説明

接着性樹脂及び接着性樹脂組成物並びに積層体

【課題】 未反応成分やオリゴマー成分が少ない接着性樹脂及び接着性樹脂組成物を提供する。また、未反応成分やオリゴマー成分が少なく、接着強度が高く、医療用や食品用の包装材料に適した積層体を提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン樹脂またはポリエステルエラストマーから選択される熱可塑性樹脂(a1)と、該熱可塑性樹脂(a1)と反応することができる不飽和化合物(a2)とを反応させて得られた反応物(A)を超臨界流体と接触させて得られる接着性樹脂であって、230℃で5分間熱抽出を行った際の揮発量が2200μg/g以下であることを特徴とする接着性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種積層体における接着層として好適な接着性樹脂及び接着性樹脂組成物、並びに、該接着性樹脂又は該接着性樹脂組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用及び食品用の包装材料に用いられるシートやフィルムは、酸素バリア性や易ヒートシール性などの複数の機能を同時に実現させるために、異なる性能を有する樹脂を積層した積層体の形態が採られている。その際、各層間の接着が不良であると各層本来の機能が損なわれるため、通常、接着剤層を介して積層することが行われている。
そして、その接着剤層としては、従来より、無水マレイン酸等の反応性化合物をポリオレフィンやポリエステルエラストマーなどの熱可塑性樹脂と反応させて得られる変性樹脂を含んでなる各種の接着性組成物が知られている(特許文献1、2)。
【0003】
これら接着性樹脂は、成形性を維持したまま接着性能を高めるために、従来は、組成物中に含まれる変性樹脂の組成を増したり、エラストマーや粘着付与剤など他の成分を添加したりされてきた。しかしながら、変性樹脂の組成を増やしたり、他の成分を添加したりすると、接着層に含有する成分が漏出することに起因して、かえって接着強度が低下したり、医療用や食品用としては衛生面で不適当な包装材料となる場合があった。
【0004】
また、接着層に含有する成分が漏出することを抑制するため、接着性樹脂を有機溶媒に溶解した後、これを貧溶媒に析出して再沈殿洗浄を行うこともなされているが、この方法では作業工程が増えるとともに、得られる接着性樹脂中に溶媒が残留する等の問題があった。
このため、従来から知られている何れの接着性樹脂も、医療用や食品用に適した衛生性を十分に保有しつつ、接着強度および成形性に関して市場の要求を十分に満足させ得るには到っていないのが現状である。
【0005】
一方、ポリオレフィンを超臨界状態の二酸化炭素と接触させることにより、ポリオレフィン中に含まれる低分子量の不純物や分解物を抽出する方法(特許文献3)や、環状共役ジエン系重合体を超臨界流体と接触させることにより、残留溶媒や触媒残渣等を除去する方法(特許文献4)が開示されている。しかしながら、本発明者らが、これらの開示技術を前記の変性樹脂に適用したところ、接着強度や衛生面での改良効果は十分には得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−206946号公報
【特許文献2】特開2002−014486号公報
【特許文献3】特開2001−192409号公報
【特許文献4】特開平9−291119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、未反応成分やオリゴマー成分が少ない接着性樹脂および接着性樹脂組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、未反応成分やオリゴマー成分が少なく、接着強度が高く、医療用や食品用の包装材料に適した積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂と反応することができる不飽和化合物とから得られる反応物を超臨界流体と接触させることにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、以下の[1]〜[10]に存する。
[1] ポリオレフィン樹脂またはポリエステルエラストマーから選択される熱可塑性樹脂(a1)と、該熱可塑性樹脂(a1)と反応することができる不飽和化合物(a2)とを反応させて得られた反応物(A)を超臨界流体と接触させて得られる接着性樹脂であって、230℃で5分間熱抽出を行った際の揮発量が2200μg/g以下であることを特徴とする接着性樹脂。
[2] [1]において、超臨界流体が二酸化炭素である接着性樹脂。
[3] [1]または[2]において、不飽和化合物(a2)が、不飽和カルボン酸またはその誘導体、エチレン性不飽和シラン化合物から選択される1以上であることを特徴とする接着性樹脂。
[4] [1]〜[3]の何れかにおいて、熱可塑性樹脂(a1)と不飽和化合物(a2)との反応が、有機過酸化物の存在下での溶融混練である接着性樹脂。
[5] [1]〜[4]の何れかに記載の接着性樹脂1〜99重量%と、熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%とを含有することを特徴とする接着性樹脂組成物。
[6] [5]において、反応物(A)と熱可塑性樹脂(B)とから成る樹脂組成物を超臨界流体と接触させて得ることを特徴とする接着性樹脂組成物。
[7] ポリオレフィン樹脂またはポリエステルエラストマーから選択される熱可塑性樹脂(a1)と、該熱可塑性樹脂(a1)と反応することができる不飽和化合物(a2)とを反応させて反応物(A)を得る工程と、該反応物(A)を超臨界流体と接触させる工程とを有することを特徴とする接着性樹脂の製造方法。
[8] [7]において、反応物(A)と超臨界流体との接触が、反応物(A)の融解終了温度−5℃以下、融解終了温度−40℃以上の範囲で行われる接着性樹脂の製造方法。[9] [1]〜[6]の何れかに記載の接着性樹脂または接着性樹脂組成物を含む層と、樹脂、木材、セラミックス、及び金属から選ばれる少なくとも一層とを有することを特徴とする積層体。
[10] 医療用及び食品用の包装材料である[9]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、未反応成分やオリゴマー成分が少ない接着性樹脂を提供することができる。また、該樹脂は、未反応やオリゴマー成分が少ない為、高い接着力を示し、且つ、排煙が少ない為、環境負荷を低減させることができる。さらに、本発明により、未反応成分やオリゴマー成分が少なく、接着強度が高いため、医療用や食品用の包装材料に適した積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の態様について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明の接着性樹脂または接着性樹脂組成物には、以下に示す熱可塑性樹脂(a1)と不飽和化合物(a2)とを反応して得られる反応物(A)を用いる。
【0011】
[熱可塑性樹脂(a1)]
本発明に用いる熱可塑性樹脂(a1)は、ポリオレフィン樹脂またはポリエステルエラストマーから選択される。
本発明において、ポリオレフィン系樹脂として具体的には、低密度ポリエチレン単独重合体、高密度ポリエチレン単独重合体、エチレン・αオレフィン共重合体、プロピレン単
独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル1−ペンテン共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。さらに、これらの樹脂に対し任意のコモノマーが共重合されていてもよい。
【0012】
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂としてはプロピレン系樹脂であることが望ましい。ここでプロピレン系樹脂とはプロピレンを主体とするモノマーから得られる重合体を意味し、具体的にはプロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体等が好ましい。それらの中でもプロピレン単独重合体が特に望ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂は、上述の各種ポリオレフィン系樹脂の何れか1種を単独で用いても、複数種の混合物であってもよい。
【0013】
ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、成形性の点から通常0.01〜80g/10分、好ましくは0.1〜40g/10分のものが好ましい。ここで、MFRは、ポリオレフィン系樹脂がエチレンまたは炭素数3以上のα−オレフィンを主成分(モル換算)とする場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、ポリオレフィン系樹脂がプロピレンを主成分(モル換算)とする場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0014】
本発明において、ポリエステルエラストマーとしては、ハードセグメントとして芳香族ポリエステル、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールや脂肪族ポリエステルから成るブロック共重合体が挙げられる。特にソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールを使用したポリエステルポリエーテルブロック共重合体が好ましい。ブロック共重合体中のポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量は限定されないが、通常5〜90重量%、好ましくは30〜80重量%であることが好ましい。
【0015】
ポリエステルエラストマーを構成するポリアルキレンエーテルグリコールとしては、数平均分子量が、通常400〜6000、好ましくは500〜4000、特に好ましくは600〜3000のものが使用される。ポリアルキレンエーテルグリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−及び/又は1,3−プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコールなどが例示される。
【0016】
ハードセグメントとしては、炭素原子数2〜12の脂肪族および/または脂環族ジオールと、芳香族ジカルボン酸とを主成分とする芳香族ポリエステルが好ましい。
脂肪族および/または脂環族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が例示され、中でも1,4−ブタンジオール、エチレングリコールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。これらのジオールは1種または2種以上の混合物として使用することが出来る。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が例示され、中でもテレフタル酸が好ましい。
【0017】
これらの芳香族ジカルボン酸は1種または2種以上の混合物として使用することが出来る。さらに、ハードセグメントとしては、脂肪族ジカルボン酸やオキシカルボン酸、3官能以上の多官能化合物を共重合させてもよい。
本発明に使用するポリエステルエラストマーのMFR(JIS K7210準拠、230℃、荷重2.16kg)は、通常1〜100g/10分、好ましくは3〜80g/10
分、さらに好ましくは、5〜60g/10分の範囲のものが好適である。
【0018】
なお、ポリエステルエラストマーは、1種を単独で用いても、複数種の混合物であってもよい。
ポリエステルエラストマーの市販品としては、三菱化学株式会社製「プリマロイ」、東洋紡績株式会社製「ペルプレン」、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」等が例示される。
【0019】
[不飽和化合物(a2)]
本発明に用いる不飽和化合物(a2)は、熱可塑性樹脂(a1)と反応することができる不飽和化合物であれば限定されない。ここで「反応することができる」とは、不飽和化合物(a2)を構成する不飽和基によって熱可塑性樹脂(a1)と反応する場合のみならず、該不飽和基を介さずに熱可塑性樹脂(a1)と反応する場合をも包含する。
【0020】
具体的な反応性化合物としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体や、エチレン性不飽和シラン化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えばアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)等の不飽和カルボン酸、及び、例えば酸ハロゲン化物、アミド、イミド、無水物、エステルなどの誘導体が挙げられる。誘導体としては、酸無水物が好ましい。
【0021】
不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエ−トなどが例示できる。これらの中では、特にマレイン酸又はその無水物が好適である。
エチレン性不飽和シラン化合物は、具体的には下記一般式(I)で示される。
【0022】
R1・SiR23−n (I)
式(I)中、R1はエチレン性不飽和炭化水素基又はハイドロカーボンオキシ基、R2は炭化水素基、Yは加水分解可能な有機基を表し、nは0〜2の整数である。
ここで、R1としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基等が、R2としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基等が、Yとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基等が、それぞれ挙げられる。
【0023】
このようなエチレン性不飽和シラン化合物の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらの中でも、臭気等の観点から、ビニルトリメトキシシランが好適に用いられる。
[反応物(A)]
本発明の接着性樹脂または接着性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(a1)と不飽和化合物(a2)とを反応させて反応物を得、得られた反応物を後述する超臨界流体と接触させることによって得ることが出来る。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物(a1)と不飽和化合物(a2)との反応は如何なる方法を用いてもよく、熱のみの反応でも得ることができるが、反応の際にラジカルを発生させる有機過酸化物等を反応助剤として添加してもよい。また、反応させる手法としては、溶媒中で反応させる溶液変性法や溶媒を使用しない溶融変性法等が挙げられるが、その他の方法を用
いてもよい。
【0025】
溶融変性法としては、熱可塑性樹脂(a1)と不飽和化合物(a2)、及び必要により有機過酸化物を予め混合した上で混練機中で溶融混練させ反応させる方法や、混練機中で溶融した熱可塑性樹脂(a1)に、溶剤等に溶解した有機過酸化物と不飽和化合物(a2)の混合物を装入口から添加して反応させる方法等を用いることができる。混練機としては、特に限定されるものではなく、例えば一軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等が使用できる。
【0026】
溶液変性法としては、熱可塑性樹脂(a1)を有機溶剤等に溶解して、これに有機過酸化物と不飽和化合物(a2)を添加してグラフト共重合させる方法が使用できる。有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えばアルキル基置換芳香族炭化水素やハロゲン化炭化水素を使用することが出来る。
熱可塑性樹脂組成物(a1)と不飽和化合物(a2)との配合割合は限定されないが、熱可塑性樹脂組成物(a1)100重量部に対し、不飽和化合物(a2)を通常0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜1重量部の割合で配合することが望ましい。
【0027】
ラジカルを発生させる反応助剤は限定されないが、具体的には、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエ−ト)ヘキシン−3、ラウロイルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエ−ト、tert−ブチルペルイソブチレ−ト、tert−ブチルペルピバレ−ト、及びクミルペルピバレ−ト等の有機ペルオキシドや有機ペルエステル、あるいは、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレ−ト等のアゾ化合物等を使用することが出来る。
【0028】
これらの反応助剤は、熱可塑性樹脂(a1)の種類、不飽和化合物(a2)の種類および反応条件に応じて適宜選択することができ、2種以上を併用してもよい。反応助剤の配合量は、熱可塑性樹脂(a1)100重量部に対し、通常0.001〜3重量部、好ましくは0.005〜0.5重量部、より好ましくは0.01〜0.2重量部、特に好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【0029】
[接着性樹脂]
本発明の接着性樹脂は、前記の反応物(A)を超臨界流体と接触させる(以下、超臨界処理という場合がある。)ことによって得ることを特徴とする。
[超臨界流体]
本発明において超臨界流体とは、超臨界状態となり得る物質が超臨界の状態となっているものをいう。本発明に用いる超臨界流体としては、特に限定されるものではないが、具体的には超臨界状態の二酸化炭素、水、プロパン、プロピレン、メタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。コスト及び各種材料へ溶解性等の観点から、特に好ましいのは、超臨界状態の二酸化炭素である。なお、本発明において超臨界状態には、本発明の効果を奏する限り、いわゆる亜臨界状態をも含み得る概念である。
【0030】
[超臨界処理]
本発明における超臨界処理には、世の中で知られる超臨界(SCF:Supercritical Fluid)装置であれば何れをも用いることができ、該SCF装置内に充填した反応物(A)
に前記の超臨界状態となる物質を超臨界流体の状態で流し接触させて処理を行う。この際、一定量の超臨界流体を使用するバッチ式、新しい超臨界流体を使用する循環式のいずれ
であってもよい。処理時間は、使用する反応物の形状、処理圧力、温度、超臨界流体と反応物との容積比率などによって適宜選択される。
【0031】
超臨界処理を行う条件としては、圧力7.2MPa以上、温度30℃以上であればよいが、好ましくは50℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは120℃以上である。超臨界処理の温度の上限は限定されないが、通常300℃以下、好ましくは250℃以下である。
また、抽出処理の効率や抽出サンプルの装置への固着や膨潤による閉塞を考慮すると、温度は反応物(A)の融解終了温度−5℃以下、好ましくは融解終了温度−10℃以下であり、融解終了温度−40℃以上、好ましくは融解終了温度−30℃以上の範囲であることが好ましい。ここで、反応物(A)の融解終了温度は、示差走査熱量計(DSC)(セイコー電子社製、DSC6200)を用い、温度範囲50℃〜200℃、昇温速度10℃/分として測定するものとし、融解ピークの終了温度を意味する。
【0032】
超臨界処理の温度が前記下限値より低い場合は、超臨界流体が反応物中に浸透が少なく、目的とする抽出成分、すなわち接着層としての接着性を阻害したり成形時に発煙を生じる成分の抽出効率が低い傾向にある。これは、反応物(A)を構成する樹脂とそこに含有している前記の抽出成分との相溶性と拡散速度に起因すると考えられ、前記下限値以上の温度で前記の抽出成分が効率的に超臨界流体に拡散可能になったものと考えられる。一方、超臨界処理の温度が前記上限値より高い場合は、超臨界処理の過程で反応物同士が融着し、反応物全体の表面積が著しく低下して抽出効率が著しく低下する傾向にある。
【0033】
超臨界処理に供する反応物(A)の形状は限定されないが、ペレット、粉体、クラム(塊状)などが例示され、中でも比表面積が大きいものが好ましい。
また、超臨界流体中に他の成分を加えてもよく、例えば、アルコール、ケトンなどの有機溶剤を配合することができる。アルコールとしては、メタノールやエタノール、ケトンとしては、アセトンやメチルエチルケトン等が挙げられる。これらの成分を超臨界流体中に含有することにより、媒体の極性を上げ、極性物質が溶出し易くなる場合がある。すなわち、目的とする抽出成分をより効率的に抽出できる場合がある。好ましい添加比率としては、有機溶媒の比率が少な過ぎると添加効果が出にくく、高過ぎると超臨界状態の調整が難しくなるので、超臨界流体/有機溶剤の質量比率で、1/99〜50/50が好ましい。さらに、本発明の目的を損なわない範囲で酸化防止剤や熱安定剤など、後述するその他の成分も添加することができる。
【0034】
上記の方法で超臨界処理された本発明の接着性樹脂は、含有する未反応成分やオリゴマー成分が少なく、各種被着体に対し高い接着力を示し、且つ、成形加工時に排煙が少なく環境負荷を低減させることができる。このため、本発明の接着性樹脂は、積層体における接着性樹脂、すなわち接着層として好適に用いることができる。
本発明の接着性樹脂は、上記の方法で超臨界処理することにより、230℃で5分間熱抽出を行った際の揮発量が2200μg/g以下、好ましくは1500μg/g以下、より好ましくは1000μg/g以下である。接着性樹脂の揮発量を前記上限値以下とするためには、前記の超臨界処理の条件を最適化することによって達成することができ、具体的には、超臨界処理の際の温度を前記の通りとすることが効果的である。なお、該揮発量の下限は限定されないが、通常10μg/g以上、好ましくは100μg/g以上である。ここで、揮発量の測定は、詳細には以下の条件で行うものとする。
【0035】
先ず、測定サンプル約20mgを加熱脱着管(GERSTEL社製、TDS管)に充填し、両端に石英ウール(GL Sciences社製、Cat.No.3001−12404)を詰めておく。40℃の加熱脱着装置内をヘリウムで置換し、その後、60℃/分の条件で230℃まで昇温し、230℃で5分間熱抽出を行い、熱抽出中、石英ウールを
充填したGC(ガスクロマトグラフィー)挿入口(GERSTEL社製、CIS4)を−150℃に冷却することにより、試料より発生した揮発成分を捕集する。その後、捕集部分を320℃まで急速に加熱し捕集成分を気化させ、GCカラムに挿入しトータルイオンクロマトグラムを測定する。揮発量は、トータルイオンクロマトグラムで測定したトータルピークの面積量を、同条件で測定した標準試料n−デカンの発生量で換算し、測定サンプル中の揮発量として算出する。
【0036】
[接着性樹脂組成物]
本発明の接着性樹脂組成物とは、前記の通り、反応物(A)を超臨界流体と接触させることによって得られた接着性樹脂と、熱可塑性樹脂(B)とを含有する樹脂組成物を意味する。
[熱可塑性樹脂(B)]
本発明に用いる熱可塑性樹脂(B)は、前記した本発明の接着性樹脂自体を除けば、何れの熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂(B)は、具体的には、前記のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;前記のポリエステルエラストマー;ポリスチレン樹脂、スチレン共重合体樹脂等のスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリアセタール樹脂;(メタ)アクリル樹脂;ウレタン樹脂等が挙げられる。更には、超臨界処理を行っていない反応物(A)であってもよい。また、熱可塑性樹脂(B)は、2種以上の樹脂を併用してもよい。
【0037】
中でも、熱可塑性樹脂(B)としては、ポリオレフィン樹脂やポリエステルエラストマーを使用することが好ましい。また、熱可塑性樹脂(a1)として用いた樹脂と同一の樹脂を用いることも好ましい。
熱可塑性樹脂(B)の含有量は限定されず、目的および用途に応じて適宜設定出来るが、本発明の接着性樹脂組成物中における不飽和化合物(a2)の含有量が0.03〜2重量%となるように用いることが好ましい。また、本発明の接着性樹脂組成物の配合比率は限定されないが、通常、接着性樹脂1〜99重量%、熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%である。
【0038】
本発明の接着性樹脂組成物における、前記接着性樹脂と熱可塑性樹脂(B)との混合方法は限定されず、単なる両者の配合であってもよいが、溶融混練等で一体化された樹脂組成物であることが好ましい。具体的には、例えば一軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等によって溶融混練する方法が挙げられる。
【0039】
また、反応物(A)のみを超臨界流体と接触させることにより本発明の接着性樹脂を製造し、これと熱可塑性樹脂(B)とを混合してもよいが、予め反応物(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合して樹脂組成物としておき、これを超臨界流体と接触させて得ることもできる。後者の方法であれば、超臨界流体処理によって熱可塑性樹脂(B)に含有される不純物成分を除去することが可能なばかりでなく、溶融混練等によって新たに発生した不純物成分をも除去することが出来るため好ましい。後者の方法における超臨界処理の条件も、前記した反応物(A)を単独で超臨界処理する場合と同様の方法および条件を採用することができる。
【0040】
[その他の成分]
本発明の接着性樹脂または接着性樹脂組成物は、反応物(A)および熱可塑性樹脂(B)以外の構成成分(以下、「その他の成分」という)を含有していてもよい。その他の成分は限定されず、公知の添加剤、例えば耐熱安定剤、耐候安定剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、触媒残渣の中和剤、顔料、染料、無機および/または有機フィ
ラー等を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。また、その使用量も任意である。
【0041】
前記その他の成分は、反応物(A)とともに溶融混練等を行って樹脂組成物としてから超臨界流体との接触に供してもよいし、本発明の接着性樹脂を得た後、これと配合または混合してもよい。また、本発明の接着性樹脂組成物を得る際に、接着性樹脂と熱可塑性樹脂(B)との混合時に添加してもよい。
なお、超臨界処理を行う際に前記その他の成分が含有されていた場合に、これらの成分が超臨界流体に抽出されてしまう場合には、超臨界処理によって得られた接着性樹脂または接着性樹脂組成物に対し、その後に添加することが好ましい。
【0042】
[積層体]
本発明の接着性樹脂または接着性樹脂組成物は、この何れかを接着層とし、樹脂、木材、セラミックス、及び金属から選ばれる少なくとも一層(以下、基材という場合がある。)を有する積層体とすることができる。基材が樹脂層の場合は織布又は不織布であってもよいし、金属層の場合は蒸着によって形成された層であってもよい。
【0043】
積層体を製造する方法は限定されず、逐次押出ラミネート法、サンドイッチ押出ラミネート法、表面被覆法、共押出ラミネート法等により製造することができる。該積層体には、アンカーコート剤を介しても、または介することなく積層してもよい。また、各基材と接着性樹脂または接着性樹脂組成物の押出と同時に、もう一つの樹脂等からなる基材を共押出して三層以上の積層体とすることもできる。
【0044】
このような積層体は必要に応じて、更に延伸加工に付して延伸物としたり、又は真空成形、圧空成形等の熱成形を行うことができ、また共押出ブロー成形により容器状に成形することもできる。
なお、基材として用いることができる樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、前記のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;前記のポリエステルエラストマー;ポリスチレン樹脂、スチレン共重合体樹脂等のスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリアセタール樹脂;(メタ)アクリル樹脂;ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、特に前記のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、前記のポリエステルエラストマー、ポリアミド樹脂が好ましく、前記のポリオレフィン樹脂の中では、低密度ポリエチレン単独重合体、高密度ポリエチレン単独重合体、エチレン・αオレフィン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等が好適である。
【0045】
これらの樹脂を用いて、例えば接着性樹脂または接着性樹脂組成物や上記の樹脂の一種類以上を押出機中でそれぞれ溶融した上で、多層ダイスに供給してダイス中で積層する共押出法によりインフレーションフィルム、T−ダイフィルム、積層シート、積層パイプを製造したり、溶融した個々の樹脂を同一金型内へ時間差を持たせて射出成形する、共射出成形法によりパリソン等の積層体を製造することができる。
【0046】
基材として木材、織布又は不織布、金属等を使用する場合は、押出機中で溶融させた接着性樹脂または接着性樹脂組成物をダイスに供給し、押出と同時に積層を行うことにより基材表面に被覆・積層を行う方法や、予め接着性樹脂または接着性樹脂組成物からなるシート又はこれらを表面に形成した積層体と、基材とをプレスや熱ロールによって圧着して積層する方法を用いることができる。
【0047】
本発明の接着性樹脂または接着性樹脂組成物を接着層とする積層体は、未反応成分やオ
リゴマー成分が少なく、接着強度が高いため、医療用や食品用の包装材料に適した積層体として用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]
<接着性樹脂の製造>
市販のポリプロピレン単独重合体(密度0.90g/cm、MFR(230℃,荷重2.16kg)0.9g/10分)5kgに対し、無水マレイン酸100g及び有機化酸化物(日本油脂社製、ナイパーBMT−K40)75gを加えて混合し、予め230℃に設定した単軸押出機に投入し、溶融混合してストランドカットによりペレット状の反応物を得た。得られた反応物を下記の方法を用いて融解終了温度を測定した結果、165℃であった。
【0049】
<融解終了温度の測定>
示差走査熱量計(DSC)(セイコー電子社製、DSC6200)を用い、測定条件は、温度範囲50℃〜200℃、昇温速度10℃/分とした。
<超臨界処理>
上記製法で得たペレット状の反応物50gを、SCF装置を用い、超臨界流体として二酸化炭素を用い、温度150℃、圧力17MPa、9時間の条件下で抽出を行い接着性樹脂を得た。得られた接着性樹脂を下記の方法を用いて揮発成分量および接着強度の測定を行った結果を表−1に示す。
【0050】
<揮発成分量の測定>
測定サンプル約20mgを加熱脱着管(GERSTEL社製、TDS管)に充填し、両端に石英ウール(GL Sciences社製、Cat.No.3001−12404)
を詰めた。40℃の加熱脱着装置内をヘリウムで置換し、その後、60℃/分の条件で230℃まで昇温し、230℃で5分間熱抽出を行った。熱抽出中、石英ウールを充填したGC挿入口(GERSTEL社製、CIS4)を−150℃に冷却することにより、試料より発生した揮発成分を捕集した。その後、捕集部分を320℃まで急速に加熱し捕集成分を気化させ、GCカラムに挿入しトータルイオンクロマトグラムを測定した。揮発量は、トータルイオンクロマトグラムで測定したトータルピークの面積量を、同条件で測定した標準試料n−デカンの発生量で換算し、測定サンプル中の揮発量として算出した。
【0051】
<接着強度の測定>
測定サンプルを210℃に加熱したプレス成形機(東洋精機製作所社製、電気プレス)でプレス成形し、厚さ0.1mmのシートを作成した。次いで、作成した該シートと二軸延伸ポリビニルアルコール樹脂(PVA)フィルム#12(日本合成化学社製、ボブロンフィルムEX)を重ね合わせ、ヒートシーラー(東洋精機製作所社製、ヒートシール試験機)にて、温度190℃、圧力2kg、3秒間の条件で、幅5mmの部分をヒートシールした。得られたヒートシールサンプルを、幅5mmのヒートシール部に直交する方向で15mm幅の短冊状に切り出し、接着強度測定用のサンプルを得た。接着強度の測定は、万能引張り試験機(A&D社製、テンシロンRTG−1225)にて23℃で測定した。
【0052】
[比較例1]
超臨界処理を行わず、実施例1における反応物をそのまま用いて接着性樹脂とした。接着性樹脂を、実施例1と同様の方法を用いて揮発成分量および接着強度の測定を行った結果を表−1に示す。
[比較例2]
実施例1と同様にして得られた反応物を100℃に設定したギアオーブン内に8時間入れ、空気中で熱風処理を行うことにより接着性樹脂を得た。得られた接着性樹脂を、実施例1と同様の方法を用いて揮発成分量および接着強度の測定を行った結果を表−1に示す。
【0053】
[比較例3]
実施例1と同様にして得られた反応物を、蒸留水を溶媒としたソックスレー抽出機にて30時間還流抽出処理を行うことにより接着性樹脂を得た。得られた接着性樹脂を、実施例1と同様の方法を用いて揮発成分量および接着強度の測定を行った結果を表−1に示す。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂またはポリエステルエラストマーから選択される熱可塑性樹脂(a1)と、該熱可塑性樹脂(a1)と反応することができる不飽和化合物(a2)とを反応させて得られた反応物(A)を超臨界流体と接触させて得られる接着性樹脂であって、230℃で5分間熱抽出を行った際の揮発量が2200μg/g以下であることを特徴とする接着性樹脂。
【請求項2】
超臨界流体が二酸化炭素である請求項1に記載の接着性樹脂。
【請求項3】
不飽和化合物(a2)が、不飽和カルボン酸またはその誘導体、エチレン性不飽和シラン化合物から選択される1以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の接着性樹脂。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(a1)と不飽和化合物(a2)との反応が、有機過酸化物の存在下での溶融混練であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の接着性樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の接着性樹脂1〜99重量%と、熱可塑性樹脂(B)99〜1重量%とを含有することを特徴とする接着性樹脂組成物。
【請求項6】
反応物(A)と熱可塑性樹脂(B)とから成る樹脂組成物を超臨界流体と接触させて得ることを特徴とする請求項5に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリオレフィン樹脂またはポリエステルエラストマーから選択される熱可塑性樹脂(a1)と、該熱可塑性樹脂(a1)と反応することができる不飽和化合物(a2)とを反応させて反応物(A)を得る工程と、該反応物(A)を超臨界流体と接触させる工程とを有することを特徴とする接着性樹脂の製造方法。
【請求項8】
反応物(A)と超臨界流体との接触が、反応物(A)の融解終了温度−5℃以下、融解終了温度−40℃以上の範囲で行われることを特徴とする請求項7に記載の接着性樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至6の何れかに記載の接着性樹脂または接着性樹脂組成物を含む層と、樹脂、木材、セラミックス、及び金属から選ばれる少なくとも一層とを有することを特徴とする積層体。
【請求項10】
医療用及び食品用の包装材料である請求項9に記載の積層体。

【公開番号】特開2012−82316(P2012−82316A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229631(P2010−229631)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】