説明

有機ELを組み合わせた道路路肩壁状構造物

【課題】従来よりも優れた視認性を発揮し、かつ設置や維持管理が容易で、車両衝突等の衝撃が加わった場合であっても破損物が飛散し難くなる車両誘導表示物が設置された道路路肩壁状構造物を提供する。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンスデバイスを含む車両誘導表示物12,13を、ガードレールのビーム10からなる道路路肩壁状構造物に特定の位置、特定の方向を向くようにして設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速道路等の路肩に存在する壁状構造物に関するものであり、有機エレクトロルミネッセンスデバイスを光源とした車両誘導標識が設置された壁状構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のLED(発光ダイオード)や有機EL(有機発光ダイオード=OLED)等のエレクトロルミネッセンスの技術発達に伴い、これらの道路交通設備への利用が大きく期待されている。特にLEDは、高効率・高寿命等の特性に優れるため信号機や路肩やトンネル内の警告等など道路標識として普及が加速してきている。
有機ELも、点光源であるLEDに対して薄型の面発光であり、かつLEDと同様に高効率であるとの利点を活かし道路標識としての利用が見込まれている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
一方、走行する自動車の進行方向を誘導するために、ガードレールや防音壁、トンネルの内壁等の壁面に、反射板や誘導灯等のような表示物が設置されることがある。上述のように、有機ELを道路標識として利用する報告がなされているが、反射板や誘導灯等の代替として有機ELを利用することについては、具体的な検討がなされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−272937号公報
【特許文献2】特開2004−270443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガードレール等の壁状構造物に取り付けられる反射板や反射材を利用した表示物は、車両前照灯の光が届かない高い位置や車両側面等にあるものについて、運転者が夜間視認できないという問題を有していた。また、水銀灯等を使った自発光型の表示物は、電力供給や制御設備、補強等が必要となるため、その設置や維持管理に手間や費用がかかるほか、比較的大きな設置空間を必要とするため、設置場所に制限があった。
さらにこれらの表示物は、車両衝突等によって破損した場合に、その破損物が飛散し難いことが道路安全上必要である。
本発明は、上記内容を課題とするものであり、視認性に優れる車両誘導表示物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、有機ELともいう。)を含む車両誘導表示物が道路路肩壁状構造物の特定の位置、特定の方向を向いて設置されることにより、視認性が高く、かつ車両衝突等の衝撃が加わった場合であっても破損物が飛散し難くなるとの知見を得て、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)有機エレクトロルミネッセンスデバイスを含む車両誘導表示物が設置された道路路肩壁状構造物であって、前記車両誘導表示物が、路面から1〜5mの高さ、かつ路面の垂直方向に対して10〜50°上向きに設置されていることを特徴とする、道路路肩壁状構造物。
(2)前記車両誘導表示物の設置されている部分が曲面構造である、(1)に記載の道路路肩壁状構造物。
(3)前記車両誘導表示物が、道路側最外露出面よりも3cm以上道路外側に設置されている、(1)又は(2)に記載の道路路肩壁状構造物。
(4)前記車両誘導表示物の輝度が200cd/m2〜3000cd/m2である、(1)〜(3)の何れかに記載の道路路肩壁状構造物。
(5)前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、色温度は4000K以下である、(1)〜(4)の何れかに記載の道路路肩壁状構造物。
(6)前記車両誘導表示物の表面に、平行光線透過率が40%以下である散乱保護フィルムが積層されている、(1)〜(5)の何れかに記載の道路路肩壁状構造物。
(7)前記散乱保護フィルムの外側表面が、凹凸構造を有しており、前記凹凸構造の高さが0.2−100μm、周期が20mm以下である、(6)に記載の道路路肩壁状構造物。
(8)前記散乱保護フィルムがフッ素系炭化水素樹脂からなる、(6)又は(7)に記載の道路路肩壁状構造物。
(9)太陽電池及び蓄電装置を備える、(1)〜(8)の何れかに記載の道路路肩壁状構造物。
(10)前記太陽電池がフィルム又はシート基板型である、(9)に記載の道路路肩壁状構造物。
【発明の効果】
【0008】
夜間等の見通しの悪い状況下でも優れた視認性を発揮し、かつ設置や維持管理が容易で、車両衝突等の衝撃が加わった場合であっても破損物が飛散し難い車両誘導表示物を提供することができる。また、水銀灯を設置する従来の技術に比べて色温度が低いため、長時間の通勤でも運転者の目への負担が軽く、エネルギー効率に優れた車両誘導表示物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一般的な有機電流発光素子の断面模式図
【図2】ガードレール(ビーム型防護柵)断面模式図
【図3】道路路肩壁状構造物に設置される傾斜板の模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0011】
1.有機エレクトロルミネッセンスデバイスを含む車両誘導表示物
本発明は、車両誘導表示物の設置された道路路肩壁状構造物に関するものであって、車両誘導表示物が有機ELを光源とした表示物であること、及びその設置方法に特徴を有する。車両誘導表示物とは、例えば路肩警告灯のように、路肩や壁状構造物の存在を運転者に知らしめ、車両の進行方向を誘導する機能を発揮するものである。本発明の車両誘導表示物は、有機ELを含むものであれば、それ以外を構成として含むものでもよく、例えば車両誘導表示物の視認性や耐候性を高めるために、後述する散乱保護フィルム等の構成が含まれていてもよい。
【0012】
1−1.有機エレクトロルミネッセンスデバイス
有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機EL)とは、有機発光材料を利用し、有機発光材料層に電流を流すことにより励起子(エキシトン)を生成後、それが安定化する際に光を放出(蛍光・燐光どちらでもよい)する有機電流発光素子を含む発光デバイスをいい、本発明においては特に封止フィルム等により封止された状態のものを意味する。本
発明においては、道路周辺で使用されるため、厚いガラス等の破片が散乱すると危険であり、封止材には薄くてフレキシブルなシート材、フィルム材を使用することを想定している。
【0013】
道路路肩に設置される車両誘導表示物は、運転者の周辺視野に入った場合に認識し易いことが重要である。車両誘導表示物の発光面積が大きい方がより視認し易くなるため、面状光源として利用できる有機ELはこの点において適している。
また、道路を走行する車両の高さは様々であり、表示物を視認する角度も車両によって異なる。視野角が広い有機ELは、各種車両に対して優れた視認性を発揮することができる。
さらに有機ELは、消費電力が小さく、さらに薄く・軽量であるため、独立電源化及び設備全体の小型化・軽量化を可能とする。そのため設置場所が制限されないほか、設置や維持管理の手間を軽減することができる。特に高速道路の設備のメンテナンスは、車線規制を行って実施されることが多く、車線規制を行わず簡易的に行うことができると、渋滞緩和・事故防止に繋がるため好ましい。
【0014】
車両誘導表示物の形状・寸法は、特に限定されず、設置される壁状構造物の形態・設置空間に応じて適宜設定することができる。上述のように発光面積が大きい方が視認性に優れるほか、車両誘導表示物が車両の進行方向に長い場合や複数の車両誘導表示物が進行方向に連続的に設置されていると、走行する車両の運転者が視認し易くなるため好ましい。表示物の長辺20cm以上あるものが特に好ましい。
【0015】
車両誘導表示物の有機ELの点灯方法も特に限定されず、夜間等の視界が悪い状況下において点灯又は点滅するほか、発光色、光量等を変化させてもよい。
【0016】
例えば、車両の進行方向に間隔をあけて設置された車両誘導表示物を、時間差を設けて、順次点灯させる方法(以下、ブロック点灯ともいう)が挙げられる。
ブロック点灯は、例えば、制限速度V[km/hr]の道路において、ブロック点灯が一巡するまでに要する時間をT[sec]とすると、v/50≦T≦v/10に設定することが好ましい。上記範囲であると、制限速度内で走行する車両の運転者が、指示方向をより認識しやすくなる。
【0017】
有機ELの発光色は、特に限定されず、単色でも複数色でもよく、目的に応じて任意に選択することができる。白色発光のものを用いると、多様な発光表現が可能となり、視認性をさらに高めることができるため好ましい。
【0018】
白色発光とする場合には、色温度は4000K以下が好ましく、3000K以下がより好ましい。2000K以下が特に好ましい。上記範囲であると、運転者の目に負担をかけず、かつ良好な視認性を確保することができる。
【0019】
本発明の車両誘導標識の輝度は、200cd/m2以上、3000cd/m2以下が好ましく、300cd/m2以上、2000cd/m2以下がより好ましい。400cd/m2以上、1000cd/m2以下が特に好ましい。上記範囲であると、光源を直接視認しても運転者にとって眩しすぎず、かつ夜間等の見通しの悪い状況においても視認できる明るさを得ることができる。また輝度を適度に抑えることで発光標識自体の寿命も長くすることができる。
【0020】
1−1−1.有機電流発光素子
本発明に用いられる有機電流発光素子の構成は、特に限定されないが、一般的な構成を、図1を参照して説明する。
図1は有機電流発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を表す。注入層や輸送層等を含まないものであっても、またその他の機能を有する層が含まれていてもよく、さらに各構成層は、単層であっても複数層であってもよい。
【0021】
また、上記構成層の製膜方法も特に限定されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式成膜法、又はスピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式成膜法が挙げられる。
【0022】
<基板>
有機電流発光素子の基板材料は、特に限定はされないが、石英ガラス、無アルカリガラスやソーダ石灰ガラスのガラス板、アルミやスチール等の金属板・金属箔、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォンなどのプラスチックフィルムやシート等が挙げられる。特に鳥や飛び石、車両等の衝突に対しての安全性(破片が飛び散らない)、軽量で割れにくく壁状構造物への配線・取付が容易である観点から、アルミやスチール等の金属シート、金属箔、プラスチックフィルムやシート、ガラスの場合は薄肉フレキシブル化したものを基板とすることが好ましい。
【0023】
<陽極>
有機電流発光素子の陽極材料は、特に限定されないが、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の亜鉛酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。また、上記基板が導電材料である場合には、基板と陽極は同一であってもよい。
【0024】
<陰極>
有機電流発光素子の陰極材料は、特に限定されないが、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金が挙げられる。また、有機ELの消灯時に生じる外部からの光の反射をより抑制するために、陰極を粗表面にすることもできる。
【0025】
<発光層>
有機電流発光素子の発光層には、発光材料のほか、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、或いは電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)が含まれることが好ましい。例えば、発光材料をドーパント材料とし、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物等、又はその混合物をホスト材料するものが挙げられる。
【0026】
発光層の発光材料は特に限定されず、蛍光発光材料でも、燐光発光材料であってもよい。内部量子効率の観点から、燐光発光材料が好ましい。また、蛍光発光材料と燐光発光材料を組合せて使用してもよいが、素子としての発光効率は蛍光発光材料の効率から大きく影響を受けるため、単色を混合して白色等を作る場合には、全てが燐光発光材料であることが好ましい。発光層における発光材料の割合は、特に限定されないが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。
【0027】
発光材料の分子量は、特に限定されないが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以
上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。
【0028】
発光層の膜厚は、特に限定されないが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、最も好ましくは10nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、最も好ましくは70nm以下の範囲である。
【0029】
白色発光の有機電流発光素子を用いる場合、その構成は特に限定されないが、赤(R)、緑(G)、青(B)等の発光材料を個別の層にドープして積層したRGB積層型や、複数の発光材料を1つの層に共存させるRGBドーパント型、さらに各色を平面のブロック状に配置したRGBブロック画素型が挙げられる。RGB積層型のように、複数の層が形成される場合、各層で屈折率が異なるため光学界面が形成され、さらに各層の厚さが可視光の波長に近いため光が干渉し合い、視認する角度によって色が変化する現象が発生する。複数の発光材料を1つの層に共存させるRGBドーパント分散型の場合は、発光層内で光学界面が形成されず、視認する角度による色の変化が生じにくいため特に好ましい。RGBブロック画素型も視認する角度による色の変化が生じにくいが、製造時にブロックを形成する必要があり、製造プロセスが複雑になりコストがかかる点に課題がある。
【0030】
RGBドーパント分散型の場合の分散方法、層の調製方法は特に限定されず、各発光材料をホスト材料と混合した上で、上述の湿式成膜法に調整する方法が挙げられる。RGBドーパント分散型は、安価で高効率な常圧塗布プロセスに適したプロセスである。また、各発光材料の分散量又は分散比率も特に限定されず、目的とする発光色に応じて適宜設定することができる。
【0031】
<その他の構成層>
上述の構成層のほか、正孔注入層、正孔阻止層、電子注入層、保護層等の材料、形態、調整方法についても、特に限定されない。またこれ以外の構成を有してもよく、その材料、形態、調整方法も、有機電流発光素子として用いられているものを適宜利用することができる。
【0032】
1−1−2.封止材
本発明において有機ELとは、上述の有機電流発光素子を封止した状態のものを意味する。
有機電流発光素子を封止する方法は、表示、発光領域を覆うように封止することができれば特に限定されず、電極、基板、封止材等を接着剤で接着する方法、熱可塑性樹脂を用いて、ウェットラミネート法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法、押出しラミネート法、熱ラミネート法等によって封止する方法が挙げられる。発光材料は、熱処理により劣化する場合があるので、110℃以下の温度で封止できる方法が好ましい。
【0033】
封止材の種類は、特に限定されず、ガラス板、ポリマー板・フィルム等が挙げられる。車両誘導標識には鳥や飛び石、車両等との衝突が起こるため、緩衝機能を発揮し、また破損しても破片が飛び散らないポリマー材料、もしくはポリマー材料で補強した薄肉ガラスシートなどが好ましく、また紫外線、酸素、水分等の有機電流発光素子の劣化源の侵入を抑制する添加剤等がポリマー材料に含有されていることが更に好ましい。
【0034】
また、紫外線や熱による劣化を抑制するために、封止材に紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤の量は特に限定されないが、1000ppm以下が好ましい。上記範囲であれば、紫外線や熱による劣化を抑制できるとともに、樹脂の特性を維持することができる。
【0035】
封止材の膜厚は、通常200μm以上、1mm以下、好ましくは300μm以上、800μm以下、更に好ましくは400μm以上、600μm以下である。上記範囲であれば、紫外線、酸素、水分等の劣化源の侵入を抑制し、素子を保護する緩衝機能を得ることができる。
【0036】
封止材は、380nm以下の光線透過率が15%以下であることが好ましく、8%以下がより好ましい。上記範囲であれば、紫外線による発光材料等の劣化を抑制できる。
【0037】
1−2.散乱保護フィルム
本発明の車両誘導表示物には、有機ELの視認性を向上させるために、外側表面に散乱保護フィルムが取り付けられてもよい。散乱保護フィルムとは、車両誘導表示物表面への景色等の映り込み、太陽光線や車両前照灯の反射を防止する等の効果を発揮するフィルムを意味する。
【0038】
散乱保護フィルムの上記特徴は、フィルムの平行光線透過率や全光線透過率で把握することができ、平行光線透過率及び全光線透過率とは、JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠して測定された値であり、以下の式の関係にある。
p=Tt−Td
(Tt:全光線透過率(%) Td:拡散透過率(%) Tp:平行光線透過率(%))
t=100−R−A
(Tt:全光線透過率 R:全光線反射率 A:吸収率)
【0039】
散乱保護フィルムの外側表面(運転者等が視認する側表面)の平行光線透過率は、通常は40%以下、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。上記範囲であると、車両誘導表示物表面での正反射を防止して、運転者への目の負担、視界妨害を抑制することができる。
【0040】
また、散乱保護フィルムの有機EL側表面の全光線透過率は、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。上記範囲であると、有機ELからの光を効率よく利用し視認することができる。
【0041】
散乱保護フィルムの材料は、特に限定されないが、車両誘導表示物として利用されるため、太陽光線や雨水に曝され、鳥や飛び石等の衝突が起こり得る過酷な屋外環境に設置されることを考慮し、耐候性・耐衝撃性に優れる樹脂を用いることが好ましい。具体的な例として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系炭化水素樹脂;ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA等の多価アルコールとビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類から合成されるポリカーボネートが挙げられる。特にフッ素系炭化水素樹脂が好ましく、ETFEがさらに好ましい。
【0042】
また、耐候性を向上させるために、散乱保護フィルムに紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等を添加してもよい。これらの添加剤の量は特に限定されないが、総添加量で500ppm以上5000ppm以下が好ましい。1000ppm以上3000ppm以下がより好ましい。上記範囲であれば、良好な耐候性向上効果、及び良好な界面接着強度を得ることができる。
【0043】
散乱保護フィルムの膜厚は、特に限定されないが、通常50μm以上、200μm以下、好ましくは100μm以下である。上記範囲であると、コスト、及びラミネート時のシ
ワ等の発生を抑制することができる。
【0044】
散乱保護フィルムの特性は、屈折率でも把握することができ、屈折率は1.6以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.45以下がさらに好ましい。上述の範囲であると、界面での部分反射や全反射を抑制し有機ELからの光をより効率よく利用することができる。
【0045】
散乱保護フィルム材料に、上述の平行光線透過率を低減する特性を付与する方法は、特に限定されないが、使用する樹脂の本来の特性を利用するほか、例えばフィルム表面に凹凸構造を形成する方法や、フィルム樹脂内部にフィラーを分散させる方法が挙げられる。凹凸構造は外側表面・有機EL側表面のどちらに形成されていてもよいが、気泡の抑制や形成し易さから、外側表面に形成することが好ましい。凸凹構造の高さの下限値は通常0.2μm以上、より好ましくは0.4μm以上、特に好ましくは0.6μm以上である。また、上限値は100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましい。上記範囲内とすることにより、有機ELの発光強度を損なうことなく、外部からの反射光を低減することができる。凸凹構造の周期は、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、12mm以下が特に好ましい。上記を超えると表示の明瞭性を損なうことがある。また、下限値は通常0.005mm以上であり、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上である。下限値を下回ると表面が汚れ易くなる恐れがある。
【0046】
凹凸構造を形成する方法も特に限定されないが、表面凹凸を母型から熱や圧力により転写する方法が挙げられる。
【0047】
1−3.その他の構成
有機ELを作動させるために、系統電源と接続させるほか、太陽電池及び蓄電装置と組合せて独立電源化することもできる。例えば図3のように、有機ELを含む車両誘導表示物(図3中の19)及び太陽電池パネル(図3中の20)を組合せた傾斜板(図3中の18)を、道路路肩壁状構造物に設置する方法も挙げられる。災害等により系統電源が停電した場合にも作動させることができる。また、道路の構造上、系統電源との接続が困難な場所や、コストがかかる場所にも簡易的に施工することができる。
【0048】
用いられる太陽電池は、特に限定されないが、有機ELを作動させるための出力を考慮した上で、小型・軽量なものを用いることが好ましく、例えば、フィルム状の太陽電池、又はシート基板型の太陽電池が挙げられる。
【0049】
用いられる蓄電装置も、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタ等が挙げられる。有機ELを作動させるための出力を考慮した上で、小型・軽量なものを用いることが好ましく、特に電解質にゲル電解質や固体電解質等を用いシート状に仕上げたリチウムポリマー電池を用いることが好ましい。
【0050】
有機EL以外の装置等の種類、形態、設置場所も特に限定されないが、有機ELを作動させることを考慮した上で、小型・軽量のものを用いることが好ましい。
【0051】
発光デバイス、発電デバイス、蓄電デバイスを薄いシート型デバイス(発光デバイス:有機EL、発電デバイス:フィルム状又はシート基板型太陽電池、蓄電デバイス:シート型リチウムポリマー電池)とし、これらをさらにフィルムに内封して、装置全体を一体化してもよい。これによって、曲面にも設置可能な自立電源型の自発光誘導表示物とすることができる。
【0052】
2.道路路肩壁状構造物
本願における道路路肩壁状構造物とは、道路路肩に設置又は存在する壁面を持った構造物であって、走行・停止時に運転席から視認できる壁面を持つものであれば特に限定されない。具体的には、車両の道路外への飛び出しを防止する防護柵(ガードレール)、道路交通の騒音を抑制する防音壁、風雪から車両を保護する防風・防雪柵が挙げられるほか、トンネルの内壁等もこれに含まれる。
【0053】
日本国内においては、上記壁状構造物が既に設置又は存在している道路が多く、特に高速道路においてはほとんど全ての路肩に設置されている。従って、既存の壁状構造物の取り換えや過度な加工を必要とせず、簡易的に車両誘導表示物を取り付けられると、手間及び費用の軽減することができるため好ましい。
【0054】
3.有機ELを含む車両誘導表示物の設置位置
本発明の壁状構造物は、車両誘導表示物が路面から1〜5mの高さ、より好ましくは1.5〜4mの高さ、さらに好ましくは2〜3mの高さに設置されている(図2における14の高さ)。設置位置の高さが低すぎる又は高すぎると、車両の種類によっては運転者が視認しづらくなる。
【0055】
また、本発明の壁状構造物は、車両誘導表示物が路面の垂直方向に対して10〜50°上向き、より好ましくは15〜45°上向き、さらに好ましくは20〜35°上向きに設置されている(図2における16の角度)。角度が上記範囲外であると、運転者に表示物を視認しづらいほか、逆に運転者が眩しいと感じる場合がある。さらに、上記範囲に設置されることにより、壁面への車両衝突があった場合でも、表示物への直接的な衝突を避けることができ、表示物が故障・破損が生じにくくなる。
【0056】
本発明の車両誘導表示物の設置位置は、上記特定されている範囲内であれば、その他については特に限定されず、車両誘導表示物が壁状構造物の壁面に直接取り付けられているほか、図3のような傾斜板に取り付けられた上で、壁状構造物に設置されていてもよい。
【0057】
本発明の車両誘導表示物が設置される部分は、平面構造のほか、曲面構造であってもよい。フレキシブルな有機ELを用いることによって、曲面にも設置することが可能であり、曲面構造は強度が高いため特に好ましい。さらにフレキシブルであれば、曲げや撓みが生じても割れにくく、補強材が不要となって、軽量、薄型を実現することができる。
【0058】
また、本発明の壁状構造物は、車両誘導表示物が道路側最外露出面よりも道路外側に設置されていることが好ましい。道路側最外露出面とは、図2を参照して説明すると、15の位置にある面であり、車両が通行する道路側に最も近い平面又は斜面を意味する。本発明の壁状構造物は、車両誘導表示物が道路側最外露出面から3cm以上道路外側に設置されることが好ましく、さらには10cm以上が好ましい。上記範囲であると、壁面への車両衝突があった場合でも、表示物への直接的な衝突を避けることができ、表示物が故障・破損を抑制することができる。
【符号の説明】
【0059】
1・・・・・基板
2・・・・・陽極
3・・・・・正孔注入層
4・・・・・正孔輸送層
5・・・・・発光層
6・・・・・正孔阻止層
7・・・・・電子輸送層
8・・・・・電子注入層
9・・・・・陰極
10・・・・ガードレールのビーム
11・・・・ガードレールの支柱
12〜13・有機ELを含む車両誘導表示物
14・・・・有機ELを含む車両誘導表示物の路面からの高さ
15・・・・道路側最外露出面
16・・・・斜面の傾斜角(垂直方向に対する)
17・・・・有機ELを含む車両誘導表示物と道路側最外露出面との距離
18・・・・傾斜板
19・・・・有機ELを含む車両誘導表示物
20・・・・太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機エレクトロルミネッセンスデバイスを含む車両誘導表示物が設置された道路路肩壁状構造物であって、前記車両誘導表示物が、路面から1〜5mの高さ、かつ路面の垂直方向に対して10〜50°上向きに設置されていることを特徴とする、道路路肩壁状構造物。
【請求項2】
前記車両誘導表示物の設置されている部分が曲面構造である、請求項1に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項3】
前記車両誘導表示物が、道路側最外露出面よりも3cm以上道路外側に設置されている、請求項1又は2に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項4】
前記車両誘導表示物の輝度が200cd/m2〜3000cd/m2である、請求項1〜3の何れか1項に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスが、白色発光型であって、色温度は4000K以下である、請求項1〜4の何れか1項に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項6】
前記車両誘導表示物の表面に、平行光線透過率が40%以下である散乱保護フィルムが積層されている、請求項1〜5の何れか1項に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項7】
前記散乱保護フィルムの外側表面が、凹凸構造を有しており、前記凹凸構造の高さが0.2〜100μm、周期が20mm以下である、請求項6に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項8】
前記散乱保護フィルムがフッ素系炭化水素樹脂からなる、請求項6又は7に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項9】
太陽電池及び蓄電装置を備える、請求項1〜8の何れか1項に記載の道路路肩壁状構造物。
【請求項10】
前記太陽電池がフィルム又はシート基板型である、請求項9に記載の道路路肩壁状構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15003(P2013−15003A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150456(P2011−150456)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(391007460)中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 (47)
【Fターム(参考)】