説明

成膜装置およびガスバリア性積層体ならびに光学部材

【課題】材料の蒸発速度とプラズマ密度を自由に設定し、成膜速度に対するガスバリア性を自由に設定出来、酸素バリア性および水蒸気バリア性に優れたガスバリア性積層体を生産する成膜装置を提供する
【解決手段】フィルム基材をロール・ツー・ロールで搬送する搬送手段と、フィルム基材へ蒸着材料を蒸着させる蒸着手段とを具備する成膜装置であって、蒸着手段が、蒸着材料を蒸発させる手段と、蒸発した蒸着材料をプラズマにより活性化させる手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に薄膜積層体を製造する装置に関するものである。また、この装置を用いて作製された酸素、水蒸気バリア性積層体及びこれを用いたガスバリア性フィルタや、光学フィルタ、光学機能性フィルタ等の光学部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代のFPDとして期待される電子ペーパー、有機EL、また広範囲での普及が進んでいるLCDに関し、これらFPDのフレキシブル化を達成するため、もしくは軽量化、コストダウン、ガラス基板の割れ等製造時のスループット向上のため、ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えたいという要求が高まっている。また、有機ELでは、蛍光灯に替わる代替照明方法としても注目されており、この場合、軽量化、安全確保などの理由からプラスチックフィルムを用いることが求められている。一方、FPDのフレキシブル化とは別に、太陽電池のバックシートなどの産業資材も軽量化や、薄型化、破損防止などの観点から、フィルムが採用されるケースが多くなっている。
【0003】
ガラス基板は環境由来の酸素や水蒸気による内部素子の劣化を抑制するため必要とされるガスバリア性が備わっている。しかし、軟包装材料用のガスバリアフィルムはそのバリアレベルには達しておらず、プラスチックフィルムが適用され得る太陽電池バックシートなどの産業資材は食品包材用バリアフィルムの数倍以上、電子ペーパー、有機ELなどディスプレイ用封止フィルムでは10−2g/m/day以下の水蒸気バリア性が必要とも言われている。また、太陽電池も薄膜太陽電池は1g/m/day以下の水蒸気バリア性、薄膜の種類によっては更に高いバリア性を求められる場合もある。
【0004】
このような高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを実現するために、誘導加熱法、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法などの物理成膜法(PVD法)は、大面積化やロール・ツー・ロールへの展開が容易であることから、これらの方式を用いて、高いガスバリア性の発現が期待できるものとして検討されている。しかしながら、PVD法は、大きく分けて誘導加熱法、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法などの蒸着法とスパッタリング法に分けられるが、蒸着法は、成膜速度は速いが緻密でガスバリア性の高い膜を得ることが困難な手法であり、一方スパッタリング法は、成膜速度は遅いが緻密でガスバリア性の高い膜を得ることが可能である。このため、一般的に軟包装材料用のガスバリアフィルムは蒸着法を用いる場合が多く、スパッタリング法を用いた大面積成膜は精密な膜厚コントロールを求められる光学膜用途に用いられることが多く、m当たりの価格は蒸着法に比較して高くなる。
【0005】
この生産性とガスバリア性が両立しない問題について、生産性は蒸着法とスパッタリング法の中間を、またガスバリア性に関しても蒸着法とスパッタリング法の中間をとる手段として圧力勾配型のプラズマガンを材料蒸発方法として用いた蒸着法が考案されている(特許文献1)。この手法は、プラズマガンより発せられるプラズマを磁場を用いて収束するなどして、材料へ誘導し、材料を加熱し、蒸発させるとともに、蒸発中の原子、分子がプラズマガンより発せられるプラズマを通過することにより、活性化し、蒸発時より高い運動エネルギーを持って基材に入射することにより、通常の蒸着法より緻密な膜を得ることが可能な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−34831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この手法では材料の蒸発とプラズマによる活性化が同時に行えるため煩雑さは少なく、装置コスト的に有利である反面、材料の蒸発速度とプラズマ密度とが一義的に決定してしまい、材料の蒸発速度と活性化するためのプラズマ密度を自由に決定できないという問題点があった。このため、成膜速度に対するガスバリア性が自由に設定することが困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、材料の蒸発速度とプラズマ密度を自由に設定し、成膜速度に対するガスバリア性を自由に設定出来、酸素バリア性および水蒸気バリア性に優れた、透明、もしくは半透明なガスバリア性積層体を生産することを可能とする成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、フィルム基材をロール・ツー・ロールで搬送する搬送手段と、前記フィルム基材へ蒸着材料を蒸着させる蒸着手段とを具備する成膜装置であって、前記蒸着手段が、前記蒸着材料を蒸発させる手段と、蒸発した前記蒸着材料をプラズマにより活性化させる手段とを有することを特徴とする成膜装置である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記蒸着手段が、蒸発した前記蒸着材料を電界により加速して前記フィルム基材に蒸着させる手段を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置である。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記蒸着材料を蒸発させる手段が、電子ビーム加熱、誘導加熱、抵抗加熱のうち1または2以上の手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置である。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、蒸発した前記蒸着材料をプラズマにより活性化させる手段が、ホロカソード放電であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の成膜装置である。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記ホロカソード放電に用いられるホロカソードとアノードにおいて、前記アノードが前記ホロカソードの周囲に設置されることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置である。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、前記ホロカソード放電に用いられるホロカソードとアノードにおいて、前記アノードが前記蒸着材料を挟んで前記ホロカソードと向かい合う位置に設置されることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置である。
【0015】
また、請求項7に記載の発明は、前記ホロカソード放電に用いられるホロカソードとアノードにおいて、前記アノードが前記ホロカソードの周囲と、前記蒸着材料を挟んで前記ホロカソードと向かい合う位置とに、それぞれ設置されることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置である。
【0016】
また、請求項8に記載の発明は、前記蒸着材料を蒸発させる手段が少なくとも電子ビーム加熱であり、前記電子ビーム加熱に用いる電子ビームが直進電子ビームであることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の成膜装置である。
【0017】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置で製造されたガスバリア性積層体であって、水蒸気透過度が1g/m/day以上であることを特徴とするガスバリア性積層体である。
【0018】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置で製造されたガスバリア性積層体であって、酸素透過度が1cc/m/day以上であることを特徴とするガスバリア性積層体である。
【0019】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置で製造されたガスバリア性積層体を用いた光学部材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蒸着法において、材料の蒸発速度とプラズマ密度を独立して自由に設定し、成膜速度に対するガスバリア性を自由に設定出来、酸素バリア性および水蒸気バリア性に優れた、透明、もしくは半透明なガスバリア性積層体を生産することを可能とする成膜装置の提供と、ガスバリア性積層体およびそれを用いた光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の成膜装置の一実施形態を示した模式図である。
【図2】本発明のホロカソードガンの一実施形態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の成膜装置の一実施形態を示した模式図である。成膜装置30には、成膜室10および巻き取り室11があり、成膜装置内にフィルム基材をロール・ツー・ロールで搬送する搬送手段を具備している。フィルム基材をロール・ツー・ロールで搬送する手段は、巻き出しローラー12と巻き取りローラー13とメインローラー14とからなる。フィルム基材27は、巻き出しローラー12から巻き出され、メインローラー14を介し、巻き取りローラー13に巻き取られる。この際、メインローラー14にて、フィルム基材27へ蒸着材料16を蒸着させ蒸着膜を成膜する。
【0023】
フィルム基材27は、特に限定されるものではなく公知のものを使用することができる。例えばポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン−6、ナイロン−66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定されない。実際的には、用途や要求物性により適宜選定をすることが望ましく、限定をする例ではないが医療用品、薬品、食品等の包装には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンなどがコスト的に用いやすく、電子部材、光学部材等の極端に水分を嫌う内容物を保護する包装には、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド類、ポリエーテルスルホンなどのそれ自体も高いガスバリア性を有する基材を用いることが望ましい。また、基材フィルム厚みは限定するものではないが、用途に応じて、6μmから200μm程度が使用しやすい。
【0024】
また、本発明の成膜装置は、フィルム基材27へ蒸着材料16を蒸着させるために蒸着材料16を蒸発させる手段を具備している。材料充填型抵抗加熱式坩堝15に蒸着材料16を充填し加熱することで、蒸着材料16を蒸発させる。また、材料充填抵抗加熱式坩堝15には、材料充填型抵抗加熱式坩堝15を加熱するための抵抗加熱用直流電源20が接続されている。
【0025】
蒸着材料16は、特に限定されるものではなく公知のものを使用することができる。例えば、酸化マグネシウム(MgO)、インジウム−スズ酸化物(ITO)や酸化珪素化合物である一酸化珪素(SiO)や二酸化珪素(SiO)、またはこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。また、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)などの金属材料でも良い。特に、本発明の蒸着材料16は透明性と酸素と水蒸気の遮断性が特に優れている酸化珪素化合物、窒化珪素化合物、酸窒化珪素化合物、酸化アルミニウムや、アルミニウム、シリコンの反応性蒸着であることが好ましい。
【0026】
反応性蒸着を行いたい場合はガスパイプ23から反応性ガスを流すことも可能であり、金属材料を蒸着材料16として用いる場合に酸化、窒化を行うことが可能である。また、セラミック材料を蒸着材料16として用いる場合の透明度制御を図ることも可能である。
【0027】
材料充填型抵抗加熱式坩堝15は、蒸着材料16を充填するが、金属のワイヤーフィードタイプを抵抗加熱する方式であっても問題ない。この場合、蒸着材料16の種類はワイヤー化出来る材料が限られるが、必要に応じて用いることに差し支えはない。
【0028】
また、本発明の成膜装置は、フィルム基材27へ蒸着材料16を蒸着させるために蒸発した蒸着材料16をプラズマ29により活性化させる手段を具備している。蒸発した蒸着材料16は、蒸発粒子28としてメインローラー14に抱かれたフィルム基材27上に入射される。このとき、蒸発粒子28がフィルム基材27上へ入射される前にプラズマ29を通過することで、蒸発粒子28が活性化される。
【0029】
蒸発粒子28を活性化させるプラズマ29の発生源として、ホロカソード放電を用いたホロカソードガン17が設置されており、アノードとして内部電極18、または外部電極19が設置されている。また、ホロカソードガン17には、ホロカソード放電発生用のホロカソード放電用直流電源21が接続されている。
【0030】
ホロカソード放電とは、円筒状のホロカソード内にて、シース電圧により加速された電子が、ホロカソード内を移動し、ホロカソードのシース電圧により逆に減速するが、この減速した電子は、再度シース電圧により加速され、ホロカソード内を移動することにより、電離が繰り返され、発生する高密度プラズマを指す。ホロカソードよりガスを導入する方式は、成膜室10とホロカソード内との間に圧力勾配が発生し、高密度のプラズマを成膜室10側に積極的に引き出すことが可能となる。
【0031】
内部電極18は、ホロカソードに対するアノードであり、ホロカソードガン17の内部に設置され、ホロカソードガン17の内部でホロカソード放電を発生させる仕組となっている。
【0032】
図2は、本発明のホロカソードガン17の一実施形態を示した断面図である。ホロカソードガン17は、ホロカソード31とホロカソード31の周囲に位置するアノード32からなり、このホロカソード31の内部で高密度プラズマが発生する。なお、内部電極18はアノード32に相当する。
【0033】
内部電極18をアノードとして用いる場合、例えばArガスを用いてホロカソード17より発生するプラズマは両極性拡散するため蒸着空間全体へとプラズマが広がる。この場合、比較的高い密度のプラズマが成膜室10全体へと拡散し、イオン化を含む蒸発粒子28の活性化が促され、イオン化された蒸着粒子28と、Arイオンがフィルム基材27へプラズマシースの電界加速を得て入射する。
【0034】
本願発明の内部電極18の位置は、図1および2のようにホロカソードガン17の内部において、ホロカソードの周囲に位置するように設置するが、ホロカソード17より発生するプラズマが蒸着空間全体へ広がり、比較的高い密度のプラズマを均一に広げることができれば、図1および2のような実施形態に限定されない。例えば、ホロカソードガン17から内部電極18を独立させて、ホロカソードガン17の周辺に設置してもよい。
【0035】
また、内部電極18が、蒸着材料16により汚染されると、放電が不安定になるため、汚染され辛いようにカバーを設けるなどの構造があってもよい。
【0036】
一方、外部電極19は、内部電極18と同様、ホロカソードに対するアノードであり、ホロカソードガン17の外部に位置すればよいが、図1のように蒸着材料16を挟んでホロカソードガン17と向かい合う位置に設置されることが好ましい。なお、ホロカソードと外部電極19の位置関係は、プラズマ29の発生する領域と蒸発粒子28の存在する領域とが重複するような位置に設置すればよく、図1のような位置関係に限定されない。
【0037】
外部電極19は、蒸着材料16が絶縁性の材料であった場合、蒸着中に蒸着材料16によって汚染され、汚染が過度に進むと電子が流れなくなるため、アーキング、または放電持続不能といった問題が発生する。このため、蒸着材料16が絶縁性の材料である場合は、汚染しないように防着板を配置するなどの工夫が必要である。
【0038】
外部電極19をアノードとして用いる場合、図1のようにプラズマ29は直線的に発生し、蒸着空間で局所的に高密度のプラズマが発生する状態となる。蒸発直後の粒子がホロカソードガン17と外部電極18との間で発生している高密プラズマを通過することにより、激しく活性化が促され、蒸発粒子28が運動エネルギーを得るだけでなく、電離してイオン化し、Arイオンも含めてフィルム基材27へプラズマシースの電界加速を得て入射する。従って、外部電極19は、プラズマ29の発生する領域と蒸発粒子28の存在する領域とが重複するような位置に設置することが好ましい。
【0039】
ホロカソードガン17より発生したプラズマ29を内部電極18により成膜室10全体へと広げるか、あるいは外部電極19により成膜室10に局所的に高密度化させるかは、スイッチ24およびスイッチ26で切り替えることで可能となる。プラズマ29を成膜室10全体へと広げるか、あるいは成膜室10に局所的に高密度化させるかは、蒸着材料16の種類、形状や、フィルム27に成膜される膜の幅方向均一性の要求レベルなどによって決まり、それに応じて適宜選択することができる。
【0040】
本発明の実施形態では、1つのホロカソードに対して、内部電極18および外部電極19の2つのアノードを設置しているが、用途に応じて1つのホロカソードに対して、内部電極18または外部電極19の1つのアノードを設置してもよい。
【0041】
また、ホロカソードガン17は、フィルム基材27の幅方向の大きさによって成膜装置内に複数設置してもよく、アノードとして外部電極19を用いる場合、ホロカソードガン17の数に応じて複数設置してもよい。
【0042】
プラズマ29の放電条件は、1つのホロカソードにつき数A〜数百Aと電流値が高いほどプラズマ密度が高く好ましい。しかし、ホロカソードガン17に導入するガスの流量が多く、またはガスパイプ23より導入するガスの流量が多い場合、成膜室10を排気するポンプの排気能力にもよるが、成膜室10の気圧が高くなり、蒸発粒子28の平均自由工程が短くなりすぎる場合がある。こういった場合、活性化させたい蒸発粒子28は逆に運動エネルギーを失い、成膜される膜の膜密度や密着力が低下してしまう。このため、ホロカソードの放電条件は、ホロカソードに導入するガスの種類、ガスパイプ23から導入するガスの種類、蒸着材料16の種類を鑑み、決定する必要がある。
【0043】
また、本発明の成膜装置は、蒸発粒子28を電界により加速してフィルム基材27に入射する手段を具備している。メインローラー14に電界加速用電源22を接続し、蒸着材料16より蒸発した蒸発粒子28を電界により加速し、高い運動エネルギーを持ってフィルム基材27に入射させることができる。
【0044】
電界加速用電源22は、直流電源、直流パルス電源、交流電源のいずれであってもよいが、直流パルス電源、交流電源を用いる場合、成膜速度と合わせて適宜周波数を決定する必要がある。
【0045】
電界加速用電源22の印加条件は、メインローラー14に電圧を印加するため、巻き取り室11側で放電が起きない程度の印加電圧であること、また成膜される蒸着材料16が著しく逆スパッタされない程度であれば、特に制限はされない。
【0046】
本発明の成膜装置は、蒸発粒子28、またプラズマ29中のArイオンを電界により加速してフィルム基材27に入射する手段を、蒸発粒子28をプラズマ29により活性化させる手段と共に用いることで、プラズマ29によって活性化された蒸発粒子28を電界加速し、高い運動エネルギーを持ってフィルムに入射させることができるので、より緻密な膜を成膜可能となる。
【0047】
また、本発明の成膜装置は、材料充填型抵抗加熱式坩堝15による抵抗加熱式の代わりに電子ビーム銃25による電子ビーム加熱を用いることが可能である。この場合、材料充填用抵抗加熱式坩堝15は接地電極とする。
【0048】
図1では、材料充填用抵抗加熱式坩堝15、電子ビーム銃25を設置しているが、本発明の蒸着材料を蒸発させる手段は、誘導加熱法であってもよい。また、電子ビーム加熱、誘導加熱、抵抗加熱の何れかの手段を複数用いてもよい。
【0049】
電子ビーム加熱の場合、電子ビーム銃の種類としては、直進電子ビーム銃、偏向電子ビーム銃などが挙げられるが、本発明では、直進電子ビーム銃を用いることが特に好ましい。
【0050】
ここでの直進電子ビーム銃の定義は、電子の発生方法や収束方法に関わらず、銃より発生した電子ビームを、成膜空間に直交磁界を用意することで進行方向を制御する偏向電子ビーム銃との対比であり、直進電子ビーム銃を用いる利点は、蒸着材料16に電子ビームをあてるために、成膜空間に電子ビームの進行方向を曲げるための直交磁界を用いないことにあり、このため、ホロカソードガンから発せられるプラズマとの干渉が発生しない。偏向電子ビーム銃などは、電子を蒸発材料16に当てるために成膜空間に積極的に直交磁界を用いるため、成膜室内の空間に磁場が発生し、ホロカソードガンから噴出する電子の拡散、進行を邪魔する場合があり、このため偏向電子ビームの取り付け位置と、ホロカソードガンの取り付け位置を、干渉が起きないように配置する必要があり、限定的な配置であることや、取り付けの複雑さ、煩雑さを要求される。直進電子ビーム銃を用いる場合、図1に示すように蒸着材料16に直線的に電子ビームが当たるように予めある程度の角度や位置を設定し、成膜装置に据え付ける必要がある。更に、電子ビーム銃自体は、ピアース式平面陰極形電子銃、円形断面収束形電子銃などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0051】
なお、誘導加熱法や偏向電子ビーム銃を用いる場合、ホロカソードガン17から発生するプラズマ自体との干渉が発生する場合があるので、干渉の発生しないような配置でホロカソードガン17を設置する必要がある。このため、抵抗加熱法を用いるか、直進電子ビーム銃による電子ビーム加熱法がより蒸発法としては扱いやすい。また、ホロカソードガン17、外部電極19に収束磁場などの磁場を設ける場合、電子ビーム法は偏向であっても、直進であっても干渉が発生する可能性があるため、こういった場合は抵抗加熱法がより扱いやすくなる。
【0052】
また、本発明の成膜装置で成膜されたガスバリア性積層体は、水蒸気透過度が1g/m/day以上であることが好ましい。本発明の成膜装置は、材料の蒸発速度とプラズマ密度を自由に設定し、成膜速度に対するガスバリア性を自由に設定することができるので、水蒸気透過度を特定の範囲にすることで、水蒸気バリア性に優れたガスバリア性積層体を作製することができる。
【0053】
さらに、本発明の成膜装置で成膜されたガスバリア性積層体は、酸素透過度が1cc/m/day以上であることが好ましい。本発明の成膜装置は、材料の蒸発速度とプラズマ密度を自由に設定し、成膜速度に対するガスバリア性を自由に設定することができるので、水蒸気透過度と同様、酸素透過度を特定の範囲にすることで、酸素バリア性に優れたガスバリア性積層体を作製することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の具体的な実施例を示す。
【0055】
<実施例1>
図1に示す成膜装置を用いて、材料充填型抵抗加熱式坩堝15にアルミニウムを詰め、抵抗加熱法により100nm/secの成膜速度で蒸発させ、ガスパイプ23より酸素ガスを導入し、反応性蒸着により酸化アルミニウム薄膜を巻き出しローラー12から巻き取りローラー13に向かって12μm厚のPETフィルムを流し、物理膜厚20nmを成膜した。この際、ホロカソードガン17にアルゴンを200sccm流し、対向電極18との間にホロカソード放電用直流電源21との間に50V、60Aの放電を発生させた。
【0056】
<実施例2>
図1に示す成膜装置を用いて、材料充填型抵抗加熱式坩堝15にアルミニウムを詰め、抵抗加熱法により100nm/secの成膜速度で蒸発させ、ガスパイプ23より酸素ガスを導入し、反応性蒸着により酸化アルミニウム薄膜を巻き出しローラー12から巻き取りローラー13に向かって12μm厚のPETフィルムを流し、物理膜厚20nmを成膜した。この際、ホロカソードガン17にアルゴンを200sccm流し、対向電極18との間にホロカソード放電用直流電源21との間に70V、120Aの放電を発生させた。
【0057】
<実施例3>
図1に示す成膜装置を用いて、材料充填型抵抗加熱式坩堝15にアルミニウムを詰め、抵抗加熱法により100nm/secの成膜速度で蒸発させ、ガスパイプ23より酸素ガスを導入し、反応性蒸着により酸化アルミニウム薄膜を巻き出しローラー12から巻き取りローラー13に向かって12μm厚のPETフィルムを流し、物理膜厚20nmを成膜した。この際、ホロカソードガン17にアルゴンを200sccm流し、対向電極18との間にホロカソード放電用直流電源21との間に50V、60Aの放電を発生させ、電界加速電源には50kHzの交流電源を用い、600Wを印加した。
【0058】
<実施例4>
図1に示す成膜装置を用いて、材料充填型抵抗加熱式坩堝15にアルミニウムを詰め、抵抗加熱法により100nm/secの成膜速度で蒸発させ、ガスパイプ23より酸素ガスを導入し、反応性蒸着により酸化アルミニウム薄膜を巻き出しローラー12から巻き取りローラー13に向かって12μm厚のPETフィルムを流し、物理膜厚20nmを成膜した。この際、ホロカソードガン17にアルゴンを200sccm流し、対向電極18との間にホロカソード放電用直流電源21との間に70V、120Aの放電を発生させ、電界加速電源には50kHzの交流電源を用い、600Wを印加した。
【0059】
<比較例1>
図1に示す成膜装置を用いて、材料充填型抵抗加熱式坩堝15にアルミニウムを詰め、抵抗加熱法により100nm/secの成膜速度で蒸発させ、ガスパイプ23より酸素ガスを導入し、反応性蒸着により酸化アルミニウム薄膜を巻き出しローラー12から巻き取りローラー13に向かって12μm厚のPETフィルムを流し、物理膜厚20nmを成膜した。
【0060】
作成したサンプルについて、水蒸気透過度及び酸素透過度を以下の方法で測定した。
【0061】
(評価方法)
水蒸気透過度をMOCON法により測定した。用いた測定器はMOCON PERMATRAN3/33により、40℃、90%Rhにて測定し、酸素透過度はMOCON OX−TRAN2/20により、23℃、0%Rhにて測定した。
【0062】
表1に実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1で作成したサンプルの水蒸気透過度と酸素透過度を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果より、本発明の成膜装置を用いた場合、100nm/secという高速成膜にて、高い水蒸気バリア性と酸素バリア性を示す結果が得られ、電界加速によるガスバリアが向上する結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の成膜装置は、酸素及び水蒸気バリア性積層体を製造する装置であり、製造された酸素及び水蒸気バリア性積層体は、バリア部材の他に、光学フィルム、光学機能性フィルタ等の光学部材等にも利用される。
【符号の説明】
【0066】
10・・・成膜室
11・・・巻き取り室
12・・・巻き出しローラー
13・・・巻き取りローラー
14・・・メインローラー
15・・・材料充填型抵抗加熱式坩堝
16・・・蒸着材料
17・・・ホロカソードガン
18・・・内部電極
19・・・外部電極
20・・・抵抗加熱用直流電源
21・・・ホロカソード放電用直流電源
22・・・電界加速用電源
23・・・ガスパイプ
24・・・スイッチ
25・・・電子ビーム銃
26・・・スイッチ
27・・・フィルム基材
28・・・蒸発粒子
29・・・プラズマ
30・・・成膜装置
31・・・ホロカソード
32・・・アノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材をロール・ツー・ロールで搬送する搬送手段と、前記フィルム基材へ蒸着材料を蒸着させる蒸着手段とを具備する成膜装置であって、
前記蒸着手段が、前記蒸着材料を蒸発させる手段と、蒸発した前記蒸着材料をプラズマにより活性化させる手段とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記蒸着手段が、蒸発した前記蒸着材料を電界により加速して前記フィルム基材に蒸着させる手段を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記蒸着材料を蒸発させる手段が、電子ビーム加熱、誘導加熱、抵抗加熱のうち1または2以上の手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
蒸発した前記蒸着材料をプラズマにより活性化させる手段が、ホロカソード放電であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ホロカソード放電に用いられるホロカソードとアノードにおいて、前記アノードが前記ホロカソードの周囲に設置されることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記ホロカソード放電に用いられるホロカソードとアノードにおいて、前記アノードが前記蒸着材料を挟んで前記ホロカソードと向かい合う位置に設置されることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記ホロカソード放電に用いられるホロカソードとアノードにおいて、前記アノードが前記ホロカソードの周囲と、前記蒸着材料を挟んで前記ホロカソードと向かい合う位置とに、それぞれ設置されることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記蒸着材料を蒸発させる手段が少なくとも電子ビーム加熱であり、前記電子ビーム加熱に用いる電子ビームが直進電子ビームであることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置で製造されたガスバリア性積層体であって、水蒸気透過度が1g/m/day以上であることを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置で製造されたガスバリア性積層体であって、酸素透過度が1cc/m/day以上であることを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載の成膜装置で製造されたガスバリア性積層体を用いた光学部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−21214(P2011−21214A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165369(P2009−165369)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】