説明

微粒子発生方法および装置

【課題】マイクロ加工を可能にするために、微細空間に微細な液滴を供給すること、そのために微細な液滴の形成方法及び装置を提供すること。
【解決手段】液体を噴霧し、発生した霧状液体粒子から慣性分別して微細液滴部分を分別した後、加熱したキャリアガスと接触させて液体粒子を熱的乾燥させてさらに微粒子化する、液体微粒子発生方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体微粒子発生方法および装置に係り、特にサブミクロンの微細液体微粒子をも発生可能である液体微粒子発生方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシンニングを用いた微細寸法のセンサーやアクチュエータを作製することが注目されている。
【0003】
例えば、図1に断面を示す3次元構造の半導体センサーが提案され、図1においてシリコンチップ1に対して片持ち梁2を形成するために、例えば、梁間隔10μm、シリコンチップ1からの浮き高さ2μmの微細空間3が形成されている。この微細空間3は、シリコン基板4を形成する際に、後で空間となる部分に犠牲酸化膜層5を埋め込み(図2)、犠牲酸化膜層5上のシリコン層6にパターニング技術でセンサー構造を形成してから、シリコン層6を選択酸化した梁2の間の酸化物パターン7と梁2の下にある部分の犠牲酸化膜層5を溶解除去することで形成される。この酸化膜層の除去方法としてはフッ酸溶液によって除去するのが最も簡便な方法であるが、このような曲がりくねった微細空間となる酸化膜層を液体としてのフッ酸溶液で処理すると、その除去処理時や処理液の乾燥時に狭い空間に液体が付着してその表面張力で可動梁が固定梁に引き寄せられて、この力が加わった状態で乾燥が行われると、可動梁が固定梁に張り付いてスティキング状態になり、センサーとしては使用できないものが作成されます。そこで液体の表面張力などの負荷を加えないように除去加工するには、ガス状フッ酸(無水フッ酸)を用いる必要がある。しかし、無水フッ酸だけでは反応が著しく遅いため、純水などの水分やアルコールを蒸気として混合する必要があり、具体的には、図3に示すように、処理室11内に犠牲酸化膜層5を含むシリコンチップ1を置き、加熱装置12で加熱しながら、処理室11内に無水フッ酸13と水蒸気14を導入し処理室11内で混合することで犠牲酸化膜層5の除去を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の処理室11に無水フッ酸13と水蒸気14を導入し処理室11内で混合する方法では、無水フッ酸と水蒸気のバランス調整が難しく、複雑な構造体を加工する場合に、過剰な水分によって微細空間が埋まってしまい、犠牲酸化物層除去加工後に構造体が崩れてしまう等の問題があった。
【0005】
また、過剰な水分の発生を恐れて水蒸気量を抑えると反応が著しく遅くなり、生産性の極めて遅い工程となるなど、実用化が困難な加工方法になっていた。
【0006】
そこで、本発明は、従来技術のこのような現状に鑑みて、上記の如き微細空間に微細な液滴を供給すること、そのために微細な液滴の形成方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、下記を提供するものである。
(1)液体を噴霧し、発生した霧状液体粒子から慣性分別して微細液滴部分を分別した後、加熱したキャリアガスと接触させて液体粒子を熱的乾燥させてさらに微粒子化することを特徴とする液体微粒子発生方法。
(2)噴霧して発生した直径10μm超の液滴を含む噴霧液体粒子から慣性分別法で直径10μm以下の微細液滴を分別し、然る後熱的乾燥により直径1μm以下の液体微粒子とすることを特徴とする上記(1)記載の液体微粒子発生方法。
(3)前記液体が水溶液であり、慣性分別が噴霧液体粒子の壁への衝突エネルギー差による分別であることを特徴とする上記(1)(2)記載の液体微粒子発生方法。
(4)前記慣性分別を2度以上行うことを特徴とする上記(1)〜(3)に記載の液体微粒子発生方法。
(5)前記噴霧を液体槽内で行い、噴霧液体粒子を液体槽の内壁に衝突させて慣性分離を行い、粗大液滴を液体槽に再循環させることにより、噴射ガスが液体槽内の液体に溶解させ、噴射時に液体が減圧されて液体に溶解している噴射ガスが膨張破裂して噴霧液体の微粒子化が促進されることを特徴とすることを特徴とする上記(1)〜(4)に記載の液体微粒子発生方法。
(6)前記液体がエッチング液であり、前記液体微粒子をマイクロマシニングに使用することを特徴とする上記(1)〜(5)に記載の液体微粒子発生方法。
(7)前記液体がフッ酸水溶液であり、前記液体微粒子をシリコン酸化膜のエッチングに使用することを特徴とする上記(1)〜(6)に記載の液体微粒子発生方法。
(8)液体を噴霧する手段と、生成した噴霧液体粒子を慣性分別して微細液滴部分を得る手段と、得られた微細液滴を加熱キャリアガスで乾燥してさらに微細化する手段を含むことを特徴とする液体微粒子発生装置。
(9)前記噴霧手段が液体槽内で噴射ガスを噴射して液体槽内の液体を吸引および噴射し、その噴射で形成された噴霧液体粒子を液体槽の内部壁に衝突させて慣性分別を行う構成を有することを特徴とする上記(8)に記載の液体微粒子発生装置。
(10)前記液体槽の上部にノズルを有し、前記液体槽の内部壁への衝突で慣性分別された微細液滴を、該ノズルを通過させて加速してから該ノズルの上方にある壁に衝突させることにより再度慣性分別することを特徴とする上記(9)に記載の液体微粒子発生装置。
(11)前記慣性分離された微細液滴の輸送経路に加熱キャリアガスを送り込んで微細液滴を乾燥してさらに微細化することを特徴とする上記(8)〜(10)に記載の液体微粒子発生装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液滴を1μm以下の超微細粒子まで微細化する方法及び装置が提供され、その結果、処理液を微細化して用いることでマイクロ加工に用いても、湿式法の欠点のない加工が可能にされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、従来技術の欄で説明したような酸化膜層の除去にはフッ酸溶液による除去が最も高速で安定していることに着目し、従来のようにガスと水蒸気の混合によってフッ酸溶液を作成するのではなく、微細空間に直接に送り込める超微細液滴粒子を生成する方法を提供することで、従来技術の課題を解決するものである。
【0010】
シリコン酸化膜のエッチングにフッ酸に水分やアルコールが必要な理由は、フッ酸に水分やアルコール、ここでは水分(アルコール、例えば、エタノールでも同様に反応する)が存在すると、
2HF(g)+HO(aq) → 2HF+2H++HO(aq)
の反応でFイオンが生成し、このFイオンが存在することで、
SiO+2HF+2H → SiF+2H
のように反応してSiOのエッチングが容易に進行するが、HOやアルコールが存在しないとFイオンが生成せず、無水HFのみでSiOをエッチングしなければならないが、その速度は限りなく遅いからである。従って、現状では水分を導入することが不可避である。
【0011】
図4に、半導体センサーの例を示す。図中、21はシリコン基板、22は埋め込み酸化膜、23はシリコン層、24は可動電極、25は固定電極、26は梁、27は錘、28はアンカ、29はパッドである。
【0012】
本発明では、図1あるいは図4のようなマイクロデバイスの微細加工を行うためにフッ酸溶液の超微粒子を形成する方法を提供する。
【0013】
本発明の方法を実施する様子を図5に示す。薬液槽31にフッ酸溶液32を入れておき、噴霧ノズル33に例えば窒素ガス34を送ってフッ酸溶液32を噴霧する。噴霧されたフッ酸溶液の噴霧液体粒子35は20μm以上の直径を有するものを含んでいる。この噴霧液体粒子35を薬液槽31の内壁36に衝突させることで、直径の大きい噴霧液体粒子35は慣性エネルギーが大きいために壁36に付着するが、滴微細な噴霧液体粒子は慣性エネルギーが小さいので壁から反射することができる。例えば10μm未満の微細な液滴粒子37が残ることができる。
【0014】
図6に、液滴粒子の慣性分別の原理を示す。噴射ノズル51から噴射された液滴が大粒子52である場合は、壁53に衝突すると、液滴52が慣性エネルギーが大きいために潰れて壁53に付着54し、反発しない。しかし、噴射ノズル51から噴射された液滴が小粒子55である場合は、壁53に衝突すると、液滴54が慣性エネルギーが小さいために潰れずに壁53から反発56して漂うことができる。図6の左に模式的に示したように、粒子径が一定より大きいときは液滴は潰れて反発しないが、粒子径が一定より小さいときは液滴は潰れずに反発する。この性質を利用して、液滴粒子の粒径の小さいものを分別することができる。噴霧する液滴の大きさ及び壁に衝突する速度を調節することで、分別する液滴の大きさもある程度変えることができる。
【0015】
また、図5に示した噴霧装置では、噴霧ノズルが薬液槽内に設けられているために、薬液(フッ酸溶液)内に噴射ガス(窒素ガス)が飽和濃度まで溶解されることになる。その結果、この窒素ガスが飽和濃度まで溶解したフッ酸溶液を噴霧すると、噴霧時に減圧されるので、フッ酸溶液中の窒素ガスが膨張する際に液滴をちぎるように作用し、より効率的に微粒子を形成することができる効果がある。また、粒子径の制御と液滴薬品の濃度(液の濃度で調整)を独立して設定することができるので、液滴を用いる各種処理の条件を広範囲に対応させることができる効果がある。そして、液体を直接に作用させることで、従来のガスタイプよりも大幅に高速の処理速度を実現することができる効果がある。
【0016】
この10μm未満に選別された微細液滴粒子37を乾燥工程に送ってもよいが、図5では、さらに薬液槽31の上部にノズル部38を形成しておくことで、軽いので噴霧ガスの圧力で上昇する微細液滴粒子37がノズル部38で加速されて、緩衝室39の内壁40に衝突して再び慣性エネルギーによる選別を受けてさらに微細化される。これによって、数μm以下の大きさまで選別することができる。
【0017】
こうして数μm以下の大きさの微細液滴粒子41が選別されると、処理室46へ向けて供給されるが、供給管の途中42で加熱室43を通って加熱された窒素ガス44と混合させることで、数μmの微細液滴粒子41は加熱乾燥されるので、その加熱の程度に応じて成分が蒸発して、個々の微細液滴粒子は更に微細化されて超微細液滴粒子45を生成する。この超微細液滴粒子45は1μm未満の大きさであることができる。慣性分別及び乾燥処理条件を選択すれば、また液体の種類により、さらに微細な液滴を得ることも可能である。例えば、0.4μm以下の超微細液滴粒子。
【0018】
こうして1μm未満の超微細粒子にされたフッ酸溶液の液滴を処理室46に導入してシリコンチップ47の酸化膜層48をエッチング除去に使用すれば、液滴の直径が十分に小さいので、液滴が梁49に付着しても10μm間隔で形成される可動梁と固定梁の間を液体の表面張力で引き寄せ合うように作用することはない。しかも、フッ酸溶液は水分を含んでいるので、シリコンのエッチング速度は所望に高速であることができる。なお、図5では、酸化膜層48に超微細液滴粒子45を描いているが、これは酸化膜のエッチングが進行して空隙を形成されてから超微細液滴粒子45が空隙内に入り込んだ状態を併せて描いたものであり、酸化膜が存在するときには超微細液滴粒子45がそこには存在しないことは勿論である。
【0019】
以上は、フッ酸溶液について窒素ガスを用いて微細化する例を説明したが、液体の種類は限定されず、また必ずしも溶液ではなく1種類の液体でも液滴化及び微細化できること、窒素以外の気体を用いて噴霧あるいは加熱乾燥処理を行うことができることは明らかである。
【0020】
用いるフッ酸溶液の濃度、噴霧の条件、薬液槽や緩衝室の壁に衝突させる条件、加熱乾燥の条件は、処理の種類に応じて任意に選択採用することができる。例えば、図1に示したようなシリコンの酸化膜をエッチングするためには、49%フッ酸水溶液を原料として使用し、上記の如く1μm未満の超微細液滴粒子を形成した。その際、シリコン酸化膜のエッチングを40℃の処理室で行ったが、その前段階の窒素ガスでの加熱乾燥処理は60〜90℃に加熱した窒素ガスを用いた。加熱乾燥処理では、加熱ガスの温度と共に流量が影響することは明らかであり、必要に応じて適当な温度及び流量を選択すべきである。実施例では、8〜12L/分の流量でフッ酸溶液の20〜40%を蒸発させたときに好適な酸化膜除去処理が行われた。フッ酸溶液の蒸発が不足すると梁のスティキングが発生した。
【0021】
本発明の実施例で作成したフッ酸溶液の超微細液滴粒子を用いて半導体センサーの酸化膜エッチングを行ったところ、15〜25nm/分のエッチング速度でエッチングさせても梁のスティキングが発生することはなかった。
【0022】
これに対して、全く同じ半導体センサーの酸化膜エッチングを、液体フッ酸を用いる方法、処理室にドライ無水フッ酸と水蒸気を導入し混合する方法、及び特開平5−275401号公報に記載されているフッ化水素ガス、微量の水蒸気及び窒素を含む気相でエッチングする方法でそれぞれ実施して比較した。液体フッ酸を用いる方法ではスティキングを防止することはできなかった。処理室にドライ無水フッ酸と水蒸気を導入し混合する方法では、スティキングが発生しない条件では、0.2〜2nm/分のエッチング速度にすぎなかった。特開平5−275401号公報に記載されている方法では、スティキングが発生しない条件では、2〜4nm/分のエッチング速度であった。従って、本発明の方法は、特開平5−275401号公報に記載されている方法と比べて、梁のスティキングが発生しない条件において、約5〜10倍のエッチング速度が実現されることを確認した。
【0023】
なお、ここに示したエッチング速度は特定の半導体センサーについて行ったものであり、設定条件を変えれば、変わるものである。しかし、本発明の有用性は失われない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】半導体センサーの一部断面図である。
【図2】図1の半導体センサーを作成するための犠牲酸化膜層を有するシリコン基板の断面図である。
【図3】従来のマイクロエッチング加工の処理室を示す。
【図4】半導体センサーの一例である。
【図5】本発明の超微細液滴形成方法及び装置の実施例を説明するための模式図である。
【図6】慣性分別の原理を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 シリコンチップ
2 梁
3 微細空間
4 シリコン基板
5 犠牲酸化膜層
6 シリコン層
7 選択酸化物パターン
31 薬液槽
32 フッ酸溶液
33 噴射ノズル
34 噴射ガス(窒素)
35 噴射液滴
36、40 壁
37、41 微細液滴粒子
38 ノズル
39 緩衝室
44 加熱用気体(窒素)
45 超微細液滴粒子
46 処理室
47 シリコンチップ
49 梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴霧し、発生した霧状液体粒子から慣性分別して微細液滴部分を分別した後、加熱したキャリアガスと接触させて液体粒子を熱的乾燥させてさらに微粒子化することを特徴とする液体微粒子発生方法。
【請求項2】
噴霧して発生した直径10μmを超える液滴を含む噴霧液体粒子から慣性分別法で直径10μm以下の微細液滴を分別し、然る後熱的乾燥により直径1μm以下の液体微粒子とすることを特徴とする請求項1記載の液体微粒子発生方法。
【請求項3】
前記液体が水溶液であり、慣性分別が噴霧液体粒子の壁への衝突エネルギー差による分別であることを特徴とする請求項1又は2記載の液体微粒子発生方法。
【請求項4】
前記慣性分別を2度以上行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体微粒子発生方法。
【請求項5】
前記噴霧を液体槽内で行い、噴霧液体粒子を液体槽の内壁に衝突させて慣性分離を行い、粗大液滴を液体槽に再循環させることにより、噴射ガスが液体槽内の液体に溶解させ、噴射時に液体が減圧されて液体に溶解している噴射ガスが膨張破裂して噴霧液体の微粒子化が促進されることを特徴とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体微粒子発生方法。
【請求項6】
前記液体がエッチング液であり、前記液体微粒子をマイクロマシニングに使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体微粒子発生方法。
【請求項7】
前記液体がフッ酸水溶液であり、前記液体微粒子をシリコン酸化膜のエッチングに使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体微粒子発生方法。
【請求項8】
液体を噴霧する手段と、生成した噴霧液体粒子を慣性分別して微細液滴部分を得る手段と、得られた微細液滴を加熱キャリアガスで乾燥してさらに微細化する手段を含むことを特徴とする液体微粒子発生装置。
【請求項9】
前記噴霧手段が液体槽内で噴射ガスを噴射して液体槽内の液体を吸引および噴射し、その噴射で形成された噴霧液体粒子を液体槽の内部壁に衝突させて慣性分別を行う構成を有することを特徴とする請求項8に記載の液体微粒子発生装置。
【請求項10】
前記液体槽の上部にノズルを有し、前記液体槽の内部壁への衝突で慣性分別された微細液滴を、該ノズルを通過させて加速してから該ノズルの上方にある壁に衝突させることにより再度慣性分別することを特徴とする請求項9に記載の液体微粒子発生装置。
【請求項11】
前記慣性分離された微細液滴の輸送経路に加熱キャリアガスを送り込んで微細液滴を乾燥してさらに微細化することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の液体微粒子発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−91931(P2008−91931A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263516(P2007−263516)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【分割の表示】特願2002−255187(P2002−255187)の分割
【原出願日】平成14年8月30日(2002.8.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】