接合構造材およびその製造方法
【課題】接合後のはんだ部材の内部の気泡を低減した接合構造体を提供する。
【解決手段】枠状に成形したはんだ部材13を第一接合部材11の接合面と第二接合部材12の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させることにより、第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体1を製造する。
【解決手段】枠状に成形したはんだ部材13を第一接合部材11の接合面と第二接合部材12の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させることにより、第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体1を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一接合部材と第二接合部材とをはんだ部材により接合した接合構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子と基板との間、あるいは基板と放熱板との間にペースト状のはんだ(以下、「はんだペースト」という。)を塗布し、昇温してはんだペーストに含まれる粒状のはんだを溶融し、その後降温してはんだペーストを凝固することにより、半導体素子と基板、あるいは基板と放熱板を接合する接合構造体は公知となっている。
また、はんだペースト自体が高価であることから、はんだペーストに代えてシート状はんだを使用する接合構造体も検討されている。
【0003】
このような接合構造体においては、溶融後凝固したはんだの内部に気泡(ボイド)が含まれていないことが要求される。これは、当該気泡が(A)放熱性の低下、すなわちはんだにより接合される部材間の熱伝導が阻害されること、あるいは(B)接合強度の低下、の要因となるからである。
特に、近年、IGBT等の半導体素子を具備する半導体モジュールは高電圧・大電流化が進み、該半導体素子の発熱量は増大する傾向にある。従って、半導体素子と基板、あるいは基板と放熱板を接合した接合構造体には優れた放熱性が要求される。
【0004】
当該気泡を除去または低減する方法としては、特許文献1および特許文献2に記載のいわゆる真空脱泡法が知られている。ここで、真空脱泡法は、はんだが溶融した状態で減圧してはんだの内部に巻き込まれた気泡を膨張させることにより、該気泡の大部分をはんだの外部に押し出し、次に加圧して残った一部の気泡を収縮させた状態ではんだを凝固させる方法である。
また、当該気泡を除去する別の方法としては、特許文献3に記載の方法が知られている。特許文献3に記載の方法は、はんだが溶融した状態で半導体素子を絶縁基板に対して傾斜させることにより気泡を除去する方法である。
【特許文献1】特開平5−283570号公報
【特許文献2】特開平6−69387号公報
【特許文献3】特開平10−322010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の方法は、溶融したはんだに巻き込まれた気泡が開いている場合、すなわち、気泡が溶融したはんだおよび半導体素子や基板等の接合面で完全に囲まれておらず、外部と連通している場合には有効でないという問題がある。
これは、気泡が外部と連通していると、該気泡内の圧力と外部の圧力とが常に略同じとなるため、当該気泡に減圧による気泡の膨張および加圧による気泡の収縮という真空脱泡法のメカニズムが作用しないからである。
そして、このような開いた気泡は、特に、半導体素子や基板の接合面とはんだとの濡れ性が低く、かつ、溶融時のはんだの粘度が高い場合に発生しやすい。
【0006】
また、特許文献3に記載の方法は、真空脱泡法に必要な減圧・加圧可能な容器を必要としない点では有効であるが、半導体素子を基板に対して傾斜させる際に半導体素子の位置精度に影響を与えるおそれがあるとともに、半導体素子を基板に対して傾斜させるための複雑な機構、または追加的な部材を必要とするという問題がある。
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑み、接合後のはんだ部材の内部の気泡を低減した接合構造体、および、接合後のはんだ部材の内部に巻き込まれた気泡を低減することが可能な接合構造体の製造方法、を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、
第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体であって、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させて構成したものである。
【0010】
請求項2においては、前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であるものである。
【0011】
請求項3においては、前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であるものである。
【0012】
請求項4においては、前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなるものである。
【0013】
請求項5においては、前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなるものである。
【0014】
請求項6においては、前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備するものである。
【0015】
請求項7においては、前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなるものである。
【0016】
請求項8においては、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容する準備工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温して、はんだを溶融する溶融工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する減圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する加圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温して、はんだ部材を凝固させる凝固工程と、
を具備するものである。
【0017】
請求項9においては、前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であるものである。
【0018】
請求項10においては、前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であるものである。
【0019】
請求項11においては、前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなるものである。
【0020】
請求項12においては、前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなるものである。
【0021】
請求項13においては、前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備するものである。
【0022】
請求項14においては、前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0024】
請求項1においては、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能である。
【0025】
請求項2においては、半導体素子と基板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0026】
請求項3においては、基板と放熱板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0027】
請求項4においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0028】
請求項5においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0029】
請求項6においては、接合前のはんだ部材の体積、ひいては接合後のはんだ部材の厚さを容易に調整することが可能である。
【0030】
請求項7においては、特に、溶融時の濡れ性が低く、かつ、粘度が高いはんだからなるはんだ部材であっても、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を容易に低減することが可能である。
【0031】
請求項8においては、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能である。
【0032】
請求項9においては、半導体素子と基板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0033】
請求項10においては、基板と放熱板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0034】
請求項11においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0035】
請求項12においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0036】
請求項13においては、接合前のはんだ部材の体積、ひいては接合後のはんだ部材の厚さを容易に調整することが可能である。
【0037】
請求項14においては、特に、溶融時の濡れ性が低く、かつ、粘度が高いはんだからなるはんだ部材であっても、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を容易に低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下では、図1、図2、図3、および図5を用いて本発明の接合構造体の実施の一形態である接合構造体1の全体構成について説明する。
図1に示す如く、接合構造体1は、第一接合部材の実施の一形態である基板11と、第二接合部材の実施の一形態である放熱板12と、はんだ部材の実施の一形態であるはんだ部材13と、を具備する。
【0039】
なお、本実施例の接合構造体1は、基板11を第一接合部材、放熱板12を第二接合部材とする接合構造体であるが、本発明の接合構造体はこれに限定されず、はんだ部材により二つの部材を接合したものを広く含むものとする。
本発明の接合構造体の他の実施例としては、IGBT(Insulated(またはInerted) Gate Bipolar Transistor)、GTOサイリスタ(Gate Turn Off Thyristor)、その他のダイオード等を含む半導体素子を第一接合部材、基板を第二接合部材とする接合構造体等が挙げられる。
【0040】
基板11は本発明の接合構造体に係る第一接合部材の実施の一形態であり、絶縁基板11aと回路パターン11b・11cと、を具備する。
【0041】
絶縁基板11aは絶縁性材料からなる板状の部材であり、該絶縁基板11aの上面側に実装される半導体素子(図示せず)と放熱板12とを絶縁しつつ、該半導体素子にて発生する熱を放熱板12に伝達することにより放熱するものである。
絶縁基板11aの具体例としては、紙フェノールやガラスエポキシ等の樹脂系の材料、あるいは、AlN等のセラミックスが挙げられる。
【0042】
回路パターン11b・11cは導電性材料からなり、それぞれ絶縁基板11aの上面および下面に形成される。回路パターン11b・11cは該絶縁基板11aの上面側に実装される半導体素子や他の実装部品等と外部との電流経路となるものである。
回路パターン11b・11cの具体例としては、銅やアルミニウム、あるいはこれらを母材とする合金等が挙げられる。回路パターン11b・11cの表面には耐食性、耐摩耗性、あるいは耐薬品性を向上させるためにニッケル等のメッキが施される。
なお、第一接合部材を半導体素子、第二接合部材を基板とする接合構造体であって、該基板に放熱板を接合しない場合には、該基板の半導体素子が接合されない方の板面の回路パターンは省略可能である。
【0043】
放熱板12は本発明の接合構造体に係る第二接合部材の実施の一形態であり、モリブデン、銅−モリブデン合金、あるいはモリブデンの表面に銅をコーティングしたもの、その他の金属材料からなる板状の部材である。放熱板12ははんだ部材13により基板11に接合され、基板11の熱を放熱板12に接触する冷却水路等に伝達することにより接合構造体1から放熱するものである。
【0044】
はんだ部材13は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の実施の一形態であり、基板11と放熱板12とを接合する部材である。言い換えれば、はんだ部材13は、接合構造体1の接合部を成す部材である。
はんだ部材13ははんだからなる。ここで、本出願に係る「はんだ」とは、錫(Sn)を母材とし、かつ、鉛(Pb)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)のうち、いずれか一つまたは二つ以上を添加材として含む合金を指すものとする。
また、「錫を母材とする」とは、錫がはんだの組成に必須であることを示すが、錫の重量比が他の添加材の重量比の合計よりも大きいことを要しない。すなわち、錫以外の添加材の合計が50wt%を超えても良い。
本出願に係るはんだの具体例としては、一般的な共晶はんだであるSn−Pb合金の他、Sn−Ag合金、Sn−Ag−Cu合金等の高融点の鉛フリーはんだ、錫−インジウム合金、Sn−Bi合金、Sn−In−Bi合金、Sn−In合金、Sn−Zn合金等の低融点の鉛フリーはんだが挙げられる。
このうち、特にSn−In合金、Sn−Zn合金は、いずれも溶融時の濡れ性が低く、かつ、溶融時の粘度が高いため、これらをはんだ部材13を構成するはんだとして用いた場合には、接合後のはんだ部材13に含まれる気泡を低減することが一般的には困難である。
【0045】
本実施例のはんだ部材13は一本の線状はんだからなり、該線状はんだを屈曲して成形したものである。はんだ部材13は、主に枠部13aと、余剰部13bとを具備する。
ここで、線状はんだとは、線状に成形されたはんだであり、通常はその内部に予めフラックスが含まれている。
枠部13aは、該一本の線状はんだの一端から中途部までを屈曲して略矩形の枠状に成形したものである。また、余剰部13bは、該線状はんだの中途部から他端までを屈曲して成形したものである。
【0046】
図2、図3および図5に示す如く、はんだ部材13は、基板11と放熱板12との間に配置される。
このとき、はんだ部材13の枠部13aは、第一接合部材たる基板11の接合面と第二接合部材たる放熱板12の接合面との間に形成される接合領域、すなわち、基板11の下面と放熱板12の上面とで挟まれ、かつ平面視で基板11と放熱板12とが重なる領域、の周縁部に沿って配置される。
また、はんだ部材13の余剰部13bは、基板11の接合面と放熱板12の接合面との間に形成される接合領域の略中央部に配置される。
【0047】
以下では、接合構造体1の製造方法の実施例について説明する。
図4に示す如く、接合構造体1の製造方法は、(1)準備工程と、(2)溶融工程と、(3)減圧工程と、(4)加圧工程と、(5)凝固工程とを具備する。以下、各工程について詳述する。
【0048】
図4の(1)に示す準備工程は、基板11と放熱板12との間にはんだ部材13を配置したもの、すなわち、図2および図5に示す状態の接合構造体1を不活性ガスで満たした容器(図示せず)に収容する工程である。ここで、不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガスや窒素ガス、およびこれらを混合したものが挙げられる。また、本実施例で使用される容器は、密閉容器であって該容器内の圧力および雰囲気温度を調整可能である。
図4に示す如く、本実施例の準備工程においては、容器内に基板11と放熱板12との間にはんだ部材13を配置したものを収容する。その後、図示せぬ真空ポンプによる容器内の真空引きおよび容器内への窒素ガスの供給を二回繰り返す。
準備工程が終了したら、溶融工程に移行する。
【0049】
図4の(2)に示す溶融工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に昇温して、はんだ部材13を溶融する工程である。
なお、本実施例の場合、溶融工程では容器内の雰囲気温度を約320℃まで昇温しているが、この温度に限定されるものではなく、はんだ部材13を構成するはんだの種類および組成により定まる液相線以上に昇温すれば良い。ここで、液相線とは、「溶融工程における容器内の圧力下において、はんだ部材13を構成するはんだが、平衡状態で全て液相と成り得る最低の温度」を指す。
また、溶融工程において、容器内の圧力を略一定に保持しつつ、該容器内に不活性ガスを所定の流量で供給することも可能である。
【0050】
図6に示す如く、溶融工程の途中ではんだ部材13が溶融し始めると、第一接合部材たる基板11の接合面と第二接合部材たる放熱板12の接合面との間に形成される接合領域、すなわち、基板11の下面と放熱板12の上面とで挟まれ、かつ平面視で基板11と放熱板12とが重なる領域、において溶融前のはんだ部材13が占めていない部分に存在する不活性ガスが、溶融したはんだ部材13、基板11の下面および放熱板12の上面に囲まれ、閉じ込められる。
【0051】
図7に示す如く、溶融工程の終期には、はんだ部材13の溶融が進み、はんだ部材13を構成するはんだが自己の表面張力および粘度に応じてある程度までは上記接合領域内を濡れ広がっていくが、上記溶融したはんだ部材13、基板11の下面および放熱板12の上面に囲まれ、閉じ込められた不活性ガスは、依然として気泡21・22・23として溶融したはんだ部材13の内部に残留する。
溶融工程が終了したら、減圧工程に移行する。
【0052】
図4の(3)に示す減圧工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する工程である。
ここで、減圧工程において「容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持する」とは、減圧工程が終了するまではんだ部材13が溶融した状態を保持することを指し、容器内の雰囲気温度を液相線以上の所定の温度で略一定に保持することを指すものではない。
また、「第一の圧力」は、溶融工程が終了した時点における容器内の圧力よりも低い圧力を指す。
なお、本実施例では溶融工程が終了した時点における容器内の圧力は常圧(約105Pa)であり、第一の圧力は103Paであるが、これに限定されるものではない。
【0053】
減圧工程では、溶融したはんだ部材13の内部に残留する気泡21・22・23の圧力が常圧であり、容器内の圧力が第一の圧力まで低下していく。その結果、気泡21・22・23内の不活性ガスと容器内の不活性ガスとの間に圧力差が生じる。言い換えれば、気泡21・22・23内の不活性ガスの圧力が、容器内の不活性ガスの圧力に比べて相対的に高くなっていく。
そのため、気泡21・22・23は膨張してはんだ部材13の外部、すなわち容器内の不活性ガスと連通し、気泡21・22・23内の不活性ガスの大部分ははんだ部材13の外部に勢いよく排出される。
従って、減圧工程の終期には、図8に示す如く、気泡21・22・23内の不活性ガスの一部のみが気泡21a・21b・22a・22b・23aとして溶融したはんだ部材13の内部に残留する。
減圧工程が終了したら、加圧工程に移行する。
【0054】
図4の(4)に示す加圧工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを流入させ、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する工程である。
ここで、加圧工程において「容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持する」とは、加圧工程が終了するまではんだ部材13が溶融した状態を保持することを指し、容器内の雰囲気温度を液相線以上の所定の温度で略一定に保持することを指すものではない。
また、「第二の圧力」は、前記第一の圧力よりも高い圧力を指す。なお、本実施例では第二の圧力は常圧(約105Pa)であるが、これに限定されるものではない。
【0055】
加圧工程では、溶融したはんだ部材13の内部に残留する気泡21a・21b・22a・22b・23aの圧力が第一の圧力であり、容器内の圧力が第二の圧力まで上昇していく。その結果、気泡21a・21b・22a・22b・23a内の不活性ガスと容器内の不活性ガスとの間に圧力差が生じる。言い換えれば、気泡21a・21b・22a・22b・23a内の不活性ガスの圧力が、容器内の不活性ガスの圧力に比べて相対的に低くなっていく。
従って、加圧工程の終期には、図9に示す如く、気泡21a・21b・22a・22b・23aは収縮してその体積が小さくなる。
加圧工程が終了したら、凝固工程に移行する。
【0056】
図4の(5)に示す凝固工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の固相線以下に降温して、はんだ部材13を凝固させる工程である。
ここで、固相線とは、「凝固工程における容器内の圧力下において、はんだ部材13を構成するはんだが平衡状態で全て固相と成り得る最高の温度」を指す。
凝固工程では、溶融したはんだ部材13の温度が下降していき、凝固する。その結果、はんだ部材13は基板11と放熱板12とを接合する。
なお、凝固工程における容器内の圧力は、はんだ部材13が凝固するまでに気泡21a・21b・22a・22b・23aが再び膨張することを防止するという観点から見て、第二の圧力以上に保持することが望ましい。
【0057】
なお、Sn−In合金、Sn−Zn合金は、いずれも溶融時の濡れ性が低く、かつ、溶融時の粘度が高いため、はんだ部材13を構成するはんだとしてSn−In合金またはSn−Zn合金を用いた場合には、接合後のはんだ部材13に含まれる気泡を低減することが一般的には困難である。
しかし、上記本実施例の接合構造体1の製造方法は、このような場合であっても、接合後のはんだ部材13に含まれる気泡を容易に低減することが可能であるという利点を有する。
【0058】
本実施例の接合構造体1の製造方法において、準備工程において接合構造体1を不活性ガスで満たした容器に収容する(容器内の雰囲気を不活性ガスに置換する)とともに、加圧工程において容器内に不活性ガスを供給するのは、溶融したはんだ部材13が酸化するのを防止するためである。
【0059】
また、溶融工程および加圧工程において、容器内に不活性ガスに代えて、水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスとを混合したものを供給することも可能である。
水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスとを混合したものが容器内に供給されると、特に基板11の下面、すなわち、回路パターン11cの表面に施されたニッケルメッキの表面の酸化物が水素と反応して還元され、該ニッケルメッキ表面の濡れ性が改善される。その結果、溶融したはんだ部材13が接合領域に濡れ広がりやすくなり、凝固後のはんだ部材13に最終的に含まれる気泡を更に低減することが可能である。
【0060】
以下では、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の形状について詳述する。
図3に示す如く、本実施例のはんだ部材13は、枠部13aと余剰部13bとを一体的に成形している。しかし、本発明の接合構造体におけるはんだ部材は、本実施例のはんだ部材13に限定されず、その他にも種々の実施形態を採ることが可能である。
以下、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例について説明する。
【0061】
図10に示すはんだ部材113は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。はんだ部材113がはんだ部材13と異なる点は、枠部113aと余剰部113bとを切り離して別体としている点である。このように、本発明の接合構造体におけるはんだ部材は、枠部と余剰部とが一体であっても、別体であっても良い。
ただし、本発明の接合構造体の製造方法における作業性を考慮すると、図3に示す如く枠部13aと余剰部13bとを一体的に成形することが望ましい。
【0062】
また、枠部13aを成す線状はんだの直径や枠部13aの周の長さによっては、はんだ部材13の余剰部13bを省略して枠部13aのみとすることが可能である。
すなわち、本実施例における第一接合部材である基板11の面積と接合後のはんだ部材13の厚さとの積で求められるはんだ部材13の体積が、枠部13aの体積と略等しい場合にははんだ部材13から余剰部13bを省略し、枠部13aの体積よりも大きい場合にははんだ部材13に余剰部13bを具備すればよい。
このように、余剰部13bの有無、および余剰部13bの長さで、接合前のはんだ部材13の体積、ひいては接合後のはんだ部材13の厚さを容易に調整することが可能である。
【0063】
図11に示すはんだ部材213、および、図12に示すはんだ部材313は、いずれも本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。
はんだ部材213は、略L字型に屈曲された二本の線状はんだであるはんだ片213aおよびはんだ片213bを組み合わせて枠状に成形したものである。
また、はんだ部材313は、四本の線状はんだであるはんだ片313a、はんだ片313b、はんだ片313cおよびはんだ片313dを組み合わせて枠状に成形したものである。
このように、本発明の接合構造体に係るはんだ部材は、複数の線状はんだを組み合わせて枠状に成形したものでも良い。
【0064】
図13に示すはんだ部材413は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。はんだ部材413は、一本の線状はんだを二重に巻いたリング状とし、さらにこれを適宜屈曲して枠状に成形したものである。
このように、枠状に成形されるはんだ部材は、接合領域の周縁部に二重に配置されても良い。
【0065】
図14に示すはんだ部材513は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。はんだ部材513は、基板11の平面視形状と略同じ形状のシート状はんだの略中央部を打ち抜いて枠状に成形したものである。
ここで、シート状はんだとは、シート状に成形されたはんだを指す。
このように、本発明の接合構造体に係るはんだ部材は、線状はんだだけでなく、シート状はんだを出発材とすることが可能である。
【0066】
以上の如く、はんだ部材13、はんだ部材113、はんだ部材213、はんだ部材313およびはんだ部材413は、いずれも単数または複数の線状はんだからなり、枠状に成形したはんだ部材である。
また、はんだ部材513は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなり、枠状に成形したはんだ部材である。
従って、はんだ部材13、はんだ部材113、はんだ部材213、はんだ部材313、はんだ部材413およびはんだ部材513は、いずれも、本発明の接合構造体に係るはんだ部材に含まれる。
【0067】
以上の如く、本発明の接合構造体は、
第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体であって、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させて構成したものである。
また、本発明の接合構造体の製造方法は、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容する準備工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温して、はんだを溶融する溶融工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する減圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する加圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温して、はんだ部材を凝固させる凝固工程と、
を具備するものである。
このように構成することにより、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能である。
【0068】
また、本発明の接合構造体の第一接合部材は半導体素子であり、第二接合部材は基板である。
このように構成することにより、半導体素子と基板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0069】
また、本発明の接合構造体の第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板である。
このように構成することにより、基板と放熱板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0070】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなるものである。
このように構成することにより、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0071】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなるものである。
このように構成することにより、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0072】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備するものである。
このように構成することにより、接合前のはんだ部材の体積、ひいては接合後のはんだ部材の厚さを容易に調整することが可能である。
【0073】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなるものである。
このように構成することにより、特に、溶融時の濡れ性が低く、かつ、粘度が高いはんだからなるはんだ部材であっても、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を容易に低減することが可能である。
【0074】
なお、本発明の接合構造体に係るはんだ部材は、より厳密には、「枠状に成形された結果、溶融工程ではんだ部材が溶融した時に、第一接合部材と、第二接合部材と、溶融したはんだ部材とで接合領域内の雰囲気(本実施例では不活性ガス)を閉じ込めることが可能である」ことが要件として求められる。
従って、図14に示すはんだ部材513の如く、基板11と放熱板12とはんだ部材513とで囲まれる空間が外部と遮断されていない場合であっても、上記要件を満たす場合がある。
すなわち、図11に示すはんだ部材213の如く、溶融前のはんだ片213aとはんだ片213bの端部が連結されておらず、はんだ部材213の溶融前には、基板11と、放熱板12とはんだ部材213とで囲まれる空間と、外部と、が連通する隙間G(図11に図示)が形成されていても、溶融したはんだ部材213が濡れ広がってはんだ片213aに由来する溶融状態のはんだと、はんだ片213bに由来する溶融状態のはんだとが繋がり、隙間Gが無くなれば、「溶融工程で枠状に成形されたはんだ部材が溶融した時に、第一接合部材と、第二接合部材と、溶融したはんだ部材とで接合領域内の雰囲気を閉じ込めることが可能である」という要件を満たす。図3に示すはんだ部材13、図10に示すはんだ部材113、図12に示すはんだ部材313、図13に示すはんだ部材413も同様である。
ただし、当該隙間Gがあまり大きいと上記要件を満たすことが不可能となる。よって、隙間Gの広さについては、はんだ部材を構成するはんだの組成、粘度、濡れ性、溶融時の温度等に応じて適宜選択する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の接合構造体の実施の一形態を示す側面図。
【図2】準備工程における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す側面一部断面図。
【図3】本発明の接合構造体の実施の一形態の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図4】本発明の接合構造体の製造方法の実施例における温度および圧力の変化を示す図。
【図5】準備工程における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図6】溶融工程の途中における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図7】溶融工程の終期における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図8】減圧工程の終期における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図9】加圧工程の終期における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図10】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図11】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図12】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図13】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図14】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【符号の説明】
【0076】
1 接合構造体
11 基板(第一接合部材)
12 放熱板(第二接合部材)
13 はんだ部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一接合部材と第二接合部材とをはんだ部材により接合した接合構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子と基板との間、あるいは基板と放熱板との間にペースト状のはんだ(以下、「はんだペースト」という。)を塗布し、昇温してはんだペーストに含まれる粒状のはんだを溶融し、その後降温してはんだペーストを凝固することにより、半導体素子と基板、あるいは基板と放熱板を接合する接合構造体は公知となっている。
また、はんだペースト自体が高価であることから、はんだペーストに代えてシート状はんだを使用する接合構造体も検討されている。
【0003】
このような接合構造体においては、溶融後凝固したはんだの内部に気泡(ボイド)が含まれていないことが要求される。これは、当該気泡が(A)放熱性の低下、すなわちはんだにより接合される部材間の熱伝導が阻害されること、あるいは(B)接合強度の低下、の要因となるからである。
特に、近年、IGBT等の半導体素子を具備する半導体モジュールは高電圧・大電流化が進み、該半導体素子の発熱量は増大する傾向にある。従って、半導体素子と基板、あるいは基板と放熱板を接合した接合構造体には優れた放熱性が要求される。
【0004】
当該気泡を除去または低減する方法としては、特許文献1および特許文献2に記載のいわゆる真空脱泡法が知られている。ここで、真空脱泡法は、はんだが溶融した状態で減圧してはんだの内部に巻き込まれた気泡を膨張させることにより、該気泡の大部分をはんだの外部に押し出し、次に加圧して残った一部の気泡を収縮させた状態ではんだを凝固させる方法である。
また、当該気泡を除去する別の方法としては、特許文献3に記載の方法が知られている。特許文献3に記載の方法は、はんだが溶融した状態で半導体素子を絶縁基板に対して傾斜させることにより気泡を除去する方法である。
【特許文献1】特開平5−283570号公報
【特許文献2】特開平6−69387号公報
【特許文献3】特開平10−322010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の方法は、溶融したはんだに巻き込まれた気泡が開いている場合、すなわち、気泡が溶融したはんだおよび半導体素子や基板等の接合面で完全に囲まれておらず、外部と連通している場合には有効でないという問題がある。
これは、気泡が外部と連通していると、該気泡内の圧力と外部の圧力とが常に略同じとなるため、当該気泡に減圧による気泡の膨張および加圧による気泡の収縮という真空脱泡法のメカニズムが作用しないからである。
そして、このような開いた気泡は、特に、半導体素子や基板の接合面とはんだとの濡れ性が低く、かつ、溶融時のはんだの粘度が高い場合に発生しやすい。
【0006】
また、特許文献3に記載の方法は、真空脱泡法に必要な減圧・加圧可能な容器を必要としない点では有効であるが、半導体素子を基板に対して傾斜させる際に半導体素子の位置精度に影響を与えるおそれがあるとともに、半導体素子を基板に対して傾斜させるための複雑な機構、または追加的な部材を必要とするという問題がある。
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑み、接合後のはんだ部材の内部の気泡を低減した接合構造体、および、接合後のはんだ部材の内部に巻き込まれた気泡を低減することが可能な接合構造体の製造方法、を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、
第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体であって、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させて構成したものである。
【0010】
請求項2においては、前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であるものである。
【0011】
請求項3においては、前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であるものである。
【0012】
請求項4においては、前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなるものである。
【0013】
請求項5においては、前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなるものである。
【0014】
請求項6においては、前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備するものである。
【0015】
請求項7においては、前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなるものである。
【0016】
請求項8においては、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容する準備工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温して、はんだを溶融する溶融工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する減圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する加圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温して、はんだ部材を凝固させる凝固工程と、
を具備するものである。
【0017】
請求項9においては、前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であるものである。
【0018】
請求項10においては、前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であるものである。
【0019】
請求項11においては、前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなるものである。
【0020】
請求項12においては、前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなるものである。
【0021】
請求項13においては、前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備するものである。
【0022】
請求項14においては、前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0024】
請求項1においては、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能である。
【0025】
請求項2においては、半導体素子と基板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0026】
請求項3においては、基板と放熱板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0027】
請求項4においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0028】
請求項5においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0029】
請求項6においては、接合前のはんだ部材の体積、ひいては接合後のはんだ部材の厚さを容易に調整することが可能である。
【0030】
請求項7においては、特に、溶融時の濡れ性が低く、かつ、粘度が高いはんだからなるはんだ部材であっても、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を容易に低減することが可能である。
【0031】
請求項8においては、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能である。
【0032】
請求項9においては、半導体素子と基板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0033】
請求項10においては、基板と放熱板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0034】
請求項11においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0035】
請求項12においては、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0036】
請求項13においては、接合前のはんだ部材の体積、ひいては接合後のはんだ部材の厚さを容易に調整することが可能である。
【0037】
請求項14においては、特に、溶融時の濡れ性が低く、かつ、粘度が高いはんだからなるはんだ部材であっても、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を容易に低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下では、図1、図2、図3、および図5を用いて本発明の接合構造体の実施の一形態である接合構造体1の全体構成について説明する。
図1に示す如く、接合構造体1は、第一接合部材の実施の一形態である基板11と、第二接合部材の実施の一形態である放熱板12と、はんだ部材の実施の一形態であるはんだ部材13と、を具備する。
【0039】
なお、本実施例の接合構造体1は、基板11を第一接合部材、放熱板12を第二接合部材とする接合構造体であるが、本発明の接合構造体はこれに限定されず、はんだ部材により二つの部材を接合したものを広く含むものとする。
本発明の接合構造体の他の実施例としては、IGBT(Insulated(またはInerted) Gate Bipolar Transistor)、GTOサイリスタ(Gate Turn Off Thyristor)、その他のダイオード等を含む半導体素子を第一接合部材、基板を第二接合部材とする接合構造体等が挙げられる。
【0040】
基板11は本発明の接合構造体に係る第一接合部材の実施の一形態であり、絶縁基板11aと回路パターン11b・11cと、を具備する。
【0041】
絶縁基板11aは絶縁性材料からなる板状の部材であり、該絶縁基板11aの上面側に実装される半導体素子(図示せず)と放熱板12とを絶縁しつつ、該半導体素子にて発生する熱を放熱板12に伝達することにより放熱するものである。
絶縁基板11aの具体例としては、紙フェノールやガラスエポキシ等の樹脂系の材料、あるいは、AlN等のセラミックスが挙げられる。
【0042】
回路パターン11b・11cは導電性材料からなり、それぞれ絶縁基板11aの上面および下面に形成される。回路パターン11b・11cは該絶縁基板11aの上面側に実装される半導体素子や他の実装部品等と外部との電流経路となるものである。
回路パターン11b・11cの具体例としては、銅やアルミニウム、あるいはこれらを母材とする合金等が挙げられる。回路パターン11b・11cの表面には耐食性、耐摩耗性、あるいは耐薬品性を向上させるためにニッケル等のメッキが施される。
なお、第一接合部材を半導体素子、第二接合部材を基板とする接合構造体であって、該基板に放熱板を接合しない場合には、該基板の半導体素子が接合されない方の板面の回路パターンは省略可能である。
【0043】
放熱板12は本発明の接合構造体に係る第二接合部材の実施の一形態であり、モリブデン、銅−モリブデン合金、あるいはモリブデンの表面に銅をコーティングしたもの、その他の金属材料からなる板状の部材である。放熱板12ははんだ部材13により基板11に接合され、基板11の熱を放熱板12に接触する冷却水路等に伝達することにより接合構造体1から放熱するものである。
【0044】
はんだ部材13は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の実施の一形態であり、基板11と放熱板12とを接合する部材である。言い換えれば、はんだ部材13は、接合構造体1の接合部を成す部材である。
はんだ部材13ははんだからなる。ここで、本出願に係る「はんだ」とは、錫(Sn)を母材とし、かつ、鉛(Pb)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)のうち、いずれか一つまたは二つ以上を添加材として含む合金を指すものとする。
また、「錫を母材とする」とは、錫がはんだの組成に必須であることを示すが、錫の重量比が他の添加材の重量比の合計よりも大きいことを要しない。すなわち、錫以外の添加材の合計が50wt%を超えても良い。
本出願に係るはんだの具体例としては、一般的な共晶はんだであるSn−Pb合金の他、Sn−Ag合金、Sn−Ag−Cu合金等の高融点の鉛フリーはんだ、錫−インジウム合金、Sn−Bi合金、Sn−In−Bi合金、Sn−In合金、Sn−Zn合金等の低融点の鉛フリーはんだが挙げられる。
このうち、特にSn−In合金、Sn−Zn合金は、いずれも溶融時の濡れ性が低く、かつ、溶融時の粘度が高いため、これらをはんだ部材13を構成するはんだとして用いた場合には、接合後のはんだ部材13に含まれる気泡を低減することが一般的には困難である。
【0045】
本実施例のはんだ部材13は一本の線状はんだからなり、該線状はんだを屈曲して成形したものである。はんだ部材13は、主に枠部13aと、余剰部13bとを具備する。
ここで、線状はんだとは、線状に成形されたはんだであり、通常はその内部に予めフラックスが含まれている。
枠部13aは、該一本の線状はんだの一端から中途部までを屈曲して略矩形の枠状に成形したものである。また、余剰部13bは、該線状はんだの中途部から他端までを屈曲して成形したものである。
【0046】
図2、図3および図5に示す如く、はんだ部材13は、基板11と放熱板12との間に配置される。
このとき、はんだ部材13の枠部13aは、第一接合部材たる基板11の接合面と第二接合部材たる放熱板12の接合面との間に形成される接合領域、すなわち、基板11の下面と放熱板12の上面とで挟まれ、かつ平面視で基板11と放熱板12とが重なる領域、の周縁部に沿って配置される。
また、はんだ部材13の余剰部13bは、基板11の接合面と放熱板12の接合面との間に形成される接合領域の略中央部に配置される。
【0047】
以下では、接合構造体1の製造方法の実施例について説明する。
図4に示す如く、接合構造体1の製造方法は、(1)準備工程と、(2)溶融工程と、(3)減圧工程と、(4)加圧工程と、(5)凝固工程とを具備する。以下、各工程について詳述する。
【0048】
図4の(1)に示す準備工程は、基板11と放熱板12との間にはんだ部材13を配置したもの、すなわち、図2および図5に示す状態の接合構造体1を不活性ガスで満たした容器(図示せず)に収容する工程である。ここで、不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガスや窒素ガス、およびこれらを混合したものが挙げられる。また、本実施例で使用される容器は、密閉容器であって該容器内の圧力および雰囲気温度を調整可能である。
図4に示す如く、本実施例の準備工程においては、容器内に基板11と放熱板12との間にはんだ部材13を配置したものを収容する。その後、図示せぬ真空ポンプによる容器内の真空引きおよび容器内への窒素ガスの供給を二回繰り返す。
準備工程が終了したら、溶融工程に移行する。
【0049】
図4の(2)に示す溶融工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に昇温して、はんだ部材13を溶融する工程である。
なお、本実施例の場合、溶融工程では容器内の雰囲気温度を約320℃まで昇温しているが、この温度に限定されるものではなく、はんだ部材13を構成するはんだの種類および組成により定まる液相線以上に昇温すれば良い。ここで、液相線とは、「溶融工程における容器内の圧力下において、はんだ部材13を構成するはんだが、平衡状態で全て液相と成り得る最低の温度」を指す。
また、溶融工程において、容器内の圧力を略一定に保持しつつ、該容器内に不活性ガスを所定の流量で供給することも可能である。
【0050】
図6に示す如く、溶融工程の途中ではんだ部材13が溶融し始めると、第一接合部材たる基板11の接合面と第二接合部材たる放熱板12の接合面との間に形成される接合領域、すなわち、基板11の下面と放熱板12の上面とで挟まれ、かつ平面視で基板11と放熱板12とが重なる領域、において溶融前のはんだ部材13が占めていない部分に存在する不活性ガスが、溶融したはんだ部材13、基板11の下面および放熱板12の上面に囲まれ、閉じ込められる。
【0051】
図7に示す如く、溶融工程の終期には、はんだ部材13の溶融が進み、はんだ部材13を構成するはんだが自己の表面張力および粘度に応じてある程度までは上記接合領域内を濡れ広がっていくが、上記溶融したはんだ部材13、基板11の下面および放熱板12の上面に囲まれ、閉じ込められた不活性ガスは、依然として気泡21・22・23として溶融したはんだ部材13の内部に残留する。
溶融工程が終了したら、減圧工程に移行する。
【0052】
図4の(3)に示す減圧工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する工程である。
ここで、減圧工程において「容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持する」とは、減圧工程が終了するまではんだ部材13が溶融した状態を保持することを指し、容器内の雰囲気温度を液相線以上の所定の温度で略一定に保持することを指すものではない。
また、「第一の圧力」は、溶融工程が終了した時点における容器内の圧力よりも低い圧力を指す。
なお、本実施例では溶融工程が終了した時点における容器内の圧力は常圧(約105Pa)であり、第一の圧力は103Paであるが、これに限定されるものではない。
【0053】
減圧工程では、溶融したはんだ部材13の内部に残留する気泡21・22・23の圧力が常圧であり、容器内の圧力が第一の圧力まで低下していく。その結果、気泡21・22・23内の不活性ガスと容器内の不活性ガスとの間に圧力差が生じる。言い換えれば、気泡21・22・23内の不活性ガスの圧力が、容器内の不活性ガスの圧力に比べて相対的に高くなっていく。
そのため、気泡21・22・23は膨張してはんだ部材13の外部、すなわち容器内の不活性ガスと連通し、気泡21・22・23内の不活性ガスの大部分ははんだ部材13の外部に勢いよく排出される。
従って、減圧工程の終期には、図8に示す如く、気泡21・22・23内の不活性ガスの一部のみが気泡21a・21b・22a・22b・23aとして溶融したはんだ部材13の内部に残留する。
減圧工程が終了したら、加圧工程に移行する。
【0054】
図4の(4)に示す加圧工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを流入させ、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する工程である。
ここで、加圧工程において「容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の液相線以上に保持する」とは、加圧工程が終了するまではんだ部材13が溶融した状態を保持することを指し、容器内の雰囲気温度を液相線以上の所定の温度で略一定に保持することを指すものではない。
また、「第二の圧力」は、前記第一の圧力よりも高い圧力を指す。なお、本実施例では第二の圧力は常圧(約105Pa)であるが、これに限定されるものではない。
【0055】
加圧工程では、溶融したはんだ部材13の内部に残留する気泡21a・21b・22a・22b・23aの圧力が第一の圧力であり、容器内の圧力が第二の圧力まで上昇していく。その結果、気泡21a・21b・22a・22b・23a内の不活性ガスと容器内の不活性ガスとの間に圧力差が生じる。言い換えれば、気泡21a・21b・22a・22b・23a内の不活性ガスの圧力が、容器内の不活性ガスの圧力に比べて相対的に低くなっていく。
従って、加圧工程の終期には、図9に示す如く、気泡21a・21b・22a・22b・23aは収縮してその体積が小さくなる。
加圧工程が終了したら、凝固工程に移行する。
【0056】
図4の(5)に示す凝固工程は、容器内の雰囲気温度をはんだ部材13の固相線以下に降温して、はんだ部材13を凝固させる工程である。
ここで、固相線とは、「凝固工程における容器内の圧力下において、はんだ部材13を構成するはんだが平衡状態で全て固相と成り得る最高の温度」を指す。
凝固工程では、溶融したはんだ部材13の温度が下降していき、凝固する。その結果、はんだ部材13は基板11と放熱板12とを接合する。
なお、凝固工程における容器内の圧力は、はんだ部材13が凝固するまでに気泡21a・21b・22a・22b・23aが再び膨張することを防止するという観点から見て、第二の圧力以上に保持することが望ましい。
【0057】
なお、Sn−In合金、Sn−Zn合金は、いずれも溶融時の濡れ性が低く、かつ、溶融時の粘度が高いため、はんだ部材13を構成するはんだとしてSn−In合金またはSn−Zn合金を用いた場合には、接合後のはんだ部材13に含まれる気泡を低減することが一般的には困難である。
しかし、上記本実施例の接合構造体1の製造方法は、このような場合であっても、接合後のはんだ部材13に含まれる気泡を容易に低減することが可能であるという利点を有する。
【0058】
本実施例の接合構造体1の製造方法において、準備工程において接合構造体1を不活性ガスで満たした容器に収容する(容器内の雰囲気を不活性ガスに置換する)とともに、加圧工程において容器内に不活性ガスを供給するのは、溶融したはんだ部材13が酸化するのを防止するためである。
【0059】
また、溶融工程および加圧工程において、容器内に不活性ガスに代えて、水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスとを混合したものを供給することも可能である。
水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスとを混合したものが容器内に供給されると、特に基板11の下面、すなわち、回路パターン11cの表面に施されたニッケルメッキの表面の酸化物が水素と反応して還元され、該ニッケルメッキ表面の濡れ性が改善される。その結果、溶融したはんだ部材13が接合領域に濡れ広がりやすくなり、凝固後のはんだ部材13に最終的に含まれる気泡を更に低減することが可能である。
【0060】
以下では、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の形状について詳述する。
図3に示す如く、本実施例のはんだ部材13は、枠部13aと余剰部13bとを一体的に成形している。しかし、本発明の接合構造体におけるはんだ部材は、本実施例のはんだ部材13に限定されず、その他にも種々の実施形態を採ることが可能である。
以下、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例について説明する。
【0061】
図10に示すはんだ部材113は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。はんだ部材113がはんだ部材13と異なる点は、枠部113aと余剰部113bとを切り離して別体としている点である。このように、本発明の接合構造体におけるはんだ部材は、枠部と余剰部とが一体であっても、別体であっても良い。
ただし、本発明の接合構造体の製造方法における作業性を考慮すると、図3に示す如く枠部13aと余剰部13bとを一体的に成形することが望ましい。
【0062】
また、枠部13aを成す線状はんだの直径や枠部13aの周の長さによっては、はんだ部材13の余剰部13bを省略して枠部13aのみとすることが可能である。
すなわち、本実施例における第一接合部材である基板11の面積と接合後のはんだ部材13の厚さとの積で求められるはんだ部材13の体積が、枠部13aの体積と略等しい場合にははんだ部材13から余剰部13bを省略し、枠部13aの体積よりも大きい場合にははんだ部材13に余剰部13bを具備すればよい。
このように、余剰部13bの有無、および余剰部13bの長さで、接合前のはんだ部材13の体積、ひいては接合後のはんだ部材13の厚さを容易に調整することが可能である。
【0063】
図11に示すはんだ部材213、および、図12に示すはんだ部材313は、いずれも本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。
はんだ部材213は、略L字型に屈曲された二本の線状はんだであるはんだ片213aおよびはんだ片213bを組み合わせて枠状に成形したものである。
また、はんだ部材313は、四本の線状はんだであるはんだ片313a、はんだ片313b、はんだ片313cおよびはんだ片313dを組み合わせて枠状に成形したものである。
このように、本発明の接合構造体に係るはんだ部材は、複数の線状はんだを組み合わせて枠状に成形したものでも良い。
【0064】
図13に示すはんだ部材413は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。はんだ部材413は、一本の線状はんだを二重に巻いたリング状とし、さらにこれを適宜屈曲して枠状に成形したものである。
このように、枠状に成形されるはんだ部材は、接合領域の周縁部に二重に配置されても良い。
【0065】
図14に示すはんだ部材513は、本発明の接合構造体に係るはんだ部材の別実施例の一つである。はんだ部材513は、基板11の平面視形状と略同じ形状のシート状はんだの略中央部を打ち抜いて枠状に成形したものである。
ここで、シート状はんだとは、シート状に成形されたはんだを指す。
このように、本発明の接合構造体に係るはんだ部材は、線状はんだだけでなく、シート状はんだを出発材とすることが可能である。
【0066】
以上の如く、はんだ部材13、はんだ部材113、はんだ部材213、はんだ部材313およびはんだ部材413は、いずれも単数または複数の線状はんだからなり、枠状に成形したはんだ部材である。
また、はんだ部材513は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなり、枠状に成形したはんだ部材である。
従って、はんだ部材13、はんだ部材113、はんだ部材213、はんだ部材313、はんだ部材413およびはんだ部材513は、いずれも、本発明の接合構造体に係るはんだ部材に含まれる。
【0067】
以上の如く、本発明の接合構造体は、
第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体であって、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させて構成したものである。
また、本発明の接合構造体の製造方法は、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容する準備工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温して、はんだを溶融する溶融工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する減圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する加圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温して、はんだ部材を凝固させる凝固工程と、
を具備するものである。
このように構成することにより、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能である。
【0068】
また、本発明の接合構造体の第一接合部材は半導体素子であり、第二接合部材は基板である。
このように構成することにより、半導体素子と基板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0069】
また、本発明の接合構造体の第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板である。
このように構成することにより、基板と放熱板とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を低減することが可能であり、放熱性に優れる。
【0070】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなるものである。
このように構成することにより、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0071】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなるものである。
このように構成することにより、はんだ部材を容易かつ安価に成形可能である。
【0072】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備するものである。
このように構成することにより、接合前のはんだ部材の体積、ひいては接合後のはんだ部材の厚さを容易に調整することが可能である。
【0073】
また、本発明の接合構造体のはんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなるものである。
このように構成することにより、特に、溶融時の濡れ性が低く、かつ、粘度が高いはんだからなるはんだ部材であっても、第一接合部材と第二接合部材とを接合した後のはんだ部材の内部に含まれる気泡を容易に低減することが可能である。
【0074】
なお、本発明の接合構造体に係るはんだ部材は、より厳密には、「枠状に成形された結果、溶融工程ではんだ部材が溶融した時に、第一接合部材と、第二接合部材と、溶融したはんだ部材とで接合領域内の雰囲気(本実施例では不活性ガス)を閉じ込めることが可能である」ことが要件として求められる。
従って、図14に示すはんだ部材513の如く、基板11と放熱板12とはんだ部材513とで囲まれる空間が外部と遮断されていない場合であっても、上記要件を満たす場合がある。
すなわち、図11に示すはんだ部材213の如く、溶融前のはんだ片213aとはんだ片213bの端部が連結されておらず、はんだ部材213の溶融前には、基板11と、放熱板12とはんだ部材213とで囲まれる空間と、外部と、が連通する隙間G(図11に図示)が形成されていても、溶融したはんだ部材213が濡れ広がってはんだ片213aに由来する溶融状態のはんだと、はんだ片213bに由来する溶融状態のはんだとが繋がり、隙間Gが無くなれば、「溶融工程で枠状に成形されたはんだ部材が溶融した時に、第一接合部材と、第二接合部材と、溶融したはんだ部材とで接合領域内の雰囲気を閉じ込めることが可能である」という要件を満たす。図3に示すはんだ部材13、図10に示すはんだ部材113、図12に示すはんだ部材313、図13に示すはんだ部材413も同様である。
ただし、当該隙間Gがあまり大きいと上記要件を満たすことが不可能となる。よって、隙間Gの広さについては、はんだ部材を構成するはんだの組成、粘度、濡れ性、溶融時の温度等に応じて適宜選択する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の接合構造体の実施の一形態を示す側面図。
【図2】準備工程における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す側面一部断面図。
【図3】本発明の接合構造体の実施の一形態の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図4】本発明の接合構造体の製造方法の実施例における温度および圧力の変化を示す図。
【図5】準備工程における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図6】溶融工程の途中における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図7】溶融工程の終期における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図8】減圧工程の終期における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図9】加圧工程の終期における本発明の接合構造体の実施の一形態を示す平面図。
【図10】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図11】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図12】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図13】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【図14】本発明の接合構造体の別実施例の接合前の各部材の配置を示す斜視図。
【符号の説明】
【0076】
1 接合構造体
11 基板(第一接合部材)
12 放熱板(第二接合部材)
13 はんだ部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体であって、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させて構成した、
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項5】
前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項6】
前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項7】
前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項8】
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容する準備工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温して、はんだを溶融する溶融工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する減圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する加圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温して、はんだ部材を凝固させる凝固工程と、
を具備することを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項9】
前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であることを特徴とする請求項8に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項10】
前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であることを特徴とする請求項8に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項11】
前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなることを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項12】
前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなることを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項13】
前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備することを特徴とする請求項8から請求項12までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項14】
前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなることを特徴とする請求項8から請求項13までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項1】
第一接合部材と、第二接合部材と、第一接合部材と第二の接合部材とを接合するはんだ部材と、を具備する接合構造体であって、
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温してはんだ部材を溶融し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧し、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温してはんだ部材を凝固させて構成した、
ことを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項5】
前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項6】
前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項7】
前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の接合構造体。
【請求項8】
枠状に成形したはんだ部材を第一接合部材の接合面と第二接合部材の接合面との間に形成される接合領域の周縁部に沿って配置したものを不活性ガスまたは不活性ガスと水素ガスとの混合ガスで満たした容器に収容する準備工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に昇温して、はんだを溶融する溶融工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内の圧力を第一の圧力まで減圧する減圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の液相線以上に保持しつつ、容器内に不活性ガスを供給して、該容器内の圧力を第二の圧力に加圧する加圧工程と、
容器内の雰囲気温度をはんだ部材の固相線以下に降温して、はんだ部材を凝固させる凝固工程と、
を具備することを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項9】
前記第一接合部材は半導体素子であり、前記第二接合部材は基板であることを特徴とする請求項8に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項10】
前記第一接合部材は基板であり、前記第二接合部材は放熱板であることを特徴とする請求項8に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項11】
前記はんだ部材は、中央部が打ち抜かれたシート状はんだからなることを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項12】
前記はんだ部材は、単数または複数の線状はんだからなることを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項13】
前記はんだ部材は、前記接合領域の略中央部に配置される余剰部を具備することを特徴とする請求項8から請求項12までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項14】
前記はんだ部材は、Sn−In合金またはSn−Zn合金からなることを特徴とする請求項8から請求項13までのいずれか一項に記載の接合構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−116564(P2006−116564A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305865(P2004−305865)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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