説明

導電層及びこれを用いた積層体と、これらの製造方法

【課題】樹脂層との接着性を確保した上で、後工程での銅−スズ合金層の除去が容易な導電層及びこれを用いた積層体と、これらの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂層(4)に接着させる導電層(10)において、銅層(1)と、この銅層(1)上に積層された銅−スズ合金層(3)とを含み、銅−スズ合金層(3)は、厚みが0.001〜0.020μmである導電層(10)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層に接着させる導電層及びこれを用いた積層体と、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な多層配線板は、表面に銅からなる導電層を有する内層基板が、プリプレグを挟んで他の内層基板や銅箔と積層プレスされて製造されている。導電層間は、孔壁が銅めっきされたスルーホールとよばれる貫通孔により、電気的に接続されている。前記内層基板の導電層表面には、プリプレグとの接着性を向上させるために、例えば、ブラックオキサイドやブラウンオキサイドとよばれる針状の酸化銅を形成する場合がある。この方法では、針状の酸化銅がプリプレグにくい込み、アンカー効果が生じて接着性が向上する。
【0003】
前記酸化銅は、プリプレグとの接着性には優れているが、スルーホールを形成するめっき工程において酸性液に接触した場合、溶解して変色し、ハローイングと呼ばれる欠陥が生じやすいという問題がある。
【0004】
そこで、ブラックオキサイドやブラウンオキサイドに代わる方法として、下記特許文献1及び2に記載のように、内層基板の銅層表面にスズ層を形成する方法が提案されている。また、下記特許文献3には、銅層と樹脂層との接着性を向上させるため、銅層表面にスズ層を形成した後、さらにシラン化合物で処理することが提案されている。また、下記特許文献4には、同じく銅層と樹脂層との接着性を向上させるために、銅層表面にスズ層を形成することが提案されており、さらに、エッチングにより銅層表面を粗化し、アンカー効果を発現させることも提案されている。また、下記特許文献1,5及び6には、銅層表面に、スズ、銅及びそれら以外の金属を混合したスズめっき処理層を形成することが提案されている。
【0005】
【特許文献1】欧州特許公開0 216 531 A1号明細書
【特許文献2】特開平4−233793号公報
【特許文献3】特開平1−109796号公報
【特許文献4】特開2000−340948号公報
【特許文献5】特開2005−23301号公報
【特許文献6】特開2004−349693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜4に記載されているような、通常のスズ層を形成する方法では、ホイスカーによる拡散(イオンマイグレーション)が生じるおそれがあった。また、特にガラス転移温度の高い、いわゆる硬い樹脂を用いる場合は、銅層と樹脂層との接着性を向上させる効果が不充分な場合があった。また、後工程においてスズを除去する必要が生じた場合に、通常のスズ層は1μm以上の厚みがあるため、除去が困難であった。なお、後工程でスズの除去が必要な場合とは、例えばソルダーレジストの開口部をニッケル/金めっき処理する場合が例示でき、このとき、スズがめっき処理を阻害する場合があるため、これをエッチングなどによって除去する必要があった。この場合、厚いスズ層を除去するには、エッチング量を増やす必要があったため、ソルダーレジストの開口部に存在する配線パターンが細くなってしまうという問題があった。さらに、通常のスズ層では、一定以上の厚みがあると、層中のスズと下地層の銅との間で拡散が時間経過とともに進み、銅−スズ合金層の厚みが変化して厚くなっていくため、時間経過とともに、スズ層や銅−スズ合金層の除去が困難となる場合があった。
【0007】
また、特許文献3のように、通常のスズ層の表面をシラン化合物で処理しても、樹脂層との接着性が充分ではなく、特に、高温、多湿、高圧などの過酷な条件下では、樹脂層との接着性が不充分であった。また、特許文献4のように、エッチングにより銅層表面を粗化した場合には、スズ層表面にも凹凸が形成されるが、導電層表面に凹凸があると、この凹凸が影響して伝送線路の電力損失が増加するため、高周波電流を流す導電層に適用するのは困難であった。さらに、特許文献5及び6のように、銅及びスズ以外の金属を混在させた場合には、スズめっき処理層の厚みが薄くても、スズ以外の金属がスズめっき処理層の除去を阻害するおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、樹脂層との接着性を確保した上で、後工程での銅−スズ合金層の除去が容易な導電層及びこれを用いた積層体と、これらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の導電層は、樹脂層に接着させる導電層において、銅層と、この銅層上に積層された銅−スズ合金層とを含み、前記銅−スズ合金層は、厚みが0.001〜0.020μmであることを特徴とする。
【0010】
なお、上記本発明における「銅層」は、純銅からなる層であってもよく、銅合金からなる層であってもよい。また、本明細書において「銅」は、純銅又は銅合金をさす。これらの銅合金は、例えば黄銅、青銅、白銅、ヒ素銅、ケイ素銅、チタン銅、クロム銅などであってもよく、用途に応じて他の元素を含有したものであってもよい。また、本明細書において、特に断りがない限り、銅−スズ合金層の厚みは、X線光電子分光法(XPS)により加速電圧5kVでArスパッタリングを行い、スズが検出限界以下となるスパッタリング時間からSiOで換算した厚みをさす。
【0011】
また、本発明の積層体は、樹脂層と、この樹脂層に接着された導電層とを含む積層体において、前記導電層は、上述した本発明の導電層であり、前記導電層の前記銅−スズ合金層と前記樹脂層とが接着されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の導電層の製造方法は、樹脂層に接着させる導電層の製造方法において、銅層の表面にスズめっき液を接触させて、当該表面にスズめっき処理層を形成するめっき処理工程と、前記スズめっき処理層の表面にスズ剥離液を接触させることにより、厚み0.001〜0.020μmの銅−スズ合金層を残して前記スズめっき処理層の一部を除去する除去工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の積層体の製造方法は、樹脂層と、この樹脂層に接着された導電層とを含む積層体の製造方法において、上述した本発明の導電層の製造方法により前記導電層を製造する工程と、前記導電層の前記銅−スズ合金層と前記樹脂層とを接着する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電層、これを用いた積層体、及びこれらの製造方法によれば、導電層と樹脂層との接着性を確保した上で、後工程での銅−スズ合金層の除去が容易な積層体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の導電層は、樹脂層に接着させる導電層において、銅層と、この銅層上に積層された銅−スズ合金層とを含み、前記銅−スズ合金層は、厚みが0.001〜0.020μm(好ましくは0.003〜0.020μm)であることを特徴とする。本発明によれば、銅−スズ合金層の厚みが0.001μm以上であるため、樹脂層との接着性を確保できる上、上記厚みが0.020μm以下であるため、後工程での銅−スズ合金層の除去が容易となる。また、本発明の銅−スズ合金層は、従来の銅−スズ合金層に比べ極めて薄いため、スズの拡散を防止できる。よって、時間経過による銅−スズ合金層の厚膜化を防止できるため、銅−スズ合金層の形成後から長時間経過した後であっても、銅−スズ合金層の除去が容易となる。
【0016】
また、本発明の積層体は、樹脂層と、この樹脂層に接着された導電層とを含む積層体において、前記導電層は、上述した本発明の導電層であり、前記導電層の前記銅−スズ合金層と前記樹脂層とが接着されていることを特徴とする。本発明の積層体では、上述した本発明の導電層が使用されているため、上記と同様の理由により、導電層と樹脂層との接着性を確保でき、後工程での銅−スズ合金層の除去が容易な上、銅−スズ合金層の形成後から長時間経過した後であっても、銅−スズ合金層の除去が容易な積層体を提供できる。
【0017】
次に、本発明の導電層及び積層体の好適な製造方法について、適宜図面を参照しながら説明する。参照する図1A〜Dは、本発明の積層体の好適な製造方法の一例を示す工程別断面図である。なお、図1A〜Dでは、説明を分かり易くするために拡大又は縮小して示した箇所がある。
【0018】
本発明の導電層に使用される銅層は、例えば、電子基板、リードフレームなどの電子部品、装飾品、建材などに使用される銅箔(電解銅箔、圧延銅箔)や、銅めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)、あるいは線状、棒状、管状、板状などの種々の用途の銅材が例示できる。これらの銅材の表面形状は、平滑であってもよく、エッチングなどにより粗化されていてもよいが、高周波用途に適用するには、中心線平均粗さRaが0.1〜0.2μm程度の平滑性を有することが好ましい。以下、板状の銅層に銅−スズ合金層を形成する例について、図1A〜Dを参照しながら説明する。
【0019】
まず、図1Aに示すように、銅層として、例えば、銅箔や、銅張積層体の銅層等からなる銅層1を用意する。銅層1の厚みは、例えば12〜35μm程度である。
【0020】
次に、銅層1の表面1aにスズめっき液(図示せず)を接触させて、図1Bに示すように、当該表面1aにスズめっき処理層2を形成する(めっき処理工程)。ここで、スズめっき処理層2中のスズの含有量は、スズめっき処理層2の表面2aから銅層1にかけて漸減している。一方、スズめっき処理層2中の銅の含有量は、スズめっき処理層2の表面2aから銅層1にかけて漸増している。即ち、少なくとも銅層1の近傍のスズめっき処理層2は、銅−スズ合金層となっている。なお、スズめっき処理層2の厚みは、例えば0.01〜1μm程度であり、樹脂層との接着性及び銅−スズ合金層の除去性の観点から、0.01〜0.1μmが好ましい。この際のめっき方法は、特に限定されず、例えば置換スズめっき法、無電解スズめっき法(還元剤使用)、電解スズめっき法などが挙げられる。この中でも置換スズめっき法は、銅−スズ合金層3(図1C参照)を容易に形成できるため好ましい。
【0021】
置換スズめっき法によりスズめっき処理層2を形成する場合は、使用するスズめっき液としては、置換反応によって銅表面にスズ皮膜を形成するいわゆる置換スズめっき用のめっき液であれば、特に限定されない。置換スズめっき液としては、例えば酸、スズ化合物及び錯化剤を含むものが使用できる。
【0022】
置換スズめっき液に含まれる酸は、pH調整剤、及びスズイオンの安定化剤として機能する。上記酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、ホウフッ化水素酸、リン酸などの無機酸、又は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸などの芳香族スルホン酸などの水溶性有機酸を挙げることができる。このうち、硫酸、塩酸がスズめっき処理層2の形成速度やスズ化合物の溶解性などの点から好ましい。酸の好ましい濃度は1〜50質量%であり、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%の範囲である。上記範囲内であれば、銅−スズ合金層3(図1C参照)を容易に形成できる。
【0023】
置換スズめっき液に含まれるスズ化合物は、酸性溶液に可溶性のものである限り、スズ塩、スズ酸化物などの中から特に制限なく使用できるが、その溶解性から、上記酸との塩類が好ましい。例えば、硫酸第一スズ、硫酸第二スズ、ホウフッ化第一スズ、ホウフッ化第二スズ、フッ化第一スズ、フッ化第二スズ、硝酸第一スズ、硝酸第二スズ、塩化第一スズ、塩化第二スズ、ギ酸第一スズ、ギ酸第二スズ、酢酸第一スズ、酢酸第二スズなどの第一スズ塩や第二スズ塩が使用できる。このなかでもスズめっき処理層2の形成速度が速いという点からは、第一スズ塩を用いるのが好ましく、溶解させた液中での安定性が高いという点からは、第二スズ塩を用いるのが好ましい。また、スズ酸化物を用いる場合は、スズめっき処理層2の形成速度の観点から酸化第一スズが好ましい。スズ化合物の好ましい濃度は、スズの濃度として0.05〜10質量%の範囲であり、より好ましくは0.1〜5質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.5〜3質量%の範囲である。上記範囲内であれば、銅−スズ合金層3(図1C参照)を容易に形成できる。
【0024】
置換スズめっき液に含まれる錯化剤は、下地の銅層1に配位してキレートを形成し、銅層1の表面1aにスズめっき処理層2を形成しやすくするものである。例えば、チオ尿素や、1,3−ジメチルチオ尿素、1,3−ジエチル−2−チオ尿素、チオグリコール酸などのチオ尿素誘導体などが使用できる。錯化剤の好ましい濃度は、1〜50質量%の範囲であり、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%の範囲である。この範囲内であれば、スズめっき処理層2の形成速度を低下させずに、銅層1とスズめっき処理層2との接着性を確保できる。
【0025】
置換スズめっき液には、上記成分の他、安定化剤や、界面活性剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0026】
上記安定化剤は、銅層1の表面1aの近傍において、反応に必要な各成分の濃度を維持するための添加剤である。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、セロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトールなどのグリコールエステル類などが例示できる。上記安定化剤の好ましい濃度は、1〜80質量%の範囲であり、より好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは10〜50質量%の範囲である。上記範囲内であれば、銅層1の表面1aの近傍において、反応に必要な各成分の濃度を容易に維持できる。
【0027】
上記界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが例示できる。
【0028】
上述したような置換スズめっき液を用いてスズめっき処理層2を形成する場合、例えば下記のような条件で形成できる。
【0029】
まず、銅層1の表面1aを酸などで洗浄する。次に、上記置換スズめっき液に銅層1を浸漬し、5秒〜5分間、揺動浸漬処理をする。この際の、置換スズめっき液の温度は、20〜70℃(好ましくは20〜40℃)程度であればよい。その後、水洗、乾燥することで、スズめっき処理層2が形成される。
【0030】
上記のようにスズめっき処理層2を形成した後に、このスズめっき処理層2の表面2aにスズ剥離液(図示せず)を接触させることにより、図1Cに示すように、厚みTが0.001〜0.020μm(好ましくは厚みTが0.003〜0.020μm)の銅−スズ合金層3を残してスズめっき処理層2の一部を除去する(除去工程)。これにより、本発明の一例である導電層10が形成される。
【0031】
上記スズ剥離液としては、スズをエッチングできる液であればよく、例えば、硝酸水溶液、塩酸、硫酸水溶液、これらの混合溶液等の酸性溶液等が使用できる。酸性溶液の酸濃度としては、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.3〜5質量%の範囲であることがより好ましい。この範囲内であれば、銅−スズ合金層3の厚みを上記範囲内に容易に制御できる。特に、硝酸水溶液は、スズめっき処理層2をエッチングする速度が速いため好ましい。
【0032】
上記除去工程において、スズめっき処理層2の表面2aと上記スズ剥離液(好ましくは硝酸水溶液)との接触時間は、5〜120秒が好ましく、10〜30秒がより好ましい。この範囲内であれば、銅−スズ合金層3の厚みを上記範囲内に容易に制御できる。スズ剥離液を接触させる方法としては、浸漬やスプレーなどによる接液処理方法を採用できる。なお、この際のスズ剥離液の温度は、例えば25〜35℃程度である。
【0033】
また、除去工程は、スズめっき処理層2を形成した後、1時間以内に行うのが好ましく、10分以内に行うのがより好ましく、3分以内に行うのがさらに好ましい。スズと銅との置換反応が過剰に進む前に除去工程を行えるため、スズめっき処理層2の一部を容易に除去できるからである。
【0034】
また、スズめっき処理層2を形成した後に、除去工程を行うまでの間は、スズめっき処理層2を80℃以下の雰囲気温度で保持するのが好ましく、30℃以下の雰囲気温度で保持するのがより好ましい。スズと銅との置換反応が過剰に進むことを防止できるため、スズめっき処理層2の一部を容易に除去できるからである。なお、上記「雰囲気温度」は、スズめっき処理層2の周囲の温度を意味し、スズめっき処理層2を気体中で保持する場合は、その気体の温度を指し、スズめっき処理層2を液体中で保持する場合は、その液体の温度を指す。
【0035】
銅−スズ合金層3では、含有されているスズの80原子%が、銅−スズ合金層3の表面3aから0.001〜0.010μmの深さの範囲に存在することが好ましい。即ち、80原子%のスズが含まれる層の厚みが、0.001〜0.010μmの範囲であることが好ましい。この範囲であれば、時間経過による銅−スズ合金層3の厚膜化を効果的に防止できるため、銅−スズ合金層3の形成後から長時間経過した後であっても、銅−スズ合金層3の除去がより容易となる。
【0036】
また、銅−スズ合金層3に含まれるスズの含有量は、0.05g/m以下であることが好ましく、0.02g/m以下であることがより好ましい。この範囲であれば、時間経過による銅−スズ合金層3の厚膜化を効果的に防止できるため、銅−スズ合金層3の形成後から長時間経過した後であっても、銅−スズ合金層3の除去がより容易となる。この場合、樹脂層との接着性を確実に維持するためには、銅−スズ合金層3に含まれるスズの含有量が、0.001g/m以上であることが好ましく、0.003g/m以上であることがより好ましい。
【0037】
また、銅−スズ合金層3の最表層におけるスズ/銅の比率は、原子%で30/70〜90/10の範囲であることが好ましく、40/60〜90/10の範囲であることがより好ましく、65/35〜85/15の範囲であることがさらに好ましい。この範囲であれば、樹脂層との接着性が高くなる。ここで、上記最表層とは、XPSにより加速電圧5kVでArスパッタリングを行ったときのスパッタリング時間が2秒となる層をいう。
【0038】
なお、上記80原子%のスズが含まれる層の厚み(深さ)、上記スズの含有量及び上記スズ/銅の比率は、例えば、スズめっき処理層2の形成後から除去工程を行うまでの時間や、その間の保持温度などで調整することができる。即ち、除去工程を行うまでの時間が短いほど、スズの過剰な拡散が抑制できるため、除去工程後のスズの含有量が少なくなり、80原子%のスズが含まれる層の厚みが薄くなる上、スズ/銅の比率が小さくなる。また、除去工程を行うまでの保持温度が低いほど、スズの過剰な拡散が抑制できるため、上記と同様の制御が可能となる。
【0039】
図1Dに示すように、導電層10上に樹脂層4を積層して積層体20を得るには、導電層10の銅−スズ合金層3の表面3aと、樹脂層4とを接着すればよい。この際の接着方法は、特に限定されず、接着させる樹脂層4の形状に応じて適宜選択すればよいが、例えば積層プレス、ラミネート、塗布等の方法が採用できる。
【0040】
樹脂層4の構成樹脂としては、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリプロピレン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル等の熱硬化性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は官能基によって変性されていてもよく、ガラス繊維、アラミド繊維、その他の繊維などで強化されていてもよい。これら樹脂の中でもエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル等のガラス転移温度の高い高耐熱樹脂は特に導電層との接着性が低いため、本発明を用いた場合の効果が高い。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されない。例えば、図1A〜Dでは、板状の銅層1を用いた例について説明したが、銅層として、銅配線パターン層を用いても良い。
【0042】
また、図1Dでは平坦な樹脂層4を用いたが、樹脂層として、例えばソルダーレジストパターン層などを用いてもよい。この場合も、導電層とソルダーレジストとの接着性を確保した上で、ソルダーレジストの開口部から露出した銅−スズ合金層を容易に除去できる。しかも、本発明の銅−スズ合金層は、従来の銅−スズ合金層に比べ極めて薄いため、スズの拡散を防止できる。よって、銅−スズ合金層の形成後から長時間経過した後であっても、開口部から露出した銅−スズ合金層の除去が容易となる。銅−スズ合金層の除去液としては、濃硝酸、硝酸−過酸化水素系エッチング剤、塩化鉄系エッチング剤などの銅−スズ合金を溶解できる除去液であれば用いることができるが、銅層のエッチングを防ぐ観点から、硝酸−過酸化水素系エッチング剤などの除去液を使用するのが好ましい。
【0043】
本発明の積層体は、銅層と、樹脂層(絶縁樹脂、エッチングレジスト、導電性樹脂、導電性ペースト、導電性接着剤、誘電体樹脂、穴埋め用樹脂、フレキシブルカバーレイフィルム等)との接着性を確保できるため、例えば、信頼性の高い配線基板として使用できる。特に、微細な銅配線とスルーホールを形成するビルドアップ基板用として好適である。前記ビルドアップ基板には、一括ラミネーション方式のビルドアップ基板と、シーケンシャルビルドアップ方式のビルドアップ基板などがある。また、いわゆるメタルコア基板とよばれる心材に銅板を用いた基板において、銅板の表面に上述した銅−スズ合金層が形成されている場合には、銅板とそれに積層された絶縁樹脂との接着性を確保できるため、信頼性が高くなる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0045】
(実施例1)
銅張積層板(松下電工製ガラスエポキシマルチR−1766、銅箔厚み:35μm)に17μmの電解銅めっき層を形成した基板を、100mm×100mmに切断した。これを10質量%硫酸に30秒間浸漬して銅めっき層の表面を清浄化し、水洗、乾燥したものを試験基板とした。この試験基板をメック社製置換スズめっき液T−9900中で浸漬揺動処理し(30℃、30秒間)、その後水洗して、電解銅めっき層の表面にスズめっき処理層を形成した。その後、すぐに、0.67質量%硝酸水溶液中でスズめっき処理層の浸漬揺動処理(30℃、20秒間)を行い、スズめっき処理層の表層部分を除去した後、水洗、乾燥を行い、銅−スズ合金層を形成した。この時の銅−スズ合金層のスズ含有量を以下の方法で測定した。
【0046】
まず、銅−スズ合金層を27質量%硝酸水溶液に溶解させ、この溶解液中のスズ濃度をゼーマン原子吸光光度計(島津製作所製、型番:AA−6800)により検量線法で測定した。そして、以下の式により単位面積あたりのスズ含有量を算出した。
スズ含有量(g/m)=スズ濃度(ppm)×溶解液の量(g)/試験基板の面積(m
【0047】
また、上記と同様の試験基板を用意し、これに上記と同様の方法で銅−スズ合金層を形成した後、この銅−スズ合金層にビルドアップ配線板用積層体(味の素製銅箔付き樹脂ABF−SHC)の樹脂層を重ね、プレス圧(ゲージ圧):30MPa、プレス時間:60分、プレス温度:170℃の条件でプレスした。得られた積層体について、樹脂層と銅層との引き剥がし強さ(ピール強度)を、JIS C 6481により測定した。
【0048】
また、上記と同様の試験基板を用意し、これに上記と同様の方法で銅−スズ合金層を形成した後、この銅−スズ合金層について、表層からXPS(日本電子製、型番:JPS−9010MC)による深さ方向組成分析を行い(加速電圧5kV、Arスパッタリング時間で120秒まで)、スズの検出限界以下となるスパッタリング時間からSiOで換算した銅−スズ合金層厚みを算出した。なお、上記XPSでは、スズの含有量が1原子%以下の場合にスズの検出限界以下となる。また、当スズのピークのスパッタリング時間から、スズの総量の80原子%が存在する深さをSiO換算で算出した。さらに、銅−スズ合金層の最表層(XPSによる深さ方向組成分析においてスパッタリング時間が2秒となる層)について、XPSによる組成分析を行い、スズと銅のピークからスズ/銅の原子%比率を算出した。
【0049】
さらに、上記と同様の試験基板を用意し、これに上記と同様の方法で銅−スズ合金層を形成した後、これを硝酸−過酸化水素系はんだ剥離剤(メック社製、製品名S−81)の中に30℃、30秒間の条件で浸漬し、十分に水洗、乾燥を行った。その後、XPSで表面を無作為に5点測定し、5点全てで検出限界以下(スズの含有量が1原子%以下)であれば、銅−スズ合金層の除去性が良好(○)であるとし、検出された測定箇所が1〜2箇所の場合を△とし、検出された測定箇所が3箇所以上の場合を×として評価を行った。
【0050】
(実施例2)
上記実施例1と同様の試験基板に同様の方法でスズめっき処理層を形成し、すぐに30℃の湯に基板を浸漬して1分間放置した。その後、すぐに、0.67質量%硝酸水溶液中でスズめっき処理層の浸漬揺動処理(30℃、20秒間)を行い、スズめっき処理層の表層部分を除去した後、水洗、乾燥を行い、銅−スズ合金層を形成した。そして、上記実施例1と同様の方法で各項目について評価した。
【0051】
(実施例3〜11)
上記実施例2の湯の温度及び浸漬時間を、表1の各温度及び時間にして処理したこと以外は、実施例2と同様に処理したものを実施例3〜11とし、上記実施例1と同様の方法で各項目について評価した。
【0052】
(実施例12〜14)
上記実施例1の硝酸水溶液の濃度を、表1の各濃度にして処理したこと以外は、実施例1と同様に処理したものを実施例12〜14とし、上記実施例1と同様の方法で各項目について評価した。
【0053】
(比較例1)
上記実施例1と同様の試験基板に同様の方法でスズめっき処理層を形成し、表層の除去を行わなかったものを比較例1とし、スズめっき処理層の形成後、直ちに上記実施例1と同様の方法で各項目について評価した。
【0054】
(比較例2〜4)
上記実施例2の湯の温度及び浸漬時間を、表1の各温度及び時間にして処理したこと以外は、実施例2と同様に処理したものを比較例2〜4とし、上記実施例1と同様の方法で各項目について評価した。
【0055】
(比較例5)
上記実施例1と同様の試験基板にスズめっき処理層を形成しなかったものを比較例5とし、上記実施例1と同様の方法で各項目について評価した。
【0056】
上記実施例1〜14及び比較例1〜5の評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、本発明の実施例1〜14は、ピール強度及び除去性のいずれについても、比較例1〜5に比べ良好な結果が得られた。
【0059】
(経時変化の比較)
上記実施例1と同様の方法で形成した銅−スズ合金層について、形成直後、120℃で30分間加熱した直後、及び170℃で60分間加熱した直後に、表層からXPSによる深さ方向組成分析を行い(Arスパッタリング時間で200秒まで)、それぞれの銅−スズ合金層の厚みを上記と同様に測定した。その結果、形成直後は0.005μmであり、120℃(30分間)及び170℃(60分間)で加熱した直後は、いずれも0.006μmであった。また、このときのスパッタリング時間に対するスズの含有率を図2に示した。さらに、上記比較例1と同様の方法で形成したスズめっき処理層について、同様に合金層厚みを測定したところ、形成直後、120℃(30分間)で加熱した直後、及び170℃(60分間)で加熱した直後のそれぞれの厚みは、0.032μm、0.048μm及び640μmであった。また、このときのスパッタリング時間に対するスズの含有率を図3に示した。これらの結果の比較から、本発明によれば、時間経過による銅−スズ合金層の厚膜化を防止できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】A〜Dは、本発明の積層体の好適な製造方法の一例を示す工程別断面図である。
【図2】本発明の一例の導電層について、スパッタリング時間に対するスズの含有率を示すグラフである。
【図3】比較例の導電層について、スパッタリング時間に対するスズの含有率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 銅層
2 スズめっき処理層
3 銅−スズ合金層
4 樹脂層
10 導電層
20 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層に接着させる導電層において、
銅層と、この銅層上に積層された銅−スズ合金層とを含み、
前記銅−スズ合金層は、厚みが0.001〜0.020μmであることを特徴とする導電層。
【請求項2】
前記銅−スズ合金層に含まれるスズの80原子%が、前記銅−スズ合金層の表面から0.001〜0.010μmの深さの範囲に存在する請求項1に記載の導電層。
【請求項3】
前記銅−スズ合金層に含まれるスズの含有量が、0.05g/m以下である請求項1又は2に記載の導電層。
【請求項4】
前記銅−スズ合金層の最表層におけるスズ/銅の比率が、原子%で30/70〜90/10の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電層。
【請求項5】
樹脂層と、この樹脂層に接着された導電層とを含む積層体において、
前記導電層は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電層であり、
前記導電層の前記銅−スズ合金層と前記樹脂層とが接着されていることを特徴とする積層体。
【請求項6】
樹脂層に接着させる導電層の製造方法において、
銅層の表面にスズめっき液を接触させて、当該表面にスズめっき処理層を形成するめっき処理工程と、
前記スズめっき処理層の表面にスズ剥離液を接触させることにより、厚み0.001〜0.020μmの銅−スズ合金層を残して前記スズめっき処理層の一部を除去する除去工程とを含むことを特徴とする導電層の製造方法。
【請求項7】
前記銅−スズ合金層に含まれるスズの80原子%が、前記銅−スズ合金層の表面から0.001〜0.010μmの深さの範囲に存在する請求項6に記載の導電層の製造方法。
【請求項8】
前記銅−スズ合金層に含まれるスズの含有量が、0.05g/m以下である請求項6又は7に記載の導電層の製造方法。
【請求項9】
前記銅−スズ合金層の最表層におけるスズ/銅の比率が、原子%で30/70〜90/10の範囲である請求項6〜8のいずれか1項に記載の導電層の製造方法。
【請求項10】
前記めっき処理工程後、1時間以内に前記除去工程を行う請求項6〜9のいずれか1項に記載の導電層の製造方法。
【請求項11】
前記めっき処理工程後から前記除去工程を行うまでの間、前記スズめっき処理層を80℃以下の雰囲気温度で保持する請求項6〜10のいずれか1項に記載の導電層の製造方法。
【請求項12】
前記スズ剥離液が、酸性溶液である請求項6〜11のいずれか1項に記載の導電層の製造方法。
【請求項13】
前記酸性溶液の酸濃度が、0.1〜10質量%である請求項12に記載の導電層の製造方法。
【請求項14】
前記酸性溶液が、硝酸水溶液である請求項12又は13に記載の導電層の製造方法。
【請求項15】
前記除去工程において、前記スズめっき処理層の表面と前記スズ剥離液との接触時間が、5〜120秒である請求項6〜14のいずれか1項に記載の導電層の製造方法。
【請求項16】
樹脂層と、この樹脂層に接着された導電層とを含む積層体の製造方法において、
請求項6〜15のいずれか1項に記載の製造方法により前記導電層を製造する工程と、
前記導電層の前記銅−スズ合金層と前記樹脂層とを接着する工程とを含むことを特徴とする積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−109308(P2010−109308A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302947(P2008−302947)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000114488)メック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】