説明

成分調整部材及びそれを備えた単結晶成長装置

【課題】高品質の炭化珪素単結晶を安定的に製造し、高品質化を可能とする成分調整部材及びそれを備えた単結晶成長装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る成分調整部材は、結晶成長用容器と、該結晶成長用容器内の下部に位置する原料収容部と、該原料収容部の上方に同軸に配置して該原料収容部より小径の基板支持面で基板を支持する基板支持部とを備え、前記原料を昇華させて前記基板上に前記原料の化合物半導体単結晶を成長させる単結晶成長装置において、前記原料収容部と前記基板支持部との間に配置して前記結晶成長用容器内の空間を分離する成分調整部材であって、前記原料の昇華ガスが透過する複数の透過孔を有すると共に、中央側の開口率(前記透過孔の総開口面積/前記透過孔以外の部分の総面積)が周端側の開口率より高いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶成長装置に関し、特に昇華再結晶法で用いる成分調整部材及びそれを備えた単結晶成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が大きく、エネルギーバンドギャップが広く、また、熱伝導度が高いなどの優れた性能を有するため、大電力パワーデバイス、耐高温半導体素子、耐放射線半導体素子、高周波半導体素子等への応用が可能である。シリコンが材料自体の物性限界から性能向上も限界に近づきつつあるため、シリコンよりも物性限界を大きくとれる炭化珪素が注目されている。近年は地球温暖化問題への対策となる、電力変換時のエネルギーロスを低減する省エネルギー技術として、炭化珪素材料を使ったパワーエレクトロニクス技術が期待を集めている。
その基盤技術として炭化珪素単結晶の成長技術の研究開発が精力的に進められ、実用化の促進に向けて製造コスト低減の観点から大口径化技術の確立が急務となっている。
【0003】
炭化珪素単結晶の成長法として、珪素蒸気と炭素の反応を利用し、炭化珪素の種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、珪素原料からの蒸発ガスを上昇せしめて、珪素原料の温度より高く、また炭化珪素種結晶基板の温度より高く、かつ、1600℃以上に加熱された、珪素原料の上方に配置された多孔質炭素材又は貫通孔穿設炭素材中を通過させ、さらに、炭素材と反応したガスを上昇させて、炭素材の上方に配置された種結晶基板に到達させて種結晶基板上に炭化珪素単結晶を成長させる方法が開示されている。
特許文献1の方法は、原料と種結晶基板との間に孔を有する炭素材を配置して、その炭素材を炭化珪素単結晶の炭素原料供給に用いるものである。
【0004】
また、他の成長法として昇華再結晶法が知られている。この方法では、結晶成長用容器内で原料炭化珪素を昇華させ、低温の種結晶基板上に炭化珪素を再結晶させて炭化珪素単結晶を成長させる(例えば、特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4199921号公報
【特許文献2】国際公開第2O00/39372号
【特許文献3】特開2010−13296号公報
【特許文献4】特開平8−295595号公報
【特許文献5】特許第4089073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、珪素蒸気と炭素の反応を利用する方法では、珪素と炭素の成分比率を一定にして反応を進める条件制御が容易でなく、そのため、珪素と炭素の成分比率が安定した炭化珪素単結晶を成長させるのが困難であった。
【0007】
また、昇華再結晶法では以下の問題があった。この方法においては、炭化珪素は2000℃以上で昇華する物質であるので、結晶成長用容器の内部を2000℃以上の高温にする必要がある。このような高温環境においては、炭化珪素原料粉末からの分解昇華ガスとしてSi、Si2C、SiC2などが生成するが、昇華ガス中の珪素成分の量は炭素成分に対し全体として等モル以上であるため、原料粉末の組成は昇華過程で次第に炭素過剰へと変化する。従って、これらの昇華ガスの分圧は昇華過程で経時的に変化する。単結晶成長過程での昇華ガス成分の変動は結晶欠陥、多型混入などの結晶性低下の要因となり、また、相対的に過剰となった炭素に起因して微小パーティクルが発生し、これが種結晶の成長面に運ばれて付着すると、炭化珪素単結晶インゴットの内部にインクルージョンと呼ばれる不純物となって、結晶欠陥を発生させる。
特に、結晶成長用容器に充填した原料炭化珪素をすべて用いるような長時間にわたる結晶成長を行う場合、結晶成長工程の最初と最後において昇華ガスの珪素と炭素の成分比率が大きく異なったものとなり、珪素と炭素の成分比率を一定にした炭化珪素単結晶を成長させることは困難だった。
また、インクルージョンの問題については、結晶成長用容器が炭素材料からなる場合、昇華ガスによって坩堝(結晶成長用容器)内壁が腐食され、インクルージョンの原因となる物質が発生したり、昇華ガスが容器の壁側近傍を通って基板に到達できる構成では原料内が不均一に昇華するため、原料の昇華残渣がインクルージョンとして結晶に混入しやすいという問題もあった。
【0008】
図5は、従来の炭化珪素単結晶成長装置の一例を説明する図であって、所定の厚さの炭化珪素単結晶(インゴット)を形成した時点の概略図である。
図5に示すように、従来の炭化珪素単結晶成長装置は、結晶成長用容器200と、原料収納部202と、原料収納部蓋203とから概略構成されており、その周囲に加熱手段(例えば、インダクターコイル)201が配置されている。
【0009】
原料収納部202の内部には、原料用炭化珪素206が充填されている。また、原料収納部蓋203の原料用炭化珪素206側には、突出部231が設けられており、前記突出部231の下面231aには、種結晶204が貼り付けられている。さらに、種結晶204の一面(成長面)204aには、結晶成長された炭化珪素単結晶205が形成されている。結晶成長用容器200の周囲には、電流を流して高周波誘導させることにより発熱させることができるインダクターコイル201が配置されている。このインダクターコイル201によって、結晶成長用容器200を加熱することができる。
【0010】
インダクターコイルによって結晶成長用容器200が2000℃以上に加熱されると、結晶成長用容器200の内部に収納した原料炭化珪素206が昇華され、上述の通り、原料炭化珪素206の各所からSiC、SiC、SiCなどの混成ガス(昇華ガス)を発生する。この昇華ガスは、結晶成長用容器200に充填された原料用炭化珪素206と平衡を保っている。
【0011】
図6は、図5に示した従来の炭化珪素単結晶成長装置における昇華ガスの流れを説明する概略図である。
図6に示すように、原料炭化珪素206の中央部261からだけでなく、周辺部262からも昇華ガスが発生して成長空間221へ排出される。結晶成長用容器200を取り囲むようにインダクターコイル201が配置されているので、結晶成長用容器200に充填されている原料の壁面近傍が原料中心部よりも高温となりやすく、壁面近傍の原料用炭化珪素206の昇華(気化)量が大きくなる。周辺部262から発生した昇華ガスは、種結晶204の成長面204aの中央部241よりも周辺部242に集まりやすい。これにより、種結晶204の成長面204aの中央部241よりも周辺部242で炭化珪素ガスのガス密度が高くなり、より活発に結晶成長が始まる。その結果、中央部よりも周辺部の方が結晶成長が進んで凹んだ成長面が形成されやすくなり、平坦な成長面で高品質の単結晶を成長させるということが困難であった。成長面は平坦か又はわずかに凸状になっていることが好ましいと認識されており、凹状の成長面は品質的、あるいはインゴットの熱応力低減という観点からは好ましくないとされている。そのため、従来の結晶成長装置では、種結晶204の成長面204a上で、高品質かつ長尺の炭化珪素単結晶を均一かつ安定的に成長させることができず、大口径化への大きな障害となっていた。
【0012】
一方、種結晶204の成長面204aの温度勾配は良好な結晶成長を妨げることが知られている。そのため、その温度勾配を低減するための提案がなされている。
例えば、図7に示すように、従来の炭化珪素単結晶成長装置において、種結晶204と原料収納部202との温度差をつけるために、種結晶204と原料収納部202との間に厚さ10mm程度の遮蔽板207を配置する構成が知られている(例えば、特許文献4)。
このような遮蔽板は結晶成長用容器200内の温度分布を変えるので、この遮蔽板について径方向の上面温度が均一化する構成とすることによって、結晶成長面の温度勾配を低減しようとする提案がなされた(特許文献5)。
遮蔽板は結晶成長用容器内の昇華ガスの流れを変えるものであるから、インクルージョンの混入や単結晶構成元素の成分比のずれに影響を与えるが、それらの問題の解決を目的とするものではなかった。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高品質の炭化珪素単結晶を安定的に製造し、高品質化を可能とする成分調整部材及びそれを備えた単結晶成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、昇華再結晶法による化合物半導体単結晶の成長において、単結晶構成元素の成分比のずれを補正すると共に、単結晶中のインクルージョンの混入を抑制し、さらには、基板(又は種結晶)の成長面が平坦な状態で結晶成長が進むように基板へ向かう昇華ガスの流れを整流・調整する構成に想到し、本発明を完成した。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)結晶成長用容器と、該結晶成長用容器内の下部に位置する原料収容部と、該原料収容部の上方に同軸に配置して該原料収容部より小径の基板支持面で基板を支持する基板支持部とを備え、前記原料を昇華させて前記基板上に前記原料の化合物半導体単結晶を成長させる単結晶成長装置において、前記原料収容部と前記基板支持部との間に配置して前記結晶成長用容器内の空間を分離し、前記原料表面に接触せずに配置される成分調整部材であって、前記原料の昇華ガスが透過する複数の透過孔を有すると共に、中央側の開口率(前記透過孔の総開口面積/前記透過孔以外の部分の総面積)が周端側の開口率より高いことを特徴とする成分調整部材。
(2)前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域を含む第1領域にのみ形成されていることを特徴とする前項(1)に記載の成分調整部材。
(3)前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域を含む第1領域の開口率が、該第1領域の外側に位置する該第1領域以外の領域の開口率より高くなるように形成されていることを特徴とする前項(1)に記載の成分調整部材。
(4)前記開口率の差が透過孔の孔径の差によることを特徴とする前項(3)に記載の成分調整部材。
(5)前記開口率の差が透過孔の孔数密度の差によることを特徴とする前項(3)に記載の成分調整部材。
(6)前記第1領域の孔径が0.5〜3mmであることを特徴とする前項(2)から(5)のいずれか一つに記載の成分調整部材。
(7)前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域より狭い第1領域にのみ形成されていることを特徴とする前項(1)に記載の成分調整部材。
(8)前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域より狭い第1領域の開口率が、該第1領域の外側に位置する該第1領域以外の領域の開口率より高くなるように形成されていることを特徴とする前項(1)に記載の成分調整部材。
(9)前記開口率の差が透過孔の孔径の差によることを特徴とする前項(8)に記載の成分調整部材。
(10)前記開口率の差が透過孔の孔数密度の差によることを特徴とする前項(8)に記載の成分調整部材。
(11)前記第1領域の孔径が0.5〜3mmであることを特徴とする前項(7)から(10)のいずれか一つに記載の成分調整部材。
(12)厚さが3mm以上20mm以下であることを特徴とする前項(1)から(11)のいずれか一項に記載の成分調整部材。
(13)前記成分調整部材は複数の層状部材が重ね合わされてなることを特徴とする前項(1)から(12)のいずれか一つに記載の成分調整部材。
(14)前記成分調整部材は複数の層状部材が重ね合わされてなり、互いに隣接する層状部材に形成された透過孔が互いにずれていることを特徴とする前項(1)から(12)のいずれか一つに記載の成分調整部材。
(15)前記複数の層状部材のうち少なくとも一は多孔性材料であることを特徴とする前項(13)又は(14)のいずれかに記載の成分調整部材。
(16)前記成分調整部材は炭素材料からなることを特徴とする前項(1)から(15)のいずれか一つに記載の成分調整部材。
(17)結晶成長用容器と、該結晶成長用容器内の下部に位置する原料収容部と、該原料収容部の上方に配置して該原料収容部より小径の基板支持面で基板を支持する基板支持部とを備え、前記原料を昇華させて前記基板上に前記原料の化合物半導体単結晶を成長させる単結晶成長装置において、前記原料収容部と前記基板支持部との間に配置して前記結晶成長用容器内の空間を分離する成分調整部材であって、前項(1)から(16)のいずれか一つに記載の成分調整部材を備えたことを特徴とする単結晶成長装置。
(18)前記成分調整部材は、その上面が前記基板支持面から40〜120mm離間して配置されていることを特徴とする前項(17)に記載の単結晶成長装置。
(19)前記成分調整部材は、その下面が前記原料収容部の最上面から10〜50mm離間して配置されていることを特徴とする前項(17)又は(18)のいずれかに記載の単結晶成長装置。
(20)前記成分調整部材の外周部が前記結晶成長用容器の内壁で支持されていることを特徴とする前項(17)から(19)のいずれか一つに記載の単結晶成長装置。
(21)前記成分調整部材が前記結晶成長用容器の底部から延在する支持部材よって支持されていることを特徴とする前項(17)から(19)のいずれか一つに記載の単結晶成長装置。
(22)前記単結晶は炭化珪素の単結晶であることを特徴とする前項(17)から(21)のいずれか一項に記載の単結晶成長装置。
【0016】
本発明の成分調整部材において、「第1領域」とは、成分調整部材における透過孔の位置を説明するための表現であって、(2)及び(3)並びにそれらを引用する項の「第1領域」とは、成分調整部材において基板支持面に対向する領域(基板支持面の直下の領域)を含む領域(すなわち、基板支持面の直下の領域だけの領域、又は、その領域より広い領域)であり、(7)及び(8)並びにそれらを引用する項の「第1領域」とは、成分調整部材において基板支持面に対向する領域(基板支持面の直下の領域)より狭い領域である。
【0017】
本発明の成分調整部材において、周端側の開口率は透過孔を有さないことによって、ゼロであっても構わない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の成分調整部材によれば、坩堝内に充填された原料中に温度勾配が生じるのは不可避であるために発生する昇華ガスは原料面の部位によって量、組成ともに異なるが、結晶成長用容器内の空間を2つに分離し、かつ、昇華ガスが原料収容部のある空間から基板がある空間に抜けにくい構成とされているので、昇華して原料面に上がってきたガスが原料面近傍で混合されることになる。そのため、坩堝の中央部と周縁部で、昇華ガス中の珪素と炭素の成分比の差が生じることが抑制される。
また、原料から昇華したガスが坩堝の中央部と周縁部で均一混合されるためには成分調整部材が原料面に接していてはならない。成分調整部材が原料と接触していると、成分調整部材の外周部が坩堝(成長用容器)内壁と同様腐食されることがある。また、十分に均一混合される為には成分調整部材は原料面から10mm以上離間させることが望ましい。また、40mm以上離間するとガスが成分調整部材に達する前に混合が進み、成分調整部材として意味がなくなり、不要な空間が大きくなることで成長可能な空間が減ってしまうことや温度制御が難しくなることなどの不具合が生じてくるので望ましくない。さらに成分調整部材がガスを透過することにより、適当な圧力損失が生じることが重要である。成分調整部材前後の圧力損失が小さいと、原料面から発生してきたガスが成分調整部材を容易に通過し、十分に混合せず、ガス組成が均一化しない。適当な圧力損失を生じさせる為に好ましい成分調整部材の厚さは3mm以上20mm以下であり、成分調整部材を貫通する孔の直径は0.5〜3mmである。この範囲外では整流板内のガスの透過抵抗が過大、あるいは過小となり、適当な成長条件が得られない。また、この様な成分調整部材を設けることにより、不均一な原料温度によって過度の原料昇華が進んだ場合に発生する原料由来の微小パーティクル(不純物)の成長面への運搬も抑制される。
さらにまた、本発明の成分調整部材はいわば多数の原料ガス供給ノズルを成長基板の真下に集中して配置する構成であって、原料ガスが成長基板(例えば、炭化珪素種結晶)の外周より外側から入射する原料ガスを抑制し、成長基板の成長面の中央部よりも周辺部で原料ガス(例えば、炭化珪素ガス)のガス密度が高くなることを回避して、成長面全体で平坦な成長面として結晶成長が進むものとした。すなわち、成長基板の成長面の中央部と周辺部とでできるだけ原料ガス密度が一様になり、成長面での結晶成長速度が一様になる。
【0019】
本発明の成分調整部材が炭素材料からなる構成では、炭化珪素単結晶の成長に用いる場合、結晶成長中に結晶成長用容器内で不足する炭素を供給する部材として機能する。
また、成分調整部材は、坩堝(成長容器)に対して、位置が固定される。昇華法で炭化珪素を成長させる場合、原料粉末は焼結された状態になり、原料表面の位置は大きくは変わらない状態で保持され、内部の材料が昇華してゆく。そのため、結晶成長の間を通して、安定的に原料表面との間隔を保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の成分調整部材の平面模式図である。
【図2】図1で示した成分調整部材を備えた本発明の一実施形態の単結晶成長装置の断面模式図である。
【図3】本発明の他の実施形態の単結晶成長装置の断面模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態の成分調整部材の断面模式図である。
【図5】従来の単結晶成長装置の断面模式図である。
【図6】従来の単結晶成長装置における昇華ガスの流れを説明する図である。
【図7】従来の遮断板を備えた単結晶成長装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した実施形態である成分調整部材及びそれを備えた単結晶成長装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
図1に本発明の一実施形態の成分調整部材の平面図を示す。
この成分調整部材1は、基板支持面に対向する領域を含む第1領域2(図において点線で囲まれた領域)にのみ、円周に沿って原料の昇華ガスが透過する複数の透過孔5を有し、第1領域2の外側に位置する第1領域2以外の領域3には透過孔は有さない。従って、中央側に位置する第1領域2の開口率(透過孔5の総開口面積/透過孔5以外の部分の総面積)は、周端側に位置する領域3の開口率よりも高い。
【0023】
成分調整部材1の透過孔5の径は0.5〜3mmであるのが好ましい。0.5mm以下の場合は、圧力損失が大き過ぎて、基板側に供給される原料昇華ガスの量が不十分になるし、昇華ガスが滞留して目詰まりとなるおそれがあるからである。また、3mm以上の場合は、孔の壁面に十分に衝突せずに透過してしまうため遮蔽の効果が十分でなく、特に成分調整部材が炭素材料からなる場合は昇華ガスが孔の壁面に当たって炭素の補充を受ける効果が十分得られないからである。
【0024】
図2に、図1で示した成分調整部材を備えた本発明の一実施形態の単結晶成長装置の断面模式図を示す。
この単結晶成長装置10では、結晶成長用容器11と、結晶成長用容器11内の下部に位置する原料収容部12と、原料収容部11の上方に配置して原料収容部12より小径の基板支持面13aで基板14を支持する基板支持部13とを備え、さらに、図1で示した成分調整部材1が原料収容部12と基板支持部13との間に配置して結晶成長用容器11内の空間を分離し、成分調整部材1の外周部1aが結晶成長用容器11の内壁で支持されている。符号17は原料、符号18は単結晶、符号19は加熱手段を示す。
【0025】
成分調整部材1の第1領域2の面積は、基板支持面に対向する領域の面積の±10%の範囲内であるのが好ましい。この範囲を超える場合は、結晶成長面の凹状化を抑制するのに十分な整流効果を奏しないからである。
【0026】
成分調整部材1は、その上面が基板支持面13aから40〜120mm離間して配置されているのが好ましい。40mmより近接した場合には、成分調整部材の設置による単結晶成長面への温度的影響が大きくなるからであり、120mmより離間した場合には、成分調整部材に配置した透過孔の影響を受けにくくなり、成長面形状制御効果が小さくなるからである。
【0027】
また、成分調整部材1は、その下面が原料収容部12の最上面から10〜50mm離間して配置されているのが好ましい。10mmより近接した場合には、昇華ガスの混合が不十分となるからであり、50mmより離間した場合には、成長空間の温度勾配を変えてしまうからである。
【0028】
図3に、本発明の他の実施形態の単結晶成長装置の断面模式図を示す。
この単結晶成長装置20では、成分調整部材1が結晶成長用容器11の底部11aから延在する支持部材15よって支持されている点が図2で示した単結晶成長装置と異なる。
【0029】
支持部材15は複数でも構わない。
【0030】
図4(a)及び(b)に、本発明の一実施形態の成分調整部材の断面図を示す。
図4(a)で示した成分調整部材21は1枚の板状部材からなり、透過孔25が径方向に均等間隔で配置している。
図4(b)で示した成分調整部材31は2枚の層状部材31a、1bが重ね合わされてなり、層状部材に形成された透過孔35a、35bが互いにずれている。この成分調整部材では、昇華ガスが孔の壁面に当たって炭素の補充を受ける効果が向上する。
【0031】
[実施例1]
図1で示した実施形態の成分調整部材(黒鉛製)を用いて炭化珪素単結晶を製造した。
種結晶基板サイズは直径75mmで、図1における第1領域2の径も75mmとした。すなわち、成分調整部材において種結晶基板の直下にのみ、透過孔が存在する構成である。直径2.5mmの孔を、5mm間隔の碁盤の目状に配置した。成分調整部材と原料収容部の原料表面との間隔は20mmとした。
【0032】
得られた炭化珪素単結晶は75mm径で高さが30mmの円柱状であった。この炭化珪素単結晶をスライス切断してウエーハとした後、これを研磨して、その断面の顕微鏡観察を行った結果、インクルージョンは皆無であった。
【0033】
[実施例2]
図4(b)で示した実施形態の成分調整部材(黒鉛製)を用いて炭化珪素単結晶を製造した。種結晶基板サイズは直径75mmで、図4(b)の層状部材31aにおける第1領域(図1の第1領域2)の径も75mmとした。すなわち、成分調整部材は2枚で構成され種結晶基板の直下にのみ、透過孔が存在する構成である。直径2mmの孔が、5mm間隔で配置されており、孔の位置は互いに重ならない配置となっている。成分調整部材と原料収容部の原料表面との間隔は20mmとした。
【0034】
得られた炭化珪素単結晶は75mm径で高さが25mmの円柱状であった。この炭化珪素単結晶をスライス切断してウエーハとした後、これを研磨して、その断面の顕微鏡観察を行った結果、インクルージョンは皆無であった。
【0035】
[比較例]
成分調整部材(黒鉛製)を用いなかった点を除いて、図1と同じ条件で炭化珪素単結晶を製造した。
得られた炭化珪素単結晶は75mm径で高さが25mmの円柱状であった。同様に、この断面の顕微鏡観察を行った結果、平均的なインクルージョン密度は40個/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の成分調整部材及びそれを備えた単結晶成長装置は特に、高品質でかつ長尺の単結晶の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 成分調整部材
1a 外周部
2 第1領域
3 第1領域以外の領域
5 透過孔
10 単結晶成長装置
11 結晶成長用容器
11a 底部
12 原料収容部
13 基板支持部
15 支持部材
20 単結晶成長装置
21 成分調整部材
25 透過孔
31 成分調整部材
31a、31b 層状部材
35a、35b 透過孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶成長用容器と、該結晶成長用容器内の下部に位置する原料収容部と、該原料収容部の上方に同軸に配置して該原料収容部より小径の基板支持面で基板を支持する基板支持部とを備え、前記原料を昇華させて前記基板上に前記原料の化合物半導体単結晶を成長させる単結晶成長装置において、前記原料収容部と前記基板支持部との間に配置して前記結晶成長用容器内の空間を分離する成分調整部材であって、
前記原料の昇華ガスが透過する複数の透過孔を有すると共に、中央側の開口率(前記透過孔の総開口面積/前記透過孔以外の部分の総面積)が周端側の開口率より高いことを特徴とする成分調整部材。
【請求項2】
前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域を含む第1領域にのみ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成分調整部材。
【請求項3】
前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域を含む第1領域の開口率が、該第1領域の外側に位置する該第1領域以外の領域の開口率より高くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成分調整部材。
【請求項4】
前記開口率の差が透過孔の孔径の差によることを特徴とする請求項3に記載の成分調整部材。
【請求項5】
前記開口率の差が透過孔の孔数密度の差によることを特徴とする請求項3に記載の成分調整部材。
【請求項6】
前記第1領域の孔径が0.5〜3mmであることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の成分調整部材。
【請求項7】
前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域より狭い第1領域にのみ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成分調整部材。
【請求項8】
前記透過孔が、前記基板支持面に対向する領域より狭い第1領域の開口率が、該第1領域の外側に位置する該第1領域以外の領域の開口率より高くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成分調整部材。
【請求項9】
前記開口率の差が透過孔の孔径の差によることを特徴とする請求項8に記載の成分調整部材。
【請求項10】
前記開口率の差が透過孔の孔数密度の差によることを特徴とする請求項8に記載の成分調整部材。
【請求項11】
前記第1領域の孔径が0.5〜3mmであることを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の成分調整部材。
【請求項12】
厚さが3mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の成分調整部材。
【請求項13】
前記成分調整部材は複数の層状部材が重ね合わされてなることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の成分調整部材。
【請求項14】
前記成分調整部材は複数の層状部材が重ね合わされてなり、互いに隣接する層状部材に形成された透過孔が互いにずれていることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の成分調整部材。
【請求項15】
前記複数の層状部材のうち少なくとも一は多孔性材料であることを特徴とする請求項13又は14のいずれかに記載の成分調整部材。
【請求項16】
前記成分調整部材は炭素材料からなることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の成分調整部材。
【請求項17】
結晶成長用容器と、該結晶成長用容器内の下部に位置する原料収容部と、該原料収容部の上方に配置して該原料収容部より小径の基板支持面で基板を支持する基板支持部とを備え、前記原料を昇華させて前記基板上に前記原料の化合物半導体単結晶を成長させる単結晶成長装置において、
前記原料収容部と前記基板支持部との間に配置して前記結晶成長用容器内の空間を分離する成分調整部材であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の成分調整部材を備えたことを特徴とする単結晶成長装置。
【請求項18】
前記成分調整部材は、その上面が前記基板支持面から40〜120mm離間して配置されていることを特徴とする請求項17に記載の単結晶成長装置。
【請求項19】
前記成分調整部材は、その下面が前記原料収容部の最上面から10〜50mm離間して配置されていることを特徴とする請求項17又は18のいずれかに記載の単結晶成長装置。
【請求項20】
前記成分調整部材の外周部が前記結晶成長用容器の内壁で支持されていることを特徴とする請求項17から19のいずれか一項に記載の単結晶成長装置。
【請求項21】
前記成分調整部材が前記結晶成長用容器の底部から延在する支持部材よって支持されていることを特徴とする請求項17から19のいずれか一項に記載の単結晶成長装置。
【請求項22】
前記単結晶は炭化珪素の単結晶であることを特徴とする請求項17から21のいずれか一項に記載の単結晶成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−178590(P2011−178590A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43309(P2010−43309)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】