説明

摺動部材

【課題】基材上に中間層を介して添加元素を含むBi又はBi合金から形成されるオーバレイ層を被着した摺動部材において、オーバレイ層中の添加元素の拡散を低減し、なじみ性を良好に維持することができる摺動部材を提供する。
【解決手段】基材2に中間層3を介してオーバレイ層4を被着した摺動部材において、オーバレイ層4を、Bi又はBi合金に低融点の金属からなる添加元素を添加して形成し、中間層3を、Ag又はAg合金に添加元素を添加して形成する。中間層3に添加する添加元素の量を、オーバレイ層4中に含まれる量の5倍以上にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に中間層を介してオーバレイ層を被着して形成される摺動部材に係り、特にオーバレイ層がBiを主成分として形成される摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材、例えば自動車等の内燃機関に使用されるすべり軸受は、鋼板からなる裏金層上にCu合金或はAl合金からなる軸受合金層を被着して形成されている。このすべり軸受には、通常、相手軸とのなじみ性を向上させるために、軸受合金層の表面に、中間層を介してオーバレイ層が形成されている。中間層は、オーバレイ層を軸受合金層に良好に被着させる接着層として機能する。オーバレイ層としては、従来、軟質のPb合金で形成され、一部にはSn合金で形成されている。
【0003】
しかしながら、Pbは環境汚染物質であるため、できれば使用を避けることが好ましい。そのために、種々の研究が行われてきており、その一例として、Pbに代えてBiを用いることが提案されている。ただ、Biは硬く、なじみ性に劣るため、なじみ性を向上するために、BiにSn、Inから選択した1種以上の添加元素を添加したものをオーバレイ層に用いることが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−50296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オーバレイ層がBi又はBi合金で形成される場合、中間層は、Bi又はBi合金と化合物を形成し難いAg又はAg合金で形成されることがある。
しかしながら、Ag又はAg合金からなる中間層上に、Bi又はBi合金に添加元素を添加して形成されるオーバレイ層を被着したすべり軸受は、実使用により高温環境下におかれると、オーバレイ層中の添加元素が中間層側に拡散し、オーバレイ層のなじみ性が低下することがある。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、基材上に中間層を介して添加元素を含むBi又はBi合金から形成されるオーバレイ層を被着した摺動部材において、オーバレイ層中の添加元素の拡散を低減し、なじみ性を良好に維持することができる摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明では、基材に中間層を介してオーバレイ層を被着した摺動部材において、オーバレイ層は、Bi又はBi合金に低融点の金属からなる添加元素を添加して形成され、中間層は、Ag又はAg合金に添加元素を添加して形成され、添加元素は、中間層中に含まれる量がオーバレイ層中に含まれる量の5倍以上であることを特徴としている。
【0008】
本発明の摺動部材の基本形態の断面を、図1に示す。図1に示す摺動部材1は、例えば基材2に中間層3を介してオーバレイ層4を被着して構成されている。
本発明に言う基材2とは、中間層3を介してオーバレイ層4を被着する部材であり、例えばCu基軸受合金層、Al基軸受合金層、その他の軸受合金層、軸受合金層を設けずに裏金層に相当する部材で相手材を支持する場合には当該裏金層相当部材、又は、軸受合金層若しくは裏金層の上に設けた層である。オーバレイ層4は、Bi又はBi合金を主成分に形成されている。尚、本発明で言う、オーバレイ層4の主成分として形成されているBi合金には、低融点の金属との合金からなるものは含まれない。中間層3は、Bi原子と結合しやすいAg又はAg合金を主成分に形成されている。これにより、中間層3はオーバレイ層4と接着しやすく、高負荷での使用によるオーバレイ層4の剥がれという問題は生じ難い。
【0009】
この中間層3及びオーバレイ層4には、低融点の金属からなる添加元素が1種以上添加されている。ここで、本発明の低融点の金属とは、オーバレイ層4の主成分より融点が低いものを言う。低融点の金属からなる添加元素が添加されたオーバレイ層4は、添加元素を添加していないオーバレイ層よりも低融点化し、軟化する。これにより、オーバレイ層4のなじみ性は向上する。又、本発明者は、オーバレイ層4に添加される添加元素と同じ添加元素を中間層3中に含ませることにより、オーバレイ層4中の添加元素が中間層3側に拡散してしまうことを低減できる、と考えた。そして、中間層3中に含まれる添加元素の量がオーバレイ層4中に含まれる添加元素の量の5倍以上であるとき、添加元素はオーバレイ層4から中間層3側に拡散し難くなり、オーバレイ層4の経時的な組成の変化を少なくでき、オーバレイ層4の初期の優れたなじみ性が長期にわたり保持されることを、本発明者は解明した。ここで、低融点の金属からなる添加元素を2種以上添加する場合は、それらの合計量を5倍以上とする。2種以上添加する場合に、それらのそれぞれの量が5倍以上であることが好ましい。又、中間層3中に含まれる添加元素の量は、オーバレイ層4中に含まれる添加元素の量の7倍以上12倍以下が好ましい。
【0010】
請求項2の発明では、添加元素がSn又はInの少なくとも1種類からなることを特徴としている。
Sn及びInの融点は、オーバレイ層4の主成分であるBiの融点よりも低い。よって、低融点の金属からなる添加元素を、Sn又はInの少なくとも1種類から構成することにより、オーバレイ層4は低融点化し、軟化し、なじみ性は向上する。
【0011】
請求項3の発明では、中間層中に含まれる添加元素が、中間層を構成する元素のうち50質量%以下であることを特徴としている。
中間層3中に含まれる添加元素を、50質量%以下とすることが、なじみ性を良好に維持する摺動部材において耐疲労性の面で望ましい。更に、5質量%以上35%以下にすることが好ましい。高い耐疲労性となじみ性を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の摺動部材の断面図
【図2】オーバレイ層中の添加元素の拡散試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明の摺動部材の実施形態について説明する。
図1に示すように、鋼板からなる裏金層5上にCu合金又はAl合金からなる軸受合金層2(基材2)を形成し、この軸受合金層2上に中間層3を形成し、この中間層3上にオーバレイ層4を形成して下記表1の実施例品試料1〜10及び比較例品試料1〜5を得た。
【0014】
中間層及びオーバレイ層の厚さは、電子顕微鏡の画像によって測定した。中間層の厚さは3〜7μm、オーバレイ層の厚さは5〜15μmであった。
Snを含有する中間層は、表2に示すめっき条件で基材上に作製した。Inを含有する中間層は、表2に示すめっき条件でAg基層を形成し、その後にスルファミン酸浴にてInめっきを施し、そして100〜150℃、60〜120分間の熱処理を適宜行ってInをAg基層中に拡散させて作製した。尚、表2中のGPE−ADは、大和化成株式会社製の商品名である。
【0015】
SnやCuを含有するオーバレイ層は、表3に示すめっき条件で中間層上に作製した。Inを含有するオーバレイ層は、表3に示すめっき条件でBi基層を形成し、その後にスルファミン酸浴にてInめっきを施し、そして100〜150℃、30〜90分間の熱処理を適宜行ってInをBi基層中に拡散させて作製した。尚、表3中のHS−220Sは、荏原ユージライト株式会社製の商品名である。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
上記の各試料についてオーバレイ層中の添加元素の拡散試験を行った。この試験の結果を図2に示す。オーバレイ層中の添加元素は、一般に熱が加えられると、拡散により、中間層側に移動しオーバレイ層中に残存する添加元素は減少する。オーバレイ層中の添加元素の拡散試験では、すべり軸受(摺動部材)の実使用に近い温度、例えば150℃の環境下で試験を行った。そして、オーバレイ層中の添加元素が試験開始からの所定時間に対してどれくらいオーバレイ層中に残存しているかを測定した。今回の試験では、150℃の環境下で100時間保持した場合と300時間保持した場合において、オーバレイ層中にどれだけの添加元素が残存しているかを測定した。
【0020】
オーバレイ層中の添加元素の量は、試験開始から所定時間(100時間又は300時間)経過した後の試料を、酸で溶解させた後、ICP(Inductively Coupled Plasm:誘導結合プラズマ)分析により測定した。
【0021】
図2の横軸は、試料番号を示している。図2の縦軸は、試験開始からのオーバレイ層中の添加元素の減少量の割合を示している。即ち、この「試験開始からのオーバレイ層中の添加元素の減少量の割合」は、{(試験開始前のオーバレイ層中の添加元素の濃度(質量%))−(所定時間(100時間又は300時間)経過後にオーバレイ層中に残存する添加元素の濃度(質量%))}×100÷(試験開始前のオーバレイ層中の添加元素の濃度(質量%))の値である。「試験開始からのオーバレイ層中の添加元素の減少量の割合」が0%に近いほど、オーバレイ層中の添加元素は、中間層側に拡散し難いことを示している。
【0022】
又、上記の各試料について次の表4に示す条件でなじみ性評価試験を行った。この試験の結果を表1に示す。表1中の「熱処理前」の値は、試料を製作した後、熱処理をせずになじみ性評価試験を行った結果の値である。「熱処理後」の値は、試料を製作した後、150℃に保たれた空間に300時間保持した後に、なじみ性評価試験を行った結果の値である。
【0023】
【表4】

【0024】
次に、上記各試験結果について説明する。
まず、オーバレイ層中の添加元素の拡散試験の結果について説明する。
実施例品試料1〜10は、比較例品試料1〜5と比較して、オーバレイ層中の添加元素の減少量の割合は少ない。実施例品試料1〜10と比較例品試料1〜5との比較から、中間層中に含まれる添加元素の量がオーバレイ層中に含まれる添加元素の量の5倍以上であるとき、このオーバレイ層中の添加元素の拡散は低減されることが理解される。
【0025】
次に、なじみ性評価試験の結果について説明する。
実施例品試料1〜10は、比較例品試料1〜5と比較して、300時間の熱処理後においてもクラックが発生しない最大面圧に優れ、なじみ性が良好であることがわかる。実施例品試料1〜10と比較例品試料1〜5との比較から、特に実施例品試料6,7と比較例品試料5との比較から、中間層中に含まれる添加元素の量がオーバレイ層中に含まれる添加元素の量の5倍以上であるとき、オーバレイ層中の添加元素の拡散が顕著に低減され、その結果、オーバレイ層のなじみ性は長期にわたり良好であることが理解される。
【0026】
中間層中に含まれる添加元素の量が50質量%以下の実施例品試料は、なじみ性を良好に維持しながら耐疲労性が特に優れていた。
本発明の適用は、自動車用エンジンのすべり軸受に限られず、摺動部材に広く適用できる。
【符号の説明】
【0027】
図面中、1は摺動部材、2は軸受合金層(基材)、3は中間層、4はオーバレイ層を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に中間層を介してオーバレイ層を被着した摺動部材において、
前記オーバレイ層は、Bi又はBi合金に低融点の金属からなる添加元素を添加して形成され、
前記中間層は、Ag又はAg合金に前記添加元素を添加して形成され、
前記添加元素は、前記中間層中に含まれる量が前記オーバレイ層中に含まれる量の5倍以上であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記添加元素は、Sn又はInの少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記中間層中に含まれる前記添加元素は、前記中間層を構成する元素のうち50質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−249216(P2010−249216A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98955(P2009−98955)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】