説明

放熱シート

【課題】放熱性、高温下での寸法安定性に優れた放熱シートを提供することである。
【解決手段】放熱フィラーを含有した、下記一般式(I)で表されるイミド変性エラストマーからなる放熱シートである。
【化9】


[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパソコン、携帯電話に搭載される大規模集積回路(LSI)等の電子部品、プラズマディスプレーパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)等を用いた表示装置、白熱電球、蛍光灯等を用いた照明器具等から発生する熱を効率よく外部に放熱するために使用される放熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、高性能化、多機能化が進む電子機器に使用されるマイクロプロセッサー(MPU)、画像処理チップ、メモリー等のLSIは、高性能化が進み、それに伴い発熱量も増加している。このため、LSI等の電子部品では、発熱に伴う電子部品の冷却が、熱による誤作動等を防止するうえで重要になっている。この問題は、前記した表示装置や照明器具等においても同様に存在する。
【0003】
冷却方法としては、パーツ配置の最適化、金属製のヒートシンクや小型ファンモーター等の放熱器の利用等が挙げられる。ところが、ノート型パソコン、携帯電話等の薄型、小型化および軽量化等が求められる電子機器では、該電子機器内における電子部品の実装密度が飛躍的に高くなっており、限られた空間内における占有体積の問題から前記した放熱器等の利用が困難な場合がある。このような場合には、電子部品の表面に放熱性が付与されたシート、グリース、塗料等を配置し、発生した熱をこれらへ熱伝導させて放熱する方法がとられる。
【0004】
例えば特許文献1には、アルミナ等の金属粒子をポリエステル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のバインダー樹脂に結着させた放熱シートが記載されており、かかる放熱シートを電子部品に貼付して、発生した熱を放熱している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているバインダー樹脂は、耐熱性が十分でない。このため、該樹脂を含有する放熱シートは、高温下での寸法安定性が低いという問題がある。すなわち、電子部品等の発熱体表面に配置された放熱シートの耐熱性が十分でない場合には、発熱体が発熱して高温雰囲気下になると、放熱シートが変形してしまう。このように、放熱シートの高温下での寸法安定性が低いと、放熱性が低下するだけでなく、変形した放熱シートが周囲の電子部品と接触してショートを引き起こすおそれがある。
【0006】
上記以外の他の放熱シートとしては、例えばグラファイトシート(例えば特許文献2,3参照)、ポリイミドシート等が挙げられる。これらのシートは耐熱性に優れるので高温下での寸法安定性は高い。また、グラファイトシート単体での熱伝導性は高い。しかし、これらのシートは、一般に、剛性が高く表面が粗いので発熱体との密着性が低く、放熱性が低いという問題がある。すなわち、グラファイトシートやポリイミドシート等からなる放熱シートは、剛性が高く表面が粗いので、このような放熱シートを発熱体に配置すると、発熱体との間に隙間が生じてしまい、十分な接触面積が得られず、放熱性が低くなる。また、グラファイトシートは絶縁性が低く導電性を有するので、周囲の電子部品とショートを引き起こす可能性が高いという問題もある。
【0007】
放熱グリースについては、グリースが流動性を有するため、発熱体の発熱により放熱グリースが発熱体から流出して周辺部を汚染するおそれがある。
放熱塗料については、塗布・乾燥工程が必要となるので、コストが高くなるという問題があり、また狭い部分には塗布し難くい(例えば特許文献4参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2007−048809号公報
【特許文献2】特開2006−303240号公報
【特許文献3】特開2006−321968号公報
【特許文献4】特開2005−001393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、放熱性、高温下での寸法安定性に優れた放熱シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)放熱フィラーを含有した、下記一般式(I)で表されるイミド変性エラストマーからなる放熱シート。
【化2】

[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]
(2)前記イミド変性エラストマーは、ジイソシアナートとポリオールから得た分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体である前記(1)記載の放熱シート。
(3)前記ウレタンプレポリマーの重量平均分子量が300〜50,000である前記(2)記載の放熱シート。
(4)前記イミド変性エラストマーのイミド分率が5〜45重量%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の放熱シート。
(5)前記イミド変性エラストマーの50℃での貯蔵弾性率E’が5×106〜5×108Paである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の放熱シート。
【0011】
(6)発熱体と接する密着性放熱シートと、この密着性放熱シートの表面に積層された耐熱性放熱シートとを備え、前記密着性放熱シートが、前記(1)記載の放熱シートである放熱シート。
(7)前記耐熱性放熱シートが、放熱フィラー含有耐熱性樹脂、金属薄板またはグラファイトシートからなる前記(6)記載の放熱シート。
(8)前記耐熱性樹脂がポリイミド樹脂である前記(7)記載の放熱シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放熱フィラーを含有した放熱シートが、前記一般式(I)で表されるイミド変性エラストマーからなる。このイミド変性エラストマーは、ポリウレタンをエラストマー成分として含有するので、柔軟性に優れる。したがって、該イミド変性エラストマーからなる放熱シートも柔軟性に優れたものになり、電子部品等の発熱体表面の形状によく追従し、隙間なく発熱体表面に密着するので接触面積が大きくなり、優れた放熱性を示すことができる。しかも、前記イミド変性エラストマーは、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるので、高い耐熱性を有する。したがって、該イミド変性エラストマーからなる放熱シートは、高温下での寸法安定性に優れるという効果がある。特に、小型化された電子部品等の冷却に本発明の放熱シートを用いると、本発明の放熱シートの有用性がより向上する。
【0013】
特に、前記(6),(7)によれば、前記(1)記載の放熱シートを発熱体と接する密着性放熱シートとし、この密着性放熱シートの表面に耐熱性放熱シートを積層するので、放熱性を高めることができる。
前記(8)によれば、前記耐熱性放熱シートが、放熱フィラーを含有したポリイミド樹脂からなる。ポリイミド樹脂は、イミド変性エラストマーからなる放熱シートとの親和性が高く、高温下での寸法安定性(耐熱性)に優れる。したがって、前記(8)記載の放熱シートは、優れた放熱性、高温下での寸法安定性を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の放熱シートは、放熱フィラーを含有したイミド変性エラストマーからなる。該イミド変性エラストマーは、前記一般式(I)で表される。この式中において前記R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(A)に従ってウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるジイソシアナート(a)の残基等が挙げられる。
【0015】
前記R2は、重量平均分子量100〜10,000、好ましくは300〜5,000の2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば反応行程式(A)に従ってウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるポリオール(b)の残基等が挙げられる。
【0016】
前記R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(B)に従ってポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成する際に用いるジアミン化合物(d)の残基等が挙げられる。前記脂肪族鎖は、炭素数1のものも含む。
【0017】
前記R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(C)に従ってイミド変性エラストマー(I)を合成する際に用いるテトラカルボン酸二無水物(f)の残基等が挙げられる。
nは1〜100、好ましくは2〜50の整数を示す。mは2〜100、好ましくは2〜50の整数を示す。
【0018】
前記一般式(I)で表されるイミド変性エラストマー(以下、イミド変性エラストマー(I)とも言う。)の具体例としては、下記式(1)で表されるイミド変性エラストマー等が挙げられる。
【化3】

[式中、nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは10〜100の整数を示す。]
【0019】
イミド変性エラストマー(I)は、ジイソシアナートとポリオールから得た分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体であるのが好ましい。このようなイミド変性エラストマー(I)は、例えば以下に示すような反応工程式(A)〜(C)を経て製造することができる。
【0020】
[反応行程式(A)]
【化4】

[式中、R1,R2,nは、前記と同じである。]
【0021】
(ウレタンプレポリマー(c)の合成)
上記反応行程式(A)に示すように、まず、ジイソシアナート(a)とポリオール(b)から分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(c)を得る。本発明のイミド変性エラストマー(I)は、このウレタンプレポリマー(c)をエラストマー成分とするので、ゴム状領域(室温付近)の弾性率が低くなり、よりエラスティックにすることができると共に、このウレタンプレポリマー(c)の分子量を制御することにより、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合で導入することが可能となる。
【0022】
具体的には、前記ジイソシアナート(a)としては、例えば2,4−トリレンジイソシアナート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアナート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、ポリメリックMDI(Cr.MDI)、ジアニシジンジイソシアナート(DADL)、ジフェニルエーテルジイソシアナート(PEDI)、ピトリレンジイソシアナート(TODI)、ナフタレンジイソシアナート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、リジンジイソシアナートメチルエステル(LDI)、メタキシリレンジイソシアナート(MXDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、ダイマー酸ジイソシアナート(DDI)、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)(IPCI)、シクロヘキシルメタンジイソシアナート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアナート(水添TDI)、TDI2量体(TT)等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよく、減圧蒸留したものを用いるのが好ましい。
【0023】
前記ポリオール(b)としては、例えばポリプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリマーポリオール等のポリエーテルポリオール;アジペート系ポリオール(縮合ポリエステルポリオール)、ポリカプロラクトン系ポリオール等のポリエステルポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリブタジエンポリオール;アクリルポリオール等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
ポリオール(b)は、70〜90℃、1〜5mmHg、10時間〜30時間程度の条件で減圧乾燥したものを用いるのが好ましい。また、ポリオール(b)の重量平均分子量は100〜10,000、好ましくは300〜5,000であるのが好ましい。前記重量平均分子量は、ポリオール(b)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0025】
反応は、上記で例示したジイソシアナート(a)とポリオール(b)とを所定の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温で1時間〜5時間程度反応させればよい。ジイソシアナート(a)とポリオール(b)との混合比(モル)は、ジイソシアナート(a):ポリオール(b)=1.01:1〜2:1の範囲にするのが好ましい。これにより、得られるウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を、下記で説明する所定の値にすることができる。
【0026】
得られるウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量は、300〜50,000、好ましくは500〜45,000であるのがよい。この範囲内でウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を制御して、イミドユニットを所望の割合で導入すると、柔軟性に優れ、かつ高い耐熱性を有するイミド変性エラストマー(I)を得ることができる。
【0027】
より具体的には、ウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を上記所定の範囲にすると、イミド変性エラストマー(I)のイミド分率(イミド成分含有率)を5〜45重量%、好ましくは5〜40重量%にすることができる。該イミド分率は、イミド変性エラストマー中のイミド成分の割合を意味している。該イミド分率が前記所定の範囲にあると、主鎖に導入される連続した2つのイミドユニットの分布および割合が最適化され、その結果、イミド変性エラストマー(I)が、柔軟性に優れ、かつ高い耐熱性を有するようになる。これに対し、前記イミド分率が5重量%より低いと、耐熱性が低下するおそれがあり、45重量%を超えると、柔軟性が低下するおそれがある。前記イミド分率は、原料、すなわちジイソシアナート(a)、ポリオール(b)、後述するジアミン化合物(d)およびテトラカルボン酸二無水物(f)の仕込み量から算出される値であり、より具体的には、下記式(α)から算出される値である。
【0028】
【数1】

【0029】
また、ウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量が、前記範囲内において小さいほど、ハードなイミド変性エラストマー(I)を得ることができる。これに対し、前記分子量が300より小さいと、イミド変性エラストマー(I)がハードになりすぎて柔軟性が低下するおそれがあり、50,000より大きいと、ソフトになりすぎて耐熱性が低下するおそれがある。前記重量平均分子量は、ウレタンプレポリマー(c)をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0030】
[反応行程式(B)]
【化5】

[式中、R1〜R3,n,mは、前記と同じである。]
【0031】
(ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成)
上記で得られたウレタンプレポリマー(c)を用いて、反応行程式(B)に従ってイミド前駆体であるポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成する。すなわち、ウレタンプレポリマー(c)をジアミン化合物(d)でウレア結合により鎖延長してポリウレタン−ウレア化合物(e)を得る。
【0032】
具体的には、前記ジアミン化合物(d)としては、例えば1,4−ジアミノベンゼン(別名:p−フェニレンジアミン、略称:PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(別名:m−フェニレンジアミン、略称:MPD)、2,4−ジアミノトルエン(別名:2,4−トルエンジアミン、略称:2、4−TDA)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(別名:4,4’−メチレンジアニリン、略称:MDA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(別名:4,4’−オキシジアニリン、略称:ODA、DPE)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(別名:3,4’−オキシジアニリン、略称:3,4’−DPE)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:o−トリジン、略称:TB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:m−トリジン、略称:m−TB)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(略称:TFMB)、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド(別名:o−トリジンスルホン、略称:TSN)、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド(別名:4,4’−チオジアニリン、略称:ASD)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(別名:4,4’−スルホニルジアニリン、略称:ASN)、4,4’−ジアミノベンズアニリド(略称:DABA)、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン(n=3,4,5、略称:DAnMG)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン(略称:DANPG)、1,2−ビス[2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン(略称:DA3EG)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(略称:FDA)、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(別名:レゾルシンオキシジアニリン、略称:TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(略称:BAPB)、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(略称:BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS−M)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(略称:HFBAPP)、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(略称:MBAA)、4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレンジアミン(別名:4,6−ジアミノレゾルシン)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:3,3’−ジヒドロキシベンジジン、略称:HAB)、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(別名:3,3’−ジアミノベンジジン、略称:TAB)等の炭素数6〜27の芳香族ジアミン化合物;1,6−ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、1,8−オクタメチレンジアミン(OMDA)、1,9−ノナメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン(DMDA)、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(別名:イソホロンジアミン)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサンジアミン等の炭素数6〜24の脂肪族または脂環式ジアミン化合物;1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等のシリコーン系ジアミン化合物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
反応は、ウレタンプレポリマー(c)と、上記で例示したジアミン化合物(d)とを等モル、好ましくはNCO/NH2比が1.0程度の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温〜100℃、好ましくは50〜100℃において、2時間〜30時間程度で溶液重合反応または塊状重合反応させればよい。
【0034】
前記溶液重合反応に使用できる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン等が挙げられ、特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドンが好ましい。これらの溶媒は、1種または2種以上を混合して用いてもよく、定法に従い脱水処理したものを用いるのが好ましい。
【0035】
[反応行程式(C)]
【化6】

[式中、R1〜R4,n,mは、前記と同じである。]
【0036】
(イミド変性エラストマー(I)の合成)
上記で得られたポリウレタン−ウレア化合物(e)を用いて、反応行程式(C)に従ってイミド変性エラストマー(I)を合成する。すなわち、テトラカルボン酸二無水物(f)でウレア結合部にイミドユニットを導入してブロック共重合体であるイミド変性エラストマー(I)を得る。
【0037】
具体的には、前記テトラカルボン酸二無水物(f)としては、例えば無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、m(p)−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
反応は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)とのイミド化反応である。該イミド化反応は、溶媒下、無溶媒下のいずれであってもよい。溶媒下でイミド化反応を行う場合には、まず、ポリウレタン−ウレア化合物(e)と、上記で例示したテトラカルボン酸二無水物(f)とを所定の割合で溶媒に加え、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、1時間〜10時間程度反応させて、下記式(g)で表されるポリウレタンアミック酸(PUA)を含む溶液(PUA溶液)を得る。
【0039】
【化7】

[式中、R1〜R4,n,mは、前記と同じである。]
【0040】
ここで、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成で使用したジアミン化合物(d)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合比(モル)が、ジアミン化合物(d):テトラカルボン酸二無水物(f)=1:2〜1:2.02の範囲となる割合で混合するのが好ましい。これにより、確実にウレア結合部にイミドユニットを導入することができる。
【0041】
使用できる溶媒としては、上記反応行程式(B)の溶液重合反応に使用できる溶媒で例示したものと同じ溶媒を例示することができる。なお、反応行程式(B)において溶液重合反応でポリウレタン−ウレア化合物(e)を得た場合には、該溶媒中でイミド化反応を行えばよい。
【0042】
ついで、上記で得たPUA溶液を例えば遠心成形機等に流し込み、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、100〜2,000rpm、30分〜2時間程度で遠心成形してシート状に成形し、PUAシートを得る。
【0043】
ついで、該PUAシートを加熱処理(脱水縮合反応)することにより、シート状の一般式(I)で表されるイミド変性エラストマー(ポリウレタンイミド)を得ることができる。加熱処理は、PUAシートが熱分解しない条件であるのが好ましく、例えば減圧条件下において150〜450℃、好ましくは150〜250℃、1時間〜5時間程度であるのがよい。
【0044】
無溶媒下でイミド化反応を行う場合には、通常の攪拌槽型反応器の他、排気系を有する加熱手段を備えた押出機の中でも行うことができるので、得られるイミド変性エラストマー(I)を押し出して、そのままシート状に成形することができる。
【0045】
上記のようにして得られるイミド変性エラストマー(I)は、50℃での貯蔵弾性率E’が5×106〜5×108Paであるのが好ましい。これにより、該イミド変性エラストマー(I)を含有する放熱シートは柔軟性に優れたものになる。
【0046】
前記弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて測定して得られる50℃での貯蔵弾性率E’の値である。このような弾性率を有するイミド変性エラストマー(I)は、ガラス転移温度(Tg)が、通常、0〜−60℃であり、ゴム状弾性領域の温度範囲が広いものになる。
【0047】
イミド変性エラストマー(I)が、柔軟性に優れ、かつ高い耐熱性を有する理由としては、以下の理由が推察される。すなわち、上記で説明した通り、本発明のイミド変性エラストマー(I)は、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるので、このイミドユニットからなるハードセグメントの凝集が均一かつ強固なものになる。このため、イミド変性エラストマー(I)は、より均一かつ強固なミクロ相分離構造を形成し、ガラス転移温度が低くなることで、ゴム状弾性領域の温度範囲が広くなる。その結果、ポリウレタン(ウレタンプレポリマー)をエラストマー成分として含有し、前記弾性率を有するゴム状物としても、高い耐熱性を有するようになる。
【0048】
イミド変性エラストマー(I)の重量平均分子量は10,000〜1000,000、好ましくは50,000〜800,000、より好ましくは50,000〜500,000であるのがよい。これに対し、前記分子量が10,000より小さいと、耐熱性が低下するおそれがあり、1000,000より大きいと、成形性が低下するおそれがあるので好ましくない。前記重量平均分子量は、PUA溶液をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値から導き出した値である。なお、イミド変性エラストマー(I)ではなく、PUA溶液をGPCで測定するのは、イミド変性エラストマー(I)がGPCの測定溶媒に不溶なためである。
【0049】
前記放熱フィラー(充填剤)は、放熱シートの放熱性を高めるために含有され、例えばアルミナ、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、グラファイト、フェライト等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。また、これらのうち、電気絶縁性を有するものが好ましい。放熱フィラーの形状としては、特に限定されないが、平均粒子径が1〜50μm程度の微粒子状のものが好ましい。
【0050】
前記放熱フィラーは、イミド変性エラストマー(I)100重量部に対して10〜300重量部、好ましくは50〜200重量部の割合で含有するのがよい。これに対し、前記放熱フィラーの含有量が10重量部未満であると、放熱性が低下するおそれがあり、300重量部より多いと、放熱シートの柔軟性が低下して発熱体表面への形状追従性および密着性が低下するおそれがある。
【0051】
本発明にかかる放熱シートの厚さは0.1〜3mmであるのがよい。これに対し、前記厚さが0.1mm未満であると、発熱体から発生する熱を十分に放熱できないおそれがあり、シート自体の強度も低下するので好ましくない。また、3mmより大きくなると、薄型、小型化および軽量化等された電子機器への配置が困難になるおそれがある。
【0052】
放熱シートの熱伝導率は、1W/m・K以上、好ましくは3〜5W/m・Kであるのがよい。これにより、発熱体から発生する熱を確実に外部に放熱することができる。放熱シートの熱伝導率を前記所定の値とするには、例えばイミド変性エラストマー(I)の組成、放熱フィラーの組成・割合、放熱シートの厚さ等を変えることによって任意に行うことができる。
【0053】
前記熱伝導率は、式:熱伝導率=熱拡散率×比熱×比重で算出される値であり、レーザーフラッシュ法により測定して得られた値である。レーザーフラッシュ法は、例えば「放熱材料の高熱伝導化および熱伝導率の測定・評価技術(技術情報協会)」に記載されているように、試料の表面をレーザーによってパルス状に加熱したときの試料裏面の温度応答から熱拡散率を測定する方法である。
【0054】
放熱シートの50℃での貯蔵弾性率E’は、5×106〜5×108Paであるのが好ましい。これにより、放熱シートが十分な柔軟性を示し、発熱体表面の形状によく追従し、隙間なく発熱体表面に密着することができる。放熱シートの50℃での貯蔵弾性率E’を前記所定の値とするには、例えばイミド変性エラストマー(I)の組成(特に、50℃での貯蔵弾性率E’)、放熱フィラーの組成・割合、放熱シートの厚さ等を変えることによって任意に行うことができる。
【0055】
また、イミド変性エラストマー(I)からなる放熱シートを発熱体と接する密着性放熱シートとし、この密着性放熱シートの表面に耐熱性放熱シートを積層して、放熱性を高めてもよい。前記耐熱性放熱シートは、放熱フィラーを含有した耐熱性樹脂、金属薄板またはグラファイトシートからなるのが好ましく、前記耐熱性樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、前記金属薄板を構成する金属としては、例えばアルミニウム、銅、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。なお、前記放熱フィラーの組成および含有量としては、前記したイミド変性エラストマー(I)からなる放熱シートにおいて例示した放熱フィラーの組成および含有量と同じものを例示することができる。
【0056】
特に、耐熱性放熱シートが、放熱フィラーを含有したポリイミド樹脂からなるのが好ましい。ポリイミド樹脂は、イミド変性エラストマー(I)からなる密着性放熱シートとの親和性が高く、高温下での寸法安定性に優れるので、かかる耐熱性放熱シートを積層した放熱シートは、放熱性、高温下での寸法安定性に優れる。
【0057】
前記ポリイミド樹脂は、特に限定されるものではなく、一般に、酸無水物とジアミン化合物から合成されたポリアミド酸を熱および触媒等によってイミド化することで得られる。具体的には、前記酸無水物としては、例えば無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2’−ヘキサフルオロイソプロピリジン)ジフタル酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、前記ジアミン化合物としては、例えば1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5’−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0058】
耐熱性放熱シートの厚さとしては、特に限定されないが、通常、0.1〜3mmであるのが好ましい。これに対し、前記厚さが0.1mm未満であると、該耐熱性放熱シートを積層することにより得られる効果が得られないおそれがあり、3mmより大きくなると、薄型、小型化および軽量化等された電子機器への配置が困難になるおそれがある。積層される耐熱性放熱シートの数は、通常、1層であるが、複数層であってもよい。
【0059】
次に、前記した放熱シートの製造方法の一実施形態について説明する。まず、前記で説明したPUA溶液を調製し、このPUA溶液に放熱フィラーを加える。前記PUA溶液は、作業性の上で、固形分量を10〜30重量%、好ましくは20重量%程度に調製するのが好ましい。
【0060】
ついで、この溶液を遠心成形機に流し込んで遠心成形して加熱処理(脱水縮合反応)し、放熱フィラーを含有したイミド変性エラストマー(I)からなる管状の放熱シートを得る。この管状の放熱シートを所望の形状に切断して、本発明にかかる放熱シートを得る。なお、遠心成形および加熱処理の条件としては、前記したイミド変性エラストマー(I)の反応行程式(C)において例示した条件と同じ条件を例示することができる。
【0061】
イミド変性エラストマー(I)からなる放熱シートの片面に耐熱性放熱シートを積層する場合には、例えば接着剤等を用いて両者を積層一体化すればよい。前記接着剤としては、例えば1液性または2液性のシリコーン系弾性接着剤、ウレタン系弾性接着剤、シート状ホットメルト型のシリコーン系接着剤、シラン変性ポリイミド系接着剤等が挙げられる。また、前記接着剤に代えて各種の公知の粘着剤を用いてもよい。加熱加圧等して両者を積層一体化してもよい。
【0062】
ここで、耐熱性放熱シートがポリイミド樹脂からなる場合には、例えば以下のようにして積層するのが好ましい。すなわち、まず、前記と同様にして放熱フィラーを加えたPUA溶液を調製すると共に、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸のワニス(すなわちポリイミドワニス)を調製し、このポリイミドワニスにも放熱フィラーを添加する。
【0063】
ついで、放熱フィラーを加えたPUA溶液を遠心成形機に流し込んで遠心成形し、管状のPUAシートを得た後、前記で調製したポリイミドワニスを前記PUAシート内面に流し込む。回転数を50〜200rpm、好ましくは100rpm程度で回転させると共に、110〜130℃、好ましくは120℃程度に加熱し、30〜60分間、好ましくは45分間程度で遠心成形した後、加熱処理(脱水縮合反応)して管状の放熱シートを得る。この管状の放熱シートを適切な大きさに切断すると、片面にポリイミド樹脂からなる耐熱性放熱シートを積層した放熱シートが得られる。なお、遠心成形する順序を逆、すなわち、まず、ポリイミドワニスを遠心成形機に流し込んで遠心成形した後、PUA溶液をポリイミド樹脂シート内面に流し込み、遠心成形してもよい。
【0064】
次に、前記した放熱シートの使用方法について、片面に耐熱性放熱シートを積層した場合を例に挙げて説明する。まず、電子部品等の発熱体表面の所定位置に、密着性放熱シートと耐熱性放熱シートが積層一体化された放熱シートを、密着性放熱シートが発熱体表面に接するように配置する。この密着性放熱シートは、イミド変性エラストマー(I)を含有しているので柔軟性に優れ、発熱体表面の形状によく追従し、隙間なく発熱体表面に密着する。
【0065】
この状態で発熱体が発熱すると、発生した熱は、密着性放熱シート,耐熱性放熱シートの順に熱伝導されて外部に放熱される。このとき、放熱シートは隙間なく発熱体表面に密着しているので、接触面積が大きく、したがって優れた放熱性を示す。また、発熱体の発熱により高温雰囲気下になったとしても、放熱シートは高温下での寸法安定性に優れているので、発生した熱を安定して放熱し続けることができる。さらに、耐熱性放熱シートがポリイミド樹脂からなる場合には、絶縁性を示すので、周囲の電子部品とショートを引き起こすことが防止される。
【0066】
なお、放熱シートは、そのまま発熱体表面に配置してもよいが、例えば接着剤等を用いて固定してもよく、前記接着剤としては、耐熱性放熱シートを積層する場合に例示した前記接着剤と同じものを例示することができる。また、密着性放熱シートの発熱体と接する面に粘着剤層を設け、該粘着剤層を介して放熱シートを発熱体表面に固定してもよい。
【0067】
また、本発明にかかる放熱シートの使用方法は、発熱体表面に直接貼り付けて使用する場合に限定されるものではなく、例えば発熱体と、ヒートシンク等の放熱器との間に介在させて用いてもよい。この場合には、放熱シートを発熱体表面の所定位置に配置した後、放熱器を該シートを介して発熱体の表面上に配置し、放熱器を発熱体の表面に固定すればよい。固定は、例えばボルトとナットで締め付ける等、強い締め付け力で行うのが好ましい。
【0068】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明の放熱シートを詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
<合成例>
PUA溶液を下記式に基づいて合成した。
【化8】

[式中、nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは5〜100の整数を示す。]
【0070】
(ウレタンプレポリマー(j)の合成)
まず、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)(h)[日本ポリウレタン工業(株)社製]を減圧蒸留した。また、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(i)[保土谷化学(株)社製の商品名「PTMG1000」、重量平均分子量:1,000]を80℃、2〜3mmHg、24時間の条件で減圧乾燥した。
【0071】
ついで、上記MDI(h)30.4gと、PTMG(i)69.6gとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え、アルゴン雰囲気下、80℃で2時間攪拌して、分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマー(j)を得た。このウレタンプレポリマー(j)をGPCで測定した結果、ポリスチレン換算した値で重量平均分子量は1.5×104であった。
【0072】
(ポリウレタン−ウレア化合物(l)の合成)
上記で得たウレタンプレポリマー(j)10gを脱水処理したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)60mlに溶解させたものと、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)(k)1.034gを脱水処理したNMP20mlに溶解させたものとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え、アルゴン雰囲気下、室温(23℃)で24時間攪拌して、ポリウレタン−ウレア化合物(l)の溶液を得た。
【0073】
(PUA溶液の合成)
上記で得たポリウレタン−ウレア化合物(l)の溶液中に、無水ピロメリット酸(PMDA)(m)2.276gを加え、アルゴンガス雰囲気下、150℃で2時間攪拌して、PUA溶液を得た。
【0074】
ちなみに、このPUA溶液を遠心成形機に流し込み、150℃で1,000rpm、1時間遠心成形してPUAシートを得、このPUAシートを減圧デシケータ内で200℃、2時間加熱処理(脱水縮合反応)すると、厚さ100μmのシート状のイミド変性エラストマー(1)が得られた(イミド分率:35重量%)。前記イミド分率は、前記式(α)から算出して得た値である。得られたイミド変性エラストマー(1)の重量平均分子量は57,000であった。また、50℃での貯蔵弾性率E’を、セイコーインスツルメンツ社(Seiko Instruments Inc.)製の動的粘弾性測定装置「DMS 6100」を用い、20Hz、5℃/分、−100〜400℃の昇温過程にて測定した結果、8.5×107Paであった。さらに、このイミド変性エラストマー(1)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【実施例1】
【0075】
<放熱シートの作製>
前記合成例で得たPUA溶液に放熱フィラーを加え、ついでこの溶液を遠心成形法により遠心成形して加熱処理(脱水縮合反応)し、放熱フィラーを含有したイミド変性エラストマー(1)からなる放熱シートを作製した。具体的には、前記放熱フィラーとしては、平均粒子径が1μmのアルミナ粉末を用いた。このアルミナ粉末を、該アルミナ粉末の含有量がイミド変性エラストマー(1)100重量部に対して50重量部の割合となるように、PUA溶液に添加した。
【0076】
ついで、このPUA溶液を遠心成形機に流し込み、150℃で1,000rpm、1時間遠心成形してPUAシートを得、このPUAシートを減圧デシケータ内で200℃、2時間加熱処理(脱水縮合反応)した。得られた管状の放熱シートをカッターで切断して、幅150mm、長さ300mm、厚さ0.1mmの放熱シートを得た。
【0077】
<評価>
上記で得た放熱シートについて、熱伝導性、絶縁性、熱寸法安定性および貯蔵弾性率を評価した。各評価方法を以下に示すと共に、熱伝導性、絶縁性および熱寸法安定性の評価結果を表1に、貯蔵弾性率の評価結果を図1にそれぞれ示す。
【0078】
(熱伝導性)
熱伝導率を前記したレーザーフラッシュ法により測定した(規格:ASTM E1530)。評価基準は以下のように設定した。
◎:>3W/m・K
○:1〜3W/m・K
△:<1W/m・K
【0079】
(絶縁性)
放熱シートの表面抵抗をJIS K6271に準拠して測定した。評価基準は以下のように設定した。
○:≧107Ω・m
×:<107Ω・m
【0080】
(熱寸法安定性)
線膨張係数を測定した。具体的には、JIS K7197に準拠して測定した。評価基準は以下のように設定した。
◎:<1×10-5mm/mm・℃
△:1×10-5〜1×10-3mm/mm・℃
×:>1×10-3mm/mm・℃
【0081】
(貯蔵弾性率)
セイコーインスツルメンツ社(Seiko Instruments Inc.)製の動的粘弾性測定装置「DMS 6100」を用い、20Hz、5℃/分、−100〜200℃の昇温過程にて測定した。
【0082】
[比較例1]
前記PUA溶液に代えて、ポリアミド酸溶液(宇部興産(株)社製の商品名「UワニスA」)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして放熱フィラーを含有した幅150mm、長さ300mm、厚さ0.1mmのポリイミド樹脂シートを得た。このシートについて、前記実施例1と同様にして、熱伝導性、絶縁性および熱寸法安定性を評価した。その結果を表1に示す。
【0083】
[比較例2]
前記PUA溶液に代えて、2液硬化型シリコーンゴム(信越シリコーン社製の商品名「KE1300」)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして放熱フィラーを含有した幅150mm、長さ300mm、厚さ0.1mmのシリコーンゴムシートを得た。このシートについて、前記実施例1と同様にして、熱伝導性、絶縁性、熱寸法安定性および貯蔵弾性率を評価した。熱伝導性、絶縁性および熱寸法安定性の評価結果を表1に、貯蔵弾性率の評価結果を図2にそれぞれ示す。
【0084】
[比較例3]
前記PUA溶液に代えて、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂エマルジョン(昭和高分子社製の商品名「ポリゾール」)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして放熱フィラーを含有した幅150mm、長さ300mm、厚さ0.1mmのエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートを得た。このシートについて、前記実施例1と同様にして、熱伝導性、絶縁性および熱寸法安定性を評価した。その結果を表1に示す。
【0085】
[比較例4]
ポリエチレンテレフタレートフィルム上に放熱グリース(信越シリコーン社製の商品名「オイルコンパウンド」)を塗布し幅150mm、長さ300mm、厚さ0.1mmのシート状にしたものについて、前記実施例1と同様にして、熱伝導性、絶縁性および熱寸法安定性を評価した。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1および図1から明らかなように、実施例1(放熱フィラーを含有したイミド変性エラストマー(1)からなる放熱シート)は、熱伝導性(すなわち放熱性)および熱寸法安定性に優れており、絶縁性にも優れているのがわかる。50での貯蔵弾性率E’は、2.46×108Paであった。これらの結果から、実施例1は放熱性および高温化での寸法安定性に優れた放熱シートと言える。
【0088】
一方、比較例1(放熱フィラーを含有したポリイミド樹脂シート)は、熱伝導性(すなわち放熱性)に劣る結果を示した。比較例2(シリコーンゴム)、比較例3(エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂)および比較例4(放熱グリース)は、いずれも熱寸法安定性に劣る結果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例1の貯蔵弾性率の結果を示すグラフである。
【図2】比較例2の貯蔵弾性率の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱フィラーを含有した、下記一般式(I)で表されるイミド変性エラストマーからなる放熱シート。
【化1】

[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]
【請求項2】
前記イミド変性エラストマーは、ジイソシアナートとポリオールから得た分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体である請求項1記載の放熱シート。
【請求項3】
前記ウレタンプレポリマーの重量平均分子量が300〜50,000である請求項2記載の放熱シート。
【請求項4】
前記イミド変性エラストマーのイミド分率が5〜45重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の放熱シート。
【請求項5】
前記イミド変性エラストマーの50℃での貯蔵弾性率E’が5×106〜5×108Paである請求項1〜4のいずれかに記載の放熱シート。
【請求項6】
発熱体と接する密着性放熱シートと、この密着性放熱シートの表面に積層された耐熱性放熱シートとを備え、前記密着性放熱シートが、請求項1記載の放熱シートである放熱シート。
【請求項7】
前記耐熱性放熱シートが、放熱フィラー含有耐熱性樹脂、金属薄板またはグラファイトシートからなる請求項6記載の放熱シート。
【請求項8】
前記耐熱性樹脂がポリイミド樹脂である請求項7記載の放熱シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215480(P2009−215480A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62198(P2008−62198)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】