説明

抗ウイルス性および抗菌性の清浄用組成物

表面および実質的に微生物汚染に適用するのに適した、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、抗ウイルス性および/または抗菌性作用を有する清浄用液体組成物に関する。より具体的には、それだけには限らないが、抗ウイルス活性と抗細菌活性の双方を有する表面清浄用組成物に関する。
【0002】
(背景)
抗菌性の性質を提供すると称する手洗い用洗剤や家庭用清浄スプレーなどの家庭用品の数はますます増えている。これらの製品は、しばしば、作業台などのすべての既知の細菌を除去すると主張する。このような主張は、通常、好意的に受けとると誤解を招く。これらの現在入手可能な製品の多くは、咳、風邪、または他のこのような感染症もしくは疾患の発症の軽減に関しては、手の入念な洗浄または作業台の清浄と大差ないことが、広く報告されている調査により示されている。実際、多くのこのような感染症または疾患は、現在入手可能な抗菌性製品がそれらが実現すると主張する内容にもかかわらず効果を発揮することができないウイルスによって引き起こされている。
【0003】
病院などの患者およびスタッフに伝播される細菌感染症およびウイルス感染症に関する関心も高まりつつある。感染症の1つの媒介物は、既存の表面清浄剤に耐性がある細菌および/またはウイルスのすみかとなる可能性がある、消毒が不完全な表面であると考えられている。近年のSARS(重症急性呼吸器症候群)発生の広がりは、従来の清浄剤/消毒剤に対するSARSウイルスの耐性に関連していた可能性があるという強い疑いがある。したがって、感染患者から広まったウイルスは、依然として生存能力があり、他の患者および医療スタッフに取り込まれ、また、彼らに感染する準備のできた状態である。MRSA細菌など他の病原菌も、既存の表面清浄/消毒剤および日常生活に耐えて生存し続けると推測されている。
【0004】
2つの目的を果たす表面清浄剤および殺菌剤として四級アンモニウム塩などの陽イオン性界面活性剤を使用することが知られている。しかし、これらの物質は一般に、例えば、食品調製の環境において食中毒細菌に対処するのに十分であることは分かっているものの、医療場面においてより危険でより耐性の強い病原体を処理するのに十分に有効とはみなされていない。
【0005】
イソプロパノールなどのアルコール、およびヨウ素などのハロゲンは、創傷および皮膚病変周辺用の比較的粗製の消毒剤としてそれぞれ過去に使用されてきたが、硬い表面など広領域の清浄に適していないことが判明した。例えば、ヨウ素は多くの表面を染色する可能性があり、安全性の考慮により、高濃度での使用が制限されている。
【0006】
本発明の目的は、硬い表面に使用するのに適し、高い抗ウイルス性および抗菌性の効果を有する清浄および消毒用液体調製物を提供することである。
【0007】
(発明の概要)
本発明の第1態様によれば、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む組成物が提供される。
【0008】
本発明の第2態様によれば、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、清浄および消毒用の組成物が提供される。
【0009】
本発明の第3態様によれば、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、表面の清浄および消毒用水性組成物が提供される。
【0010】
本発明の第4態様によれば、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、抗菌性組成物が提供される。
【0011】
本発明の第5態様によれば、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、抗ウイルス性組成物が提供される。
【0012】
本発明の第6態様によれば、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、抗真菌性組成物が提供される。
【0013】
本発明の第7態様によれば、有機体を破壊し、かつ/あるいは、細菌および/またはウイルスの複製能力を、前記細菌および/またはウイルスが表面に存在するときに抑制する手段であって、前記表面への組成物の適用を含み、細菌またはウイルスのリン脂質膜を破壊するようにその組成物を構成し、細菌のDNAおよびウイルスのDNAもしくはRNAに実質上恒久的に結合するようにその組成物をさらに構成する手段が提供される。この文脈において、「実質上恒久的に」という用語は、細菌のDNAおよびウイルスのDNAもしくはRNAにこの組成物の1種または複数の成分が結合された結果、前記DNAまたはRNAが少なくとも数時間、好ましくは無期限に複製できなくなることを意味すると理解されたい。これらの手段は表面の汚染除去を迅速に行うことができるので有利である。この組成物は、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含むことが好ましい。この組成物は、本発明の他の態様で実質的に記述するとおりのものであることが最も好ましい。
【0014】
本発明の第8態様によれば、細菌および/またはウイルスの複製能力を、前記細菌および/またはウイルスが表面に存在するときに抑制する手段であって、前記表面への組成物の適用を含み、細菌またはウイルスの構成物を実質上恒久的に封入し、それらの遺伝物質の複製を妨げるようにその組成物を構成する手段が提供される。この文脈において、「実質上恒久的に」という用語は、細菌またはウイルスにこの組成物の1種または複数の成分が結合された結果、前記DNAまたはRNAが少なくとも数時間、好ましくは無期限に複製できなくなる程度まで封入されることを意味すると理解されたい。これらの手段は表面の汚染除去を迅速に行うことができるので有利である。この組成物は、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含むことが好ましい。この組成物は、本発明の他の態様で実質的に記述するとおりのものであることが最も好ましい。
【0015】
本発明の様々な態様では、長鎖アルキルポリアミン化合物は、長鎖アルキルトリアミン化合物および/または長鎖アルキルテトラミン化合物を含むことが好ましい。
【0016】
この組成物は、ある範囲の異なるアルキル鎖長を有する長鎖アルキルポリアミン化合物の混合物を含むことができる。
【0017】
有利には、この長鎖アルキルポリアミン化合物は、一般式R−NH−(CH2)m−NH−(CH2)n−NH2(式中、Rは少なくとも8個の炭素原子を含む直鎖状または分枝状アルキル鎖であり、mおよびnはそれぞれ等しく2または3でよい)で表される化合物を含むことができる。
【0018】
Rは、10〜14個の炭素原子を含む直鎖状または分枝状アルキル鎖でありうる。好ましくは、Rは直鎖状アルキル鎖であり、mおよびnはそれぞれ等しく3でよい。
【0019】
この組成物は、1種または複数の長鎖アルキルポリアミン化合物を10体積%〜30体積%含むことが好ましい。
【0020】
この組成物は、1種または複数の長鎖アルキルポリアミン化合物を15%〜25%含むと有利である。場合によっては、この組成物は1種または複数の長鎖アルキルポリアミン化合物を20%±2%含むことができる。
【0021】
少なくとも1種の脂肪族アルコールが1〜4個の炭素原子を含むことが好ましい。
【0022】
この組成物は2種の脂肪族アルコールを含むことが好ましい。この組成物がエタノールおよびn−プロパノールを含むことが特に好ましい。
【0023】
この組成物は脂肪族アルコールを10体積%〜30体積%含むことができる。この組成物は脂肪族アルコールを15体積%〜25体積%含むと有利である。この組成物は10体積%〜20体積%のエタノールおよび5体積%〜10体積%のn−プロパノールを含むことができる。場合によっては、この組成物は14体積%〜16体積%のエタノールおよび5体積%〜7体積%のn−プロパノールを含むことができる。
【0024】
この組成物は、ハロゲンおよび/またはハロゲン供給源の混合物を含むことが好ましい。あるいは、この組成物は単一のハロゲンおよび/または単一のハロゲン供給源のみを含んでもよい。本発明の好ましいハロゲンはヨウ素であり、好ましいヨウ素供給源は固形で提供されるヨウ素分子である。
【0025】
この組成物はヨウ素を最大0.5重量%含むことが好ましい。有利にはこの組成物はヨウ素を0.1重量%〜0.5重量%含むことができる。場合によってはこの組成物はヨウ素を0.33重量%±0.05重量%含むことができる。
【0026】
この組成物はハロゲンと錯体を形成するように適合させた錯化剤を含むことができる。
【0027】
この組成物はニトリロ三酢酸やその塩など少なくとも1種の緩衝剤を含むことができる。
【0028】
この組成物は少なくとも1種の界面活性剤を含むことができる。少なくとも1種の両性界面活性剤がこの組成物中に存在することが好ましい。両性界面活性剤の混合物がこの組成物中に存在することが理想的である。
【0029】
この組成物は、ポリグリコールエーテル、場合によってはポリエチレングリコールエーテルやポリプロピレングリコールエーテルなど少なくとも1種の湿潤剤を含むことができる。
【0030】
本発明の組成物は非危険性であることが好ましい。この文脈において、「非危険性」という用語は、欧州危険調剤指令(European Dangerous Preparations Directive)(99/45/EC)および危険物質指令(Dangerous Substances Directive)(67/548/EEC)による定義において非危険性であることを意味すると理解されたい。
【0031】
この組成物は非希釈形態で有効であるが、希釈した組成物が望ましいと思われる多数の適用例がある。様々な希釈度で有効となるようにこの組成物を構成することが好ましい。例えば、この組成物が有効となり得る範囲は、最大1:1000部の水希釈までの任意のレベルの水希釈とすることができる。通常、希釈度の下限値は1:1の水希釈であるが、好ましくはこの組成物が有効な希釈度の範囲は1:5部〜1:100部の水希釈である。しかし最も好ましい希釈度は実質的に1部の組成物に対して実質的に9部の水である。
【0032】
本発明の組成物は、表面に送達される際のいくつかの様々な形態に適した形態で提供することができる。この組成物は、表面を清浄にするのに使用する直前に使用者が後で希釈するための濃縮形態で提供することができる。しかし、希釈した後得られる溶液は、最大12カ月間貯蔵することができ、さらに細菌および/またはウイルスおよび/または真菌に対して効果をあげることができ、かつ/あるいは肉眼で見える汚れを除去する従来の洗浄/清浄効果を提供することができる。
【0033】
本発明の組成物は表面への即時送達の準備ができた形態で提供することができる。組成物のこのような即時送達のための送達用装置は、トリガースプレーなどの制御スプレーでもよい。トリガースプレーは、使用者がこの組成物を使用する予定の表面からある程度離れて操作することを可能にし、その結果、使用者が表面に接触するときまでに前記表面上に存在する細菌および/またはウイルスに、この組成物が先に攻撃し始めることができるため有利である。好ましくは、即時送達用のこの組成物は、送達用装置中で最大24カ月間貯蔵することができ、さらに、細菌および/またはウイルスおよび/または真菌に対して効果をあげることができ、かつ/あるいは肉眼で見える汚れを除去する従来の洗浄/清浄効果を提供することができる。
【0034】
本発明の組成物を即時送達するための別の送達用装置は、拭き取り用含浸布でよい。このような拭き取り用布は、多数の拭き取り用布を含む容器または円筒型容器に入れて提供することができ、あるいは、小袋に入れた個包装形態で提供することができる。好ましくは、このような拭き取り用布は、それら容器中で最大24カ月間貯蔵することができ、さらに、細菌および/またはウイルスおよび/または真菌に対して効果をあげることができ、かつ/あるいは肉眼で見える汚れを除去する従来の洗浄/清浄効果を提供することができる。
【0035】
本発明の第10態様によれば、清浄および消毒用の組成物を製造するための方法であって、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンをpH緩衝液に添加し、この溶液に少なくとも1種の界面活性剤を加えて中間溶液を作製するステップと、前記中間溶液とは別に少なくとも1種のアルコールおよび少なくとも1種のハロゲンを含むプレミックス溶液を作製するステップと、この中間溶液とプレミックス溶液を次に混合するステップとを含む方法が提供される。
【0036】
本発明の第11態様によれば、少なくとも1種のアルコールおよび少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンを含む組成物が提供される。
【0037】
本発明の第12態様によれば、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む組成物が提供される。
【0038】
(特定の実施形態)
本発明をより容易に理解できるようにするために、添付図を参照して本発明の実施形態をより具体的に次に記述するが、これらは単に例に過ぎない。添付図において、
図1は、本発明の組成物のPolio RNAに対する活性を示すグラフである。
図2は、本発明の長鎖アルキルポリアミンの化学構造を示す図である。
【0039】
以下のものを含む表面清浄用水性組成物を調製した
NTA89% 粉末 0.85kg
エタノール 15.0リットル
n−プロパノール 6.0リットル
トパノール(Topanol) O FG 0.55リットル
サンドテリック(Sandoteric) SC 2.42リットル
サンドジン(Sandozin) NRW 濃縮液 6.95リットル
サンドテリック(Sandoteric) ABD 4.45リットル
トリアミーン(Triameen) Y12D−30 19.99リットル
脱イオン水 43.4524リットル
ヨウ素(固形) 0.3376kg。
【0040】
この組成物は、pHが約8で、アルコール臭が少しある黄白色の清澄な液体として得られた。
【0041】
NTAは緩衝剤のニトリロ三酢酸三ナトリウム塩である。トパノール(Topanol) O FGは、Chance&Hunt社から販売されている抗酸化剤の食品グレードのブチルヒドロキシトルエンである(トパノールはICI社の登録商標である)。サンドジン(Sandozin) NRW 濃縮液は、Clariant社から湿潤剤として販売されているポリエトキシラートエーテルである。これはまた、ヨウ素と比較的安定な錯体を形成する。サンドテリック(Sandoteric) SCは、洗浄剤として作用するスルホベタイン型両性界面活性剤であり、サンドテリック ABDは、洗浄剤として作用し、ある程度の殺菌活性を有する両性界面活性剤の錯体混合物である。いずれもClariant社から販売されている。(サンドジンおよびサンドテリックはNovartis社の登録商標である)。
【0042】
トリアミーン(Triameen) Y12D−30は、一般式R’−NH−C36−NH−C36−NH2(R’は、「牛脂アルキル」、すなわち、最も一般的なものがドデシル鎖である様々な長さのアルキル鎖の天然由来混合物である)で示される長鎖アルキルトリアミンである。これはAkzo Nobel社から販売されている。
【0043】
図2は長鎖アルキルトリアミンの仮定的な構造を示す図である。この分子の活性がNH2基上に局在しており、ヨウ素がその窒素に1価で結合し、DNAまたはRNAに接近できる可能性がある。次に、ヨウ素化アミン基の存在により、リン脂質基への付加によってDNAまたはRNAのヌクレオチドに結合する可能性がある。したがって、ヨウ素基は自由に分子上を移動する可能性があり、その部分付加が起こるので、結合価を充足するための競合が起こる。
【0044】
細菌への攻撃機序は完全には理解されていないが、適切に緩衝化した溶液中で、長鎖アルキルトリアミンは陽イオン種を形成すると予想されている。界面活性剤、好ましくは両性の性質のものとともに、トリアミンは細菌の外壁を形成するリン脂質膜を攻撃する。たいていの場合、これらの膜を破壊または溶解して細菌DNAの放出を引き起こす。錯体ハロゲンおよびアルコールは共同でDNAに作用して、効果的にDNAまたはRNAと錯体を形成している可能性がある。トリアミンおよび界面活性剤は、細菌DNAを攻撃し、ヘリックスの極めて重要な部分に結合して、その複製を妨げると考えられている。アルコールも膜への攻撃に寄与している可能性がある。
【0045】
内容物を放出して崩壊するのに十分なほど膜が損傷されていない場合であっても、この組成物は、より長い期間(現在の試験では少なくとも14日であり、現在使用されている清浄剤/消毒剤での場合よりずっと長い)細菌を不活性化することが分かっている。
【0046】
ウイルスへの攻撃機序に考えを向けると、同様に、この機序も完全には理解されていない。しかし、適切に緩衝化した溶液中で形成された陽イオン性トリアミンが、好ましくは両性の性質を有する界面活性剤と共同してウイルスのキャプシドの外壁を攻撃するとやはり予想されている。攻撃の結果としてこれらの構成物を破壊または溶解して、ウイルスのDNAもしくはRNAの放出を引き起こしている可能性がある。錯体ハロゲンおよびアルコールは、共同でウイルスDNAに作用し、または、ウイルスRNAの一部分に結合もしくは合体することによって作用すると考えられている。さらに、トリアミンおよび界面活性剤も、ヘリックスの非常に重要な部分に結合することによって、ウイルスのDNAもしくはRNAを攻撃すると考えられている。ウイルスのDNAまたはRNAに攻撃した結果、DNAまたはRNAの複製能力が抑制される。アルコールは、膜、特に、すべてではないが一部のDNA/RNAウイルスに存在するウイルス外殻のリン脂質からなるエンベロープへの攻撃に寄与している可能性もある。
【0047】
あるいは、緩衝化した陽イオン性トリアミンおよび界面活性剤の攻撃によってウイルスのキャプシドが破壊または溶解されるのではなく、攻撃の結果、表面構成物に結合して、ウイルスの受容体を遮断し不活性化するという可能性もある。この攻撃の結果、感染力を抑制し、それにより他の細胞にウイルスが広がるのを防ぐ。ハロゲンおよびアルコールが、ウイルスのキャプシド膜の攻撃にいくらか関与している可能性がある。
【0048】
機序にかかわらず、この組成物の成分の全体としての作用は、有機体の大部分を分解および破壊すること、ならびに/あるいはウイルスまたは細菌をより長い期間抑制することである。この組成物は、適用される先の表面から肉眼で見える汚れを除去し、また、抑制された細菌またはウイルスならびに破壊された有機体の関連した破片を洗浄する、従来の洗浄/清浄効果も有する。この組成物は、試験表面に対して最小限の有害作用しか示さないことが分かっており、同様のレベルのハロゲン、特にヨウ素を含有する従来の配合物なら染色するほどには表面を染色しない。
【0049】
すでに言及したように、本発明の組成物による殺ウイルス作用の機序は、明確には理解されていない。組成物中に存在する構成成分から、アルコールがタンパク質を変性させ、四級アンモニウム化合物が陰イオン性のリン酸基およびリン脂質中の脂肪酸鎖に結合するのではないかと推測されている。どちらの機序も微生物の膜を損傷する。ハロゲンは構造タンパク質を改変する可能性があり、タンパク質中のアミノ酸のハロゲン化を通じて、酵素を阻害する可能性がある。
【0050】
実験を通じて、様々な裸ウイルスまたは精製した動物のデオキシリボース核酸(DNA)サンプルをこの組成物で処理することができる。相互作用が起こり、その結果、ゲル電気泳動の電場中におくと、正常な統合性を有する予想したDNAはしごではなく、DNAのスミアーが得られ、DNAのイオン化特性が変化していることを示唆する。同じ組成物/ウイルスまたは組成物/動物DNA混合物をフェノール/クロロホルム混合溶液で抽出する場合、組成物自体が分解され、正常な統合性を有する完全なDNA電気泳動パターンが回復されることになる。このデータは、DNA(ウイルスまたは動物のDNA)はこの組成物で処理中に分解されるのではなく、この組成物とウイルスまたは動物のDNAとの相互作用が、正常なDNA構造の統合性およびイオン的な統合性を変えていることを示している。
【0051】
ウイルス粒子およびウイルスのリボース核酸(RNA)に対する影響について、この組成物との相互作用をさらに調査した。図1は観察した活性を示す。希釈した組成物9部およびポリオウイルスワクチン1部(最終1000コピー/ml)としての組成物(水10部中1部)を5、15、30および60分間経過後、相補デオキシリボース核酸(cDNA)合成およびDNA増幅の前に、QIAGENシリコンカラム(QIAGENはタンパク質分解のためのプロテアーゼステップを組み込む)を使用して抽出することによる実験から(in houseのLightcyclerリアルタイムRNA定量分析で核酸産生を検出して)、対照サンプルの水におけるそれぞれ1000、1000、1000、1000コピー/mlと比べて、1000コピーからそれぞれ50、50、10および10コピー(95%、95%、99%、99%の減少)へのRNAウイルス量の減少をみとめることができる。前述したように、5、15、30および60分間インキュベーションした組成物/ウイルスを用いて実験を繰り返した。ただし、RNA抽出は、フェノール/クロロホルムを用いた手順(QIAGEN抽出法によってではなく、フェノールで1回、1:1のフェノールおよびクロロホルムで1回、さらにクロロホルムで1回抽出)で行った。RNA検出は、それぞれ1000、1000、1000および1000コピーで検出される(RNA量の減少無し)。
【0052】
この実験は、組成物は1〜60分の間にRNAを分解しないが、組成物とポリオウイルス/ポリオウイルスRNAとの間で相互作用が起こることを実証している。この相互作用は、通常ならRNAを放出するはずの構成ペプチドを切断するプロテアーゼの作用(QIAGENプロセスにおいては活性)を阻害し、または、裸のRNAをイオン的に改変し、その結果、試験においてその後さらにRNAを捕捉および増幅することができない。この結果は、RNAの低回収率であり、アッセイでの低コピー数としてあらわれることになる。この組成物−ウイルス相互作用の効果は、フェノールを用いた化学的抽出の間に取り除かれる。この組成物はウイルスのキャプシドに対して破壊的であるのではなく、キャプシドの酵素的切断を阻害し、また、核酸の放出を実現するのにさらに厳密な化学的抽出を必要とすると結論づけることができる。本明細書で例示したQIAGENの効果は、一定の効果であり、アデノウイルス、BKウイルスおよびノロウイルスを含めて、他のRNAおよびDNAウイルスに対して再現されており、殺ウイルス活性の一応の機序のようであり、それにより改変されたウイルス構造は生理的および酵素的攻撃に対して耐性である。
【0053】
したがって、ウイルスDNAおよびウイルスRNAのいずれも、この組成物での処理によって分解されないと最終的に結論づけることができる。しかし、この組成物はウイルスのキャプシドと相互作用し、酵素的切断を妨げる。ウイルスの脱外被のプロセスは、様々なウイルス群に対して様々な機序を伴うが、それらはすべて、ウイルスのキャプシドが構造的およびイオン的な統合性を有し、また、それが宿主細胞中に入り通過し細胞構成物および酵素系と相互作用することを可能にする細胞の生理学的プロセスの影響を受けやすいことを必要とする。組成物により誘導されるウイルス構成物の変化がこのプロセスを妨げ、その殺ウイルス活性の主な原因となっている可能性がある。
【0054】
ハロゲンのレベルがより高い組成物がいくつかの適用例で有用なことがあるという仮説があるが、その場合、アルコールの増量など他の成分の変更が安定性のために必要となる可能性がある。
【0055】
この組成物はまた、真菌、カビおよび酵母に対してもある程度の活性があるが、真菌の胞子細胞など、より強固な壁に対して完全な有効性を得るためには改変した配合物、例えば、代替アルコールを混合したものなどが必要となる可能性があると考えられている。
【0056】
試験により、この組成物は規格試験「555項目調査(555-challenge)」(英国規格(British Standard)BS EN 1276:1997およびフランス規格協会試験(French Afnor test)を参照)に合格していることが示された。有効な抗ウイルス性および抗菌性清浄剤として、「中等度の危険」領域の清浄に適した、英国の国立保健サービス(UK National Health Service)が使用する分類におけるカテゴリー(2)の消毒剤にこれを分類することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の組成物のPolio RNAに対する活性を示すグラフである。
【図2】本発明の長鎖アルキルポリアミンの化学構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む組成物。
【請求項2】
少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、清浄および消毒用組成物。
【請求項3】
少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、表面の清浄および消毒用水性組成物。
【請求項4】
少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、抗菌性組成物。
【請求項5】
少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、抗ウイルス性組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンおよび少なくとも1種のハロゲンを含む、抗真菌性組成物。
【請求項7】
長鎖アルキルポリアミン化合物が、長鎖アルキルトリアミン化合物および/または長鎖アルキルテトラミン化合物を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、ある範囲の異なるアルキル鎖長を有する長鎖アルキルポリアミン化合物の混合物を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
長鎖アルキルポリアミン化合物が、一般式R−NH−(CH2m−NH−(CH2n−NH2(式中、Rは少なくとも8個の炭素原子を含む直鎖状または分枝状アルキル鎖であり、mおよびnはそれぞれ2または3に等しい)の化合物を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
Rが、10から14個の炭素原子を含む直鎖状または分枝状アルキル鎖である、請求項10に記載の組成物。
【請求項11】
Rが直鎖状アルキル鎖である、請求項10から11のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
mおよびnがそれぞれ3に等しい、請求項10から12のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
1種または複数の長鎖アルキルポリアミン化合物を10体積%から30体積%含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
1種または複数の長鎖アルキルポリアミン化合物を15%から25%含む、請求項1から13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
少なくとも1種の脂肪族アルコールが1から4個の炭素原子を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
2種の脂肪族アルコールを含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
脂肪族アルコールを10体積%から30体積%含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
脂肪族アルコールを15体積%から25体積%含む、請求項1から17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
14から16体積%のエタノールおよび5から7体積%のn−プロパノールを含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
ハロゲンおよび/またはハロゲン供給源の混合物を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
単一のハロゲンおよび/または単一のハロゲン供給源のみを含む、請求項1から20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
ハロゲンがヨウ素である、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
ヨウ素を最大0.5重量%含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
ヨウ素を0.33重量%±0.05重量%含む、請求項1から23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
ハロゲンと錯体を形成するように適合させた錯化剤を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
少なくとも1種の緩衝剤を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
少なくとも1種の界面活性剤を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項28】
少なくとも1種の界面活性剤が両性である、請求項28に記載の組成物。
【請求項29】
少なくとも1種の湿潤剤を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項30】
細菌を破壊し、かつ/あるいは、細菌および/またはウイルスの複製能力を、前記細菌および/またはウイルスが表面に存在するときに抑制する方法であって、前記表面への組成物の適用を含み、細菌またはウイルスのリン脂質膜を破壊するように前記組成物を構成し、細菌DNAを切断するように、かつ/または細菌のDNAおよびウイルスのDNAもしくはRNAに実質上恒久的に結合するように前記組成物をさらに構成する方法。
【請求項31】
請求項1から30のいずれかに記載の組成物が提供される、請求項31に記載の方法。
【請求項32】
細菌および/またはウイルスの複製能力を、前記細菌および/またはウイルスが表面に存在するときに抑制する方法であって、前記表面への組成物の適用を含み、細菌またはウイルスを実質上恒久的に封入し、それらの遺伝物質の複製を妨げるように前記組成物を構成する方法。
【請求項33】
請求項1から30のいずれかに記載の組成物が提供される、請求項33に記載の方法。
【請求項34】
清浄および消毒用の組成物を製造するための方法であって、
少なくとも1種の長鎖アルキルポリアミンをpH緩衝液に添加し、この溶液に少なくとも1種の界面活性剤を加えて中間溶液を作製するステップと、
前記中間溶液とは別に、少なくとも1種のアルコールおよび少なくとも1種のハロゲンを含むプレミックス溶液を作製するステップと、
前記中間溶液と前記プレミックス溶液を次に混合するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−513208(P2007−513208A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530514(P2006−530514)
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002148
【国際公開番号】WO2004/101726
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505424273)グリーンブリッジ インヴァイランメンタル コントロール リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】GREENBRIDGE ENVIRONMENTAL CONTROL LIMITED
【Fターム(参考)】