説明

携帯機器用カバーガラスのガラス基材

【課題】主表面と、端面とで構成されるエッジ部が鋭利な形状とならず、しかも機械的強度が高い携帯機器用カバーガラスのガラス基材を提供する。
【解決手段】板状のガラス基板1をエッチングすることにより所望の形状に切り抜かれてなり、主表面11,12及び端面13を持つ携帯機器用カバーガラスのガラス基材1であって、前記主表面11,12と前記端面13とで構成されるエッジ部14は、UL(Underwriters Laboratories)−1439に準拠するシャープエッジテストで表面から2層が切断されないエッジであり、前記ガラス基材1は、イオン交換処理により化学強化されたガラスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末装置の表示画面の保護に用いられるカバーガラスや携帯機器の本体に用いられるガラス基材に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やPDAなどの携帯端末装置やその他の携帯機器において、ディスプレイに衝撃や外力が加わることを防止するために、保護板が配設されている(例えば、特許文献1)。近年、携帯端末装置や携帯機器の薄型化に伴い、撓みを抑えつつ、しかも薄板であっても強度のある化学強化ガラスを使った保護板が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0003】
特許文献2に記載された従来の加工方法では、ガラス端面の表面粗さが粗く、ガラス端面の面取り加工した面に数十μm〜数百μm程度のマイクロクラックが存在することによって、ガラス基材に求められる機械的強度が得られないという問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、本出願人は、先行出願(特願2007−325542号)において、ガラス基板上に所望形状のレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクにしてガラス基板をエッチングすることにより、所望形状のガラス基板を得ることを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−299199号公報
【特許文献2】特開2007−99557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この方法においては、図6に示すように、エッチングがガラス基板61の対向する両主表面61a,61bから等方的に進行するために、主表面61a,61bと、端面61dとで構成されるエッジ部61cが鋭利な形状となる。このような鋭利なエッジ部61cは、ガラス基板61に曲げ応力が加わったときに、エッジ部61cに応力が集中して機械的強度が低下するという問題もある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、主表面と、端面とで構成されるエッジ部が鋭利な形状とならず、しかも機械的強度が高い携帯機器用カバーガラスのガラス基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の携帯機器用カバーガラスのガラス基材は、板状のガラス基板をエッチングすることにより所望の形状に切り抜かれてなり、主表面及び端面を持つ携帯機器用カバーガラスのガラス基材であって、前記主表面と前記端面とで構成されるエッジ部は、UL(Underwriters Laboratories)−1439に準拠するシャープエッジテストで表面から2層が切断されないエッジであり、前記ガラス基材は、イオン交換処理により化学強化されたガラスであることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、UL−1439に準拠するシャープエッジテストで表面から2層が切断されないエッジを持つので、主表面と、端面とで構成されるエッジ部が鋭利な形状とならず、しかも機械的強度が高いガラス基材を実現することができる。また、ガラス基材の主表面や端面に圧縮応力層が形成されるので、さらに機械的強度を高めることができる。
【0010】
本発明の携帯機器用カバーガラスのガラス基材においては、前記ガラス基材の前記主表面は、前記主表面における厚さ方向外側に凸となるように湾曲する湾曲面を有しており、前記ガラス基材の前記端面は、前記湾曲面から前記ガラス基材の面方向外側へ向けて突出する頂部を有していることが好ましい。
【0011】
本発明の携帯機器用カバーガラスのガラス基材においては、前記ガラス基材の3点抗折強度は、5000kgf/cm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の携帯機器用カバーガラスのガラス基材においては、前記ガラス基材は、SiO、Al、LiO及びNaOからなる群から選ばれた少なくとも一つを含有したアルミノシリケートガラスであることが好ましい。この構成によれば、板状のガラス基板をダウンドロー法(フュージョン法)により成形することが可能となるので、ガラス基板の主表面をキズがなく、ナノメートルオーダーの極めて高い平滑性を有する熔解ガラス面とすることができる。したがって、ガラス基材の作製時に主表面の鏡面研磨加工が不要となり、主表面においてもマイクロクラックのないガラス基材が得られ、機械的強度が優れたガラス基材となる。
【0013】
本発明の携帯機器用カバーガラスのガラス基材においては、前記エッジ部は、前記主表面における湾曲面の開始点から前記端面までの距離が10μm〜100μmであり、前記端面における外側に凸となる湾曲面の開始点から前記主表面までの距離が10μm〜100μmであることが好ましい。この場合において、ガラス基材の厚さは、0.3mm〜1.5mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の携帯機器用カバーガラスのガラス基材は、板状のガラス基板をエッチングすることにより所望の形状に切り抜かれてなり、主表面及び端面を持つガラス基材であって、前記主表面と前記端面とで構成されるエッジ部は、UL−1439に準拠するシャープエッジテストで表面から2層が切断されないエッジであるので、主表面と、端面とで構成されるエッジ部が鋭利な形状とならず、しかも機械的強度が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るガラス基材の一部を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るガラス基材を製造する際のエッチングを説明するための図である。
【図3】図2に示すエッチングの際に使用するレジストパターンを説明するための図である。
【図4】抗折強度測定装置を説明するための図である。
【図5】シャープエッジテストを説明するための図である。
【図6】ガラス基材のエッジを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るガラス基材の一部を示す図である。図1に示すガラス基材1は、対向する一対の主表面11,12と、端面13とを有する。主表面11,12と端面13とで構成されるエッジ部14は、UL−1439に準拠するシャープエッジテストで表面から2層が切断されないエッジである。このようなエッジ部14は、主表面11,12における湾曲面の開始点から端面13までの距離(Y)が10μm〜100μmであり、端面13における外側に凸となる湾曲面の開始点から主表面11,12までの距離(X)が10μm〜100μmである。なお、このエッジ部14の形状については、UL−1439に準拠するシャープエッジテストで表層から2層が切断されない状態になっていれば良く、必ずしも湾曲形状である必要はなく、面取り形状に近い形状となっていても良い。なお、より好ましくは、エッジ部14の形状は、UL−1439に準拠するシャープエッジテストで全層が切断されないエッジが望ましい。
【0017】
このようなエッジ部14は、UL−1439に準拠するシャープエッジテストで表層から2層が切断されないエッジであるので、鋭利な形状となっていない。このため、本発明に係るガラス基材は、ユーザが取り扱い易いものとなる。また、本発明に係るガラス基材は、板状のガラス基板の主表面にレジストパターンを形成した後、前記レジストパターンをマスクとして、前記ガラス基板のエッチングが可能なエッチャントで前記ガラス基板をエッチングすることにより所望の形状に切り抜かれたものであり、かつ、ガラス基材1の端面13は、溶解ガラス面で構成されてなり、該端面13における表面粗さ(算術平均粗さRa)が10nm以下となっている。このように、本発明に係るガラス基材は、エッチングにより外形を形成しているので、端面13が非常に高い平滑性を有し、溶解ガラス面で構成されており、機械加工で形成された端面に必ず存在するマイクロクラックのない状態となり、高い機械的強度を発揮する。
【0018】
なお、ガラス基材の機械的強度は、3点抗折強度(3点曲げ強さ)で5000kgf/cm以上が好ましく、さらに好ましくは、7000kgf/cm以上、最も好ましくは、10000kgf/cm以上であることが望ましい。
【0019】
上記エッジ部14を持つガラス基材1を製造するためには、図2に示すように、板状のガラス基材1の主表面に、前記主表面側が最も重合度が小さくなるように厚さ方向に重合度勾配を持つレジストパターン15を形成し、前記レジストパターン15をマスクとして、前記ガラス基板のエッチングが可能なエッチャントで前記ガラス基材1をエッチングすることにより所望の形状に切り抜くと共に、前記主表面と端面とで構成されるエッジ部を、UL−1439に準拠するシャープエッジテストで表面から2層が切断されないエッジにする。このエッチングにおいては、ガラス基材1を切断する際に、エッチング液がガラス基材1とレジストパターン15との間に浸み込んで、ガラス基材1のエッジ領域1aもエッチングされる。これにより、上記エッジ部14が形成されることになる。
【0020】
このように、ガラス基材1のエッジ領域1aもエッチングされるようにするためには、図3に示すように、ガラス基材1の主表面11,12側が最も重合度が小さく(低く)なるように厚さ方向に重合度勾配を持つレジストパターン15を形成する必要がある。このように、レジストパターン15において厚さ方向に重合度勾配を持つようにするためには、レジストパターン形成時にガラスとレジストとの間の密着を弱くする必要がある。ガラスとレジストとの間の密着を弱くするためには、レジスト厚、露光量、ポストベーク条件をコントロールする。これらの条件のコントロールは、使用するレジストの種類や露光光源(エネルギー)により適宜変更して行う。このようにコントロールすることにより、レジストとガラス(主表面)との間の界面にエッチング液が浸み込み易いレジストパターンを形成することができる。
【0021】
厚さ方向に重合度勾配を持つためのレジスト膜厚としては、20μm〜150μmであることが好ましく、露光エネルギーは、200mJ/cm2〜500mJ/cm2であることが好ましく、ポストベーク温度は、110℃〜200℃であることが好ましい。
【0022】
なお、厚さ方向に重合度勾配を持つレジストパターンは、未露光レジストの感度波長における透過率、及び透過率の時間変化を測定することで、重合度勾配を間接的に確認することが可能であると思われる。また、この重合度勾配は、ラマン分光測定装置などにより確認することもできる。
【0023】
ガラス基材1としては、溶融ガラスから直接シート状に成形したもの、あるいは、ある厚さに成形されたガラス体を所定の厚さに切り出し、主表面を研磨して所定の厚さに仕上げたものなどを使用することができる。好ましくは、溶融ガラスから直接シート状に成形したものを使用することが好ましい。なぜなら、溶融ガラスから直接シート状に成形したガラス基板の主表面は、熱間成形された表面であり、極めて高い平滑性を有し、マイクロクラックのない表面状態を有するからである。溶融ガラスから直接シート状に成形する方法としては、ダウンドロー法、フロート法などが挙げられる。中でも、ダウンドロー法が好ましい。上述の高平滑性等の効果に加え、エッチング工程による外形加工を行う場合、ガラス基板の両主表面に形成されたレジストパターンをマスクにして、ガラス基材を両主表面からエッチングする際に、両主表面から均等にエッチングすることができるので、寸法精度もよく、ガラス基材の端面の断面形状も良好となるからである。
【0024】
ダウンドロー法によるガラス板成形が可能なガラスとしては、SiO、Al、LiO及び/又はNaOを含有したアルミノシリケートガラスが挙げられる。特に、アルミノシリケートガラスは、62重量%〜75重量%のSiO、5重量%〜15重量%のAl、4重量%〜10重量%のLiO、4重量%〜12重量%のNaO、及び5.5重量%〜15重量%のZrOを含有することが好ましく、さらに、NaO/ZrOの重量比が0.5〜2.0であり、さらにAl/ZrOの重量比が0.4〜2.5である組成とすることが好ましい。
【0025】
SiOは、ガラス骨格を形成する主要成分である。携帯端末、特に携帯電話用カバーガラスは、人肌に触れたり、水や雨水などが接触したりするなど非常に厳しい環境下で使用されるが、このような環境化においても十分な化学的耐久性を要する必要がある。SiOの割合は、前記化学的耐久性や、溶融温度を考慮すると、62重量%〜75重量%であることが好ましい。
【0026】
Alは、ガラス表面のイオン交換性能を向上させるため含有される。Alの割合は、化学的耐久性や、耐失透性を考慮して、5重量%〜15重量%であることが好ましい。
【0027】
LiOは、ガラス表層部でイオン交換処理浴中の主としてNaイオンとイオン交換されることにより、ガラスを化学強化する際の必須成分である。LiOの割合は、イオン交換性能や、耐失透性と化学的耐久性を考慮して、4重量%〜10重量%であることが好ましい。
【0028】
NaOは、ガラス表層部でイオン交換処理浴中のKイオンとイオン交換されることにより、ガラスを化学強化する際の必須成分である。NaOの割合は、前記機械的強度や、耐失透性、化学的耐久性を考慮して、4重量%〜12重量%であることが好ましい。
【0029】
ZrOは、機械的強度を高める効果がある。ZrOの割合は、化学的耐久性や、均質なガラスを安定して製造することを考慮して、5.5重量%〜15重量%であることが好ましい。
【0030】
また、上述のアルミノシリケートガラスは、イオン交換処理により化学強化してガラス表面に圧縮応力層を形成することで機械的強度をさらに高めることが可能である。化学強化されたガラスとは、ガラスを構成するアルカリ金属イオンを、それよりもサイズが大きいアルカリ金属イオンで、イオン交換により置換することで強化されたガラスをいう。なお、アルミノシリケートガラスの代わりに、他の多成分系ガラスを用いても良い。また、ガラス基材として必要な透明性が確保されるのであれば、結晶化ガラスを用いても良い。
【0031】
また、イオン交換処理条件としては、硝酸カリウム(KNO)の単塩、硝酸ナトリウム(NaNO)の単塩、及び硝酸カリウムと硝酸ナトリウムを任意の重量比で混合した混合塩を使用しても良く、温度は350℃〜450℃、時間は1時間〜20時間の範囲で選択すれば良い。
【0032】
エッチング工程において用いるレジスト材料としては、レジストパターンをマスクにしてガラスをエッチングする際に使用するエッチャントに対して耐性を有する材料であればよい。ガラスは大抵、フッ酸を含む水溶液のウェットエッチングや、フッ素系ガスのドライエッチングにより食刻されるので、例えば、フッ酸耐性に優れたレジスト材料などを用いることができる。また、レジスト材をガラス基材から剥離するための剥離液としては、KOHやNaOHなどのアルカリ溶液を用いることが好ましい。なお、レジスト材、エッチャント、剥離液の種類は、被エッチング材料であるガラス基板の材料に応じて適宜選択することができる。
【0033】
ガラス基材をエッチングするエッチング方法は、湿式エッチング(ウェットエッチング)、乾式エッチング(ドライエッチング)どちらでも構わない。加工コストを低くする点からは、ウェットエッチングが好ましい。ウェットエッチングに使用するエッチャントは、ガラス基材を食刻できるものであれば、何でも良い。好ましくは、フッ酸を主成分とする酸性溶液や、フッ酸に、硫酸、硝酸、塩酸、ケイフッ酸のうち少なくとも一つの酸を含む混酸などを用いることができる。また、ドライエッチングに使用するエッチャントは、ガラス基材を食刻できるものであれば何でも良いが、例えばフッ素系ガスを使用することができる。
【0034】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例1)
まず、SiOを63.5重量%、Alを8.2重量%、LiOを8.0重量%、NaOを10.4重量%、ZrOを11.9重量%含むアルミノシリケートガラスをダウンドロー法により、板厚0.5mmの板状のガラス基板(シート状ガラス)に成形した。このダウンドロー法により形成されたシート状ガラスの主表面の表面粗さ(算術平均粗さRa)を、原子間力顕微鏡により調べたところ0.2nmであった。
【0035】
次いで、シート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ103μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対し両面から300mJ/cm2のエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを、現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。さらに、レジストパターンが形成されたシート状ガラスに対して130℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。
【0036】
次いで、エッチャントとしてフッ酸(5%)と硫酸(8%)の混酸水溶液(40℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして実施例1のガラス基材を得た。また、このガラス基材に対して、硝酸ナトリウム(NaNO)と硝酸カリウム(KNO)の比率(NaNO:KNO)を、重量比4:6で混合した熔融塩中で、380℃、2時間浸漬して、イオン交換処理して化学強化を行った。
【0037】
得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に示す。
【0038】
なお、抗折強度測定は、図4(a)に示すように、ガラス基材1を一定距離に配置された2支持体(支点)21,22上に置き、支持体21,22間の中央の1点に荷重体23を介して荷重を加えて、破壊したときの最大曲げ応力を測定することにより行った。この3点曲げ強さは、支点間距離、基板幅、基板厚さに依存するため、次式により規格化を行った。
σ=(3PL)/(2wt2
ここで、σは3点曲げ強さ(kgf/cm2)を示し、Pはガラス基材が破壊したときの最大荷重(kgf)を示し、Lは支持体21,22間距離(cm)を示し、wは図4(b)に示すようにガラス基材幅(cm)を示し、tは図4(b)に示すようにガラス基材の厚さ(cm)を示す。
【0039】
シャープエッジテストは、エクセル株式会社製シャープエッジテスターSET−50とテープキットTC−3を用い、UL−1439(機器の縁の鋭さの判定)に準拠した方法により行った。なお、テープキットTC−3は、図5に示すように、直径12.7mmのヘッド34に積層された、指の柔らかさを想定した3層のテープ31〜33を持つキットであり、シャープエッジテスターSET−50はそれを被測定エッジに一定荷重で押し付けるためのツールである。具体的には、シャープエッジテスターSET−50に取り付けられたテープキットTC−3を一定荷重(図5における矢印方向:6.67N)で被測定エッジ(ガラス基材のエッジ部)に接触させる。その荷重を保ったまま、エッジ部に沿ってテープキットTC−3を往復100mm(片道50mm)移動させる。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同じシート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ58μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対し両面から300mJ/cm2のエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。更に、レジストパターンが形成されたシート状ガラスを、130℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。次いで、エッチャントとしてフッ酸(15%)と硫酸(25%)の混酸水溶液(30℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして実施例2のガラス基材を得た。また、実施例1と同様にしてガラス基材に対して化学強化を行った。得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に併記する。
【0041】
(実施例3)
実施例1と同じシート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ32μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対し両面から300mJ/cm2のエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。更に、レジストパターンが形成されたシート状ガラスを、150℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。次いで、エッチャントとしてフッ酸(15%)と硫酸(25%)の混酸水溶液(40℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして実施例3のガラス基材を得た。また、実施例1と同様にしてガラス基材に対して化学強化を行った。得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に併記する。
【0042】
(実施例4)
実施例1と同じシート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ20μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対して両面から300mJ/cmのエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを、現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。さらに、レジストパターンが形成されたシート状ガラスに対して、170℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。次いで、エッチャントとしてフッ酸(15%)と硫酸(25%)の混酸水溶液(40℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして実施例4のガラス基材を得た。また、実施例1と同様にしてガラス基材に対して化学強化を行った。得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に併記する。
【0043】
(実施例5)
実施例1と同じシート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ58μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対して両面から300mJ/cmのエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを、現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。さらに、レジストパターンが形成されたシート状ガラスに対して、130℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。次いで、エッチャントとしてフッ酸(15%)と塩酸(15%)の混酸水溶液(40℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして実施例5のガラス基材を得た。また、実施例1と同様にしてガラス基材に対して化学強化を行った。得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に併記する。
【0044】
(実施例6)
実施例1と同じシート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ58μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対して両面から300mJ/cmのエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを、現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。さらに、レジストパターンが形成されたシート状ガラスに対して、130℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。エッチャントとしてフッ酸(15%)と硝酸(15%)の混酸水溶液(40℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして実施例6のガラス基材を得た。また、実施例1と同様にしてガラス基材に対して化学強化を行った。得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に併記する。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同じシート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ32μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対し両面から300mJ/cm2のエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。さらに、レジストパターンが形成されたシート状ガラスを、250℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。次いで、エッチャントとしてフッ酸(15%)と硫酸(25%)の混酸水溶液(40℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして比較例1のガラス基材を得た。また、実施例1と同様にしてガラス基材に対して化学強化を行った。得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に併記する。
【0046】
(比較例2)
実施例1と同じシート状ガラスの両主表面上にネガ型の耐フッ酸性レジストを厚さ17μmでコーティングし、この耐フッ酸性レジストに対して100℃で30分のベーキング処理(プリベーク)を施した。次いで、所定のパターンを有するフォトマスクを介して耐フッ酸性レジストに対し両面から700mJ/cm2のエネルギーで露光し、露光後の耐フッ酸性レジストを現像液(NaCO溶液)を用いて現像してシート状ガラス上の被エッチング領域以外の領域に耐フッ酸性レジストを残存させたレジストパターンを形成した。さらに、レジストパターンが形成されたシート状ガラスを、250℃で30分のベーキング処理(ポストベーク)を施した。次いで、エッチャントとしてフッ酸(15%)と硫酸(25%)の混酸水溶液(40℃)を用いて、レジストパターンをマスクにして、シート状ガラスを両主表面側から被エッチング領域をエッチングして所定の形状に切り抜いた。その後、NaOH溶液を用いてガラス上に残存した耐フッ酸性レジストを膨潤させてガラスから剥離し、リンス処理を行った。このようにして比較例2のガラス基材を得た。また、実施例1と同様にしてガラス基材に対して化学強化を行った。得られたガラス基材について、化学強化前後の抗折強度測定及びシャープエッジテストを行った。その結果を下記表1に併記する。
【表1】

【0047】
表1から分かるように、実施例1〜実施例6のガラス基材は、エッジ部が鋭利でなく、しかも3点抗折強度(3点曲げ強さ)が5000kgf/cm以上で機械的強度が高いものであった。これは、厚さ方向に重合度勾配を持つレジストパターンを形成した状態でエッチングがなされため、レジストとガラスとの間にエッチング液が浸み込んでエッジ部もエッチングされたためであると考えられる。エッジ部が鋭利でないと、エッジ部での応力集中が緩和され、3点抗折強度(3点曲げ強さ)が高くなると考えられる。特に、実施例1、実施例2、実施例5、実施例6のガラス基材は、3点抗折強度(3点曲げ強さ)が7000kgf/cm以上と非常に機械的強度が高く良好なガラス基材が得られた。一方、比較例1,2のガラス基材は、エッジ部が鋭利であり、シャープエッジテストで不合格であった。また、3点抗折強度(3点曲げ強さ)も5000kgf/cmを遥かに下回るものであった。これは、レジストとガラスとの間の密着性が高く、エッチング液が浸み込まずにエッジ部がエッチングされなかったためであると考えられる。また、これら比較例1、比較例2のガラス基材はのエッジ部が鋭利であるため、エッジ部での応力集中が起こり、3点抗折強度(3点曲げ強さ)が低くなったと考えられる。また、表1に記載しているように、面取り寸法を見ても実施例1〜実施例6のガラス基材の面取り寸法が相対的に大きく、エッジ部が鋭利でないことが分る。
【0048】
本発明は上記実施の形態に限定されず、適宜変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態における材料や処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 ガラス基材
11,12 主表面
13 端面
14 エッジ部
15 レジストパターン
21,22 支持体
23 荷重体
31〜33 テープ
34 ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のガラス基板をエッチングすることにより所望の形状に切り抜かれてなり、主表面及び端面を持つ携帯機器用カバーガラスのガラス基材であって、
前記主表面と前記端面とで構成されるエッジ部は、UL(Underwriters Laboratories)−1439に準拠するシャープエッジテストで表面から2層が切断されないエッジであり、
前記ガラス基材は、イオン交換処理により化学強化されたガラスであることを特徴とする携帯機器用カバーガラスのガラス基材。
【請求項2】
前記ガラス基材の前記主表面は、前記主表面における厚さ方向外側に凸となるように湾曲する湾曲面を有しており、
前記ガラス基材の前記端面は、前記湾曲面から前記ガラス基材の面方向外側へ向けて突出する頂部を有していることを特徴とする請求項1に記載の携帯機器用カバーガラスのガラス基材。
【請求項3】
前記ガラス基材の3点抗折強度は、5000kgf/cm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の携帯機器用カバーガラスのガラス基材。
【請求項4】
前記ガラス基材は、SiO、Al、LiO及びNaOからなる群から選ばれた少なくとも一つを含有したアルミノシリケートガラスであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスのガラス基材。
【請求項5】
前記エッジ部は、前記主表面における湾曲面の開始点から前記端面までの距離が10μm〜100μmであり、前記端面における外側に凸となる湾曲面の開始点から前記主表面までの距離が10μm〜100μmであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスのガラス基材。
【請求項6】
前記ガラス基材の厚さは、0.3mm〜1.5mmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスのガラス基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−25657(P2012−25657A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176525(P2011−176525)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【分割の表示】特願2008−52074(P2008−52074)の分割
【原出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】