説明

新規な含フッ素ジカルボン酸およびそれを用いた新規な高分子化合物

【課題】耐熱性高分子としての性能を有すると共に、フッ素に由来する高透明性・低誘電率・低吸水性・耐熱性、耐候性、耐腐食性、感光性、低屈折率性を実現し、かつ、アルカリ可溶性、感光性、有機溶媒溶解性などを併せ持つ高分子化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1)
【化1】


で表される含フッ素ジカルボン酸(式中、nは、1〜4の整数を表す)によって課題は解決される。当該含フッ素ジカルボン酸を単量体として用い、例えばジアミノジオールと反応させることで、直線状の高分子化合物を得られ、次いで該高分子化合物を熱環化させることで、上記優れた物性の高分子化合物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含フッ素ジカルボン酸およびそれを用いた新規な高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
高度の耐熱性を有する有機高分子の代表としてポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンズオキサゾールが開発され、電子デバイス分野、自動車や航空宇宙用途などのエンジニアリングプラスチック分野、燃料電池分野、医療材料分野、光学材料分野などにおいて大きな市場を形成している。それらの中心は、ナイロン、ケブラーなどに代表されるポリアミド、液晶性高分子に用いられるポリアリレート、カプトンに代表されるポリイミド、ザイロンに代表されるポリベンズオキサゾールなどの多種多様な高分子が数多く実用化されている。
【0003】
重合における単量体の組み合わせは、ポリエステルの場合は、ジカルボン酸とジオールを縮合剤の存在下で重縮合させる方法、もしくはジカルボン酸を酸クロまたはエステルなどに誘導化し、ジオールと重縮合させる方法がとられる。ポリアミドの場合、ジカルボン酸とジアミンを縮合剤の存在下で重縮合させる方法、もしくはジカルボン酸をカルボン酸クロリドまたはエステルなどに誘導化し、ジアミンと重縮合させる方法がとられる。ポリイミドの場合は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を重合後、脱水閉環させる方法がとられる。ポリベンズオキサゾールの場合は、ジカルボン酸とビスアミノフェノールを縮合剤の存在下で重縮合させる方法、もしくはジカルボン酸を酸クロまたはエステルなどに誘導化し、ビスアミノフェノールと重縮合させる方法がとられる。
【0004】
これらの樹脂の研究開発においては、重合反応(重縮合反応)に直接関与せず、重縮合反応後も樹脂中に存置するOH基をモノマー中に導入して、樹脂にさらなる機能を付与する試みが広く行なわれている。例えば、特許文献1では、フェノール性水酸基を「重合後の樹脂にアルカリ可溶性を与える感光性基」として導入している。さらに特許文献2ではフェノール性水酸基を「密着性基」として、特許文献3では「架橋点部位」として、それぞれ導入している。
【0005】
特許文献1の樹脂は、ポリベンズオキサゾール類として説明されている。すなわちアミノ基とフェノール性水酸基が隣接したビスアミノフェノール誘導体を重合性単量体として用いてジカルボン酸と重縮合することにより、フェノール性水酸基を含有したポリアミドフェノール前駆体をまず合成している。該前駆体のフェノール性水酸基は、フォトリソグラフィによるパターン形成時に、感光性機能基として機能し、後の加熱により最終生成物であるオキサゾール環へと変性されることによりフェノール水酸基は消失する。
【0006】
一方、特許文献2および特許文献3では、ヒドロキシル基を主に密着性基および架橋点部位として用いており、ヒドロキシル基は一部最終生成物中に残存することになる。
【0007】
最近になって、フォトレジスト材料などの分野で、その紫外線領域、特に、真空紫外波長域での透明性に優れるフッ素系化合物を活用する研究開発が活発に行われている。中でも、含フッ素ヒドロキシ化合物(フルオロカルビノール類)がよく用いられている。フルオロカルビノール基としてフッ素を導入することで、各使用波長での透明性を実現しつつ、基板への密着性、高いガラス転移点、フルオロカルビノール基の酸性による感光性、アルカリ現像性などを実現させようとする試みである。特に、フルオロカルビノール基の中でもヘキサフルオロイソプロパノール部位(2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル基)がその溶解挙動、非膨潤性、高コントラストなどから注目され、数多くの研究開発が行われている(非特許文献1、特許文献4)。
【0008】
一方、フッ素系化合物は、フッ素の持つ撥水性、撥油性、低吸水性、耐熱性、耐候性、耐腐食性、透明性、感光性、低屈折率性、低誘電性などの特徴から先端材料分野を中心としてポリオレフィンや縮合性高分子などの幅広い材料分野で開発または実用化されている。縮合性高分子分野では、ジアミン単量体中にフッ素を導入する試みがなされ、ベンゼン環の水素をフッ素原子やトリフルオロメチル基に置換したジアミン単量体、2つの芳香環の間にヘキサフルオロイソプロペニル基を導入したジアミン単量体、さらにはベンゼン環を水素還元した含フッ素ジアミン単量体などが報告されている。また、ヘキサフルオロイソプロペニル基を中心原子団とし、その両サイドに芳香族ヒドロキシアミンを有したビスヒドロキシアミン単量体も実用化されている。この場合、ポリベンゾオキサゾールやヒドロキシ基含有ポリイミドとして応用されている。
【0009】
しかしながら、ヘキサフルオロイソプロパノール部位を酸性アルコールとして含有したポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンズオキサゾール等の耐熱性高分子の開発例は僅かである(特許文献4,特許文献5,特許文献6および特許文献7)。
【特許文献1】特開2003−268233号公報
【特許文献2】特開2003−206352号公報
【特許文献3】国際公開2007/010932号パンフレット
【特許文献4】国際公開2006/070728号パンフレット
【特許文献5】特開2007−119503号公報
【特許文献6】特開2007−119504号公報
【特許文献7】米国特許 第4045408号公報
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology,2004年,第17巻,第4号,609頁〜613頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のポリベンズオキサゾール樹脂は、ポリアミド酸中のカルボキシル基を現像液可溶性基として用いる従来のポリイミド樹脂に比べ、現像液中での膨潤を低減できる利点があった。しかしながら、前記したように、最終生成物中にはフェノール性水酸基が残存しないために、該水酸基を基板などとの密着性に寄与させることは困難であった。
【0011】
特許文献2および特許文献3の例では、最終生成物中にフェノール性水酸基が残存するために、基板との密着性等は向上し、エポキシ樹脂との架橋反応に用いることも可能となるが、一方で、最終生成物中に残存したフェノール性水酸基は吸湿性を高める要因となり、LSIなどの電子材料用部材に用いる場合、誘電率の増大やクラックなどの原因となるこ
とがあった。
【0012】
このような背景から、フェノール性水酸基に代わり、ヘキサフルオロイソプロパノール部位(2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル基)を導入したのが特許文献4の例である。該文献の例では、ヘキサフルオロイソプロパノール部位を含有したジアミンとジカルボン酸、もしくはテトラカルボン酸二無水物からポリアミド、もしくはポリイミドを合成した例である。これらのポリアミド、ポリイミドは、フェノール性水酸基を含有したジアミンから誘導される従来のポリマーと比較して、低誘電・低吸水性を示すことが報告されている。
【0013】
しかしながら、特許文献4記載のポリマーは、ポリマーの主鎖に対し、エステル結合を介して芳香環が側鎖として結合しており、さらにその芳香環上の置換基としてヘキサフルオロイソプロパノール部位が結合したものである。当該樹脂は、優れた性能を持つものではあるが、比較的かさ高い側鎖が、加水分解性のエステル結合を介して結合しており、その最先端部に酸性OH基が位置するため、十分な性能を発揮するには、使用環境に制限があった。
【0014】
また特許文献4記載のポリマーの構成要素である「ヘキサフルオロイソプロパノール部位を含有したジアミン」の合成には、比較的高いコストを要していた。さらに、特許文献4記載の「ヘキサフルオロイソプロパノール部位を含有したジアミン」の場合、必然的に、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンズオキサゾールなどのアミド結合を重合素反応とした樹脂に限定され、エステル系の樹脂の合成には供し得ないという制限もあった。
【0015】
一方、特許文献5,6に開示されたポリマーは、ヘキサフルオロイソプロパノール部位を酸性アルコールとして含有したポリアミドを基本骨格とし、耐熱性高分子としての性能を維持しつつ、フッ素に由来する高透明性・低誘電率・低吸水性・耐熱性、耐候性、耐腐食性、感光性、低屈折率性を実現している。しかしながら、該ポリマーは、最終的な脱水閉環(OH基とアミド結合部位による熱環化)反応において、OH基が樹脂骨格に取り込まれ消失する。このため、最終的に熱環化されたポリマーにおいては、OH基に由来する「密着性」や「他の樹脂との相溶性」を十分確保することはできなかった。
【0016】
さらに、特許文献5,6に記載のジアミン単量体を製造する際には、イミン体が副生し、これを目的物のポリマーから分離することに、負荷がかかるという問題もあった。
【0017】
一方で、ヘキサフルオロイソプロパノール部位がジカルボン酸単量体に導入された例としては、「フタル酸誘導体(2つのカルボキシル基が、お互いにベンゼン核のオルト位に結合しているジカルボン酸誘導体をいう。以下同じ。)」が報告されている(特許文献7)。すなわち該文献中には、エポキシ樹脂の硬化剤として、ヘキサフルオロイソプロパノール部位が置換した「フタル酸誘導体の無水物」が用いられている。しかしながら、「フタル酸誘導体」は対応する「無水物」に誘導して無水物の反応性を利用し、他の化合物に誘導することには有用であるが、ポリエステル、ポリアミド、ポリベンズオキサゾールなどの直線状の高分子を合成するには不向きであり、そのような報告例もない。
【0018】
以上のように、ヘキサフルオロイソプロパノール部位を有するジカルボン酸単量体に由来する繰り返し単位を有する、ポリエステル、ポリアミド、ポリベンズオキサゾールなどの直線状の高分子、特に耐熱性を指向した、新規の芳香族系高分子が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、2つのカルボキシル基と、少なくとも1つのヘキサフルオロイソプロパノール部位を同一分子中に含有した新規なジカルボン酸化合物、及びそれを用いて得られる新規高分子化合物に到達した。
【0020】
すなわち、本発明者らは、一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸
【0021】
【化15】

【0022】
[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つのカルボキシル基が隣接して芳香環上に置換している化合物を除く。]
を見出した。
【0023】
当該含フッ素ジカルボン酸は、特許文献7で開示されている「フタル酸誘導体(すなわち二つのカルボキシル基本が隣接して芳香環上に置換しているジカルボン酸誘導体)」とは性質を大きく異にし、下記のようなポリエステル、ポリアミド、ポリベンズオキサゾールなどの直線状の広範な高分子を合成するユニットとして有効に機能することが判った。
【0024】
すなわち、本発明者らは、上記含フッ素ジカルボン酸を、一般式(2)で表されるジオールと接触させ、反応させることにより得られる、一般式(6)で表される高分子化合物を見出した。また、上記含フッ素ジカルボン酸を、一般式(3)で表されるジアミンと接触させ、反応させることにより得られる、一般式(7)で表される高分子化合物を見出した。また、上記含フッ素ジカルボン酸を、一般式(4)で表されるジアミノジオールと接触させ、反応させることにより得られる一般式(8)で表される高分子化合物を見出した。さらに、上記含フッ素ジカルボン酸を、一般式(5)で表されるヘキサフルオロイソプロパノール部位が置換したジアミノジオールと接触させ、反応させることにより得られる一般式(10)で表される高分子化合物を見出した。
【0025】
さらに本発明者らは、上記、一般式(8)で表される高分子化合物を脱水閉環することで得られる、一般式(9)で表される高分子化合物を見出した。
【0026】
さらに本発明者らは、上記(10)で表される高分子化合物を脱水閉環することで得られる、一般式(11)で表される高分子化合物を見出した。
【0027】
本発明における高分子化合物は、直線的なポリアミドを基本骨格とする「耐熱性ポリマー」としては数少ない「フッ素を含有し、なおかつフリーの酸性OH基が、ポリマー主鎖の近傍に存在している樹脂」である。この酸性OH基の存在のために、該樹脂は、優れた感光性、密着性、他樹脂との相溶性(例えば、すみやかで均一なアルカリ可溶性を発現する)、あるいは反応性(例えば架橋点として機能する)を示す。
【0028】
それと同時に、これらの高分子化合物は、フッ素原子に基づく低吸水性・低誘電性・高対候性・高腐食性・透明性・低屈折率等の性能が、OH基が導入されることによっては、ほとんど損なわれないことが、大きなメリットである。このことは、これら樹脂の吸水特性と誘電率が、フェノール性水酸基が置換したポリマーのそれらに比較して、格段に優れた値を示していることからも裏付けられる(後述の実施例・比較例を参照)。
【0029】
上述の高分子化合物のうちでも、脱水閉環の結果得られる一般式(9)および(11)で表される高分子化合物は、その耐熱性能が特に高く、有用性が高い物質である。
【0030】
すなわち、本発明者らは、
(a)ポリマーの基本骨格に基づく耐熱性能、
(b)フッ素原子に基づく低吸水性・低誘電性・高対候性・高腐食性・透明性・低屈折率等の性能、
(c)酸性OH基に基づく感光性、密着性、相溶性、反応性などの性能、
を併せ持ち、これらがバランスよく発揮された、新規高分子化合物を見出すことに成功したものである。
【0031】
さらに、本発明の一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸は、ヘキサフルオロイソプロパノール部位をジカルボン酸に導入しているため、特許文献5,6における「ジアミン誘導体にヘキサフルオロイソプロパノール部位を導入する際のイミン体副生」の問題(前記)も回避が可能となった。
【0032】
さらに本発明者らは、新規なジカルボン酸化合物の1つである、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の簡便な製造方法を見出した。
【0033】
すなわち、本発明は、次の[発明1]〜[発明14]を含み、新規ジカルボン酸化合物、それを用いた高分子化合物を提供する。
【0034】
[発明1]
一般式(1)
【0035】
【化16】

【0036】
で表される含フッ素ジカルボン酸。
[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つのカルボキシル基が隣接して芳香環上に置換している場合を除く。]
[発明2]
含フッ素ジカルボン酸である、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸。
【0037】
[発明3]
含フッ素ジカルボン酸である、2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸。
【0038】
[発明4]
含フッ素ジカルボン酸である、4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸。
【0039】
[発明5]
発明1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるエステル形成誘導体を、一般式(2)で表されるジオール
【0040】
【化17】

【0041】
と接触させ、反応させることにより得られる一般式(6)
【0042】
【化18】

【0043】
で表される高分子化合物。[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つの(-CO)基は隣接して芳香環上に置換しない。Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した2価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。mは正の整数である。]
[発明6]
発明1〜4のいずれかに記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるアミド形成誘導体を、一般式(3)で表されるジアミン
【0044】
【化19】

【0045】
と接触させ、反応させることにより得られる一般式(7)
【0046】
【化20】

【0047】
で表される高分子化合物。[式中、Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した2価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。]
[発明7]
発明1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるアミド形成誘導体を、一般式(4)で表されるジアミノジオール
【0048】
【化21】

【0049】
と接触させ、反応させることにより得られる一般式(8)
【0050】
【化22】

【0051】
で表される高分子化合物。[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つの(-CO)基は隣接して芳香環上に置換しない。Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した4価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。mは正の整数である。]
[発明8]
発明1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるアミド形成誘導体を、一般式(5)で表されるヘキサフルオロイソプロパノール部位が置換したジアミノジオール
【0052】
【化23】

【0053】
と接触させ、反応させることにより得られる一般式(10)
【0054】
【化24】

【0055】
で表される高分子化合物。[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つの(-CO)基は隣接して芳香環上に置換しない。Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した4価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。mは正の整数である。]
[発明9]
発明7記載の一般式(8)で表される高分子化合物を脱水閉環することで得られる、下記一般式(9)で表される高分子化合物。
【0056】
【化25】

【0057】
[式中、nは一般式(1)におけるnと同義であり、Rは一般式(4)におけるRと同義である。高分子の主鎖は、芳香環上に互いに隣接して結合しない。mは正の整数である。]
[発明10]
発明8記載の一般式(10)で表される高分子化合物を脱水閉環することで得られる、下記一般式(11)で表される高分子化合物。
【0058】
【化26】

【0059】
[式中、nは一般式(1)におけるnと同義であり、Rは一般式(5)におけるRと同義である。高分子の主鎖は、芳香環上に互いに隣接して結合しない。mは正の整数である。]
[発明11]
一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン
【0060】
【化27】

【0061】
をカルボニル化して、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を得ることを特徴とする、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。
[一般式(12)において、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、アリールスルホネート基を表す。]
[発明12]
下記の2工程を含む5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。
第1工程:一般式(13)
【0062】
【化28】

【0063】
で表される、1,3,5−トリハロベンゼン類を、アルキルマグネシウムハライド又はマグネシウム金属、もしくはアルキルリチウムと反応させた後に、ヘキサフルオロアセトンで処理し、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン
【0064】
【化29】

【0065】
を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンをカルボニル化して、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を得る工程。
[一般式(12)および一般式(13)において、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、アリールスルホネート基を表す。]
[発明13]
カルボニル化が、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンを、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下、一酸化炭素(CO)と反応させることによりなされる、請求項11または請求項12に記載の5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。
【0066】
[発明14]
カルボニル化が、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンを、アルキルマグネシウムハライド、マグネシウム金属もしくはアルキルリチウムと反応させた後に、二酸化炭素(CO)と反応させることによりなされる、請求項11または請求項12に記載の5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0068】
[新規な含フッ素ジカルボン酸]
本発明で提供される新規な含フッ素ジカルボン酸は、下記一般式(1)で表される。
【0069】
【化30】

【0070】
[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つのカルボキシル基が隣接して芳香環上に置換している場合を除く。]
具体的には、2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、2,4−ビス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、2,5−ビス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、4,5−ビス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、4,6−ビス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、2,4,5−トリス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、2,4,6−トリス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、4,5,6−トリス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、2,4,5,6−テトラキス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸、2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸、3−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸、2,3−ビス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸、2,5−ビス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸、2,6−ビス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸、2,3,5−トリス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸、2,3,5,6−テトラキス[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸を挙げることができる。
【0071】
上述の式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸の中で、nの値が1または2の化合物が、入手の容易性から好ましく、n=1のものが特に容易に製造できることから、特に好ましい。
【0072】
本発明における式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸からは、前述のように「フタル酸誘導体(二つのカルボキシル基が隣接して芳香環上に置換しているジカルボン酸誘導体)」が除外されている点が重要である。すなわち、式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸は、二つのカルボキシル基が、お互いにメタ位またはパラ位に結合する化合物であり、このカルボキシル基の位置関係によって、良好な重合性が発現する。
【0073】
これらの新規な含フッ素ジカルボン酸の合成方法については、Journal of Organic Chemistry, 1965年,第30巻,998頁〜1001頁、および米国特許第4045408号公報を参考にすることができる。すなわち、最初にo−キシレン、m−キシレンまたはp−キシレンのいずれかを出発原料に用い、ヘキサフルオロアセトンと作用させて、1個から4個の2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル基を導入する。次いで、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を用いてメチル基を酸化し、目的とするジカルボン酸を得るものである(反応式[1])。
【0074】
【化31】

【0075】
(式中、nは1〜4の整数である。xは0〜3の任意の数字を表す。)
この方法を用いることによって、新規なジカルボン酸である、2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸および4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を製造することができる(実施例1および実施例2参照)。
【0076】
[新規な含フッ素ジカルボン酸を用いた新規な高分子化合物]
次に、本発明による含フッ素ジカルボン酸の使用例として、この含フッ素ジカルボン酸を重合させ、高分子を製造する方法について説明する。この含フッ素ジカルボン酸は、ヘキサフルオロイソプロパノール部位(2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル基)を一つ以上有する化合物であり、少なくとも分子内に3つ以上の官能基を同時に有している。高分子を製造する場合、これらの3つ以上の官能基を有効に利用することになるが、具体的にはジカルボン酸の反応性を利用することが好ましい。
【0077】
なお、本発明の高分子化合物[式(6)〜(11)]におけるm(正の整数)は、モノマーユニットの繰り返し数(重合度)を意味し、5〜10000が好ましく、10〜1000がさらに好ましい。また、本発明の重合体は、重合度に一定の幅のある重合体の混合物であるが、重合体重量平均分子量でいうと、概ね1000〜5000000が好ましく、2000〜200000の範囲が特に好ましい。重合度、分子量は、後述の重合方法の条件を適宜調節することによって、所望の値に設定することができる。
【0078】
[ポリエステル型高分子化合物]
一般式(1)で表される、本発明の含フッ素重合性単量体であるジカルボン酸は、一般式(2)で表されるジオール
【0079】
【化32】

【0080】
と所定の温度範囲で接触させ一般式(6)で表される「ポリエステル型高分子化合物」
【0081】
【化33】

【0082】
へと、重合することが出来る。
【0083】
一般式(2)で表されるジオールを具体的に例示するならば、カテコール、1,3−ベンゼンジオール、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−メチレンジフェノール、4,4’−メチレンジフェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどの化合物を好適に挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
この場合、ポリエステル型高分子化合物の製造方法は公知の方法は特に限定することなく使用できる。すなわち一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸を、縮合剤の存在下、一般式(2)で表されるジオールと直接脱水縮合させることで、一般式(6)に示す重合体が製造できる。
【0085】
また、一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸の「エステル結合形成性誘導体」を利用することもできる。ここで「エステル結合形成性誘導体」とは化学反応により容易にエステル結合を形成する化合物のことである。該エステル結合形成性誘導体であるジカルボン酸のジクロライド、ジブロマイド等の酸ハロゲン化物、該ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル等のジアルキルエステル、フェニルエステル基、ピリジルエステル基およびスクシンイミドエステル基等の活性エステル基、混合酸無水物などへ誘導化したものを、一般式(2)で表されるジオールと反応させることで一般式(6)に示す重合体が製造できる。この場合、高分子溶解促進剤即ちリチウムブロマイドやリチウムクロライドの如き金属塩類や、硫酸などの脱水剤を使用することも可能である。
【0086】
この重合反応の方法、条件については特に制限されない。例えば、前記ジカルボン酸と前記ジオールを150℃以上で相互に溶解(溶融)させて無溶媒で反応させる方法、また有機溶媒中高温(好ましくは150℃以上)で反応させる方法、−20〜80℃の温度で有機溶媒中にて反応する方法が挙げられる。
【0087】
有機溶媒中で一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸成分のエステル形成誘導体と、一般式(2)で表されるジオールを混合し、重縮合反応させる方法が最も簡単である。重合に用いる該エステル形成誘導体の総モル数と、該ジオールの総モル数の比は、0.5〜1.5の範囲にあることが一般的であり、更に0.8〜1.2の範囲にあることが好ましい。通常の重縮合反応と同様に、この比が1に近いほど、得られる重合体の分子量は大きくなる。
【0088】
使用できる有機溶媒としては原料の両成分が溶解すれば特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ベンゼン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等のラクトン類などを例示することができる。このような有機溶媒とともに、酸受容体、例えば、ピリジン、トリエチルアミンなどを共存させて反応を行うことが効果的である。特に上記のアミド系溶媒を用いるとこれらの溶媒自身が酸受容体となり高重合度のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0089】
[ポリアミド型高分子化合物]
一般式(1)で表される、本発明の含フッ素重合性単量体であるジカルボン酸は、一般式(3)で表されるジアミン
【0090】
【化34】

【0091】
と所定の温度範囲で接触させ一般式(7)で表される「ポリアミド型高分子化合物」
【0092】
【化35】

【0093】
へと、重合することが出来る。
【0094】
一般式(3)で表されるジアミンを具体的に例示するならば、3,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビストリフルオロメチル−5,5’−ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジブロモ−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルコキシ)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジフェニル−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビナフチルアミン、o−、m−、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノジュレン、ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジアルキル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリドなどの化合物を好適に挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
この場合、ポリアミド型高分子化合物の製造方法は公知の方法を特に限定することなく使用できる。すなわち一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸を、縮合剤の存在下、一般式(3)で表されるジアミンと直接脱水縮合させることで、一般式(7)に示す重合体が製造できる。
【0096】
また、一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸の「アミド結合形成性誘導体」を利用することもできる。ここで「アミド結合形成性誘導体」とは化学反応により容易にアミド結合を形成する化合物のことである。該アミド結合形成性誘導体であるジカルボン酸のジクロライド、ジブロマイド等の酸ハロゲン化物、該ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル等のジアルキルエステル、フェニルエステル基、ピリジルエステル基およびスクシンイミドエステル基等の活性エステル基、混合酸無水物などへ誘導化したものを、一般式(3)で表されるジアミンと反応させることで一般式(7)に示す重合体が製造できる。この場合、高分子溶解促進剤即ちリチウムブロマイドやリチウムクロライドの如き金属塩類や、硫酸などの脱水剤を使用することも可能である。
【0097】
この重合反応の方法、条件については特に制限されない。例えば、前記ジカルボン酸と前記ジアミンを150℃以上で相互に溶解(溶融)させて無溶媒で反応させる方法、また有機溶媒中高温(好ましくは150℃以上)で反応させる方法、−20〜80℃の温度で有機溶媒中にて反応する方法が挙げられる。
【0098】
有機溶媒中で一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸成分のアミド形成誘導体と、一般式(3)で表されるジアミンを混合し、重縮合反応させる方法が最も簡単である。重合に用いる該アミド形成誘導体の総モル数と、該ジアミンの総モル数の比は、0.5〜1.5の範囲にあることが一般的であり、更に0.8〜1.2の範囲にあることが好ましい。通常の重縮合反応と同様に、この比が1に近いほど、得られる重合体の分子量は大きくなる。
【0099】
使用できる有機溶媒としては原料の両成分が溶解すれば特に限定されないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ベンゼン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等のラクトン類などを例示することができる。このような有機溶媒とともに、酸受容体、例えば、ピリジン、トリエチルアミンなどを共存させて反応を行うことが効果的である。特に上記のアミド系溶媒を用いるとこれらの溶媒自身が酸受容体となり高重合度のポリアミド樹脂を得ることができる。
【0100】
[ポリアミドジオール型高分子化合物]
一般式(1)で表される、本発明の含フッ素重合性単量体であるジカルボン酸は、一般式(4)で表されるジアミノジオール
【0101】
【化36】

【0102】
と所定の温度範囲で接触させ一般式(8)で表される「ポリアミドジオール型高分子化合物」
【0103】
【化37】

【0104】
へと、重合することが出来る。
【0105】
一般式(4)で表されるジアミノジオールを具体的に例示するならば、2,4−ジアミノ−1,5−ベンゼンジオール、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)プロパン、ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタンなどの化合物を好適に挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
この場合、ポリアミドジオール型高分子化合物の製造方法は公知の方法を特に限定することなく使用できる。すなわち一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸を、縮合剤の存在下、一般式(4)で表されるジアミノジオールと直接脱水縮合させることで、一般式(8)に示す重合体が製造できる。
【0107】
また、一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸の「アミド結合形成性誘導体」を利用することもできる。該アミド結合形成性誘導体を含む酸成分であるジカルボン酸のジクロライド、ジブロマイド等の酸ハロゲン化物、該ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル等のジアルキルエステル、フェニルエステル基、ピリジルエステル基およびスクシンイミドエステル基等の活性エステル基、混合酸無水物などへ誘導化したものを、一般式(4)で表されるジアミノジオールと反応させることで一般式(8)に示す重合体が製造できる。この場合、高分子溶解促進剤即ちリチウムブロマイドやリチウムクロライドの如き金属塩類や、硫酸などの脱水剤を使用することも可能である。
【0108】
この重合反応の方法、条件については特に制限されない。重合の素反応がアミド形成反応であることから、前述した一般式(7)で表されるポリアミド樹脂生成と同様の方法、および溶媒種を用いることが出来る。
【0109】
上記方法により得られたポリアミドフェノール樹脂は、さらに脱水閉環させることにより、一般式(9)で表されるポリベンズオキサゾール樹脂
【0110】
【化38】

【0111】
に誘導することができる。
【0112】
脱水閉環反応には公知の方法であれば、特に限定することなく使用できる。環化は、熱、酸触媒、塩基触媒など脱水条件を促進する種々の方法で行うことができる。加熱閉環を行う場合、80〜400℃の温度で処理可能であるが、特に150〜350℃の温度範囲が好ましい。閉環温度が150℃以下の場合は閉環率が低いためポリベンズオキサゾール膜の膜強度が損なわれるため好ましくなく、350℃以上の場合は塗膜が着色したり脆くなるので問題がある。酸触媒としてp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などを、塩基触媒としてトリエチルアミン、ピリジンなどを用いることが出来る。また、閉環後のポリベンズオキサゾールが有機溶媒に可溶であれば、無水酢酸などの脱水試薬とピリジン、トリエチルアミンなどの有機塩基を用いて有機溶液中で化学的に閉環することも可能である。
【0113】
環化(脱水閉環)させた場合、耐熱性の向上、溶解性変化、屈折率や誘電率の低下、撥水撥油性の発現など、大きな物性面の変化を伴う樹脂変性を行うことができる。
【0114】
[高度にフッ素化されたポリアミド型高分子化合物]
一般式(1)で表される、本発明の含フッ素重合性単量体であるジカルボン酸は、一般式(5)で表されるヘキサフルオロイソプロパノール部位が置換したジアミノジオール
【0115】
【化39】

【0116】
と所定の温度範囲で接触させ一般式(10)で表される「高度にフッ素化されたポリアミド型高分子化合物」
【0117】
【化40】

【0118】
へと、重合することが出来る。
【0119】
一般式(5)で表されるヘキサフルオロイソプロパノール部位が置換したジアミノジオールを具体的に例示するならば、
【0120】
【化41】

【0121】
【化42】

【0122】
などの化合物を好適に挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
この場合、含フッ素ポリアミドジオール型高分子化合物の製造方法は公知の方法を特に限定することなく使用できる。すなわち一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸を、そのエステル結合形成性誘導体を含む酸成分であるジカルボン酸のジクロライド、ジブロマイド等の酸ハロゲン化物、該ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル等のジアルキルエステル、フェニルエステル基、ピリジルエステル基およびスクシンイミドエステル基等の活性エステル基、混合酸無水物などへ誘導化したものを、一般式(5)で表される含フッ素ジアミノジオールと反応させることで一般式(10)に示す重合体が製造できる。また、一般式(1)で表される含フッ素ジカルボン酸の「アミド結合形成性誘導体」を利用することもできる。該アミド結合形成性誘導体を含む酸成分であるジカルボン酸のジクロライド、ジブロマイド等の酸ハロゲン化物、該ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル等のジアルキルエステル、フェニルエステル基、ピリジルエステル基およびスクシンイミドエステル基等の活性エステル基、混合酸無水物などへ誘導化したものを、一般式(5)で表されるジアミノジオールと反応させることで一般式(10)に示す重合体が製造できる。この場合、高分子溶解促進剤即ちリチウムブロマイドやリチウムクロライドの如き金属塩類や、硫酸などの脱水剤を使用することも可能である。
【0124】
この重合反応の方法、条件については特に制限されない。重合の素反応がアミド形成反応であることから、前述した一般式(7)で表されるポリアミド樹脂生成と同様の方法、および溶媒種を用いることが出来る。
【0125】
上記方法により得られた一般式(10)で表される高度にフッ素化したポリアミド樹脂は、さらに脱水閉環させることにより、一般式(11)で表される「ヘテロ環型高分子化合物」
【0126】
【化43】

【0127】
に誘導することができる。
【0128】
脱水閉環反応の条件には、特に制限はないが、環化は、熱、酸触媒、塩基触媒など脱水条件を促進する種々の方法で行うことができる。一般式(9)で表されるオキサゾール環を形成するよりも、温和な条件で脱水閉環することができる。
【0129】
特に一般式(11)で表される「ヘテロ環型高分子化合物」は、トリフルオロメチル基を含有したヘテロ環を含有していることために、一般式(9)で表されるポリベンズオキサゾールよりも、低誘電、低吸水、高透明性を示す。
【0130】
本発明の含フッ素重合体は有機溶媒に溶解したワニス状態、または粉末状態、フィルム状態、固体状態で使用に供することが可能である。その際、得られた重合体中には必要に応じて酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤および増感剤等の添加物が混合されていても差し支えない。ワニスで使用する場合は、ガラス、シリコンウエーハ、金属、金属酸化物、セラミックス、樹脂などの基材上にスピンコート、スプレーコート、フローコート、含浸コート、ハケ塗りなど通常用いられる方法で塗布することができる。
【0131】
[5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法]
上述したように、o−キシレン、m−キシレンまたはp−キシレンのいずれかを出発原料に用い、ヘキサフルオロアセトンを作用させて、1個の2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル基を導入し、次いで、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を用いてメチル基を酸化することによって、4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,2−ベンゼンジカルボン酸(Journal of Organic Chemistry, 1965年,第30巻,998頁〜1001頁、および米国特許第4045408号公報:反応式[2])、4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸(実施例1:反応式[3])および2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸(実施例2:反応式[4])を得ることができる。
【0132】
【化44】

【0133】
しかし、上述したように、反応式[2]で得られる4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,2−ベンゼンジカルボン酸からはポリエステル、ポリアミド、ポリベンズオキサゾールなどの直線状の高分子、特に耐熱性を指向した芳香族高分子を合成するのは困難である。
【0134】
それに対し、本発明の2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸および4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸はより高い直線性を有しており、各種高分子の構成ユニットとして好適に機能する。
【0135】
しかしながら、対称性の観点からすると、下記に示す5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸
【0136】
【化45】

【0137】
は、さらに優れた構成ユニットと考えられる。このような構造の化合物の製造法はこれまで知られておらず、上述したm−キシレンとヘキサフルオロアセトンとの反応では、配向性の問題から製造するのは不可能である(反応式[3])。
【0138】
本発明者らは鋭意検討した結果、Journal of Organometalic Chemistry,215巻,1981年,281頁〜291頁を参考にし、トリハロベンゼンを出発原料に用いて、目的とする5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法を見出した。
【0139】
すなわち、下記の2工程を含む5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法である。
第1工程:一般式(13)
【0140】
【化46】

【0141】
で表される、1,3,5−トリハロベンゼン類を、アルキルマグネシウムハライド又はマグネシウム金属、もしくはアルキルリチウムと反応させた後に、ヘキサフルオロアセトンで処理し、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン
【0142】
【化47】

【0143】
を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンをカルボニル化して、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を得る工程。
[一般式(12)および一般式(13)において、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、アリールスルホネート基を表す。]
まず、第1工程について説明する。第1工程は下記のスキーム1に示されるように、アルキルマグネシウムハライドと反応させる場合(第1工程(a))、マグネシウム金属と反応させる場合(第1工程(b))、アルキルリチウムと反応させる場合(第1工程(c))そして、これらのいずれかの工程で得られた中間体とヘキサフルオロアセトンを反応させる工程(第1工程(d))に類別される。
【0144】
【化48】

【0145】
まず、第1工程で使用される一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類としては具体的に、1,3,5−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリヨードベンゼン、1,3,5−トリス(トリフルオロメタンスルホニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(メタンスルホニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(ベンゼンスルホニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(p−トシルスルホニル)ベンゼン等が例示される。この中でも、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリヨードベンゼンが好ましく、1,3,5−トリブロモベンゼンが特に好ましい。
【0146】
アルキルマグネシウムハライドと反応させる場合(第1工程(a))、使用アルキルマグネシウムハライドは、一般式(14)
【0147】
【化49】

【0148】
(式中、R’はアルキル基を表し、Zはハロゲン(塩素、臭素、またはヨウ素)を表す)で表される。R’で示されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、たとえば炭素数1〜8のアルキル基が挙げられ、具体的にはエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。Zで示されるハロゲン原子としては、好ましくは塩素原子、臭素原子である。)
本方法においては、まず、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類とアルキルマグネシウムハライドとを適当な溶媒中、好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応させて、3,5−ジハロフェニルマグネシウムハライドを得る。
【0149】
アルキルマグネシウムハライドの使用量は、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類に対して通常0.3〜5倍モル、好ましくは1〜2倍モルである。
【0150】
溶媒としては、エーテル系溶媒が好ましく、たとえばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブトキシメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。溶媒の使用量は、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類に対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは1〜5倍容量の範囲から適宜選択される。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が好ましい。
【0151】
一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類とアルキルマグネシウムハライドとを反応させる際の反応温度は、0℃の温度範囲から使用する溶媒の還流温度程度がよく、好ましくは0℃〜65℃、より好ましくは10〜40℃の範囲から適宜選択される。
【0152】
本反応の反応時間に特別な制限はないが、温度や、用いる基質の量等に依存して最適の反応時間は異なる。従って、ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、反応の進行状況を測定しつつ反応を実施し、原料が十分消費されたことを確認した後、本工程を終了することが好ましい。
【0153】
なお、上記アルキルマグネシウムハライドは、市販品を用いてもよく、適宜製造したものを用いてもよい。
【0154】
次に、マグネシウム金属と反応させる場合(第1工程(b))について説明する。本方法においては、まず、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類とマグネシウム金属とを適当な溶媒中、好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応させて、3,5−ジハロフェニルマグネシウムハライドを得る。
【0155】
本方法で用いられるマグネシウム金属は、塊状、テープ状、ホイル状、フレーク状、削り状、粉末状などいかなる形状をしていても良いが、反応性の点から、フレーク状、削り状、粉末状が好ましく、粉末状が特に好ましい。マグネシウム金属の使用量は一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類に対して通常0.8〜5倍モル、好ましくは1〜2倍モルである。
【0156】
溶媒としては、エーテル系溶媒が好ましく、たとえばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブトキシメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。溶媒の使用量は、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類に対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは1〜5倍容量の範囲から適宜選択される。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が好ましい。
【0157】
一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類とマグネシウム金属とを反応させる際の反応温度は、0℃から使用する溶媒の還流温度程度がよく、好ましくは0℃〜100℃、より好ましくは10〜80℃の範囲から適宜選択される。
【0158】
本反応の反応時間に特別な制限はないが、温度や、用いる基質の量等に依存して最適の反応時間は異なる。従って、ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、反応の進行状況を測定しつつ反応を実施し、原料が十分消費されたことを確認した後、本工程を終了することが好ましい。
【0159】
続いて、アルキルリチウムと反応させる場合(第1工程(c))について説明する。本方法で用いられるアルキルリチウムは、一般式(15)
【0160】
【化50】

【0161】
(式中、Tはアルキル基を表す)
で表される。Tで示されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、たとえば炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0162】
本方法においては、まず、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類とアルキルリチウムとを適当な溶媒中、好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応させて、3,5−ジハロフェニルリチウムを得る。
【0163】
アルキルリチウムの使用量は、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類に対して通常0.8〜1.5倍当量、好ましくは1〜1.2倍当量である。
【0164】
溶媒としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類などが例示できるがこれらに限られない。
【0165】
また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。溶媒の使用量は、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類に対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは1〜5倍容量の範囲から適宜選択される。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が好ましい。
【0166】
一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類とアルキルリチウムとを反応させる際の反応温度は、−150℃から200℃であり、好ましくは−110℃から使用する溶媒の還流温度程度である。
【0167】
本反応の反応時間に特別な制限はないが、温度や、用いる基質の量等に依存して最適の反応時間は異なる。従って、ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、反応の進行状況を測定しつつ反応を実施し、原料が十分消費されたことを確認した後、本工程を終了することが好ましい。
【0168】
なお、上記アルキルリチウムは、溶媒で希釈された市販品を用いてもよく、適宜製造したものを用いてもよい。
【0169】
最後に上述した第1工程(a)乃至第1工程(c)のいずれかの工程で得られた中間体とヘキサフルオロアセトンを反応させる工程(第1工程(d))について説明する。
【0170】
上述した第1工程(a)乃至第1工程(c)のいずれかの工程で得られた中間体はいずれも反応性が高く、不安定な物質であるので、通常単離精製を行わず、各工程終了後の反応液のまま第1工程(d)に供される。
【0171】
使用されるヘキサフルオロアセトン(沸点−28℃)はガスとして反応液に吹き込んでも良いし、冷却して液体として添加しても良い。ただし使用されるヘキサフルオロアセトンは十分に乾燥して、水分を含んでいないものを使用しなければならず、この場合水和物は使用できない。
【0172】
ヘキサフルオロアセトンをガスとして使用する場合、ヘキサフルオロアセトンの反応系外への流出を防ぐための装置(冷却装置もしくは密封反応器)を使用することが好ましく、装置としては密封反応器が特に好ましい。
【0173】
本反応に使用するヘキサフルオロアセトンの量は、一般式(13)で表される1,3,5−トリハロベンゼン類に対して、通常0.8当量〜5当量が好ましく、さらに好ましくは1当量〜2当量である。これ以上使用しても反応は問題なく進行するが、経済性の面から好ましくない。
【0174】
本反応は、通常、−200℃〜50℃の温度範囲で行われるが、−150℃〜室温が好ましく、−100℃〜室温が特に好ましい。−200℃より低い場合は反応が進行し難いので好ましくなく、50℃以上の温度では副反応が進行するので好ましくない。
【0175】
本反応は溶媒を使用して行うのが好ましい。使用される溶媒としては、反応に関与しないものなら特に制限は無いが、前述したように、第1工程(a)乃至第1工程(c)のいずれかの工程終了後の反応液にヘキサフルオロアセトンを添加するのが簡便なので、第1工程(a)乃至第1工程(c)で使用した溶媒をそのまま使用するのが好ましい。
【0176】
本反応の反応時間に特別な制限はないが、温度や、用いる基質の量等に依存して最適の反応時間は異なる。従って、ガスクロマトグラフィー等、汎用の分析手段により、反応の進行状況を測定しつつ反応を実施し、原料が十分消費されたことを確認した後、本工程を終了することが好ましい。
【0177】
反応終了後、抽出、蒸留、晶析等の通常の手段により、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンを得ることができる。また、必要によりカラムクロマトグラフィーあるいは再結晶等により精製することもできる。
【0178】
次いで第2工程について説明する。
【0179】
【化51】

【0180】
本工程では、カルボニル化剤として一酸化炭素又は二酸化炭素を用い、上記スキーム2で示すように、5つの工程の何れかを経由することで、目的である5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸が得られる。
【0181】
すなわち、
(1)アルキルマグネシウムハライドと反応させて、グリニア試薬へ変換(この反応工程を「第2工程(a)」と呼ぶ)し、カルボニル化剤として二酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化(この反応工程を「第2工程(e)」と呼ぶ)する工程、
(2)マグネシウム金属と反応させて、グリニア試薬を調製(この反応工程を「第2工程(b)」と呼ぶ)し、カルボニル化剤として二酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化(この反応工程を「第2工程(e)」と呼ぶ)する工程、
(3)アルキルリチウムと反応させて、有機リチウム試薬に変換(この反応工程を「第2工程(c)」と呼ぶ)し、カルボニル化剤として二酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化(この反応工程を「第2工程(e)」と呼ぶ)する工程、
(4)パラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させ、カルボニル化剤として一酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化(この反応工程を「第2工程(d)」と呼ぶ)する工程、である。いずれの工程でも5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸が得られ、反応が良好に進行する。以下、これら5つの工程について詳細に説明する。
【0182】
まず、第2工程(a)及び(e)である、アルキルマグネシウムハライドと反応させて、グリニア試薬へ変換し、カルボニル化剤として二酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化する工程について説明する。本方法で用いられるアルキルマグネシウムハライドは、第1工程同様、一般式(14)
【0183】
【化52】

【0184】
(式中、R’はアルキル基を表し、Zはハロゲン(塩素、臭素、またはヨウ素)を表す)で表される。R’で示されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、たとえば炭素数1〜8のアルキル基が挙げられ、具体的にはエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。Zで示されるハロゲン原子としては、好ましくは塩素原子、臭素原子である。)
本方法においては、まず、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンとアルキルマグネシウムハライドとを適当な溶媒中、好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応させて5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を得る。
【0185】
アルキルマグネシウムハライドの使用量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンに対して通常1〜10倍モル、好ましくは2〜4倍モルである。
【0186】
溶媒としては、エーテル系溶媒が好ましく、たとえばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブトキシメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。溶媒の使用量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンに対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは1〜5倍容量の範囲から適宜選択される。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が好ましい。
【0187】
一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンとアルキルマグネシウムハライドとを反応させる際の反応温度は、0℃の温度範囲から使用する溶媒の還流温度程度がよく、好ましくは0℃〜65℃、より好ましくは10〜40℃の範囲から適宜選択される。また、反応時間は1〜48時間が好ましい。なお、上記アルキルマグネシウムハライドは、市販品を用いてもよく、適宜製造したものを用いてもよい。
【0188】
次に、第2工程(e)のカルボニル化工程の実施方法について説明する。本工程で用いられるカルボニル化剤は、二酸化炭素が用いられ、二酸化炭素の常温、常圧での状態に関しては、それぞれ気体状態又は固体状態、特に制限はない。これらに関しては、当業者が適宜選択することができる。
【0189】
系内を、気体状態の二酸化炭素で置換する場合、加圧下で反応を行うことができる。まず、反応器に、原料である、グリニア試薬を含んだ第2工程(a)終了後の反応液を仕込んだ後、反応器を密閉する。
【0190】
固体状態の二酸化炭素(ドライアイス)を用いる場合、取り扱いが容易なことから、常圧下で反応を行うことができる。
【0191】
カルボニル化反応は攪拌または無攪拌下で加熱して行う。加圧下で反応を行う場合、圧力は、通常、0.1〜1.2kPa、好ましくは0.5〜1.0kPa、さらに好ましくは0.5〜0.8kPaとするのがよい。この範囲より低い場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、あるいは、反応速度が低下して反応終了までに長時間を要するなどの問題を生ずる場合があり好ましくない。また、1.2kPaより高くしても、反応速度や本工程で目的物の収量にほとんど変化はないため、好ましくない。
【0192】
加圧下で反応を行う際の使用する反応器については、ステンレス鋼、ハステロイ、モネルなどの金属製容器を用いて行うことができる。常圧下で反応を行う場合、反応器に関しても、当業者が適宜選択することができる。
【0193】
気体状態又はドライアイスを反応系内に加える際の反応温度については、−150℃から200℃がよく、好ましくは−110℃から使用する溶媒の還流温度程度である。
【0194】
次に、第2工程(b)及び(e)である、マグネシウム金属と反応させて、グリニア試薬を調製し、カルボニル化剤として二酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化する工程について説明する。本方法においては、まず、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンとマグネシウム金属とを適当な溶媒中、好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応させて、グリニア試薬を得る。
【0195】
本方法で用いられるマグネシウム金属は、塊状、テープ状、ホイル状、フレーク状、削り状、粉末状などいかなる形状をしていても良いが、反応性の点から、フレーク状、削り状、粉末状が好ましく、粉末状が特に好ましい。マグネシウム金属の使用量は一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンに対して通常1〜10倍モル、好ましくは2〜5倍モルである。
【0196】
溶媒としては、エーテル系溶媒が好ましく、たとえばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブトキシメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。溶媒の使用量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンに対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは1〜5倍容量の範囲から適宜選択される。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が好ましい。
【0197】
一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンとマグネシウム金属とを反応させる際の反応温度は、0℃から使用する溶媒の還流温度程度がよく、好ましくは0℃〜100℃、より好ましくは10〜80℃の範囲から適宜選択される。また、反応時間は1〜48時間が好ましい。
【0198】
第2工程(e)のカルボニル化工程の実施方法については、前述した通りである。
【0199】
加圧下で反応を行う際の使用する反応器についても第2工程(e)と同様に、ステンレス鋼、ハステロイ、モネルなどの金属製容器を用いて行うことができる。常圧下で反応を行う場合、反応器に関しても、当業者が適宜選択することができる。
【0200】
次に、第2工程(c)及び(e)である、アルキルリチウムと反応させて、有機リチウム試薬に変換し、カルボニル化剤として二酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化する工程について説明する。本方法で用いられるアルキルリチウムは、第1工程同様、一般式(15)
【0201】
【化53】

【0202】
(式中、Tはアルキル基を表す)
で表される。Tで示されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、たとえば炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0203】
本方法においては、まず、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンとアルキルリチウムとを適当な溶媒中、好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応させて、有機リチウム試薬を得る。
【0204】
アルキルリチウムの使用量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンに対して通常1〜10倍当量、好ましくは2〜5倍当量である。
【0205】
溶媒としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類などが例示できるがこれらに限られない。
【0206】
また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。溶媒の使用量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンに対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは1〜5倍容量の範囲から適宜選択される。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が好ましい。
【0207】
一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンとアルキルリチウムとを反応させる際の反応温度は、−150℃から200℃であり、好ましくは−110℃から使用する溶媒の還流温度程度である。また、反応時間は1〜48時間が好ましい。なお、上記アルキルリチウムは、溶媒で希釈された市販品を用いてもよく、適宜製造したものを用いてもよい。
【0208】
第2工程(e)のカルボニル化工程の実施方法については、前述した通りである。
【0209】
加圧下で反応を行う際の使用する反応器についても第2工程(e)と同様に、ステンレス鋼、ハステロイ、モネルなどの金属製容器を用いて行うことができる。常圧下で反応を行う場合、反応器に関しても、当業者が適宜選択することができる。
【0210】
次に、第2工程(d)である、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下で反応させ、カルボニル化剤として一酸化炭素(CO)を用いてカルボニル化する工程について説明する。用いるパラジウム触媒としては、具体的には、パラジウム担持活性炭、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトナト)パラジウム、PdCl[P(o−Me−Ph)、PdCl[P(m−Me−Ph)、PdCl[P(p−Me−Ph)、PdCl2(PMe32、PdBr2(PPh32、PdCl2〔P(Ph)2CH2CH2P(Ph)2〕、PdCl2〔P(Ph)2CH2CH2CH2CH2P(Ph)2〕、PdCl2(PhCN)、Pd(CO)(PPh33、PhPdI(PPh32、PhPdBr(PPh32、PhPdBr(PMePh22、PdCl2(PMePh22、PdCl2(PEt2Ph)2、PdCl2(PMe2Ph)2、Pd2Br4(PPh32、PdCl[P(Ph)等が好ましい。ここでPhはフェニル基、Meはメチル基、Etはエチル基、o−はオルト置換、m−はメタ置換、p−はパラ置換を表す。
【0211】
これらは何れも満足すべき触媒活性を示すが、安価で取り扱いやすい塩化パラジウム、酢酸パラジウム、PdCl[P(Ph)、PdCl2〔P(Ph)2CH2CH2CH2CH2P(Ph)2〕など、2価のPd錯体が経済的に特に好ましい。
【0212】
パラジウム触媒の添加量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン1モル当たり、通常、0.0001〜0.2モルの範囲を適宜選択することができるが、好ましくは0.001〜0.1モルであり、更に好ましくは0.001〜0.05モルである。
【0213】
第2工程(d)はパラジウム触媒のみでも進行するが、助触媒として3価のリン化合物を用いるとパラジウム錯体の活性が維持されやすいため、特に好ましい。ここで助触媒とは、触媒の活性または選択性を増大させるために少量添加される物質をいう。それらとしては、一般式(16)
【0214】
【化54】

【0215】
(一般式(16)中、R 、R およびR は、同一または相異なるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン原子を示す。)で示される化合物が好ましく、具体的にはトリ−n−ブチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリ−o−トリルホスファイト、三塩化リンなどが例示される。またこの他に、一般式(17)
【0216】
【化55】

【0217】
(一般式(17)中、RおよびRは前記と同じ、Qは−(CH2m−(mは1〜8の整数。より好ましくは1〜4の整数。)で表されるアルキレン基を表す)
で表されるホスフィンも好ましい。具体的には1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンなどが例示できる。これらのリン化合物使用量は、通常上記の金属触媒1モル当たり、0.5〜50モルの範囲を適宜選択することができる。ここで言う3価のリン化合物は、それ自身の遊離の化合物でも良く、PdCl[P(Ph)などのように、パラジウム触媒にあらかじめ配位子として取り込まれたものでも良く、両者を併用してもよい。
【0218】
第2工程(d)に用いられる塩基性物質に特別な制限はないが、pHが8以上となる強度を有する塩基性物質が好ましい。塩基としてはアンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等の第2級アミン、プロピルアミン、ブチルアミン等の第1級アミン等の有機塩基が挙げられるが、中程度の強度を有する塩基である、有機アミン類が好ましい。具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジ−イソプロピルエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、ルチジン、2−メチルピリジン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン等が挙げられるが、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0219】
塩基の使用量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン1モル当たり、通常1〜50モルの範囲を適宜選択することができるが、好ましくは1〜20モルであり、更に好ましくは1〜10モルである。上記反応は通常窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行われる。通常、反応温度は−50℃〜160℃、好ましくは−10℃〜100℃で、さらに好ましくは−5℃〜50℃の範囲である。
【0220】
第2工程(d)は、溶媒の存在下で実施することが好ましい。溶媒としては反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトン等のアルキルケトン類、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒、あるいは水が例示できる。これらのうち、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アルコール類であるメタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等が好ましく使用されるが、水が、特に好ましく使用される。また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。溶媒の使用量は、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンに対して通常0.5〜10倍容量、好ましくは1〜7倍容量の範囲から適宜選択される。
【0221】
第2工程(d)の反応温度は特に限定されないが、通常、−50℃〜200℃、好ましくは−10℃〜180℃で、さらに好ましくは−5℃〜150℃の範囲である。
【0222】
次に、第2工程(d)のカルボニル化工程の実施方法を説明する。本工程で用いられるカルボニル化剤は、一酸化炭素が用いられ、系内を一酸化炭素で置換する場合、加圧下で反応を行うことができる。まず、反応器に、原料である一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン、パラジウム触媒、塩基性物質、溶媒を仕込んだ後、反応器を密閉する。
【0223】
第2工程(d)のカルボニル化工程は攪拌または無攪拌下で加熱して行う。加圧下で反応を行う場合、圧力は、通常、0.1〜1.2kPa、好ましくは0.5〜1.0kPa、さらに好ましくは0.5〜0.8kPaとするのがよい。この範囲より低い場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、あるいは、反応速度が低下して反応終了までに長時間を要するなどの問題を生ずる場合があり好ましくない。また、1.2kPaより高くしても、反応速度や本工程で目的物の収量にほとんど変化はないため、好ましくない。
【0224】
加圧下で反応を行う際の使用する反応器については、ステンレス鋼、ハステロイ、モネルなどの金属製容器を用いて行うことができる。
【0225】
上述した第2工程(e)及び第2工程(d)のいずれかの反応終了後の反応物の処理は、通常の有機合成の処理法に基づいて行えばよい。例えば、反応液に塩酸水溶液を添加し、酢酸エチル、トルエン、塩化メチレンなどの有機溶媒にて抽出した後、乾燥剤等で水分を除去、溶媒留去することもできる。更に、得られた5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の粗体に、水酸化ナトリウム等の無機塩基の水溶液を添加し、安息香酸塩として水溶液中に溶解させた後、ヘキサンやヘプタンなどの有機溶媒にて有機不純物を抽出し、残った水溶液を塩酸などの酸を用いて酸性にし、再度酢酸エチル、トルエン、塩化メチレンなどの有機溶媒にて抽出した後、乾燥剤等で水分を除去、溶媒留去する方法は特に好ましい態様の一つである。
【0226】
[実施例]
以下、実施例を示し本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0227】
4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸(「ジカルボン酸1」)の製造
[4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジメチルベンゼンの製造]
【0228】
【化56】

【0229】
1Lの反応器に、窒素下でm−キシレン 100.0g(0.94モル)と塩化アルミニウム 6.3g(0.047モル/0.05等量)を加え、内温を10℃とした。そこにヘキサフルオロアセトン 164.2g(0.99モル/1.05等量)を10−25℃の温度範囲で導入した。導入後、室温で1時間攪拌した。その後、10%塩酸 100mLを加え分液し、さらに水層をクロロホルム 40mLで2回抽出した。得られた有機層を合わせ、無水硫酸マグネシウムで水分を除去、ろ過を行った後、濃縮し、減圧蒸留を行うことにより、4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジメチルベンゼンを227.6g得た。このとき純度は95%、収率は84%であった。
[4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジメチルベンゼンの物性]
1H NMR (DMSO-d6) : δ 8.37 (s, 1H), 7.34 (d, J = 8.0 Hz, 1H),7.12-7.06 (m, 2H),2.52 (s, 3H), 2.26 (s, 3H)。
19F NMR (DMSO-d6):δ -72.1 (s, 6F, CF3)。
【0230】
[4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造]
【0231】
【化57】

【0232】
300mLの反応器に、得られた 4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジメチルベンゼン 10.0g(36.7ミリモル、純度95%)、0.15N NaOH 150mLを加え、85℃に加熱した。ここに 過マンガン酸カリウム 26.1g(165.3ミリモル/4.7等量)を少量ずつ1時間かけて加え、90℃で4時間攪拌した。反応後、濃塩酸 11mLを加え、亜硫酸ナトリウムで脱色し、ジイソプロピルエーテル 200mLで抽出を行った。さらに水層をジイソプロピルエーテル 50mLで2回抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後、濾過、濃縮、乾燥し、薄黄色粉末を得た。得られた薄黄色粉末にトルエン 30mL、アセトニトリル 4mLを加えて還流後、冷却することで再結晶し、目的の 4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸 6.1gを得た。このとき収率は50%、純度は99.5%であった。
【0233】
[4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の物性]
1H NMR (DMSO-d6) : δ 8.64 (dd, J = 8.0 and 1.2 Hz, 1H), 8.61 (s, 1H),8.28 (d, J = 8.0 Hz, 1H)。
【0234】
13C NMR (DMSO-d6) : δ 165.83 (s), 165.34 (s), 139.80 (s), 138.45 (s), 137.56 (s), 128.62 (s), 125.90 (s), 125.77 (s), 121.15 (q, J = 284.7 Hz), 81.67 (sept, J= 32.9 Hz)。
19F NMR (DMSO-d6):δ -73.7 (s, 6F, CF3)。
【実施例2】
【0235】
2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸(「ジカルボン酸2」)の製造
[2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ジメチルベンゼンの製造]
【0236】
【化58】

【0237】
1Lの反応器に、窒素下でp−キシレン 200.0g(1.88モル)と塩化アルミニウム 12.5g(0.094モル/0.05等量)を加え、内温を18℃とした。そこにヘキサフルオロアセトン 327.7g(1.97モル/1.05等量)を18−25℃の温度範囲で導入した。導入後、室温で3時間攪拌した。その後、10%塩酸 200mLを加え分液し、さらに水層をクロロホルム 50mLで2回抽出した。得られた有機層を合わせ、無水硫酸マグネシウムで水分を除去、ろ過を行った後、濃縮し、減圧蒸留を行うことにより、2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ジメチルベンゼンを451.3g得た。このとき純度は92%、収率は81%であった。
[2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ジメチルベンゼンの物性]
1H NMR (DMSO-d6) : δ 8.40 (s, 1H), 7.24 (s, 1H),7.15 (s, 2H), 2.49 (s, 3H), 2.26 (s, 3H)。
19F NMR (DMSO-d6):δ -71.9 (s, 6F, CF3)。
【0238】
[2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸の製造]
【0239】
【化59】

【0240】
5Lの反応器に、得られた 2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ジメチルベンゼン 200.0g(0.676モル、純度92%)、0.15N NaOH 3.0Lを加え、85℃に加熱した。ここに 過マンガン酸カリウム 480.7g(3.04モル、4.5等量)を少量ずつ3時間かけて加え、90℃で4時間攪拌した。反応後、濃塩酸 200mLを加え、亜硫酸ナトリウムで脱色し、ジイソプロピルエーテル 1.4Lで抽出を行った。さらに水層をジイソプロピルエーテル 500mLで2回抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後、濾過、濃縮、乾燥し、薄黄色粉末を得た。得られた薄黄色粉末にトルエン 560mL、アセトニトリル 80mLを加えて還流後、冷却することで再結晶し、目的の 2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸 131.1gを得た。このとき収率は58%、純度は99.8%であった。
【0241】
[2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸の物性]
1H NMR (DMSO-d6) : δ 8.45 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 8.31 (d, J= 7.6 Hz, 1H),8.27 (s, 1H)。
【0242】
13C NMR (DMSO-d6) : δ 165.16 (s), 164.62 (s), 138.93 (s), 136.24 (s), 135.2-134.5 (m), 128.8-127.9 (m), 127.56 (s), 124.9-123.8 (m), 120.48 (q, J = 284.7 Hz), 80.89 (sept, J = 33.0 Hz)。
19F NMR (DMSO-d6):δ -73.8 (s, 6F, CF3)。
【実施例3】
【0243】
5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸(「ジカルボン酸3」)の製造
[1−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−3,5−ジブロモベンゼンの製造]
【0244】
【化60】

【0245】
窒素雰囲気下、500mLのガラスフラスコに1,3,5−トリブロモベンゼン 30.0g(95.0mmol)、ジエチルエーテル 400mLを投入した後、−78℃に冷却した。−78℃にて1.6Mノルマルブチルリチウムヘキサン溶液 60ml(96.0mmol)を1時間かけて滴下し、続いて、−78℃にて熟成を1時間行なった。ガスクロマトグラフィーにてリチオ化を確認した後、ヘキサフルオロアセトン16.6g(100.0mmol)を−78℃にて吹込み、1時間攪拌した。攪拌終了後、2N塩酸 400mLに反応液を添加し有機層と水層を分離した。水層をイソプロピルエーテル 100mLで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。エバポレーターにて濃縮した後、固体蒸留にて23.0g、収率60%で1−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−3,5−ジブロモベンゼンを得た。
【0246】
[1−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−3,5−ジブロモベンゼンの物性]
1H NMR (CDCl3) : δ 7.79 (s, 3H)。
19F NMR (CDCl3) : δ -76.0 (s, 6F, CF3)。
【0247】
[5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造]
【0248】
【化61】

【0249】
10mlオートクレーブに得られた1−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−3,5−ジブロモベンゼン 1.00g(2.6mmol)、酢酸パラジウム 0.056g(0.25mmol)、トリフェニルホスフィン 0.263g(1.0mmol)、トリエチルアミン 1.01g(10.0mmol)、水 0.50g、テトラヒドロフラン 2.0gを投入した。その後、一酸化炭素圧2MPaにて100℃で17時間反応させた。反応終了後、反応液に2N塩酸 5mLを加えた。続いて、イソプロピルエーテル 5mLにて抽出し有機層を分離した。この有機層に7%水酸化ナトリウム水溶液 6mL加え水層を分離した。水層を ヘプタン 3mLで洗浄後、6N 塩酸 6mLを加えた。析出した固体をろ過にて単離しヘプタン 5mLで洗浄したところ、0.35g、収率41%で5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を得た。
【0250】
[5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の物性]
1H NMR (CDCl3) : δ 9.27 (s, 1H), 8.58 (t, 1H), 8.46 (s, 2H)。
19F NMR (CDCl3) : δ -73.5 (s, 6F, CF3)。
【実施例4】
【0251】
ポリマー1の合成
【0252】
【化62】

【0253】
ジカルボン酸2を2.00 g (6.0 mmol)、ビスフェノールAを1.37 g (6.0 mmol)、縮合剤としてトリフェニルホスフィンジクロリドを4.19 g (12.6 mmol)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を12.0gを三口フラスコ中で混合し、窒素雰囲気下、室温で3時間攪拌した。得られた粘ちょう溶液を300mLのメタノールに投入し、得られた沈殿をろ別回収後、80℃で真空乾燥した。2.84 g (収率91 %)のポリマー1を得た。結果を表1に示した。
【0254】
得られたポリマー1を1.00 g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を4.00 gを混合し、均一溶液を作成した。得られた溶液を濾過後、濾液をガラス基板上にスピンコート塗布し、窒素雰囲気下、80℃で30分、150℃で30分、250℃で1時間加熱処理した。ガラス基板上に作成したフィルム片を剥離し、形状の保持された透明フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【実施例5】
【0255】
ポリマー2の合成
【0256】
【化63】

【0257】
【化64】

【0258】
ジカルボン酸1を2.00 g (6.0 mmol)、ジアミン1を1.37 g (6.0 mmol)、縮合剤としてトリフェニルホスフィンジクロリドを4.19 g (12.6 mmol)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を19.0 gを三口フラスコ中で混合し、実施例4と同様の方法にてポリマー2を90%収率で得た。結果を表1に示した。
【0259】
得られたポリマー2を1.00 g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を4.00 gを混合し、
均一溶液を作成した。得られた溶液を濾過後、濾液をガラス基板上にスピンコート塗布し、窒素雰囲気下、80℃で30分、150℃で30分、250℃で1時間加熱処理した。ガラス基板上に作成したフィルム片を剥離し、形状の保持された透明フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【実施例6】
【0260】
ポリマー3の合成
【0261】
【化65】

【0262】
【化66】

【0263】
ジカルボン酸3を2.00 g (6.0 mmol)、ビスアミノフェノール1を2.20 g (6.0 mmol)、縮合剤としてトリフェニルホスフィンジクロリドを4.19 g (12.6 mmol)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を20.0 gを三口フラスコ中で混合し、実施例4と同様の方法にてポリマー3を85%収率で得た。結果を表1に示した。
【実施例7】
【0264】
ポリマー4の合成
【0265】
【化67】

【0266】
実施例6で得られたポリマー3を1.00 g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を4.00 gを混合し、均一溶液を作成した。得られた溶液を濾過後、濾液をガラス基板上にスピンコート塗布し、窒素雰囲気下、80℃で30分、150℃で30分、250℃で30分、320℃で1時間加熱処理した。ガラス基板上に作成したフィルム片を剥離し、形状の保持された透明フィルムを得た。IR分析から、得られたフィルムの構造はポリマー4であることがわかった。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【実施例8】
【0267】
ポリマー5の合成
【0268】
【化68】

【0269】
【化69】

【0270】
ジカルボン酸3を2.00 g (6.0 mmol)、ジアミノジオール1を3.19 g (6.0 mmol)、縮合剤としてトリフェニルホスフィンジクロリドを4.19 g (12.6 mmol)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を26.0 gを三口フラスコ中で混合し、実施例4と同様の方法にて、ポリマー5を収率87%で得た。結果を表1に示した。
【実施例9】
【0271】
ポリマー6の合成
【0272】
【化70】

【0273】
実施例8で得られたポリマー5を1.00 g、DMFを4.00 gを混合し、均一溶液を作成した。得られた溶液を濾過後、濾液をガラス基板上にスピンコート塗布し、窒素雰囲気下、80℃で30分、150℃で30分、250℃で1時間加熱処理した。ガラス基板上に作成したフィルム片を剥離し、形状の保持された透明フィルムを得た。IR分析から、得られたフィルムの構造はポリマー6であることがわかった。得られたフィルムの物性は表2に示した。
【0274】
[比較例1]
ポリマー7の合成
【0275】
【化71】

【0276】
【化72】

【0277】
ジカルボン酸2の代わりにジカルボン酸4を用いて、実施例4と同様の手法にてポリマー7の形状の保持された透明フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【0278】
[比較例2]
ポリマー8の合成
【0279】
【化73】

【0280】
ジカルボン酸1の代わりにジカルボン酸4を用いて、実施例5と同様の手法にてポリマー8の形状の保持された透明フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【0281】
[比較例3]
ポリマー9の合成
【0282】
【化74】

【0283】
実施例6のジカルボン酸3の代わりにジカルボン酸4を用いて、実施例6,7と同様の手法にてポリマー9の形状の保持された透明フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【0284】
[比較例4]
ポリマー10の合成
【0285】
【化75】

【0286】
実施例8のジカルボン酸3の代わりにジカルボン酸4を用いて、実施例8,9と同様の手法にてポリマー10の形状の保持された透明フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【0287】
【表1】

【0288】
【表2】

【0289】
表2に示した物性結果で、ヘキサフルオロイソプロパノール基が置換したポリマー(実
施例4,5、7、9)は、フェノール性水酸基が置換したポリマー(比較例1、2、3,4)よりも低誘電率で、低吸水性であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

で表される含フッ素ジカルボン酸。
[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つのカルボキシル基が隣接して芳香環上に置換している化合物を除く。]
【請求項2】
含フッ素ジカルボン酸である、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸。
【請求項3】
含フッ素ジカルボン酸である、2−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,4−ベンゼンジカルボン酸。
【請求項4】
含フッ素ジカルボン酸である、4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるエステル形成誘導体を、一般式(2)で表されるジオール
【化2】

と接触させ、反応させることにより得られる一般式(6)
【化3】

で表される高分子化合物。[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つの(-CO)基は隣接して芳香環上に置換しない。Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した2価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。mは正の整数である。]
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるアミド形成誘導体を、一般式(3)で表されるジアミン
【化4】

と接触させ、反応させることにより得られる一般式(7)
【化5】

で表される高分子化合物。[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つの(-CO)基は隣接して芳香環上に置換しない。Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した2価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。mは正の整数である。]
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるアミド形成誘導体を、一般式(4)で表されるジアミノジオール
【化6】

と接触させ、反応させることにより得られる一般式(8)
【化7】

で表される高分子化合物。[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つの(-CO)基は隣接して芳香環上に置換しない。Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した4価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。mは正の整数である。]
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の含フッ素ジカルボン酸もしくは該含フッ素ジカルボン酸から誘導されるアミド形成誘導体を、一般式(5)で表されるヘキサフルオロイソプロパノール部位が置換したジアミノジオール
【化8】

と接触させ、反応させることにより得られる一般式(10)
【化9】

で表される高分子化合物。[式中、nは1〜4の整数である。ただし、二つの(-CO)基は隣接して芳香環上に置換しない。Rは脂環、芳香環、縮合多環式芳香環、複素環から選ばれた一種以上を含有した4価以上の有機基であり、フッ素、塩素、酸素、硫黄、又は窒素を含有してもよく、水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、又はシアノ基で置換されていてもよい。mは正の整数である。]
【請求項9】
請求項7記載の一般式(8)で表される高分子化合物を脱水閉環することで得られる、下記一般式(9)で表される高分子化合物。
【化10】

[式中、nは一般式(1)におけるnと同義であり、Rは一般式(4)におけるRと同義である。高分子の主鎖は、芳香環上に互いに隣接して結合しない。mは正の整数である。]
【請求項10】
請求項8記載の一般式(10)で表される高分子化合物を脱水閉環することで得られる、下記一般式(11)で表される高分子化合物。
【化11】

[式中、nは一般式(1)におけるnと同義であり、Rは一般式(5)におけるRと同義である。高分子の主鎖は、芳香環上に互いに隣接して結合しない。mは正の整数である。]
【請求項11】
一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン
【化12】

をカルボニル化して、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を得ることを特徴とする、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。
[一般式(12)において、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、アリールスルホネート基を表す。]
【請求項12】
下記の2工程を含む5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。
第1工程:一般式(13)
【化13】

で表される、1,3,5−トリハロベンゼン類を、アルキルマグネシウムハライド又はマグネシウム金属、もしくはアルキルリチウムと反応させた後に、ヘキサフルオロアセトンで処理し、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼン
【化14】

を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンをカルボニル化して、5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸を得る工程。
[一般式(12)および一般式(13)において、Xはハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメタンスルホネート基、炭素数1〜4のアルキルスルホネート基、アリールスルホネート基を表す。]
【請求項13】
カルボニル化が、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンを、パラジウム触媒と塩基性物質の存在下、一酸化炭素(CO)と反応させることによりなされる、請求項11または請求項12に記載の5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。
【請求項14】
カルボニル化が、一般式(12)で表される5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ジハロベンゼンを、アルキルマグネシウムハライド、マグネシウム金属もしくはアルキルリチウムと反応させた後に、二酸化炭素(CO)と反応させることによりなされる、請求項11または請求項12に記載の5−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]−1,3−ベンゼンジカルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−41002(P2009−41002A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182822(P2008−182822)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】