説明

希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法

【課題】湿式粉砕の粉砕性を向上させることにより、磁気性能を向上させた希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】粗粉砕された磁石粉末と一般式M−(OR)x(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされる有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、磁石原料を粉砕して磁石粉末を得るとともに該磁石粉末の粒子表面に有機金属化合物を付着させる。その後、有機金属化合物を付着させた磁石粉末を成形して焼結を行うことによって永久磁石1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカーやハードディスクドライブ等に使用される永久磁石モータでは、小型軽量化、高出力化、高効率化が要求されている。そして、上記永久磁石モータにおいて小型軽量化、高出力化、高効率化を実現するに当たって、永久磁石モータに埋設される永久磁石について、更なる磁気特性の向上が求められている。尚、永久磁石としてはフェライト磁石、Sm−Co系磁石、Nd−Fe−B系磁石、SmFe17系磁石等があるが、特に残留磁束密度の高いNd−Fe−B系磁石が永久磁石モータ用の永久磁石として用いられる。
【0003】
ここで、永久磁石の製造方法としては、一般的に粉末焼結法が用いられる。ここで、粉末焼結法は、先ず原材料を粗粉砕し、ジェットミル(乾式粉砕)や湿式ビーズミル(湿式粉砕)により微粉砕した磁石粉末を製造する。その後、その磁石粉末を型に入れて、外部から磁場を印加しながら所望の形状にプレス成形する。そして、所望形状に成形された固形状の磁石粉末を所定温度(例えばNd−Fe−B系磁石では800℃〜1150℃)で焼結することにより製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第3298219号公報(第4頁、第5頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、永久磁石の磁気特性は、磁石の磁気特性が単磁区微粒子理論により導かれるために、焼結体の結晶粒径を微小にすれば磁気性能が基本的に向上することが知られている。そして、焼結体の結晶粒径を微小にするためには、焼結前の磁石原料の粒径も微小にする必要がある。
【0006】
ここで、磁石原料を粉砕する際に用いられる粉砕方法の一つである湿式ビーズミル粉砕は、容器の中にビーズ(メディア)を充填して回転させ、原料を溶媒に混入したスラリーを加えて、原料を摺りつぶして粉砕する方法である。そして、湿式ビーズミル粉砕を行うことによって、磁石原料を微小な粒径範囲まで粉砕することが可能となる。しかしながら、従来の技術では、湿式ビーズミル粉砕を用いた場合であっても、磁石原料の大半を微小な粒径範囲(例えば0.1μm〜5.0μm)まで粉砕することは困難であった。
【0007】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、磁石原料を湿式粉砕する場合において、特定の有機金属化合物を添加した状態で湿式粉砕することにより、湿式粉砕の粉砕性を向上させ、その結果、焼結後の結晶粒径を微小にすることが可能となり、磁気性能を向上させた希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る希土類永久磁石は、磁石原料と一般式M−(OR)x(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされる有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、前記磁石原料を粉砕して磁石粉末を得るとともに該磁石粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、前記磁石粉末を成形することにより成形体を作製する工程と、前記成形体を焼結する工程と、により製造されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る希土類永久磁石は、請求項1に記載の希土類永久磁石において、前記一般式中のRは、アルキル基であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る希土類永久磁石は、請求項1又は請求項2に記載の希土類永久磁石において、前記成形体を作製する工程は、前記磁石粉末と前記有機溶媒とバインダー樹脂とが混合されたスラリーを生成し、前記スラリーをシート状に成形することにより、前記成形体としてグリーンシートを作製することを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る希土類永久磁石は、請求項3に記載の希土類永久磁石において、前記成形体を焼結する前に、前記成形体を非酸化性雰囲気下でバインダー樹脂分解温度に一定時間保持することにより前記バインダー樹脂を飛散させて除去することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る希土類永久磁石は、請求項4に記載の希土類永久磁石において、前記バインダー樹脂を飛散させて除去する工程では、前記成形体を水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る希土類永久磁石の製造方法は、磁石原料と一般式M−(OR)x(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされる有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、前記磁石原料を粉砕して磁石粉末を得るとともに該磁石粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、前記磁石粉末を成形することにより成形体を作製する工程と、前記成形体を焼結する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項6に記載の希土類永久磁石の製造方法において、前記一般式中のRは、アルキル基であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項6又は請求項7に記載の希土類永久磁石の製造方法において、前記成形体を作製する工程は、前記磁石粉末と前記有機溶媒とバインダー樹脂とが混合されたスラリーを生成し、前記スラリーをシート状に成形することにより、前記成形体としてグリーンシートを作製することを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項8に記載の希土類永久磁石の製造方法において、前記成形体を焼結する前に、前記成形体を非酸化性雰囲気下でバインダー樹脂分解温度に一定時間保持することにより前記バインダー樹脂を飛散させて除去することを特徴とする。
【0017】
更に、請求項10に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項9に記載の希土類永久磁石の製造方法において、前記バインダー樹脂を飛散させて除去する工程では、前記成形体を水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
前記構成を有する請求項1に記載の希土類永久磁石によれば、希土類永久磁石の製造工程である湿式粉砕の工程において、磁石原料と有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、湿式粉砕の粉砕性を向上させることが可能となる。例えば、磁石原料の大半を微小な粒径範囲(例えば0.1μm〜5.0μm)まで粉砕することが可能となる。その結果、焼結後の結晶粒径を微小にすることができ、磁気性能を向上させることが可能となる。
また、Nd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等を含む有機金属化合物を添加することにより、磁石粉末の粒子表面に有機金属化合物を付着させ、その後に焼結を行うので、磁石特性を向上させる為にNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等の元素を添加する場合において、各元素を磁石の粒界に対して効率よく偏在させることができる。その結果、永久磁石の磁石特性を向上させるとともに、各元素の添加量を従来に比べて少量にできるので、残留磁束密度の低下を抑制することができる。
また、有機金属化合物をトルエン等の汎用溶媒に対して容易に溶解させることができ、磁石粉末の粒子表面への付着を適切に行うことが可能となる。
【0019】
また、請求項2に記載の希土類永久磁石によれば、磁石粉末に添加する有機金属化合物として、アルキル基から構成される有機金属化合物を用いるので、有機金属化合物の熱分解を容易に行うことが可能となる。その結果、仮焼を行う場合に成形体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。
【0020】
また、請求項3に記載の希土類永久磁石によれば、磁石粉末と樹脂バインダーと有機溶媒とが混合されたスラリーから成形したグリーンシートを焼結した磁石により永久磁石を構成するので、焼結による収縮が均一となることにより焼結後の反りや凹みなどの変形が生じず、また、プレス時の圧力むらが無くなることから、従来行っていた焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石を成形可能となる。また、永久磁石を薄膜化した場合であっても、材料歩留まりを低下させることなく、加工工数が増加することも防止できる。
【0021】
また、請求項4に記載の希土類永久磁石によれば、グリーンシートを仮焼する前に、グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー樹脂分解温度に一定時間保持することによりバインダー樹脂を飛散させて除去するので、磁石内に含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相内にαFeが析出することを抑え、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。
【0022】
また、請求項5に記載の希土類永久磁石によれば、バインダー樹脂が混練されたグリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下で仮焼することにより、磁石内に含有する炭素量をより確実に低減させることができる。
【0023】
また、請求項6に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、希土類永久磁石の製造工程である湿式粉砕の工程において、磁石原料と有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、湿式粉砕の粉砕性を向上させることが可能となる。例えば、磁石原料の大半を微小な粒径範囲(例えば0.1μm〜5.0μm)まで粉砕することが可能となる。その結果、焼結後の結晶粒径を微小にすることができ、製造される希土類永久磁石の磁気性能を向上させることが可能となる。
また、Nd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等を含む有機金属化合物を添加することにより、磁石粉末の粒子表面に有機金属化合物を付着させ、その後に焼結を行うので、磁石特性を向上させる為にNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等の元素を添加する場合において、各元素を磁石の粒界に対して効率よく偏在させることができる。その結果、製造される永久磁石の磁石特性を向上させるとともに、各元素の添加量を従来に比べて少量にできるので、残留磁束密度の低下を抑制することができる。
また、有機金属化合物をトルエン等の汎用溶媒に対して容易に溶解させることができ、磁石粉末の粒子表面への付着を適切に行うことが可能となる。
【0024】
また、請求項7に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、磁石粉末に添加する有機金属化合物として、アルキル基から構成される有機金属化合物を用いるので、有機金属化合物の熱分解を容易に行うことが可能となる。その結果、仮焼を行う場合に成形体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。
【0025】
また、請求項8に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、磁石粉末と樹脂バインダーと有機溶媒とが混合されたスラリーから成形したグリーンシートを焼結した磁石により永久磁石を構成するので、焼結による収縮が均一となることにより焼結後の反りや凹みなどの変形が生じず、また、プレス時の圧力むらが無くなることから、従来行っていた焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石を成形可能となる。また、永久磁石を薄膜化した場合であっても、材料歩留まりを低下させることなく、加工工数が増加することも防止できる。
【0026】
また、請求項9に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、グリーンシートを仮焼する前に、グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー樹脂分解温度に一定時間保持することによりバインダー樹脂を飛散させて除去するので、磁石内に含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相内にαFeが析出することを抑え、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。
【0027】
更に、請求項10に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、バインダー樹脂が混練されたグリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下で仮焼することにより、磁石内に含有する炭素量をより確実に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る永久磁石を示した全体図である。
【図2】本発明に係る永久磁石の粒界付近を拡大して示した模式図である。
【図3】本発明に係るグリーンシートの厚み精度の向上に基づく焼結時の効果を説明した図である。
【図4】本発明に係る永久磁石の製造工程を示した説明図である。
【図5】本発明に係る永久磁石の製造工程の内、特にグリーンシートの形成工程を示した説明図である。
【図6】本発明に係る永久磁石の製造工程の内、特にグリーンシートの加圧焼結工程を示した説明図である。
【図7】実施例1の永久磁石について、湿式粉砕後の磁石粉末を示した拡大写真である。
【図8】実施例2の永久磁石について、湿式粉砕後の磁石粉末を示した拡大写真である。
【図9】実施例3の永久磁石について、湿式粉砕後の磁石粉末を示した拡大写真である。
【図10】比較例1の永久磁石について、湿式粉砕後の磁石粉末を示した拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法について具体化した一実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0030】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、図1に示す永久磁石1は扇型形状を備えるが、永久磁石1の形状は打ち抜き形状によって変化する。
本発明に係る永久磁石1はNd−Fe−B系磁石である。尚、各成分の含有量はNd:27〜40wt%、B:1〜2wt%、Fe(電解鉄):60〜70wt%とする。また、磁気特性向上の為、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等の他元素を少量含んでも良い。図1は本実施形態に係る永久磁石1を示した全体図である。
【0031】
ここで、永久磁石1は例えば0.05mm〜10mm(例えば4mm)の厚さを備えた薄膜状の永久磁石である。そして、後述のようにバインダー樹脂が混練され、スラリー状態とした磁石粉末から成形されたグリーンシートを焼結することによって作製される。
【0032】
また、本発明に係る永久磁石1は、図2に示すように永久磁石1を構成するNd結晶粒子2の結晶粒の表面部分(外殻)において、Ndの一部をAl、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W又はNb等で置換した層3(以下、外殻層3という)を生成することにより、Dy等をNd結晶粒子2の粒界に対して偏在させる。図2は永久磁石1を構成するNd結晶粒子2を拡大して示した図である。
【0033】
また、本発明ではDy等の置換は、後述のように粉砕された磁石粉末を成形する前にDy等を含む有機金属化合物が添加されることにより行われる。具体的には、磁石原料を湿式粉砕する際に、有機溶媒中にM−(OR)(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされるMを含む有機金属化合物(例えば、ニオブデカノキシド、ニオブテトラデカノキシド、ニオブブトキシドなど)を添加し、湿式状態で磁石粉末に混合する。
【0034】
その際に、特にMとしてDy、Tbを含める場合には、Dy又はTbを含む有機金属化合物を有機溶媒中で分散させ、Nd磁石粒子の粒子表面にDy又はTbを含む有機金属化合物を効率よく付着することが可能となる。そして、Dy又はTbを含む有機金属化合物を添加した磁石粉末を焼結する際に、湿式分散によりNd磁石粒子の粒子表面に均一付着された該有機金属化合物中のDy又はTbが、Nd磁石粒子の結晶成長領域へと拡散侵入して置換が行われ、Nd結晶粒子2の表面に外殻層3としてDy層又はTb層を形成する。その結果、磁石粒子の粒界にDy又はTbを偏在化することが可能となる。尚、Dy層は例えば(DyNd1−xFe14B金属間化合物から構成される。そして、粒界に偏在されたDyやTbが粒界の逆磁区の生成を抑制することで、保磁力の向上が可能となる。また、DyやTbの添加量が従来に比べて少なくすることができ、残留磁束密度の低下を抑制することができる。
【0035】
一方、特にMとしてV、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb(以下、Nb等という)の高融点金属元素を含める場合には、Nb等を含む有機金属化合物を有機溶媒中で分散させ、Nd磁石粒子の粒子表面にNb等を含む有機金属化合物を均一付着することが可能となる。その結果、磁石粉末を焼結する際に、湿式分散によりNd磁石粒子の粒子表面に均一付着された該有機金属化合物中のNb等が、Nd結晶粒子の結晶成長領域へと拡散侵入して置換が行われ、Nd結晶粒子2の表面に外殻層3として高融点金属層を形成する。尚、高融点金属層は例えばNbFeB金属間化合物から構成される。そして、Nd結晶粒子の表面にコーティングされた高融点金属層は、永久磁石1の焼結時においてはNd結晶粒子の平均粒径が増加する所謂粒成長を抑制する手段として機能する。その結果、焼結時における結晶粒の粒成長を抑制することが可能となる。
【0036】
また、Nd結晶粒子2の結晶粒径は0.1μm〜5.0μmとすることが望ましい。焼結体の結晶粒径を微小にすることによって、磁気性能を向上させることが可能となる。特に、その結晶粒径を単磁区粒径とすれば、永久磁石1の磁気性能を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0037】
ここで、上記M−(OR)(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)の一般式を満たす有機金属化合物として金属アルコキシドがある。金属アルコキシドとは、一般式M−(OR)(M:金属元素、R:有機基、n:金属又は半金属の価数)で表される。また、金属アルコキシドを形成する金属又は半金属としては、Nd、Pr、Dy、Tb、W、Mo、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Ir、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Ge、Sb、Y、lanthanideなどが挙げられる。但し、本発明では特に、Nd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbを用いる。
【0038】
また、アルコキシドの種類は特に限定されることなく、例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド、炭素数4以上のアルコキシド等が挙げられる。但し、本発明では後述のように低温分解で残炭を抑制する目的から、低分子量のものを用いる。また、炭素数1のメトキシドについては分解し易く、取扱いが困難であり、更に、後述のようにアルコキシドを湿式粉砕の分散剤として用いる為に、特にRの炭素鎖長が2〜16、より好ましくは6〜14、更に好ましくは10〜14のアルコキシドを用いることが好ましい。具体的には、炭素鎖長が4のブトキシド、炭素鎖長が6のヘキソキシド、炭素鎖長が10のデカノキシド、炭素鎖長が14のテトラデカノキシド等がある。
【0039】
尚、用いる有機金属化合物の炭素鎖長が長すぎると、有機金属化合物がトルエン等の汎用溶媒に対して溶解し難くなる。特に炭素鎖長が17以上となると溶解性が悪化し、有機金属化合物をNd磁石粒子の表面に均一に付着させることが困難となる。そこで、有機金属化合物をNd磁石粒子の表面に均一に付着させる為に、炭素鎖長は16以下、より好ましくは14以下とする。
【0040】
また、アルキル基から構成される有機金属化合物を用いることとすれば、有機金属化合物の熱分解をより容易に行うことが可能となる。即ち、本発明では、特に磁石粉末に添加する有機金属化合物としてM−(OR)x(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長(アルキル鎖長)が2〜16のアルキル基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされる有機金属化合物を用いることが望ましい。
【0041】
また、成形された成形体を適切な焼成条件で焼結すれば、Mが主相内へと拡散浸透(固溶化)することを防止できる。それにより、本発明では、Mを添加したとしてもMによる置換領域を外殻部分のみとすることができる。その結果、結晶粒全体としては(すなわち、焼結磁石全体としては)、コアのNd14B金属間化合物相が高い体積割合を占めた状態となる。それにより、その磁石の残留磁束密度(外部磁場の強さを0にしたときの磁束密度)の低下を抑制することができる。
【0042】
また、本発明の永久磁石1は、スラリー状態とした磁石粉末から成形されたグリーンシートを焼結することによって作製されるが、グリーンシートを焼結する方法としては、例えば加圧焼結が用いられる。加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、焼結時の磁石粒子の粒成長を抑制する為に、より短時間且つ低温で焼結する焼結方法を用いることが望ましい。また、焼結後の磁石に生じる反りを減少させることが可能な焼結方法を用いることが望ましい。従って、特に本発明では、上記焼結方法の内、一軸方向に加圧する一軸加圧焼結であって且つ通電焼結により焼結するSPS焼結を用いることが望ましい。
【0043】
ここで、SPS焼結は、焼結対象物を内部に配置したグラファイト製の焼結型を、一軸方向に加圧しながら加熱する焼結方法である。また、SPS焼結では、パルス通電加熱と機械的な加圧により、一般的な焼結に用いられる熱的および機械的エネルギに加えて、パルス通電による電磁的エネルギや被加工物の自己発熱および粒子間に発生する放電プラズマエネルギーなどを複合的に焼結の駆動力としている。従って、電気炉等の雰囲気加熱よりも急速昇温・冷却が可能となり、また、低い温度域で焼結することが可能となる。その結果、焼結工程での昇温・保持時間を短縮でき、磁石粒子の粒成長を抑制した緻密な焼結体の作製が可能となる。また、焼結対象物は一軸方向に加圧された状態で焼結されるので、焼結後に生じる反りを減少させることが可能となる。
【0044】
また、SPS焼結を行う際には、グリーンシートを所望の製品形状(例えば、図1に示す扇形形状)に打ち抜いた成形体をSPS焼結装置の焼結型内に配置して行う。そして、本発明では、生産性を向上させる為に、図3に示すように複数(例えば10個)の成形体5を同時に焼結型6内に配置して行う。尚、図3に示す例では複数の成形体5は一の空間にそれぞれ配置されているが、成形体5毎に異なる空間に配置するようにしても良い。但し、その場合でも空間毎に成形体5を加圧する各パンチは各空間の間で一体とする(即ち同時に加圧ができる)ように構成する。ここで、本発明では、後述のようにグリーンシートの厚み精度を設計値に対して±5%以内、より好ましくは±3%以内、更に好ましくは±1%以内とする。その結果、本発明では図3(A)に示すように、複数(例えば10個)の成形体5を同時に焼結型6内に配置して焼結を行った場合であっても、各成形体5の厚みdが均一である為に、各成形体5について加圧値や焼結温度のバラつきが生じず、適切に焼結することが可能となる。一方、グリーンシートの厚み精度が低い(例えば設計値に対して±5%以上)と、図3(B)に示すように、複数(例えば10個)の成形体5を同時に焼結型6内に配置して焼結を行った場合において、各成形体5の厚みdにバラつきがある為に、成形体5毎のパルス電流の通電の不均衡が生じ、また、各成形体5について加圧値や焼結温度のバラつきが生じ、適切に焼結することができない。
【0045】
また、本発明ではグリーンシートを作製する際に磁石粉末に混練されるバインダー樹脂はとしては、ポリイソブチレン(PIB)、ブチルゴム(IIR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン、ポリスチレン、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレン重合樹脂、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等を用いる。尚、α−メチルスチレン重合樹脂は柔軟性を与えるために低分子量のポリイソブチレンを添加することが望ましい。また、バインダー樹脂としては、磁石内に含有する酸素量を低減させる為に、炭化水素からなり、且つ解重合性があり、熱分解性に優れるポリマー(例えば、ポリイソブチレン等)を用いることが望ましい。
尚、バインダー樹脂をトルエン等の汎用溶媒に対して適切に溶解させる為に、バインダー樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン以外の樹脂を用いることが望ましい。
【0046】
また、バインダー樹脂の添加量は、スラリーをシート状に成形する際にシートの厚み精度を向上させる為に、磁石粒子間の空隙を適切に充填する量とする。例えば、バインダー樹脂添加後のスラリー中における磁石粉末とバインダー樹脂の合計量に対するバインダー樹脂の比率が、4wt%〜40wt%、より好ましくは7wt%〜30wt%、更に好ましくは10wt%〜20wt%とする。
【0047】
また、本発明では、磁石原料をビーズミル等の湿式粉砕により粉砕する。また、湿式粉砕では、一般的に磁石原料を混入する溶媒として有機溶媒が用いられる。従って、グリーンシートを作製する際には、例えば粉砕された磁石粉末を含む有機溶媒中にバインダー樹脂を添加することにより磁石粉末をスラリー状とすることが可能となる。ここで、湿式粉砕に用いられる有機溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族類、酢酸エチルなどのエステル類、ケトン類、それらの混合物等が使用できるが、本発明では後述のように磁石に含まれる酸素量を低減させる目的で、炭化水素からなる有機化合物から選択される1種以上の有機溶媒を用いることが望ましい。ここで、炭化水素からなる有機化合物から選択される1種以上の有機溶媒を用いるのが望ましい。ここで、炭化水素からなる有機化合物から選択される1種以上の有機溶媒としては、トルエン、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、キシレン、それらの混合物等がある。例えば、トルエン又はヘキサンを用いる。尚、有機溶媒には炭化水素からなる有機化合物以外の有機化合物を少量含む構成としても良い。
【0048】
また、本発明では、磁石原料をビーズミル等の湿式粉砕により粉砕する際に、分散剤として上述した有機金属化合物(例えば、ニオブデカノキシド、ニオブテトラデカノキシド、ニオブブトキシドなど)を添加する。それによって、湿式粉砕の粉砕性が向上し、磁石原料の大半を微小な粒径範囲(例えば0.1μm〜5.0μm)まで粉砕することが可能となる。更に、湿式粉砕の過程で、磁石原料を粉砕すると同時に粉砕された磁石粉末の粒子表面に有機金属化合物を均一に付着させることが可能となる。
【0049】
尚、湿式粉砕された磁石粉末を一旦乾燥させた後に、有機溶媒とバインダー樹脂とを添加することによって磁石粉末をスラリー状にしても良い。但し、その場合において、乾燥させた磁石粉末に添加する有機溶媒は、同じく炭化水素からなる有機化合物から選択される1種以上の有機溶媒を用いるのが望ましい。
【0050】
[永久磁石の製造方法]
次に、本発明に係る永久磁石1の製造方法について図4を用いて説明する。図4は本実施形態に係る永久磁石1の製造工程を示した説明図である。
【0051】
先ず、所定分率のNd−Fe−B(例えばNd:32.7wt%、Fe(電解鉄):65.96wt%、B:1.34wt%)からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石粉末10を得る。
【0052】
次いで、粗粉砕磁石粉末10をビーズミルによる湿式法で所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕するとともに溶媒中に磁石粉末を分散させ、分散溶液11を作製する。また、粉砕を行うに際して、溶媒中にはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W又はNbを含む有機金属化合物を分散剤として添加する。
尚、詳細な湿式粉砕による粉砕条件は以下の通りである。
・粉砕装置:ビーズミル
・粉砕メディア:φ2mmジルコニアビーズで2時間粉砕後に、φ0.5mmジルコニアビーズで2時間粉砕。
【0053】
ここで、溶解させる有機金属化合物としては、M−(OR)(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)に該当する有機金属化合物(例えば、ニオブデカノキシド、ニオブテトラデカノキシド、ニオブブトキシドなど)を用いることが望ましい。また、粉砕に用いる溶媒は有機溶媒であるが、有機溶媒としては、上述したように炭化水素からなる有機化合物から選択される1種以上の有機溶媒を用いることが望ましい。例えば、トルエン、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、キシレン、それらの混合物等があるが、本発明では特にトルエン又はヘキサンを用いることとする。また、添加する有機金属化合物の量は特に制限されないが、分散剤として適切に機能させるとともに磁石粉末の粒子表面に有機金属化合物を均一に付着させる為に、磁石粉末に対して0.1部〜10部、好ましくは0.2部〜8部、より好ましくは0.5部〜5部(例えば1部)とする。
【0054】
その後、分散溶液11に対して、更にバインダー樹脂を添加する。それによって、有機金属化合物が粒子表面に均一に付着された磁石原料の微粉末とバインダー樹脂と有機溶媒とが混合されたスラリー12を生成する。ここで、バインダー樹脂としては、上述したように炭化水素からなり、且つ解重合性があり、熱分解性に優れるポリマーを用いることが望ましい。例えばポリイソブチレンを用いる。また、バインダー樹脂は溶媒に希釈させた状態で添加しても良い。更に、バインダー樹脂の添加量は、上述したように添加後のスラリー中における磁石粉末とバインダー樹脂の合計量に対するバインダー樹脂の比率が4wt%〜40wt%、より好ましくは7wt%〜30wt%、更に好ましくは10wt%〜20wt%となる量とする。尚、バインダー樹脂の添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。
【0055】
続いて、生成したスラリー12からグリーンシート13を形成する。グリーンシート13の形成する方法としては、例えば、生成したスラリー12を適宜な方式で必要に応じセパレータ等の支持基材14上に塗工して乾燥させる方法などにより行うことができる。尚、塗工方式は、ドクターブレード方式やダイ方式やコンマ塗工方式等の層厚制御性に優れる方式が好ましい。また、高い厚み精度を実現する為には、特に層厚制御性に優れた(即ち、基材に高精度することが可能な方式)であるダイ方式やコンマ塗工方式を用いることが望ましい。例えば、以下の実施例では、ダイ方式を用いる。また、支持基材14としては、例えばシリコーン処理ポリエステルフィルムを用いる。また、グリーンシート13の乾燥は、90℃×10分で保持した後、130℃×30分で保持することにより行う。更に、消泡剤を併用するなどして展開層中に気泡が残らないよう充分に脱泡処理することが好ましい。
【0056】
以下に、図5を用いてダイ方式によるグリーンシート13の形成工程についてより詳細に説明する。図5はダイ方式によるグリーンシート13の形成工程を示した模式図である。
図5に示すようにダイ方式に用いられるダイ15は、ブロック16、17を互いに重ね合わせることにより形成されており、ブロック16、17との間の間隙によってスリット18やキャビティ(液溜まり)19を形成する。キャビティ19はブロック17に設けられた供給口20に連通される。そして、供給口20は定量ポンプ(図示せず)等によって構成されるスラリー供給系へと接続されており、キャビティ19には供給口20を介して、計量されたスラリー12が定量ポンプ等により供給される。更に、キャビティ19に供給されたスラリー12はスリット18へ送液されて単位時間一定量で幅方向に均一な圧力でスリット18の吐出口21から予め設定された塗布幅により吐出される。一方で、支持基材14はコーティングロール22の回転に伴って予め設定された速度で搬送される。その結果、吐出したスラリー12が支持基材14に対して所定厚さで塗布される。
【0057】
また、ダイ方式によるグリーンシート13の形成工程では、塗工後のグリーンシート13のシート厚みを実測し、実測値に基づいてダイ15と支持基材14間のギャップDをフィードバック制御することが望ましい。また、ダイ15に供給するスラリー量の変動は極力低下させ(例えば±0.1%以下の変動に抑える)、更に塗工速度の変動についても極力低下させる(例えば±0.1%以下の変動に抑える)ことが望ましい。それによって、グリーンシート13の厚み精度を更に向上させることが可能である。尚、形成されるグリーンシート13の厚み精度は、設計値(例えば4mm)に対して±5%以内、より好ましくは±3%以内、更に好ましくは±1%以内とする。
【0058】
尚、グリーンシート13の設定厚みは、0.05mm〜10mmの範囲で設定することが望ましい。厚みを0.05mmより薄くすると、多層積層しなければならないので生産性が低下することとなる。一方で、厚みを10mmより厚くすると、乾燥時の発泡を抑制する為に乾燥速度を低下する必要があり、生産性が著しく低下する。
【0059】
また、支持基材14に塗工したグリーンシート13には、乾燥前に搬送方向に対して交差する方向にパルス磁場をかける。印加する磁場の強さは5000[Oe]〜50000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜20000[Oe]とする。尚、磁場を配向させる方向は、グリーンシート13から成形される永久磁石1に求められる磁場方向を考慮して決定する必要があるが、面内方向とすることが好ましい。
【0060】
次に、スラリー12から形成したグリーンシート13を所望の製品形状(例えば、図1に示す扇形形状)に打ち抜きし、成形体25を成形する。
【0061】
その後、成形された成形体25を非酸化性雰囲気(特に本発明では水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)においてバインダー樹脂分解温度で数時間(例えば5時間)保持することにより水素中仮焼処理を行う。水素雰囲気下で行う場合には、例えば仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。水素中仮焼処理を行うことによって、バインダー樹脂を解重合反応等によりモノマーに分解し飛散させて除去することが可能となる。即ち、成形体25中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われることとなる。また、水素中仮焼処理は、成形体25中の炭素量が1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で永久磁石1全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0062】
尚、バインダー樹脂分解温度は、バインダー樹脂分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定する。具体的にはバインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲が選ばれる。バインダー樹脂の種類により異なるが200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃(例えば600℃)とする。
【0063】
尚、水素中仮焼処理によって仮焼された成形体25を続いて真空雰囲気で保持することにより脱水素処理を行っても良い。脱水素処理では、水素中仮焼処理によって生成された成形体25中のNdH(活性度大)を、NdH(活性度大)→NdH(活性度小)へと段階的に変化させることによって、水素仮焼中処理により活性化された仮焼体82の活性度を低下させる。それによって、水素中仮焼処理によって仮焼された仮焼体82をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。
【0064】
続いて、水素中仮焼処理によって仮焼された成形体25を焼結する焼結処理を行う。本発明では、加圧焼結により焼結を行う。加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、本発明では上述したように焼結時の磁石粒子の粒成長を抑制するとともに焼結後の磁石に生じる反りを抑える為に、一軸方向に加圧する一軸加圧焼結であって且つ通電焼結により焼結するSPS焼結を用いることが望ましい。
【0065】
以下に、図6を用いてSPS焼結による成形体25の加圧焼結工程についてより詳細に説明する。図6はSPS焼結による成形体25の加圧焼結工程を示した模式図である。
図6に示すようにSPS焼結を行う場合には、先ず、グラファイト製の焼結型31に成形体25を設置する。尚、上述した水素中仮焼処理についても成形体25を焼結型31に設置した状態で行っても良い。そして、焼結型31に設置された成形体25を真空チャンパー32内に保持し、同じくグラファイト製の上部パンチ33と下部パンチ34をセットする。そして、上部パンチ33に接続された上部パンチ電極35と下部パンチ34に接続された下部パンチ電極36とを用いて、低電圧且つ高電流の直流パルス電圧・電流を印加する。それと同時に、上部パンチ33及び下部パンチ34に対して加圧機構(図示せず)を用いて夫々上下方向から荷重を付加する。その結果、焼結型31内に設置された成形体25は、加圧されつつ焼結が行われる。また、上述したように本発明では、生産性を向上させる為に、複数(例えば10個)の成形体を同時に焼結型31内に配置してSPS焼結を行う。尚、図6に示す例では複数の成形体5は一の空間にそれぞれ配置されているが、成形体5毎に異なる空間に配置するようにしても良い。但し、その場合でも空間毎に成形体5を加圧する上部パンチ33や下部パンチ34は各空間の間で一体とする(即ち同時に加圧ができる)ように構成する。
尚、具体的な焼結条件を以下に示す。
加圧値:30MPa
焼結温度:940℃まで10℃/分で上昇させ、5分保持
雰囲気:数Pa以下の真空雰囲気
【0066】
上記SPS焼結を行った後冷却し、再び600℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明の実施例について比較例と比較しつつ説明する。
(実施例1)
実施例1はNd−Fe−B系磁石であり、合金組成はwt%でNd/Fe/B=32.7/65.96/1.34とする。また、湿式粉砕を行う際の有機溶媒としてトルエンを用いた。また、湿式粉砕を行う際には、有機金属化合物としてNbデカノキシド(Nb(OC1021)を磁石粉末に対して1部添加した。また、粉砕は、先ずφ2mmジルコニアビーズで2時間粉砕し、その後に、φ0.5mmジルコニアビーズで2時間粉砕した。更に、スラリーを生成する際に添加するバインダー樹脂としてポリイソブチレンを用い、添加後のスラリー中の樹脂の比率が16.7w%となるスラリーを生成した。その後、スラリーをダイ方式により基材に塗工してグリーンシートを成形し、更に、所望の製品形状に打ち抜きした。尚、他の工程は上述した[永久磁石の製造方法]と同様の工程とする。
【0068】
(実施例2)
湿式粉砕を行う際に添加する有機金属化合物をNbテトラデカノキシド(Nb(OC1429)とした。他の条件は実施例と同様である。
【0069】
(実施例3)
湿式粉砕を行う際に添加する有機金属化合物をNbブトキシド(Nb(OC)とした。他の条件は実施例と同様である。
【0070】
(比較例1)
有機金属化合物を添加せずに湿式粉砕を行った。他の条件は実施例1と同様である。
【0071】
(比較例2)
湿式粉砕を行う際に添加する有機金属化合物をNb1−アイコソキシド(Nb(OC2041)とした。他の条件は実施例と同様である。
【0072】
(実施例と比較例との比較)
図7〜図10は、実施例1〜3と比較例1の永久磁石について、湿式粉砕後の磁石粉末を示した拡大写真である。また、実施例1〜3と比較例1の永久磁石について、各磁石粉末の粒度分布を測定し、D50(メジアン径)を算出した。
実施例1〜3と比較例1の各拡大写真を比較すると、湿式粉砕において有機金属化合物を添加しなかった比較例1と比較して、湿式粉砕において有機金属化合物を添加した実施例1〜3では、磁石原料を微小な粒径まで粉砕できていることが分かる。具体的に、実施例1〜3では、D50がそれぞれ1.7μm、2.0μm、3.7μmとなり、磁石原料の大半を0.1μm〜5.0μmの粒径を有する磁石粉末に粉砕できている。一方、比較例1では、D50が8.0μmとなり、磁石原料を0.1μm〜5.0μmの粒径を有する磁石粉末まで粉砕できていないことが分かる。
その結果、実施例1〜3の永久磁石は、比較例1の永久磁石と比較して、焼結後の結晶粒径を微小にすることができ、磁気性能を向上させることが可能となる。
【0073】
また、比較例2では、有機金属化合物であるNb1−アイコソキシドをトルエンに溶解させることができなかった。従って、有機金属化合物の炭素鎖長が長すぎると、有機金属化合物がトルエン等の汎用溶媒に対して溶解し難くなることが分かる。
【0074】
以上の結果より、実施例1〜3では、添加された有機金属化合物が分散剤として機能し、湿式粉砕の粉砕性を向上させていることが分かる。特に、有機金属化合物として、置換基Rの炭素鎖長が2〜16の有機金属化合物を用いれば、有機金属化合物を磁石粒子の表面に均一に付着させつつ、磁石原料の大半を0.1μm〜5.0μmの粒径を有する磁石粉末まで粉砕することが可能となることが分かる。
【0075】
また、実施例1〜実施例3を比較すると、実施例2は実施例3より微小な粒径まで磁石原料を粉砕でき、更に実施例1は実施例2より微小な粒径まで磁石原料を粉砕できている。従って、置換基Rの炭素鎖長が4のNbブトキシドと比較して、置換基Rの炭素鎖長が10のNbデカノキシドや炭素鎖長が14のNbテトラデカノキシドを用いれば、より湿式粉砕の粉砕性を向上させることが可能となることが分かる。ここで、湿式粉砕の粉砕性は、添加する有機金属化合物の置換基Rの炭素鎖長によって変化し、炭素鎖長を2〜16、より好ましくは6〜14、更に好ましくは10〜14とすることによって、その粉砕性を向上させることが可能となる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、粗粉砕された磁石粉末と一般式M−(OR)x(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で表わされる有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、磁石原料を粉砕して磁石粉末を得るとともに該磁石粉末の粒子表面に有機金属化合物を付着させる。その後、有機金属化合物を付着させた磁石粉末を成形して焼結を行うことによって永久磁石1を製造する。そして、永久磁石の製造工程である湿式粉砕の工程において、磁石原料と有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、湿式粉砕の粉砕性を向上させることが可能となる。例えば、磁石原料の大半を微小な粒径範囲(例えば0.1μm〜5.0μm)まで粉砕することが可能となる。その結果、焼結後の結晶粒径を微小にすることができ、磁気性能を向上させることが可能となる。
また、炭素鎖長が2〜16の有機金属化合物を用いることによって、有機金属化合物をトルエン等の汎用溶媒に対して容易に溶解させることができ、磁石粉末の粒子表面への付着を適切に行うことが可能となる。
また、Nd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等を含む有機金属化合物を添加することにより、磁石粉末の粒子表面に有機金属化合物を付着させ、その後に焼結を行うので、磁石特性を向上させる為にNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等の元素を添加する場合において、各元素を磁石の粒界に対して効率よく偏在させることができる。その結果、製造される永久磁石の磁石特性を向上させるとともに、各元素の添加量を従来に比べて少量にできるので、残留磁束密度の低下を抑制することができる。
また、磁石粉末と樹脂バインダーと有機溶媒とが混合されたスラリーから成形したグリーンシートを焼結することにより永久磁石を製造するので、製造された永久磁石は、焼結による収縮が均一となることにより焼結後の反りや凹みなどの変形が生じず、また、プレス時の圧力むらが無くなることから、従来行っていた焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石を成形可能となる。また、永久磁石を薄膜化した場合であっても、材料歩留まりを低下させることなく、加工工数が増加することも防止できる。
また、グリーンシートを焼結により焼結する前に、グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー樹脂分解温度に一定時間保持する仮焼処理を行うことによりバインダー樹脂を飛散させて除去するので、磁石内に含有する炭素量を予め低減させることができる。その結果、焼結後の磁石の主相内にαFeが析出することを抑え、磁石全体を緻密に焼結することが可能となり、保磁力が低下することを防止できる。
また、特に添加する有機金属化合物としてアルキル基から構成される有機金属化合物を用いれば、水素雰囲気で磁石粉末を仮焼する際に、低温で有機金属化合物の熱分解を行うことが可能となる。それによって、有機金属化合物の熱分解を磁石粒子全体に対してより容易に行うことができる。
更に、仮焼処理では、バインダー樹脂が混練されたグリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下で200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃に一定時間保持するので、磁石内に含有する炭素量をより確実に低減させることができる。
【0077】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例では、磁石粉末をスラリー状にしてグリーンシートを作製し、グリーンシートを焼結することにより永久磁石を作製することとしているが、湿式粉砕後の磁石粉末を乾燥させた後に粉末焼結法により焼結して永久磁石を作製することとしても良い。また、射出成形、圧延成形、押出成形等により成形体を成形することとしても良い。また、上記実施例では、ダイ方式によりグリーンシートを形成しているが、他の方式(例えばコンマ塗工方式、射出成型、金型成型、ドクターブレード方式等)を用いてグリーンシートを形成しても良い。但し、スラリーを基材に高精度塗工することが可能な方式を用いることが望ましい。また、焼結方法は加圧焼結に限られることなく、真空焼成により焼結しても良い。また、上記実施例では、磁石粉末を湿式粉砕する手段として湿式ビーズミルを用いているが、他の湿式粉砕方式を用いても良い。例えば、ナノマイザー等を用いても良い。
【0078】
また、上記実施例では湿式粉砕した後に、粉砕された磁石粉末を含む有機溶媒にバインダー樹脂を添加することによって磁石粉末をスラリー状にしているが、湿式粉砕された磁石粉末を一旦乾燥させた後に、有機溶媒とバインダー樹脂とを添加することによって磁石粉末をスラリー状にしても良い。但し、その場合において、乾燥させた磁石粉末に添加する有機溶媒は、同じく炭化水素からなる有機化合物から選択される1種以上の有機溶媒を用いるのが望ましい。
【0079】
また、本実施例では磁石粉末に添加する有機溶媒としてトルエン又はヘキサンを用いたが、他の有機溶媒であっても良い。例えば、ペンタン、ベンゼン、キシレン、それらの混合物でも良い。
【0080】
また、上記実施例1、2では湿式粉砕時において有機溶媒に添加するNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nb等を含む有機金属化合物としてニオブデカノキシド、ニオブブトキシドを用いているが、M−(OR)(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)で示される有機金属化合物であれば、他の有機金属化合物であっても良い。また、Mとしては上記金属元素以外の元素を含む構成としても良い。
【0081】
また、本発明ではNd−Fe−B系磁石を例に挙げて説明したが、他の磁石を用いても良い。また、磁石の合金組成は本発明ではNd成分を量論組成より多くしているが、量論組成としても良い。
【符号の説明】
【0082】
1 永久磁石
10 粗粉砕磁石粉末
11 分散溶液
12 スラリー
13 グリーンシート
25 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石原料と以下の一般式
M−(OR)x
(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)
で表わされる有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、前記磁石原料を粉砕して磁石粉末を得るとともに該磁石粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、
前記磁石粉末を成形することにより成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程と、により製造されることを特徴とする希土類永久磁石。
【請求項2】
前記一般式中のRは、アルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石。
【請求項3】
前記成形体を作製する工程は、
前記磁石粉末と前記有機溶媒とバインダー樹脂とが混合されたスラリーを生成し、
前記スラリーをシート状に成形することにより、前記成形体としてグリーンシートを作製することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の希土類永久磁石。
【請求項4】
前記成形体を焼結する前に、前記成形体を非酸化性雰囲気下でバインダー樹脂分解温度に一定時間保持することにより前記バインダー樹脂を飛散させて除去することを特徴とする請求項3に記載の希土類永久磁石。
【請求項5】
前記バインダー樹脂を飛散させて除去する工程では、前記成形体を水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することを特徴とする請求項4に記載の希土類永久磁石。
【請求項6】
磁石原料と以下の一般式
M−(OR)x
(式中、MはNd、Al、Cu、Ag、Dy、Tb、V、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Nbの内、少なくとも一種を含む。Rは炭素鎖長が2〜16の炭化水素からなる置換基であり、直鎖でも分枝でも良い。xは任意の整数である。)
で表わされる有機金属化合物とを有機溶媒中で湿式粉砕することにより、前記磁石原料を粉砕して磁石粉末を得るとともに該磁石粉末の粒子表面に前記有機金属化合物を付着させる工程と、
前記磁石粉末を成形することにより成形体を作製する工程と、
前記成形体を焼結する工程と、を有することを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。
【請求項7】
前記一般式中のRは、アルキル基であることを特徴とする請求項6に記載の希土類永久磁石の製造方法。
【請求項8】
前記成形体を作製する工程は、
前記磁石粉末と前記有機溶媒とバインダー樹脂とが混合されたスラリーを生成し、
前記スラリーをシート状に成形することにより、前記成形体としてグリーンシートを作製することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の希土類永久磁石の製造方法。
【請求項9】
前記成形体を焼結する前に、前記成形体を非酸化性雰囲気下でバインダー樹脂分解温度に一定時間保持することにより前記バインダー樹脂を飛散させて除去することを特徴とする請求項8に記載の希土類永久磁石の製造方法。
【請求項10】
前記バインダー樹脂を飛散させて除去する工程では、前記成形体を水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することを特徴とする請求項9に記載の希土類永久磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−80738(P2013−80738A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218589(P2011−218589)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】