説明

有機汚泥生成装置、有機汚泥の生成方法、油脂製造システム、及び油脂の製造方法

【課題】有機汚泥を効率的に生成可能な有機汚泥生成装置を提供する。
【解決手段】有機物を含有する排水等の溶液が導入され、有機物を分解する分散菌(非凝集性細菌)が投入される分散菌槽1と、分散菌槽1で処理された溶液から有機汚泥を分離する分離装置としての遠心分離機2と、を備え、分散菌槽1における溶液の滞留が、分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、有機汚泥生成装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境技術に係り、より詳細には有機汚泥生成装置、有機汚泥の生成方法、油脂製造システム、及び油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自治体等の下水処理施設において、有機性排水を処理する際、活性汚泥法が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。活性汚泥法を用いることにより、下水は、上澄み液と余剰汚泥とに分離される。近年、下水処理施設で発生する余剰汚泥の量は、日本国内で年間4億トンに達している。余剰汚泥の8割は、現在、焼却処理されており、焼却処理によって生じた灰の2/3がセメントや建築資材に利用され、1/3が港湾の埋め立てや緑農地に使用されている。
【0003】
ここで、余剰汚泥を脱水処理した場合の含水率は、通常約80乃至90%であり、余剰汚泥の焼却処理には、大量の重油や天然ガス等の化石燃料を必要とする。そのため、大量の二酸化炭素(CO2)が排出され、環境への負荷が高い。さらに港湾への埋め立ても、海洋生物への負担が大きいという問題がある。そのため、余剰汚泥を削減する技術の提案がなされてきている(例えば、特許文献2、3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−10791号公報
【特許文献2】特許1420890号公報
【特許文献3】特許3035569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは、余剰汚泥を栄養源として従属栄養性藻類を培養すると、従属栄養性藻類からエネルギー源として有用な油脂を抽出することが可能であることを見出した。また、近年、余剰汚泥を堆肥として利用したり、発電燃料として利用したりすることも提案されている。そのため、余剰汚泥を有機物の豊富な有機汚泥として、むしろ効率よく生成することが求められるようになりつつある。そこで、本発明は、有機汚泥を効率的に生成可能な有機汚泥生成装置、有機汚泥の生成方法、油脂製造システム、及び油脂の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は、有機物を含有する溶液が導入され、有機物を分解する分散菌が投入される分散菌槽と、分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離する分離装置と、を備え、分散菌槽における溶液の滞留が、分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、有機汚泥生成装置であることを要旨とする。
【0007】
本発明の他の態様は、有機物を分解する分散菌が投入された分散菌槽に、有機物を含有する溶液を導入するステップと、分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離するステップと、を含み、分散菌槽における溶液の滞留が、分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、有機汚泥の生成方法であることを要旨とする。
【0008】
本発明のさらに他の態様は、有機物を含有する溶液が導入され、有機物を分解する分散菌が投入される分散菌槽と、分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離する分離装置と、有機汚泥を栄養源として、従属栄養性藻類を培養する培養装置と、従属栄養性藻類から油脂を抽出する抽出装置と、を備え、分散菌槽における溶液の滞留が、分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、油脂製造システムであることを要旨とする。
【0009】
本発明のまたさらに他の態様は、有機物を分解する分散菌が投入された分散菌槽に、有機物を含有する溶液を導入するステップと、分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離するステップと、有機汚泥を栄養源として、従属栄養性藻類を培養することと、従属栄養性藻類から油脂を抽出することと、を含み、分散菌槽における溶液の滞留が、分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、油脂の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機汚泥を効率的に生成可能な有機汚泥生成装置、有機汚泥の生成方法、油脂製造システム、及び油脂の製造方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施の形態に係る有機汚泥生成装置の模式図である。
【図2】第1の実施の形態に係る分散菌等の細菌の模式的な成長曲線である。
【図3】第2の実施の形態に係る有機汚泥生成装置の模式図である。
【図4】第3の実施の形態に係る有機汚泥生成装置の模式図である。
【図5】第4の実施の形態に係る油脂製造システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態を説明する。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る有機汚泥生成装置は、図1に示すように、有機物を含有する排水等の溶液が導入され、有機物を分解する分散菌(非凝集性細菌)が投入される分散菌槽1と、分散菌槽1で処理された溶液から有機汚泥を分離する分離装置としての遠心分離機2と、を備える。ここで、分散菌槽1における溶液の滞留が、分散菌以外の凝集性細菌等の菌が優先種になる前に終了する。なお、優先種とは、複数の菌類のなかで、分散菌槽1中で最も多く生育するような菌種をいう。
【0014】
パイプ11を介して分散菌槽1に導入される排水は、下水処理場へ搬送される下水であってもよいし、食品産業や化学産業等のあらゆる産業から排出される産業排水であってもよい。さらに、排水は、炭素化合物、窒素化合物、燐化合物、及び少量の食塩等を含みうる。
【0015】
例えば排水は、炭素化合物として、ガラクトース、グルコース、フルクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、フコース、グルコサミン、及びデキストラン等の炭水化物を含みうる。さらに、排水は、炭素化合物として、菜種油、オレイン酸、及びダイズ油等の油脂類や、エタノール等のアルコール類や、グルタミン酸、糖蜜、グリセロール、マンニトール、乳酸、酢酸及び酢酸ナトリウム等を含みうる。
【0016】
またさらに、排水は、天然窒素化合物として、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、ペプトン、廃糖蜜、及びコーンスティープリカー等を含みうる。さらにまた排水は、有機窒素化合物として、グルタミン酸ナトリウム、及び尿素等を含み、無機窒素化合物として、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、及び硫酸ナトリウム等を含みうる。
【0017】
加えて、排水は、リン酸カリウム及びリン酸二水素カリウム等のリン酸塩や、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、塩化ナトリウム、及び塩化カルシウム等の無機塩や、ビタミン類も含みうる。さらに排水は、カドミウム、シアン、有機燐、鉛、六価クロム、砒素、総水銀、アルキル水銀、ポリ塩化ビフェニル、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,3−ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼン、セレン、ホウ素、及びフッ素等の少量の有害物質も含みうる。
【0018】
分散菌槽1には、曝気装置12が設けられている。曝気装置12によって、分散菌槽1内部の溶液に酸素が供給され、分散菌槽1内部の溶液中の酸素が所定の濃度に保たれる。分散菌槽1には、初期種汚泥としてアルカリゲネス(Alcaligenes)属、及びアシネトバクター(Acinetobactor)属等の分散菌を含む活性汚泥が投入される。分散菌槽1において、好気的条件下、排水中の有機物が、分散菌等によって二酸化炭素及び水等に酸化分解される。
【0019】
分解された有機物は、活性汚泥中の分散菌等の微生物の維持エネルギー源として消費される。また、分解された有機物は、分散菌等の微生物の増殖のエネルギー源としても消費される。そのため、有機物の分解によって、活性汚泥の量が増加する。
【0020】
ここで、図2に示すように、分散菌は、誘導期を経て、対数増殖期で指数関数的に増殖する。対数増殖期の初期は分裂したての分散菌が優先種となるが 対数増殖期中ごろから ズーグレア(Zoogloea)、バチルス(Bacillus)属等の 粘着性物質を分泌する凝集性細菌が出現し始め、バラバラなフロックを形成する。さらに時間とともに系内の有機物が消費されるため 凝集性細菌が優先種となり、沈降分離可能なフロックを形成する安定期に入る。その後さらに有機物が消費されると 凝集性細菌も粘着性物質を分泌するエネルギーが得られなくなるため フロックは解体し、死滅期に入る。
【0021】
従来の活性汚泥法では、凝集性細菌が優先種になるまで、溶液を反応槽に滞留させている。凝集性細菌が優先種になるまでの時間は、0.5乃至5日程度である。この間、分散菌や凝集性細菌を捕食する原生生物も成長するため、反応槽内で食物連鎖が発生する。
【0022】
これに対し、第1の実施の形態に係る図1に示す有機汚泥生成装置は、溶液が分散菌槽1に滞留するのを、分散菌以外の凝集性細菌等の菌が優先種になる前の対数増殖期初期で終了させる。具体的には、溶液が分散菌槽1に滞留する時間を2乃至5時間とすると、成長速度が遅い原生生物も充分に成長できないため、分散菌槽1内において、対数増殖期初期の分散菌が優先種となり、食物連鎖が発生しない。そのため、有機汚泥としての活性汚泥を効率的に生成することが可能となる。
【0023】
第1の実施の形態に係る有機汚泥生成装置は、分散菌槽1における分散菌の濃度を測定する菌体濃度計3をさらに備える。分散菌槽1における菌体濃度(MLSS:Mixed Liquor Suspended Solids)は、分散菌槽1内の溶液の温度が20乃至35℃の場合、100乃至1000mg/L、好ましくは、300乃至800mg/Lに保たれる。従来の活性汚泥法では、菌体濃度は1500乃至4000mg/Lに設定される。しかし、菌体濃度が1000mg/Lより高いと、凝集性細菌が出現し始め、粘着性物質生成にエネルギーが使われるため、有機汚泥の生成量が減少する傾向にある。また、菌体濃度が100mg/Lより低いと、そもそも分散菌が少なすぎて、活性汚泥が増加しない傾向にある。
【0024】
分散菌槽1で有機物を分解された溶液は、パイプ13を介して、遠心分離機2に流される。遠心分離機2において、溶液は、主に上澄み液からなる軽液と、主に活性汚泥を含む重液とに分離される。軽液は軽液槽4に排出され、重液は重液槽5に排出される。さらに軽液は、軽液槽4から排水溝等に放流される。なお、必要に応じて、軽液に硝化脱窒素処理又はオゾン処理等を施してもよい。
【0025】
重液槽5と、分散菌槽1との間には、パイプ14が接続されている。また、パイプ14からは、パイプ15が分岐している。パイプ15には、菌体濃度計3に接続されたバルブ20が設けられている。菌体濃度計3が検出する分散菌槽1における菌体濃度が100mg/L未満の場合、バルブ20は閉じられ、重液槽5に含まれる活性汚泥が分散菌槽1に戻される。これにより、菌体濃度が100mg/L以上に制御される。また、菌体濃度計3が検出する分散菌槽1における菌体濃度が1000mg/Lより高い場合、バルブ20は開かれ、重液槽5に含まれる活性汚泥は、有機汚泥として、パイプ15から排出される。これにより、分散菌濃度が1000mg/L未満に制御される。このように、菌体濃度計3とバルブ20とは、分散菌槽1における分散菌の濃度を制御する分散菌濃度制御装置をなしている。
【0026】
以上説明した、第1の実施の形態に係る有機汚泥生成装置によれば、分解された有機物のうち、有機汚泥として増加した割合で与えられる汚泥変換率を、例えば60%以上にすることが可能である。そのため、堆肥や発電燃料として有用であり、また、油脂を生産する従属栄養性藻類のエネルギー源としても有用である、有機汚泥を効率的に生成することが可能となる。
【0027】
(第2の実施の形態)
図3に示す第2の実施の形態に係る有機汚泥生成装置の分散菌槽1は、第1の実施の形態に係る分散菌槽1と同様である。分散菌槽1で処理された溶液は、パイプ113を介して、遠心分離機2に流され、遠心分離機2によって重液と軽液とに分離される。重液中に含まれる活性汚泥は、有機汚泥として排出される。第2の実施の形態においては、軽液槽4に排出された軽液が、軽液槽4と分散菌槽1との間を接続するパイプ16によって、分散菌槽1に戻される。
【0028】
ここで、分散菌槽1と遠心分離機2との間のパイプ113には、分散菌槽1における分散菌の濃度を測定する菌体濃度計103に接続されたバルブ21が設けられている。菌体濃度計103が検出する分散菌槽1における菌体濃度が100mg/L未満の場合、バルブ21は閉じられ、分散菌槽1から排出される活性汚泥が減少する。これにより、分散菌槽1内の菌体濃度が100mg/L以上に制御される。また、菌体濃度計103が検出する分散菌槽1における菌体濃度が1000mg/Lより高い場合、バルブ21は開かれ、分散菌槽1から活性汚泥が排出される。これにより、分散菌濃度が1000mg/L未満に制御される。このように、菌体濃度計103とバルブ21とは、分散菌槽1における分散菌の濃度を制御する分散菌濃度制御装置をなしている。
【0029】
また、分散菌槽1内には、膜モジュール102が配置されている。膜モジュール102には、バルブ22が設けられたパイプ17が接続されている。バルブ22には、分散菌槽1内の溶液の液面レベルを測定する液面計104が接続されている。液面計104が分散菌槽1内の液面レベルを検出し、所定レベルを超えると、バルブ22が開き、膜モジュール102を透過した溶液を、処理水として排水溝等に放流する。
【0030】
以上説明した第2の実施の形態に係る有機汚泥生成装置によっても、有機汚泥を効率的に生成しつつ、清潔な処理水を排出する可能となる。
【0031】
(第3の実施の形態)
図4に示す第3の実施の形態に係る有機汚泥生成装置の分散菌槽1は、第1の実施の形態に係る分散菌槽1と同様である。分散菌槽1で処理された溶液は、遠心分離機2に流され、遠心分離機2によって重液と軽液とに分離される。重液中に含まれる活性汚泥は、パイプ19を介して、有機汚泥として排出される。また、パイプ19からは、分散菌槽1に達するパイプ31が分岐している。パイプ19には、分散菌槽1における分散菌の濃度を測定する菌体濃度計123に接続されたバルブ24が設けられている。
【0032】
軽液は、パイプ16を介して、分散菌槽1に戻される。また、パイプ16からは、パイプ18が分岐しており、パイプ18にはバルブ23が設けられている。バルブ23には、分散菌槽1内の溶液の液面レベルを測定する液面計124が接続されている。また、分散菌槽1と遠心分離機2との間のパイプ113に設けられたバルブ21にも、液面計124が接続されている。
【0033】
菌体濃度計123が検出する分散菌槽1における菌体濃度が100mg/L未満の場合、バルブ24は閉じられ、分散菌槽1からの活性汚泥の流出が抑制される。これにより、菌体濃度が100mg/L以上に制御される。また、液面計124で測定される液面レベルが高い場合、バルブ21及びバルブ23が開き、軽液を、処理水として、パイプ18を介して排水溝等に放流する。
【0034】
以上説明した第3の実施の形態に係る有機汚泥生成装置によっても、有機汚泥を効率的に生成しつつ、清潔な処理水を排出することが可能となる。
【0035】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態に係る油脂製造システムは、図5に示すように、有機汚泥生成装置300を備える。有機汚泥生成装置300は、第1の実施の形態に係る有機汚泥生成装置と同様である。有機汚泥生成装置300には、パイプ15を介して、有機汚泥を供給される分解装置504が接続されている。
【0036】
分解装置504は、分散菌を分解して死滅させ、滅菌可能な温度、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上の温度で有機汚泥を加熱し、有機汚泥を可溶化する。60℃未満の低温では、可溶化に時間がかかる傾向にある。なお、分解装置504が有機汚泥に含まれる分散菌を分解する方法は、加熱処理に限定されない。例えば、有機汚泥に磁性粒子及び磁性攪拌子を入れ、有機汚泥に磁場を与えることによって磁性粒子及び磁性攪拌子を振動させて、有機汚泥に含まれる分散菌を分解してもよい。あるいは、分散菌を機械的に磨り潰してもよいし、粉砕してもよい。また、あるいは、有機汚泥をオゾン処理してもよいし、超音波を用いて分散菌の細胞を破壊して可溶化してもよい。
【0037】
分解装置504には、パイプ514を介して、培地調製装置505が接続されている。分解装置504で可溶化された有機汚泥は、パイプ514を経て培地調製装置505に運搬される。ここで、後述する培養装置506で培養される従属栄養性藻類が、米国特許第5,340,742号明細書に報告された海洋性のシゾキトリウム・エスピー・エス31(Schizochytrium sp. S31、ATCC No.20888)やシゾキトリウム・エスピー・エス8(Schizochytrium sp. S8、ATCC No.20889)等である場合、培地調製装置505は、可溶化された余剰汚泥を海水又は人工海水に溶し、分解された微生物が添加された培地を調製する。なお、「従属栄養性藻類」とは、発育及び増殖の際に、炭素源として糖、脂肪酸、及びアミノ酸等の有機化合物を必要とする藻類である。
【0038】
また、培地調製装置505において、上述した炭素源、窒素源、リン酸塩、無機塩、及びビタミン類等を培地に添加してもよい。なお、従属栄養性藻類が海洋性でない場合、培地調製装置505は、可溶化された余剰汚泥を水等に溶し、培地を調製してもよい。
【0039】
培地調製装置505には、パイプ515を介して、培養装置506が接続されている。培地調製装置505で調製された培地は、パイプ515を経て培養装置506に運搬される。培養装置506は、静置培養法、振盪培養法、及び通気撹拌培養法等を実施可能である。培養装置506において、運搬されてきた培地を用いて、分解された分散菌を栄養源としてシゾキトリウム・エスピー等の従属栄養性藻類が培養される。培養温度は、例えば5℃から50℃であり、好ましくは15℃から40℃である。温泉に生息する藻類を使用する場合は、50℃以下の範囲内で、高温で培養すればよい。また、培養期間は、例えば1日から20日間であるが、10日以下でもよい。培養によって、シゾキトリウム・エスピーは、培地に含まれる分解された分散菌を栄養源とし、例えば乾燥重量の約50〜77%の油脂を蓄える。
【0040】
培養装置506には、パイプ516を介して、抽出装置507が接続されている。培養装置506中の従属栄養性藻類を含む培地は、パイプ516を経て抽出装置507に運搬される。抽出装置507は、遠心分離法及びろ過法等を用いて、培地から従属栄養性藻類を分離する。さらに抽出装置507は、n−ヘキサン等を用いて、従属栄養性藻類から、トリアシルグリセロール(Triacylglycerol、慣用名:トリグリセリド)を含む油脂を抽出する。
【0041】
なお、抽出装置507は、例えばダイノミルや超音波等で従属栄養性藻類を破砕し、窒素気流下で有機溶媒を用いて油脂を抽出してもよい。従属栄養性藻類が水分を含んでいる場合、有機溶媒としては、ペンタン、ペンテン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p−キシレン、クメン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、3−メチル−1−ブタノール(イソアミルアルコール)、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ジイソプロピルエーテル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、酢酸ブチル、ニトロベンゼン、ベンゼンニトリル、キノリン、リン酸トリブチル(TBP)、及び石油エーテル等が使用可能である。また、従属栄養性藻類が乾燥している場合、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、ペンタン、ペンテン、シクロペンタン、シクロペンテン、3−メチル−1−ブタノール(イソアミルアルコール)、及びアセチルアセトン等が使用可能である。さらに、メタノールと石油エーテルとを交互に用いて油脂を抽出してもよいし、クロロホルム−メタノール−水の一層系の溶媒を用いて油脂を抽出してもよい。なお、残留する有機溶媒は、減圧下で留去可能である。
【0042】
あるいは、抽出装置507は、CO2超臨界抽出法、酵素法、及び浸透ショック法等を用いて油脂を抽出してもよい。
【0043】
抽出装置507には、パイプ517を介して、精製装置508が接続されている。抽出装置507で抽出された油脂は、パイプ517を経て精製装置508に運搬される。精製装置508は、メタノール等のアルコール類とのエステル交換反応を用いて、油脂に含まれるトリアシルグリセロールから、脂肪酸メチルエステル等とグリセリンとを生成する。例えば、エステル交換反応に水酸化カリウムを用いた場合、アルコールに触媒を混合しメトキシ体を作り、それを添加する事で、反応を行う。さらに、精製装置508は、脂肪酸メチルエステル生成物からメタノールとグリセリンを除去し、脂肪酸メチルエステル生成物を水で洗浄して相分離し、高純度脂肪酸メチルエステルとしてバイオディーゼル燃料を精製する。洗浄水側には残留するグリセリンとアルカリ触媒とが分離される。エステル交換する反応触媒は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び炭酸カルシウム、アニオン交換樹脂等のアルカリでもよく、硫酸や酸強度の高い固体酸を用いてもよい。さらに、無触媒下の超臨界状態でエステル交換してもよい。また、エステル交換反応以外の精製装置として水素化分解装置がある。油脂を水素化分解して油脂中の酸素成分を水にして除去し、低分子化した炭化水素のみの軽油相当にしてもよい。
【0044】
以上説明した第4の実施の形態に係る実施の形態に係る油脂製造システムによれば、従来余剰汚泥として廃棄されていた有機汚泥に含まれる分散菌を栄養源にして、従属栄養性藻類で油脂を製造することが可能となる。また、分解装置504で、有機汚泥に含まれる分散菌を分解するため、従属栄養性藻類が分解された分散菌を栄養源として容易に吸収できるようになる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例及び比較例を挙げて実施の形態をより具体的に説明するが、実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例においては、図1に示すような排水処理装置を用いた。分散菌槽1の容量は400mLであり、遠心分離機2には多本架冷却遠心機(TOMY EX−126)を用いた。また、分散菌槽1内の溶液は、散気管(塩ビ製パイプL字型でφ2mmの孔空き)を用いて、4L/minで曝気した。
【0046】
分散菌槽1には、塗料洗浄排水(生物化学的酸素要求量(BOD):800mg/L、100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素要求量(CODmn):300mg/L)を3L/日で供給し、分散菌槽1内の菌体濃度が500mg/Lとなるよう、パイプ15から有機汚泥を抜き取った。その結果、軽液槽4に排出される処理水のBODは100〜150mg/Lであり、
有機汚泥として増加した割合で与えられる活性汚泥転換率は60〜80%であった。表1に、分散菌槽1内の菌体濃度を変えた場合の処理水のBOD及び汚泥転換率の結果を示す。
【表1】

【0047】
(その他の実施の形態)
上記のように本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、第4の実施の形態において、図5に示す有機汚泥生成装置300は、第1の実施の形態に係る有機汚泥生成装置と同様であると説明した。これに対して、有機汚泥生成装置300は、第2又は第3の実施の形態に係る有機汚泥生成装置と同様であってもよいことはもちろんである。この様に、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。また、産業排水汚泥のみでなく生活排水汚泥などにも適用できるのはいうまでもない。さらに、図1に示す分散菌槽1内の菌濃度は、濁度計、全有機炭素濃度(TOC)計、全酸素消費量測定装置(TOD計)、及び化学的酸素要求量測定装置(COD計)でも測定可能である。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の有機汚泥生成装置、有機汚泥の生成方法、油脂製造システム、及び油脂の製造方法は、排水処理事業、及びエネルギー事業等の産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0049】
1 分散菌槽
2 遠心分離機
3,103,123 菌体濃度計
4 軽液槽
5 重液槽
11,13,14,15,16,17,18,19,31,113,514,515,516,517 パイプ
12 曝気装置
20,21,22,23,24 バルブ
102 膜モジュール
104,124 液面計
300 有機汚泥生成装置
504 分解装置
505 培地調製装置
506 培養装置
507 抽出装置
508 精製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する溶液が導入され、前記有機物を分解する分散菌が投入される分散菌槽と、
前記分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離する分離装置と、
を備え、
前記分散菌槽における前記溶液の滞留が、前記分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、
有機汚泥生成装置。
【請求項2】
前記分散菌槽における前記溶液の滞留時間が2乃至5時間である、請求項1に記載の有機汚泥生成装置。
【請求項3】
前記分散菌槽における前記分散菌の濃度を制御する分散菌濃度制御装置を更に備える、請求項1又は2に記載の有機汚泥生成装置。
【請求項4】
前記分散菌槽における前記分散菌の濃度が、前記分散菌が優先種であり続ける濃度に設定される、請求項3に記載の有機汚泥生成装置。
【請求項5】
前記分散菌槽における前記分散菌の濃度が100乃至1000mg/Lである、請求項3又は4に記載の有機汚泥生成装置。
【請求項6】
有機汚泥として増加した割合で与えられる汚泥転換率が60%以上である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機汚泥生成装置。
【請求項7】
有機物を分解する分散菌が投入された分散菌槽に、前記有機物を含有する溶液を導入するステップと、
前記分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離するステップと、
を含み、
前記分散菌槽における前記溶液の滞留が、前記分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、
有機汚泥の生成方法。
【請求項8】
前記分散菌槽における前記溶液の滞留時間が2乃至5時間である、請求項7に記載の有機汚泥の生成方法。
【請求項9】
前記分散菌槽における前記分散菌の濃度を制御するステップを更に含む、請求項7又は8に記載の有機汚泥の生成方法。
【請求項10】
前記分散菌槽における前記分散菌の濃度が、前記分散菌が優先種であり続ける濃度に設定される、請求項9に記載の有機汚泥の生成方法。
【請求項11】
前記分散菌槽における前記分散菌の濃度が100乃至1000mg/Lである、請求項9又は10に記載の有機汚泥の生成方法。
【請求項12】
有機汚泥として増加した割合で与えられる汚泥転換率が60%以上である、請求項7乃至11のいずれか1項に記載の有機汚泥の生成方法。
【請求項13】
有機物を含有する溶液が導入され、前記有機物を分解する分散菌が投入される分散菌槽と、
前記分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離する分離装置と、
前記有機汚泥を栄養源として、従属栄養性藻類を培養する培養装置と、
前記従属栄養性藻類から油脂を抽出する抽出装置と、
を備え、
前記分散菌槽における前記溶液の滞留が、前記分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、
油脂製造システム。
【請求項14】
前記従属栄養性藻類が、シゾキトリウムである、請求項13に記載の油脂製造システム。
【請求項15】
有機物を分解する分散菌が投入された分散菌槽に、有機物を含有する溶液を導入するステップと、
前記分散菌槽で処理された溶液から有機汚泥を分離するステップと、
前記有機汚泥を栄養源として、従属栄養性藻類を培養するステップと、
前記従属栄養性藻類から油脂を抽出するステップと、
を含み、
前記分散菌槽における前記溶液の滞留が、前記分散菌以外の菌が優先種になる前に終了する、
油脂の製造方法。
【請求項16】
前記従属栄養性藻類が、シゾキトリウムである、請求項15に記載の油脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−92810(P2011−92810A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246278(P2009−246278)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】