説明

放水継手

【課題】加圧消火用水を急速充水しても、弁体が開かないようにして、誤放水を確実に防止する。
【解決手段】1次ポート14から第1シリンダ室26に消火用水を充水加圧した際に、ピストン24を第2シリンダ室28側に第2リフト量L2だけ移動させて感熱ポート38の閉鎖部位にプランジャ45を当接し、弁体34の動きを開放に必要な第1リフト量L1を超えないようし、2次ポート18からの誤放水を防止する。オリフィス連通路30により第2シリンダ室28の充水加圧が完了するとピストン24は初期位置に戻る。感熱分解部44の熱分解で感熱ポート38が開放されると、プランジャ45の位置規制が解除され、ピストン24は第1リフト量L1を超えて移動して弁体34は連通路32を開いて開放型ヘッド20から放水させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱部を備え、感熱部の差動で別に接続されたヘッドから放水する放水継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、散水の妨げとなる天井の梁など障害物等がある部分にヘッドを設置する場合には、感熱部を備えたヘッド接続用の放水継手を用いるようにしている。
【0003】
図11は従来の放水継手の一例を示す。図11において、放水継手の本体100には、配管連結口となる1次ポート102、ヘッド連結口となる2次ポート104、感熱分解部106を取り付けた感熱ポート108が設けられ、本体100内の1次ポート102と2次ポート104をつなぐ連通口110の位置に弁体112を設け、弁体112には小孔114が設けられている。
【0004】
この放水継手は設置状態で1次ポート102に加圧された消火用水が配管接続により充水され、更に、弁体112の小孔114を通って感熱ポート108側にも消火用水が充水され、この1次側の充水による押圧で弁体112を閉鎖位置に保持している。
【0005】
火災による熱気流を受けて感熱分解部106が熱分解すると、感熱ポート108が開放され、弁体112がリフトして連通口110を開き、1次ポート102から2次ポート104に消火用水を流し、2次ポートに配管接続された開放型の散水用ヘッドから放水する。
【特許文献1】特開2002−306626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の放水継手にあっては、放水継手の設置工事が済んで最初に放水継手の1次ポートに加圧された消火用水を充水する際に、ゆっくりと加圧された消火用水を充水しないと、弁体が一時的に開いて2次ポート側に流水し、2次ポートに接続している開放型のヘッドから消火用水を誤放水してしまう問題がある。
【0007】
この放水継手の誤放水は、図11の放水継手について説明すると、1次ポート102に加圧消火用水を急速に充水すると、小孔114を通った感熱ポート108側の充水が遅れ、1次ポート102の急速充水による加圧を受けて弁体112がリフトし、2次ポート104に消火用水を一時的に流出してしまう。
【0008】
本発明は、加圧消火用水を急速充水しても、弁体が開かないようにして、誤放水を確実に防止する放水継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は放水継手を提供する。本発明の放水継手は、
弁本体の軸方向に形成されたシリンダと、
シリンダに摺動自在に配置され、シリンダを第1シリンダ室と第2シリンダ室に仕切るピストンと、
第1シリンダ室と第2シリンダ室を連通するオリフィス連通路と、
第1シリンダ室に連通して加圧消火用水を供給する1次ポートと、
第1シリンダ室側に位置し、散水用ヘッドが接続される2次ポートと、
第2シリンダ室に連通する感熱ポートと、
感熱ポートに装着して閉鎖し、熱気流を受けた際に分解して感熱ポートを開放する感熱分解部と、
ピストンの第1シリンダ室側に形成され、1次ポートと2次ポートを連通する流路を閉鎖する位置に設けられ、ピストンが第2シリンダ室側に第1リフト量(L1)を超えて移動した際に1次ポートと2次ポートを連通する流路を開放する弁体と、
ピストンの第2シリンダ室側に形成され、感熱ポートの閉鎖状態では弁体を閉鎖位置から第1リフト量(L1)より小さい第2リフト量(L2)だけ移動可能に規制し、感熱ポートが開放された際に、第1リフト量(L1)を超えて移動して弁体を開放させるプランジャと、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明による別の形態の放水継手は、
弁本体の軸方向に形成されたシリンダと、
シリンダに摺動自在に配置され、シリンダを第1シリンダ室と第2シリンダ室に仕切るピストンと、
第1シリンダ室に連通して加圧消火用水を供給する1次ポートと、
第1シリンダ室に連通して、散水用ヘッドが接続される2次ポートと、
第2シリンダ室に連通する感熱ポートと、
1次ポートと第2シリンダ室を連通するオリフィス連通路と、
感熱ポートに装着して閉鎖し、熱気流を受けた際に分解して感熱ポートを開放する感熱分解部と、
ピストンの第1シリンダ室側に同軸に形成され、1次ポートと2次ポートを連通する流路を閉鎖する位置に設けられ、ピストンが第2シリンダ室側に第1リフト量(L1)を超えて移動した際に1次ポートと2次ポートを連通する流路を開放する弁体と、
ピストンの第2シリンダ室側に同軸に一体形成され、弁体の閉鎖位置で感熱ポートの閉鎖部位に対し第1リフト量(L1)より小さい第2リフト量(L2)を介して先端を位置し、1次ポートから第1シリンダ室に消火用水を充水加圧した際に、ピストンを第2シリンダ室側に第2リフト量(L2)だけ移動して感熱ポートの閉鎖部位に当接した後にオリフィス連通路による第2シリンダ室の充水加圧で初期位置に戻し、感熱ポートが開放された際に、第1リフト量(L1)を超えて移動して弁体を開放させるプランジャと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加圧された消火用水を急速充水した場合、1次ポート側の第1シリンダ室も急速充水されることで、ピストンを第2シリンダ室側に移動するが、ピストンの第2シリンダ室側に一体に設けたプランジャの先端が、弁体の開放に必要な第1リフト量(L1)より小さい第2リフト量(L2)だけ移動すると、プランジャ先端が感熱ポートの閉鎖部位に当接して停止し、充水で弁体が移動しても、弁体が流路を開放するに必要な第1リフト量(L1)より小さい移動量に規制される。
【0012】
このため、本発明による放水継手に加圧された消火用水を急速充水しても、弁体は流路を開くことがなく、2次ポート側からの誤放水を確実に防止でき、本発明の放水継手を使用した施工工事のスピードアップを図ることができる。
【0013】
また、プランジャが感熱ポートの閉鎖部位を常時押圧しているわけではないから、閉鎖部位を変形させたり、感熱ポートを強制的に開放してしまうなとの悪影響をおよぼすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明による放水継手の実施形態を示した断面図である。図1において、放水継手10は継手本体12の軸方向にシリンダ22を形成しており、シリンダ22の内部にOリング25を備えたピストン24を摺動自在に設け、ピストン24の上側に第1シリンダ室26を形成し、下側に第2シリンダ室28を形成している。ピストン24には第1シリンダ室26側と第2シリンダ室28側を連通するオリフィス連通路30が設けられている。
【0015】
継手本体12の第1シリンダ室26に相対した位置には1次ポート14が設けられ、消火ポンプ設備からの給水配管16を接続し、加圧された消火用水の供給を受けるようにしている。また第1シリンダ室26の端部に位置して2次ポート18が設けられ、2次ポート18に対してはヘッド配管21を介して散水用ヘッドであるヘッド20が接続される。
【0016】
第1シリンダ室26と2次ポート18を連通する連通路32に対しては、ピストン24と同軸に一体形成された弁体34が設けられ、弁体34にはOリング36が装着され、連通路32に初期位置で収納されることで、第1シリンダ室26を介して1次ポート14と2次ポート18を切り離した閉鎖状態としている。
【0017】
弁体34はピストン24の下方への移動により連通路32を開くが、連通路32を開くためにはOリング36の中心から連通路32の第1シリンダ室26側の開口部までの距離である第1リフト量L1以上の移動が必要である。
【0018】
継手本体12の第2シリンダ室28側の端部には、Oリング42を装着した連結部材40が装着され、ここに感熱ポート38を形成している。感熱ポート38に対しては感熱分解部44が取り付けられて、感熱ポート38を閉鎖状態としている。
【0019】
感熱分解部44としては閉鎖型ヘッドを使用することができる。閉鎖型ヘッドは弁体48により感熱ポート38を閉鎖しており、弁体48はその下側に組み込まれた感熱分解機構により支持され、熱気流を受けると感熱分解部44が分解し、弁体48を含む感熱機構側を落下させ、感熱ポート38を開放する。
【0020】
感熱ポート38に対してはピストン24と同軸に一体形成されたプランジャ45が配置されている。ピストン24と一体に形成されたプランジャ45は、連結部材40の軸穴を通って感熱ポート38に先端が位置し、プランジャ45の先端と感熱分解部44に設けた弁体48の閉鎖端部との間に、第2リフト量L2のクリアランスを初期状態で設定している。
【0021】
ここで、弁体34を開放するための第1リフト量L1に対し第2リフト量L2は小さい関係にある。即ち
L1>L2
となっている。
【0022】
このため、ピストン24が感熱ポート38側に移動してプランジャ45の先端が感熱分解部44のヘッド弁体48に当接して移動を規制されるリフト量L2だけ移動したとしても、弁体34を開放するための第1リフト量L1を超えないことから、ピストン24が下方に動いても弁体34は開くことがない。
【0023】
一方、感熱分解部44が熱気流を受けて分解して感熱ポート38が開放されると、即ち弁体48が外れると、プランジャ45は感熱ポート38を形成する連結部材40の開口部を通って外側に露出し、これに伴い弁体34は、第1リフト量L1を超える下方への移動となることで連通路32を開放し、1次ポート14と2次ポート18を連通させることができる。
【0024】
図2は図1の感熱分解部44を取り出して示した断面図である。図2において、感熱分解部44はヘッド本体46を有し、ヘッド本体46の上部に放水穴を備えた接続ネジ部によって連結部材40に固定している。ヘッド本体46を貫通する放水穴にはヘッド弁体48が収納配置され、ヘッド弁体48の下に感熱作動機構を設けて閉鎖位置に支持している。
【0025】
感熱作動機構は、ヘッド弁体48を固着したデフレクター50を配置し、更にサドル52を設けている。デフレクター50の周縁は上方に屈曲され、ガイドリング51を介してヘッド本体46側との間にスプリング53を入れている。サドル52の下方には一対のレバー54の上部の屈曲部の先端が当接している。一対のレバー54の上部の間には支持板56が組み込まれている。この支持板56は中央に止ネジ66を装着すると共に左右の係止溝に外側からレバー54が入っている。
【0026】
支持板56の下側にはシリンダ58が配置され、シリンダ58の中に低温ハンダ60を介してプランジャ62の先端が位置している。プランジャ62は下側の段部に両側から一対の天秤64の先端を係合しており、天秤64の外側はレバー54の下側の開口部に嵌め込まれている。シリンダ58の上部となる支持板56のネジ穴には止ネジ66がねじ込まれ、シリンダ58の端面に形成したザグリ穴を押接している。プランジャ62の下側にはネジ68によりキャップ状の集熱板70が固着されている。
【0027】
更に、ガイドピン72がヘッド本体46側から複数本下げられており、ガイドピン72にはデフレクター50が摺動自在に嵌め込まれている。上部のヘッド弁体48から下部の集熱板70まで至る機構構造は、フレーム74のヘッド本体46の下部に対するねじ込みで組込固定される。
【0028】
このフレーム74のヘッド本体46による組立荷重によりサドル52に先端を当接したレバー54には、組立荷重が作用し、レバー54は外側に開こうとする回転モーメントを受けており、この回転モーメントはプランジャ62に係止された天秤64により阻止されている。
【0029】
図3は図1の実施形態に加圧消火用水を急速充水した際の動作を示した説明図である。図1に示した放水継手の設置工事が完了すると、消火ポンプ設備を起動して配管に加圧消火用水を供給し、このとき本実施形態の放水継手については、消火用水を急速充水しても開放型ヘッドから誤放水を起こすことがない。
【0030】
図3において、放水継手10の1次ポート14に給水配管16から加圧消火用水を矢印Aのように急速充水すると、消火用水は第1シリンダ室26に急速充水される。このためピストン24が急速充水による加圧を受けて下方に矢印Cに示すように移動する。
【0031】
しかしながら、プランジャ45の先端が図1に示した第2リフト量L2だけ移動した位置で感熱ポート38を閉鎖している感熱分解部44のヘッド弁体48に当接して移動が規制され、これによって消火用水の急速充水でピストン24の移動に伴い弁体34が開放側に移動しても、図1に示した弁体34の開放に必要な第1リフト量L1より少ない第2リフト量L2しか移動しないため、連通路32は開放されずに閉鎖状態を維持している。
【0032】
このため、本実施形態の放水継手10に加圧消火用水を急速充水して、ピストン24に伴い弁体34が開放側に移動しても、連通路32は開くことがなく、2次ポート18にヘッド配管22により接続している開放型ヘッド20から誤放水してしまうことを確実に防止できる。
【0033】
また、プランジャ45が弁体48を開放方向に常時押圧している訳ではないので、感熱分解部44を破壊するような悪影響を及ぼすことがない。
【0034】
このような消火用水の急速充水の状態にあっては、第1シリンダ室26が充水されてピストン24が開放側に動くと、その後ピストン24に形成しているオリフィス連通路30を通って第2シリンダ室28に消火用水が徐々に充水され、第2シリンダ室28の充水が完了すると、図4に示すように、ピストン24の両側に位置する第1シリンダ室26と第2シリンダ室28の圧力は同じになるため、ピストン24を開放方向に移動する力がなくなり、第1シリンダ室26の充水による力を受けて弁体34が閉鎖側に押し戻され、図1と同じ充水前の初期状態に戻って弁体34は連通路32の閉鎖状態を維持する。
【0035】
図4に示す通常の監視状態で火災による熱気流を感熱分解部44で受けると、内蔵した感熱分解機構が熱分解し、ヘッド弁体48を離脱させて感熱ポート38を開放する。
【0036】
熱気流を受けた際の感熱分解部の動作は次のようになる。感熱分解部は火災時の熱気流を集熱板70で受け、このため低温ハンダ60が溶融温度に達して溶けるとプランジャ62が上方に移動し、シリンダ58とプランジャ62による天秤の係止が解除される。天秤64が外れるとレバー54の係止も解除され、天秤64及びレバー54が外れて落下し、これに伴いサドル52により下側の部材はすべて落下する。
【0037】
このようにして熱分解作動が行われると、サドル52により上部に支持されていたデフレクター50がスプリング53の力で落下し、図5に示すように、ガイドピン72の先端位置に保持される。同時にヘッド弁体48も落下し、感熱ポート38が開放される。
【0038】
感熱ポート38が開放されると、ピストン24は第1シリンダ室26に対する加圧充水の力を受けて下方側に移動し、プランジャ45の規制が感熱ポート38の開放で解除されているため、プランジャ45は感熱ポート38から突出する位置に移動し、このため弁体34は図1に示した第1リフト量L1を超えて移動し、これによって連通路32を開いて1次ポート14から2次ポート18に消火用水を流し、ヘッド配管22により接続している開放型ヘッド20から放水させる。
【0039】
図6は本発明による放水継手の他の実施形態を示した断面図であり、この実施形態にあっては、図の実施形態における1次ポート14と2次ポート18の関係を逆にし、また感熱分解部44としてグラスバルブを備えた閉鎖型ヘッドを使用したことを特徴とする。
【0040】
図6において、放水継手10は継手本体12の軸方向にシリンダ22を形成しており、シリンダ22にはピストン24がOリング25の装着で挿入され、下側の第1シリンダ室26と上側の第2シリンダ室28に仕切っている。
【0041】
継手本体12の第1シリンダ室26側の軸端には、給水配管16の接続により加圧消火用水の供給を受ける1次ポート14が形成され、1次ポート14と第1シリンダ室26との間に設けた連通路32に、ピストン24と同軸に一体に設けた弁体34をOリング36の装着で収納して閉鎖状態としている。
【0042】
継手本体12の第1シリンダ室26に相対した側方には2次ポート18が形成され、2次ポート18にはヘッド配管21を介して開放型ヘッド20が接続される。
【0043】
継手本体12の第2シリンダ室28側の端部には、Oリング42を装着した連結部材40の取付けにより感熱ポート38が形成され、感熱ポート38には感熱分解部44が取り付けられて閉鎖状態としている。感熱ポート38に対しては、ピストン24と同軸に一体形成されたプランジャ45の先端が配置されている。
【0044】
更に弁体34及びプランジャ45を一体に備えたピストン24には、1次ポート14に連通する軸端から第2シリンダ室28の開放部分に向けてオリフィス連通路75が形成されている。
【0045】
ここでピストン24に一体形成した弁体34により連通路32を開放するためには、弁体34を図示の閉鎖位置からOリング36が、第1シリンダ室26の開口端までの距離である第1リフト量L1以上移動する必要がある。
【0046】
一方、感熱ポート38に位置するプランジャ45の先端と感熱分解部44で感熱ポート38を閉鎖しているヘッド弁体82の当接面との間にはリフト量L2が設定されている。ここで、第1リフト量L1に対し第2リフト量L2が小さい関係、即ち
L1>L2
の関係に設定されている。
【0047】
このため、ピストン24が感熱ポート38側にヘッド弁体82に当接する位置である第2リフト量L2だけ移動しても、弁体34は開放に必要な第1リフト量L1を超える動きがないことから、連通路32の閉鎖状態を維持できるようにしている。
【0048】
感熱ポート38に設けた感熱分解部44として、この実施形態にあっては、グラスバルブ80を使用した閉鎖型ヘッドを取り付けている。感熱分解部44は、感熱ポート38を形成する連結部材40のネジ穴に対し、ヘッド本体36の取付けネジ部78をねじ込んで取り付けており、先端側に組み込んだ止ネジ86のねじ込みにより、ワッシャ84を介して配置したヘッド弁体82との間に配置したグラスバルブ80を締め付け固定している。またヘッド本体76の先端側には集熱板88が取り付けられている。
【0049】
図7は図6の感熱分解部44におけるワッシャ締付け前の状態を取り出して示した断面図である。図7において、ヘッド本体76にグラスバルブ80を介してヘッド弁体82を閉鎖状態に組み付ける際には、間にワッシャ84を配置している。
【0050】
ワッシャ84は締付け前の初期状態で断面がテーパ状に形成されたスラストワッシャを使用しており、この状態でグラスバルブ80を介して止ネジ86を締め込むことで、ヘッド本体82に押されてワッシャ84は図6に示すように扁平な状態となって組み込まれているが、初期状態における断面テーパ状のスラスト形状により、組込状態で常にヘッド弁体82をグラスバルブ80側に押圧する変形応力を発生している。
【0051】
このようなスラスト構造を持つワッシャ84を使用したグラスバルブ80によるヘッド弁体82の固定構造にあっては、例えばプランジャ45がヘッド弁体82に衝突する衝撃が加わったとしても、ワッシャ84の変形応力による反発力で密閉固定構造に隙間が生ずるようなことはなく、ヘッド弁体82に衝撃を受けても、感熱ポート38の密閉閉鎖状態を、水漏れを起こすことなく維持することが可能である。即ち本実施形態の感熱分解部44に使用する閉鎖型ヘッドとしては、組付け閉鎖状態で外部から衝撃が加わっても、衝撃による機械的な変形で水漏れを起こさないような例えば図7に示すようなスラスト力を発生するワッシャ84などを用いた構造とすることが望ましい。
【0052】
この点は図2に示した感熱分解部44を構成する閉鎖型ヘッドについても同様であり、ヘッド本体48にプランジャ45の当接などによる衝撃が加わって軸方向に動いても、Oリング55によりヘッド弁体48の軸方向に動きに対しても密封性が保持され、機械的な衝撃が加わっても水漏れを起こしてしまうことはない。
【0053】
図8は図6の実施形態に加圧消火用水を急速充水した際の動作を示した説明図である。図8において、放水継手10の設置工事が完了した後に、消火ポンプ設備から加圧消火用水を放水継手10に対し給水配管16を介して供給することで急速充水を行う。この急速充水により、矢印Aに示すように1次ポート14に消火用水が急速充水され、これを受けて弁体34が開放側に押され、一体に形成しているプランジャ45が矢印Cのように移動して、感熱分解部44のヘッド本体82に当接する。
【0054】
このプランジャ45がヘッド本体82に当接するまでの図6に示した第2リフト量L2は、同じく図6に示している弁体34を開放するために必要な第1リフト量L1より小さいため、図8に示すように弁体34のOリング36は連通路32に位置して閉鎖状態を維持している。
【0055】
このため図6の実施形態にあっても、加圧消火用水を急速充水しても弁体34の開放は行われず、2次ポート18に接続している開放ヘッド20から誤放水してしまうことを確実に防止できる。
【0056】
図8で1次ポート14に加圧消火用水の給水が行われ、弁体34及びプランジャ45を一体に備えたピストン24を開放側に第2リフト量L2だけ移動させた状態では、1次ポート14からピストン24の内部のオリフィス連通路75を通って消火用水が第2シリンダ室28に流れ込み、第2シリンダ室28が徐々に充水される。
【0057】
図9は図8に続いて、オリフィス連通路75を介して第2シリンダ室28の充水が完了した状態の動作を示している。図9にあっては、オリフィス連通路75からの加圧消火用水の供給で第2シリンダ室28の充水が完了すると、第2シリンダ室28の充水完了による圧力を受けて、ピストン24が閉鎖側に戻り、弁体34及びプランジャ45は、図6に示した初期位置に戻り、1次ポート14と2次ポート18を切り離した閉鎖状態を維持することになる。
【0058】
図10は図9の監視状態で感熱分解部44が分解して放水する動作を示した説明図である。図9の状態で感熱分解部44が火災による熱気流を受けると、グラスバルブ80の中に充填しているアルコール溶液が沸騰膨張してグラスバルブ80を破壊し、ヘッド弁体82の保持が解除されて離脱し、これによって感熱ポート38を開放する。
【0059】
感熱ポート38が開放すると、図10に示すように、1次ポート14からの加圧消火用水に押されてピストン24が開放側に移動し、このとき感熱分解部44による感熱ポート38の閉鎖状態は解除されているため、プランジャ45は感熱ポート38を貫通して外側に飛び出す図6に示した弁体34の開放に必要な第1リフト量L1を超えるように移動する。
【0060】
これによって弁体34が連通路32から離脱し、1次ポート14と2次ポート18を連通し、ヘッド配管21で接続した開放型ヘッド20から放水することになる。
【0061】
ここで図1及び図6に示した本実施形態の放水継手10にあっては、開放型ヘッド20を設置する場所に熱気流を直接受けるには不十分な障害物がある場合に使用され、開放型ヘッド20の障害物に近い設置場所から離れた熱気流を適切に受ける位置に放水継手10の感熱分解部44が位置するように設置し、離れた位置にある開放型ヘッド20についてはヘッド配管21を介して連結することで、適切な熱気流の感知位置と開放型ヘッド20による放水位置とを分離した設置を可能としている。また設置場所によっては、図1のように感熱分解部44を下向きとした設置、あるいは図6のように感熱分解部44を上向きとした設置が、必要に応じて適宜に選択できる。
【0062】
また給水配管16とヘッド配管21の設置関係から、図1に示すように1次ポート14を横方向、2次ポート18を縦方向、または図6のように1次ポート14を縦方向、2次ポート18を横方向とした適宜の設置方向も必要に応じて対応できる。放水継手と閉鎖型ヘッドを一体化しても良い。
【0063】
設置方向は図1、図6とも任意でよく、例えば図1においては感熱ボート、2次ポートを横向きにして1次ポートを下にしても良い。設置場所によっては、開放型ヘッドは二次ポートに直接接続しても良い。
【0064】
なお上記の実施形態にあっては、設備運用開始時における消火用水の急速充水で移動するプランジャの当接による衝撃に受けても水漏れを起こすことのない、例えば図2あるいは図7に示した構造の閉鎖型ヘッドを感熱分解部44として使用した場合を例にとっているが、同様に外部からの衝撃に対し水漏れを起こさない構造であれば、適宜の構造の閉鎖型ヘッドを本実施形態にそのまま適用することができる。
【0065】
また感熱分解部44としては閉鎖型ヘッドに限定されず、放水継手専用の感熱分解部を構成するようにしてもよいことはもちろんである。
【0066】
図1において、第1シリンダ室と第2シリンダ室の連通は、ピストン24に設けたオリフィス連通路30で構成したが、これに限らず、ピストン24のOリング25を取り外して、ピストン24し組立体12の間のすきまで形成しても良い。もしくは、組立本体12内に連通路を形成するようしても良い。図6も同様にオリフィス連通路75を継手本体12側に形成しても良い。
【0067】
開放型ヘッドは泡ヘッドであっても良い。プランジャ45は感熱分解部として取り下げられるヘッドに応じて第2リフト量L2を調整できるように長さを変更できるようにしても良い。
【0068】
また本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含む。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明による放水継手の実施形態を示した断面図
【図2】図1の感熱分解部を取り出して示した断面図
【図3】図1の実施形態の第1シリンダ室に加圧消火用水を急速充水した際の動作を示した説明図
【図4】図3に続いてオリフィス連通路を介して第2シリンダ室に充水が完了した状態の動作を示した説明図
【図5】図4の状態で感熱分解部が分解して放水する動作を示した説明図
【図6】本発明による放水継手の他の実施形態を示した断面図
【図7】図6の感熱分解部にワッシャ締め付け前の状態を取り出して示した断面図
【図8】図6の実施形態の第1シリンダ室に加圧消火用水を急速充水した際の動作を示した説明図
【図9】図8に続いてオリフィス連通路を介して第2シリンダ室に充水が完了した状態の動作を示した説明図
【図10】図9の状態で感熱分解部が分解して放水する動作を示した説明図
【図11】従来の放水継手を示した断面図
【符号の説明】
【0070】
10:放水継手
12:継手本体
14:1次ポート
16:給水配管
18:2次ポート
20:開放型ヘッド
21:ヘッド配管
22:シリンダ
24:ピストン
25,36,42,55:0リング
26:第1シリンダ室
28:第2シリンダ室
30,75:オリフィス連通路
32:連通路
34:弁体
38:感熱ポート
40:連結部材
44:感熱分解部
45:プランジャ
46,76:ヘッド本体
48,82:ヘッド弁体
50:デフレクター
52:サドル
54:レバー
56:支持板
58:シリンダ
60:低温ハンダ
62:プランジャ
64:天秤
66,86:止ネジ
68:ネジ
70,88:集熱板
72:ガイドピン
74:フレーム
78:取付ネジ
80:グラスバルブ
84:ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁本体の軸方向に形成されたシリンダと、
前記シリンダに摺動自在に配置され、前記シリンダを第1シリンダ室と第2シリンダ室に仕切るピストンと、
前記第1シリンダ室と第2シリンダ室を連通するオリフィス連通路と、
前記第1シリンダ室に連通して加圧消火用水を供給する1次ポートと、
前記第1シリンダ室側に位置し、散水用ヘッドが接続される2次ポートと、
前記第2シリンダ室に連通する感熱ポートと、
前記感熱ポートに装着して閉鎖し、熱気流を受けた際に分解して前記感熱ポートを開放する感熱分解部と、
前記ピストンの第1シリンダ室側に形成され、前記1次ポートと2次ポートを連通する流路を閉鎖する位置に設けられ、前記ピストンが第2シリンダ室側に第1リフト量を超えて移動した際に前記1次ポートと2次ポートを連通する流路を開放する弁体と、
前記ピストンの第2シリンダ室側に形成され、前記感熱ポートの閉鎖状態では前記弁体を閉鎖位置から前記第1リフト量より小さい第2リフト量だけ移動可能に規制し、前記感熱ポートが開放された際に、前記第1リフト量を超えて移動して前記弁体を開放させるプランジャと、
を備えたことを特徴とする放水継手。
【請求項2】
弁本体の軸方向に形成されたシリンダと、
前記シリンダに摺動自在に配置され、前記シリンダを第1シリンダ室と第2シリンダ室に仕切るピストンと、
前記第1シリンダ室に連通して加圧消火用水を供給する1次ポートと、
前記第1シリンダ室に連通して、散水用ヘッドが接続される2次ポートと、
前記第2シリンダ室に連通する感熱ポートと、
前記1次ポートと前記第2シリンダ室を連通するオリフィス連通路と、
前記感熱ポートに装着して閉鎖し、熱気流を受けた際に分解して前記感熱ポートを開放する感熱分解部と、
前記ピストンの第1シリンダ室側に同軸に形成され、前記1次ポートと2次ポートを連通する流路を閉鎖する位置に設けられ、前記ピストンが第2シリンダ室側に第1リフト量を超えて移動した際に前記1次ポートと2次ポートを連通する流路を開放する弁体と、
前記ピストンの第2シリンダ室側に同軸に一体形成され、前記弁体の閉鎖位置で前記感熱ポートの閉鎖部位に対し前記第1リフト量より小さい第2リフト量を介して先端を位置し、前記1次ポートから前記第1シリンダ室に消火用水を充水加圧した際に、前記ピストンを第2シリンダ室側に前記第2リフト量だけ移動して前記感熱ポートの閉鎖部位に当接した後に前記オリフィス連通路による第2シリンダ室の充水加圧で初期位置に戻し、前記感熱ポートが開放された際に、前記第1リフト量を超えて移動して前記弁体を開放させるプランジャと、
を備えたことを特徴とする放水継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−112485(P2009−112485A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288089(P2007−288089)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【出願人】(591274129)アイエススプリンクラー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】