説明

封着材料

【課題】ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、ビスマス系ガラス粉末の熱的安定性を維持した上で、ビスマス系ガラス粉末中のBiの含有量を多くするとともに、耐火性フィラー粉末の形状を改良することにより、封着材料の流動性を向上させて、セラミックパッケージ等の特性を向上させること。
【解決手段】封着材料は、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、(1)ビスマス系ガラス粉末が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi76〜90%、B2〜12%、ZnO1〜20%、CuO0.01〜10%含有し、(2)ビスマス系ガラス粉末の含有量が35〜95体積%、耐火性フィラー粉末の含有量が5〜65体積%であり、(3)耐火性フィラー粉末が略球状であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封着材料に関し、具体的にはセラミックパッケージ、プラズマディスプレイパネル(以下、PDP)または有機ELディスプレイに好適な封着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からセラミックパッケージ等の封着材料としてガラスが用いられている。ガラスは、樹脂系の接着剤に比べ、化学的耐久性および耐熱性に優れるとともに、セラミックパッケージ等の気密性の確保に適している。
【0003】
これらのガラスは、用途によって様々な特性が要求されるが、少なくともセラミックパッケージ等に使用される部材を劣化させない温度で使用可能であることが要求される。それゆえ、上記特性を満足するガラスとして、低融点特性を有する鉛ホウ酸系ガラスが広く用いられてきた(特許文献1参照)。
【0004】
ところが、近年、鉛ホウ酸系ガラスに含まれるPbOに対して環境上の問題が指摘されており、鉛ホウ酸系ガラスからPbOを含まないガラスに置き換えることが望まれている。このような環境的要請を受けて、鉛ホウ酸系ガラスの代替品として、様々な低融点ガラスが開発されている。特許文献2等に記載されているビスマス系ガラスは、熱膨張係数等の諸特性において、鉛ホウ酸系ガラスと略同等の特性を有するため、その代替候補として期待されているが、流動性および熱的安定性等の特性において、依然として鉛ホウ酸系ガラスに及ばないのが実情である。
【0005】
一般的に、封着材料に用いられるビスマス系ガラス粉末は、熱膨張係数が約l00〜120×10−7/℃であるため、ビスマス系ガラス粉末単独でアルミナ基板(熱膨張係数:約76×10−7/℃)等を封着すると、両者の熱膨張係数が整合せず、封着部位に大きな引張応力が残留し、これがクラックや割れの原因になる。このような不具合を防止するため、ビスマス系ガラス粉末に低膨張の耐火性フィラー粉末を添加して、アルミナ基板等の熱膨張係数に整合させた封着材料が用いられる。
【0006】
一般的に、耐火性フィラー粉末は、ウイレマイト、コーディエライト、β−ユークリプタイト、ジルコン、酸化錫、ムライト、アルミナ、ジルコニア等の結晶物が使用される。また、耐火性フィラー粉末の含有量が多い程、封着材料の熱膨張係数が低下する。
【特許文献1】特開昭63−315536号公報
【特許文献2】特開2003−095697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既述の通り、耐火性フィラー粉末の含有量を多くすれば、封着材料の熱膨張係数が低下するが、これに付随して封着材料の流動性が低下しやすくなる。封着材料の流動性が低下すれば、低温で被封着物を封着し難くなり、各種用途に要求される封着条件を満足できなくなる。例えば、ICセラミックパッケージにIC素子を実装した後、ICセラミックパッケージを高温で封着すると、IC素子の特性劣化を招きやすく、製品歩留りの低下等の問題が生じる。そのため、この用途に用いる封着材料は、封着可能温度が低温、例えば460℃以下であることが要求される。
【0008】
ところで、従来から、封着材料の流動性を向上させる手段として、ガラス組成を改良する試みは多くなされている。しかし、耐火性フィラー粉末を改良することにより、封着材料の流動性を向上させる試みは、殆どなされていないのが実情である。既述の通り、ビスマス系ガラスは、流動性に課題を有しているため、耐火性フィラー粉末を改良する必要性が高い。
【0009】
また、ビスマス系ガラス粉末中のBiの含有量が多い程、ビスマス系ガラス粉末の流動性が向上するが、Biの含有量が76質量%以上になると、Bi以外の成分の含有量が相対的に少なくなり、ビスマス系ガラス粉末の熱的安定性を維持しつつ、封着材料の流動性を高めることが困難になる。このような事情から、ビスマス系ガラス粉末中のBiの含有量が76質量%以上の場合、耐火性フィラー粉末を改良し、封着材料の流動性を高める必要性が高い。
【0010】
そこで、本発明は、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、ビスマス系ガラス粉末中のBiの含有量を多くするとともに、耐火性フィラー粉末の形状を改良することにより、封着材料の流動性を向上させて、セラミックパッケージ等の特性を向上させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意努力の結果、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、ビスマス系ガラス粉末中のBiの含有量を76質量%以上、且つCuOを0.01質量%以上に規制するとともに、耐火性フィラー粉末の形状を略球状にすることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の封着材料は、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、(1)ビスマス系ガラス粉末が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 76〜90%、B 2〜12%、ZnO 1〜20%、CuO 0.01〜10%含有し、(2)ビスマス系ガラス粉末の含有量が35〜95体積%、耐火性フィラー粉末の含有量が5〜65体積%であり、(3)耐火性フィラー粉末が略球状であることを特徴とする。なお、本発明でいう「略球状」とは、真球のみに限定されるものではなく、耐火性フィラー粉末において、耐火性フィラー粉末の重心を通る最も短い径を最も長い径で割った値が0.5以上、望ましくは0.7以上のものを指す。
【0012】
本発明の封着材料は、ビスマス系ガラス粉末を含有する。ビスマス系ガラスは、他の無鉛ガラスに比べて、熱的安定性が良好であるとともに、融点が低温である。本発明の封着材料は、ビスマス系ガラスが、ガラス組成として、質量%表示で、Bi 76〜90%、B 2〜12%、ZnO 1〜20%含有する。このようにすれば、ビスマス系ガラス粉末の熱的安定性を維持しつつ、封着材料の流動性を高めやすくなる。特に、本発明の封着材料は、ガラス組成として、CuOを0.01〜10質量%含有する。このようにすれば、Biの含有量が76質量%以上であっても、熱的安定性を維持することができる。
【0013】
本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末を5〜65体積%含有する。このようにすれば、封着材料の熱膨張係数をアルミナ基板(熱膨張係数:約76×10−7/℃)、高歪点ガラス(熱膨張係数:約85×10−7/℃)、無アルカリガラス基板(約32〜38×10−7/℃)等の熱膨張係数に整合させることができる。ここで、封着材料の熱膨張係数は、被封着物に対して5〜30×10−7/℃程度低く設計することが重要である。これは、封着部位に残留する応力をコンプレッション側にして、封着部位のクラックを防止するためである。なお、耐火性フィラー粉末の含有量が65体積%より多いと、融剤であるガラス粉末の含有量が相対的に少なくなるため、封着材料の流動性が低下しやすくなる。
【0014】
従来、耐火性フィラー粉末は、所定の酸化物原料を焼成した後、ボールミル等で機械的に粉砕することで作製されていた。耐火性フィラー粉末は、機械的に粉砕すると、破断形状になる。破断形状の耐火性フィラー粉末を用いると、グレーズ膜の外表面に耐火性フィラー粉末の一部が露出しやすくなり、焼成膜に表面突起が生じやすくなる。表面突起の近傍には不当な応力が残留しやすく、更にはグレーズ膜上に被封着物を当接させると、被封着物に不当な応力がかかり、セラミックパッケージ等の気密性を確保できなくなる。
【0015】
一方、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の形状を略球状に規制している。このようにすれば、ビスマス系ガラス粉末が軟化する際に、ビスマス系ガラス粉末の流動性が耐火性フィラー粉末によって阻害され難くなり、結果として、封着材料の流動性が向上する。また、耐火性フィラー粉末の形状が略球状であると、平滑なグレーズ層を得やすくなる。更に、耐火性フィラー粉末の形状が略球状であると、仮にグレーズ層の表面に耐火性フィラー粉末の一部が露出しても、耐火性フィラー粉末が略球状であるため、この部分の応力が分散され、更には封着に際し、被封着物をグレーズ層に当接しても、被封着物に不当な応力がかかり難く、結果として、セラミックパッケージ等の気密性を確保しやすくなる。
【0016】
略球状の耐火性フィラー粉末を得る方法として、(1)溶融法、(2)造粒法、(3)結晶化ガラス法等の方法がある。(1)溶融法は、高温雰囲気に耐火性フィラー粉末の原料の微粉砕物を通過させることによって、表面張力で耐火性フィラー粉末を略球状化した後に、急冷し、耐火性フィラー粉末を得る方法である。(2)造粒法は、仮焼成した耐火性フィラー粉末の原料を略球状になるように、造粒した後、焼成し、耐火性フィラー粉末を得る方法である。(3)結晶化ガラス法は、結晶性ガラス粉末を原料とし、この原料に超微粉末の結晶物を添加した後に焼成し、得られた焼成物を解砕し、耐火性フィラー粉末を得る方法である。
【0017】
上記(1)〜(3)の方法の内、略球状の耐火性フィラー粉末を得る方法として、(3)結晶化ガラス法が最も好ましい。結晶化ガラス法は、結晶性ガラス粉末を原料に用いるため、均質な耐火性フィラー粉末を得ることができ、しかも短時間の焼成で耐火性フィラー粉末を得ることができる。また、結晶化ガラス法は、得られた焼成物を解砕すれば、所定粒度の耐火性フィラー粉末を得ることができたため、粉砕工程及び分級工程を簡略化できる利点もある。
【0018】
図1は、本発明に係る耐火性フィラー粉末(コーディエライト)の原料を示す電子顕微鏡写真であり、コーディエライトの組成を有する結晶性ガラス粉末に、超微粉末の結晶粉末のAlが添加されている。図2は、本発明に係る耐火性フィラー粉末を示す電子顕微鏡写真であり、図1の原料を焼成し、得られた耐火性フィラー粉末を示している。図1、2から明らかなように、図1の原料を焼成すれば、略球状の耐火性フィラー粉末を得ることができる。
【0019】
第二に、本発明の封着材料は、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、(1)ビスマス系ガラス粉末が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 76〜90%、B 2〜12%、ZnO 1〜20%、Fe 0.01〜3%含有し、(2)ビスマス系ガラス粉末の含有量が35〜95体積%、耐火性フィラー粉末の含有量が5〜65体積%であり、(3)耐火性フィラー粉末が略球状であることを特徴とする。このようにすれば、ビスマス系ガラス粉末の熱的安定性を維持しつつ、封着材料の流動性を高めやすくなる。特に、本発明の封着材料は、ガラス組成として、Feを0.01〜3質量%含有する。このようにすれば、Biの含有量が76質量%以上であっても、熱的安定性を維持することができる。なお、CuO、Feは、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する効果があり、いずれかを必須成分として含有させると、熱的安定性を顕著に向上させることができる。
【0020】
第三に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の含有量が5〜50体積%であることを特徴とする。
【0021】
第四に、本発明の封着材料は、ビスマス系ガラス粉末の密度が6.0g/cm以上であり、且つ耐火性フィラー粉末の密度が3.0g/cm以下であることを特徴とする。ここで、本発明でいう「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。
【0022】
ビスマス系ガラス粉末の密度が耐火性フィラー粉末の密度より3.0g/cm以上大きい場合、焼成時に耐火性フィラー粉末が沈み込み難く、グレーズ膜上に耐火性フィラー粉末の一部が露出しやすくなり、グレーズ膜に表面突起が生じやすくなる。しかし、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の形状が略球状であるため、ビスマス系ガラス粉末の密度が耐火性フィラー粉末の密度より3.0g/cm以上大きい場合であっても、グレーズ膜上に耐火性フィラー粉末の一部が露出し難い。しかも、仮にグレーズ膜の表面に耐火性フィラー粉末の一部が露出しても、耐火性フィラー粉末が略球状であるため、この部分の応力が分散され、更には焼成に際し、被封着物を当接しても、被封着物に不当な応力がかかり難く、結果として、セラミックパッケージ等の気密性を確保しやすくなる。
【0023】
第五に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末がコーディエライトであることを特徴とする。
【0024】
第六に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が0.5〜35μmであることを特徴とする。ここで、本発明でいう「平均粒子径D50」とは、レーザー回折法で測定した値を指す。
【0025】
第七に、本発明の封着材料は、更に、結晶粉末として、SiO、Al、ZrO、TiOの群から選ばれた一種または二種以上を含有し、且つ該結晶粉末の平均一次粒子径D50が1〜100nmであることを特徴とする。ここで、「結晶粉末の平均一次粒子径D50」は、レーザー回折法で測定した値を指す。結晶化ガラス法で耐火性フィラー粉末を作製する場合、超微粉末の上記結晶粉末を結晶性ガラス粉末に添加すれば、耐火性フィラーの焼成時に、結晶性ガラス粉末が表面張力により略球状になりやすい。また、SiO、Al、ZrOおよびTiOは、これらの塩化物を水素火炎中で加水分解すれば、超微粉末の一次粒子径を有し、高純度の上記結晶粉末を得ることができる。
【0026】
第八に、本発明の封着材料は、結晶粉末の含有量が0.03〜3体積%であることを特徴とする。
【0027】
第九に、本発明の封着材料は、実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。ここで、本発明でいう「実質的にPbOを含有しない」とは、封着材料中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0028】
第十に、本発明の封着材料は、セラミックパッケージの封着に用いることを特徴とする。
【0029】
第十に、本発明の封着材料は、有機ELディスプレイの封着に用いることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の封着材料において、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の混合割合は、ビスマス系ガラス粉末35〜95体積%、耐火性フィラー粉末5〜65体積%であり、ビスマス系ガラス粉末50〜95体積%、耐火性フィラー粉末5〜50体積%が好ましく、ビスマス系ガラス粉末60〜80体積%、耐火性フィラー粉末20〜40体積%がより好ましい。耐火性フィラー粉末が5体積%より少ないと、耐火性フィラー粉末の効果(特に封着材料の低膨張化)を享受し難くなり、65体積%より多いと、相対的に融剤であるビスマス系ガラス粉末の含有量が少なくなるため、封着材料の流動性が低下し、セラミックパッケージ等を低温で封着し難くなる。
【0031】
本発明の封着材料おいて、耐火性フィラー粉末の重心を通る最も短い径を最も長い径で割った値は0.5以上、0.6以上、0.7以上、特に0.75以上が好ましい。耐火性フィラー粉末の最も短い径を最も長い径で割った値が0.5未満であると、ビスマス系ガラス粉末が軟化する際に、ビスマス系ガラス粉末の流動性が耐火性フィラー粉末によって阻害されやすくなり、結果として、封着材料の流動性が乏しくなる。また、耐火性フィラー粉末の最も短い径を最も長い径で割った値が0.5未満であると、平滑なグレーズ膜を得難くなるとともに、グレーズ膜の表面に耐火性フィラー粉末の一部が露出した場合、この部分に応力が集中しやすくなり、封着に際し、グレーズ膜に被封着物を当接すると、被封着物に不当な応力がかかりやすくなり、結果として、セラミックパッケージ等の気密性を確保し難くなる。
【0032】
ビスマス系ガラス粉末は、ガラス組成中のBiの含有量が多くなる程、軟化点が低下し、密度が上昇しやすい。つまり、ビスマス系ガラス粉末の流動性を高める程、ビスマス系ガラスの密度が大きくなり、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の密度差が大きくなる。一方、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の密度差が大きくなると、グレーズ膜の外表面に耐火性フィラー粉末の一部が露出しやすくなる。しかし、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の形状が略球状であるため、このような事態は生じ難く、材料設計の自由度を高めることができる。特に、ビスマス系ガラス粉末中のBiの含有量が76質量%以上であると、封着材料の流動性は向上するが、密度は6.0g/cm以上になりやすい。また、コーディエライトは、熱膨張係数が低いが、密度が3.0g/cm以下である。このような観点から、本発明の封着材料おいて、ビスマス系ガラス粉末の密度が6.0g/cm以上および/または耐火性フィラー粉末の密度が3.0g/cm以下が好ましく、ビスマス系ガラス粉末の密度が6.8g/cm以上および/または耐火性フィラー粉末の密度が2.9g/cm以下がより好ましく、ビスマス系ガラス粉末の密度が7.0g/cm以上および/または耐火性フィラー粉末の密度が2.7g/cm以下が更に好ましい。また、本発明の封着材料おいて、ビスマス系ガラス粉末の密度は、耐火性フィラー粉末の密度より3.0g/cm以上、3.7g/cm以上、特に4.3g/cm以上大きいことが好ましい。
【0033】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50は0.5〜35μm、1〜25μm、5〜20μm、特に7〜15μmが好ましい。耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が0.5μmより小さいと、焼成時に耐火性フィラー粉末がビスマス系ガラス粉末に溶解しやすくなり、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の適合性が低い場合、封着材料の熱的安定性が低下しやすくなる。また、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が0.5μmより小さいと、焼成時に耐火性フィラー粉末の溶解量が過剰になり、封着材料の軟化点が不当に上昇し、低温で封着し難くなる。一方、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が35μmより大きいと、耐火性フィラー粉末の粗大成分の割合が相対的に多くなり過ぎ、封着部位にマイクロクラック等が発生しやすくなり、セラミックパッケージ等に気密不良が発生しやすくなる。また、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が35μmより大きいと、ビスマス系ガラス粉末の平均粒子径D50が小さい場合、ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を均一に混合し難くなることに加えて、封着材料をペースト材料としたときにビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末が分離しやすくなり、ペースト材料の寿命(所謂、ポットライフ)が短くなる。
【0034】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末は、コーディエライト、ウイレマイト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、β−クオーツ固溶体、亜鉛ペタライト、β−ユークリプタイト、ガーナイト等が好適である。これらの耐火性フィラー粉末は、熱膨張係数が低いため、封着材料の熱膨張係数を低下させることができる。特に、コーディエライト粉末は、熱膨張係数が低く、ビスマス系ガラスと適合性が良好であり、封着材料の熱的安定性を損ない難い。
【0035】
本発明の封着材料において、略球状の耐火性フィラー粉末以外にも、本発明の効果を損なわない範囲(例えば、10体積%以下)で他の形状の耐火性フィラー粉末、例えば、他の形状のウイレマイト、ジルコン、酸化錫、ジルコニア、アルミナ、コーディエライト、酸化ニオブ、β−ユークリプタイト、酸化チタン、シリカ、ガーナイト、石英ガラス等を添加してもよい。
【0036】
本発明の封着材料において、ビスマス系ガラス粉末は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 76〜90%、B 2〜12%、ZnO 1〜20%、CuO 0.01〜10%含有することが好ましい。ビスマス系ガラス粉末のガラス組成範囲を上記のように限定した理由を下記に示す。
【0037】
Biは、軟化点を下げるための主要成分である。その含有量は76〜90%、好ましくは76〜89%、より好ましくは78〜87%、更に好ましくは80〜85%である。Biの含有量が76%より少ないと、軟化点が高くなり過ぎ、460℃以下の低温で封着し難くなる。一方、Biの含有量が90%より多いと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
【0038】
は、ビスマス系ガラスのガラスネットワークを形成する成分であり、必須成分である。その含有量は2〜12%、好ましくは3〜10%、より好ましくは4〜10%、更に好ましくは5〜9%である。Bの含有量が2%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、Bの含有量が12%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎ、460℃以下の低温封着が困難になる。
【0039】
ZnOは、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は1〜20%、好ましくは3〜15%、より好ましくは4〜12%、更に好ましくは5〜10%未満である。ZnOの含有量が1%より少ないと、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する効果が得られ難くなる。ZnOの含有量が20%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
【0040】
CuO、Feは、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する効果があり、いずれかを必須成分として含有させると、熱的安定性を顕著に向上させることができる。CuOは、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜10%、0.01〜5%、特に1〜5%が好ましい。CuOの含有量が10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、熱的安定性を向上させる観点から、CuOを必須成分として添加するのが好ましく、具体的にはCuOの含有量を0.01%以上とするのが好ましい。Feは、CuOと同様の効果を有し、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する効果があり、その含有量は0〜3%、好ましくは0〜1.5%である。Feの含有量が3%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、熱的安定性を向上させる観点から、Feを必須成分として添加するのが好ましく、具体的にはFeの含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
【0041】
上記成分以外にも、例えば、ガラス組成中に以下の成分を20%まで添加することができる。
【0042】
Alは、耐候性を向上させる成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。Alの含有量が5%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、460℃以下の低温封着が困難になる。
【0043】
SiOは、耐候性を向上させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%未満である。SiOの含有量が10%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、460℃以下の低温封着が困難になる。
【0044】
BaO、SrO、MgO、CaOは、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する効果がある成分であり、これらの成分は合量で15%までガラス組成中に添加することができる。これらの成分の合量が15%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、460℃以下の低温封着が困難になる。
【0045】
BaOの含有量は0〜10%、0〜8%、特に1〜5%がより好ましい。BaOの含有量が10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなる。また、熱的安定性を向上させる観点から、BaOを必須成分として添加するのが好ましく、具体的にはBaOの含有量を1%以上とするのが好ましい。
【0046】
SrO、MgO、CaOのそれぞれの含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。各成分の含有量が5%より多いと、ガラスが失透、或いは分相しやすくなる。
【0047】
CeOは、溶融時または焼成時にガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%である。CeOの含有量が5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなり、流動性が低下しやすくなる。また、熱的安定性を向上させる観点から、CeOを微量添加するのが好ましく、具体的にはCeOの含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
【0048】
Sbは、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%である。Sbは、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、ビスマス系ガラスにおいて、Sbを適宜添加すれば、Biの含有量が76%以上であっても、熱的安定性が低下し難くなる。ただし、Sbの含有量が5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなり、流動性が低下しやすくなる。また、熱的安定性を向上させる観点から、Sbを微量添加するのが好ましく、具体的にはSbの含有量を0.05%以上とするのが好ましい。
【0049】
WOは、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜10%が好ましく、0〜2%がより好ましい。WOの含有量が10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなる。
【0050】
In、Gaは、ガラスの失透を抑制するための成分であり、その含有量は合量で0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましい。In、Gaの含有量が合量で5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下し、その結果、ガラスが失透しやすくなる。なお、Inの含有量は0〜1%が好ましく、Gaの含有量は0〜0.5%が好ましい。
【0051】
Li、Na、KおよびCsの酸化物は、軟化点を低下させる成分であるが、溶融時にガラスの失透を促進する作用があるため、その含有量は合量で2%以下とするのが好ましい。
【0052】
は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であるが、その含有量が1%より多いと、溶融時にガラスが分相しやすくなる。
【0053】
MoO、La、YおよびGdは、溶融時にガラスの分相を抑制する成分であるが、これらの合量が3%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、460℃以下の低温封着が困難になる。
【0054】
また、その他の成分であっても、ガラスの特性を損なわない範囲で10%(好ましくは5%)までガラス組成中に添加することができる。
【0055】
以上のガラス組成を有するビスマス系ガラス粉末は、低温で良好な流動性を示し、30〜250℃の温度範囲における熱膨張係数が約100〜120×10−7/℃である。
【0056】
本発明の封着材料は、PbOを含有する態様を排除するものではないが、既述の通り、環境上の理由からPbOを実質的に含有しないことが好ましい。また、ガラス組成中にPbOを含有させると、ガラス中に存在するPb2+が拡散して、封着材料の電気絶縁性を低下させる場合がある。
【0057】
本発明の封着材料において、更に結晶粉末を含有するのが好ましく、SiO、Al、ZrO、TiOの群から選ばれる一種又は二種以上がより好ましい。SiO、Al、ZrOおよびTiOは、耐火性フィラー粉末と同等以上の高い融点を有するとともに、超微粉末に加工しやすいため、好ましい。特に、Alは、耐火性フィラー粉末がコーディエライトの場合、原料の結晶性ガラス粉末と反応し難い性質を有するため、好適である。
【0058】
本発明の封着材料において、結晶粉末の平均一次粒子径D50は1〜100nm、5〜50nm、特に7〜40nmが好ましい。結晶粉末の平均一次粒子径D50が1nmより小さいと、耐火性フィラーの焼成時に、結晶粉末が結晶性ガラス粉末中に溶解しやすくなり、所望の効果を発揮し難くなる。一方、結晶粉末の平均一次粒子径D50が100nmより大きいと、結晶性ガラス粉末を均一に被覆し難くなり、耐火性フィラーの焼成時に、結晶性ガラス粉末同士が堅く焼結しやすくなる。
【0059】
結晶粉末のBET比表面積は、10〜500m/gが好ましく、50〜380m/gがより好ましい。結晶粉末のBET比表面積が10m/gより小さいと、結晶性ガラス粉末を均一に被覆し難くなり、耐火性フィラーの焼成時に、結晶性ガラス粉末同士が堅く焼結しやすくなる。結晶粉末のBET比表面積が500m/gより大きいと、耐火性フィラーの焼成時に、結晶粉末が結晶性ガラス粉末中に溶解しやすくなり、所望の効果を発揮し難くなる。
【0060】
本発明の封着材料において、結晶粉末の含有量は0.03〜3体積%が好ましく、0.05〜1体積%がより好ましい。結晶粉末の含有量が0.03体積%より少ないと、耐火性フィラーの焼成時に、結晶性ガラス粉末を均一に被覆し難くなり、結晶性ガラス粉末同士が固く焼結するため、耐火性フィラー粉末が略球状になり難く、封着材料の流動性が低下しやすくなる。また、結晶粉末の含有量が0.03体積%より少ないと、耐火性フィラーの解砕時間が不当に長くなり、耐火性フィラー粉末の作製効率が低下する。一方、結晶粉末の含有量が3体積%より多いと、結晶粉末が過剰になり過ぎ、封着材料の焼成時に、余剰の結晶粉末がビスマス系ガラス中に溶解し、封着材料の流動性が損なわれるおそれがある。
【0061】
本発明の封着材料は、セラミックパッケージの封着に用いることが好ましい。セラミックパッケージは、耐熱性が低い部材、例えばIC素子、導電接着剤を使用するため、低温で封着する必要性が高い。本発明の封着材料は、低温で封着可能であるため、本用途に好適である。また、封着材料の流動性が低い場合、グレーズ層の外表面に耐火性フィラー粉末が露出しやすく、この露出した部分には不当な応力が残留しやすいため、セラミックパッケージにクラックが発生しやすくなる。しかし、本発明の封着材料は、流動性に優れるため、このような事態を有効に回避することができる。さらに、本発明の封着材料は、形状が略球状であるため、仮に封着層に耐火性フィラー粉末が露出しても、露出部分の応力集中を緩和することができ、セラミックパッケージにクラックが発生する事態を有効に回避することができる。
【0062】
本発明の封着材料は、特に、ICセラミックパッケージまたは水晶振動子セラミックパッケージの封着に用いることが好ましい。ICセラミックパッケージは、460℃を超える温度で封着すると、IC素子の劣化を招くが、本発明の封着材料は、460℃以下の温度で良好に封着できるため、本用途に好適である。また、水晶振動子セラミックパッケージは、460℃を超える温度で封着すると、導電接着剤が劣化し、素子の劣化を招くが、本発明の封着材料は、460℃以下の温度で良好に封着できるため、本用途に好適である。
【0063】
本発明の封着材料は、平面表示装置の封着に用いることが好ましい。平面表示装置は、耐熱性が低い部材、例えば蛍光体を使用するため、低温で封着する必要性が高い。本発明の封着材料は、低温で封着可能であるため、本用途に好適である。
【0064】
PDPの製造工程において、封着材料は、以下のような焼成工程を経る。まず、PDPの背面ガラス基板の外周縁部にビークル内に分散された封着材料を塗布し、一次焼成(グレーズ工程、仮焼成工程)を行い、高温でビークル成分を熱分解または焼却する。一次焼成工程は、ビークルに使用される樹脂が完全に熱分解する温度条件、例えば400〜500℃程度で行われる。次に、二次焼成(封着工程、シール工程)でPDPの前面ガラス基板と背面ガラス基板を封着する。二次焼成工程は、封着材料が軟化変形する温度条件、例えば450〜500℃程度で行われる。最後に、排気管を通してPDP内部を真空排気した後、希ガスを必要量注入して排気管を封止する。本発明の封着材料は、流動性に優れるとともに、熱的安定性に優れるため、上記工程で好適に使用することができる。また、封着材料の流動性が低い場合、一次焼成後のグレーズ層の外表面に耐火性フィラー粉末が露出しやすく、この露出した部分に前面ガラス基板を当接させると、前面ガラス基板の当接部分にクラックが発生しやすくなる。しかし、本発明の封着材料は、流動性に優れるため、このような事態を有効に回避することができる。さらに、仮に一次焼成後のグレーズ層に耐火性フィラー粉末が露出しても、形状が略球状であるため、露出部分の応力集中を緩和することができ、平面表示装置にクラックが発生する事態を有効に回避することができる。
【0065】
本発明の封着材料は、有機ELディスプレイに用いることが好ましい。このようにすれば、有機ELディスプレイ内の気密性を確保することができ、その結果、有機発光層等の経時劣化を防ぐことができ、有機ELディスプレイの長寿命化を図ることができる。
【0066】
有機ELディスプレイは、有機発光層やTFT等が熱劣化しやすいため、低温で封着する必要がある。このような事情から、有機ELディスプレイの技術分野では、構成部材の熱劣化を抑制するために、レーザー光等で封着材料を局所加熱し、ガラス基板同士を封着する検討がなされている。本発明の封着材料において、ガラス組成中にCuOを0.01%以上、0.5%以上、特に1%以上添加すれば、ビスマス系ガラスがレーザー光等を吸収しやすくなり、本用途に使用することができる。さらに、本発明の封着材料において、ガラス組成中にFeを0.01%以上、0.1%以上、特に0.5%以上添加すれば、ビスマス系ガラスがレーザー光等を更に吸収しやすくなり、本用途に好適に使用することができる。また、本発明の封着材料は、低温域で良好に流動するため、レーザー光等の局所加熱でガラス基板同士を強固に封着することができる。
【0067】
有機ELディスプレイの封着に用いる場合、封着材料の熱膨張係数は60×10−7/℃未満が好ましく、52×10−7/℃未満がより好ましい。一般的に、有機ELディスプレイは、無アルカリガラス基板(40×10−7/℃以下)が使用される。封着材料の熱膨張係数を60×10−7/℃未満に規制すれば、無アルカリガラス基板を用いたとしても、封着部位に不当な引っ張り応力が残留し難くなり、膨張差に起因したクラックが発生し難くなる。なお、耐火性フィラー粉末の含有量を50〜65体積%にすれば、封着材料の熱膨張係数を52×10−7/℃未満にしやすくなる。
【0068】
本発明のビスマス系ガラス粉末は、耐失透性が良好であり、ヨウ素電解液に対する耐性が良好であるため、色素増感型太陽電池の封着材料、集電電極の被覆材料、隔壁形成材料等にも好適である。
【0069】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末は、上記の(3)結晶化ガラス法で作製されてなることが好ましい。また、結晶化ガラス法では、耐火性フィラー粉末の原料を作製する際に、好ましくは原料の結晶性ガラスを粉砕し結晶性ガラス粉末を得る際に、結晶粉末を添加することが好ましい。結晶性ガラスを粉砕する際に、結晶粉末を添加すれば、結晶性ガラス粉末と結晶粉末の混合工程を省略できることに加えて、結晶性ガラス粉末と結晶粉末を均一に混合することができる。また、結晶化ガラス法では、耐火性フィラー粉末を作製する際に、原料の結晶性ガラスの溶融性を高めるために、結晶性ガラスのガラス組成に、耐火性フィラー粉末の結晶構成成分以外の成分、例えばB、RO(ROは、LiO、NaO、KO、CsOを指す)、R’O(R’Oは、MgO、CaO、SrO、BaOを指す)を0.1〜10質量%添加することが好ましい。これらの成分が0.1質量%より少ないと、結晶性ガラスの溶融性を高め難くなる。なお、結晶性ガラス粉末のガラス組成が、耐火性フィラー粉末の理論組成から多少外れても、所望の結晶を析出させることができる。ただし、これらの成分が10質量%より多いと、所望の結晶を析出させ難くなる。さらに、結晶化ガラス法では、耐火性フィラー粉末を作製する際に、原料の結晶性ガラス粉末の粒度分布を調整する工程、例えば結晶性ガラス粉末の分級工程を設けることが好ましい。このようにすれば、耐火性フィラー粉末の粒度分布を容易に調整することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜17)および比較例(試料No.18〜20)を示している。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
次のようにして、表1〜4に記載の各試料を作製した。
【0076】
まず、表1〜4に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて900〜1100℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部を押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置および密度測定用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより薄片状に成形した。なお、TMAおよび密度測定用サンプルは、成形後に所定の徐冷処理を行った。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き45μmの篩を通過させて、平均粒子径D50が約10μmの各ビスマス系ガラス粉末を得た。
【0077】
各ビスマス系ガラス粉末につき、密度、熱膨張係数、ガラス転移点および軟化点を求めた。密度は、周知のアルキメデス法で測定した。熱膨張係数およびガラス転移点は、TMA装置で測定した。なお、熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。さらに、軟化点は、示差熱分析(DTA)装置で測定した。
【0078】
次に、表1〜4の各ビスマス系ガラス粉末と表中所定の耐火性フィラー粉末を混合し、試料No.1〜20を得た。試料No.1〜20について、流動径、失透状態、表面突起および耐クラック性を評価した。
【0079】
流動径は、各試料の合成密度に相当する質量の粉末を金型により外径20mmのボタン状に乾式プレスし、これを40mm×40mm×2.8mm厚の高歪点ガラス基板(日本電気硝子株式会社製PP−8C)上に載置し、空気中で5℃/分の速度で昇温した後、460℃10分間で焼成した上で室温まで5℃/分で降温し、得られたボタンの直径を測定することで評価した。ここで、合成密度とは、ガラスの密度と耐火物フィラーの密度および体積比から算出される理論上の密度である。また、流動径が19mm以上であれば、460℃10分間の焼成で封着可能であることを意味する。なお、試料No.17については、480℃10分間でも焼成を行い、流動径を評価した。
【0080】
次のようにして、失透状態を評価した。試料No.1〜20の粉末加圧成型体を焼成炉内で460℃10分保持した後、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて、焼成後の試料の表面結晶を観察することにより、失透状態を評価した。失透が認められなかったものを「○」、失透が認められたものを「×」とした。昇降温速度は、10℃/分とした。なお、試料No.17、20については、480℃10分間でも焼成を行い、失透状態を評価した。
【0081】
次のようにして、表面突起を評価した。まず、各試料とアクリル樹脂含有α−ターピネオールとを均一に混練して、ガラスペーストに加工した後、100×100×3mmの高歪点ガラス基板(日本電気硝子株式会社製PP−8C)の端部に線状(80×3×3mm)に塗布し、120℃で15分乾燥させた。次に、この試料を焼成した後、得られたグレーズ膜の外表面を光学顕微鏡で確認し、グレーズ膜の外表面に耐火性フィラー粉末の一部が露出していないものを「○」、耐火性フィラー粉末の一部が露出していたものを「×」として評価した。焼成は、空気中で行い、室温から5℃/分の速度で昇温し、440℃10分間で保持した上で室温まで5℃/分で降温した。なお、試料No.17については、460℃10分間でも焼成を行い、表面突起を評価した
耐クラック性は、流動径の測定に供したボタン状の試料を用いて、評価した。ボタン状の試料の表面およびボタン直下のガラス基板を実体顕微鏡(200倍)で観察し、ボタン表面およびガラス基板にクラックが発生していないものを「○」、発生しているものを「×」として、評価した。
【0082】
試料No.1〜15、17および18の耐火性フィラー粉末は、次のような方法で作製した。まず所定の結晶物が得られるように、ガラス原料を調合し、混合後、1400〜1550℃で溶融し、結晶性ガラスを得た。次に、得られた結晶性ガラスを粉砕して、平均粒子径D50が10μmの結晶性ガラス粉末を得た。なお、結晶性ガラスの粉砕時に、表中の結晶粉末(平均一次粒子径D50=20nm)を添加した。次いで、この試料を1300℃10時間焼成した後、得られた焼成物を解砕し、平均粒子径D50=10μmの耐火性フィラー粉末を得た。なお、この方法で得られた耐火性フィラー粉末は、耐火性フィラー粉末の重心を通る最も短い径を最も長い径で割った値が0.7以上であった。表4の試料No.16に記載の耐火性フィラー粉末は、まず所定の耐火性フィラー粉末が得られるように、酸化物原料を調合し、混合後、1000℃8時間仮焼成した。次に、耐火性フィラー粉末の原料を略球状になるように、スプレードライヤーで造粒した後、1400℃10時間焼成し、平均粒子径D50が10μmの耐火性フィラー粉末を得た。なお、この方法で得られた耐火性フィラー粉末は、耐火性フィラー粉末の重心を通る最も短い径を最も長い径で割った値が0.75以上であった。
【0083】
試料No.19、20の耐火性フィラー粉末は、次のような方法で得た。まず所定の耐火性フィラー粉末が得られるように、酸化物原料を調合し、混合後、1400℃10時間焼成した後、この焼成物をボールミルで粉砕し、次いで350メッシュの篩で分級し、平均粒子径D50が10μmの耐火性フィラー粉末を得た。なお、この方法で得られた耐火性フィラー粉末は、耐火性フィラー粉末の重心を通る最も短い径を最も長い径で割った値が0.3程度であった。
【0084】
試料No.1〜16は460℃10分間で良好に流動し、セラミックパッケージ等の封着に好適な低融点特性を備えていた。さらに、試料No.1〜16は、失透状態、表面突起および耐クラック性の評価が良好であるため、セラミックパッケージ等の気密性を確保できると考えられる。試料No.17は、耐火性フィラー粉末の含有量が多かったため、所望の特性を得るために試料No.1〜16よりも焼成温度を上げる必要があると考えられる。
【0085】
試料No.18は、耐火性フィラー粉末の含有量が所定範囲外であったため、耐クラック性が不良であった。試料No.19および20は、耐火性フィラー粉末の形状が略球状ではないため、流動性および表面突起の評価が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の封着材料は、水晶振動子セラミックパッケージ、ICセラミックパッケージ等のセラミックパッケージに好適である。また、本発明の封着材料は、PDP、各種電子放出素子を有する各種形式のフィールドエミッションディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、蛍光表示管等の平面表示装置、色素増感型太陽電池等の太陽電池に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る耐火性フィラー粉末(コーディエライト)の原料を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る耐火性フィラー粉末を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、
(1)ビスマス系ガラス粉末が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 76〜90%、B 2〜12%、ZnO 1〜20%、CuO 0.01〜10%含有し、
(2)ビスマス系ガラス粉末の含有量が35〜95体積%、耐火性フィラー粉末の含有量が5〜65体積%であり、
(3)耐火性フィラー粉末が略球状であることを特徴とする封着材料。
【請求項2】
ビスマス系ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、
(1)ビスマス系ガラス粉末が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%表示で、Bi 76〜90%、B 2〜12%、ZnO 1〜20%、Fe 0.01〜3%含有し、
(2)ビスマス系ガラス粉末の含有量が35〜95体積%、耐火性フィラー粉末の含有量が5〜65体積%であり、
(3)耐火性フィラー粉末が略球状であることを特徴とする封着材料。
【請求項3】
耐火性フィラー粉末の含有量が5〜50体積%であることを特徴とする請求項1または2に記載の封着材料。
【請求項4】
ビスマス系ガラス粉末の密度が6.0g/cm以上であり、且つ耐火性フィラー粉末の密度が3.0g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の封着材料。
【請求項5】
耐火性フィラー粉末がコーディエライトであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の封着材料。
【請求項6】
耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が0.5〜35μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の封着材料。
【請求項7】
更に、結晶粉末として、SiO、Al、ZrO、TiOの群から選ばれた一種または二種以上を含有し、且つ該結晶粉末の平均一次粒子径D50が1〜100nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の封着材料。
【請求項8】
結晶粉末の含有量が0.03〜3体積%であることを特徴とする請求項7のいずれかに記載の封着材料。
【請求項9】
実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の封着材料。
【請求項10】
セラミックパッケージの封着に用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の封着材料。
【請求項11】
有機ELディスプレイの封着に用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の封着材料。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−155200(P2009−155200A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307919(P2008−307919)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】