説明

振動片、ジャイロセンサー、電子機器、振動片の製造方法

【課題】シリコンのエッチング異方性に起因する振動特性の劣化が抑制されたシリコンからなる振動片、その振動片を用いたジャイロセンサー、それらを備えた電子機器、および振動片の製造方法を提供する。
【解決手段】基部21、および基部21から延伸する振動腕22を備え、振動腕22の第1の面1aに開口部を有する有底の溝2が形成され、溝2は、第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝2が形成される前の振動腕22の重心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して並行するいずれかの方向にずれた位置に配置されて設けられた振動片20の製造方法であって、シリコンウェハーの第1の面1aに塗布されたフォトレジスト膜に、同一のフォトマスクを用いて基部21および振動腕22の外形形状と溝2の開口部形状とを同時に露光する工程を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片、その振動片を用いたジャイロセンサー、およびそれらを用いた電子機器、あるいは振動片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、時計や家電製品、各種情報通信機器やOA機器等の民生・産業用電子機器には、それらの電子回路のクロック源として、水晶振動子などの圧電振動子や、水晶振動片などの圧電振動片とICチップとを同一パッケージ内に封止した発振器やリアルタイムクロックモジュール等の圧電デバイスが広く使用されている。また、船舶、航空機、自動車等の姿勢制御や航行制御、あるいはデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の手振れ検出・補正制御等における回転角速度センサーとして、圧電振動片をセンサー素子(振動ジャイロ素子)として利用した圧電デバイスとしてのジャイロセンサーが広く利用され、3次元立体マウス等の回転方向センサーにも応用されている。このようなジャイロセンサーは、例えば特許文献1または特許文献2に記載されたものが知られている。
【0003】
これらの圧電デバイスは、それを搭載する電子機器の小型化・薄型化に伴い、より一層の小型化・薄型化が要求されている。また、クリスタルインピーダンス値(以下、CI値と記す)を低減して高品質で安定性に優れた圧電デバイスが要求されている。CI値を低減するために、例えば、特許文献3に記載された溝つきの振動部(振動腕)を有する音叉型の圧電振動片が紹介されている。特許文献3に記載の圧電振動片は、例えば水晶からなる基部、および基部から延伸された一対の振動部を有し、各振動部に、振動部の延伸方向に延びる溝がそれぞれ形成されている。各振動部に設けられた溝によって振動部の剛性が小さくなって振動が促進されるとともに、溝の側面および底面に励振電極を設けることによって電界効率を向上させることによりCI値の抑制が図れる構造となっている。
【0004】
音叉型の振動片を振動ジャイロ素子として利用する場合には、通常、一対の振動部(振動腕)のうちの一方に励振用電極(駆動電極)を設けて駆動部として利用し、他方の振動部に検出用電極を設けて検出部として利用する。このような構成の振動ジャイロ素子の励振用電極に励振信号を印加して振動部の延伸方向と垂直な面内方向に励振振動させているときに、振動部の延伸方向を軸とした軸周りの回転運動が加わると、その回転運動が、励振振動方向と直交する方向(面外方向)のコリオリの力を発生させ、基部を介して他方の振動部に面外方向の振動を発生させる。この他方の振動部(検出部)の面外振動を検出用電極により電気検出済みの信号に変換して検知することにより、振動ジャイロ素子に印加された回転角速度を検出することができる。
【0005】
水晶のような圧電単結晶材料以外に、振動片に用いる単結晶材料としてシリコンが挙げられる。シリコンもエッチング異方性を有しているので、第1の面にエッチングマスクを形成して第1の面から反対側の第2の面にエッチングして得られるシリコン体の断面形状は方形状とはならずに、第1の面側の幅よりも第2の面側の幅の方が大きい形状になるとともに非対称な断面形状となる。ただし、シリコンをエッチングして得られるエッチング面は、水晶などに比して、結晶面に沿って極めて正確な角度を持った平滑な断面となることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−55479号公報
【特許文献2】特開平10−170272号公報
【特許文献3】特開2004−200917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ドライエッチングは製造装置が高額であり、製造装置が安価なウェットエッチングが望まれている。ここで、シリコン基板をウェットエッチングした振動腕や溝の断面形状がその結晶配向によってエッチング方向に沿った中心線に対して非対称になることが多い。このように振動部が非対称な断面形状となることにより、上記した振動部の面内振動や面外振動が所望の方向になされず、振動特性が劣化したり、振動片をジャイロ素子にもちいた場合に回転角速度がゼロの状態にも関わらず振動部が検出方向(面外方向)に振動してしまったりして、振動ジャイロ素子の回転角速度の検出精度を劣化させるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
〔適用例1〕本適用例にかかる振動片の製造方法は、基部と、前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とを連結する一対の側面を有し、前記第1の面に溝が設けられた振動部と、を備えた振動片の製造方法であって、シリコン基板の前記第1の面にフォトレジスト膜を形成する工程と、同一のフォトマスクを用いて、前記フォトレジスト膜に前記基部および前記振動部の外形形状と、前記振動部の形成領域内に前記溝の開口部の形状と、を露光する工程と、前記露光する工程の後で前記フォトレジスト膜を現像する工程と、前記現像する工程でパターニングされた前記フォトレジスト膜をマスクにしてウェットエッチング法により前記外形形状および前記溝をエッチングする工程と、を含み、前記エッチングする工程の後において、前記延伸の方向に平面視で直交する方向の前記振動部の幅は、前記第1の面側よりも前記第2の面側の方が大きく、且つ、前記溝の前記開口部は、平面視で前記側面の一方の側にずれて形成されることを特徴とする。
【0010】
上記構成において、シリコン材料の第1の面にエッチングマスクを形成して、その第1の面側から第2の面に向けてウェットエッチングすることにより形成されるエッチングマスクに基づいたシリコン体の断面形状は、シリコンのエッチング異方性により方形形状とはならずに、第1の面側の幅よりも第2の面側の幅が大きい形状、例えば台形形状を呈することが知られている。また、シリコンのエッチングはシリコンの結晶面に沿ってなされることから、シリコン各部の結晶面の差異によってエッチング量に差が生じることが知られている。具体的には、シリコン体の断面の形状が、その断面の第1の面から第2の面への方向に沿う仮想の中心線に対して非対称となることが知られている。
シリコン材料をウェットエッチング加工することにより振動片を形成した場合に、上記したシリコンのエッチング異方性により振動部の断面が非対称な形状になると、振動部の振動方向が所望の方向と交差する方向にずれて振動片の温度特性などの振動特性が劣化する虞がある。このようなシリコンのエッチング異方性に起因する振動部の振動方向のずれを、振動部に設ける溝の位置を調整することにより補正できることを発明者は見出した。
上記振動片の製造方法によれば、振動片の振動部と溝とを同一のフォトマスクを用いて同時に露光し、その露光パターンに基づくエッチングマスクを用いてエッチングを行うことによって振動部の外形と溝とを同時に形成するので、高性能な設備の増設や製造工程の増大をさせることなく、振動部の外形と、それに対する溝とを所望の位置関係に位置精度よく形成することができる。
したがって、シリコン材料のエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化が抑えられた、小型で、安定した振動特性を備えた振動片を製造することができる。
【0011】
〔適用例2〕上記適用例にかかる振動片の製造方法において、前記溝は、前記第1の面において前記開口部の中心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線が、前記溝が形成される前の前記振動部の重心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線に対してずれていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、溝の位置を中心からずらして振動部の重心の位置を溝形成前からずらすことにより、所望振動以外の不要振動モードを大幅に抑制することができる。
【0013】
〔適用例3〕上記適用例にかかる振動片振動片の製造方法において、前記エッチングする工程の後で、前記第2の面からエッチングする工程を有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、シリコンのエッチング異方性によりエッチング深さの深い位置で顕著に発生するエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を裏面エッチングすることによって取り除くことができるので、振動部の断面形状の非対称さが改善されて振動特性のより安定した振動片を提供することができる。
【0015】
〔適用例4〕上記適用例にかかる振動片の製造方法において、前記エッチングする工程は、前記第1の面および前記第2の面の両面から同時にエッチングすることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、シリコンウェハーの第1の面および第2の面の両面から同時にエッチングをおこなうので、エッチング異方性に起因してエッチング深さの深い位置で顕著に発生するエッチング残りが起こり難くなり、振動部の断面形状の対称性が良好となって振動特性を安定化させることができる。
【0017】
〔適用例5〕本適用例にかかる振動片は、基部と、前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とに連結する一対の側面を有した振動部と、を備え、前記基部および前記振動部はシリコン材料が用いられ、前記振動部の前記第1の面には溝が設けられ、前記溝は、開口部が平面視で前記側面の一方側にずれて設けられ、前記延伸の方向に平面視で直交する方向の前記振動部の幅は、前記第1の面側よりも、前記第2の面側の方が大きいことを特徴とする。
【0018】
本適用例の振動片において、振動腕の延伸方向と直交する断面の第1の面側の幅よりも、第1の面とは反対側の第2の面側の幅の方が大きい形状は、上記適用例の振動片の製造方法で説明したシリコン材料のエッチング異方性に起因するものであり、上述したとおり、シリコンの結晶面に沿ってエッチングがなされることにより、エッチング断面の形状は、その断面の第1の面から第2の面への方向に沿う仮想の中心線に対して非対称になり、これによって、振動部の振動方向が所望の方向と交差する方向にずれて振動片の温度特性などの振動特性が劣化する虞がある。
本適用例によれば、振動部の第1の面に開口部を有する溝であって、第1の面において開口部の中心を通って且つ振動部の延伸方向に沿った仮想の線が、溝が形成される前の振動部の重心を通って且つ振動部の延伸方向に沿う仮想の線に対して並行するいずれかの方向にずれた位置に設けられた溝を備えている。発明者は、シリコンのエッチング異方性によって断面形状の第1の面側の幅よりも第2の面側の幅の方が大きくて、且つ、非対称な形状となる振動部を有する振動片において、その断面形状が非対称となる度合いに応じて溝の位置を調整して設けることにより、振動部の振動方向を所望の方向に補正することができることを見出した。
なお、本適用例の振動片は、上記適用例の振動片の製造方法のように、振動部の外形と溝を同じフォトマスクを用いて同時に露光する工程を含む製造方法により形成することにより、高性能な設備の増設や製造工程の増大をさせることなく、振動部の外形と、それに対する溝とを所望の位置関係に位置精度よく形成することができる。
したがって、シリコン材料のエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化が抑えられ、安定した振動特性を備えた振動片を提供することができる。
【0019】
〔適用例6〕上記適用例にかかる振動片において、前記溝の深さは、前記振動部の前記第1の面から前記第2の面までの厚みの半分よりも深いことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、溝を深く形成することにより、所望振動以外の不要振動モードを大きく抑圧することができる。
【0021】
〔適用例7〕上記適用例にかかる振動片において、前記振動部の少なくとも前記第1の面に励振手段が設けられていることを特徴とする。
【0022】
例えば、励振手段として、振動部上に設けた下部電極と、下部電極上に設けた酸化亜鉛(ZnO)や窒化アルミニウム(AlN)等の圧電体と、圧電体上に設けた上部電極の少なくとも3層を備えた圧電体素子を用いれば、圧電性を有さないシリコン材料を用いた振動腕を効率よく振動させることができる。
この構成によれば、各振動部に設けられた溝によって振動部の剛性が小さくなって振動が促進される効果とともに、溝の側面および底面に励振電極を設けることによって電界効率が向上する効果が相乗的にはたらくことによりCI値がより低減された振動片を提供することができる。
【0023】
〔適用例8〕本適用例にかかるジャイロセンサーは、上記適用例に記載の振動片を備えたことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、シリコン材料のエッチング異方性により断面形状が非対称となることによって発生し得る駆動振動と検出振動との機械結合が抑制された振動片を備えているので、回転角速度の検出精度が高いジャイロセンサーを提供することができる。
【0025】
〔適用例9〕本適用例にかかる電子機器は、上記適用例に記載の振動片を備えたことを特徴とする。
【0026】
上記構成の電子機器は、上記適用例の振動片、または、ジャイロセンサー、即ち、振動部に該振動部の外形と同時に露光およびエッチングして形成された溝を有する振動片、または、それを用いたジャイロセンサーを備えているので、高性能で安定した特性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】振動片の一実施形態の概略構成を示す模式図であり、(a)は、溝の開口部を有する振動部の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図。
【図2】振動片の製造方法を示すフローチャート。
【図3】(a)〜(c)は、振動片の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図4】(a)〜(d)は、振動片の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図5】振動片の製造方法の変形例を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(d)は、振動片の製造方法の変形例における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図。
【図7】振動片の変形例2を模式的に示す斜視図。
【図8】上記変形例2の振動片を備えたジャイロセンサーを示す模式図であり、(a)は、振動片の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、正断面図。
【図9】上記実施形態および変形例の振動片、または、ジャイロセンサーを搭載した電子機器の例を示す模式図であり、(a)は、デジタルビデオカメラの斜視図、(b)は、携帯電話機の斜視図、(c)は、情報携帯端末(PDA)の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
〔振動片〕
図1は、振動片の一実施形態の概略構成を示す模式図であり、(a)は、溝の開口部を有する振動部の第1の面側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【0030】
図1に示すように、振動片20は、シリコンを基材(主要部分を構成する材料)として形成されている。
振動片20の外形は、フォトリソグラフィー技術を用いてウェットエッチングすることにより形成されている。なお、振動片20は、1枚のシリコンウェハーから複数個取りすることが可能である。
【0031】
図1(a)に示すように、本実施形態の振動片20は、基部21と、基部21の一端(本実施形態ではY軸側の端部)からY軸に沿って互いに並行させて延伸する一対の振動部としての振動腕22,23と、を備えた所謂音叉型の振動片となっている。
各振動腕22,23には、有底の溝2,3が夫々設けられている。
【0032】
図1(b)に示すように、各振動腕22,23は、振動腕22,23の延伸方向と直交する断面の形状において、第1の面1a側の幅よりも第2の面1b側の幅の方が大きくなっている。本実施形態では、振動腕22,23の断面形状は台形状を呈している。このように、振動腕22,23の断面形状が方形状とはならずに台形状となっているのは、シリコン材料が、ウェットエッチングに対するエッチング異方性を有していることに起因する。具体的には、シリコン材料の第1の面1aに振動腕22,23の外形の原形となるエッチングマスクを形成して、その第1の面1a側から第2の面1bに向けてウェットエッチングすることにより形成されるエッチングマスクに基づいた振動腕22,23のシリコン体の断面形状は、シリコンのエッチング異方性により方形形状とはならずに、図1(b)に示すように第1の面1a側の幅よりも第2の面1b側の幅が大きい台形形状となる。
さらに、シリコンのエッチングはシリコンの結晶面に沿ってなされることから、シリコン各部の結晶面の差異によってエッチング量に差が生じることが知られている。これにより、振動腕22,23の台形の断面形状は、振動腕22,23に溝2,3が形成される前の振動腕22,23の重心を通って且つその断面の第1の面1aから第2の面1bへの方向に沿う仮想の中心線P1´に対して非対称となる。
【0033】
振動腕22の溝2は、振動腕22の第1の面1aに開口部を有する。溝2は、振動腕22の第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝2が形成される前の振動腕22の重心を通って且つ振動腕22の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して並行するいずれかの方向(本実施形態では+X方向)に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。溝2の開口部は、線P1で振動腕22を幅方向に分割したときに図中右側のエリアに形成されている。
これと同様に、他方の振動腕23の溝3も、振動腕23の第1の面1aに開口部を有し、振動腕23の第1の面1aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿った仮想の線(不図示)が、溝3が形成される前の振動腕23の重心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿う仮想の線(不図示)に対して並行する方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。なお、図1(b)においては、振動腕22において上記仮想の線P1と交わって且つ第1の面1aから第2の面1bへの方向に沿う垂線としての仮想の線P1´、および、上記仮想の線P2と交わって且つ第1の面1aから第2の面1bへの方向に沿う垂線としての仮想の線P2´を夫々図示している。溝3の開口部は、溝3が形成される前の振動腕23の重心を通って且つ振動腕23の延伸方向に沿う仮想の線により振動腕23を幅方向に分割したときに図中右側のエリアに形成されている。
以上説明した溝2,3の開口部は、Z方向から平面視で見たときに、第1の面1aの両側にある側面の一方の側にずれて形成されているとも言える。
本願発明者は、シリコンウェハーのエッチング異方性に起因する振動腕の振動の劣化を抑制する手段として、振動部に設ける溝の位置を調整することが有効であることを見出した。即ち、振動部の断面形状が非対称となったその程度に応じて、溝の開口部を有する振動部の第1の面において、溝の開口部の中心を通って且つ振動部の延伸方向に沿った仮想の線が、溝が形成される前の振動部の重心を通って且つ振動部の延伸方向に沿う仮想の線に対して並行するいずれかの方向に所定量ずれた位置に配置して溝を設けることにより、振動部の断面形状が非対称であることに起因する検出精度や温度特性の劣化を抑制し得ることを発明者は見出した。
【0034】
また、各振動腕22,23において、溝2,3の深さは、各振動腕22,23の第1の面1a,1aから、反対側の第2の面1b,1bまでの厚みの半分よりも深くなっている。この、溝2,3が各振動腕22,23の厚みの半分よりも深い形状は、後述する振動片20の製造方法に起因する。即ち、振動腕22,23の外形と各々の溝2,3とを同時に露光してから、シリコンウェハーの厚み方向に貫通させる振動腕22,23の外形と、溝2,3とを同時にエッチングするために、溝2,3の底面が各振動腕22,23の肉厚の深い位置まで達するものである。このように溝2,3を深く形成することで、振動腕22,23の所望の振動方向(例えば、X軸方向)以外の不要な振動成分(例えば、Z方向)を大幅に抑圧することができる。
【0035】
振動片20の各振動腕22,23の第1の面1aには、図示はしないが励振手段と、振動片20をジャイロ素子として用いる場合は検出手段とが形成されている。この場合の励振手段または検出手段は、例えば、振動腕22,23上に下部電極を形成し、下部電極上に酸化亜鉛(ZnO)や窒化アルミニウム(AlN)等の圧電体層を形成し、圧電体層の上に上部電極を形成した圧電体素子が用いられる。
【0036】
〔振動片の製造方法〕
次に、上記実施形態の振動片20の製造方法について説明する。
図2は、振動片の製造方法を示すフローチャートである。また、図3(a)〜(c)、および、図4(a)〜(d)は、振動片の振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。
通常、振動片の製造方法では、シリコンウェハーに複数個の振動片を平面視で並べて形成し、その後、ダイシングすることにより個片の振動片を一括して複数個得る方法をとる。図3および図4は、シリコンウェハーにおいて一つの振動片の振動腕が形成される一部分を示した正断面図となっている。
【0037】
本実施形態の振動片20の製造方法では、まず、図3(a)に示すように、振動片20を複数個形成することが可能な面積を有するシリコンウェハー1(図中ではその一部分のみを図示している)の第1の面1aおよび第2の面1bにスパッタや蒸着、あるいはめっきなどにより金属耐食膜120a,120bを形成する(図2のステップS1)。金属耐食膜120a,120bには、後述するシリコンウェハーをエッチングする工程で使用するエッチング液に対する耐食性を有するものが利用され、例えば、下地層にクロム(Cr)、上層に金(Au)の積層膜を用いることができる。
さらに、金属耐食膜120a,120b上に、スピンコート法などによりフォトレジスト膜131a,131bを形成する(図2のステップS2)。
【0038】
次に、図3(b)に示すように、第1の面1aのフォトレジスト膜131a側のみ、振動片20の基部21や振動腕22,23の外形および溝(図1を参照)の陽画または陰画パターンが描かれたフォトマスク150を用いて露光する外形・溝パターン露光を行う。本実施形態では、振動片20の陽画パターンが描かれた所謂ポジ型用のフォトマスク150を用いて、ポジ型のフォトレジスト膜131aを露光する例を示している。即ち、フォトマスク150には振動腕22の外形および溝2の露光パターン152と、振動腕23の外形および溝3の露光パターン153と、基部21の外形の露光パターン(不図示)が描かれていて、これらの露光パターンが図中下向き矢印で示す露光光を遮断し、それ以外の部分を透過した露光光がフォトレジスト膜131aに達して露光される(図2のステップS3)。
【0039】
次に、図3(c)に示すように、露光されたフォトレジスト膜131aを現像して現像パターン132,133を得る(図2のステップS4)。
次に、現像して得られた現像パターン132,133をマスクにして金属耐食膜120aのエッチングを行なって(図2のステップS5)から、フォトレジスト膜131aの現像パターン132,133およびフォトレジスト膜131bを剥離(図2のステップS6)して、図4(a)に示すように、第2の面1b側に金属耐食膜120bを露出させると共に、第1の面1a側に金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aを得る。
【0040】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜120aのエッチングマスク122a,123aが形成されたシリコンウェハー1を、例えばアルカリ系溶液やアンモニウム水酸化溶液を含む単結晶シリコン用のエッチング液に浸漬してウェットエッチングすることにより、金属耐食膜120bおよびエッチングマスク122a,123aに覆われていない部分のシリコンを溶解して、振動片20の外形形状(振動腕22,23および基部21)および溝2,3を形成する外形・溝エッチングを行う(図2のステップS7)。これにより、図4(b)に示すように、振動片20の外形を成す振動腕22,23および基部21(不図示)と同時に、各振動腕22,23の第1の面1aに開口部を有する溝2,3が形成される。
なお、振動腕22,23の外形と夫々の溝2,3をシリコンのエッチングにより同時に形成する過程で、シリコンウェハー1の溝2,3を形成する部分は、振動腕22,23や基部21の外形を形成する部分に比してエッチング液と接触する面積が小さいため、エッチング時間が長くなるほど外形部分に比してエッチング速度が遅くなるので、振動腕22,23などの外形が形成される前に溝2,3部分のシリコンが完全に除去されて貫通することはない。ただし、振動腕22,23などの外形と溝2,3とを同時にエッチングして形成することから、各溝2,3の深さは比較的深く形成され、具体的には、振動腕22,23の第1の面1aから第2の面1bまでの厚みの半分よりも深く形成される。
【0041】
図4(b)に示すように、振動腕22,23の断面形状は、基材のシリコンが有するエッチング異方性により結晶の方向によって、第1の面1a側の幅よりも第2の面1b側の幅の方が大きい台形状を呈している。シリコンのエッチング異方性により、各振動腕22,23の側面は、シリコンの結晶面に沿った極めて正確な角度を有する平滑面となる。
また、上記したように、シリコンの結晶面に沿ってエッチングされることからシリコン各部の結晶面の差異によってエッチング量に差が生じることにより、振動腕22,23の台形の断面形状は、振動腕22,23に溝2,3が形成される前の振動腕22,23の重心を通って且つその断面の第1の面1aから第2の面1bへの方向に沿う仮想の中心線P1´に対して非対称となる。このように断面形状が非対称となると、振動腕22,23が本来望む方向の振動とは異なる振動をして漏れ振動を発生し、所望の振動特性が得られずに温度特性が劣化したり、駆動振動(励振振動)する方向がずれることによって、回転角速度がゼロの状態にも関わらず振動腕22,23が検出方向(面外方向)に振動してしまい回転角速度の検出精度を劣化させたりする不具合が発生する虞がある。
このような振動腕22,23の非対称な断面形状に起因する不具合を抑制するために、本実施形態の振動片20では、各振動腕22,23に設ける溝2,3の位置が調整されている。即ち、上記したように、各振動腕22,23の溝2,3は、振動腕22,23の第1の面1aに開口部の中心を通って且つ振動腕22,23の延伸方向に沿った仮想の線(図1(a)のP2)が、各溝2,3が形成される前の振動腕22,23夫々の重心を通って且つ振動腕22,23の延伸方向に沿う仮想の線(P1)に対して並行する方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。ここで、「所定量ずれた位置」の所定量とは、シリコンウェハーの結晶軸を明確にしてウェットエッチングによる振動片20の外形形成を行うことで予測することが可能な各振動腕22,23の断面形状に対して、漏れ振動を抑制可能な溝2,3の位置として予め設定することが可能な量(位置)のことを言う。
本実施形態では、振動腕22,23の外形と溝2,3とを、同一フォトマスク150により同時に露光して形成しているので、エッチング上がりの各振動腕22,23と溝2,3との位置を再現性よく調整して形成することが可能になっている。
【0042】
振動腕22,23などの外形および溝2,3のエッチングを行った後には、シリコンウェハーを混酸液などに浸漬することによって、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aを剥離する(図2のステップS8)。
その後、図示はしないが、振動腕22,23に励振手段となる励振電極や、ジャイロ素子として用いる場合は検出手段となる検出電極を形成する電極形成を行なう(図2のステップS9)。
以上、述べた工程を経て、振動片20の一連の製造工程は終了する。
なお、シリコンウェハー1に縦横並んで多数形成された振動片20は、ダイシングなどの方法により個片化して提供することができる。
【0043】
上記実施形態によれば、振動片20の振動部として振動腕と溝とを同一のフォトマスク150を用いて同時に露光するので、位置精度の高いアライナーなどの高性能な設備の増設や、製造工程の増大をさせることなく、振動腕22,23の外形と、それに対する溝2,3とを所望の位置関係にて精度よく位置調整して形成することができる。したがって、シリコンウェハーのエッチング異方性に起因する振動特性や温度特性の劣化を効果的に抑えることができ、安定した振動特性を備えた振動片を低コストにて提供することができる。
また、上記実施形態の製造方法によれば、振動片の小型化にも比較的容易に対応することができる。
【0044】
上記実施形態で説明した振動片20、およびその製造方法は、以下の変形例として実施することも可能である。
【0045】
以下、振動片の製造方法の変形例について図面を参照して説明する。
(変形例1)
図5は、振動片の製造方法の変形例を示すフローチャートである。また、図6(a)〜(d)は、振動片の製造方法の変形例における振動部の製造過程を模式的に示す正断面図である。なお、上記実施形態との共通部分については同一符号を付して説明を省略し、上記実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0046】
図5に示す本変形例の振動片の製造方法において、ステップS11からステップS16のフォトレジスト剥離までのエッチングマスク形成は、上記実施形態における図2のステップS1〜S6と全く同じ構成により実施することができる。即ち、ステップS11の金属耐食膜形成からステップS16のフォトレジスト剥離までのプロセスを経て、図6(a)に示すように、シリコンウェハー1´の第2の面1b側に金属耐食膜120bが形成され、第1の面1a側に金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aが形成される。
ただし、本変形例の振動片の製造方法では、後述するように、振動片の外形および溝を形成するエッチング工程の後で、シリコンウェハーの第2の面1b側全面をハーフエッチングする工程を有するので、製造する振動片の厚みよりもハーフエッチングする分だけ厚い厚みを有するシリコンウェハー1´を用いる。
【0047】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aが形成されたシリコンウェハー1´を単結晶シリコン用のエッチング液に浸漬してエッチングを行い、図6(b)に示すように、振動腕22´,23´などの振動片の外形と溝202,203とを同時に形成する(図5のステップS17)。ただし、振動片の外形のうち、シリコンウェハー1´の第1の面1aから第2の面1bまでの厚みは、上記したように後工程でさらにハーフエッチングされて薄くなる。
【0048】
次に、金属耐食膜120bおよび金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aのうち、第2の面1bの金属耐食膜(裏面エッチングマスク)120bのみを剥離する(図5のステップS18)。ここで、必要があれば、第1の面1a側に露出するシリコン面をエッチングマスク材で覆おう処理を施す。この第1の面1a側をエッチングマスク材で覆う工程を行う場合は、ステップS18で、金属耐食膜120bとともに金属耐食膜のエッチングマスク122a,123aを同時に剥離してもよい。
【0049】
次に、図6(c)に示すように、振動腕22´,23´の第2の面1b全面を所定量エッチングする裏面エッチングを行い(図5のステップS19)、次に、エッチングマスク122a,123aを剥離する表面エッチングマスク剥離を行って(図5のステップS20)図6(d)に示すように、本変形例の製造方法による振動片220の溝202,203を含む外形が完成する。
次に、図5のステップS21に示すメタライジングマスク形成を行った後、そのメタライジングマスクをマスクにして電極膜を積層させて各種の電極を形成し(図5のステップS22)、一連の振動片220の製造工程が終了する。
【0050】
上記変形例の振動片の製造方法によれば、外形・溝エッチング工程(図5のステップS17)でシリコンウェハー1´をエッチングした時に、シリコンのエッチング異方性によりエッチング深さの深い位置、即ち、第2の面1b側に発生するエッチング残り(ヒレ)の少なくとも一部を、裏面エッチング工程(図5のステップS19)でハーフエッチングすることにより取り除くことができる。従って、振動腕22´,23´と溝202,203とを同時に露光してパターニングすることにより、溝202,203の位置を精度よく調整してシリコンのエッチング異方性に起因する振動特性の劣化を軽減する効果とともに、振動腕22´,23´の断面形状が左右非対称となる度合いが小さくなることから、安定した振動特性が保持された検出感度の高い振動片220を提供することができる。
【0051】
(変形例2)
次に、本発明の振動片を角速度センサー素子(振動ジャイロ素子)として利用する振動片の変形例について図面を参照しながら説明する。
図7は、角速度センサー用の振動片の変形例を模式的に示す斜視図である。なお、本変形例の振動片の構成のうち、振動部としての振動腕322,323の断面形状、および振動腕322,323に設けた溝302,303の形状は上記実施形態の振動片20の振動腕22,23と同様な形状であるため、詳細な説明を省略する。
図7に示すように、本変形例の振動片320は、上記第1の実施形態の振動片20と同様に、基部321と、基部321の一端から互いに並行させて延伸する一対の振動腕322,323と、を備えた所謂音叉型の形状を呈している。
【0052】
振動腕322,323には、各振動腕322,323に対して同じ位置関係にて配置された溝302,303が設けられている。このうち一方の振動腕332における溝302の配置について詳細に説明する。
溝302は、振動腕322の第1の面301aに開口部を有する。溝302は、振動腕322の第1の面301aにおいて開口部の中心を通って且つ振動腕322の延伸方向に沿った仮想の線P2が、溝302が形成される前の振動腕322の重心を通って、且つ、振動腕322の延伸方向に沿う仮想の線P1に対して並行するいずれかの方向(本変形例では+X方向)に所定量ずれた位置に設けられている。溝302の開口部は、前記の線P1で振動腕322を幅方向に分割したときに図中右側のエリアに形成されている。
なお、本変形例において、溝302,303は、各振動腕322,323の基部321から所定の距離を空けた位置から先端側に向けて形成されている。
【0053】
各振動腕322,323の第1の面301aには、励振手段および検出手段が設けられている。
詳述すると、振動腕322の溝302よりも基部321側において、第1の面301aの両側面寄りの領域には一対の励振手段312a,313aが並行させて配設され、励振手段312a,313aの間には検出手段314aが設けられている。
同様に、振動腕323の溝303よりも基部321側において、第1の面301aの両側面寄りの領域には一対の励振手段312b,313bが並行させて配設され、励振手段312b,313bの間には検出手段314bが設けられている。
上述したとおり、各励振手段312a,312b,313a,313b、および、検出手段314a,314bには、例えば、振動腕322,323の第1の面301aに下部電極(図示せず)を形成し、下部電極上に酸化亜鉛(ZnO)や窒化アルミニウム(AlN)などの圧電体層(図示せず)を形成し、圧電体層の上に上部電極(図示せず)を形成した圧電体素子を用いることができる。
励振手段312a,312b,313a,313bに電気信号(駆動電圧)±Vを印加することにより、一対の振動腕322,323が励振されて第1の面301aの面内方向(±X方向)に機械的に振動することができる。
また、検出手段314a,314bは、各振動腕322,323の機械的振動を電気検出済み信号に変換することができる。
【0054】
上記構成の音叉型の振動片320は、音叉型ジャイロメーターの原理により、励振手段312a,312b,313a,313bに励振用の電気信号±Vを印加して振動腕322,323が±X方向に振動しているときに、振動片320にY軸周りの角速度ωが印加されると、コリオリの力により振動腕322,323は±Z方向に振動する。このZ軸方向の機械的振動により検出手段314a,314bに発生する電荷を検出回路(図示せず)で処理することにより角速度信号出力を得ることができる。
【0055】
以上、述べた構成の振動片320によれば、振動部としての振動腕322,323に、上記実施形態の振動片20の溝2,3と同様な構成の溝302,303が設けていることにより、振動部としての振動腕の断面形状が非対称であることに起因する不要な振動成分を相殺して、検出精度や温度特性の劣化を抑制することができる。
【0056】
上記実施形態および変形例では、本発明の振動片の具体例として音叉型の振動片について説明したが、振動片の形状はこれに限定されない。例えば、基部の一端、および、他端の各々から振動部が延びた構成の水晶振動片や、基部の一端から三つ以上の振動部が延びた構成の振動片としてもよい。
【0057】
基部の一端および他端から振動部が延びた構成の振動片の一例として、基部の一端と、その一端の反対側の他端の各々から二つの振動部が延びた構成の、外形がH型の振動片を角速度センサー素子(振動ジャイロ素子)として利用する実施例について説明する。
外形がH型の振動片は、基部一端から互いに並行に延びる一対の振動部としての駆動用振動腕と、それとは反対側に延びる一対の振動部としての検出用振動腕とを有する。このうち一対の駆動用振動腕の主面には、駆動用振動腕の長手方向に溝が形成されている。溝は、各駆動用振動腕の第1の面に開口部を有する。また、溝は、駆動用振動腕の第1の面において開口部の中心を通って、且つ、駆動用振動腕の延伸方向に沿った仮想の線が、溝が形成される前の駆動用振動腕の重心を通って、且つ、駆動用振動腕の延伸方向に沿う仮想の線に対して並行するいずれかの方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。
駆動用振動腕の両主面(第1の面と第1の面の反対側の第2の面)、および、一方の主面の溝の側面と底面と、駆動用振動腕の側面には、ある瞬間において互いに極性が異なる駆動電極が設けられて、振動片を振動させる駆動電極を構成している。
【0058】
前記駆動電極に所定の交流電圧を印加すると、上記変形例と同様に駆動用振動腕の両主面と平行な方向に交互に電界が生じ、駆動用振動腕が電界の方向と同じ方向に屈曲振動する。
この状態で、振動片が振動方向に対して同一面内に直交する方向に沿った軸を中心に回転すると、その回転角速度ωに対して、その振動方向に対して面外方向に直交する向きに働くコリオリ力により、駆動用振動腕はコリオリ力の働く方向に応力を受けてその応力の働く方向に振動する。この振動が検出用振動腕をその共振振動数で振動させ、これを電気信号として検出用電極により検出して、振動片に印加された回転角速度およびその回転方向等を求める。
このような構成のH型の振動片(振動ジャイロ素子)は、一対の駆動用振動腕で駆動するため励振効率が向上してCl値を抑えることができるとともに、駆動用振動腕と検出用振動腕とが基部の反対側の端部からそれぞれ延出されているため、駆動電極と検出電極の分離がし易く、また、検出用の電極を大きくとれるので、検出感度を向上させることができる。
【0059】
次に、基部の一端から三つ以上の振動部が延出された構成の振動片の一例として、三脚タイプの振動片を角速度センサー素子(振動ジャイロ素子)として利用する例について説明する。
三脚タイプの振動片は、基部と、基部の一端から互いに並行させて延出された三つの振動腕を有している。例えば、基部から並行させて延びた三つの振動腕のうち、両端の二つの振動腕を駆動用の振動腕として利用し、二つの駆動用の振動腕の間に挟まれて延びる振動腕を検出用の振動腕として用いる。
二つの駆動用の振動腕のそれぞれには、振動腕の延伸方向に沿って細長く形成された溝が設けられている。溝は、駆動用の各振動腕の第1の面に開口部を有し、各振動腕の第1の面において開口部の中心を通って且つ各振動腕の延伸方向に沿った仮想の線が、溝が形成される前の各振動腕の重心を通って、且つ、振動腕の延伸方向に沿う仮想の線に対して平行するいずれかの方向に所定量ずれた位置に配置されて設けられている。
【0060】
三つの振動腕のうち、駆動用の二つの振動腕には励振用電極が設けられ、これらの振動腕が駆動用の振動腕(振動部)として利用される。
また、三つの振動腕の真ん中に配置された振動腕には検出用電極が形成され、この振動腕は検出用の振動腕(振動部)として利用される。励振用電極に電気信号±Vが加えられることにより、駆動用の振動腕が励振されて第1の面の面内方向に機械的に振動させ、また、検出用電極は、検出用の振動腕の機械的振動を電気検出済み信号に変換することができる。
【0061】
なお、三つの振動腕の使い方はこれに限らず、二つの駆動用の振動腕と一つの検出用の振動腕となるように電極を形成すればよい。例えば、隣接する二つの振動腕を駆動用の振動腕とし、この他の振動腕を検出用の振動腕として利用できるように電極を形成すれば、駆動用の振動腕が近接することによって駆動振動のQ値が大きくなることにより駆動振動のCl値が低減され、それに伴って消費電流の抑制を図ることができる。
【0062】
以上、説明した外形がH型の振動片や三脚タイプの振動片の構成においても、振動腕(駆動用振動腕)に、上記実施形態および変形例の振動片20,320の溝2,3,302,303と同様な構成の溝を設けることにより、振動部としての振動腕の断面形状が非対称であることに起因する不要な振動成分を相殺して、検出精度や温度特性の劣化を抑制し高感度で安定した検出精度を有する振動片(振動ジャイロ素子)を提供することができる。
【0063】
(第2の実施形態)
〔ジャイロセンサー〕
次に、本発明の振動片を搭載したジャイロセンサーについて、図面を参照しながら説明する。
図8は、上記変形例2の振動片320を備えたジャイロセンサーを示す模式図であり、(a)は、振動片320の第1の面301a側(上側)から俯瞰した平面図、(b)は、正断面図である。
なお、図8(a)では、リッド(蓋体)を便宜上省略してある。また、上記実施形態との共通部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
図8に示すように、ジャイロセンサー100は、上記変形例2の振動片320と、振動片320の駆動回路および検出回路を少なくとも有する半導体回路素子としてのICチップ40と、振動片320およびICチップ40とを収容するパッケージ60とを備えている。
【0065】
パッケージ60は、平板状の第1層基板61と、開口部の大きさが異なる矩形環状の第2層基板62、第3層基板63、および第4層基板64とがこの順に積層されている。第2層基板62から第4層基板64まで上方にいくにしたがって開口部の大きさが大きくなっていることから、パッケージ60の内部には段差を有する凹部が形成されている。なお、パッケージ60を構成する第1層基板61〜第4層基板64には、セラミックグリーンシートを成形したものが広く利用され、例えば焼成した酸化アルミニウム質焼結体などが用いられている。
【0066】
パッケージ60の凹部の凹底面となる第1層基板61の上面にはICチップ40が図示しないダイアタッチ材により接着・固定されている。
ICチップ40には、能動面40a側にトランジスターやメモリー素子などの半導体素子を含んで構成される集積回路(図示せず)が形成されている。この集積回路には、振動片320を駆動振動させるための駆動回路と、角速度が加わったときに振動片320に生じる検出振動を検出する検出回路とが備えられている。また、ICチップ40の能動面40a側には、集積回路から引き出され集積回路と外部との電気的な接続を図る複数の電極パッド45が設けられている。
ICチップ40の各電極パッド45は、パッケージ60の凹部の第2層基板62により形成された段部に設けられた対応するIC接続端子65とボンディングワイヤー95を介して電気的に接続されている。なお、ICチップ40とパッケージ60との電気的な接続は、本実施形態のワイヤーボンディングを用いた方法に限らず、例えば、電極パッド45に半田などのバンプを設けてIC接続端子に直接接合するフェースダウン接合などの他の接合方法を用いることができる。
【0067】
パッケージ60の凹部の第3層基板63により形成された段部には振動片320が接合されるマウント電極66が設けられている。
振動片320は、基部321に設けられた外部接続端子(図示せず)を、パッケージ60の対応するマウント電極66に位置合わせした状態で導電性接着材などの接合部材97を介してマウント電極66に接合されている。これにより、振動片320は、パッケージ60の凹部において、ICチップ40の上方に隙間を介して片持ち支持される。
なお、パッケージ60に設けられるIC接続端子65やマウント電極66などの電極、端子、およびそれらを接続する配線は、例えば、タングステン(W)などのメタライズ層に、ニッケル(Ni)、金(Au)などの各被膜をメッキなどにより積層した金属被膜が用いられる。
【0068】
ジャイロセンサー100は、ICチップ40および振動片320がパッケージ60の内部に上記のように配置され収納された状態で、リッド70がシームリングや低融点ガラスなどの接合部材69を介してパッケージ60の上面に接合される。リッド70には、コバールなどの金属、ガラス、セラミックなどが用いられている。
これにより、パッケージ60の内部は、気密に封止される。なお、パッケージ60の内部は、振動片320の振動が阻害されないように、真空状態(真空度が高い状態)、または、不活性ガス雰囲気に保持されていることが好ましい。
【0069】
上記のように構成されたジャイロセンサー100は、上記変形例に記載の振動片320を備えているので、シリコンウェハーのエッチング異方性に起因する駆動振動と検出振動の機械結合が抑制され、安定した回転角速度の検出を行うことができる。このことから、ジャイロセンサー100は、撮像機器の手ぶれ補正や、GPS(Global Positioning System)衛星信号を用いた移動体ナビゲーションシステムにおける車両などの姿勢検出、姿勢制御などに好適に用いられる。
【0070】
なお、本実施形態では、振動片320およびそれを制御するICチップ40を一組備えたジャイロセンサー100について説明したが、複数組の振動片およびICチップを搭載することにより、例えば複数軸方向の回転角速度の検出が可能な高性能なジャイロセンサーを提供することができる。
【0071】
(第3の実施形態)
〔電子機器〕
上記実施形態および変形例に記載の振動片を搭載した電子機器は、上記したようにコストの上昇を抑えながら振動特性の安定化が図られた振動片を備えているので、高性能化および低コスト化を図ることが可能である。
例えば、図9(a)は、デジタルビデオカメラへの適用例を示す。デジタルビデオカメラ240は、受像部241、操作部242、音声入力部243、および表示ユニット1001を備えている。このようなデジタルビデオカメラ240に、例えば、上記変形例2の振動片320を備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、所謂手ぶれ補正機能を搭載することができる。
また、図9(b)は、電子機器としての携帯電話機、図9(c)は、情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistants)への適用例をそれぞれ示すものである。
まず、図9(b)に示す携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、並びに表示ユニットと1002を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、表示ユニット1002に表示される画面がスクロールされる。
また、図9(c)に示すPDA4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、並びに表示ユニット1003を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が表示ユニット1003に表示される。
このような携帯電話機3000やPDA4000に、上記実施形態および変形例の振動片や、それを備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、様々な機能を付与することができる。例えば、図9(b)の携帯電話機3000に、図示しないカメラ機能を付与した場合に、携帯電話機3000に搭載された振動片やジャイロセンサー100により手ぶれ補正を行うことができる。また、図9(b)の携帯電話機3000や、図9(c)のPDA4000にGPS(Global Positioning System)として広く知られる汎地球測位システムを具備した場合に、上記実施形態および変形例の振動片や、それを備えたジャイロセンサー100を搭載することにより、GPSにおいて、携帯電話機3000やPDA4000の位置や姿勢を認識させることができる。
【0072】
なお、図9に示す電子機器に限らず、本発明の振動片、および、それを備えたジャイロセンサー100を適用可能な電子機器として、モバイルコンピューター、カーナビゲーション装置、電子手帳、電卓、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ゲーム機などが挙げられる。
【0073】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態およびその変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態および変形例では、振動片の形状が音叉型である例や、外形がH型、あるいは三脚タイプの振動片を説明したが、これに限らない。例えば、基部から一つの振動部(振動腕)が延伸されたビーム型の振動片や、振動部を4つ以上備えた振動片、あるいは、一つの基部に対して梁などを介して複数対の振動部が備えられた振動片(例えば、所謂ダブルT型の振動片)などであっても、本発明の振動部の外形と溝とを同時露光して形成する製造方法によれば、上述した実施形態および変形例に記載したものと同様な効果を得ることができる。
【0075】
また、上記実施形態および変形例では、一対の振動腕、例えば上記実施形態の振動片20の一対の振動腕22,23の両方共に溝2,3を設けたが、片側の振動腕にのみ溝を設ける構成としても、上記したようなシリコンのエッチング異方性に起因する振動漏れの抑制を図ることができる。これと同様に、3つ以上の振動腕を備えた振動片において、少なくとも一部の振動腕にのみ溝を設ける構成とすることもできる。
【0076】
また、上記変形例では、振動片を角速度センサー素子(振動ジャイロ素子)として利用した例について説明したが、これに限定するものではなく、例えば、加速度に反応する加速度感知素子、圧力に反応する圧力感知素子、重さに反応する重量感知素子などでもよい。
また、本発明の振動片は、振動ジャイロ素子などのセンサー素子に限らず、例えば、発振器などに用いられる共振子であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1,1´…シリコンウェハー、1a…第1の面、1b…第2の面、2,3,202,203…溝、20,220,320…振動片、21,321…基部、22,23…振動部としての振動腕、40…ICチップ、40a…能動面、45…電極パッド、60…パッケージ、61…第1層基板、62…第2層基板、63…第3層基板、64…第4層基板、65…IC接続端子、66…マウント電極、69,97…接合部材、70…リッド、95…ボンディングワイヤー、100…ジャイロセンサー、120a,120b…金属耐食膜、122a,122b…エッチングマスク、131a,131b…フォトレジスト膜、132,133…現像パターン、150…フォトマスク、152,153…露光パターン、240…電子機器としてのデジタルビデオカメラ、241…受像部、242…操作部、243…音声入力部、1001〜1003…表示ユニット、3000…電子機器としての携帯電話機、3001…複数の操作ボタン、3002…スクロールボタン、4000…電子機器としてのPDA、4001…複数の操作ボタン、4002…電源スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とを連結する一対の側面を有し、前記第1の面に溝が設けられた振動部と、を備えた振動片の製造方法であって、
シリコン基板の前記第1の面にフォトレジスト膜を形成する工程と、
同一のフォトマスクを用いて、前記フォトレジスト膜に前記基部および前記振動部の外形形状と、前記振動部の形成領域内に前記溝の開口部の形状と、を露光する工程と、
前記露光する工程の後で前記フォトレジスト膜を現像する工程と、
前記現像する工程でパターニングされた前記フォトレジスト膜をマスクにしてウェットエッチング法により前記外形形状および前記溝をエッチングする工程と、を含み、
前記エッチングする工程の後において、前記延伸の方向に平面視で直交する方向の前記振動部の幅は、前記第1の面側よりも前記第2の面側の方が大きく、且つ、前記溝の前記開口部は、平面視で前記側面の一方の側にずれて形成されることを特徴とする振動片の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片の製造方法において、
前記溝は、前記第1の面において前記開口部の中心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線が、前記溝が形成される前の前記振動部の重心を通り前記延伸の方向に沿った仮想の線に対してずれていることを特徴とする振動片の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の振動片の製造方法において、
前記エッチングする工程の後で、前記第2の面からエッチングする工程を有することを特徴とする振動片の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の振動片の製造方法において、
前記エッチングする工程は、前記第1の面および前記第2の面の両面から同時にエッチングすることを特徴とする振動片の製造方法。
【請求項5】
基部と、
前記基部から延伸し、且つ、第1の面、該第1の面の反対側にある第2の面、および前記第1の面と前記第2の面とに連結する一対の側面を有した振動部と、を備え、
前記基部および前記振動部はシリコン材料が用いられ、
前記振動部の前記第1の面には溝が設けられ、
前記溝は、開口部が平面視で前記側面の一方側にずれて設けられ、
前記延伸の方向に平面視で直交する方向の前記振動部の幅は、前記第1の面側よりも、前記第2の面側の方が大きいことを特徴とする振動片。
【請求項6】
請求項5に記載の振動片において、
前記溝の深さは、前記振動部の前記第1の面から前記第2の面までの厚みの半分よりも深いことを特徴とする振動片。
【請求項7】
請求項5または6に記載の振動片において、
前記振動部の少なくとも前記第1の面に励振手段が設けられていることを特徴とする振動片。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の振動片を備えたジャイロセンサー。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の振動片を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−5072(P2013−5072A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131904(P2011−131904)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】