説明

建築物の立体トラス構造を応用した軸組や架構と高床式杭免震構造

【課題】立体トラスの軸組や架構、高床式杭免震構造、軸材接合部の単純化で、あらゆる自然災害、自然環境に対する構造耐力と防災性を高め、老朽部材の交換を全て可能にし、コストを下げる。また、間伐材利用を推進する。
【解決手段】各部材を大径ボルト6で接合する立体トラス軸材1や2を大径全ネジボルト4でボールノード3に軸心接合した立体トラス軸組や架構で構造耐力と施工性を高め、軽量化とコスト節減をする。
立体トラス軸組や架構に接合する高床式杭8や9の減衰性復元力とソフトファーストストーリーとなる高床式杭構造で杭免震構造を構築し、地震や津波などの被害を防ぎ、軟弱地盤で不同沈下した場合、支持杭の最上部を交換し、高低差を無くす。
大径ボルト接合で、あらゆる老朽部材の交換を可能にし、耐用年限を延長する。
木造立体トラス軸材や木杭などに建設地の間伐材を用い、山林や地元林業や地元木材産業を育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の新しい軸組や架構とその工法に関するが、特に、立体トラス構造の軸組や架構への応用と、その工法や軸材や架構材などの交換、また、これに関連した杭の免震や杭の交換などの新しい付加機能に関する。
【背景技術】
【0002】
アジア広域に分布する高床式建築は、日本では神社建築の基本的形式になっているが、元は地面からの湿気や洪水や動物などの食害から農作物やその他の食糧を守り、蓄えておくための倉庫であった。また古くから、同じく地面からの湿気や洪水や動物などの食害から人間の生活を守るために、居住形式の一つとなってきた。高床式建築は、掘立柱の腐朽の難点はあったものの、古代から地震や台風に耐えて、人や食糧などを洪水や動物の食害から守ってきた。
【0003】
一方近年、鉄筋コンクリート造とともに、地震がほとんどないヨーロッパの近代建築のピロティという開放的な1階を持つ建築形式が、日本にも近代建築とともに多く取り入れられた。しかし、1964年の新潟地震や1995年の兵庫県南部地震において、水平剛性や水平耐力の不足したピロティ階の集中的被害が特徴的被害の一つとなった。
【0004】
高床式建築とピロティ式建築を地震に対する強さで比較すると、前者は軽くて靱性のある木造建築であるのに対して、後者は重くて脆い鉄筋コンクリート造や重くて塑性変形しやすい鉄骨造であり、また、前者は低層建築であり、1階支持構造が支持する上層階の荷重が小さいのに対して、後者は多くは中高層建築であり、壁が少なく柔らかい1階支持構造が壁の多い堅くて重い上層階を支持していたので、地震応答が1階に集中した。このような基本的構造の違いによって、長年、地震に耐えてきた前者に対して、普及して間もなく、地震によって大被害を受けた後者の問題点が明確になる。
【0005】
ピロティを耐力壁で補強する地震対策も実施されているが、完全な解決策とはなっていない。全体としては、高床式建築の掘立柱の技術を、柱の腐朽や剛性の問題を解決して、一般住宅建築を始めとした低層建築に活用し、地震や洪水や台風に対して、信頼性のある対策を持った建築を開発すべきである。古代高床式建築の掘立柱は剛接合構造と地盤で固定されていて、地震の水平加速度に対して、曲げ応力やせん断応力で抵抗し、建築物の傾斜や倒壊に対してはこれを防ぐように片側の掘立柱に引張応力が働く。洪水の多い地域で、洪水に対する住宅政策の一部として高床式住宅が採用されている。
【0006】
兵庫県南部地震では、臨海部や人工島において、広範囲にわたって地盤の液状化が発生し、支持杭基礎を持つ構造物が大きな被害を受けたが,一方で同様な地盤に立地する摩擦杭構造物は,基礎や上部構造物には大きな被害が生じなかったことが報告されている。さらに、摩擦杭構造物は周辺地盤とともに、ほぼ均等に沈下したため、周辺地盤の相対沈下が生じなかったと述べている。
兵庫県南部地震の被災者による証言で、初めて直下型地震のP波による縦揺れキラーパルスの存在が明らかにされたが、S波による周期0.5秒〜2秒の大振幅横揺れキラーパルスと違い、最初に上下動の衝撃として構造物に大きな被害をもたらし、木造在来工法住宅などは下からのP波縦揺れキラーパルスの突き上げるような上下動の衝撃によって、柱のほぞが土台のほぞ穴から抜け上がって、続く横揺れにより、倒壊している。
鉄筋コンクリート造支持杭構造物は直下型地震のP波縦揺れキラーパルスによる支持地盤のステップ応答を支持杭を通して直接受け、基礎や上部構造物に大きな衝撃が伝わり、被害が大きかった。地盤の液状化が発生してからも、支持地盤の挙動が支持杭を通して基礎や上部構造物に伝わり、非線形挙動した液状化層の下層地盤地震動に対するアイソレータとしての効果や周辺地盤による履歴減衰や地下逸散減衰による制振ダンパーとしての効果を受けることができなかった。一方、摩擦杭構造物は、摩擦杭と液状化層が直下型地震のP波縦揺れキラーパルスによる下層地盤のステップ応答に対してアイソレータと制振ダンパーの役割を果たし、地盤の液状化が発生してからも、摩擦杭が液状化層の非線形挙動と一体化して、杭周辺地盤の履歴減衰と地下逸散減衰を受けて制振ダンパーの役割を果たしたと考えられる。
【0007】
兵庫県南部地震の神戸側の地震メカニズムについては、伏在断層が震度7の領域直下に存在するとの考えが地質学者から出されている(例えば,嶋本・他,1995;池田・他,1995)。一方,地震学者からは震度7は地盤の地震波増幅によるものであるとの説が有力視されている(京都大学防災研究所,1995)。測地測量による地殻変動観測の結果、淡路島の野島断層に約230cmの食い違い変位が見られ、神戸側の断層の食い違い変位量は最大で80cmと推定され、さらに,神戸の中心部の直下の食い違い変位は約40cmと推定されている。
死亡者の90%は建物の倒壊や家具などの転倒による圧死であり、ほとんどは即死状態であったとされている。先に上げたピロティ形式の鉄筋コンクリート造のほかに、軸組構法の住宅に大破・倒壊したものが集中し、老朽化した住宅の他に新しいものでも大きな被害を受けた。「6,432人の死亡者のうち5,000人近くは軸組構法の住宅の下敷きによって圧死した」といわれ、「軸組構法の住宅は、構法的に古く十分な耐震性がないうえに老朽化していた、あるいは、新しくても壁が少ないか、あっても非常にかたよって配置されていたという共通する特徴があった」(坂本功著 木造建築を見直す 岩波新書)とされている。
【0008】
また、2008年に起きた岩手・宮城内陸地震は8kmの浅い震源を持つマグニチュード7.2の逆断層型地震であるが、震央から3kmの断層直上に位置する観測点であるKiK-net 一関西(IWTH25)の地表での応答スペクトル(h=5%)が発表されている。観測された地表面最大加速度は上下成分で3866gal であり、加速度応答スペクトルでも上下方向のものが大きな値を示し、周期0.05
秒付近が最大で10000gal、0.1 秒付近で9000gal と短周期で非常に大きな値を示しており、直下型の震源が浅い地震の特徴を表している。地震を起こしたと見られる断層は、北東から南西方向に延びており、西側が東側の地盤に乗り上げる逆断層型で発生した。一般に逆断層の場合、乗り上げた方の振動が大きい傾向があり、被害も西側の山間部に集中した。
また、国土地理院の調査では、震央に近い「栗駒2」電子基準点で約2.1m の隆起と約1.5m の水平変動を検出している。
【0009】
近年、杭打設時において近隣に影響の少ない回転貫入鋼管杭を用いることが多くなっている。この杭は、先端翼が付いているものと付いていないものがあるが、いずれも杭先端に支持力を持たせており、地震時に、特に地盤の上下方向の振動に連れて挙動するため、直下型大地震に現れる上記P波縦揺れキラーパルスによる支持地盤のステップ応答が杭を通して基礎や上部構造物に伝わり、大きな被害をもたらす。
【0010】
このようなステップ応答とその後に続く強震を免れるため、杭が上下履歴できるようにし、杭と周辺地盤の摩擦と履歴が縦揺れキラーパルスによる支持地盤のステップ応答とその後に続く強震に対して上部構造物のアイソレータと履歴減衰や地下逸散減衰による制振ダンパーの働きをする必要がある。
近年、鋼管杭は、摩擦杭でも支持杭でも、摩擦力や支持力を向上させるために先端や胴の部分に杭径の2倍ほどの直径の鋼製翼をつけているものがあるが、この杭の場合、上記の地震動における杭と周辺地盤の上部構造物に対するアイソレータや制振ダンパーとしての役割は地震の横揺れに限られる。
鋼製翼を持たない鋼製摩擦杭もあるが、杭先端が回転貫入用の平刃が付いた円筒凹形になっており、杭先端の支持力も持たせた杭となっているので、この杭に地震の縦揺れに対する上記のアイソレータや履歴減衰や地下逸散減衰による制振ダンパーの役割を持たせるのは難しい。
一方、近年、自動車業界において、制振機能をもつコイルばねが開発されている(特開平8−091030号公報)。
【0011】
また近年、鋼管杭の、同一試験地盤において先端翼付きの回転貫入鋼管杭と先端翼がないストレート型の回転貫入鋼管杭について、載荷試験が実施されており、同一軸径、同一深度での周面摩擦抵抗力が計測されている。極限周面摩擦抵抗力度は、ストレート杭が先端翼付き杭より2倍以上大きい。これは、先端翼が地盤を切りながら貫入する際に、杭周面地盤を撹乱することの影響が現れているものと考えられる。(「スウェーデン式サウンディング試験に基づく小口径回転貫入鋼管杭の支持力係数」GBRC Vol.33 No.1 2008.1 日本建築総合試験所 試験研究センター 構造部土質基礎試験室 下平祐司、廣瀬竜也)
【0012】
近年、 軟弱地盤上の杭支持建築物について、構造物と周囲地盤における自然地盤の観測を行った結果、杭支持建築物基礎への地震入力加速度は自由地表面からの地震入力加速度に比べて、0.5〜0.6倍に低下し、地盤の卓越振動数付近では、建築物1階は地表と同じ動きをし、地盤の高振動数領域では、建築物と杭は一体化して、地盤の動きに追随しないことを定性的に把握している。(鹿島建設技術研究所年報(1978.6)Vol.26 太田外気晴、内山正次、丹羽正徳、上野 薫)。
【0013】
また、2005年〜2007年度に、地震時における建築物への実効入力地震動を観測評価した研究報告が出されている(建築研究所構造研究グループ、国際地震工学センター 研究期間2005年度〜2007年度 「地震時における建築物への実効入力地震動の評価に関する研究」)。これによると、建築研究所新館の簡易な振動モデルによる観測記録のシミュレーションを行い、解析結果の建築物への算出入力動と、建物近傍の観測点地表面での観測記録を比較したところ、1〜5Hz付近で入力損失の効果が見られ、この帯域では振動数の増加と共に入力損失の効果は大きくなる傾向にあることがわかった。
また、2007年7月16日の新潟県中越沖地震における小千谷小学校建物の1階入力地震動と近傍のK-NET観測点地表面の観測記録を比べると、水平成分の最大加速度は小千谷小学校建物1階の入力地震動がK-NET観測点地表面の観測記録の約半分となった。
【0014】
近年の大地震において各地で観測された加速度応答スペクトルを見比べると、それぞれの地震と観測地で卓越振動数が異なり、0.1Hz〜10Hzの全域で大きな加速度応答が見られるのに対して、一般的な建築物である低中高層建築物がこの帯域で固有振動数を持つことが判っている。このことにより、地震動に対する一般的な建築防災対策は建築構造として耐震構造や制振構造や免震構造を構築することが重要であることがわかる。また、兵庫県南部地震で指摘された直下型大地震に現れるP波縦揺れキラーパルスによる地盤のステップ応答や、長周期地震波による超高層建築の被害もあり、現在、実施されている建築構造をこのような観点から、もう一度見直す必要がある。
【0015】
近年、市街地でよく見られる、狭小敷地に建つ駐車スペース付3階建の一戸建住宅は、前面に駐車スペースを取るため、建物の1階前面を玄関スペースを除いて開放せざるを得ず、駐車スペースの奥に耐力壁を造り、1階前面耐力壁が2、3階の前面耐力壁の位置から大きく後退し、建物の剛心が建物の重心から後方にずれ、偏心が起きている。そのため、建物は、地震の際、強いねじれが起き、倒壊する可能性がある不安定な構造となっている。南玄関の場合、この傾向がさらに強い。
【0016】
従来の木造建築の軸組は、柱や梁や土台や筋交いなどにより構築されているが、地震に対して接合部強度に難点があり、金物で補強することによって、必要な構造耐力を得ているが、部材接合部に応力が集中し、母材となる木材の強度のため、金物補強には限界がある。
鉄筋コンクリート造や鉄骨造のラーメン構造は、地震動による応力が柱やその接合部に集中し、破壊がこの部分に集中した。その原因は地震の水平加速度によるせん断力や曲げモーメントに対して、ラーメン構造の柱は構造上、過小断面となり、せん断力を耐震壁で受けた場合、靭性に乏しいコンクリートは、せん断破壊が生じやすく、H鋼などは変形しやすい。
また、鉄骨造の場合、線材による引張力だけでは地震動に対して不十分である。斜材の導入によって構造的解決をしなければならないが、斜材の組込が困難であり、構造体自重と剛性の増加の問題もあり、どの架構式構造も、近年の耐震上の検討により、その限界を指摘されている。
【0017】
木造の場合、大径ボルト剛接接合工法(SPC工法)、鋼板挿入型ドリフトピン接合や湾曲集成材による柱梁の一体化工法などの架構式構造が実施されているが、いずれもラーメン構造であり、水平部材と鉛直部材の接合部に地震力の大きな曲げモーメントが働き、それに耐えるために構造材は大断面とならざるを得ない。 また、さまざまな耐力壁による耐震構造の壁構造も実施されているが、平面計画において耐力壁による制約が大きい。また、テープなどによる制振構造が開発され実施されているが、構造材自体もダンパーの役割を担うので、構造材の塑性変形を免れない。
【0018】
鉄筋コンクリート造や鉄骨造の場合、ラーメン構造の躯体の部材断面を大きくして、耐震性を大きくするか、躯体底面に装着された転がり支承やすべり支承や積層ゴムなどのアイソレータや鉛ダンパーなどによる免震装置によって、地震加速度を吸収する方法が採られているが、構造物自重やコストの増大を避けられない。構造物自重の過剰は大地震の強震時、地震の大きな破壊力となる。
地震の縦揺れ、特に直下型大地震に現れるP波縦揺れキラーパルスによる地盤のステップ応答の場合、上記アイソレータは十分な上下可動域を持つことが困難なため、鉛ダンパーのような履歴ダンパーと組み合わせ、制振しなければならないが、鉛ダンパーの可動域は大きくなく効果に限りがある。上記大地震P波縦揺れキラーパルスによる地盤のステップ応答は最大1〜2mの鉛直上下変位になるので、対策が急がれる。
また、免震装置は鉄筋コンクリート造の免震ピットの上に装置を置き、その上に鉄骨造架台や一階スラブを築くため 建設費が大きく増加し、住宅等には経済的困難が伴う。
耐震補強には筋交いが使われているが、一体構造として斜材を取り込むことは、鉄筋コンクリート造の場合、鉄筋の組み込みが困難であり、鉄骨造の場合、柱や梁との緊密な接合が困難である。筋交いにダンパーを取り付けた構造もあるが、柱と梁の接合部に歪が生じ、躯体の塑性変形を避けられない。
【0019】
しかし、水平地震動に限っては、1階部分の剛性を低くしてソフトファーストストーリーとし、この1階部分で集中して地震応答加速度を吸収し制振する構造であれば、全体としてスウェイ振動になり、2階以上の上層階は大きな地震水平応答がなくなり、構造材は水平方向塑性変形を免れる。(日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)21514 2005年9月、「ソフトファーストストーリー制振構造による応答制御」)。この点では、上記のピロティ形式にも当てはまるが、1階部分の免震構造や構造材の弾性変形範囲内において制振できる場合に成り立つことである。
さらに高床式建築による津波、洪水、土石流に対する防災性を持つ建築や、200年の耐用年限を目標とした鉄筋コンクリート造や鉄骨造や鉄骨造と木造のハイブリッド構造によるラーメン構造などがある。また、近年のツーバイフォー工法やプレハブ工法は耐震性があるが、多くは壁構造であり、日本の気候と風土に適合しているとは言えず、耐力壁の制約もある。
【0020】
一方、建築研究所が1999年から「木質複合建築構造技術の開発」という課題を掲げて、構造研究グループ、材料研究グループ、防火研究グループが連携して、多くの実験、技術開発をしているが、二酸化炭素の吸収という地球環境改善の観点から、木造建築物の新たな利用促進が求められるという現代の要請を受けて、建設省総合技術開発プロジェクトとして開始され、独法化以後は、建築研究所と国土技術政策総合研究所が協力して実施している。木材は、生物材料であるために、強度や耐火性能などに限界がある。これらの限界を超えるために、木材以外の材料・構造と複合化するなど、従来の木造技術と新しい技術を複合化する、新たなハイブリッド技術の可能性が検討された。この研究では、中層木造建築物など、従来にない新しい木造建築物を実現することを目標に、これらの新しいハイブリッド技術の研究・開発を実施している。これまでの成果では、木材と他材料との接合や、火災における燃え止まりの実験など有用な結果が得られており、性能規定化された建築基準法のもとで、木質複合建築構造技術の成果を用いた中層木質建築物の建設が始まっている(BRI−H17講演会テキスト「木質複合建築構造技術の開発」材料研究グループ 主任研究員 山口修由)。木造建築のハイブリッド化を進めていく上で、防火や耐震などの機能性と力学的合理性と建築美の調和を検討することが重要である。
特に、大地震の強震に対する構造耐力は、構造部材の重量比強度が重要な意味を持つので、軽量で、強靭な構造部材による合理的な構造を構築しなければならない。
これら諸条件をすべて満たすことができる、強度が高く、軽量で、安全で安価な、新しいピン接合軸組構造やピン接合架構式構造の開発が願われる。
【0021】
一方、立体トラス構造は、基本的に、軸材と軸材接合部にせん断応力と曲げモーメント応力が働かず、軸材と軸材接合部は基本的に引張応力と圧縮応力だけに耐える構造でよいので、ラーメン構造と比べて、軸材の断面や軸材接合部を小さくでき、比較的軽量に構造体を構築できるので、多くの建築で用いられてきた架構式構造である。木造の小屋組や、筋交い、火打ち梁も部分的なトラス構造である。特に鉄骨造においては、いろいろな構造物に多用されてきた。また、立体トラスによる大スパン構造物の屋根組も多く造られるようになった。木造で立体トラス構造を構築している屋根組や橋梁もあるが、軸材接合部が複雑であり、高価である。
【0022】
立体トラス軸材接合部は、固定スリーブを軸材に接合し、固定スリーブに組み込まれた回転環を回転させ内蔵ボルトを旋回捩出し、ボールノードに螺合する接合方法が実施されている(特開2001-262712号公報、特開2005-180107号公報、特許公開平11−350591号公報、特許公開平9−21179号公報)。いずれも回転環などの加工組立が複雑で手間が掛かり、コストが高い。また、内蔵ボルトがボールノードに螺合緊結完了されて初めて軸材が固定されるので、立体トラス軸材接合部間隔と立体トラス軸材長など、立体トラス構築に高い施工精度が要求される。
大径全ネジボルトの木部ねじ込み長さと引抜き耐力の関係について、いくつかの実験がなされている。(日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)22023 1999年9月、「大径ボルト剛接接合工法(SPC工法)接合部の実験的研究」、木材学会誌 Vol.51,No5,p.311-317(2005)「ラグスクリューボルトの引抜き性能発現機構(第2報)」)。
また、直径約230mmのボールノードの耐力はSM490(旧SM50A)で二軸圧縮・引張耐力が約110tとなっている(日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)昭和62年10月「鋼管立体トラスシステムの研究(その1)ノードの構造検討」)。
【0023】
近年、杭頭と上部構造物との半剛接合構法を採用した建物の地震時の挙動に関する研究報告が出されている。(「杭頭の半剛接合構法を採用した建物の地震時挙動に関する研究」2002年、大成建設株式会社 技術センター 建築技術研究所 藤井俊二、真島正人)。この研究報告によると、杭頭半剛接合の場合の曲げ応答は、杭頭剛接合の場合と杭頭ピン接合の場合の中間的な値となり、杭頭部、地中部ともに設計を合理化できる可能性があることが明らかとなっている。また、杭頭半剛接合は杭頭剛接合に比べて基礎梁の曲げ応力を低減するが、その効果は地震動レベルが大きいほど顕著であることが分かっている。
さらに、杭基礎構造物の地震動に対する応答について、研究報告がなされている(「杭基礎構造物の動的相互作用を考慮した立体振動性状に関する研究」2009年1月 千葉大学大学院自然科学研究科 人間環境デザイン科学専攻建築デザイン学 木村 匠)。この研究報告によると、杭頭と上部構造底部の接合が剛接合よりピン接合のほうが杭頭に働く曲げモーメントやせん断力や軸力が小さく、上部構造の応答加速度や相対変位も小さく、ピン接合が剛接合に比べて、杭頭や上部構造にとって構造耐力上有利である実験結果が出ている。
【0024】
山間部において、傾斜地に建築する場合、敷地造成のため切土や盛土を行うが、大雨や地震の際、崩壊する危険があったり、盛土上の建築に多くの地震被害がある。山林に十分な保水力がない場合、大雨の際、鉄砲水となって土石流を引き起こし、建物の1階部分に損傷を与えることが時々あったが、これらの問題は、自然環境に不十分な人工を施すことによって引き起こされ、完全な技術的解決がなされていない。また、擁壁などの構築にも経済的限界がある。
郊外のセカンドハウスに見られるように、敷地造成を最小限に抑えた高床式建築は自然環境と一体化しやすく、周囲の景観に馴染み、環境に優しい住宅であると言える。
【0025】
埋立地や、沖積層などの軟弱地盤に建築する場合、不同沈下などを避けるため、地盤改良するだけでなく、建築物自重の軽量化も考える必要がある。地震時の被害を避けるためや、建設コスト削減や環境保護の面からも軽量化が願われる。また、通常の独立基礎や布基礎やべた基礎は重く、通常の地耐力を見込む限定的な技術で、地盤改良しない場合、通常の地耐力を見込むことは不確定要素が多く複雑で困難なため、不同沈下など多くの問題が発生している。また、地盤改良も下層地盤の荷重になり、環境破壊となることは避けられない。
【0026】
最近、小規模建築物を対象とした地震時の、有限要素法(FEM)による有効応力動的解析と、過去に不同沈下した建物の被害事例を比較検討した、地盤液状化対策の設計法に関する研究報告がなされている。(日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)20307 2009年8月、「小規模建築物を対象とした液状化対策の設計法に関する研究(その1)」)。この研究報告は、「小規模建築物では経済性や敷地の制約上、液状化の発生を防止するような抜本的対策(例えば、締固め工法や密度増大工法などの地盤改良)は採用しにくい。よって液状化が生じても建物へ影響しないように抵抗する対策が望まれる。」としている。さらに、液状化による地表面への影響が大きく、地表からの深さが5mより深い位置に液状化層がある場合、液状化層の杭周面摩擦抵抗を無視しても鉛直支持力を確保できる下層地盤による支持力を持った杭が望まれるとしている。
【0027】
杭・地盤系の動的挙動の検討に当たり,遠心場で単杭,群杭の静的および振動水平載荷実験を行った実験研究報告が出されている。(京都大学防災研究所年報 第47号B 平成16年4月 「杭・地盤系の動的挙動に関する研究」)。この研究の実験で、杭径約280〜300mm、鋼管の厚さ約20〜36mm、地中部分杭長約10m(換算値)の単杭の地上約0.6mの杭頭の変位を測定したところ、乾燥砂において、静的水平載荷実験と振動載荷実験とも水平載荷100kNの時、最大100mm、飽和砂において、振動載荷実験で60kNの時、最大80mmの水平変位を記録している。このことから、鋼管杭は、飽和砂、乾燥砂とも砂質地盤において、地盤の応答加速度を受けて水平載荷約60〜100kNの時、層間変形角約1/120〜1/100の変位をすることがわかる。したがって、杭によって支持される上部構造物の地震による挙動は杭の地震によるこのような挙動の影響を受ける。また、乾燥砂における杭の挙動が、水平載荷と変位の関係において位相のずれはあるものの、水平力+100kN,-100kNに対して+80mm,-80mmの変位となる丸みがかった典型的な塑性履歴ループを描き、杭の履歴減衰による制振ダンパーとしての機能を期待できることがわかる。
【0028】
杭と地盤の相互作用を考慮した減衰定数の解析において、橋梁の基礎杭の実測値と比較解析をしたFEM解析と集約バネにモデル化した簡易モデル(スウェイ・ロッキングモデル)による杭の減衰定数の解析結果が報告されている。これによると、無次元振動数に対する各杭の水平と回転の減衰定数の関係は0〜0.75Hzにおいて、無次元振動数の増加に伴い単調増加するという、一様な無次元振動数依存性を持つことが確認されている。なお、長さ10mの単杭はFEM解析で、1次の固有振動数がVs=100m/sの地盤で7.5Hz、Vs=250m/sの地盤で15.0 Hz、減衰定数は水平方向約32〜44%、回転約11〜12%となっている。(土木学会地震工学論文集 2005年2月25日受付 「相互作用を考慮した基礎地盤バネの減衰定数に関する考察」小倉裕介、岡田太賀雄、西田秀明、運上茂樹)
【0029】
従来の建築は構造体と間仕切り壁などの内装を明確に分けず、特に木造は一体化していたが、経済低成長時代を迎えて、2008年12月には「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が公布されるなど、国を始めとする関係各機関でも、建築物の長寿命化の実現・普及に向けた施策や基準づくりを進めている中、用途変化に対応でき、長期耐久性を持った建築へと需要が変化している現在、スケルトン・インフィルの条件を満たすことが願われる。
【0030】
構造材でも、仕上材でも、建材を外部で使用する際、雨、風、太陽光、腐食、虫害、腐朽、火災、損壊などに対して防護策を立てなければならないが、近年、この課題を一括して解決できる、耐侯、防水、防食、防腐、防蟻、防火など多機能で長年にわたって機能を維持できる、液体ガラスを利用した表面保護の技術が実施されている。その防火性能は、耐火構造材や準耐火構造材としての木造立体トラス軸材などに有効である。また、建築物の主要構造部は耐火性能を持たなければならないが、近年、鉄部への2時間耐火性能を認定された発泡性耐火塗料が実施され、木部へは、通常時には基材の素材感や意匠性を生かすことが可能な透明性を有する塗膜が得られる発泡性耐火塗料が開発された。これらの塗装技術によって、立体トラス構造物が、木製軸組も鋼製架構も共に防火制限のある市街地でも建設できるようになった。
【0031】
木材の乾燥は多様な技術があるが、近年45℃の低温で短期間で乾燥できる装置が開発され、稼働している。さらに、乾燥が困難な杉の赤身も、同じ装置で45℃の低温で効率良く乾燥でき、材の乾燥による傷みや変形も非常に小さいことから、我が国において最大量を占める杉を始めとした木材の利用に可能性が広がっている(特開2005-289032号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開2001−262712号公報
【特許文献2】特開2005−180107号公報
【特許文献3】特開公開平11−350591号公報
【特許文献4】特開公開平9−21179号公報
【特許文献5】特開公開平10−114999号公報
【特許文献6】特開平8−091030号公報
【特許文献7】特開2005−289032号公報
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】「スウェーデン式サウンディング試験に基づく小口径回転貫入鋼管杭の支持力係数」GBRC Vol.33 No.1 2008.1 日本建築総合試験所 試験研究センター 構造部土質基礎試験室 下平祐司、廣瀬竜也
【非特許文献2】鹿島建設技術研究所年報(1978.6)Vol.26 太田外気晴、内山正次、丹羽正徳、上野 薫
【非特許文献3】建築研究所構造研究グループ、国際地震工学センター 研究期間2005年度〜2007年度 「地震時における建築物への実効入力地震動の評価に関する研究」
【非特許文献4】日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)21514 2005年9月、「ソフトファーストストーリー制振構造による応答制御」
【非特許文献5】BRI−H17講演会テキスト「木質複合建築構造技術の開発」建築研究所材料研究グループ 主任研究員 山口修由
【非特許文献6】実開平2-25602号公報
【非特許文献7】日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)22023 1999年9月、「大径ボルト剛接接合工法(SPC工法)接合部の実験的研究」
【非特許文献8】木材学会誌 Vol.51,No5,p.311-317(2005)「ラグスクリューボルトの引抜き性能発現機構(第2報)」
【非特許文献9】「杭頭の半剛接合構法を採用した建物の地震時挙動に関する研究」2002年、大成建設株式会社 技術センター 建築技術研究所 藤井俊二、真島正人
【非特許文献10】「杭基礎構造物の動的相互作用を考慮した立体振動性状に関する研究」2009年1月 千葉大学大学院自然科学研究科 人間環境デザイン科学専攻建築デザイン学 木村 匠
【非特許文献11】日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)20307 2009年8月、「小規模建築物を対象とした液状化対策の設計法に関する研究(その1)」
【非特許文献12】京都大学防災研究所年報 第47号B 平成16年4月 「杭・地盤系の動的挙動に関する研究」
【非特許文献13】土木学会地震工学論文集 2005年2月25日受付 「相互作用を考慮した基礎地盤バネの減衰定数に関する考察」小倉裕介、岡田太賀雄、西田秀明、運上茂樹
【発明の概要】
【0034】
本発明は、上記の状況に鑑み、木造や鉄骨造など建築全般を対象とし、建築における構造耐力や耐久性や経済性や施工性の向上、及び、地震や津波や台風や洪水や土石流などの自然災害と軟弱地盤や山間部の傾斜地などの自然環境に対する安全性の向上を目的とした、単純な大径全ネジボルト軸心接合の立体トラス軸組や架構とソフトファーストストーリーとなる高床式杭免震構造による強度が高く軽量で安全で安価な汎用性のある新しい構造と工法を提供する。
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
近年、巨大地震の対策と、洪水や温暖化などの地球環境の解決が願われる中で、この課題を建築において解決する。立体トラス構造を建築の軸組や架構に採用し、強度が高く軽量で安全で安価な汎用性のある新しい構造と工法を提供する。高床式免震構造と合わせて、巨大地震や台風や津波に耐えて、しかも繰り返しの災害に強く、被災後も軽微な修理で継続使用できる構造を目標とする。
木造軸組の場合、地元の間伐材を積極的に採用し、地元林業を育成し、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素問題の解決に寄与する。
【0036】
兵庫県南部地震における上記の直下型大地震のP波縦揺れキラーパルスに対する支持地盤のステップ応答による支持杭構造物の大被害や一般住宅建築の大被害の報告にあるように、また、岩手・宮城内陸地震のKiK-net 一関西(IWTH25)の地表で観測された3866galの最大加速度が上下成分であり、加速度応答スペクトルでも上下方向のものが大きな値を示し、周期0.05 秒付近が最大で10000gal、0.1 秒付近で9000gal と短周期で非常に大きな値を示していたように、現在の上下方向に制約を持つ免震構造や制振構造や耐震構造の技術では直下型大地震に現れるP波縦揺れキラーパルスによる地盤の上下動ステップ応答に対処することができない。 支持杭や従来の布基礎やべた基礎や地下階などの根入れは直下型大地震のP波縦揺れキラーパルスによる地盤のステップ応答を直接強く受け危険である。震源の直上、上部断層地点では地表に近付くにつれ、加速度応答が急激に大きくなり、鉛直変位1〜2mの甚大な被害を受ける。
これを避けるため、鉛直方向を軸としたストレート摩擦杭を採用し、地震動による地表の跳ね上がりを避けるアイソレータとし、履歴減衰や地下逸散減衰による制振ダンパーの働きをさせる。その後に続く強震に対しても、上下動や水平動に対して杭免震構造として、上部構造物の揺れを抑える。
【0037】
建築構造の自重の増大や、架構材やその接合部の地震動に対する強度的限界の問題や、耐震構造や制振構造や免震構造の構築の課題は、いずれも根本的に構造的解決をしなければならない。
また、地震時の地盤液状化現象に対して、上記研究報告のとおり、液状化層の下層地盤による支持力を持った杭で制振や免震をし、上部構造物の傾斜や倒壊を免れるようにし、津波、
洪水、土石流の災害にも強い構造とする。
また、建築構造を軽量化して、軟弱地盤による不同沈下が起きないようにし、不同沈下が起きても高低差を調整できるようにし、耐用年限を延長できるようにする。
【0038】
一方、経済性の面からも、スケルトン・インフィルのような長期耐久性が求められる構造体と用途変化に応じることができる内装や設備部分に分ける機構も願われる。
立体トラス軸材接合部については、従来のような複雑で高価な、高い施工精度を要求される構造から、単純で強度が高く、安価で、立体トラス軸材接合部間隔と立体トラス軸材長の施工誤差などを調整でき、容易に施工できる構造に改良する。
鉄材や木材は表面保護の耐久性に難点があったが、近年、耐久性のある建築が願われる中で、再検討する必要がある。
【0039】
上記のように、狭小敷地に建つ駐車スペース付3階建の一戸建市街地住宅などは、建物の剛心が建物の重心から後方にずれ偏心が起き、地震動による建物の強いねじれにより、倒壊する可能性がある不安定な構造となっている。偏心をなくし、構造的に安定した建物にする必要がある。
【0040】
また、周辺環境や地球環境に優しい建築を目指し、建設敷地をできるだけ自然のままに残し、木造立体トラス軸材や高床式杭の地上部分に間伐材を採用し、林業運営に必要な間伐材処理を推進する。
【課題を解決するための手段】
【0041】
上記の目的を達成するため、本発明は、建築物軸組や架構に立体トラス構造を採用し、単純な大径全ネジボルト軸心接合により純粋な立体トラス軸組や架構を構築して、その最大構造耐力を引き出す。合わせて、重く、支持力に不確定要素の多い通常の基礎を廃し、立体トラス軸組や架構を支えるために支持力を確認できる高床式杭を採用し、ソフトファーストストーリーとなる高床式杭構造とし、立体トラス軸組や架構底面から地表まで十分な高さを取ることによって、地震時の過大な水平加速度を高床組部分と地下で集中して吸収する。杭の曲げ弾性や履歴減衰や地下逸散減衰を合わせた減衰性復元力を利用することによって水平制振ダンパーとし、地震時の上部建築物と杭を合わせた振動をスウェイ振動とし、上部建築物の水平加速度応答と層変形を抑える。
【0042】
直下型大地震に現れるP波縦揺れキラーパルスによる支持地盤の縦揺れステップ応答やその後に続く強震を、上下可動域を持つ杭の履歴減衰や地下逸散減衰で吸収するため、ストレート摩擦杭を採用し、杭先端に支持地盤の縦揺れに対する抵抗を小さくするため、硬度と強度の高い円錐形の杭先端保護金物を大径全ネジボルト軸心接合や溶接をする。
直下型地震のP波縦揺れキラーパルスによる支持地盤ステップ応答の衝撃力が強大であり、その鉛直変位が約2mあるとしても、杭の地上部分が約3.5mあるので、地盤のステップ応答時における杭の上下方向変位に対応でき、通常地盤において、高床組を除いて2階建ての場合、有限要素法構造計算の結果、杭の支持力約40〜60kN/本に対して、木杭の耐力は980kN/本で安全率が約16〜25、鋼管杭の耐力は約1000kN/本で安全率が約17〜25、杭頭の全ネジボルトの耐力は約1600kN/本で安全率が約26〜40、ボールノードの耐力は直径200mmで1000kNで安全率が約17〜25となり、木杭や鋼管杭や全ネジボルトやボールノードとも地震による破断の可能性はない。杭が上部構造物のアイソレータとして十分働くことができ、摩擦杭の履歴減衰や地下逸散減衰によって、制振ダンパーの働きをする。
また、下記[実施例][0074]に記述しているとおり、4ユニット二階建のモデルにおいて固有周期約1.7〜3.2秒、8ユニット平屋建のモデルにおいて固有周期約1.3〜2.8秒となり、その後に続く強震に対しても上部構造物は揺れが少なく、上下動や水平動とも、同様に履歴減衰や地下逸散減衰により制振ダンパーの働きをし、杭全体の減衰性復元力による水平免震効果と合わせて、全体として杭免震構造とし、上部構造物の揺れを抑える。
【0043】
さらに、上記研究報告に従って、杭下部を液状化層の下層深く打撃や圧入で打設することによって、地震時に地盤の液状化現象が起きても、下層地盤による杭支持力によって十分に上部建築物を支持し、高床式杭免震構造を維持機能できるようにする。このことによって、下層の荷重になり環境破壊となる地盤改良が不要になる。
また、高床式全ネジボルト軸心接合杭とすることで、地盤の液状化や軟弱地盤などによる不同沈下の高低差を杭頭の全ネジボルトの余長とねじ込み長さや杭最上部の交換によって調整できるようにする。
【0044】
さらに、地震後の鉛直方向自動復位を得るために、杭を鋼製やFRP製摩擦杭とし、杭最上部を地盤のステップ応答に十分対処できる上下可動域を持った二重構造にして、制振コイルばね内蔵のダンパー(特開平8−091030号公報)とすることもできる。この場合、ばね長の1/3を二重構造部の重なり面とし、高耐久性ライニングを施し、腐食などにより、円滑な動きに支障が出ないようにする。また、杭の引張力に対してはコイルばね振動域に可動域をとどめ、十分な耐力を持った止め金物を付ける。
【0045】
立体トラス軸材と床や壁や開口部や屋根などを水平、垂直とも約250mm位の間隔を取って大径ボルト接合し、立体トラス軸組と床や壁や開口部や屋根などの納まりを別けて、立体トラス軸材接合部の複雑な取合を避け、木造立体トラス軸組の場合、丸太使用による立体トラス軸材の不陸や曲がりや径の不均一の影響を避けるとともに、変更したり老朽化した立体トラス軸材や床や壁や開口部や屋根などの各部材の交換を可能にし、スケルトン・インフィルの条件を満たせる接合とする。
【0046】
また、立体トラス軸材接合部は単純な大径全ネジボルト軸心接合とし、二重ナットや、ろう付け単ナットや接着単ナットなどで大径全ネジボルトを回転させ金属製やFRP製や木製などのボールノードに螺合する。立体トラス軸組や架構の軸材接合強度は軸心接合する全ネジボルトの直径とねじ込み長さによって調整する。また、立体トラス軸材接合部間隔と立体トラス軸材長に施工誤差が生じても、立体トラス軸材接合部の大径全ネジボルトの余長とねじ込み長さで調整する。立体トラス軸材接合部のボールノードと高床式杭の杭頭との接合も上記研究報告により、大径全ネジボルト軸心接合のピン接合とする。
【0047】
立体トラス軸組や架構が外部で構築されることが多いので、表面保護のため、耐侯、防水、防食、防腐、防蟻、防火など多機能で長期にわたって機能を維持する液体ガラス注入塗装を施す。特に木造立体トラス軸材や木杭は、割れが起きないように両端木口に直径約20〜25mm深さ約500mmの軸心孔を開けておき、人工乾燥し、防腐処理の後、液体ガラス注入塗装を施し、無公害で高耐久性の構造材とする。木造立体トラス軸材や木杭に乾燥による割れや全ネジボルトの木部アンカーの緩みが生じた場合、割れ目や全ネジボルトの周囲にエポキシ樹脂を注入充填し、構造材としての強度が下がらないようにする。 建築物の主要構造部は耐火性能を持たなければならないが、近年、2時間耐火性能を認定された塗料が開発され、実施されている。
【0048】
駐車スペース付3階建の一戸建市街地住宅の偏心による地震動のねじれ倒壊を防ぐため、敷地が方形で約80m2以上、建蔽率60%、容積率200%であれば、1階駐車スペース後方居住部分を2、3階に上げ、立体トラス軸組や架構で高床式杭免震構造の住宅とすれば、偏心がなくなり、構造的に安定した地震に強い建物になり、1階は駐車スペースや駐輪スペースと階段、倉庫の他に半屋外として植栽などができる。
【0049】
間伐材を立体トラス軸材や杭などの構造材として利用する場合、間伐材原木の強度や含水率や、腐朽や虫害や節などの欠損や、曲がりや径を十分確認して、所定の基準に合うように選択し、調整改良し、構造計算で定められた強度を有する構造材として利用できるようにする。そのために、建設資材から供試体を作り、含水率や強度などの試験を行う。
【発明の効果】
【0050】
本発明は、上記の構造から次の効果を発揮する。建築物の軸組や架構を単純な大径全ネジボルト軸心接合による純粋な立体トラス構造とすることによって、建築物の構造耐力が向上する。
【0051】
また、建築物の軸組や架構を立体トラス構造とすることによって、支持力に不確定要素が多く、直下型大地震のP波縦揺れキラーパルスによる支持地盤ステップ応答の衝撃を大きく受ける通常の独立基礎や布基礎やべた基礎や地階などの根入れを廃し、立体トラス軸組や架構を地中深く打設された摩擦杭で直接に支持できる。このことによって、地盤のステップ応答を助長し環境破壊となる地盤改良が不要となり、建築物を軽量化しコスト節減ができる。また、立体トラス軸組や架構を摩擦杭で直接に支持することによって、ソフトファーストストーリーとなる高床式杭構造が構築でき、縦揺れキラーパルスによる支持地盤のステップ応答を先端を円錐形としたストレート摩擦杭によって吸収し、横揺れに対しては、杭の曲げ弾性や履歴減衰や地下逸散減衰を合わせた減衰性復元力によって制振し、高床組と杭地下部分による軽量で高強度の免震構造とし、建築物と杭を合わせた振動をスウェイ振動とすることができる。このことにより、建築物の縦揺れ横揺れを抑え、室内の転倒や破壊を防ぐことができる。
【0052】
建築物の縦揺れ、特に直下型大地震に現れるP波縦揺れキラーパルスによる支持地盤のステップ応答やその後に続く強震に対しては、上下可動域を持つ摩擦杭の摩擦力を伴った上下履歴で吸収でき、摩擦杭がP波縦揺れキラーパルスによる地盤のステップ応答やその後に続く強震に対して上部構造物のアイソレータや制振ダンパーの役割を果たすことができる。地盤の液状化後は摩擦杭なので、上部構造物も周辺地盤と共に沈下するので、支持杭のような上部構造物の抜け上がりはない。
【0053】
高床式杭構造とすることによって、津波、洪水、土石流の想定水位より上に居住空間を設定でき、災害を免れる。杭下部を液状化層の下層深く打撃や圧入で打設することによって、地震時に地盤の液状化現象が起きても、高床式杭免震構造を維持機能でき、建築物の傾斜や倒壊を免れる。敷地の高低差も高床式全ネジボルト軸心接合杭によって調整でき、敷地造成を最小限に止め、敷地造成に伴う地盤崩壊などの危険を避け、環境を保護できる。
【0054】
また、通常の基礎がない、単純な立体トラス構造なので、構造体自重を最小にでき、軟弱地盤に対して有利である。軟弱地盤により不同沈下が起きても、立体トラス軸組や架構の軸材接合部と杭頭を軸心接合する大径全ネジボルトの余長とねじ込み長さや杭最上部の交換によって高低差を調整でき、耐用年限を延長できる。
【0055】
また、耐力壁が不要となるので、外壁や間仕切り壁や開口部の計画が自由になり、スケルトン・インフィルの条件を満たすことができ、太陽光の積極採光による冬季暖房と、夏季の自然換気による放熱を促進するため、外壁を全面、開口部建具と遮光カーテンによって構成することもでき、建物周囲の景観を全面にわたって観覧することもでき眺望が良くなる。
【0056】
駐車スペース付3階建の一戸建市街地住宅などのように、建物の偏心による地震動のねじれ倒壊を防ぐため、本発明の大径全ネジボルト軸心接合立体トラス軸組や架構と高床式杭免震構造を採用すれば、耐震壁が不要となるので、自由な平面計画で構造的に安定するだけでなく、構造耐力が向上し、地震に強く、高床式杭構造なので津波、洪水、土石流に対して安全である。
本発明の大径全ネジボルト軸心接合立体トラス軸組や架構は市街地に建つ商業建築などの前面道路に開放したファサードを持つような、偏心しやすい平面計画の建築を構造的に安定させ、構造耐力を向上させる効果があり、また、建築物全方位、全方向にも開口部を持つことができる効果を持っている。
【0057】
また、立体トラス軸組や架構と床や壁や開口部や屋根などを水平、垂直とも約250mm位の間隔を取って大径ボルト接合することによって、立体トラス軸組や架構と床や壁や開口部や屋根などの納まりを別けて、立体トラス軸材接合部の複雑な取合や、木造立体トラス軸組の場合、木造立体トラス軸材となる丸太などの不陸や径の不均一や材の曲がりの影響を避けることができる。合わせて、立体トラス軸組や架構や床や壁や開口部や屋根などの老朽化による交換を可能にし、スケルトン・インフィルの条件を満たし、建築物の耐用年限を延長でき建築のコストが下がる。さらに、建築物解体、再使用が容易にでき、移築も容易である。
【0058】
立体トラス軸材接合部は、単純な大径全ネジボルト軸心接合なので、安価で高強度な接合が容易にでき、軸組や架構の組立に熟練工を必要とせず、杭打設などによる立体トラス軸材接合部間隔と立体トラス軸材長との施工誤差などを接合部の大径全ネジボルトの余長とねじ込み長さで調整することができる。
【0059】
基礎工事のコンクリートが不要なので、コンクリート廃液で環境を汚染したり、コンクリートの廃材で土壌を汚染したりせず、環境を保護できる。
【0060】
最近、度重なる豪雨による河川堤防の決壊が危惧されているが、堤防の補修が完了するまで多大な期間を必要とする。本発明はこの問題の住宅対策として貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の立体トラス軸組や架構と高床式杭や床や開口部との構成と取合を示す透視図
【図2】本発明の立体トラス軸組や架構と高床式杭の構成と取合を示す透視図
【図3】ボールノードと木製立体トラス軸材の大径全ネジボルト軸心接合の断面詳細図
【図4】ボールノードと金属製やFRP製の立体トラス軸材との大径全ネジボルト軸心接合の断面詳細図
【図5】図1に示す立体トラス軸組や架構と開口部の取合を示す平面図
【図6】図1、2に示す大径全ネジボルト軸心接合した木杭の断面詳細図
【図7】図1、2に示す大径全ネジボルト軸心接合した金属製杭やFRP製杭の断面詳細図
【図8】図1、2に示す大径全ネジボルト軸心接合した制振コイルばね内蔵の金属製杭やFRP製杭の断面詳細図
【図9】立体トラス軸組や架構の高床式杭免震構造4ユニット二階建の地震応答解析(FEM)モデル
【図10】立体トラス軸組や架構の高床式杭免震構造8ユニット平屋建の地震応答解析(FEM)モデル
【発明を実施するための形態】
【0062】
立体トラス軸組や架構のスパンを円断面の直径や方形断面の一辺約150〜250mmの立体トラス軸材が十分な耐力を持つことができる最大の長さとし、軸組や架構内空間の適性寸法も考慮して水平方向約3500〜4000mmを標準とする。鉛直方向も接合部における立体トラス軸材相互の間隔を最大に取るため、基本的に同じ約3500〜4000mmとする。軸材は接合部で水平鉛直とも基本的に互いに90度や60度や45度などの角度で取合うが、平面計画や立面計画や断面計画によっては構造耐力や軸材接合強度に支障のない範囲で水平、鉛直とも自由な角度で取合うことができる。その結果、平面計画としては、方形だけでなく、連続方形(雁行形)や、六角形や八角形やその連続形や剛心を考慮した不定形などを構築できる。 断面や立面計画においても、特に屋根構造において、寄棟や切妻の他に、方形や傘形など自由に構築でき、屋根の切妻部分や庇なども軸材接合部から持ち出しで立体トラスを組み堅固な構造にすることができる。立体トラス軸組や架構構造なので、どのような位置でも外壁や屋根や開口部を造ることができ、自由な平面計画や断面計画や立面計画ができる。立体トラス軸材断面形状は円形や方形や六角形などの多角形やH形などがある。
【0063】
立体トラス軸材接合部と床や壁や開口部や屋根などの複雑な取合を避けたり、木造立体トラスの場合、木造立体トラス軸材となる丸太などの不陸や径の不均一や材の曲がりなどの影響を避けるために、立体トラス軸材と床や壁や開口部や屋根など7を水平、鉛直とも約250mmの軸心間隔を取って分離し、床や壁や開口部や屋根などの納まりを良くしたり、施工性や、メンテナンスの利便性の向上を図る。
【0064】
立体トラス軸材接合部は直径約30〜50mmの大径全ネジボルト(二重ナットや、ろう付け単ナットや接着単ナットなど5組込)4と、直径約200〜300mmのボールノード3(通常は金属製、応力が小さい場合はFRP製や木製でもよい)と直径または一辺約150〜250mmの立体トラス軸材1や2を単純な軸心ボルト接合し、大径全ネジボルトの木製立体トラス軸材1へのねじ込み長さを約300〜400mm(杭頭部は約400〜500mm)とし、金属製やFRP製立体トラス軸材2へのねじ込み長さを約70〜150mm(杭頭は約150〜250mm)とする。
【0065】
また、立体トラス軸組は外部で構築されることが多いので、表面保護のため、耐侯、防水、防食、防腐、防蟻、防火など多機能で長期にわたって機能維持できる液体ガラス注入塗装を施す。液体ガラス注入塗装は材質を生かした仕上げができ、木材の場合、自然な表面を美しくする。
特に木造立体トラス軸材や木杭は、割れが起きないように両端木口に直径約20〜25mm深さ約500mmの軸心孔を開けておき、木材の強度を保つために低温乾燥し、防腐処理の後、液体ガラス注入塗装を施し、無公害で高耐久性の構造材とする。木造立体トラス軸材や木杭に乾燥による割れや全ネジボルトの木部アンカーの緩みが生じた場合、割れ目や全ネジボルトの周囲にエポキシ樹脂を注入充填し、構造材としての強度が下がらないようにする。
【0066】
本発明の高床式杭免震構造は、高床組部分を建築基準法上、1階と見なされることが多い。この場合、建築基準法施行令第38条6項に従い、木造立体トラス軸組の場合、高床式杭は地下部分を鋼管杭、地上部分を木杭とし、高床式杭の地下部分と地上部分を大径全ネジボルト軸心接合する。
また、傾斜地に建築する場合は、高床組部分を1階と見なされない場合があるが、この場合、建築物が平屋建てであれば、木杭を使用できるが、木杭の土に接する地下部分には、十分な防腐処理をし、液体ガラスで丹念なコーティングをして、木杭の耐久性を高めなければならない。さらに杭に長期耐久性を求める場合、近年実施されている、防食被覆層の上にFRP保護層を積層する高強度重防食被覆鋼管杭を用いる。また、このFRP保護層は木杭にも応用できる。
なお、杭の地中部は、地震時において強い曲げモーメントの他に強いせん断力も働くので、杭に十分な靭性を持たせ、接合部は直径50mmの全ネジボルトによる杭断面高圧摩擦力が十分働く締付けトルクとする。
【0067】
また、上記高床式杭などに用いる杭先端保護金物は、周面摩擦力を持つ杭において、打設時に軸対称回転体の円錐形による求心性により、杭を鉛直に打設するためと、打設時に周辺地盤をできるだけ撹拌せずに地中障害物を破砕したり押し退けたりするための最も効率の高い形としての円錐形を採用した杭先端保護金物で、地震時の縦揺れ、特に直下型大地震のP波縦揺れキラーパルスによる地盤のステップ応答を杭の摩擦力の上下履歴で吸収できるようにする。杭先端の地盤抵抗を小さくし、下からのP波の反射を多くするため先端角45°以下の円錐形とした杭先端保護金物を杭先端に全ネジボルト軸心接合や溶接をする。
【0068】
本発明の立体トラス軸組や架構は耐力壁が不要なので、外壁や間仕切り壁や開口部を用途に合わせて自由に計画し、スケルトン・インフィルの条件を満たすことができ、太陽光の積極採光による冬季暖房と夏季の自然換気による放熱を促進するため、外壁面全面を開口部建具と遮光カーテンによって構成することもできる。さらに、防火関係地域以外では、断熱性能や耐震性能や火災時の安全性の向上と防犯と軽量化のため、外壁開口部に厚さ約10mmのポリカーボネート板を採用することもできる。また、軽量化と耐震性能や断熱性能の向上のため、屋根板と床板を厚さ約150mm以上のホローコアパネル構造とすることもできる。
【実施例】
【0069】
本発明に係る立体トラス軸組や架構と高床式杭免震構造を図面に示す実施例について説明すると、本発明の立体トラス軸組や架構は、図1、図2の立体トラス軸材1や2と金属製ボールノード(応力が小さい場合はFRP製や木製でもよい)3と大径全ネジボルト(二重ナットや、ろう付け単ナットや接着単ナットなど5組込)4の軸心ボルト接合による立体トラス構造によって構成され、本発明の高床式杭免震構造は立体トラス軸組や架構を支える大径全ネジボルト軸心接合木杭8や大径全ネジボルト軸心接合金属製やFRP製杭9によって機能する。
【0070】
図1は、立体トラス軸組や架構と床や開口部7や高床式杭8や9などとの構成と取合を示す透視図、図2は立体トラス軸組や架構と高床式杭8や9の構成と取合を示す透視図、図3は木製立体トラス軸材1と大径全ネジボルト(二重ナットなど5組込)4とボールノード3の軸心ボルト接合断面詳細図、図4は金属製立体トラス軸材1やFRP製立体トラス軸材2と大径全ネジボルト(二重ナットなど5組込)4とボールノード3の軸心ボルト接合断面詳細図、図5は立体トラス軸組や架構と開口部7の取合を示す平面図、図6は大径全ネジボルト軸心接合木杭8の断面詳細図、図7は大径全ネジボルト軸心接合金属製やFRP製杭9の断面詳細図である。
【0071】
図1に示すように、立体トラス軸組や架構内に、壁や開口部や床や天井などの構造材や造作材7が組込まれ、大径ボルト6によって、立体トラス軸材1や2にボルト接合される。
【0072】
図2や図3や図4に示すように、立体トラス軸組や架構は、あらかじめ立体トラス軸材1や2にねじ込まれた大径全ネジボルト(二重ナットや、ろう付け単ナットや接着単ナット5組込)4を、組込んだ二重ナットや、ろう付け単ナットや接着単ナットなど5で回転させてボールノード3にねじ込むことによって、軸心ボルト接合し組立てられる。
【0073】
図3や図4に示すように、二重ナットやろう付け単ナットや接着単ナット5は大径全ネジボルト4に組込まれ、大径全ネジボルト4と立体トラス軸材1や2とボールノード3の螺合の際、スパナによって大径全ネジボルト4を回転させる時に用いる。二重ナット5は全ネジボルト4に固定するため両ナットを互いに締め付ける。立体トラス軸材1や2は、構造計算された深さと径のボルト孔を開けておく。
【0074】
図1や図5に示すように、立体トラス軸組や架構は外壁面では外部にあるが、内部にある場合は斜材に沿って間仕切り壁を配置する。平面計画の立体トラス軸組や架構による制約はあまりないが、平面計画と立体トラス軸組や架構のスパンをできるだけ合わせるようにする。
【0075】
図6や図7に示すように、立体トラス軸組や架構を支える高床式の全ネジボルト軸心接合杭8や9は約6mの杭を継ぎ足して、中継点や杭先端と円錐形杭先端保護金物10を大径全ネジボルトで軸心接合した杭で、2階建(高床組部分を除く)建築物の場合、通常、杭3本継ぎ足して、杭全長約18m、地中部分杭長約14.5mになる。その杭頭を立体トラス底面の軸材接合部に組み込まれたボールノード3に大径全ネジボルト(二重ナットなど5組込)4で軸心ボルト接合する。2階建(高床組部分を除く)建築物の場合、通常の地盤で十分な杭支持力が得られるのは、地中部分杭長約10m〜15mであるが、軟弱地盤の場合、杭を4本継ぎ足して杭全長約24mとし、地中部分杭長約20.5mとすることもできる。
施工は、打設時に杭支持力を確認でき、大きな支持力を持つ打撃工法やストレート杭圧入工法などにより、十分な杭支持力が得られた時、打設を終了する。
高床式木杭8や高床式金属製やFRP製杭9の先端には上下可動域を持ち、薄い岩盤などを破砕できるように円錐形杭先端保護金物10を大径全ネジボルト軸心接合や溶接をする。
なお、杭の地中部は、地震時において強い曲げモーメントの他に強いせん断力も働くので、杭に十分な靭性を持たせ、接合部は直径50mmの全ネジボルトによる杭断面高圧摩擦力が十分働く締付けトルクとする。
木杭の場合、先端を丸太の末口、杭頭を丸太の元口になるように配置し、杭先端から杭頭へと徐々に径が大きくなるように継ぎ足し、全体でテーパー木杭を構成する。
【0076】
なお、図8に示すとおり、上記基本ユニットにより、木杭と鋼管杭について、最も一般的な4ユニット2階建、方形立体トラス屋根モデル(縦 8m、横 8mの方形平面、階高 4m、高床組 3.5m、杭地下可動部 5m、4m、3m、2m、1m、0m)とした地震応答解析モデルと8ユニット平屋建、寄棟立体トラス屋根モデル(縦 8m、横 16mの方形平面、階高 4m、高床組
3.5m、杭地下可動部 5m、4m、3m、2m、1m、0m)を作り、2004年新潟県中越地震本震のK-net小千谷観測点(NIG019)での応答加速度NS方向、EW方向、UD方向を入力し、上部構造と杭の連係減衰定数は新潟県中越地震で最も被害が大きかった地盤無次元振動数0.75Hzにおける上記杭の減衰定数が0.57なので、0.30を採用して、有限要素法(FEM)によりシミュレーション応答解析を行い、モデル構造物の地震による挙動を検討した。なお、モデル構造物の杭の不動沈下を管理できれば4ユニット2階建モデルの2階中央の柱と8ユニット平屋建モデルの中央2本の柱を除外することができる。
その結果、木杭について、4ユニット2階建モデル構造物の固有周期約1.7〜3.1秒、相対速度応答が最大約25〜99kine、相対応答が最大約101〜327mmとなり、8ユニット平屋建モデル構造物の固有周期約1.3〜2.8秒、相対速度応答が最大約20〜90kine、相対応答が最大約93〜293mmとなり、鋼管杭について、4ユニット2階建モデル構造物の固有周期約1.7〜3.2秒、相対速度応答が最大約7〜84kine、相対応答が最大約75〜256mmとなり、8ユニット平屋建モデル構造物の固有周期約1.4〜2.7秒、相対速度応答が最大約5〜75kine、相対応答が最大約74〜229mmとなった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、広く建築全般を扱うので、立体トラス構造により構築できる軸組や架構であれば、どのような形態の軸組や架構でも可能である。図1、図2には基本的最小ユニットを示したが、立体トラス軸組や架構を鉛直方向に2層、3層・・・と階を重ねても、水平方向に立体トラス軸組や架構を増やしても、立体トラス軸組や架構の基本的取合は変わらないので、合理的で自由な平面計画に基づいて、軽量で、構造強度と耐久性の高い、用途の広い建築ができる。
【0078】
また、軸材を軸心ボルト接合した純粋な立体トラス構造なので、簡単に精確な構造計算や構造解析ができ、立体トラス軸組や架構の完全な構造管理が容易にでき、安全性が向上する。
【0079】
立体トラス軸組や架構と高床式杭免震構造により、地震、津波、台風、洪水、土石流などのあらゆる自然災害や自然環境に対して被災の少ない安全な建築物の供給に役立つ。
【0080】
木造や鉄骨造において、立体トラス軸材や杭やその接合部に、ラーメン構造のように地震による過大な曲げモーメントやせん断力が働かず、軸材や軸材接合部の破壊を防ぐことができ、構造耐力が向上し、地震後も軽微な修理で継続使用できる。
【0081】
また、鉄筋コンクリート造や従来の鉄骨造と比べて、立体トラス軸組や架構の高構造耐力と高耐久性により、軸材と軸組や架構全体の大幅な軽量化が可能となり、資材と施工費の節約ができ、コストの低い建築ができる。
【0082】
立体トラス軸組や架構により構造体自重が最小となるので、軟弱地盤において不同沈下を起こし難く、不同沈下が起きても、高低差を立体トラス軸組や架構の軸材接合部と杭頭を軸心接合する大径全ネジボルトの余長とねじ込み長さや杭最上部の交換によって調整でき、耐用年限を延長できる。
【0083】
木造において、従来の軸組の問題点である地震による軸材接合部の軸材の抜けや補強金物の破壊や筋交いの破損などの脆弱性や、ホールダウン金物などの軸材軸心とのずれによる取付ボルトの抜けや、接合部ボルトにかかるせん断力による軸材の裂けなどを全て解決でき、高耐久性の建築となり、建築コストが下がる。
【0084】
立体トラス軸組や架構の高床式杭免震構造により、従来の耐震、制振、免震構造では対応が難しかった直下型大地震に現れるP波縦揺れキラーパルスによる地盤のステップ応答を吸収し、地盤の液状化現象に耐えることができ、容易に安価で安全な地震対策を行え、広範な用途がある。
【0085】
全ての構造部材や造作材が、大径ボルト接合されているため交換ができるので、用途変更に対応できスケルトン・インフィルの条件を満たし、増改築が容易である。また、老朽化した全ての構造部材や造作材も交換でき、耐用年限を延長して建築のコストをさらに下げることができる。解体・再組立が簡単なので移築も容易である。住宅、店舗、事務所などの常設建築物ばかりでなく、パビリオンなどの臨時施設も可能である。
【0086】
本発明の立体トラス軸組や架構の高床式杭免震構造は上記の駐車スペース付3階建の一戸建市街地住宅などのように、1階を開放して駐車場、駐輪場や半屋外の場、半公共空間とした建築などにも用途があり、住宅では、隣棟と連続した建て込みによる街路ごとの閉鎖的な近隣関係から、1階部分において隣家との壁を取り払い、連続した開放的景観と自由な回遊によって、ガーデニングなどで近所付合いへと自然に移行できるように、出会いの機会を作り出せる住環境を創出できる。住居の連続によって迷路化し閉鎖的になった市街地を、1階部分の開放により、回遊ができ、広がりのある公園のような空間とする効果がある。
【0087】
本発明の立体トラス軸組や架構や高床式杭免震構造は均質な構造耐力を持った自由な平面計画ができるので、偏心はほとんど起きず、前面道路に開放したファサードを持つ商業建築や、レストランや公園の休憩所などの全方位にわたって開口部を持つ建築や、屋根まで含めて全面開口部とするアトリウムやサンルームや温室などにも用途がある。
【0088】
立体トラス軸組や架構は耐火性能を持たなければならないが、近年、実施されている液体ガラスの防火性能が、耐火構造材や準耐火構造材としての木造立体トラス軸材などの燃え代に有効である。また、鉄部への2時間耐火性能を認定された発泡性耐火塗料が実施され、木部へは、通常時には基材の素材感や意匠性を生かすことが可能な透明性を有する塗膜が得られる発泡性耐火塗料が開発された。これらの塗装技術によって、立体トラス軸組や架構の構造物を、木製も鋼製も共に防火制限のある市街地でも建設できるようになり、用途が広がっている。
【0089】
木造立体トラス軸材や木杭を防腐処理の後、液体ガラスを注入塗装し、無公害で高耐久性の構造材とし、また、基礎にコンクリートを使用しないので、コンクリート廃液で環境を汚染せず保護することができる。
【0090】
木造立体トラス軸材と木杭に建設地の間伐材を地産地消し、材料費、輸送費の節減と共に、山林保護育成や地元林業と地元木材産業の活性化ができる。
【符号の説明】
【0091】
1 木製の立体トラス軸材
2 金属製やFRP製の立体トラス軸材
3 ボールノード(通常は金属球。応力が小さい場合はFRP球や木球でもよい。)
4 大径全ネジボルト
5 二重ナットや、ろう付け単ナットや接着単ナット
6 大径ボルト
7 床や壁や開口部や屋根などの構造材や造作材
8 高床式の大径全ネジボルト軸心接合木杭
9 高床式の大径全ネジボルト軸心接合金属製やFRP製杭
10 円錐形杭先端保護金物
11 制振コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体トラス軸材や架構材を大径全ネジボルト軸心接合によって立体トラス構造に構築した軸組や架構の新しい建築構造と工法。
【請求項2】
請求項1に記載の立体トラス構造に構築した軸組や架構の底部軸材接合部のボールノードと杭頭を大径全ネジボルト軸心接合することによって、フーチング基礎や独立基礎や布基礎やべた基礎などの通常の基礎を廃した立体トラス軸組や架構の新しい建築構造と工法。
【請求項3】
床や壁や開口部や屋根などと請求項1や請求項2に記載の立体トラス軸材や架構材の接合部との複雑な取合を避けたり、木造立体トラスの場合、木造立体トラス軸材となる丸太などの不陸や径の不均一や材の曲がりなどの影響を避けたり、床や壁や開口部や屋根などの各部材を変更したり、これらの部材や立体トラス軸材や架構材が老朽化した時、交換できるように、水平、鉛直とも約250mm位の、施工性の向上やメンテナンスの利便性を図った軸心間隔を取って、床や壁や開口部や屋根などと木製や金属製やFRP製の請求項1や請求項2に記載の立体トラス構造の軸材や架構材とを大径ボルト接合した新しい接合法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の立体トラス軸組や架構などを構築するための接合で、立体トラス軸材接合部間隔と立体トラス軸材長の施工誤差などを接合部の大径全ネジボルトの余長とねじ込み長さで調整できる、ボールノード(通常は金属球、応力が小さい場合はFRP球や木球でもよい)と大径全ネジボルト(二重ナットや、ろう付け単ナットや接着単ナット組込)と請求項3に記載の木製や金属製やFRP製の立体トラス軸材や架構材などを軸心接合する大径全ネジボルト軸心接合。
【請求項5】
地盤に打撃工法やストレート杭圧入工法で打設された杭の上部をソフトファーストストーリーとなる高床の束の役割をするように地上に突出させ、フーチング基礎や独立基礎や布基礎やべた基礎などの通常の基礎を廃し、その杭頭部を上部建築物の底面接合部や請求項1に記載の立体トラス軸組や架構の底部のボールノードに請求項4に記載の大径全ネジボルト軸心接合し構築された杭による高床組の高床式杭構造。
【請求項6】
上部建築物の底面接合部や請求項1や請求項2に記載の立体トラス軸組や架構の底面の軸材接合部のボールノードに曲げ弾性のある杭の杭頭を大径全ネジボルト軸心接合して、フーチング基礎や独立基礎や布基礎やべた基礎などの通常の基礎を廃し、杭自体の曲げ弾性と杭の履歴減衰や地下逸散減衰を合わせた杭の減衰性復元力と、ソフトファーストストーリーとなる請求項5に記載の高床式杭構造の杭の減衰性復元力を総合した高床式杭免震構造。
【請求項7】
液状化層の下層の非液状化層深く、曲げ弾性のある杭の下部を打撃工法やストレート杭圧入工法で打設することによって、地震時に地盤の液状化現象が起きても、請求項6に記載の高床式杭免震構造を維持し機能できるようにした構造。
【請求項8】
打撃工法やストレート杭圧入工法などによって、杭打設時に杭支持力を確認でき、十分な杭支持力を得るまで打継ぐことができ、また木杭や鋼管杭やFRP杭を互いに打ち継ぐことができる、請求項5や請求項6や請求項7に記載の大径全ネジボルト軸心接合杭とその工法。
【請求項9】
軟弱地盤による不同沈下が起きて高低差が生じた場合でも、上部建築物との接合部において、杭頭の大径全ネジボルトの余長とねじ込み長さや杭最上部の交換によって高低差を調整することができ、また杭自体の老朽化による杭最上部の交換もできる前記大径全ネジボルト軸心接合杭とその杭工法。
【請求項10】
地震時の鉛直方向制振と地震後の鉛直方向自動復位を得るために、杭最上部を直下型大地震の地盤のステップ応答に十分対処できる上下可動域(約500〜1000mm)を持った二重構造にして、制振コイルばね内蔵のダンパーとした鋼製やFRP製杭とその工法。
【請求項11】
木製や鋼製やFRP製の摩擦杭や請求項8または請求項9に記載の杭などの先端に大径全ネジボルト軸心接合や溶接をする、打設時に軸対称回転体の円錐形による求心性により杭を鉛直に打設するためと、打設時に周辺地盤をできるだけ撹拌せずに地中障害物を破砕したり押し退けたりするための最も効率の良い形として、また、杭先端の地盤抵抗を小さくし、下からの地震波の反射を多くするため、先端の鉛直断面の角度が約45°以下の円錐形とした硬度と強度の高い杭先端保護金物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−241672(P2011−241672A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287657(P2010−287657)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(710003078)
【Fターム(参考)】