説明

有機化合物を含む発光素子を製造するための装置および方法

【課題】本発明は、有機化合物を含む発光素子を製造するための装置および方法に関する。
【解決手段】これらの素子には、有機発光ダイオードが備えられており、ディスプレイまたはかかる発光ダイオードを有する照明素子であってもよい。本発明の目的は、製造のために使用する時間のコストに関する製造経費を低減することである。この場合、既に前処理された基板が連続式真空コーティングプラントにおいてさらに加工される。かかる基板上には、その上方に発光のために適合する有機化合物の少なくとも一つの層が蒸着することが意図されている電極が形成される。蒸着は相違する角度分布を備えて行われる。このためにはシャドーマスクが使用される。蒸着における角度分布は、シャドーマスクから基板までの間隔および/または上部電極および有機物層を蒸着するためのソースの基本圧を変化させることによって適応させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を含む発光素子を製造するための装置および方法に関する。かかる素子には有機発光ダイオードが備えられており、ディスプレイ、またはかかる発光ダイオードを有する照明素子であってもよい。
【0002】
上記において、光は様々な波長、すなわち様々な色で発光させることができ、または単色光線のみを発光させることもできる。
【背景技術】
【0003】
周知のように、有機発光ダイオード(OLED)を有する上記のような素子は、様々な基板上への層状蒸着によって製造される。層構造には、印加電圧を用いた活性化による発光のために適合する有機化合物の層が含有されている。
【0004】
ここで、個別発光素子は、通常ピクセルとも呼ばれる一つの基板上に形成される。この場合、発光のために適合する、同じまたは相違する有機化合物を使用できる。
【0005】
製造においては、構造化および適切な層構造を考慮に入れなければならない。そのためには、それ自体は周知の設備技術および薄膜テクノロジーを使用する。これまでは、比較的小さなサイズの素子は主としてサブディスプレイとして使用されていた。今後は有機発光ダイオードの適用範囲は増加し続け、ますます非常に大きなディスプレイもしくは照明素子のために使用されるようになると想定すべきである。
【0006】
これらの素子は、真空中で適切な物質および化合物の蒸着によって、構造化および層構造を備えて製造される。層状構造化のためにはシャドーマスクが使用される。シャドーマスクの貫通穴を通して気体状化合物もしくは物質が表面上で衝突して局所に限定された層が形成されるが、その層厚はあらかじめ設定可能である。この場合、大きなシャドーマスクは変形する傾向があるため、大きな平面を同時に構造化しようとすると問題が発生する。さらに、シャドーマスクの貫通穴は、多少なりとも長期間の使用後には化合物または化学物質で閉塞するまで塞がれる。従って、このことに適応した頻回なクリーニングもしくは交換が必要になるが、このことは真空技術において特に不都合な影響を及ぼし、製造が中断される。
【0007】
しかし、一つの基板上の個別の発光素子は、別個の制御を可能にするため、または隣接発光素子の様々な色の重複を回避するために別個に形成されなければならない。
【0008】
特許文献1には、それを用いて多色ディスプレイのための基板上で構造化が形成されるシャドーマスクの使用が記載されている。この場合、一つの基板上では、構造化形で形成された電極上には赤色、緑色および青色を備える光線のための有機化合物の層が蒸着する。このために、貫通穴を備えるシャドーマスクは徐々に移動させられ、この工程において貫通穴はある位置に配置される。その際、気体状有機化合物の蒸着は、例えばそれを用いてさらに別の電極を有機化合物から形成された層の上に形成でき、その後のさらに別の層の蒸着における場合よりも大きな蒸着角または散乱角を用いて行われる。この場合、この/これらの上方層のためには、さらに別の構造化されたシャドーマスクが使用される。
【0009】
さらに、かかる素子は、中心チャンバーの周囲に配置された点ソースを用いて真空中で蒸着する。この際、基板の取扱いのための所要時間が増加するため、複数の短所が存在する。さらに、蒸着する有機化合物の大部分は、真空チャンバー内に沈積し、大部分は真空チャンバーの外へ吸引排出されるため、消失する。
【0010】
連続式真空コーティングプラントでは、所要時間を短縮することができる。しかし、詳細には真空条件の順守およびシャドーマスクの不可欠な高精度の調整に関連して、プラント内での時間および/または費用のかかるシャドーマスクの交換が必要になる。調整の際に必要な動きによって微粒子が遊離し、このことは製造収量を低減させる。
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,811,808B2号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このため、本発明の目的は、費用および所要時間に関して製造のための活動を削減することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は、本発明によれば、請求項1に記載の特徴を有する装置によって解決される。本発明による製造方法は、請求項10に提示した。
【0014】
本発明の有益な態様およびまた別の実施形態は、従属請求項に記載した特徴を用いると達成できる。
【0015】
本発明では、既に前処理された基板が真空コーティングプラント内でさらに加工処理される。適切な基板上に少なくとも一つの電極が既に形成されており、その上には、例えばエレクトロルミネセンスの結果として発光のために適合する有機化合物の少なくとも一つの層を蒸着させる。
【0016】
有機物層の蒸着および上部電極を形成するための蒸着においては、相違する角度分布が選択される。その際、上部電極を形成するための蒸着における角度分布の方が広い。
【0017】
上記のために、それを用いて各有機化合物が気相に変換される少なくとも一つのソースが存在する。気体状有機化合物は、シャドーマスクの少なくとも一つの貫通穴を通って表面へ到達し、その場所で局所に限定されたピクセルの形状で一つの層を形成する。気体流は極めて小さな散乱角もしくは蒸着角で発生し、基板の表面に対して少なくともほぼ直角に方向付けられる。それによって蒸着において極めて小さなアンダーカットが発生する。
【0018】
連続真空コーティングプラントを通過する直進運動において、基板および同一のマスクは、少なくとも一つのまた別のソースに対して配置される。これ/これらのまた別のソースを用いて、例えば導電性金属である物質が気相へ変換され、同一のシャドーマスクの一つまたは複数の貫通穴を通して有機物層を備えた表面領域上へ方向付けられ、その場所で上部電極が形成される。
【0019】
その際、気体流は、シャドーマスクの大きなアンダーカットおよび有機化合物がコーティングされた面積に比して拡大された上部電極面積が達成されるように、例えば円錐形に形成された気体流の形で、より大きな散乱角もしくは蒸着角で各表面領域上へ方向付けられる。
【0020】
しかし、上記は、共に使用することができる二つの代替態様で達成することができる。
【0021】
そこで上部電極の形成における基板とシャドーマスクとの間隔は、有機物層を形成する場合よりも大きくてよい。この間隔の変更は、有機物層を備えた基板の輸送中に実施してもよい。
【0022】
第2の代替態様として、上部電極を形成するためには有機物層を形成するために使用できるソースに比して高い基本圧を示すソースを使用する可能性が存在する。
【0023】
より広い角度分布は、傾斜したソースを用いた場合でも達成できる。その際、その上にコーティングが形成される基板表面に対して斜めに傾斜した少なくとも一つのソースは、かかる傾斜したソースから排出された気体流が、基板表面に対してある角度で適切に傾斜した中心軸を有するように方向付けられる。
【0024】
似たような作用が、少なくとも一つの旋回可能なソースを用いて達成することもできる。その場合、旋回は軸の周囲または点の周囲で発生してもよい。次に、気体流はシャドーマスクの貫通穴を通るコーティングのための各旋回角度に依存して方向付けられ、それによって上部電極が形成される。
【0025】
有機物層を形成するためには加熱蒸着ソースを使用できる。
【0026】
そのようなソースは、上部電極を形成するためにも使用できるが、特に好ましくは、所望の増加した基本圧の態様下ではCVD(化学真空蒸着)ソース、および詳細には好ましくはPVD(物理蒸着)ソースを使用すべきである。その一例はマグネトロンスパッタソースである。
【0027】
有機物層を形成するためには、あらゆる適切な有機化合物を使用できる。これは、上部電極を形成するために使用する物質にも当てはまる。個別層の各々の望ましい層厚は、例えば設定可能なコーティング時間または設定可能な直進運動の速度によって、同様に周知の方法で適合させることができる。
【0028】
本発明によれば、広い面積の基板を加工処理することができ、多数の散在性で相互に配置された発光素子を基板上に形成できる。
【0029】
本発明を用いることで、特に有益には、加工プロセス中のシャドーマスクの交換を行わずに済ませることができる。このことはプロセスを非常に単純化し、収量の増加をもたらす。蒸着において発生する微粒子密度は低減することができる。
【0030】
上部電極の形成におけるアンダーカットの増大によって上部電極の原位置での接触を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下において、本発明を例示の目的でさらに詳細に説明する。
【0032】
基板10は、矢印が示すように、不図示の連続式真空コーティングプラントを通り抜けて直進性で移動する。基板10は、既に相互から離れた下部電極21および22を備えて構造化されている。下部電極21および22が用意された基板10の領域に対して配置されているように図示した一つの貫通穴を備えるシャドーマスク30は、基板10と共に移動させられる。その際、基板10とシャドーマスク30との間では直進運動の方向に相対運動が起こらない。基板10とシャドーマスク30は、次にソース40の影響範囲内に到達する。ソース40からは基板10の表面上で有機物層23を形成するための気体状有機化合物がシャドーマスク30の貫通穴を通って方向付けられる。その際、多数の該層23は相互に重なり合って形成することができ、少なくとも一つの層は発光のために適切な有機化合物から形成される。
【0033】
その際、気体流は表面に対して少なくともほぼ直角で狭い角度分布で方向付けられ、基板10の方向には、もしその方向に角度があったとしても、ほんのわずかしか広がらない。
【0034】
有機物層23が完成した後に、基板10およびシャドーマスク30は、それを用いて有機物層23上での上部電極24の形成を実現できるまた別のソース50の影響範囲内に到達する。その際、金属もしくは合金、例えばアルミニウムは、ソース50によって気相へ変換させられ、蒸着は上述した有機物層23の蒸着に比して広い角度分布で行われ、前記の広い角度分布を用いて、シャドーマスク30のより大きなアンダーカットおよび広い面積にわたるコーティングを達成できる。このようにして形成された上部電極24は、図1の右側の図面表示から明らかなように、下部電極21と導電性で接続されている。発光素子は、下部電極21および22を介して制御することができる。
【0035】
ソース40は、加熱蒸着ソースとして設計できる。
【0036】
ソース50は、PVDソース、または例えばマグネトロンスパッタソースなどのCVDソースであってもよい。
【0037】
その際、コーティングすべき表面に対して傾斜している少なくとも一つのソース50は、同様に傾斜角で方向付けられなければならない。ソース50のこの基本圧および/または場合によってはソース40の基本圧と比較して高い基本圧は、上部電極24の蒸着および形成においてシャドーマスク30のより広い角度分布およびより大きなアンダーカットを生じさせる。
【0038】
上記は、本明細書には示していない形態においても、上部電極24を形成する際に基板10とシャドーマスク30との間隔を広げることによって達成できる。その際、各間隔の変更は、シャドーマスク30内の貫通穴の内幅、ソース40および50とコーティングすべき表面との間隔ならびに所望のコーティング面積をその都度考慮に入れて選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を模式的に表した例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10 基板
21、22 下部電極
23 有機物層
24 上部電極
30 シャドーマスク
40、50 ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの基板上に少なくとも一つの下部電極、発光のために適合する有機化合物の少なくとも一つの層および上部電極が局所に限定されて形成される、連続式真空コーティングプラント内で有機化合物を含む発光素子を製造するための装置であって、一つまたは複数の有機物層を形成するための少なくとも一つのソース、一つのシャドーマスク、および上部電極を形成するための、または別の少なくとも一つのソースが連続式真空コーティングプラント内に配置され、蒸着した有機化合物はシャドーマスク(30)内の少なくとも一つの貫通穴を通して上部電極(24)を形成する、既に形成されている有機物層(23)へ同一のシャドーマスク(30)を通して誘導される物質よりも小さな散乱角で基板(10)に向けて方向付けられること、
を特徴とする装置。
【請求項2】
前記上部電極(24)を形成する場合の前記シャドーマスク(30)と前記基板(10)との間隔は、前記有機物層(23)を形成する場合よりも大きいこと、を特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記上部電極(24)を蒸着させるための一つまたは複数のソース(50)は、有機物層を形成するための少なくとも一つのソース(40)の基本圧よりも高い基本圧を示すこと、を特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記基板(10)および前記シャドーマスク(30)は、前記上部電極(24)を形成するための一つまたは複数のソース(50)が前記有機物層(23)のための一つまたは複数のソース(40)に続く運動方向に配列されている前記連続式真空コーティングプラントを通って直進運動により誘導されること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記直進運動における前記基板(10)と前記シャドーマスク(30)との間隔を変更できること、を特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記蒸着した有機化合物は、前記シャドーマスク(30)を通して前記基板(10)へ少なくともほぼ直角に方向付けられること、を特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記上部電極(24)を形成するために少なくとも一つの傾斜した、もしくは旋回可能なソース(50)が存在すること、を特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記上部電極(24)を形成するための前記ソース(50)は、加熱蒸着ソース、PVDソースおよび/またはCVDソースであること、を特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記有機物層(23)を形成するための前記ソース(40)は加熱蒸着ソースであること、を特徴とする先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
一つの表面上に形成された下部電極(21、22)を備える基板(10)が真空プラントを通ってシャドーマスク(30)と共に直進運動により移動させられる連続式真空コーティングプラント内で有機化合物を含む発光素子を製造するための方法であって、
このとき少なくとも一つのソース(40)からの少なくとも一つの発光のために適合する気体状有機化合物が、少なくとも一つの有機物層(23)を形成するために、前記シャドーマスク(30)の少なくとも貫通穴を通って下部電極(21、22)が用意された基板(10)の表面領域へ、その後の少なくとも一つのソース(50)からの上部電極(24)を形成するための気体状物質より小さな散乱角および小さなアンダーカットで前記シャドーマスク(30)の同一の貫通穴を通って前記一つまたは複数の有機物層(23)へ方向付けられること、
を特徴とする方法。
【請求項11】
前記シャドーマスク(30)から基板(10)までの間隔は、その後に上部電極(24)を形成する場合には大きくなること、を特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記上部電極(24)を形成するためのソース(50)は、有機物層(23)を形成するためのソース(40)よりも高い基本圧で作動させられること、を特徴とする請求項10または11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記上部電極(24)を形成するための少なくとも一つのソース(50)は、コーティングにおいて旋回させられること、を特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
一つの基板(10)上に相互に対して別個に配置された複数の発光素子が形成されること、を特徴とする請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−515046(P2009−515046A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539240(P2008−539240)
【出願日】平成18年11月3日(2006.11.3)
【国際出願番号】PCT/DE2006/001952
【国際公開番号】WO2007/054073
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(597159765)フラウンホーファーゲゼルシャフト ツール フォルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシユング エー.フアー. (68)
【Fターム(参考)】