差圧制御弁
【課題】可動子の移動に伴う吸引力の変化を抑制して、高精度の圧力制御を行なうことができる差圧制御弁を提供すること。
【解決手段】差圧制御弁1は、ソレノイド2によって駆動されるプランジャ3と、プランジャ3を摺動可能に保持するスリーブ4と、プランジャ3の移動に伴って移動する制御ピストン6と、制御ピストン6を摺動可能に保持するガイド7とを備えている。また、磁気ショート構造として、制御ピストン6を押圧可能な円柱状の凸部21と凸部21と嵌合可能な円柱状に凹部22が設けられている。更に、プランジャ3の動作により作動する制御ピストン6は、弁座12に設けられた孔を閉鎖することでブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えている。この制御ピストン6のニードル先端部6cの形状として、先端を平坦に(軸方向と垂直に)カットしている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【解決手段】差圧制御弁1は、ソレノイド2によって駆動されるプランジャ3と、プランジャ3を摺動可能に保持するスリーブ4と、プランジャ3の移動に伴って移動する制御ピストン6と、制御ピストン6を摺動可能に保持するガイド7とを備えている。また、磁気ショート構造として、制御ピストン6を押圧可能な円柱状の凸部21と凸部21と嵌合可能な円柱状に凹部22が設けられている。更に、プランジャ3の動作により作動する制御ピストン6は、弁座12に設けられた孔を閉鎖することでブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えている。この制御ピストン6のニードル先端部6cの形状として、先端を平坦に(軸方向と垂直に)カットしている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の車両用ブレーキ装置の管路に配置されて、ブレーキ液圧の差圧を調節する差圧制御弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ブレーキ液の管路や該管路を開閉する制御弁を備えた車両用ブレーキ装置では、ブレーキペダルを踏んだ場合には、その踏込量や踏力に応じて、所定の制動力が得られる様に設定されている。
【0003】
また、この種の車両用ブレーキ装置では、ブレーキペダルを踏み込む際の踏力を増大させ、マスタシリンダ圧ひいてはホイールシリンダ圧を増加させて、制動力を向上するために、例えばバキュームブースタの様なブレーキ倍力装置が使用されている。
【0004】
ところが、バキュームブースタ等は体格が大きく、車載が困難な場合があるので、それに代わる技術が提案されている。例えば特開平8−230634号には、アンチスキッド制御やトラクション制御を行なう場合に、戻しポンプ、切換弁、吸込弁の制御を、ブレーキペダルの作動を表す信号に依存して行なうことにより、バキュームブースタの機能を肩代りする技術が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ホイールシリンダ側の圧力を直接制御するために、前記切換弁としてオン−オフタイプの電磁弁である差圧制御弁を使用すると、電磁弁内の可動子の移動により、可動子の吸引力(可動子を固定子側に吸引する力)が大きく変化するので、安定した差圧のコントロールができないという問題があった。
【0006】
つまり、従来の差圧制御弁は、可動子が移動すると、図1の破線で示す様に、可動子と固定子との間隔(プランジャストローク)が変化し、それによって可動子と固定子との間の磁束量が大きく変化して、吸引力も大きく変化するという特性を有している。
【0007】
そのため、従来の差圧制御弁では、何等かの原因で流量が変化すると、流量の変化を保つために可動子の位置が変化するので、それによって、吸引力が大きく変化してしまう。この吸引力が変化すると、結果として差圧も変化するので、ホイールシリンダ圧等のブレーキ液圧を精密に制御できないという問題があった。
【0008】
また、従来の差圧制御弁は、図2(a)の破線で示す様に、ソレノイドへの印加電流が所定値以下では差圧が発生しないが、所定値に達すると急激に大きな差圧が発生するので、所定値以下の印加電流の場合に精密なブレーキ液圧の制御ができないと言う問題もあった。
【0009】
これは、図2(b)の破線で示す様に、印加電流に応じてプランジャストロークと吸引力との関係が決まるので、例えば印加電流が2AのときプランジャストロークがPS1で、可動子がその可動範囲(実使用範囲)にあると、プランジャストロークがPS0となる様に急に可動子が移動して、一気に吸引力が増大する(例えば0からK1に変化)するからである。
【0010】
本発明は前記課題に鑑みなされたものであり、可動子の移動に伴う吸引力の変化を抑制して、高精度の圧力制御を行なうことができる差圧制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)請求項1の発明では、ブレーキ液の管路に配置されて、ブレーキ液圧の差圧を調節する差圧制御弁において、該差圧制御弁は、ソレノイドにより発生する磁束が貫通し、その磁力により移動する可動子と、該可動子の移動方向に配置されて、前記ソレノイドによる磁束が貫通する固定子と、前記可動子のストロークの最大値を規制するスリーブと、前記可動子に押圧されて弁座に着座することで、前記可動子のストロークの最小値を規正する弁体と、前記ソレノイドに通電する電流の大きさ(又は電流のオン−オフのデューティ比)に応じた同ソレノイドの吸引力を発生させるべく電流制御(又はデューティ制御)を行う電子制御装置と、を備えるとともに、前記可動子の移動に伴う前記可動子及び固定子の前記移動方向の磁束量の変動を抑制する磁気ショート構造を備え、前記可動子のストロークの最大値及び最小値は、前記磁気ショート構造によって前記ソレノイドの吸引力が不変とされるストローク範囲内に設定されており、前記電子制御装置は、前記ブレーキ液圧の差圧に起因して前記弁体に作用する力と前記ソレノイドの吸引力との釣り合い関係から得られる、前記ブレーキ液圧の差圧と前記ソレノイドに通電する電流値(又は電流のデューティ比)との比例関係に基づいて、前記ソレノイドに通電すべき電流値(又は電流のデューティ比)を算出するものであり、前記可動子の動作により作動する弁体は、前記弁座に設けられた孔を閉鎖することで前記ブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明の差圧制御弁は、ソレノイドの電流を流すことによって、可動子を移動させる吸引力を発生させ、その吸引力に応じてブレーキ液圧の差圧を設定できるものである。この種の差圧制御弁では、可動子と固定子との間隔が変化すると、可動子の移動方向の磁束量が変化し、例えば可動子と固定子とが接近すると磁束量が増大して吸引力が増加するが、この様に吸引力が変化すると、安定した差圧を発生できず、また、低電流を印加した場合の差圧の調節ができない。そこで、上記発明では、可動子が移動しても、移動方向の磁束量が変化を抑制する磁気ショート構造を設けている。
【0013】
それにより、例えば前記図1の実線で示す様に、可動子(プランジャ)の実使用領域では、あまり吸引力が変化しない様にフラットな特性を実現している。つまり、可動子と固定子との間隔が大きな場合に、吸引力が低下しない様にし、また、その間隔が小さな場合でも、吸引力が急激に増加しない様にしている(尚、どちら一方のみをフラットに近づけても、該当する領域では効果はある)。
【0014】
その結果、可動子と固定子との間隔によって吸引力が大きく変化することを防止できるので、可動子の位置にかかわらず安定した差圧を発生させることができ、精密なブレーキ制御を実現することができる。
【0015】
また、上記発明では、例えば前記図2の実線で示す様に、ソレノイドに印加する電流値(又は電流のデューティ比)を変更しても、各電流値(又は電流のデューティ比)においては、可動子の実使用領域ではあまり吸引力が変化しない。そのため、印加電流の値(又はデューティ比)に応じて吸引力を設定できるので、特に、印加電流が小さい場合に精密に差圧を調節できるという効果がある。
【0016】
更に、上記発明では、可動子のストロークの最大値を規制するスリーブと、可動子に押圧されて弁座に着座することで、可動子のストロークの最小値を規正する弁体とを備え、可動子のストロークの最大値及び最小値は、磁気ショート構造によってソレノイドの吸引力が不変とされるストローク範囲内に設定されている。
【0017】
従って、ソレノイドに通電して可動子を移動させた場合でも、吸引力が変化しないので、差圧制御弁はソレノイドに印加する電流値(又は電流のデューティ比)に応じて、電流値(又は電流のデューティ比)の低い値から高い値まで、精密に差圧を設定することができる。
【0018】
上記発明では、電子制御装置が、ブレーキ液圧の差圧に起因して弁体に作用する力とソレノイドの吸引力との釣り合い関係から得られる、ブレーキ液圧の差圧とソレノイドに通電する電流値(又は電流のデューティ比)との比例関係に基づいて、ソレノイドに通電すべき電流値(又は電流のデューティ比)を算出する。
【0019】
上記発明では、ソレノイドに通電する電流値(又は電流のデューティ比)を増減させることにより、前記図2(b)の実線で示す様に、吸引力を変化させることができるので、差圧を精密に調節することができる。
【0020】
また、上記発明では、可動子の動作により作動する弁体は、弁座に設けられた孔を閉鎖することでブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えている。
(2)請求項2の発明では、可動子の動作により作動する弁体のニードル先端部に、開弁時の圧損を低減する圧損低減構造を設けている。
【0021】
例えば図26(a)に示す様に、先が尖って鋭角となっている従来の弁体のニードル先端部の形状の場合には、開弁時に圧損が生じ易い。
そこで、本発明では、ニードル先端部に圧損低減構造を設けているので、開弁時の圧損を低減することができる。この圧損を低減することにより、ブレーキ解除時の応答遅れを改善できるという利点がある。
【0022】
(3)請求項3の発明では、圧損低減構造が、ニードル先端部を鈍角にする構成である。
本発明は、前記請求項2の発明を例示したものであり、圧損低減構造として、例えば図26(c)に示す様に、ニードル先端部を鈍角にする構成を採用している。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0023】
(4)請求項4の発明では、圧損低減構造が、ニードル先端部を平坦にカットする構成である。
本発明は、前記請求項2の発明を例示したものであり、圧損低減構造として、例えば図26(b)に示す様に、ニードル先端部を平坦にカット(例えば弁体と軸方向に垂直にカット)する構成を採用している。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0024】
(5)請求項5の発明では、圧損低減構造が、ニードル先端部を滑らかにカーブさせる構成である。
本発明は、前記請求項2の発明を例示したものであり、圧損低減構造として、例えば図26(d)に示す様に、ニードル先端部を滑らかにカーブさせる(従って鈍角となる)構成を採用している。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明と従来例とを比較して、吸引力とプランジャストロークとの関係を示す説明図である。
【図2】本発明と従来例とを比較して示し、(a)は発生差圧と印加電流との関係を示す説明図、(b)は吸引力とプランジャストロークとの関係を示す説明図である。
【図3】実施例1の差圧制御弁の構造を示す説明図である。
【図4】実施例1の差圧制御弁の磁気ショート構造を拡大して示す説明図である。
【図5】実施例1の差圧制御弁が用いられる車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図6】実施例1によるW/C圧とM/C圧との関係を示す説明図である。
【図7】実施例1の差圧制御弁の磁気ショート構造における磁束の変化を示す説明図である。
【図8】実施例1の圧力増幅アシストブレーキ制御を示すフローチャートである。
【図9】実施例1のブレーキブースタの失陥時の制御を示すフローチャートである。
【図10】実施例2の車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図11】実施例2のトラクション制御を示すフローチャートである。
【図12】実施例3の車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図13】実施例3による後輪側のW/C圧とM/C圧との関係を示す説明図である。
【図14】実施例3による制動力配分の制御を示すフローチャートである。
【図15】他の実施例を示し、(a)は実施例4の磁気ショート構造を示す説明図、(b)実施例5の磁気ショート構造を示す説明図、(c)は実施例6の磁気ショート構造を示す説明図、(d)実施例7の磁気ショート構造を示す説明図である。
【図16】実施例8の磁気ショート構造を示す説明図である。
【図17】実施例8の磁気ショート構造における磁束の変化を示す説明図である。
【図18】実施例9の差圧制御弁を示す説明図である。
【図19】実施例10の差圧制御弁を示す説明図である。
【図20】実施例11の差圧制御弁を示す説明図である。
【図21】実施例12の差圧制御弁を示す説明図である。
【図22】実施例13の差圧制御弁を示す説明図である。
【図23】目標とする差圧制御弁の特性を示す説明図である。
【図24】実施例14の差圧制御弁を示す説明図である。
【図25】実施例15の差圧制御弁を示す説明図である。
【図26】ニードル先端部を示し、(a)は従来のニードル先端部の説明図、(b)は実施例16のニードル先端部の説明図、(c)は他の実施例のニードル先端部の説明図、(d)は更に他の実施例のニードル先端部である。
【図27】実施例17の差圧制御弁の検査方法を示す説明図である。
【図28】実施例17の差圧制御弁の検査方法を示す説明図である。
【図29】実施例18の差圧制御弁の調整方法を示す説明図である。
【図30】吸引力特性を変更するための構成を示す説明図である。
【図31】実施例19の差圧制御弁を示す説明図である。
【図32】実施例19の差圧制御弁に用いる調整シム近傍を、制御ピストン側から示す説明図である。
【図33】実施例20の差圧制御弁を示す説明図である。
【図34】実施例20のラチェット機構を示し、(a)はラチェットを示す側面図、(b)はラチェットを示す底面図、(c)はラチェットと弁座と係合関係を示すために360゜展開した状態を示す説明図である。
【図35】実施例21の差圧制御弁の調整方法を示す説明図である。
【図36】実施例23の差圧制御弁を示す説明図である。
【図37】実施例24の差圧制御弁の調整方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の差圧制御弁及び車両用ブレーキ装置の好適な実施の形態を、例(実施例)を挙げて図面に基づいて詳細に説明する。
(実施例1)
a)まず、差圧制御弁について説明する。
【0027】
図3に示す様に、本実施例の差圧制御弁1は、ソレノイド2に通電することによって駆動される電磁弁である。この差圧制御弁1は、ソレノイド2によって駆動される可動子(プランジャ)3と、プランジャ3の外周を覆ってプランジャ3を摺動可能に保持するスリーブ4と、プランジャ3の移動に伴って押圧されて移動する棒状の制御ピストン6と、制御ピストン6の外周を覆って制御ピストン6を摺動可能に保持するガイド7とを備えている。
【0028】
このうち、ソレノイド2は、印加される電流の大きさに比例して図の破線で示す磁束の量(磁束量)が変化するものであり、その外周を覆う様に、磁束が貫通するヨーク8が配置されている。前記スリーブ4は、非磁性体のステンレス製であり、前記プランジャ3の矢印B方向への移動を所定量に規制するために、図3の上端側が閉塞され、下端側はガイド7の上端に外嵌されている。
【0029】
前記制御ピストン6は、非磁性体のステンレスからなるボディバルブ(弁体)であり、上端側の太径部6a、下端側の小径部6b、更に小径部6bの先端側に位置する円錐状のニードル先端部6cから構成されている。そして、このニードル先端部6cが、ガイド7の中空部11に内嵌された筒状の弁座12の(弁部オリフィスである)連通孔13を閉鎖して、ブレーキ液の流路を閉ざす様に構成されている。尚、制御ピストン6はバネ14により、矢印B方向(即ち開弁方向)に付勢されている。
【0030】
前記ガイド7は、プランジャ3が吸引される側の固定子であり。制御ピストン6が摺動する中空部11は、その下端の先端連通孔16を介して、図5に示すポンプ36側及びホイールシリンダ32側に連通するとともに、側面連通孔17を介してマスタシリンダ31側(図5参照)に連通している。
【0031】
特に本実施例では、図4にその要部である磁気ショート構造を示す様に、プランジャ3の下端面3aには、制御ピストン6を押圧可能な円柱状の凸部21が設けられるとともに、ガイド7の上端面7aには、その凸部21と嵌合可能な様に、円柱状に凹部22が設けられている。
【0032】
そして、図4(a)に示す様に、ソレノイド2の非通電時には、プランジャ3の下端面3aとガイド7の上端面7aとが、一定の間隔を保つ様に設定されており、その場合、凸部21と凹部22とは、その平行な側面にて、わずかにわたり重なり合っている。尚、下端面3aと上端面7aとの間隔が、いわゆるギャップと呼ばれるプランジャストロークの最大値(PS1)である。
【0033】
また、図4(b)に示す様に、ソレノイド2の通電時は、プランジャ3は図の下方(矢印A方向;閉弁方向)に移動して制御ピストン6を同方向に移動させるが、その結果、ピストン6が弁座12に着座して、プランジャ3の矢印A方への動きが停止する様に設定されている。この着座により、下端面3aと上端面7aとの間隔は、プランジャストロークの最小値(PS0)となる。
【0034】
b)次に、上述した構成の差圧制御弁1が用いられる車両用ブレーキ装置について説明する。尚、ここでは、4輪のうちの1輪の構成を例に挙げて説明する。
図5に示す様に、本実施例の差圧制御弁1は、マスタシリンダ(M/C)31とホイールシリンダ(W/C)32とを接続する管路33に配置されており、この差圧制御弁1を迂回する管路34には、吸入側をマスタシリンダ31側とし、吐出側をホイールシリンダ32側とするように、ポンプ36が配置されている。尚、マスタシリンダ31には、踏力を倍力するブレーキブースタ37を介して、ブレーキペダル38が接続されている。
【0035】
従って、この車両用ブレーキ装置は、差圧制御弁1を作動させた状態でポンプ36を作動させることにより、マスタシリンダ圧(M/C圧)よりホイールシリンダ圧(W/C圧)を高めることができる。尚、この車両用ブレーキ装置は、図示しないが、電子制御装置(ECU)により、各種のセンサ、例えば車輪速度を検出する車輪速度センサ、車両の速度を検出する車速センサ、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ、ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ、ブレーキブースタ37に導入される負圧を検出する負圧センサ、ブレーキペダル38の踏力を検出する踏力センサ、搭載される荷物等の荷重を検出する荷重センサ等からの信号に基づいて、各種の電磁弁やポンプ36等のアクチュエータを駆動して、後述する各種の制御を実行する。
【0036】
c)次に、前記差圧制御弁1の基本動作を説明する。
(1)マスタシリンダ圧よりもホイールシリンダ圧を増大させる場合、つまり、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との間に差圧を発生させる場合には、前記図5に示す様に、ポンプ36を作動させて、ブレーキ液をマスタシリンダ31側からホイールシリンダ32側に送るとともに、差圧制御弁1のソレノイド2に通電して、差圧制御弁1を作動させる。
【0037】
このソレノイド2への通電により、電磁力(吸引力F)によって、プランジャ3はバネ14の付勢力に抗して図5の下方(矢印A方向)に移動し、一旦弁座12に着座する。この着座したときには、下記式(1)が成立する。
【0038】
A(P2−P1)=F …(1)
但し、A;弁座の連通孔の受圧面積P2;ホイールシリンダ圧P1;マスタシリンダ圧従って、ソレノイド2に通電し且つポンプ36を作動させることにより、下記式(2)の様に、ホイールシリンダ圧(P2)を増圧することができる。
【0039】
P2=P1+F/A …(2)
また、後に詳述するが、ソレノイド2に通電する電流値(I)に正確に比例して吸引力が発生する。よって、前記式(2)から、図6に示す様に、電流値を増減させることによって、吸引力を変化させて、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との関係を調節することができる。
【0040】
(2)次に、ソレノイド2に通電する電流値に正確に比例して吸引力が発生する理由を説明する。通常、プランジャ3及びガイド7を貫く磁束は、プランジャ3の移動に伴って変化する。つまり、ソレノイド2への通電直後は、プランジャ3とガイド7とはやや離れているので、プランジャ3とガイド7とを貫く磁束量は少ないが、その後、プランジャ3がガイド7に近づくに連れて、プランジャ3とガイド7とを貫く磁束量は増加してゆく。
【0041】
ところが、本実施例の場合、プランジャ3及びガイド7には、互いに嵌合する凸部21及び凹部22が設けてあるので、プランジャ3はガイド7に接近すると、凸部21及び凹部22の平行な側面において重なり合う領域が増加する。そのため、図7(a)〜(c)に磁束の変化を示す様に、プランジャ3がガイド7に接近した場合でも、プランジャ3の移動方向(矢印A方向)の磁束量は増加せずに、凸部21及び凹部22の側面間、即ち移動方向とは垂直方向(径方向)の磁束量が増大する。
【0042】
つまり、プランジャ3の移動にともなう磁束の変化は、移動方向の磁束量が変化せずに、径方向の磁束量が変化するのみである。よって、プランジャ3がガイド7に接近しても、そのプランジャ3を吸引する吸引力は増加せず、常に安定した力で、プランジャ3はガイド7側に吸引されることになる。そのため、一定の力で制御ピストン6が下方に付勢されることになるので、差圧制御弁1においては、常に一定の差圧を発生させることができる。
【0043】
このことを前記図1の実線で示すが、本実施例では、プランジャストロークが変化しても吸引力が変化しないので、あるマスタシリンダ圧に対して常に所定のホイールシリンダ圧となる関係を保持することができる。また、その吸引力は、ソレノイド2に通電する電流値によって調節することができるので、電流値を調節することにより、所定の制御範囲において、前記図6に示した様に、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との関係を任意に設定することができる。
【0044】
また、前記図2の実線に示す様に、実使用領域において、電流値が低い場合でも、電流値に応じて吸引力を設定することができるので、低い電流値でも差圧の制御を精密に行うことができる。
【0045】
d)次に、上述した差圧制御弁1を用いた車両用ブレーキ装置における制御処理について、図8,図9のフローチャートに基づいて説明する。
(1)ここでは、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧より増加させて、制動力を増大する圧力増幅アシストブレーキ制御(PAB)について説明する。
【0046】
まず、図8のステップ100にて、ブレーキペダル38が踏まれて、図示しないストップスイッチがオン(ON)となったか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ110に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。
【0047】
ステップ110では、本圧力増幅アシストブレーキ制御を実施する条件が満たされたか否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ120に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。この判定条件としては、例えば、ペダルストローク速度が所定値(XAmm/sec)以上か否か、あるいは踏力変化速度が所定値(XBkgf/sec)以上か否か等が挙げられる。
【0048】
ステップ120では、図示しないポンプモータをオンして、ポンプ36を作動させる。続くステップ130では、踏力から目標油圧を算出する。続くステップ140では、目標油圧から差圧制御弁1に印加する電流値を算出する。あるいは、その電流値に対応した電流値(又はデューティ比)を算出する。
【0049】
続くステップ150では、算出した電流値(又はデューティ比)に基づいて、ソレノイド2に印加する電流を制御して、差圧制御弁1を駆動する。続くステップ160では、本圧力増幅アシストブレーキ制御を終了するための終了条件が満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ170に進み、一方否定判断されると前記ステップ130に戻る。この判定条件としては、例えば、踏力減少量が所定値XCを上回るか否か、あるいは踏力が所定値XDを下回るか否か等が挙げられる。
【0050】
ステップ170では、ソレノイド2への通電をオフ(OFF)して、差圧制御弁1の作動を停止する。これにより、差圧制御弁1は完全に開弁する。続くステップ180では、ポンプモータをオフして、ポンプ36の作動を停止し、一旦処理を終了する。
【0051】
よって、上述した制御により、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧より高めて制動力を高めることができる。
(2)次に、ブレーキペダル38の踏力を倍力するブレーキブースタ37の失陥時の制御について説明する。
【0052】
まず、ブレーキブースタ37は大気を導入する大気室と負圧を導入する負圧室との差により駆動されるが、ステップ200にて、その負圧室の圧力(内圧)が、所定値(−XEmmHg)を上回るか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、必要な内圧が得られていない、即ちブレーキブースタ37の失陥時であるとして、ステップ210に進む。一方、否定判断されると、ブレーキブースタ37は正常であるとして、一旦本処理を終了する。
【0053】
ステップ210では、ブレーキペダル38が踏まれて、ストップスイッチがオンとなったか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ220に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。ステップ220では、ポンプモータをオンして、ポンプ36を作動させる。
【0054】
続くステップ230では、踏力から目標油圧を算出する。続くステップ240では、目標油圧から差圧制御弁1に印加する電流値を算出する。あるいは、その電流値に対応した電流のデューティ比を算出する。続くステップ250では、算出した電流値(又はデューティ比)に基づいて、ソレノイド2に印加する電流を制御して、差圧制御弁1を駆動する。
【0055】
続くステップオン260では、本ブレーキブースタ37の失陥時の制御を終了するための終了条件が満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ270に進み、一方否定判断されると前記ステップ220に戻る。この判定条件としては、例えば、踏力が所定値(XF)以下であるか否か等が挙げられる。
【0056】
ステップ270では、ソレノイド2への通電をオフして、差圧制御弁1の作動を停止する。続くステップ280では、ポンプモータをオフして、ポンプ36の作動を停止し、一旦処理を終了する。
【0057】
よって、上述した制御により、ブレーキブースタ37が失陥した場合に、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧より高めることにより、ブレーキブースタ37の差圧を利用した倍力作用に代わって制動力を高めることができる。
【0058】
(3)更に、上述した車両用ブレーキ装置を利用して、高G助勢の制御、即ち踏力が高く、ブレーキブースタ37の助勢力を使いきった領域にて、倍力作用をする制御を行うことができる。
【0059】
この高G助勢の制御は、前記図8に示す制御とほぼ同様であるので、詳しい説明は省略するが、前記図8のステップ110の制御実行条件及びステップ160の制御終了条件が異なる。つまり、制御実行条件として、マスタシリンダ圧が所定値(XGbar)を上回るか否か、あるいはブレーキブースタ37内の差圧が所定値(XHmmHg)を下回るか否か等の条件を採用できる。
【0060】
また、制御終了条件として、マスタシリンダ圧が所定値(XGbar)を下回るか否か、あるいはブレーキブースタ37内の差圧が所定値(XHmmHg)を上回るか否か等の条件を採用できる。この様に、本実施例では、プランジャ3及びガイド7に、互いに嵌合する凸部21及び凹部22からなる磁気ショート構造が設けてあるので、ソレノイド2に通電してプランジャ3を移動させた場合でも、吸引力が変化しない。そのため、差圧制御弁1はソレノイド2に印加する電流値に応じて、電流値の低い値から高い値まで、精密に差圧を設定することができる。
【0061】
また、この様に、差圧制御弁1により差圧を正確に設定できるので、この差圧制御弁1を用いた車両用ブレーキ装置では、圧力増幅アシストブレーキ制御、ブレーキブースタ37の失陥時の制御、高G助勢の制御を好適に行うことができる。
【0062】
(実施例2)
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、前記実施例1の差圧制御弁を他の車両用ブレーキ装置に適用したものである。
【0063】
この車両用ブレーキ装置は、周知のアンチスキッド制御(ABS)やトラクション制御(TRC)に加え、旋回時の車両挙動を制御する旋回時制御(VSC)を行なうことができる車両用ブレーキ装置である。図10に示す様に、この車両用ブレーキ装置は、タンデム型のマスタシリンダ41を有し、このマスタシリンダ41には、ブレーキブースタ42を介してブレーキペダル43が接続されている。
【0064】
マスタシリンダ41には、マスタリザーバ46が接続されるとともに、X配管(ダイアゴナル配管)の油圧2系統で構成されてブレーキ油圧を調節する油圧制御回路50が接続されており、油圧制御回路50は、第1油圧配管51a及び第2油圧配管51bから構成されている。
【0065】
前記油圧制御回路50では、第1油圧配管51aを経て右前(FR)輪のホイールシリンダ55と左後(RL)輪のホイールシリンダ56とが連通されている。また、第2油圧配管51bを経て右後(RR)輪のホイールシリンダ57と左前(FL)輪のホイールシリンダ58とが連通されている。
【0066】
前記第1油圧配管51aには、FR輪のホイールシリンダ55の油圧を制御するための周知の増圧制御弁61及び減圧制御弁65と、RL輪のホイールシリンダ56の油圧を制御するための増圧制御弁62及び減圧制御弁66とが設けられ、第2油圧配管51bには、RR輪のホイールシリンダ57の油圧を制御するための増圧制御弁63及び減圧制御弁67と、FL輪のホイールシリンダ58の油圧を制御するための増圧制御弁64及び減圧制御弁68とが設けられている。
【0067】
ここで、第1油圧配管51aについて説明する。各増圧制御弁61,62よりマスタシリンダ41側には、前記実施例1と同様の差圧制御弁71が配置されている。この差圧制御弁71により、(SRC弁74の開状態で)油圧ポンプ78を駆動させた場合には、油圧経路75a側の油圧をマスタシリンダ41側よりも任意の圧力分を高くすることが可能となる。
【0068】
更に、第1の油圧配管51aには、各減圧制御弁65,66から排出されたブレーキ油を一時的に蓄えるリザーバ76と、ブレーキ油を油圧経路75aに圧送するための油圧ポンプ78が備えられている。尚、油圧ポンプ78からのブレーキ油の吐出経路には、内部の油圧の脈動を抑えるダンパ87が設けられている。
【0069】
また、第1油圧配管51aには、ホイールシリンダ圧を加圧する際に、マスタシリンダ41から油圧ポンプ78に直接ブレーキ油を供給するための油圧経路79aが設けられ、この油圧経路79aには、その油圧経路79aを連通・遮断するカットバルブ(SRC弁)74が設けられている。
【0070】
一方、第2油圧配管51bには、前記第1油圧配管51aと同様に、増圧制御弁63,64、減圧制御弁67,68、差圧制御弁72、リザーバ77、油圧ポンプ79、ダンパ88、SRC弁75等が、同様な箇所に設けられている。尚、前記両油圧ポンプ78,79は、電動ポンプモータ81に連結されて駆動される構成となっている。
【0071】
b)次に、本実施例における制御処理について、図11のフローチャートに基づいて説明する。尚、ここでは、TRC制御について説明する。
図11のステップ300では、ブレーキペダル43が踏まれて、図示しないストップスイッチがオフとなったか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ310に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。
【0072】
ステップ310では、駆動輪車輪速度Vaが転動輪車輪速度Vbより大であるか否か、即ちスリップ状態が過大であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ320に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。ステップ320では、ポンプモータ81をオンして、ポンプ78,79を作動させる。
【0073】
続くステップ330では、図示しないソレノイドに通電して、差圧制御弁71,72、SRC弁74,75を駆動する。続くステップ340では、増圧制御弁61〜64及び減圧制御弁65〜68を制御して、駆動輪車輪速度Vaを制御する。
【0074】
続くステップ350では、駆動輪車輪速度Vaが転動輪車輪速度Vbと同じであるか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ360に進み、一方否定判断されると前記ステップ340に進む。ステップ360では、ポンプモータ81をオフして、ポンプ78,79の作動を停止する。
【0075】
続くステップ370では、ソレノイドへの通電をオフして、差圧制御弁71,72、SRC弁74,75の作動を停止し、一旦本処理を終了する。この様に、本実施例では、上述した車両用ブレーキ装置に差圧制御弁71,72を用いるので、TRC制御等の各種の制御を、差圧制御弁71,72のソレノイドに印加する電流を調節することにより、精密に行うことができる。
【0076】
(実施例3)
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、前記実施例1の差圧制御弁の接続方向を逆にして車両用ブレーキ装置に配置することにより、後輪側より前輪側のブレーキ液圧を高くすることができるものである。
【0077】
a)図12に示す様に、本実施例の車両用ブレーキ装置においては、差圧制御弁91は、マスタシリンダ92と後輪側のホイールシリンダ93とを接続する管路94に配置されており、管路94から分岐した管路95には、前輪側のホイールシリンダ94が接続されている。
【0078】
特に本実施例では、差圧制御弁91の先端連通孔97(高圧側)が、マスタシリンダ92側と前輪のホイーシリンダ94側に接続され、一方、差圧制御弁91の側面連通孔98(低圧側)が後輪のホイールシリンダ93側に接続されている。
【0079】
b)次に、この車両用ブレーキ装置の動作を説明する。
図示しないソレノイドに通電して、差圧制御弁91を作動させたときには、図13に示す様に、ソレノイドに印加する電流値に応じて、マスタシリンダ圧と後輪側のホイールシリンダ圧との関係が設定される。
【0080】
従って、ブレーキペダル99が踏まれた場合に、差圧制御弁91を作動させたときには、前輪側のホイールシリンダ94には、マスタシリンダ圧がそのまま伝わるが、図13の様に、前輪側より後輪側のブレーキ液圧を任意に低く設定できる。
【0081】
そのため、例えば制動時において、後輪側より前輪側のブレーキ液圧を高めて、いわゆる(車輪ロック時における)前輪先行ロックを実現することができ、ロックの車両の制動をより安定して行うことができる。また、後輪側と前輪側のブレーキ液圧の差は、ソレノイドに印加する電流の大きさにより任意に設定できるので、例えば車両に搭乗する人数や搭載する荷物の荷重等に応じて、適宜その差圧を設定することにより、前後制動力配分を車両の最大の制動力が発揮できる配分として、制動時における車両の安定性を高めるとともに、制動性能を大きく向上することができる。
【0082】
c)次に、前記車両用ブレーキ装置における制御処理を、図14のフローチャートに基づいて説明する。尚、本制御は、制動力配分を調節する制御である。
図14のステップ400にて、例えば荷重センサからの信号に基づいて、車両の積載量を検出する。
【0083】
続くステップ410では、図示しないブレーキスイッチがオンであるか否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ420に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。ステップ420では、踏力センサからの信号に基づいて、踏力を検出する。
【0084】
ステップ430では、踏力と積載状態とに基づいて、目標油圧を算出する。続くステップ440では、目標油圧と踏力とに基づいて、差圧制御弁91のソレノイドに印加する電流値(あるいはそのデューティ比)を算出する。続くステップ450では、算出した電流値(あるいはそのデューティ比)に基づき、差圧制御弁91を駆動する。
【0085】
続くステップ460では、ブレーキスイッチがオンか否かを判定し、ここで肯定判断されると前記ステップ410に戻り、一方否定判断されるとステップ470に進む。ステップ470では、ソレノイドをオフして、差圧制御弁91の駆動を停止し、一旦本処理を終了する。
【0086】
つまり、この様な制御により、好適な制動力配分にて、優れた制動性能を発揮することができる。また、この様に制動力配分を行うことにより、例えば車両の搭載荷重が変化した場合でも、同じ踏力で同様な制動力を実現することができる。
【0087】
(実施例4)
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。
【0088】
図15(a)に示す様に、本実施例の差圧制御弁101においては、スリーブ102に内嵌されたプランジャ103の下端の凸部104には、プランジャ103及びガイド105に内嵌された制御ピストン106の移動方向(図の上下方向)から傾斜した凸側テーパ部104aが形成されている。一方、ガイド105の上端の凹部108には、凸側テーパ部104aと平行な凹側テーパ部108aが形成されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0089】
本実施例の差圧制御弁101においても、プランジャ103の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、凸側テーパ部104aと凹側テーパ部108aとの間の磁束量であり、プランジャ103の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0090】
よって、プランジャ103の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁101により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例5)
次に、実施例5について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0091】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図15(b)に示す様に、本実施例の差圧制御弁111においては、スリーブ112に内嵌されたプランジャ113の下端には、円柱状の凹部114が設けられ、ガイド115の上端には、円筒状の凸部116が設けられ、その凸部116を貫通する様に、ガイド115に制御ピストン117が内嵌されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0092】
本実施例の差圧制御弁111においても、プランジャ113の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、凹部114と凸部116との間の磁束量であり、プランジャ113の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0093】
よって、プランジャ113の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁111により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例6)
次に、実施例6について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0094】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図15(c)に示す様に、本実施例の差圧制御弁121においては、スリーブ122に内嵌されたプランジャ123は、バネ124により図の上方に付勢されており、このプランジャ123の下端には、先端が円錐状になった円柱状の凸部125が設けられている。一方、ガイド126の中空部127には、凸部125の円錐状の部分に対応して段差128が設けられている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0095】
本実施例の差圧制御弁121においても、プランジャ123の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、凸部125の先端部分と段差128との間の磁束量であり、プランジャ123の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0096】
よって、プランジャ123の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁121により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例7)
次に、実施例7について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0097】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図15(d)に示す様に、本実施例の差圧制御弁131においては、スリーブ132に内嵌されたプランジャ133の下端には凹凸がなく平坦となっている。一方、制御ピストン134が内嵌されたガイド135の上端も平坦である。
【0098】
特に、本実施例では、スリーブ132のほぼ全体は磁性体であるが、下端側の一部には環状に非磁性体が配置されている。つまり、プランジャ133が上方に移動した場合にその下端の位置と前記非磁性体の下端の位置とが、ほぼ同じ位置に設定されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0099】
本実施例の差圧制御弁131においても、プランジャ133の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、プランジャ133の下部とスリーブ132の磁性体の下部132aとの間の磁束量であり、プランジャ133の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0100】
よって、プランジャ133の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁131により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例8)
次に、実施例8について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0101】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図16に示す様に、本実施例の差圧制御弁141においては、プランジャ142を内嵌するスリーブ143の外側には、ソレノイド144が配置され、ソレノイド144の外周を覆う様に、ヨーク145が配置されている。
【0102】
特に、本実施例では、ヨーク145の上部と、プランジャ142が図の上方の移動した場合の上部の位置とが、ほぼ同じ位置に設定されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。本実施例の差圧制御弁141においては、図17(a)に示す様に、プランジャが図の上方に位置している場合には、ヨーク145とプランジャとを貫く磁束量は多いが、図17(b)に示す様に、プランジャ142が図の下方に移動した場合には、ヨーク145とプランジャ142とを貫く磁束量が減少する。
よって、プランジャ142が前記図16の下方に移動して、通常なら、プランジャ142とガイド146との間の磁束量は増加するはずであるが、本実施例では、前記図17(b)に示す様に、磁気ショート構造における磁束量が減少するので、図16の破線で示す全体の磁束量は変化しない。そのため、吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁141により差圧の設定を精密に行うことができる。
【0103】
(実施例9)
次に、実施例9について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例では、差圧制御弁の下流側に、圧損を付加する圧損付加機構としてオリフィスを配置している。
【0104】
a)まず、本実施例の差圧制御弁の構成について説明する。
図18に示す様に、本実施例の差圧制御弁151においては、前記実施例1と同様な磁気ショート構造を備えるとともに、磁気可動子であるプランジャ152と、プランジャ152を磁力により付勢するソレノイド153と、弁体である制御ピストン154と、制御ピストン154を内嵌するガイド156と、制御ピストン154のニードル先端部155が着座する弁座157と、制御ピストン154をソレノイド153の付勢力に抗して図の上方に付勢するバネ(リターンスプリング)158等を備えている。
【0105】
特に本実施例では、プランジャ152と制御ピストン154とは、結合用ピン159により、一体に接続されている。従って、両者152,154は、常に一体となって上下動する。また、本実施例では、ポンプ側(及びホイールシリンダ側)と、制御ピストン154が配置されたガイド156の中空部161とは、上流オリフィス162を有する主連通路163により接続されている。しかも、ホイールシリンダ側とマスタシリンダ側とは、チェック弁164を介して接続されている。
【0106】
更に、前記中空部161は、下流側連通路167,168を介してマスタシリンダ側と連通しているが、この下流側連通路167,168には、差圧制御弁151の下流側にて圧損(背圧)を付加するために、下流オリフィス166,169が設けられている。
【0107】
尚、主連通路163に至る流路及び下流側連通路167,168には、各々フィルタ171,172が配置されている。また、前記ガイド156は、ハウジング174に固定されており、ハウジング174と前記ソレノイド153との間には、磁路の一部を形成する枠体176が配置されている。従って、ソレノイド153によって発生する磁束は、同図に破線で示す様に、ヨーク177や枠体176を貫通する磁路を形成する。
【0108】
尚、本実施例のソレノイド153は、前記実施例1の円筒状とは多少異なり、図の左右で非対象であるが、その機能はほぼ同一である。
b)次に、本実施例の差圧制御弁151の作用効果を説明する。
【0109】
本実施例の差圧制御弁151においては、その下流側(マスタシリンダ側)に下流オリフィス166,169が設けてある。
従って、例えば上述したTRC、VSC、PAB等の機能を用いる場合において、ブレーキペダル43を緩めた時に、この差圧制御弁151を、ポンプ上流圧のリリーフ機能(高圧を逃がす機能)として用いる場合でも、高圧のホイールシリンダ側に対して直ちに大気圧(マスタシリンダ圧)にリリーフせずに、下流オリフィス166,169により、若干の背圧がかかることになる。
【0110】
これにより、ブレーキ液が高圧から低圧になる場合に発生し易いエアレーションの発生を抑制することができるので、ブレーキ性能を確実に保持することができる。また、本実施例では、プランジャ152と制御ピストン154が一体化しているので、前記高圧のホイールシリンダ圧をリリーフする場合に、制御ピストン154が振動し難い。よって、この点からも、エアレーションを防止することができるという利点がある。
【0111】
(実施例10)
次に、実施例10について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例では、差圧制御弁の下流側に、圧損を付加する圧損付加機構として、補助弁体を備えた一方向オリフィスを配置している。
【0112】
図19に示す様に、本実施例の差圧制御弁181には、ガイド182の中空部183とマスタシリンダ側とを連通する下流側連通路184に、溝状の切欠オリフィス186、球状の補助弁体187、及び補助バネ188からなる一方向オリフィス189が設けられている。
【0113】
前記切欠オリフィス186は常開であり、補助弁体187は補助バネ188により常に閉弁方向(矢印A)方向に付勢されている。この補助弁体187は(ホイールシリンダ側が大の)差圧が大きくなると矢印B方向に移動して下流側連通路184を開く。
【0114】
この一方向オリフィス189は、ホイールシリンダ側とマスタシリンダ側との差圧が大きい場合に、ブレーキペダル43を緩めたときには、補助弁体187が図のA方向に移動して大きく流路を開くので、ブレーキ液の流量を確保することができる。それによって、いわゆるひきずり感(ブレーキペダル43を離しても制動力がなかなか弱くならない現象)を防止することができる。
【0115】
一方、差圧が小さな場合には、補助弁体187は補助バネ188の付勢力により移動しないので、通常のオリフィスとして機能し、前記実施例9と同様に、エアレーションの発生を防止することができる。また、差圧の大きさにより、補助弁体187の移動量(従ってその開度)が異なるので、補助弁体187がわずかに移動する差圧の場合には、その差圧に応じたオリフィスとしての機能を有する。
【0116】
尚、本実施例では、一方向オリフィス189を設けるために、中空部183の内径が小さくなっている。
(実施例11)
次に、実施例11について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0117】
本実施例では、制御ピストンの先端側に、圧損を付加する圧損付加機構として、オリフィスを備えた制御スリーブを配置している。図20に示す様に、本実施例の差圧制御弁191には、制御ピストン192の先端側の外周に、円筒状の制御スリーブ193が一体に固定されており、この制御スリーブ193は、制御ピストン192の中径部192a及びバネ194の周囲を覆っている。また、制御スリーブ193の先端は、一部が短冊状に切り欠かれて、複数の切欠部196が設けられている。
【0118】
一方、弁座197の上面には、制御スリーブ193の先端の外周を覆う様に、環状の凸部198が設けられている。そして、この環状の凸部198の内周面と制御スリーブ193の外周面との間に、わずかに隙間がある様に、各部材の径が設定されている。
【0119】
従って、制御ピストン192が上昇している場合には、主連通路201と下流側連通路202とは、制御スリーブ193の切欠196を介して、ブレーキ液の流量が充分に確保できる様に、その流路が開かれている。一方、制御ピストン192が下降している場合には、環状の凸部198の内周面と制御スリーブ193の外周面との隙間が、オリフィスとして機能するので、前記実施例9と同様に、差圧制御弁191の下流側にて、背圧を付加することができる。それにより、エアレーションの発生を防止できる。
【0120】
特に、本実施例では、ブレーキペダル43を戻した場合には、制御ピストン192が上昇して、ブレーキ液の流量が確保できるので、前記引きずり現象が少なく、応答性がよいという利点がある。尚、本実施例では、前記実施例9の様な下流側連通路の下流オリフィスを備えていない。
【0121】
(実施例12)
次に、実施例12について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例では、制御ピストンの先端側に、圧損を付加する圧損付加機構として、別体の制御スリーブ等を配置している。
【0122】
図21に示す様に、本実施例の差圧制御弁211には、制御ピストン212の先端側の外周に、制御ピストン212とは別体の円筒状の制御スリーブ213が、摺動可能に配置されている。この制御スリーブ213は、バネ(補助スプリング)214により閉弁方向(図の下方)に付勢されている。更に、制御スリーブ213の先端は、一部が切り欠かれて、オリフィスとして機能する切欠部216が設けられている。
【0123】
また、制御スリーブ213と制御ピストン212の中径部212aとの間には、ストッパ217が配置されている。このストッパ217は、バネ(リターンスプリング)218により、図の上方に付勢されて、段差部212bに着座しており、制御スリーブ213の下方への移動を規制している。
【0124】
一方、弁座215の上面には、バネ218と制御スリーブ213の先端との間にて、環状に突出する凸部219が設けられている。この凸部219の外周は傾斜しており、この外周に制御スリーブ213の下端が着座する構成である。本実施例では、ソレノイド221に通電されると、制御ピストン212が下降するが、このとき、バネ214の付勢力により、制御スリーブ213も下降する。そして、制御ピストン212の閉弁手前で、制御スリーブ213の先端が凸部219の外周に着座し、切欠部216にてオリフィスの機能が発揮される。これにより、差圧制御弁211の下流側にて背圧を付加することができるので、エアレーションの発生を防止できる。
【0125】
尚、制御ピストン212の閉弁手前で、制御ピストン212の先端が凸部219の外周に着座し、制御ピストン212が閉弁しないのは、制御ピストン212での調圧制御時に、確実に切欠部216でのオリフィス機能を持たせるためである。
【0126】
一方、ソレノイド221を非通電とすると、制御ピストン212及び制御スリーブ213がバネ218の付勢力により上昇するので、ブレーキ液の流路が充分に開かれ、流量が確保されるが、オリフィスの機能がなくなる。これにより、ブレーキペダル43の戻し時に、ブレーキのひきずり感を無くして、応答性を向上できる。
【0127】
尚、本実施例では、前記実施例9の様な下流側連通路の下流オリフィスを備えていない。
(実施例13)
次に、実施例13について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0128】
本実施例では、ソレノイドの磁力による横力(サイドフォース)の影響を低減する横力影響低減機構を設けている。
a)図22(ハッチング略)に示す様に、本実施例の差圧制御弁231には、プランジャ232の上部に、プランジャ232の外径を小さくする様な凹部(磁路逃げ部)233が、全周にわたり設けてある。更に、凹部233の上方には、スリーブ234に摺動可能に支持される凸部236が、プランジャ232の全周にわたり設けてある。この凸部236の形成位置は、ソレノイド237により発生する磁束が殆どない領域、即ち磁路外である。つまり、ソレノイド237により発生する磁束による磁路は、図示する様に、凹部233より下方の位置となる。
【0129】
b)次に、本実施例の作用効果を説明する。
プランジャ232と磁束を発生する箇所(ソレノイド237及びヨーク238)との間には、スリーブ234が存在することにより、磁束が発生する部材とその磁束による付勢力を受ける部材との間に距離(サイドギャップ)がある。また、磁束が発生した場合には、プランジャ232は、閉弁方向の押圧力だけでなく、横方向の付勢力(横力=サイドフォース)を受ける。ところが、この横力は、前記サイドギャップがあると、かならずしも安定しないので、ソレノイド237に印加する電流の増加又は減少の際して、印加電流に応じて(差圧制御弁231の上流側と下流側との間にて)決まった差圧が発生しないことがある。つまり、ヒステリシスが生じてしまう。
【0130】
そこで、本実施例では、このヒステリシスの原因であるソレノイド237の磁力による横力の影響を低減するために、磁路外に、プランジャ232の凸部236を設け、この凸部236がスリーブ234に支持されて、プランジャ232が摺動する様にしている。
【0131】
それにより、図23に示す様に、ソレノイド232に所定の電流を加えれば、常に決まった差圧△Pを一義的に設 定することができる。具体的には、例えば電流値をAとすれば、差圧制御弁231により設定される差圧を△PAとすることができ、それより大きな電流値Bとすれば、それより大きな差圧△PBとすることができる。
【0132】
尚、前記実施例9では説明しなかったが、前記図18に示す様に、プランジャ152の上部に環状の凹部152aが設けてあり、更に凹部152aの上方に本実施例と同様な凸部152bが磁路外に設けてある。この凸部152bも、本実施例と同様に、横力の影響を低減する機能を有する。
【0133】
(実施例14)
次に、実施例14について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例も、前記実施例13と同様に、ソレノイドの磁力による横力(サイドフォース)の影響を低減する横力影響低減機構を設けている。
【0134】
図24に示す様に、本実施例の差圧制御弁241には、プランジャ242の上部に、プランジャ242の外径を小さくする様な切欠部243が、全周にわたり設けてある。更に、切欠部243の下端には、スリーブ244に摺動可能に支持される非磁性リング246が外嵌している。
【0135】
本実施例の場合には、プランジャ242は、非磁性リング246により径方向の位置決めがされているので、ソレノイド247の磁力による横力の影響を低減することができる。それにより、上述したソレノイド247に印加する電流の増加又は減少におけるヒステリシスの発生を防止でき、前記図23に示す様な好ましい特性を実現することができる。
【0136】
(実施例15)
次に、実施例15について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例も、前記実施例13,14と同様に、ソレノイドの磁力による横力(サイドフォース)の影響を低減する横力影響低減機構を設けている。
【0137】
図25に示す様に、本実施例の差圧制御弁251では、プランジャ252の外径が、上方にゆくほど小さくなって、逃げ部253が形成されている。この逃げ部253は、後述する支持部257でのクリアランスによる傾きに対して、スリーブ255との間に確実にクリアランスを持ち、プランジャ252の動きを安定化する機能を有する。
【0138】
また、プランジャ252と一体に接続された弁体254の外周には、軸方向にブレーキ液が通過できる複数の溝256が形成してある。また、各溝256の間は、軸方向に沿って、弁体254の外周方向に突出した支持部257が形成されており、この支持部257がガイド258に支持されて摺動することにより、弁体254が上下方向に移動可能となっている。
【0139】
つまり、本実施例では、弁体254の支持部257がガイド258に摺動可能に支持されているので、ソレノイド259の磁力における横力の影響を低減でき、よって、上述したヒステリシスをなくすることができる。また、この弁体254の支持部257がガイド258に摺動可能に支持されている構成により、前記実施例9と同様に、弁体254の着座位置近傍における振動の発生を防止して、エアレーションの発生を抑制することができる。
【0140】
(実施例16)
次に、実施例16について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、開弁時の圧損を低減する様に、ニードル先端部の形状を工夫したものである。
【0141】
従来では、図26(a)に示す様に、ニードル先端部が鋭角になっており、それにより、弁体の開弁時には、圧損が生じていた。そこで、本実施例では、図26(b)に示す様に、弁体261のニードル先端部262の形状として、先端を平坦に(軸方向と垂直に)カットしている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0142】
また、他の実施例では、図26(c)に示す様に、弁体271のニードル先端部272の形状として、先端を鈍角の円錐形状としている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。更に、他の実施例では、図26(d)に示す様に、弁体281のニードル先端部282の形状として、先端を滑らかなカーブ(略球状)形状としている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0143】
(実施例17)
次に、実施例17について説明する。本実施例は、差圧制御弁の検査方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。
【0144】
図27に示す様に、検査用のユニット301としては、組み付け前の差圧制御弁において、プランジャ152、制御ピストン154、バネ158、弁座157、ガイド156等を組み付けたものを用いる。この検査用ユニット301に対し、そのプランジャ152側(図では上方)から検査用基準コイル部302をかぶせる。この検査用基準コイル部302とは、ソレノイド153、ヨーク177、枠体176、スリーブ160等からなる磁力発生用のものである。
【0145】
そして、図28に示す様に、検査用ユニット301と検査基準コイル部302とを組み合せ、ソレノイド153に電源303を接続するとともに、電源303と直接に電流計304を配置する。一方、マスタシリンダ側の主連通孔163内(但しフィルタ171はない)に、測定装置306を配置する。この測定装置306は、円錐部307の先端からロッド308が延長された形状をしており、ロッド308の上端はニードル先端部165の下端に接触している。また、測定装置306の下方には、測定装置306に加わる押圧力、即ちニードル先端部165からロッド308に加わる押圧力を測定するために、図示しない荷重計が配置されている。
【0146】
この構成において、例えばソレノイド153に印加する電流を変化させ、その場合の荷重(ソレノイド153の磁力による制御ピストン154の押圧力)を調べ、この電流と荷重との関係から、所望のソレノイド吸引力特性が得られているかどうかを調べることができる。
(実施例18)
次に、実施例18について説明する。本実施例は、調整シムを用いた差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。
【0147】
例えば前記実施例17で示した検査方法で、図29の実線で示す測定結果(ソレノイド153の吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。尚、制御ピストン154は、バネ(リターンスプリング)158により開弁方向に付勢されているので、ソレノイド153に印加する電流が0の場合には、荷重Fは、バネ158のオフセット荷重(但し逆方向であるので−)となる。
【0148】
そこで、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、シム調整を行なう。このシム調整とは、図30に示す様に、バネ158と制御ピストン154との間に調整シム401をかませて(配置して)、バネ158のオフセット荷重を調節するものである。例えば、調整シム401をかませることにより、オフセット荷重は、図29に示す様に、下方に△tだけ平行移動する。その結果、実線の吸引力特性を破線の吸引力特性に変更することができるのである。
【0149】
前記調整シムの厚さを変更することで、オフセット荷重を変えることができるので、吸引力特性を任意の位置に平行移動させて変更することができる。尚、荷重F(又はFA)とは、実際の差圧制御弁を使用する際には、差圧△P(又は△PA)×弁部(上流)オリフィス162の断面積Sに相当する。
【0150】
(実施例19)
次に、実施例19について説明する。本実施例は、前記実施例18に示した調整シムを用いた差圧制御弁の調整方法の別態様を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9とほぼ同様な差圧制御弁を例に挙げる。
【0151】
この場合、調整の効果としては、前記実施例18と同様であり、リターンスプリングのセット長変更により、オフセット荷重調整を行なうものであるが、本実施例では、弁座及びスリーブの圧入及び溶接後の組み付けにおける後工程において、調整を可能にしたことが、前記実施例18と相違する。
【0152】
つまり、前記実施例18では、リターンスプリングとボディバルブの段付部(スプリングの受け面)との間に、調整シムをかませたが、この構成では、弁座又はスリーブの組み付け前に調整シムを選択する必要があり、その後の組み付けによる特性変化まではカバーできない。
【0153】
そこで、本実施例においては、図31及び図32に示す様に、調整シム501をリターンスプリング503と弁座505との間に、ガイド507に設けた穴(挿入穴)509を通して、外部より挿入可能としている。前記調整シム501は、先端側(両図において左側)が二つに分岐するとともに、後端側が垂直(図31の下方)に曲げられており、分岐した箇所にて、制御ピストン510のニードル先端部511が進入可能な様に、略U字状の切欠部513が設けられている。これにより、リターンスプリング503の下端は、調整シム501の上面に当接して受けられることになる。
【0154】
つまり、本実施例では、弁座505及びスリーブ515の圧入及び溶接後の組み付けにおける後工程において、即ち組み付け最終工程において、最終的な弁構成としての特性調整が可能となり、より精度の良い特性調整が可能となる。尚、調整シム501は、抜け防止のために、ロック機構を備えていることがより望ましい。このロック機構とは、図31及び図32において、調整シム501の後端側の係合部517と、ガイド507の挿入穴509におけるロック用溝部519である。
【0155】
(実施例20)
次に、実施例20について説明する。本実施例は、前記実施例18及び実施例19と同様の差圧制御弁のオフセット荷重調整方法の別態様を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9とほぼ同様な差圧制御弁を例に挙げる。
【0156】
この場合、調整の効果としては、前記実施例18及び実施例19と同様であり、リターンスプリングのセット長変更により、オフセット荷重調整を行なうものであるが、本実施例では、前記実施例19と同様な組み付け後工程における特性調整を、前記実施例19とは別手段により行なうものである。
【0157】
つまり、前記実施例18及び実施例19では、シム調整により、リターンスプリングのセット荷重を変更していたが、本実施例では、ラチェット機構の係合の組み合せを変えることにより、段階的にリターンスプリングのセット荷重を変更するものである。
【0158】
具体的には、図33に示す様に、リターンスプリング601と弁座603との間に、円盤状のラチェット605を配置する。このラチェット605には、図34に示す様に、スプライン状の外周歯部605aとラチェット状の下面歯部605bとが設けてあり、下面歯部605bと向き合う弁座603側には、爪部607が設けてある。
【0159】
そして、ラチェット605と弁座603側の爪部607との係合の組み合せ、即ち図34(c)の(1)、(2)、(3)のうちのどちらかの組み合せを、組み付け最終工程にて、図33に示すガイド609に設けられた調整穴611より、ドライバ等にて、ラチェット605の外周歯部605aに、引っかけて回転することにより、変更可能とした。
【0160】
これにより、ラチェット605と弁座603との相対位置が変わり、結果として、リターンスプリング601のセット長を調整できる。従って、本実施例では、前記実施例19と同様に、組み付け最終工程において、最終的な弁構成としての特性調整が可能となり、より精度の良い特性調整が可能となる。また、調整のための構成が簡易であるという利点がある。
【0161】
(実施例21)
次に、実施例21について説明する。本実施例は、調整プレートを用いた差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。
【0162】
例えば前記実施例17で示した検査方法で、図35の実線で示す測定結果(吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。そこで、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、磁気絞り調整を行なう。
【0163】
この磁気絞り調整とは、前記図30に示す様に、枠体176を構成する複数の板状の調整プレート402を交換して、磁気絞り部403の形状を変更し、それにより、磁路の状態、即ち枠体176を通過する磁束を調整して、吸引力特性の勾配を調節するものである。
【0164】
尚、前記調整プレート402としては、リング状のものを採用でき、磁気絞り部403を構成する部分のみが切り欠かれた調整プレート402を、複数用意して選択して使用することにより、枠体176を構成する。例えば、調整プレート402を変更して、磁気絞り部403を大きくする(特に図の上下方向における断面積)と磁路が小さくなる。その結果、印加電流を大きくしても、荷重が増加しにくくなる。即ち、磁気絞り部403を大きくすると、吸引力特性の勾配が小さくなる。
【0165】
従って、オフセット荷重は変更しないのであるから、磁気絞り部403を大きくすれば、図35に示す様に、吸引力特性の勾配が△αだけ小さくなる。その結果、実線の吸引力特性を破線の吸引力特性に変更することができる。
【0166】
(実施例22)
次に、実施例22について説明する。
本実施例は、磁気回路上の可動子と固定子の間のエアギャップ調整による差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。例えば前記実施例17で示した検査方法で、図35の実線で示す測定結果(吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。
【0167】
そこで、本実施例では、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、エアギャップ調整を行なう。このエアギャップ調整とは、前記図30に示す様に、ガイド156に対する弁座157の圧入量を調節することにより、磁気回路を構成する可動子(プランジャ152)と固定子(ガイド156)の間のエアギャップを変更し、それにより、磁路の状態、即ちエアギャップを通過する磁束を調節して、吸引力特性の勾配を調節するものである。
【0168】
例えば、弁座157の圧入量を変更して(多くして)、閉弁時のエアギャップを大きくすると、発生磁力が低下する。その結果、印加電流を大きくしても、荷重が増加しにくくなる。即ち、エアギャップを大きくすると、吸引力特性の勾配は小さくなる。
【0169】
従って、オフセット荷重は変更しないのであるから、エアギャップを大きくすれば、図35に示す様に、吸引力特性の勾配が△αだけ小さくなる。その結果、実線の吸引力特性を破線の吸引力特性に変更することができる。尚、前記とは逆に、エアギャップを小さくすると、吸引力特性の勾配は大きくなる。
【0170】
(実施例23)
次に、実施例23について説明する。本実施例では、前記実施例18に示したリターンスプリングのセット荷重調整によるオフセット荷重変更と、前記実施例22に示したエアギャップ調整による吸引力特性の変更とを、弁座の圧入量調整により同時に実現する方法を示す。
【0171】
前記実施例22に対する構成及び効果の相違点として、図36に示す様に、リターンスプリング701の受け面を、弁座703ではなく、ガイド705に変更する。これにより、弁座703の圧入量(シート圧入量)を調節することにより、可動子(プランジャ707)と固定子(ガイド705)との間のエアギャップを変更できるとともに、同時にリターンスプリング701のセット長(調整時の状態である閉弁側)も変更できる。
【0172】
そのため、図1に示す様なエアギャップに対する吸引力変化の少ない領域(図1の実使用領域)であっても、調整の効果がセット長がかわることにより、調整のゲインを維持できる。即ち、図1の実使用領域では、エアギャップを若干変更しても吸引力の変化が少なく調整の効果が出にくいが、本実施例では、同時にオフセット荷重変更も伴う調整であるため、この分の調整効果は常に確保されている。
【0173】
また、本実施例では、弁座703の構成を簡易化でき、チェック弁709部分の穴加工もガイド705側に集中できるため、スペース上余裕ができ、製造上も有利になる。
(実施例24)
次に、実施例24について説明する。
【0174】
本実施例は、調整シム及び調整プレートを用いた差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。本実施例は、前記実施例18と実施例21の調整とを共に行ったものである。
【0175】
例えば前記実施例17で示した検査方法で、図37の実線で示す測定結果(吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。そこで、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、磁気絞り調整及びシム調整を行なう。
【0176】
まず、磁気絞り調整により、実線の吸引力特性の勾配を変更して、一点鎖線で示す吸引力特性とする。次に、シム調整により、前記一点鎖線で示す吸引力特性を平行移動して、図の破線で示す吸引力特性とする。
【0177】
これにより、測定対象の差圧制御弁の吸引力特性が、目標とする吸引力特性から大きくずれている場合でも、この磁気絞り調整及びシム調整により、容易に目標とする吸引力特性とすることができる。尚、磁気絞り調整では、吸引力特性の勾配を小さくする例を挙げたが、基準となる磁気絞り部を設定しており、その磁気絞り部を大きくして勾配を小さくし、磁気絞り部を小さくして勾配を大きくすることができる。
【0178】
同様に、シム調整に関しても、基準となる調整シムを配置しておき、調整シムを厚くすることでオフセット荷重を大きくして、図37の下方に吸引力特性を平行移動させることができ、一方、調整シムを薄くすることでオフセット荷重を小さくして、図37の上方に吸引力特性を平行移動させることができる。
【0179】
尚、本発明は前記実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。例えば上述した各実施例の差圧制御弁は、前記図5,図10,図12の車両用ブレーキ装置に使用することができる。
【符号の説明】
【0180】
1,71,72,91,101,111,121,131,141,151,181,191,211,231,245,251…差圧制御弁
2,144,153,221,237,247,259…ソレノイド
3,103,113,123,133,142,152,232,242,252,707…プランジャ
4,102,122,132,160,234,244,515…スリーブ
6,106,117,134,154,192,212,254,261,271,281,510…制御ピストン
7,105,115,126,135,146,156,182,258,507,609,705…ガイド
8,145,177,238…ヨーク
21,104,116,125…(磁気ショート部における)凸部
22,108,114…(磁気ショート部における)凹部
31,41,92…マスタシリンダ
32,55,56,57,58,93,94…ホイールシリンダ
36,77,79…ポンプ
261,271,281…弁体
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の車両用ブレーキ装置の管路に配置されて、ブレーキ液圧の差圧を調節する差圧制御弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ブレーキ液の管路や該管路を開閉する制御弁を備えた車両用ブレーキ装置では、ブレーキペダルを踏んだ場合には、その踏込量や踏力に応じて、所定の制動力が得られる様に設定されている。
【0003】
また、この種の車両用ブレーキ装置では、ブレーキペダルを踏み込む際の踏力を増大させ、マスタシリンダ圧ひいてはホイールシリンダ圧を増加させて、制動力を向上するために、例えばバキュームブースタの様なブレーキ倍力装置が使用されている。
【0004】
ところが、バキュームブースタ等は体格が大きく、車載が困難な場合があるので、それに代わる技術が提案されている。例えば特開平8−230634号には、アンチスキッド制御やトラクション制御を行なう場合に、戻しポンプ、切換弁、吸込弁の制御を、ブレーキペダルの作動を表す信号に依存して行なうことにより、バキュームブースタの機能を肩代りする技術が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ホイールシリンダ側の圧力を直接制御するために、前記切換弁としてオン−オフタイプの電磁弁である差圧制御弁を使用すると、電磁弁内の可動子の移動により、可動子の吸引力(可動子を固定子側に吸引する力)が大きく変化するので、安定した差圧のコントロールができないという問題があった。
【0006】
つまり、従来の差圧制御弁は、可動子が移動すると、図1の破線で示す様に、可動子と固定子との間隔(プランジャストローク)が変化し、それによって可動子と固定子との間の磁束量が大きく変化して、吸引力も大きく変化するという特性を有している。
【0007】
そのため、従来の差圧制御弁では、何等かの原因で流量が変化すると、流量の変化を保つために可動子の位置が変化するので、それによって、吸引力が大きく変化してしまう。この吸引力が変化すると、結果として差圧も変化するので、ホイールシリンダ圧等のブレーキ液圧を精密に制御できないという問題があった。
【0008】
また、従来の差圧制御弁は、図2(a)の破線で示す様に、ソレノイドへの印加電流が所定値以下では差圧が発生しないが、所定値に達すると急激に大きな差圧が発生するので、所定値以下の印加電流の場合に精密なブレーキ液圧の制御ができないと言う問題もあった。
【0009】
これは、図2(b)の破線で示す様に、印加電流に応じてプランジャストロークと吸引力との関係が決まるので、例えば印加電流が2AのときプランジャストロークがPS1で、可動子がその可動範囲(実使用範囲)にあると、プランジャストロークがPS0となる様に急に可動子が移動して、一気に吸引力が増大する(例えば0からK1に変化)するからである。
【0010】
本発明は前記課題に鑑みなされたものであり、可動子の移動に伴う吸引力の変化を抑制して、高精度の圧力制御を行なうことができる差圧制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)請求項1の発明では、ブレーキ液の管路に配置されて、ブレーキ液圧の差圧を調節する差圧制御弁において、該差圧制御弁は、ソレノイドにより発生する磁束が貫通し、その磁力により移動する可動子と、該可動子の移動方向に配置されて、前記ソレノイドによる磁束が貫通する固定子と、前記可動子のストロークの最大値を規制するスリーブと、前記可動子に押圧されて弁座に着座することで、前記可動子のストロークの最小値を規正する弁体と、前記ソレノイドに通電する電流の大きさ(又は電流のオン−オフのデューティ比)に応じた同ソレノイドの吸引力を発生させるべく電流制御(又はデューティ制御)を行う電子制御装置と、を備えるとともに、前記可動子の移動に伴う前記可動子及び固定子の前記移動方向の磁束量の変動を抑制する磁気ショート構造を備え、前記可動子のストロークの最大値及び最小値は、前記磁気ショート構造によって前記ソレノイドの吸引力が不変とされるストローク範囲内に設定されており、前記電子制御装置は、前記ブレーキ液圧の差圧に起因して前記弁体に作用する力と前記ソレノイドの吸引力との釣り合い関係から得られる、前記ブレーキ液圧の差圧と前記ソレノイドに通電する電流値(又は電流のデューティ比)との比例関係に基づいて、前記ソレノイドに通電すべき電流値(又は電流のデューティ比)を算出するものであり、前記可動子の動作により作動する弁体は、前記弁座に設けられた孔を閉鎖することで前記ブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明の差圧制御弁は、ソレノイドの電流を流すことによって、可動子を移動させる吸引力を発生させ、その吸引力に応じてブレーキ液圧の差圧を設定できるものである。この種の差圧制御弁では、可動子と固定子との間隔が変化すると、可動子の移動方向の磁束量が変化し、例えば可動子と固定子とが接近すると磁束量が増大して吸引力が増加するが、この様に吸引力が変化すると、安定した差圧を発生できず、また、低電流を印加した場合の差圧の調節ができない。そこで、上記発明では、可動子が移動しても、移動方向の磁束量が変化を抑制する磁気ショート構造を設けている。
【0013】
それにより、例えば前記図1の実線で示す様に、可動子(プランジャ)の実使用領域では、あまり吸引力が変化しない様にフラットな特性を実現している。つまり、可動子と固定子との間隔が大きな場合に、吸引力が低下しない様にし、また、その間隔が小さな場合でも、吸引力が急激に増加しない様にしている(尚、どちら一方のみをフラットに近づけても、該当する領域では効果はある)。
【0014】
その結果、可動子と固定子との間隔によって吸引力が大きく変化することを防止できるので、可動子の位置にかかわらず安定した差圧を発生させることができ、精密なブレーキ制御を実現することができる。
【0015】
また、上記発明では、例えば前記図2の実線で示す様に、ソレノイドに印加する電流値(又は電流のデューティ比)を変更しても、各電流値(又は電流のデューティ比)においては、可動子の実使用領域ではあまり吸引力が変化しない。そのため、印加電流の値(又はデューティ比)に応じて吸引力を設定できるので、特に、印加電流が小さい場合に精密に差圧を調節できるという効果がある。
【0016】
更に、上記発明では、可動子のストロークの最大値を規制するスリーブと、可動子に押圧されて弁座に着座することで、可動子のストロークの最小値を規正する弁体とを備え、可動子のストロークの最大値及び最小値は、磁気ショート構造によってソレノイドの吸引力が不変とされるストローク範囲内に設定されている。
【0017】
従って、ソレノイドに通電して可動子を移動させた場合でも、吸引力が変化しないので、差圧制御弁はソレノイドに印加する電流値(又は電流のデューティ比)に応じて、電流値(又は電流のデューティ比)の低い値から高い値まで、精密に差圧を設定することができる。
【0018】
上記発明では、電子制御装置が、ブレーキ液圧の差圧に起因して弁体に作用する力とソレノイドの吸引力との釣り合い関係から得られる、ブレーキ液圧の差圧とソレノイドに通電する電流値(又は電流のデューティ比)との比例関係に基づいて、ソレノイドに通電すべき電流値(又は電流のデューティ比)を算出する。
【0019】
上記発明では、ソレノイドに通電する電流値(又は電流のデューティ比)を増減させることにより、前記図2(b)の実線で示す様に、吸引力を変化させることができるので、差圧を精密に調節することができる。
【0020】
また、上記発明では、可動子の動作により作動する弁体は、弁座に設けられた孔を閉鎖することでブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えている。
(2)請求項2の発明では、可動子の動作により作動する弁体のニードル先端部に、開弁時の圧損を低減する圧損低減構造を設けている。
【0021】
例えば図26(a)に示す様に、先が尖って鋭角となっている従来の弁体のニードル先端部の形状の場合には、開弁時に圧損が生じ易い。
そこで、本発明では、ニードル先端部に圧損低減構造を設けているので、開弁時の圧損を低減することができる。この圧損を低減することにより、ブレーキ解除時の応答遅れを改善できるという利点がある。
【0022】
(3)請求項3の発明では、圧損低減構造が、ニードル先端部を鈍角にする構成である。
本発明は、前記請求項2の発明を例示したものであり、圧損低減構造として、例えば図26(c)に示す様に、ニードル先端部を鈍角にする構成を採用している。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0023】
(4)請求項4の発明では、圧損低減構造が、ニードル先端部を平坦にカットする構成である。
本発明は、前記請求項2の発明を例示したものであり、圧損低減構造として、例えば図26(b)に示す様に、ニードル先端部を平坦にカット(例えば弁体と軸方向に垂直にカット)する構成を採用している。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0024】
(5)請求項5の発明では、圧損低減構造が、ニードル先端部を滑らかにカーブさせる構成である。
本発明は、前記請求項2の発明を例示したものであり、圧損低減構造として、例えば図26(d)に示す様に、ニードル先端部を滑らかにカーブさせる(従って鈍角となる)構成を採用している。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明と従来例とを比較して、吸引力とプランジャストロークとの関係を示す説明図である。
【図2】本発明と従来例とを比較して示し、(a)は発生差圧と印加電流との関係を示す説明図、(b)は吸引力とプランジャストロークとの関係を示す説明図である。
【図3】実施例1の差圧制御弁の構造を示す説明図である。
【図4】実施例1の差圧制御弁の磁気ショート構造を拡大して示す説明図である。
【図5】実施例1の差圧制御弁が用いられる車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図6】実施例1によるW/C圧とM/C圧との関係を示す説明図である。
【図7】実施例1の差圧制御弁の磁気ショート構造における磁束の変化を示す説明図である。
【図8】実施例1の圧力増幅アシストブレーキ制御を示すフローチャートである。
【図9】実施例1のブレーキブースタの失陥時の制御を示すフローチャートである。
【図10】実施例2の車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図11】実施例2のトラクション制御を示すフローチャートである。
【図12】実施例3の車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図13】実施例3による後輪側のW/C圧とM/C圧との関係を示す説明図である。
【図14】実施例3による制動力配分の制御を示すフローチャートである。
【図15】他の実施例を示し、(a)は実施例4の磁気ショート構造を示す説明図、(b)実施例5の磁気ショート構造を示す説明図、(c)は実施例6の磁気ショート構造を示す説明図、(d)実施例7の磁気ショート構造を示す説明図である。
【図16】実施例8の磁気ショート構造を示す説明図である。
【図17】実施例8の磁気ショート構造における磁束の変化を示す説明図である。
【図18】実施例9の差圧制御弁を示す説明図である。
【図19】実施例10の差圧制御弁を示す説明図である。
【図20】実施例11の差圧制御弁を示す説明図である。
【図21】実施例12の差圧制御弁を示す説明図である。
【図22】実施例13の差圧制御弁を示す説明図である。
【図23】目標とする差圧制御弁の特性を示す説明図である。
【図24】実施例14の差圧制御弁を示す説明図である。
【図25】実施例15の差圧制御弁を示す説明図である。
【図26】ニードル先端部を示し、(a)は従来のニードル先端部の説明図、(b)は実施例16のニードル先端部の説明図、(c)は他の実施例のニードル先端部の説明図、(d)は更に他の実施例のニードル先端部である。
【図27】実施例17の差圧制御弁の検査方法を示す説明図である。
【図28】実施例17の差圧制御弁の検査方法を示す説明図である。
【図29】実施例18の差圧制御弁の調整方法を示す説明図である。
【図30】吸引力特性を変更するための構成を示す説明図である。
【図31】実施例19の差圧制御弁を示す説明図である。
【図32】実施例19の差圧制御弁に用いる調整シム近傍を、制御ピストン側から示す説明図である。
【図33】実施例20の差圧制御弁を示す説明図である。
【図34】実施例20のラチェット機構を示し、(a)はラチェットを示す側面図、(b)はラチェットを示す底面図、(c)はラチェットと弁座と係合関係を示すために360゜展開した状態を示す説明図である。
【図35】実施例21の差圧制御弁の調整方法を示す説明図である。
【図36】実施例23の差圧制御弁を示す説明図である。
【図37】実施例24の差圧制御弁の調整方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の差圧制御弁及び車両用ブレーキ装置の好適な実施の形態を、例(実施例)を挙げて図面に基づいて詳細に説明する。
(実施例1)
a)まず、差圧制御弁について説明する。
【0027】
図3に示す様に、本実施例の差圧制御弁1は、ソレノイド2に通電することによって駆動される電磁弁である。この差圧制御弁1は、ソレノイド2によって駆動される可動子(プランジャ)3と、プランジャ3の外周を覆ってプランジャ3を摺動可能に保持するスリーブ4と、プランジャ3の移動に伴って押圧されて移動する棒状の制御ピストン6と、制御ピストン6の外周を覆って制御ピストン6を摺動可能に保持するガイド7とを備えている。
【0028】
このうち、ソレノイド2は、印加される電流の大きさに比例して図の破線で示す磁束の量(磁束量)が変化するものであり、その外周を覆う様に、磁束が貫通するヨーク8が配置されている。前記スリーブ4は、非磁性体のステンレス製であり、前記プランジャ3の矢印B方向への移動を所定量に規制するために、図3の上端側が閉塞され、下端側はガイド7の上端に外嵌されている。
【0029】
前記制御ピストン6は、非磁性体のステンレスからなるボディバルブ(弁体)であり、上端側の太径部6a、下端側の小径部6b、更に小径部6bの先端側に位置する円錐状のニードル先端部6cから構成されている。そして、このニードル先端部6cが、ガイド7の中空部11に内嵌された筒状の弁座12の(弁部オリフィスである)連通孔13を閉鎖して、ブレーキ液の流路を閉ざす様に構成されている。尚、制御ピストン6はバネ14により、矢印B方向(即ち開弁方向)に付勢されている。
【0030】
前記ガイド7は、プランジャ3が吸引される側の固定子であり。制御ピストン6が摺動する中空部11は、その下端の先端連通孔16を介して、図5に示すポンプ36側及びホイールシリンダ32側に連通するとともに、側面連通孔17を介してマスタシリンダ31側(図5参照)に連通している。
【0031】
特に本実施例では、図4にその要部である磁気ショート構造を示す様に、プランジャ3の下端面3aには、制御ピストン6を押圧可能な円柱状の凸部21が設けられるとともに、ガイド7の上端面7aには、その凸部21と嵌合可能な様に、円柱状に凹部22が設けられている。
【0032】
そして、図4(a)に示す様に、ソレノイド2の非通電時には、プランジャ3の下端面3aとガイド7の上端面7aとが、一定の間隔を保つ様に設定されており、その場合、凸部21と凹部22とは、その平行な側面にて、わずかにわたり重なり合っている。尚、下端面3aと上端面7aとの間隔が、いわゆるギャップと呼ばれるプランジャストロークの最大値(PS1)である。
【0033】
また、図4(b)に示す様に、ソレノイド2の通電時は、プランジャ3は図の下方(矢印A方向;閉弁方向)に移動して制御ピストン6を同方向に移動させるが、その結果、ピストン6が弁座12に着座して、プランジャ3の矢印A方への動きが停止する様に設定されている。この着座により、下端面3aと上端面7aとの間隔は、プランジャストロークの最小値(PS0)となる。
【0034】
b)次に、上述した構成の差圧制御弁1が用いられる車両用ブレーキ装置について説明する。尚、ここでは、4輪のうちの1輪の構成を例に挙げて説明する。
図5に示す様に、本実施例の差圧制御弁1は、マスタシリンダ(M/C)31とホイールシリンダ(W/C)32とを接続する管路33に配置されており、この差圧制御弁1を迂回する管路34には、吸入側をマスタシリンダ31側とし、吐出側をホイールシリンダ32側とするように、ポンプ36が配置されている。尚、マスタシリンダ31には、踏力を倍力するブレーキブースタ37を介して、ブレーキペダル38が接続されている。
【0035】
従って、この車両用ブレーキ装置は、差圧制御弁1を作動させた状態でポンプ36を作動させることにより、マスタシリンダ圧(M/C圧)よりホイールシリンダ圧(W/C圧)を高めることができる。尚、この車両用ブレーキ装置は、図示しないが、電子制御装置(ECU)により、各種のセンサ、例えば車輪速度を検出する車輪速度センサ、車両の速度を検出する車速センサ、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ、ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ、ブレーキブースタ37に導入される負圧を検出する負圧センサ、ブレーキペダル38の踏力を検出する踏力センサ、搭載される荷物等の荷重を検出する荷重センサ等からの信号に基づいて、各種の電磁弁やポンプ36等のアクチュエータを駆動して、後述する各種の制御を実行する。
【0036】
c)次に、前記差圧制御弁1の基本動作を説明する。
(1)マスタシリンダ圧よりもホイールシリンダ圧を増大させる場合、つまり、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との間に差圧を発生させる場合には、前記図5に示す様に、ポンプ36を作動させて、ブレーキ液をマスタシリンダ31側からホイールシリンダ32側に送るとともに、差圧制御弁1のソレノイド2に通電して、差圧制御弁1を作動させる。
【0037】
このソレノイド2への通電により、電磁力(吸引力F)によって、プランジャ3はバネ14の付勢力に抗して図5の下方(矢印A方向)に移動し、一旦弁座12に着座する。この着座したときには、下記式(1)が成立する。
【0038】
A(P2−P1)=F …(1)
但し、A;弁座の連通孔の受圧面積P2;ホイールシリンダ圧P1;マスタシリンダ圧従って、ソレノイド2に通電し且つポンプ36を作動させることにより、下記式(2)の様に、ホイールシリンダ圧(P2)を増圧することができる。
【0039】
P2=P1+F/A …(2)
また、後に詳述するが、ソレノイド2に通電する電流値(I)に正確に比例して吸引力が発生する。よって、前記式(2)から、図6に示す様に、電流値を増減させることによって、吸引力を変化させて、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との関係を調節することができる。
【0040】
(2)次に、ソレノイド2に通電する電流値に正確に比例して吸引力が発生する理由を説明する。通常、プランジャ3及びガイド7を貫く磁束は、プランジャ3の移動に伴って変化する。つまり、ソレノイド2への通電直後は、プランジャ3とガイド7とはやや離れているので、プランジャ3とガイド7とを貫く磁束量は少ないが、その後、プランジャ3がガイド7に近づくに連れて、プランジャ3とガイド7とを貫く磁束量は増加してゆく。
【0041】
ところが、本実施例の場合、プランジャ3及びガイド7には、互いに嵌合する凸部21及び凹部22が設けてあるので、プランジャ3はガイド7に接近すると、凸部21及び凹部22の平行な側面において重なり合う領域が増加する。そのため、図7(a)〜(c)に磁束の変化を示す様に、プランジャ3がガイド7に接近した場合でも、プランジャ3の移動方向(矢印A方向)の磁束量は増加せずに、凸部21及び凹部22の側面間、即ち移動方向とは垂直方向(径方向)の磁束量が増大する。
【0042】
つまり、プランジャ3の移動にともなう磁束の変化は、移動方向の磁束量が変化せずに、径方向の磁束量が変化するのみである。よって、プランジャ3がガイド7に接近しても、そのプランジャ3を吸引する吸引力は増加せず、常に安定した力で、プランジャ3はガイド7側に吸引されることになる。そのため、一定の力で制御ピストン6が下方に付勢されることになるので、差圧制御弁1においては、常に一定の差圧を発生させることができる。
【0043】
このことを前記図1の実線で示すが、本実施例では、プランジャストロークが変化しても吸引力が変化しないので、あるマスタシリンダ圧に対して常に所定のホイールシリンダ圧となる関係を保持することができる。また、その吸引力は、ソレノイド2に通電する電流値によって調節することができるので、電流値を調節することにより、所定の制御範囲において、前記図6に示した様に、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との関係を任意に設定することができる。
【0044】
また、前記図2の実線に示す様に、実使用領域において、電流値が低い場合でも、電流値に応じて吸引力を設定することができるので、低い電流値でも差圧の制御を精密に行うことができる。
【0045】
d)次に、上述した差圧制御弁1を用いた車両用ブレーキ装置における制御処理について、図8,図9のフローチャートに基づいて説明する。
(1)ここでは、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧より増加させて、制動力を増大する圧力増幅アシストブレーキ制御(PAB)について説明する。
【0046】
まず、図8のステップ100にて、ブレーキペダル38が踏まれて、図示しないストップスイッチがオン(ON)となったか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ110に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。
【0047】
ステップ110では、本圧力増幅アシストブレーキ制御を実施する条件が満たされたか否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ120に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。この判定条件としては、例えば、ペダルストローク速度が所定値(XAmm/sec)以上か否か、あるいは踏力変化速度が所定値(XBkgf/sec)以上か否か等が挙げられる。
【0048】
ステップ120では、図示しないポンプモータをオンして、ポンプ36を作動させる。続くステップ130では、踏力から目標油圧を算出する。続くステップ140では、目標油圧から差圧制御弁1に印加する電流値を算出する。あるいは、その電流値に対応した電流値(又はデューティ比)を算出する。
【0049】
続くステップ150では、算出した電流値(又はデューティ比)に基づいて、ソレノイド2に印加する電流を制御して、差圧制御弁1を駆動する。続くステップ160では、本圧力増幅アシストブレーキ制御を終了するための終了条件が満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ170に進み、一方否定判断されると前記ステップ130に戻る。この判定条件としては、例えば、踏力減少量が所定値XCを上回るか否か、あるいは踏力が所定値XDを下回るか否か等が挙げられる。
【0050】
ステップ170では、ソレノイド2への通電をオフ(OFF)して、差圧制御弁1の作動を停止する。これにより、差圧制御弁1は完全に開弁する。続くステップ180では、ポンプモータをオフして、ポンプ36の作動を停止し、一旦処理を終了する。
【0051】
よって、上述した制御により、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧より高めて制動力を高めることができる。
(2)次に、ブレーキペダル38の踏力を倍力するブレーキブースタ37の失陥時の制御について説明する。
【0052】
まず、ブレーキブースタ37は大気を導入する大気室と負圧を導入する負圧室との差により駆動されるが、ステップ200にて、その負圧室の圧力(内圧)が、所定値(−XEmmHg)を上回るか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、必要な内圧が得られていない、即ちブレーキブースタ37の失陥時であるとして、ステップ210に進む。一方、否定判断されると、ブレーキブースタ37は正常であるとして、一旦本処理を終了する。
【0053】
ステップ210では、ブレーキペダル38が踏まれて、ストップスイッチがオンとなったか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ220に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。ステップ220では、ポンプモータをオンして、ポンプ36を作動させる。
【0054】
続くステップ230では、踏力から目標油圧を算出する。続くステップ240では、目標油圧から差圧制御弁1に印加する電流値を算出する。あるいは、その電流値に対応した電流のデューティ比を算出する。続くステップ250では、算出した電流値(又はデューティ比)に基づいて、ソレノイド2に印加する電流を制御して、差圧制御弁1を駆動する。
【0055】
続くステップオン260では、本ブレーキブースタ37の失陥時の制御を終了するための終了条件が満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ270に進み、一方否定判断されると前記ステップ220に戻る。この判定条件としては、例えば、踏力が所定値(XF)以下であるか否か等が挙げられる。
【0056】
ステップ270では、ソレノイド2への通電をオフして、差圧制御弁1の作動を停止する。続くステップ280では、ポンプモータをオフして、ポンプ36の作動を停止し、一旦処理を終了する。
【0057】
よって、上述した制御により、ブレーキブースタ37が失陥した場合に、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧より高めることにより、ブレーキブースタ37の差圧を利用した倍力作用に代わって制動力を高めることができる。
【0058】
(3)更に、上述した車両用ブレーキ装置を利用して、高G助勢の制御、即ち踏力が高く、ブレーキブースタ37の助勢力を使いきった領域にて、倍力作用をする制御を行うことができる。
【0059】
この高G助勢の制御は、前記図8に示す制御とほぼ同様であるので、詳しい説明は省略するが、前記図8のステップ110の制御実行条件及びステップ160の制御終了条件が異なる。つまり、制御実行条件として、マスタシリンダ圧が所定値(XGbar)を上回るか否か、あるいはブレーキブースタ37内の差圧が所定値(XHmmHg)を下回るか否か等の条件を採用できる。
【0060】
また、制御終了条件として、マスタシリンダ圧が所定値(XGbar)を下回るか否か、あるいはブレーキブースタ37内の差圧が所定値(XHmmHg)を上回るか否か等の条件を採用できる。この様に、本実施例では、プランジャ3及びガイド7に、互いに嵌合する凸部21及び凹部22からなる磁気ショート構造が設けてあるので、ソレノイド2に通電してプランジャ3を移動させた場合でも、吸引力が変化しない。そのため、差圧制御弁1はソレノイド2に印加する電流値に応じて、電流値の低い値から高い値まで、精密に差圧を設定することができる。
【0061】
また、この様に、差圧制御弁1により差圧を正確に設定できるので、この差圧制御弁1を用いた車両用ブレーキ装置では、圧力増幅アシストブレーキ制御、ブレーキブースタ37の失陥時の制御、高G助勢の制御を好適に行うことができる。
【0062】
(実施例2)
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、前記実施例1の差圧制御弁を他の車両用ブレーキ装置に適用したものである。
【0063】
この車両用ブレーキ装置は、周知のアンチスキッド制御(ABS)やトラクション制御(TRC)に加え、旋回時の車両挙動を制御する旋回時制御(VSC)を行なうことができる車両用ブレーキ装置である。図10に示す様に、この車両用ブレーキ装置は、タンデム型のマスタシリンダ41を有し、このマスタシリンダ41には、ブレーキブースタ42を介してブレーキペダル43が接続されている。
【0064】
マスタシリンダ41には、マスタリザーバ46が接続されるとともに、X配管(ダイアゴナル配管)の油圧2系統で構成されてブレーキ油圧を調節する油圧制御回路50が接続されており、油圧制御回路50は、第1油圧配管51a及び第2油圧配管51bから構成されている。
【0065】
前記油圧制御回路50では、第1油圧配管51aを経て右前(FR)輪のホイールシリンダ55と左後(RL)輪のホイールシリンダ56とが連通されている。また、第2油圧配管51bを経て右後(RR)輪のホイールシリンダ57と左前(FL)輪のホイールシリンダ58とが連通されている。
【0066】
前記第1油圧配管51aには、FR輪のホイールシリンダ55の油圧を制御するための周知の増圧制御弁61及び減圧制御弁65と、RL輪のホイールシリンダ56の油圧を制御するための増圧制御弁62及び減圧制御弁66とが設けられ、第2油圧配管51bには、RR輪のホイールシリンダ57の油圧を制御するための増圧制御弁63及び減圧制御弁67と、FL輪のホイールシリンダ58の油圧を制御するための増圧制御弁64及び減圧制御弁68とが設けられている。
【0067】
ここで、第1油圧配管51aについて説明する。各増圧制御弁61,62よりマスタシリンダ41側には、前記実施例1と同様の差圧制御弁71が配置されている。この差圧制御弁71により、(SRC弁74の開状態で)油圧ポンプ78を駆動させた場合には、油圧経路75a側の油圧をマスタシリンダ41側よりも任意の圧力分を高くすることが可能となる。
【0068】
更に、第1の油圧配管51aには、各減圧制御弁65,66から排出されたブレーキ油を一時的に蓄えるリザーバ76と、ブレーキ油を油圧経路75aに圧送するための油圧ポンプ78が備えられている。尚、油圧ポンプ78からのブレーキ油の吐出経路には、内部の油圧の脈動を抑えるダンパ87が設けられている。
【0069】
また、第1油圧配管51aには、ホイールシリンダ圧を加圧する際に、マスタシリンダ41から油圧ポンプ78に直接ブレーキ油を供給するための油圧経路79aが設けられ、この油圧経路79aには、その油圧経路79aを連通・遮断するカットバルブ(SRC弁)74が設けられている。
【0070】
一方、第2油圧配管51bには、前記第1油圧配管51aと同様に、増圧制御弁63,64、減圧制御弁67,68、差圧制御弁72、リザーバ77、油圧ポンプ79、ダンパ88、SRC弁75等が、同様な箇所に設けられている。尚、前記両油圧ポンプ78,79は、電動ポンプモータ81に連結されて駆動される構成となっている。
【0071】
b)次に、本実施例における制御処理について、図11のフローチャートに基づいて説明する。尚、ここでは、TRC制御について説明する。
図11のステップ300では、ブレーキペダル43が踏まれて、図示しないストップスイッチがオフとなったか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ310に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。
【0072】
ステップ310では、駆動輪車輪速度Vaが転動輪車輪速度Vbより大であるか否か、即ちスリップ状態が過大であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ320に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。ステップ320では、ポンプモータ81をオンして、ポンプ78,79を作動させる。
【0073】
続くステップ330では、図示しないソレノイドに通電して、差圧制御弁71,72、SRC弁74,75を駆動する。続くステップ340では、増圧制御弁61〜64及び減圧制御弁65〜68を制御して、駆動輪車輪速度Vaを制御する。
【0074】
続くステップ350では、駆動輪車輪速度Vaが転動輪車輪速度Vbと同じであるか否かを判定する。ここで、肯定判断されるとステップ360に進み、一方否定判断されると前記ステップ340に進む。ステップ360では、ポンプモータ81をオフして、ポンプ78,79の作動を停止する。
【0075】
続くステップ370では、ソレノイドへの通電をオフして、差圧制御弁71,72、SRC弁74,75の作動を停止し、一旦本処理を終了する。この様に、本実施例では、上述した車両用ブレーキ装置に差圧制御弁71,72を用いるので、TRC制御等の各種の制御を、差圧制御弁71,72のソレノイドに印加する電流を調節することにより、精密に行うことができる。
【0076】
(実施例3)
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、前記実施例1の差圧制御弁の接続方向を逆にして車両用ブレーキ装置に配置することにより、後輪側より前輪側のブレーキ液圧を高くすることができるものである。
【0077】
a)図12に示す様に、本実施例の車両用ブレーキ装置においては、差圧制御弁91は、マスタシリンダ92と後輪側のホイールシリンダ93とを接続する管路94に配置されており、管路94から分岐した管路95には、前輪側のホイールシリンダ94が接続されている。
【0078】
特に本実施例では、差圧制御弁91の先端連通孔97(高圧側)が、マスタシリンダ92側と前輪のホイーシリンダ94側に接続され、一方、差圧制御弁91の側面連通孔98(低圧側)が後輪のホイールシリンダ93側に接続されている。
【0079】
b)次に、この車両用ブレーキ装置の動作を説明する。
図示しないソレノイドに通電して、差圧制御弁91を作動させたときには、図13に示す様に、ソレノイドに印加する電流値に応じて、マスタシリンダ圧と後輪側のホイールシリンダ圧との関係が設定される。
【0080】
従って、ブレーキペダル99が踏まれた場合に、差圧制御弁91を作動させたときには、前輪側のホイールシリンダ94には、マスタシリンダ圧がそのまま伝わるが、図13の様に、前輪側より後輪側のブレーキ液圧を任意に低く設定できる。
【0081】
そのため、例えば制動時において、後輪側より前輪側のブレーキ液圧を高めて、いわゆる(車輪ロック時における)前輪先行ロックを実現することができ、ロックの車両の制動をより安定して行うことができる。また、後輪側と前輪側のブレーキ液圧の差は、ソレノイドに印加する電流の大きさにより任意に設定できるので、例えば車両に搭乗する人数や搭載する荷物の荷重等に応じて、適宜その差圧を設定することにより、前後制動力配分を車両の最大の制動力が発揮できる配分として、制動時における車両の安定性を高めるとともに、制動性能を大きく向上することができる。
【0082】
c)次に、前記車両用ブレーキ装置における制御処理を、図14のフローチャートに基づいて説明する。尚、本制御は、制動力配分を調節する制御である。
図14のステップ400にて、例えば荷重センサからの信号に基づいて、車両の積載量を検出する。
【0083】
続くステップ410では、図示しないブレーキスイッチがオンであるか否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ420に進み、一方否定判断されると一旦本処理を終了する。ステップ420では、踏力センサからの信号に基づいて、踏力を検出する。
【0084】
ステップ430では、踏力と積載状態とに基づいて、目標油圧を算出する。続くステップ440では、目標油圧と踏力とに基づいて、差圧制御弁91のソレノイドに印加する電流値(あるいはそのデューティ比)を算出する。続くステップ450では、算出した電流値(あるいはそのデューティ比)に基づき、差圧制御弁91を駆動する。
【0085】
続くステップ460では、ブレーキスイッチがオンか否かを判定し、ここで肯定判断されると前記ステップ410に戻り、一方否定判断されるとステップ470に進む。ステップ470では、ソレノイドをオフして、差圧制御弁91の駆動を停止し、一旦本処理を終了する。
【0086】
つまり、この様な制御により、好適な制動力配分にて、優れた制動性能を発揮することができる。また、この様に制動力配分を行うことにより、例えば車両の搭載荷重が変化した場合でも、同じ踏力で同様な制動力を実現することができる。
【0087】
(実施例4)
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。
【0088】
図15(a)に示す様に、本実施例の差圧制御弁101においては、スリーブ102に内嵌されたプランジャ103の下端の凸部104には、プランジャ103及びガイド105に内嵌された制御ピストン106の移動方向(図の上下方向)から傾斜した凸側テーパ部104aが形成されている。一方、ガイド105の上端の凹部108には、凸側テーパ部104aと平行な凹側テーパ部108aが形成されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0089】
本実施例の差圧制御弁101においても、プランジャ103の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、凸側テーパ部104aと凹側テーパ部108aとの間の磁束量であり、プランジャ103の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0090】
よって、プランジャ103の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁101により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例5)
次に、実施例5について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0091】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図15(b)に示す様に、本実施例の差圧制御弁111においては、スリーブ112に内嵌されたプランジャ113の下端には、円柱状の凹部114が設けられ、ガイド115の上端には、円筒状の凸部116が設けられ、その凸部116を貫通する様に、ガイド115に制御ピストン117が内嵌されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0092】
本実施例の差圧制御弁111においても、プランジャ113の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、凹部114と凸部116との間の磁束量であり、プランジャ113の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0093】
よって、プランジャ113の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁111により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例6)
次に、実施例6について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0094】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図15(c)に示す様に、本実施例の差圧制御弁121においては、スリーブ122に内嵌されたプランジャ123は、バネ124により図の上方に付勢されており、このプランジャ123の下端には、先端が円錐状になった円柱状の凸部125が設けられている。一方、ガイド126の中空部127には、凸部125の円錐状の部分に対応して段差128が設けられている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0095】
本実施例の差圧制御弁121においても、プランジャ123の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、凸部125の先端部分と段差128との間の磁束量であり、プランジャ123の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0096】
よって、プランジャ123の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁121により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例7)
次に、実施例7について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0097】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図15(d)に示す様に、本実施例の差圧制御弁131においては、スリーブ132に内嵌されたプランジャ133の下端には凹凸がなく平坦となっている。一方、制御ピストン134が内嵌されたガイド135の上端も平坦である。
【0098】
特に、本実施例では、スリーブ132のほぼ全体は磁性体であるが、下端側の一部には環状に非磁性体が配置されている。つまり、プランジャ133が上方に移動した場合にその下端の位置と前記非磁性体の下端の位置とが、ほぼ同じ位置に設定されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。
【0099】
本実施例の差圧制御弁131においても、プランジャ133の図の下方への移動により、磁束量が増加するが、その増加分は、プランジャ133の下部とスリーブ132の磁性体の下部132aとの間の磁束量であり、プランジャ133の移動方向の磁束量はそれほど増加することがない。
【0100】
よって、プランジャ133の移動によって吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁131により差圧の設定を精密に行うことができる。
(実施例8)
次に、実施例8について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0101】
本実施例は、前記実施例1とは、差圧制御弁の磁気ショート構造が異なっている。図16に示す様に、本実施例の差圧制御弁141においては、プランジャ142を内嵌するスリーブ143の外側には、ソレノイド144が配置され、ソレノイド144の外周を覆う様に、ヨーク145が配置されている。
【0102】
特に、本実施例では、ヨーク145の上部と、プランジャ142が図の上方の移動した場合の上部の位置とが、ほぼ同じ位置に設定されている。それにより、図に示す磁気ショート構造が形成されている。本実施例の差圧制御弁141においては、図17(a)に示す様に、プランジャが図の上方に位置している場合には、ヨーク145とプランジャとを貫く磁束量は多いが、図17(b)に示す様に、プランジャ142が図の下方に移動した場合には、ヨーク145とプランジャ142とを貫く磁束量が減少する。
よって、プランジャ142が前記図16の下方に移動して、通常なら、プランジャ142とガイド146との間の磁束量は増加するはずであるが、本実施例では、前記図17(b)に示す様に、磁気ショート構造における磁束量が減少するので、図16の破線で示す全体の磁束量は変化しない。そのため、吸引力が増加することがないので、前記実施例1と同様に、差圧制御弁141により差圧の設定を精密に行うことができる。
【0103】
(実施例9)
次に、実施例9について説明するが、前記実施例1と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例では、差圧制御弁の下流側に、圧損を付加する圧損付加機構としてオリフィスを配置している。
【0104】
a)まず、本実施例の差圧制御弁の構成について説明する。
図18に示す様に、本実施例の差圧制御弁151においては、前記実施例1と同様な磁気ショート構造を備えるとともに、磁気可動子であるプランジャ152と、プランジャ152を磁力により付勢するソレノイド153と、弁体である制御ピストン154と、制御ピストン154を内嵌するガイド156と、制御ピストン154のニードル先端部155が着座する弁座157と、制御ピストン154をソレノイド153の付勢力に抗して図の上方に付勢するバネ(リターンスプリング)158等を備えている。
【0105】
特に本実施例では、プランジャ152と制御ピストン154とは、結合用ピン159により、一体に接続されている。従って、両者152,154は、常に一体となって上下動する。また、本実施例では、ポンプ側(及びホイールシリンダ側)と、制御ピストン154が配置されたガイド156の中空部161とは、上流オリフィス162を有する主連通路163により接続されている。しかも、ホイールシリンダ側とマスタシリンダ側とは、チェック弁164を介して接続されている。
【0106】
更に、前記中空部161は、下流側連通路167,168を介してマスタシリンダ側と連通しているが、この下流側連通路167,168には、差圧制御弁151の下流側にて圧損(背圧)を付加するために、下流オリフィス166,169が設けられている。
【0107】
尚、主連通路163に至る流路及び下流側連通路167,168には、各々フィルタ171,172が配置されている。また、前記ガイド156は、ハウジング174に固定されており、ハウジング174と前記ソレノイド153との間には、磁路の一部を形成する枠体176が配置されている。従って、ソレノイド153によって発生する磁束は、同図に破線で示す様に、ヨーク177や枠体176を貫通する磁路を形成する。
【0108】
尚、本実施例のソレノイド153は、前記実施例1の円筒状とは多少異なり、図の左右で非対象であるが、その機能はほぼ同一である。
b)次に、本実施例の差圧制御弁151の作用効果を説明する。
【0109】
本実施例の差圧制御弁151においては、その下流側(マスタシリンダ側)に下流オリフィス166,169が設けてある。
従って、例えば上述したTRC、VSC、PAB等の機能を用いる場合において、ブレーキペダル43を緩めた時に、この差圧制御弁151を、ポンプ上流圧のリリーフ機能(高圧を逃がす機能)として用いる場合でも、高圧のホイールシリンダ側に対して直ちに大気圧(マスタシリンダ圧)にリリーフせずに、下流オリフィス166,169により、若干の背圧がかかることになる。
【0110】
これにより、ブレーキ液が高圧から低圧になる場合に発生し易いエアレーションの発生を抑制することができるので、ブレーキ性能を確実に保持することができる。また、本実施例では、プランジャ152と制御ピストン154が一体化しているので、前記高圧のホイールシリンダ圧をリリーフする場合に、制御ピストン154が振動し難い。よって、この点からも、エアレーションを防止することができるという利点がある。
【0111】
(実施例10)
次に、実施例10について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例では、差圧制御弁の下流側に、圧損を付加する圧損付加機構として、補助弁体を備えた一方向オリフィスを配置している。
【0112】
図19に示す様に、本実施例の差圧制御弁181には、ガイド182の中空部183とマスタシリンダ側とを連通する下流側連通路184に、溝状の切欠オリフィス186、球状の補助弁体187、及び補助バネ188からなる一方向オリフィス189が設けられている。
【0113】
前記切欠オリフィス186は常開であり、補助弁体187は補助バネ188により常に閉弁方向(矢印A)方向に付勢されている。この補助弁体187は(ホイールシリンダ側が大の)差圧が大きくなると矢印B方向に移動して下流側連通路184を開く。
【0114】
この一方向オリフィス189は、ホイールシリンダ側とマスタシリンダ側との差圧が大きい場合に、ブレーキペダル43を緩めたときには、補助弁体187が図のA方向に移動して大きく流路を開くので、ブレーキ液の流量を確保することができる。それによって、いわゆるひきずり感(ブレーキペダル43を離しても制動力がなかなか弱くならない現象)を防止することができる。
【0115】
一方、差圧が小さな場合には、補助弁体187は補助バネ188の付勢力により移動しないので、通常のオリフィスとして機能し、前記実施例9と同様に、エアレーションの発生を防止することができる。また、差圧の大きさにより、補助弁体187の移動量(従ってその開度)が異なるので、補助弁体187がわずかに移動する差圧の場合には、その差圧に応じたオリフィスとしての機能を有する。
【0116】
尚、本実施例では、一方向オリフィス189を設けるために、中空部183の内径が小さくなっている。
(実施例11)
次に、実施例11について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0117】
本実施例では、制御ピストンの先端側に、圧損を付加する圧損付加機構として、オリフィスを備えた制御スリーブを配置している。図20に示す様に、本実施例の差圧制御弁191には、制御ピストン192の先端側の外周に、円筒状の制御スリーブ193が一体に固定されており、この制御スリーブ193は、制御ピストン192の中径部192a及びバネ194の周囲を覆っている。また、制御スリーブ193の先端は、一部が短冊状に切り欠かれて、複数の切欠部196が設けられている。
【0118】
一方、弁座197の上面には、制御スリーブ193の先端の外周を覆う様に、環状の凸部198が設けられている。そして、この環状の凸部198の内周面と制御スリーブ193の外周面との間に、わずかに隙間がある様に、各部材の径が設定されている。
【0119】
従って、制御ピストン192が上昇している場合には、主連通路201と下流側連通路202とは、制御スリーブ193の切欠196を介して、ブレーキ液の流量が充分に確保できる様に、その流路が開かれている。一方、制御ピストン192が下降している場合には、環状の凸部198の内周面と制御スリーブ193の外周面との隙間が、オリフィスとして機能するので、前記実施例9と同様に、差圧制御弁191の下流側にて、背圧を付加することができる。それにより、エアレーションの発生を防止できる。
【0120】
特に、本実施例では、ブレーキペダル43を戻した場合には、制御ピストン192が上昇して、ブレーキ液の流量が確保できるので、前記引きずり現象が少なく、応答性がよいという利点がある。尚、本実施例では、前記実施例9の様な下流側連通路の下流オリフィスを備えていない。
【0121】
(実施例12)
次に、実施例12について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例では、制御ピストンの先端側に、圧損を付加する圧損付加機構として、別体の制御スリーブ等を配置している。
【0122】
図21に示す様に、本実施例の差圧制御弁211には、制御ピストン212の先端側の外周に、制御ピストン212とは別体の円筒状の制御スリーブ213が、摺動可能に配置されている。この制御スリーブ213は、バネ(補助スプリング)214により閉弁方向(図の下方)に付勢されている。更に、制御スリーブ213の先端は、一部が切り欠かれて、オリフィスとして機能する切欠部216が設けられている。
【0123】
また、制御スリーブ213と制御ピストン212の中径部212aとの間には、ストッパ217が配置されている。このストッパ217は、バネ(リターンスプリング)218により、図の上方に付勢されて、段差部212bに着座しており、制御スリーブ213の下方への移動を規制している。
【0124】
一方、弁座215の上面には、バネ218と制御スリーブ213の先端との間にて、環状に突出する凸部219が設けられている。この凸部219の外周は傾斜しており、この外周に制御スリーブ213の下端が着座する構成である。本実施例では、ソレノイド221に通電されると、制御ピストン212が下降するが、このとき、バネ214の付勢力により、制御スリーブ213も下降する。そして、制御ピストン212の閉弁手前で、制御スリーブ213の先端が凸部219の外周に着座し、切欠部216にてオリフィスの機能が発揮される。これにより、差圧制御弁211の下流側にて背圧を付加することができるので、エアレーションの発生を防止できる。
【0125】
尚、制御ピストン212の閉弁手前で、制御ピストン212の先端が凸部219の外周に着座し、制御ピストン212が閉弁しないのは、制御ピストン212での調圧制御時に、確実に切欠部216でのオリフィス機能を持たせるためである。
【0126】
一方、ソレノイド221を非通電とすると、制御ピストン212及び制御スリーブ213がバネ218の付勢力により上昇するので、ブレーキ液の流路が充分に開かれ、流量が確保されるが、オリフィスの機能がなくなる。これにより、ブレーキペダル43の戻し時に、ブレーキのひきずり感を無くして、応答性を向上できる。
【0127】
尚、本実施例では、前記実施例9の様な下流側連通路の下流オリフィスを備えていない。
(実施例13)
次に、実施例13について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。
【0128】
本実施例では、ソレノイドの磁力による横力(サイドフォース)の影響を低減する横力影響低減機構を設けている。
a)図22(ハッチング略)に示す様に、本実施例の差圧制御弁231には、プランジャ232の上部に、プランジャ232の外径を小さくする様な凹部(磁路逃げ部)233が、全周にわたり設けてある。更に、凹部233の上方には、スリーブ234に摺動可能に支持される凸部236が、プランジャ232の全周にわたり設けてある。この凸部236の形成位置は、ソレノイド237により発生する磁束が殆どない領域、即ち磁路外である。つまり、ソレノイド237により発生する磁束による磁路は、図示する様に、凹部233より下方の位置となる。
【0129】
b)次に、本実施例の作用効果を説明する。
プランジャ232と磁束を発生する箇所(ソレノイド237及びヨーク238)との間には、スリーブ234が存在することにより、磁束が発生する部材とその磁束による付勢力を受ける部材との間に距離(サイドギャップ)がある。また、磁束が発生した場合には、プランジャ232は、閉弁方向の押圧力だけでなく、横方向の付勢力(横力=サイドフォース)を受ける。ところが、この横力は、前記サイドギャップがあると、かならずしも安定しないので、ソレノイド237に印加する電流の増加又は減少の際して、印加電流に応じて(差圧制御弁231の上流側と下流側との間にて)決まった差圧が発生しないことがある。つまり、ヒステリシスが生じてしまう。
【0130】
そこで、本実施例では、このヒステリシスの原因であるソレノイド237の磁力による横力の影響を低減するために、磁路外に、プランジャ232の凸部236を設け、この凸部236がスリーブ234に支持されて、プランジャ232が摺動する様にしている。
【0131】
それにより、図23に示す様に、ソレノイド232に所定の電流を加えれば、常に決まった差圧△Pを一義的に設 定することができる。具体的には、例えば電流値をAとすれば、差圧制御弁231により設定される差圧を△PAとすることができ、それより大きな電流値Bとすれば、それより大きな差圧△PBとすることができる。
【0132】
尚、前記実施例9では説明しなかったが、前記図18に示す様に、プランジャ152の上部に環状の凹部152aが設けてあり、更に凹部152aの上方に本実施例と同様な凸部152bが磁路外に設けてある。この凸部152bも、本実施例と同様に、横力の影響を低減する機能を有する。
【0133】
(実施例14)
次に、実施例14について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例も、前記実施例13と同様に、ソレノイドの磁力による横力(サイドフォース)の影響を低減する横力影響低減機構を設けている。
【0134】
図24に示す様に、本実施例の差圧制御弁241には、プランジャ242の上部に、プランジャ242の外径を小さくする様な切欠部243が、全周にわたり設けてある。更に、切欠部243の下端には、スリーブ244に摺動可能に支持される非磁性リング246が外嵌している。
【0135】
本実施例の場合には、プランジャ242は、非磁性リング246により径方向の位置決めがされているので、ソレノイド247の磁力による横力の影響を低減することができる。それにより、上述したソレノイド247に印加する電流の増加又は減少におけるヒステリシスの発生を防止でき、前記図23に示す様な好ましい特性を実現することができる。
【0136】
(実施例15)
次に、実施例15について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例も、前記実施例13,14と同様に、ソレノイドの磁力による横力(サイドフォース)の影響を低減する横力影響低減機構を設けている。
【0137】
図25に示す様に、本実施例の差圧制御弁251では、プランジャ252の外径が、上方にゆくほど小さくなって、逃げ部253が形成されている。この逃げ部253は、後述する支持部257でのクリアランスによる傾きに対して、スリーブ255との間に確実にクリアランスを持ち、プランジャ252の動きを安定化する機能を有する。
【0138】
また、プランジャ252と一体に接続された弁体254の外周には、軸方向にブレーキ液が通過できる複数の溝256が形成してある。また、各溝256の間は、軸方向に沿って、弁体254の外周方向に突出した支持部257が形成されており、この支持部257がガイド258に支持されて摺動することにより、弁体254が上下方向に移動可能となっている。
【0139】
つまり、本実施例では、弁体254の支持部257がガイド258に摺動可能に支持されているので、ソレノイド259の磁力における横力の影響を低減でき、よって、上述したヒステリシスをなくすることができる。また、この弁体254の支持部257がガイド258に摺動可能に支持されている構成により、前記実施例9と同様に、弁体254の着座位置近傍における振動の発生を防止して、エアレーションの発生を抑制することができる。
【0140】
(実施例16)
次に、実施例16について説明するが、前記実施例9と同様な箇所の説明は省略又は簡略化する。本実施例は、開弁時の圧損を低減する様に、ニードル先端部の形状を工夫したものである。
【0141】
従来では、図26(a)に示す様に、ニードル先端部が鋭角になっており、それにより、弁体の開弁時には、圧損が生じていた。そこで、本実施例では、図26(b)に示す様に、弁体261のニードル先端部262の形状として、先端を平坦に(軸方向と垂直に)カットしている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0142】
また、他の実施例では、図26(c)に示す様に、弁体271のニードル先端部272の形状として、先端を鈍角の円錐形状としている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。更に、他の実施例では、図26(d)に示す様に、弁体281のニードル先端部282の形状として、先端を滑らかなカーブ(略球状)形状としている。これにより、開弁時の圧損を低減できる。
【0143】
(実施例17)
次に、実施例17について説明する。本実施例は、差圧制御弁の検査方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。
【0144】
図27に示す様に、検査用のユニット301としては、組み付け前の差圧制御弁において、プランジャ152、制御ピストン154、バネ158、弁座157、ガイド156等を組み付けたものを用いる。この検査用ユニット301に対し、そのプランジャ152側(図では上方)から検査用基準コイル部302をかぶせる。この検査用基準コイル部302とは、ソレノイド153、ヨーク177、枠体176、スリーブ160等からなる磁力発生用のものである。
【0145】
そして、図28に示す様に、検査用ユニット301と検査基準コイル部302とを組み合せ、ソレノイド153に電源303を接続するとともに、電源303と直接に電流計304を配置する。一方、マスタシリンダ側の主連通孔163内(但しフィルタ171はない)に、測定装置306を配置する。この測定装置306は、円錐部307の先端からロッド308が延長された形状をしており、ロッド308の上端はニードル先端部165の下端に接触している。また、測定装置306の下方には、測定装置306に加わる押圧力、即ちニードル先端部165からロッド308に加わる押圧力を測定するために、図示しない荷重計が配置されている。
【0146】
この構成において、例えばソレノイド153に印加する電流を変化させ、その場合の荷重(ソレノイド153の磁力による制御ピストン154の押圧力)を調べ、この電流と荷重との関係から、所望のソレノイド吸引力特性が得られているかどうかを調べることができる。
(実施例18)
次に、実施例18について説明する。本実施例は、調整シムを用いた差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。
【0147】
例えば前記実施例17で示した検査方法で、図29の実線で示す測定結果(ソレノイド153の吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。尚、制御ピストン154は、バネ(リターンスプリング)158により開弁方向に付勢されているので、ソレノイド153に印加する電流が0の場合には、荷重Fは、バネ158のオフセット荷重(但し逆方向であるので−)となる。
【0148】
そこで、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、シム調整を行なう。このシム調整とは、図30に示す様に、バネ158と制御ピストン154との間に調整シム401をかませて(配置して)、バネ158のオフセット荷重を調節するものである。例えば、調整シム401をかませることにより、オフセット荷重は、図29に示す様に、下方に△tだけ平行移動する。その結果、実線の吸引力特性を破線の吸引力特性に変更することができるのである。
【0149】
前記調整シムの厚さを変更することで、オフセット荷重を変えることができるので、吸引力特性を任意の位置に平行移動させて変更することができる。尚、荷重F(又はFA)とは、実際の差圧制御弁を使用する際には、差圧△P(又は△PA)×弁部(上流)オリフィス162の断面積Sに相当する。
【0150】
(実施例19)
次に、実施例19について説明する。本実施例は、前記実施例18に示した調整シムを用いた差圧制御弁の調整方法の別態様を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9とほぼ同様な差圧制御弁を例に挙げる。
【0151】
この場合、調整の効果としては、前記実施例18と同様であり、リターンスプリングのセット長変更により、オフセット荷重調整を行なうものであるが、本実施例では、弁座及びスリーブの圧入及び溶接後の組み付けにおける後工程において、調整を可能にしたことが、前記実施例18と相違する。
【0152】
つまり、前記実施例18では、リターンスプリングとボディバルブの段付部(スプリングの受け面)との間に、調整シムをかませたが、この構成では、弁座又はスリーブの組み付け前に調整シムを選択する必要があり、その後の組み付けによる特性変化まではカバーできない。
【0153】
そこで、本実施例においては、図31及び図32に示す様に、調整シム501をリターンスプリング503と弁座505との間に、ガイド507に設けた穴(挿入穴)509を通して、外部より挿入可能としている。前記調整シム501は、先端側(両図において左側)が二つに分岐するとともに、後端側が垂直(図31の下方)に曲げられており、分岐した箇所にて、制御ピストン510のニードル先端部511が進入可能な様に、略U字状の切欠部513が設けられている。これにより、リターンスプリング503の下端は、調整シム501の上面に当接して受けられることになる。
【0154】
つまり、本実施例では、弁座505及びスリーブ515の圧入及び溶接後の組み付けにおける後工程において、即ち組み付け最終工程において、最終的な弁構成としての特性調整が可能となり、より精度の良い特性調整が可能となる。尚、調整シム501は、抜け防止のために、ロック機構を備えていることがより望ましい。このロック機構とは、図31及び図32において、調整シム501の後端側の係合部517と、ガイド507の挿入穴509におけるロック用溝部519である。
【0155】
(実施例20)
次に、実施例20について説明する。本実施例は、前記実施例18及び実施例19と同様の差圧制御弁のオフセット荷重調整方法の別態様を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9とほぼ同様な差圧制御弁を例に挙げる。
【0156】
この場合、調整の効果としては、前記実施例18及び実施例19と同様であり、リターンスプリングのセット長変更により、オフセット荷重調整を行なうものであるが、本実施例では、前記実施例19と同様な組み付け後工程における特性調整を、前記実施例19とは別手段により行なうものである。
【0157】
つまり、前記実施例18及び実施例19では、シム調整により、リターンスプリングのセット荷重を変更していたが、本実施例では、ラチェット機構の係合の組み合せを変えることにより、段階的にリターンスプリングのセット荷重を変更するものである。
【0158】
具体的には、図33に示す様に、リターンスプリング601と弁座603との間に、円盤状のラチェット605を配置する。このラチェット605には、図34に示す様に、スプライン状の外周歯部605aとラチェット状の下面歯部605bとが設けてあり、下面歯部605bと向き合う弁座603側には、爪部607が設けてある。
【0159】
そして、ラチェット605と弁座603側の爪部607との係合の組み合せ、即ち図34(c)の(1)、(2)、(3)のうちのどちらかの組み合せを、組み付け最終工程にて、図33に示すガイド609に設けられた調整穴611より、ドライバ等にて、ラチェット605の外周歯部605aに、引っかけて回転することにより、変更可能とした。
【0160】
これにより、ラチェット605と弁座603との相対位置が変わり、結果として、リターンスプリング601のセット長を調整できる。従って、本実施例では、前記実施例19と同様に、組み付け最終工程において、最終的な弁構成としての特性調整が可能となり、より精度の良い特性調整が可能となる。また、調整のための構成が簡易であるという利点がある。
【0161】
(実施例21)
次に、実施例21について説明する。本実施例は、調整プレートを用いた差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。
【0162】
例えば前記実施例17で示した検査方法で、図35の実線で示す測定結果(吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。そこで、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、磁気絞り調整を行なう。
【0163】
この磁気絞り調整とは、前記図30に示す様に、枠体176を構成する複数の板状の調整プレート402を交換して、磁気絞り部403の形状を変更し、それにより、磁路の状態、即ち枠体176を通過する磁束を調整して、吸引力特性の勾配を調節するものである。
【0164】
尚、前記調整プレート402としては、リング状のものを採用でき、磁気絞り部403を構成する部分のみが切り欠かれた調整プレート402を、複数用意して選択して使用することにより、枠体176を構成する。例えば、調整プレート402を変更して、磁気絞り部403を大きくする(特に図の上下方向における断面積)と磁路が小さくなる。その結果、印加電流を大きくしても、荷重が増加しにくくなる。即ち、磁気絞り部403を大きくすると、吸引力特性の勾配が小さくなる。
【0165】
従って、オフセット荷重は変更しないのであるから、磁気絞り部403を大きくすれば、図35に示す様に、吸引力特性の勾配が△αだけ小さくなる。その結果、実線の吸引力特性を破線の吸引力特性に変更することができる。
【0166】
(実施例22)
次に、実施例22について説明する。
本実施例は、磁気回路上の可動子と固定子の間のエアギャップ調整による差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。例えば前記実施例17で示した検査方法で、図35の実線で示す測定結果(吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。
【0167】
そこで、本実施例では、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、エアギャップ調整を行なう。このエアギャップ調整とは、前記図30に示す様に、ガイド156に対する弁座157の圧入量を調節することにより、磁気回路を構成する可動子(プランジャ152)と固定子(ガイド156)の間のエアギャップを変更し、それにより、磁路の状態、即ちエアギャップを通過する磁束を調節して、吸引力特性の勾配を調節するものである。
【0168】
例えば、弁座157の圧入量を変更して(多くして)、閉弁時のエアギャップを大きくすると、発生磁力が低下する。その結果、印加電流を大きくしても、荷重が増加しにくくなる。即ち、エアギャップを大きくすると、吸引力特性の勾配は小さくなる。
【0169】
従って、オフセット荷重は変更しないのであるから、エアギャップを大きくすれば、図35に示す様に、吸引力特性の勾配が△αだけ小さくなる。その結果、実線の吸引力特性を破線の吸引力特性に変更することができる。尚、前記とは逆に、エアギャップを小さくすると、吸引力特性の勾配は大きくなる。
【0170】
(実施例23)
次に、実施例23について説明する。本実施例では、前記実施例18に示したリターンスプリングのセット荷重調整によるオフセット荷重変更と、前記実施例22に示したエアギャップ調整による吸引力特性の変更とを、弁座の圧入量調整により同時に実現する方法を示す。
【0171】
前記実施例22に対する構成及び効果の相違点として、図36に示す様に、リターンスプリング701の受け面を、弁座703ではなく、ガイド705に変更する。これにより、弁座703の圧入量(シート圧入量)を調節することにより、可動子(プランジャ707)と固定子(ガイド705)との間のエアギャップを変更できるとともに、同時にリターンスプリング701のセット長(調整時の状態である閉弁側)も変更できる。
【0172】
そのため、図1に示す様なエアギャップに対する吸引力変化の少ない領域(図1の実使用領域)であっても、調整の効果がセット長がかわることにより、調整のゲインを維持できる。即ち、図1の実使用領域では、エアギャップを若干変更しても吸引力の変化が少なく調整の効果が出にくいが、本実施例では、同時にオフセット荷重変更も伴う調整であるため、この分の調整効果は常に確保されている。
【0173】
また、本実施例では、弁座703の構成を簡易化でき、チェック弁709部分の穴加工もガイド705側に集中できるため、スペース上余裕ができ、製造上も有利になる。
(実施例24)
次に、実施例24について説明する。
【0174】
本実施例は、調整シム及び調整プレートを用いた差圧制御弁の調整方法を示すものであり、ここでは、検査対象の差圧制御弁として、前記実施例9の差圧制御弁を例に挙げる。本実施例は、前記実施例18と実施例21の調整とを共に行ったものである。
【0175】
例えば前記実施例17で示した検査方法で、図37の実線で示す測定結果(吸引力特性)が得られたとする。この場合、目標とする吸引力特性は、同図の破線で示すものである。そこで、この測定された実線の吸引力特性を、目標とする破線の吸引力特性となる様に変更するために、磁気絞り調整及びシム調整を行なう。
【0176】
まず、磁気絞り調整により、実線の吸引力特性の勾配を変更して、一点鎖線で示す吸引力特性とする。次に、シム調整により、前記一点鎖線で示す吸引力特性を平行移動して、図の破線で示す吸引力特性とする。
【0177】
これにより、測定対象の差圧制御弁の吸引力特性が、目標とする吸引力特性から大きくずれている場合でも、この磁気絞り調整及びシム調整により、容易に目標とする吸引力特性とすることができる。尚、磁気絞り調整では、吸引力特性の勾配を小さくする例を挙げたが、基準となる磁気絞り部を設定しており、その磁気絞り部を大きくして勾配を小さくし、磁気絞り部を小さくして勾配を大きくすることができる。
【0178】
同様に、シム調整に関しても、基準となる調整シムを配置しておき、調整シムを厚くすることでオフセット荷重を大きくして、図37の下方に吸引力特性を平行移動させることができ、一方、調整シムを薄くすることでオフセット荷重を小さくして、図37の上方に吸引力特性を平行移動させることができる。
【0179】
尚、本発明は前記実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。例えば上述した各実施例の差圧制御弁は、前記図5,図10,図12の車両用ブレーキ装置に使用することができる。
【符号の説明】
【0180】
1,71,72,91,101,111,121,131,141,151,181,191,211,231,245,251…差圧制御弁
2,144,153,221,237,247,259…ソレノイド
3,103,113,123,133,142,152,232,242,252,707…プランジャ
4,102,122,132,160,234,244,515…スリーブ
6,106,117,134,154,192,212,254,261,271,281,510…制御ピストン
7,105,115,126,135,146,156,182,258,507,609,705…ガイド
8,145,177,238…ヨーク
21,104,116,125…(磁気ショート部における)凸部
22,108,114…(磁気ショート部における)凹部
31,41,92…マスタシリンダ
32,55,56,57,58,93,94…ホイールシリンダ
36,77,79…ポンプ
261,271,281…弁体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液の管路に配置されて、ブレーキ液圧の差圧を調節する差圧制御弁において、
該差圧制御弁は、ソレノイドにより発生する磁束が貫通し、その磁力により移動する可動子と、
該可動子の移動方向に配置されて、前記ソレノイドによる磁束が貫通する固定子と、
前記可動子のストロークの最大値を規制するスリーブと、
前記可動子に押圧されて弁座に着座することで、前記可動子のストロークの最小値を規正する弁体と、
前記ソレノイドに通電する電流の大きさに応じた同ソレノイドの吸引力を発生させるべく電流制御を行う電子制御装置と、
を備えるとともに、
前記可動子の移動に伴う前記可動子及び固定子の前記移動方向の磁束量の変動を抑制する磁気ショート構造を備え、
前記可動子のストロークの最大値及び最小値は、前記磁気ショート構造によって前記ソレノイドの吸引力が不変とされるストローク範囲内に設定されており、
前記電子制御装置は、前記ブレーキ液圧の差圧に起因して前記弁体に作用する力と前記ソレノイドの吸引力との釣り合い関係から得られる、前記ブレーキ液圧の差圧と前記ソレノイドに通電する電流値との比例関係に基づいて、前記ソレノイドに通電すべき電流値を算出するものであり、
前記可動子の動作により作動する弁体は、前記弁座に設けられた孔を閉鎖することで前記ブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えることを特徴とする差圧制御弁。
【請求項2】
前記可動子の動作により作動する弁体のニードル先端部に、開弁時の圧損を低減する圧損低減構造を設けたことを特徴とする前記請求項1に記載の差圧制御弁。
【請求項3】
前記圧損低減構造が、ニードル先端部を鈍角にする構成であること特徴とする前記請求項2に記載の差圧制御弁。
【請求項4】
前記圧損低減構造が、ニードル先端部を平坦にカットする構成であること特徴とする前記請求項2に記載の差圧制御弁。
【請求項5】
前記圧損低減構造が、ニードル先端部を滑らかにカーブさせる構成であること特徴とする前記請求項2に記載の差圧制御弁。
【請求項1】
ブレーキ液の管路に配置されて、ブレーキ液圧の差圧を調節する差圧制御弁において、
該差圧制御弁は、ソレノイドにより発生する磁束が貫通し、その磁力により移動する可動子と、
該可動子の移動方向に配置されて、前記ソレノイドによる磁束が貫通する固定子と、
前記可動子のストロークの最大値を規制するスリーブと、
前記可動子に押圧されて弁座に着座することで、前記可動子のストロークの最小値を規正する弁体と、
前記ソレノイドに通電する電流の大きさに応じた同ソレノイドの吸引力を発生させるべく電流制御を行う電子制御装置と、
を備えるとともに、
前記可動子の移動に伴う前記可動子及び固定子の前記移動方向の磁束量の変動を抑制する磁気ショート構造を備え、
前記可動子のストロークの最大値及び最小値は、前記磁気ショート構造によって前記ソレノイドの吸引力が不変とされるストローク範囲内に設定されており、
前記電子制御装置は、前記ブレーキ液圧の差圧に起因して前記弁体に作用する力と前記ソレノイドの吸引力との釣り合い関係から得られる、前記ブレーキ液圧の差圧と前記ソレノイドに通電する電流値との比例関係に基づいて、前記ソレノイドに通電すべき電流値を算出するものであり、
前記可動子の動作により作動する弁体は、前記弁座に設けられた孔を閉鎖することで前記ブレーキ液の流路を閉ざす円錐状のニードルを備えることを特徴とする差圧制御弁。
【請求項2】
前記可動子の動作により作動する弁体のニードル先端部に、開弁時の圧損を低減する圧損低減構造を設けたことを特徴とする前記請求項1に記載の差圧制御弁。
【請求項3】
前記圧損低減構造が、ニードル先端部を鈍角にする構成であること特徴とする前記請求項2に記載の差圧制御弁。
【請求項4】
前記圧損低減構造が、ニードル先端部を平坦にカットする構成であること特徴とする前記請求項2に記載の差圧制御弁。
【請求項5】
前記圧損低減構造が、ニードル先端部を滑らかにカーブさせる構成であること特徴とする前記請求項2に記載の差圧制御弁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【公開番号】特開2012−112529(P2012−112529A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−15778(P2012−15778)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2008−213981(P2008−213981)の分割
【原出願日】平成10年5月25日(1998.5.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2008−213981(P2008−213981)の分割
【原出願日】平成10年5月25日(1998.5.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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