説明

携帯型行動監視装置および行動監視システム

【課題】子供や老人の行動範囲を監視する安価な携帯型行動監視装置を提案すること。
【解決手段】携帯型行動監視装置に組み込まれた3Dモーションセンサ21aで検出された情報のうち、立体的方位情報から老人の立体的な移動方位を特定する。また、加速度情報の周期的な変化と老人の歩行の1歩とを対応させて、老人が歩いた歩数を積算し、この歩数に予め設定した歩幅を乗じて移動距離を検出する。老人の立体的移動方位と移動距離とを検出できるので、老人が福祉施設からどの方位にどれだけ離れた位置にいるのか(相対位置)を座標データで得ることができる。得られた座標データと、移動許可範囲記憶部216に予め記憶されている移動許可範囲とを比較して、座標データが移動許可範囲から外れた位置にある場合には、異常報知手段218がアラームを発生させるとともに、送信手段219によりその旨を管理側監視装置に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子供や老人などの行動を監視する携帯型行動監視装置、および当該携帯型行動監視装置を用いた行動監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
認知症の老人の徘徊や子供の居場所を監視するシステムとしては、被監視者にGPS(全地球測位システム)やPHS(パーソナルハンディーホンシステム)等の携帯装置を携帯させるシステムが知られている。GPSを利用する場合には、携帯装置で衛星からの電波を受信して位置情報を検出し、PHSを利用する場合には、複数の基地局からの電界を受信して位置情報を検出する。検出された位置情報は、監視者側にある監視装置に送信され、監視装置で被監視者の位置を確認する。これらの機器は、衛星からの電波や基地局の電界を受信できる限り、どこにいても被監視者の位置を特定することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような携帯型行動監視装置において、監視対象が老人や子供などであった場合、自宅や福祉施設を中心とする限定された範囲内であるため、全国どこにいても位置情報が特定できるような性能は必要としない。また、常に被監視者の位置を把握し続ける必要はなく、一定の行動範囲内から逸脱してしまった場合にだけ、監視者が被監視者の位置を把握できればよい。しかしながら、このような簡易な携帯型行動監視装置は提案されていないため、衛星からの情報や基地局からの磁界を受信する受信手段を備えた高価な携帯機器を使用しているのが現状である。
【0004】
本発明の課題は、このような問題点に鑑みて、子供や老人などの監視に適した安価な携帯型行動監視装置、および当該携帯型行動監視装置を用いた行動監視システムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の携帯型行動監視装置では、携帯者の姿勢および移動方向を検出するためのジャイロセンサ(X,Y、Z軸)と、携帯者に発生する加速度を検出する加速度センサと、携帯者の垂直位置を検出する地磁気センサと、前記加速度センサが検出した加速度情報に基づいて、携帯者が転倒したことを検出する転倒検出手段と、前記ジャイロセンサが検出した移動方向情報、前記地磁気センサが検出した垂直位置情報、および前記加速度センサが検出した加速度情報に基づいて、携帯者の基準位置に対する相対位置を検出する相対位置検出手段と、前記基準位置を囲む境界線により規定された移動許可範囲を予め記憶しておく移動許可範囲記憶部と、前記相対位置検出手段によって検出された携帯者の相対位置が前記移動許可範囲記憶部に記憶された移動許可範囲から逸脱したことを検出する逸脱検出手段と、前記転倒検出手段が転倒を検出した場合、および前記逸脱検出手段が逸脱を検出した場合に異常を報知する異常報知手段と、を備えていることを特徴とする。
【0006】
本発明では、ジャイロセンサ、加速度センサおよび地磁気センサの検出データに基づいて、携帯者が基準位置からどの方向にどれだけ離れた位置にいるかという位置情報(相対位置)を検出するため、GPSやPHSを用いなくてもよい分、装置を安価に構成することができる。また、消費電力を低く抑えることができるので、携帯性に優れている。また、基準位置を囲む境界線により規定された移動許可範囲を予め記憶しておく移動許可範囲記憶部を有しているため、検出した携帯者の相対位置が、境界線から逸脱したか否かを検出できるので、個々の携帯者の状況や環境に応じた使用形態を実現できる。また、移動許可範囲よりも外側に逸脱した場合や転倒した場合に異常を報知する異常報知手段を備えているため、監視者が常に被監視者の位置を把握し続ける必要はなく、一定の行動範囲内から逸脱してしまった場合や転倒した場合に被監視者の位置を把握できるので、監視者の監視負担を軽減することができる。
【0007】
本発明において、前記ジャイロセンサ、前記加速度センサ、および前記地磁気センサは、1個の3Dモーションセンサに構成されていることが好ましい。このような3Dモーションセンサは既に市販されているので、センサを個々に搭載した場合と比較して装置を安価に構成することができる。また、3Dモーションセンサを用いているので、平面的な移動だけではなく、ビルの中などの立体的な行動範囲の監視も対応できる。
【0008】
本発明において、前記異常報知手段は、携帯型行動監視装置自身から発生させた音あるいは光で周囲に異常を報知することが好ましい。このように構成すると、異常発生時、携帯者の周囲にいる人によって装着者の救助を迅速に行うことができる。
【0009】
本発明において、前記転倒検出手段は、さらに、前記ジャイロセンサが検出した姿勢情報に基づいて携帯者が転倒したことを検出することが好ましい。この場合には、前記転倒検出手段は、前記加速度情報から予め設定した値以上の加速度情報が検出された場合、および前記姿勢情報から携帯者が横向き姿勢になっている状態が予め設定した時間以上継続していると検出した場合の少なくとも一方の場合に携帯者が転倒したことを検出することが好ましい。装着者が倒れた場合や交通事故に遭った場合には、加速度センサでは通常よりも大きな加速度が検出されるので異常を検出することができる。また、散歩中などに具合が悪くなってベンチや道路に寝込んでしまった場合にも、異常を検出することができる。それ故、異常の発生を確実に検出できる一方、通常の動作を異常と誤って検出することを確実に防止することができる。
【0010】
本発明に係る携帯型行動冠詞装置は、さらに、前記相対位置検出手段によって検出された相対位置の時系列的な変化を記憶する移動軌跡記憶部を備えていることが好ましい。このように構成すると、移動軌跡記憶部に記録された情報を解析するだけで携帯者の行動のパターンを把握することができるので、携帯者の行動を監視することが容易になる。
【0011】
本発明において、前記相対位置検出手段は、例えば、前記加速度センサが検出した加速度情報から携帯者の歩数を算出して携帯者の移動距離を検出する移動距離検出手段と、前記地磁気センサが検出した垂直位置情報と前記ジャイロセンサが検出した移動方向情報に基づいて携帯者の立体的な移動方向を検出する立体移動方位検出手段とを備え、前記立体的な移動方向および前記移動距離に基づいて前記相対位置を検出する。携帯者が歩行をしているときには上下動による周期的な加速度が加速度センサから検出されるので、この加速度情報に基づいて装着者の歩数を算出できる。従って、算出した歩数と装着者の平均的な歩幅を乗じることにより、装着者の移動距離を容易に算出できる。また、地磁気センサおよびジャイロセンサが検出した立体的方位情報(移動方向情報および垂直位置情報)に基づけば、携帯者の立体的移動方向を検出することができる。それ故、立体的移動方向および移動距離を時系列に累積していけば、携帯者の現在位置を検出することができる。
【0012】
本発明に係る携帯型行動監視装置は、1台ないし複数台の携帯型行動監視装置と管理側監視装置とによって行動範囲監視システムを構築するのに用いることができる。この場合、前記携帯型行動監視装置は、当該携帯型行動監視装置で検出した情報を無線で前記管理側監視装置に送信する送信手段を備え、前記管理側監視装置は、前記送信手段から送信された情報を表示する表示手段を備え、前記異常報知手段は、前記転倒検出手段が転倒を検出した場合、および前記逸脱検出手段が逸脱を検出した場合に前記送信手段によって前記管理側監視装置に異常を報知する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ジャイロセンサ、加速度センサおよび地磁気センサの検出データに基づいて、携帯者が基準位置からどの方向にどれだけ離れた位置にいるかという位置情報(相対位置)を検出するため、GPSやPHSを用いなくてもよい分、装置を安価に構成することができる。また、消費電力を低く抑えることができるので、携帯性に優れている。また、基準位置を囲む境界線により規定された移動許可範囲を予め記憶しておく移動許可範囲記憶部を有しているため、検出した携帯者の相対位置が、境界線から逸脱したか否かを検出できるので、個々の携帯者の状況や環境に応じた使用形態を実現できる。また、移動許可範囲よりも外側に逸脱した場合や転倒した場合に異常を報知する異常報知手段を備えているため、監視者が常に被監視者の位置を把握し続ける必要はなく、一定の行動範囲内から逸脱してしまった場合や転倒した場合に被監視者の位置を把握できるので、監視者の監視負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(行動監視システムの全体構成)
図を参照して本例の行動監視システムを説明する。図1は、本例の携帯型行動監視装置と行動監視システムの管理側監視装置の平面図であり、(a)は携帯型行動監視装置であり、(b)は管理側監視装置である。
【0015】
図1に示すように、本例の行動監視システム1は、それぞれIDが割り当てられた10台の携帯型行動監視装置2と、家庭や福祉施設などに設置しておいて家族や施設の職員など老人の行動を見守る管理者が使用する管理側監視装置3とを有している。携帯型行動監視装置2は、管理を必要としている老人に携帯させるものであり、携帯した老人が許可された行動範囲から逸脱してしまった場合や転倒した場合などの異常が発生した場合に、逸脱または転倒の有無、老人の位置情報、IDを無線で管理側監視装置3に送信する。管理側監視装置3は送信された情報を受信すると、スピーカ32から管理者に注意を促す警報を鳴らすとともに、受信したID、逸脱または転倒の有無、位置情報を液晶表示装置などの表示装置31に表示する。従って、管理者は、管理側監視装置3に表示された老人の位置情報に基づいて、異常が発生している老人を助けに向かうことができる。
【0016】
(携帯型行動監視装置の構成)
携帯型行動監視装置2は、老人の腰部分、例えばベルトや着物の帯に装着して使用する。携帯型行動監視装置2は、図1(a)に示すように、全体として細長い形状をしており、一方の端部分は、地磁気センサ、加速度センサ、ジャイロセンサの役割を果す1個の3Dモーションセンサ21aが組み込まれた検出部21となっている。他方の端部分は、検出された逸脱や転倒および老人の位置情報を管理側監視装置3に送信する送信手段221が組み込まれた送信部22となっている。検出部21と送信部22とは細い連結部23によって連結されている。連結部23には、3Dモーションセンサ21aが検出した情報に基づいて、老人の逸脱、転倒および位置情報を検出して記憶するための演算装置、記憶装置、回路基板、装置電源、記憶部に格納されているプログラムに従って携帯型行動監視装置2での各種処理を行うためのプロセッサなどが組み込まれている。組み込まれている装置電源は充電電池であり、送信部22の側面部分には充電電池を充電するための充電ユニットの端子を挿入するコネクタが形成されている。装置の側面部分には、老人が許可された移動範囲を超えて移動してしまった場合や老人が転倒してしまった場合に警報を周囲に発するためのLEDやスピーカなどの異常報知部を備えている。
【0017】
図2は本例の携帯型行動監視装置の構成を示す図である。図2において、検出部21にある3Dモーションセンサ21aで検出された情報のうち、加速度センサより検出された加速度情報、ジャイロセンサより検出された移動方向情報、および地磁気センサが検出した垂直位置情報は相対位置検出手段211に入力される。これらの情報のうち、ジャイロセンサより検出された移動方向情報、および地磁気センサが検出した垂直位置情報は、三次元的な方位を示す立体的方位情報である。相対位置検出手段211は、携帯者が福祉施設(基準位置)から、どの方位にどれだけ離れた位置にいるか(相対位置)を検出するものであり、立体移動方位検出手段212と移動距離検出手段213とを備えている。
【0018】
立体移動方位検出手段212は、ジャイロセンサおよび地磁気センサが検出した立体的方位情報に基づいて携帯者の移動方位を特定するものである。すなわち、3Dモーションセンサ21aのジャイロセンサおよび地磁気センサからの立体的方位情報は老人の腰の向いている方向および基準位置からの相対的な高さ情報を検出しているので、この立体的方位情報を立体的移動方位として検出する。
【0019】
移動距離検出手段213は、まず、加速度センサが検出した加速度情報から携帯者の歩数を算出する。すなわち、老人が歩行を開始すると、歩行による上下動により加速度センサからの加速度情報が周期的に変動するので、この1回の周期的な変動の発生を、老人の歩行の1歩に対応させて、老人の歩数を算出することができる。この歩数に予め設定した歩幅を乗じて老人の移動距離を検出する。
【0020】
このように老人の立体的移動方位と移動距離とを検出すると、相対位置検出手段211は、老人の位置を福祉施設を基準にした座標データとして得ることができる。算出された座標データは、逸脱検出手段214によって、移動許可範囲記憶部216に予め記憶されている移動許可範囲と比較される。座標データが移動許可範囲内にある場合には、老人は移動許可範囲にいると判断されて逸脱とは検出されず、座標データが移動許可範囲から外れた位置にある場合に老人の逸脱を検出する。
【0021】
次に、3Dモーションセンサ21aで検出された信号のうち、加速度センサおよびジャイロセンサで検出された加速度情報および姿勢情報は、転倒検出手段217に入力される。転倒検出手段217は、加速度情報に異常値が現れた場合、または、老人が横になっているという姿勢情報が所定時間以上検出された場合には、転倒を検出する。
【0022】
ここで、老人の逸脱が検出された場合および携帯者の転倒が検出された場合には、異常報知手段218が、装置に取り付けられたLEDを点滅させるとともに、スピーカからアラーム音を発生させる。また、異常報知手段218は、送信手段219によって、老人の逸脱または転倒の有無と、老人の相対位置を管理側監視装置3に向けて送信する。送信手段219は、管理側監視装置3に情報を送信するときに、同時に、携帯型行動監視装置2に個別に付けられているIDも送信する。
【0023】
(相対位置検出手段)
次に、相対位置検出手段211が散歩をする老人の相対位置を検出する方法を詳細に説明する。図3は、相対位置検出手段および逸脱検出手段が情報を処理する流れを示すフローチャートである。図4は、相対位置検出手段が相対位置の座標データを得る方法を模式的に示した説明図である。
【0024】
図3および図4において、本例の携帯型行動監視装置2では、老人が福祉施設にいるときに、ここを基準位置(0地点)としてリセットする(ステップST1)。携帯型行動監視装置2が装着された老人が歩行を開始すると、立体移動方位検出手段212は、3Dモーションセンサ21aのジャイロセンサおよび地磁気センサから得られる立体的方位情報から、老人が移動する立体的移動方位を検出し、この方位を保持する(ステップST5)。同時に、老人が歩行を開始すると、歩行による上下動により加速度センサからの加速度情報が周期的に変動するので、この1回の周期的な変動の発生を老人の歩行の1歩に対応させて老人の歩数を積算する(ステップST5)。
【0025】
3Dモーションセンサ21aのジャイロセンサおよび地磁気センサから同一の立体的方位情報が検出され続けている場合には、老人は、福祉施設を出発してから同一方位に歩き続けているので、歩数の積算(ステップST5)を繰り返す。そして、異なる立体的方位情報が検出された場合(ステップST2)には、老人が、その地点(地点B)で歩く向きを変えたと判断して、福祉施設(0地点)からその地点(地点B)までの移動方向、移動距離を算出する(ステップST5)。
【0026】
ステップST5で保持している立体的方位情報が老人の立体的移動方位であり、ステップST5で積算されていた歩数がその地点までの歩数とされる。従って、予め設定しておいた歩幅を乗じれば老人の移動距離が算出される。例えば、老人の歩幅としては、45cmを設定しておけばよい。
【0027】
このように立体的移動方位と移動距離が算出できるので、福祉施設を基準位置とした相対位置を、福祉施設を0とした座標データとして得ることができる(ステップST6)。得られた座標データは移動軌跡記憶部215に記憶する(ステップST6)。ここで、得られた座標データと移動許可範囲記憶部216に記憶された移動許可範囲とを比較して(ステップST7)、座標データが移動許可範囲から逸脱している場合には警告を発生する(ステップST9)。なお、移動許可範囲およびステップST9の詳細な内容については、後述する。
【0028】
次に、座標データとして得られた地点Bを新たな基準位置とするために、基準位置および歩数をリセットし、新たに検出されている立体的方位情報を記憶、保持する(ステップST5)。そして上記と同様に、次に3Dモーションセンサ21aから異なる立体的方位情報が検出された地点(地点C)までの歩数を積算して、立体的移動方位および移動距離を得る(ステップST5)。この結果、地点Cが、地点Bから、どの方向にどれだけ離れた位置にあるのか(相対位置)を検出できる。
【0029】
ここで、新たな基準位置とした地点Bの座標データは分かっているので、この座標データを利用して、福祉施設を基準位置とした地点Cの座標データを算出する(ステップST6)。この座標データを時系列に沿って移動軌跡記憶部215に記録した後(ステップST6)、得られた座標データと、移動許可範囲記憶部216に記憶された移動許可範囲とを比較して(ステップST7)、座標データが移動許可範囲から逸脱している場合には警告を発生する(ステップST9)。老人が、福祉施設に戻ってくるまでこの処理を繰り返す。
【0030】
(移動範囲記憶部)
ここで、移動許可範囲の設定方法を説明する。図5は、移動許可範囲を模式的に示した説明図である。移動許可範囲は、福祉施設(0地点)を囲む閉じた境界線によって規定された範囲である。具体的には、実際に老人に携帯型行動監視装置2を携帯させて、福祉施設から境界線まで歩き、さらに、その境界線を一周することによって移動軌跡記憶部215に記憶される座標データのうち、境界線上を示す座標データを時系列に沿って直線で結ぶことによって規定される閉じた範囲である。
【0031】
従って、この移動許可範囲を移動許可範囲記憶部216に記憶するためには、老人が境界線上に達した後、境界線上を歩き始めた地点(始点D)から、境界線上を一周して、境界線上を歩き始めた地点に到着するまで(終点E)の間、ステップST6で得られる座標データを移動許可範囲記憶部216に時系列に沿って記憶すればよい。なお、始点Dと終点Eの座標データとは一致するように記憶される。
【0032】
(逸脱検出手段)
次に、ステップST7の逸脱検出手段が逸脱を検出する方法を説明する。逸脱検出手段214は、相対位置検出手段211が老人の相対位置の座標データを移動軌跡記憶部215に記憶した後に、この座標データと移動許可範囲記憶部216に記憶された境界線の座標データ、すなわち、移動許可範囲とを比較する。老人の相対位置の座標データが、境界線の座標データを相互に結んだ直線の内側に位置する場合には、老人は許可された行動範囲内にいるので、行動範囲の逸脱は検出されない。老人の相対位置の座標データが、境界線の座標データを相互に結んだ直線の外側に位置する場合には、老人は許可された行動範囲外にいるので、逸脱が検出される。
【0033】
(転倒検出手段)
転倒検出手段217が老人の転倒を検出する方法を詳細に説明する。転倒検出手段217は、3Dモーションセンサ21aからの加速度情報と姿勢情報とを監視する。
【0034】
図3に示すように、検出される加速度情報が所定の範囲の周期的な変動を繰り返している場合には老人は歩行しているので、転倒は検出されない。しかし、老人が急に倒れ込んだり、事故に遭って体が急に移動させられた場合には、通常の範囲を超えた大きな加速度が検出されるので(ステップST3)、この場合には、転倒を検出する。
【0035】
また、検出される姿勢情報が縦姿勢である場合には、転倒は検出されない。しかし、散歩中に気分が悪くなったり、怪我をして起き上がれない状態になれば、老人は横になる。よって、横姿勢であるという姿勢情報が検出された時点から、経過する時間を積算して、この経過時間が予め設定した時間以上継続して検出されたか否かを判別して(ステップST4)、所定時間以上ならば転倒を検出する。なお、加速度情報と姿勢情報とを関連付けて、所定以上の加速度情報が検出された後に姿勢情報が横姿勢になった場合などに転倒を検出するようにすれば、老人の転倒を高い確率で判断できるので、誤動作を防止することができる。
【0036】
転倒が検出された場合には、その地点の座標データが算出され、移動軌跡記憶部215に記録されて、異常報知手段218に処理が移る(ステップST8)。
【0037】
(異常報知手段)
逸脱検出手段214が逸脱を検出した場合または転倒検出手段217が転倒を検出した場合には、検出結果を受けた異常報知手段218はアラームを発生する。すなわち、携帯型行動監視装置2では側面部分に取り付けられたLEDを点滅させるとともに、警報を鳴らす。点滅や警報によって老人の周囲にいる人の注意を喚起することができるので、倒れた老人の迅速な救助や、徘徊する老人の行方を知る手がかりを得ることができる。
【0038】
また、異常報知手段218は送信手段219を備えているので、管理側監視装置3に向けて、逸脱や転倒の有無、算出された座標データ、および携帯型行動監視装置2のそれぞれに個別に割り当てられているIDを送信する。
【0039】
(管理側監視装置の構成)
次に、図1(b)、図7を参照して、管理側監視装置3を説明する。図1(b)に示すように、管理側監視装置3は箱型であり、筺体の上面部には、受信した情報を表示する表示手段の表示部31と、携帯型行動監視装置2が送信した情報を受信したことを管理者に知らせるスピーカ32を備えている。内部には、携帯型行動監視装置2の異常報知手段218の送信手段219から送信された情報を受信する受信手段311と、受信した情報を表示する表示手段312とを備えている。また、携帯型行動監視装置2の管理機能として、携帯型行動監視装置2の移動許可範囲記憶部216に記憶された移動許可範囲の座標データを管理側監視装置3の管理側座標情報記憶部314との間で相互に転送可能な座標情報転送手段313を備えている。
【0040】
(受信手段)
携帯型行動監視装置2の異常報知手段218の送信手段219により送信された情報は、受信手段311により受信される。受信手段311は、情報を受信すると、スピーカから警報を発して管理者に老人に異常が発生した事を知らせる。
【0041】
(表示手段)
表示手段312は受信手段311が受信した情報に基づいて、携帯型行動監視装置2のIDを表示するとともに、その警報が移動許可範囲からの逸脱を検出したものなのか、転倒を検出したものなのか、を表示する。さらに、逸脱や転倒が検出された位置情報を表示する。ここで、管理側監視装置3が受信する位置情報は福祉施設を0とする座標データなので、表示手段312は、老人が福祉施設からどのような方位、距離にいるかを演算して管理者に表示することができる。または、表示部31の背景に福祉施設周辺の地図を表示しておいて、座標データをその地図の対応する位置にプロットすることにより、老人の位置を表示する。従って、管理者は、警報が鳴った時に、その位置情報を確認して、逸脱や転倒した老人救助に速やかに向かうことができる。
【0042】
(管理機能)
ここで、座標情報転送手段313は、携帯型行動監視装置2を挿入可能なスロット33を備えており、このスロット33に挿入した携帯型行動監視装置2の移動許可範囲記憶部216に記憶されている移動許可範囲の座標データを管理側座標情報記憶部314に転送して保存することができる。また、管理側座標情報記憶部314に保存した移動許可範囲を、携帯型行動監視装置2の移動許可範囲記憶部216に転送することができる。従って、携帯型行動監視装置2を落としてしまう等の衝撃によって移動許可範囲を消失させてしまっても、管理側監視装置3に保存しておいた座標データを転送して復活させることができる。また、異なるIDが付けられた携帯型行動監視装置2の移動許可範囲記憶部216に、管理側座標情報記憶部314に保存しておいた移動許可範囲を転送することができるので、携帯型行動監視装置の個々について、実際に老人を歩かせて移動許可範囲を記録させる必要がない。
【0043】
さらに、座標情報転送手段313は、スロットに挿入された携帯型行動監視装置2の移動軌跡記憶部215に記録された座標データを、管理側座標情報記憶部314に転送して保存することができる。管理側座標情報記憶部314に記録された情報を、パソコンなどで分析すれば、老人の移動軌跡から行動パターンを把握することができるので、老人の行動範囲の管理が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明を適用した行動監視システムの携帯型行動監視装置と管理側監視装置の平面図である。
【図2】図1に示す携帯型行動監視装置の構成を示す図である。
【図3】図1に示す携帯型行動監視装置に構成した相対位置検出手段、逸脱検出手段および転倒検出手段が情報を処理する流れを示すフローチャートである。
【図4】図1に示す携帯型行動監視装置に構成した相対位置検出手段が相対位置の座標データを得る方法を模式的に示した説明図である。
【図5】図1に示す携帯型行動監視装置において移動許可範囲を設定する方法を模式的に示す説明図である。
【図6】図1に示す管理側監視装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 行動監視システム
2 携帯型行動監視装置
21a 3Dモーションセンサ
3 管理側監視装置
31 表示装置
32 スピーカ
33 スロット
211 相対位置検出手段
212 立体移動方位検出手段
213 移動距離検出手段
214 逸脱検出手段
215 移動軌跡記憶部
216 移動許可範囲記憶部
217 転倒検出手段
218 異常報知手段
219 送信手段
311 受信手段
312 表示手段
313 座標情報転送手段
314 管理側座標情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯者の姿勢および移動方向を検出するためのジャイロセンサと、
携帯者に発生する加速度を検出する加速度センサと、
携帯者の垂直位置を検出する地磁気センサと、
前記加速度センサが検出した加速度情報に基づいて、携帯者が転倒したことを検出する転倒検出手段と、
前記ジャイロセンサが検出した移動方向情報、前記地磁気センサが検出した垂直位置情報、および前記加速度センサが検出した加速度情報に基づいて、携帯者の基準位置に対する相対位置を検出する相対位置検出手段と、
前記基準位置を囲む境界線により規定された移動許可範囲を予め記憶しておく移動許可範囲記憶部と、
前記相対位置検出手段によって検出された携帯者の相対位置が前記移動許可範囲記憶部に記憶された移動許可範囲から逸脱したことを検出する逸脱検出手段と、
前記転倒検出手段が転倒を検出した場合、および前記逸脱検出手段が逸脱を検出した場合に異常を報知する異常報知手段と、
を備えていることを特徴とする携帯型行動監視装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ジャイロセンサ、前記加速度センサ、および前記地磁気センサは、1個の3Dモーションセンサに構成されていることを特徴とする携帯型行動監視装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記異常報知手段は、携帯型行動監視装置自身から発生させた音および光のうちの少なくとも一方により周囲に異常を報知することを特徴とする携帯型行動監視装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記転倒検出手段は、さらに、前記ジャイロセンサが検出した姿勢情報に基づいて携帯者が転倒したことを検出することを特徴とする携帯型行動監視装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記転倒検出手段は、前記加速度情報から予め設定した値以上の加速度情報が検出された場合、および前記姿勢情報から携帯者が横向き姿勢になっている状態が予め設定した時間以上継続していると検出した場合の少なくとも一方の場合に携帯者が転倒したことを検出することを特徴とする携帯型行動監視装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記相対位置検出手段によって検出された相対位置の時系列的な変化を記憶する移動軌跡記憶部を備えていることを特徴とする携帯型行動監視装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記相対位置検出手段は、前記垂直位置情報と前記移動方向情報に基づいて携帯者の立体的な移動方向を検出する立体移動方位検出手段と、前記加速度情報から携帯者の歩数を算出して携帯者の移動距離を検出する移動距離検出手段とを備え、前記立体的な移動方向および前記移動距離に基づいて前記相対位置を検出することを特徴とする携帯型行動監視装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載されている1台ないし複数台の携帯型行動監視装置と管理側監視装置とを用いた行動範囲監視システムであって、
前記携帯型行動監視装置は、該携帯型行動監視装置で検出した情報を無線で前記管理側監視装置に送信する送信手段を備え、
前記管理側監視装置は、前記送信手段から送信された情報を表示する表示手段を備え、
前記異常報知手段は、前記転倒検出手段が転倒を検出した場合、および前記逸脱検出手段が逸脱を検出した場合に前記送信手段によって前記管理側監視装置に異常を報知することを特徴とする行動監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−279837(P2007−279837A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102220(P2006−102220)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(505073897)有限会社アドバンス・アルファ (4)
【Fターム(参考)】