説明

成形用スタンパー、反射防止フィルムの製造方法及び反射防止フィルム

【課題】賦形型が樹脂で目詰まりせず、影も観察されず、且つ泡の巻き込みもない反射防止フィルムの製造に使用する成形用スタンパーを提供する。また、その成形用スタンパーを用いた反射防止フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】可視光領域の波長より小さい周期からなる突起を有し且つその突起の高さが150nm〜450nmの反射防止層を形成するための賦形型23が形成された賦形領域R1と、その賦形型23が形成されていない非賦形領域R2とを有する四辺形のスタンパーであって、非賦形領域R2が、四辺形の一辺に沿って所定の幅L3で設けられ、賦形領域R1に引き延ばす硬化性樹脂14を載せるために用いられる成形用スタンパー2により上記課題を解決する。さらに、この成形用スタンパー2を用いて反射防止フィルム10を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用スタンパー、反射防止フィルムの製造方法及び反射防止フィルムに関する。さらに詳しくは、泡かみを生じさせないで欠陥のない反射防止層を形成できる成形用スタンパー、及びその成形用スタンパーを用いた反射防止フィルムの製造方法、及びその成形用スタンパーを用いて製造された反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムとして、モスアイ構造の反射防止層を有するものが知られている。モスアイ構造とは、文字通り「蛾(moth)の目」の形態に似た微細な突起を有した凹凸構造のことである。こうしたモスアイ構造を持つ反射防止層は、例えばその突起が可視光領域の波長より小さい周期で形成されている場合に、入射する光に対して屈折率に傾斜をもつものと等価になって急激な屈折率差が無くなる、という特性を利用したものであり、入射した光をほとんど反射しない。
【0003】
モスアイ構造の反射防止層は、モスアイ構造の賦形型を有する成形用スタンパーを用い、その成形用スタンパー上に樹脂を塗布した後にその樹脂を硬化させ、その結果、硬化後の樹脂層表面にモスアイ構造が転写形成したものである。成形用スタンパーの作製方法としては、例えば、レーザー干渉法による作製方法、フォトリソグラフィプロセスによる作製方法、陽極酸化法による作製方法(特許文献1参照)、ナノ粒子形成による作製方法、ドライエッチングによる作製方法等が検討されている。これらの作製方法で製造された成形用スタンパーは、いずれの場合であっても極めて微細な凹凸構造を有するので、その成形用スタンパーを用いて繰り返し反射防止フィルムを製造するためには、樹脂を塗布した後の成形用スタンパーの賦形型に「泡かみ」が生じたり、成形用スタンパーの賦形型に異物等が付着したりするのを極力防ぐことが必要である。
【0004】
ところで、特許文献2,3には、所定の賦形型を備えた成形用スタンパー(成形型ともいう。)でレンズシートを作製する方法が記載されている。具体的には、特許文献2には、成形型上に多連ノズルで樹脂を塗布し、全面に広がった後の樹脂上に樹脂溜まりを形成し、その樹脂溜まり上にベース部材を重ねるとともにベース部材の上から加圧ロールで樹脂溜まりを均一に引き延ばし、その後に樹脂を硬化し、レンズシートを製造する方法が記載されている。この方法では、加圧ロールで樹脂溜まりを均一に引き延ばす工程で、ベース部材と成形型との間に混入する気泡を押し出すことができるとされている。
【0005】
また、特許文献3には、成形型の一領域又は複数領域に紫外線硬化性樹脂を注入した後にロールでスムージングを行って平面化し、併せて成形型の前記スムージングしていない領域に紫外線硬化性樹脂を注入した後にロールでスムージングを行って平面化し、こうして平面化した紫外線硬化性樹脂上に透光性基材を積層し、その上からしごいて紫外線硬化性樹脂と基材とを密着し、その後、基材上から紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化し、レンズシートを製造する方法が記載されている。この方法では、スムージングを行うことによって、成形型と樹脂の界面での気泡の巻き込みを防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−531962号公報
【特許文献2】WO98/23978(国際公開パンフレット)
【特許文献3】特開2007−307782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、モスアイ構造を賦形するための賦形型を陽極酸化法で作製した成形用スタンパーを準備し、その成形用スタンパーを用いて特許文献2に記載の方法でモスアイ構造の反射防止層を有する反射防止フィルムを製造した。しかし、得られた反射防止フィルムに光を当てて観察したところ、多数のスジ状の影が観察された。その影は、多連ノズルで塗布したラインと一致していた。また、同じ成形用スタンパーを用いて特許文献3に記載の方法でもモスアイ構造の反射防止層を有する反射防止フィルムを製造したが、この場合も同様、樹脂の注入箇所に相当する部分に、上記同様の影が観察された。影の原因は、図12(A)に示すように、成形用スタンパー100の賦形型110に硬化性樹脂102を塗布し、基材フィルム103を載せてロール105で硬化性樹脂102を引き延ばすとき、図12(B)に示すように、硬化性樹脂102を塗布した賦形型110の釣鐘状の凹部101内に空気104が残り、その結果、図12(C)に示すように、得られた反射防止層の表面に形成された突起の高さが塗布部分の突起106’と非塗布部分の突起106とで異なるためであろうと推察された。
【0008】
さらに、図12(C)に示すように、凹部101内に残る空気104が紫外線硬化性樹脂102中に微小な泡となって混入し、得られた反射防止層中に泡が存在するという問題があった。
【0009】
さらに、図12(C)に示すように、釣鐘状の凹部101内の空気104と紫外線硬化性樹脂102とが接触すると、紫外線硬化性樹脂102の硬化が妨げられるので、硬化しない樹脂が成形用スタンパー100の凹部101内に残り、その後繰り返し使用する成形用スタンパー100の賦形型110が汚染されて目詰まりが生じ、その後に製造するモスアイ構造に欠陥を生じさせるという問題が生じた。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、賦形型が樹脂で目詰まりせず、影も観察されず、且つ泡の巻き込みもない反射防止フィルムの製造に使用する成形用スタンパーを提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうした成形用スタンパーを用いる反射防止フィルムの製造方法を提供することにある。さらに本発明目的は、その製造方法で得られた反射防止フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る成形用スタンパーは、可視光領域の波長より小さい周期からなる突起を有し且つ該突起の高さが150nm〜450nmの反射防止層を形成するための賦形型が形成された賦形領域と、該賦形型が形成されていない非賦形領域とを有する四辺形の成形用スタンパーであって、前記非賦形領域が、前記四辺形の一辺に沿って所定の幅で設けられ、前記賦形領域に引き延ばす硬化性樹脂を載せるために用いられることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、賦形型が形成されていない非賦形領域が、賦形領域に引き延ばす硬化性樹脂を載せるために用いられるので、その非賦形領域に硬化性樹脂を載せた後にその硬化性樹脂をスタンパーの一辺側からその辺の対向辺に向かって賦形領域上を引き延ばせば、硬化性樹脂の移動とともに賦形領域の凹部に空気が残ることなく硬化性樹脂が充填される。その結果、空気の存在により凹部内での硬化性樹脂の硬化が阻害されて賦形型が樹脂で目詰まりすることがなく、また、得られた反射防止層に泡の巻き込みもない。こうした成形用スタンパーで賦形された反射防止層を有する反射防止フィルムには、反射防止層に欠陥がなく、影も観察されない。
【0013】
本発明に係る成形用スタンパーにおいて、前記賦形領域が陽極酸化法で作製された凹凸構造を有し、前記非賦形領域が平坦な金属面を有する。
【0014】
平坦な金属面を有する非賦形領域は、賦形領域を陽極酸化法で作製するための給電部分として用いることができる領域である。この発明によれば、その非賦形領域を、硬化性樹脂を載せる領域として用いることができる。
【0015】
本発明に係る成形用スタンパーにおいて、前記賦形領域に離型処理が施されている。
【0016】
この発明によれば、離型処理が施された賦形領域では、賦形領域に引き延ばされた後に硬化する硬化性樹脂の離型が容易となる。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係る反射防止フィルムの製造方法は、微細な凹凸構造の反射防止層を有する反射防止フィルムを製造する方法であって、反射防止層を形成するための賦形型が形成された賦形領域と該賦形型が形成されていない非賦形領域とを有する四辺形の成形用スタンパーであって、前記非賦形領域が、前記四辺形の一辺に沿って所定の幅で設けられ且つ前記賦形領域に引き延ばす電離放射線硬化性樹脂を載せるために用いられる成形用スタンパーを載置した専用パレットを準備する工程(A)と、前記非賦形領域上に電離放射線硬化性樹脂を載せる工程(B)と、前記成形用スタンパー上に基材フィルムを載せる工程(C)と、前記電離放射線硬化性樹脂上の基材フィルムの上から、押圧部材を押圧しながら移動させ、前記電離放射線硬化性樹脂を前記成形用スタンパーの全面に引き延ばす工程(D)と、前記基材フィルム側から電離放射線を照射して前記電離放射線硬化性樹脂を硬化する工程(E)と、硬化後の前記電離放射線硬化性樹脂と前記基材フィルムとの一体物を前記成形用スタンパーから引き剥がす工程(F)と、をその順で有することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、工程(A)で専用パレットに載置された成形用スタンパーでは、賦形型が形成されていない非賦形領域が賦形領域に引き延ばす硬化性樹脂を載せるために用いられるので、工程(B)で非賦形領域に硬化性樹脂を載せ、その後、工程(D)で硬化性樹脂をスタンパーの一辺側からその辺の対向辺に向かって賦形領域上を引き延ばせば、硬化性樹脂の移動とともに賦形領域の凹部に空気が残ることなく硬化性樹脂が充填される。その結果、空気の存在により凹部内での硬化性樹脂の硬化が阻害されて賦形型が樹脂で目詰まりすることがなく、また、得られた反射防止層に泡の巻き込みもない。こうした製造方法で得られた反射防止フィルムには、反射防止層に欠陥がなく、影も観察されない。
【0019】
本発明に係る反射防止フィルムの製造方法において、前記微細な凹凸構造が、可視光領域の波長より小さい周期からなる突起を有し且つ該突起の高さが150nm〜450nmの反射防止層を形成するための賦形型である。
【0020】
この発明によれば、成形用スタンパーの微細な凹凸構造が上記態様であることが好ましく、その結果、反射防止性のよいモスアイ構造の反射防止層を形成することができる。
【0021】
本発明に係る反射防止フィルムの製造方法において、前記電離放射線硬化性樹脂を、前記非賦形領域内であって前記四辺形の一辺に沿った所定長さH及び所定幅Wからなる長方形領域に載せる。
【0022】
この発明によれば、四辺形の成形用スタンパーの一辺に沿った所定長さH及び所定幅Wからなる長方形領域に電離放射線硬化性樹脂を載せるので、電離放射線硬化性樹脂は、押圧部材により、成形用スタンパーの一辺側からその辺の対向辺に向かって賦形領域上を引き延ばされる。その結果、電離放射線硬化性樹脂の移動とともに賦形領域の凹部に空気が残ることなく電離放射線硬化性樹脂が充填される。こうした製造方法によれば、空気の存在により凹部内での硬化性樹脂の硬化が阻害されて賦形型が樹脂で目詰まりすることがなく、また、得られた反射防止層に泡の巻き込みもない。また、得られた反射防止フィルムには、反射防止層に欠陥がなく、影も観察されない。
【0023】
本発明に係る反射防止フィルムの製造方法において、前記長方形領域の所定長さHを12等分して12領域としたとき、該長方形領域の両端から少なくとも2番目の領域それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量を、少なくとも中央の4領域それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量よりも多くする。
【0024】
この発明によれば、長方形領域を等分して12領域としたとき、長方形領域の両端から少なくとも2番目の領域それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量を、少なくとも中央の4領域それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量よりも多くしたので、押圧部材での引き延ばし時に電離放射線硬化性樹脂が成形用スタンパーからこぼれないようにして、成形用スタンパーの一辺側から他辺側に向かって押圧部材で引き延ばすことができる。
【0025】
上記課題を解決するための本発明に係る反射防止フィルムは、上記本発明に係る反射防止フィルムの製造方法で製造されてなる反射防止フィルムであって、基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた電離放射線硬化性樹脂からなる反射防止層とを有し、前記反射防止層は、可視光領域の波長より小さい周期からなる突起を有し、該突起の高さが150nm〜450nmであり、可視光を当てたときに影が見えないことを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、上記態様の反射防止層を備えるので、可視光領域の波長より小さい周期からなる突起が、可視光を当てたときに影が見えない程度の一定の高さで形成されている。その結果、反射防止性のよいモスアイ構造の反射防止層を有する反射防止フィルムとして提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る成形用スタンパーによれば、非賦形領域に硬化性樹脂を載せた後にその硬化性樹脂をスタンパーの一辺側からその辺の対向辺に向かって賦形領域上を引き延ばせば、硬化性樹脂の移動とともに賦形領域の凹部に空気が残ることなく硬化性樹脂が充填されるので、空気の存在により凹部内での硬化性樹脂の硬化が阻害されて賦形型が樹脂で目詰まりすることがなく、また、得られた反射防止層に泡の巻き込みもない。その結果、こうした成形用スタンパーで賦形された反射防止層を有する反射防止フィルムには、反射防止層に欠陥がなく、影も観察されない。
【0028】
本発明に係る反射防止フィルムの製造方法によれば、空気の存在により凹部内での硬化性樹脂の硬化が阻害されて賦形型が樹脂で目詰まりすることがなく、また、得られた反射防止層に泡の巻き込みもない反射防止フィルムを製造できるので、反射防止層に欠陥がなく、影も観察されない反射防止フィルムを効率的に製造することができる。
【0029】
本発明に係る反射防止フィルムによれば、可視光領域の波長より小さい周期からなる突起が、可視光を当てたときに影が見えない程度の一定の高さで形成されているので、反射防止性のよいモスアイ構造の反射防止層を有する反射防止フィルムとして提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る成形用スタンパーの一例を示す模式的な断面図である。
【図2】図1に示す成形用スタンパーの模式的な平面図である。
【図3】本発明に係る反射防止フィルムの製造方法の工程順を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る成形用スタンパーの固定方法を示す模式的な斜視図である。
【図5】本発明に係る反射防止フィルムの製造方法の説明図である
【図6】樹脂載せ工程と引き延ばし工程を説明する模式的な平面図である。
【図7】本発明に係る反射防止フィルムの製造方法を説明するための断面図(その1)である。
【図8】本発明に係る反射防止フィルムの製造方法を説明するための断面図(その2)である。
【図9】硬化性樹脂を成形用スタンパーに載せた後の形態を示す平面図である。
【図10】本発明に係る反射防止フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図11】本発明に係る反射防止フィルムの他の一例を示す模式的な断面図である。
【図12】反射防止フィルムの従来の製造方法を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る成形用スタンパー、反射防止フィルムの製造方法及び反射防止フィルムについて、図面を参照しつつ具体的に説明する。なお、以下の説明と図面は本発明の実施形態を示すものであって、本発明の要旨を含む変形例が本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。
【0032】
[成形用スタンパー]
本発明に係る成形用スタンパー2は、図1及び図2に示すように、賦形型23が形成された賦形領域R1と、賦形型23が形成されていない非賦形領域R2とを有するスタンパーである。賦形型23は、その賦形型23上で引き延ばされた後に硬化される硬化性樹脂14に、反射防止能を有する微細な凹凸構造13(モスアイ構造)を賦形するための版である。
【0033】
成形用スタンパー2の賦形型23は、従来公知の各種の方法で作製される。例えば、レーザー干渉法による作製方法、フォトリソグラフィプロセスによる作製方法、陽極酸化法による作製方法、ナノ粒子形成による作製方法、ドライエッチングによる作製方法等を挙げることができる。これらの方法で賦形型23を形成してなる成形用スタンパー2は、いずれの場合であっても極めて微細な凹凸構造13の賦形型として好ましく用いることができる。
【0034】
中でも、陽極酸化法で賦形型23を形成した成形用スタンパー2を好ましく用いることができる。陽極酸化法で賦形型23を形成した成形用スタンパー2は、アルミニウム板又はその合金板(以下「アルミニウム板」という。)を陽極酸化して形成したもの、又は硝子板にアルミニウム膜若しくはその合金膜を成膜した後にその膜を陽極酸化したものであり、具体的には、前記特許文献1に記載のように、先ず、アルミニウム板(合金板を含む)又はアルミニウム膜(合金膜を含む)を陽極酸化して細孔を有する陽極酸化皮膜を形成し、次に、エッチングして細孔径を拡大し、次に、2度目の陽極酸化を行って細孔内にさらに細孔を形成し、次に、エッチングして細孔径を拡大し、さらに必要に応じてこうした細孔径拡大処理を繰り返して、所望の細孔(釣鐘状の凹部)を有する賦形型23を形成してなるものである。こうした方法は、大面積の成形用スタンパー2を形成することができる点で有利である。
【0035】
成形用スタンパー2は、その製法に由来する各種の材質で形成できるとすることができ、特に限定されない。例えば、上記したように陽極酸化法で作製する場合には、アルミニウム板(合金板を含む)、又は硝子板等の絶縁体若しくはSUS等のアルミニウム以外の金属若しくは金属酸化物を基体とし、該基体上にアルミニウム膜(合金膜を含む)を形成したものが用いられる。成形用スタンパーの厚さは特に限定されないが、概ね0.5mm〜10mm程度である。基体上にアルミニウム膜を形成する場合のアルミニウム膜の厚さも特に限定されないが、概ね500nm〜1.5μmである。
【0036】
成形用スタンパー2の大きさは反射防止フィルム10に要求される反射防止領域の大きさに応じて任意であり、その形状は平面視で四辺形(長方形又は正方形)である。ここで、反射防止領域とは、反射防止層12を形成する賦形型23の有効形成領域(「賦形領域R1」という。)である。本発明では、図1及び図2に示すように、賦形型23が形成されている賦形領域R1と、賦形型23が形成されていない非賦形領域R2とを有している。なお、図1及び図2等における符号16は、賦形領域R1と非賦形領域R2との境界である。
【0037】
非賦形領域R2は、図2に示すように、平面視で四辺形(短辺長さL1×長辺長さL2)の成形用スタンパー2の一辺(長さL1の短辺)に沿って、所定幅L3で帯状に設けられている。この非賦形領域R2には賦形型23が設けられておらず、平担面となっている。賦形型23を陽極酸化法で形成する場合には、その非賦形領域R2は陽極酸化されない平坦な金属面となっている。この平坦な金属面は、賦形領域R1を陽極酸化法で作製するための給電部分として利用できる。
【0038】
非賦形領域R2には賦形型23に引き延ばすための硬化性樹脂14を載せる。そのため、賦形領域R1の面積に対応した硬化性樹脂14の量に応じた大きさである必要がある。したがって、非賦形領域R2の大きさは、賦形領域R1の大きさ、言い換えれば賦形領域R1に載せる硬化性樹脂14の量に応じて任意に設定される。
【0039】
賦形領域R1は、図2に示すように、成形用スタンパー2の全面領域から非賦形領域R2を除いた以外の領域であって、短辺長さ(L1)×長辺長さ(L2−L3)で設けられている。この賦形領域R1には、例えば陽極酸化法や他の方法で形成された賦形型23が設けられているが、その周縁部には賦形型23が形成されていないか、やや乱れた賦形型23になっている部分があってもよい。そうした部分は、最終的には切断されることが多い。この賦形領域R1上には、非賦形領域R2上に載った硬化性樹脂14がニップロール等の押圧部材5で引き延ばされる。賦形領域R1の大きさは、反射防止フィルム10が例えばディスプレイの前面フィルムとして用いられる場合には、そのディスプレイのサイズを1又は2以上(多数含む。)含むサイズとなっている。
【0040】
賦形領域R1を陽極酸化法で形成した場合、その賦形領域R1には釣鐘状の凹部が無数に形成されている。その釣鐘状の凹部は、モスアイ構造を形成する突部15を反射防止層12に賦形するためのものである。モスアイ構造の突起15は、図10に示すように、可視光領域の波長より小さい周期P(ピッチ)からなり、その高さhが150nm〜450nmの範囲のものである。ここで、可視光領域の波長とは、380nm〜780nmである。したがって、賦形型23で賦形される突起15の周期Pは、可視光領域の波長より小さい、すなわち380nm以下となる。なお、突起15の周期Pは二次元方向の周期のことであり、規則的でも不規則でもよいが、規則的である場合は干渉による色付きが生じることがあるので不規則であることが好ましい。
【0041】
賦形領域R1の賦形型23(釣鐘状の凹部)には、離型処理が施されていることが好ましい。離型処理を施すことにより、賦形領域R1に引き延ばされ、硬化された後の硬化性樹脂を容易に剥がすことができる。離型処理としては、フッ素系樹脂(例えば、ダイキン化成販売株式会社社製の「オプツールHD−1100、2100シリーズ」、住友スリーエム株式会社製の「EGC−1720」等)等の離型剤を、刷毛塗り、浸漬塗布、スピンコート、スプレーコート、ディスペンサコート等の方法で成形用スタンパー表面に塗布し、離型処理することができる。また、離型処理効果を維持するために、所定の温度で熱処理を行ったり、余分な離型剤を除去するリンス工程を設けてもよい。特にアルミニウムを陽極酸化したアルマイトは硬化性樹脂に対する離型性に劣る傾向があるので、離型処理を施すことが望ましい。なお、硬化性樹脂に離型性を向上させる材料を配合してもよい。そうした材料としては、例えばリン酸エステル、ホスホン酸エステル等を挙げることができる。
【0042】
成形用スタンパー2の質量は特に限定されず、図3に示す引き剥がし工程で、一体物10’を成形用スタンパー2から引き剥がす力Fによっても浮き上がらない程度の質量であることが望ましい。引き剥がし工程で成形用スタンパー2が浮き上がると、引き剥がし時における一体物10’と成形用スタンパー2との引き剥がし角度等が変化して工程条件が変動するため、モスアイ構造に欠陥が生じて正確に賦形できず、歩留まりが低下するおそれがある。なお、成形用スタンパー2は、その成形用スタンパー2から一体物10’を引き剥がすときの引き剥がし強度Fが0.020〜2.0N/25mmの範囲であることが好ましく、したがって、成形用スタンパー2の質量は、その引き剥がし強度Fを超える値であることが望ましい。例えば、幅L1の成形用スタンパー2の引き剥がし強度Fが0.020N/25cmであれば、成形用スタンパー2の質量(kg)は0.020N÷9.8×(L1/25)を超えるものとなり、また、幅L1の成形用スタンパー2の引き剥がし強度Fが2.0N/25cmであれば、成形用スタンパー2の質量(kg)は、2.0N÷9.8×(L1/25)を超えるものとなる。こうした質量の成形用スタンパー2は、上記引き剥がし強度でも浮き上がることがない。
【0043】
以上、本発明に係る成形用スタンパー2は、賦形型23が形成されていない非賦形領域R2が、賦形領域R1に引き延ばす硬化性樹脂14を載せるために用いられるので、その非賦形領域R2に硬化性樹脂14を載せた後にその硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の一辺側からその辺の対向辺に向かって賦形領域R1上を引き延ばせば、硬化性樹脂14の移動とともに賦形領域R1の凹部に空気が残ることなく硬化性樹脂14が充填される。その結果、空気の存在により凹部内での硬化性樹脂14の硬化が阻害されて賦形型23が硬化性樹脂14で目詰まりすることがなく、また、得られた反射防止層12に泡の巻き込みもない。こうした成形用スタンパー2で賦形された反射防止層12を有する反射防止フィルム10には、反射防止層12に欠陥がなく、影も観察されない。
【0044】
[反射防止フィルムの製造方法]
本発明に係る反射防止フィルムの製造方法によって得られる反射防止フィルム10は、図10及び図11に示すように、基材フィルム11と、基材フィルム11上に設けられた電離放射線硬化性樹脂14からなる反射防止層12とを少なくとも有する。そして、反射防止層12の表面には、反射防止能をもたらす微細な凹凸構造13(モスアイ構造)が賦形されている。
【0045】
こうした反射防止フィルム10を製造する本発明に係る製造方法は、図3及び図5に示すように、賦形型23が形成された賦形領域R1とその賦形型23が形成されていない非賦形領域R2とを有する成形用スタンパー2を載置した専用パレット1を準備する工程(A)と、非賦形領域R2上に電離放射線硬化性樹脂14を載せる工程(B)と、成形用スタンパー2上に基材フィルム11を載せる工程(C)と、電離放射線硬化性樹脂14上の基材フィルム11の上から、押圧部材5を押圧しながら移動させ、電離放射線硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の全面に引き延ばす工程(D)と、基材フィルム11側から電離放射線6を照射して電離放射線硬化性樹脂14を硬化する工程(E)と、硬化後の電離放射線硬化性樹脂14(反射防止層12)と基材フィルム11との一体物10’を成形用スタンパー2から引き剥がす工程(F)と、をその順で有する。
【0046】
以下、各構成要素について詳しく説明する。
【0047】
(準備工程)
準備工程(A)は、成形用スタンパー2を載置した専用パレット1を準備する工程である。専用パレット1は、成形用スタンパー2を載置し、各工程を順次経由して戻ってくる工程部材である。専用パレット1は、通常、ステンレス鋼板、アルミニウム合金板等の金属板で構成されている。専用パレット1の大きさは、図4に示すように、成形用スタンパー2の周りにガイド部材3を設けることができる大きさであればよく、特に限定されない。そして、この専用パレット1には、図4に示すように、成形用スタンパー2の少なくとも三辺に当接してその成形用スタンパー2を所定位置(専用パレット1の中央位置)に載置するためのガイド部材3が設けられていることが好ましい。
【0048】
成形用スタンパー2は、上述した通りであるのでここではその説明を省略する。
【0049】
ガイド部材3は、図4に示すように、成形用スタンパー2の少なくとも三辺に当接してその成形用スタンパー2を所定位置に載置するための部材である。ここで、少なくとも三辺とは、図6に示すように、押圧部材5の移動方向に設けられたガイド部材3’と、その移動方向に直交する方向に設けられたガイド部材3”,3”のことである。ガイド部材として、押圧部材5の移動方向の逆側のガイド部材3を必須のガイド部材から除いたのは、そのガイド部材3には、押圧部材5の移動時に負荷がかからないからである。なお、ガイド部材3は、図4に示すように、通常、成形用スタンパー2の四辺に当接するように四つ設けられていることが好ましい。
【0050】
ガイド部材3の材質は特に限定されず、例えば、アルミニウム板、SUS板、プラスチック板等のように、電離放射線が照射されても吸収熱の発生や形状変化等、工程に支障をきたさない材質であればよい。ガイド部材3の大きさは、図6に示すように、成形用スタンパー2の各辺の略中央領域に所定の長さで成形用スタンパー2に当接する長さを有していればよく、その長さは特に限定されない。なお、図6では、成形用スタンパー2の短辺長さL1の2分の1以上であり、長辺長さL2の2分の1以上の長さの例が記載されている。ガイド部材3の形状は、図6に示すように、四辺形のものが通常用いられ、特にその形状は限定されない。なお、ガイド部材3は、後述する押圧部材5の移動の妨げにならない程度に成形用スタンパー2の高さと同じ若しくはそれよりも低いことが望ましい。こうしたガイド部材3は、専用パレット1上に、接着剤又は粘着剤等によって固定されてもよいし、ネジ、ボルト・ナット等によって機械的に固定されてもよいし、マグネット等によって磁気的に固定されていてもよい。こうしたガイド部材3を備えた専用パレット1を用いることにより、成形用スタンパー2の載置及び取り外しが容易であり、交換及びメンテナンス等に便利である。
【0051】
なお、専用パレット1乃至成形用スタンパー2には、温調機構が設けられていてもよい。温調機構を有する専用パレット1乃至成形用スタンパー2を予め所定温度に設定し、その後に樹脂成形を行えば、雰囲気温度による樹脂粘度の変化に基づいた悪影響を抑制することができる。その結果、成形用スタンパー2において、常時安定した賦形エリアを確保することが可能となる。
【0052】
専用パレット1への成形用スタンパー2の載置は、図5に示す載置台8で行われる。載置台8には、予め所定の位置(成形用スタンパー2を固定する位置)にガイド部材3が固定された専用パレット1が準備され、その専用パレット1に成形用スタンパー2がガイド部材3によって位置固定された態様で載置される。載置された成形用スタンパー2は、搬送装置によって次工程である樹脂載せ工程に移送される。
【0053】
(樹脂載せ工程)
樹脂載せ工程(B)は、図2及び図5〜図7に示すように、非賦形領域R2上の所定の部位に所定量の電離放射線硬化性樹脂14を載せる工程である。非賦形領域R2は、成形用スタンパー2の説明欄で説明したとおりであるのでその説明は省略するが、図2に示すように、平面視で四辺形(短辺長さL1×長辺長さL2)の成形用スタンパー2の一辺(長さL1の短辺)に沿って、所定幅L3で帯状に設けられている。この非賦形領域R2上に電離放射線硬化性樹脂14を載せることにより、成形用スタンパー2の一辺側から他辺側に向かって押圧部材5の一回の引き延ばし移動(ワンパス)で、賦形領域R1の凹部に空気が残ることなく電離放射線硬化性樹脂14が充填される。こうした充填手段は、賦形領域R1に電離放射線硬化性樹脂14を載せる従来のような空気残りを生じさせず、空気残りが引き起こす問題を解消することができる。
【0054】
特に、電離放射線硬化性樹脂14を、非賦形領域R2内であって前記四辺形の一辺に沿った所定長さH及び所定幅Wからなる長方形領域(図9参照)に載せることが好ましい。その長方形領域に電離放射線硬化性樹脂14を載せることにより、電離放射線硬化性樹脂14が押圧部材5で賦形領域R1上を引き延ばされる際に、前記同様の空気残りを生じさせないとともに、電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれないという利点がある。より具体的には、図9に示すように、非賦形領域R2の長方形領域(H×W)は、長さL1の短辺に沿って延びる長さHと、その短辺から所定の間隔S3を隔てて長辺方向に延びる幅Wとで構成されている。長さHは、長さL1の60%〜95%であり、両サイドの長辺から所定の間隔S1,S2を隔てた領域である。その間隔S1,S2は、電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれないで且つワンパスで引き延ばされることを考慮して設定され、具体的には、その間隔S1,S2は、10mm〜100mm程度であることが好ましい。また、短辺からの間隔S3も電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれないで且つワンパスで引き延ばされることを考慮して設定され、具体的には、その間隔S3は、10mm〜100mm程度であることが好ましい。なお、本願では、成形用スタンパー2の短辺と長辺の関係が入れ替わったものであってもよい。
【0055】
非賦形領域R2の長方形領域(H×W)について、図9に示すように、その長方形領域の所定長さHを12等分して12領域(a1〜a12)としたとき、その長方形領域の両端から少なくとも2番目の領域(a2,a11)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量を、少なくとも中央の4領域(a5,a6,a7,a8)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量よりも多くする。長方形領域に載せる電離放射線硬化性樹脂の量をこのようにすることにより、押圧部材5での引き延ばし時に電離放射線硬化性樹脂14が賦形領域R1からこぼれないようにして、成形用スタンパー2の一辺側から他辺側に向かって押圧部材5で引き延ばすことができる。
【0056】
上記関係で電離放射線硬化性樹脂14の量を調整することにより、電離放射線硬化性樹脂14を賦形領域R1の全面に引き延ばす工程時に、電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれることがない。その結果、引き剥がし時に、こぼれた電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2の賦形型に飛び散って汚染する等の問題を防ぐことができる。なお、本願で「少なくとも中央の4領域(a5,a6,a7,a8)」とは、その4領域(a5,a6,a7,a8)に、a4領域とa9領域が含まれていてもよいし、さらにa3領域とa10領域が含まれていてもよい。また、長方形領域の両端にあるa1領域とa12領域は、通常、両端から2番目の領域(a2,a11)よりも樹脂量は少ない。
【0057】
電離放射線硬化性樹脂14は、図5〜図7に示すように、樹脂流下ノズル4によって、成形用スタンパー2上に所定量が載せられる。樹脂流下ノズル4としては、さらに詳しくは、固定型多連ディスペンサノズル又は移動型ディスペンサノズルが用いられる。
【0058】
固定型多連ディスペンサノズルは、成形用スタンパー2の一辺に沿って等間隔で2以上のノズルが連設されたものであり、例えば6連、8連、10連、12連等、各種の固定型多連ディスペンサノズルを用いることができる。固定型多連ディスペンサノズルでは、成形用スタンパー2に対する各ノズルの位置は固定しており、したがって、前記した関係となる所定量の電離放射線硬化性樹脂14を非賦形領域R2に流下させるための制御は、各ノズルからの吐出量をそれぞれ制御して行われる。例えば、12連ノズルを用いた場合には、5〜8番目のノズルからの吐出量に比べ、2番目と11番目のノズルからの吐出量を多めにして、例えば長方形領域の両端から少なくとも2番目の領域(a2,a11)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量を、少なくとも中央の4領域(a5,a6,a7,a8)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量よりも多くすることができる。
【0059】
一方、移動型ディスペンサノズルは、成形用スタンパー2の一辺に沿って移動するノズルである。この移動型ディスペンサノズルは、1つのディスペンサノズルで構成されていてもよいし、2以上のディスペンサノズルで構成されていてもよい。移動型ディスペンサノズルでは、成形用スタンパー2に対する位置は固定しておらず、成形用スタンパー2の一辺の一方から他方に向かって、電離放射線硬化性樹脂14を流下しながら移動する。前記した関係となる所定量の電離放射線硬化性樹脂14を非賦形領域R2に流下させるための制御は、移動中のノズルからの吐出量を制御して行われる。例えば、最初は多めに吐出し、中間点付近では少なめにし、最後に再び多めにして、長方形領域の両端から少なくとも2番目の領域(a2,a11)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量を、少なくとも中央の4領域(a5,a6,a7,a8)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量よりも多くすることができる。こうした制御は、移動速度と吐出量とを任意に設定して行われ、例えば一定の移動速度で移動させながら吐出量を変化させたり、移送速度を変化させながら一定の吐出量としたりして行われる。
【0060】
このように、非賦形領域R2の長方形領域(H×W)に電離放射線硬化性樹脂14を載せるための樹脂流下ノズル4を固定型多連ディスペンサノズル又は移動型ディスペンサノズルとしたので、後述する押圧部材5での引き延ばし時に電離放射線硬化性樹脂14が賦形領域R1からこぼれない量を制御して前記長方形領域(H×W)に載せることができる。その結果、電離放射線硬化性樹脂14が賦形領域R1からこぼれない態様で、成形用スタンパー2の一辺側から他辺側に向かって押圧部材5で引き延ばすことができる。
【0061】
電離放射線硬化性樹脂14としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー(単量体)、或いはプレポリマーやオリゴマーが用いられる。モノマーとしては、例えば、ラジカル重合性モノマー、具体的には、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。また、プレポリマー(乃至はオリゴマー)としては、例えば、ラジカル重合性プレポリマー、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオール系プレポリマー、不飽和ポリエステルプレポリマー等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマー、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートという表記は、アクリレート又はメタクリレートという意味である。これらモノマー、或いはプレポリマーは、要求される性能、塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
【0062】
光重合開始剤としては、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系等の化合物が、また、カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100重量部に対して0.1〜5重量部程度添加する。
【0063】
電離放射線としては、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線等の荷電粒子線を用いることもできる。
【0064】
電離放射線硬化性樹脂14には、必要に応じて適宜添加剤を添加する。添加剤としては、例えば、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤等が挙げられる。
【0065】
本発明では、電離放射線硬化性樹脂14を非賦形領域R2に載せ、その後、後述するように、基材フィルム11を載せ、さらに押圧部材(ロール)5で基材フィルム11と電離放射線硬化性樹脂14とを押圧しながら移動させて引き延ばすことによって、釣鐘状の凹部に空気を残さずに充填させる。つまり、押圧部材5で基材フィルム11及び電離放射線硬化性樹脂14を押圧した状態で移動させる。こうした工程により、電離放射線硬化性樹脂14が賦形領域R1の釣鐘状の凹部に流れ込むように充填される。このような電離放射線硬化性樹脂14の流れは、電離放射線硬化性樹脂14の粘度に影響される。充填が良好に行われる好ましい粘度は、5〜2000mPa・sの範囲であり、より好ましい粘度は、50〜1200mPa・sの範囲である。
【0066】
こうして成形用スタンパー2上に電離放射線硬化性樹脂14を載せた後、搬送装置により、次工程である基材フィルム載せ工程に移送する。
【0067】
(基材フィルム載せ工程)
基材フィルム載せ工程(C)は、図5(C)及び図7(B)に示すように、成形用スタンパー2の非賦形領域R2に電離放射線硬化性樹脂14を載せた後に、その成形用スタンパー2上に基材フィルム11を載せる工程である。例えば、基材フィルム11が積層されているスタッカから自動機又は手動で成形用スタンパー2上に供給する方法を挙げることができる。自動機としては、基材フィルム11の上面(基材フィルム11に反射防止層を形成しない非成形面のこと。)を例えば吸引保持して成形用スタンパー2上の所定位置に載せる装置を挙げることができる。基材フィルム11の大きさは、特に限定されないが、通常は、成形用スタンパー2と同じ又は同程度の大きさの枚葉状のフィルムである。
【0068】
基材フィルム11は、所望の透明性、機械的強度、電離放射線硬化性樹脂14との接着性等の要求適性を勘案の上、各種材料の各種厚さのものを選択すればよい。基材フィルム11の厚さ形態としては、フィルム状でもシート状でも板状でもよい。通常は、樹脂製の透明フィルムが好ましく用いられる。そうした基材フィルム11としては、アクリル樹脂(ここでは、所謂、メタクリル樹脂も包含する概念として用いる)、ポリエステル樹脂等をベースとするフィルムが好ましいが、これに限定されない。樹脂材料としては、具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール−テレフタル酸−イソフタル酸共重合体、テレフタル酸−エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含ハロゲン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等が使用できる。中でも、二軸延伸PETフィルムが透明性、耐久性に優れ、しかもその後の工程で電離放射線照射処理や加熱処理を経た場合でも熱変形等しない耐熱性を有する点で好適である。また、液晶ディスプレイ向けの偏光板の保護表面フィルムとして使用する場合には、トリアセチルセルロースフィルムが好適である。
【0069】
基材フィルム11の厚さは、通常は50μm〜3000μm程度が好ましいが、これに限定されない。基材フィルム11の光透過率としては、ディスプレイ装置の前面設置用では100%のものが理想であるが、透過率80%以上のものを選択することが好ましい。基材フィルム11の表面には、必要に応じて、上述した電離放射線硬化性樹脂14との密着性を改善するために易接着層を設けたり、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理を行ったりしてもよい。易接着層としては、基材フィルム11と電離放射線硬化性樹脂14との両方に接着性のある樹脂から構成する。易接着層の樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩素化ポリプロピレン等の樹脂の中から適宜選択する。
【0070】
また、基材フィルム11として、複合フィルムを用いてもよい。複合フィルムとしては、例えば図11に示すように、偏光子保護フィルム11aを用い、その一方の面にプライマー層11bを設け、他方の面に保護フィルム11cを設けたものを例示できる。なお、偏光子保護フィルム11aと保護フィルム11cとの間に接着層が設けられていてもよいし、偏光フィルム11aは、第1の偏光子保護フィルム/偏光子A/第2の偏光子保護フィルムの3層構造であってもよい。
【0071】
成形用スタンパー2上に基材フィルム11を載せると、基材フィルム11の重さで電離放射線硬化性樹脂14は成形用スタンパー2上に広がる。載せた後の基材フィルム11は、成形用スタンパー2上に広がった樹脂に貼り付き、搬送時にずれることはない。電離放射線硬化性樹脂14の上にない基材フィルム11の他端側は、浮かしていてもよいし、そのまま成形用スタンパー2上に載っていてもよい。なお、成形用スタンパー2上への基材フィルム2の載置は、成形用スタンパー2上に電離放射線硬化性樹脂14を流下した後、その成形用スタンパー2上から電離放射線硬化性樹脂14が流れ出したり、成形用スタンパー2上に異物等が降塵しないように、できるだけ速やかに行うことが望ましい。例えば、成形用スタンパー2上に電離放射線硬化性樹脂14を流下した後、60秒以内に行うことが好ましい。
【0072】
こうして成形用スタンパー2上に基材フィルム11を載せた後、搬送装置により、次工程である樹脂引き延ばし工程に移送する。
【0073】
(樹脂引き延ばし工程)
樹脂引き延ばし工程(D)は、図5(D)、図6及び図7(C)に示すように、電離放射線硬化性樹脂14上の基材フィルム11の上から、押圧部材5で基材フィルム11と電離放射線硬化性樹脂14とを押圧しながら移動させ、非賦形領域R2に載った電離放射線硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の全面に引き延ばす工程である。
【0074】
押圧部材5は特に限定されないが、通常、任意の直径からなるニップロールが用いられる。このニップロールの直径は、電離放射線硬化性樹脂14を賦形領域R1の釣鐘状の凹部内に空気を残すことなく充填させる重要なファクターの一つである。その直径は、電離放射線硬化性樹脂14の粘度及びニップロールの移動速度に相互に関係するが、例えば直径100〜800mmであることが好ましい。ニップロールは、温調機能を備えていてもよい。ニップロールを温調させながら押圧し且つ移動させることにより、電離放射線硬化性樹脂14の粘度を調整することができるので、電離放射線硬化性樹脂14を賦形領域R1の釣鐘状の凹部内に空気を残すことなく充填させる際に効果的に併用することが好ましい。
【0075】
押圧部材5は、図6に示すように、電離放射線硬化性樹脂14が載った非賦形領域R2から対向辺側に向かってワンパスで移動する。その際、押圧部材5は、基材フィルム11を上方から下方に向かって押圧しながら移動する。この工程では、押圧部材5によって、基材フィルム11を介して押圧された電離放射線硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の全面に引き延ばすことができる。ニップロール等の押圧部材5の移動速度も、電離放射線硬化性樹脂14を賦形領域R1の釣鐘状の凹部内に空気を残すことなく充填させる重要なファクターの一つである。その移動速度は、電離放射線硬化性樹脂14の粘度及びニップロールの直径に相互に関係するが、例えば移動速度が0.5〜10m/分であることが好ましく、1〜3m/分であることがより好ましい。押圧部材5(例えばニップロール)の移動速度が小さすぎると、生産性が悪く、一方、押圧部材5(例えばニップロール)の移動速度が大きすぎると、成形用スタンパー2の凹部に十分に硬化性樹脂が充填されなかったり、気泡の発生原因となることがある。
【0076】
押圧部材5の押圧と移動は、例えば図6(A)に示す態様で行うことができる。図6(A)に示すように、非賦形領域R2、特に長方形領域(H×W)に隣接する辺を当接するガイド部材3上にニップロール(符号5を用いる。)を配置し、その後、専用パレット1が搬送装置で移送されることにより、ニップロール5は成形用スタンパー2上の基材フィルム11を上方から押圧しながら回転し、基材フィルム11と成形用スタンパー2との間の電離放射線硬化性樹脂14をニップロール5の進行方向に引き延ばす。このときのニップロールの移動は、ニップロール自体の回転移動で行ってもよいし、専用パレット1が搬送装置で移送されることにより行ってもよい。
【0077】
押圧部材5の押圧力は、電離放射線硬化性樹脂14の量等を考慮して任意に設定される。押圧力が強すぎると、成形用スタンパー2から電離放射線硬化性樹脂14が賦形領域R1に速やかに流れ込み、釣鐘状の凹部に空気を巻き込んでしまったり、電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれてしまったりすることがある。一方、押圧力が弱いと、成形用スタンパー2上の全面に電離放射線硬化性樹脂14が行き渡らないことがある。
【0078】
押圧部材5の相対的な移動は、成形用スタンパー2上の全面に電離放射線硬化性樹脂14を引き延ばす。ここで、全面とは、成形用スタンパー2に設けられた賦形型形成領域という意味であり、その賦形型23が成形用スタンパー2の周縁にまで設けられている場合には、電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれないでその周縁まで引き延ばされる。また、例えば、賦形型が成形用スタンパー2の周縁から例えば10mm程度内側まで設けられている場合には、電離放射線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれないでその部分まで引き延ばされる。なお、引き延ばされた電離放射線硬化性樹脂14の周縁は、最終的には所定の寸法(製品寸法等)に規制するために切断される場合が多い。
【0079】
なお、電離放射線硬化性樹脂14の引き延ばしを成形用スタンパー2から「こぼさないで」行うためには、上述したように、電離放射線硬化性樹脂14を載せる位置、載せる量、載せる形状、押圧部材5の押圧力等を設定することにより実現することができる。
【0080】
こうして電離放射線硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の全面に引き延ばした後、搬送装置により、次工程である硬化工程に移送する。
【0081】
(硬化工程)
硬化工程(E)は、図5(E)及び図8(D)に示すように、基材フィルム11側から電離放射線6を照射して電離放射線硬化性樹脂14を硬化する工程である。基材フィルム11は電離放射線を透過するので、基材フィルム11側から電離放射線6が照射される。電離放射線6は、上述したように、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線等の荷電粒子線を用いることもできる。こうした電離放射線を照射する電離放射線照射装置7としては市販のものを用いることができるが、専用パレット1の移送方向に直交する方向に配置することにより、移送中にワンパスで硬化処理することができる。通常は、紫外線硬化性樹脂が用いられるので、電離放射線としては、波長365nmの紫外線を紫外線照射装置で照射して紫外線硬化性樹脂を硬化する。
【0082】
こうして電離放射線硬化性樹脂14を硬化した後、搬送装置により、次工程である引き剥がし工程に移送する。
【0083】
(引き剥がし工程)
引き剥がし工程(F)は、図5(F)及び図8(E)に示すように、硬化後の電離放射線硬化性樹脂14と基材フィルム11との一体物10’を成形用スタンパー2から引き剥がす工程である。一体物10’の引き剥がしは、図8(E)に示すように、一体物10’の非賦形領域R2側の辺を保持して上方に引き上げることにより行うことが便利である。
【0084】
このとき、既述したように、成形用スタンパー2の質量を調整し、一体物10’を成形用スタンパー2から引き剥がす力Fによっても浮き上がらないことが望ましい。引き剥がし工程で成形用スタンパー2が浮き上がると、引き剥がし時における一体物10’と成形用スタンパー2との引き剥がし角度等が変化して工程条件が変動するため、微細な凹凸構造13に欠陥が生じて正確に賦形できず、歩留まりが低下するおそれがある。成形用スタンパー2から一体物10’を引き剥がすときの引き剥がし強度Fは、0.020〜2.0N/25mmの範囲であることが好ましく、こうした引き剥がし強度Fで成形用スタンパー2が浮き上がらないように、成形用スタンパー2の質量が既述のように設定される。
【0085】
なお、引き剥がし強度は、JIS K 6854−1を準拠した値であり、一体物10’を面に対して90°の方向に引き上げるときの幅25mmでの値で表される。実際には、25mm幅にしたときの実測値で評価することができる。
【0086】
(その他の工程)
こうして引き剥がされた反射防止フィルム10は、図8(F)に示すように、凹凸構造13が形成されていない非賦形領域R2の電離放射線硬化性樹脂層を切断線17から切断される。また、その後に必要に応じて各種の工程を経て、製品としての反射防止フィルム10となる。例えば賦形領域R1の周縁を切断する工程、反射防止層12を保護するための保護フィルム(マスキングフィルム)をその凹凸構造13上に設ける工程等を設けてもよい。
【0087】
以上説明したように、本発明の反射防止フィルムの製造方法によれば、工程(A)で専用パレット1に載置された成形用スタンパー2では、賦形型23が形成されていない非賦形領域R2が賦形領域R1に引き延ばす硬化性樹脂14を載せるために用いられるので、工程(B)で非賦形領域R2に硬化性樹脂14を載せ、その後、工程(D)で硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の一辺側からその辺の対向辺に向かって賦形領域R1上を引き延ばせば、硬化性樹脂14の移動とともに賦形領域R1の凹部に空気が残ることなく硬化性樹脂14が充填される。その結果、空気の存在により凹部内での硬化性樹脂14の硬化が阻害されて賦形型23が樹脂で目詰まりすることがなく、また、得られた反射防止層12に泡の巻き込みもない。こうした製造方法で得られた反射防止フィルム10には、反射防止層12に欠陥がなく、影も観察されない。
【0088】
[反射防止フィルム]
本発明に係る反射防止フィルム10は、上記した本発明に係る製造方法で製造されたものであって、基材フィルム11と、基材フィルム11上に設けられた電離放射線硬化性樹脂14からなる反射防止層12とを有している。そして、反射防止層12は、可視光領域の波長より小さい周期Pからなる突起15を有し、その突起15は、その高さhが150nm〜450nmであり、可視光を当てたときに影が見えないことに特徴がある。
【0089】
反射防止フィルム10を構成する基材フィルム11及び反射防止層12は、既述の製造方法の説明欄で挙げた各種の基材フィルム11(既述の複合フィルムを含む。図11参照。)及び反射防止層12(電離放射線硬化性樹脂14)を適用できるので、ここではその説明は省略する。反射防止層12の表面には多数の突起15が設けられ、その突起15を有する凹凸構造13は、既述した成形用スタンパー2が有する賦形型23で賦形されたものである。なお、反射防止層12は、突起15を有する凹凸構造13と、その凹凸構造13のベース部分である基底部とで構成されている。基底部の厚さは、2〜30μmが望ましい。
【0090】
反射防止層12の表面に設けられている突起15は、可視光領域の波長より小さい周期Pで設けられている。ここで、「可視光領域の波長」とは380nm〜780nmの波長であるので、「可視光領域以下の波長」とは380nm以下の波長のことを意味する。したがって、突起15は、380nm以下の周期(ピッチ)Pで設けられている。その周期Pは規則的でもよいし不規則的でもよいが、通常、50nm〜200nmの不規則な周期Pで設けられている場合が多い。こうした周期Pで突起15が設けられていることにより、入射する光に対して屈折率に傾斜をもつものと等価になって急激な屈折率差が無くなるので、入射した光をほとんど反射しない。この周期Pの調整は、成形用スタンパー2に設けた凹部の周期を反映したものであり、その周期Pの調整は成形用スタンパー2の凹部の周期をコントロールして行うことができる。
【0091】
また、突起15の高さhが150nm〜450nmであるが、この範囲とすることにより、反射防止フィルムとして種々ディスプレイに適した構造体を得ることが可能となる。突起15の高さhが150nm未満では、可視光領域の長波長領域における反射防止機能が劣ることがあり、450nmを超えると、個々の突起構造が壊れ易く、スクラッチ等の外的衝撃に対して傷つきやすいことがある。突起15の高さhは、成形用スタンパー2に設けた凹部の深さを反映したものであり、その高さhの調整は成形用スタンパー2の凹部の深さをコントロールして行うことができる。
【0092】
反射防止層12の突起15が上記周期P及び高さhで設けられた反射防止フィルム10は、成形用スタンパー2からの引き剥がし強度Fが0.020〜2.0N/25mmの範囲であることが好ましい。こうした引き剥がし強度Fとなる反射防止層12の凹凸構造13は、引き剥がし時に過大な力が必要ではなく、その結果、微細な凹凸構造13に欠陥を生じさせる樹脂のカケ又は離散を防ぐことができる。したがって、突起15の周期P及び高さhが上記範囲内であるということは、この範囲の引き剥がし強度Fで引き剥がしされることを意味するので、凹凸構造13に欠陥のない反射防止層12ということができる。
【0093】
本発明に係る反射防止フィルム10は、上記態様の反射防止層12を備えるので、可視光領域の波長より小さい周期Pからなる突起15が、可視光を当てたときに影が見えない程度の一定の高さhで形成されている。その結果、反射防止性のよいモスアイ構造の反射防止層12を有する反射防止フィルムとして提供できる。しかも、その反射防止フィルム10は、電離放射線硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の非賦形領域R2に載せ、その位置からワンパスで引き延ばしているので、従来のような筋模様が見られないという顕著な特徴がある。
【実施例】
【0094】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳しく説明する。
【0095】
[実施例1]
専用パレット1として厚さ15mmのアルミ鋼板を用い、成形用スタンパー2として陽極酸化法で作製した成形用スタンパー2を用い、その成形用スタンパー2の周縁に当接して成形用スタンパー2を専用パレット1上に固定するための4つのガイド部材3を成形用スタンパー2の各辺に対応する位置に接着した。なお、成形用スタンパー2は、純アルミ(純度99.9%)を陽極酸化とエッチングを繰り返したものであり、賦形型23が形成された賦形領域R1と、賦形型23が形成されていない非賦形領域R2とを備えている。賦形領域R1に形成された賦形型23の釣鐘状の凹部は、その周期が約110nm〜130nmの範囲であり、その深さが350nm〜400nmの範囲の、釣鐘状の凹部からなる賦形型23を有するものである。賦形型23を形成した後に、スピンコート法により離型剤(商品名:オプツールHD−1100、ダイキン化成販売株式会社社製)を賦形型表面に塗工して離型処理を施し、室温下にて24時間放置した。その後、余剰の離型剤を除去するために専用希釈剤にてリンスを行い、室温にて乾燥させた。成形用スタンパー2の大きさは、短辺長さL1が420mmで、長辺長さL2が530mmで、厚さ1.75mmである。非賦形領域R2は短辺に沿って幅60mmで設けられている。成形用スタンパー2の重さは1200gである。ガイド部材3は長方形であり、長辺長さは380mmで短辺長さは50mmで厚さは1.70mmである。
【0096】
専用パレット1に成形用スタンパー2を載置した後、成形用スタンパー2の非賦形領域R2(長さL1:420mmで幅L3:60mm)に紫外線硬化性樹脂14を載せた。詳しくは、非賦形領域R2の長さL1側の辺から35mmの距離S3を隔て且つ長さL2側の両辺から30mmの距離S1,S2を隔てて、長辺に平行な幅W8mm×短辺に平行な長さH350mmの長方形領域に、紫外線硬化性樹脂14を流下させた。紫外線硬化性樹脂14は、アクリル樹脂系の硬化性樹脂を用い、移動型ディスペンサノズルを走査速度を変化させて短辺に沿って移動させながら、吐出量を制御して流下させた。具体的には、最初は多めに吐出し、中間点付近では少なめにし、最後に再び多めにして、図9示す長方形領域の所定長さHを12等分して12領域(a1〜a12)としたとき、その両端から少なくとも2番目の領域(a2,a11)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量を、少なくとも中央の4領域(a5,a6,a7,a8)それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量よりも多くなるように走査速度を変化させて吐出量を調整して流下させた。より具体的には、カッコ内を相対吐出量とすると、a1(5),a2(6),a3(5),a4(3)〜a9(3),a10(5),a11(6),a12(5)とした。なお、紫外線硬化性樹脂の粘度は500mPa・sec程度である。
【0097】
紫外線硬化性樹脂を流下して60秒以内に、基材フィルム11として厚さ125μmのPETフィルムを紫外線硬化性樹脂14を載せ、その後に成形用スタンパー2上に載せ、その後、ニップロール5で基材フィルム11上から押圧しながらワンパスで移動させ、紫外線硬化性樹脂14を成形用スタンパー2の全面に引き延ばした。このとき、紫外線硬化性樹脂14が成形用スタンパー2からこぼれることはなかった。その後、図5に示すように、基材フィルム11上から紫外線照射装置7で波長365nmの紫外線6を照射し、紫外線硬化性樹脂14を硬化させた。硬化後の紫外線硬化性樹脂14の厚さは約13μmであった。その後、硬化した紫外線硬化性樹脂14と基材フィルム11との一体物10’を成形用スタンパー2から引き剥がして、反射防止フィルム10を得た。このときの引き剥がし強度Fの実測値は約1.5Nであった。これを25mm幅に換算すると、約0.09N/25mmとなった。なお、引き剥がし強度は、JIS K 6854−1を準拠して測定した。
【0098】
得られた反射防止フィルム10の反射防止層12の表面には、微細な突起15が、周期Pが110nm〜130nmで、高さhが280nm〜320nmの範囲で無数に設けられている。こうした凹凸構造13を持つ反射防止層12は、100Wハロゲンランプを当てたときに従来のような影が生じることがなかった。また、欠陥も全くなく、380nm〜780nm程度の可視光の反射を効果的に防止できた。
【0099】
[比較例1]
実施例1において、移動型ディスペンサノズルの代わりに固定型多連ディスペンサノズルを用いて、専用パレット1に成形用スタンパー2を載置した状態で搬送させ、成形用スタンパー2が固定型多連ディスペンサノズルの下部を通過する際に紫外線硬化性樹脂を流下させた。具体的には、非賦形領域R2の長さL1側の辺から35mmの距離S3を隔てた位置より、図9に示す長方形領域の所定長さHを12等分した12領域a1〜a12に、全ての領域に等量の紫外線硬化性樹脂を、幅3mm×長辺L2に並行に長さ100mm流下させた。
【0100】
その後、実施例1と同様の製造方法により反射防止フィルムを得た。得られた反射防止フィルムに100Wハロゲンランプを当ててその透過光を観察した結果、紫外線硬化樹脂を滴下した部分は黒っぽく影のような模様が見えた。このような反射防止フィルムを液晶パネル表面に貼り付けて、点灯させると同様の模様が見え、反射防止フィルムとしては不適当であることが確認できた。
【符号の説明】
【0101】
1 専用パレット
2 成形用スタンパー
3,3’,3” ガイド部材
4 樹脂流下ノズル
5 押圧部材(押圧ロール)
6 電離放射線(UV)
7 電離放射線照射装置(UVランプ)
8 載置台
9 引き剥がし台
10 反射防止フィルム
10’ 一体物
11 基材フィルム
12 反射防止層
13 凹凸構造(モスアイ構造)
14 流下した後の硬化性樹脂
15 突起
16 境界
17 切断線
21 基材
22 賦形層
23 賦形型
【0102】
R1 賦形領域
R2 非賦形領域
L1 成形用スタンパーの短辺長さ
L2 成形用スタンパーの長辺長さ
L3 非賦形領域の幅
H 樹脂を流下する所定部位(長方形領域)の長さ
W 樹脂を流下する所定部位(長方形領域)の幅
a1〜a12 長方形領域の所定長さHを12等分して12領域とした各領域
S1,S2,S3 成形用スタンパーの辺からの距離
P 突起の周期
h 突起の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光領域の波長より小さい周期からなる突起を有し且つ該突起の高さが150nm〜450nmの反射防止層を形成するための賦形型が形成された賦形領域と、該賦形型が形成されていない非賦形領域とを有する四辺形の成形用スタンパーであって、前記非賦形領域が、前記四辺形の一辺に沿って所定の幅で設けられ、前記賦形領域に引き延ばす硬化性樹脂を載せるために用いられることを特徴とする成形用スタンパー。
【請求項2】
前記賦形領域が陽極酸化法で作製された凹凸構造を有し、前記非賦形領域が平坦な金属面を有する、請求項1に記載の成形用スタンパー。
【請求項3】
前記賦形領域に離型処理が施されている、請求項2に記載の成形用スタンパー。
【請求項4】
微細な凹凸構造の反射防止層を有する反射防止フィルムを製造する方法であって、
反射防止層を形成するための賦形型が形成された賦形領域と該賦形型が形成されていない非賦形領域とを有する四辺形の成形用スタンパーであって、前記非賦形領域が、前記四辺形の一辺に沿って所定の幅で設けられ且つ前記賦形領域に引き延ばす電離放射線硬化性樹脂を載せるために用いられる成形用スタンパーを載置した専用パレットを準備する工程(A)と、
前記非賦形領域上に電離放射線硬化性樹脂を載せる工程(B)と、
前記成形用スタンパー上に基材フィルムを載せる工程(C)と、
前記電離放射線硬化性樹脂上の基材フィルムの上から、押圧部材を押圧しながら移動させ、前記電離放射線硬化性樹脂を前記成形用スタンパーの全面に引き延ばす工程(D)と、
前記基材フィルム側から電離放射線を照射して前記電離放射線硬化性樹脂を硬化する工程(E)と、
硬化後の前記電離放射線硬化性樹脂と前記基材フィルムとの一体物を前記成形用スタンパーから引き剥がす工程(F)と、をその順で有することを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記微細な凹凸構造が、可視光領域の波長より小さい周期からなる突起を有し且つ該突起の高さが150nm〜450nmの反射防止層を形成するための賦形型である、請求項4に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記電離放射線硬化性樹脂を、前記非賦形領域内であって前記四辺形の一辺に沿った所定長さH及び所定幅Wからなる長方形領域に載せる、請求項4又は5に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記長方形領域の所定長さHを12等分して12領域としたとき、該長方形領域の両端から少なくとも2番目の領域それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量を、少なくとも中央の4領域それぞれに載せる電離放射線硬化性樹脂量よりも多くする、請求項6に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法で製造されてなる反射防止フィルムであって、基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた電離放射線硬化性樹脂からなる反射防止層とを有し、前記反射防止層は、可視光領域の波長より小さい周期からなる突起を有し、該突起の高さが150nm〜450nmであり、可視光を当てたときに影が見えないことを特徴とする反射防止フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−128396(P2011−128396A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287223(P2009−287223)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】