説明

成膜装置および成膜方法

【課題】ロール式の成膜装置において、成膜むらが生じることなく均一に成膜することができる成膜装置および成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜材料ガスを導入可能なチャンバ11と、チャンバ11内に配置され、シート状の基板13を外周面55上に配置して中心軸の回りを回転可能に形成された円筒状の基板配置電極21と、基板配置電極21の外周面55から所定距離を置いて対向配置された対向電極22と、を備えた成膜装置10において、対向電極22が接地されるとともに、基板配置電極21に対して100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマを用いて成膜材料ガスを分解し、基板上に薄膜を形成するプラズマCVD装置が知られている。このプラズマCVD装置においては、プラズマを発生させるために、一対の放電電極が備えられており、基板側を接地電極とし、成膜材料ガス供給側を対向電極として電圧を印加することが一般的であった。
【0003】
また、従来はガラス基板に薄膜を形成することが一般的であったが、近年、軽量化、量産性などを考慮して、樹脂フィルムなどを基板として用い、このフィルム状の基板に薄膜を形成する方法が知られている。このように、フィルム状の基板に薄膜を形成する製造装置として、特許文献1にはロール式の製造装置が記載されている。特許文献1に記載されたロール式の製造装置は、真空槽内をドラムロールの一部と高周波電極およびアースシールドとを含む反応室と、ドラムロールの他部とフィルム基板の搬送手段とを含む非反応室とに区分けし、反応室と非反応室との間であって前記ドラムロールと真空槽内壁との間に、反応ガスの流動を抑制するためのシール手段を設け、かつ、ガス供給手段とガス排気手段とを、反応室に連通して設け、さらに、非反応室には、加圧することにより反応ガスの非反応室への流入を防止するための補助ガス供給手段を設けたものである。
【特許文献1】特開2002−212744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1の製造装置など従来のプラズマCVD法を用いた成膜装置では、通常13.56MHzを発振周波数とする高周波電源を使用することが一般的である。また、プラズマCVD装置で量産に対応できる成膜速度を得るには、成膜空間の圧力を100Pa〜300Paにすることが多く、この圧力条件においては電圧が印加される対向電極と接地電極との間の電極間距離は、15〜25mm程度にすることが一般的である。しかしながら、ロール式の成膜装置において、対向電極と接地電極との間を15〜25mmという短い距離で一定に保持することが困難であり、その結果、成膜むらが生じるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、ロール式の成膜装置において、成膜むらが生じることなく均一に成膜することができる成膜装置および成膜方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した発明は、成膜材料ガスを導入可能なチャンバと、該チャンバ内に配置され、シート状の基板を外周面上に配置して中心軸の回りを回転可能に形成された円筒状の基板配置電極と、該基板配置電極の外周面から所定距離を置いて対向配置された対向電極と、を備えた成膜装置において、前記対向電極が接地されるとともに、前記基板配置電極に対して100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加可能に構成されていることを特徴としている。
【0007】
このように、円筒状の基板配置電極へ100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加し、対向電極を接地電極とすることで、確実に基板配置電極近傍にプラズマ放電が張り付く現象が見られるため、基板近傍のみに成膜材料ガスの分解源であるプラズマを生成し、効率的に基板表面に成膜させることができる効果がある。
【0008】
また、基板配置電極近傍のみにプラズマが生成されることにより、成膜材料が積極的に基板表面へ成膜されることとなる。つまり、従来のようにプラズマが基板配置電極と対向電極間の略全域に生成される場合と比較して、対向電極やチャンバ内壁への成膜材料の付着量を削減することができる。したがって、メンテナンス頻度を低減することができるため、基板の生産効率を向上することができる効果がある。
【0009】
また、基板配置電極への印加電圧の周波数が100kHz以上2MHz以下と従来よりも低くなっているため、定在波による電極面内の電圧分布によるプラズマ不均一性の問題がなくなるとともに、プラズマを基板配置電極近傍のみに生成することができ、基板配置電極と対向電極との距離を長くすることができる。したがって、基板配置電極および対向電極の経年劣化による物理的な歪みや撓みに対する許容値も大きくなり、基板配置電極と対向電極との間の距離が多少ずれても、成膜に対する影響が小さくなる。結果として、基板に成膜むらが生じることなく均一に成膜することができる効果がある。
【0010】
さらに、シート状の基板を用い、円筒状の基板配置電極の表面に沿うように配置したため、シート状の基板を移動させながら同時に成膜を施すことができる効果がある。なお、基板の移動と基板への成膜を交互に繰り返す方法を選択することもできる。
【0011】
そして、基板配置電極を円筒状で回転可能に構成したため、シート状の基板に対して適正な張力を与えることにより基板面を基板配置電極の外周面に確実に当接させることができる。したがって、シート状の基板に成膜むらが生じることなく均一に成膜を施すことができる。
【0012】
請求項2に記載した発明は、前記チャンバの外部から前記基板配置電極の外周面上へと前記基板を案内するとともに、前記基板配置電極の外周面上から前記チャンバの外部へと前記基板を案内するガイド機構を備えていることを特徴としている。
このように構成することで、チャンバ内にシート状の基板の供給部と成膜後の巻き取り部を設ける必要がなくなるため、チャンバを小型化することができる効果がある。また、チャンバ外にシート状の基板の供給部と成膜後の巻き取り部を設けることが可能になり、長尺の基板でも成膜することができる効果がある。
【0013】
請求項3に記載した発明は、前記基板配置電極を所定速度で回転駆動する回転駆動手段を備えていることを特徴としている。
このように構成することで、シート状の基板を基板配置電極の外周面上に沿って確実に移動させることができるため、基板全体へ均一に成膜をすることができる効果がある。
【0014】
請求項4に記載した発明は、前記基板配置電極の内部に、前記基板を加熱するヒータを備えていることを特徴としている。
このように構成することで、基板配置電極の外周面上に配置された基板を均一に加熱することができる。
【0015】
請求項5に記載した発明は、前記対向電極が、前記成膜材料ガスを前記基板に向かって噴出可能なシャワープレートで構成されていることを特徴としている。
このように構成することで、成膜材料ガスを基板表面に向かって均一に噴出させることができるため、基板に均一に成膜をすることができる効果がある。また、基板表面以外の領域に成膜材料が付着することを抑制することができるため、メンテナンス頻度を低減することができる効果がある。
【0016】
請求項6に記載した発明は、前記チャンバが、前記基板配置電極の少なくとも一部と前記対向電極とを含み前記基板に成膜を施す反応室と、前記基板が流通する非反応室と、を備え、該非反応室の圧力が、前記反応室の圧力より高い圧力に保持されていることを特徴としている。
このように構成することで、非反応室に成膜材料ガスが入り込むことを防止できるため、非反応室に位置している基板に成膜がなされることを防止することができる効果がある。したがって、反応室に位置している基板のみを成膜することができるため、シート状の基板の全面に亘って均一に成膜することができる効果がある。
【0017】
請求項7に記載した発明は、成膜材料ガスを導入可能なチャンバと、該チャンバ内に配置され、シート状の基板を外周面上に配置して中心軸の回りを回転可能に形成された円筒状の基板配置電極と、該基板配置電極の外周面から所定距離を置いて対向配置された対向電極と、を備えた成膜装置を利用して、前記対向電極を接地するとともに、前記基板配置電極に対して100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加し、前記基板配置電極を回転させつつ基板を所定速度で移動させながら、該基板に成膜することを特徴としている。
【0018】
このように構成することで、円筒状の基板配置電極と基板との当接部に、お互いの摩擦などに起因する傷が生じることなく基板を移動させることができる。したがって、基板を常に移動させながら、同時に成膜を施すことができる効果がある。また、基板に適正な張力をかけることにより円筒状の基板配置電極の面上に確実に当接させることができるため、基板に成膜むらが生じることなく均一に成膜することができる効果がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、円筒状の基板配置電極へ100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加し、対向電極を接地電極とすることで、基板配置電極近傍にプラズマ放電が張り付く現象が見られる。したがって、基板近傍のみに成膜材料ガスの分解源であるプラズマを生成し、効率的に基板表面に成膜させることができる。
【0020】
また、基板配置電極への印加電圧の周波数が100kHz以上2MHz以下と従来よりも低くなっているため、定在波による電極面内の電圧分布によるプラズマ不均一性の問題がなくなるとともに、プラズマを基板配置電極近傍のみに生成することができ、基板配置電極と対向電極との距離を長くすることができる。したがって、基板配置電極および対向電極の経年劣化による物理的な歪みや撓みに対する許容値も大きくなり、基板配置電極と対向電極との間の距離が多少ずれても、成膜に対する影響が小さくなる。結果として、基板に成膜むらが生じることなく均一に成膜することができる効果がある。
【0021】
さらに、基板配置電極を円筒状で回転可能に構成したため、シート状の基板に対して適正な張力を与えることにより基板面を基板配置電極の外周面上に確実に当接させることができる。したがって、シート状の基板に成膜むらが生じることなく均一に成膜を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0023】
(成膜装置)
図1は、本実施形態における成膜装置の正面断面図であり、図2は、成膜装置の側面断面図である。
図1、図2に示すように、プラズマCVD法を実施する成膜装置10は、例えばアルミニウムなどの導電材からなる真空チャンバ11を有している。真空チャンバ11は、シート状の基板13に成膜を施すための反応室15と、基板13のガイド機構16などが設けられた非反応室17とで構成されている。
【0024】
反応室15には、基板13を載置し、かつ、移動させるための回転ドラム21の周方向の略半分が配置されている。回転ドラム21は、略円筒形状に形成されている。つまり、回転ドラム21の内部には中空部51が形成されている。なお、回転ドラム21は例えばアルミニウムなどの導電材で形成されている。
また、回転ドラム21は、真空チャンバ11に対して回転可能に保持されている。つまり、モータなどの回転駆動装置43が、ベルトなどの動力伝達手段44を介して回転ドラム21に接続され、回転ドラム21を所定速度で回転しうるように構成されている。
【0025】
回転ドラム21には、真空チャンバ11の外部に設けられたRF電源(低周波電源)41が、図示しない金属ブラシなどにより電気的に接続されている。このように構成することで、回転ドラム21が回転しても、常にRF電源41からの電圧を回転ドラム21に印加することができる。つまり、基板配置電極が回転ドラム21により構成されることとなる。
【0026】
なお、回転ドラム21の回転とともに、外周面上55に配置された基板13が所定速度で確実に移動することができるように、回転ドラム21と基板13との相対移動防止手段を設けてもよい。具体的には、回転ドラム21の外周面55上にスプロケットを形成し、そのスプロケットに係合する係合孔を基板13に形成することで、基板13が回転ドラム21とともに移動することができるように構成してもよい。
【0027】
回転ドラム21の中空部51には、略円柱形状のヒータ52が設けられている。ヒータ52の中心軸は、回転ドラム21の中心軸と同軸上に配置されている。なお、ヒータ52は真空チャンバ11に固定され、ヒータ52の外周面53と回転ドラム21の内周面54との間には、隙間が形成されている。つまり、ヒータ52からの輻射熱により回転ドラム21が加熱され、回転ドラム21から伝熱されることで基板13を加熱することができるように構成されている。
【0028】
ヒータ52は、例えばアルミニウム合金などの導電材で形成されている。また、ヒータ52は真空チャンバ11と同様に接地電位に保持されている。なお、ヒータ52は、その内部にヒータケーブル57が内包されており、ヒータケーブル57は真空チャンバ11の外部にて図示しない電源と接続され、温度調節がなされるように構成されている。
【0029】
回転ドラム21の外周面55から所定距離を置いて対向電極が配置されている。ここで、対向電極は、シャワープレート22として構成されている。シャワープレート22は、例えばアルミニウムなどの導電材で構成されている。反応室15における、真空チャンバ11の壁部23の内壁は、シャワープレート22から所定距離をあけるように形成されている。つまり、真空チャンバ11の壁部23とシャワープレート22との間には、空間部25が形成されている。また、真空チャンバ11の壁部23とシャワープレート22との間には、導電材からなる接続部材24が設けられている。つまり、真空チャンバ11の壁部23とシャワープレート22とは接続部材24を介して電気的に接続されている。
【0030】
真空チャンバ11の空間部25にはガス導入管31が接続されており、真空チャンバ11の外部に設けられた成膜材料ガス供給部32から空間部25に成膜ガス(例えば、SiH)を供給するように構成されている。
【0031】
シャワープレート22には多数のガス噴出口26が設けられており、空間部25内に導入された成膜材料ガスが、ガス噴出口26から真空チャンバ11の反応室15内に噴出されるように構成されている。また、ガス噴出口26および空間部25の形状により、基板13の表面に成膜ガスを均一に噴出することができるように構成されている。
【0032】
また、真空チャンバ11の反応室15には、排気管33が接続されており、その先端には、真空ポンプ34が設けられおり、真空チャンバ11の反応室15内を減圧状態にすることができるように構成されている。
【0033】
さらに、真空チャンバ11の反応室15にはクリーニングガス導入管37が接続されている。ガス導入管37にはフッ素ガス供給部38とラジカル源39とが設けられており、フッ素ガス供給部38から供給されたフッ素ガスをラジカル源39で分解し、これによるフッ素ラジカルを、真空チャンバ11の反応室15内の成膜空間に供給するように構成されている。
【0034】
そして、基板13は、反応室15内において回転ドラム21の外周面55に密着するように配置される。基板13を回転ドラム21の外周面55上に配置すると、基板13とシャワープレート22とは互いに近接して平行に位置するように構成されている。
【0035】
次に、非反応室17には、シート状の基板13を移送するためのローラで構成されたガイド機構16が設けられている。ガイド機構16は、図示しないロール室から移送されてきた基板13を反応室15へと導くための第一ガイドローラ16aと、反応室15で成膜された基板をロール室へと送り出すための第二ガイドローラ16bとで構成されている。なお、ガイド機構16の構成はガイドローラを2つ用いた場合に限られず、基板13を移送することができる構成であればよい。
【0036】
また、非反応室17には、ガス導入管61が接続されている。ガス導入管61にはアルゴンガスなどで構成されたガス供給部62が設けられており、ガス供給部62から供給されたガスを非反応室17内に供給することで、成膜工程中、非反応室17の圧力を反応室15の圧力より高い圧力に保持することができるように構成されている。つまり、非反応室17に成膜材料ガスが入り込むことを防止できるため、非反応室17に位置している基板13に成膜がなされることを防止することができる。
【0037】
そして、非反応室17における、反応室15との境界部には、セラミックなどの絶縁材からなる絶縁部65が設けられている。絶縁部65により、反応室15と非反応室17との間は、基板13が通過する部分以外は遮断されるように構成されている。つまり、交流電圧が印加される回転ドラム21の非反応室17側を絶縁部65で覆うことにより、非反応室17における異常放電の発生を防止することができる。
【0038】
(作用)
次に、成膜装置10を用いてシート状の基板13に成膜を行う作用について説明する。
まず、図示しないロール室に準備されているシート状の基板13のロールから基板13を引き出す。基板13を成膜装置10内のガイド機構16の第一ガイドローラ16a、回転ドラム21およびガイド機構16の第二ガイドローラ16bを介して成膜装置10外へ引き出し、ロール室の巻き取り用のロールへ巻き付けて固定する。このとき、基板13が回転ドラム21の外周面55に密着するように張力を調整する。
【0039】
そして、ロール室の巻き取り用のロールに図示しない回転駆動装置が設けられ、回転ドラム21の回転駆動装置43と同じ回転速度で回転することにより、基板13を所定速度で搬送する。
【0040】
真空チャンバ11内に基板13をセットした後、真空ポンプ34で真空チャンバ11内を排気して、真空チャンバ11内を減圧状態に保持する。その後、成膜材料ガス供給部32より成膜材料ガスをガス導入管31に導入し、成膜材料ガスを空間部25に供給する。空間部25に供給された成膜材料ガスは、シャワープレート22のガス噴出口26から真空チャンバ11の反応室15内の基板13に噴出される。
【0041】
ここで、真空チャンバ11を接地電位に接続した状態、つまり、真空チャンバ11と電気的に接続されているシャワープレート22も接地電位に保持した状態で、RF電源41を起動して回転ドラム21に低周波交流電圧を印加する。
【0042】
このように構成することで、回転ドラム21が基板配置電極として機能するとともに、シャワープレート22が対向電極(接地電極)として機能する。回転ドラム21に印加する電圧は、100kHz以上2MHz以下としている。印加電圧の周波数が100kHzより小さいと、放電電極間においてグロー放電が生成しにくくなるため好ましくない。一方、印加電圧の周波数が2MHzより大きいと、回転ドラム(基板配置電極)21近傍にプラズマ放電が張り付く現象が起こりにくくなるため好ましくない。
【0043】
図3は、本発明の原理を示す説明図であり、図3(a)は、印加電圧に13.56MHzの高周波電圧を印加した場合を示すもの(従来法)、図3(b)は、印加電圧に100kHz以上2MHz以下の低周波電圧を印加した場合を示すもの(本発明)である。
【0044】
図3(a)に示すように、印加電極であるシャワープレート22への印加電圧が高周波の場合は、基板配置電極である回転ドラム21と対向電極であるシャワープレート22間の略全領域でグロー放電が生成される。
【0045】
つまり、このような高周波交流電圧をシャワープレート22に印加することにより、シャワープレート22のガス噴出口26から噴出された成膜材料ガスは、シャワープレート22をカソードとし、回転ドラム21をアノードとする容量結合方式(CCP方式)のグロー放電現象が発生し、これにより真空チャンバ11の反応室15内の回転ドラム21およびシャワープレート22間の略全領域において成膜材料ガスが活性化する。このため、グロー放電で分解されたラジカル種40aは基板13の表面とシャワープレート22の表面にそれぞれ略同量である50%程度の堆積がなされる。
【0046】
一方、図3(b)に示すように、印加電極である回転ドラム21への印加電圧を低周波にした場合は、回転ドラム21近傍にグロー放電によるプラズマが偏在し、これにより、回転ドラム21近傍にラジカル種40bが張り付く現象が見られる。
【0047】
つまり、このような低周波交流電圧を回転ドラム21に印加することにより、シャワープレート22のガス噴出口26から噴出された成膜材料ガスは、回転ドラム(基板配置電極)21をカソードとし、シャワープレート(対向電極)22をアノードとする容量結合方式(CCP方式)のグロー放電現象が発生し、これにより真空チャンバ11の反応室15内の回転ドラム21およびシャワープレート22間の空間において成膜材料ガスが活性化する。
【0048】
そして、基板13は真空チャンバ11内のヒータ52によって予め所定温度(200〜450℃)に加熱されており、活性化した成膜材料ガスが基板13表面に到達すると、加熱によってこの成膜材料ガスが反応し、基板13表面に反応生成物が堆積する。また、放電安定性および成膜速度を考慮すると、成膜材料ガスを導入した状態で、真空チャンバ11内の圧力を、10Pa〜500Paに設定することが好ましい。
【0049】
このように、印加電極である回転ドラム(基板配置電極)21への印加電圧を低周波交流電圧にすると、回転ドラム21近傍にグロー放電によるプラズマが回転ドラム21側に偏在するため、効率的に基板13を成膜することができる。
【0050】
ここで、本実施形態では、回転ドラム21およびローラからなるガイド機構16にてシート状の基板13を移送させるため、基板13を移送させながら成膜をすることができる。また、基板13と当接する回転ドラム21の外形が円形であるため、基板13と回転ドラム21との当接箇所には隙間が形成されることなく、確実に基板13が回転ドラム21の外周面55に当接される。一方、例えば、平板からなる基板配置電極上に基板を移送させながら成膜すると、基板配置電極と基板との間に隙間が形成されるとともに、基板配置電極の周縁部において基板と基板配置電極とが擦れ合い、基板に傷などが形成される虞がある。したがって、基板13を移送させながら成膜を同時に行う場合には、本実施形態のように回転ドラム21を用いるとよい。
【0051】
なお、反応室15に基板13の成膜していない面を位置させて基板13の搬送を停止した後、基板13に成膜を施し、成膜完了後に成膜された面を非反応室17側へと搬送させ、基板13の成膜していない面を反応室15に位置させて成膜を行う方法を採用することもできる。
【0052】
また、基板13を搬送させるための搬送駆動力は、上述の実施形態の構成に限らず、ガイド機構16に動力源を設ける場合や回転ドラム21のみに動力源を設ける場合、図示しないロール室のみに動力源を設ける場合やそれらを組み合わせた場合が考えられるが、いずれの場合でも、基板13を確実に搬送できる構成であればよい。
【0053】
さらに、反応室15で基板13に成膜を行う際には、非反応室17内に成膜材料ガスが流入しないように、非反応室17を反応室15に対して正圧状態に保持する。非反応室17を正圧状態に保持するには、非反応室17に接続されているガス供給部62よりアルゴンなどのガスをガス導入管61を介して非反応室17内に供給する。このように構成することで、非反応室17内に位置している基板13には成膜されることがなくなり、基板13には反応室15内においてのみ成膜が施される。
【0054】
そして、基板13への成膜が何度か繰り返されると、真空チャンバ11の内壁面などに成膜材料が付着するため、真空チャンバ11内を定期的にクリーニングすることとなる。真空チャンバ11内のクリーニングは、クリーニングガス導入管37に設けられたフッ素ガス供給部38からフッ素ガスをラジカル源39に供給する。ラジカル源39でフッ素ガスを分解し、これによるフッ素ラジカルを、真空チャンバ11内の成膜空間に供給し、化学反応させることにより付着物を除去する。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
上記成膜装置10により、シート状の基板へアモルファスシリコン膜を形成する場合について説明する。
基板配置電極へのRF印加電圧は、4800Wとした。また、成膜ガスとしては、SiH(モノシラン)を、流量30slmの条件で使用した。また、放電電極間の距離は50mmとした。
さらに、成膜温度を200〜300℃、印加電圧の周波数を100kHz〜2MHzとした。
【0056】
本実施例において、原料ガスがSiHのみを用いて放電した場合、印加電圧の周波数が2MHzを越えると、本発明の特徴である印加電極である基板配置電極側へのプラズマ貼り付き現象が見られなくなった。このため、周波数は2MHz以下にする必要があると思われる。
一方、印加電圧の周波数を100kHzより低くすると、電源パワーと放電負荷の整合が困難になり、放電現象が見られなくなった。
周波数100kHz〜2MHzの範囲で放電を行うと、アモルファスシリコン性能の目安である光照射時伝導度と非光照射時伝導度との比率は、略一定値を示した。この値は、印加電圧の周波数が高周波である13.56MHzの場合と、略同等の値であり、本実施例により本発明の効果を確認することができた。
【0057】
なお、成膜温度が200℃より低い場合は、アモルファスシリコンが不均一な膜になってしまい、評価することができなかった。
一方、成膜温度が200℃以上の場合は、温度を高くするほど性能の向上が確認できたが、基板加熱機能の性能制限上、それ以上の温度での性能評価ができなかった。
【0058】
(実施例2)
次に、PIN型太陽電池を以下の手順で作成した。
基板表面温度を200℃に制御した。
また、この基板上には、別の成膜装置を使用して透明導電膜としてITO膜を成膜した。なお、ITO膜のほかにZnO膜などその他の透明な酸化系導電膜を成膜してもよい。
【0059】
本発明による方法により上述の基板上にモノシランおよびジボラン(B)を用いてp層を成膜し、次にモノシランを用いてi層を成膜し、さらに、モノシランおよびホスフィン(PH)を用いてn層を成膜積層した。
この場合、膜厚は、p層20nm、i層300nm、n層50nmとした。
この成膜後、電極形成のため別の成膜装置を用いてアルミニウムからなるパターン電極を形成した。
このようにして製作したPIN型太陽電池デバイスに光照射したところ、電極間に電圧が発生し、太陽電池として機能することを確認した。
【0060】
本実施形態によれば、成膜材料ガスを導入可能な真空チャンバ11と、真空チャンバ11内に配置され、シート状の基板13を外周面55上に配置して中心軸の回りを回転可能に形成された円筒状の回転ドラム(基板配置電極)21と、回転ドラム21の外周面55から所定距離を置いて対向配置されたシャワープレート(対向電極)22と、を備えた成膜装置10において、シャワープレート22が接地されるとともに、回転ドラム21に対して100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加可能に構成した。
【0061】
このように、円筒状の回転ドラム(基板配置電極)21へ100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加し、シャワープレート(対向電極)22を接地電極とすることで、確実に回転ドラム21近傍にプラズマ放電が張り付く現象が見られるため、基板13近傍のみに成膜材料ガスの分解源であるプラズマを生成し、効率的に基板表面に成膜させることができる。
【0062】
また、回転ドラム21近傍のみにプラズマが生成されることにより、成膜材料が積極的に基板13表面へ成膜されることとなる。つまり、従来のようにプラズマが基板配置電極と対向電極間の略全域に生成される場合と比較して、対向電極やチャンバ内壁への成膜材料の付着量を削減することができる。したがって、メンテナンス頻度を低減することができるため、基板13の生産効率を向上することができる。
【0063】
また、回転ドラム21への印加電圧の周波数が100kHz以上2MHz以下と従来よりも低くなっているため、定在波による電極面内の電圧分布によるプラズマ不均一性の問題がなくなるとともに、プラズマを回転ドラム21近傍のみに生成することができ、回転ドラム21とシャワープレート22との距離を長くすることができる。したがって、回転ドラム21およびシャワープレート22の経年劣化による物理的な歪みや撓みに対する許容値も大きくなり、回転ドラム21とシャワープレート22との間の距離が多少ずれても、成膜に対する影響が小さくなる。結果として、基板13に成膜むらが生じることなく均一に成膜することができる。
【0064】
さらに、シート状の基板13を用い、円筒状の回転ドラム21の外周面55に沿うように配置したため、シート状の基板13を移動させながら同時に成膜を施すことができる。ここで、本実施形態のように基板配置電極を回転ドラム21で構成すると、シート状の基板13を搬送させながら、同時に成膜を行う際に、基板13に基板配置電極と擦れ合うことに起因する傷の発生を防止することができるとともに、基板13と基板配置電極との間に隙間が形成されることがないため、基板13に均一に成膜を施すことができる。なお、基板13と基板配置電極との相対移動を防止するための措置を施すとなお良い。また、基板13の移動と基板13への成膜を交互に繰り返す方法を選択することもできる。
【0065】
そして、基板配置電極を円筒状で回転可能な回転ドラム21で構成したため、シート状の基板13に対して適正な張力を与えることにより基板13を回転ドラム21の外周面55に確実に当接させることができる。したがって、シート状の基板13に成膜むらが生じることなく均一に成膜を施すことができる。
【0066】
また、真空チャンバ11の外部から回転ドラム21の外周面55上へと基板13を案内するとともに、回転ドラム21の外周面55上から真空チャンバ11の外部へと基板13を案内するガイド機構16を備えた。
このように構成したため、真空チャンバ11内にシート状の基板13の供給部と成膜後の巻き取り部を設ける必要がなくなり、真空チャンバ11を小型化することができる。また、真空チャンバ11外にシート状の基板13の供給部と成膜後の巻き取り部を設けることが可能になり、長尺の基板13でも成膜することができる。
【0067】
また、回転ドラム21を所定速度で回転駆動する回転駆動装置43を備えた。
このように構成したため、シート状の基板13を回転ドラム21の外周面55上に沿って確実に移動させることができ、基板13全体へ均一に成膜をすることができる。
【0068】
また、回転ドラム21の内部に、基板13を加熱するヒータ52を備えた。
このように構成したため、回転ドラム21の外周面55上に配置された基板13を均一に加熱することができる。
【0069】
また、対向電極を、成膜材料ガスを基板13に向かって噴出可能なシャワープレート22で構成した。
このように構成したため、成膜材料ガスを基板13表面に向かって均一に噴出させることができ、基板13に均一に成膜をすることができる。また、基板13表面以外の領域に成膜材料が付着することを抑制することができるため、メンテナンス頻度を低減することができる。
【0070】
さらに、真空チャンバ11に、回転ドラム21の周方向の略半分とシャワープレート22とを含み基板13に成膜を施す反応室15と、基板13を案内するガイド機構16が設けられた非反応室17と、を備え、非反応室17の圧力が、反応室15の圧力より高い圧力に保持されるようにした。
このように構成したため、非反応室17に成膜材料ガスが入り込むことを防止でき、非反応室17に位置している基板13に成膜がなされることを防止することができる。したがって、反応室15に位置している基板13のみを成膜することができるため、シート状の基板13の全面に亘って均一に成膜することができる。
【0071】
尚、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0072】
例えば、本実施形態において、ヒータと真空チャンバとを電気的に接続して接地電極として機能するようにした場合の説明をしたが、ヒータと真空チャンバとを別個にそれぞれ接地して接地電極として機能するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態における成膜装置の概略構成図(正面断面図)である。
【図2】本発明の実施形態における成膜装置の概略構成図(側面断面図)である。
【図3】本発明と従来の成膜原理を示す説明図であり、(a)は従来例、(b)は本発明の説明図である。
【符号の説明】
【0074】
10…成膜装置 11…真空チャンバ(チャンバ) 13…基板 15…反応室 16…搬送機構 17…非反応室 21…回転ドラム(基板配置電極) 22…シャワープレート(対向電極) 52…ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料ガスを導入可能なチャンバと、
該チャンバ内に配置され、シート状の基板を外周面上に配置して中心軸の回りを回転可能に形成された円筒状の基板配置電極と、該基板配置電極の外周面から所定距離を置いて対向配置された対向電極と、を備えた成膜装置において、
前記対向電極が接地されるとともに、前記基板配置電極に対して100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加可能に構成されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記チャンバの外部から前記基板配置電極の外周面上へと前記基板を案内するとともに、前記基板配置電極の外周面上から前記チャンバの外部へと前記基板を案内するガイド機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板配置電極を所定速度で回転駆動する回転駆動手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記基板配置電極の内部に、前記基板を加熱するヒータを備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記対向電極が、前記成膜材料ガスを前記基板に向かって噴出可能なシャワープレートで構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記チャンバが、前記基板配置電極の少なくとも一部と前記対向電極とを含み前記基板に成膜を施す反応室と、前記基板が流通する非反応室と、を備え、
該非反応室の圧力が、前記反応室の圧力より高い圧力に保持されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
成膜材料ガスを導入可能なチャンバと、
該チャンバ内に配置され、シート状の基板を外周面上に配置して中心軸の回りを回転可能に形成された円筒状の基板配置電極と、該基板配置電極の外周面から所定距離を置いて対向配置された対向電極と、を備えた成膜装置を利用して、
前記対向電極を接地するとともに、前記基板配置電極に対して100kHz以上2MHz以下の低周波交流電圧を印加し、
前記基板配置電極を回転させつつ基板を所定速度で移動させながら、該基板に成膜することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274312(P2008−274312A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115496(P2007−115496)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】