説明

放射線検出器

【課題】固体光検出器とシンチレータとからなる放射線検出器において、得られる放射線画像の鮮鋭度を向上させる。
【解決手段】照射された放射線を光に変換する2層のシンチレータと、2層のシンチレータの間に配置され、それらの2層のシンチレータにより変換された光を検出して電気信号に変換する固体光検出器とを備えた放射線検出器において、各シンチレータの該シンチレータの面に平行な方向に進む光に対する散乱長を100μm以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線検出器、特に詳細にはシンチレータと固体光検出器との組合せを利用する放射線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば厚さ3mmの石英ガラスからなる基板にアモルファス半導体膜を挟んで透明導電膜と導電膜とからなる複数の信号線と走査線とがそれぞれ直交するようにマトリクス上にパターン形成して構成されている固体光検出器に放射線を可視光に変換するシンチレータを積層することにより構成されてなる放射線検出器が、特許文献1、2、3および非特許文献1等に提案されている。
【0003】
しかしながら、上述した放射線検出器は、固体光検出器が放射線の入射方向に対してシンチレータの後方に配置される構成であるため、シンチレータにより変換された可視光が固体光検出器に到達するまでにシンチレータ自身により吸収もしくは散乱されてしまい、固体光検出器における可視光の検出効率が低下し、得られる放射線画像の鮮鋭度が低下してしまうものであった。
【0004】
一方、特許文献4には、シンチレータと固体光検出器の配置を変更し、固体光検出器が放射線の入射方向に対してシンチレータの前方に配置することにより、鮮鋭度の低下を抑制する放射線検出器が提案されている。
【0005】
また、特許文献5には、固体光検出器の両面にシンチレータを設け、照射された放射線を両シンチレータによって光に変換することにより、固体光検出器の片面のみにシンチレータが設けられている放射線検出器と比較して検出量子効率(DQE)を向上させた放射線検出器が提案されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献5において提案されている放射線検出器では、固体光検出器を支持する基板が、充分な強度を維持するために数百μm以上の厚さを有し、かつ放射線の入射方向に対して固体光検出器の後方の受光面は必ず基板を通過した蛍光を受光する構成であるため、この後方からの蛍光が基板を通過する間に拡散してぼけてしまい、画像鮮鋭度が悪化するという問題がある。
【0007】
これに対して、特許文献6には、放射線の入射方向に対して固体光検出器の後方に配置するシンチレータとして蛍光ガラス基板を使用し、この蛍光ガラス基板の上に固体光検出器を一体的に形成することにより、上記問題を解決した放射線検出器が提案されている。
【特許文献1】特開昭59−211263号公報
【特許文献2】特開平2−164067号公報、
【特許文献3】国際公開WO92/06501号パンフレット
【特許文献4】特開平7−27864号公報
【特許文献5】特開平7−27865号公報
【特許文献6】特開平9−145845号公報
【非特許文献1】"Signal,noise,and read out considerations in the development of amorphous silicon photodiode arraysfor radiotherapy and diagnostic x-ray imaging",L.E.Antonuk et.al ,University of Michigan,R.A.Street Xerox,PARC,SPIE Vol.1443 Medical Imaging V;Image Physics(1991) ,p.108-119
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献6において提案されている放射線検出器は、放射線の入射方向に対して固体光検出器の後方に配置される蛍光ガラス基板が、この蛍光ガラス基板の面に平行な方向に進む光に対しても強い透過性を有するため、蛍光ガラス基板により変換された可視光が蛍光ガラス基板内で拡散してぼけてしまい、得られる放射線画像の鮮鋭度が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、放射線画像の鮮鋭度を向上させることができる放射線検出器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の放射線検出器は、照射された放射線を光に変換する2層のシンチレータと、該2層のシンチレータの間に配置された、該2層のシンチレータにより変換された光を検出して電気信号に変換する固体光検出器とを備えた放射線検出器において、各シンチレータの該シンチレータの面に平行な方向に進む光に対する散乱長が100μm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
ここで放射線とは、X線、γ線、β線、α線および中性子線などをいい(紫外線を含む)、シンチレータに変換された光とは、主として可視光をいう(紫外および赤外を含む)。
【0012】
2層のシンチレータの対向する表面間の間隔は40μm以下であることが望ましい。
【0013】
上記固体光検出器は、光により導電性を呈する光導電層と、該光導電層から電気信号を取り出すための薄膜トランジスタとが積層あるいは平面的に配置されてなるものであってもよい。
【0014】
そのとき、薄膜トランジスタは、基板上に形成され、基板から剥離転写されたものであってもよい。
【0015】
また、薄膜トランジスタは、該薄膜トランジスタが形成された基板を、化学的溶解法または研磨法により薄くし、あるいは除去したものであってもよい。
【0016】
また、薄膜トランジスタが、支持体上に剥離可能に配された基板上に形成され、該基板ごと支持体から剥離されたものであってもよい。
【0017】
薄膜トランジスタは、透明薄膜トランジスタであってもよい。
【0018】
ここで、散乱長とは、光が一回散乱するまでに直進する平均距離を意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の放射線検出器によれは、照射された放射線を光に変換する2層のシンチレータと、該2層のシンチレータの間に配置された、該2層のシンチレータにより変換された光を検出して電気信号に変換する固体光検出器とを備えた放射線検出器において、各シンチレータの該シンチレータの面に平行な方向に進む光に対する散乱長が100μm以下であることから、各シンチレータにおける該シンチレータの面に平行な方向に散乱して直進する光の平均距離が短いため、このシンチレータの面に平行な方向の拡散を抑制することができるので、得られる放射線画像の鮮鋭度を向上させることができる。
【0020】
上記放射線検出器において、2層のシンチレータの対向する表面間の間隔が40μm以下であれば、結果として得られる放射線画像の鮮鋭度を維持することができ、全体として高画質の放射線画像を得ることができる。
【0021】
固体光検出器が薄膜トランジスタと光導電層とを積層あるいは平面的に配置して構成されたものであれば、上記の構成を実現でき、両シンチレータからの光を有効に利用することができる。
【0022】
そのとき、薄膜トランジスタが、基板上に形成され、基板から剥離転写されたものである場合、基板を除去し、2層のシンチレータの間に配置される固体光検出器の厚さを小さくすることが可能であり、2層のシンチレータの対向する表面間の間隔を小さくすることができる。
【0023】
また、薄膜トランジスタが、該薄膜トランジスタが形成された基板を、化学的溶解法または研磨法により薄くし、あるいは除去したものである場合、基板の厚さを小さくすることにより2層のシンチレータの間に配置される固体光検出器の厚さを小さくすることができ、これにより2層のシンチレータの対向する表面間の間隔を小さくすることができる。
【0024】
また、薄膜トランジスタが、支持体上に剥離可能に配された基板上に形成され、該基板ごと支持体から剥離されたものである場合、支持体上に剥離可能に配される基板の厚さを小さくすることにより2層のシンチレータの間に配置される固体光検出器の厚さを小さくすること可能であり、これにより2層のシンチレータの対向する表面間の間隔を小さくすることができる。
【0025】
特に、薄膜トランジスタが透明薄膜トランジスタならばトランジスタ部においても両シンチレータからの光を有効に利用できるので、さらに高画質を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0027】
図1は本発明による放射線検出器の実施形態を表す図である。図1に示すように本実施形態の放射線検出器1は、第1のシンチレータ3A、固体光検出器2、第2のシンチレータ3Bがこの順に積層されてなるものであり、固体光検出器2が2層のシンチレータ3Aおよび3Bに挟まれた位置に配置されている。
【0028】
図2に示すように、放射線検出器1は支持体9上に第1のシンチレータ3A、固体光検出器2および第2のシンチレータ3Bが積層されて構成され、固体光検出器2は、光導電層12を含む光導電部10と薄膜トランジスタ層20とが積層形成されてなるものである。薄膜トランジスタ層20は、所望の画素ピッチで二次元状に配置された多数のトランジスタ20aが作りこまれた層である。1つのトランジスタ20aとそれに対応する光導電部10の部分により1つの固体検出素子が構成され、すなわち、固体検出器2は二次元状に配置された多数の固体検出素子から構成されている。
【0029】
第1および第2のシンチレータ3Aおよび3Bは、照射された放射線を光に変換するものであって、平板状に形成されている。各第1および第2のシンチレータ3Aおよび3Bは放射線を吸収して可視光あるいは紫外光を発する蛍光体(以下、放射線吸収蛍光体という)を含む層であって、特には原子番号が39以上の元素を含有する蛍光体を含む層であり、膜の密度が3.5以上のものが好ましい。シンチレータ3Aおよび3Bは、このような蛍光体を含む材料を用いて、該シンチレータの面、すなわち固体検出器2と対向する面に平行な方向に高い散乱性を有するように、具体的には、このシンチレータの面に平行な方向に散乱する光の散乱長が100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下となるように形成されている。ここで、散乱長とは、光が一回散乱するまでに直進する平均距離を意味し、散乱長が短いほど光散乱性が高い。このように、各シンチレータにおける該シンチレータの面に平行な方向に散乱して直進する光の平均距離を100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下とすることにより、このシンチレータの面に平行な方向の拡散を抑制することができるので、得られる放射線画像の鮮鋭度を向上させることができる。
【0030】
ここで、シンチレータの面に直交する方向には、充分な光の透過性を確保するため、そのシンチレータの面に直交する方向に散乱する光の散乱長はシンチレータの厚さに比して充分な長さを有することが望ましい。
【0031】
シンチレータの面に平行な方向の散乱長Sは、クベルカ(Kubelka)の理論に基づく計算方法によって算出することができる。具体的には、第1または第2のシンチレータ3Aまたは3Bの面に平行な方向と同一の組成を有し、互いに厚さの異なるフィルム試料を3枚以上作製し、各フィルム試料の厚さおよび透過率を測定する。透過率は分光光度計で測定すればよい。また、透過率の測定は、コリメートする光を用いる。フィルム試料の厚さをd[μm]、フィルム試料の散乱長Sを1/α[μm]、フィルム試料の吸収長(光が吸収されるまでの平均自由距離)を1/β[μm]、フィルム試料の透過率をT[%]とする。また、深さZにおける光強度分布I(Z)を、フィルム試料の表から裏に向かう成分i(Z)と、裏から表に向かう成分j(Z)とに分けて考える。すなわち、「I(Z)=i(Z)+j(Z)」となる。
【0032】
このような系において、フィルム試料の任意の深さZにおける微小厚さdzの膜での散乱/吸収による光強度の増減は、クベルカの理論より、下記の連立微分方程式(1)および(2)を解くことで算出できる。
【0033】
di/dz=−(β+α)i+αj …… (1)
dj/dz= (β+α)j−αi …… (2)
上記式において、「γ2 =β(β+2α)」、「ξ=(α+β−γ)/α」、「η=(α+β+γ)/α」とし、積分定数をKおよびLとすると、上記連立方程式のiおよびjに関する一般解は、下記式となる。
【0034】
i(Z)=Kexp(−γZ)+Lexp(γZ)
j(Z)=Kξexp(−γZ)+Lηexp(γZ)
厚さdのフィルム試料の透過率Tは「T=i(d)/i(0)」である。この際において、フィルム試料単独で透過率を測定する場合に、戻り光がない(すなわち、j(d)=0)と仮定すると、透過率Tはフィルム試料の厚さdの関数として、下記式(3)で示
すことができる。
【0035】
T(d)=(η−ξ)/(ηexp(γZ)−ξexp(−γZ))…… (3)
測定した各フィルム試料の透過率Tと厚さdを、式(3)入れて、最小二乗法等を用いて最適化することにより、散乱長S=(1/α)、さらに吸収長1/βを求めることができる。
【0036】
第1および第2のシンチレータ3Aおよび3Bは、例えば、CsI:Tl、CsI:Na、CsBr:Euなどのハロゲン化セシウム針状結晶等の光散乱の異方性を有する材料を用いて、該シンチレータの面に平行な方向に散乱する光の散乱長が100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下となるように形成することができる。
【0037】
他にも、たとえば,LnS:Ln’、Ln:Ln’、LnTaO:Ln’、LnOX:Ln’、BaFX:Eu、LnSiO:Ln’、LnAlO:Ln’(ここで、LnはY,La,Gd,Luからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、Ln’はCe,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素、Xは少なくとも1種以上のハロゲン元素である)等の蛍光材料を用いて該シンチレータの面に平行な方向に散乱する光の散乱長が100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下となるように形成することもできる。
【0038】
シンチレータ3Aおよび3Bは、放射線吸収蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とから構成されるものであってもよいし、放射線吸収蛍光体またはその原料を蒸着法、スパッタ法、CVD法等の気相蒸着法により形成されたものであってもよい。
【0039】
図3は固体検出器2の1つの固体検出素子を拡大して示すものである。
【0040】
既述の通り、固体検出器2は光導電部10と薄膜トランジスタ層20(以下、TFT層20という。)とから構成されている。
【0041】
TFT層20の各TFT20aは、図3に示すように、薄い基板21上に、半導体膜(アモルファスシリコン(a-Si層)、アモルファス酸化物半導体膜(a-InGaZnO4層)など)22を挟んで、ソース電極およびドレイン電極23および24、ゲート絶縁膜25を介したゲート電極26が形成されてなるものである。そして、TFT層20の光導電部10側にドレイン電極24、ゲート絶縁膜25等を覆う絶縁層19が形成されている。
【0042】
なお、半導体膜22としてa-Si層を用いる場合は光吸収があって透明ではないが、a-InGaZnO4層を用いれば透明にできる。ゲート絶縁膜25は透明であり、電極23、24および26は、いずれも透明酸化物伝導体であるITOあるいはIZOなどから構成されている。
【0043】
半導体膜22としてa-Siを用いる場合は、a-Siが存在する箇所についてはその光吸収のために片側のシンチレータ層の効果が低減されるが、他の部分は透明であるため片面にのみシンチレータを配した場合と比較すると、全体としては放射線の光変換効率向上の効果を十分得ることができる。一方、TFTの半導体膜22としてa-InGaZnO4のような透明半導体を用いればTFT部分での光吸収がないので2層のシンチレータの効果を最大限利用した放射線検出器を作成できる。
【0044】
アモルファス酸化物半導体膜(a-InGaZnO4層)を用いた透明TFTは、Nature 432, 488 - 492 (25 November 2004)に掲載された KENJI NOMURA, HIROMICHI OHTA1, AKIHIRO TAKAGI, TOSHIO KAMIYA, MASAHIRO HIRANO & HIDEO HOSONO,"Room-temperature fabrication of transparent flexible thin-film transistors using amorphous oxide semiconductors" 「室温プロセスで作製したアモルファス酸化物半導体を用いたフレキシブル薄膜トランジスタ」に記載されている。これは、In-Ga-Zn-O系アモルファス酸化物半導体を活性層に用いることで、高性能透明薄膜トランジスタ(TFT)を作製したものであり、活性層に用いたアモルファス酸化物半導体は、アモルファスシリコン、有機半導体に比べて、10倍以上の電子移動度[〜10cm2/(V・秒)]を有し、飽和電流、スィッチング速度などのトランジスタ特性が10倍以上に向上する。なお、この系については、細野秀雄、神谷利夫,野村研二「アモルファス酸化物半導体を能動層とする透明フレキシブルトランジスタ」応用物理 74 (7),910 (2005) に解説されている。
【0045】
ここで、第1および第2のシンチレータ3Aおよび3Bの対向する表面の間隔が大きくなるにつれて画像のボケが大きくなり鮮鋭度が低下するため、これら2層のシンチレータの間に配置される固体光検出器2を薄くすることにより、これら2層のシンチレータの間隔を40μm以下、さらには30μm程度以下にし、高鮮鋭度の画像を得ることができる。
【0046】
以下に、固体光検出器2を薄くするための一方法として、TFT層20の製造過程で用いられる基板21を薄く、あるいは除去する方法について説明する。
【0047】
例えば、特開2000-133809号公報、特開2003-66858号公報、特開2003-45890号公報などに記載されているように、TFT層20を剥離転写することにより、基板21を除去することができる。
【0048】
また、特開平8-278519号公報、特開2003-280035号公報,特開2003-330004号公報などに記載されているように、TFT層20が形成された基板21を化学的溶解法または研磨法により薄く、あるいは除去することができる。
【0049】
他にも、厚い仮支持体上に剥離可能に配された薄い基板21上にTFT層20を形成した後、光導電部10を積層し、その後、基板21を仮支持体から剥離することにより、薄い基板を実現することができる。
【0050】
この場合、薄い基板は、透明であってもよいが、この基板の面に平行な方向の拡散を抑制するため、多少着色されたものであってもよい。
【0051】
光導電部10は、光を受けて導電性を呈するものであり、光電変換を行う光導電層12と、該光導電層12を挟んで配置される透明電極11および透明電極13を備え、透明電極11と光導電層12との間に透明電極11から光導電層12への電子注入を抑制する電子注入阻止層16を有している。なお、本実施形態の固体検出器2は、光導電部10で発生した電荷を蓄積する蓄電部15を備えており、この蓄電部15に蓄積された電荷をTFTにより取り出すものである。この蓄電部15は透明電極13と透明電極14および該電極間に挟まれた絶縁層25から構成される。ここで、蓄電部15を形成する電極14は必ずしも透明である必要はないが、透明電極を用いることにより、放射線の光変換効率を向上させることができる。
【0052】
上記実施形態においては、光導電層とトランジスタ層とが積層して配置された形態の固体検出器を備えた例を挙げたが、本発明の放射線検出器は、特許第3066944号(特開平8-116044号公報参照)に記載のようなTFT部分と光導電層を平面的に配置した固体光検出器を2層のシンチレータで挟んだ構成であってもよい。上記実施形態のように、光導電層を有しないTFT層に対して光導電層を積層する積層技術については、R. A. Street, J. Graham, Z. D. Popovic, A. Hor, S. Ready, J. Ho, “Image sensors combining an organic photoconductor with a-Se:H matrix addressing”, J. of Non-Crystalline Solids 299-302 (2002) 1240-1244.に記載されており、本実施形態においても当該技術を用いることができる。
【0053】
たとえば、スピンコーティング法やディップコーティング法によって光導電層を連続的に形成することによりTFT上に光導電層を積層することができる。この光導電層をTFTと接続された画素に対応する透明電極と反対側の連続的に形成された透明電極で挟んで用いる。また、光導電層を電荷発生層と電荷輸送層の積層構造にして機能を最適化することもできる。電荷発生層としてはベンジミダゾールペリレン(benzimidazole perylene)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(hydroxygallium phthalocyanine)、チタニルフタロシアニン(titanyl phthalocyanine)、電荷輸送層としてはテトラフェニルジアミン(tetraphenyldiamine)、などが知られている。a-Seなどの無機光導電材料を用いることもできる。
【0054】
以下、本発明の放射線検出器1を用いた放射線画像撮影について簡単に説明する。
【0055】
X線源4より発せられたX線5は被写体6に照射され、被写体6を透過する。被写体6を透過したX線5は放射線検出器1に照射される。放射線検出器1に照射されたX線5はその一部が第2のシンチレータ3Bにおいて可視光に変換され、他は固体光検出器2を透過し、第1のシンチレータ3Aに到達する。なお、X線5が固体光検出器2を透過する際において、X線5はほとんど減衰されることなく第1のシンチレータ3Aに到達し、該第1のシンチレータ3Aにおいて可視光に変換される。各シンチレータ3A、3Bではそれぞれ吸収したX線5の強度に応じた強度の可視光を発光する。この可視光は光導電層10において光電変換され、発光強度に応じ蓄電部15に電荷が蓄積される。この際、シンチレータ3Aから発せられた可視光は、TFTが光吸収を有する場合はTFT層20で減衰するが、透明TFTを用いた場合はTFT層20で減衰されることなく光導電層10に到達する。その後この電荷が読み出され、電気信号としての画像信号Sが出力される。
【0056】
出力された画像信号Sは情報処理手段7に入力されて所定の画像処理等がなされ、処理がなされた処理済画像信号S’は再生手段8に入力されて被写体6の放射線画像が可視像として再生される。
【0057】
なお、再生手段8としては、LCD、CRT等の電子的に表示するもの、LCD、CRT等に表示された放射線画像をビデオプリンタ等に記録するものなど種々のものを採用することができる。
【0058】
上記実施形態においては、固体検出器として、光導電層とTFT層との配置が、光導電層が放射線照射面側となる配置で構成したものについて説明したが、逆に放射線照射面側にTFT層を配置した構成としてもよい。また、TFT層20として透明な薄い基板21上に各TFTを形成したものを説明したが、TFT層は、シンチレータ3Aもしくは3B上に直接TFTを形成して構成することもできる。
【0059】
従来の薄膜トランジスタには、a-Si(アモルファスシリコン)が用いられており、このa-Siは可視領域に光吸収があるが、両面にシンチレータを備えることによってX線を従来より有効に利用できるようになる。しかし、特に高精細の検出器においてはTFT部分の占める割合が相対的に高くなるので、いずれか一方に配置されたシンチレータからの光は薄膜トランジスタで減衰され十分に光導電層に入射せずその発光を十分に効率良く利用できない恐れがある。本実施形態の好ましい例のように、透明薄膜トランジスタを用いれば、両面に配置されたシンチレータからの発光をより有効に利用することができ、シンチレータにより変換された可視光の検出効率は向上され、放射線検出器により得られる放射線画像の鮮鋭度を向上させることができ、全体として高画質の放射線画像を得ることができる。
【0060】
なお、本実施形態で用いられる薄膜トランジスタ層は透明であっても、放射線画像上にTFTの構造が写りこむ可能性がある。このような場合には、シンチレータの構造と共に画像補正処理によって除去すればよい。補正処理を行う場合には、X線エネルギー依存性については、一次近似的には特定のエネルギーにおける値で代表させればよい。勿論、それぞれのエネルギーに対応させた補正処理を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明による放射線検出器の実施形態を表す図
【図2】本発明による放射線検出器の概略構成を示す一部拡大図
【図3】固体光検出器の一素子を表す一部拡大図
【符号の説明】
【0062】
1 放射線検出器
2 固体光検出器
3A,3B シンチレータ
4 X線源
5 X線
6 被写体
7 情報処理手段
8 再生手段
9 支持体
10 光導電部
12 光導電層
20 薄膜トランジスタ層
20a 薄膜トランジスタ
21 透明な薄い基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射された放射線を光に変換する2層のシンチレータと、
該2層のシンチレータの間に配置された、該2層のシンチレータにより変換された光を検出して電気信号に変換する固体光検出器とを備えた放射線検出器において、
前記各シンチレータの該シンチレータの面に平行な方向に進む光に対する散乱長が100μm以下であることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記2層のシンチレータの対向する表面間の間隔が40μm以下であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記固体光検出器が、前記光により導電性を呈する光導電層と、該光導電層から電気信号を取り出すための薄膜トランジスタとが積層あるいは平面的に配置されてなるものであることを特徴とする請求項1または2記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記薄膜トランジスタが、基板上に形成され、該基板から剥離転写されたものであることを特徴とする請求項3項記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記薄膜トランジスタが、該薄膜トランジスタが形成された基板を、化学的溶解法または研磨法により薄くし、あるいは除去したものであることを特徴とする請求項3項記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記薄膜トランジスタが、支持体上に剥離可能に配された基板上に形成され、該基板ごと前記支持体から剥離されたものであることを特徴とする請求項3項記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記薄膜トランジスタが、透明薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項3から6いずれか1項記載の放射線検出器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−163467(P2007−163467A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304241(P2006−304241)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】