開口部の封止を迅速に行うと共に、開口部の封止を継続して確実に行う。
(2)被処理品を遅滞なく一定の雰囲気下で熱処理して、被処理品について所望の性質を得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、封止機構に係る第1の解決手段として、開口部を有する壁部と前記開口部を閉塞する扉とを備えた構造を対象として、前記開口部を前記扉で閉塞した状態において前記壁部と前記扉との互いに対抗する面のいずれか一方又は双方に前記開口部を囲繞する環状溝部が形成され、該環状溝部内に内部が流体の封入部とされた封止部材が配置され、前記流体の圧力を制御することにより前記封止部材を変形せしめて、前記扉により前記開口部の封止を行う封止機構において、前記封止部材は、少なくとも前記環状溝部開放側に肉厚に構成された剛性パッド部を備えると共に該剛性パッド部に連設し該剛性パッド部よりも肉薄に構成されて前記環状溝部内で伸縮可能な可撓伸縮部を備えている、という手段を採用する。
【0009】
また、封止機構に係る第2の解決手段として、上記封止機構に係る第1の解決手段において、前記可撓伸縮部は、屈曲部を備え、前記封止部材を前記環状溝部に折り曲げて収容する、という手段を採用する。
また、封止機構に係る第3の解決手段として、上記封止機構に係る第1又は第2の解決手段において、前記封止部材を固定する固定部材を備え、該固定部材は、前記封止部材を前記環状溝部の形成面に密着して固定する、という手段を採用する。
【0010】
また、封止機構に係る第4の解決手段として、上記封止機構に係る第1から第3の解決手段のうちいずれかにおいて、前記剛性パッド部は、前記環状溝部開放側に向けて延設された突起部を備える、という手段を採用する。
また、熱処理炉に係る解決手段として、前記開口部は、被処理品を収容する熱処理室の内部空間と外部空間とを連通させる搬入搬出口であり、上記封止機構に係る第1から第3の解決手段うちいずれかの解決手段における封止機構を用いた、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る封止機構によれば、封止部材が、剛性パッド部と可撓伸縮部とを備えているので、封止機構が用いられる雰囲気で剛性パッド部が変形し難く、また、封入部に流体を出入させると可撓伸縮部が伸縮する。これにより、剛性パッド部を環状溝部から突出させて開口部を迅速に封止することができると共に開口部を封止した状態の剛性パッド部の変形を極めて小さいものとし、開口部を継続して確実に封止することができる。
【0012】
また、本発明に係る熱処理炉によれば、上記のような封止機構を用いているので、迅速に開口部の封止を行って遅滞なく熱処理を行うことができると共に、一定の雰囲気下で熱処理を行うことができる。従って、設定した処理工程及び処理条件で被処理品に熱処理を行って、所望の性質の被処理品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明においては、まず本発明に係る封止機構を説明した後に、この封止機構を用いた熱処理炉について説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る構造体1を示す外観構成図である。
図1に示すように、構造体1は、開口部2が形成された壁部3等により密閉室Rが構成された本体4と、開口部2を閉塞する閉塞扉(扉)5と、閉塞扉5を上下に可動させる昇降装置6と、閉塞扉5の鉛直方向以外の動きを規制するスライドガイド7(7A,7B)と、開口部2を封止する封止機構10とから概略構成されている。
【0015】
本体4は、床Gに鉛直に立設された壁部3、また、天板部4a等から構成されて、これら壁部3や天板部4a等により密閉室Rが形成されている。この密閉室Rを形成する壁部3には、密閉室Rと外部空間とを連通させ、その開口断面が矩形となった開口部2が形成されている。
なお、密閉室Rは、閉塞扉5が開口部2を閉塞すると共に封止機構10が開口部2を封止した状態において比較的に高圧とされるものである。
【0016】
閉塞扉5は、開口部2の開口面積よりも大きな面積となった扉板面5a,5bを備える略矩形板状のものである。この閉塞扉5は、昇降装置6及びスライドガイド7により壁部3に沿って鉛直方向に移動可能に構成されており、開口部2を閉塞することが可能である。
【0017】
昇降装置6は、天板部4aに固定されたワイヤ巻取装置6aと、閉塞扉5の上方に配置された滑車6bと、ワイヤ巻取装置6aと閉塞扉5とを滑車6bを介して連結するワイヤ6cとから構成されて、閉塞扉5を上下に移動させる。
【0018】
スライドガイド7(7A,7B)は、細長状に形成されると共に断面が略L字型に形成された部材であり、開口部2の両側部に閉塞扉5の短手方向の長さとほぼ同様の長さを空けて対向配置されたものである。より具体的には、スライドガイド7(7A,7B)の断面が壁部3と直交する方向に閉塞扉5の厚さとほぼ同様の長さだけ延在した後に、他方のスライドガイド7(7A,7B)の方向に屈曲し、同方向へ向けて開口部2に重ならない長さだけ延在しているものである。
【0019】
すなわち、このスライドガイド7(7A,7B)と壁部3とで閉塞扉5を挟んで閉塞扉5の鉛直方向以外の移動が規制されている。このスライドガイド7(7A,7B)の下部には、閉塞扉5の下方向の移動を制限するストッパ(不図示)が形成されており、このストッパが閉塞扉5に接触することにより閉塞扉5が定位置において開口部2を閉塞するようになっている。以下では、特に言及しない限り、閉塞扉5が開口部2を閉塞した状態とは、この定位置での閉塞状態を指すものとする。
【0020】
図2は、扉板面5a側から見た閉塞扉5を示す一部断面図であり、図3は、閉塞扉5の要部断面図であって、図3(a)は、図2におけるA−A線断面図であり、図3(b)は、図2におけるB−B線断面図である。
図2に示すように、封止機構10は、閉塞扉5に形成された環状溝部11と、この環状溝部11内に配置された封止部材13と、この封止部材13を環状溝部11に固定する固定部材15と、封止部材13に空気(空気)Aを供給すると共に空気Aを排気するポンプ機構17(図3(b)参照)とを備えている。
【0021】
環状溝部11は、壁部3と対向する扉板面5aに形成されたものであって、閉塞扉5が開口部2を閉塞した状態において開口部2を囲繞するように環状に形成されたものである。より正確には、閉塞扉5が開口部2を閉塞した状態において扉板面5aに開口部2を投影した投影線2pを囲繞するように環状に形成されている。
この環状溝部11は、図3に示すように、溝深さ方向の断面が矩形に形成されたものであり、扉板面5aと直交するように形成された溝側面11a,11bと、これら溝側面11a,11bとに直交するように形成された溝底面11cを備えている。
【0022】
溝底面11cには、溝底面11cと扉板面5bとを貫通する複数のボルト貫通孔11dが一定間隔を空けて開口すると共に、溝底面11cと扉板面5bとを貫通する一つのノズル貫通孔11eが開口している(図2参照)。
【0023】
封止部材13は、フッ素ゴム製のものであり、図2に示すように、環状に形成され、環状溝部11に配置されている。この封止部材13は、図3に示すように、剛性パッド部13aと、可撓伸縮部13bと、突起部13cと、被固定部13dとを備えている。
【0024】
剛性パッド部13aは、環状溝部11の開放側に位置する肉厚の部位であり、環状、かつ、板状に形成され、溝側面11a,11bに挟まれるようにして環状溝部11に嵌合している。この剛性パッド部13aは、扉板面5aから壁部3までの長さ以上の厚さ(環状溝部11の溝深さ方向)を有している。すなわち、剛性パッド部13aを突出させて壁部3に密着させた状態において、剛性パッド部13aに扉板面5aの方向に沿って荷重を作用させても、その荷重を環状溝部11で受けることができるようになっている。
【0025】
また、剛性パッド部13aの各寸法は、密閉室Rと外部空間との圧力差によって剛性パッド部13aに生じる変形が極めて小さくなるように構成されている。
具体的には、フッ素ゴムの機械的性質を考慮した上で、剛性パッド部13aを突出させて壁部3に密着させた状態において密閉室Rと外部空間との圧力差によって作用するせん断力(後述する)に十分に耐え得る寸法が設定されている。
【0026】
また、剛性パッド部13aには、環状溝部11の開放側に延設された突起部13cが、環状溝部11の溝底面11cの幅方向における中心から、この幅方向に直交する方向に延在する仮想中心面Q上の位置と、この仮想中心面Qを挟んで対称となる二つの位置とに一定の距離を空けて形成されている。
【0027】
可撓伸縮部13bは、剛性パッド部13aの両端部から溝底面11cに向けて延設された肉薄の部位であり、屈曲部13eを備えている。すなわち、可撓伸縮部13bは、環状溝部11開放側から溝底面11cに向けて、仮想中心面Qに次第に近接し、仮想中心面Qに最も近接した屈曲部13eを経た後に、仮想中心面Qから次第に離間するように形成されている。つまり、溝深さ方向に沿った断面が略く字状又は略逆く字状に形成されている。
【0028】
被固定部13dは、可撓伸縮部13bから仮想中心面Qに向けて所定の長さだけ延設されたものであり、その端部が仮想中心面Qを挟んで対向し、固定部材15により溝底面11cに密着固定されている。
【0029】
固定部材15は、環状に形成されて、環状溝部11に配置されたものであり、環状溝部11の溝深さの略半分程度の高さを有している。この固定部材15は、溝底面11cから仮想中心面Qに沿って被固定部13dの厚さより短い長さだけ延在した後に、溝底面11cの幅方向に張り出し、その後、環状溝部11の開放側に向けて次第に張り出しの幅が狭まる形状となっている。
この固定部材15には、ボルト貫通孔11dに対応した位置に複数個の雌ネジ15aが形成されると共に、ノズル貫通孔11eに対応した位置に一つの空気給排気孔15bが形成されている。
【0030】
すなわち、この固定部材15は、張り出した部分と溝底面11cとで被固定部13dを挟んで封止部材13を環状溝部11に固定している。すなわち、ボルト16をボルト貫通孔11dに挿入すると共に雌ネジ15aに螺着させ、このボルト16の緊締力により被固定部13dを溝底面11cに押圧し、封止部材13を環状溝部11に密着固定している。
なお、ノズル貫通孔11eには空気給排気孔15bと密着固定されたノズル18が配置固定されている。
【0031】
このような構成により封止部材13は、環状溝部11に固定収容されると共に、内部が空気Aの封入部13sとされており、この封入部13sと空気給排気孔15b(ノズル18)とが連通するようになっている。
【0032】
ポンプ機構17は、空気Aを圧送及び排気することができるものであり、封入部13s内の空気Aの圧力を制御することができるようになっている。
【0033】
続いて、上記の構成からなる構造体1において、開口部2を封止する方法及びこの封止状態を解除する方法について、図1及び図4を用いて説明する。
まず、図1に示すように、閉塞扉5を開口部2よりも上方に位置させて開口部2を開放した状態から、昇降装置6を作動させて閉塞扉5をスライドガイド7に沿ってスライドさせる。そして、閉塞扉5をスライドガイド7のストッパに接触させて、開口部2を閉塞する。
【0034】
開口部2を閉塞扉5で閉塞した状態において、図4(a)に示すように、ポンプ機構17から封入部13sに空気Aを供給し、封入部13sの圧力を上昇させる。封入部13sの圧力が上昇するにつれて、図4(b)に示すように、可撓伸縮部13bが速やかに伸長すると共に剛性パッド部13aが環状溝部11(溝側面11a,11b)に沿って、環状溝部11の開放側に変位し、突起部13cの先端が壁部3に接触する。
【0035】
さらに、封入部13sの圧力を上昇させると、図4(c)に示すように、剛性パッド部13aが壁部3に向かって変位し、突起部13cを押しつぶしながら剛性パッド部13aの平面を壁部3に密着させ、開口部2を迅速に封止する。
【0036】
開口部2が封止されて密閉室Rが密閉されると密閉室Rに不活性ガスが注入されて、密閉室Rの圧力が上昇する。密閉室Rが高圧になるとこの密閉室Rと外部空間とに圧力差が生じて、環状溝部11から突出した剛性パッド部13aの一部が、扉板面5aの中心から外方へ向けて押し出す力を受ける。すなわち、剛性パッド部13aに扉板面5aの方向に沿って、せん断力が発生する。
【0037】
剛性パッド部13aは、扉板面5aの方向に沿ったせん断力により極めて小さく変形するが、壁部3との接触状態が解消されるほどには変形せず、壁部3と密着して開口部2を継続して封止する。
【0038】
最後に開口部2を再度開放するために、密閉室Rに注入された不活性ガスを排気管(不図示)から排気して密閉室Rを減圧した後に、封入部13sから空気Aを排気して、可撓伸縮部13bを短縮すると共に剛性パッド部13aを後退させて壁部3から離間させ、開口部2の封止を解除する(図4(b)参照)。さらに、封入部13sの減圧を続け、可撓伸縮部13bが固定部材15と接触するように剛性パッド部13aを環状溝部11に収容する(図4(a)参照)。
そして、剛性パッド部13aを環状溝部11に収容した状態で、昇降装置6を作動させ、閉塞扉5を上方に移動させて開口部2を開放する(図1参照)。
【0039】
以上説明したように、構造体1の封止機構10によれば、封止部材13が剛性パッド部13aと可撓伸縮部13bとを備えているので、開口部2の封止を迅速に行うと共に、開口部2の封止を継続して確実に行うことができる。
すなわち、剛性パッド部13aが壁部3に密着した状態において、剛性パッド部13aの溝底面11c側の一部が環状溝部11に嵌合しているので、剛性パッド部13aに作用する圧力を環状溝部11で受けることができる。また、剛性パッド部13aの各寸法は、扉板面5aの方向に沿ったせん断力に十分に耐え得る寸法が設定されて肉厚に構成されている。これにより、密閉室Rが高圧なものであり、外部空間と圧力がある場合であっても剛性パッド部13aの変形が極めて小さいものなり、壁部3との密着状態が解消されるほどには変形が生じない。従って、剛性パッド部13aを壁部3に密着させ続けて、開口部2を継続して確実に封止することができる。
また、封入部13sに空気Aを出入させると可撓伸縮部13bが伸縮する。これにより、開口部2の封止時では、剛性パッド部13aを環状溝部11から突出させて開口部2を迅速に封止することができる。
よって、開口部2の封止を迅速に行うと共に、開口部2の封止を継続して確実に行うことができる。
【0040】
また、可撓伸縮部13bは、屈曲部を備えるので、封止部材13を折り畳んでコンパクトに収容することができる一方、開口部2を封止する場合には速やかに伸長することが可能となる。
また、固定部材15が被固定部13dを環状溝部11の溝底面11cに密着固定するので、封入部13sの密閉を確実なものとすることができ、空気Aを圧送又は排気して可撓伸縮部13bを良好に変形させることができる。
また、剛性パッド部13aは、突起部13cを備えるので、この突起部13cを押し潰して壁部3に密着させることで、開口部2の封止を確実にすることができる。
【0041】
続いて、上述した封止機構10を採用した熱処理炉について説明する。図5は、封止機構10を採用した多室型熱処理炉(熱処理炉)30の全体構成を示す垂直断面図であり、図6は、多室型熱処理炉30の全体構成を示す水平断面図である。なお、図5〜図7において、図1〜図4に示す構成要素と同様の構成要素については、同一の符号を付し説明を省略する。
【0042】
図5、図6に示すように、本実施形態における多室型熱処理炉30は、真空加熱炉40と、真空加熱炉40と壁部3を介して隣接配置されるガス冷却炉60と、真空加熱炉40とガス冷却炉60とに接続された真空装置70と(図5で不図示)、ガス冷却炉60に接続された冷却ガス供給装置80と(図5で不図示)、真空加熱炉40に配置された移動装置90とを備えている。
【0043】
真空加熱炉40は、内部に搬入された被処理品Wを減圧下で加熱する機能を有するものである。この真空加熱炉40は、耐圧設計されて壁部3と加熱処理室(熱処理室)R1を構成する真空容器41と、被処理品Wを内部に収容する箱型断熱材42と、被処理品Wをガス冷却炉60の方向に前後移動可能に載置する載置台45(図6で不図示)と、箱型断熱材42の内部空間に配置され被処理品Wを加熱するためのヒータ46(図6で不図示)とを備えている。
【0044】
真空容器41は、内部に箱型断熱材42が配置されている略円筒部41aと、壁部3の開口部2を閉塞可能な閉塞扉5が上下に移動する空間Sが形成された箱型部41bが一体的に構成されたものである。
【0045】
箱型断熱材42は、ガス冷却炉60の方向に被処理品Wを出し入れするための前口42aと、移動装置90を被処理品Wに接触させるための後口42bとが形成されており、それぞれに開放及び閉塞が可能な前扉42cと後扉42dとが設けられている。
【0046】
載置台45は、図5に示すように、細長形状のフレーム45aが対向配置されて、このフレーム45aにフリーローラFが取り付けられたものである。この載置台45は、フレーム45aの長手方向が前口42aと後口42bとの開口方向に重なるように配置されている。
なお、空間Sにおいて、フリーローラFと同一の高さに、真空加熱炉40とガス冷却炉60との間の移動の際に用いられるフリーローラFが設けられている。
【0047】
壁部3は、真空加熱炉40とガス冷却炉60との間に配置されて、加熱処理室R1と後述の冷却処理室R2とを隔絶する隔壁として機能している。また、この壁部3の開口部2は、被処理品Wが通過可能な大きさを有しており、加熱処理室R1と冷却処理室R2とを連通する搬入搬出口として機能する。
さらに、壁部3の加熱処理室R1側に閉塞扉5が配置され、また、箱型部41bの上方に閉塞扉5を上下に移動させる昇降装置51が、空間Sに閉塞扉5の鉛直方向以外の動きを規制するスライドガイド機構52が配されており、閉塞扉5の扉板面5aに封止機構10が設けられている。
【0048】
昇降装置51は、空圧シリンダからなり、閉塞扉5に接続された連結部材51aを介して閉塞扉5を上下に昇降させる。
スライドガイド機構52は、2つのクランプ部材53(53A,53B)と4つのガイド部材54とから構成されている。
【0049】
図7は、スライド機構52の構成を示す構成断面図であり、図6の一部拡大図である。
クランプ部材53(53A,53B)は、細長状に形成された略四角柱の部材であって、断面方形の本体部53aと、本体部53aの一側面53cから突出する断面矩形のレール部53bとを備えた部材である。レール部53bは、本体部53aの一側面53cと直交して隣接形成されると共に長手方向に沿って形成された取付面53dから閉塞扉5の厚さと略同一の長さだけ離間した位置に突設されている。
このクランプ部材53A,53Bは、クランプ部材53A,53Bのレール部53bを互いに向き合わせるように、その長手方向を鉛直方向に重ねて壁部3にボルトで固定されている。
【0050】
ガイド部材54は、二つの屈曲部を備えた部材であって、閉塞扉5の扉板面5bに接触して固定される固定部54aと、この固定部54aの端部から固定部54aと直交する方向に向けて形成された中間部54bと、この中間部54bの端部から中間部54bと直交する方向、かつ、固定部54aの延設方向と反対側に向けて形成されたスライド部54cとからなる部材である。
このガイド部材54は、スライド部54cと閉塞扉5の扉板面5bとがレール部53bを微小な隙間を残して挟むように、閉塞扉5にボルトで固定されている。
なお、ガイド部材54の下部には、上述したスライドガイド7と同様に閉塞扉5の下方向の移動を制限するストッパ(不図示)が形成されている。
【0051】
このようなスライド機構52は、閉塞扉5の鉛直方向以外への移動を規制すると共に、閉塞扉5と壁部3とが常に一定の隙間が生じるようにしており、図5に示すように閉塞扉5が連結部材51aを介して昇降装置51にぶら下がるように構成されている。
【0052】
ガス冷却炉60は、図5、図6に示すように、加熱処理後の被処理品Wを加圧した不活性ガスCによって冷却するものである。このガス冷却炉60は、耐圧設計されて壁部3と冷却処理室R2(熱処理室)を構成する真空容器61と、壁部3に隣接すると共に、その内側に鉛直方向に断面一定のガス流路が形成された整流容器62と、この整流容器62の内部に配置され載置台45と同様の構成の載置台63(図6で不図示)と、不活性ガスCを冷却すると共にこの不活性ガスCを冷却処理室R2に循環させるガス冷却循環装置64とを備えている。
【0053】
真空容器61は、整流容器62が配置されると共に一方の端部が壁部3と接合された円筒形の容器胴部61bと、ガス冷却循環装置64を収容しこの容器胴部61bの他方の端部と接合可能な循環部61cと、気密性を確保できるクラッチリング61e及びクランプ61dを備えて構成されている。
このような真空容器61は、クラッチリング61eを開放し循環部61cを容器胴部61bから図5における右方向に後退させることによって、被処理品Wを容器胴部61bの内部に直接収容する。また、クラッチリング61e及びクランプ61dにより容器胴部61bの端部と循環部61cとを気密性を確保した状態で連結し、壁部3の開口部2を封止すると冷却処理室R2が密閉されるようになっている。
【0054】
真空装置70は、真空加熱炉40とガス冷却炉60とに接続されており、加熱処理室R1と冷却処理室R2とを減圧することができる。
ガス供給装置80は、ガス冷却炉60に接続されており、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガス冷却処理室R2に加圧供給する。
【0055】
移動装置90は、被処理品Wを真空加熱炉40とガス冷却炉60との間で移動させる機能を有するものであり、先端に被処理品Wと係合可能な係合部91aを備え、フリーローラFの下を水平移動可能な搬送棒91と、搬送棒91を駆動するラックピニオン機構とを備えている。
【0056】
続いて、上記構成からなる多室型熱処理炉30の熱処理工程について説明する。
まず、図5に示すように、クラッチリング61eを開放し循環部61cを容器胴部61bから図5における右方向に後退させて、整流容器62の載置台63に被処理品Wを載置する。その後、循環部61cを容器胴部61bに接合すると共に、クラッチリング61eを装着して循環部61cと容器胴部61bとの接合部を気密する。
【0057】
次に、箱型断熱材42の前口42a、後口42bと、壁部3の開口部2とを開放させて搬送棒91を被処理品Wの下部まで移動させ、係合部91aを被処理品Wに係合させた後に真空加熱炉40の方向に移動させることで、被処理品WがフリーローラF上を移動して箱型断熱材42に収容される。
【0058】
次に、昇降装置51を作動させて、開口部2の上方に位置していた閉塞扉5を下方にスライドさせて開口部2を閉塞する。そして、封止機構10により開口部2を速やかに封止して、加熱処理室R1及び冷却処理室R2を密閉する。この状態において、加熱処理室R1及びR2を所定の真空度まで減圧し、加熱処理室R1が所定の真空度になった後に、前口42aを前扉42cで閉塞し、後口42bを後扉42dで閉塞する。
【0059】
この状態で被処理品Wをヒータ46で加熱し、所定の時間が経過した後に、前口42a、後口42bを再び開放すると共に、開口部2の封止を解除する。そして、昇降装置51を作動させて、閉塞扉5が開口部2を閉塞した状態から上方まで移動する。この際、閉塞扉5は、壁部3と接触せず、速やかに上方に移動して開口部2を開放する。
【0060】
そして、搬送棒91により、箱型断熱材42から整流容器62まで被処理品WがフリーローラF上を移動する。被処理品Wが整流容器62まで移動した後に、昇降装置51を作動させて、閉塞扉5を上方から下方に移動させて開口部2を閉塞する。その後、封止機構10で開口部2を速やかに封止し、再度加熱処理室R1と冷却処理室R2とを密閉する。
【0061】
冷却処理室R2を密閉した状態で、ガス供給装置80により不活性ガスCを冷却処理室R2に加圧供給する。そして、冷却処理室R2に充填された不活性ガスCをガス冷却循環装置64で冷却すると共に不活性ガスCを循環させて、整流容器62に収容された被処理品Wを冷却する。この際、冷却処理室R2は、比較的に高圧となるが封止機構10の剛性パッド部13aの変形が極めて小さく壁部3との接触状態が解消されるほどには変形しないので、開口部2を封止し続ける。すなわち、不活性ガスCが加熱処理室R1に漏出しない。
【0062】
所定の時間が経過した後に、不活性ガスCを不図示の排気管により排気して冷却処理室R2を減圧し、減圧後にクラッチリング61eを開放する。そして、循環部61cを容器胴部61bから図5における右方向に後退させて、整流容器62の載置台63に被処理品Wを回収する。
【0063】
以上説明したように、多室型熱処理炉30によれば、封止機構10を用いているので、迅速に開口部2の封止を行って遅滞なく冷却処理を行うことができると共に、不活性ガスCが加熱処理室R1へ漏出することを防止し、一定の雰囲気下で冷却処理を行うことができる。従って、設定した処理工程及び処理条件で被処理品Wに熱処理を行って、所望の性質の被処理品Wを得ることが可能となる。
【0064】
また、上記構成の閉塞扉5によれば、壁部3と常に一定の距離以上の隙間を有するように構成され、連結部材51aを介して昇降装置51にぶら下がっているので、昇降装置51を作動させて迅速に開口部2の開放及び閉塞を行うことができる。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下の変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、閉塞扉5に環状溝部11を形成して封止機構10を構成したが、環状溝部を壁部3における開口部2の周縁近傍に形成して封止機構10を構成してもよい。
(2)上記実施形態では、封止機構10の封止部材13の材質にフッ素ゴムを用いたが、他の材質、例えばシリコンゴムを用いてもよい。
(3)上記実施形態では、封入部13sに封入する流体として空気Aを用いたが、液体や他のガスを用いても良い。
(4)上記実施形態では、閉塞扉5を上下に移動可能に構成したが、例えば、閉塞扉5の下方に車輪等を設けて、左右の方向(水平方向)に移動可能に構成してもよい。
(5)上記実施形態では、加熱処理室R1と冷却処理室R2の隔壁として機能する壁部3を封止する場合について説明したが、例えば、炉外の空間と、加熱処理室R1又は冷却処理室R2とを連通する装入抽出口を設け、これを封止する場合について本発明を適用してもよい。
(6)上記実施形態では、多室型熱処理炉30について本発明を適用したが、他の構成の熱処理炉、例えば、加熱処理と冷却処理を一つの熱処理室において行う単室型熱処理炉や加熱処理炉と冷却処理炉を列設し、これらの間を移動して被処理品を搬送する搬送炉を設けたものについても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態において、構造体1を示す外観構成図である。
【図2】本発明の実施形態において、扉板面5a側から見た閉塞扉5を示す一部断面図である。
【図3】本発明の実施形態において、閉塞扉5の要部断面図であって、図3(a)は、図2におけるA−A線断面図であり、図3(b)は、図2におけるB−B線断面図である。
【図4】本発明の実施形態において、封止機構10の動作図である。
【図5】本発明の実施形態において、封止機構10を採用した多室型熱処理炉30の全体構成を示す垂直断面図である。
【図6】本発明の実施形態において、多室型熱処理炉30の全体構成を示す水平断面図である。
【図7】本発明の実施形態において、スライド機構52の構成を示す構成断面図である。
【符号の説明】
【0067】
3…壁部
5…閉塞扉(扉)
10…封止機構
11…環状溝部
13…封止部材
13a…剛性パッド部
13b…可撓伸縮部
13c…突起部
13e…屈曲部
13s…封入部
15…固定部材
30…多室型熱処理炉(熱処理炉)
R1…加熱処理室(熱処理室)
R2…冷却処理室(熱処理室)
A…空気(流体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する壁部と前記開口部を閉塞する扉とを備えた構造を対象として、前記開口部を前記扉で閉塞した状態において前記壁部と前記扉との互いに対抗する面のいずれか一方又は双方に前記開口部を囲繞する環状溝部が形成され、該環状溝部内に内部が流体の封入部とされた封止部材が配置され、前記流体の圧力を制御することにより前記封止部材を変形せしめて、前記扉により前記開口部の封止を行う封止機構において、
前記封止部材は、少なくとも前記環状溝部開放側に肉厚に構成された剛性パッド部を備えると共に該剛性パッド部に連設し該剛性パッド部よりも肉薄に構成されて前記環状溝部内で伸縮可能な可撓伸縮部を備えていることを特徴とする封止機構。
【請求項2】
前記可撓伸縮部は、屈曲部を備え、
前記封止部材を前記環状溝部に折り曲げて収容することを特徴とする請求項1に記載の封止機構。
【請求項3】
前記封止部材を前記環状溝部の形成面に密着して固定する固定部材を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の封止機構。
【請求項4】
前記剛性パッド部は、前記環状溝部開放側に向けて延設された突起部を備えることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の封止機構。
【請求項5】
前記開口部は、被処理品を収容する熱処理室の内部空間と外部空間とを連通させる搬入搬出口であり、
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の封止機構を用いたことを特徴とする熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−250389(P2009−250389A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101117(P2008−101117)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】