説明

排ガス浄化装置

【課題】酸化触媒1の下流側に配置されたNOx 吸蔵還元触媒などに多くのNO2 を供給することで、PM、HC、NOx の低温浄化性能を向上させる。
【解決手段】酸化触媒1を、ゼオライトを含まない第1触媒層11と、ゼオライトを含み貴金属を含まないか貴金属量が少ない第2触媒層12と、貴金属を含む第3触媒層13とから構成した。
第1触媒層11においてNO2 がNOに還元される反応が抑制されるため、下流側に配置されたNOx 吸蔵還元触媒などに多量のNO2 を供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温域におけるHC及びNOx の浄化性能に優れた排ガス浄化装置に関する。本発明の排ガス浄化装置は、ディーゼルエンジンからの排ガスの浄化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の向上とCO2 排出量の削減の効果を有するために、リーンバーンエンジンが広く普及している。その代表的なものとして、ディーゼルエンジンがある。現在までに開発されているディーゼルエンジン用排ガス浄化装置としては、大きく分けてトラップ型の排ガス浄化装置(ウォールフロー)と、オープン型の排ガス浄化装置(ストレートフロー)とが知られている。
【0003】
このうちトラップ型の排ガス浄化装置としては、セラミック製の目封じタイプのハニカム体(パティキュレートフィルタ(以下 DPFという))が知られている。この DPFは、セラミックハニカム構造体のセルの開口部の両端を例えば交互に市松状に目封じしてなるものであり、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画するセル隔壁とよりなり、セル隔壁の細孔で排ガスを濾過してPMを捕集することで排出を抑制するものである。
【0004】
ところがリーンバーンエンジンからの排ガスは酸素過剰のリ−ン雰囲気であるために、通常の三元触媒などを用いたのではNOx を還元浄化することが困難である。さらにディーゼルエンジンからの排ガスは、ガソリンエンジンからの排ガスと比較すると50〜 100℃も低温であり、かつパティキュレート(PM)も含むため、排ガス浄化が難しいという問題がある。
【0005】
そこで近年では、特開平09−173866号公報などに記載されているように、DPFのセル隔壁及び細孔の表面にアルミナなどからコート層を形成し、そのコート層にPtなどを担持したフィルタ触媒が開発されている。また特開平06−159037号公報には、コート層にさらにNOx 吸蔵材を担持したフィルタ触媒が記載されている。このようにすればNOx 吸蔵材にNOx を吸蔵することができ、排ガス中に軽油などの還元剤を添加した還元雰囲気とすることで、吸蔵されたNOx を還元して浄化することが可能となる。
【0006】
ところが触媒金属とNOx 吸蔵材とを担持したコート層をもつフィルタ触媒では、圧損との兼ね合いからコート層の形成量には限界がある。そのため触媒金属を高分散で担持して高温時の粒成長を抑制するためには、触媒金属の担持量を少なくせざるを得ず、PM及びNOx の浄化性能が不足するという問題があった。また低温域の排ガスの流入が連続した場合などには、PM酸化活性が低いためにPMの堆積量が多く目詰まりによって圧損が上昇するという問題がある。
【0007】
そこで例えば特開2002−021544号公報には、フィルタ触媒の前段に酸化触媒あるいはNOx 吸蔵還元触媒を配置し、燃焼室へ燃料を噴射するポスト噴射あるいは排ガス中に燃料を添加することによって排ガス中にHCを供給して、酸化触媒あるいはNOx 吸蔵還元触媒における反応熱で DPFあるいはフィルタ触媒に堆積したPMを燃焼させるとともに、NOx を還元して浄化する技術が開示されている。
【0008】
このように排ガス中に軽油などの還元剤を添加する場合には、NOx 吸蔵還元触媒のNOx 吸蔵能が飽和状態となる前に還元剤を添加してNOx 吸蔵能力を回復させる必要がある。そのため低速での加減速時においても、還元剤を比較的短い間隔で添加する必要がある。しかしながら、このような場合は排ガス温度が比較的低温であり、還元剤の添加によって排ガス温度がさらに低下するため、還元剤とNOx との反応が起こりにくい。そのため添加された還元剤が未反応のままフィルタ触媒に付着し、担持されている触媒金属が被毒して活性が低下する。また付着した還元剤にPMが付着し、セルの前端面が閉塞するという問題がある。さらに軽油などの還元剤は高分子HCであるために、NOx との反応活性に乏しくNOx 吸蔵還元触媒の特性が十分に引き出せないという不具合もある。
【0009】
また排ガス中に添加された還元剤を改質し、改質されたHCによってNOx を還元浄化することも提案されている。例えば特開2002−295244号公報には、NOx 触媒として機能する銅−ゼオライト触媒と、酸化触媒として機能する白金系触媒と、 DPFとを、排ガス上流側から下流側にこの順で配置した排ガス浄化装置が開示されている。この排ガス浄化装置によれば、銅−ゼオライト触媒上に吸着した還元剤が改質されて活性の高いHCとなり、白金系触媒上でHCとNOとが反応する。これによりNOx が低減されるとともにHCが酸化除去される。そしてこの時の反応熱によって昇温された排ガスが DPFに流入するので、 DPFに堆積したPMが徐々に燃焼除去される。
【0010】
しかしこのような排ガス浄化装置を用いても、始動時あるいは低速での加減速時など排ガス温度が低温域にある場合には、還元剤の改質が十分に行われず所望の性能が得られないという問題があった。
【0011】
そこで特開2005−264868号公報には、フィルタ触媒の排ガス上流側にHCを吸着するHC吸着触媒を配置し、HC吸着触媒の排ガス上流側にさらに酸化触媒を配置した排ガス浄化装置が提案されている。この排ガス浄化装置によれば、低温域の排ガスであっても酸化触媒によって還元剤が部分酸化されて改質される。また改質されなかったとしても、還元剤はHC吸着触媒に吸着されるので、フィルタ触媒に還元剤が液体状態あるいは高分子状態で直接流入するのが防止され、前端面に還元剤が付着するのが防止される。したがってフィルタ触媒の端面閉塞を防止することができる。そして、昇温時にHC吸着触媒から放出された活性の高いHCによって、フィルタ触媒におけるNOx の還元が効率よく起きるので、NOx 浄化率が向上する。
【特許文献1】特開2002−021544号公報
【特許文献2】特開2002−295244号公報
【特許文献3】特開2005−264868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
DPF あるいはフィルタ触媒において、PMを低温域から酸化するには、酸化活性の高いNO2 を供給するのが有効であることが知られている。またNOx 吸蔵還元触媒では、排ガス中のNOは酸化によってNO2 となることでNOx 吸蔵材に吸蔵される。そしてNOx 選択還元触媒では、尿素などから生成するNH3 がNO2 を還元する。
【0013】
したがって排ガス中のNOx を低温域から効率良く浄化するためには、先ず排ガス中のNO2 量を増すことが重要である。自動車エンジンからの排ガスにおいては、 200℃程度の低温域ではNOに対するNO2 の比率が熱平衡的に高い。すなわち理論上では、多く存在するNO2 によって上記反応が生じ易いので、低温域においてPM又はNOx を効率良く浄化できる筈である。
【0014】
ところが特許文献3に記載された排ガス浄化装置の現状においては、 200℃程度の低温域におけるPM、HC及びNOx の浄化性能が低く、さらなる低温浄化性能の向上が求められている。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、下流側のDPF 、フィルタ触媒、NOx 吸蔵還元触媒、あるいはNOx 選択還元触媒に多くのNO2 を供給することで、PM、HC及びNOx の低温浄化性能を向上させることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本発明の排ガス浄化装置の特徴は、自動車の排ガス流路に配置され排ガス中のHCを吸着可能な細孔をもつ多孔体を含まない第1酸化物担体と第1酸化物担体に担持された貴金属とからなり酸化活性を有する第1触媒と、
排ガス中のHCを吸着可能な細孔をもつ多孔体を含む第2酸化物担体を含み、第1触媒の排ガス下流側に配置された第2触媒と、
第3酸化物担体と第3酸化物担体に担持された貴金属とからなり第2触媒の排ガス下流側に配置された酸化活性を有する第3触媒と、
第3触媒の排ガス下流側に配置され、NOx 吸蔵還元触媒、NOx 選択還元触媒、パティキュレートフィルタ及びフィルタ触媒から選ばれる少なくとも一つと、を備えたことにある。
【発明の効果】
【0017】
本願発明者らは、HC吸着触媒をDPF 、フィルタ触媒、NOx 吸蔵還元触媒、あるいはNOx 選択還元触媒の上流側に配置した排ガス浄化装置において、 200℃程度の低温域におけるPMあるいはNOx の浄化性能が理論と現状とで異なる原因を鋭意調査した。その結果、HC吸着触媒においてNO2 が還元されてNOとなる反応が生じ、酸化活性の高いNO2 量が減少するという事実が明らかとなった。
【0018】
そこで本発明の排ガス浄化装置では、多孔体(HC吸着材)を含まない酸化触媒である第1触媒と、多孔体(HC吸着材)を含む第2触媒と、酸化活性を有する第3触媒とを、排ガス上流側から下流側に向かってこの順で配置している。第1触媒では、多孔体(HC吸着材)を含んでいないため、NO2 がNOに還元される反応が生じにくく、NOがNO2 に酸化される反応が進行する。
【0019】
第2触媒では、HCが多孔体(HC吸着材)に吸着され、排ガスの雰囲気が酸化雰囲気となる。したがってNO2 がNOに還元される反応が生じにくい。
【0020】
そしてHCが第2触媒に吸着されることで還元雰囲気が緩和された、あるいは酸化雰囲気となった排ガスが第3触媒に流入するため、第3触媒ではNOの酸化反応がさらに進行する。また第2触媒においてNO2 が還元されたとしても、生成したNOは第3触媒で再び酸化されてNO2 となる。したがって酸化活性が高い多量のNO2 がNOx 吸蔵還元触媒、NOx 選択還元触媒、DPF 及びフィルタ触媒から選ばれる少なくとも一つに流入する。
【0021】
最下流にDPF 又はフィルタ触媒を配置した場合には、酸化活性の高いNO2 が多量に流入するため、低温域からPMを浄化することができる。さらに排ガス中に液体還元剤が添加された場合には、第1触媒によって還元剤が部分酸化されて改質される。また改質されなかったとしても、還元剤は第2触媒の多孔体(HC吸着材)に吸着されるので、DPF 又はフィルタ触媒に還元剤が液体状態あるいは高分子状態で直接流入するのが防止され、前端面に還元剤が付着するのが防止される。したがってDPF 又はフィルタ触媒の端面閉塞を防止することができる。そして改質されて生成した活性の高いHCがNOx の還元に消費されるので、HCの浄化性能も向上する。
【0022】
また最下流にNOx 吸蔵還元触媒を配置した場合には、多量に流入したNO2 がNOx 吸蔵材に吸蔵されるため、低温域から効率よくNOx を吸蔵することができる。最下流にNOx 選択還元触媒を配置した場合には、多量に流入したNO2 がNH3 によって還元されるため、低温域から効率よくNOx を浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の排ガス浄化装置は、第1触媒、第2触媒、第3触媒が排ガス上流側から下流側に向かってこの順に配置され、第3触媒の下流側には、NOx 吸蔵還元触媒、NOx 選択還元触媒、DPF 及びフィルタ触媒から選ばれる少なくとも一つが配置されてなる。
【0024】
第1触媒は、第1酸化物担体と、第1酸化物担体に担持された貴金属と、からなり、酸化活性を有する酸化触媒である。第1酸化物担体としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカなどの単品あるいは混合物を用いることができる。これらの複数種からなる複合酸化物を用いることもできる。また貴金属としては、Pt、Pd、Rhなどから選択して用いることができるが、酸化活性の高いPt、Pdが特に望ましい。
【0025】
第1触媒では、第1酸化物担体に排ガス中のHCを吸着可能な細孔をもつ多孔体を含まない。この多孔体としては、ゼオライトが代表的に例示される。ゼオライトとしては、例えばフェリエライト、ZSM-5、モルデナイト、Y型ゼオライト、β型ゼオライト、X型ゼオライト、L型ゼオライト、シリカライト、シリカゾルにテンプレート材を加えてゲルを形成し水熱合成した後焼成することで製造された合成ゼオライトなどの、ゼオライトを用いることができる。中でも、モルデナイト、β型ゼオライトなどが好ましい。またこれらのゼオライトを脱Al処理した改質ゼオライトを用いることもできる。脱Al処理としては、酸処理、沸騰水処理、スチーム処理などが知られている。また、Fe、Ag、Cu、Mnなどをイオン交換担持したゼオライトを用いることも可能である。
【0026】
第1触媒では、第1酸化物担体に多孔体を含まないことで、NOの酸化が効率よく進行しNOの大部分をNO2 とすることができる。もし第1酸化物担体に多孔体が含まれていると、後述の試験例で示すように、NO2 の還元反応が生じてNOが生成してしまう。また多孔体はHCを吸着するので、もし第1酸化物担体に多孔体が含まれていると、HCコーキング(HC被毒)によって貴金属の酸化活性が低下してしまう。しかし第1酸化物担体に多孔体を含まないことで、HCコーキングが抑制され、NOの酸化反応をより進行させることができる。
【0027】
第2触媒は、排ガス中のHCを吸着可能な細孔をもつ多孔体を含む第2酸化物担体を含んでいる。この多孔体としては、上記したゼオライト、改質ゼオライト、イオン交換ゼオライトなどを用いることができる。第2酸化物担体は、多孔体のみから構成してもよいし、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカなどの酸化物担体と多孔体との混合物を用いることもできる。
【0028】
第2触媒は、主としてHCを吸着することで排ガス中の還元成分量を低減し、NO2 がNOに還元されるのを抑制する。この機能は貴金属を必要としない。したがって第2触媒は、貴金属を含まないことが望ましい。このようにすれば、その分第1触媒あるいは第3触媒の貴金属量を増加することができ、NOの酸化活性がさらに向上する。また第2触媒は、第2酸化物担体に担持した形態で貴金属を含んでもよい。しかしこの場合は、後述の試験例で示すように、ゼオライトの特性と貴金属によってNO2 の還元反応が生じやすくなるため、第1触媒における貴金属の担持濃度より低い担持濃度とすることが望ましい。なお貴金属の種類は、特に制限されない。
【0029】
第3触媒は、第3酸化物担体と、第3酸化物担体に担持された貴金属と、からなる。第3酸化物担体としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカ、ゼオライトなどの単品あるいは混合物を用いることができる。これらの複数種からなる複合酸化物を用いることもできる。第2触媒でHCが吸着されたことで、酸化性雰囲気あるいは低次の還元性雰囲気となった排ガスが第3触媒に流入するので、NO2 が還元されるのが防止される。したがって第3酸化物担体には、ゼオライトを用いることもできる。
【0030】
また貴金属としては、Pt、Pd、Rhなどから選択して用いることができるが、酸化活性の高いPt、Pdが特に望ましい。
【0031】
第1触媒、第2触媒及び第3触媒は、それぞれ独立した触媒を用いてもよいが、一つの担体基材を用い、その触媒層として各触媒を形成することが望ましい。すなわち、ストレートフロー構造のハニカム基材の排ガス流入側端面から所定長さ範囲に第1触媒からなる第1触媒層を形成し、第1触媒層の下流側に第1触媒からなる第2触媒層を所定長さで形成し、第2触媒層の下流側端部から排ガス流出側端面までの範囲に第3触媒からなる第3触媒層を形成する。このようにすれば、ハニカム基材の個数が低減され、組付工数も低減される。
【0032】
ハニカム基材としては、コージェライト、SiC メタルなどから形成された従来と同様のものを用いることができる。また各触媒層の形成には、従来から行われているウォッシュコート法を利用することができる。
【0033】
第1触媒層、第2触媒層、第3触媒層の形成範囲は、ハニカム基材の全長に対して、第1触媒層は1/4〜1/2の範囲に、第2触媒層は1/4〜1/2の範囲に、第3触媒層は1/4〜1/2の範囲に形成することが好ましい。各触媒層の形成範囲がそれぞれの下限値より短いと、各触媒層の機能が十分に発現されなくなり、第3触媒層から流出する排ガス中のNO2 量が少なくなる。
【0034】
なお第1触媒、第2触媒、第3触媒を各々個別に製造した場合には、各触媒の容量(嵩容積)が上記比率となるようにすればよい。
【0035】
第3触媒の排ガス下流側には、NOx 吸蔵還元触媒、NOx 選択還元触媒、DPF 及びフィルタ触媒から選ばれる少なくとも一つが配置されている。NOx 吸蔵還元触媒は、アルミナなどの酸化物担体に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属などから選ばれるNOx 吸蔵材とPtなどの貴金属とを担持してなるものであり、排ガスがリーン雰囲気でNOx 吸蔵材にNOx を吸蔵し、間欠的にリッチ雰囲気とすることでNOx 吸蔵材からNOx を放出させるとともに、放出されたNOx を還元浄化する。NOはNO2 となって初めてNOx 吸蔵材に吸蔵されるので、流入する排ガス中のNO2 /NO比が高いほどNOx 吸蔵量が多くなる。
【0036】
NOx 選択還元触媒としては、排ガス中に尿素水などを添加し生成するNH3 によってNOx を還元するNH3 脱硝触媒が代表的に例示される。このNH3 脱硝触媒では、NO2 /NOの比が1以上でNH3とより反応しやすいので、流入する排ガス中のNO2 /NO比が高いほどNOx の還元効率が向上する。
【0037】
DPF 及びフィルタ触媒は、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画し多数の細孔を有する多孔質のセル隔壁と、を有するウォールフロー構造をなし、セル隔壁表面及びその細孔にPMを捕集する。捕集されたPMは、酸化活性の高いNO2 によって低温域でも酸化可能である。したがって流入する排ガス中のNO2 /NO比が高いほどPMの浄化性能が向上する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例と試験例により本発明を具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
図1に本実施例の排ガス浄化装置を示す。この排ガス浄化装置は2Lのディーゼルエンジン 100の排気管に装着されてなり、酸化触媒1と、NH3 脱硝触媒2とが排ガス上流側から下流側に向かってこの順に配置されている。酸化触媒1とNH3 脱硝触媒2の間には、排ガス中に尿素水を添加する尿素インジェクタ 101が配置されている。なおNH3 脱硝触媒2の下流には、図示しないフィルタ触媒が配置されてPMを浄化可能となっている。
【0040】
酸化触媒1は、図2に拡大して示すように、ハニカム基材10を基材とし、その排ガス流入側端面から50mmの範囲に第1触媒層11が形成され、第1触媒層10の下流側端部から50mmの範囲に第2触媒層12が形成され、第2触媒層12の下流側端部から排ガス流出側端面までの50mmの範囲に第3触媒層13が形成されている。
【0041】
以下、酸化触媒1の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0042】
先ず、コージェライト製のハニカム基材10(直径 129mm、長さ 150mm、セル数 400/in2 、セル壁厚さ 0.1mm、2リットル)を用意した。
【0043】
次にγ-Al2O3粉末とアルミナゾルを含むスラリーを調製し、上記ハニカム基材10の排ガス流入側端面から50mmの範囲をスラリーに浸漬した後に引き上げ、乾燥後に焼成して第1触媒層11に対応するアルミナコート層を形成した。アルミナコート層は、ハニカム基材10の1リットルあたり75g形成された。
【0044】
次にγ-Al2O3粉末 100質量部と、βゼオライト粉末 100質量部と、アルミナゾルを含むスラリーを調製し、ハニカム基材10の排ガス流出側端面から 100mmの範囲をスラリーに浸漬した後に引き上げ、乾燥後に焼成して、第2触媒層12及び第3触媒層13に対応するアルミナ・ゼオライトコート層を形成した。アルミナ・ゼオライトコート層は、ハニカム基材10の1リットルあたり 150g形成された。
【0045】
続いて所定濃度のジニトロジアンミン白金薬液を用意し、アルミナコート層が形成されている範囲を浸漬後に引き上げ乾燥後に焼成してPtを担持し、第1触媒層11を形成した。第1触媒層11におけるPtの担持量は、ハニカム基材10の1リットルあたり 2.5gである。
【0046】
さらに所定濃度のジニトロジアンミン白金薬液を用意し、ハニカム基材10の排ガス流出側端面から50mmの範囲を浸漬した後に引き上げ乾燥後に焼成してPtを担持し、第3触媒層13を形成した。第3触媒層13におけるPtの担持量は、ハニカム基材10の1リットルあたり 2.5gである。
【0047】
したがって第2触媒層12には、Ptが担持されていない。なお酸化触媒1の全体としては、Ptは4g担持されている。
【0048】
次にNH3 脱硝触媒2の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0049】
酸化触媒1で用いたものと同じハニカム基材10に、ゼオライトを主体としたスラリーを用いて触媒コート層を形成した。触媒コート層の形成量は、ハニカム基材10の1リットルあたり 150gである。次に、硝酸鉄水溶液を用いて触媒コート層全体にFeを均一に担持した。Feの担持量は、Feとしてハニカム基材10の1リットルあたり2gである。
【0050】
(実施例2)
図3に示すように、NH3 脱硝触媒2に代えて、NOx 吸蔵還元触媒3を用いたこと以外は実施例1と同様である。なお酸化触媒1の排ガス上流側には、排ガス中に軽油を添加する軽油インジェクタ102 が配置され、尿素インジェクタ 101は配置されていない。
【0051】
NOx 吸蔵還元触媒は、ハニカム基材10の1リットルあたり 270g形成された、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリアの混合物からなるコート層と、コート層に均一に担持されたPt、Li、Ba、Kからなる。各触媒金属のハニカム基材10の1リットルあたりの担持量は、Ptが2g、Liが 0.2モル、Baが 0.1モル、Kが 0.1モルである。
【0052】
(比較例1)
酸化触媒1で用いたものと同じハニカム基材10に、γ-Al2O3粉末 100質量部と、βゼオライト粉末 100質量部と、アルミナゾルを含むスラリーを均一にウォッシュコートし、乾燥後に焼成してアルミナ・ゼオライトコート層を形成した。アルミナ・ゼオライトコート層は、ハニカム基材10の1リットルあたり 150g形成された。このアルミナ・ゼオライトコート層に、均一にPtを担持した。Ptの担持量は、ハニカム基材10の1リットルあたり2gであり、実施例1と同様に、全体として4g担持されている。
【0053】
この酸化触媒を実施例1の酸化触媒1と置き換えたものを比較例1の排ガス浄化装置とした。
【0054】
(比較例2)
比較例1と同様の酸化触媒を実施例2の酸化触媒1と置き換えたものを比較例2の排ガス浄化装置とした。
【0055】
<試験例1>
実施例1における酸化触媒1から、第1触媒層11のみを有する長さ50mmの部分を切り出し、試料1とした。また第3触媒層13のみを有する長さ50mmの部分を切り出し、試料2とした。
【0056】
試料1及び試料2の触媒をそれぞれディーゼルエンジンのエンジンベンチに配置し、入りガス温度 400℃で排ガスを流通させながら、触媒の上流側で排ガス中に所定量の軽油を所定時間添加した。そのときの流入排ガス中のNO濃度(流入NO)と、流出排ガス中のNO濃度(流出NO)を連続的に測定した。試料1の結果を図4に、試料2の結果を図5に示す。なお図4及び図5には、流入排ガス中のHC濃度変化と触媒床温の変化も示している。
【0057】
図4及び図5において、流出排ガス中のNO濃度と流入排ガス中のNO濃度との差(図の斜線部の面積に相当)に着目すると、軽油添加時には触媒床温度が 200℃以下に低下していること、流出排ガス中のNO濃度が流入排ガス中のNO濃度より高いことがわかる。これは、試料中においてNO2 が還元されたことを意味する。そしてこの差は、試料1より試料2の方が大きいことから、試料1ではNO2 の還元反応が試料2より抑制されていることが明らかであり、ゼオライトを含まないことによって、低温域におけるNO2 の還元反応を抑制できることが明らかである。
【0058】
<試験例2>
実施例1及び比較例1の排ガス浄化装置において、先ず酸化触媒1を 700℃で20時間保持する熱耐久を行い、熱耐久後の各酸化触媒1をNH3 脱硝触媒2の上流側に配置した。
【0059】
ディーゼルエンジン 100をエンジン回転数 2000rpmで運転し、入りガス温度 400℃で10分間の前処理を行った後、エンジン回転数 1800rpm定常運転にて、酸化触媒1への入りガス温度 180℃、入りガスのHC濃度 300ppmCに設定し、尿素インジェクタ 101から濃度35%の尿素水を入りガス中のNO2 と当量となるように添加しながら10分間運転した。その際の、酸化触媒1からの出ガスを分析してNO2 /NOx 比を算出した。またNH3 脱硝触媒2からの出ガスを分析し、HC浄化率とNOx 浄化率をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0060】
<試験例3>
実施例2及び比較例2の排ガス浄化装置において、試験例2と同様に酸化触媒1を熱耐久した。熱耐久後の各酸化触媒1をNOx 吸蔵還元触媒の上流側に配置した。
【0061】
ディーゼルエンジン 100をエンジン回転数 2000rpmで運転し、入りガス温度 300℃に設定して、A/F が14になるように軽油インジェクタから軽油を10分間噴射する前処理を行った。その後、エンジン回転数 1800rpm定常運転にて、酸化触媒1への入りガス温度 180℃、入りガスのHC濃度 300ppmCに設定し、軽油を約 0.5cc/分の添加量となるように間欠的に噴射しながら10分間運転した。その際の、酸化触媒1からの出ガスを分析してNO2 /NOx 比を算出した。またNOx 吸蔵還元触媒3からの出ガスを分析し、HC浄化率とNOx 吸蔵量をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から、実施例1及び実施例2に係る酸化触媒1からの出ガスはNO2 /NOx 比が大きく、NO2 がNOに還元される反応が抑制されていることがわかる。これは、試験例1の結果を鑑みると、第1触媒層11、第2触媒層12、第3触媒層をこの順で配置したことによる効果であることが明らかである。
【0064】
そして実施例1及び実施例2の排ガス浄化装置では、低温域からHC及びNOx を効率よく浄化することができ、これは酸化触媒1からの出ガス中のNO2 濃度が高いことに起因していることが明らかである。
【0065】
(実施例3)
図6に本実施例の排ガス浄化装置を示す。本実施例の排ガス浄化装置は、NOx 吸蔵還元触媒2に代えてフィルタ触媒4を用いたこと以外は実施例2と同様である。
【0066】
本実施例の排ガス浄化装置によれば、酸化触媒1からの出ガスはNO2 /NOx 比が大きく、フィルタ触媒4に多量のNO2 が流入される。したがってフィルタ触媒4に堆積したPMを低温域から酸化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の排ガス浄化装置は、ディーゼルエンジンからの排ガス中で使用できるばかりでなく、ガソリンエンジンからの排ガス中でも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施例の排ガス浄化装置を模式的に示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例の排ガス浄化装置に用いた酸化触媒1の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施例の排ガス浄化装置を模式的に示すブロック図である。
【図4】時間と排ガス中の成分濃度との関係を示すグラフである。
【図5】時間と排ガス中の成分濃度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第3実施例の排ガス浄化装置を模式的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0069】
1:酸化触媒 2:NH3 脱硝触媒 10:ハニカム基材
11:第1触媒層 12:第2触媒層 13:第3触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の排ガス流路に配置され排ガス中の炭化水素を吸着可能な細孔をもつ多孔体を含まない第1酸化物担体と該第1酸化物担体に担持された貴金属とからなり酸化活性を有する第1触媒と、
排ガス中の炭化水素を吸着可能な細孔をもつ多孔体を含む第2酸化物担体を含み、該第1触媒の排ガス下流側に配置された第2触媒と、
第3酸化物担体と該第3酸化物担体に担持された貴金属とからなり該第2触媒の排ガス下流側に配置された酸化活性を有する第3触媒と、
該第3触媒の排ガス下流側に配置され、NOx 吸蔵還元触媒、NOx 選択還元触媒、パティキュレートフィルタ及びフィルタ触媒から選ばれる少なくとも一つと、を備えたことを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記多孔体はゼオライトである請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記第2触媒は、前記第1触媒における貴金属の担持濃度より低い担持濃度で前記第2酸化物担体に担持された貴金属を含む請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記第2触媒には貴金属を含まない請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記第1触媒、前記第2触媒及び前記第3触媒は、一つの担体基材にこの順に形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−273989(P2009−273989A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126260(P2008−126260)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】