説明

昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法及び装置

【課題】 キャビンが昇降しても制振効果に劣化が生じないようにする。
【解決手段】 塔状構造物本体2に昇降式のキャビン3を備えた塔状構造物1の所要個所に、可動マス12と、その固有振動数を調整するためのばね定数が調整可能なばね要素13と、ダンパ要素14とからなる振動系を備えたパッシブ型の動吸振器11を設ける。塔状構造物1にてキャビン3の高さ位置hが変化するときに、キャビン3の高さ位置hの変化と塔状構造物1の固有振動数の変化との関係を予め数値計算又は実測により蓄積したデータベースを備えた制御器16にて、キャビン3の高さ位置hの情報を基に、塔状構造物1の固有振動数を求めて、パッシブ型の動吸振器11におけるばね要素13のばね定数を、可動マス12の固有振動数が求めた塔状構造物1の固有振動数に常に同調するように調整させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降式キャビン等、塔状の構造物本体に沿って上下方向に移動可能としてある昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塔状の構造物は、減衰が小さい柔軟構造物であるため、風外力により揺れが生じ易く、このような塔状構造物の揺れが生じると、該塔状構造物のキャビン(居住区)内の人が酔ってしまうことがある。しかも、構造物は、高さが高くなると、地震荷重よりも風荷重による揺れの方が問題となり易い。そのため、塔状構造物ではキャビンの風揺れを低減することが重要な技術課題となっている。
【0003】
従来、上記塔状構造物のような高さの高い構造物に生じる揺れを低減するための対策としては、制振対象となる構造物の上部等に、水平方向に移動可能な可動マスを具備してなるマスダンパ方式の動吸振器を設置することが提案されてきている。
【0004】
上記マスダンパ方式の動吸振器の1つとして知られているパッシブ型の動吸振器は、制振対象構造物の所要個所に水平方向に移動可能に設けた可動マス(制振体)と、該可動マスの移動方向の一端側に設けた制振対象構造物上の固定部との間に、上記可動マスの固有振動数を調節するためのばね要素と、該可動マスの運動エネルギーを減衰させるためのダンパ要素とを介装して振動系を構成し、該振動系における上記可動マスの固有振動数を、制振対象構造物の固有振動数と同調させるように設定した構成としてある。
【0005】
かかる構成としてあるパッシブ型の動吸振器によれば、構造物に揺れが発生すると、その揺れエネルギーが可動マスに伝えられて、該可動マスが制振対象構造物の揺れに対して90度遅れの位相で揺れるようになり、このとき、可動マスの運動エネルギーがダンパ要素で減衰させられる結果、上記制振対象構造物の揺れが抑えられるようにしてある。
【0006】
なお、上記したように、パッシブ型の動吸振器は、制振対象構造物に最適な制振効果を与えるには、上記可動マスの固有振動数を、上記制振対象構造物の固有振動数に同調させることが必要であるため、上記パッシブ型の動吸振器を固有振動数の異なる制振対象構造物に適用する場合は、該固有振動数の異なる制振対象構造物ごとに、可動マスの固有振動数調整用のばね要素として、それぞれ異なるばね定数のばね要素を適宜設定、調整して用いる必要がある。
【0007】
しかし、上記のように、固有振動数の異なる制振対象構造物ごとに、異なるばね定数のばね要素を設定、調整するのは非常に面倒であることから、同一のパッシブ型の動吸振器にて、制振対象とする構造物の固有振動数に応じて、該動吸振器における可動マス(制振体)の固有振動数調整用のばね要素の初期張力を調整することで、該可動マスの固有振動数を調整して設定できるようにすることが従来提案されてきている(たとえば、特許文献1参照)。
【0008】
又、パッシブ型の動吸振器における可動マスの固有振動数を調整して設定できるようにするための別の手法としては、たとえば、可動マスとなる錘(重錘)を振り子のレバーに取り付けてなる構成を有する振り子式の動吸振器にて、上記振り子のレバーの長手方向に沿う上記錘の取付位置を変化させて、振り子の支点(揺動中心)から振り子の重心までの距離を変化させることで、可動マスとしての錘が取り付けてある振り子の固有振動数を調整して設定できるようにする手法が従来考えられてきている(たとえば非特許文献1参照)。
【0009】
ところで、展望タワー等の塔状構造物の1つに、塔状の構造物本体に沿ってキャビンを地上付近から最上部まで上下方向に移動できるようにしてなる形式の昇降式キャビンを備えた塔状構造物がある。
【0010】
【特許文献1】特開2003−336683号公報
【非特許文献1】近藤潔、太田徹、佐藤博一,「固有振動数の調整可能な動吸振器による船体上部構造の制振について」,日本造船学会論文集,1987年,第162号,p375−382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記パッシブ型の動吸振器は、可動マスの固有振動数を、制振対象構造物の固有振動数に同調させることで良好な制振効果を生み出すものであるため、上記パッシブ型の動吸振器を設置した制振対象構造物の振動特性が時間経過によって大きく変動する場合は、変動後の振動特性に応じて、動吸振器の可動マスの固有振動数を再調整する必要がある。
【0012】
たとえば、橋梁主塔の建設時には、主塔の架設状態によって高さが変化することで、該主塔の固有振動数が変化するため、上記橋梁主塔に設けるパッシブ型の動吸振器では、橋梁主塔の建設工程の途中で、可動マスの固有振動数を調整して設定する作業を数回行うようにしているのが実状である。
【0013】
しかし、上記昇降式キャビンを備えた塔状構造物では、キャビンが塔状構造物本体に沿って短時間で上下方向に移動するため、該塔状構造物自体の固有振動数も短時間で変動することから、特許文献1や非特許文献1に記載されたような従来のパッシブ型の動吸振器における可動マスの固有振動数を調整して設定する手法では、上記昇降式キャビンの上下方向の移動に伴う塔状構造物の短時間での固有振動数の変動に対応して、該塔状構造物の固有振動数をその都度再調整して設定することは困難である。
【0014】
しかも、上記塔状構造物ではキャビンという集中質量が移動するため、固有振動数の変動が大きくなる。そのため、たとえ、上記昇降式キャビンを備えた塔状構造物に設けたパッシブ型の動吸振器における可動マスの固有振動数を、キャビンが或る高さ位置にあるときの塔状構造物の固有振動数に同調するように設定したとしても、上記キャビンの上下方向への移動に伴い、該動吸振器による制振性能の劣化が大きくなってしまうという問題がある。
【0015】
そこで、本発明は、上記昇降式キャビンのような塔状構造物本体に沿って上下方向に移動する集中質量の昇降移動物を備えた塔状構造物にて、該昇降移動物が上下方向に移動しても、該塔状構造物に対する制振効果の劣化を回避することができる昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、塔状の構造物本体に沿って昇降可能に昇降移動物を備えた塔状構造物における上記昇降移動物の高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を、数値計算又は実測により予め求めてデータベースとして蓄積しておき、上記昇降移動物が昇降するときに、該昇降移動物の高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、該塔状構造物の所要個所に装備したパッシブ型の動吸振器における可動マスの固有振動数調整用ばね要素のばね定数を調整することにより、該動吸振器の可動マスの固有振動数を、上記データベースより求めた塔状構造物の固有振動数に常に同調させるようにする昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法とする。
【0017】
又、請求項2に対応して、塔状の構造物本体に沿って昇降可能に昇降移動物を備えた塔状構造物の所要個所に、所要質量の可動マスと、該可動マスの固有振動数を調整するためのばね定数を調整可能としたばね要素と、該可動マスの運動エネルギーを減衰させるためのダンパ要素とからなる振動系を具備したパッシブ型の動吸振器を設け、更に、上記塔状構造物における上記昇降移動物の高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を数値計算又は実測により予め求めて蓄積したデータベースを備え、且つ上記昇降移動物を昇降させるときに該昇降移動物の高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、上記パッシブ型の動吸振器におけるばね要素のばね定数の調整機構に、可動マスの固有振動数を上記データベースより求めた上記塔状構造物の固有振動数に同調させるようにするための指令を与える制御器を備えた構成を有する昇降移動物を備えた塔状構造物の制振装置とする。
【0018】
更に、上記構成において、塔状の構造物本体に沿って昇降可能に備えられる昇降移動物を、昇降式のキャビンとし、制御器を、該キャビンの高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を数値計算又は実測により予め求めてデータベースとして蓄積し、且つ上記キャビンを上下方向へ移動させるときに該キャビンの高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、パッシブ型の動吸振器におけるばね要素のばね定数の調整機構に、可動マスの固有振動数が上記データベースより求めた上記塔状構造物の固有振動数に同調するように指令を与える機能を有するものとした請求項2記載の昇降移動物を備えた構成とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)塔状の構造物本体に沿って昇降可能に昇降移動物を備えた塔状構造物における上記昇降移動物の高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を、数値計算又は実測により予め求めてデータベースとして蓄積しておき、上記昇降移動物が昇降するときに、該昇降移動物の高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、該塔状構造物の所要個所に装備したパッシブ型の動吸振器における可動マスの固有振動数調整用ばね要素のばね定数を調整することにより、該動吸振器の可動マスの固有振動数を、上記データベースより求めた塔状構造物の固有振動数に常に同調させるようにする昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法、及び、上記構成としてある塔状構造物の所要個所に、所要質量の可動マスと、該可動マスの固有振動数を調整するためのばね定数を調整可能としたばね要素と、該可動マスの運動エネルギーを減衰させるためのダンパ要素とからなる振動系を具備したパッシブ型の動吸振器を設け、更に、上記塔状構造物における上記昇降移動物の高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を数値計算又は実測により予め求めて蓄積したデータベースを備え、且つ上記昇降移動物を昇降させるときに該昇降移動物の高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、上記パッシブ型の動吸振器におけるばね要素のばね定数の調整機構に、可動マスの固有振動数を上記データベースより求めた上記塔状構造物の固有振動数に同調させるようにするための指令を与える制御器を備えた構成を有する昇降移動物を備えた塔状構造物の制振装置としてあるので、上記昇降移動物がいかなる高さ位置にあっても、塔状構造物に揺れが発生すると、その揺れエネルギーが上記パッシブ型の動吸振器における上記塔状構造物の固有振動数と同調するよう固有振動数が調整された可動マスに伝えられることで、該可動マスが上記塔状構造物の揺れに対して90度遅れの位相で且つ同調した振動数で揺れるようになるため、この可動マスの運動エネルギーを、上記ダンパ要素で減衰させることで、上記塔状構造物の揺れを抑えることができる。
(2)したがって、上記昇降移動物を塔状構造物本体に沿って上下方向のいかなる位置へ移動させた状態であっても、上記パッシブ型の動吸振器における制振効果の劣化を未然に防止できて、塔状構造物の良好な制振効果を得ることができる。
(3)塔状の構造物本体に沿って昇降可能に備えられる昇降移動物を、昇降式のキャビンとし、制御器を、該キャビンの高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を数値計算又は実測により予め求めてデータベースとして蓄積し、且つ上記キャビンを上下方向へ移動させるときに該キャビンの高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、パッシブ型の動吸振器におけるばね要素のばね定数の調整機構に、可動マスの固有振動数が上記データベースより求めた上記塔状構造物の固有振動数に同調するように指令を与える機能を有するものとした構成とすることにより、上記昇降式のキャビンを備えた塔状構造物について、該昇降式キャビンがいかなる高さ位置にあっても、該塔状構造物全体の制振を図ることできるため、上記昇降式キャビンの風揺れも抑えることができて、該キャビンにおける居住性を高めることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1及び図2は本発明の昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法及び装置の実施の一形態を示すもので、以下のような構成としてある。
【0022】
ここで、先ず、本発明の適用対象となる昇降移動物を備えた塔状構造物1について概説すると、該塔状構造物1は、たとえば、上下方向に延びる塔状の構造物本体2の外周に、昇降移動物としての環状のキャビン3を配置すると共に、上記塔状構造物本体2の外周面の所要位置に地上付近から最上部まで上下方向に延びるように設けたガイドレール4に、上記環状のキャビン3の内周部における周方向所要個所の上下両端部に設けたガイドブロック5を、スライド可能に取り付けた構成としてある。
【0023】
更に、キャビン3の昇降駆動機構6として、たとえば、上記キャビン3の内周部の上端部に取り付けてある各ガイドブロック5に一端部を接続し、且つ他端部を上記構造物本体2の内側に昇降可能に配したカウンターウェイト7に接続したワイヤロープ8を、上記塔状構造物本体2の頂部に設けて駆動モータ9により正逆転駆動できるようにしてある駆動滑車10に掛け回した構成を有する昇降駆動機構6を設けて、上記駆動モータ9により上記駆動滑車10を正逆転駆動させることで、上記ワイヤロープ8を介して上記キャビン3を、上記塔状構造物本体2の外面に沿わせて昇降させることができるようにしてある。
【0024】
上記構成の昇降式のキャビン3を備えた塔状構造物1に対して本発明の昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法及び装置を適用するには、上記キャビン3の所要個所、たとえば、キャビン3の上側に、所要質量の可動マス12と、該可動マス12の固有振動数を調整するためのばね定数を調整可能としたばね要素13と、該可動マスの運動エネルギーを減衰させるためのダンパ要素14とからなる振動系を具備したパッシブ型の動吸振器11を設置する。
【0025】
更に、上記キャビン3の高さ位置を検出するために、たとえば、上記昇降駆動機構6における駆動モータ9に取り付けたエンコーダ等の回転数検出装置15から入力される信号に基づいて、上記パッシブ型の動吸振器11におけるばね要素13のばね定数調整機構に指令を与える制御器16を備えてなる構成とする。
【0026】
詳述すると、上記パッシブ型の動吸振器11は、図2に示す如く、上記キャビン3に位置固定された支持フレーム17に設けたブラケット17aに、ばね要素13となる振り子のアーム18の上端部が、一軸方向に沿って揺動可能に取り付けてある。
【0027】
上記アーム18の下端部には、該アーム18の長手方向に沿って延びるリニアガイド19を取り付けると共に、該リニアガイド19のガイドブロック20に、上記所要質量の可動マス12が取り付けてある。
【0028】
更に、ばね定数調整機構として、サーボモータ22と、該サーボモータ22により回転駆動されるねじ軸23と、該ねじ軸23に取り付けたナット部材24とを備えてなるボールねじ機構21を、上記アーム18の下端部に、上記リニアガイド19と平行に設けると共に、上記ナット部材24を、上記可動マス12に取り付けた構成としてある。これにより、上記サーボモータ22により上記ねじ軸23を正逆転駆動することにより、上記ナット部材24と一体に上記可動マス12を、上記アーム18の長手方向に沿って移動させることができるようにしてある。よって、上記ボールねじ機構21のサーボモータ22によりねじ軸23を一方向へ回転駆動して、上記可動マス12をナット部材24と一体にアーム18の長手方向に沿って上方へ移動させると、上記ばね要素13としての振り子の支点となる上記アーム18の上端部位置から振り子の重心位置までの距離を短くすることができて、上記ばね要素13としての振り子におけるばね定数を大きくなるように変化させて、該振り子の固有振動数を大きくすることができるようにしてある。一方、上記ボールねじ機構21のサーボモータ22によりねじ軸23を他方向へ回転駆動して、上記可動マス12をナット部材24と一体にアーム18の長手方向に沿って下方へ移動させると、上記ばね要素13としての振り子の支点から振り子の重心位置までの距離を長くすることができて、上記ばね要素13としての振り子におけるばね定数を小さくなるように変化させて、該振り子の固有振動数を小さくすることができるようにしてある。
【0029】
更に、上記アーム18の所要個所、たとえば、該アーム18の下端部と、キャビン3に位置固定された固定部25との間に、上記ダンパ要素14を介装して設けた構成としてある。
【0030】
なお、図示してないが、上記キャビン3には、上記振り子式のパッシブ型の動吸振器11を、平面内で直交する2軸方向のそれぞれの方向に振り子揺動方向が沿うように複数配置して設けた構成として、上記2軸方向にそれぞれ沿わせて配設してあるパッシブ型の動吸振器11の制振効果を合わせることで、上記塔状構造物1の全方位への揺れに対応できるようにしてあるものとする。
【0031】
上記制御器16は、上記キャビン3を図1に実線で示す如く昇降移動範囲の最も低位置に配置した状態より上記昇降駆動機構6の駆動モータ9の運転により駆動滑車10の回転を介してワイヤロープ8と共に上記キャビン3を図1に二点鎖線で示すように上昇させる際に、上記駆動モータ9に取り付けられた回転数検出装置15によって検出される該駆動モータ9の回転数を基に、上記キャビン3の高さ位置hを求めることができるようにしてある。
【0032】
更に、上記制御器16は、上記キャビン3の高さ位置hと、該キャビン3の高さ位置に応じて変化する上記塔状構造物1の固有振動数fnとの関係を予め実測あるいは数値計算により求めた結果をデータベース、たとえば、以下の式(1)の如きキャビン3の高さ位置hを変数とする関数として表されるデータベースとして備えておくようにしてあり、
fn=g(h) ・・・(1)
或る時点で、上記駆動モータ9の回転数を基にキャビン3の高さ位置hが求められると、上記式(1)で表されたデータベースに基づいて、該時点での塔状構造物1の固有振動数fnを求め、該求められた塔状構造物1の固有振動数fnを基に、上記振り子式のパッシブ型の動吸振器11におけるばね定数調整機構である上記ボールねじ機構21のサーボモータ22へ作動指令を与えて、該サーボモータ22の運転による可動マス12のアーム18長手方向の移動を介して上記振り子式のパッシブ型の動吸振器11の固有振動数を上記塔状構造物の固有振動数fnに同調させる機能を備えた構成としてある。
【0033】
以上の構成としてある本発明の昇降移動物を備えた塔状構造物の制振装置を装備した塔状構造物1に揺れが発生すると、その揺れエネルギーが、上記振り子式のパッシブ型の動吸振器11における振り子のアーム18に取り付けられている可動マス12に伝えられて、該可動マス12が上記アーム18と共に上記塔状構造物1の揺れに対して90度遅れの位相で揺れるようになり、このとき、上記アーム18と共に揺れる可動マス12の運動エネルギーが、上記アーム18と固定部25との間に設けてあるダンパ要素14で減衰させられることで、上記塔状構造物1の揺れが抑えられるようになる。
【0034】
更に、上記塔状構造物1にて、キャビン3を塔状構造物本体2に沿わせて上下方向に移動させるときに、該キャビン3という集中質量の高さ位置hが変化することに伴って、該塔状構造物1自体の固有振動数fnが大きく変化するとしても、キャビンの高さ位置hの変化に伴われて生じる上記塔状構造物1の固有振動数fnの変化に追従して、上記制御器16により、上記振り子式のパッシブ型の動吸振器11における上記ボールねじ機構21のサーボモータ22へ作動指令を与えて、可動マス12の振り子のアーム18の長手方向の位置を連続的に調整することで、該動吸振器11の振り子の固有振動数を、上記塔状構造物1の固有振動数fnに常に同調させるようにてあるため、上記のような昇降式のキャビン3を備えた塔状構造物1にて、キャビン3を上下方向のいかなる位置へ移動させた状態であっても、上記パッシブ型の動吸振器11により良好な制振効果を得ることができる。
【0035】
よって、上記パッシブ型の動吸振器11による上記塔状構造物1に対する制振効果の劣化を回避することが可能となる。
【0036】
次に、図3は本発明の実施の他の形態を示すもので、図1及び図2と同様の構成において、パッシブ型の動吸振器11を、塔状構造物本体2に沿って上下方向に移動可能としてあるキャビン3の上側に設けた構成に代えて、塔状構造物本体2の上部所要個所、たとえば、上記塔状構造物本体2の上端部に設けた支持フレーム26の上側に、上記図2に示したと同様の振り子式のパッシブ型の動吸振器11を設けた構成としたものである。
【0037】
なお、図示してないが、本実施の形態においても、上記塔状構造物本体2の上端部に設ける支持フレーム26の上側には、上記振り子式のパッシブ型の動吸振器11を、平面内で直交する2軸方向のそれぞれの方向に振り子揺動方向が沿うように複数配置して設けた構成として、該2軸方向に配設してあるパッシブ型の動吸振器11の制振効果を合わせることで、上記塔状構造物1の全方位への揺れに対応できるようにしてあるものとする。
【0038】
その他の構成は図1及び図2に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0039】
本実施の形態によっても、塔状構造物本体2に沿って上下方向に移動するキャビン3の高さ位置hの変化に伴う塔状構造物1の固有振動数fnに追従して、上記塔状構造物本体2の上端部の支持フレーム26上に設けた上記振り子式のパッシブ型の動吸振器11における振り子の固有振動数を、上記塔状構造物1の固有振動数fnに常に同調させることができるため、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上下方向に移動するキャビン3の高さ位置hを検出することができれば、該キャビン3の高さ位置hを検出するための手段は、キャビン3の昇降駆動機構における駆動モータ9の回転数を基に検出するもの以外にも、駆動滑車10の回転数を計測したり、キャビン3の上下方向の移動距離を実測する等、任意の手段を採用してよい。
【0041】
図2に示した振り子式のパッシブ型の動吸振器11は、ダンパ要素14をアーム18の下端部と固定部25との間に介装して設けてなるものとして示したが、アーム18の長手方向の途中位置と、その側方の固定部との間にダンパ要素14を介装させて設けるようにしてもよい。
【0042】
パッシブ型の動吸振器11は、可動マス12の固有振動数を調整するためのばね要素13のばね定数を、制御器16からの指令に応じて作動する所要のアクチュエータにより自在に変化させることができるようにしてあれば、たとえば、所要質量の可動マスを取り付けた傾斜振り子のアームの傾斜角度を所要のアクチュエータにより角度変更することで、上記傾斜振り子の固有振動数を調整できるようにしてなる傾斜振り子式の動吸振器等、振り子式以外の任意の形式のパッシブ型の動吸振器を採用してもよい。
【0043】
パッシブ型の動吸振器11は、キャビン3や塔状構造物本体2の上部にスペースが確保できれば、該キャビン3に内蔵させたり、塔状構造物本体2の上部に内蔵させるようにしてもよい。
【0044】
本発明の昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法及び装置は、昇降式のキャビン3を備えた塔状構造物1で、且つ制振を望む塔状構造物1であれば、キャビン3の形状や塔状構造物本体2の形状、キャビン3の昇降駆動方式等が図示したものと異なるいかなる形式の昇降式キャビン3を備えた塔状構造物1にも適用してよい。更には、集中質量の昇降移動物を塔状構造物本体2に沿って上下方向に移動可能に備えてなる形式として、該昇降移動物が上下方向に移動することで固有振動数が変化する塔状構造物であれば、昇降式キャビン以外の昇降移動物を備えた塔状構造物にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法及び装置の実施の一形態を示す概要図である。
【図2】図1の装置の一部として塔状構造物の所要個所に設けるパッシブ型の動吸振器の具体的構成を拡大して示す側面図である。
【図3】本発明の実施の他の形態を示す概要図である。
【符号の説明】
【0046】
1 塔状構造物
2 塔状構造物本体
3 キャビン(昇降移動物)
11 パッシブ型の動吸振器
12 可動マス
13 ばね要素
14 ダンパ要素
16 制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔状の構造物本体に沿って昇降可能に昇降移動物を備えた塔状構造物における上記昇降移動物の高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を、数値計算又は実測により予め求めてデータベースとして蓄積しておき、上記昇降移動物が昇降するときに、該昇降移動物の高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、該塔状構造物の所要個所に装備したパッシブ型の動吸振器における可動マスの固有振動数調整用ばね要素のばね定数を調整することにより、該動吸振器の可動マスの固有振動数を、上記データベースより求めた塔状構造物の固有振動数に常に同調させるようにすることを特徴とする昇降移動物を備えた塔状構造物の制振方法。
【請求項2】
塔状の構造物本体に沿って昇降可能に昇降移動物を備えた塔状構造物の所要個所に、所要質量の可動マスと、該可動マスの固有振動数を調整するためのばね定数を調整可能としたばね要素と、該可動マスの運動エネルギーを減衰させるためのダンパ要素とからなる振動系を具備したパッシブ型の動吸振器を設け、更に、上記塔状構造物における上記昇降移動物の高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を数値計算又は実測により予め求めて蓄積したデータベースを備え、且つ上記昇降移動物を昇降させるときに該昇降移動物の高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、上記パッシブ型の動吸振器におけるばね要素のばね定数の調整機構に、可動マスの固有振動数を上記データベースより求めた上記塔状構造物の固有振動数に同調させるようにするための指令を与える制御器を備えた構成を有することを特徴とする昇降移動物を備えた塔状構造物の制振装置。
【請求項3】
塔状の構造物本体に沿って昇降可能に備えられる昇降移動物を、昇降式のキャビンとし、制御器を、該キャビンの高さ位置の変化と該塔状構造物の固有振動数の変化の関係を数値計算又は実測により予め求めてデータベースとして蓄積し、且つ上記キャビンを上下方向へ移動させるときに該キャビンの高さ位置の情報を基に上記データベースより上記塔状構造物の固有振動数を求めて、パッシブ型の動吸振器におけるばね要素のばね定数の調整機構に、可動マスの固有振動数が上記データベースより求めた上記塔状構造物の固有振動数に同調するように指令を与える機能を有するものとした請求項2記載の昇降移動物を備えた塔状構造物の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−106617(P2010−106617A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281494(P2008−281494)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】