木本類の不完全燃焼ガスの製造方法、不完全燃焼ガス、木酢、融雪剤、蟻酸金属塩混合物の製造方法、蟻酸金属塩混合物
【課題】 マツ枯れ被害木から化学合成や燃料に適した木ガスと木酢と融雪剤とを製造する。
【解決手段】 松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであるマツ枯れ被害木を、粉砕し、熱風乾燥し、枯れた木本類を空気が供給されない状態で加熱する。このマツ枯れ被害木が180℃から200℃の温度に達するまでの間は発生したガスは、粗木酢液として回収する。その後、400℃又は800℃に達するまで発生した不完全燃焼ガスを、木ガスとして回収する。さらに、この木ガスを攪拌をあまり行わずに水酸化ナトリウム溶液と接触させることで二酸化炭素を除去し、一酸化炭素の減少を抑えた、化学合成や燃料に適した木ガスを製造する。また、この木ガスから融雪剤を製造する。
【解決手段】 松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであるマツ枯れ被害木を、粉砕し、熱風乾燥し、枯れた木本類を空気が供給されない状態で加熱する。このマツ枯れ被害木が180℃から200℃の温度に達するまでの間は発生したガスは、粗木酢液として回収する。その後、400℃又は800℃に達するまで発生した不完全燃焼ガスを、木ガスとして回収する。さらに、この木ガスを攪拌をあまり行わずに水酸化ナトリウム溶液と接触させることで二酸化炭素を除去し、一酸化炭素の減少を抑えた、化学合成や燃料に適した木ガスを製造する。また、この木ガスから融雪剤を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に木本類の不完全燃焼ガスの製造方法、不完全燃焼ガス、木酢、融雪剤、蟻酸金属塩混合物の製造方法、蟻酸金属塩混合物名称に関する。
【背景技術】
【0002】
松材線虫病(以下で、略称の「松枯れ病」と示す。)の被害が、日本全国で広がっている。松枯れ病では、薬剤散布を行って松枯れ病の防除を行うことができるが、マツ林周辺にある住宅地の存在と生態系への影響を考えると望ましい方法ではない。
このため、松枯れ病の防除方法として、枯損したマツの伐採・炭化処理が行われている。
しかし、枯損松は、資材や木材製品として利用できないため、産業廃棄物となってしまう。
秋田県等では枯損マツの伐採後、林内に積み、くん蒸処理し、シートを被せた状態で放置している。このような処理方法は、貴重な木質バイオマスの浪費となる。
【0003】
一方、Hubbertらのシミュレーションにより2006年から世界の石油生産量が頭打ちとなり、以後石油生産量は減少し続けるという報告がなされている。従って、石油に依存してきた従来のエネルギーや資材の生産構造を見直さなければならない局面にある。この背景のもと、石油資源への依存度を低減できる新たな技術開発が求められている。
その新たな技術として、バイオマス資源が脚光を浴びてきている。
このバイオマス資源のひとつとして、木材から製造される木ガスが、新たに注目を集めている。
【0004】
木ガスは、木材を空気が入らない状態で蒸し焼き(乾留)した状態で発生する気体であり、成分はメタン・一酸化炭素・二酸化炭素などである。この木ガスの二酸化炭素含有量は比較的低く、燃料となることが昔から知られていた。たとえば、第二次大戦前には既に、木ガスを使用した内燃機関を使った木炭自動車が実用化されている(非特許文献1を参照。)。
さらに、木ガスは、良質な炭化水素源であることから、各種の化学合成に使用することができると考えられる。
たとえば、木材ではないが同じセルロース体で組成されている草本類を熱したガスによるメタノール製造に利用する研究が進んでいる。木ガスに関しても、この種の化学合成用の原料としての応用が期待できる。
また、木材から木ガスを抽出するのとは異なる炭焼きに適した条件、すなわち比較的低い温度で乾留させると、空気と木材の水分や酸が混じった気体を抽出することができる。
この気体を室温で液化してタール成分を沈殿させた後、その上澄み溶液を得ることで、木酢を製造することができる。木酢の主成分は、酢酸、アセトール、プロピオン酸等であり、濃度が高いと除草剤や除菌剤として有用であり、防臭効果もあるため有用である。
【0005】
一方、近年、スパイクタイヤの使用が禁止されたことにより、冬季交通の安全性確保の観点から、道路の凍結抑制剤又は融雪剤の使用が年々増加している。
実際、東北地方での凍結抑制剤の使用は19,000トン(平成13年)に達している。その後、年毎に2000トンから3000トンづつ増加傾向にある。
【0006】
しかし、現在市販されている凍結抑制剤又は融雪剤は、大部分が塩化物である塩化ナトリウムや塩化カルシウム等を主成分としているため、塩化物による構造物(コンクリート、金属、自動車、機器部材等)の腐食が問題となっている。
また、田畑や河川等の周辺環境への塩害が重大な問題となっている。特に、植物への影響として、土壌・水環境の塩害化の被害が大きい。
たとえば、白神NGOの自然保護団体が八森町の県立自然公園内で塩化力ルシウムの袋を発見し、周辺の土を県分析化学センターに調査を依頼したところ高濃度の塩素が確認されたことが記されている(秋田魁新報2003年2月)。このため、県に対し「塩化力ルシウムは植生に大きな影響を与える」として、事実確認の調査と業者への指導や条例による融雪剤の禁止を求めていた。
塩素は植生に対して必須元素であるが、融雪剤としての使用上、高濃度となり浸透圧を上げるため、植物の水分吸収の妨げや塩化物イオンの過剰障害が起こる。
【0007】
また、塩化を抑えるために、酢酸カルシウムとマグネシウムを配合した融雪剤が開発されている(以下、従来技術1とする。)。この融雪剤は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、アセテート(Ac)の配合物であり、金属への腐食作用があまりなく、環境に対して低負荷である。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5219483号明細書
【非特許文献1】畠山 剛著、「炭焼きの二〇世紀 書置きとしての歴史から未来へ」、、2003年3月、彩流社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これまで木ガスの製造には、通常の木炭になる木材が使用されており、松枯れ病で枯損した松を木ガス化する適当な方法が必要とされていた。
また、松枯れ病で枯損した松から、蟻酸等の化学合成に適した木ガスを製造する方法が必要とされていた。
また、この松枯れ病で枯損した松から、木酢を抽出する効果的な方法も開発されていなかった。
また、従来技術1は、塩化物を含む融雪剤よりも非常に高価であり、ほとんど使われていなかった。そこで、現状では、従来のように塩化ナトリウムを配合した融雪剤が使われていた。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、枯損した木本類を粉砕し、熱風乾燥し、上記枯れた木本類を空気が供給されない状態で加熱して乾留すると共に、前記加熱の温度が第1の加熱温度に達するまでに前記木本類から発生する第1の乾留ガスと、前記第1の加熱温度から第2の加熱温度になるまで加熱して該第2の加熱温度を維持する間に発生する第2の乾留(木)ガスとを回収することを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記熱風乾燥は、40℃〜180℃で24〜96時間行うことを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第1の加熱温度は180℃〜200℃までとし、前記乾留した第1の乾留ガスを室温で冷却して木酢を含む液体を得ることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第2の加熱温度は400℃〜600℃であることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第2の加熱温度は800℃〜1000℃であることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第2の乾留(木)ガスを、水酸化ナトリウム溶液と接触させることで、二酸化炭素を除去し、一酸化炭素の減少を抑えることを特徴とする。
本発明の不完全燃焼ガスは、前記木本類の不完全燃焼ガスの製造方法により製造されることを特徴とする。
本発明の木酢は、前記第1の乾留ガスから製造されることを特徴とする。
本発明の融雪剤は、前記木酢と、苦土石灰とを含むことを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、木本類の不完全燃焼ガスから製造した蟻酸金属塩混合物の製造方法であって、本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記第1又は前記第2の乾留ガスを回収するガス回収工程と、回収したガスから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去工程と、アルカリ金属水酸化物と反応させて製造する蟻酸金属塩混合物製造工程とを有することを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記二酸化炭素除去工程は、前記ガスを水酸化ナトリウム又はアルカリ金属塩を含有する溶液と反応させることにより除去することを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウムであることを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物は、前記蟻酸金属塩混合物の製造方法により製造されたことを特徴とする。
本発明の融雪剤は、前記蟻酸金属塩混合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、松枯れ病で枯れた松について、最適な木ガスの製造法を提供することができる。
また、本発明によれば、松枯れ病で枯損した松から、化学合成に適した木ガスを提供することができる。
また、本発明によれば、松枯れ病で枯損した松から、さらに木酢を抽出することができる。
また、本発明によれば、枯損した松を使用することにより、環境負荷の低い融雪剤である、蟻酸カリウムの混合物を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<第1の実施の形態>
本発明者らは、産業廃棄物として放置されていた松枯れ被害木の有効活用について鋭意検討と実験を日々繰り返し行った結果、木ガスと木酢を同時に回収することができる条件を僥倖的に得ることができた。さらに木酢にカルシウムを投入することで、非常に効率の高い融雪剤を製造することが可能であることを見いだした。
また、この反応の木ガスは、燃料として使用することもできるが、蟻酸等の化学合成の材料として最適な特性がある。
さらに、木ガスを取得した後の松枯れ木は、粉砕しやすい炭となるため、活性炭等の製造に使用可能である。
このため、松枯れ被害木をほとんど無駄にすることなく、高効率で有用な生産物の製造を行うことが可能となった。
【0014】
この松枯れ被害木としては、日本の一般的な松であるクロマツ(Pinus thunbergii)かアカマツ(Pinus densiflora)が望ましい。
アカマツは本州、四国、九州の山地を申心に見られ、クロマツは海岸地域を中心に生育している。これらのマツは、防風、防潮、飛砂防止、山地崩壊防備、水源確保などの観点から、国土保全上重要な機能を持つ。
しかしながら、マツは病虫害に弱く、特に松くい虫(マツに寄生する穿孔虫類の総称)による被害を明治時代から受けてきた。
この松くい虫の被害木は産業廃棄物であり、大量に非常に安価に調達できるという特徴がある。
【0015】
木ガスの製造法としては、まずは松枯れ被害木を粉砕し乾燥させたものを、第1の加熱温度である180℃〜200℃以下で、木材に含まれる水分と木酢成分を抽出する。
この後、第2の加熱温度である400℃又は800℃で不完全燃焼することで一酸化炭素を含む不完全燃焼ガスを得ることができる。
400℃では製造設備に負担をかけずに木材をガス化することができ、加熱後に炭を使用することも可能である。
一方、800℃では耐熱設備を必要とするものの、多量の木ガスを製造することができる。
これら、松枯れ被害木から発生する不完全燃焼ガスを、燃料又は化学合成に適した状態で精製することができる。
以下の実施例において、この木酢、木ガスの製造法について図面を参照して詳しく説明する。
【0016】
〔木ガス製造方法の実施例〕
(試料)
秋田県立大学秋田キャンパス構内のマツ林で得られた松枯れ被害木の木質部(以下マツ木質部とする)をチェーンソーによって木屑にし、回収した。
樹皮や枝の混入した状態のまま試料にすると結果にばらつきが生じると想定されたため、木材の大部分占める木質部のみを用いた。
マツ木質部の木屑は、ドライオーブン(ISUZU社製、SNS−220S)により24時間40℃で風乾した後、ミキサー(三洋電機社製、SM−KM37(W))によって粉砕した。
これは予備実験において、この24時間38℃〜42℃が木ガスと木酢の抽出に最適な乾燥度になることが分かっているためである。
また、木本類との比較のために草本類である稲藁も同様にドライオーブンにより24時間、40℃で風乾した後、ミキサーによって粉砕した。以上のように処理したマツ木質部と稲藁を試料とした。
なお、高速に乾燥させるために、嫌気的な雰囲気で、42℃〜180℃で24〜96時間乾燥させることも可能である。
【0017】
(実験装置)
以下で図1を参照して、本発明の実施の形態に係る実施例の木酢と木ガスのガス回収装置の説明を行う。該装置は、主に実験のための少量生産に用いる装置であるが、これをスケールアップすることで大量生産を行うことができる。
このガス回収装置Xにおいては、ガス化室20に試料を適量、詰める。この上で、空気が供給されない状態で、ガス化室20を電気炉10に設置し加熱する。ガス化室20を加熱することで、試料より発生したガスをチューブ30を通して、接続されたガス回収袋40に回収する。
電気炉10としては、セラミック電気管状炉(アサヒ理科製作所製)を用いた。この電気炉では、炉内の温度について50℃〜1000℃まで数℃間隔で自由に設定可能である。
ガス化室20としては、試験管(IWAKI製、87mL、耐熱500℃)またはセラミック管(SSA−Sチューブ、 内径24mm・外径30mm、長さ600mm、耐熱1700℃)を用いた。試験管は電気炉10の設定温度を400℃にした際のガス化、セラミック管は設定温度を800℃にした際のガス化に用いた。
チューブ30としては、1mの一般的な耐熱シリコンチューブを用いた。このチューブ30においては、固体又は液体成分のガス回収袋への侵入を防ぐため、中間部をクランプによりガス化室20の上方に固定した上で、ガス化室20より低い位置にあるガス回収袋40に接続している。
ガス回収袋40は、一般的な実験に用いられるガス回収用の袋である、容量1Lのテドラーバッグを用いた。
【0018】
また、試料より回収した不完全燃焼ガス中に含まれる二酸化炭素は、木ガスを燃料として用いる際には燃えない。また、例えば蟻酸の化学合成を行う際には、水酸化カリウムを消費する。このため、あらかじめ除去することも可能である。
この二酸化炭素の除去のために、本発明の実施の形態に係る実施例においては、水酸化カリウムより安価な、水酸化ナトリウムの溶液を用いた。
水酸化ナトリウム溶液を使用するに当たっては、まず、図1の方法で回収した不完全燃焼ガスの二酸化炭素発生量から二酸化炭素発生モル数(mmol/g)を求めた。
以下に示す二酸化炭素と水酸化ナトリウムの化学反応式によると、
2NaOH + CO2 → Na2CO3 + H2O
二酸化炭素除去に必要となる水酸化ナトリウムのモル数は2倍なので、二酸化炭素発生モル数の2倍以上溶解かした水酸化ナトリウム溶液500mlを三角フラスコに加えた。このガス回収装置Yの構成を図2に示す。
【0019】
図2において、ガス回収装置Yは、電気炉11は図1に示す電気炉10と、ガス化室21は図1に示すガス化室20と、チューブ31・32は図1に示すチューブ30と、ガス回収袋41は図1に示すガス回収袋40と、それぞれ同様である。
これにさらに加えて、上述の組成の水酸化ナトリウム溶液51がガス化室21とガス回収袋41の中間に置かれており、チューブ31の一端をこの溶液に浸している。
水酸化ナトリウム溶液51の液面の上にはチューブ32の一端がある。チューブ32の他の一端は、ガス回収袋41に接続されている。
この水酸化ナトリウム溶液51に、試料から出た不完全燃焼ガスをマグネティック・スターラー等により撹幹しながら通気することで、二酸化炭素が除去された不完全燃焼ガスを回収することができる。
【0020】
以下、図1に記載の装置で回収した二酸化炭素を除去していない不完全燃焼ガスをAガス、図2に記載の装置で回収した二酸化炭素を除去した不完全燃焼ガスをBガスとする。
【0021】
(木酢の回収)
一般的に、へミセルロースは180℃から分解することが知られている。
このため、180℃以下で発生するガスは、ほとんどが木酢であると想定し、第1の加熱温度である180℃から200℃に達するまでの間に発生する水蒸気と酸を主成分とする第1の乾留ガス(木ガス)を抽出し、室温で再び液化させて粗木酢液とした。この粗木酢液を1ヶ月程度室温に置き、タール分やベンゼン等の含まれる油性で難溶性の沈殿物を除いた上澄み液を取得したものが木酢となる。
なお、200℃を超えて、ヘミセルロースを完全に炭化するまでの温度で分解することも可能である。
【0022】
(不完全燃焼ガスの回収)
粗木酢液となる第1の乾留ガスを抽出した後(ガス化室が200℃に達した直後)、ガス回収袋40又は41を付け替えて、第2の加熱温度である目標のガス化温度(400℃、800℃)に達して、ガス化が終了するまで第2の乾留ガス(木ガス)の回収を続けた。
以下の表1に示すように、松枯れ被害木と稲藁について、400℃と800℃について、それぞれ第2の乾留ガスとなるAガスとBガスを回収した。
ここで、400℃で回収したAガスを実施例1、Bガスを実施例2とする。また、800℃で回収したAガスを実施例3、Bガスを実施例4とする。また、稲藁について400℃で回収したAガスを比較例1、Bガスを比較例2とする。
【0023】
【表1】
【0024】
(不完全燃焼ガスのガス化量、ガス組成、一酸化炭素・二酸化炭素発生量の測定)
(1) ガス化量
不完全燃焼ガスを回収した袋からディスポシリンジ(50mL)によってガスを抜くことで、試料の全体のガス化量(mL/g)を求めた。なお、ガス化量とは、試料の単位重量あたりに発生するガス体積を示す。BガスもAガスと同様にガス化量を求めることで二酸化炭素除去処理による影響を見た。
400℃でのAガス化量は一連の装置で、Bガス化量は三連の装置で回収した。
表1に示すように、400℃によるAガス化量は、マツ木質部が73mL/g(実施例1)、稲藁が93mL/gであった(比較例1)。Bガス化量は、マツ木賀部が平均で42.7mL/g(±1.15)(実施例2)、稲藁が平均で51.7mL/g(±1.15)であった。
【0025】
セラミック管の耐入性から800℃によるガス化は本実験装置においては数回の試行しか行えず、マツ木質部によるAガス化量のみ実測値であり、ガス化量 は400mL/gであった。800℃によるマツ木質部のBガス化量は以下の式によって求めた。
800℃によるマツ木質部のBガス化量
= 800℃でマツ木質部Aガス × (400℃マツ木質部Bガス / 400℃マツ木質部Aガス)
= 233.8mL/g(±6.33)
【0026】
次に、マツ木質部と稲藁の炭素含有率(重量%)をC/Nコーダーを用いて求めた。この結果を以下の表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2によると、マツ木質部の方が炭素含有率が大きいため、その分、酸素、水素の含有率が稲藁より小さかった。
このためマツ木質部の炭素はガス化時の反応物である酸素、水素が稲藁より少なく、その分ガス化されなかったと推測された。また800℃によるガス化量では400℃の5倍以上となった。
【0029】
【表3】
【0030】
表3は、木材と稲藁の各含有成分の重量%と、各成分の分解温度を示す。
表3によると、400℃のガス化温度は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンといった高分子を分解し多様な炭化水素を生成させるには可能な温度であったが、更に分解し一酸化炭素、二酸化炭素、水素、メタンまでに至る温度ではなかったことから、ガス化温度差によってガス化量にも差が付いたと考えられた。
なお、400℃〜600℃で分解した場合に、この400℃と同様な分解傾向を示す。
【0031】
(2) ガス組成
熱伝導度検出器型ガスクロマトグラフ(GC−TCD)(GC−8A:島津製作所製)により一酸化炭素、二酸化炭素、水素、メタン、酸素、窒素を同定し、ガス組成を求めた。また、試料重量あたりの一酸化炭素、二酸化炭素の発生量(mL/g)を求めた。分析は以下の条件で行った。
カラム: 島津製作所社製、SHINCARBON ST 50/80 6.0m×半径8.0mm ステンレス製
キャリアーガス: He 50mL/min
カラム温度: 400℃(Hold time)〜200℃、l0℃/min
検出器温度: 200℃
試料注入量: 0.5mL
感度: 100mA ATT4
BガスもAガスと同様にGC−TCDにより一酸化炭素、二酸化炭素発生量(mL/g)を求めることで二酸化炭素除去処理による影響を見た。
このGC−TCDによる分析はAガス、Bガスともに三連(3回の実験)で行った。
この結果を、図3乃至5に示す。
【0032】
図3は実施例1であるマツ木質部を400℃で加熱した際のAガス、図4は比較例1である稲藁を400℃で加熱した際のAガスをGC−TCD解析した結果のクロマトグラムの表である。
これに対して、図5は化学合成や燃料に適した従来技術の標準的な木ガスの組成と同等な混合ガスを計測して、GC−TCD解析のピークのマーカーとしたものである。
図3と図4のAガスを比較すると、マツ木質部と稲藁のAガスのクロマトグラムから、従来の木ガスと水素、酸素、窒素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素のピークが確認された。
これにより、松枯れ被害木から、燃料や化学合成に適した従来の木ガスと同等なガス組成の不完全燃焼ガスを得ることができた。
すなわち、本発明の実施の形態に係る本木類の木ガスの製造方法によれば、草本類である比較例1である稲藁と同等な組成のガスを、枯れマツの木質部から得ることが可能となった。
【0033】
(3) 二酸化炭素除去処理前後の二酸化炭素発生量の変化
GC−TCDによるA・Bガスの二酸化炭素発生量(mL/g)の変化を図6に示した。
Aガスのマツ木質部の二酸化炭素発生量は平均で12.95mL/g(±0.326)、稲藁が15.45mL/g(±0.268)であった。この二酸化炭素発生量から二酸化炭素除去に必要な水酸化ナトリウムモル数(mmol/g)が松木質部に対して1.02mmol/g、稲藁に対して1.23mmol/gであると求められた。
実験では両試料の二酸化炭素除去に水酸化ナトリウム2mmol/gを用いて確実な二酸化炭素除去を行った。
そしてBガスの二酸化炭素発生量はマツ木質部が平均で0.12ml/g(±0.211)、稲藁が0.24ml/g(±0.027)であった。マツ木質部では99.1%、稲藁では98.4%という高い二酸化炭素除去率が確認できた。
【0034】
(4) 二酸化炭素除去処理前後の一酸化炭素発生量の変化
GC−TCDによるA・Bガスの一酸化炭素発生量(ml/g)の変化を図7に示した。Aガスのマツ木質部の一酸化炭素発生量は平均で7,30m1/g(±0.031)、稲藁が7・03m1/g(±0・068)であった。Bガスのマツ木質部の一酸化炭素発生量は平均で3・90n1/g(±0,961)稲藁が6・63m1/g(±0.6605245)であった。Aガスでは両試料の一酸化炭素発生量に差は見られながったが、Bガスの時には両試料とも一酸化炭素発生量が有意に減少し、試料間で差が生じた。
【0035】
また、当初二酸化炭素除去には水酸化ナトリウムを用いなければできないと考えられていたが、試料を180〜200℃に熱した後に400℃の乾留で発生する木ガスは二酸化炭素の濃度が比較的少ないため、水のみを用いて二酸化炭素除去を行う実験も行った。この結果を以下の表4の実施例5として示す。
この際、上述の水酸化ナトリウムを使用した時と違い、二酸化炭素除去溶液の撹絆強度を大きくした。
すると、実験の結果として、二酸化炭素、一酸化炭素共に、ほとんどが除去された。
【0036】
【表4】
【0037】
上述の水酸化ナトリウムを使用した実験では、二酸化炭素除去溶液の撹絆強度が小さい状態で二酸化炭素をほとんど除去し、一酸化炭素を回収できた。すなわち、水酸化ナトリウムは二酸化炭素と優先的に反応していると見られる。
よって、二酸化炭素除去に水酸化ナトリウム溶液を用いて撹絆強度を小さい状態で行うか、 撹絆を行わないことで、化学合成や燃料として有用な一酸化炭素発生量の減少を抑えることができる。
また、当初考えていた上述の水酸化ナトリウム溶液51内での二酸化炭素と水酸化ナトリウムの化学反応式は、水酸化ナトリウムが固体の時に起こる反応であり、実際に溶液中で起こった化学反応式は
NaOH + CO2 → NaHCO3
であった。
【0038】
以上のように、本願発明の実施の形態に係る実施例1〜5において、木本類である松枯れ被害木のマツ木質部による不完全燃焼ガスから、木ガスを生成することができる。
この木ガスは攪拌をあまりしない状態で水酸化ナトリウム溶液と反応させることで、一酸化炭素の減少を抑えつつ二酸化炭素の除去することが可能である。
これにより、化学合成や燃料にさらに適したガスとすることができる。また、草本類である稲藁からも木ガスと同様な不完全燃焼ガスを得られることができる。
【0039】
また、高純度の炭素であるコークスに水蒸気を加えることで一酸化炭素のみが生成されることから、
C(コークス) + H2O(水蒸気)= CO + H2
バイオマスを用いる場合、無酸素状態で加熱した後の残澄(炭)に水蒸気を加えることで、さらにガス化の効率を向上させることができる。このために、ガス化装置に加熱した水蒸気を圧力容器に導いて添加する装置を作成することが考えられる。
また、不完全燃焼ガス中の一酸化炭素が減少したものの、二酸化炭素をほとんど除去することができた。
【0040】
また、このように上述の水酸化ナトリウム溶液と反応させたガスは特に蟻酸カリウム合成に適した状態の不完全燃焼ガスであり、産業廃棄物であるマツ枯れ被害木から製造した不完全燃焼ガスを、蟻酸カリウム合成に供することが可能となった。
【0041】
また、本発明で木ガスを取得する前の水蒸気を含む気体より得られる木酢は、厳密な温度管理をした上で粗木酢液を製造するため、従来の木酢液に比べて有機物の分解を抑えることができ、不純物が少なく、さらに酸度が高いという特徴がある。
このような本発明の実施の形態に係る木酢は、上述のような特徴から、融雪剤に適しているという効果を奏する。
【0042】
上述の木酢から融雪剤を製造する方法としては、木酢に苦土石灰を使用することが可能である。また、貝殻等のカルシウムを使用することもできる。これにより、木酢の有機酸との間で塩ができ、これが凝固点降下の作用があるため、融雪剤として機能する。また、また、この方法により作成された融雪剤は、従来の塩化ナトリウム等の融雪剤に比べて金属腐食作用が非常に少ない。
また、木酢には酸の他に有機物が大量に含まれており、これも凝固点降下を押し進める作用がある。
さらに、木酢は大量に散布しても植物の養分となり、すぐに分解されるため、環境を汚染する心配がない。
【0043】
本発明の実施の形態に係る木酢としては、産業廃棄物である松枯れ被害木を使用するため、コストを非常に低減することができる。さらに、木ガスを作成する副産物として木酢を取得するため、トータルのコストをさらに下げることができる。
また、本発明の実施の形態に係る木酢は、上述のように温度管理により有機物を多く含むため、製品としての価値が高い。
これについては、木酢には植物育成促進作用や雑菌の繁殖を抑える作用があるが、この効果が従来の木酢よりも高い。
さらに、マツ枯れ被害木を原料としているため、粗い木酢液を採取する際の温度が従来の木酢よりも低いため、マツの良い香りが残るという特徴を有する。さらに、マツ枯れ被害木は多孔質で脆くなっているため、木材から木酢を取得する際の効率が上がるという効果がある。
【0044】
このように、エネルギー効率が高く、化学合成としても有益なガスを製造する方法により、木材をエネルギー源とすることで自然界を守りながら、人類に必要なエネルギーについて、半永久的に確保することができる。
さらに、産業廃棄物である松枯れ被害木について、品質の良い木酢と、化学合成や燃料に適した木酢を得ることができ、有用な資源とすることができる。
【0045】
<第2の実施の形態>
本発明者らは、産業廃棄物として放置されていた松枯れ被害木の有効活用について鋭意検討と実験を日々繰り返し行った結果、上述のように、木材を乾留して出る不完全燃焼ガスである木ガスを蟻酸の化学合成の原料に最適な状態で抽出する方法を見いだした。
さらに、この蟻酸から蟻酸カリウムを製造すると、融雪剤として効果的に用いることができることを見いだした。
【0046】
この松枯れ被害木としては、上述の第1の実施の形態と同様に日本の一般的な松であるクロマツ(Pinus thunbergii)かアカマツ(Pinus densiflora)を用いるのが望ましい。さらに、松くい虫の被害木を用いることもできる。
【0047】
なお、不完全燃焼ガスの原料とする木質として、稲藁を用いることもできる。この際は400℃で松枯れ被害木と同様の加熱をしたガスを使用する。稲藁を使用すると、ガスの発生量が多く、松枯れ被害木よりも大量の蟻酸カリウムを製造することが可能になる。稲藁も産業廃棄物なのでコストを低く抑えることも可能になる。
また、本発明の実施の形態に係る蟻酸カリウムは、他の融雪剤と同時に用いることができる。例えば、松枯れ被害木から製造した木酢を基にした融雪剤と同時に用いることで、建造物等への腐食が少なく、植物の生育を助け、雑菌の繁殖を抑え、水質汚染を引き起こさず、融雪効果が高い融雪剤として用いることが可能である。
以下の実施例において、木ガスからの蟻酸カリウムの製造方法について図面を参照して詳しく説明する。
【0048】
〔融雪剤製造の実施例〕
以下の実施例で、部とは重量部を示し、%は重量%であることを示すが、各化合物の組成については、適宜本発明の趣旨を逸脱しない限り変更することができる。
(試料)
本発明の第2の実施の形態に係る融雪剤製造においては、図1に記載のガス回収装置Xで回収した二酸化炭素を除去しない不完全燃焼ガスをAガスと、図2に記載のガス回収装置Yで回収した二酸化炭素を除去した不完全燃焼ガスであるBガスとを使用する。
【0049】
<実施例11>
(高温高圧処理)
図8を参照して説明すると、図8の右下のステンレス製の耐圧管101(オーエムラボテック社製 容積200mL)に0.25%水酸化力リウム溶液20mL(以後KOH溶液とした)を加えた後、蓋をして耐圧管内を吸引減圧し、Bガス200mlを注入した。実施例11では、このBガスとしては、目標のガス化温度を400℃としたマツ木質部から製造したBガスを用いた。
次に、この耐圧管101を高温高圧機102(オーエムラボテック社製、ミリリアクターMS200C)に設置し200℃で、圧力1.5Mpaで30分間処理(以後高温高圧処理とした)した。この処理後の溶液を実施例11とする。
耐圧管101が200℃に達したときKOH溶液からの蒸気によって圧力が1.5Mpaとなった。この処理を以下で、高温高圧処理と言う。
【0050】
<実施例12>
実施例12としては、目標のガス化温度を400℃とした稲藁のBガスを用いて、上述の実施例11と同様にKOH溶液と高温高圧処理を行った。この高温高圧処理後の溶液を実施例12とする。
以上の方法により得られた実施例11と実施例12のKOH溶液について、蟻酸カリウムが製造できることを確認するため、以下の実験を行った。
【0051】
(高温高圧処理前後の溶液pH測定)
pHメーター(東亜電波工業社製、HM−7J/20J)を用いて高温高圧処理前のKOH溶液のpHと高温高圧処理後のKOH溶液(以後、高温高圧処理液と言う。)のpHを測定した。このpHの変化を測定することで、実施例11又は12のBガスとKOH溶液との反応を確認できる。すなわち、Bガスと水酸化カリウムの酸アルカリ反応が起こると、pHに変化が生じるため、反応確認の指標とした。
つまり、高温高圧処理後はpH測定による反応の確認を行い、このpH変化があった場合のみ、以下のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による蟻酸濃度の測定を行った。
【0052】
まず、実施例11(マツ木質部)と実施例12(稲藁)のBガスとKOH溶液との高温高圧処理による、pHの変化を図9に示した。
マツ木質部のBガスによる処理前のpHはl2.58(±0.0094)、処理後は12.01(±0.181)、稲藁のBガスによる処理前のpHは12.64(±0.0216)、処理後は11.45(±0.422)とそれぞれpHの低下が見られ、反応が確認された。
【0053】
(HPLCによる蟻酸合成の確認)
次に、pHの変化によって反応が確認された高温高圧処理液中の蟻酸イオシをHPLC(高速液体クロマトグラフィー、島津製作所製、LC−6A)により測定することで、蟻酸カリウム合成の確認を行った。
HPLC分析は以下の条件で行った。なお、分析試料のpHが7.5以上の場合、分析の前処理として塩酸を加えpH2〜7.5に調整した。
カラム: Mightysil RP−18
GP Aqua 250−4.6,5μm (関東化学社製)
ガードカラム: Mightysil 4.6/6mmカラム用 (関東化学社製)
溶離液: 20mmol/L リン酸2水素アンモニウム水溶液(pH2.48:pHはリン酸で調整)
流速: 1.0mL/min
検出: UV2l0nm
カラム温度: 25℃
注入量: l0μL
【0054】
実施例12(稲藁)のBガスによる高温高圧処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムを図10に示す。実施例12のBガスによる処理液はpH7・5以上なので、塩酸300μLを加えpH2・0〜7・5に調整した後、HPLC分析に供試した。これによると、蟻酸イオンのピークaが現れ、蟻酸カリウム合成が確認できた。
また、同様に実施例11(マツ木質部)についても塩酸を加えてpH2・0〜7・5に調整し、HPLC分析に供試したところ(図示せず)、同様に蟻酸イオンのピークであるピークaが現れ、蟻酸カリウム合成が確認できた。
この結果から水酸化ナトリウムから水酸化カリウムに代えても高温高圧処理の蟻酸塩合成が可能であることが証明できた。
【0055】
(HPLCによる蟻酸濃度測定)
次に、合成できた蟻酸の濃度の測定を行った。
まず、純水に蟻酸、乳酸、酢酸を混合した標準液25ppm、50ppm、l00ppmを作成し、HPLCによる標準液のピークを測定し、検量線(二次曲線)を作成した。
この検量線(二次曲線)を用い、実施例11又は12で作成した高温高圧処理液の蟻酸濃度を求めた。具体的には、HPLCの蟻酸ピークを検量線に代入することにより、蟻酸濃度を求めた。
さらに、このHPLCによって測定された蟻酸濃度を用いて、蟻酸力リウム合成量(g/kg)を算出した。
【0056】
次に、HPLCによる処理液中の蟻酸濃度より計算した、目標のガス化温度が400℃のBガスの蟻酸カリウム合成量(実施例11)と、目標のガス化温度が800℃によるBガスの蟻酸カリウム合成推定量(g/kg)を比較する。
マツ木質部の400℃によるBガスからの蟻酸カリウム合成量は平均で7.18g/kg(±0.0778)、稲藁が9.59g/kg(±1・625)であった。マツ木質部の800℃によるBガスからの蟻酸カリウム合成推定量は以下の式によって求めた。
800℃によるBガスからの蟻酸カリウム合成推定量
= (800℃マツ木質部Bガス / 400℃マツ木質部Bガス) ×
400℃マツ木質部Bガスによる合成量
= 39.349/kg(±0.426)
【0057】
また、従来技術である酉島製作所のガス化装置のガス化量(酉島製作所製、http://www.torishima.co.jp/sei_new_bio_mass.html)と本発明の実施の形態に係る蟻酸カリウムの合成結果から、蟻酸カリウム合成量を試算した。
これによると、従来技術のガス化装置を用いると、少なくとも610g/kgの蟻酸カリウム合成が可能であると推測できる。
【0058】
(蟻酸カリウム合成時において、不完全燃焼ガス中に共存する気体の選抜)
次に、実施例11又は実施例12で得られた不完全燃焼ガスに含まれる一酸化炭素以外の気体が水酸化カリウムと反応しても、蟻酸カリウムが合成されるか否かを確認した。このため、実施例11又は実施例12で得られた不完全燃焼ガスに、水素、酸素、窒素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素を標準ガスとして一種類ずつ添加して高圧高温処理し、pHに変化が生じた高温高圧処理液のみHPLCで蟻酸を測定した。
この操作によってpHに変化が生じて、蟻酸が確認されなかった気体は、上述のガス化処理において除去する対象とした。
【0059】
標準ガスとKOH溶液の高温高圧処理前後のpH変化を図11に示す。
水素、酸素、窒素、メタンの処理液にpHの変化は生じなかった。一酸化炭素は処理前がpHl2.45、処理後がpH5.60、二酸化炭素は処理前がpHl2.47、処理後がpH6.71というようにpHに顕著な変化が確認された。
【0060】
pHに変化が生じた一酸化炭素と二酸化炭素の処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムを、それぞれ図12と図13に示す。なお、図14は上述の標準ガスのクロマトグラムである。
図12の一酸化炭素の処理液からは蟻酸イオンピークが確認され、同時に蟻酸カリウム合成を確認した。
一方、図13の二酸化炭素の処理液からは蟻酸イオンピークが現れなかった。これにより、二酸化炭素を上述のガス化処理において除去する対象とした。
【0061】
二酸化炭素と水酸化カリウムの結合によって、蟻酸カリウムでなく、炭酸水素カリウムが生成された可能性が高い。
KOH + CO2 −> KHCO3
高温高圧下で反応可能な一酸化炭素に比べ、二酸化炭素は常温常圧下で容易に水酸化カリウムと反応する。このため、二酸化炭素を含んだ不完全燃焼ガスを用いて高温高圧下で反応を行うと、蟻酸カリウムの生成に先立って炭酸水素力リウムが生成してしまい、水酸化ナトリウムと比較して高価な水酸化カリウムを浪費してしまう。
さらに、今回の不完全燃焼ガスに含まれていた二酸化炭素は、一酸化炭素の倍近く存在していた。
このため、ガス化処理の段階でより安価な水酸化ナトリウムによって二酸化炭素の除去処理を行うことは蟻酸カリウム合成において必要不可欠な操作である。また、二酸化炭素と反応してできた炭酸水素ナトリウムも、工業的に使用することが可能である。
以上の操作により、松枯れ被害木又は稲藁の不完全燃焼ガスから、蟻酸カリウムを高収率で合成することが可能になるという効果が得られる。
【0062】
上述の製造法により蟻酸カリウムを含む水溶液が得られるが、融雪剤として用いるためには、これらの蟻酸カリウムを含む水溶液より水分を除去した粉末状の固体とすることが望ましい。
この固体化の方法としては、単純に水分を煮詰めて蒸発させることも可能であるが、低温で減圧により水分を除去するフリーズドライ法を使用すると、蟻酸に加えて他の有機酸等の分解を抑えられるために好適である。また、イオン交換膜を使用して濃縮した後にフリーズドライを行うことも可能である。
【0063】
本発明の実施の形態に係る実施例11において、蟻酸カリウム合成は既存のガス化装置の合成量に対して少量であったが、松枯れ被害木を原料として蟻酸カリウム合成が可能になった。また、本発明の実施の形態に係る実施例12において、稲藁の不完全燃焼ガスによっても蟻酸カリウムの合成が可能になった。
さらに、この蟻酸カリウムは融雪剤として用いることができるため、バイオマス資源による安価な融雪剤生産が可能となった。
また蟻酸カリウム合成量はガス化装置によって強く影響されることが分かったため、大量にガスを供給できる装置により、製造効率を引き上げることが可能となる。
さらに、蟻酸カリウム合成量が主に影響される要因としてガス化効率が挙げられたため、実用化にはより効率の良いガス化を用いれば飛躍的に蟻酸カリウム合成量を向上させることが可能である。
【0064】
本発明の実施の形態に係るバイオマスの不完全燃焼ガス化と、この不完全燃焼ガスを用いた高温高圧処理による蟻酸カリウムの合成方法により、蟻酸カリウムの合成が可能となった。
その結果、松枯れ被害木や稲藁を使用して、環境に低負荷である融雪剤である蟻酸カリウムの産業的合成が可能となった。
【0065】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る木酢とAガスのガス回収装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る木酢とBガスのガス回収装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るGC−TCDにおける従来の木ガスのクロマトグラムである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るGC−TCDにおける従来の木ガスのクロマトグラムである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るGC−TCDにおける実施例1の木ガスのクロマトグラムである。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る二酸化炭素の発生量を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る一酸化炭素の発生量を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る高温高圧処理の耐圧管と高温高圧機の外観図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るBガスとKOH溶液との高温高圧処理による、pHの変化を示すグラフである。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る実施例12(稲藁)のHPLCによって分析したクロマトグラムである。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る標準ガスとKOH溶液の高温高圧処理前後のpH変化を示すグラフである。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る一酸化炭素の処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムである。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る二酸化炭素の処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムである。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る標準ガスのクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0067】
10、11 … 電気炉
20、21 … ガス化室
30、31、32 … チューブ
40、41 … ガス回収袋
51 … 水酸化ナトリウム溶液
101 … 耐圧管
102 … 高温高圧機
a … 蟻酸イオンのピーク
X、Y … ガス回収装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に木本類の不完全燃焼ガスの製造方法、不完全燃焼ガス、木酢、融雪剤、蟻酸金属塩混合物の製造方法、蟻酸金属塩混合物名称に関する。
【背景技術】
【0002】
松材線虫病(以下で、略称の「松枯れ病」と示す。)の被害が、日本全国で広がっている。松枯れ病では、薬剤散布を行って松枯れ病の防除を行うことができるが、マツ林周辺にある住宅地の存在と生態系への影響を考えると望ましい方法ではない。
このため、松枯れ病の防除方法として、枯損したマツの伐採・炭化処理が行われている。
しかし、枯損松は、資材や木材製品として利用できないため、産業廃棄物となってしまう。
秋田県等では枯損マツの伐採後、林内に積み、くん蒸処理し、シートを被せた状態で放置している。このような処理方法は、貴重な木質バイオマスの浪費となる。
【0003】
一方、Hubbertらのシミュレーションにより2006年から世界の石油生産量が頭打ちとなり、以後石油生産量は減少し続けるという報告がなされている。従って、石油に依存してきた従来のエネルギーや資材の生産構造を見直さなければならない局面にある。この背景のもと、石油資源への依存度を低減できる新たな技術開発が求められている。
その新たな技術として、バイオマス資源が脚光を浴びてきている。
このバイオマス資源のひとつとして、木材から製造される木ガスが、新たに注目を集めている。
【0004】
木ガスは、木材を空気が入らない状態で蒸し焼き(乾留)した状態で発生する気体であり、成分はメタン・一酸化炭素・二酸化炭素などである。この木ガスの二酸化炭素含有量は比較的低く、燃料となることが昔から知られていた。たとえば、第二次大戦前には既に、木ガスを使用した内燃機関を使った木炭自動車が実用化されている(非特許文献1を参照。)。
さらに、木ガスは、良質な炭化水素源であることから、各種の化学合成に使用することができると考えられる。
たとえば、木材ではないが同じセルロース体で組成されている草本類を熱したガスによるメタノール製造に利用する研究が進んでいる。木ガスに関しても、この種の化学合成用の原料としての応用が期待できる。
また、木材から木ガスを抽出するのとは異なる炭焼きに適した条件、すなわち比較的低い温度で乾留させると、空気と木材の水分や酸が混じった気体を抽出することができる。
この気体を室温で液化してタール成分を沈殿させた後、その上澄み溶液を得ることで、木酢を製造することができる。木酢の主成分は、酢酸、アセトール、プロピオン酸等であり、濃度が高いと除草剤や除菌剤として有用であり、防臭効果もあるため有用である。
【0005】
一方、近年、スパイクタイヤの使用が禁止されたことにより、冬季交通の安全性確保の観点から、道路の凍結抑制剤又は融雪剤の使用が年々増加している。
実際、東北地方での凍結抑制剤の使用は19,000トン(平成13年)に達している。その後、年毎に2000トンから3000トンづつ増加傾向にある。
【0006】
しかし、現在市販されている凍結抑制剤又は融雪剤は、大部分が塩化物である塩化ナトリウムや塩化カルシウム等を主成分としているため、塩化物による構造物(コンクリート、金属、自動車、機器部材等)の腐食が問題となっている。
また、田畑や河川等の周辺環境への塩害が重大な問題となっている。特に、植物への影響として、土壌・水環境の塩害化の被害が大きい。
たとえば、白神NGOの自然保護団体が八森町の県立自然公園内で塩化力ルシウムの袋を発見し、周辺の土を県分析化学センターに調査を依頼したところ高濃度の塩素が確認されたことが記されている(秋田魁新報2003年2月)。このため、県に対し「塩化力ルシウムは植生に大きな影響を与える」として、事実確認の調査と業者への指導や条例による融雪剤の禁止を求めていた。
塩素は植生に対して必須元素であるが、融雪剤としての使用上、高濃度となり浸透圧を上げるため、植物の水分吸収の妨げや塩化物イオンの過剰障害が起こる。
【0007】
また、塩化を抑えるために、酢酸カルシウムとマグネシウムを配合した融雪剤が開発されている(以下、従来技術1とする。)。この融雪剤は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、アセテート(Ac)の配合物であり、金属への腐食作用があまりなく、環境に対して低負荷である。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5219483号明細書
【非特許文献1】畠山 剛著、「炭焼きの二〇世紀 書置きとしての歴史から未来へ」、、2003年3月、彩流社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これまで木ガスの製造には、通常の木炭になる木材が使用されており、松枯れ病で枯損した松を木ガス化する適当な方法が必要とされていた。
また、松枯れ病で枯損した松から、蟻酸等の化学合成に適した木ガスを製造する方法が必要とされていた。
また、この松枯れ病で枯損した松から、木酢を抽出する効果的な方法も開発されていなかった。
また、従来技術1は、塩化物を含む融雪剤よりも非常に高価であり、ほとんど使われていなかった。そこで、現状では、従来のように塩化ナトリウムを配合した融雪剤が使われていた。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、枯損した木本類を粉砕し、熱風乾燥し、上記枯れた木本類を空気が供給されない状態で加熱して乾留すると共に、前記加熱の温度が第1の加熱温度に達するまでに前記木本類から発生する第1の乾留ガスと、前記第1の加熱温度から第2の加熱温度になるまで加熱して該第2の加熱温度を維持する間に発生する第2の乾留(木)ガスとを回収することを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記熱風乾燥は、40℃〜180℃で24〜96時間行うことを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第1の加熱温度は180℃〜200℃までとし、前記乾留した第1の乾留ガスを室温で冷却して木酢を含む液体を得ることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第2の加熱温度は400℃〜600℃であることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第2の加熱温度は800℃〜1000℃であることを特徴とする。
本発明の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法は、前記第2の乾留(木)ガスを、水酸化ナトリウム溶液と接触させることで、二酸化炭素を除去し、一酸化炭素の減少を抑えることを特徴とする。
本発明の不完全燃焼ガスは、前記木本類の不完全燃焼ガスの製造方法により製造されることを特徴とする。
本発明の木酢は、前記第1の乾留ガスから製造されることを特徴とする。
本発明の融雪剤は、前記木酢と、苦土石灰とを含むことを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、木本類の不完全燃焼ガスから製造した蟻酸金属塩混合物の製造方法であって、本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記第1又は前記第2の乾留ガスを回収するガス回収工程と、回収したガスから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去工程と、アルカリ金属水酸化物と反応させて製造する蟻酸金属塩混合物製造工程とを有することを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記二酸化炭素除去工程は、前記ガスを水酸化ナトリウム又はアルカリ金属塩を含有する溶液と反応させることにより除去することを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物の製造方法は、前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウムであることを特徴とする。
本発明の蟻酸金属塩混合物は、前記蟻酸金属塩混合物の製造方法により製造されたことを特徴とする。
本発明の融雪剤は、前記蟻酸金属塩混合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、松枯れ病で枯れた松について、最適な木ガスの製造法を提供することができる。
また、本発明によれば、松枯れ病で枯損した松から、化学合成に適した木ガスを提供することができる。
また、本発明によれば、松枯れ病で枯損した松から、さらに木酢を抽出することができる。
また、本発明によれば、枯損した松を使用することにより、環境負荷の低い融雪剤である、蟻酸カリウムの混合物を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<第1の実施の形態>
本発明者らは、産業廃棄物として放置されていた松枯れ被害木の有効活用について鋭意検討と実験を日々繰り返し行った結果、木ガスと木酢を同時に回収することができる条件を僥倖的に得ることができた。さらに木酢にカルシウムを投入することで、非常に効率の高い融雪剤を製造することが可能であることを見いだした。
また、この反応の木ガスは、燃料として使用することもできるが、蟻酸等の化学合成の材料として最適な特性がある。
さらに、木ガスを取得した後の松枯れ木は、粉砕しやすい炭となるため、活性炭等の製造に使用可能である。
このため、松枯れ被害木をほとんど無駄にすることなく、高効率で有用な生産物の製造を行うことが可能となった。
【0014】
この松枯れ被害木としては、日本の一般的な松であるクロマツ(Pinus thunbergii)かアカマツ(Pinus densiflora)が望ましい。
アカマツは本州、四国、九州の山地を申心に見られ、クロマツは海岸地域を中心に生育している。これらのマツは、防風、防潮、飛砂防止、山地崩壊防備、水源確保などの観点から、国土保全上重要な機能を持つ。
しかしながら、マツは病虫害に弱く、特に松くい虫(マツに寄生する穿孔虫類の総称)による被害を明治時代から受けてきた。
この松くい虫の被害木は産業廃棄物であり、大量に非常に安価に調達できるという特徴がある。
【0015】
木ガスの製造法としては、まずは松枯れ被害木を粉砕し乾燥させたものを、第1の加熱温度である180℃〜200℃以下で、木材に含まれる水分と木酢成分を抽出する。
この後、第2の加熱温度である400℃又は800℃で不完全燃焼することで一酸化炭素を含む不完全燃焼ガスを得ることができる。
400℃では製造設備に負担をかけずに木材をガス化することができ、加熱後に炭を使用することも可能である。
一方、800℃では耐熱設備を必要とするものの、多量の木ガスを製造することができる。
これら、松枯れ被害木から発生する不完全燃焼ガスを、燃料又は化学合成に適した状態で精製することができる。
以下の実施例において、この木酢、木ガスの製造法について図面を参照して詳しく説明する。
【0016】
〔木ガス製造方法の実施例〕
(試料)
秋田県立大学秋田キャンパス構内のマツ林で得られた松枯れ被害木の木質部(以下マツ木質部とする)をチェーンソーによって木屑にし、回収した。
樹皮や枝の混入した状態のまま試料にすると結果にばらつきが生じると想定されたため、木材の大部分占める木質部のみを用いた。
マツ木質部の木屑は、ドライオーブン(ISUZU社製、SNS−220S)により24時間40℃で風乾した後、ミキサー(三洋電機社製、SM−KM37(W))によって粉砕した。
これは予備実験において、この24時間38℃〜42℃が木ガスと木酢の抽出に最適な乾燥度になることが分かっているためである。
また、木本類との比較のために草本類である稲藁も同様にドライオーブンにより24時間、40℃で風乾した後、ミキサーによって粉砕した。以上のように処理したマツ木質部と稲藁を試料とした。
なお、高速に乾燥させるために、嫌気的な雰囲気で、42℃〜180℃で24〜96時間乾燥させることも可能である。
【0017】
(実験装置)
以下で図1を参照して、本発明の実施の形態に係る実施例の木酢と木ガスのガス回収装置の説明を行う。該装置は、主に実験のための少量生産に用いる装置であるが、これをスケールアップすることで大量生産を行うことができる。
このガス回収装置Xにおいては、ガス化室20に試料を適量、詰める。この上で、空気が供給されない状態で、ガス化室20を電気炉10に設置し加熱する。ガス化室20を加熱することで、試料より発生したガスをチューブ30を通して、接続されたガス回収袋40に回収する。
電気炉10としては、セラミック電気管状炉(アサヒ理科製作所製)を用いた。この電気炉では、炉内の温度について50℃〜1000℃まで数℃間隔で自由に設定可能である。
ガス化室20としては、試験管(IWAKI製、87mL、耐熱500℃)またはセラミック管(SSA−Sチューブ、 内径24mm・外径30mm、長さ600mm、耐熱1700℃)を用いた。試験管は電気炉10の設定温度を400℃にした際のガス化、セラミック管は設定温度を800℃にした際のガス化に用いた。
チューブ30としては、1mの一般的な耐熱シリコンチューブを用いた。このチューブ30においては、固体又は液体成分のガス回収袋への侵入を防ぐため、中間部をクランプによりガス化室20の上方に固定した上で、ガス化室20より低い位置にあるガス回収袋40に接続している。
ガス回収袋40は、一般的な実験に用いられるガス回収用の袋である、容量1Lのテドラーバッグを用いた。
【0018】
また、試料より回収した不完全燃焼ガス中に含まれる二酸化炭素は、木ガスを燃料として用いる際には燃えない。また、例えば蟻酸の化学合成を行う際には、水酸化カリウムを消費する。このため、あらかじめ除去することも可能である。
この二酸化炭素の除去のために、本発明の実施の形態に係る実施例においては、水酸化カリウムより安価な、水酸化ナトリウムの溶液を用いた。
水酸化ナトリウム溶液を使用するに当たっては、まず、図1の方法で回収した不完全燃焼ガスの二酸化炭素発生量から二酸化炭素発生モル数(mmol/g)を求めた。
以下に示す二酸化炭素と水酸化ナトリウムの化学反応式によると、
2NaOH + CO2 → Na2CO3 + H2O
二酸化炭素除去に必要となる水酸化ナトリウムのモル数は2倍なので、二酸化炭素発生モル数の2倍以上溶解かした水酸化ナトリウム溶液500mlを三角フラスコに加えた。このガス回収装置Yの構成を図2に示す。
【0019】
図2において、ガス回収装置Yは、電気炉11は図1に示す電気炉10と、ガス化室21は図1に示すガス化室20と、チューブ31・32は図1に示すチューブ30と、ガス回収袋41は図1に示すガス回収袋40と、それぞれ同様である。
これにさらに加えて、上述の組成の水酸化ナトリウム溶液51がガス化室21とガス回収袋41の中間に置かれており、チューブ31の一端をこの溶液に浸している。
水酸化ナトリウム溶液51の液面の上にはチューブ32の一端がある。チューブ32の他の一端は、ガス回収袋41に接続されている。
この水酸化ナトリウム溶液51に、試料から出た不完全燃焼ガスをマグネティック・スターラー等により撹幹しながら通気することで、二酸化炭素が除去された不完全燃焼ガスを回収することができる。
【0020】
以下、図1に記載の装置で回収した二酸化炭素を除去していない不完全燃焼ガスをAガス、図2に記載の装置で回収した二酸化炭素を除去した不完全燃焼ガスをBガスとする。
【0021】
(木酢の回収)
一般的に、へミセルロースは180℃から分解することが知られている。
このため、180℃以下で発生するガスは、ほとんどが木酢であると想定し、第1の加熱温度である180℃から200℃に達するまでの間に発生する水蒸気と酸を主成分とする第1の乾留ガス(木ガス)を抽出し、室温で再び液化させて粗木酢液とした。この粗木酢液を1ヶ月程度室温に置き、タール分やベンゼン等の含まれる油性で難溶性の沈殿物を除いた上澄み液を取得したものが木酢となる。
なお、200℃を超えて、ヘミセルロースを完全に炭化するまでの温度で分解することも可能である。
【0022】
(不完全燃焼ガスの回収)
粗木酢液となる第1の乾留ガスを抽出した後(ガス化室が200℃に達した直後)、ガス回収袋40又は41を付け替えて、第2の加熱温度である目標のガス化温度(400℃、800℃)に達して、ガス化が終了するまで第2の乾留ガス(木ガス)の回収を続けた。
以下の表1に示すように、松枯れ被害木と稲藁について、400℃と800℃について、それぞれ第2の乾留ガスとなるAガスとBガスを回収した。
ここで、400℃で回収したAガスを実施例1、Bガスを実施例2とする。また、800℃で回収したAガスを実施例3、Bガスを実施例4とする。また、稲藁について400℃で回収したAガスを比較例1、Bガスを比較例2とする。
【0023】
【表1】
【0024】
(不完全燃焼ガスのガス化量、ガス組成、一酸化炭素・二酸化炭素発生量の測定)
(1) ガス化量
不完全燃焼ガスを回収した袋からディスポシリンジ(50mL)によってガスを抜くことで、試料の全体のガス化量(mL/g)を求めた。なお、ガス化量とは、試料の単位重量あたりに発生するガス体積を示す。BガスもAガスと同様にガス化量を求めることで二酸化炭素除去処理による影響を見た。
400℃でのAガス化量は一連の装置で、Bガス化量は三連の装置で回収した。
表1に示すように、400℃によるAガス化量は、マツ木質部が73mL/g(実施例1)、稲藁が93mL/gであった(比較例1)。Bガス化量は、マツ木賀部が平均で42.7mL/g(±1.15)(実施例2)、稲藁が平均で51.7mL/g(±1.15)であった。
【0025】
セラミック管の耐入性から800℃によるガス化は本実験装置においては数回の試行しか行えず、マツ木質部によるAガス化量のみ実測値であり、ガス化量 は400mL/gであった。800℃によるマツ木質部のBガス化量は以下の式によって求めた。
800℃によるマツ木質部のBガス化量
= 800℃でマツ木質部Aガス × (400℃マツ木質部Bガス / 400℃マツ木質部Aガス)
= 233.8mL/g(±6.33)
【0026】
次に、マツ木質部と稲藁の炭素含有率(重量%)をC/Nコーダーを用いて求めた。この結果を以下の表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2によると、マツ木質部の方が炭素含有率が大きいため、その分、酸素、水素の含有率が稲藁より小さかった。
このためマツ木質部の炭素はガス化時の反応物である酸素、水素が稲藁より少なく、その分ガス化されなかったと推測された。また800℃によるガス化量では400℃の5倍以上となった。
【0029】
【表3】
【0030】
表3は、木材と稲藁の各含有成分の重量%と、各成分の分解温度を示す。
表3によると、400℃のガス化温度は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンといった高分子を分解し多様な炭化水素を生成させるには可能な温度であったが、更に分解し一酸化炭素、二酸化炭素、水素、メタンまでに至る温度ではなかったことから、ガス化温度差によってガス化量にも差が付いたと考えられた。
なお、400℃〜600℃で分解した場合に、この400℃と同様な分解傾向を示す。
【0031】
(2) ガス組成
熱伝導度検出器型ガスクロマトグラフ(GC−TCD)(GC−8A:島津製作所製)により一酸化炭素、二酸化炭素、水素、メタン、酸素、窒素を同定し、ガス組成を求めた。また、試料重量あたりの一酸化炭素、二酸化炭素の発生量(mL/g)を求めた。分析は以下の条件で行った。
カラム: 島津製作所社製、SHINCARBON ST 50/80 6.0m×半径8.0mm ステンレス製
キャリアーガス: He 50mL/min
カラム温度: 400℃(Hold time)〜200℃、l0℃/min
検出器温度: 200℃
試料注入量: 0.5mL
感度: 100mA ATT4
BガスもAガスと同様にGC−TCDにより一酸化炭素、二酸化炭素発生量(mL/g)を求めることで二酸化炭素除去処理による影響を見た。
このGC−TCDによる分析はAガス、Bガスともに三連(3回の実験)で行った。
この結果を、図3乃至5に示す。
【0032】
図3は実施例1であるマツ木質部を400℃で加熱した際のAガス、図4は比較例1である稲藁を400℃で加熱した際のAガスをGC−TCD解析した結果のクロマトグラムの表である。
これに対して、図5は化学合成や燃料に適した従来技術の標準的な木ガスの組成と同等な混合ガスを計測して、GC−TCD解析のピークのマーカーとしたものである。
図3と図4のAガスを比較すると、マツ木質部と稲藁のAガスのクロマトグラムから、従来の木ガスと水素、酸素、窒素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素のピークが確認された。
これにより、松枯れ被害木から、燃料や化学合成に適した従来の木ガスと同等なガス組成の不完全燃焼ガスを得ることができた。
すなわち、本発明の実施の形態に係る本木類の木ガスの製造方法によれば、草本類である比較例1である稲藁と同等な組成のガスを、枯れマツの木質部から得ることが可能となった。
【0033】
(3) 二酸化炭素除去処理前後の二酸化炭素発生量の変化
GC−TCDによるA・Bガスの二酸化炭素発生量(mL/g)の変化を図6に示した。
Aガスのマツ木質部の二酸化炭素発生量は平均で12.95mL/g(±0.326)、稲藁が15.45mL/g(±0.268)であった。この二酸化炭素発生量から二酸化炭素除去に必要な水酸化ナトリウムモル数(mmol/g)が松木質部に対して1.02mmol/g、稲藁に対して1.23mmol/gであると求められた。
実験では両試料の二酸化炭素除去に水酸化ナトリウム2mmol/gを用いて確実な二酸化炭素除去を行った。
そしてBガスの二酸化炭素発生量はマツ木質部が平均で0.12ml/g(±0.211)、稲藁が0.24ml/g(±0.027)であった。マツ木質部では99.1%、稲藁では98.4%という高い二酸化炭素除去率が確認できた。
【0034】
(4) 二酸化炭素除去処理前後の一酸化炭素発生量の変化
GC−TCDによるA・Bガスの一酸化炭素発生量(ml/g)の変化を図7に示した。Aガスのマツ木質部の一酸化炭素発生量は平均で7,30m1/g(±0.031)、稲藁が7・03m1/g(±0・068)であった。Bガスのマツ木質部の一酸化炭素発生量は平均で3・90n1/g(±0,961)稲藁が6・63m1/g(±0.6605245)であった。Aガスでは両試料の一酸化炭素発生量に差は見られながったが、Bガスの時には両試料とも一酸化炭素発生量が有意に減少し、試料間で差が生じた。
【0035】
また、当初二酸化炭素除去には水酸化ナトリウムを用いなければできないと考えられていたが、試料を180〜200℃に熱した後に400℃の乾留で発生する木ガスは二酸化炭素の濃度が比較的少ないため、水のみを用いて二酸化炭素除去を行う実験も行った。この結果を以下の表4の実施例5として示す。
この際、上述の水酸化ナトリウムを使用した時と違い、二酸化炭素除去溶液の撹絆強度を大きくした。
すると、実験の結果として、二酸化炭素、一酸化炭素共に、ほとんどが除去された。
【0036】
【表4】
【0037】
上述の水酸化ナトリウムを使用した実験では、二酸化炭素除去溶液の撹絆強度が小さい状態で二酸化炭素をほとんど除去し、一酸化炭素を回収できた。すなわち、水酸化ナトリウムは二酸化炭素と優先的に反応していると見られる。
よって、二酸化炭素除去に水酸化ナトリウム溶液を用いて撹絆強度を小さい状態で行うか、 撹絆を行わないことで、化学合成や燃料として有用な一酸化炭素発生量の減少を抑えることができる。
また、当初考えていた上述の水酸化ナトリウム溶液51内での二酸化炭素と水酸化ナトリウムの化学反応式は、水酸化ナトリウムが固体の時に起こる反応であり、実際に溶液中で起こった化学反応式は
NaOH + CO2 → NaHCO3
であった。
【0038】
以上のように、本願発明の実施の形態に係る実施例1〜5において、木本類である松枯れ被害木のマツ木質部による不完全燃焼ガスから、木ガスを生成することができる。
この木ガスは攪拌をあまりしない状態で水酸化ナトリウム溶液と反応させることで、一酸化炭素の減少を抑えつつ二酸化炭素の除去することが可能である。
これにより、化学合成や燃料にさらに適したガスとすることができる。また、草本類である稲藁からも木ガスと同様な不完全燃焼ガスを得られることができる。
【0039】
また、高純度の炭素であるコークスに水蒸気を加えることで一酸化炭素のみが生成されることから、
C(コークス) + H2O(水蒸気)= CO + H2
バイオマスを用いる場合、無酸素状態で加熱した後の残澄(炭)に水蒸気を加えることで、さらにガス化の効率を向上させることができる。このために、ガス化装置に加熱した水蒸気を圧力容器に導いて添加する装置を作成することが考えられる。
また、不完全燃焼ガス中の一酸化炭素が減少したものの、二酸化炭素をほとんど除去することができた。
【0040】
また、このように上述の水酸化ナトリウム溶液と反応させたガスは特に蟻酸カリウム合成に適した状態の不完全燃焼ガスであり、産業廃棄物であるマツ枯れ被害木から製造した不完全燃焼ガスを、蟻酸カリウム合成に供することが可能となった。
【0041】
また、本発明で木ガスを取得する前の水蒸気を含む気体より得られる木酢は、厳密な温度管理をした上で粗木酢液を製造するため、従来の木酢液に比べて有機物の分解を抑えることができ、不純物が少なく、さらに酸度が高いという特徴がある。
このような本発明の実施の形態に係る木酢は、上述のような特徴から、融雪剤に適しているという効果を奏する。
【0042】
上述の木酢から融雪剤を製造する方法としては、木酢に苦土石灰を使用することが可能である。また、貝殻等のカルシウムを使用することもできる。これにより、木酢の有機酸との間で塩ができ、これが凝固点降下の作用があるため、融雪剤として機能する。また、また、この方法により作成された融雪剤は、従来の塩化ナトリウム等の融雪剤に比べて金属腐食作用が非常に少ない。
また、木酢には酸の他に有機物が大量に含まれており、これも凝固点降下を押し進める作用がある。
さらに、木酢は大量に散布しても植物の養分となり、すぐに分解されるため、環境を汚染する心配がない。
【0043】
本発明の実施の形態に係る木酢としては、産業廃棄物である松枯れ被害木を使用するため、コストを非常に低減することができる。さらに、木ガスを作成する副産物として木酢を取得するため、トータルのコストをさらに下げることができる。
また、本発明の実施の形態に係る木酢は、上述のように温度管理により有機物を多く含むため、製品としての価値が高い。
これについては、木酢には植物育成促進作用や雑菌の繁殖を抑える作用があるが、この効果が従来の木酢よりも高い。
さらに、マツ枯れ被害木を原料としているため、粗い木酢液を採取する際の温度が従来の木酢よりも低いため、マツの良い香りが残るという特徴を有する。さらに、マツ枯れ被害木は多孔質で脆くなっているため、木材から木酢を取得する際の効率が上がるという効果がある。
【0044】
このように、エネルギー効率が高く、化学合成としても有益なガスを製造する方法により、木材をエネルギー源とすることで自然界を守りながら、人類に必要なエネルギーについて、半永久的に確保することができる。
さらに、産業廃棄物である松枯れ被害木について、品質の良い木酢と、化学合成や燃料に適した木酢を得ることができ、有用な資源とすることができる。
【0045】
<第2の実施の形態>
本発明者らは、産業廃棄物として放置されていた松枯れ被害木の有効活用について鋭意検討と実験を日々繰り返し行った結果、上述のように、木材を乾留して出る不完全燃焼ガスである木ガスを蟻酸の化学合成の原料に最適な状態で抽出する方法を見いだした。
さらに、この蟻酸から蟻酸カリウムを製造すると、融雪剤として効果的に用いることができることを見いだした。
【0046】
この松枯れ被害木としては、上述の第1の実施の形態と同様に日本の一般的な松であるクロマツ(Pinus thunbergii)かアカマツ(Pinus densiflora)を用いるのが望ましい。さらに、松くい虫の被害木を用いることもできる。
【0047】
なお、不完全燃焼ガスの原料とする木質として、稲藁を用いることもできる。この際は400℃で松枯れ被害木と同様の加熱をしたガスを使用する。稲藁を使用すると、ガスの発生量が多く、松枯れ被害木よりも大量の蟻酸カリウムを製造することが可能になる。稲藁も産業廃棄物なのでコストを低く抑えることも可能になる。
また、本発明の実施の形態に係る蟻酸カリウムは、他の融雪剤と同時に用いることができる。例えば、松枯れ被害木から製造した木酢を基にした融雪剤と同時に用いることで、建造物等への腐食が少なく、植物の生育を助け、雑菌の繁殖を抑え、水質汚染を引き起こさず、融雪効果が高い融雪剤として用いることが可能である。
以下の実施例において、木ガスからの蟻酸カリウムの製造方法について図面を参照して詳しく説明する。
【0048】
〔融雪剤製造の実施例〕
以下の実施例で、部とは重量部を示し、%は重量%であることを示すが、各化合物の組成については、適宜本発明の趣旨を逸脱しない限り変更することができる。
(試料)
本発明の第2の実施の形態に係る融雪剤製造においては、図1に記載のガス回収装置Xで回収した二酸化炭素を除去しない不完全燃焼ガスをAガスと、図2に記載のガス回収装置Yで回収した二酸化炭素を除去した不完全燃焼ガスであるBガスとを使用する。
【0049】
<実施例11>
(高温高圧処理)
図8を参照して説明すると、図8の右下のステンレス製の耐圧管101(オーエムラボテック社製 容積200mL)に0.25%水酸化力リウム溶液20mL(以後KOH溶液とした)を加えた後、蓋をして耐圧管内を吸引減圧し、Bガス200mlを注入した。実施例11では、このBガスとしては、目標のガス化温度を400℃としたマツ木質部から製造したBガスを用いた。
次に、この耐圧管101を高温高圧機102(オーエムラボテック社製、ミリリアクターMS200C)に設置し200℃で、圧力1.5Mpaで30分間処理(以後高温高圧処理とした)した。この処理後の溶液を実施例11とする。
耐圧管101が200℃に達したときKOH溶液からの蒸気によって圧力が1.5Mpaとなった。この処理を以下で、高温高圧処理と言う。
【0050】
<実施例12>
実施例12としては、目標のガス化温度を400℃とした稲藁のBガスを用いて、上述の実施例11と同様にKOH溶液と高温高圧処理を行った。この高温高圧処理後の溶液を実施例12とする。
以上の方法により得られた実施例11と実施例12のKOH溶液について、蟻酸カリウムが製造できることを確認するため、以下の実験を行った。
【0051】
(高温高圧処理前後の溶液pH測定)
pHメーター(東亜電波工業社製、HM−7J/20J)を用いて高温高圧処理前のKOH溶液のpHと高温高圧処理後のKOH溶液(以後、高温高圧処理液と言う。)のpHを測定した。このpHの変化を測定することで、実施例11又は12のBガスとKOH溶液との反応を確認できる。すなわち、Bガスと水酸化カリウムの酸アルカリ反応が起こると、pHに変化が生じるため、反応確認の指標とした。
つまり、高温高圧処理後はpH測定による反応の確認を行い、このpH変化があった場合のみ、以下のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による蟻酸濃度の測定を行った。
【0052】
まず、実施例11(マツ木質部)と実施例12(稲藁)のBガスとKOH溶液との高温高圧処理による、pHの変化を図9に示した。
マツ木質部のBガスによる処理前のpHはl2.58(±0.0094)、処理後は12.01(±0.181)、稲藁のBガスによる処理前のpHは12.64(±0.0216)、処理後は11.45(±0.422)とそれぞれpHの低下が見られ、反応が確認された。
【0053】
(HPLCによる蟻酸合成の確認)
次に、pHの変化によって反応が確認された高温高圧処理液中の蟻酸イオシをHPLC(高速液体クロマトグラフィー、島津製作所製、LC−6A)により測定することで、蟻酸カリウム合成の確認を行った。
HPLC分析は以下の条件で行った。なお、分析試料のpHが7.5以上の場合、分析の前処理として塩酸を加えpH2〜7.5に調整した。
カラム: Mightysil RP−18
GP Aqua 250−4.6,5μm (関東化学社製)
ガードカラム: Mightysil 4.6/6mmカラム用 (関東化学社製)
溶離液: 20mmol/L リン酸2水素アンモニウム水溶液(pH2.48:pHはリン酸で調整)
流速: 1.0mL/min
検出: UV2l0nm
カラム温度: 25℃
注入量: l0μL
【0054】
実施例12(稲藁)のBガスによる高温高圧処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムを図10に示す。実施例12のBガスによる処理液はpH7・5以上なので、塩酸300μLを加えpH2・0〜7・5に調整した後、HPLC分析に供試した。これによると、蟻酸イオンのピークaが現れ、蟻酸カリウム合成が確認できた。
また、同様に実施例11(マツ木質部)についても塩酸を加えてpH2・0〜7・5に調整し、HPLC分析に供試したところ(図示せず)、同様に蟻酸イオンのピークであるピークaが現れ、蟻酸カリウム合成が確認できた。
この結果から水酸化ナトリウムから水酸化カリウムに代えても高温高圧処理の蟻酸塩合成が可能であることが証明できた。
【0055】
(HPLCによる蟻酸濃度測定)
次に、合成できた蟻酸の濃度の測定を行った。
まず、純水に蟻酸、乳酸、酢酸を混合した標準液25ppm、50ppm、l00ppmを作成し、HPLCによる標準液のピークを測定し、検量線(二次曲線)を作成した。
この検量線(二次曲線)を用い、実施例11又は12で作成した高温高圧処理液の蟻酸濃度を求めた。具体的には、HPLCの蟻酸ピークを検量線に代入することにより、蟻酸濃度を求めた。
さらに、このHPLCによって測定された蟻酸濃度を用いて、蟻酸力リウム合成量(g/kg)を算出した。
【0056】
次に、HPLCによる処理液中の蟻酸濃度より計算した、目標のガス化温度が400℃のBガスの蟻酸カリウム合成量(実施例11)と、目標のガス化温度が800℃によるBガスの蟻酸カリウム合成推定量(g/kg)を比較する。
マツ木質部の400℃によるBガスからの蟻酸カリウム合成量は平均で7.18g/kg(±0.0778)、稲藁が9.59g/kg(±1・625)であった。マツ木質部の800℃によるBガスからの蟻酸カリウム合成推定量は以下の式によって求めた。
800℃によるBガスからの蟻酸カリウム合成推定量
= (800℃マツ木質部Bガス / 400℃マツ木質部Bガス) ×
400℃マツ木質部Bガスによる合成量
= 39.349/kg(±0.426)
【0057】
また、従来技術である酉島製作所のガス化装置のガス化量(酉島製作所製、http://www.torishima.co.jp/sei_new_bio_mass.html)と本発明の実施の形態に係る蟻酸カリウムの合成結果から、蟻酸カリウム合成量を試算した。
これによると、従来技術のガス化装置を用いると、少なくとも610g/kgの蟻酸カリウム合成が可能であると推測できる。
【0058】
(蟻酸カリウム合成時において、不完全燃焼ガス中に共存する気体の選抜)
次に、実施例11又は実施例12で得られた不完全燃焼ガスに含まれる一酸化炭素以外の気体が水酸化カリウムと反応しても、蟻酸カリウムが合成されるか否かを確認した。このため、実施例11又は実施例12で得られた不完全燃焼ガスに、水素、酸素、窒素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素を標準ガスとして一種類ずつ添加して高圧高温処理し、pHに変化が生じた高温高圧処理液のみHPLCで蟻酸を測定した。
この操作によってpHに変化が生じて、蟻酸が確認されなかった気体は、上述のガス化処理において除去する対象とした。
【0059】
標準ガスとKOH溶液の高温高圧処理前後のpH変化を図11に示す。
水素、酸素、窒素、メタンの処理液にpHの変化は生じなかった。一酸化炭素は処理前がpHl2.45、処理後がpH5.60、二酸化炭素は処理前がpHl2.47、処理後がpH6.71というようにpHに顕著な変化が確認された。
【0060】
pHに変化が生じた一酸化炭素と二酸化炭素の処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムを、それぞれ図12と図13に示す。なお、図14は上述の標準ガスのクロマトグラムである。
図12の一酸化炭素の処理液からは蟻酸イオンピークが確認され、同時に蟻酸カリウム合成を確認した。
一方、図13の二酸化炭素の処理液からは蟻酸イオンピークが現れなかった。これにより、二酸化炭素を上述のガス化処理において除去する対象とした。
【0061】
二酸化炭素と水酸化カリウムの結合によって、蟻酸カリウムでなく、炭酸水素カリウムが生成された可能性が高い。
KOH + CO2 −> KHCO3
高温高圧下で反応可能な一酸化炭素に比べ、二酸化炭素は常温常圧下で容易に水酸化カリウムと反応する。このため、二酸化炭素を含んだ不完全燃焼ガスを用いて高温高圧下で反応を行うと、蟻酸カリウムの生成に先立って炭酸水素力リウムが生成してしまい、水酸化ナトリウムと比較して高価な水酸化カリウムを浪費してしまう。
さらに、今回の不完全燃焼ガスに含まれていた二酸化炭素は、一酸化炭素の倍近く存在していた。
このため、ガス化処理の段階でより安価な水酸化ナトリウムによって二酸化炭素の除去処理を行うことは蟻酸カリウム合成において必要不可欠な操作である。また、二酸化炭素と反応してできた炭酸水素ナトリウムも、工業的に使用することが可能である。
以上の操作により、松枯れ被害木又は稲藁の不完全燃焼ガスから、蟻酸カリウムを高収率で合成することが可能になるという効果が得られる。
【0062】
上述の製造法により蟻酸カリウムを含む水溶液が得られるが、融雪剤として用いるためには、これらの蟻酸カリウムを含む水溶液より水分を除去した粉末状の固体とすることが望ましい。
この固体化の方法としては、単純に水分を煮詰めて蒸発させることも可能であるが、低温で減圧により水分を除去するフリーズドライ法を使用すると、蟻酸に加えて他の有機酸等の分解を抑えられるために好適である。また、イオン交換膜を使用して濃縮した後にフリーズドライを行うことも可能である。
【0063】
本発明の実施の形態に係る実施例11において、蟻酸カリウム合成は既存のガス化装置の合成量に対して少量であったが、松枯れ被害木を原料として蟻酸カリウム合成が可能になった。また、本発明の実施の形態に係る実施例12において、稲藁の不完全燃焼ガスによっても蟻酸カリウムの合成が可能になった。
さらに、この蟻酸カリウムは融雪剤として用いることができるため、バイオマス資源による安価な融雪剤生産が可能となった。
また蟻酸カリウム合成量はガス化装置によって強く影響されることが分かったため、大量にガスを供給できる装置により、製造効率を引き上げることが可能となる。
さらに、蟻酸カリウム合成量が主に影響される要因としてガス化効率が挙げられたため、実用化にはより効率の良いガス化を用いれば飛躍的に蟻酸カリウム合成量を向上させることが可能である。
【0064】
本発明の実施の形態に係るバイオマスの不完全燃焼ガス化と、この不完全燃焼ガスを用いた高温高圧処理による蟻酸カリウムの合成方法により、蟻酸カリウムの合成が可能となった。
その結果、松枯れ被害木や稲藁を使用して、環境に低負荷である融雪剤である蟻酸カリウムの産業的合成が可能となった。
【0065】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る木酢とAガスのガス回収装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る木酢とBガスのガス回収装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るGC−TCDにおける従来の木ガスのクロマトグラムである。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るGC−TCDにおける従来の木ガスのクロマトグラムである。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るGC−TCDにおける実施例1の木ガスのクロマトグラムである。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る二酸化炭素の発生量を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る一酸化炭素の発生量を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る高温高圧処理の耐圧管と高温高圧機の外観図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るBガスとKOH溶液との高温高圧処理による、pHの変化を示すグラフである。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る実施例12(稲藁)のHPLCによって分析したクロマトグラムである。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る標準ガスとKOH溶液の高温高圧処理前後のpH変化を示すグラフである。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る一酸化炭素の処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムである。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る二酸化炭素の処理液をHPLCによって分析したクロマトグラムである。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る標準ガスのクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0067】
10、11 … 電気炉
20、21 … ガス化室
30、31、32 … チューブ
40、41 … ガス回収袋
51 … 水酸化ナトリウム溶液
101 … 耐圧管
102 … 高温高圧機
a … 蟻酸イオンのピーク
X、Y … ガス回収装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枯損した木本類を粉砕し、
熱風乾燥し、
上記枯れた木本類を空気が供給されない状態で加熱して乾留すると共に、
前記加熱の温度が第1の加熱温度に達するまでに前記木本類から発生する第1の乾留ガスと、
前記第1の加熱温度から第2の加熱温度になるまで加熱して該第2の加熱温度を維持する間に発生する第2の乾留ガスとを回収する
ことを特徴とする木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項2】
前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする請求項1に記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項3】
前記熱風乾燥は、40℃〜180℃で24〜96時間行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項4】
前記第1の加熱温度は180℃〜200℃までとし、前記乾留した第1の乾留ガスを室温で冷却して木酢を含む液体を得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項5】
前記第2の加熱温度は400℃〜600℃であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項6】
前記第2の加熱温度は800℃〜1000℃であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項7】
前記第2の乾留(木)ガスを、水酸化ナトリウム溶液と接触させることで、二酸化炭素を除去し、一酸化炭素の減少を抑えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法により製造される不完全燃焼ガス。
【請求項9】
請求項4に記載の第1の乾留ガスから製造される木酢。
【請求項10】
請求項8に記載の木酢と、苦土石灰とを含むことを特徴とする融雪剤。
【請求項11】
木本類の不完全燃焼ガスから製造した蟻酸金属塩混合物の製造方法であって、
前記第1又は前記第2の乾留ガスを回収するガス回収工程と、
回収した前記第1又は前記第2の乾留ガスから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去工程と、
アルカリ金属水酸化物と反応させて製造する蟻酸金属塩混合物製造工程と
を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項12】
前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする請求項11に記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項13】
前記二酸化炭素除去工程は、前記乾留ガスを水酸化ナトリウム又はアルカリ金属塩を含有する溶液と反応させることにより除去することを特徴とする請求項11又は12に記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項14】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウムであることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法により製造された蟻酸金属塩混合物。
【請求項16】
請求項11乃至14のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物を含むことを特徴とする融雪剤。
【請求項1】
枯損した木本類を粉砕し、
熱風乾燥し、
上記枯れた木本類を空気が供給されない状態で加熱して乾留すると共に、
前記加熱の温度が第1の加熱温度に達するまでに前記木本類から発生する第1の乾留ガスと、
前記第1の加熱温度から第2の加熱温度になるまで加熱して該第2の加熱温度を維持する間に発生する第2の乾留ガスとを回収する
ことを特徴とする木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項2】
前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする請求項1に記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項3】
前記熱風乾燥は、40℃〜180℃で24〜96時間行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項4】
前記第1の加熱温度は180℃〜200℃までとし、前記乾留した第1の乾留ガスを室温で冷却して木酢を含む液体を得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項5】
前記第2の加熱温度は400℃〜600℃であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項6】
前記第2の加熱温度は800℃〜1000℃であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項7】
前記第2の乾留(木)ガスを、水酸化ナトリウム溶液と接触させることで、二酸化炭素を除去し、一酸化炭素の減少を抑えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つに記載の木本類の不完全燃焼ガスの製造方法により製造される不完全燃焼ガス。
【請求項9】
請求項4に記載の第1の乾留ガスから製造される木酢。
【請求項10】
請求項8に記載の木酢と、苦土石灰とを含むことを特徴とする融雪剤。
【請求項11】
木本類の不完全燃焼ガスから製造した蟻酸金属塩混合物の製造方法であって、
前記第1又は前記第2の乾留ガスを回収するガス回収工程と、
回収した前記第1又は前記第2の乾留ガスから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去工程と、
アルカリ金属水酸化物と反応させて製造する蟻酸金属塩混合物製造工程と
を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項12】
前記木本類は、松材線虫病で枯損したクロマツ又はアカマツであることを特徴とする請求項11に記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項13】
前記二酸化炭素除去工程は、前記乾留ガスを水酸化ナトリウム又はアルカリ金属塩を含有する溶液と反応させることにより除去することを特徴とする請求項11又は12に記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項14】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウムであることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物の製造方法により製造された蟻酸金属塩混合物。
【請求項16】
請求項11乃至14のいずれか1つに記載の蟻酸金属塩混合物を含むことを特徴とする融雪剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−155913(P2010−155913A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334589(P2008−334589)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(509003324)株式会社 小野建設 (2)
【出願人】(509003302)有限会社 クリーンカンパニー (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(509003324)株式会社 小野建設 (2)
【出願人】(509003302)有限会社 クリーンカンパニー (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]