説明

排気ガス浄化システム

【課題】排気ガス浄化装置50の再生に際して、前記排気ガス浄化装置50内の粒子状物質の過堆積を確実に防止する。
【解決手段】本願発明の排気ガス浄化システムは、コモンレール式エンジン70の排気経路77に配置された排気ガス浄化装置50と、前記排気ガス浄化装置50内の粒子状物質を燃焼除去するための再生装置70,81,82,117とを備える。ポスト噴射Eにて燃料を前記排気ガス浄化装置50内に供給するリセット再生モードを実行しても、前記排気ガス浄化装置50の詰り状態が改善しない場合は、ポスト噴射Eにて燃料を前記排気ガス浄化装置50内に供給し且つ前記エンジン70の回転速度Nを所定値(ハイアイドル回転速度)に維持する緊急再生モードを実行するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば建設機械、農作業機及びエンジン発電機といった作業機に搭載されるエンジンに対する排気ガス浄化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)に関する高次の排ガス規制が適用されるのに伴い、エンジンが搭載される建設機械、農作業機及びエンジン発電機等に、排気ガス中の大気汚染物質を浄化処理する排気ガス浄化装置を搭載することが要望されつつある。排気ガス浄化装置としては、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFという)が知られている(特許文献1及び2参照)。DPFは、排気ガス中の粒子状物質(以下、PMという)等を捕集するためのものである。この場合、DPFにて捕集されたPMが規定量を超えると、DPF内の流通抵抗が増大してエンジン出力の低下をもたらすため、排気ガスの昇温によってDPFに堆積したPMを除去し、DPFのPM捕集能力を回復させる(DPFを再生させる)こともよく行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−145430号公報
【特許文献2】特開2003−27922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンは例えば建設機械、農作業機並びにエンジン発電機といった多種多様な作業機に搭載される。このため、DPF付きエンジンにおいて、排気ガス温度を高めてDPF再生動作を実行したとしても、DPFの浄化能力が十分に回復しない場合(再生不十分な場合)があり得る。この点、DPF付きエンジンがコモンレール式のもの(燃料噴射装置がコモンレールタイプのもの)であれば、ポスト噴射にてDPF内に燃料を供給し燃焼させるという積極的な加熱によって、DPF再生を促進させることが可能である。
【0005】
しかし、例えばポスト噴射を実行しても十分な昇温作用を得られない運転状態が続いた場合は、DPF内にPMが過堆積する。かかる状況下でDPF再生動作を実行すると、過堆積したPMの急激な燃焼によってDPFに亀裂が入ったり溶損したりするといった弊害を招来する。従って、この種の排気ガス浄化システムでは、上記の状況に陥る前に、DPF内のPM過堆積を確実に防止することが必要になる。
【0006】
そこで、本願発明は、このような現状を検討して改善を施した排気ガス浄化システムを提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る排気ガス浄化システムは、コモンレール式エンジンの排気経路に配置された排気ガス浄化装置と、前記排気ガス浄化装置内の粒子状物質を燃焼除去するための再生装置とを備えており、ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給するリセット再生モードを実行しても、前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給し且つ前記エンジンの回転速度を所定値に維持する緊急再生モードを実行するように構成されているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記排気ガス浄化装置の詰り状態が規定水準以上になると作動する再生予告手段と、前記再生装置の作動を許可する再生許可入力手段とを備えており、前記リセット再生モードを実行しても前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、前記再生予告手段を作動させ、前記再生予告手段の作動下において前記再生許可入力手段の許可操作をしていれば、前記緊急再生モードを実行するように構成されているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記エンジンを搭載した作業機を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作手段を備えており、前記駐車ブレーキ操作手段の制動操作をしていない場合は、前記排気ガス浄化装置の詰り状態及び前記再生許可入力手段の操作状態に拘らず、前記緊急再生モードを実行しないように構成されているというものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちいずれかに記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記緊急再生モードの実行後に前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善した場合は、通常運転モードに戻るように構成されているというものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によると、コモンレール式エンジンの排気経路に配置された排気ガス浄化装置と、前記排気ガス浄化装置内の粒子状物質を燃焼除去するための再生装置とを備えており、ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給するリセット再生モードを実行しても、前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給し且つ前記エンジンの回転速度を所定値に維持する緊急再生モードを実行するように構成されているから、前記排気ガス浄化装置内の粒子状物質が暴走燃焼を招来しかねない過堆積の状態まで増加するのを防止でき、前記排気ガス浄化装置内で粒子状物質の暴走燃焼が生ずるのを抑制できる。従って、粒子状物質の過堆積に起因する前記排気ガス浄化装置や前記エンジンの故障を未然に防止できる。
【0012】
請求項2の発明によると、請求項1に記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記排気ガス浄化装置の詰り状態が規定水準以上になると作動する再生予告手段と、前記再生装置の作動を許可する再生許可入力手段とを備えており、前記リセット再生モードを実行しても前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、前記再生予告手段を作動させ、前記再生予告手段の作動下において前記再生許可入力手段の許可操作をしていれば、前記緊急再生モードを実行するように構成されているから、オペレータの意思がなければ前記緊急再生モードを実行しないことになる。このため、前記エンジンの回転速度が大幅に上昇する前記緊急再生モードにおいて、トルク変動の衝撃やエンジン音の変化を、オペレータが予め想定できる。従って、例えば前記エンジン搭載対象の作業機が急激に加速したりする不測の事態の招来を回避できる。
【0013】
請求項3の発明によると、請求項2に記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記エンジンを搭載した作業機を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作手段を備えており、前記駐車ブレーキ操作手段の制動操作をしていない場合は、前記排気ガス浄化装置の詰り状態及び前記再生許可入力手段の操作状態に拘らず、前記緊急再生モードを実行しないように構成されているから、オペレータが意図して前記作業機の走行及び各種作業を停止させない限り、前記緊急再生モードへの移行を禁止できる。このため、前記エンジンの回転速度が大幅に上昇する前記緊急再生モードにおいて、例えば前記作業機が急激に加速したりする不測の事態の招来を確実に回避できる。すなわち、前記緊急再生モード実行に対するインターロック構造(誤作動防止構造)として、より高い効果を発揮できる。
【0014】
請求項4の発明によると、請求項1〜3のうちいずれかに記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記緊急再生モードの実行後に前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善した場合は、通常運転モードに戻るように構成されているから、オペレータが例えばモード変更のための戻し操作等をする必要がない。従って、手間が省けてオペレータの操作負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エンジンの燃料系統説明図である。
【図2】エンジン及び排気ガス浄化装置の関係を示す機能ブロック図である。
【図3】燃料の噴射タイミングを説明する図である。
【図4】出力特性マップの説明図である。
【図5】計器パネルの説明図である。
【図6】DPF再生制御の流れを示すフローチャートの前半部である。
【図7】DPF再生制御の流れを示すフローチャートの後半部である。
【図8】割り込み処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
(1).エンジン及びその周辺の構造
まず、図1及び図2を参照しながら、エンジン70及びその周辺の構造を説明する。図2に示すように、エンジン70は4気筒型のディーゼルエンジンであり、上面にシリンダヘッド72が締結されたシリンダブロック75を備えている。シリンダヘッド72の一側面には吸気マニホールド73が接続されており、他側面には排気マニホールド71が接続されている。シリンダブロック75の側面のうち吸気マニホールド73の下方には、エンジン70の各気筒に燃料を供給するコモンレールシステム117が設けられている。吸気マニホールド73の吸気上流側に接続された吸気管76には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81とエアクリーナ(図示省略)とが接続される。
【0018】
図1に示すように、エンジン70における4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続される。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続されている。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続されている。コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して、4気筒分のインジェクタ115が接続されている。
【0019】
上記の構成において、燃料タンク118の燃料は燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、エンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、エンジン70の騒音振動を低減できる。
【0020】
図3に示すように、コモンレールシステム117は、上死点(TDC)を挟む付近でメイン噴射Aを実行するように構成されている。また、コモンレールシステム117は、メイン噴射A以外に、上死点より約60°以前のクランク角度θ1の時期に、NOx及び騒音の低減を目的として少量のパイロット噴射Bを実行したり、上死点直前のクランク角度θ2の時期に、騒音低減を目的としてプレ噴射Cを実行したり、上死点後のクランク角度θ3及びθ4の時期に、粒子状物質(以下、PMという)の低減や排気ガスの浄化促進を目的としてアフタ噴射D及びポスト噴射Eを実行したりするように構成されている。
【0021】
なお、図1に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して燃料タンク118に回収されることになる。
【0022】
排気マニホールド71の排気下流側に接続された排気管77には、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82と、排気ガス浄化装置の一例であるディーゼルパティキュレートフィルタ50(以下、DPFという)とが接続される。各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、排気管77、排気絞り装置82及びDPF50を経由して浄化処理をされてから外部に放出される。
【0023】
DPF50は、排気ガス中のPM等を捕集するためのものである。実施形態のDPF50は、耐熱金属材料製のケーシング51内にある略筒型のフィルタケース52に、例えば白金等のディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54とを直列に並べて収容してなるものである。実施形態では、フィルタケース52内のうち排気上流側にディーゼル酸化触媒53が配置され、排気下流側にスートフィルタ54が配置されている。スートフィルタ54は、多孔質な(ろ過可能な)隔壁にて区画された多数のセルを有するハニカム構造になっている。
【0024】
ケーシング51の一側部には、排気管76のうち排気絞り装置82より排気下流側に連通する排気導入口55が設けられている。ケーシング51の一端部は第1底板56にて塞がれ、フィルタケース52のうち第1底板56に臨む一端部は第2底板57にて塞がれている。ケーシング51とフィルタケース52との間の環状隙間、並びに両底板56,57間の隙間には、ガラスウールのような断熱材58がディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54の周囲を囲うように充填されている。ケーシング51の他側部は2枚の蓋板59,60にて塞がれていて、これら両蓋板59,60を略筒型の排気排出口61が貫通している。また、両蓋板59,60の間は、フィルタケース52内に複数の連通管62を介して連通する共鳴室63になっている。
【0025】
ケーシング51の一側部に形成された排気導入口55には排気ガス導入管65が挿入されている。排気ガス導入管65の先端は、ケーシング51を横断して排気導入口55と反対側の側面に突出している。排気ガス導入管65の外周面には、フィルタケース52に向けて開口する複数の連通穴66が形成されている。排気ガス導入管65のうち排気導入口55と反対側の側面に突出する部分は、これに着脱可能に螺着された蓋体67にて塞がれている。
【0026】
DPF50には、検出手段の一例として、DPF50内の排気ガス温度を検出するDPF温度センサ26が設けられている。実施形態のDPF温度センサ26は、ケーシング51及びフィルタケース52を貫通して装着されており、その先端はディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54との間に位置させている。
【0027】
また、DPF50には、検出手段の一例として、スートフィルタ54の詰まり状態を検出する差圧センサ68が設けられている。実施形態の差圧センサ68は、DPF50内におけるスートフィルタ54を挟んだ上下流間の圧力差(差圧)を検出するものである。この場合、排気ガス導入管65の蓋体67に、差圧センサ68を構成する上流側排気圧センサ68aが装着され、スートフィルタ54と共鳴室63との間に、下流側排気圧センサ68bが装着されている。DPF50上下流間の圧力差とDPF50内のPM堆積量との間に一定の法則性があることはよく知られている。実施形態では、差圧センサ68にて検出される圧力差からDPF50内のPM堆積量を推定し、当該推定結果に基づいて吸気絞り装置81並びにコモンレール120を作動させることにより、スートフィルタ54の再生制御(DPF再生制御)が実行される。
【0028】
なお、スートフィルタ54の詰まり状態を検出するのは、差圧センサ68に限らず、DPF50内におけるスートフィルタ54上流側の圧力を検出する排気圧センサであってもよい。排気圧センサを採用した場合は、スートフィルタ54にPMが堆積していない新品時のスートフィルタ54上流側の圧力(基準圧力)と、排気圧センサにて検出された現在の圧力とを比較することによって、スートフィルタ54の詰まり状態を判断することになる。
【0029】
上記の構成において、エンジン5からの排気ガスは、排気導入口55を介して排気ガス導入管65に入って、排気ガス導入管65に形成された各連通穴66からフィルタケース52内に噴出し、フィルタケース52内の広い領域に分散したのち、ディーゼル酸化触媒53からスートフィルタ54の順に通過して浄化処理される。排気ガス中のPMは、この段階でスートフィルタ54における各セル間の多孔質な仕切り壁を通り抜けできずに捕集される。その後、ディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過した排気ガスが排気排出口61から放出される。
【0030】
排気ガスがディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過するに際して、排気ガス温度が再生境界温度(例えば約300℃程度)を超えていれば、ディーゼル酸化触媒53の作用にて、排気ガス中のNO(一酸化窒素)が不安定なNO(二酸化窒素)に酸化する。そして、NOがNOに戻る際に放出するO(酸素)にて、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去することにより、スートフィルタ54のPM捕集能力が回復(DPF50が再生)することになる。
【0031】
(2).エンジンの制御関連の構成
次に、図1、図3及び図4等を参照しながら、エンジン70の制御関連の構成を説明する。図1に示す如く、エンジン70における各気筒の燃料噴射バルブ119を作動させるECU11を備えている。ECU11は、各種演算処理や制御を実行するCPU31の他、各種データを予め固定的に記憶させたROM32、制御プログラムや各種データを書換可能に記憶するEEPROM33、制御プログラムや各種データを一時的に記憶するRAM34、時間計測用のタイマ35、及び入出力インターフェイス等を有しており、エンジン70又はその近傍に配置される。
【0032】
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13、エンジン70の回転速度(クランク軸74のカムシャフト位置)を検出するエンジン速度センサ14、インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の回数)を検出及び設定する噴射設定器15、アクセル操作具(図示省略)の操作位置を検出するスロットル位置センサ16、吸気経路中の吸気温度を検出する吸気温度センサ17、排気経路中の排気ガス温度を検出する排気温度センサ18、エンジン70の冷却水温度を検出する冷却水温度センサ19、コモンレール120内の燃料温度を検出する燃料温度センサ20、後述する緊急再生モードの実行の可否を選択操作する再生許可入力手段としての緊急スイッチ21、差圧センサ68(上流側排気圧センサ68a及び下流側排気圧センサ68b)、DPF50内の排気ガス温度を検出するDPF温度センサ26、DPF50再生動作を禁止する再生禁止入力手段としての再生禁止ボタン27、並びに、作業機を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作手段29の入り切り状態(制動状態か否か)を検出する駐車ブレーキ検出手段30等が接続されている。
【0033】
ECU11の出力側には、少なくとも4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。
【0034】
また、ECU11の出力側には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82、ECU11の故障を警告報知するECU故障ランプ22、DPF50内における排気ガス温度の異常高温を報知する異常高温報知手段としての排気温度警告ランプ23、DPF50再生動作に伴い点灯する再生ランプ24、及び、再生禁止ボタン27の押し操作(禁止操作)中に作動する再生禁止報知手段としての再生禁止ランプ28が接続されている。各ランプ22〜24,28の明滅に関するデータは予めECU11のEEPROM33に記憶されている。詳細は後述するが、再生ランプ24は、DPF50の詰り状態が規定水準以上になると作動する再生予告手段としての役割と、DPF50再生動作中である旨を報知する再生報知手段としての役割とを兼ねる単一の表示具を構成している。なお、図4に示すように、緊急スイッチ21、再生禁止ボタン27及び各ランプ22〜24,28は、エンジン70搭載対象の作業機にある計器パネル40に設けられている。
【0035】
緊急スイッチ21はオルタネイト動作タイプのものである。すなわち、緊急スイッチ21は、1回押下するとその押下位置でロックされ、もう1回押下すると元の位置に復帰するロック形のプッシュスイッチである。後述するリセット再生モードを実行してもDPF50の詰り状態が改善しない場合において緊急スイッチ21を押下していれば、後述する緊急再生モードに移行し得るように構成されている。再生禁止ボタン27はモーメンタリ動作タイプのものである。すなわち、再生禁止ボタン27は、1回の押下で1つのONパルス信号を発するノンロックタイプのプッシュスイッチである。オペレータが再生禁止ボタン27を押下している間は、エンジン70における現状の駆動状態を維持して、自動補助再生モード及びリセット再生モードの実行を禁止するように構成されている。オペレータが再生禁止ボタン27を押下している間は、排気ガス温度が上昇するようなエンジン70の強制駆動及びポスト噴射をさせないのである。
【0036】
ECU11のEEPROM33には、エンジン70の回転速度NとトルクT(負荷)との関係を示す出力特性マップM(図3参照)が予め記憶されている。出力特性マップMは実験等にて求められる。図3に示す出力特性マップMでは、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。出力特性マップMは、上向き凸に描かれた実線Tmxで囲まれた領域である。実線Tmxは、各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。この場合、エンジン70の型式が同じであれば、ECU11に記憶される出力特性マップMはいずれも同一(共通)のものになる。図3に示すように、出力特性マップMは、排気ガス温度が再生境界温度(約300℃程度)の場合における回転速度NとトルクTとの関係を表した境界ラインBLによって上下に分断される。境界ラインBLを挟んで上側の領域は、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去できる(酸化触媒53の酸化作用が働く)再生可能領域であり、下側の領域は、PMが酸化除去されずにスートフィルタ54に堆積する再生不能領域である。
【0037】
ECU11は基本的に、出力特性マップMと、エンジン速度センサ14にて検出される回転速度Nと、スロットル位置センサ16にて検出されるスロットル位置とに基づき、トルクTを演算して目標燃料噴射量を求め、当該演算結果に基づきコモンレールシステム117を作動させるという燃料噴射制御を実行する。ここで、燃料噴射量は、各燃料噴射バルブ119の開弁期間を調節して、各インジェクタ115への噴射期間を変更することによって調節される。
【0038】
(3).DPF再生制御の態様
次に、図6〜図8のフローチャート等を参照しながら、ECU11によるDPF50再生制御の一例について説明する。さて、エンジン70の制御モード(DPF50再生に関する制御形式)としては少なくとも、路上走行や各種作業をする通常運転モードと、DPF50の詰り状態が規定水準以上になると排気ガス温度を自動的に上昇させる自動補助再生モードと、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給するリセット再生モード(強制再生モードと言ってもよい)と、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給すると共に、エンジン70の回転速度Nをハイアイドル回転速度に維持する緊急再生モードと、エンジン70を必要最低限の駆動状態にする(作業機に必要最低限の走行機能を確保させる)リンプホームモードとがある。
【0039】
自動補助再生モードでは、差圧センサ68の検出情報に基づき、吸気絞り装置81及び排気絞り装置82の少なくとも一方を所定開度まで閉弁することによって、吸気量や排気量を制限する。そうすると、エンジン70負荷が増大するので、これに連動してエンジン70出力を増大させ、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる。その結果、DPF50(スートフィルタ54)内のPMを燃焼除去できることになる。
【0040】
リセット再生モード(強制再生モード)は、自動補助再生モードを実行してもDPF50の詰り状態が改善しない(PMが残留する)場合や、エンジン70の累積駆動時間Teが設定時間T0(例えば約100時間程度)を超過した場合に実行されるものである。当該リセット再生モードでは、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給し、当該燃料をディーゼル酸化触媒53にて燃焼させることによって、DPF50内の排気ガス温度を上昇させる(約560℃程度)。その結果、DPF50(スートフィルタ54)内のPMを強制的に燃焼除去できることになる。
【0041】
緊急再生モードは、リセット再生モードを実行してもDPF50の詰り状態が改善しない場合に実行されるものである。当該緊急再生モードでは、前述のリセット再生モードの制御態様(ポスト噴射Eの実行)に加えて、エンジン70の回転速度Nをハイアイドル回転速度(最高回転速度)に維持することによって、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させた上で、DPF50内でもポスト噴射Eにて排気ガス温度を上昇させる(約600℃程度)。その結果、リセット再生モードよりも更に好条件の下で、DPF50(スートフィルタ54)内のPMを強制的に燃焼除去できることになる。
【0042】
リンプホームモードは、緊急再生モードを実行してもDPF50の詰り状態が改善せずPMが過堆積(PMが暴走燃焼する可能性が高い状態)になっている場合や、DPF50内でPMの暴走燃焼が発生してしまった場合に実行されるものである。当該リンプホームモードでは、エンジン70出力(回転速度N及びトルクT)の上限、並びに、エンジン70の駆動可能時間を制限することによって、エンジン70を必要最低限の駆動状態に保持する。その結果、作業機を例えば作業場所から脱出させたり販売店・サービスセンタに移動させたりできる。つまり、作業機に必要最低限の走行機能を確保できることになる。
【0043】
上記の各モードに関する説明から分かるように、例えばエンジン70、吸気絞り装置81、排気絞り装置82並びにコモンレールシステム117等がDPF50再生動作に関与する部材である。これら70,81,82,117がDPF50内のPMを燃焼除去するための再生装置を構成している。
【0044】
図6〜図8に示すように、これら各モードはECU11の指令に基づき実行される。すなわち、図6〜図8のフローチャートにて示すアルゴリズムは、EEPROM33に記憶されている。そして、当該アルゴリズムをRAM34に呼び出してからCPU31にて処理することによって、前述の各モードが実行されることになる。大まかに言って、図6に示すS01〜S06のステップが通常運転モードに相当し、S08のステップが自動補助再生モードに相当する。図6に示すS16のステップがリセット再生モードに相当し、図7に示すS22のステップが緊急再生モードに相当する。そして、図7に示すS26のステップがリンプホームモードに相当する。
【0045】
図6及び図7のフローチャートに示すように、DPF50再生制御では、まずエンジン70の累積駆動時間Teが設定時間T0以上か否かを判別する(S01)。この段階では通常運転モードが実行されている。実施形態の設定時間T0は例えば約100時間程度に設定される。なお、エンジン70の累積駆動時間Teは、エンジン70が駆動している間、ECU11におけるタイマ35の時間情報を用いて計測され、EEPROM33に格納・蓄積される。
【0046】
累積駆動時間Teが設定時間T0以上であれば(S01:YES)、後述するステップS11へ移行する。累積駆動時間Teが設定時間T0未満であれば(S01:NO)、次いで、差圧センサ68からの検出結果に基づきDPF50内のPM堆積量を推定し、当該推定結果が規定量(規定水準)以上か否かを判別する(S02)。PM堆積量が規定量未満と判断した場合は(S02:NO)、ステップS01に戻って通常運転モードを続行する。実施形態の規定量は例えば8g/lに設定される。PM堆積量が規定量以上と判断した場合は(S02:NO)、タイマ35の時間情報に基づく計測を開始して再生ランプ24を低速点滅させることによって(S03)、オペレータにDPF50再生動作(自動補助再生モード)の実行を予告する。この場合、再生ランプ24の点滅周波数は例えば1Hzに設定される。
【0047】
次いで、再生禁止ボタン27が押し操作(禁止操作)中か否かを判別し(S04)、押し操作中であれば(S04:ON)、再生禁止ランプ28を点灯させ(S05)、その後ステップS03に戻る。このため、S03〜S05のステップでは、PM堆積量が規定量以上であるにも拘らず、エンジン70の制御モードが通常運転モードのままであり、エンジン70における現状の駆動状態が維持されることになる。すなわち、自動補助再生モードへの移行(DPF50再生動作、若しくは再生装置の作動と言ってもよい)が禁止されるのである。また、再生禁止ボタン27を押し操作している間は、再生禁止ランプ28の点灯にて、DPF50再生動作(自動補助再生モード)を禁止している事実をオペレータの視覚にも訴えており、オペレータの注意を確実に喚起させている。
【0048】
ステップS04において、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ(S04:OFF)、再生ランプ24低速点滅開始から所定時間(例えば10秒)経過したか否かを判別する(S06)。所定時間が経過していなければ(S06:NO)、そのままステップS03に戻る。所定時間が経過したら(S06:YES)、再生禁止ランプ28を消灯させる一方で、低速点滅していた再生ランプ24を点灯させてから(S07)、自動補助再生モードを実行する(S08)。
【0049】
このようにDPF50再生予告と、その後のDPF50再生報知(再生装置作動中の事実)とを、再生ランプ24の明滅態様を異ならせることによって表示すると、DPF50再生予告によって、その後に生ずるトルクT変動の衝撃やエンジン70音の変化を、オペレータは前もって想定できる。また、DPF50再生報知によって、オペレータは、DPF50再生動作への移行も簡単に把握できる。従って、DPF50再生動作に起因するオペレータの違和感をなくせる。しかも、再生ランプ24の明滅態様だけで、DPF50再生予告とDPF50再生報知とを区別して認識できるので、DPF50再生動作の有無を把握し易い。その上、再生予告手段及び再生報知手段をそれぞれ設ける必要がなく、この種の表示具のコスト削減にも寄与できる。
【0050】
自動補助再生モードでは前述の通り、吸気絞り装置81及び排気絞り装置82の少なくとも一方を用いた吸気量や排気量の制限によって、エンジン70負荷を増大させ、これに伴いエンジン70出力を増大させて、排気ガス温度を上昇させる。その結果、DPF50内のPMが燃焼除去され、DPF50のPM捕集能力が回復する。実施形態の自動補助再生モードは、例えば約20分程度実行され、当該時間の経過後、吸気絞り装置81や排気絞り装置82の開度がこれを狭める前の元の状態に戻る。
【0051】
自動補助再生モードの実行後は再び、差圧センサ68からの検出結果に基づきDPF50内のPM堆積量を推定し、当該推定結果が許容量以下か否かを判別する(S09)。PM堆積量が許容量以下と判断した場合は(S09:YES)、再生ランプ24を消灯させて自動補助再生モードの終了を報知し(S10)、ステップS01に戻って通常運転モードを実行する。実施形態の許容量は例えば4g/lに設定される。PM堆積量が許容量を超過していると判断した場合は(S09:NO)、自動補助再生モードを実行したにも拘らず、DPF50内のPMが十分除去されていない(詰り状態が改善しない)状態にあるので、タイマ35の時間情報に基づく計測を開始して再生ランプ24を低速点滅させ(S11)、オペレータにDPF50再生動作(リセット再生モード)の実行を予告する。この場合、再生ランプ24の点滅周波数は、自動補助再生モードの場合と同様に、例えば1Hzに設定される。
【0052】
次いで、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し(S12)、押し操作中であれば(S04:ON)、再生禁止ランプ28を点灯させ(S13)、その後ステップS11に戻る。従って、S11〜S13のステップでは、DPF50の詰り状態が改善しないにも拘らず、エンジン70における現状の駆動状態が維持され、リセット再生モードへの移行が禁止される。またこの場合も、再生禁止ボタン27を押し操作している間は、再生禁止ランプ28の点灯にて、DPF50再生動作(リセット再生モード)禁止の事実をオペレータの視覚にも訴えており、オペレータの注意を確実に喚起させている。
【0053】
ステップS12において、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ(S12:OFF)、再生ランプ24低速点滅開始から所定時間(例えば10秒)経過したか否かを判別する(S14)。所定時間が経過していなければ(S14:NO)、そのままステップS11に戻る。所定時間が経過したら(S14:YES)、再生禁止ランプ28を消灯させる一方で、低速点滅していた再生ランプ24を点灯させてから(S15)、リセット再生モードを実行する(S16)。
【0054】
リセット再生モードでは前述の通り、コモンレールシステム117のポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給し、当該燃料をディーゼル酸化触媒53にて燃焼させることによって、DPF50内の排気ガス温度を上昇させる。その結果、DPF50内のPMが強制的に燃焼除去され、DPF50のPM捕集能力が回復する。実施形態のリセット再生モードは、例えば約30分程度実行され、当該時間の経過後、コモンレールシステム117がポスト噴射Eを行わなくなる。なお、リセット再生モードを実行したら、エンジン70の累積駆動時間Teは一旦リセットされ、タイマ35の時間情報を用いて新たに計測される。
【0055】
リセット再生モードの実行後は、DPF温度センサ26にて検出されたDPF50内の排気ガス温度TPが予め設定された下限温度TP0以下か否かを判別する(S17)。下限温度TP0は、再生境界温度(例えば300℃程度)を下回る温度になっている。すなわち、下限温度TP0としては、PMが酸化除去されずにスートフィルタ54に堆積する再生不能な温度が採用される。実施形態の下限温度TP0は、例えば約250℃程度に設定される。DPF50内の排気ガス温度TPが下限温度TP0を超えていれば(S17:NO)、ステップS10に移行して再生ランプ24を消灯させ、リセット再生モードの終了を報知する。そして、ステップS01に戻って通常運転モードを実行する。
【0056】
DPF50内の排気ガス温度TPが下限温度TP0以下ならば(S17:YES)、リセット再生モードを実行したにも拘らず、排気ガス温度が上がらずにDPF50内のPMを除去できていない(詰り状態が改善しない)状態にある。そこで、再生ランプ24を高速点滅させ(S18)、オペレータにDPF50再生動作(緊急再生モード)の実行を予告する。この場合、再生ランプ24の点滅周波数は、自動補助再生モード及びリセット再生モードの場合と異なる周波数に設定される。例えば緊急再生モード予告用の再生ランプ24の点滅周波数は2Hzに設定される。
【0057】
次いで、緊急スイッチ21と駐車ブレーキ操作手段29との両方が入り状態か否かを判別する(S19)。これは、緊急再生モードにおいてエンジン70の回転速度Nを大幅に高めるため、オペレータが意図して作業機の走行及び各種作業を停止させない限り、緊急再生モードへの移行を禁止することを意図したものである。緊急スイッチ21と駐車ブレーキ操作手段29との両方が入り状態であれば(S19:YES)、高速点滅していた再生ランプ24を点灯させてから(S21)、緊急再生モードを実行する(S22)。なお、緊急スイッチ21だけの入り切り状態を判別したり、駐車ブレーキ操作手段29だけの入り切り状態を判別したりしても差し支えない。但し、緊急スイッチ21と駐車ブレーキ操作手段29との両方が揃うことによって、緊急再生モード実行に対するインターロック構造(誤作動防止構造)としてはより効果を発揮する。
【0058】
緊急再生モードでは前述の通り、コモンレールシステム117のポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給し、当該燃料をディーゼル酸化触媒53にて燃焼させる。これに加えて、コモンレールシステム117の電子制御にて各気筒への燃料の噴射状態を調節し、エンジン70の回転速度Nをハイアイドル回転速度(最高回転速度)に維持する。このため、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させた上で、DPF50内でもポスト噴射Eにて排気ガス温度を上昇させることになる(約600℃程度)。その結果、リセット再生モードよりも更に好条件の下で、DPF50内のPMを強制的に燃焼除去でき、DPF50のPM捕集能力を回復できる。実施形態の緊急再生モードは、例えば約15分程度実行され、当該時間の経過後、コモンレールシステム117がポスト噴射Eを行わなくなると共に、各気筒への燃料の噴射状態を調節して、エンジン70の回転速度Nをハイアイドル固定前の元の回転速度に戻す。
【0059】
緊急再生モードの実行後は、DPF温度センサ26にて検出されたDPF50内の排気ガス温度TPが下限温度TP0以下か否かを判別する(S23)。DPF50内の排気ガス温度TPが下限温度TP0を超えていれば(S23:NO)、ステップS10に移行して再生ランプ24を消灯させ、緊急再生モードの終了を報知する。そして、ステップS01に戻って通常運転モードを実行する。
【0060】
DPF50内の排気ガス温度TPが下限温度TP0以下ならば(S23:YES)、リセット再生モードを実行したにも拘らず、排気ガス温度が上がらずにDPF50の詰り状態が改善しないPM過堆積の状態にある。この場合はPM暴走燃焼の可能性が懸念されるため、リンプホームフラグLFをセットしてから(LF=1、S24)、リンプホームモードを実行する(S25)。リンプホームモードでは前述の通り、エンジン70出力(回転速度N及びトルクT)の上限値Nmx,Tmx、並びに、エンジン70の駆動可能時間Tmxを制限することによって、エンジン70を必要最低限の駆動状態に保持する。その結果、作業機において必要最低限の走行機能を確保できる。
【0061】
なお、リンプホームフラグLFは、過去にリンプホームモードを実行したか否かの事実に対応するものであり、ECU11に通信端末線を介して接続される外部ツール(例えば販売店・サービスセンタにある)を用いない限り、リセットされない設定になっている。従って、一旦リンプホームモードを実行したら、販売店・サービスセンタにて点検整備してリンプホームフラグLFをリセットしないと、他のモードへの復帰ができなくしているのである。
【0062】
また、リンプホームモードでは、エンジン70における現状の回転速度N及びトルクTが上限閾値Nmx,Tmxより大きい場合に、エンジン70の回転速度N及びトルクTを上限閾値Nmx,Tmxまで徐々に低下させるように設定されている。このため、リンプホームモードに移行した場合に、回転速度N及びトルクTが急激に変化(低下)のを防止して、リンプホームモード実行時におけるオペレータの違和感をなくし、オペレータが対応できずにエンジンストールを招くといった問題を回避できるのである。
【0063】
ところで、ステップS19において、緊急スイッチ21と駐車ブレーキ操作手段29との両方が入り状態でなければ(S19:NO)、再生ランプ24高速点滅開始から所定時間(例えば30分)経過したか否かを判別する(S20)。所定時間が経過していなければ(S20:NO)、そのままステップS18に戻る。所定時間が経過していたら(S20:YES)、緊急再生モードを実行すべきにも拘らずそれを怠っているため、DPF50内はPM過堆積の状態にあると解される。そこで、リンプホームフラグLFをセットしてから(LF=1、S24)、リンプホームモードを実行することになる(S25)。
【0064】
さて、実施形態のECU11は、DPF50再生制御の実行中に、図8に示す割り込み処理を実行するように構成されている。当該割り込み処理は、適宜時間間隔にてDPF温度センサ26の検出結果をチェックするというものである。この場合、図8のフローチャートに示すように、リンプホームフラグLFがリセットされているか否かを判別し(S31)、リンプホームフラグLFがセット状態であれば(S31:NO)、未だにリンプホームモードから他のモードへ復帰できない状態なので、ステップS25に移行し、リンプホームモードを実行する。
【0065】
リンプホームフラグLFがリセット状態であれば(S31:YES)、DPF温度センサ26にて検出されたDPF50内の排気ガス温度TPが予め設定された異常温度TPexを超えているか否かを判別し(S32)、異常温度TPexを超えている場合に(S32:YES)、異常高温報知手段としての排気温度警告ランプ23を点灯させてから(S33)、リンプホームフラグLFをセットする(S34)。そして、ステップS25に移行してリンプホームモードを実行するのである。実施形態の異常温度TPexは、例えば約800℃程度に設定される。DPF50内の排気ガス温度TPが異常温度TPexを超える状態とは過堆積のPMが暴走燃焼したものと解され、この場合はDPF50が破損(溶損)したり、過剰なエミッション(大気汚染物質)を排出したりするおそれがある。そこで、速やかにリンプホームモードに移行させるのである。
【0066】
なお、差圧センサ68の検出結果から異常差圧が生じているか否かを判別し、異常差圧が生じている場合にリンプホームモードに移行するという割り込み処理も採用できる。異常差圧が生じている場合は、PM暴走燃焼の可能性が懸念されるPM過堆積の状態にあると解される。従って、この場合も、速やかにリンプホームモードに移行させるのが望ましいのである。
【0067】
(4).まとめ
上記の記載並びに図1、図5及び図6から明らかなように、エンジン70の排気経路77に配置された排気ガス浄化装置50と、前記排気ガス浄化装置50内の粒子状物質を燃焼除去するための再生装置70,81,82,117と、前記排気ガス浄化装置50の詰り状態が規定水準以上になると作動する再生予告手段24と、前記再生装置70,81,82,117が作動中である旨を報知する再生報知手段24とを備えており、前記再生装置70,81,82,117を作動させる前に前記再生予告手段24が作動するように構成されているから、前記再生予告によって、その後に生ずるトルクT変動の衝撃や前記エンジン70音の変化を、オペレータは前もって想定できる。また、前記再生報知によって、オペレータは、前記排気ガス浄化装置50再生動作への移行も簡単に把握できる。従って、前記排気ガス浄化装置50再生動作に起因するオペレータの違和感をなくせるという効果を奏する。例えば、オペレータが前記エンジン70音を頼りに実行する緻密作業を阻害しかねない前記排気ガス浄化装置50再生動作の欠点を補えることになる。
【0068】
上記の記載並びに図1、図5及び図6から明らかなように、前記再生予告手段24及び前記再生報知手段24は単一の表示具24からなっており、再生予告と再生報知とを異なる態様にて表示するように構成されているから、前記単一の表示具を用いたものでありながら、前記異なる態様によって前記再生予告と前記再生報知とを区別して認識できることになる。このため、オペレータが前記排気ガス浄化装置50再生動作の有無を把握し易いという効果を奏する。その上、前記再生予告手段24及び前記再生報知手段24をそれぞれ個別に設ける必要がなく、この種の表示具24のコスト削減にも寄与できる。
【0069】
上記の記載並びに図1、図5及び図6から明らかなように、前記排気ガス浄化装置50の再生動作を禁止する再生禁止入力手段27を備えており、前記再生禁止入力手段27の禁止操作中は、前記排気ガス浄化装置50の詰り状態に拘らず、前記再生装置70,81,82,117を作動させない(前記排気ガス浄化装置50の再生動作を禁止する)ように構成されているから、前記エンジン70搭載対象の作業機の状態等に応じ、オペレータの意思によって、前記排気ガス浄化装置50の再生動作を禁止できる。このため、前記排気ガス浄化装置50の粒子状物質捕集能力を回復させる再生制御を自動的に実行できるものでありながら、オペレータが前記エンジン70音を頼りに実行する緻密作業をスムーズに行えるという効果を奏する。つまり、前記緻密作業を阻害しかねない前記排気ガス浄化装置50再生動作の欠点をなくせるのである。
【0070】
上記の記載並びに図1、図5及び図6から明らかなように、前記再生禁止入力手段27の禁止操作中に作動する再生禁止報知手段28を備えているから、前記再生禁止入力手段27を禁止操作している間は、前記再生禁止報知手段28の報知にて、前記排気ガス浄化装置50再生動作を禁止している事実をオペレータの視覚にも訴えることができ、オペレータの注意を確実に喚起できる。前記再生禁止報知手段28の状態を確認することで、再生禁止中か否かを容易に確認できるという利点もある。
【0071】
上記の記載並びに、図1、図6及び図7から明らかなように、コモンレール式エンジン70の排気経路77に配置された排気ガス浄化装置50と、前記排気ガス浄化装置50内の粒子状物質を燃焼除去するための再生装置70,81,82,117とを備えており、ポスト噴射Eにて燃料を前記排気ガス浄化装置50内に供給するリセット再生モードを実行しても、前記排気ガス浄化装置50の詰り状態が改善しない場合は、ポスト噴射Eにて燃料を前記排気ガス浄化装置50内に供給し且つ前記エンジン70の回転速度Nを所定値(ハイアイドル回転速度)に維持する緊急再生モードを実行するように構成されているから、前記排気ガス浄化装置50内の粒子状物質が暴走燃焼を招来しかねない過堆積の状態まで増加するのを防止でき、前記排気ガス浄化装置50内で粒子状物質の暴走燃焼が生ずるのを抑制できる。従って、粒子状物質の過堆積に起因する前記排気ガス浄化装置50や前記エンジン70の故障を未然に防止できる。
【0072】
上記の記載並びに図1及び図5〜図7から明らかなように、前記排気ガス浄化装置50の詰り状態が規定水準以上になると作動する再生予告手段24と、前記再生装置70,81,82,117の作動を許可する再生許可入力手段21とを備えており、前記リセット再生モードを実行しても前記排気ガス浄化装置50の詰り状態が改善しない場合は、前記再生予告手段24を作動させ、前記再生予告手段24の作動下において前記再生許可入力手段21の許可操作をしていれば、前記緊急再生モードを実行するように構成されているから、オペレータの意思がなければ前記緊急再生モードを実行しないことになる。このため、前記エンジン70の回転速度Nが大幅に上昇する前記緊急再生モードにおいて、トルクT変動の衝撃や前記エンジン70音の変化を、オペレータが予め想定できる。従って、例えば前記エンジン搭載対象の作業機が急激に加速したりする不測の事態の招来を回避できる。
【0073】
上記の記載並びに図1及び図6〜図8から明らかなように、前記エンジン70を搭載した作業機を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作手段29を備えており、前記駐車ブレーキ操作手段29の制動操作をしていない場合は、前記排気ガス浄化装置50の詰り状態及び前記再生許可入力手段21の操作状態に拘らず、前記緊急再生モードを実行しないように構成されているから、オペレータが意図して前記作業機の走行及び各種作業を停止させない限り、前記緊急再生モードへの移行を禁止できる。このため、前記エンジン70の回転速度Nが大幅に上昇する前記緊急再生モードにおいて、例えば前記作業機が急激に加速したりする不測の事態の招来を確実に回避できる。すなわち、前記緊急再生モード実行に対するインターロック構造(誤作動防止構造)として、より高い効果を発揮できる。
【0074】
上記の記載並びに図1及び図6〜図8から明らかなように、前記緊急再生モードの実行後に前記排気ガス浄化装置50の詰り状態が改善した場合は、通常運転モードに戻るように構成されているから、オペレータが例えばモード変更のための戻し操作等をする必要がない。従って、手間が省けてオペレータの操作負担を軽減できる。
【0075】
上記の記載並びに図1、図7及び図8から明らかなように、エンジン70の排気経路77に配置された排気ガス浄化装置50を備えており、前記排気ガス浄化装置50内の排気ガス温度TPが異常温度TPex以上になると、前記エンジン70の回転速度N及びトルクTの上限閾値Nmx,Tmx、並びに、前記エンジン70の駆動可能時間を制限するリンプホームモードを実行するように構成されているから、前記排気ガス浄化装置50内で粒子状物質の暴走燃焼が生じたと考えられる状態では、前記リンプホームモードの実行によって、前記エンジン70を必要最低限の駆動状態に保持することになる。つまり、前記エンジンを搭載した作業機に必要最低限の走行機能を確保できる。従って、前記排気ガス浄化装置50の破損(溶損)や過度のエミッション排出を防止しながら、前記作業機を例えば作業場所から脱出させたり販売店・サービスセンタに移動させたりでき、前記作業機を安全な場所まで避難させることが可能になる。
【0076】
上記の記載並びに図1、図7及び図8から明らかなように、前記リンプホームモードの実行後は、前記エンジン70を再起動させても前記リンプホームモード以外のモードに移行不能に構成されているから、前記リンプホームモードを一旦実行したら、前記排気ガス浄化装置50の損傷可能性は高いが、例えば販売店・サービスセンタにて必ず点検整備することが必要になる。このため、前記排気ガス浄化装置50を損傷状態で使用するおそれを回避でき、過度のエミッション排出を防止できるという利点がある。
【0077】
上記の記載並びに図1、図7及び図8から明らかなように、前記リンプホームモードの実行中において、前記エンジン70における現状の回転速度N及びトルクTが前記上限閾値Nmx,Tmxより大きい場合は、前記エンジン70の回転速度N及びトルクTを前記上限閾値Nmx,Tmxまで徐々に低下させるように構成されているから、前記リンプホームモードに移行した場合に、前記回転速度N及び前記トルクTが急激に変化(低下)のを防止できる。このため、前記リンプホームモード実行時におけるオペレータの違和感をなくし、オペレータが対応できずにエンジンストールを招くといった問題を回避できるという効果を奏する。
【0078】
上記の記載並びに図1、図7及び図8から明らかなように、前記排気ガス浄化装置50内の排気ガス温度TPが異常温度TPex以上である場合に作動する異常高温報知手段23を備えているから、前記異常高温報知手段23の報知にて、オペレータに排気ガス温度異常(暴走燃焼)を知らせることができ、前記排気ガス浄化装置50の溶損といった被害の拡大を防止する一助になるという効果を奏する。
【0079】
(5).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
11 ECU
21 緊急スイッチ(再生許可入力手段)
23 排気温度警告ランプ(異常高温報知手段)
24 再生ランプ(再生予告手段兼再生報知手段)
26 DPF温度センサ
27 再生禁止ボタン(再生禁止入力手段)
28 再生禁止ランプ(再生禁止報知手段)
29 駐車ブレーキ操作手段
50 DPF(排気ガス浄化装置)
70 エンジン
117 コモンレールシステム
120 コモンレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモンレール式エンジンの排気経路に配置された排気ガス浄化装置と、前記排気ガス浄化装置内の粒子状物質を燃焼除去するための再生装置とを備えており、
ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給するリセット再生モードを実行しても、前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給し且つ前記エンジンの回転速度を所定値に維持する緊急再生モードを実行するように構成されている、
排気ガス浄化システム。
【請求項2】
前記排気ガス浄化装置の詰り状態が規定水準以上になると作動する再生予告手段と、前記再生装置の作動を許可する再生許可入力手段とを備えており、
前記リセット再生モードを実行しても前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、前記再生予告手段を作動させ、前記再生予告手段の作動下において前記再生許可入力手段の許可操作をしていれば、前記緊急再生モードを実行するように構成されている、
請求項1に記載した排気ガス浄化システム。
【請求項3】
前記エンジンを搭載した作業機を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作手段を備えており、
前記駐車ブレーキ操作手段の制動操作をしていない場合は、前記排気ガス浄化装置の詰り状態及び前記再生許可入力手段の操作状態に拘らず、前記緊急再生モードを実行しないように構成されている、
請求項2に記載した排気ガス浄化システム。
【請求項4】
前記緊急再生モードの実行後に前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善した場合は、通常運転モードに戻るように構成されている、
請求項1〜3のうちいずれかに記載した排気ガス浄化システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−236766(P2011−236766A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107345(P2010−107345)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】