説明

放射線画像変換パネルの製造方法、放射線画像変換パネルの製造装置、放射線画像変換パネル及び該放射線画像変換パネルを用いた放射線検出装置

【課題】蛍光体膜の膜厚が安定した品質を有する放射線画像変換パネルの製造方法の提供、且つ、高感度の放射線画像変換パネル及びそれを用いた放射線検出装置の提供。
【解決手段】放射線を可視光に変換する蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造法において、該蛍光体層がエアロゾル化室内に充填する前に加熱処理を施した蛍光体原料粒子を基板に高流速のキャリアガスで衝突させて堆積する成膜法(ガスデポジション成膜法(エアロゾル・デポジション成膜法、AD成膜法))を用いて成膜されることを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断機器に用いられる放射線画像変換パネルの製造方法、放射線画像変換パネルの製造装置、放射線画像変換パネル及び該放射線画像変換パネルを用いた放射線検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線写真法に代わる有効な診断手段として、特開昭55−12145号などに記載の輝尽性蛍光体を用いる放射線像記録再生方法、所謂コンピューテッド・ラジオグラフィ(CR)システムが知られている。
【0003】
この方法は、輝尽性蛍光体を含有する放射線画像変換パネルを利用するもので、被写体を透過した、あるいは被検体から発せられた放射線を輝尽性蛍光体に吸収させ、可視光線、紫外線などの電磁波(励起光とも言う)で時系列的に輝尽性蛍光体を励起して、蓄積されている放射線エネルギーを蛍光(輝尽発光光とも言う)として放射させ、この蛍光を光電的に読み取って電気信号とし、得られた電気信号に基づいて被写体あるいは被検体の放射線画像を可視画像として再生するものである。読み取り後の変換パネルは、残存画像の消去が行われ、次の撮影に供される。
【0004】
この方法によれば、放射線写真フィルムと増感紙とを組み合わせて用いる放射線写真法に比して、はるかに少ない被爆線量で情報量豊富な放射線画像が得られる利点がある。又、放射線写真法では撮影毎にフィルムを消費するのに対して、放射線変換パネルは繰り返し使用されるので、資源保護や経済効率の面から有利である。
【0005】
放射線変換パネルは、支持体とその表面に設けられた輝尽性蛍光体層、又は自己支持性の輝尽性蛍光体層のみからなり、輝尽性蛍光体層は、通常、輝尽性蛍光体とこれを分散支持する結合剤からなるものと、蒸着法や焼結法によって形成される輝尽性蛍光体の凝集体のみから構成されるものがある。又、該凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものも知られている。更に、輝尽性蛍光体層の支持体側とは反対側の表面には通常、ポリマーフィルムや無機物の蒸着膜からなる保護膜が設けられる。
【0006】
更に、最近ではX線蛍光体層と2次元光検出器を用いたフラットパネル型のデジタル放射線検出装置(以下、FPDとも言う)が普及しつつある。これは、画像特性が良好であること、画像の読み取り速度が高速であること等の利点があり、盛んに研究開発が行われている。
【0007】
従来のCRシステムに用いられる輝尽性蛍光体プレートやFPDの蛍光体層は、粒径0.1〜20μm程度の微粒子からなる蛍光体微粒子、その蛍光体微粒子を結合させるための樹脂バインダー、これらの隙間に存在する空隙から構成されたシート状の形態からなっている。
【0008】
しかしながら、従来の構成では、X線を照射された蛍光体から放出された光の一部が樹脂バインダーで吸収されることによって蛍光体層の発光量が低下すると言う問題があった。この課題に対し、樹脂バインダーが存在しない蛍光体膜を用いた放射線画像変換パネルとして、気相成長法(気相堆積法)によって支持体上に、細長い柱状結晶を形成した輝尽性蛍光体層を有する放射線画像変換パネルが開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかし、この様な気相成長法の適用が困難な蛍光体材料が多数あり、製造装置は高真空を必要とするため高価であると言う課題があった。
【0009】
一方、樹脂バインダーを用いずに高充填率の蛍光体膜を作製する方法として、ガスデポジション法(エアロゾル・デポジション成膜法、AD成膜法)による成膜法が開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。しかし、特許文献2に記載の製造条件では、ノズルから噴出された蛍光体粒子が基板に着弾する時の着弾角度が基板の場所により異なるため、得られる蛍光体膜の膜厚が安定せず品質は十分なものではなかった。
【0010】
この様な状況から、エアロゾル・デポジション成膜法(AD成膜法)により蛍光体膜の膜厚が安定した品質を有する放射線画像変換パネルの製造方法、該製造方法により製造された放射線画像変換パネル及びこの放射線画像変換パネルを使用した放射線検出装置を開発することが望まれていた。
【特許文献1】特開平2−58000号公報
【特許文献2】特開2003−215256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、蛍光体膜の膜厚が安定した品質を有する放射線画像変換パネルの製造方法を提供でき、且つ、高感度の放射線画像変換パネル及びそれを用いた放射線検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1.放射線を可視光に変換する蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造法において、該蛍光体層がエアロゾル化室内に充填する前に加熱処理を施した蛍光体原料粒子を基板に高流速のキャリアガスで衝突させて堆積する成膜法(ガスデポジション成膜法(エアロゾル・デポジション成膜法、AD成膜法))を用いて成膜されることを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
【0013】
2.加熱処理を300〜1600℃のガス雰囲気下で実施することを特徴とする前記1に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【0014】
3.キャリアガスの流速が100〜400m/secであることを特徴とする前記1又は2に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【0015】
4.前記1〜3の何れか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法に使用する放射線画像変換パネルの製造装置が、エアロゾル化室内に充填する前に蛍光体原料粒子を加熱処理手段を有するエアロゾル・デポジション法による成膜装置(エアロゾル・デポジション成膜装置、AD成膜装置)であることを特徴とする放射線画像変換パネルの製造装置。
【0016】
5.前記1〜3の何れか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法で得られることを特徴とする放射線画像変換パネル。
【0017】
6.前記4に記載の放射線画像変換パネルの製造装置で得られることを特徴とする放射線画像変換パネル。
【0018】
7.前記5又は6に記載の放射線画像変換パネルを用いて放射線を検知することを特徴とする放射線検出装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明による放射線画像変換パネルの製造方法、放射線画像変換パネル及びそれを用いた放射線検出装置は蛍光体膜の膜厚が安定した品質を有するを提供でき、且つ、高感度で優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の放射線画像変換パネルの製造方法によって製造された放射線画像変換パネルの一例を示す断面図である。
【0021】
図1において、22はガラス基板等からなる絶縁性基板である。絶縁性基板22上に非晶質シリコンより成る半導体薄膜を用いたフォトダイオードとTFT(薄膜トランジスタ)よりなる光電変換素子23が複数2次元に形成され、その表面に半導体保護層24が形成され、全体として光検出器25が構成されている。ついで、上記光検出器に、蛍光体層26を形成してシンチレータが構成されている。
【0022】
蛍光体層26をシンチレータに設ける方法としては、支持基板12(図1には図示しない)に形成された蛍光体層26を光検出器にはりあわせればよく、必要に応じて接着剤を使用することができる。支持基板が不透明な場合は蛍光体層26と光検出器と接するように形成し、支持基板が光学的に透明な場合は、支持基板を光検出器と接するように形成することができる。
【0023】
また、光検出器が支持基板を兼ねても良く、光検出器の半導体保護層24に、直接、蛍光体層26を形成しても良い。また必要に応じて、光検出器と接しない面の蛍光体層26には光反射層が配置されてもよい。
【0024】
基板としては、特に材料に限定されることはないが、一般的な基板、例えば、樹脂基板、セラミックス、石英ガラス等のほか、チタン、ステンレス、アルミニウム等の金属基板を使用出来る。
【0025】
蛍光体膜を構成している蛍光体微粒子としては、CaWO4、Gd22S:Tb、BaSO4:Pb、CsI:Tl等の従来知られている蛍光体材料を使用出来る。(Gd,M,Eu)23の一般式で示される蛍光体粒子は、特に発光効率が高いので好ましい。ここで、希土類元素MとしてイットリウムY、ニオブNd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、イッテルビウムYbの少なくとも1つ以上の元素を含むものとする。これらの元素は放射線吸収率が高いので、粒状性が更に良好な放射線画像を得ることが出来る。又、ガドリニウムGdを40〜95質量%、希土類元素Mを5〜40質量%、ユーロピウムEuを2〜20質量%含有させることで、放射線吸収率及び発光効率を高く出来る。特に、ガドリニウムGdは70〜90質量%が好ましく、ユーロピウムEuは5〜10質量%が好ましい。
【0026】
保護層として光透過性の高い樹脂フィルム、例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム等もしくはガラス等の無機基板等を蛍光体層に接着剤で貼り合わせることも可能である。
【0027】
また、保護層は、蛍光体層に接着層を介して密着していても良いが、蛍光体面を被覆するように設けられた構造(以下、封止又は封止構造ともいう)であることがより好ましい。蛍光体面を封止するに当たっては、公知のいずれの方法でもよいが、防湿性保護フィルムの蛍光体面に接する側の最外層樹脂層を熱融着性を有する樹脂フィルムとすることは、防湿性保護フィルムが融着可能となり放射線画像変換パネルの封止作業が効率化される点で、好ましい形態の1つである。
【0028】
尚、上記熱融着性を有する樹脂フィルムとは、一般に使用されるインパルスシーラーで融着可能な樹脂フィルムのことであり、例えば、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)やポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム等を挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
更には、輝尽性蛍光体プレートの上下に防湿性保護フィルムを配置し、その周縁が前記パネルの周縁より外側にある領域で、上下の防湿性保護フィルムをインパルスシーラー等で加熱、融着して封止構造とすることで、前記プレートの外周部からの水分進入も阻止でき好ましい。又、支持体面側の防湿性保護フィルムを1層以上のアルミフィルムをラミネートしてなる積層フィルムとすることで、より確実に水分の進入を低減でき、又この封止方法は作業的にも容易であり好ましい。上記インパルスシーラーで加熱融着する方法においては、減圧環境下で加熱融着することが、プレートの防湿性保護フィルム内での位置ずれ防止や大気中の湿気を排除する意味でより好ましい。
【0030】
防湿性保護フィルムの蛍光体面が接する側の熱融着性を有する最外層の樹脂層と蛍光体面は、接着していても接着していなくてもかまわない。ここでいう接着していない状態とは、微視的には蛍光体面と防湿性保護フィルムとが点接触していても、光学的、力学的には殆ど蛍光体面と防湿性保護フィルムは不連続体として扱える状態のことである。
【0031】
成膜装置
図2は本発明の放射線画像変換パネルの製造方法に使用するエアロゾル・デポジション成膜装置の一例を示す模式図である。
【0032】
本発明の放射線画像変換パネルの製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)で用いることのできる成膜装置の実施形態を例示する。
【0033】
エアロゾル・デポジション法による成膜装置(エアロゾル・デポジション成膜装置、AD成膜装置)としては、「応用物理」誌68巻1号44ページ、特開2003−215256号公報等に開示されている。
【0034】
本発明の成膜装置1は、蛍光体膜形成用基板12(以下、単に基板ともいう)を保持する基板ホルダー13、ホルダーをXYZθで3次元に作動させるXYZθステージ14、基板に蛍光体原料を噴出させる細い開口を備えたノズル、ノズル11をエアロゾル化室17とつなぐ配管15を備えたチャンバー16、更に、搬送ガスを貯留する高圧ガスボンベ19、蛍光体粒子原料とキャリアガスが攪拌・混合されるエアロゾル化室17、およびこれらをつなぐ搬送ガス配管21によって構成される。XYZθステージ14の裏面には、ペルチェ素子による温度制御機構が設置され、基板22を最適な温度に保つことができる。
【0035】
更に、エアロゾル化室17内の蛍光体粒子原料は、以下のような手順によって蛍光体と膜形成基板に形成される。
【0036】
本発明では、蛍光体粒子原料(以下、粒子原料ともいう)をエアロゾル化室17内に充填する前に所定の温度で保持されたガス雰囲気下で加熱処理することを必須としている。好ましくは300℃〜1600℃で加熱処理する。即ち、この加熱処理が本発明の重要な特徴である。
【0037】
その後、エアロゾル化室17内に充填された、好ましくは0.1〜2μmの平均粒径を有する蛍光体微粒子原料は、キャリアガスを貯留する高圧ガスボンベ19から搬送ガス配管21を通ってエアロゾル化室17に導入されキャリアガスと共に、振動、撹拌されてエアロゾル化される。エアロゾル化した蛍光体微粒子原料は配管15を通り、チャンバー16内の細い開口を備えたノズル11から蛍光体膜形成用基板12にキャリアガスとともに吹き付けられ塗膜を形成する。チャンバー16は、真空ポンプ等で排気され、チャンバー16内の真空度は必要に応じて調整されており、0.1〜1000Paの真空度で調整されることが好ましい。
【0038】
更に、基板ホルダー13はXYZθステージ14により3次元に動くことができるため、基板の所定の部分に必要な厚みの蛍光体層26が形成できる。基板に形成された蛍光体層26上には、必要に応じて蛍光体保護層24を設けることもできる。
【0039】
エアロゾル化された蛍光体微粒子原料は、好ましくは流速100〜400m/secのキャリアガスによって衝突することによって、基板12上に堆積することができる。キャリアガスにより衝突した蛍光体微粒子は、互いに衝突の衝撃によって接合し膜を形成する。
【0040】
尚、蛍光体微粒子18を加速・噴出するためのキャリアガスとしては、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが挙げられ、中でも、窒素ガスが好ましい。
【0041】
また、蛍光体微粒子18を衝突させる基板の温度は、−100℃以上、200℃以下に保持することが好ましい。
【0042】
放射線を効率よく吸収するための蛍光体層の厚みとしては、蛍光体の種類により異なるが、通常50〜500μmの範囲の厚みが好ましい。
また、支持基板に蛍光体層を形成後に、熱処理を行うことで膜の緻密度を調整することもできる。
【0043】
(フラットパネル型放射線ディテクタ)
本発明の製造方法によって構成される放射線検出器の他の例として、フラットパネル型の放射線ディテクタ(FPD)について述べる。
【0044】
ガラス基板等からなる絶縁性基板上に非晶質シリコンより成る半導体薄膜を用いたフォトダイオードとTFT(薄膜トランジスタ)よりなる光電変換素子が複数2次元に形成され、その表面に半導体保護層が形成され、全体として光検出器が構成される。ついで、上記光検出器に、蛍光体層を形成してFPDが構成される。
【0045】
蛍光体層をFPDに設ける方法としては、支持基板に形成された蛍光体層、すなわち放射線画像変換パネルを光検出器に貼り合わせればよく、必要に応じて接着剤を使用することができる。支持基板が不透明な場合は、蛍光体層と光検出器と接するように形成し、支持基板が光学的に透明な場合は、支持基板を光検出器と接するように形成することができる。
【0046】
また、光検出器が支持基板を兼ねても良く、光検出器の半導体保護層に、直接、蛍光体層を形成しても良い。また必要に応じて、光検出器と接しない面の蛍光体層には光反射層が配置されてもよい。
【0047】
本実施形態において、光検出器の詳細な構成、材料、製法等は、特開2003−57353号公報に記載される構成、材料であり、安価で軽量のFPDが得られるため好ましい。
【0048】
上述の蛍光体粉体としては、CaWO4、Gd22S:Tb、BaSO4:Pb、CsI:Tl等の従来知られている蛍光体材料を使用できる。(Gd,M,Eu)23の一般式で示される蛍光体粒子は、特に発光効率が高いので好ましい。
ここで、希土類元素MとしてイットリウムY、ニオブNd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホルミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、イッテルビウムYbの少なくとも一つ以上の元素を含むものとする。
【0049】
これらの元素は放射線吸収率が高いので、粒状性が更に良好な放射線画像を得ることができる。また、ガドリニウムGdを40〜95質量%、希土類元素Mを5〜40質量%、ユウロピウムEuを2〜20質量%含有させることで、放射線吸収率および発光効率を高くできる。特に、ガドリニウムGdは70〜90質量%が好ましく、ユウロピウムEuは5〜10質量%が好ましい。
上述の蛍光体の支持基板としては、特に材料に限定されることはないが、一般的な基板、例えば、樹脂基板、セラミックス、石英ガラス等のほか、チタン、ステンレス、アルミニウム等の金属基板を使用できる。
【0050】
接着層、蛍光体保護層、半導体保護層は、これらの層の機能が発揮できる厚さであればできるだけ薄い方が、輝度、鮮鋭度を高めることができるために好ましく、通常20μm以下が好ましい。
【0051】
光反射層としては、一般的な光反射性材料を形成することにより蛍光体層の輝度を向上できる。これらの材料としては、スパッタ、蒸着等の従来知られている成膜方法により作製される金属膜、例えば、チタン、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム等の単一金属又はそれらの合金が挙げられる。
【0052】
また、例えば、カーボン粉体をプレス成形し板状としたもの等により光吸収層を形成することで蛍光体層の鮮鋭度を向上できる。反射層、吸収層の形成はX線撮影の目的により適宜選択すればよい。
【0053】
更に、必要に応じて蛍光体の保護層として光透過性の高い樹脂フィルム、例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム等もしくはガラス等の無機基板等を蛍光体層に接着剤で貼り合わせることも可能である。以上のように蛍光体粒子が焼結により一体化された蛍光体層を含むシンチレータを光検出器に接着層を介して接合することにより、放射線検出装置を作製できる。
【0054】
(輝尽性蛍光体プレート)
本発明の製造方法によって構成された放射線検出器の別の実施形態として、輝尽性蛍光体プレートについて例示する。
【0055】
この態様は、支持体とその表面に設けられた輝尽性蛍光体層からなり、更に輝尽性蛍光体層の支持体側とは反対側の表面には通常、ポリマーフィルムや無機物の蒸着膜からなる保護膜が設けられる。
【0056】
輝尽性蛍光体としては、通常400〜900nmの範囲にある励起光によって波長300〜500nmの範囲にある輝尽発光を示すものが一般的に利用され、特開昭55−12145号、同55−160078号、同56−74175号、同56−116777号、同57−23673号、同57−23675号、同58−206678号、同59−27289号、同59−27980号、同59−56479号、同59−56480号等に記載の希土類元素賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体;特開昭59−75200号、同60−84381号、同60−106752号、同60−166379号、同60−221483号、同60−228592号、同60−228593号、同61−23679号、同61−120882号、同61−120883号、同61−120885号、同61−235486号、同61−235487号等に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体;特開昭55−12144号に記載の希土類元素賦活オキシハライド蛍光体;特開昭58−69281号に記載のセリウム賦活3価金属オキシハライド蛍光体;特開昭60−70484号に記載のビスマス賦活アルカリ金属ハロゲン化物蛍光体;特開昭60−141783号、同60−157100号に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属ハロ燐酸塩蛍光体;特開昭60−157099号に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属ハロホウ酸塩蛍光体;特開昭60−217354号に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属水素化ハロゲン化物蛍光体;特開昭61−21173号、同61−21182号に記載のセリウム賦活希土類複合ハロゲン化物蛍光体;特開昭61−40390号に記載のセリウム賦活希土類ハロ燐酸塩蛍光体;特開昭60−78151号に記載の2価のユーロピウム賦活ハロゲン化セリウム・ルビジウム蛍光体;特開昭60−78151号に記載の2価のユーロピウム賦活複合ハロゲン化物蛍光体、等が挙げられ、中でも、沃素を含有する2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体、沃素を含有する希土類元素賦活オキシハロゲン化物蛍光体及び沃素を含有するビスマス賦活アルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体は高輝度の輝尽発光を示す。
【0057】
特に好ましい輝尽性蛍光体の組成としては、
一般式Ba1-x(M2xFBry1-y:aM1,bLn,cO
〔式中、M1:Li、Na、K、Rb及びCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属原子、M2:Be、Mg、Sr及びCaから選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属原子、Ln:Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Tm、Dy、Ho、Nd、Er及びYbから選ばれる少なくとも一種の希土類元素、x、y、a、b及びcは、それぞれ0≦x≦0.3、0<y≦0.3、0≦a≦0.05、0<b≦0.2,0<c≦0.1の範囲の数値を表す。〕
または、
一般式M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA
〔式中、M1はLi、Na、K、Rb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子であり、M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNiの各原子から選ばれる少なくとも1種の二価の金属原子であり、M3はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価の金属原子であり、X、X′、X″は各々F、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲンで原子であり、Aは、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgから選ばれる少なくとも1種の金属原子であり、また、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の範囲の数値を表す。〕
輝尽性蛍光体プレートに用いられる支持体としては、各種高分子材料、ガラス、金属等が用いられる。特に情報記録材料としての取り扱い上可撓性のあるシートあるいはウェブに加工できるものが好適であり、この点からいえばセルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、アルミニウム、鉄、銅、クロム等の金属シートあるいは該金属酸化物の被覆層を有する金属シートが好ましい。また、これら支持体の膜厚は用いる支持体の材質等によって異なるが、一般的には80〜1000μmであり、取り扱い上の点から、さらに好ましくは80〜500μmである。これらの支持体の表面は滑面であってもよいし、輝尽性蛍光体層との接着性を向上させる目的でマット面としても良い。
【0058】
更に、これら支持体は、輝尽性蛍光体層との接着性を向上させる目的で輝尽性蛍光体層が設けられる面に下引層を設けても良い。
【0059】
輝尽性蛍光体プレートに設ける保護層としては、ポリエステルフィルム、ポリメタクリレートフィルム、ニトロセルロースフィルム、セルロースアセテートフィルム等が使用できるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルム等の延伸加工されたフィルムが、透明性、強さの面で保護層として好ましく、更には、これらのポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルム上に金属酸化物、窒化珪素などの薄膜を蒸着した蒸着フィルムが防湿性の面からより好ましい。
【0060】
前記保護層に用いるフィルムは、必要とされる防湿性に合わせて、樹脂フィルムや樹脂フィルムに金属酸化物などを蒸着した蒸着フィルムを複数枚積層することで最適な防湿性とすることができ、蛍光体の吸湿劣化防止を考慮して、透湿度は少なくとも50g/m2・day以下であることが好ましい。樹脂フィルムの積層方法としては、特に制限はなく、公知のいずれの方法を用いても良い。
【0061】
また、積層された樹脂フィルム間に励起光吸収層を設けることによって、励起光吸収層が物理的な衝撃や化学的な変質から保護され安定したプレート性能が長期間維持でき好ましい。又、励起光吸収層は複数箇所設けてもよいし、積層する為の接着剤層に色剤を含有して、励起光吸収層としても良い。
【0062】
保護層は、蛍光体層に接着層を介して密着していても良いが、蛍光体面を被覆するように設けられた構造(以下、封止又は封止構造ともいう)であることがより好ましい。蛍光体面を封止するに当たっては、公知のいずれの方法でもよいが、防湿性保護フィルムの蛍光体面に接する側の最外層樹脂層を熱融着性を有する樹脂フィルムとすることは、防湿性保護フィルムが融着可能となり放射線画像変換パネルの封止作業が効率化される点で、好ましい形態の1つである。尚、上記熱融着性を有する樹脂フィルムとは、一般に使用されるインパルスシーラーで融着可能な樹脂フィルムのことであり、例えば、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)やポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム等を挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
更には、輝尽性蛍光体プレートの上下に防湿性保護フィルムを配置し、その周縁が前記パネルの周縁より外側にある領域で、上下の防湿性保護フィルムをインパルスシーラー等で加熱、融着して封止構造とすることで、前記プレートの外周部からの水分進入も阻止でき好ましい。又、支持体面側の防湿性保護フィルムを1層以上のアルミフィルムをラミネートしてなる積層フィルムとすることで、より確実に水分の進入を低減でき、又この封止方法は作業的にも容易であり好ましい。上記インパルスシーラーで加熱融着する方法においては、減圧環境下で加熱融着することが、プレートの防湿性保護フィルム内での位置ずれ防止や大気中の湿気を排除する意味でより好ましい。
【0064】
防湿性保護フィルムの蛍光体面が接する側の熱融着性を有する最外層の樹脂層と蛍光体面は、接着していても接着していなくてもかまわない。ここでいう接着していない状態とは、微視的には蛍光体面と防湿性保護フィルムとが点接触していても、光学的、力学的には殆ど蛍光体面と防湿性保護フィルムは不連続体として扱える状態のことである。
【0065】
以上、本発明で作製できる放射線画像変換パネルの利用例として、FPDと輝尽性蛍光体プレートについて示したが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。他の利用例としては、従来の蛍光増感紙と放射線写真フィルムを組み合わせた所謂スクリーンフィルムシステムに用いる蛍光増感紙等が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0067】
以下、フラットパネル型のデジタル放射線検出装置(FPD)を用いた実施例を説明する。
【0068】
実施例1
《放射線検出装置の作製》
(放射線検出装置1の作製:本発明)
厚さ1.0mmの無アルカリガラス基板上の非晶質シリコンから成る半導体薄膜上に、フォトダイオードとTFTからなる光電変換素子を形成し、その上にSiNxよりなる保護膜を形成して光検出器を作製した。
【0069】
成膜前に200℃のガス雰囲気下で加熱処理した粒度分布0.1〜1μm、平均粒径0.5μmの(Y,Gd,Eu)23の蛍光体粒子をエアロゾル化室に充填し、キャリアガスとして流速600m/sのN2ガスを用い、チャンバーの真空度は100Pa、基板温度を20℃として、厚さ1mmのステンレス製支持基板に板吹を吹き付けるて200μmの成膜を行った。更に、蛍光体層及び基板と光検出器を、アクリル系接着剤(協立化学社製;商品名ワールドロックNO.XSG−5)により接合することで放射線検出装置1を作製した。
【0070】
実施例2〜5
成膜前のガス雰囲気下で蛍光体粒子を加熱処理する温度を表1に示す温度、キャリアーガスの流速を表1に示す流速を替えた以外は実施例1と同様にして放射線検出装置2〜5作製した。
【0071】
蛍光体粒子
実施例6
(放射線検出装置6の作製:比較例)
上記放射線検出装置1の作製と同様にして光検出器を作製した。
【0072】
粒度分布0.1〜1μm、平均粒径0.5μmの(Y,Gd,Eu)23の蛍光体粒子をエアロゾル化室に充填し、キャリアガスとして流速600m/sのHeガスを用い、チャンバーの真空度は100Paとして、厚さ1mmのステンレス製支持基板に吹きつけて200μmの成膜を試みた。更に、蛍光体層及び基板と光検出器をアクリル系接着剤(協立化学社製;商品名ワールドロックNO.XSG−5)により接合することで放射線検出装置6を作製した。
【0073】
《放射線検出装置の評価》
各放射線検出装置について、鮮鋭度を測定し、得られた結果を表1に示す。
感度測定は、厚さ100mmの水ファントムを通して、管電圧100kVのX線で撮影した時の値であり、比較例である放射線検出装置6の感度を1とした相対感度で表示した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、本発明が比較に比して優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の放射線画像変換パネルの製造方法によって製造された放射線画像変換パネルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の放射線画像変換パネルの製造方法に使用するエアロゾル・デポジション成膜装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1 製造放置
11 ノズル
12 蛍光体塗膜形成用基板
13 基板ホルダー
14 XYZθステージ
15 配管
16 チャンバー
17 エアロゾル化室
18 蛍光体微粒子
19 高圧ガスボンベ
20 振動撹拌
21 搬送ガス配管
22 基板
23 画素
24 保護層
25 光検出器
26 蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を可視光に変換する蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造法において、該蛍光体層がエアロゾル化室内に充填する前に加熱処理を施した蛍光体原料粒子を基板に高流速のキャリアガスで衝突させて堆積する成膜法(ガスデポジション成膜法(エアロゾル・デポジション成膜法、AD成膜法))を用いて成膜されることを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項2】
加熱処理を300〜1600℃のガス雰囲気下で実施することを特徴とする請求項1に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項3】
キャリアガスの流速が100〜400m/secであることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法に使用する放射線画像変換パネルの製造装置が、エアロゾル化室内に充填する前に蛍光体原料粒子を加熱処理手段を有するエアロゾル・デポジション法による成膜装置(エアロゾル・デポジション成膜装置、AD成膜装置)であることを特徴とする放射線画像変換パネルの製造装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法で得られることを特徴とする放射線画像変換パネル。
【請求項6】
請求項4に記載の放射線画像変換パネルの製造装置で得られることを特徴とする放射線画像変換パネル。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の放射線画像変換パネルを用いて放射線を検知することを特徴とする放射線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−292635(P2007−292635A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121809(P2006−121809)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】