摺動部材及びその製造方法
【課題】ロータリーピストンエンジンの燃焼室を構成するローターハウジングにおいて、Crめっき皮膜が形成された長円形状の内周面をシール部材が流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材に関し、内周面の全周にわたって低摩擦化を図る。
【解決手段】ローターハウジング1の内周面3のCrめっき皮膜にクラックを形成し、長軸側内周面3aでは短軸側内周面3bよりも、クラック幅が大きく且つクラック数が多くなるようにする。
【解決手段】ローターハウジング1の内周面3のCrめっき皮膜にクラックを形成し、長軸側内周面3aでは短軸側内周面3bよりも、クラック幅が大きく且つクラック数が多くなるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーピストンエンジンの燃焼室を構成するローターハウジングにおいては、シール部材(アペックスシール)が摺動する長円形状の内周面(トロコイド面)に、その耐摩耗性向上のためにHv1000程度の硬さを有するCrめっき皮膜が形成されている。例えば、特許文献1には、上記トロコイド面にCrめっき皮膜を形成するとともに、逆電処理を行なうことによってCrめっき皮膜表面に幅0.1〜0.3μm程度の微細クラックを400〜1300本/cm形成することが記載されている。このような微細クラックを多数形成すると、潤滑油が摺動面に供給され易くなって油切れを生じ難くなるとともに、シールの摺動に伴ってCrめっき皮膜表面に生ずる摩擦熱がクラックに存する潤滑油に放散され易くなるため、局部的な異常昇温が防止される。
【特許文献1】特開2006−219756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記ロータハウジングの場合、シール部材が摺動するときの摺動負荷は長円形状周面の全周にわたって均一ではない。すなわち、シール部材は、短軸側内周面を摺動するときは、長軸側内周面を摺動するときよりも、高い荷重で接触し且つ摺動速度も遅くなる。
【0004】
一方、Crめっき皮膜表面の微細クラックは、流体潤滑剤の供給源となるが、摺動面から潤滑剤が逃げる場所ともなる。そのため、微細クラック数が多くなり或いはクラック幅が大きくなると、シール部材の摺動時に潤滑膜に生ずる圧力が潤滑剤のクラックへの逃げによって解放され、摺動時に潤滑膜を剪断するに必要な力が軽減されるという効果が得られるものの、その潤滑剤の逃げによって流体潤滑が維持され難くなる。
【0005】
従って、クラック数が多くなりクラック幅が大きくなると、摺動負荷が小さい箇所(特に摺動速度が速い箇所)では上記剪断力の軽減により、低摩擦化が図れるものの、摺動負荷が大きい箇所では、潤滑剤の逃げによって、流体潤滑性が損なわれてしまう。逆にクラック数が少なくなりクラック幅が小さくなると、摺動負荷が大きい箇所では、流体潤滑が維持され易くなって、低摩擦化が図れるものの、摺動負荷が小さい箇所では潤滑剤がクラックへ逃げないため、潤滑膜を剪断するに必要な力が大きくなってしまう。
【0006】
このため、上記長円形状の内周面全体にわたって均一に微細クラックを形成した場合、摺動負荷が部分的に異なるケースでは、必ずしも良好な低摩擦の摺動特性が得られない。
【0007】
そこで、本発明は、摺動負荷が部分的に異なる摺動部材において、良好な低摩擦の摺動特性が得られるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために、摺動負荷の大小に応じてCrめっき皮膜のクラック幅及びクラック数を変えるようにした。
【0009】
請求項1に係る発明は、表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材であって、
上記Crめっき皮膜は、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多い、換言すれば、上記短軸側内周面では相対的に、クラック幅が小さく且つ単位長さ当たりのクラック数が少ないことを特徴とする。
【0010】
従って、シール部材の接触荷重が大きく且つ摺動速度が遅い短軸側内周面では、クラック幅が小さく且つクラック数が少ないことから、平滑な摺動面の割合が相対的に多くなる。よって、クラックへの潤滑剤の逃げが抑制されるため、流体潤滑が維持され易くなる。その結果、流体潤滑に基づく潤滑膜荷重保持能力が高まり、低摩擦の摺動特性となる。
【0011】
一方、シール部材の接触荷重が小さく且つ摺動速度が速い長軸側内周面では、クラック幅が大きく且つクラック数が多いことから、流体潤滑に基づき潤滑膜に生ずる圧力がクラックに解放されることにより低圧の状態となり、摺動面の潤滑膜がより薄い状態になる。その結果、潤滑膜の剪断に必要な力が軽減され、低摩擦の摺動特性となる。
【0012】
請求項2に係る発明は、表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材の製造方法であって、
摺動部材用ワークをめっき浴に入れ、該ワークの内周面にCrめっき皮膜を形成する正電処理工程と、該Crめっき皮膜表面にクラックを形成する逆電処理工程とを備え、
上記逆電処理工程において、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする。
【0013】
すなわち、Crめっき皮膜表面に逆電処理によってクラックを形成する場合、その電流密度が大きくなるほど、クラック幅が大きくなり、また、クラック数も多くなる。従って、本発明に係る製造方法によれば、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなる(短軸側内周面では相対的に、クラック幅が小さく且つ単位長さ当たりのクラック数が少なくなる。)。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2において、
上記逆電処理工程において、上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に複数の電極を配置し、各電極の通電量を個別に制御することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする。
【0015】
従って、複数の電極各々の通電量の個別制御により、長軸側内周面と短軸側内周面との逆電電流密度を変えるようにしたから、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項2において、
上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に正電処理及び逆電処理に共用する一つの電極を配置し、
上記逆電処理時に、上記電極とワークの短軸側内周面との間に遮蔽板を配置することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする。
【0017】
従って、一つの電極を正電処理と逆電処理とに共用しながら、遮蔽板の利用という簡単な手法により、長軸側内周面と短軸側内周面との逆電電流密度を変えることができ、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、Crめっき皮膜が形成された長円形状内周面を有し、シール部材が流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材において、上記Crめっき皮膜は、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなるようにしたから、長軸側内周面と短軸側内周面との摺動負荷の相違に拘わらず、内周面全体にわたって摩擦係数を小さくし、摺動抵抗を低減させることができる。
【0019】
請求項2乃至請求項4の各発明によれば、長軸側内周面と短軸側内周面との逆電電流密度を異なるようにするという簡単な手法によって、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅を大きく且つ単位長さ当たりのクラック数を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は実施形態に係るロータリーピストンエンジンの概略図である。同図において、1は摺動部材としてのロータハウジング、2は内部流体(ガス)をシールする流体シール部材としてのアペックスシールである。ロータハウジング1のトロコイド状内周面(長円形状内周面)3を、出力軸を回転させるロータ5の各頂部に装着されたアペックスシール2が摺動するようになっている。このエンジンでは、吸気口6からオイルを含む燃料が空気と共に作動室7に吸入され、ロータ5の回転に伴って圧縮されつつ矢印8の方向に移動した燃料が点火プラグ9A,9Bにより着火されて膨張し、燃焼ガスの圧力によって出力軸に回転を与えた後、排気口10から排気される、という一連の行程が繰り返されることになる。
【0022】
ロータハウジング1は、図2に示すように、トロコイド状内周面3が形成された例えば高張力鋼板製のライナー11の背面に目立てが施され、このライナー11がアルミ合金に鋳ぐるまれるなどして製作される。そのライナー11の内周面3は、アペックスシール2が摺動するため、高い耐熱性、耐摩耗性、低摩擦性が要求される。そのため、内周面3にはCrめっき皮膜又はCrMo合金めっき皮膜が形成されており、このめっき皮膜には、該めっき皮膜表面に露出している微細クラックが形成されている。
【0023】
微細クラックの幅及び数(直線で単位長さ進むときに横切るクラック数)は、内周面3の全体にわたって均一ではなく、アペックスシール2による摺動負荷が大きい部分と小さい部分とでは、クラック幅及びクラック数が異なる。摺動負荷が大きい部分では、摺動負荷が小さい部分に比べて、クラック幅が小さく且つクラック数が少なくなっている。
【0024】
すなわち、アペックスシール2が短軸側内周面3bを摺動するときは、長軸側内周面3aを摺動するときよりも、当該内周面に対する接触荷重が大きく且つ摺動速度が遅い(摺動負荷が大きい)。
【0025】
そこで、上記摺動負荷の大小を踏まえて、長軸側内周面3aでは短軸側内周面3bよりも、クラック幅を大きく且つクラック数を多くしている。
【0026】
この場合、長軸側内周面3aのCrめっき皮膜は、クラック幅が3.0μm以上5.0μm以下、クラック数が900本/cm以上1300本/cm以下となるようにし、短軸側内周面3bのCrめっき皮膜は、クラック幅が0.1μm以上1.0μm以下、クラック数が600本/cm以上800本/cm以下となるようにすることが好ましい。
【0027】
<Crめっき皮膜形成>
Cr成分、硫酸及び触媒としての有機スルフォン酸を含み、さらに必要に応じてMo成分を含むメッキ浴にロータハウジング用ワークを入れて所定温度に予熱し、数分間の逆電処理によってワーク表面を洗浄した後、数分間のストライクメッキ処理(正電処理)及び所定時間の本メッキ処理(正電処理)を順に行なうことによって、Crめっき層を形成する。
【0028】
Cr成分としては、無水クロム酸CrO3が好ましく、必要に応じてCr2O3を添加する。Mo成分としては、モリブデン酸ナトリウムやモリブデン酸アンモニウムを採用することができる。有機スルフォン酸としては、HSO3Rで表され、Rが、メチル基、エチル基等の炭素数10以下の脂肪族炭化水素基、パラ位置にメチル基を有するトルエン、不飽和炭化水素基を有するスチレンなど1つの芳香環に非環式炭化水素が結合した芳香族炭化水素基であることが好ましい。Rは他の芳香族炭化水素基であってもよいし、スルフォン酸基(HSO3)は複数個あってもよい。具体的にはメタンスルフォン酸、メタン時スルフォン酸等が挙げられる。
【0029】
メッキ浴は、例えば、無水クロム酸を240g/L以上280g/L以下、硫酸イオン量を2.5g/L以上3.3g/L以下、有機スルフォン酸量を10ml/L以上35ml/L以下、モリブデン酸ナトリウム量を50g/L以上65g/L以下とすればよい。メッキ浴温度は例えば50℃以上60℃以下に調整する。
【0030】
洗浄用逆電処理の電流密度は、50A/dm2以上60A/dm2以下、ストライクメッキ処理の電流密度は40A/dm2以上55A/dm2以下、本メッキ処理の電流密度は30A/dm2以上40A/dm2以下とすればよい。
【0031】
そうして、後述の逆電処理を行なうことにより、Crめっき皮膜に微細クラックを形成する。その際に、ロータハウジング1の内周面3において部分的に逆電処理条件を変えることにより、長軸側内周面3aと短軸側内周面3bとでクラック幅及びクラック数を変える。
【0032】
仕上げ研削加工はホーニング等により行ない、めっき層表面が例えばRa2.0μm以下となるようにすることが好ましい。
【0033】
<逆電処理による微細クラックの形成>
−実施形態1−
図3に概略的に示すように、単一の逆電処理用電極(陰極)15をロータハウジング用ワーク1Aの内周面3で囲まれた貫通孔中央部に配置する。電極15は、ワーク1Aの長円形状内周面に略対応する長円形状のものであるが、電極15と長軸側内周面3aとの距離(長軸側距離)L1と、電極15と短軸側内周面3bとの距離(短軸側距離)L2とは相異なり、長軸側距離L1は短軸側距離L2よりも短くなっている。また、電極15の円弧部の曲率半径の調整により、長軸上での距離L1が最も短く、該距離が短軸側へいくに従って漸次拡大するようにしている。
【0034】
従って、ワーク1Aと電極15との間に逆電用電圧をかけると、長軸側内周面3aでは、短軸側内周面3bよりも逆電電流密度が大きくなる。その結果、長軸側内周面では、短軸側内周面3bよりも、クラック幅が大きくなり、クラック数も多くなる。
【0035】
図4及び図5は、長軸側内周面3aの逆電電流密度が35A/dm2となり、短軸側内周面3bの逆電電流密度が25A/dm2となるように電極15を構成したときの、Crめっき皮膜のクラックを撮影した写真である。メッキ浴組成は表1の通りであり、触媒、すなわち、有機スルフォン酸としては、アトテック社製のHeef25−Rを用いた。メッキ条件は表2に示す通りである。表2において、「ストライク」はメッキ皮膜のワーク表面への密着力を高めるための短時間メッキであり、「A/dm2 」は電流密度、時間は処理時間を表している。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
図4が長軸側内周面3aであり、図5が短軸側内周面3bである。長軸側内周面3aでは、平均クラック幅が約3.5μm、平均クラック数が1100本/cmであり、短軸側内周面3bでは、平均クラック幅が約0.8μm、平均クラック数が700本/cmである。
【0039】
従って、アペックスシール2の接触荷重が大きく且つ摺動速度が遅い短軸側内周面3bでは、クラック幅が小さく且つクラック数が少ないことから、平滑な摺動面の割合が相対的に多くなる。よって、クラックへの潤滑剤の逃げが抑制されるため、流体潤滑が維持され易くなる。その結果、流体潤滑に基づく潤滑膜荷重保持能力が高まり、低摩擦となる。
【0040】
一方、アペックスシール2の接触荷重が小さく且つ摺動速度が速い長軸側内周面3aでは、クラック幅が大きく且つクラック数が多いことから、流体潤滑に基づき潤滑膜に生ずる圧力がクラックに解放されることにより、低圧の状態となり、摺動面の潤滑膜がより薄い状態になる。その結果、潤滑膜の剪断に必要な力が軽減され、低摩擦となる。
【0041】
長軸側内周面及び短軸側内周面各々について、表1のめっき浴組成及び表2のめっき条件を採用し、逆電電流密度を変化させてクラック幅及びクラック数が相異なる実施例及び比較例の各テストピースを作成し、摩擦係数を測定する実験を行なった。
【0042】
そうして、各テストピースについて、ホーニング加工後、図6に示す試験器を用いて摩擦試験を行ない、摩擦係数を測定した。同図において、21は円板状のテストピース、22はチル鋳鉄製摺動片23を固定した円板状の回転支持台である。テストピース21の下面に周縁近傍を周回するようにCrめっき層24が環状に設けられている。テストピース21の中心部には該テストピース21を貫通するエア供給孔25が形成されている。テストピース21の周縁近傍にはCrめっき層24の部位で該テストピース21を貫通する潤滑油供給孔26が形成されている。回転支持台22には3個の摺動片23が周方向に120度の角度間隔をおいて固定され、各摺動片23の上端が支持台22より上方へ突出している。この3個の摺動片23にテストピース21が載せられている。
【0043】
摩擦試験は、エア供給孔25から2.5kg/cm2 の圧力でエアを供給し且つ潤滑油供給孔26から温度100℃の潤滑油を供給しながら行なった。潤滑油としては、0W−20のエンジンオイルを用いた。また、長軸側内周面用のテストピース21の試験では、荷重を50N、摺動片23の周速を20m/sとし、短軸側内周面用のテストピース21の試験では、荷重を100N、摺動片23の周速を10m/sとした。試験結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
短軸側内周面用試験結果をみると、摩擦係数は実施例が最も低くなっている。表3から、短軸側内周面に関しては、クラック幅を0.1μmよりも大きく2.0μmよりも小さくし、クラック数を450本/cmよりも多く900本/cmよりも少なくすることが好ましい、ということができる。また、短軸側内周面に関しては、クラック幅を2.0μmよりも大きく5.5μmよりも小さくし、クラック数を800本/cmよりも多く1400本/cmよりも少なくすることが好ましい、ということができる。
【0046】
−実施形態2−
図7に概略的に示すように、燃料が点火プラグ9A,9Bにより着火されて燃焼すると、その燃焼圧によりロータ5を介して点火プラグ9A,9Bとは反対側のアペックスシール2が短軸側内周面3bに強く押される。そのため、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bにおけるロータ回転方向の先側から長径側内周面3aに至る部位(図7における左側上部)では摺動負荷が大きくなる。
【0047】
そこで、本実施形態では、2つの逆電処理用電極(陰極)15A,15Bをワーク1Aの内周面3で囲まれた貫通孔に長軸方向に間隔をおいて並べて配置し、この両電極15A,15Bによる逆電処理用の通電量を個別に制御することにより、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bにおけるロータ回転方向先側から長径側内周面3aに至る部位(図7における左側上部)では、ワーク1Aの中心に関して点対称となる反対側の部位よりも、クラック幅が小さく且つクラック数が少なくなるようにしている。
【0048】
具体的には、図7において上下に並ぶ電極15A,15Bはいずれも、長軸側内周面3aとの距離L1が短軸側内周面3bとの距離L2a,L2bよりも短い。これは、長軸側内周面3aでは、短軸側内周面3bよりも逆電電流密度を大きくして、短軸側内周面よりも、相対的にクラック幅を大きく且つクラック数を多くするためである。
【0049】
また、上下に並ぶ電極15A,15Bはいずれも、点火プラグ側内周面に向いた側では、反対側を向いた側よりも、曲率半径を小さくして該点火プラグ側内周面の方へ大きく突出し、点火プラグ側内周面との距離L2aが反対側内周面との距離L2bよりも短くなっている。これは、摺動負荷が小さい点火プラグ側内周面では、反対側内周面よりも逆電電流密度を大きくして、反対側内周面よりも、クラック幅を大きく且つクラック数を多くするためである。
【0050】
さらに、上下に並ぶ電極15A,15Bのうち、上側電極15Aは下側電極15Bよりも逆電処理用の通電量を相対的に少なくする。これは、燃焼圧によって摺動負荷が大きくなる、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bにおけるロータ回転方向先側(図7における左側上部)から長径側内周面3aに至る部位の逆電電流密度を小さくして、当該部位のクラック幅を小さく且つクラック数を少なくするためである。
【0051】
従って、本実施形態によれば、実施形態1と同じく、長軸側内周面3a及び短軸側内周面3b共にその低摩擦化が図れるとともに、燃焼圧によって摺動負荷が大きくなる内周面部位(図7における左側上部)のクラック幅が小さく且つクラック数が少なくなり、さらに低摩擦化に有利になる。
【0052】
−実施形態3−
本実施形態は、図8に示すように、逆電処理用電極15を3分割型として、3つの電極部材15a,15b,15cを組み合わせてワーク1Aの貫通孔に配置し、各電極部材15a,15b,15cによる通電量を個別に制御するケースである。
【0053】
同図に示すように、電極15は、相対する円弧状の長軸側内周面3aの側に配置した一対の略半円型電極部材15a,15cと、この両半円型電極部材15a,15cの間に配置した中間の矩形型電極部材15bとからなり、相隣る電極部材は絶縁材16によって絶縁されている。電極部材15a,15b,15cと各々が対向する内周面3との距離は、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bを除いて、他は実質的に同一に設定されている。すなわち、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bと矩形型電極部材15cとの距離L2bは他の電極−内周面間距離よりも広くなっている。
【0054】
通電量は、矩形型電極部材15bが最も少なく、その次に少ないのが同図上側の半円型電極部材15cであり、同図下側の半円型電極部材15aが最も多くなるように制御される。
【0055】
従って、逆電電流密度は概略、同図下側の長軸側内周面3aが最も大きく(クラック幅最大,クラック数最多)、次いで同図上側の長軸側内周面3aが大きく(クラック幅大,クラック数多)、次に大きいのが点火プラグ9A,9B側の短軸側内周面3bであり(クラック幅中,クラック数中)、反対側の短軸側内周面3bが最も小さくなる(クラック幅小,クラック数少)。
【0056】
これにより、長軸側内周面3a及び短軸側内周面3b共にその低摩擦化が図れるとともに、燃焼圧によって摺動負荷が大きくなる内周面部位(図8における左側上部)では相対的にクラック幅が小さく且つクラック数が少なくなるから、さらに低摩擦化に有利になる。
【0057】
−実施形態4−
本実施形態は、図9に示すように、電極15と短軸側内周面3bとの間に遮蔽板17を配置することにより、長軸側内周面3aと短軸側内周面3bとの逆電電流密度を変えるケースである。
【0058】
電極15はCrめっき皮膜を形成するための正電処理とクラックを形成するための逆電処理とに共用する共用電極である。従って、電極15と内周面3との距離は内周面全周にわたって実質的に同一にする。
【0059】
正電処理にあたっては、共用電極15を陽極として該電極15とワーク1Aとの間に通電する。次いで逆電処理を行なうに際し、共用電極15とワーク1Aの短軸側内周面3bとの間に遮蔽板17を配置する。遮蔽板17は図10に示すように、多数の貫通孔18が全面にわたって等間隔で形成されたものである。従って、共用電極15を陰極としてワーク1Aとの間に逆電処理用の通電を行なうと、短軸側内周面3bでは長軸側内周面3aに比べて、逆電電流密度が小さくなり、その結果、長軸側内周面3aよりも、クラック幅が小さくなり且つクラック数も少なくなる。
【0060】
本実施形態の場合、一つの電極15を正電処理と逆電処理とに共用するため、正電及び逆電各々に専用の電極を準備する必要がなく、また、正電処理から逆電処理に移る際にめっき浴から電極15を出し入れする必要がなく、しかも、遮蔽板17は多数の貫通孔18を設けた簡単なものであるから、コスト低減及び迅速処理に有利になる。
【0061】
点火プラグ9A,9B側に配置する遮蔽板17とその反対側に配置する遮蔽板17とは、前者の貫通孔18の開口率を後者の同開口率よりも大きくすることが好ましい。これにより、点火プラグ9A,9B側の短軸側内周面3bではその反対側の短軸側内周面3bよりも、逆電電流密度を大きくして、クラック幅を大きく且つクラック数を多くすることができる。
【0062】
−実施形態5−
本実施形態も図11及び図12に示すように、共用電極15と短軸側内周面3bとの間に遮蔽板17を配置して逆電電流密度を制御するケースであるが、遮蔽板17の構成が実施形態4とは相違する。すなわち、遮蔽板17は、複数の短冊状板材19を板面が平行になるように一列に並べて平行リンク機構(図示省略)によって連結してなり、各板材19が図11に示すように短軸方向に平行になった状態と、図12右側に示すように短軸方向に対して斜めになった状態との間で角度変化するようになっている。
【0063】
遮蔽板17は共用電極15と共にワーク1Aの貫通孔内に挿入する。正電処理に際しては、図11に示すように遮蔽板17を各板材19が短軸方向に平行になった状態にして通電を行なう。この場合は、共用電極15とワークAとの間の通電は遮蔽板17によっては殆ど妨げられない。よって、正電電流密度をワーク1Aの内周面全体にわたって略均等にして、Crめっき皮膜を略均一に形成することができる。
【0064】
次いで逆電処理に際して、遮蔽板17を各板材19が短軸方向に対して斜めになるように変化させる。その状態で共用電極15とワーク1Aとの間の通電を行なう。この場合は、遮蔽板17の各板材19が短軸方向に対して斜めになっているから、遮蔽板17による通電の妨げが大きくなる。このため、長軸側内周面3aに比べて短軸側内周面3bでは逆電電流密度が小さくなり、その結果、長軸側内周面3aよりも、クラック幅が小さくなり且つクラック数も少なくなる。
【0065】
本実施形態の場合、遮蔽板17の各板材19の角度を変化させて通電を妨げる状態と通電を殆ど妨げない状態とをつくることができるようにしたから、遮蔽板17を共用電極15と共に最初からめっき浴に入れ、逆電処理が終わるまで、遮蔽板17の出し入れをする必要がない。よって、迅速処理、ひいては生産性の向上に有利になる。
【0066】
なお、本発明はロータリーピストンエンジンのロータハウジングに限らず、シール部材が摺動する長円形状内周面を有し且つ摺動負荷が長軸側内周面と短軸側内周面とで相異なる油圧ポンプやコンプレッサのハウジングにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係るロータリーピストンエンジンの概略正面図である。
【図2】同エンジンのロータハウジングの斜視図である。
【図3】実施形態1に係る逆電処理用電極の配置を示す正面図である。
【図4】長軸側内周面のCrめっき皮膜の顕微鏡写真である。
【図5】短軸側内周面のCrめっき皮膜の顕微鏡写真である。
【図6】摩擦試験器を一部断面にして示す正面図である。
【図7】実施形態2に係る逆電処理用電極の配置を示す正面図である。
【図8】実施形態3に係る逆電処理用電極の配置を示す正面図である。
【図9】実施形態4に係る共用電極及び遮蔽板の配置を示す正面図である。
【図10】同形態4に係る遮蔽板の斜視図である。
【図11】実施形態5に係る共用電極及び遮蔽板の配置を示す正面図である。
【図12】同形態5に係る遮蔽板の状態変化を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1 ロータハウジング(摺動部材)
2 シール部材
3 内周面
3a 長軸側内周面
3b 短軸側内周面
15,15A,15B 電極
15a〜15c 電極部材
17 遮蔽板
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーピストンエンジンの燃焼室を構成するローターハウジングにおいては、シール部材(アペックスシール)が摺動する長円形状の内周面(トロコイド面)に、その耐摩耗性向上のためにHv1000程度の硬さを有するCrめっき皮膜が形成されている。例えば、特許文献1には、上記トロコイド面にCrめっき皮膜を形成するとともに、逆電処理を行なうことによってCrめっき皮膜表面に幅0.1〜0.3μm程度の微細クラックを400〜1300本/cm形成することが記載されている。このような微細クラックを多数形成すると、潤滑油が摺動面に供給され易くなって油切れを生じ難くなるとともに、シールの摺動に伴ってCrめっき皮膜表面に生ずる摩擦熱がクラックに存する潤滑油に放散され易くなるため、局部的な異常昇温が防止される。
【特許文献1】特開2006−219756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記ロータハウジングの場合、シール部材が摺動するときの摺動負荷は長円形状周面の全周にわたって均一ではない。すなわち、シール部材は、短軸側内周面を摺動するときは、長軸側内周面を摺動するときよりも、高い荷重で接触し且つ摺動速度も遅くなる。
【0004】
一方、Crめっき皮膜表面の微細クラックは、流体潤滑剤の供給源となるが、摺動面から潤滑剤が逃げる場所ともなる。そのため、微細クラック数が多くなり或いはクラック幅が大きくなると、シール部材の摺動時に潤滑膜に生ずる圧力が潤滑剤のクラックへの逃げによって解放され、摺動時に潤滑膜を剪断するに必要な力が軽減されるという効果が得られるものの、その潤滑剤の逃げによって流体潤滑が維持され難くなる。
【0005】
従って、クラック数が多くなりクラック幅が大きくなると、摺動負荷が小さい箇所(特に摺動速度が速い箇所)では上記剪断力の軽減により、低摩擦化が図れるものの、摺動負荷が大きい箇所では、潤滑剤の逃げによって、流体潤滑性が損なわれてしまう。逆にクラック数が少なくなりクラック幅が小さくなると、摺動負荷が大きい箇所では、流体潤滑が維持され易くなって、低摩擦化が図れるものの、摺動負荷が小さい箇所では潤滑剤がクラックへ逃げないため、潤滑膜を剪断するに必要な力が大きくなってしまう。
【0006】
このため、上記長円形状の内周面全体にわたって均一に微細クラックを形成した場合、摺動負荷が部分的に異なるケースでは、必ずしも良好な低摩擦の摺動特性が得られない。
【0007】
そこで、本発明は、摺動負荷が部分的に異なる摺動部材において、良好な低摩擦の摺動特性が得られるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために、摺動負荷の大小に応じてCrめっき皮膜のクラック幅及びクラック数を変えるようにした。
【0009】
請求項1に係る発明は、表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材であって、
上記Crめっき皮膜は、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多い、換言すれば、上記短軸側内周面では相対的に、クラック幅が小さく且つ単位長さ当たりのクラック数が少ないことを特徴とする。
【0010】
従って、シール部材の接触荷重が大きく且つ摺動速度が遅い短軸側内周面では、クラック幅が小さく且つクラック数が少ないことから、平滑な摺動面の割合が相対的に多くなる。よって、クラックへの潤滑剤の逃げが抑制されるため、流体潤滑が維持され易くなる。その結果、流体潤滑に基づく潤滑膜荷重保持能力が高まり、低摩擦の摺動特性となる。
【0011】
一方、シール部材の接触荷重が小さく且つ摺動速度が速い長軸側内周面では、クラック幅が大きく且つクラック数が多いことから、流体潤滑に基づき潤滑膜に生ずる圧力がクラックに解放されることにより低圧の状態となり、摺動面の潤滑膜がより薄い状態になる。その結果、潤滑膜の剪断に必要な力が軽減され、低摩擦の摺動特性となる。
【0012】
請求項2に係る発明は、表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材の製造方法であって、
摺動部材用ワークをめっき浴に入れ、該ワークの内周面にCrめっき皮膜を形成する正電処理工程と、該Crめっき皮膜表面にクラックを形成する逆電処理工程とを備え、
上記逆電処理工程において、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする。
【0013】
すなわち、Crめっき皮膜表面に逆電処理によってクラックを形成する場合、その電流密度が大きくなるほど、クラック幅が大きくなり、また、クラック数も多くなる。従って、本発明に係る製造方法によれば、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなる(短軸側内周面では相対的に、クラック幅が小さく且つ単位長さ当たりのクラック数が少なくなる。)。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2において、
上記逆電処理工程において、上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に複数の電極を配置し、各電極の通電量を個別に制御することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする。
【0015】
従って、複数の電極各々の通電量の個別制御により、長軸側内周面と短軸側内周面との逆電電流密度を変えるようにしたから、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項2において、
上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に正電処理及び逆電処理に共用する一つの電極を配置し、
上記逆電処理時に、上記電極とワークの短軸側内周面との間に遮蔽板を配置することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする。
【0017】
従って、一つの電極を正電処理と逆電処理とに共用しながら、遮蔽板の利用という簡単な手法により、長軸側内周面と短軸側内周面との逆電電流密度を変えることができ、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、Crめっき皮膜が形成された長円形状内周面を有し、シール部材が流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材において、上記Crめっき皮膜は、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多くなるようにしたから、長軸側内周面と短軸側内周面との摺動負荷の相違に拘わらず、内周面全体にわたって摩擦係数を小さくし、摺動抵抗を低減させることができる。
【0019】
請求項2乃至請求項4の各発明によれば、長軸側内周面と短軸側内周面との逆電電流密度を異なるようにするという簡単な手法によって、長軸側内周面では短軸側内周面よりも、クラック幅を大きく且つ単位長さ当たりのクラック数を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は実施形態に係るロータリーピストンエンジンの概略図である。同図において、1は摺動部材としてのロータハウジング、2は内部流体(ガス)をシールする流体シール部材としてのアペックスシールである。ロータハウジング1のトロコイド状内周面(長円形状内周面)3を、出力軸を回転させるロータ5の各頂部に装着されたアペックスシール2が摺動するようになっている。このエンジンでは、吸気口6からオイルを含む燃料が空気と共に作動室7に吸入され、ロータ5の回転に伴って圧縮されつつ矢印8の方向に移動した燃料が点火プラグ9A,9Bにより着火されて膨張し、燃焼ガスの圧力によって出力軸に回転を与えた後、排気口10から排気される、という一連の行程が繰り返されることになる。
【0022】
ロータハウジング1は、図2に示すように、トロコイド状内周面3が形成された例えば高張力鋼板製のライナー11の背面に目立てが施され、このライナー11がアルミ合金に鋳ぐるまれるなどして製作される。そのライナー11の内周面3は、アペックスシール2が摺動するため、高い耐熱性、耐摩耗性、低摩擦性が要求される。そのため、内周面3にはCrめっき皮膜又はCrMo合金めっき皮膜が形成されており、このめっき皮膜には、該めっき皮膜表面に露出している微細クラックが形成されている。
【0023】
微細クラックの幅及び数(直線で単位長さ進むときに横切るクラック数)は、内周面3の全体にわたって均一ではなく、アペックスシール2による摺動負荷が大きい部分と小さい部分とでは、クラック幅及びクラック数が異なる。摺動負荷が大きい部分では、摺動負荷が小さい部分に比べて、クラック幅が小さく且つクラック数が少なくなっている。
【0024】
すなわち、アペックスシール2が短軸側内周面3bを摺動するときは、長軸側内周面3aを摺動するときよりも、当該内周面に対する接触荷重が大きく且つ摺動速度が遅い(摺動負荷が大きい)。
【0025】
そこで、上記摺動負荷の大小を踏まえて、長軸側内周面3aでは短軸側内周面3bよりも、クラック幅を大きく且つクラック数を多くしている。
【0026】
この場合、長軸側内周面3aのCrめっき皮膜は、クラック幅が3.0μm以上5.0μm以下、クラック数が900本/cm以上1300本/cm以下となるようにし、短軸側内周面3bのCrめっき皮膜は、クラック幅が0.1μm以上1.0μm以下、クラック数が600本/cm以上800本/cm以下となるようにすることが好ましい。
【0027】
<Crめっき皮膜形成>
Cr成分、硫酸及び触媒としての有機スルフォン酸を含み、さらに必要に応じてMo成分を含むメッキ浴にロータハウジング用ワークを入れて所定温度に予熱し、数分間の逆電処理によってワーク表面を洗浄した後、数分間のストライクメッキ処理(正電処理)及び所定時間の本メッキ処理(正電処理)を順に行なうことによって、Crめっき層を形成する。
【0028】
Cr成分としては、無水クロム酸CrO3が好ましく、必要に応じてCr2O3を添加する。Mo成分としては、モリブデン酸ナトリウムやモリブデン酸アンモニウムを採用することができる。有機スルフォン酸としては、HSO3Rで表され、Rが、メチル基、エチル基等の炭素数10以下の脂肪族炭化水素基、パラ位置にメチル基を有するトルエン、不飽和炭化水素基を有するスチレンなど1つの芳香環に非環式炭化水素が結合した芳香族炭化水素基であることが好ましい。Rは他の芳香族炭化水素基であってもよいし、スルフォン酸基(HSO3)は複数個あってもよい。具体的にはメタンスルフォン酸、メタン時スルフォン酸等が挙げられる。
【0029】
メッキ浴は、例えば、無水クロム酸を240g/L以上280g/L以下、硫酸イオン量を2.5g/L以上3.3g/L以下、有機スルフォン酸量を10ml/L以上35ml/L以下、モリブデン酸ナトリウム量を50g/L以上65g/L以下とすればよい。メッキ浴温度は例えば50℃以上60℃以下に調整する。
【0030】
洗浄用逆電処理の電流密度は、50A/dm2以上60A/dm2以下、ストライクメッキ処理の電流密度は40A/dm2以上55A/dm2以下、本メッキ処理の電流密度は30A/dm2以上40A/dm2以下とすればよい。
【0031】
そうして、後述の逆電処理を行なうことにより、Crめっき皮膜に微細クラックを形成する。その際に、ロータハウジング1の内周面3において部分的に逆電処理条件を変えることにより、長軸側内周面3aと短軸側内周面3bとでクラック幅及びクラック数を変える。
【0032】
仕上げ研削加工はホーニング等により行ない、めっき層表面が例えばRa2.0μm以下となるようにすることが好ましい。
【0033】
<逆電処理による微細クラックの形成>
−実施形態1−
図3に概略的に示すように、単一の逆電処理用電極(陰極)15をロータハウジング用ワーク1Aの内周面3で囲まれた貫通孔中央部に配置する。電極15は、ワーク1Aの長円形状内周面に略対応する長円形状のものであるが、電極15と長軸側内周面3aとの距離(長軸側距離)L1と、電極15と短軸側内周面3bとの距離(短軸側距離)L2とは相異なり、長軸側距離L1は短軸側距離L2よりも短くなっている。また、電極15の円弧部の曲率半径の調整により、長軸上での距離L1が最も短く、該距離が短軸側へいくに従って漸次拡大するようにしている。
【0034】
従って、ワーク1Aと電極15との間に逆電用電圧をかけると、長軸側内周面3aでは、短軸側内周面3bよりも逆電電流密度が大きくなる。その結果、長軸側内周面では、短軸側内周面3bよりも、クラック幅が大きくなり、クラック数も多くなる。
【0035】
図4及び図5は、長軸側内周面3aの逆電電流密度が35A/dm2となり、短軸側内周面3bの逆電電流密度が25A/dm2となるように電極15を構成したときの、Crめっき皮膜のクラックを撮影した写真である。メッキ浴組成は表1の通りであり、触媒、すなわち、有機スルフォン酸としては、アトテック社製のHeef25−Rを用いた。メッキ条件は表2に示す通りである。表2において、「ストライク」はメッキ皮膜のワーク表面への密着力を高めるための短時間メッキであり、「A/dm2 」は電流密度、時間は処理時間を表している。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
図4が長軸側内周面3aであり、図5が短軸側内周面3bである。長軸側内周面3aでは、平均クラック幅が約3.5μm、平均クラック数が1100本/cmであり、短軸側内周面3bでは、平均クラック幅が約0.8μm、平均クラック数が700本/cmである。
【0039】
従って、アペックスシール2の接触荷重が大きく且つ摺動速度が遅い短軸側内周面3bでは、クラック幅が小さく且つクラック数が少ないことから、平滑な摺動面の割合が相対的に多くなる。よって、クラックへの潤滑剤の逃げが抑制されるため、流体潤滑が維持され易くなる。その結果、流体潤滑に基づく潤滑膜荷重保持能力が高まり、低摩擦となる。
【0040】
一方、アペックスシール2の接触荷重が小さく且つ摺動速度が速い長軸側内周面3aでは、クラック幅が大きく且つクラック数が多いことから、流体潤滑に基づき潤滑膜に生ずる圧力がクラックに解放されることにより、低圧の状態となり、摺動面の潤滑膜がより薄い状態になる。その結果、潤滑膜の剪断に必要な力が軽減され、低摩擦となる。
【0041】
長軸側内周面及び短軸側内周面各々について、表1のめっき浴組成及び表2のめっき条件を採用し、逆電電流密度を変化させてクラック幅及びクラック数が相異なる実施例及び比較例の各テストピースを作成し、摩擦係数を測定する実験を行なった。
【0042】
そうして、各テストピースについて、ホーニング加工後、図6に示す試験器を用いて摩擦試験を行ない、摩擦係数を測定した。同図において、21は円板状のテストピース、22はチル鋳鉄製摺動片23を固定した円板状の回転支持台である。テストピース21の下面に周縁近傍を周回するようにCrめっき層24が環状に設けられている。テストピース21の中心部には該テストピース21を貫通するエア供給孔25が形成されている。テストピース21の周縁近傍にはCrめっき層24の部位で該テストピース21を貫通する潤滑油供給孔26が形成されている。回転支持台22には3個の摺動片23が周方向に120度の角度間隔をおいて固定され、各摺動片23の上端が支持台22より上方へ突出している。この3個の摺動片23にテストピース21が載せられている。
【0043】
摩擦試験は、エア供給孔25から2.5kg/cm2 の圧力でエアを供給し且つ潤滑油供給孔26から温度100℃の潤滑油を供給しながら行なった。潤滑油としては、0W−20のエンジンオイルを用いた。また、長軸側内周面用のテストピース21の試験では、荷重を50N、摺動片23の周速を20m/sとし、短軸側内周面用のテストピース21の試験では、荷重を100N、摺動片23の周速を10m/sとした。試験結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
短軸側内周面用試験結果をみると、摩擦係数は実施例が最も低くなっている。表3から、短軸側内周面に関しては、クラック幅を0.1μmよりも大きく2.0μmよりも小さくし、クラック数を450本/cmよりも多く900本/cmよりも少なくすることが好ましい、ということができる。また、短軸側内周面に関しては、クラック幅を2.0μmよりも大きく5.5μmよりも小さくし、クラック数を800本/cmよりも多く1400本/cmよりも少なくすることが好ましい、ということができる。
【0046】
−実施形態2−
図7に概略的に示すように、燃料が点火プラグ9A,9Bにより着火されて燃焼すると、その燃焼圧によりロータ5を介して点火プラグ9A,9Bとは反対側のアペックスシール2が短軸側内周面3bに強く押される。そのため、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bにおけるロータ回転方向の先側から長径側内周面3aに至る部位(図7における左側上部)では摺動負荷が大きくなる。
【0047】
そこで、本実施形態では、2つの逆電処理用電極(陰極)15A,15Bをワーク1Aの内周面3で囲まれた貫通孔に長軸方向に間隔をおいて並べて配置し、この両電極15A,15Bによる逆電処理用の通電量を個別に制御することにより、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bにおけるロータ回転方向先側から長径側内周面3aに至る部位(図7における左側上部)では、ワーク1Aの中心に関して点対称となる反対側の部位よりも、クラック幅が小さく且つクラック数が少なくなるようにしている。
【0048】
具体的には、図7において上下に並ぶ電極15A,15Bはいずれも、長軸側内周面3aとの距離L1が短軸側内周面3bとの距離L2a,L2bよりも短い。これは、長軸側内周面3aでは、短軸側内周面3bよりも逆電電流密度を大きくして、短軸側内周面よりも、相対的にクラック幅を大きく且つクラック数を多くするためである。
【0049】
また、上下に並ぶ電極15A,15Bはいずれも、点火プラグ側内周面に向いた側では、反対側を向いた側よりも、曲率半径を小さくして該点火プラグ側内周面の方へ大きく突出し、点火プラグ側内周面との距離L2aが反対側内周面との距離L2bよりも短くなっている。これは、摺動負荷が小さい点火プラグ側内周面では、反対側内周面よりも逆電電流密度を大きくして、反対側内周面よりも、クラック幅を大きく且つクラック数を多くするためである。
【0050】
さらに、上下に並ぶ電極15A,15Bのうち、上側電極15Aは下側電極15Bよりも逆電処理用の通電量を相対的に少なくする。これは、燃焼圧によって摺動負荷が大きくなる、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bにおけるロータ回転方向先側(図7における左側上部)から長径側内周面3aに至る部位の逆電電流密度を小さくして、当該部位のクラック幅を小さく且つクラック数を少なくするためである。
【0051】
従って、本実施形態によれば、実施形態1と同じく、長軸側内周面3a及び短軸側内周面3b共にその低摩擦化が図れるとともに、燃焼圧によって摺動負荷が大きくなる内周面部位(図7における左側上部)のクラック幅が小さく且つクラック数が少なくなり、さらに低摩擦化に有利になる。
【0052】
−実施形態3−
本実施形態は、図8に示すように、逆電処理用電極15を3分割型として、3つの電極部材15a,15b,15cを組み合わせてワーク1Aの貫通孔に配置し、各電極部材15a,15b,15cによる通電量を個別に制御するケースである。
【0053】
同図に示すように、電極15は、相対する円弧状の長軸側内周面3aの側に配置した一対の略半円型電極部材15a,15cと、この両半円型電極部材15a,15cの間に配置した中間の矩形型電極部材15bとからなり、相隣る電極部材は絶縁材16によって絶縁されている。電極部材15a,15b,15cと各々が対向する内周面3との距離は、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bを除いて、他は実質的に同一に設定されている。すなわち、点火プラグ9A,9Bとは反対側の短軸側内周面3bと矩形型電極部材15cとの距離L2bは他の電極−内周面間距離よりも広くなっている。
【0054】
通電量は、矩形型電極部材15bが最も少なく、その次に少ないのが同図上側の半円型電極部材15cであり、同図下側の半円型電極部材15aが最も多くなるように制御される。
【0055】
従って、逆電電流密度は概略、同図下側の長軸側内周面3aが最も大きく(クラック幅最大,クラック数最多)、次いで同図上側の長軸側内周面3aが大きく(クラック幅大,クラック数多)、次に大きいのが点火プラグ9A,9B側の短軸側内周面3bであり(クラック幅中,クラック数中)、反対側の短軸側内周面3bが最も小さくなる(クラック幅小,クラック数少)。
【0056】
これにより、長軸側内周面3a及び短軸側内周面3b共にその低摩擦化が図れるとともに、燃焼圧によって摺動負荷が大きくなる内周面部位(図8における左側上部)では相対的にクラック幅が小さく且つクラック数が少なくなるから、さらに低摩擦化に有利になる。
【0057】
−実施形態4−
本実施形態は、図9に示すように、電極15と短軸側内周面3bとの間に遮蔽板17を配置することにより、長軸側内周面3aと短軸側内周面3bとの逆電電流密度を変えるケースである。
【0058】
電極15はCrめっき皮膜を形成するための正電処理とクラックを形成するための逆電処理とに共用する共用電極である。従って、電極15と内周面3との距離は内周面全周にわたって実質的に同一にする。
【0059】
正電処理にあたっては、共用電極15を陽極として該電極15とワーク1Aとの間に通電する。次いで逆電処理を行なうに際し、共用電極15とワーク1Aの短軸側内周面3bとの間に遮蔽板17を配置する。遮蔽板17は図10に示すように、多数の貫通孔18が全面にわたって等間隔で形成されたものである。従って、共用電極15を陰極としてワーク1Aとの間に逆電処理用の通電を行なうと、短軸側内周面3bでは長軸側内周面3aに比べて、逆電電流密度が小さくなり、その結果、長軸側内周面3aよりも、クラック幅が小さくなり且つクラック数も少なくなる。
【0060】
本実施形態の場合、一つの電極15を正電処理と逆電処理とに共用するため、正電及び逆電各々に専用の電極を準備する必要がなく、また、正電処理から逆電処理に移る際にめっき浴から電極15を出し入れする必要がなく、しかも、遮蔽板17は多数の貫通孔18を設けた簡単なものであるから、コスト低減及び迅速処理に有利になる。
【0061】
点火プラグ9A,9B側に配置する遮蔽板17とその反対側に配置する遮蔽板17とは、前者の貫通孔18の開口率を後者の同開口率よりも大きくすることが好ましい。これにより、点火プラグ9A,9B側の短軸側内周面3bではその反対側の短軸側内周面3bよりも、逆電電流密度を大きくして、クラック幅を大きく且つクラック数を多くすることができる。
【0062】
−実施形態5−
本実施形態も図11及び図12に示すように、共用電極15と短軸側内周面3bとの間に遮蔽板17を配置して逆電電流密度を制御するケースであるが、遮蔽板17の構成が実施形態4とは相違する。すなわち、遮蔽板17は、複数の短冊状板材19を板面が平行になるように一列に並べて平行リンク機構(図示省略)によって連結してなり、各板材19が図11に示すように短軸方向に平行になった状態と、図12右側に示すように短軸方向に対して斜めになった状態との間で角度変化するようになっている。
【0063】
遮蔽板17は共用電極15と共にワーク1Aの貫通孔内に挿入する。正電処理に際しては、図11に示すように遮蔽板17を各板材19が短軸方向に平行になった状態にして通電を行なう。この場合は、共用電極15とワークAとの間の通電は遮蔽板17によっては殆ど妨げられない。よって、正電電流密度をワーク1Aの内周面全体にわたって略均等にして、Crめっき皮膜を略均一に形成することができる。
【0064】
次いで逆電処理に際して、遮蔽板17を各板材19が短軸方向に対して斜めになるように変化させる。その状態で共用電極15とワーク1Aとの間の通電を行なう。この場合は、遮蔽板17の各板材19が短軸方向に対して斜めになっているから、遮蔽板17による通電の妨げが大きくなる。このため、長軸側内周面3aに比べて短軸側内周面3bでは逆電電流密度が小さくなり、その結果、長軸側内周面3aよりも、クラック幅が小さくなり且つクラック数も少なくなる。
【0065】
本実施形態の場合、遮蔽板17の各板材19の角度を変化させて通電を妨げる状態と通電を殆ど妨げない状態とをつくることができるようにしたから、遮蔽板17を共用電極15と共に最初からめっき浴に入れ、逆電処理が終わるまで、遮蔽板17の出し入れをする必要がない。よって、迅速処理、ひいては生産性の向上に有利になる。
【0066】
なお、本発明はロータリーピストンエンジンのロータハウジングに限らず、シール部材が摺動する長円形状内周面を有し且つ摺動負荷が長軸側内周面と短軸側内周面とで相異なる油圧ポンプやコンプレッサのハウジングにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係るロータリーピストンエンジンの概略正面図である。
【図2】同エンジンのロータハウジングの斜視図である。
【図3】実施形態1に係る逆電処理用電極の配置を示す正面図である。
【図4】長軸側内周面のCrめっき皮膜の顕微鏡写真である。
【図5】短軸側内周面のCrめっき皮膜の顕微鏡写真である。
【図6】摩擦試験器を一部断面にして示す正面図である。
【図7】実施形態2に係る逆電処理用電極の配置を示す正面図である。
【図8】実施形態3に係る逆電処理用電極の配置を示す正面図である。
【図9】実施形態4に係る共用電極及び遮蔽板の配置を示す正面図である。
【図10】同形態4に係る遮蔽板の斜視図である。
【図11】実施形態5に係る共用電極及び遮蔽板の配置を示す正面図である。
【図12】同形態5に係る遮蔽板の状態変化を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1 ロータハウジング(摺動部材)
2 シール部材
3 内周面
3a 長軸側内周面
3b 短軸側内周面
15,15A,15B 電極
15a〜15c 電極部材
17 遮蔽板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材であって、
上記Crめっき皮膜は、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多いことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材の製造方法であって、
摺動部材用ワークをめっき浴に入れ、該ワークの内周面にCrめっき皮膜を形成する正電処理工程と、該Crめっき皮膜表面にクラックを形成する逆電処理工程とを備え、
上記逆電処理工程において、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記逆電処理工程において、上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に複数の電極を配置し、各電極の通電量を個別に制御することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、
上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に正電処理及び逆電処理に共用する一つの電極を配置し、
上記逆電処理時に、上記電極とワークの短軸側内周面との間に遮蔽板を配置することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項1】
表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材であって、
上記Crめっき皮膜は、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、クラック幅が大きく且つ単位長さ当たりのクラック数が多いことを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
表面にクラックを有するCrめっき皮膜が形成された長円形状の内周面を備え、該内周面をシール部材が、流体潤滑剤の存在下、長軸側内周面では短軸側内周面よりも小さな荷重で接触して且つ短軸側内周面よりも速い速度で周方向に摺動する摺動部材の製造方法であって、
摺動部材用ワークをめっき浴に入れ、該ワークの内周面にCrめっき皮膜を形成する正電処理工程と、該Crめっき皮膜表面にクラックを形成する逆電処理工程とを備え、
上記逆電処理工程において、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記逆電処理工程において、上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に複数の電極を配置し、各電極の通電量を個別に制御することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、
上記ワークの上記長円形状内周面で囲まれた内側に正電処理及び逆電処理に共用する一つの電極を配置し、
上記逆電処理時に、上記電極とワークの短軸側内周面との間に遮蔽板を配置することにより、上記長軸側内周面では上記短軸側内周面よりも、電流密度が大きくなるようにすることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2008−138240(P2008−138240A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324040(P2006−324040)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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