説明

有機半導体薄膜及び有機薄膜トランジスタ

【課題】 配向性及びキャリア移動度が高い有機半導体薄膜、及びそれを用いた有機半導体薄膜を提供することである。
【解決手段】 光学活性化合物を含有することを特徴とする有機半導体薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜及び有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末の普及に伴い、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。また、さらに情報化の進展に伴い、従来紙媒体で提供されていた情報が電子化されて提供される機会が増え、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
【0003】
一般に平板型のディスプレイ装置においては、液晶、有機EL、電気泳動等を利用した素子を用いて表示媒体を形成している。また、こうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度等を確保するために、画像駆動素子としてアクティブ駆動素子(TFT素子)を用いる技術が主流になっている。例えば、通常のコンピュータディスプレイではガラス基板上にこれらTFT素子を形成し、液晶、有機EL素子等が封止されている。
【0004】
ここでTFT素子には主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)等の半導体を用いることができ、これらのSi半導体(必要に応じて金属膜も)を多層化し、ソース、ドレイン、ゲート電極を基板上に順次形成していくことでTFT素子が製造される。こうしたTFT素子の製造には、通常スパッタリング、その他の真空系の製造プロセスが必要とされる。
【0005】
しかしながら、このようなTFT素子の製造では、真空チャンバーを含む真空系の製造プロセスを何度も繰り返して各層を形成せざるを得ず、装置コスト、ランニングコストが非常に膨大なものとなっていた。例えば、TFT素子では、通常それぞれの層の形成のために真空蒸着、ドープ、フォトリソグラフ、現像等の工程を何度も繰り返す必要があり、何十もの工程を経て素子を基板上に形成している。スイッチング動作の要となる半導体部分に関しても、p型、n型等、複数種類の半導体層を積層している。こうした従来のSi半導体による製造方法ではディスプレイ画面の大型化のニーズに対し、真空チャンバー等の製造装置の大幅な設計変更が必要とされる等、設備の変更が容易ではない。
【0006】
また、このような従来からのSi材料を用いたTFT素子の形成には高い温度の工程が含まれるため、基板材料には工程温度に耐える材料でなければならない。
【0007】
このため実際上はガラスを用いざるをえず、先に述べた電子ペーパーあるいはデジタルペーパーといった薄型ディスプレイを、こうした従来知られたTFT素子を利用して構成した場合、そのディスプレイは重く、柔軟性に欠け、落下の衝撃で割れる可能性のある製品となってしまう。ガラス基板上にTFT素子を形成することに起因するこれらの特徴は、情報化の進展に伴う手軽な携行用薄型ディスプレイへのニーズを満たすにあたり望ましくないものである。
【0008】
一方、近年において高い電荷輸送性を有する有機化合物として、有機半導体材料の研究が精力的に進められている。これらの化合物は有機EL素子用の電荷輸送性材料のほか、有機レーザー発振素子(例えば、非特許文献1参照。)や、多数の論文にて報告されている有機半導体薄膜への応用が期待されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0009】
これら有機半導体デバイスを実現できれば、比較的低い温度での真空ないし低圧蒸着による製造プロセスの簡易化や、さらにはその分子構造を適切に改良することによって、溶液化できる半導体を得る可能性があると考えられ、有機半導体溶液をインク化することによりインクジェット方式を含む印刷法による製造も考えられる。これらの低温プロセスによる製造は、従来のSi系半導体材料については不可能と考えられてきたが、有機半導体を用いたデバイスにはその可能性があり、従って前述の基板耐熱性に関する制限が緩和され、透明樹脂基板上にも、例えば、TFT素子を形成できる可能性がある。透明樹脂基板上にTFT素子を形成し、そのTFT素子により表示材料を駆動させることができれば、ディスプレイを従来のものよりも軽く、柔軟性に富み、落としても割れない(もしくは非常に割れにくい)ディスプレイとすることができるであろう。
【0010】
しかしながら、こうしたTFT素子を実現するための有機半導体としてこれまでに検討されてきたのは、ペンタセンやテトラセンといったアセン類(例えば、特許文献1参照。)、鉛フタロシアニンを含むフタロシアニン類、ペリレンやそのテトラカルボン酸誘導体といった低分子化合物(例えば、特許文献2参照。)や、α−チエニールもしくはセクシチオフェンと呼ばれるチオフェン6量体を代表例とする芳香族オリゴマー(例えば、特許文献3参照。)、ナフタレン、アントラセンに5員の複素芳香環が対称に縮合した化合物(例えば、特許文献4参照。)、モノ、オリゴ及びポリジチエノピリジン(例えば、特許文献5参照。)、さらにはポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリ−p−フェニレンビニレンといった共役高分子等限られた種類の化合物(例えば、非特許文献1〜3参照。)でしかなく、高いキャリア移動度を示す新規な電荷輸送性材料を用いた半導体性組成物の開発が待望されていた。
【0011】
従来公知の有機半導体材料として良好なTFT特性が報告されているペンタセン誘導体薄膜の作製に、蒸着工程ではなく、インクジェット法等の溶液塗布が適用できれば製造上大きなコストメリットが期待できるが、ペンタセン誘導体は種々の有機溶媒への溶解性が十分ではなく、また溶液調製後に付加反応や結晶化、沈殿生成がおこりやすい等、塗布液安定性が十分ではないという、製造上の問題点が指摘されていた。そこで溶解性向上、塗布液安定性向上を目的として、置換基を導入したペンタセン誘導体を用いた有機TFT材料に関する技術(例えば、特許文献9、10参照。)が開示されている。しかしながら、アルキル基等の導入では十分な溶解性を得ることは難しく、塗布時の温度制御等の操作性等が困難であり、均一な塗膜作製が困難であるという問題があった。
【0012】
また、特開2003−292588号公報、米国特許出願公開第2003/136958号明細書、同2003/160230号明細書、同2003/164495号明細書では「マイクロエレクトロニクス用の集積回路論理素子にポリマーTFTを用いると、その機械的耐久性が大きく向上し、その使用可能寿命が長くなる。しかしながら、半導体ポリチオフェン類の多くは周囲の酸素によって酸化的にドープされ、導電率が増大してしまうため空気に触れると安定ではないと考えられる。この結果、これらの材料から製造したデバイスのオフ電流は大きくなり、そのため電流オン/オフ比は小さくなる。従ってこれらの材料の多くは、材料加工とデバイス製造の間に環境酸素を排除して酸化的ドーピングを起こさない、あるいは最小とするよう厳重に注意しなければならない。この予防措置は製造コストを押し上げるため、特に大面積デバイスのための、アモルファスシリコン技術に代わる経済的な技術としてのある種のポリマーTFTの魅力が削がれてしまう。これら及びその他の欠点は本発明の実施の形態において回避され、あるいは最小となる。従って、酸素に対して強い対抗性を有し、比較的高い電流オン/オフ比を示すエレクトロニックデバイスが望まれている」との記載があり、その解決手段が種々提案されている(例えば、特許文献6〜8参照。)が、改善のレベルは満足できるものではなく、さらなる改良が望まれている。
【特許文献1】特開平5−55568号公報
【特許文献2】特開平5−190877号公報
【特許文献3】特開平8−264805号公報
【特許文献4】特開平11−195790号公報
【特許文献5】特開2003−155289号公報
【特許文献6】特開2003−261655号公報
【特許文献7】特開2003−264327号公報
【特許文献8】特開2003−268083号公報
【特許文献9】国際公開第03/016599号パンフレット
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0105365号明細書
【非特許文献1】『サイエンス』(Science)誌289巻,599ページ(2000)
【非特許文献2】『ネイチャー』(Nature)誌403巻,521ページ(2000)
【非特許文献3】『アドバンスド・マテリアル』(Advanced Material)誌,2002年,第2号,99ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、配向性及びキャリア移動度が高い有機半導体薄膜、及びそれを用いた有機半導体薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成された。
【0015】
(請求項1)
光学活性化合物を含有することを特徴とする有機半導体薄膜。
【0016】
(請求項2)
前記光学活性化合物がπ共役系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体薄膜。
【0017】
(請求項3)
前記光学活性化合物が、芳香族炭化水素環及び/または芳香族複素環が3つ以上連続した部分構造を有するπ共役系化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機半導体薄膜。
【0018】
(請求項4)
前記光学活性化合物が、芳香族炭化水素環及び/または芳香族複素環が3つ以上縮合した芳香族炭化水素縮合環または芳香族複素縮合環を部分構造として有することを特徴とする請求項2に記載の有機半導体薄膜。
【0019】
(請求項5)
前記光学活性化合物の光学純度が40%ee以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜。
【0020】
(請求項6)
前記光学活性化合物の光学純度が70%ee以上であることを特徴とする請求項5に記載の有機半導体薄膜。
【0021】
(請求項7)
前記光学活性化合物を含有する溶液または分散液を塗布することにより作製することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜。
【0022】
(請求項8)
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜を用いることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、配向性及びキャリア移動度が高い有機半導体薄膜、及びそれを用いた有機半導体薄膜を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る有機半導体薄膜においては、請求項1〜7のいずれか1項に規定される構成を用いることにより、有機薄膜トランジスタ用途に有用な有機半導体薄膜を得ることができる。また、本発明に係る有機半導体薄膜を用いて作製した本発明の有機薄膜トランジスタはキャリア移動度が高く、ゲート電圧を変化させた際の最大電流値と最小電流値の比、即ちON/OFF特性が良好である等、優れたトランジスタ特性を示すことが分かった。
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
《光学活性化合物》
本発明の有機半導体薄膜は光学活性化合物を含有することが特徴である。
【0027】
光学活性化合物とは、分子内にキラルな構造を生ずる原因が1つ以上存在する化合物を言う。これらキラルな構造には、キラリティーには不斉炭素原子を持つような中心性キラリティーや、ある分子軸の周囲の原子配置による軸性キラリティー、ある分子面に対する原子配置による面性キラリティー、そしてDNAのらせん構造のように立体構造によって生じるキラリティー等がある。中でも、中心性キラリティーや軸性キラリティー、立体構造によって生じるキラリティーを持つ化合物は、同一の立体構造を持つた分子同士でスタッキングしやすく、例えば薄膜中でそれぞれの光学活性化合物が高規則的に配列したドメインを形成するものがある。
【0028】
一方、有機半導体材料としてはPHT等のようにπ共役系分子が知られている。このようなπ共役系分子は、薄膜中で高配向に配列させることによってより優れた性能を示すことが知られている。
【0029】
そこで、π共役系光学活性化合物を用いることにより、分子が効果的に配列した膜の作製が可能になり、TFT性能の向上が可能となった。さらに、一方の異性体の含量を増やすことにより、より均一で配向性の高い膜が形成でき、その結果、さらに移動度が向上し満足できるTFT性能を有する有機半導体薄膜を得ることができた。
【0030】
π共役系光学活性化合物は、芳香族炭化水素環及び/または芳香族複素環が3つ以上連続した部分構造を有するπ共役系化合物であることが好ましい。芳香族炭化水素環、芳香族複素環は縮合環であってもよい。また、π共役系光学活性化合物は、芳香族炭化水素環及び/または芳香族複素環が3つ以上縮合した芳香族炭化水素縮合環または芳香族複素縮合環を部分構造として有することが好ましい。
【0031】
これらの芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。
【0032】
芳香族複素環としては、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の一つがさらに窒素原子で置換されている環を示す)等が挙げられる。
【0033】
これらの芳香族炭化水素環、芳香族複素環は、5員環または6員環が好ましい。これらの芳香族炭化水素環、芳香族複素環は置換されていてもよい、置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、芳香族複素環基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシル基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)等が挙げられる。これらの置換基は上記の置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0034】
光学活性化合物の光学純度は40%ee以上が好ましく、70%以上eeがより好ましく、90%ee以上がさらに好ましい。
【0035】
光学純度とは、光学活性化合物(エナンチオマーやジアステレオマー)の混合物中に存在する1種の光学活性化合物の過剰量を百分率で表した値である。光学純度の測定には、市販の光学純度測定カラムを用いた測定や旋光度測定等一般的な手法を用いることができる。
【0036】
光学活性化合物の重量平均分子量は200〜1万が好ましい。重量平均分子量はGPC型高速液体クロマトグラフィーにより求めることができる。
【0037】
以下、本発明に係る光学活性化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。化合物例の図は、光学活性化合物の1種を示したものであり、立体構造はこの図の構造に限定されない。

【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
これらの化合物は、例えば、J.Am.Chem.Soc.,120,2047(1998)等に記載の方法を参考に合成することができる。
【0041】
《有機半導体薄膜、有機薄膜トランジスタ》
本発明の有機半導体薄膜、有機薄膜トランジスタについて説明する。
【0042】
本発明に係る有機半導体薄膜材料(光学活性化合物)は、有機薄膜トランジスタのチャネル層に用いることにより、良好に駆動する有機薄膜トランジスタを提供することができる。有機半導体薄膜は、支持体上にチャネルとして有機半導体チャネルで連結されたソース電極とドレイン電極を有し、その上にゲート絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と支持体上にまずゲート電極を有し、ゲート絶縁層を介して有機半導体チャネルで連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別される。
【0043】
本発明に係る有機半導体薄膜材料を含有する有機半導体薄膜または有機薄膜トランジスタのチャネル(チャネル層ともいう)に設置するには、真空蒸着により基板上に設置することもできるが、適切な溶剤に溶解し必要に応じ添加剤を加えて調製した溶液または分散液をキャストコート、スピンコート、印刷、インクジェット法、アブレーション法等の湿式法によって基板上に設置することが好ましい。
【0044】
この場合、本発明に係る有機半導体薄膜材料を溶解する溶剤は、該有機半導体薄膜材料を溶解して適切な濃度の溶液が調製できるものであれば格別の制限はないが、具体的にはジエチルエーテルやジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル系溶媒、テトラヒドロフランやジオキサン等の環状エーテル系溶媒、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルムや1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、トルエン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、m−クレゾール等の芳香族系溶媒、N−メチルピロリドン、2硫化炭素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素系溶媒等を挙げることができる。
【0045】
本発明において、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を形成する材料は導電性材料であれば特に限定されず、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペースト及びカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられるが、特に白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITO及び炭素が好ましい。あるいはドーピング等で導電率を向上させた公知の導電性ポリマー、例えば、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等も好適に用いられる。中でも半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0046】
電極の形成方法としては、上記を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーション等により形成してもよい。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0047】
ゲート絶縁層としては種々の絶縁膜を用いることができるが、特に比誘電率の高い無機酸化物皮膜が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等が挙げられる。それらのうち好ましいのは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物も好適に用いることができる。
【0048】
上記皮膜の形成方法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法等のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法等の塗布による方法、印刷やインクジェット等のパターニングによる方法等のウェットプロセスが挙げられ、材料に応じて使用できる。
【0049】
ウェットプロセスは、無機酸化物の微粒子を任意の有機溶剤あるいは水に必要に応じて界面活性剤等の分散補助剤を用いて分散した液を塗布、乾燥する方法や、酸化物前駆体、例えば、アルコキシド体の溶液を塗布、乾燥する、いわゆるゾルゲル法が用いられる。これらのうち好ましいのは、大気圧プラズマ法とゾルゲル法である。
【0050】
大気圧下でのプラズマ製膜処理による絶縁膜の形成方法は、大気圧または大気圧近傍の圧力下で放電し、反応性ガスをプラズマ励起し、基材上に薄膜を形成する処理で、その方法については特開平11−61406号公報、同11−133205号公報、特開2000−121804号公報、同2000−147209号公報、同2000−185362号公報等に記載されている。これによって高機能性の薄膜を、生産性高く形成することができる。
【0051】
また有機化合物皮膜としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、及びシアノエチルプルラン等を用いることもできる。有機化合物皮膜の形成法としては、前記ウェットプロセスが好ましい。無機酸化物皮膜と有機酸化物皮膜は積層して併用することができる。またこれら絶縁膜の膜厚としては、一般に50nm〜3μm、好ましくは100nm〜1μmである。
【0052】
また、支持体はガラスやフレキシブルな樹脂製シートで構成され、例えば、プラスチックフィルムをシートとして用いることができる。前記プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このようにプラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めることができるとともに衝撃に対する耐性を向上できる。
【0053】
以下に、本発明の有機半導体薄膜材料を用いて形成された有機半導体薄膜を用いた有機薄膜トランジスタについて説明する。
【0054】
図1は、本発明に係る有機半導体薄膜の構成例を示す図である。同図(a)は、支持体6上に金属箔等によりソース電極2、ドレイン電極3を形成し、両電極間に本発明の有機半導体薄膜材料からなる有機半導体層1を形成し、その上に絶縁層5を形成し、さらにその上にゲート電極4を形成して有機薄膜トランジスタを形成したものである。同図(b)は、有機半導体層1を、(a)では電極間に形成したものを、コート法等を用いて電極及び支持体表面全体を覆うように形成したものを表す。(c)は、支持体6上に先ずコート法等を用いて、有機半導体層1を形成し、その後ソース電極2、ドレイン電極3、絶縁層5、ゲート電極4を形成したものを表す。
【0055】
同図(d)は、支持体6上にゲート電極4を金属箔等で形成した後、絶縁層5を形成し、その上に金属箔等で、ソース電極2及びドレイン電極3を形成し、該電極間に本発明に係る有機半導体薄膜材料により形成された有機半導体層1を形成する。その他同図(e)、(f)に示すような構成を取ることもできる。
【0056】
図2は、有機半導体薄膜シートの概略等価回路図の1例を示す図である。
【0057】
有機半導体薄膜シート10はマトリクス配置された多数の有機半導体薄膜11を有する。7は各TFT11のゲートバスラインであり、8は各TFT11のソースバスラインである。各TFT11のソース電極には、出力素子12が接続され、この出力12は例えば液晶、電気泳動素子等であり、表示装置における画素を構成する。画素電極は光センサの入力電極として用いてもよい。図示の例では、出力素子として液晶が抵抗とコンデンサからなる等価回路で示されている。13は蓄積コンデンサ、14は垂直駆動回路、15は水平駆動回路である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
実施例
〔有機半導体薄膜1(本発明)の作製〕
ゲート電極としての比抵抗0.02Ω・cmのSiウェハーに、厚さ200nmの熱酸化膜を形成してゲート絶縁層とした後、オクタデシルトリクロロシランによる表面処理を行った。
【0060】
化合物1(光学純度96%ee)のクロロホルム溶液を、窒素ガスでバブリングすることで溶液中の溶存酸素を除去し、1.013×102kPaの窒素ガス雰囲気下で前記熱酸化膜(酸化珪素被膜)の表面にアプリケーターを用いて塗布し、室温で乾燥させた。このとき半導体層の膜厚は20nmであった。
【0061】
この膜の表面にマスクを用いて金を蒸着し、ソース電極及びドレイン電極を形成して、チャネル長L=30μm、チャネル幅W=1mmの有機半導体薄膜1を作製した。
【0062】
〔有機半導体薄膜2、3(本発明)の作製〕
有機半導体薄膜1の作製において、化合物1を化合物5(光学純度95%ee)、化合物14(光学純度80%ee)に変更し、同様にしてそれぞれ有機半導体薄膜2、3を作製した。
【0063】
〔有機半導体薄膜4(比較例)の作製〕
有機半導体薄膜1の作製に用いた熱酸化膜(酸化珪素被膜)の表面に、比較化合物のクロロホルム溶液をアプリケーターを用いて塗布し、室温で乾燥させ、同様にして有機半導体薄膜4を作製した。
【0064】
【化3】

【0065】
〔有機半導体薄膜の評価〕
得られた有機半導体薄膜1〜4は、pチャネルエンハンスメント型TFTとして良好に動作した。
【0066】
さらに有機半導体薄膜について、I−V特性の飽和領域からキャリア移動度を求めた。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の結果より、本発明の有機半導体薄膜はトランジスタとしての特性が良好であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の有機半導体薄膜の構成例を示す図である。
【図2】本発明の有機半導体薄膜の概略等価回路図の1例である。
【符号の説明】
【0070】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 絶縁層
6 支持体
7 ゲートバスライン
8 ソースバスライン
10 有機半導体薄膜シート
11 有機半導体薄膜
12 出力素子
13 蓄積コンデンサ
14 垂直駆動回路
15 水平駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性化合物を含有することを特徴とする有機半導体薄膜。
【請求項2】
前記光学活性化合物がπ共役系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体薄膜。
【請求項3】
前記光学活性化合物が、芳香族炭化水素環及び/または芳香族複素環が3つ以上連続した部分構造を有するπ共役系化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機半導体薄膜。
【請求項4】
前記光学活性化合物が、芳香族炭化水素環及び/または芳香族複素環が3つ以上縮合した芳香族炭化水素縮合環または芳香族複素縮合環を部分構造として有することを特徴とする請求項2に記載の有機半導体薄膜。
【請求項5】
前記光学活性化合物の光学純度が40%ee以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜。
【請求項6】
前記光学活性化合物の光学純度が70%ee以上であることを特徴とする請求項5に記載の有機半導体薄膜。
【請求項7】
前記光学活性化合物を含有する溶液または分散液を塗布することにより作製することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜を用いることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−339577(P2006−339577A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165341(P2005−165341)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】