説明

改質シュガービートペクチンの製造方法およびその用途

【課題】シュガービートペクチンの乳化力を効率よく高める方法を提供する。高い乳化力を有するように改質したシュガービートペクチンを製造する方法を提供する。
【解決手段】シュガービートペクチンを水存在下(水溶液、懸濁液、ペースト)で電離放射線を照射処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質シュガービートペクチンの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、良好な乳化力を有するシュガービートペクチンを製造する方法に関する。また、本発明はかかる方法によって得られる改質シュガービートペクチン、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
食品産業においては、食品に食感やゲル化、増粘、結着、乳化などの機能特性を付与する目的で、さまざまな高分子多糖類が使用されている。また、こうした高分子多糖類をさらに高分子化することによって、かかる機能をより増強する試みもなされている。
【0003】
高分子多糖類の高分子化方法としては、例えば、セルロースの高置換度誘導体であるメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース;スターチの高置換度誘導体であるカルボキシメチルスターチ;またはキトサンの高置換度誘導体であるカルボキシメチルキトサン等の水溶液に、電離放射線を照射することによって橋架け構造を誘導し、高分子化させる方法が知られている(例えば、特許文献1、2)。この原理は、電離放射線の照射によって生じた水分子由来のラジカルによって多糖類の誘導置換基がラジカル化し、誘導置換基由来のラジカル同士が相互作用することによって架橋する、いわゆるラジカル重合により説明されている(非特許文献1)。誘導置換基由来のラジカルをより多く生じさせるためには、多糖類の周囲の環境に水分子が多数存在することと、誘導置換基の数が多いことが必要であり、さらに生じた誘導置換基ラジカル同士が結合するためには、多糖類の分子が比較的よく運動していることが必要である。
【0004】
しかし、セルロース、スターチ、及びキトサン以外の多糖類については、その高置換度誘導体(例えば、カルボキシメチル、メチル、ヒドロキシメチル等)は非常に高価であり、特にペクチンについては、その高置換度誘導体が市販されていないのが実情である。
【0005】
低水分状態、例えば、粉末状態の多糖類を、アセチレンガスなどの媒介ガスの存在下で、高エネルギー電子線照射することによって高分子化する方法も知られており、とくにレモンライム由来のHMペクチンにおいて、かかる方法によって、その粘性、乳タンパク安定性、乳化性、保水性等を増強する技術も公開されている(例えば、特許文献3)。しかし、アセチレンガスなどの媒介ガスを併用することにより目的とする物質以外の副生成物が生じる可能性がある。
【0006】
上記するように、特定の高分子多糖類については、放射線照射により高分子化する技術は知られているものの、一般的には、糖類に放射線を照射すると、その主鎖が切断され、分解反応が進み、分子量や粘度の低下によって、粘性・乳化性・結着性などの物性(機能)が低下することが知られている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−45543号公報
【特許文献2】特開2003−160602号公報
【特許文献3】WO 02/72862
【非特許文献1】Phillips, G.O., [The effects of radiation on carbohydrates] The Carbohydrates Second edition, Chapter 26, 1217-1297,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、優れた乳化性を備えるように改質してなるシュガービートペクチンを製造する方法を提供することを目的とする。具体的には、本発明はシュガービートペクチンの乳化力を効率良く高める方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、こうして得られた乳化力に優れたシュガービートペクチン、並びに当該シュガービートペクチンの乳化剤としての用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題のもと鋭意研究を重ねていたところ、シュガービートペクチンを水存在下でγ線や電子線などの電離放射線を照射することにより、シュガービートペクチンの分子量が増加し、シュガービートペクチンが有する乳化性が向上することを見いだした。当該シュガービートペクチンは前述したセルロース等の高置換度誘導体とは異なり、分子内に安定なラジカルを供給する誘導置換基(例えば、カルボキシメチル基やアルキル基等)を有するものではない。また、シュガービートペクチンは分子量、構成糖の種類および比率、タンパク含量等の点において、食品分野において最も多く使われているレモンライム由来のペクチンとは異なる。
【0009】
本発明者らは、電離放射線を照射することによる高分子化及び乳化性の向上が、通常のペクチンでは生じず、シュガービートペクチンに特有に生じる現象であることを確認し、さらに糖鎖同士のラジカル重合とは異なる反応機構(おそらくは、タンパク質同士が自己重合)によって生じていることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて開発されたものであり、下記の態様を含むものである:
項1.シュガービートペクチンに水存在下で電離放射線を照射する工程を有する改質シュガービートペクチンの製造方法。
項2.シュガービートペクチンの含有率が3〜35重量%であることを特徴とする項1記載の改質シュガービートペクチンの製造方法。
項3.照射する電離放射線がγ線であることを特徴とする項1または2に記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
項4.照射する電離放射線が、加速電圧0.2〜10MVの電子線であることを特徴とする項1または2に記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
項5.シュガービートペクチンに水存在下で照射する電離放射線の吸収線量が1〜100kGyであることを特徴とする項1乃至4のいずれかに記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
項6.シュガービートペクチンに水存在下で電離放射線を照射する工程の後に、乾燥工程を有する項1乃至5のいずれかに記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
項7.乾燥工程が、スプレードライまたはドラムドライであることを特徴とする項6に記載の改質シュガービートペクチンの製造方法。
項8.乳化力を向上した改質シュガービートペクチンの製造方法である、項1乃至7のいずれかに記載する方法。
【0011】
項9.項1乃至8のいずれかに記載する製造方法によって得られる改質シュガービートペクチン。
項10.項9に記載の改質シュガービートペクチンを有効成分とする乳化剤。
項11.項9に記載の改質シュガービートペクチンを用いて調製される乳化組成物。
項12.項9記載の改質シュガービートペクチンを乳化剤として用いる乳化組成物の調製方法。
項13.乳化組成物が、精油、油性香料、油性色素、油溶性ビタミン、多価不飽和脂肪酸、動植物油、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、及び中鎖トリグリセライドよりなる群から選択される少なくとも1種の疎水性物質を分散質として有するO/W型またはW/O/W型のエマルジョンである項12に記載する乳化組成物の調製方法。
項14.項12または13の調製方法によって得られる乳化組成物。
項15.飲食品である項11または14のいずれかに記載の乳化組成物。
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(1)改質シュガービートペクチンの製造方法
本発明は、シュガービートペクチンを高い乳化力を有するように改質する方法、言い換えれば高い乳化力を有するように改質してなるシュガービートペクチンの製造方法である。本発明の方法は、シュガービートペクチンを水存在下で電離放射線を照射することによって実施することができる。
【0013】
本発明の方法において、改質対象物(出発原料)として用いられるシュガービートペクチン(以下、本発明の改質シュガービートペクチンと区別する意味で、「シュガービートペクチン(原料)」ともいう)は、甜菜(Betavulgaris LINNE var. rapa DUMORTIER)に由来する天然の高分子多糖類であり、前述するように、α−1,4グリコシド結合したD−ガラクツロン酸の主鎖と、主にアラビノースやグルコース等の中性糖からなる側鎖、及び側鎖に結合したタンパクから構成されている。その平均分子量は一般的な柑橘系のペクチンの約3倍に相当する約45万であり、また柑橘系のペクチンよりも側鎖の割合が多いため、より球状に近い構造をしていることを特徴とする。さらに、シュガービートペクチン(原料)は、メチルエステル化度が50%以上、総エステル化度が85%以上であり、HMペクチンに該当する。
【0014】
当該シュガービートペクチン(原料)は、市販されており、誰でも商業的に入手することができる。商業的に入手可能な製品としては、例えば、ビストップD−2250(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を挙げることができる。
【0015】
通常シュガービートペクチン(原料)は、塊状物、玉状物、粗粉砕物、顆粒状、粒状、または粉末状(スプレードライ粉末を含む)の形態の別を問わず、いずれの形態のものをも改質対象のシュガービートペクチン(原料)として使用することができる。
【0016】
本発明において、シュガービートペクチンは、水の存在下で、電離放射線が照射される。従って、実用的にはシュガービートペクチンと水とを混合した状態のもの、すなわち水溶物の状態で電離放射線が照射される。本明細書に記載する「シュガービートペクチン水溶物」の中には、シュガービートペクチン水を加え、均質化して、配合量の全てが水に溶解した状態の水溶液(本明細書において、「シュガービートペクチン水溶液」ともいう)、並びに配合量の一部が水に溶解し一部が不溶状態にある、例えば懸濁液やペースト状のもの(本明細書において、後者のペースト状のものを「ペースト状シュガービートペクチン」ともいう)のいずれもが含まれる。
【0017】
電離放射線を照射するシュガービートペクチンは、前述するさまざまな形態のシュガービートペクチンに水を加え、均質化することによって調製される。ここで使用される水は、特に制限されず、水道水、蒸留水、イオン交換水のいずれであってもよい。好ましくはイオン交換水である。シュガービートペクチンの含有率は、使用するシュガービートペクチンの種類やその分子量によっても異なるが、通常3〜35重量%の範囲から選択することができる。好ましくは5〜20重量%である。シュガービートペクチンの含有率が1重量%以下の希薄溶液では、電離放射線を照射しても改質が十分に進まなくなる傾向があり、効率的に改質することが難しくなる。一方、シュガービートペクチン含有率が35重量%を越えてかなり濃くなると、シュガービートペクチンを水中に均一・均質に溶解または混合することが難しくなるため、含有割合にムラができ、一定した品質のものが得られなくなる傾向がある。
【0018】
なお、シュガービートペクチンは必要に応じて加温した水を加え(又は水に加え)、均質化した後、混入しているゴミなどを取り除いておくことが好ましい。
【0019】
電離放射線の照射は、このようにして調製された水存在下のシュガービートペクチンを、照射する電離放射線の種類に応じて任意の容器にいれた状態で行うことができる。但し、ペーストなど水存在下のシュガービートペクチンの流動性が低い場合は、容器に収容することなく、直に電離放射線を照射することも可能である。
【0020】
電離放射線の種類としては、特に制限されず電離放射線(γ線、電子線、X線)のいずれをも使用することができる。好ましくはγ線または電子線である。改質シュガービートペクチンを工業的に製造する観点からより好ましくは、電子加速器を利用した電子線照射、またはコバルト60を使用したγ線照射である。
【0021】
γ線は電子線と比較して透過力が大きいので、厚みのある試料を照射する場合に適した線源である。またγ線が透過する限りにおいて、試料収納に使用する容器の種類が制限されないという利点がある。例えば、大型のドラム缶やステンレス容器に大量の試料を入れて照射することも可能であり、これにより水存在下のシュガービートペクチンを大量に照射処理(改質処理)することができる。γ線照射には、セシウム137を使用した照射とコバルト60を使用した照射がある。セシウム137はコバルト60に比して、単位時間当たりの線量、すなわち線量率が低く照射効率が劣るため、好ましいγ線照射はコバルト60を使用したγ線照射である。
【0022】
一方、電子線は、γ線のようにコバルト60やセシウム137のような放射性同位元素を使用しないため、遮蔽装置も比較的簡易な物でも良いなど、安全面や作業面で好ましい線源である。また電子線照射は、単位時間当たりの線量、すなわち線量率が高く、処理能力が大きいといわれている。
【0023】
電子線は加速電圧に応じて透過力が異なるものの、一般にγ線に比して透過力が小さい。このため、使用する電子線の透過力(電子線のエネルギー)に応じて照射試料を調整することが好ましい。例えば、10MeV程度の高エネルギーの電子線は試料の厚さ数mm〜3cm程度のものを均一に照射することが可能であるのに対し、1MeV以下の低エネルギーの電子線は試料の厚さ3mm程度までしか均一に照射することができない。従って、照射する試料が、厚みのないものや厚みを調整することが可能な試料(例えば、粉体、流体、液体、薄層化可能な固体)に制限されるものの、それが可能であれば、電子線照射は、前述するように処理能力が大きく大量処理が可能であるため、経済的にも工業的製造の観点からも、より好ましい照射法である。
【0024】
照射電離放射線として電子線を使用する場合は、通常、試料をポリエチレン袋に充填し、電子線のエネルギーに応じてその厚みを調整することが行われる。具体的には、試料をポリエチレン袋に充填し、できるだけ均一になるように薄く広げて照射する方法を挙げることができる。特に、上記の1MeV以下の低エネルギーの電子線を用いる場合は、できるだけ薄いポリエチレン袋に厚さが3mm以下になるように試料を入れ、薄くシート状にして照射することが好ましい。このように照射電離放射線として電子線を使用する場合は、照射試料の厚みが制限されるので、効率的に多数の試料を処理するためには照射試料を薄く広げてコンベア上で移動させながら照射することが好ましく、また片面からだけでなく両面から照射する方法も好適に利用される。
【0025】
なお、これらの照射条件は、照射する試料の流動性や試料の比重、包材、粉体及び液体の別など、さまざまな要因に適した条件を選択使用することができる。
【0026】
本発明におけるシュガービートペクチンでの照射の場合、γ線照射であっても、高エネルギーまたは低エネルギーの電子線による照射のいずれにおいても、同じ照射線量であれば、照射線源に関係なく、目的とする改質シュガービートペクチンを得ることが可能である。
【0027】
具体的には、シュガービートペクチン含有率が3〜10重量%の流動性のある水溶液を用いる場合、特に制限はされないが、改質シュガービートペクチンの製造効率の点から、照射する電離放射線として、コバルト60を用いたγ線照射や10MeV程度の高エネルギーの電子線など、比較的透過力の高い放射線を使用するほうが好ましい。例えば、コバルト60を用いたγ線照射の場合、密閉可能なドラム缶やアトロン缶やステンレス容器にシュガービートペクチン水溶液を入れて照射する方法を、また、高エネルギー電子線照射の場合も、アルミニウムやポリエチレン製の容器にシュガービートペクチン水溶液を入れて、密閉した状態で照射する方法を挙げることができる。
【0028】
一方、シュガービートペクチン含有率が10〜20重量%の流動性が少ないペーストを用いる場合も、改質シュガービートペクチンの製造効率の点から、上記と同様にコバルト60を用いたγ線照射や10MeV程度の高エネルギーの電子線など、比較的透過力の高い放射線を使用するほうが好ましい。その際、電子線照射を行う場合は、コンベアの上にポリエチレン製のシートを敷いておき、その上部に、ローラーなどで適切な厚さに調整したペースト状の水存在下のシュガービートペクチンを薄く広げて照射する方法を例示することができ、これにより連続的にかつ大量に水存在以下のシュガービートペクチンを照射することが可能である。また、ポリエチレン製の袋に厚さを調整してペースト状の水存在下のシュガービートペクチンを入れて、照射することも可能である。
【0029】
シュガービートペクチンに照射する電離放射線の吸収線量も本発明の効果が得られる限り特に制限されない。水溶物中のシュガービートペクチンの含有率によって好適な吸収線量は異なるが、通常1〜100kGyの範囲から適宜選択して利用できる。例えばシュガービートペクチンの含有率が10〜35重量%のシュガービートペクチンの場合は、電離放射線照射に対してやや重合速度が遅い傾向がある。このため、吸収線量は3〜100kGyの範囲が好ましく、より好ましくは5〜30kGyの範囲である。シュガービートペクチンの含有率が3〜10重量%のシュガービートペクチンの場合は、電離放射線照射に対して重合速度が速い傾向があるため、好ましい吸収線量の範囲は1〜15kGyであり、より好ましくは1〜10kGyの範囲である。
【0030】
電離放射線を照射したシュガービートペクチンは、そのままの状態または適当に水に希釈した後に、スプレードライ、ドラムドライ、凍結乾燥などの慣用の方法で乾燥し、その状態で改質シュガービートペクチン粉末として提供することもできる。上記の乾燥方法のほか、工業的な乾燥方法として、減圧乾燥機や真空乾燥機等の乾燥装置を利用する方法を用いることもできる。これらの装置では、水流ポンプや真空ポンプなどで容器内の圧力を低下させるとともにその内容物をスクリューなどにより均一に混合することができる。しかも、当該装置には、容器の外部のジャケットに蒸気を導入することによって当該内容物を加熱することができる装置も付設できるため、乾燥(水分除去)と混合操作を一度に行うことができる。さらに、当該装置によれば、加熱終了後は、容器の外部のジャケットに冷却水を通水しながら内容物を混合することにより、速やかに冷却することができる。これらの具体的な装置の例としては、リボコーン(円錐型リボン真空乾燥機(RM−VD型):株式会社大川原製作所製)、真空型ナウタミキサNXV型(ホソカワミクロン株式会社製)、遊星運動型円錐型混合乾燥機SVミキサー(神鋼パンテック株式会社製)などを挙げることができる。乾燥処理によって調製される形態は、特に制限されないが、粉末状、粒状、顆粒状を例示することができる。
【0031】
上記の本発明の製造方法によれば、原料として用いたシュガービートペクチン(原料)に比して高い乳化力を発揮するように改質されてなるシュガービートペクチンを製造取得することができる。さらに上記の本発明の製造方法によれば、原料として用いたシュガービートペクチン(原料)に比して高い増粘力や保湿力を発揮するように改質されてなるシュガービートペクチンを製造取得することができる。これらはいずれもシュガービートペクチンを高分子化することによって、向上した機能である。
【0032】
さらに本発明の方法によれば、着色、着香またはケーキングなどといった、取り扱い上または添加剤として他製品に適用するにあたって支障になる不都合を低減した状態で、乳化力、増粘力、または保湿力等の機能が改善向上されたシュガービートペクチンを製造取得することができる。よって、本発明は、シュガービートペクチンを、着色化を低減した状態で乳化力、増粘力、または保湿力を高めるように改質する方法ともいうことができる。
【0033】
このため、本発明の製造方法によって得られるシュガービートペクチンは、乳化剤、増粘剤、または保湿剤等といった添加剤として、特に食品、香粧品、医薬品若しくは医薬部外品など、特に色や臭いが問題となる製品に好適に使用することができる。本発明の改質シュガービートペクチンの製造方法は、前述する電離放射線の照射工程、または電離放射線の照射工程及び乾燥工程に加えて、さらに、改質シュガービートペクチンを乳化剤等の添加剤として食品、香粧品、医薬品若しくは医薬部外品など各種製品に適用するために、必要な処理工程または好適な状態(組成または形態)に調製するための処理工程を備えていてもよい。
【0034】
(2)乳化剤及び乳化組成物の調製方法
上記の方法によって調製される改質シュガービートペクチンは、高い乳化力において原料として用いた未処理のシュガービートペクチン〔シュガービートペクチン(原料)〕と明確に区別することができる。一般に乳化剤の乳化力は、調製されるエマルションの平均粒子径が小さいほど、またその粒子径が経時的に安定して保持されるほど、優れていると評価される〔「アラビアゴムで乳化したO/Wエマルジョンの濁度比法による研究」、薬学雑誌、112(12).906−913.(1992)〕。なお、ここで改質シュガービートペクチンの乳化力の評価基準となるエマルション(乳化組成物)の調製方法、その平均粒子径の測定方法及び経時的安定性の評価方法については、後述する実験例に記載する方法に従うことができる。
【0035】
本発明の改質シュガービートペクチンは、乳化剤として、特に食品、医薬品、医薬部外品、または香粧品の分野において、とりわけ経口的に摂取され得る製品の乳化剤として好適に使用することができる。具体的には、飲料、粉末飲料、デザート、チューイングガム、錠菓、スナック菓子、水産加工品、畜産加工品、レトルト食品などの飲食品等の乳化、油性香料の乳化、油性色素の乳化などに、乳化剤として好適に使用することができる。上記改質シュガービートペクチンはそのまま水溶液の状態または粒子状若しくは粉末状にして乳化剤として用いることもできるが、必要に応じてその他の担体や添加剤を配合して乳化剤として調製することもできる。この場合、使用される担体や添加剤は、乳化剤を用いる製品の種類やその用途に応じて、常法に従って適宜選択採用することができる。例えば、デキストリン、マルトース、乳糖等の糖類やグリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールと混合して使用することができる。
【0036】
また、本発明は上記の改質シュガービートペクチンを乳化剤として使用するエマルション(乳化組成物)の調製方法を提供する。当該エマルションは、上記改質シュガービートペクチンを乳化剤として使用して、分散質として疎水性物質を親水性溶媒中に分散安定化することによって調製することができる。ここでエマルション(乳化組成物)としては、水中油滴(O/W)型やW/O/W型のエマルション(乳化組成物)を挙げることができる。
【0037】
ここで乳化される疎水性物質は通常エマルション形態に供されるもの若しくはその必要性のあるものであれば特に制限されないが、好ましくは食品、医薬品、医薬部外品または香粧品分野で用いられるもの、より好ましくは経口的に用いられることが可能な(可食性)疎水性物質を挙げることができる。
【0038】
具体的には、オレンジ、ライム、レモン及びグレープフルーツなどの柑橘系植物等の基原植物から得られる各種精油、ペッパー、シンナモン及びジンジャーなどの基原植物からオレオレジン方式で得られるオレオレジン、ジャスミンやローズなどの基原植物からアブソリュート方式で得られるアブソリュート、その他、合成香料化合物、及び油性調合香料組成物などの油性香料;β-カロチン、パプリカ色素、リコピン、パーム油、カロチン、ドナリエラカロチン及びニンジンカロチンなどの油性色素;ビタミンA,D,E及びKなどの脂溶性ビタミン;ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、及びγ−リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸;大豆油、菜種油、コーン油及び魚油などの動植物油脂;SAIB(Sucroseacetate isobutyrate:ショ糖酢酸イソ酪酸エステル)、またはC6〜C12の中鎖トリグリセライドなどの加工食品用油脂及びこれら可食性油性材料の任意の混合物を例示することができる。
【0039】
上記改質シュガービートペクチンを用いたエマルション(乳化組成物)の調製方法は、特に制限されず、水中油滴(O/W)型エマルションまたはW/O/W型エマルションの調製に関する常法に従って、疎水性物質と親水性溶媒とを上記改質シュガービートペクチンの存在下で、ホモジナイザーや高圧噴射などを利用して機械的に攪拌乳化することによって行うことができる。より具体的には、下記の方法を例示することができる。
【0040】
まず、改質シュガービートペクチンを水等の親水性溶媒に溶解し、必要に応じて、遠心分離又はフィルタープレス等を利用した濾過など、適当な固液分離手段により不純物を除去して、シュガービートペクチン水溶液を調製する。これに、目的の疎水性物質(例えば油脂、また予め油脂に香料や色素を溶解した混合液)を撹拌機等で混合し、予備乳化する。なお、この際、必要に応じてSAIB等の比重調整剤にて比重を調整してもよい。次いで得られた予備乳化混合液を、乳化機を利用して乳化する。
【0041】
なお、ここで疎水性物質としては前述のものを例示することができるが、油性香料や油性色素を用いて乳化香料や乳化色素を調製する場合は、上記疎水性物質として予め油脂に油性香料や油性色素を溶解した混合液を用いることが好ましい。これによって、より乳化を安定化し、また成分の揮発を予防することができる。また油性香料や油性色素を溶解する油脂としては、特に制限されないが、通常、中鎖トリグリセライド(炭素数6〜12の脂肪酸トリグリセライド)、及びコーン油、サフラワー油、または大豆油などの植物油を用いることができる。
【0042】
乳化に使用する乳化機としても、特に制限はなく、目的とするエマルションの粒子の大きさや、試料の粘度などに応じて適宜選択することができる。例えば、機械的に高圧のホモジナイザーの他、ナノマイザーやディスパーミル、コロイドミルなどの乳化機を使用することができる。
【0043】
乳化工程は、前述するように、親水性溶媒中に、攪拌下、疎水性物質を添加し、攪拌ペラを回転して予備乳化し、粒子径約2〜5μmの乳化粒子を調製した後、ホモジナイザーやナノマイザーなどの乳化機を用いて微細で均一な粒子(例えば、平均粒子径1μm以下、好ましくは0.8μm以下)を調製することによって実施される。
【0044】
なお、β−カロチンなどの色素の多くは、それ自身、結晶の状態でサスペンションとして存在する。したがって、これらの色素をエマルション(乳化色素)として調製するには、まず色素の結晶を適当な油脂と高温下で混合し溶解してから、親水性溶媒に添加することが好ましい。
【0045】
斯くして改質シュガービートペクチンを用いて調製されるエマルション(乳化組成物)は、シュガービートペクチン(原料)を用いて調製したエマルションと比較して、粒子の粒度分布が均一であり、かつ、加熱や長期保存、経時変化などの虐待(過酷条件)によっても、エマルション粒子同士が凝集したり、合一して粒子が劣化することが有意に抑制されており、非常に安定である。
【0046】
改質シュガービートペクチンを使用して調製したエマルションを用いて作られる飲食物としては、特に制限はされないが、例えば、乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、果実飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、紅茶飲料、緑茶飲料などの飲料類;カスタードプリン、ミルクプリンなどのプリン類;ゼリー、ババロア及びヨーグルトなどのデザート類;ミルクアイスクリーム、アイスキャンディーなどの冷菓類;チューインガムや風船ガムのガム類;マーブルチョコレートなどのコーティングチョコレートの他メロンチョコレートなどの香味を付与したチョコレートなどのチョコレート類;ハードキャンディー、ソフトキャンディー、キャラメル、ドロップなどのキャラメル類;ハードビスケット、クッキー、おかきなどの焼き菓子類;コーンスープ、ポタージュスープなどのスープ類、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、たれ、ソースなどのソース類;ハム、ソーセージ、焼き豚などの畜肉加工品;魚肉ソーセージ、蒲鉾などの水産練り製品;バター、マーガリン、チーズなどの油脂製品類などの加工食品を例示することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の方法によれば、シュガービートペクチン(原料)のを水存在下で電離放射線で照射処理することにより、乳化力に優れた改質シュガービートペクチンを取得することができる。さらに本発明の方法によれば、シュガービートペクチン(原料)を水存在下で電離放射線を照射処理することにより、その高分子化に伴って増粘力が向上した改質シュガービートペクチンを取得することができる。特に本発明は、上記処理方法を採用することによって、処理時の着色や付着による塊状化を防止しながらも、効率よく良好な乳化力等の機能を有するシュガービートペクチンを取得することができる有用な方法である。
【0048】
特に本発明の方法は、媒介ガス(アセチレンガスなど)や架橋剤を用いることなく簡便に改質シュガービートペクチンを提供することができる。
【0049】
斯くして調製される本発明の改質シュガービートペクチンは、精油、油性色素、油性香料、油溶性ビタミン等の各種の疎水性物質の乳化に好適に使用することができる。本発明の改質シュガービートペクチンを用いて調製されるエマルション(乳化組成物)は、電離放射線照射されないシュガービートペクチン(原料)を用いて調製したエマルションと比較して、粒子の粒度分布が均一であり、かつ、加熱や長期保存、冷凍解凍、経時変化などの虐待(過酷条件)によってもエマルション粒子同士が凝集したり、合一して粒子が劣化することが有意に抑制されており、非常に安定である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の内容を以下の実施例及び比較例、並びに実験例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、下記において特に言及しないかぎり、「%」は「重量%」を意味するものとする。
【比較例1】
【0051】
電離放射線未照射−粉末シュガービートペクチン
シュガービートペクチンとして、分子量 約45万、乾燥減量 約10%の粉末状(粒子径:100〜150μm)のもの(ビストップD−2250;三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を用いた。
【比較例2】
【0052】
電離放射線照射−粉末シュガービートペクチン
上記のシュガービートペクチン(分子量 約45万、乾燥減量 約10%)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)50gを厚さ0.04mmのポリエチレン袋(ユニパック G−8,生産日本株式会社製:横140mm×縦200mm)に試料の厚さ約3mmになるように入れて均一な状態とし、これにファンデグラフ型電子加速装置(NHV社製)を用いて加速電圧0.8MV、線量率600kGy/hrの条件で、吸収線量が2.5、5、10、または30kGyとなるように電子線を照射した。
【比較例3】
【0053】
電離放射線未照射−シュガービートペクチン水溶液およびペースト状シュガービートペクチン
上記のシュガービートペクチン(分子量 約45万、乾燥減量 約10%)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)をイオン交換水に溶解して、3%及び5%の水溶液を調製した(比較例3−1および3−2)。また、上記シュガービートペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)にイオン交換水を加えてよく練り、10%、20%及び35%のペーストを調製した(比較例3−3、3−4及び3−5)。
【比較例4】
【0054】
電離放射線照射−ペースト状レモンライム由来HMペクチン
レモンライム由来のHMペクチン(分子量 約15万、乾燥減量 約10%)(SM−762;三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)をイオン交換水に加えてよく練り、20%含有率のペーストを調製した。このペースト50gを、比較例1で使用したものと同じポリエチレン袋(ユニパック社製、厚さ0.04mm)に試料の厚さが約3mmになるように入れ、ファンデグラフ電子加速装置(NHV社製)を用いて加速電圧0.8MV、線量率600kGy/hrの条件で、吸収線量が2.5、5、10、15、または30kGyとなるように電子線を照射した。
【実施例1】
【0055】
比較例1と同じシュガービートペクチン(分子量 約45万、乾燥減量 約10%)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)をイオン交換水に溶解して3%及び5%の水溶液を調製した。また、上記シュガービートペクチンにイオン交換水を加えてよく練り10%、20%、及び35%のペーストを調製した。これらの水溶液及びペースト各々50gを、比較例1と同じポリエチレン袋(ユニパック社製、厚さ0.04mm)に、試料の厚さが約3mmになるように入れ、ファンデグラフ電子加速装置(NHV社製)を用いて加速電圧0.8MV、線量率600kGy/hrの条件で、吸収線量が1、2、2.5、3、4、5、7、10、15または30kGyとなるように電子線を照射した(3%及び5%の水溶液:実施例1−1および1−2、10%、20%及び35%のペースト:実施例1−3、1−4および1−5)。
【実施例2】
【0056】
比較例1と同じシュガービートペクチン(分子量 約45万、乾燥減量10%)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)をイオン交換水に溶解して5%の水溶液を調製した。この水溶液100gを100ml容のスクリュー管に入れ、コバルト60を線源とするγ線照射装置(ガンマセル:NHV社製)を用いて、吸収線量が2.5、5、10、または30kGyになるように電子線を照射した(線量率1kG/hr)。
【実験例1】
【0057】
分子量の測定
下記の方法により、上記で調製した各試料(比較例1、比較例2、比較例3−4、実施例1−4)について、重量平均分子量および回転二乗半径を測定した。
<試料の調製>
分析試料は、予め75MPaの圧力で3回ホモジナイズし、溶出溶媒(0.5M NaNO)を用いて0.05%(w/v)に希釈した。これを、孔径0.45μmのセルロースアセテートメンブランフィルタで濾過し、不溶物を除去した。これを下記の測定に使用した。
【0058】
<重量平均分子量および回転二乗半径測定法>
多角度光散乱検出器及び屈折率検出器を接続したゲル濾過クロマトグラフィー(SEC−MALS)によりペクチンの重量平均分子量及び回転二乗半径を求めた。解析にはASTARA Version 4.5(Wyatt Technology)ソフトウエアを用いた。当該手法によれば、光散乱検出器によりペクチンの重量平均分子量を、光散乱検出器及び屈折率検出器によりペクチンの回転二乗半径を検出することができ、分子量既知の標準品と対比することなく分析成分であるペクチンの分子量を求めることができる。
【0059】
採用したゲル濾過クロマトグラフィーの測定条件は下記の通りである:
カラム : OHpak SB−806M HQ (昭和電工社製)
カラム温度:25℃
流速 :0.5 ml/min
溶出溶媒 :0.5 M NaNO
試料液注入量:100μl。
【0060】
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
粉末状態のシュガービートペクチンについては、電離放射線で照射することによって(比較例2)、照射しない場合(比較例1)と比べて重量平均分子量と回転二乗半径が低下しており、しかもその低下の度合いは吸収線量が上がるにつれて大きくなった。一方、ペースト状のシュガービートペクチンについては、電離放射線で照射することによって(実施例1−4)、照射しない場合(比較例3−4)と比べて重量平均分子量と回転二乗半径が増加しており、しかもその増加の度合いは吸収線量が上がるにつれて大きくなる傾向を示した。
【実験例2】
【0063】
粘度の測定
上記で調製した各試料(比較例1〜4、実施例1及び2)について、下記の方法により粘度を測定した。
<粘度測定法>
各ペクチン試料を固形換算で4.5g秤り、これに水を添加して全量を150gにして溶解し、3重量%のシュガービートペクチン水溶液を調製した。これを100ml容スクリュー管に入れ、20℃にてB型回転粘度計(BL型、株式会社東京計器製造所製)を用いて、ローターNo.1、回転数60rpmの条件で、粘度(mPa・s)を測定した。なお、ローターNo.1で測定できない試料についてはローターNo.2にて、同様に回転数60rpmの条件で粘度(mPa・s)を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
粉末状態のシュガービートペクチンについては、電離放射線で照射することによって(比較例2)、照射しない場合(比較例1)と比べて粘度が減少し、しかもその減少の度合いは吸収線量が上がるにつれて大きくなった。一方、水溶物(ペースト状)のシュガービートペクチンについては、電離放射線で照射することによって(実施例1)、照射しない場合(比較例3)と比べて粘度の上昇が認められた。いずれの含有率の試料についても粘度上昇には最適な線量があり、それ以上の吸収線量を超えると粘度が減少する傾向が見られた。
【実験例3】
【0066】
乳化性及び乳化安定性の評価
上記比較例1〜3及び実施例1で調製したシュガービートペクチン試料を用い、各々下記の方法によってエマルションを調製し、その乳化性及び乳化安定性を評価した。
<エマルションの調製>
実施例3
実施例1で調製した改質シュガービートペクチンを粉末換算で3g含むように、イオン交換水に溶解し、この水溶液85gに、攪拌下、中鎖トリグリセライド(オクタン酸・デカン酸トリグリセライド)であるO.D.O(商品名、日清オイリオ株式会社製)(以下、同様)15gを添加混合し、衝突型ジェネレーター(Nano−MizerNM2, 吉田機械興業株式会社製)(以下、同様)にて乳化しエマルションを調製した(圧力75MPaでのホモジナイズを3回、以下同様)。
【0067】
比較例5
比較例1の粉末状の未照射シュガービートペクチン3gをイオン交換水に溶解し、この水溶液85gに、攪拌下、中鎖トリグリセライド15gを添加混合し、衝突型ジェネレーターにて乳化しエマルションを調製した。
【0068】
比較例6
比較例2で得られた粉末状の照射シュガービートペクチン3gをイオン交換水に溶解し、この水溶液85gに、攪拌下、中鎖トリグリセライド15gを添加混合し、衝突型ジェネレーターにて乳化しエマルションを調製した。
【0069】
比較例7
比較例3で得られたペースト状(20%)の照射シュガービートペクチン15gをイオン交換水に溶解し、この水溶液85gに、攪拌下、中鎖トリグリセライド15gを添加混合し、衝突型ジェネレーターにて乳化しエマルションを調製した。
【0070】
<乳化性評価方法>
上記で得られた各エマルションについて、乳化直後および5℃、25℃、及び40℃で30日間保存した後の平均粒子径(μm)を、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-1100(島津製作所(株)製)を用いて測定した。
【0071】
結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表からわかるように、いずれの試料も乳化直後のエマルションの粒子径に差は無かった。しかしながら、長期保存によって生じる粒子径の増加は、比較例の試料から調製されたエマルションに比して、実施例の試料から調製されたエマルションのほうが有意に抑制されていた。具体的には、電離放射線未照射の試料から調製したエマルション(比較例5,7)は、いずれも5℃および25℃で30日間保存すると、乳化直後の1.5倍以上の粒子径になったのに対し、電離放射線を照射した試料から調製したエマルション(実施例3)は、いずれの吸収線量で照射した場合もその増加が有意に抑制されていた(乳化安定性)。特に、20%のペーストの結果からわかるように、エマルションの安定性は、処理した吸収線量が高いほどよくなる傾向が認められた。40℃で30日保存したエマルションについても、同様の結果が得られ、電離放射線照射の試料(ペースト状シュガービートペクチン)によって調製したエマルションが格段に優れた安定性を有していることが確認された。
【0074】
一方、比較例6(粉末シュガービートペクチンを電離放射線照射した試料から調製したエマルション)のエマルションの乳化安定性は、未照射のもの(比較例5,7)よりも悪化した。
【実験例4】
【0075】
酸性乳飲料における高分子化ペクチンの効果
<酸性乳飲料の調製>
実施例4 酸性乳飲料
砂糖7gと改質シュガービートペクチン(実施例1−4:20%ペースト)0.4gの混合物を、水62.7gに添加し、80℃で10分間攪拌溶解した後、冷却した。これとは別に、脱脂粉乳3gを水27gに添加し、60℃10分間攪拌溶解した後、冷却した。これらの調製液を混合し、50%(w/v)クエン酸溶液でpH3.8に調整した。これを80℃まで加熱し、ホモジナイザーにて均質化(圧力14.7MPa)して、93℃達温殺菌後、ホットパック充填し、室温(20℃)で保存した。
【0076】
比較例8 酸性乳飲料
上記改質シュガービートペクチン(実施例1−4:20%ペースト)に代えて、比較例3で得られた20%ペースト(比較例3−4)を用いる以外は、上記と同様にして酸性乳飲料を調製し、室温(20℃)で静置した。
【0077】
<安定性評価>
酸性乳飲料の安定性評価は、調製1日後および7日後における粘度と不溶物生成の状況から判断した。具体的には、粘度は、調製1日後および7日後の酸性乳飲料について、B型回転粘度計を用いて粘度を測定することによって行った(ローターNo.1、60rpm、10℃)。また、不溶物生成は、酸性乳飲料70g中の不溶物を遠心分離機で1880G、30分間強制沈降させ、その沈殿質量[c](g)を測定し、下式より強制沈殿率(%)を求め、それから判断した。
【0078】
<式1>
強制沈殿率(%)=[c](g)/70(g)×100。
【0079】
結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
実施例4の酸性乳飲料は、調製1日後7日後ともに、比較例8の飲料に比して粘度が低かった。また、実施例4の酸性乳飲料は、比較例8の飲料に比して、強制沈殿率が低く、その効果は特に吸収線量1kGyおよび2kGy照射区で顕著であった。
【0082】
このことから、電離放射線の照射処理をした改質シュガービートペクチンの添加により、酸性乳飲料の乳タンパク安定性が向上させる用途においては改質に用いる線量が1〜2kGyの比較的低線量であることが望ましいことが示唆された。
【処方例】
【0083】
ドレッシングの調製
比較例1と同じシュガービートペクチン(分子量45万、乾燥減量10%)(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)にイオン交換水を加えてよく練り20%のペーストを調製した。このペースト50gを、比較例1と同じポリエチレン袋(ユニパック社製、厚さ0.04mm)に、試料の厚さが約3mmになるように入れ、ファンデグラフ電子加速装置(NHV社製)を用いて加速電圧0.8MV、線量率600kGy/hrの条件で、吸収線量が7kGyとなるように電子線を照射した。得られた改質シュガービートペクチンを乳化剤として用いて、下記に示す処方に従ってドレッシングを調製した。具体的には、イオン交換水に、調製した改質シュガービートペクチン(20%のペースト)を添加し、80℃にて10分間加熱攪拌溶解する。これに醸造酢、砂糖、食塩及びL−グルタミン酸ナトリウムを添加し、80℃にて5分間攪拌混合した後、40℃に冷却した。これを攪拌しながら、サラダ油をゆっくりと滴下し、ホモミキサー(8000rpm、5min)を用いて乳化し、ドレッシングを調製した。
【0084】
<処方例>
コーンサラダ油 35.0 (重量%)
醸造酢 5.0
砂糖 5.0
食塩 3.0
L-グルタミン酸ナトリウム 0.4
改質シュガービートペクチン(20%ペースト) 2.5
イオン交換水 残 部
合 計 100.0 重量%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュガービートペクチンに水存在下で電離放射線を照射する工程を有する改質シュガービートペクチンの製造方法。
【請求項2】
シュガービートペクチンの含有率が3〜35重量%である請求項1に記載の改質シュガービートペクチンの製造方法。
【請求項3】
照射する電離放射線がγ線である請求項1または2に記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
【請求項4】
照射する電離放射線が、加速電圧0.2〜10MVの電子線である請求項1または2に記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
【請求項5】
シュガービートペクチンに水存在下で照射する電離放射線の吸収線量が1〜100kGyである請求項1乃至4のいずれかに記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
【請求項6】
シュガービートペクチンに水存在下で電離放射線を照射する工程の後に、乾燥工程を有する請求項1乃至5のいずれかに記載する改質シュガービートペクチンの製造方法。
【請求項7】
乾燥工程が、スプレードライまたはドラムドライであることを特徴とする請求項6に記載の改質シュガービートペクチンの製造方法。
【請求項8】
乳化力を向上した改質シュガービートペクチンの製造方法である、請求項1乃至7のいずれかに記載する方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載する製造方法によって得られる改質シュガービートペクチン。
【請求項10】
請求項9に記載の改質シュガービートペクチンを有効成分とする乳化剤。
【請求項11】
請求項9に記載の改質シュガービートペクチンを用いて調製される乳化組成物。
【請求項12】
請求項9記載の改質シュガービートペクチンを乳化剤として用いる乳化組成物の調製方法。
【請求項13】
乳化組成物が、精油、油性香料、油性色素、油溶性ビタミン、多価不飽和脂肪酸、動植物油、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、及び中鎖トリグリセライドよりなる群から選択される少なくとも1種の疎水性物質を分散質として有するO/W型またはW/O/W型のエマルジョンである請求項12に記載する乳化組成物の調製方法。
【請求項14】
請求項12または13の調製方法によって得られる乳化組成物。
【請求項15】
飲食品である請求項11または14のいずれかに記載の乳化組成物。

【公開番号】特開2006−274226(P2006−274226A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100243(P2005−100243)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】