説明

有機トランジスタ、及びディスプレイ装置

【課題】 発光現象が確認されたという初歩的な段階にある有機半導体をディスプレイへ応用するための新規な構成ならびに機能を有する有機トランジスタを提案する。
【解決手段】 基板1上に有機半導体層2を一対の電極3、4間に設けてなる構造の有機トランジスタにおいて、前板は導電性材料もしくは半導体材料よりなるとともにその表面に絶縁層5を有し、該絶縁層上に有機半導体層ならびに一対の電極を形成してなるとともに、有機半導体層上面を透光性部材7によって封止した構成を備え、一対の電極間に有機半導体層が発光する範囲内で電圧を印加し、さらに基板に電圧を印加することにより、有機半導体層の発光を制御するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機トランジスタとそれに関連する技術に関し、特に発光現象をともなう有機薄膜トランジスタならびにそれを利用したディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各情報端末装置の普及に伴って装置の機能の高性能化、多様化が求められており、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。またさらに情報化社会の進展に伴い、従来紙媒体で提供されていた情報が電子化されて提供される機会が増えたため、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
一般に平板型のディスプレイ装置においては、液晶、有機EL、電気泳動などを利用した素子を用いて表示媒体を形成している。またこうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度などを確保するために、画像駆動素子として薄膜トランジスタ(TFT)により構成されたアクティブ駆動素子を用いる技術が主流になっている。
ここでTFT素子は、通常、ガラス基板上に、主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)などの半導体薄膜や、ソース、ドレイン、ゲート電極などの金属薄膜を順次形成、積層していくことにより製造される。このTFT素子を用いるフラットパネルディスプレイの製造には通常、CVD、スパッタリングなどの真空系設備や高温処理工程を要する薄膜形成工程に加え、精度の高いフォトリソグラフ工程が必要とされ、設備コスト、ランニングコストの負荷が非常に大きい。さらに、近年のディスプレイの大画面化のニーズに伴い、製造に伴うコスト増大量は非常に膨大なものとなっている。
近年、従来のTFT素子のデメリットを補う技術として、有機半導体材料を用いた有機TFT素子の研究開発が盛んに進められている(特許文献1、非特許文献1等参照)。この有機TFT素子は低温プロセスで製造可能であるため、重量があり且つ割れやすい従来のガラス基板に代えて、軽く、割れにくい樹脂基板を用いることができ、さらに、樹脂フィルムを支持体として用いたフレキシブルなディスプレイが実現できると言われている(非特許文献2参照)。また、大気圧下で、印刷や塗布などのウェットプロセスで製造できる有機半導体材料を用いることで、生産性に優れ、非常に低コストのディスプレイが実現できる。
一方でこのような有機半導体材料を用いた有機TFT素子の研究成果の一環として、発光型トランジスタの報告もなされている(非特許文献3参照)。これを使用すれば、従来のように表示媒体と画像駆動素子を別々に形成することなく、両者を一体化した新規な構成のディスプレイが実現できる可能性がある。
【特許文献1】特開平10−190001号公報
【非特許文献1】Advanced Material誌 2002年 第2号 99頁(レビュー)
【非特許文献2】SID '02 Digest p.57
【非特許文献3】第65回応用物理学会学術講演会 講演予稿集 1163頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この研究はまだその発光現象が確認されたという初歩的な段階であり、それをディスプレイへ応用するためにどのようにすべきか具体的なことはこれからの研究を待たなければならない状況である。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、新規な構成ならびに機能を有する有機トランジスタを提案することにある。
また第2の目的は、このような有機トランジスタをより効果的に使用する構成を提案することにある。
さらに第3の目的は、このような有機トランジスタを複数個配列使用する場合の新規な構成を提案することにある。
また第4の目的は、このような有機トランジスタを複数個配列使用する場合の他の新規な構成を提案することにある。
さらに第5の目的は、このような有機トランジスタを安定して機能させるための新規な構成を提案することにある。
また第6の目的は、このような有機トランジスタを安定して機能させるための他の新規な構成を提案することにある。
さらに第7の目的は、このような有機トランジスタを安定して機能させるためのさらに他の新規な構成を提案することにある。
また第8の目的は、このような有機発光トランジスタを利用したディスプレイ装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は前記目的を達成するために第1に、基板上に有機半導体材料を一対の電極間に設けてなる構造の有機トランジスタにおいて、前記基板は導電性材料もしくは半導体材料よりなるとともにその表面に絶縁層を有し、該絶縁層上に前記有機半導体材料ならびに一対の電極を形成してなるとともに、前記有機半導体層部分(有機半導体層上面)を透光性部材によって封止構造とし、前記一対の電極間に前記有機半導体材料が発光する範囲内で電圧を印加し、さらに前記導電性材料もしくは半導体材料領域(基板)に電圧を印加し、前記発光を制御するようにした。
また第2に、上記第1の有機トランジスタにおいて、前記有機トランジスタを前記基板上に複数個配列した。
さらに第3に、上記第2の有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記透光性部材を各有機トランジスタ素子ごとに個別に設けた。
また第4に、上記第2の有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、1つの透光性部材によって複数の有機トランジスタ素子を封止するようにした。
さらに第5に、上記第1乃至4のいずれか1項に記載の有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記有機半導体材料部分を真空状態にした。
また第6に、上記第1乃至4のいずれか1項に記載の有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記有機半導体材料部分を不活性ガス雰囲気中におくようにした。
さらに第7に、上記第1乃至4のいずれか1項に記載の有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記有機半導体材料部分に封止材料を密着させた構造とした。
また第8に、上記第1乃至7のいずれか1項に記載の有機トランジスタの発光の光量を段階的に変えるディスプレイ装置とした。
【発明の効果】
【0005】
本発明の効果として、請求項1の発明によれば、基板上に有機半導体材料を一対の電極間に設けてなる構造の有機トランジスタにおいて、前記基板は導電性材料もしくは半導体材料よりなるとともにその表面に絶縁層を有し、該絶縁層上に前記有機半導体材料ならびに一対の電極を形成してなるとともに、前記有機半導体材料部分を透光性部材によって封止構造とし、前記一対の電極間に前記有機半導体材料が発光する範囲内で電圧を印加し、さらに前記導電性材料もしくは半導体材料領域に電圧を印加し、前記発光を制御するようにしたので、トランジスタ動作と発光動作を同一素子で行うことが可能となった。
請求項2の発明によれば、このような有機トランジスタにおいて、前記有機トランジスタを前記基板上に複数個配列したので、上記効果に加え、自発光型ディスプレイとして応用することが可能となった。
請求項3の発明によれば、このような有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記透光性部材を各有機トランジスタ素子ごとに個別に設けたので、上記効果に加え、各素子ごとに確実に封止を行うことができるようになり、個々の素子の性能を安定化させることが可能となった。
請求項4の発明によれば、このような有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、1つの透光性部材によって複数の有機トランジスタ素子を封止するようにしたので、上記効果に加え、製造コストを低減できるようになった。
請求項5の発明によれば、このような有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記有機半導体材料部分を真空状態にしたので、上記効果に加え、素子機能が安定して発現できるようになった。
請求項6の発明によれば、このような有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記有機半導体材料部分を不活性ガス雰囲気中におくようにしたので、上記効果に加え、経時的に素子機能が安定して発現できるようになった。
請求項7の発明によれば、このような有機トランジスタにおいて、前記封止構造は、前記有機半導体材料部分に封止材料を密着させた構造としたので、上記効果に加え、素子機能が安定して発現できるようになった。
請求項8の発明によれば、このような有機トランジスタの発光の光量を段階的に変えるディスプレイ装置としたので、トランジスタ動作と発光動作を同一素子で行うことができ、かつ階調表現も可能な新規な構成の自発光型ディスプレイ装置を提案できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子は、支持体上に有機半導体層に接したソース電極とドレイン電極を有し、その上にゲート絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と、支持体上にまずゲート電極を有し、ゲート絶縁層を介して有機半導体層で連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別され、具体的な素子の層構成例(1素子の断面図)は図1〜図3のようになる。
図1はトップゲート型の発光型有機薄膜トランジスタ素子における層構成例を示し、支持体(基板)面に有機半導体層2を積層形成し、有機半導体層2に所定の間隔を隔ててソース電極3及びドレイン電極4を接合配置し、有機半導体層2の上面とソース電極3及びドレイン電極4を覆うようにゲート絶縁層5を配置し、更にゲート絶縁層5の上面の適所(ソース電極3とドレイン電極4間に相当する位置)にゲート電極6を配置した構成を備えている。
図2はボトムゲート型の発光型有機薄膜トランジスタ素子における層構成例を示し、支持体(基板)1上面にゲート電極6を配置すると共に、支持体上面及びゲート電極6を覆うようにゲート絶縁層5を配置し、ゲート電極5上に有機半導体層2を被覆形成している。更に、有機半導体層2の上面にソース電極3及びドレイン電極4を所定の間隔で接合配置している。ゲート電極5は、ソース電極3とドレイン電極4との中間に位置するように配置される。
図3はボトムゲート型の発光型有機薄膜トランジスタ素子の変形構成例を示し、このトランジスタ素子では、ゲート電極(基板)6に支持体機能を持たせるとともに、ゲート電極6の上面を覆うようにゲート絶縁層5を積層形成し、ゲート絶縁層5の上面に所定の間隔を隔ててソース電極3及びドレイン電極4を形成し、更にゲート絶縁層5とソース電極3及びドレイン電極4を覆うように有機半導体層2を積層形成している。
【0007】
上記各実施形態に係る本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子に用いる有機半導体層2の材料としては、π共役系材料が用いられ、例えばポリピロール、ポリ(N−置換ピロール)、ポリ(3−置換ピロール)、ポリ(3、4−二置換ピロール)などのポリピロール類、ポリチオフェン、ポリ(3−置換チオフェン)、ポリ(3、4−二置換チオフェン)、ポリベンゾチオフェンなどのポリチオフェン類、ポリイソチアナフテンなどのポリイソチアナフテン類、ポリチェニレンビニレンなどのポリチェニレンビニレン類、ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリ(p−フェニレンビニレン)類、ポリアニリン、ポリ(N−置換アニリン)、ポリ(3−置換アニリン)、ポリ(2、3−置換アニリン)などのポリアニリン類、ポリアセチレンなどのポリアセチレン類、ポリジアセチレンなどのポリジアセチレン類、ポリアズレンなどのポリアズレン類、ポリピレンなどのポリピレン類、ポリカルバゾール、ポリ(N−置換カルバゾール)などのポリカルバゾール類、ポリセレノフェンなどのポリセレノフェン類、ポリフラン、ポリベンゾフランなどのポリフラン類、ポリ(p−フェニレン)などのポリ(p−フェニレン)類、ポリインドールなどのポリインドール類、ポリピリダジンなどのポリピリダジン類、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、ピレン、ジベンゾピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、テリレン、オバレン、クオテリレン、サーカムアントラセンなどのポリアセン類およびポリアセン類の炭素の一部をN、S、Oなどの原子、カルボニル基などの官能基に置換した誘導体(トリフェノジオキサジン、トリフェノジチアジン、ヘキサセン−6、15−キノンなど)、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニレンスルフィドなどのポリマーを用いることができる。
また、これらのポリマーと同じ繰返し単位を有する材料として、例えばチオフェン6量体であるα−セクシチオフェンα、ω−ジヘキシル−α−セクシチオフェン、α、ω−ジヘキシル−α−キンケチオフェン、α、ω−ビス(3−ブトキシプロピル)−α−セクシチオフェン、スチリルベンゼン誘導体などのオリゴマーも好適に用いることができる。
さらに銅フタロシアニンやフッ素置換銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニン類、ナフタレン1、4、5、8−テトラカルボン酸ジイミド、N、N’−ビス(4−トリフルオロメチルベンジル)ナフタレン1、4、5、8−テトラカルボン酸ジイミドとともに、N、N’−ビス(1H、1H−ペルフルオロオクチル)、N、N’−ビス(1H、1H−ペルフルオロブチル)及びN、N’−ジオクチルナフタレン1、4、5、8−テトラカルボン酸ジイミド誘導体、ナフタレン2、3、6、7テトラカルボン酸ジイミドなどのナフタレンテトラカルボン酸ジイミド類、及びアントラセン2、3、6、7−テトラカルボン酸ジイミドなどのアントラセンテトラカルボン酸ジイミド類などの縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、C60、C70、C76、C78、C84等フラーレン類、SWNTなどのカーボンナノチューブ、メロシアニン色素類、ヘミシアニン色素類などの色素等も用いることができる。
【0008】
これらのπ共役系材料のうちでも、チオフェン、ビニレン、チェニレンビニレン、フェニレンビニレン、p−フェニレン、これらの置換体またはこれらの2種以上を繰返し単位とし、かつ該繰返し単位の数nが4〜10であるオリゴマーもしくは該繰返し単位の数nが20以上であるポリマー、ペンタセンなどの縮合多環芳香族化合物、フラーレン類、縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、金属フタロシアニンよりなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。
また、その他の有機半導体材料としては、テトラチアフルバレン(TTF)−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体、ビスエチレンテトラチアフルバレン(BEDTTTF)−過塩素酸錯体、BEDTTTF−ヨウ素錯体、TCNQ−ヨウ素錯体、などの有機分子錯体も用いることができる。さらにポリシラン、ポリゲルマンなどのσ共役系ポリマーも用いることができる。
【0009】
本発明の発光型有機半導体材料は例えば、下記一般式で示される繰り返し単位を有する重合体を主成分とするものであるが、このような材料について、その合成法とともにより詳細に説明する。

例えば下記一般式(I)で表わされるカルボニル化合物


[一般式(I)中、A1、A2はそれぞれ置換または無置換の単環または多環式のアリレン基またはヘテロアリレン基を表わす。R1は水素、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表わす。Vは−O−、−S−、−NR2−(R2は置換または無置換の単環または多環式のアリレン基、もしくは置換または無置換の単環または多環式のヘテロアリレン基を表わす)を表わし、nは≧0を表わす]、及び下記一般式(II)で表わされるリン化合物

[一般式(II)中、A3、A4はそれぞれ置換または無置換の単環または多環式のアリレン基またはヘテロアリレン基を表わす。R3は水素、置換または無置換のアルキルまたはアリールまたはヘテロアリール基を表わす。Wは−O−、−S−、−NR4−(R4は置換または無置換の単環または多環式のアリレン基、もしくは置換または無置換の単環または多環式のヘテロアリレン基を表わす。mは≧0を表わす。XはPO(OR5)2(R5は低級アルキル基)またはP(R6)3+Y―(R6は置換または無置換のアリール基、もしくは置換または無置換のアルキル基を表わし、Yはハロゲン原子を表わす)を表わす]を反応させ、炭素−炭素二重結合を含有する下記一般式(III)


の繰り返し単位をもつ重合体が製造される。
【0010】
以下に更に詳細に説明する。
好適に用いられる塩基化合物としては、非水系溶媒に均一に溶解していれば一般に知られている塩基性化合物が全て含まれるが、ホスホネートカルボアニオンの形成能を考慮に入れると、塩基性度の点から金属アルコシド、金属ヒドリド、有機リチウム化合物等が好ましく、例えばカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、カリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウム、リチウムナフチリド、リチウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド等を挙げることができる。
【0011】
塩基を溶解する溶媒としては、使用する塩基と安定な溶液を形成する溶媒を選択しなければならないが、その他の要因として塩基の溶解度が高いものがよく、また反応系で生成する高分子量体の反応溶媒に対する溶解性を損ねないものがよく、さらに生成する高分子量体が良好に溶解する溶媒がよく、用いる塩基と製造する高分子量体の特性に応じて、一般に知られているアルコール系、エーテル系、アミン系、炭化水素系溶媒等から任意に選択することができる。
塩基とそれを均一に溶解する溶媒の組み合わせとしては、例えばナトリウムメトキシドのメタノール溶液、ナトリウムエトキシドのエタノール溶液、カリウムt−ブトキシドの2−プロパノール溶液、カリウムt−ブトキシドの2−メチル−2−プロパノール溶液、カリウムt−ブトキシドのテトラヒドロフラン溶液、カリウムt−ブトキシドのジオキサン溶液、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液、メチルリチウムのエーテル溶液、リチウムt−ブトキシドのテトラヒドロフラン溶液、リチウムジイソプロピルアミドのシクロヘキサン溶液、カリウムビストリメチルシリルアミドのトルエン溶液等をはじめとして、種々の組み合わせの溶液が挙げられ、幾つかの溶液は市販品として容易に入手することができる。温和な反応条件、取り扱いの容易さの観点から好ましくは金属アルコキシド系の溶液が用いられ、生成する重合体の溶解性、取り扱いの容易さ、反応の効率性、生成する重合体の溶解性等の観点からより好ましくは金属t−ブトキシドのエーテル系が用いられ、さらに好ましくはカリウムt−ブトキシドのテトラヒドロフラン溶液が用いられる。
【0012】
リン化合物およびアルデヒド化合物が化学量論的に等しく存在する溶液と、その2倍モル量以上の塩基を含む前述の塩基溶液を混合させることにより重合反応は容易に進行し、狭い分子量分布に好ましく制御された高分子量の重合体を簡便に得ることができる。通常、塩基の量はリン化合物の重合活性点に対して同量使用するだけでよいが、さらに過剰量用いても支障ない。
上記重合反応はリン化合物およびアルデヒド化合物の溶液に塩基溶液を添加してもよく、塩基溶液にリン化合物およびアルデヒド化合物の溶液を加えてもよく、同じに反応系に加えてもよく、添加の順序に制約はない。
上記重合反応における重合時間は、用いられるモノマーの反応性、または望まれる重合体の分子量等に応じて適宜設定すればよいが、0.2時間〜30時間が好適である。また、重合体の末端を封止するための封止剤を、反応途中または反応後に添加することも可能であり、反応開始時に添加しておくことも可能である。
上記重合反応における反応温度は特に制御する必要なく室温において良好に重合反応が進行するが、反応効率をより上げるために加熱したり、またはより温和な条件に冷却することも可能である。
【0013】
以下に実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明の発光型有機半導体材料はその要旨を越えない限り、この実施例によって制限されるものではない。
各種の測定は下記の方法によった。重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)により行ない、UV吸収及び示差屈折率を用いて、単分散ポリスチレンを標準としてポリスチレン換算で行った。
<材料合成実施例>
100ml四つ口フラスコに、以下の化学式に示す


ジアルデヒドを0.852g(2.70mmol)、及び以下の化学式に示す



ジホスホネートを1.525g(2.70mmol)を入れ、窒素置換してテトラヒドロフラン75mlを加えた。この溶液にカリウムt−ブトキシドの1.0moldm−3テトラヒドロフラン溶液6.75ml(6.75mmol)を滴下し、室温で20時間撹拌した後、ベンジルホスホネート及びベンズアルデヒドを順次加え、さらに2時間30分撹拌した。酢酸およそ1mlを加えて反応を終了し、溶液を水洗した。溶媒を減圧留去し、残渣をテトラヒドロフラン15ml及びメタノール80mlを用いて再沈澱による精製を行い、以下の化学式に示す重合体を1.07g得た。

得られた重合体の分子量及び分子量分布を測定したところ、収率:73%、重量平均分子量(Mw):104000、数平均分子量(Mn):36000、分子量分布(Mw/Mn):2.89、重合体:63であった。
上記実施例は一例であるが、他の材料であってもよい。例えば、ペンタセン等前駆体が溶媒に可溶であるものは、以下に述べる液体噴射原理等により形成した前駆体の膜を熱処理して目的とする有機材料の薄膜を形成してもよい。
このようにして得られた高分子量の重合体である本発明の発光型有機半導体材料は、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、液体噴射法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法等の公知の成膜方法によってクラックのない、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することが可能である。
特に液体噴射原理による方法(インクジェット法ともいう)は、後述の電極パターン形成にも適用することができる汎用性の高い技術であるため、本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子製作の有効な手段となるので、その製作装置に関して検討した結果をここで説明する。
【0014】
図4は、本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子製作に使用できる製造装置の1実施例を説明するための図でsち、図中、11は吐出ヘッドユニット(吐出ヘッド)、12は吐出ヘッドユニットを移動させるためのキャリッジ、13は基板保持台、14は発光型有機薄膜トランジスタ素子基板あるいはシート、15は溶液の供給チューブ、16は信号供給ケーブル、17は吐出ヘッドコントロールボックス(溶液タンク含む)、18はキャリッジ12のX方向スキャンモータ、19はキャリッジ12のY方向スキャンモータ、20はコンピュータ、21はコントロールボックス、22(22X1、22Y1、22X2、22Y2)は基板位置決め/保持手段である。この場合は、基板保持台13に置かれた基板あるいはシート14の前面を吐出ヘッド11がキャリッジ走査により移動し、溶液を噴射付与する例である。なおこの例は、吐出ヘッド11がキャリッジ走査により移動する例であるが、吐出ヘッド11が固定されていて、基板あるいはシート11が移動するような構成の製造装置(図示せず)であってもよい。つまり、吐出ヘッド11と基板あるいはシート11が相対的に移動する装置が、本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子製作に使用できる製造装置である。
吐出ヘッドユニット11の液滴付与装置(吐出ヘッド)としては、任意の液滴を定量吐出できるものであればいかなる機構でも良く、特に0.05pl〜数100pl程度の液滴を形成できるインクジェット原理の機構が望ましい。
インクジェット方式としては、たとえば米国特許第3683212号明細書に開示されている方式(Zoltan方式)、米国特許第3747120号明細書に開示されている方式(Stemme方式)、米国特許第3946398号明細書に開示されている方式(Kyser方式)のようにピエゾ振動素子に、電気的信号を印加し、この電気的信号をピエゾ振動素子の機械的振動に変え、該機械的振動に従って微細なノズルから液滴を吐出飛翔させるものがあり、通常、総称してドロップオンデマンド方式と呼ばれている。
【0015】
他の方式として、米国特許第3596275号明細書、米国特許第3298030号明細書等に開示されている方式(Sweet方式)がある。これは連続振動発生法によって帯電量の制御された記録液体の小滴を発生させ、この発生された帯電量の制御された小滴を、一様の電界が掛けられている偏向電極間を飛翔させることで、記録部材上に記録を行うものであり、通常、連続流方式、あるいは荷電制御方式と呼ばれている。
さらに他の方式として、特公昭56−9429号公報に開示されている方式がある。これは液体中で気泡を発生せしめ、その気泡の作用力により微細なノズルから液滴を吐出飛翔させるものであり、サーマルインクジェット方式、あるいはバブルジェット(登録商標)方式と呼ばれている。
このように液滴を噴射する方式は、ドロップオンデマンド方式、連続流方式、サーマルインクジェット方式等あるが、必要に応じて適宜その方式を選べばよい。
本発明ではこのような発光型有機薄膜トランジスタ素子製造装置(図4)において、基板14はこの装置の基板位置決め/保持手段22によってその保持位置を調整して決められる。図4では簡略化しているが、基板位置決め/保持手段22は基板14の各辺に当接されるとともに、X方向およびそれに直交するY方向にサブミクロンオーダーで微調整できるようになっているとともに、吐出ヘッドコントロールボックス17、コンピュータ20、コントロールボックス21等と接続され、その位置決め情報および微調整変位情報等と、液滴付与の位置情報、タイミング等は、たえずフィードバックできるようになっている。
【0016】
さらにこのような発光型有機薄膜トランジスタ素子製作に使用できる製造装置では、X、Y方向の位置調整機構の他に図示しない(基板14の下に位置するために見えない)、回転位置調整機構を有している。
これに関連して先に本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子基板の形状および形成される素子群の配列等に関して説明する。
本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子基板は、後述するようにその目的、用途に応じて、ガラス基板、セラミックス基板、PETを始めとする各種プラスチック基板、Si等の半導体基板、ガラス・エポキシ基板、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等の高分子フィルムよりなるフレキシブル基板等が好適に用いられる。たとえば各種プラスチック基板や高分子フィルムは、軽量化が要求されるパターン配線基板、あるいは本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子に代表される各種の機能デバイス製作に効果的である。
さらに、このようなデバイス製作においてその途中のプロセスで熱が加わることが多々あり、高精度なデバイス製作においては、熱膨張によるデバイスの精度低下の問題を考慮する必要がある。たとえば本発明においては、高精度な発光型有機薄膜トランジスタ素子を製作するためには、その線膨張率α(=1/l0・dl/dt、l0は0℃における長さ、lはt℃における長さ)が、293K(20℃)でα/K-1=20〜50×10-6、あるいはそれ以下あるような金属材料の線膨張率に近い低線膨張率を持つポリマー材料が好適に使用される。
このような低熱膨張の透明基板としては、例えば、透明ポリマー材料を直径50〜100nm程度の生物系の透明ナノファイバー強化繊維で補強した複合材料があげられ、平行光の透過率は90〜95%が得られるものである。
【0017】
本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子基板に使用する各種プラスチック基板や高分子フィルの形状は、このような基板を経済的に生産、供給する、あるいは最終的に製作される発光型有機薄膜トランジスタ素子基板の用途から、矩形である。つまり、その矩形形状を構成する縦2辺、横2辺はそれぞれ、縦2辺が互いに平行、横2辺が互いに平行であり、かつ縦横の辺は直角をなすような基板である。
このような基板に対して本発明では、形成される発光型有機薄膜トランジスタ素子群をマトリックス状に配列し、このマトリックスの互いに直交する2方向が、この基板の縦方向の辺あるいは横方向の辺の方向と平行であるように発光型有機薄膜トランジスタ素子群を配列する。このように発光型有機薄膜トランジスタ素子群をマトリックス状に配列する理由および、基板の縦横の辺をそのマトリックスの直交する2方向と平行になるようにする理由を以下に述べる。
図4に示したように、本発明に適用できる発光型有機薄膜トランジスタ素子製造装置では、最初に基板14と吐出ヘッドユニット11の溶液噴射口面の位置関係が決められた後は、特に位置制御を行うことはない。つまり、吐出ヘッドユニット11は基板14に対して一定の距離を保ちながら発光型有機薄膜トランジスタ素子群の形成面に対して平行にX、Y方向の相対移動を行いつつ、上記溶液の噴射を行う。つまりこのX方向及びY方向は互いに直交する2方向であり、基板の位置決めを行う際に、基板の縦辺あるいは横辺をそのY方向あるいはX方向と平行になるようにしておけば、形成される発光型有機薄膜トランジスタ素子群もそのマトリックス状配列の2方向がそれぞれ平行であるため、相対移動を行いつつ噴射する機構のみで高精度の発光型有機薄膜トランジスタ素子群形成、あるいは電極パターン形成を行うことができる。言い換えるならば、本発明のような基板形状、発光型有機薄膜トランジスタ素子群のマトリックス状配列、直交するX、Yの2方向の相対移動装置にすれば、発光型有機薄膜トランジスタ素子形成、あるいは電極パターン形成の液滴噴射を行う前の基板の位置決めを正確に行えば、高精度な発光型有機薄膜トランジスタ素子群のマトリックス状配列が得られることになる。
【0018】
ここで、先ほどの回転位置調整機構に戻って説明する。前述のように本発明では、発光型有機薄膜トランジスタ素子形成のための液滴噴射を行う前の基板の位置決めを正確に行い、XおよびY方向の相対移動のみを行い、他の制御を行わず、高精度な発光型有機薄膜トランジスタ素子群のマトリックス状配列を得ようというものである。その際問題となるのは、最初に基板の位置決めを行う際の回転方向(X、Yの2方向で決定される平面に対して直交する方向の軸に対する回転方向)のズレである。
この回転方向のズレを補正するために本発明では、前述のように図示しない(基板14の下に位置して見えない)、回転位置調整機構を有している。これにより回転方向のズレも補正し、基板の辺を位置決めすると、本発明の装置では、XおよびY方向のみの相対移動で、高精度な発光型有機薄膜トランジスタ素子群のマトリックス状配列が得られる。
以上はこの回転位置調整機構を、図4の基板位置決め/保持手段で22(22X1、22Y1、22X2、22Y2)とは別物の機構として説明した(基板14の下に位置して見えない)が、基板位置決め/保持手段22に回転位置調整機構を持たせることも可能である。例えば、基板位置決め/保持手段22は、基板14の辺に当接され、基板位置決め/保持手段22全体が、X方向あるいはY方向に位置を調整できるようになっているが、基板位置決め/保持手段22の基板14の辺に当接される部分において、距離をおいて設けられた2本のネジが独立に動くようにしておけば、角度調整が可能である。なお、この回転位置制御情報も上記のX、Y方向の位置決め情報および微調整変位情報等と同様に吐出ヘッドコントロールボックス17、コンピュータ20、コントロールボックス21等と接続され、液滴付与の位置情報、タイミング等が、たえずフィードバックできるようになっている。
以上の説明は、本発明に好適に使用される基板あるいはシートが、基本的に矩形形状であるということを前提としたものであるが、例外としてSi等の半導体基板は丸いウエハとして供給されるので、その場合は、結晶方位軸の方向を示すオリフラ(オリエンテーションフラット)と呼ばれる直線状の1辺を上記基板位置決め/保持手段22に当接させればよい。
【0019】
次に位置決めの他の手段、構成について説明する。上記説明では基板位置決め/保持手段22は、基板14の辺に当接され、基板位置決め/保持手段22全体が、X方向あるいはY方向に位置を調整できるようにしたものであるが、ここでは、基板14の辺ではなく、基板上に互いに直交する2方向に帯状パターンを設けるようにした例について説明する。前述のように本発明では基板上に発光型有機薄膜トランジスタ素子群をマトリックス状に配列して形成されるが、ここでは、前記のような互いに直交する2方向の帯状パターンをこのマトリックスの互いに直交する2方向と平行になるように形成しておく。このようなパターンは、基板上にフォトファブリケーション技術によって容易に形成できる。
次に本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に好適に適用される液体吐出ヘッドについて、図5、図6を用いて説明する。この例は7ノズルの例である。
この液体吐出ヘッド11を構成するノズル部は、溶液56が導入される流路45内にエネルギー作用部としてピエゾ素子46を設けたものである。ピエゾ素子46にパルス状の信号電圧を印加して図5(a)に示すようにピエゾ素子46を歪ませると、流路45の容積が減少すると共に圧力波が発生し、その圧力波によってノズル65から液滴43が吐出する。図5(b)はピエゾ素子46の歪がなくなって流路45の容積が増大した状態である。
ここでノズル65直前の流路45に導入される溶液56は、図6に示したフィルター57を通過してきたものである。本発明ではこのように、フィルター57を吐出ヘッド内に設け、ノズル65の最近傍にフィルター除去機能を持たせている。こうすることにより、本発明の溶液中の異物粒子をトラップし、基板上に形成される電極パターンあるいは有機発光材料によるパターンの性能低下を起こさないようにしている。このようなフィルター57は小型の簡易フィルターとすることによって、図6に示したように吐出ヘッド11内に組み込むことが可能となっている。そして吐出ヘッド11そのものもコンパクト化を実現できている。
このようなフィルター57は、たとえばステンレスメッシュフィルターが好適に用いられ、その孔径(フィルターメッシュサイズ〜除去できる異物の大きさの下限値)は、0.2μm〜2μmとされる。
【0020】
次に本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に好適に適用される液体吐出ヘッドの他の例について、図7を用いて説明する。この例はサーマル方式(バブル方式)の液体吐出ヘッドの例であり、液滴噴射の原動力は、溶液中で瞬時に発生する膜沸騰気泡の成長作用力である。
ここで示した液体吐出ヘッドは、溶液が流れる流路短部から液滴が噴射するタイプのものであり、エッジシューター型と呼ばれるものである。
ここでは、液体吐出ヘッドのノズル65の数を4個とした例を示している。この液体吐出ヘッドは、発熱体基板66と蓋基板67とを接合させることにより形成されており、発熱体基板66は、シリコン基板68上にウエハプロセスによって個別電極69と共通電極70とエネルギー作用部である発熱体71とを形成することによって構成されている。
一方、蓋基板67には、溶液が導入される流路を形成するための溝74と、流路に導入される溶液を収容する共通液室を形成するための凹部領域75とが形成されており、これらの発熱体基板66と蓋基板67とを図7に示すように接合させることにより、流路及び共通液室が形成される。なお、発熱体基板66と蓋基板67とを接合させた状態においては、流路の底面部に発熱体71が位置し、流路の端部にはこれらの流路に導入された溶液の一部を液滴として吐出させるためのノズル65が形成されている。なおここでは、ノズル形状は矩形であるが、これは丸形状であってもよい。なお蓋基板67の板面には、供給手段(図示せず)によって供給液室内に溶液を供給するための溶液流入口76が形成されている。
本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成においては、複数の液滴によって、発光型有機薄膜トランジスタ素子や電極パターンなどを形成する。つまりパターンをドットを重ね打ちしたり接触させたりして形成する。よって、このようなマルチノズル型の液体吐出ヘッドを用いると大変効率的に発光型有機薄膜トランジスタ素子を形成することができる。なおこの例では4ノズルの液体吐出ヘッドを示しているが、必ずしも4ノズルに限定されるものではなく、ノズル数が多ければ多いほど発光型有機薄膜トランジスタ素子の形成が効率的になることは言うまでもない。ただし、単純に多くすればよいということではなく、多くすれば液体吐出ヘッドも高価になり、また噴射ノズルの目詰まりによる確率も高くなるので、それらも考慮し装置全体のバランス(装置コストと発光型有機薄膜トランジスタ素子の製作効率のバランス)を考えて決められる。
【0021】
図8はこのようにして製作されたマルチノズル型の液体吐出ヘッドをノズル側から見た図を示している。本発明では、このようなマルチノズル型の液体吐出ヘッド11を図9に示すように、噴射する溶液ごと(有機半導体材料の溶液および電極形成溶液)に設け、キャリッジ搭載される。図10はその斜視図である。
図9、図10にはそれぞれのマルチノズル型の液体吐出ヘッドをA、B、C、Dと符号をつけているが、それぞれ各液体吐出ヘッドA、B、C、Dはノズル部分が各液体吐出ヘッドごとに離間して構成されるとともに各液体吐出ヘッドごとに異なる種類の溶液(例えば有機半導体材料の溶液および電極形成溶液)を噴射することができる。あるいは、それぞれ、独立したヘッドユニットとしてキャリッジ搭載されるなどして、互いの溶液がノズル面で混じらないようにする。
本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に適用される製造装置は、有機半導体材料の溶液および電極形成溶液を噴射付与して、発光型有機薄膜トランジスタ素子を製作するものであるが、単一の溶液のみを噴射するのみならず、この例のように、複数種類の溶液を噴射することができるので、たとえば、電極パターンを形成する溶液と有機半導体材料の溶液を組み合わせた発光型有機薄膜トランジスタ素子を簡単に形成することができる。
【0022】
次に、本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に適用される製造装置の他の特徴について説明する。ここでは液滴噴射後に基板上に液滴が付着し、良好なパターンを形成するにはどのようにしたらよいのかを検討した結果を示す。
前述のように本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に適用される製造装置では、吐出ヘッドユニット(吐出ヘッド)11は基板14に対して一定の距離を保ちながらパターン状、あるいは発光型有機薄膜トランジスタ素子群の形成面に対して平行にX、Y方向の相対移動を行いつつ、パターン、あるいは発光型有機薄膜トランジスタ素子群を形成する。すなわち、基板14に対して、吐出ヘッドユニット11が基板面に対して平行移動する、もしくは吐出ヘッドユニット11に対して基板14が平行移動する。
その際、パターン、あるいは発光型有機薄膜トランジスタ素子群を形成するための溶液の噴射を行う毎に相対移動を止めて噴射を行うと高精度なパターン、あるいは発光型有機薄膜トランジスタ素子群を形成することが可能である。しかし生産性が著しく低下するので、その相対移動を止めることなく、順次溶液の噴射を行うようにしている。その場合、その相対移動速度(例えば図4のキャリッジのX方向移動速度)は、単に生産性向上だけで決定されるべきではなく、高精度なパターン、あるいは機能デバイス群を形成するという観点からも検討されなければならない。
本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に適用される製造装置を検討するに当たってはこの点を鋭意検討し、このような溶液の噴射を行う場合、その噴射速度を前記相対移動速度より速くすることが必要であることに気がついた。このように吐出ヘッドユニット11を基板14に対して一定の距離を保ちながらX、Y方向の相対移動を行いつつ、溶液の噴射を行い、パターン、あるいは光型有機薄膜トランジスタ素子群を形成する場合には、溶液の液滴は前記相対速度と噴射速度の合成ベクトルの速度で基板14上に付着、形成される。そしてその位置精度については、基板14と吐出ヘッドユニット11の溶液噴射口面の距離と、前記合成ベクトルの速度を考慮し、噴射のタイミングを適宜選ぶことにより、その狙いの位置に液滴を付着させることができる。
【0023】
しかしながら、たとえ狙いの位置に付着させることができたとしても、もし、前記相対速度が速すぎる場合には、その相対速度に引きずられて付着液滴が基板14上で流れ、良好な形状でパターン、あるいは光型有機薄膜トランジスタ素子群を形成できなくなる。本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に適用される製造装置を検討するに当たってはこの点について特に検討したものである。以下に検討結果の1例を示す。この例は、図4のような装置を用い、キャリッジ12のX方向移動速度、ならびに吐出ヘッドユニット11の噴射速度を変えて、基板14上で良好な液滴付着ができ、良好なパターン形成ができるかどうか調べたものである。
図11にテストに使用したパターンの例を示す。ここでは、Ag微粒子含有溶液を噴射させ、2列の近接した素子電極間(ITO透明電極間)に、前記溶液によるドットパターンをつなぎ合わせた配線パターンを形成し、そのパターンの形成状況を評価したものである。評価は、形成後のパターンを顕微鏡下で観察し、良/不良(○/×)を判断した。図11(a)は良(○)であり、図11(b)のように、個々のドットパターンが良好な丸い形状にならず、長円形になったり、基板上における着弾位置も本来の狙いの位置から外れたりして、隣のドットパターンと接触したりするようなものは不良(×)である。
このような形状の評価とあわせて、上下のITO透明電極間の抵抗値を測定し、ドット位置精度不良による断線あるいは隣(左右)のドットとの接触による抵抗値変動などを評価した(○:狙い通りの抵抗値、×:狙いから外れた抵抗値)。
【0024】
実験条件の詳細を以下に示す。使用した基板はITO透明電極付きガラス基板であり、前述のAg微粒子含有溶液(ここでは、微粒子径が0.005μmのものを使用)を前述の図5に示した吐出ヘッド(ノズル径Φ5μm)と組み合わせて、図11のようなパターンを形成した。なお、図11は簡略化のため、1対のITO透明電極間を4ドットで埋めるように形成した図を示しているが、実際には、縦方向に1列で、約Φ8μmのドットを約4μmピッチで約100個打ち込み、上下のITO透明電極間(電極間距離0.4mm)をつないでいる。また隣に中心間距離を12μmとして、同様のITO透明電極およびITO透明電極間をつなぐ同様のパターンを形成している。
使用した吐出ヘッド11は図5に示した如きピエゾ式の吐出ヘッドであり、ノズル(吐出口)の数が64個で、その配列密度が100dpiのものである。吐出ヘッドと基板は相対運動(ここでは、基板固定、吐出ヘッドをキャリッジ走査)を行い、その制御をμオーダーで制御し、また噴射のタイミングをコントロールし、上記のように約4μmピッチによるドット付着、ならびに12μmの中心間距離を維持したパターン形成を行った。
液滴噴射の駆動電圧は噴射速度を変えるためにピエゾ素子への入力電圧を15Vから22Vまで変化させている。また駆動周波数は12kHzとした。なおこのようなピエゾ素子を利用した吐出ヘッドでは、ピエゾ素子への入力電圧を変えて噴射速度が変えられるが、同時に噴射滴の質量も変化するので、駆動波形(引き打ちも含めた立ち上がり波形ならびに立下がり波形)を制御して、噴射滴の質量がいつもほぼ一定(1plにした)になるようにし、噴射速度のみを変えるようにした。
また滴飛翔時の滴の形状を、パターン形成と同じ条件で別途噴射、観察し、その形状が、基板面に付着する直前(今本発明例では2mm)にほぼ丸い滴になるように駆動波形を制御して噴射させた(図12)。なお完全に丸い球状が得られず、飛翔方向に伸びた柱状であっても、駆動波形を制御するだけで容易にその直径の3倍以内の長さにはなる(l≦3d)ようにできた(図13)。またその際、後述する(図14)ような飛翔滴後方に複数の微小な滴を伴うことのない駆動条件(駆動波形)を選んだ。以下に結果を示す。














【0025】
表1
実験 噴射速度 キャリッジのX方向移動速度 パターン形成状況 抵抗値
No. Vj(m/s) Vc(m/s)
1 3 1 ○ ○
2 3 2 ○ ○
3 3 3 × ×
4 3 4 × ×
5 5 1 ○ ○
6 5 2 ○ ○
7 5 3 ○ ○
8 5 4 ○ ○
9 5 5 × ×
10 5 6 × ×
11 7 2 ○ ○
12 7 3 ○ ○
13 7 4 ○ ○
14 7 5 ○ ○
15 7 6 ○ ○
16 7 7 × ×
17 7 8 × ×
18 10 4 ○ ○
19 10 6 ○ ○
20 10 8 ○ ○
21 10 10 × ×
22 10 12 × ×
23 10 14 × ×
24 12 4 ○ ○
25 12 6 ○ ○
26 12 8 ○ ○
27 12 10 ○ ○
28 12 12 × ×
29 12 14 × ×
【0026】
以上の結果より、キャリッジ12のX方向移動速度が、噴射速度以上であると、良好なパターン形成できず、また、電極間の抵抗値も狙いからはずれたものになることがわかる。言い換えるならば、本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子形成に適用される製造装置において、ピエゾ素子を利用した吐出ヘッドを利用して、有機半導体材料含有溶液を基板14上に液滴付与し、乾燥させて発光型有機薄膜トランジスタ素子形成を行う場合、吐出ヘッド11から噴射される液滴の速度は、キャリッジ12のX方向移動速度より速くしなければならないことがわかる。
なおこの例は、吐出ヘッドをキャリッジ走査した例であるが、前述のように吐出ヘッドを固定し、基板を移動させる場合にも適用される。すなわち、噴射される液滴の速度は、吐出ヘッドと基板の相対移動速度より速くしなければならないということである。
さらに付言すると、今回の滴飛翔条件は、前述のように飛翔滴後方に複数の微小な滴を伴うことのない駆動条件(駆動波形)とした。その結果、これら複数の微小な滴が、不必要なところに付着するということが全くなく、大変良好なパターン形成を行うことができた。
また飛翔滴が飛翔方向に伸びた柱状であっても、駆動波形制御により、飛翔滴の長さをその直径の3倍以内の長さになる(l≦3d)ようにした(図13)ので、形成されたドットも真円に近い形状となり、良好なパターン形成を行うことができた。
【0027】
他の発光型有機半導体層の作製法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、プラズマ重合法、電解重合法、化学重合法等が挙げられ、材料に応じて使用できる。
これら有機半導体層2の膜厚としては、特に制限はないが、得られた発光トランジスタの特性は、有機半導体層の膜厚に大きく左右される場合が多く、その膜厚は、有機半導体により異なるが、一般に1μm以下、特に10〜300nmが好ましい。
本発明の発光型有機トランジスタ素子において、ゲート電極6、ソース電極3及びドレイン電極4の電極材料としては、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/金混合物、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられる。また、発生する光を有効に取り出すために、ITO等の透光性材料によって透明電極とするのもよい方法である。
【0028】
あるいはこれらの材料を単体で使用する他に、複数層組み合わせて使用される。具体的には、マグネシウム/金混合物と金の組み合わせ、マグネシウム/銅混合物と金の組み合わせ、マグネシウム/銀混合物と金の組み合わせ、マグネシウム/アルミニウム混合物と金の組み合わせ、マグネシウム/インジウム混合物と金の組み合わせ、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物と金の組み合わせ、リチウム/アルミニウム混合物と金の組み合わせ、マグネシウムと金の組み合わせ、アルミニウムと金の組み合わせ、クロムと金の組み合わせのように2層構成としたり、マグネシウム/金混合物と金とアルミニウムの組み合わせ、マグネシウム/銅混合物と金とアルミニウムの組み合わせ、マグネシウム/銀混合物と金とアルミニウムの組み合わせ、マグネシウム/アルミニウム混合物と金とアルミニウムの組み合わせ、マグネシウム/インジウム混合物と金とアルミニウムの組み合わせ、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物と金とアルミニウムの組み合わせ、リチウム/アルミニウム混合物と金とアルミニウムの組み合わせ、マグネシウムと金とアルミニウムの組み合わせ、アルミニウムと金とアルミニウムの組み合わせ、クロムと金とアルミニウムの組み合わせのように3層構成として使用することができる。
またこのような導電性金属材料の他に、シリコン半導体材料を用いることができるのはいうまでもない。特に、図3に示したような構成例のように、ゲート電極6に支持体機能を持たせるような構造の場合、ゲート電極6としてn+シリコン半導体基板が好適に使用される。
あるいはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体など)も好適に用いられる。
ソース電極及びドレイン電極を形成する材料は、上に挙げた中でも半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましく、p型半導体の場合は特に、白金、金、銀、ITO、導電性ポリマーおよび炭素が好ましい。
【0029】
これら電極層ならびにパターンは、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、プラズマ重合法、電解重合法、化学重合法、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法など等の膜形成技術とフォトリソグラフィー/エッチング手法、あるいはリフトオフ手法を組み合わせて形成される。
あるいは、上記発光型有機半導体層形成時のところで説明したような液体噴射原理による方法によって被接触、ダイレクト製作による手法もよい方法である。また、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法によって製作してもよい。
このような溶液あるいはペースト状材料を使用して、ソース電極3、ドレイン電極4等を形成する場合、上記の導電性材料を含む、溶液、ペースト、インク、分散液などの流動性電極材料が用いられる。中でも、導電性ポリマー、または白金、金、銀、銅を含有する金属微粒子を含む流動性電極材料が好ましい。また、溶媒や分散媒体としては、有機半導体へのダメージを抑制するため、水を60%以上、好ましくは90%以上含有する溶媒または分散媒体であることが好ましい。
金属微粒子を含有する流動性電極材料としては、粒子径が1〜50nm、好ましくは1〜10nmの金属微粒子を、必要に応じて分散安定剤を用いて、水や任意の有機溶剤である分散媒中に分散した材料が使用される。
金属微粒子の材料としては白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、亜鉛等を用いることができる。
このような金属微粒子の分散物の製造方法として、ガス中蒸発法、スパッタリング法、金属蒸気合成法などの物理的生成法や、コロイド法、共沈法などの、液相で金属イオンを還元して金属微粒子を生成する化学的生成法が挙げられるが、好適に使用される分散物としては、好ましくは、コロイド法、ガス中蒸発法により製造された金属微粒子の分散物である。
【0030】
本発明の有機薄膜トランジスタ素子のゲート絶縁層としては種々の絶縁膜を用いることができるが、特に、比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
上記皮膜の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの塗布による方法、印刷やインクジェットなどのパターニングによる方法などのウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。あるいは、シリコン半導体基板に支持体機能と、ゲート電極機能を持たせたような構成の場合(図3)、シリコン半導体基板を熱酸化させて酸化ケイ素皮膜を形成してもよい。
ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を、任意の有機溶剤あるいは水に必要に応じて界面活性剤などの分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えばアルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。
【0031】
これらのうち好ましいのは、上述した大気圧プラズマ法である。また、ゲート絶縁層が陽極酸化膜又は該陽極酸化膜と絶縁膜とで構成されることも好ましい。陽極酸化膜は封孔処理されることが望ましい。陽極酸化膜は、陽極酸化が可能な金属を公知の方法により陽極酸化することにより形成される。
陽極酸化処理可能な金属としては、アルミニウム又はタンタルを挙げることができ、陽極酸化処理の方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。陽極酸化処理を行なうことにより、酸化被膜が形成される。陽極酸化処理に用いられる電解液としては、多孔質酸化皮膜を形成することができるものならばいかなるものでも使用でき、一般には、硫酸、燐酸、蓚酸、クロム酸、ホウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等、あるいはこれらを2種類以上組み合わせた混酸、あるいはそれらの塩が用いられる。陽極酸化の処理条件は使用する電解液により種々変化するので一概に特定し得ないが、一般的には、電解液の濃度が1〜80質量%、電解液の温度5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2、電圧1〜100ボルト、電解時間10秒〜5分の範囲が適当である。好ましい陽極酸化処理は、電解液として硫酸、リン酸又はホウ酸の水溶液を用い、直流電流で処理する方法であるが、交流電流を用いることもできる。これらの酸の濃度は5〜45質量%であることが好ましく、電解液の温度20〜50℃、電流密度0.5〜20A/dm2で20〜250秒間電解処理するのが好ましい。
【0032】
また有機化合物皮膜としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン等を用いることもできる。
有機化合物皮膜の形成法としては、前記ウェットプロセスが好ましい。
無機酸化物皮膜と有機酸化物皮膜は積層して併用することができる。またこれら絶縁膜の膜厚としては、一般に50nm〜3μm、好ましくは、100nm〜1μmである。
ゲート絶縁層上に有機半導体を形成する場合、ゲート絶縁層表面に、任意の表面処理を施してもよい。シランカップリング剤、たとえばオクタデシルトリクロロシラン、トリクロロメチルシラザンや、アルカン燐酸、アルカンスルホン酸、アルカンカルボン酸などの自己組織化配向膜が好適に用いられる。
本発明における支持体1の好適な一例は樹脂であり、例えば図1、図2等に示した構成例では、プラスチックフィルムシートを用いることができる。前記プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このように、プラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めることができるとともに、衝撃に対する耐性を向上できる。加えて可撓性があるため、フレキシブルな発光型有機薄膜トランジスタ素子シートが実現でき、曲げて使用するような用途にも適用できる。
【0033】
また、図15に示すように本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子の最上面上には透光性部材よりなる素子保護層7が設けられる。素子保護層7としては前述した無機酸化物又は無機窒化物等が挙げられ、上述した大気圧プラズマ法で形成するのが好ましい。とりわけ酸化ケイ素が好ましく、これにより空気中の酸素、水蒸気から有機半導体材料を遮断、封止し、薄膜トランジスタ素子の耐久性が向上し、かつ有機半導体材料から発光する光を効果的に外部に取り出すことが可能となる。代表的な素子構成例(断面図)を図15に示すが、有機半導体層2から発光した光は、透光性を有した素子保護層7を介して矢印Aの方向に取り出すことができる。
より具体的な発光型有機薄膜トランジスタ素子のデバイス構造について図16によって説明する。図16は平面図であり、断面構造、構成は、図15に示したようなものであるが、寸法等は一致していない。図17はソース電極3及びドレイン電極4のパターン形状と主な寸法を示したものである。
このようなデバイスは、例えば図18に示すようなプロセスによって製作される。図18(a)は例えば、支持体1とゲート電極6を兼ねた構成とし、Si半導体基板よりなり、表面にゲート絶縁層5として酸化ケイ素を設けた基板を示したものである。これに薄膜形成〜フォトリソ〜エッチングによって図示したようなパターンのソース電極3及びドレイン電極4を形成する((b))。次に有機半導体層2を形成し((c))、最後に素子保護層7を形成((d))して完成する。
なおこの例では支持体1とゲート電極6を兼ねた構成としているため、Si半導体基板を使用しているが、後述のように大面積にこのような発光型有機薄膜トランジスタ素子を大量に形成するためには、ガラス基板、セラミック基板等を使用すれば低コストに製作できる。また、前述のようなプラスチックフィルムシートを用いることができる。そのような場合には、適宜発生する光を有効に取り出せるようなデバイス構成とすればよい。
図16の例では、ソース電極3及びドレイン電極4は互い違いに向き合ったくし歯状に形成したものであるが、このようにした理由は、ソース電極3−ドレイン電極4間距離が一定となっている領域の距離を狭い領域において長く取るためである。
なお、図17にパターン形状と主な寸法を示しているが、必ずしもこれに限定される必要はない。図19は他の電極パターン例である。
図15、図16において、符号6はゲート絶縁層5として酸化ケイ素を約350nmの厚さに形成した厚さ0.6mmのSi半導体基板であり、支持体1とゲート電極6を兼ねた構成である。3、4はそれぞれソース電極及びドレイン電極であり、マグネシウム/金混合物(1:1の比率)を15nm厚で形成した後、さらにその上に金を30nm厚で形成した2層構造としたものである。図示したようなパターン形成は、この例では電極材料薄膜形成後、フォトリソ〜エッチングによって行った。
【0034】
図17に試作した電極寸法などを示したが、本発明はこの寸法に限定されるものではない。この例では、ソース電極3−ドレイン電極4間距離が一定となっている領域(チャンネル長、この例では1μm)の距離(チャンネル幅)は全体で約989μm(=100μm×9+10μm×8+1μm×9)となる。
有機半導体層2は、例えば以下の化学式に示す重合体(前述)

にRubreneを1.8wt%添加したものを炭酸ジメチルに溶かし、前述のような液体噴射原理により、ソース電極3及びドレイン電極4の上から、インクジェット記録でいうところのベタ打ちと同じ要領で非接触、塗布したものである。乾燥後の有機半導体層2の厚さは、約120nmであった。
有機半導体層2の乾燥後、素子保護層7として、スパッタリングにより、酸化ケイ素を有機半導体層2を完全に封止できるように0.5μmの厚さで形成し、発光型有機薄膜トランジスタ素子は完成する。
以上、本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子の構成例、好適に使用される材料例を説明したが、次に本発明のより具体的な使用例を説明する。本発明は、発光現象をともなう有機薄膜トランジスタという特性を活かし、発光素子として使用される。
【0035】
通常、有機トランジスタ素子は素子駆動機能を利用し、図20に示すように別途形成された液晶、電気泳動素子、あるいは有機EL素子といった表示デバイスと組み合わされ、ディスプレイとして機能する。
図20は、有機トランジスタ素子が複数配置される有機トランジスタシート88の1例を概略の等価回路図で示したものである。図を簡単にするために、3×3のマトリクス配列としているが、実際には、有機トランジスタシート88は、数千×数千〜数万×数万のオーダーのマトリクス配列された有機トランジスタ素子91を有する。89は各有機トランジスタ素子91のゲート電極のゲートバスラインであり、90は各有機トランジスタ素子91のソース電極のソースバスラインである。各有機トランジスタ素子91のドレイン電極には、出力素子93が接続され、この出力素子91は例えば液晶、電気泳動素子等であり、表示装置における画素を構成する。図示の例は、出力素子91として液晶が、抵抗とコンデンサからなる等価回路で示した。92は蓄積コンデンサ、94は垂直駆動回路、95は水平駆動回路である。
これに対して本発明においては、有機トランジスタ素子そのものが発光素子を兼ねることができるので、別途、液晶、電気泳動素子、あるいは有機EL素子といった表示デバイスを形成する必要がなく、有機トランジスタ素子を複数個マトリックス状に配列し、有機トランジスタの発光のON/OFFを行うことにより、そのままディスプレイ装置として機能させることができる。また、単にON/OFF制御だけではなく、ゲート電圧を段階的に変えることにより、発光量も変えられるので、階調表現豊かなディスプレイ装置として機能させることができる。すなわち、図20の出力素子93を必要としない大変簡単な構成の自発光型ディスプレイが実現できる。
【0036】
ここで、各有機トランジスタ素子は、前述のように個別に酸化ケイ素等の透光性かつ封止性をもつ材料7によって保護される。それにより確実な封止性を実現できる。
一方で製作コスト面を考慮すると、図20の有機トランジスタシート88の全トランジスタ素子を酸化ケイ素等の材料で全面コートするのもよい方法である。特にディスプレイとして、100mm×100mm以上の大きさのものを製作するような場合には、素子個別に封止を行うよりも、シート上の素子全体を封止するようにしたほうがよい。
他の封止手段として、図20の有機トランジスタシート88そのものをケースに収納した構成とし、ディスプレイ装置を実現できる。図21にその構成手順例を示す。図中、88は有機トランジスタシート、96はケース底板、97はケース枠、98は保護基板、99はシール部材、100はギャップである。
このようなディスプレイ装置は、図22(a)〜(d)に示したような順序で組みつけられる。(a)は、ケース底板96およびケース枠97よりなる有機トランジスタシート88を収納するケースを示す。ここに(b)に示すように表面に数千×数千〜数万×数万のオーダーのマトリクス配列された有機トランジスタ素子(図示せず)が形成された有機トランジスタシート88を収納し、さらに(c)に示すように形成された有機トランジスタ素子面に近接して保護基板98が設けられる。そして最後に(d)に示すようにケース内をシール部材99によって密封、封止される。
【0037】
この時、有機トランジスタシート88と保護基板98の間にはギャップ100が存在し、このギャップ内は有機トランジスタ素子を発光させるためには、1×10-1〜1×10-8Torrの真空気密状態に保たれる。なおより好ましくは発光効率を上げるとともに、安定発光状態を保つために1×10-3〜1×10-8Torr程度の真空度を維持するのがよい。またこのギャップ距離は小さいほうが好ましく、大きくても保護基板98の厚さ以下とすべきである。これは内部が真空状態であるため、大気圧によって保護基板98が変形するためである。また最悪の場合には、大気圧によって破損することもあるため、保護基板98の厚さ以下とする。具体的には、保護基板98の厚さは、0.5〜10mmとされ、ギャップは、それ以下とすれば上記のような真空状態にしても、保護基板98が破損したりすることはない。なお、このギャップは、より好ましくはほとんどない状態にするのがよい。すなわち、有機トランジスタシート88と保護基板98とを密着状態にするのもよい方法である。
また保護基板98の材料としては、発光した光をこれを介して外部に取り出すため、透光性部材が選択され、コーニング社製パイレックス(登録商標)ガラスなどが好適に用いられる。あるいは、耐衝撃性も考慮して、日本板硝子株式会社製化学強化ガラスFL3.2などが好適に用いられる。
他の好ましい構成として、有機トランジスタシート88と保護基板98の間のギャップ100領域に窒素ガス等の不活性ガスを注入して密封状態とするのも高い発光効率が得られる。
【0038】
前述(図15、図16)の本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子(素子保護層7なし)を、上記のように1×10-2Torrの真空気密状態において、ドレイン電圧−90Vにおいて、ゲート電圧を変化させたところ、−60Vで発光が始まり、−70Vで約1000cd/m2の輝度、−80Vで約1300cd/m2の輝度という具合に、ゲート電圧の変化に応じて連続的、あるいは段階的に輝度を変えることができ、−90Vで約1600cd/m2の最高輝度が得られた。1×10-3Torrの真空気密状態においては、ドレイン電圧−90Vにおいて、ゲート電圧−90Vで約2000cd/m2の最高輝度が得られた。さらに1×10-7Torrの真空気密状態においては、ドレイン電圧−90Vにおいて、ゲート電圧−90Vで約2500cd/m2の最高輝度が得られた。また、真空機密状態に変えて窒素ガス注入下においても、ドレイン電圧−90Vにおいて、ゲート電圧−90Vで約2400cd/m2の最高輝度が得られた。次に発光型有機薄膜トランジスタ素子上に素子保護層7(酸化ケイ素)を全面に0.5μmの厚さで形成して封止した素子を通常の空気中で評価したところ、ドレイン電圧−90Vにおいて、ゲート電圧−90Vで約2200cd/m2の最高輝度が得られ、封止をしっかり行えば空気中でも機能することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の有機トランジスタ素子の層構成例(トップゲート型)を示す図である。
【図2】本発明の有機トランジスタ素子の層構成例(ボトムゲート型)を示す図である。
【図3】本発明の有機トランジスタ素子の変形構成例を示す図である。
【図4】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する液滴噴射製造装置の一実施例を説明するための図である。
【図5】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する装置に好適に使用されるピエゾ素子利用の吐出ヘッドの液滴噴射原理を説明する図である。
【図6】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する装置に好適に使用されるピエゾ素子利用の吐出ヘッドの構造を示す図である。
【図7】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する装置に好適に使用されるサーマル方式(バブル方式)の液体吐出ヘッドの例を示す図である。
【図8】マルチノズル型の液体吐出ヘッドをノズル側から見た図である。
【図9】マルチノズル型の液体吐出ヘッドを噴射する溶液ごとに積層し、ユニット化した図である。
【図10】図9の斜視図である。
【図11】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する装置によって、良好なパターン形成を行う条件を見出すために使用したテストパターンの例を示す図である。
【図12】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する装置に使用される吐出ヘッドで機械的変位による作用力で噴射した場合の液滴飛翔形状の例を説明するための図である。
【図13】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する装置に使用される吐出ヘッドで機械的変位による作用力で噴射した場合の他の液滴飛翔形状の例を説明するための図である。
【図14】本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子を製造する装置に使用される吐出ヘッドで膜沸騰気泡による作用力で噴射した場合の液滴飛翔形状の例を説明するための図である。
【図15】本発明の発光型有機トランジスタ素子の構成例を示す図である。
【図16】本発明の発光型有機トランジスタ素子の構成例を示す平面図である。
【図17】図16に示した構成例の電極パターン形状と主な寸法を示す図である。
【図18】図16に示した構成例の製作プロセスを説明する図である。
【図19】他の電極パターン例を示す図である。
【図20】有機トランジスタ素子が複数配置される有機トランジスタシートの一例の概略の等価回路図である。
【図21】本発明の発光型有機トランジスタ素子を利用したディスプレイ構成例を示す図である。
【図22】図21に示したディスプレイのアセンブリ方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0040】
1…支持体、2…有機半導体層、3…ソース電極、4…ドレイン電極、5…ゲート絶縁層、6…ゲート電極、7…素子保護層、11…吐出ヘッドユニット(吐出ヘッド)、12…キャリッジ、13…基板保持台、14…発光型有機薄膜トランジスタ素子基板あるいはシート、15…溶液の供給チューブ、16…信号供給ケーブル、17、21…コントロールボックス、18…X方向スキャンモータ、19…Y方向スキャンモータ、20…コンピュータ、22…基板位置決め/保持手段、43…液滴、45…流路、46…ピエゾ素子、56…溶液、57…フィルター、65…ノズル、66…発熱体基板、67…蓋基板、68…シリコン基板、69…個別電極、70…共通電極、71…発熱体、74…溝、75…凹部領域、76…溶液流入口、88…有機トランジスタシート、89…ゲートバスライン、90…ソースバスライン、91…有機トランジスタ素子、92…蓄積コンデンサ、93…出力素子、94…垂直駆動回路、95…水平駆動回路、96…ケース底板、97…ケース枠、98…保護基板、99…シール部材、100…ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に有機半導体層を一対の電極間に設けてなる構造の有機トランジスタにおいて、前記基板は導電性材料もしくは半導体材料よりなるとともにその表面に絶縁層を有し、該絶縁層上に前記有機半導体層ならびに前記一対の電極を形成してなるとともに、前記有機半導体層上面を透光性部材によって封止した構成を備え、前記一対の電極間に前記有機半導体層が発光する範囲内で電圧を印加し、さらに前記基板に電圧を印加することにより、前記有機半導体層の発光を制御するように構成されていることを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項2】
前記有機トランジスタを前記基板上に複数個配列したことを特徴とする請求項1に記載の有機トランジスタ。
【請求項3】
前記透光性部材を、各有機トランジスタ素子ごとに個別に設けたことを特徴とする請求項2に記載の有機トランジスタ。
【請求項4】
1つの大面積の前記透光性部材によって複数の有機トランジスタ素子を封止することを特徴とする請求項2に記載の有機トランジスタ。
【請求項5】
前記有機半導体層と前記透光性部材との間に真空層を介在させたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項6】
前記有機半導体層を不活性ガス雰囲気中におくようにしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項7】
前記有機半導体層と前記透明性部材とを密着させた構造としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機トランジスタの発光の光量を段階的に変えることを特徴とするディスプレイ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2006−253162(P2006−253162A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63197(P2005−63197)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】