説明

導電粒子及びその製造方法、接着剤組成物、回路接続材料、接続構造体、並びに回路部材の接続方法

【課題】接続すべき電極間の抵抗を十分長期にわたって良好な値に維持できるとともにマイグレーションの発生を十分に抑制して優れた接続信頼性を達成でき且つ低コストで得ることができる導電粒子を提供すること。
【解決手段】本発明に係る導電粒子は、ニッケル粒子と、ニッケル粒子の表面を覆う無電解めっきによるニッケル層と、ニッケル層の外側表面を覆うパラジウム層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電粒子及びその製造方法、接着剤組成物、回路接続材料、接続構造体、並びに回路部材の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化や高機能化の進展にともない、電子機器の内部に搭載されている電子部品も高機能化と小型化、薄型化が進んでいる。これら電子部品は、単独で機能を発揮するものではなく、配線基板と電気的に接続されることで機能を発揮する。具体的には、ハンダや金ワイヤなどによってプリント基板(PCB)やフレキシブル回路基板(FPC)などの配線基板に実装される。
【0003】
発展が目覚しいフラットパネルディスプレイ(FPD)分野では、これまでのハンダを用いた電子部品の接続方法に代わり、導電粒子を含有する回路接続材料を用いた実装方法が広く採用されている。回路接続材料の具体例としては、導電粒子と接着剤成分とを含有する接着剤組成物及びこれをフィルム状に成形した異方導電性フィルムが挙げられる。対向配置された一対の回路部材の間に回路接続材料を介在させ、全体を加熱及び加圧することによって、それぞれの回路部材が有する回路電極同士を電気的に接続するとともに回路部材同士を接着する。導電粒子を含有する回路接続材料は、接続する電極が小さく、数が多い場合でも、それぞれの電極同士の接続が一回の加圧接着で可能であるという利点がある。なお、ここでいう異方導電性とは、加圧方向には導通し、非加圧方向では絶縁性を保つという意味である。
【0004】
近年は、特に高画質化の進展により、駆動用半導体の数が増え、電極間の狭ピッチ化が進んでいる。また、デザイン性の観点から狭額縁化、薄型化が進み、実装面積、体積も減少し、上記回路接続材料に対する要求がより厳しくなってきている。回路接続材料を用いた接続方法としては、ガラスの透明電極上に直接実装するCOG(Chip−on−Glass)実装や、フレキシブル基板に実装したのち、フレキシブル基板とガラス基板を接続するCOF(Chip−on−Flex)実装が挙げられる。
【0005】
これまでに種々の導電粒子が開発されている。例えば、特許文献1には、銀、ニッケル、銅、錫、アルミニウム又は亜鉛などからなる金属球を核とする導電性微粒子が記載されている。特許文献2には、カーボン粒子の外側表面に樹脂コート層が形成された導電性微粒子が記載されている。特許文献3〜5には、樹脂粒子の表面を金属でコーティングした導電粒子が記載されている。これらの導電粒子は用途に合わせて使い分けられている。
【0006】
上記の通り、FPDにおける回路部材の電極間の狭ピッチ化の進展にともない、隣り合う電極同士を短絡(ショート)させてしまうリスクが高くなっている。短絡は、導電粒子の粒子径が大き過ぎる場合や、接着剤成分中で導電粒子が凝集している場合に生じやすくなる。狭ピッチの電極用の回路接続材料は、導電粒子の小径化と、接着剤成分中での高充填化及び高分散性の両立が求められている。樹脂粒子の表面を金属でコーティングした導電粒子は、金属微粒子からなる導電粒子と比較して、体積密度が接着剤成分に近いため、接着剤成分中で均一に分散しやすく有利である(特許文献3参照)。
【0007】
一方、電極に流れる電流が大きいプラズマディスプレイ(PDP)や太陽電池などの分野では、導電粒子として金属微粒子を用いた回路接続材料が提案されている(特許文献6)。しかし、コア粒子にニッケルや銀、銅などの金属粒子を用いた場合、湿度や温度によっては酸化が進み、接続抵抗が上昇したり、接続後にマイグレーションが発生して隣接する電極間をショートさせたりする可能性がある。なお、マイグレーションとは、電気回路や電極における電析を意味し、接続構造体の接続信頼性低下の原因となる。このマイグレーションは、接着剤中の不純物又は電極を構成する金属が電圧印加時にイオン化されることで発生するものと考えられている。
【0008】
そこで、金属の酸化やマイグレーションを防止する目的で金属粒子に貴金属を被覆した導電粒子が提案されてきた。例えば、特許文献7には、金属材料の表面を貴金属で被覆してなる金属球を核とした導電粒子が開示されている。このような導電粒子は、金属の酸化やマイグレーションの抑制に対して一定の効果を有する反面、コストが安い貴金属を選定する必要がある。
【0009】
特許文献8には、卑金属粒子の表面に2層以上の異なった貴金属を被覆し、表面層をパラジウムとした導電粒子が開示されている。しかし、貴金属処理を2回実施する必要があり、製造工程が長くなるだけでなく、高価な貴金属を2種類使用するため全体のコストは高くなる。
【0010】
特許文献9には、マイカ等の無機質粉体の表面に、化学めっきにより金属を被覆し、更にその上に電気めっきを施すことで、無機質粉体に導電性を付与する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−134935号公報
【特許文献2】特開平10−308121号公報
【特許文献3】特開昭57−49632号公報
【特許文献4】特開昭62−181379号公報
【特許文献5】特開平1−242782号公報
【特許文献6】特開2003−197033号公報
【特許文献7】特開平11−134936号公報
【特許文献8】特開平2−66101号公報
【特許文献9】特開昭60−181294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来、卑金属からなるコア粒子を貴金属でコーティングしてなる導電粒子は、必ずしも金属の酸化やマイグレーションによる不具合を十分に解消できず、接続構造体の優れた接続信頼性を安定的に達成するには改善の余地があった。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、接続すべき電極間の抵抗を十分長期にわたって良好な値に維持できるとともにマイグレーションの発生を十分に抑制して優れた接続信頼性を達成でき且つ低コストで得られる導電粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、特許文献7に記載の方法に基づき、ニッケル粒子の表面に無電解金めっきを施した導電粒子、並びに、ニッケル粒子の表面に無電解パラジウムめっきを施した導電粒子をそれぞれ作製した。これら導電粒子を用いて回路接続材料を作製し、その評価試験を実施した。この結果、パラジウムめっきが施されたニッケル粒子を含む材料は、金めっきが施されたニッケル粒子を含む材料よりも接続抵抗が高く、性能が劣ることが判明した。この原因を究明するため、本発明者らはパラジウムめっきが施されたニッケル粒子をSEM(Scanning Electron Microscope)で観察したところ、パラジウム層がニッケル粒子を完全には覆っておらず、導電粒子の表面にニッケル粒子が露出していた。本発明者らはこれらの知見に基づき、以下の発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明に係る導電粒子は、ニッケル粒子と、ニッケル粒子の表面を覆う無電解めっきによるニッケル層と、ニッケル層の外側表面を覆うパラジウム層とを備える。
【0016】
この導電粒子は、コア粒子がニッケル粒子からなり、ニッケル粒子の表面にニッケル層及びパラジウム層がこの順序で積層されている。この導電粒子を接着剤成分中に分散させることで回路接続材料が作製される。この回路接続材料を使用することにより、接続すべき電極間の抵抗を十分長期にわたって小さい値に維持できる。また、本発明に係る導電粒子は、銀を用いた導電粒子に比べてマイグレーション発生に対する懸念が小さい。
【0017】
上記効果が得られる主因は現時点では必ずしも明らかではないが、本発明者らは無電解めっきによるニッケル層を設けることで、コア粒子の表面のパラジウム層を直接形成する場合と比較し、緻密で均質なパラジウム層を形成しやすいことが関係していると推察する。これに加え、無電解めっきによるニッケル層の表面上には、連続したパラジウム層を形成しやすいことも関係していると推察される。
【0018】
上記導電粒子の核をなすニッケル粒子は導電性に優れ且つコストが安いため、本発明によれば、接続すべき電極間の抵抗値を十分に小さくできるとともに低コスト化が図られる。またパラジウムは、金、白金等の貴金属と比較して安価であるため、パラジウム層を備える導電粒子は、金又は白金のみを用いた導電粒子に比べて低コストである。
【0019】
なお、ここでいうニッケル粒子とはニッケルを主成分とする金属粒子を意味し、ニッケル粒子の質量基準でニッケル含有量が50質量%以上のものをいう。ニッケル層とは、ニッケルを主成分とする金属層を意味し、ニッケル層の質量基準でニッケル含有量が50質量%以上のものをいう。パラジウム層とは、パラジウムを主成分とする金属層を意味し、パラジウム層の質量基準でパラジウム含有量が50質量%以上のものをいう。
【0020】
ニッケル層のリン含有量及びホウ素含有量は、当該ニッケル層の質量基準でいずれも、7質量%以下であることが好ましい。これらの元素の含有量がいずれも7%質量以下であると、ニッケル層の表面上にパラジウムが均一に析出しやすく、緻密で均質なパラジウム層を更に形成しやすい。
【0021】
パラジウム層は、還元めっき又は置換めっきによって形成されたものであることが好ましい。この場合、ニッケル層を覆うパラジウム層が緻密で均質なものとなり、ニッケルの表面露出を十分に低減できる。特に、還元めっきによって形成されたパラジウム層は、不純物が極めて少なく、下地(ニッケル)を完全に覆うことが可能なため更に好ましい。
【0022】
本発明に係る導電粒子をSEMで表面観察した場合、パラジウム層はニッケル層の外側表面全体を覆っていることが好ましい。かかる構成の導電粒子は、酸化物を経由してイオン溶出する現象やマイグレーションがほとんどなく、より高度な接続信頼性を維持しやすい。
【0023】
本発明に係る導電粒子は、より一層優れた接続信頼性を達成する観点から、表面のニッケル原子の数Aとパラジウム原子の数Bの比A/Bが1.0以下であることが好ましい。ここで、比A/Bは、導電粒子の表面をESCA(Electron Spectroscopy forChemical Analysis、X線光電子分光)法による分析で求められる値を意味する。
【0024】
ニッケルの露出をより確実に防ぐ観点から、パラジウム層の厚さは5〜100nmであることが好ましい。
【0025】
本発明は、ニッケル粒子の表面を覆うニッケル層を無電解めっきによって形成する工程と、ニッケル層の表面を覆うパラジウム層を形成する工程とを備える導電粒子の製造方法を提供する。この方法によれば、優れた接続信頼性を達成するのに有用な導電粒子を低コストで得ることができる。また、本発明においては、ニッケル層を設けることで、ニッケル粒子の特性(例えば、ニッケル純度や表面の状態)がパラジウム層の形成に与える影響を小さくできるため、ニッケル粒子の選択の制限が少ないという利点がある。
【0026】
なお、従来の無電解金めっきでは主にシアン金めっきが使用されていたが、環境問題の観点からシアンを用いないめっきへの変更が望まれている。本発明によれば、シアンを用いることなくニッケル層及びパラジウム層を備える導電粒子を製造することができる。
【0027】
本発明は、接着性を有する接着剤成分と、接着剤成分中に分散している上記導電粒子とを備える接着剤組成物を提供する。本発明は、この接着剤組成物からなり、回路部材同士を接着するとともにそれぞれの回路部材が有する回路電極同士を電気的に接続するために用いられる回路接続材料を提供する。
【0028】
本発明は、対向配置された一対の回路部材と、上記回路接続材料の硬化物からなり、一対の回路部材の間に介在しそれぞれの回路部材が有する回路電極同士が電気的に接続されるように当該回路部材同士を接着する接続部とを備える接続構造体を提供する。本発明は、対向配置された一対の回路部材の間に上記回路接続材料を介在させ、全体を加熱及び加圧して、回路接続材料の硬化物からなり、一対の回路部材の間に介在しそれぞれの回路部材が有する回路電極同士が電気的に接続されるように回路部材同士を接着する接続部を形成することにより、一対の回路部材及び接続部を備える接続構造体を得る、回路部材の接続方法を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、接続すべき電極間の抵抗を十分長期にわたって良好な値に維持できるとともにマイグレーションの発生を十分に抑制して優れた接続信頼性を達成できる。また、本発明に係る導電粒子は低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る導電粒子の好適な実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る回路接続材料の好適な実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】回路電極同士が接続された接続構造体の好適な実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】接続構造体の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
(導電粒子)
図1に示す導電粒子10は、コア粒子としてのニッケル粒子1と、ニッケル粒子1の表面を覆う無電解めっきによるニッケル層2と、ニッケル層2の外側表面を覆うパラジウム層3とを備える。
【0033】
<ニッケル粒子>
ニッケル粒子1の粒径は、隣接する電極間の絶縁性を確保する観点から、隣接する電極の間隔よりも小さいことが好ましい(図3参照)。また、ニッケル粒子1の粒径は、接続すべき電極の高さにばらつきがあるときは、十分に低い接続抵抗を得る観点から、高さのばらつきよりも大きいことが好ましい。これらの理由から、ニッケル粒子1の粒径は、1〜200μmであることが好ましく、1〜100μmであることがより好ましく、20〜50μmであることが特に好ましい。ここで平均粒径は、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定したメディアン径D50を意味する。
【0034】
ニッケル粒子1は、液相還元析出法、気相化学反応法、ガス中蒸発法等の湿式、乾式のいずれかで製造されたものを使用できる。具体的には、Niから得たNiOを還元する方法、ニッケルカーボニルNi(CO)を焼成する方法(モンド法)、金属粒子に塩素ガスを接触させ、金属塩化物ガスを連続的に発生させた後、この金属塩化物ガスに水素等の還元性ガスを接触させる方法(特開平10−219313号公報)、Ni(OH)をHガスによって還元する方法(特開2001−284603号公報)、アトマイズ法、CVD法などが挙げられる。
【0035】
ニッケル粒子1とは、ニッケルを主成分とする粒子を意味し、ニッケルの他に金属、酸化物、無機物などが含有していてもよい。ニッケル粒子1の製造方法によって、これらの含有物の種類や量が異なるが、ニッケル粒子1の表面に後述のニッケル層2を形成することで、これらの含有物の種類や量の違いよる影響が抑えられ、緻密で均質なパラジウム層3を形成しやすくなる。よって、得られる導電粒子10のコストやサイズ、形状などの目的に合わせて、ニッケル粒子1を選択できる。
【0036】
ニッケル粒子1の形状は、特に制限はないが、隣接する電極間の絶縁性の確保と、対向電極間での導通安定性の確保のため、球体に近いことが望ましい。例えば、扁平したニッケル粒子1を用いた場合、平均粒径が隣接する電極間距離よりも十分に小さくても、電極間に配置されたニッケル粒子1が、隣接する電極間の方向に長辺が向いた状態で配置されると、隣接する電極間の絶縁性が不十分となりやすい。また、対向する電極間には、複数の導電粒子10が配置され導通が確保されるが、扁平した導電粒子10が存在すると、電極への接触状態やめり込み状態が、各粒子で異なり、導通安定性が不十分となりやすい。導電粒子10が電極に同じ状態で接触するため、そのコア粒子をなすニッケル粒子1の形状は球体が好ましい。
【0037】
また、ニッケル粒子1の表面形状は、平滑であってもよいが、凹凸があると好ましい。凹凸部分が電極にめり込みやすく、電極と導電粒子10の接触面積が増えるため、導通抵抗の安定性が増す。
【0038】
<ニッケル層>
ニッケル層2は、無電解めっきによって形成されたものであり、ニッケルを主成分とする材料からなる。ニッケル層2は、ニッケル粒子1の表面の少なくとも一部又は全体を覆うためのものであり、図1に示すようにニッケル粒子1の表面の全体を覆っていることが好ましい。無電解めっきは、ニッケル粒子1の表面に十分に緻密で均質なニッケル層2を形成するのに好適である。
【0039】
ニッケル層のリン含有量及びホウ素含有量は、当該ニッケル層2の質量基準でいずれも、15質量%以下であることが好ましい。一般的に無電解ニッケルめっきではリン系又はホウ素系の還元剤を用いられるが、めっき条件によってリン及びホウ素の元素がニッケル層2中に取込まれる。これらの元素の含有量がいずれも15%質量以下であると、ニッケル層の表面上にパラジウムが析出しやすい。更に、緻密で均質なパラジウム層を更に形成しやすくするには、これらの元素の含有量はいずれも、10%質量以下であることがより好ましく、7%質量以下であることが更に好ましく、5%質量以下であることが最も好ましい。
【0040】
リン及びホウ素は、無電解めっきで用いる還元剤の種類によりニッケル層2中に共析するものであり、リン含有量及びホウ素含有量によりニッケル層2の特性が変わるので、目的に合わせて選択すればよい。例えば、ニッケル層2中のリン含有量が低いほど、電気抵抗は低く、磁性を帯びる導電粒子10を得られる傾向がある。一方、リン含有量が高いほど、硬度が高く、電極にめり込み易い導電粒子10が得られる。
【0041】
ニッケル層2の厚さは、ニッケル粒子1の表面が十分に覆われていれば、特に規定されないが、5nm以上100nm以下が好ましい。ニッケル層2の厚さを5nm以上とすると、ニッケル粒子11表面の全体を比較的容易に覆うことが可能となる。他方、ニッケル層2の厚さが100nm以下であれば、無電解ニッケルめっき時間が短くて済むため、製造プロセスの短縮と、省資源、廃液量の低減が図れる。ニッケル層2の厚さが100nmを超えると、パラジウム層3を設けた最終形態としての導電粒子10の平均粒径と、ニッケル粒子1の平均粒径との差が大きくなる。これらの平均粒径の差が大きくなるに従い、回路接続材料が所望の性能を十分に発揮しない傾向となり、例えば、電極間の接続と絶縁のバランスが崩れるといった不具合が生じやすい。
【0042】
<パラジウム層>
パラジウム層3は、パラジウムを主成分とする材料からなる。パラジウム層3は、ニッケル粒子1及びニッケル層2の表面の少なくとも一部又は全体を覆うためのものであり、図1に示すようにニッケル層2の外側表面の全体を覆っていることが好ましい。
【0043】
パラジウム層3を具備する導電粒子10は、酸化物を経由してイオン溶出する現象やマイグレーションがほとんどなく、より高度な接続信頼性を維持しやすい。ニッケル層2を覆うための金属としてパラジウムが好適な理由は以下の通りである。まず、パラジウムは貴金属であるため、卑金属や銅に比べて酸化されにくく、高温高湿にさらされても電気抵抗が上昇しにくい。また、パラジウムは、リンなどの合金化も可能であり、その含有量も任意に設定可能である。リンを含有しない純パラジウム層と比較してリンを含有するパラジウム層は硬度が高い(「表面技術 P651、Vol55、No10、2004」を参照)。パラジウム層3の硬度を高めると、導電粒子19が電極表面にめり込みやすくなり、導通性能をより一層向上し得る。パラジウム層3のパラジウム以外の含有量は、特に限定されず、導電粒子10の目的にあわせて適宜設定できる。
【0044】
導電粒子10は、より一層優れた接続信頼性を達成する観点から、表面のニッケル原子の数Aとパラジウム原子の数Bの比A/Bが1.0以下であることが好ましい。A/Bは、0.8以下が更に好ましく、0.6以下が特に好ましい。A/Bが0.6以下のパラジウム層3は緻密で均質であることに加え、表面におけるニッケルの露出が極めて少なく、ニッケルの溶出に起因する不具合をより一層高いレベルで抑制できる。
【0045】
一方、A/Bが1.0を超えると、ニッケル原子が導電粒子10の表面に大量に存在しており、ニッケル粒子1及びニッケル層2の表面の状態が変化(酸化、合金化、結晶化、汚れなど)しやすい。A/Bが1.0を超えるパラジウム層3は十分に均質であるとは言えず、例えば、ニッケル粒子1の表面に、粒状のパラジウム析出物がまばらに付着した状態や粒状のパラジウム析出物が近接して並ぶような状態となっていることがある。特に後者は、SEMなどでの観察ではパラジウム析出物が連続した層をなしているように見え、これがニッケル粒子1及びニッケル層2の表面を覆っているようにも見える。しかし、パラジウム析出物の粒と粒の間から、ニッケルが溶出しやすく、ニッケルの酸化やマイグレーションによる不具合が生じやすい。
【0046】
パラジウム層3の厚さは、5〜100nmであることが好ましい。パラジウム層の厚さが5nm未満であると、導電性が不十分となりやすい。一方、パラジウム層2の厚さが100nmを超えると、導電粒子10全体の弾性が不十分となりやすい。導電粒子10全体の弾性が不十分であると、導電粒子10を分散させて得られた回路接続材料が一対の電極で挟まれ、縦方向(一対の電極が対向する方向)に熱圧着などで潰された際、導電粒子10の弾性によってパラジウム層3が電極表面に十分に押し当てられる力が不十分となる。そのため、パラジウム層3と電極との接触面積が小さくなり、電極間の接続信頼性の向上効果が小さくなる。また、パラジウム層3が厚いほど、コストが高くなり、経済的に好ましくない。パラジウム層3を無電解めっき(還元めっき又は置換めっき)によって形成する場合、めっき液量を適宜変更することによってパラジウム層3の厚さを任意に設定できる。
【0047】
(導電粒子の製造方法)
次に、導電粒子10の製造方法について説明する。導電粒子10は、ニッケル粒子1の表面を覆うニッケル層2を無電解めっきによって形成する工程S1と、ニッケル層2の表面を覆うパラジウム層3を形成する工程S2とを経て製造される。
【0048】
<ニッケル層を形成する工程(S1)>
この工程は、ニッケル粒子1の表面に無電解めっきによってニッケル層2を形成する工程である。これにより、ニッケル粒子1と、その表面の少なくとも一部又は全体を覆うニッケル層2とからなる母粒子を製造する。無電解ニッケルめっき液を構成する成分としては、例えば、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等の水溶性ニッケル塩、次亜リン酸ナトリウム、水素化ほう素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等の還元剤、クエン酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、グリシン等のアミノ酸、エチレンジアミン、アルキルアミン等のアミン類、その他のアンモニウム、EDTA、ピロリン酸等の錯化剤が挙げられる。
【0049】
また、無電解めっき反応時において、pH、錯化剤、及び還元剤として次亜リン酸ナトリウム(次亜リン酸・水酸化ナトリウム)等のめっき液組成を厳密に調整することにより、ニッケル層2中のリン含有量を制御させながら母粒子を得ることができる。例えば、無電解ニッケルめっき液のpHを2〜12の範囲に調整することによりリン含有量が0.1〜15質量%のニッケル層2を形成することができる。
【0050】
無電解めっき終了後は、水洗を短時間に効率よく行うことが好ましい。水洗時間が短いほど、ニッケル表面に酸化皮膜ができにくいため、パラジウム層3の形成が有利になる。また、通常、無電解めっき終了後、メンブレンフィルタ等を用いて濾過が行われるが、この場合もニッケルの酸化を防ぐために濾過を迅速に行うことが好ましい。
【0051】
<パラジウム層を形成する工程(S2)>
この工程は、工程S1で得られた母粒子の表面にパラジウム層3を形成して導電粒子10を製造する工程である。パラジウム層3の形成方法としては、特に限定されないが、電解めっき、無電解めっき、蒸着などが挙げられる。中でも無電解めっきである還元めっき又は置換めっきによって形成することが好ましい。この場合、ニッケル層2を覆うパラジウム層3が緻密で均質なものとなり、ニッケルの表面露出を十分に低減できる。一般的にニッケル粒子もしくはニッケル層の表面に無電解めっきでパラジウム層を形成する場合、ニッケル表面の状態(酸化、合金化、結晶性、汚れなど)によって、均質な層が形成できないことがある。加えて、パラジウム層の形成状態は、無電解パラジウムめっき液との相性によっても影響する。よって、ニッケル表面の状態にあわせた無電解パラジウムめっき液、めっき方法又はニッケル表面の前処理を選択する必要がある。
【0052】
無電解めっきの中でも特に、還元めっきによって形成されたパラジウム層3は、不純物が極めて少なく、母粒子(ニッケル)を完全に覆うことが可能なため更に好ましい。還元めっきは、パラジウムイオンを還元剤により還元して析出させるため、電源が不要なことに加え、微粒子のような独立した対象物を大量に一度にめっきするのに好適に用いられる。また、還元めっきによってパラジウム層3を形成する場合、還元剤や添加剤によりパラジウム層3のパラジウム濃度や物性を変更することができる。例えば、リンを含有した還元剤を用いるとパラジウム層3中にリンが共析する。また、ギ酸やギ酸塩、ヒドラジンなどを還元剤に用いると純パラジウムに近い高純度なパラジウム層3が得られる。リンを含有したパラジウム層13は純パラジウムより抵抗は劣るが、硬いことが特徴である。これらの違いは、導電粒子10の用途に合わせて適宜選択可能である。
【0053】
還元めっきによってパラジウム層3を形成する場合、めっき液量を調整することによってもパラジウム層3の厚さをコントロールできる。詳細には、使用するめっき液に含有するパラジウムイオン濃度から析出後のめっき厚みをあらかじめ算出することができる。このため、無駄なパラジウムや試薬を使用することが無く、低コスト化が可能である。
【0054】
一方、置換めっきによってパラジウム層3を形成する場合、イオン化傾向の差により、母粒子を構成するニッケルの溶解とパラジウムの析出が同時に起こるため、母粒子とパラジウム層3との密着力の点で優れる。
【0055】
(めっき層の分析)
パラジウム層3の成分分析には、原子吸光光度計が使用できる。たとえば、導電粒子10を酸などで溶解した液を、原子吸光光度計を用いて分析して、金属イオン濃度を測定し、算出する方法がある。また、ICP発光分析装置を用いてパラジウム層3を分析してもよい。ICP発光分析装置を用いると、定性分析と同時に不純物の定量も可能となる。また、パラジウム層3中のリン濃度は、EDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)を使用して定量することもできる。なお、低倍率でのEDX測定では複数粒子から情報を得てしまうため、高倍率でのEDX測定が好ましい。
【0056】
(粒子の観察)
コア粒子を被覆するめっき膜(ニッケル層2、パラジウム層3)などの観察には、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)を用いることができる。画像により、めっき膜表面を確認できる。
【0057】
(回路接続材料)
上記のようにして作成した導電粒子10を接着剤成分中に分散させることによって接着剤組成物を調製する。回路接続材料として、ペースト状の接着剤組成物をそのまま使用してもよいし、これをフィルム状に成形して得た異方導電性フィルムを使用してもよい。図3に示す異方導電性フィルム50は、接着剤成分20に導電粒子10を分散させたものである。
【0058】
(接続構造体)
図3に示す接続構造体100は、相互に対向する第1の回路部材30及び第2の回路部材40を備えており、第1の回路部材30と第2の回路部材40との間には、これらを接続する接続部50aが設けられている。
【0059】
第1の回路部材30は、回路基板(第1の回路基板)31と、回路基板31の主面31a上に形成される回路電極(第1の回路電極)32とを備える。第2の回路部材40は、回路基板(第2の回路基板)41と、回路基板41の主面41a上に形成される回路電極(第2の回路電極)42とを備える。
【0060】
回路部材の具体例としては、ICチップ(半導体チップ)、抵抗体チップ、コンデンサチップ、ドライバーIC等のチップ部品やリジット型のパッケージ基板などが挙げられる。これらの回路部材は、回路電極を備えており、多数の回路電極を備えているものが一般的である。上記回路部材が接続される、もう一方の回路部材の具体例としては、金属配線を有するフレキシブルテープ基板、フレキシブルプリント配線板、インジウム錫酸化物(ITO)が蒸着されたガラス基板などの配線基板が挙げられる。基板の材質としては、半導体、ガラス基板、セラミック等の無機物;ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステルスルホン等の有機物;これらの無機物や有機物を複合化した材料などが挙げられる。
【0061】
異方導電性フィルム50によれば、回路部材同士を効率的且つ高い接続信頼性をもって接続することができる。したがって、異方導電性フィルム50は、微細な接続端子(回路電極)を多数備えるチップ部品の配線基板上へのCOG実装もしくはCOF実装に好適である。
【0062】
接続部50aは回路接続材料に含まれる接着剤成分の硬化物20aと、これに分散している導電粒子10とを備える。そして、接続構造体100においては、対向する回路電極32と回路電極42とが、導電粒子10を介して電気的に接続されている。より具体的には、図3に示す通り、導電粒子10が回路電極32,42の双方に直接接触している。他方、横方向は絶縁性を有する硬化物20aが介在することで絶縁性が維持される。従って、異方導電性フィルム50を用いれば、10μmレベルの狭ピッチでの絶縁信頼性を向上させることが可能となる。なお、接続時に回路電極32又は回路電極42の位置ずれが生じた場合にあっては、接着剤成分を硬化させた後であってもリペアが可能である。
【0063】
接着剤成分20としては、熱反応性樹脂と硬化剤の混合物が用いられ、具体的には、エポキシ樹脂と潜在性硬化剤との混合物が好ましい。
【0064】
エポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンとビスフェノールAやF、AD等から誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとフェノールノボラックやクレゾールノボラックから誘導されるエポキシノボラック樹脂やナフタレン環を含んだ骨格を有するナフタレン系エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエーテル、ビフェニル、脂環式等の1分子内に2個以上のグリシジル基を有する各種のエポキシ化合物等を単独に又は2種以上を混合して用いることが可能である。
【0065】
これらのエポキシ樹脂は、不純物イオン(Na、Cl等)や、加水分解性塩素等を300ppm以下に低減した高純度品を用いることが好ましい。これによりエレクトロマイグレーションを防止しやすくなる。
【0066】
潜在性硬化剤としては、イミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素−アミン錯体、スルホニウム塩、アミンイミド、ポリアミンの塩、ジシアンジアミド等が挙げられる。この他、接着剤には、ラジカル反応性樹脂と有機過酸化物の混合物や紫外線などのエネルギー線硬化性樹脂が用いられる。
【0067】
接着剤成分20には、接着後の応力を低減するため、又は接着性を向上するために、ブタジエンゴム、アクリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム等を混合することができる。
【0068】
接着剤組成物をフィルム状にするためには、フェノキシ樹脂、当該組成物にポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂を配合することが効果的である。これらのフィルム形成性高分子は、反応性樹脂の硬化時の応力緩和にも効果がある。特に、フィルム形成性高分子が、水酸基などの官能基を有する場合、接着性が向上するためより好ましい。
【0069】
フィルムの形成は、エポキシ樹脂、アクリルゴム、潜在性硬化剤、及びフィルム形成性高分子からなる接着組成物を、有機溶剤に溶解又は分散させることにより、液状化して、剥離性基材(セパレータフィルム)上に塗布し、硬化剤の活性温度以下で溶剤を除去することにより行われる。このとき用いる有機溶剤としては、材料の溶解性を向上させる点において、芳香族炭化水素系と含酸素系の混合溶剤が好ましい。
【0070】
異方導電性フィルム50の厚さは、導電粒子の粒径及び接着剤組成物の特性を考慮して相対的に決定されるが、1〜100μmであることが好ましい。1μm未満では充分な接着性が得られず、100μmを超えると導電性を得るために多量の導電粒子を必要とするために現実的ではない。こうした理由から、厚さは3〜50μmであることがより好ましい。
【0071】
(接続構造体の製造方法)
次に、接続構造体100の製造方法について説明する。図4は、接続構造体の製造方法の一実施形態を概略断面図により示す工程図である。本実施形態では、異方導電性フィルム50を熱硬化させ、最終的に接続構造体100を製造する。
【0072】
所定の長さに切断した異方導電性フィルム50を回路部材30の主面31a上に載置する(図4(a))。この段階では、異方導電性フィルム50の一方面上にはセパレータフィルム52が残存した状態となっている。
【0073】
次に、図4(a)の矢印A及びB方向に加圧し、異方導電性フィルム50を第1の回路部材30に仮固定する(図4(b))。このときの圧力は回路部材に損傷を与えない範囲であれば特に制限されないが、一般的には0.1〜30.0MPaとすることが好ましい。また、加熱しながら加圧してもよく、加熱温度は異方導電性フィルム50が実質的に硬化しない温度とする。加熱温度は一般的には50〜100℃にするのが好ましい。これらの加熱及び加圧は0.1〜2秒間の範囲で行うことが好ましい。
【0074】
セパレータフィルム52を剥がした後、図4(c)に示すように、第2の回路部材40を、第2の回路電極42を第1の回路部材30の側に向けるようにして異方導電性フィルム50上に載せる。そして、異方導電性フィルム50を加熱しながら、図4(c)の矢印A及びB方向に全体を加圧する。このときの加熱温度は、接着剤成分20が硬化可能な温度とする。加熱温度は、60〜180℃が好ましく、70〜170℃がより好ましく、80〜160℃が更に好ましい。加熱温度が60℃未満であると硬化速度が遅くなる傾向があり、180℃を超えると望まない副反応が進行し易い傾向がある。加熱時間は、0.1〜180秒が好ましく、0.5〜180秒がより好ましく、1〜180秒が更に好ましい。
【0075】
接着剤成分20の硬化により接続部50aが形成されて、図3に示すような接続構造体100が得られる。接続の条件は、使用する用途、接着剤組成物、回路部材によって適宜選択される。なお、接着剤成分20として、光によって硬化するものを使用した場合には、異方導電性フィルム50に対して活性光線やエネルギー線を適宜照射すればよい。活性光線としては、紫外線、可視光、赤外線等が挙げられる。エネルギー線としては、電子線、エックス線、γ線、マイクロ波等が挙げられる。
【0076】
以上、本発明に係る導電粒子10及び導電粒子10の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、導電粒子10の変形例として、パラジウム層3の表面を被覆する他の導電層(例えば金層)を更に有する導電粒子が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0078】
(導電粒子1)
平均粒径20μmのニッケル粒子100gを、硫酸ニッケル30g/L、クエン酸20g/L、次亜リン酸ナトリウム30g/L、水酸化ナトリウム11.3g/L、めっき安定剤:16.6ml/L、pH6.4に調整した80℃の水:300mlに投入し、5分攪拌した。その後、直径3μmのメンブレンフィルタ(ミリポア社製)で濾過して、ニッケル粒子上に5nm厚の無電解ニッケル層を有する母粒子1を得た。
【0079】
得られた母粒子1を塩化パラジウム:3g/L(パラジウム:2g/L)、塩酸25ml/L、クエン酸20g/Lに調整した35℃の水:200mlにすばやく投入し、5分攪拌した。その後、濾過と水洗を3回行った。40℃で7時間真空乾燥した後、解砕により凝集を解した。以上の操作により、母粒子1の表面に10nm厚のパラジウム層を有する導電粒子1を得た。
【0080】
(導電粒子2)
平均粒径10μmのニッケル粒子100gを、クエン酸ナトリウム:20g/Lと、めっき安定剤:16.6ml/Lを溶解してpH=5.2に調整した70℃の水300mlに投入し、攪拌した。そして、定量ポンプを用いて、ニッケル粒子が分散した液のpHを5.2に維持しながらめっき液a及びめっき液bをそれぞれ同時かつ平行に10ml/minで添加した。その後、直径3μmのメンブレンフィルタ(ミリポア社製)で濾過して、ニッケル粒子上に5nm厚の無電解ニッケル層を有する母粒子2を得た。めっき液aとして、硫酸ニッケル224g/L、クエン酸ナトリウム:40g/Lに調整した液を使用し、めっき液bとして、次亜リン酸ナトリウム:220g/L、水酸化ナトリウム:85g/Lに調整した液を使用した。
【0081】
得られた母粒子2を塩化パラジウム:6.55g/L(パラジウム:4.0g/L)、塩酸25ml/L、クエン酸20g/Lに調整し35℃の水:200mlにすばやく投入し、5分攪拌した。その後、濾過と水洗を1回行った。置換パラジウムめっき後の母粒子2を原子吸光により分析したところ、10nm厚のパラジウム層が形成されていることを確認した。この置換パラジウムめっき後の母粒子2を水200ml、めっき液c:75ml、めっき液d:75mlを混ぜた60℃の無電解の還元パラジウムめっき液に投入し、5分攪拌した。めっき液cとめっき液dの組成は、特許第3035763号を参考にした。めっき液cとしては、パラジウム:20g/L、クエン酸ナトリウム:250g/L、エチレンジアミン:50g/Lを混合し、pHを6.0に調整した液を用いた。上記記載のパラジウムとは金属パラジウムとしての重量換算値である。めっき液dとしては、ギ酸ナトリウム:100g/Lを水酸化ナトリウム及び/又は硫酸でpH6.0に調整した液を用いた。その後、濾過と水洗を3回行った。40℃で7時間真空乾燥した後、解砕により凝集を解した。以上の操作により、母粒子2の表面に30nm厚のパラジウム層を有する導電粒子2を作製した。なお、このパラジウム層は置換パラジウムめっきと還元パラジウムめっきによって得られたものである。
【0082】
(導電粒子3)
平均粒径5μmのニッケル粒子100gを、クエン酸ナトリウム:20g/L、めっき安定剤:16.6ml/Lを溶解させてpH=6.0に調整した70℃の水300mlに投入し、攪拌した。そして、定量ポンプを用いて、ニッケル粒子が分散した液のpHを6.0に維持しながらめっき液a及びめっき液bをそれぞれ同時かつ平行に10ml/minで添加した。その後、直径3μmのメンブレンフィルタ(ミリポア社製)で濾過して、ニッケル粒子上に10nm厚の無電解ニッケル層を有する母粒子3を得た。
【0083】
得られた母粒子3を、水400ml、めっき液c:150ml、めっき液d:150mlを混ぜた70℃の無電解パラジウムめっき液にすばやく投入し、5分攪拌した。その後、濾過と水洗を3回行った。40℃で7時間真空乾燥した後、解砕により凝集を解した。以上の操作により、母粒子3の最表面に20nm厚のパラジウム層を有する導電粒子3を作製した。
【0084】
(導電粒子4)
平均粒径5μmのニッケル粒子を100g使用し、無電解ニッケルめっき液a及びbの滴下時間を長くし、pHを5.5に維持したこと以外は導電粒子2と同様に操作を行い、ニッケル粒子上に20nmの無電解ニッケル層を有する母粒子4を得た。
【0085】
得られた母粒子4をすぐにクエン酸ナトリウム50g/Lが溶けた70℃の浴中に分散させた。そして、定量ポンプを用いて、母粒子4が分散した液に、めっき液e及びめっき液fをそれぞれ同時かつ平行に10ml/minで添加し、無電解パラジウムめっきを母粒子4に対して行った。めっき液eとしては、パラジウム:20g/L、クエン酸ナトリウム:50g/L、エチレンジアミン20g/L、pH6.0に調整した液を用いた。なお、めっき液eのなかではパラジウムはイオンや錯体の状態で溶解しており、上記のパラジウムの量「20g/L」とは金属パラジウムとしての重量換算値である。めっき液fとしては、次亜リン酸ナトリウム:1.0mol/Lを水酸化ナトリウムでpH6.0に調整した液を用いた。サンプリングした粒子を原子吸光光度計によって分析し、パラジウムの膜厚を調整した。パラジウム膜厚が60nmになった時点で無電解めっき液の添加を中止した。反応が停止した時はpH6.0であった。添加終了後、濾過と水洗を3回行った。40℃で7時間真空乾燥した後、解砕により凝集を解した。以上の操作により、ニッケル粒子上に60nm厚のパラジウム層を有する導電粒子4を作製した。
【0086】
(導電粒子5)
平均粒径2μmのニッケル粒子を100g使用し、無電解ニッケルめっき液a及びbの滴下時間を長くし、pHを6.4に維持したこと以外は導電粒子3と同様に行い、ニッケル粒子上に100nmの無電解ニッケル層を有する母粒子5を得た。
【0087】
得られた母粒子5をすぐにクエン酸ナトリウム50g/Lが溶けた70℃の浴中に分散させた。そして、定量ポンプを用いて、母粒子5が分散した液に、めっき液e及びめっき液fhをそれぞれ同時かつ平行に20ml/minで添加し、無電解パラジウムめっきをニッケル粒子に対して行った。サンプリングした粒子を原子吸光光度計によって分析し、パラジウムの膜厚を調整した。パラジウム膜厚が100nmになった時点で無電解めっき液の添加を中止した。反応が停止した時はpH6.0であった。添加終了後、濾過と水洗を3回行った。40℃で7時間真空乾燥した後、解砕により凝集を解した。以上の操作により、ニッケル粒子上に100nm厚のパラジウム層を有する導電粒子5を作製した。
【0088】
(導電粒子6)
平均粒径10μmのニッケル粒子10gを、300mlの50%塩酸中で10分攪拌し、濾過と水洗を3回行って母粒子6を得た。この母粒子6を還元剤が溶解した水300ml中で1時間攪拌し、濾過と水洗を3回行って、電気特性を向上させた導電粒子6を作製した。
【0089】
(導電粒子7)
無電解ニッケルめっき処理の代わりに、水300mlで10分攪拌し、濾過を行って得た母粒子7を使用したこと以外は、導電粒子2と同じ操作を行い、導電粒子7を得た。得られた粒子は導電粒子2よりも暗い灰色であった。得られた導電粒子7をSEMを用いて無蒸着で観察したところ、ニッケル粒子表面に数百nmのパラジウム微粒子がまばらに付着しており、ニッケル層の表面のほとんどは露出していた。また、置換パラジウムめっき後にサンプリングした母粒子7を同様にSEMで観察したところ、母粒子7の表面に数百nmのパラジウムの粒がわずかに付着しているのみで、母粒子7の表面はほとんど露出していたことから、母粒子7への置換パラジウムめっきは出来ていなかったことがわかった。なお、母粒子7をパラジウムめっき液c及びdを溶解した無電解パラジウムめっき液中に投入し、3分経過したころ、めっき浴中に銀色に光る異物が発生し、パラジウムめっき液が分解していた。
【0090】
(導電粒子8)
無電解ニッケルめっき液a及びbの代わりに、めっき液g及びhを使用し、pHを4.0に調整して、ニッケル粒子上に10nm膜厚の無電解めっきニッケル層を有した母粒子8を作成したこと以外は、導電粒子3と同様の操作を行い、導電粒子8を得た。めっき液gとして、硫酸ニッケル:450g/L、クエン酸ナトリウム:116g/Lに調製した液を使用し、めっき得基hとして、次亜リン酸ナトリウム:150g/Lに調製した液を使用した。
【0091】
得られた導電粒子8は導電粒子3よりも暗い灰色であった。この導電粒子8を原子吸光光度計により分析したところ、計算上はニッケル粒子の最表面に20nm厚相当のパラジウム層が形成できるだけのパラジウム量が検出されたものの、SEMを用いた観察では、最表面に直径数百nmパラジウムの粒がそれぞれ独立して付着しており、粒子表面全体の半分はニッケル層が露出して状態であった。このように析出したパラジウムは、実質的にニッケル層を覆っておらず、連続したパラジウム膜は得られなかった。
【0092】
(導電粒子9)
無電解ニッケルめっき処理の代わりに、ニッケル粒子を300mlの50%塩酸中で10分攪拌し、濾過と水洗を3回行って得た母粒子9を使用したこと以外は、導電粒子4と同様の操作を行い、導電粒子9を得た。
【0093】
無電解パラジウムめっき液e及びfを滴下してしばらく経つと、ニッケル粒子が分散している液の液面に銀色に光る異物が浮遊しているのが見え始めた。また、SEMにより導電粒子9を観察したところ、パラジウムが析出している粒子としていない粒子があった。パラジウムが析出している導電粒子も、母粒子9の表面にパラジウムが析出している部分と析出していない部分があり、母粒子9は露出していた。析出しているパラジウムの部分を1万倍で拡大すると、母粒子9の表面に数百nmのパラジウム微粒子が密集して析出していたが、緻密で連続的な析出膜ではなかった。
【0094】
また、母粒子9以外の部分に異常析出したパラジウム片も見受けられ、実質的にニッケル粒子がパラジウムで覆われている状態とはいえなかった。更に、この導電粒子9を原子吸光光度計により分析したところ、計算上はニッケル粒子の最表面に30nm厚相当のパラジウム層が形成できるだけのパラジウム量が検出されが、導電粒子4のように50nm厚のパラジウム層が形成できるだけのパラジウム量は得られなかった。添加した無電解パラジウムめっき液中のパラジウムは、めっき液の分解により母粒子9の表面以外にも析出したことが原因であると考えられる。母粒子9の表面に緻密に析出することはない状態で、めっき液の添加を続けたため、浴中のパラジウムイオン濃度が上昇し、めっき液の分解反応が始まってしまったものと考えられる。
【0095】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、それぞれの配合比は表1にまとめて記載した。表1に接着剤組成物全体質量に対する各材料の割合を質量%で示した。
【0096】
(実施例1)
<回路接続材料の作製>
フェノキシ樹脂〔ユニオンカーバイド(株)製、商品名PKHC、重量平均分子量45000〕20gを、重量比でトルエン(沸点110.6℃、SP値8.90)/酢酸エチル(沸点77.1℃、SP値9.10)=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分40質量%の溶液とした。
【0097】
ブチルアクリレート(以下BAという)(50重量部)、エチルアクリレート(以下EAという)(30重量部)、アクリロニトリル(以下ANという)(20重量部)、及びグリシジルメタクリレート(以下GMAという)(3重量部)を共重合させたアクリルゴム(重量平均分子量:500000)50gを、重量比でトルエン(沸点110.6℃)/酢酸エチル(沸点77.1℃)=50/50の混合溶剤に溶解して、固形分40質量%の溶液とした。
【0098】
エポキシ樹脂〔ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ(株)製、商品名エピコート828(EP−828)、エポキシ当量184)30gを、原液のまま使用した。
【0099】
潜在性硬化剤は、イミダゾール変性体を核とし、その表面をポリウレタンで被覆してなる平均粒径5μmマイクロカプセル型硬化剤を、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂中に分散させたものである、マスターバッチ型硬化剤(旭化成工業(株)製、商品名ノバキュア3941、活性温度125℃)を用いた。
【0100】
固形重量比で樹脂成分100、潜在性硬化剤30となるように配合し、更に、導電粒子1を3体積%配合分散させ、厚み50μmのPET樹脂フィルムに塗工装置を用いて塗布し、80℃、3分の熱風乾燥により、接着剤層の厚みが20μmの回路接続材料を得た。
【0101】
(実施例2)
導電粒子1の代わりに導電粒子2を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0102】
(実施例3)
導電粒子1の代わりに導電粒子3を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0103】
(実施例4)
導電粒子1の代わりに導電粒子4を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0104】
(実施例5)
導電粒子1の代わりに導電粒子5を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0105】
(比較例1)
導電粒子1の代わりに導電粒子6を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0106】
(比較例2)
導電粒子1の代わりに導電粒子7を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0107】
(比較例3)
導電粒子1の代わりに導電粒子8を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0108】
(比較例4)
導電粒子1の代わりに導電粒子9を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て回路接続材料を得た。
【0109】
(金属の膜厚測定)
パラジウムの膜厚の測定では、各粒子を50体積%王水に溶解させた後、固形物を直径0.2μmフィルタ(ミリポア社製)で濾別して取り除き、原子吸光光度計Z−5310(株式会社日立製作所製 製品名)又はICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置P4010(株式会社日立製作所製 製品名)を用いて各金属の量を測定した後に、それを厚み換算した。
【0110】
次に、無電解めっきしたニッケル層の膜厚の測定では、導電粒子の金属層部分の薄片を収束イオンビームで切り出し、透過型電子顕微鏡HF−2200(株式会社日立製作所製 製品名)を用いて、めっき層の断面を観察することで、ニッケル層の厚みを測定した。
【0111】
(導電粒子の観察)
導電粒子の観察では、導電テープ上に導電粒子を均一に撒き、エアガンで余分な導電粒子を吹き飛ばしたのち、蒸着をせず電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡には、S4700(株式会社日立製作所製 製品名)を使用し、5000倍以上で観察した。
【0112】
(粒子の煮出試験)
導電粒子1〜9を各1g採取し、純水50gに分散させた。次に、60mlの圧力容器にサンプルを投入し、100℃で10時間放置した。その後、導電粒子の分散溶媒を0.2μmフィルターで濾過し、ろ液中の各金属イオンを原子吸光光度計で測定した。煮出し量(イオン測定値)は次式により求めた。
【0113】
【数1】

【0114】
(成分分析)
導電粒子の金属層部分の薄片を収束イオンビームで切り出し、透過型電子顕微鏡HF−2200(株式会社日立製作所製 製品名)を用いて10万倍以上観察し、上記装置に付属したNORAN社製EDXでめっき層の各領域の成分分析を行った。得られた値から各領域のニッケル、パラジウム及びリンの濃度を算出した。
【0115】
更に、パラジウムめっき層の各領域の成分分析にESCA分析装置、AXIS−165型(島津製作所/Kratos社製 製品名)も使用した。絶縁性微粒子を配置する前の各母粒子をインジウム箔に固定し、パラジウムめっき層をArエッチングにより序所に除去しながら、めっき層表面の成分分析を行った。Arエッチングレートは5nm/minで、Arエッチング1分毎に成分分析を行い、これを繰り返してめっき層の各領域の成分を算出した。
【0116】
(回路接続体の作製)
実施例1〜5及び比較例1〜4に係る回路接続材料を用いて、ライン幅50μm、ピッチ100μm、厚み18μmの銅回路を500本有するフレキシブル回路板(FPC)同士を180℃、3MPaで15秒間加熱加圧して、幅2mmにわたり接続した。このとき、予め一方のFPC上に、回路接続材料の接着面を貼り付けた後、70℃、0.5MPaの条件で5秒間加熱加圧して仮接続し、その後、PET樹脂フィルムを剥離してもう一方のFPCと接続した。
【0117】
また、前述のFPCとITOの薄層を形成したガラス(表面抵抗20Ω/□)とを180℃、3MPaで15秒間加熱加圧して、幅1.5mmにわたり接続した。このとき、上記と同様にITOガラスに仮接続を行った。
【0118】
(導通抵抗試験)
上記のようにして得た回路接続体の導通抵抗試験を実施することにより、実施例1〜5及び比較例1〜4に係る回路接続材料の性能の評価を行った。回路接続材料(異方導電性フィルム)はチップ電極間の絶縁抵抗が高く、接続すべき電極間の導通抵抗(接続抵抗)が低いことが重要である。接続すべき電極間の導通抵抗に関しては14サンプルの平均値を測定した。回路接続材料の評価は、初期の導通抵抗値と吸湿耐熱試験及び温度サイクル試験をそれぞれ実施した後の導通抵抗値によって行った。なお、ここでいう吸湿耐熱試験とは、温度85℃、湿度85%の条件下に回路接続体を1000時間放置してその耐性を評価する試験をいう。温度サイクル試験とは、−40℃〜100℃の温度変化を100サイクル繰り返す条件下に回路接続体を放置してその耐性を評価する試験をいう。
【0119】
(高温高湿暴露試験)
容量100mlのガラスビーカーに導電粒子1〜9をそれぞれ1gずつ入れ、これらのガラスビーカーを温度85℃、湿度85%の槽内に120時間にわたって放置した。その後、SEMを用いて導電粒子の表面を観察し、酸化物(錆)の量を評価した。
【0120】
表1に評価結果を示す。
【表1】

【0121】
実施例1〜5に係る導電粒子1〜5は、ニッケル粒子の表面に無電解ニッケルめっき層を設け、最表面にパラジウム層を設けたものである。これらの導電粒子は、表1に示されるように、吸湿耐熱試験後及び温度サイクル試験後のいずれにおいても低抵抗を維持していた。導電粒子1〜5は、導電粒子そのものに対する高温高湿試験後の結果も、試験前と変化が少なく、導電粒子1のみ若干の錆びがみられたが、そのほかは錆びが無く、導電粒子のそのものの信頼性が高いことがわかる。
【0122】
また、導電粒子1〜5をSEM観察したところ、最表面がパラジウムによって実質的に覆われており、下地のニッケル粒子表面やニッケルめっき層の露出が極めて少ない。ESCA分析においても、導電粒子表面の最表面のパラジウム濃度が高いことが確認されている。
【0123】
一方、比較例1〜4に係る接続構造体は、吸湿耐熱試験後及び温度サイクル試験後において接続信頼性が低下した。すなわち、比較例1〜4においてそれぞれ使用した導電粒子6〜9は、上記試験後において導通抵抗が上昇した。導電粒子そのものに対する高温高湿試験後のSEM観察では、パラジウム層を設けていない導電粒子6は、特に錆びの量が多く、下地のニッケル粒子表面が観察されないほどであった。また、導電粒子7〜9も表面の錆びが多く発生していた。接続抵抗が低下した原因は、導電粒子表面の錆びであることが示唆される。
【0124】
また、導電粒子7〜9は、ニッケル粒子の表面に直接パラジウム層を設けようとしたが、めっき操作の途中で異常析出が発生したり、水洗中に異物(パラジウム片)が落下するなど、十分なパラジウムめっきがされなかった。SEM観察においても、導電粒子7〜9は、数百nmサイズの微粒子状のパラジウムが最表面に付着していたり、連続して並んでいるだけで、ニッケル粒子を十分に覆っていなかった。ESCA分析によっても導電粒子の最表面はニッケルに比率が高く、ニッケルの露出が多いことが示された。このようにニッケル表面の露出は、錆びを発生させ、導通抵抗を低下させる。
【0125】
また、煮出し試験結果を見ると、最表面のニッケル露出が多い導電粒子6〜9はニッケルの溶出量が多く、錆びの発生、及び導通抵抗の低下と相関がある。
【0126】
なお、貴金属であるパラジウムは溶出が殆どない。ニッケルの溶出の少ない実施例は良好な結果を示し、ニッケルの溶出の多い比較例は接続信頼性が低いことが明らかである。
【0127】
パラジウムは貴金属の中でも比較的安価で実用的ではあるが、異方導電性フィルム用の導電粒子として多数使用されているニッケルに比べるとそれでも高価であるため、出来るだけパラジウムの使用量を減らしたい。一方で、ニッケルの露出が多いと接続信頼性が低下する傾向がある。還元型めっきは、析出する金属によって完全に下地を覆うことが可能であり、析出する金属純度も高いため、好ましい。特に、密着力と被覆性が良好な置換還元型が好ましい。
【0128】
本発明では、溶融、気相還元、電気還元などにより作製されたニッケル粒子表面に、無電解ニッケルめっき層を設け、その上にパラジウム層を設けることで、ニッケルの露出が極めて少ない導電粒子を得られる。比較例で示したように、上記の方法で作製したニッケル粒子に直接パラジウムめっきを行うと、ニッケルの露出が少ない、緻密で均一なパラジウム層が得られない。この原因は定かではないが、今後明らかにされるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、接続すべき電極間の抵抗を十分長期にわたって良好な値に維持できるとともにマイグレーションの発生を十分に抑制して優れた接続信頼性を達成できる。また、本発明に係る導電粒子は低コストで得ることができる。
【符号の説明】
【0130】
1…ニッケル粒子、2…ニッケル層、3…パラジウム層、10…導電粒子、20…接着剤成分、20a…接着剤成分の硬化物、30,40…回路部材、32,42…回路電極、50…異方導電性フィルム(回路接続材料)、100…接続構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粒子と、
前記ニッケル粒子の表面を覆う無電解めっきによるニッケル層と、
前記ニッケル層の外側表面を覆うパラジウム層と、
を備える導電粒子。
【請求項2】
前記ニッケル層のリン含有量及びホウ素含有量は、当該ニッケル層の質量基準でいずれも、7質量%以下である、請求項1に記載の導電粒子。
【請求項3】
前記パラジウム層は、還元めっき又は置換めっきによって形成されたものである、請求項1又は2に記載の導電粒子。
【請求項4】
前記パラジウム層は、前記ニッケル層の外側表面全体を覆っている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電粒子。
【請求項5】
当該導電粒子の表面のニッケル原子の数Aとパラジウム原子の数Bの比A/Bが1.0以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電粒子。
【請求項6】
前記パラジウム層の厚さが5〜100nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電粒子。
【請求項7】
ニッケル粒子の表面を覆うニッケル層を無電解めっきによって形成する工程と、
前記ニッケル層の表面を覆うパラジウム層を形成する工程と、
を備える、導電粒子の製造方法。
【請求項8】
接着性を有する接着剤成分と、
前記接着剤成分中に分散している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電粒子と、
を備える接着剤組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の接着剤組成物からなり、回路部材同士を接着するとともにそれぞれの回路部材が有する回路電極同士を電気的に接続するために用いられる、回路接続材料。
【請求項10】
対向配置された一対の回路部材と、
請求項9に記載の回路接続材料の硬化物からなり、前記一対の回路部材の間に介在しそれぞれの回路部材が有する回路電極同士が電気的に接続されるように当該回路部材同士を接着する接続部と、
を備える接続構造体。
【請求項11】
対向配置された一対の回路部材の間に請求項9に記載の回路接続材料を介在させ、全体を加熱及び加圧して、前記回路接続材料の硬化物からなり、前記一対の回路部材の間に介在しそれぞれの回路部材が有する回路電極同士が電気的に接続されるように前記回路部材同士を接着する接続部を形成することにより、前記一対の回路部材及び前記接続部を備える接続構造体を得る、回路部材の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−178270(P2012−178270A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40594(P2011−40594)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】