説明

放射線検出器

【課題】放射線検出器の、蛍光体の発光スペクトルと光導電層の分光感度とのマッチングが良好なものとする。
【解決手段】照射された放射線をこの放射線の線量に応じた量の可視光に変換するシンチレータ3からなる光変換部、およびこの光変換部からの可視光を電荷に変換してこの電荷を蓄積する光導電層を有し、この光導電層に蓄積した電荷を読み取る固体光検出器2とからなる放射線検出器1において、シンチレータ3がその発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体からなり、光導電層がTeをドープされたa−Seからなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線などの放射線撮像装置に適用して好適な放射線検出器に関し、詳しくは、シンチレータと光検出器との組合せを利用する放射線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療診断を目的とする放射線撮影において、放射線を検出して電気信号に変換する放射線検出器(半導体を主要部とするもの)を使用した放射線画像検出装置が知られている。放射線検出器としては、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsI:Tl、GOS(Gd2S:Tb)などのシンチレータで光に変換し、その光を光導電層で電荷に変換し蓄積する間接変換方式がある。また、読取り方式から、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式と、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)に大別される。
【0003】
上記間接変換方式の放射線検出器として、シンチレータに緑白色乃至は緑色発光を呈するCsI:Tl、GOS(Gd2S:Tb)を用い、光導電層としてa−Seを用いたものが知られている(特許文献1)。しかし、これらの組合せでは分光感度が低いという問題がある。一方、a―Seを光導電層として用いた場合に、良好な分光感度を示すシンチレータとして、青色発光を呈するCsI:Naを組合せたものが知られているが(特許文献2、特許文献3)、CsI:Naは潮解性が強いために耐湿性が極めて悪いという問題がある。
【特許文献1】特開2000−137080号公報
【特許文献2】特開2000−346951号公報
【特許文献3】特開2000−035480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体と光導電層がa−Seとの組み合わせからなる放射線検出器において、蛍光体の発光スペクトルと光導電層との分光感度のマッチングが良好であって、高い耐湿性を有する放射線検出器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の放射線検出器は、照射された放射線を該放射線の線量に応じた量の可視光に変換する蛍光体層からなる光変換部と、該光変換部からの可視光を吸収して電荷を生成および輸送する光導電層と、該光導電層に生成した電荷を取り出す電極部からなる放射線検出器において、前記蛍光体層がその発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体からなり、前記光導電層がTeをドープされたa−Seからなることを特徴とするものである。
前記Teのドープ量は、前記a−Seの0.1〜30モル%であることが好ましい。
【0006】
発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体としては、CsX:Tl(XはI,BrまたはClのいずれか、またはこれらの混合物である。以下、この記載は省略する。)、またはTb3+および/またはEu3+で付活された酸化物または酸硫化物系蛍光体からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の放射線検出器は、照射された放射線をこの放射線の線量に応じた量の可視光に変換する蛍光体層からなる光変換部と、該光変換部からの可視光を吸収して電荷を生成および輸送する光導電層と、該光導電層に生成した電荷を取り出す電極部からなる放射線検出器において、蛍光体層がその発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体からなり、光導電層がTeをドープされたa−Seからなるので、蛍光体の発光スペクトルと光導電層との分光感度のマッチングが極めて良好な放射線検出器とすることができる。
【0008】
特に、蛍光体を、CsX:TlまたはTb3+および/またはEu3+で付活された酸化物または酸硫化物系蛍光体からなるものとした時は、蛍光層の発光光と検出器とのマッチングや蛍光層の光変換効率がより向上し、放射線を無駄なく画像信号に変換することができ、高い効率と耐湿性を両立した放射線検出器とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の放射線検出器を説明する。図1は本発明の放射線検出器の概略構成図を示す部分拡大図である。図1に示すように、放射線検出器1は支持体21上に、固体光検出器2およびシンチレータ3が積層されて構成され、固体光検出器2は、光導電層12を含む光導電部10と薄膜トランジスタ層20とが形成されてなるものである。薄膜トランジスタ層20は、所望の画素ピッチで二次元状に配置された多数のトランジスタ20aが作りこまれた層である。1つのトランジスタ20aとそれに対応する光導電部10の部分により1つの固体検出素子が構成され、すなわち、固体検出器2は二次元状に配置された多数の固体検出素子から構成されている。
【0010】
シンチレータ3は、照射された放射線をこの放射線の線量に応じた量の可視光に変換する蛍光体層からなる光変換部であって、その発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体からなる。より好ましくは、CsX:Tl、またはTb3+および/またはEu3+で付活された酸化物または酸硫化物系蛍光体からなる。シンチレータ3は、上記蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなる粒子分散膜から構成されていてもよいし(塗布法)、上記蛍光体またはその原料を蒸着法などにより蒸発気化させて支持体上に堆積させることにより形成された蒸着膜(蒸着法)であってもよい。塗布法による場合のシンチレータの層厚は50〜300μm程度が好ましく、蒸着法による場合のシンチレータの層厚は100〜1000μm程度が好ましい。
【0011】
図3は固体検出器2の1つの固体検出素子を拡大して示すものである。既述の通り、固体検出器2は光導電部10と薄膜トランジスタ層20(以下、TFT層20という。)とから構成されている。TFT層20の各TFT20aの構成は、図3に示すように、基板21上に形成された半導体膜(アモルファスシリコン(a−Si層)、ポリシリコン(p−Si層)、有機半導体、アモルファス酸化物半導体膜(a−InGaZnO4層)など)22を挟んで、ソース電極およびドレイン電極23および24、ゲート絶縁膜25を介したゲート電極26が形成されてなるものである。電極23、24および26は、いずれも金属や透明酸化物などの導電材料から構成されている。
【0012】
基板21としてはガラス、アルミニウム、セラミックス、などが用いられるが、支持体として必要な強度を保持する樹脂シートであっても良い。
【0013】
光導電部10は、光を受けて導電性を呈する、すなわち光電変換を行う光導電層12と、この光導電層12を挟んで配置される透明電極11および13からなる。なお、本実施形態の固体検出器2は、光導電部10で発生した電荷を蓄積する蓄電部15を備えており、この蓄電部15に蓄積された電荷をTFTにより取り出すものである。なお、蓄電部15は電極13と電極14およびこの電極間に挟まれた絶縁層25から構成される。
【0014】
光導電層12はTeがドープされたa−Seからなる。Teのドープ量は、a−Seの0.1〜30モル%、さらには1〜10モル%であることが好ましい。光導電層は、蒸着法によって光導電層を連続的に形成することによりTFT上に光導電層を積層することができる。光導電層の層厚は、0.1〜100μm程度であることが好ましい。光導電層が厚くなるとそれ自体のX線吸収も画像形成に関与することになり、蛍光体層によるX線吸収と併せて画像形成を行うハイブリッド型といえるものになる。
【0015】
続いて、本発明の放射線検出器1を用いた放射線画像撮影について簡単に説明する。
被写体を透過したX線が放射線検出器1に照射されると、放射線検出器1に照射されたX線はシンチレータ3において可視光に変換される。シンチレータ3では吸収したX線の線量に応じた量の可視光を発光する。この可視光は光導電層10において光電変換され、発光強度に応じ蓄電部15に電荷が蓄積される。その後この電荷が読み出され、電気信号としての画像信号が出力され、出力された画像信号は情報処理手段に入力されて所定の画像処理等がなされ、処理がなされた処理済画像信号は再生手段に入力されて被写体の放射線画像が可視像として再生される。
【0016】
上記実施形態においては、固体検出器として、光導電層とTFT層との配置が、光導電層が放射線照射面側となる配置で構成したものについて説明したが、逆に放射線照射面側にTFT層を配置した構成としてもよい。
【0017】
次に、その発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体としてCsI:Tl蛍光体と、従来よりa−SeとのマッチングがよいとされるCsI:Na蛍光体の2種類のシンチレータと、a−Se、Teを5モル%ドープしたa−Se、Teを30モル%ドープしたa−Seの3種類の光導電層とを組み合わせて、そのマッチングについて評価したものを示す。
【0018】
図3は、CsI:Tl蛍光体、CsI:Na蛍光体の2種類のシンチレータにおける波長λと相対輝度との関係を示す発光スペクトルI(λ)(それぞれのピーク強度を1に規格化)、図4はa−Se、Teを5モル%ドープしたa−Se、Teを30モル%ドープしたa−Seの3種類の光導電層における波長λと相対感度との関係を示す分光感度S(λ)(それぞれのピーク強度を1に規格化)である。
【0019】
ここで、マッチングファクター(MF)を以下のように定義する。
MF=∫Sx(λ)Iy(λ)dλ/∫Iy(λ)dλ
たとえば、Sx(λ)=1ならば MF=1となる。発光と分光感度のそれぞれのスペクトル間に重なりがなければ、Sx(λ)Iy(λ)=0なのでMF=0となる。
【0020】
表1および図5に上記のようにして計算した発光スペクトルと分光感度のマッチングファクターを示す。
【表1】

【0021】
図4から明らかなように、Teのドーピングによってa−Seからなる光導電層の分光感度は向上し、図5に示すように、Teがドーピングされた光導電層では、ドーピングされていないa−Seよりも、シンチレータCsI:Tlとのマッチングが改善されており、また、従来よりa−SeとのマッチングよいとされるCsI:Na蛍光体よりもマッチングがよい。上記の計算式から求められるMFは概ね、0.65以上あることが好ましい。
【0022】
なお、ここでは、CsX:Tlの一例としてCsI:Tlとのマッチングのみを示したが、XがBr、Clあるいはこれらの混合物であっても、また、Ln22S:Tb(LnはGd,Lu,LaまたはYのいずれか、またはこれらの混合物である。)などのTb3+および/またはEu3+で付活された酸化物または酸硫化物系蛍光体においても良好なマッチングを得ることができる。
【0023】
以上のように、本発明の放射線検出器は、蛍光体層がその発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体からなり、光導電層がTeをドープされたa−Seからなるので、蛍光体の発光スペクトルと光導電層との分光感度のマッチングが極めて良好な放射線検出器とすることができる。
【0024】
なお、上記ではTFT方式の放射線検出器について説明したが、本発明のシンチレータと光導電層との組合せは、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式にも利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の放射線検出器の概略構成図を示す部分拡大図
【図2】固体検出器の1つ素子を表す部分拡大図
【図3】蛍光体の波長と相対輝度との関係を示す発光スペクトル
【図4】光導電層の波長と相対感度との関係を示す分光感度
【図5】発光スペクトルと分光感度のマッチングを示すグラフ
【符号の説明】
【0026】
1 放射線検出器
2 固体光検出器
3 シンチレータ
10 光導電部
11 透明電極
12 光導電層
13,14 電極
15 畜電部
20 薄膜トランジスタ層
20a 薄膜トランジスタ
21 基板
22 半導体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射された放射線を該放射線の線量に応じた量の可視光に変換する蛍光体層からなる光変換部と、該光変換部からの可視光を吸収して電荷を生成および輸送する光導電層と、該光導電層に生成した電荷を取り出す電極部からなる放射線検出器において、前記蛍光体層がその発光光子の1/2以上が500nmから700nmの波長範囲にある蛍光体からなり、前記光導電層がTeをドープされたa−Seからなることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記Teのドープ量が、前記a−Seの0.1〜30モル%であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記蛍光体層がCsX:Tl(XはI,BrまたはClのいずれか、またはこれらの混合物である)、またはTb3+および/またはEu3+で付活された酸化物または酸硫化物系蛍光体からなることを特徴とする請求項1または2の記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−163250(P2007−163250A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358648(P2005−358648)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】