説明

往復コンプレッサー用騒音低減装置とシステム

【課題】 電気機器などの多用される往復コンプレッサーにおいて発生される騒音と振動とを低減する。
【解決手段】 懸垂バネとスナッバーとの組合せを有しており、該懸垂バネは複数のコイルと2個の反対方向の開口端とを有しており、少なくとも1個のスナッバーが設けられていて、懸垂バネの原状と形状を保持してかつ所期の位置からの懸垂バネの変位を防止し、懸垂バネの少なくとも1個の開口端が少なくとも1個のスナッバーに緩嵌しており、懸垂バネの内径がスナッバーの外径より大であって、懸垂バネとスナッバーとの間に隙間が画定されて懸垂バネとスナッバーとの間の物理的接触を最少にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は往復コンプレッサー用騒音低減装置とシステムに関するものであり、特に往復コンプレッサーから伝達された騒音と振動を低減するものであって、懸垂バネとスナッバーとの組合せを有した装置とシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機器の多くは往復コンプレッサーを利用している。図1に示すのは冷蔵電気機器一に組み込まれた一般的な密閉コンプレッサー10である。該コンプレッサー10は連結ロッド16に結合されたクランク軸14を具えたモーター12を有している。
【0003】
連結ロッド16はシリンダーヘッド18に内蔵されたピストン(図示せず)に結合されている。連結ロッド16とシリンダーヘッド18とは一緒になってコンプレッサー10のポンプユニット20を構成している。ポンプユニット20とモーター12とは一緒になってコンプレッサーユニット23を構成している。
【0004】
動作中モーター12のクランク軸14は所定の速度で回転する。この回転運動はピストンに結合された連結ロッド16を介して線型往復運動に変換される。
【0005】
モーター14の回転運動および往復動する連結ロッド16の振動およびポンプユニット20のピストンから騒音が発生される。この騒音はコンプレッサーユニット23を収容する密閉シェル30により部分的には抑制される。
【0006】
コンプレッサー10には潤滑油システム(図示せず)も組み込まれていて、モーター12の回転クランク軸14、その他の可動部品に潤滑油を供給する。潤滑油は密閉シェル30の底部に回収され、クランク軸14は部分的に潤滑油中に沈んでいる。かくして潤滑油もまたコンプレッサーユニット23から密閉シェル30への振動伝達の媒体として作用する。
【0007】
密閉シェル30は冷蔵電気機器内での据付けのために台25により一般に支持されている。しかし騒音や振動は密閉シェル30を通って台25を介して機械的に冷蔵用電気機器に伝達される。
【0008】
冷蔵媒体をコンプレッサーユニット23から冷蔵電気機器に運搬する冷蔵ライン系も騒音の機械的伝達の源となる。該ライン系はコンプレッサーユニット23から延在して密閉シェル30を通るパイプラインを有している。密閉シェル30には通過点において排出ライン22が付設されている。しかしてコンプレッサーユニット23の騒音と振動とは排出ライン22を介してコンプレッサー10の外に伝達される。
【0009】
コンプレッサー10からの振動の緩衝は現在迄のところ密閉シェル30内において懸垂バネ40上にコンプレッサーユニット23全体を取り付けることにより行われている。しかしてコンプレッサー10を支持する台25に機械的に伝達される前に、振動と騒音とは懸垂バネ40により緩衝できる。
【0010】
この懸垂バネ40はさらにスナッバー45により増大されており、該スナッバーは懸垂バネ40の原状と形状とを保持助成し、懸垂バネ40が所期の位置から変位するのを防止している。懸垂バネ40は一般に複数のコイルからなる渦巻きバネであり、2個の反対側の開口端を有している。これらの開口端はその渦巻き形状内に円形筒状空間を画定している。スナッバー45は実質的に筒状であって、その小さな突起は懸垂バネ40の開口端に嵌合している。
【0011】
図2において、スナッバー45は一般に各懸垂バネ40について対で用いられる。上側スナッバー45aはコンプレッサーユニット23に取り付けられ、対応する下側スナッバー45bは密閉シェル30の下部に取り付けられる。上側スナッバー45aは下側スナッバー45bと実質的に整列しており、上側スナッバー45aは懸垂バネ40の一端内に嵌合し、下側スナッバー45bは懸垂バネ40の反対側の端部に嵌合している。
【0012】
製造と組立ての便宜上、懸垂バネ40は少なくとも一方のスナッバー45に固定されている。これにより対応する上側スナッバー45aまたは下側スナッバー45bの懸垂バネ40の開口端への嵌合が容易となる。
【0013】
しかし、少なくとも一方のスナッバー45への懸垂バネ40の固定取付けは約500Hzの騒音周波数を有している。この騒音周波数がコンプレッサー10の動作周波数と一致すると、全騒音と振動とは増幅されて騒音の問題を引き起こす。
【0014】
さらに懸垂バネ40とスナッバー45との間の締り嵌合が変わると騒音共鳴周波数も変わってくる。この締り嵌合とは懸垂バネ40とスナッバー45との間の公差または隙間の量を言うものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがってコンプレッサーから騒音を低減する必要があり、少なくとも現存する緩衝技術の制約を緩和する必要がある。
【0016】
かかる従来技術の現状に鑑みてこの発明の目的は、電気機器などの多用される往復コンプレッサーにおいて発生される騒音と振動とを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このためこの発明の騒音低減装置は懸垂バネとスナッバーとの組合せを有しており、該懸垂バネは複数のコイルと2個の相互に反対方向の開口端とを有しており、少なくとも1個のスナッバーが設けられていて、懸垂バネの原状と形状を保持してかつ所期の位置からの懸垂バネの変位を防止し、懸垂バネの少なくとも一方の開口端が少なくとも1個のスナッバーに緩嵌しており、懸垂バネの内径がスナッバーの外径より大であって、懸垂バネとスナッバーとの間に隙間が画定されて懸垂バネとスナッバーとの間の物理的接触を最少にしていることを要旨とする。
【0018】
またこの発明の騒音低減システムは、複数の懸垂バネと複数の上側スナッバーと複数の下側スナッバーとを有してなり、各懸垂バネは複数のコイルと往復コンプレッサーのコンプレッサーユニットを支持する2個の相互に反対側の開口端を有しており、上側スナッバーはコンプレッサーユニットの底部に取り付けられており、下側スナッバーはフレームに取り付けられており、複数の上側スナッバーは複数の下側スナッバーと実質的に整列されており、複数の懸垂バネは複数の上下スナッバーに嵌合された2個の反対側の開口端を有しており、各懸垂バネの少なくとも1個の開口端は上下スナッバーの少なくとも一方に緩嵌しており、各懸垂バネの内径は少なくともいずれかの上下スナッバーの外径より大であって、これにより各懸垂バネと上下スナッバーの少なくとも一方との間に隙間が画定されて各懸垂バネと上下スナッバーの少なくとも一方との間の物理的接触を最少にすることを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、500Hzの1/3オクターブ周波数帯における騒音の振幅が緩衝または低減される。
【0020】
また懸垂バネ40とスナッバー45との騒音周波数をコンプレッサーの動作周波数から離して、コンプレッサー動作中の騒音共鳴の発生が防止される。
【0021】
さらにこの発明の装置とシステムは金属粒子がコンプレッサー潤滑油システムに入るのを捕捉する金属捕塵子として作用する可能性を有している。
【実施例1】
【0022】
図3Aにおいて、この発明により懸垂バネ50と下側スナッバー55との組合せの第1の実施例を示す。懸垂バネ50は複数のコイルからなり2個の反対側の開口端を有しており、該開口端はその渦巻き内に円形筒状空間を画定している。懸垂バネ50の一方の開口端はスナッバー55に緩嵌しており、これにより懸垂バネ50がスナッバー55との物理的接触を低減している。懸垂バネ50の内径59はスナッバー55の直径57より大である。
【0023】
この懸垂バネ50とスナッバー55との緩嵌は従来技術における懸垂バネ50のスナッバー55への固定取付けとは異なっている。この緩嵌により懸垂バネ50のスナッバー55への嵌合においては不便ではあるが、この実施例の従来技術に対する有利さが不便さを凌駕しているのである。
【実施例2】
【0024】
図3Bに懸垂バネ60とスナッバー65との組合せの他の実施例を示す。懸垂バネ60の一方の開口端はスナッバー65に緩嵌しており、懸垂バネ60はスナッバー65との物理的接触を低減している。しかし懸垂バネ60がスナッバー65から滑脱もしくは脱落しないように、スナッバー65にはその基部または基部の近くに溝66を有している。
【0025】
さらに懸垂バネ60はそのスナッバー65に嵌合する懸垂バネの開口端が少なくとも1個のコイル61からなり、該コイルの内径68は懸垂バネ60の内径70より小さくなっている。コイル61の内径68はスナッバー65の外径69より小さくなっている。溝66におけるスナッバー65の溝直径67は少なくとも一方のコイル61の内径68より小さく、スナッバー65の外径69より小さい。
【0026】
溝66と内径68のコイル61とは一緒になって、懸垂バネ60がスナッバー65から滑脱したり脱落したりしないようにしている。
【0027】
しかし懸垂バネ60とスナッバー65との間には第1の隙間63aが保たれており、さらに第2の隙間63bが内径68のコイル61とスナッバー65の溝66との間に保たれている。懸垂バネ60の内径70とコイル61の内径68とはスナッバー65の外径69さらには溝直径67より大きい。
【0028】
第1、2の実施例において、隙間53、63a、63bは懸垂バネ50、60とスナッバー55、65との間の物理的接触を最少にしている。さらにコンプレッサー10中の潤滑油は動作中隙間53、63a、63b内に流れ込んで、この潤滑油の薄い膜が500Hzの1/3オクターブ周波数帯における騒音の振幅を緩衝または低減している。
【0029】
図4に従来のコンプレッサーとこの発明のコンプレッサーとの騒音挙動を示す。曲線80は従来のコンプレッサー10の騒音挙動を示し、約500Hzにおける騒音振幅は50dBを超えている。しかし曲線90はこの発明のコンプレッサーの騒音挙動を示しており、同じ範囲において約40〜45dBの非常に低減された騒音挙動を呈している。
【0030】
以上の実施例をさらに改変して、金属粒子がコンプレッサー10の潤滑油システムに入るのを捕捉する金属捕塵子として作用するようにもできる。懸垂バネ50、60は磁化して磁力によりスナッバー55、65からの滑脱を防止することもできる。懸垂バネ50、60の磁化はまたコンプレッサー10、特に潤滑油中の金属粒子を吸引するのにも使われ、金属粒子が潤滑油システム中に入るのも防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
電気機器用往復コンプレッサーの製造分野において広く応用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の密閉コンプレッサーの断面図である。
【図2】図1のコンプレッサーにおける従来の懸垂バネとスナッバーの組合せの拡大図である。
【図3A】この発明の第1の実施例における懸垂バネとスナッバーとの組合せを示す側面図である。
【図3B】この発明の第2の実施例における懸垂バネとスナッバーとの組合せを示す側面図である。
【図4】従来の密閉コンプレッサーとこの発明の密閉コンプレッサーの騒音挙動の比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
50,60: 懸垂バネ
55,65: スナッバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復コンプレッサーから伝達される500Hzの1/3オクターブ周波数帯域の騒音を低減しかつ往復コンプレッサーの動作中の共鳴周波数の発生を防止する懸垂バネとスナッバーとの組合せを有しており、該懸垂バネは複数のコイルと2個の相互に反対側の開口端とを有しており、少なくとも1個のスナッバーが設けられていて、懸垂バネの原状と形状を保持してかつ所期の位置からの懸垂バネの変位を防止し、懸垂バネの少なくとも1個の開口端が少なくとも1個のスナッバーに緩嵌しており、懸垂バネの内径がスナッバーの外径より大であって、懸垂バネとスナッバーとの間に隙間が画定されて懸垂バネとスナッバーとの間の物理的接触を最少にしていることを特徴とする往復コンプレッサー用騒音低減装置。
【請求項2】
少なくとも1個のスナッバーが基部に溝を有しており、該溝の直径はスナッバーの外径より小であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
懸垂バネの少なくとも一方の開口端が小さな内径を有した少なくとも1個のコイルを有しており、少なくとも1個のコイルの小さな内径が溝直径より大でありスナッバーの外径より小であることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
懸垂バネが磁化されて往復コンプレッサー中の潤滑油からの金属粒子を捕捉する金属捕塵子として作用することを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項5】
潤滑油が隙間中に残って伝達された騒音と振動とを追加的に緩衝することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
懸垂バネが磁化されて、少なくとも1個のスナッバーから滑脱することを防止することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
懸垂バネが磁化されて、往復コンプレッサー中の潤滑油から金属粒子を捕捉する金属捕塵子として作用することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
往復コンプレッサーから伝達される500Hzの1/3オクターブ周波数帯域の騒音を低減しかつ往復コンプレッサーの動作中の共鳴周波数の発生を防止する往復コンプレッサー用騒音低減システムであって、複数の懸垂バネと複数の上側スナッバーと複数の下側スナッバーとを有してなり、各懸垂バネは複数のコイルと往復コンプレッサーのコンプレッサーユニットを支持する2個の相互に反対側の開口端を有しており、上側スナッバーはコンプレッサーユニットの底部に取り付けられており、下側スナッバーはフレームに取り付けられており、複数の上側スナッバーは複数の下側スナッバーと実質的に整列されており、複数の懸垂バネは複数の上下スナッバーに嵌合された2個の相互に反対側の開口端を有しており、各懸垂バネの少なくとも一方の開口端は上下スナッバーの少なくとも一方に緩嵌しており、各懸垂バネの内径は少なくともいずれかの上下スナッバーの外径より大であって、これにより各懸垂バネと上下スナッバーの少なくとも一方との間に隙間が画定されて各懸垂バネと上下スナッバーの少なくとも一方との間の物理的接触を最少にすることを特徴とするシステム。
【請求項9】
上下スナッバーの少なくとも一方が基部に溝を有しており、溝の直径が上下スナッバーの少なくとも一方の外径より小さいことを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
各懸垂バネの2個の相互に反対側の開口端の少なくとも一方が小さな内径の少なくとも1個のコイルを有しており、少なくとも1個のコイルの小さな内径が溝の直径より大であり上下スナッバーの少なくとも一方の外径より小であることを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
潤滑油が隙間内に残って伝達された騒音と振動とを追加的に緩衝していることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
少なくとも1個の懸垂バネが磁化されて、往復コンプレッサー中の潤滑油からの金属粒子を捕捉する金属捕塵子として作用することを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
フレームが密閉シェルの下部分を有していることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
少なくとも1個の懸垂バネが磁化されて、上下スナッバーの少なくとも一方から滑脱するのを防止することを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項15】
少なくとも1個の懸垂バネが磁化されて、往復コンプレッサー中の潤滑油からの金属粒子を捕捉する金属捕塵子として作用することを特徴とする請求項8に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−37953(P2006−37953A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194474(P2005−194474)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(505252724)パナソニック リフリジレーション デヴァイシズ シンガポール プライベート リミテッド (1)
【Fターム(参考)】