説明

構造体監視システム

構造体の境界上に敷設された光ファイバセンサ2を用いてこの光ファイバセンサ3が敷設された境界Г上の各点における構造体Sの歪みを計測する計測部3と、この計測部3による測定歪みを境界条件として構造体Sの所定の点における歪みを数値解析手法により算出する数値解析部5と、この数値解析部5による解析歪みに関する情報を構造体Sの位置と関連付けて表示する表示部6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、構造体の温度や歪み等の物理量を光ファイバセンサを用いて計測する構造体監視システムに関するものである。
【背景技術】
近年、光ファイバの特性を活用し温度や歪み等の物理量分布を計測する分布型光ファイバセンサを用いて、トンネル、橋、建物等の構造体の物理量変化を計測監視する構造体監視システムが開発されるに至っている。
例えば、特開平11−287650号公報には、トンネルの内周面上にトンネルの長手方向に沿って蛇行状に敷設された分布型光ファイバセンサからの情報に基づいてトンネルの変形を検知する構造体監視システムが開示されている。
具体的に、この構造体監視システムは、単位ループ区画長毎に所定の回数巻かれたループ状光ファイバセンサがトンネルの周方向に沿って往復させつつトンネルの軸方向に向かって敷設されると共に、このループ状光ファイバセンサの一端部に歪分布計測器が接続され、この歪分布計測器がループ状光ファイバセンサにパルス光を入射すると共にこのパルス光に基づくループ状光ファイバセンサからのブリルアン散乱光を受光して歪みを計測するものとなされている。そして、この構造体監視システムでは、トンネルの形状変化を現場から離れた場所で継続的に行うことができ、しかもループ状光ファイバセンサにより3次元方向の歪みを高精度で検出できる。
しかしながら、前記構造体監視システムでは、光ファイバセンサがトンネルの内壁面上に敷設されているので、トンネルの内壁面(表面)近傍位置での歪みを高精度で検出することができるものの、前記内壁内部、特に光ファイバセンサから離れた位置における歪みの計測は困難であった。
しかも、技術上、或いはコスト等の理由から前記光ファイバセンサをトンネルの内壁面上に緻密に敷設することができず、トンネルの軸方向に所定の間隔でトンネルの周方向に沿って光ファイバセンサが敷設されるので、トンネルの内壁面近傍位置での歪みであっても光ファイバセンサが敷設されていない位置での高精度の歪みの計測は困難であった。
従って、前記従来の構造体監視システムでは、トンネルの内壁内部の位置や内壁面近傍位置であっても光ファイバセンサが敷設されていない位置での歪みを高精度で検知するのは困難で、例えば歪みの増大に伴い内壁内部で亀裂が生じた場合でも大雑把な監視しか行えず、該亀裂の位置や大きさを特定するために現場に赴き緻密な再検査を行う必要があり手間暇を要するという不都合があった。
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、光ファイバセンサが敷設された位置から離れた位置における歪みや温度などの物理量を推定することができ、構造体におけるあらゆる位置での物理量を高精度で監視することができる構造体監視システムを提供することを目的としている。
【発明の開示】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造体監視システムは、境界または内部の一点における温度、歪み等の物理量が支配方程式により表現される構造体の所定の点における前記物理量を、特定の境界条件を設定して数値解析手法により解析し、この解析結果に基づいて構造体を監視する構造体監視システムであって、前記構造体の境界上に敷設された光ファイバセンサを用いてこの光ファイバセンサが敷設された境界上の各点における前記構造体の物理量を計測する計測手段と、この計測手段による測定物理量を境界条件として構造体の所定の点における物理量を前記数値解析手法により算出する数値解析手段と、この数値解析手段による解析物理量に関する情報を前記構造体の位置と関連付けて表示する表示手段とを備えることを特徴とするものである。
本発明によれば、構造体の境界上に敷設された光ファイバセンサを含む計測手段により当該光ファイバセンサが敷設された位置における温度、歪み等の物理量を高精度で計測することができる。また、前記数値解析手段において、境界または内部の任意点における物理量が支配方程式により表現される構造体の所定の点における物理量を、前記計測手段による測定物理量を境界条件とし前記支配方程式を所定の数値解析手法で解くことにより、前記構造体の所定の点における物理量を算出推定することができる。しかも、この数値解析手段による解析物理量を前記構造体の位置と関連付けて表示する表示手段を備えるので、構造体におけるあらゆる位置での物理量を高精度で監視することができ、しかも一定値以上の物理量の変化が生じた構造体の部分を容易かつ迅速に特定することができる。従って、構造体の補修等の後作業にあたって従来技術のように緻密な再検査を要さず、迅速に対応することができる。
また、本発明に係る別の構造体監視システムは、境界または内部の一点における温度、歪み等の物理量が支配方程式により表現される構造体の所定の点における前記物理量を、特定の境界条件を設定して数値解析手法により解析し、この解析結果に基づいて構造体を監視する構造体監視システムであって、前記構造体の境界上及び内部の少なくともいずれか一方に敷設された光ファイバセンサを用いてこの光ファイバセンサが敷設された部分の各点における前記構造体の物理量を計測する計測手段と、この計測手段による測定物理量を用いて前記光ファイバセンサが敷設されていない前記構造体の境界上の各点における物理量であって境界条件として入力するために変換された物理量を前記支配方程式から導出するとともにこの境界上の導出物理量及び前記測定物理量の少なくとも一方を境界条件として構造体の所定の点における解析物理量を前記数値解析手法により算出する数値解析手段と、この数値解析手段による解析物理量に関する情報を前記構造体の位置と関連付けて表示する表示手段とを備えることを特徴とするものである。
本発明によれば、構造体の境界上及び内部の少なくともいずれか一方に敷設された光ファイバセンサを含む計測手段により、該光ファイバセンサが敷設された位置における温度、歪み等の物理量を高精度で計測することができる。また、数値解析手段において、計測手段により計測された測定物理量を用いて前記光ファイバセンサが敷設されていない前記構造体の境界上の各点における物理量(前記光ファイバセンサが敷設されていない前記構造体の境界上の各点における物理量であって境界条件として入力するために変換された物理量)を前記支配方程式から導出するので、構造体の境界に拘束されることなく、光ファイバセンサを比較的自由に敷設することができ、これにより光ファイバセンサの施工が容易になる。さらに、前記数値解析手段において、境界または内部の任意点における物理量が支配方程式により表現される構造体の所定の点における物理量を、前記計測手段による測定物理量や前記数値解析手段による導出物理量(上記測定物理量と異なる種類の物理量)を境界条件とし前記支配方程式を所定の数値解析手法で解くことにより、前記構造体の所定の点における物理量を算出推定することができる。しかも、この数値解析手段による解析物理量を前記構造体の位置と関連付けて表示する表示手段を備えるので、構造体におけるあらゆる位置での物理量を高精度で監視することができ、しかも一定の物理量変化がある構造体の位置を容易かつ迅速に特定することができる。従って、構造体の補修等の後作業にあたって従来技術のように緻密な再検査を要さず、迅速に対応することができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記数値解析手段による解析物理量が予め定められた既定物理量を超える場合に報知する報知手段を備えることが好ましい。
このように構成すれば、構造体において既定物理量を超える位置があった場合に監視者において瞬時に当該事態を知見することができる。しかも、例えば既定物理量を構造体における正常な範囲の限界値に設定しておけば、監視者において構造体の異常を瞬時に知見することができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記光ファイバセンサは、構造体の表面に敷設されているのが好ましい。
このように構成すれば、光ファイバセンサの敷設、交換を容易に行うことができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記数値解析手段は、前記数値解析手法として境界要素法により解析物理量を算出するように構成することができる。
このように構成すれば、グリーン関数等や基本解を用いることによって境界のみの情報を用いて解析することができ、分割する領域が1次元小さくなるため要素分割に要する手間暇を大幅に削減することができる。しかも、例えば構造体内部に例えば亀裂等の不具合箇所が発生した場合に有限要素法による場合と異なり柔軟に対応することができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記数値解析手段は、前記構造体を一部において重なる2領域に区分けし、一方の領域の点における解析物理量を境界要素法により算出する一方、両領域の重合領域における各点の物理量を境界要素法により算出してこの重合領域上の解析物理量を境界条件として他方の領域の点における解析物理量を有限要素法により算出するように構成することもできる。
このように構成すれば、境界要素法と有限要素法との両数値解析手法の長所を生かしながら構造体の解析物理量を算出することができる。すなわち、例えば本発明の構造体監視システムをトンネルの内壁の欠損に伴う破片の落下の監視に適用する場合に、構造体の境界として採用されることが多い構造体の表面の近傍領域では亀裂の発生を高精度で解析する必要があり、従って亀裂の解析問題に適している境界要素法により解析物理量が算出される。一方、構造体の表面から遠く離れた遠隔領域では例えば亀裂が発生しても直ちに破片の落下に直結しないので、亀裂等の解析対象の変化が無視できる場合について汎用性に富んだ有限要素法により解析物理量が算出される。
前記構造体監視システムにおいて、前記計測手段は、前記物理量としての歪みを少なくとも実質的に同一の点において複数回にわたって計測するように構成されている一方、前記数値解析手段は、前記計測手段による測定歪みが所定の許容範囲を超えて変化した場合に構造体内部に亀裂が発生したと認定し、当該亀裂の位置及び形状を仮定して境界要素法により前記構造体の所定の基準点における仮定歪みを算出すると共に、この仮定歪みが前記基準点における測定歪みまたは測定歪みを境界条件として境界要素法により算出された前記基準点における解析歪みとの差が最小になるように前記亀裂の位置及び形状を同定するように構成するのが好ましい。
このように構成すれば、亀裂の位置及び形状を高精度で推定することができ、構造体の監視をより高精度で行うことができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記計測手段は、前記物理量としての温度を少なくとも実質的に同一の点において複数回にわたって計測するように構成されている一方、前記数値解析手段は、前記計測手段による計測温度が所定の許容範囲を超えて変化した場合に構造体内部に異常温部位が発生したと認定し、当該異常温部位の位置及び形状を仮定して境界要素法により前記構造体の所定の基準点における仮定温度を算出すると共に、この仮定温度が前記基準点における計測温度または計測温度を境界条件として境界要素法により算出された前記基準点における解析温度との差が最小になるように前記異常温部位の位置及び形状を同定するように構成するのが好ましい。
このように構成すれば、異常温部位の位置及び分布状態を高精度で推定することができ、構造体の監視をより高精度で行うことができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記数値解析手段が、この数値解析手段により解析する所定の点から前記境界条件を無視することができる程度に十分に離れた無限大境界を有する前記構造体における所定の点を解析する場合に、当該無限大境界における境界条件をゼロに近似して前記解析物理量を算出するように構成するのが好ましい。
このように構成すれば、数値解析手段における未知境界条件を補完することができ、監視する構造体の適用範囲が広がる。
前記構造体監視システムにおいて、前記計測手段は、前記構造体の任意の位置に敷設された確認用計測手段を含みこの確認用計測手段が敷設された位置の各点における物理量を計測する一方、前記数値解析手段は、この確認用計測手段によって物理量が計測された点における前記解析物理量を算出するように構成され、前記表示手段は、同一の点における測定物理量と解析物理量との比較に関する情報が表示されるように構成されているのが好ましい。
このように構成すれば、数値解析手段による解析結果である解析物理量を確認用計測手段による実測値である計測物理量と比較することにより、数値解析手段による推定の精度を確認することができ、この確認結果に基づき要素分割を設定し直す等精度の改善を図ることができる。
この場合、前記光ファイバセンサが前記確認用計測手段を兼用しているのが好ましい。
このように構成すれば、確認用計測手段を敷設等する手間を省略することができ、しかも当該確認用計測手段の敷設に伴うコストを抑制することができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記表示手段は、前記数値解析手段と別個に設けられ、情報を送受信する通信手段を介して前記数値解析手段に接続されているのが好ましい。
このように構成すれば、前記数値解析手段の設置場所に拘わらず解析物理量を取得することができる。
前記構造体監視システムにおいて、前記光ファイバセンサは、磁力に応じて変形する磁気歪部材により被覆されているのが好ましい。
このように構成すれば、光ファイバセンサが磁力に応じて変形するので、該光ファイバセンサを用いて計測手段で磁場を演算することができ、これにより構造体の磁場を計測することができ、その解析対象である物理量の範囲が広がる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1実施形態に係る構造体監視システムを示す構成図である。
図2は、同構造体監視システムにおける光ファイバセンサの配置態様を示す正面図である。
図3は、同構造体監視システムにおける計測部の処理を示すフローチャートである。
図4は、同構造体システムにおける数値解析部の初期設定を示すフローチャートである。
図5は、同構造体監視システムにおける数値解析部の解析処理を示すフローチャートである。
図6は、円盤体Sの節点と光ファイバセンサによる測定点との関係を示す概略図である。
図7は、第2実施形態に係る構造体監視システムが監視する亀裂を含んだ円盤体を示す正面図である。
図8は、同構造体監視システムにおける数値解析部の同定処理を示すフローチャートである。
図9は、第3実施形態に係る構造体監視システムが監視する円形筒状体を示す断面図である。
図10は、第4実施形態係る構造体監視システムが監視する構造体を示す正面図である。
図11は、同構造体監視システムにおける数値解析部の解析処理を示すフローチャートである。
図12は、第5実施形態に係る構造体監視システムが監視するトンネルを示す正面図である。
図13は、第6実施形態に係る構造体監視システムが監視する構造体における光ファイバセンサの配設態様を示す正面図である。
図14は、同構造体監視システムにおける数値解析部の解析処理を示すフローチャートである。
図15は、第7実施形態に係る構造体監視システムを示す構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る構造体監視システムを示す全体構成図である。この構造体監視システム1は、監視対象である構造体としての円盤体Sにおける歪み(物理量)の分布を監視するものである。なお、本第1実施形態では、2次元弾性問題として説明する。
ここで、円盤体Sは、後述する境界Г上で表面力(以下「トラクション」という)が作用しておらず、一方後述する境界Г上で変位が拘束されているものとする。そして、この構造体監視システム1は、材質の劣化に伴う歪みの変化を監視するものである。
この構造体監視システム1は、光ファイバセンサ2を含む計測部(計測手段)3と、この計測部3に通信手段6aを介して電気的に接続された制御部(制御手段)4と、制御部4に通信手段6bを介して電気的に接続された表示部(表示手段)6と、制御部4に電気的に接続された監視部10とを備える。
計測部3は、円盤体Sの歪みを高分解能で測定するものであり、計測機7と、この計測機7に接続され一端部が円盤体Sの周縁に沿って固定された光ファイバセンサ2とを有して構成されている。
計測機7は、前記光ファイバセンサ2に計測光を入射すると共に、この計測光に基づくブリルアン散乱光を受光し、歪みの分布を計測するものである。この計測機7は、タイマ(図示せず)が内蔵され、所定の時間間隔、例えば1時間間隔で歪みの分布を計測するとともに、必要に応じて制御部4からの出力に応じて歪みの分布を計測するものとなされている。また、この計測機7は、光送受信機として公知のものを用いることができ、例えば光ファイバセンサ2に所定周波数のパルス光を供給する光源70と、所定周波数の前記ブリルアン散乱光を受光して電気信号に変換する光検出部71と、この電気信号に基づいて歪みを算出する演算部72とを備えて構成されるものが用いられる。
光源70は、例えば分布帰還型半導体レーザや分布ブラッグ反射型レーザなど各種半導体レーザを利用することができる。光検出部71は、ブルリアン散乱光を受光してこの受光に応じた電気信号を出力するものであればよく、例えば受光した光をその光強度に応じた電気信号に変換する受光器や所定周波数帯の電気信号のみを透過するバンドパスフィルタなどにより構成されている。演算部72は、例えばマイクロプロセッサを搭載したパーソナルコンピュータ等の所定の演算処理を実行するコンピュータを利用することができる。
光ファイバセンサ2は、該光ファイバセンサ2が敷設された位置での歪み、温度等の物理量の分布を計測するための分布型光ファイバセンサ2であり、例えば石英系の光ファイバにより構成される。本第1実施形態では、円盤体Sの歪み分布を計測するために用いられている。この光ファイバセンサ2は、解析対象となる構造体の表面または内部に敷設されることを要し、本第1実施形態では円盤体Sの周縁(表面)の一部に巻き回し状に固定され、該円盤体Sの歪みに応じて変形する物理量検出部2aと、円盤体Sに固定されない状態で配設され前記光検出部71と物理量検出部2aとを繋ぐ介設部2bとに分けられている。
物理量検出部2aは、その全長にわたって円盤体Sに固定され、複数の測定点について物理量を検出し得るものとなされている。特に本第1実施形態では高精度の物理検出部2aをもつ光ファイバセンサ2が使用されており、測定点間隔を5cm以下に設定し得るものとなされている。また、物理量検出部2aは、図2(a)に示すように、複数本(図では2本)の光ファイバ2dが互いに所定の間隔を隔てて基材2cに固定されることにより構成されされている。本第1実施形態では、基材2cを介設した状態で2本の光ファイバ2dが円盤体Sの径方向に並んで配設され、円盤体Sでの物理量としての歪み分布を高精度で計測できるものとなされていると共に、円盤体Sの同一の測定点において各光ファイバ2dにより計測された歪み等の物理量を比較することにより、前記物理量変化の原因を特定することができるものとなされている。すなわち、例えば2本の光ファイバ2dの測定歪みが共に増加または減少している場合には、当該円盤体Sの測定点においては一方向の引張応力または圧縮応力が作用していることを示し、一方の測定歪みが増加し他方の測定歪みが減少している場合には、当該測定点においては曲げモーメントが作用していることを示す。
このように物理量検出部2aが複数本の光ファイバ2dで構成されている場合には、光ファイバセンサ2の介設部2bも、物理量検出部2aの本数に対応して複数本の光ファイバにより構成するものであってもよいし、これらの光ファイバを一体に纏めて1本の光ファイバにより構成するものであってもよい。
なお、光ファイバセンサ2は、本第1実施形態のように複数本の光ファイバから構成されるものでなくてもよく、例えば図2(b)に示すように、1本の光ファイバ2dから構成されるものであってもよい。
また、この光ファイバセンサ2は、少なくとも構造体の後述する節点(node)のトラクション及び変位値のうち未知である未知節点情報の数に対応した数の位置における物理量を計測し得るものとなされている。本第1実施形態では、構造体Sにおける全節点においてトラクションまたは変位のうちいずれか一方が未知であることから、1から(k−1)番目の節点に対応する位置について(k−1)個の歪み(分量)を計測し得るように構成されている。
なお、歪みを計測しないで温度のみを計測する場合には、必ずしも物理量検出部2aを固定する必要はない。さらに、物理量検出部2aは、その全長にわたって円盤体Sに固定されることを要さず、所定間隔で保持具により円盤体Sに固定されるものであってもよい。ただし、全長にわたって円盤体Sに固定されている場合には、緻密な計測が可能となる点で有利である。
そして、計測部3は、測定した歪み(測定物理量)を制御部4に出力するように構成されている。
制御部4は、構造体監視システム1の各部を制御するものであり、例えばマイクロプロセッサなどで構成されるコンピュータからなる。この制御部4は、本第1実施形態では、数値解析部5、入力部8、設定入力部9を含んで構成されている。
数値解析部5は、入力部8から入力された前記計測部3による測定歪み(測定物理量)を記憶部51に記憶し、この記憶情報に基づいて、円盤体Sの所定の点における歪み(解析物理量)を予め設定された数値解析手法により解析するものであり、例えば高速演算処理が可能なコンピュータとして構成されている。本第1実施形態では、この数値解析部5において実行される数値解析手法として、円盤体Sの支配方程式から導出された境界積分方程式を用いて、この境界積分方程式を離散化して代数方程式(連立1次方程式)を導出し、この連立1次方程式に初期条件や境界条件を導入して物理量を算出する境界要素法が採用されている。この境界要素法による解析手法は、後に簡単に説明するが、初期条件は予め特定の機器等により計測された歪みやトラクション、変位値などが用いられる一方、境界条件は前記計測部3により計測した測定歪みやこの測定歪みから算出された解析歪み、解析トラクション、解析変位値等が用いられる。このように境界条件として計測部3により計測した測定歪みやこの測定歪みから算出された解析歪み等が用いられるので、前記数値解析部5により解析される円盤体Sの所定の点における解析歪みを所定の時間間隔で自動的に取得することができる。
記憶部51は、例えばROM(read only memory)やRAM(random access memory)により構成され、各部を作動させるためのプログラムや測定歪み(測定物理量)、数値解析部5の解析結果である解析歪み(解析物理量)、後述する導出トラクション、導出変位値(導出物理量)等が記憶される。
入力部8は、計測部3から取得した測定歪み及びその測定点の座標に関する情報(測定データ)を相互に関連付けて数値解析部5の記憶部51に記憶させるものである。設定入力部9は、各種入力データを数値解析部5に対して入力するためのものである。この設定入力部9による入力データとしては、例えば円盤体Sの後述する支配方程式から導出された境界積分方程式や基本解、境界条件に含まれる材料定数や円盤体Sの形状に関する情報(例えば厚さ、直径、材料定数など)、円盤体Sの節点座標、番号等を含めたモデリングに関する事項等が挙げられる。
表示部6は、前記数値解析部5による解析結果である解析歪みを円盤体Sの位置と関連付けて表示するものであり、例えば円盤体Sの歪み分布がコンター図として表示される。この表示部6として、例えばCRT、液晶パネル、有機EL等のディスプレイを用いることができる。
監視部10(報知手段)は、前記数値解析部5による解析結果である解析歪みの平均値が予め定められた既定値を超えるとユーザに対してその旨を報知するものであり、例えば警告灯などによって視覚的に報知するものやアラーム音などによって聴覚的に報知するもの、或いは備え付けの通信部によりユーザにメッセージを送信するもの等により構成されている。前記既定値は、予め円盤体Sに損傷等の問題が生じた場合、または問題が生じる虞がある場合における全測定点についての歪みの合算値を想定して、この合算値よりも若干小さい値に設定されている。そして、この既定値は数値解析部5の記憶部51に記憶され、この既定値を超える場合に数値解析部5から監視部10に対して信号が出力される。この信号を受けて監視部10がユーザにその旨の報知を行い、表示部6において該問題が生じている円盤体Sの位置が特定される。
次に、本第1実施形態に係る構造体監視システム1の動作について説明する。図3は、計測機7における動作を示すフローチャートである。
処理が開始されると、まず計測機7の各部を初期化し、光ファイバセンサ2により歪みを測定するための準備として初期設定がなされる(ステップS10)。次に、光源70を作動させて所定のパルス光を発光させ、このパルス光に基づくブリルアン散乱光が光検出部71により物理検出部2aの全長に亘ってサンプリングされる一方、演算部72においてこのサンプリングに基づく散乱利得スペクトルを用いて測定歪みが演算されるとともに、サンプリングに要した時間を用いて測定座標が演算される(ステップS11)。
そして、前記測定歪み及びその測定場所に関する情報を含む測定データが、通信手段10を介して制御部4における入力部8に出力される(ステップS12)。続いて、所定時間経過後(例えば1時間経過後)に、再び前記ステップS11からステップS12までの処理が実行される(ステップS13)。具体的には、予め設定された所定の時間を経過したか否かを判断し、所定の時間を経過していない場合には待機状態となされる一方(ステップS13でNO)、所定の時間を経過した場合にはステップS11にリターンされ、再び円盤体Sの測定歪み及びその測定座標が特定される。
前記計測機7から入力部8に出力された測定歪み等の測定データに基づいて数値解析部5で円盤体の所定の点における歪みが解析されるが、この解析に関する処理が実行される前に、数値解析部5で次の初期設定が行われる。
図4は、数値解析部5における初期設定を示すフローチャートである。この初期設定が開始されると、まず数値解析部5において構造体の監視範囲に関する情報の入力が受け付けられる(ステップS20)。具体的には、本第1実施形態では、構造体である円盤体Sの平面的な形状に関する情報及び円盤体Sの内部または境界上にあってこの数値解析部5により歪みを解析する解析点に関する情報(例えば解析点の座標、個数等)が、設定入力部9を介して入力され、この形状データ等の入力データが記憶部51に記憶される。
そして、前記構造体の監視範囲に関する情報が入力されると(ステップS20でYES)、監視範囲に関する初期状態の入力が受け付けられる(ステップS21)。
この監視範囲に関する初期状態は、円盤体Sに最初に作用している荷重や変位値に関する条件等の初期条件が含まれ、解析点における物理量を、初期の物理量との相対量として求めるか(すなわち初期物理量を基準にした増減により求めるか)、予め初期の物理量を考慮に入れ絶対量として求めるか(すなわち実際の物理量を求めるか)により異なる。
すなわち、光ファイバセンサ2では、その敷設された状態からの相対変化量を測定するものであるので、この初期条件をどのように設定するかにより、求める物理量の質も異なる。
具体的には、前者による場合(相対量として物理量を求める場合)には、境界Г上でトラクションがゼロであることが入力されるとともに、境界Г上では変位値がゼロであることが入力される。これにより、境界Г、境界Г上でのトラクション、変位値、及び歪みが初期状態からの相対変化量として算出されることとなる。
一方、後者による場合(絶対量として物理量を求める場合)には、境界Г上でのトラクションを予め特定の機器により測定し、この測定結果が初期条件として入力されるとともに、境界Г上では変位値がゼロであるが初期条件と入力される。これにより、境界Г、境界Г上でのトラクション、変位値、及び歪みが初期状態からの絶対量(真値)として算出されることとなる。
なお、円盤体Sに応力が作用しておらず、かつ円盤体Sが変形していない状態で、光ファイバセンサ2が敷設された場合には、相対量と絶対量が等しくなる。本第1実施形態では、このような状態で光ファイバセンサ2が敷設されたものとし、従って後述する方法で真値としての物理量を算出することができる。
これらの初期境界条件が設定入力部9を介して入力され、この入力データが記憶部51に記憶される。
監視範囲における初期状態を入力すると(ステップS21でYES)、次に、円盤体Sの境界Г(Г=Г+Г)上に複数の節点を設定するとともに、境界Гを複数の要素またはメッシュに分割し、数値解析部5においてこれらの要素分割に関する情報の入力が受け付けられる(ステップS22)。具体的には、円盤体Sの外周である境界Г上に1番目からN番目に至るまでの複数個の節点を設け、これらの節点の位置(座標)が節点番号に関連付けられ、これらの情報が設定入力部9を介して入力され、この入力データが記憶部51に記憶される(ステップS22)。
ここで、前記節点は細かくとればとるほど精度が高くなる反面、節点数が増大するに伴い計算量も増えて解析スピードが低下する。従って、前記節点は各節点間を等間隔に設定してもよいが、例えば変位や応力等の物理量の変化が大きいことに起因して高精度の解析結果が要求される位置については各節点間を短い間隔に設定するなど、節点間の間隔をそれぞれ異なるように設定してもよい。これらの節点と要素分割との関係等は、例えば境界要素法において公知のものであり、詳しくは特開平2−168117号公報や田中、松本、中村共著「計算力学とCAEシリーズ2 境界要素法」、初版、培風館等に記載されているので、ここではその説明を省略する。本第1実施形態では、線形要素として各要素上の物理量が節点における物理量に代表されるように設定されている。
続いて、要素分割に関する情報が入力されると(ステップS22でYES)、数値解析部5において、記憶部51に記憶されている節点情報と測定歪みに関する情報とが関連付けられる(ステップS23)。すなわち、光ファイバセンサ2により測定された測定座標と、節点が設けられた座標とが同一である場合には、該節点番号における歪み値が光ファイバセンサ2による測定歪み値として記憶される。
前記のようにして数値解析部5において初期設定が実行された後、数値解析部5において歪みの解析が実行される。
まず、数値解析部5における数値解析手法について簡潔に説明する。
この数値解析手法は、構造体における解析対象部分の境界上に複数個(本第1実施形態ではN個)の節点を設定し、全節点におけるトラクション(導出トラクション)及び変位値(導出変位値)を求め、この導出トラクションと導出変位値とを境界条件として後述する境界積分方程式に代入し、解析対象部分の内部または境界上の任意の点における歪み値を解析するものである。
具体的には、本第1実施形態のように静弾性問題における構造体の支配方程式から導出した境界積分方程式は、次式で表される。

ここで、cijは点yの位置により定まる定数マトリックスであり、u(D)は点Dにおける変位値であり、t(E)は点Eにおけるトラクションである。また、uijとtijはKelvinの解と呼ばれる基本解であり、通常無限の広がりを有する領域内の1点xに単位集中力が作用する場合のLaplace方程式の解が用いられる。2次元問題の場合には、次式で与えられる。
すなわち、

ただし、rは、点x、y間の距離、nは点xの単位法線ベクトル、∂r/∂nは、点xにおけるrの法線方向微係数である。またG、νはそれぞれ剪断弾性係数、ポアソン比である。基本解であるtijは、点xと点yとの距離であるrの逆数を含む関数として表され、特異性のため点xと点yとが一致する場合には∞に発散する。
ところで、上記式(1)は点yにおける変位を求めるものであるので、該変位を偏微分すればある方向(次式ではl方向)の歪みεが算出されることとなる。すなわち。

そして、上記境界積分方程式(4)を離散化して境界条件(節点におけるトラクション、変位値)を適用することにより円盤体Sの内部及び境界上の1点における歪みを数値的に解析することができる。すなわち、上記境界積分方程式(4)において、境界をN個の要素に、領域をM個のセル(離散化に用いられる部分領域)に離散化する。この離散化は、上式(4)をこれらの境界要素、内部セルの集合として表すことにより行うことができ、その結果、次式(5)のようになる。

ところで、式(6)に示すように本第1実施形態では体積力がないので、上式(5)の領域積分の項を無視することができ、従って上記式(5)を整理してマトリックス表示すると、結局次式(7)になる。

ここで、{ε(y)}は領域Ωまたは境界Г上の任意の1点における歪みであり、{u},{t}は節点jにおける節点情報(トラクション、変位値)である。また、[H],[G]は前記基本解から算出される係数である。
これによりj次元連立1次方程式が導出され、この連立方程式に、測定により得られた測定歪みから導出された各節点におけるトラクション及び変位値を代入することにより解析したい領域内部または境界上の所定方向の歪み値を算出することができる。
なお、上式(7)では歪みを解析物理量として求めることについて説明したが、変位を解析物理量として求めるものであってもよい。この場合、式(4)での歪みを光ファイバセンサ2の軸線方向の変位差分で表現することができ、この変位差分の式を用いて求めることができる。
以上に説明した数値解析手法を本第1実施形態に適用すると、次のようになる。図5は、数値解析部5における解析処理を示すフローチャートである。
解析処理が開始されると、入力部8から測定歪み及び測定場所等に関するデータである測定データが入力されたか否かを判定する(ステップS30)。
測定データが入力されていない場合には待機し(ステップS30でNO)、測定データが入力されている場合には全節点におけるトラクションと変位値のうち未知数であるトラクションと変位値を確認する(ステップS31)。具体的には、足りない境界条件を、すなわち全節点におけるトラクション及び変位値のうち初期条件として与えられていないトラクション及び変位値を、未知数として設定する。
そして、この未知数として設定されたトラクションまたは変位値を、上記式(7)と未知数の数に対応した数の測定歪みを用いて算出する(ステップS32)。
この未知数として設定されたトラクションまたは変位値を未知節点情報として呼ぶと、上式(7)において、光ファイバセンサ2により計測した測定歪みを左辺に代入する一方、未知節点情報を含む節点情報(トラクション及び変位値)を右辺に代入する。これにより、未知節点情報をその数だけ含む方程式が導出される。この方程式を、未知節点情報の数に対応する数の測定歪みについて立てると、未知節点情報の数に対応する数の連立方程式となり、これを解くことにより未知節点情報を算出することができる。
具体的には、本第1実施形態では、境界Гにおけるトラクションは既知であるが変位値が未知である一方、境界Гにおける変位値は既知であるがトラクションは未知であり、従って、この実施形態では2次元問題として扱っているので、2n個の節点情報が未知である。従って、光ファイバセンサ2により2n個の測定歪みを計測し、この2n個の測定歪みと2n個の未知節点情報を上記式(7)に代入すると、2n個の方程式が導出され、この2n次元連立1次方程式を解くことにより、2n個の未知節点情報が算出される。
より具体的にn=2の場合で説明すると、例えば、図6に示すように、第1節点と第2節点の変位値が未知数であると考える。このとき、変位値の1,2方向の何れも未知数であることから、未知節点情報の数は、u(第1節点のj方向の変位値:ただしj=1,2),u(第2節点のj方向の変位値:ただしj=1,2)の4個となる。一方、円盤体Sに配設された光ファイバセンサ2により測定点A,B,C,Dの測定歪み(既知数ε、ε、ε、ε)を計測する。そして、これらの未知数を含めた節点における節点情報を上式(7)の右辺に代入し、前記既知数ε、ε、ε、εを上式(7)の左辺に代入すると、未知情報が4個(u、u、u、u)の4次元連立1次方程式が導出される。このようにして、未知節点情報である変位値(導出変位値)を導出することができる。このことは、未知節点情報がトラクションである場合、或いはトラクションと変位値とが混在する場合も同様である。
そして、ステップS33に移行して、この導出節点情報と既知節点情報とを境界条件として円盤体Sの所定の点における歪みを式(7)から解析し、これを各解析点について繰り返し行うことで円盤体Sにおける所望数の解析歪みを得ることができる。
具体的には、上記ステップS32により全ての節点情報が得られたので、式(7)の右辺は円盤体Sの任意の点y(座標)において常数となり、これにより点yでの歪み(解析歪み)を解析することができる。
次に、ステップS33で算出した解析歪みを解析点の座標と相互に関連付けて記憶部51に記憶し、この解析歪みと円盤体Sにおける解析座標を測定歪みとその測定座標及び導出歪みとその座標とともに、表示部6に表示して(ステップS35)、終了する。
このシステムによれば、円盤体Sの境界上に敷設された光ファイバセンサ2を含む計測部3により、円盤体Sにおける該光ファイバセンサ2が敷設された位置での歪みを高精度で計測することができる。
そして、この計測部3による測定歪みと支配方程式から導出された式(7)とを用いて円盤体Sの節点情報(トラクション、変位値)のうち未知節点情報を簡単に導出することができる。しかも、この未知節点情報の導出にあたって、計測部3による測定歪みを未知節点情報の数に対応した分だけ必要となるが、光ファイバセンサ2を用いて測定歪みを計測するので、多数の測定歪みを計測することができ、測定歪みの数が不足して未知節点情報を導出することができないという事態も回避することができる。
また、このように数値解析部5により、全節点情報が必ず導出することができ、この全節点情報を境界条件として境界要素法により円盤体Sの内部または境界上の任意の点であって、光ファイバセンサ2が敷設されていない円盤体Sの任意の点における歪み(解析歪み)を算出することができる。
前記解析歪みが算出された点(解析点)は予め設定されており、この解析点と解析歪みとを相互に関連付けることができる。従って、この解析歪みと解析点とを相互に関連付けることにより、解析歪みと構造体Sの位置とを関連付けることができ、その結果を表示部6に表示させることにより円盤体Sにおけるあらゆる位置での歪みを高精度で監視することができる。しかも、ユーザはこの表示部6を監視することにより、一定の物理量変化がある構造体の位置を容易かつ迅速に特定することができる。従って、構造体の補修等の後作業にあたって従来技術のように緻密な再検査を要さず、迅速に対応することができる。
(第2実施形態)
図7は、(a)が第2実施形態に係る構造体監視システムが監視する対象を示す説明図であり、(b)がこの監視対象の内部亀裂を拡大して示す説明図である。
この第2実施形態に係る構造体監視システム1は、その基本構成において第1実施形態と共通するが、解析対象である円盤体Sにおいて亀裂Cが生じた場合に、この亀裂Cの位置及び形状を数値解析部5において特定し得るように構成されている点で前記第1実施形態と異なる。
すなわち、本第2実施形態に係る数値解析部5は、前記第1実施形態に係る数値解析部5の構成に加えて、同一の測定点について異なる時間に測定された円盤体Sの測定歪みを対比し、この測定歪みの変化量が所定の許容範囲を超える場合に円盤体Sの内部に亀裂Cが発生したと認定するように構成されている。本第2実施形態では、次式(8)を満足しない場合に、円盤体Sの内部に亀裂Cが発生したと認定するものとなされ、この認定をした場合に亀裂Cの位置及び形状について同定するように構成されている。すなわち、

ここで、Rは全測定点数、εは測定点における光ファイバセンサ2による前回計測時の測定歪み、εは測定点における光ファイバセンサ2による今回計測時の測定歪み、Aは既定値である。
なお、本第2実施形態では、上記のように測定歪みの差の二乗を全測定点について足し合わせた合算値で測定歪みを対比するものとなされているが、各測定点における歪みの差の絶対値を対比するものであってもよい。
この亀裂Cの位置及び形状についての同定は、光ファイバセンサ2により計測された基準点Dにおける測定歪みを補助情報として用い、内在する亀裂Cの位置と形状が未知であると仮定して、境界要素法順解析により解析した仮定歪みと前記測定歪みとの残差二乗和を最小にする最適化問題として解析する。
この最適問題においては、目的関数fを最小にする後述するパラメータを求めるものであり、目的関数fは次式で表される。すなわち、

ただし、Pは基準点Dの点数、ε’ijは基準点Dにおいて計測された測定歪み、εijは境界要素法順解析により求められた基準点Dの解析歪みである。
この同定処理を、図8の数値解析部5でのフローチャートを用いて具体的に説明する。
上記したように、数値解析部5において亀裂Cが発生したと認定されると(ステップS40でYES)、亀裂Cの形状を楕円形(円形を含む)に近似して、該亀裂Cを円盤体S内に仮定する(ステップS41)。この亀裂Cの形状及び位置を示すパラメータは次に示す5つになる。すなわち、

ただし、図7(b)に示すようにxとyとは楕円の中心座標を示し、aとbとはそれぞれ該楕円の短軸と長軸を示し、θは長軸が1軸となす角である。なお、xは1軸方向の座標、yは2軸方向の座標とする。
そして、この仮定では円盤体Sの予め定められた所定位置(本第2実施形態では円盤体Sの中心)に亀裂C(図7(a)において点線で示す)があると仮定するとともに、その長軸aと短軸b及び角θも予め定められた所定値として仮定する。
次に、仮定した亀裂Cについてモデリングする(ステップS42)。すなわち、亀裂Cを内部境界Гと規定して、この内部境界Гを要素(及びメッシュ)に分割するとともに、内部境界Г上に複数個の新たな未知の節点を設ける。この節点は、内部境界上に任意に設定することができるが、長軸方向の両端部近傍について細かく設定するのが好ましい。
なお、この亀裂Cにおけるモデリング、すなわち亀裂Cにおける要素分割や節点配置は、数値解析部5により自動的に行うものであってもよいし、また設定入力部9を介して手動で行うものであってもよい。手動で行う場合には、例えば表示部6に亀裂Cのモデリングの入力に関する催促を表示してもよい。
そして、内部境界Г上に設けられた節点について、トラクションがゼロであるという初期境界条件を用いるとともに、円盤体Sの外部境界Г上の節点でのトラクション及び変位値を用いて、前記第1実施形態における場合と同様に式(7)を用いて、基準点Dにおける歪みεij(仮定歪み)を解析する(ステップS43)。
一方、基準点Dについては計測部3により測定歪みε’ijが計測されており、この測定歪みε’ijと前記仮定歪みεijとの差(差の絶対値)が許容値Bの範囲内であるか否かの判定が数値解析部5で行われる(ステップS44)。両歪みの差が許容値Bの範囲内でない場合には(ステップS44でNO)、許容値Bの範囲内になるまで亀裂Cの仮定を繰り返し修正する(ステップS45)。ここで、この仮定の修正は、目的関数fを最小にする最適パラメータを求めるための公知の最適化手法が採用され、この最適化手法として例えば遺伝アルゴリズム法が採用される。
前記仮定歪みεijと測定歪みε’ijとの差が許容値Bの範囲内であると判定されると(ステップS44でYES)、楕円形に近似した亀裂Cの中心(x、y)、短軸a、長軸b、角θが決定され、すなわち亀裂Cの位置と形状が決定され、この亀裂Cに関する情報が円盤体Sの形状と関連付けられて表示部6に表示される(ステップS46)。そして、この亀裂Cの位置及び形状を上記円盤体Sの形状に追加し(ステップS47)、この新たな形状のもと、上記第1実施形態と同様に、円盤体Sの歪み分布の監視が行われる。
この第2実施形態に係る構造体監視システム1によれば、円盤体Sに新たに生じた亀裂Cの位置及び形状を高精度で推定することができる。しかも、亀裂Cの発生が認定され、該亀裂Cの位置及び形状が特定された後は、本第2実施形態の数値解析部5により自動的に円盤体Sの形状がこの新たに発生した亀裂Cを含めた形状に修正される。従って、その後に、第1実施形態と同様の歪みの監視を行うにあたって、亀裂Cを考慮した状態で解析歪みを算出することができ、円盤体Sの監視をより高精度で行うことができる。しかも、亀裂の大きさ等まで特定することができるので、この大きさ等から補修の必要性を判断することができ、これにより効率的な構造体監視を実行することができる。
なお、上記第2実施形態では、数値解析部5が、亀裂Cを特定した後、この亀裂Cの形状を円盤体Sの形状に自動的に追加するものとなされているが、この円盤体Sの形状の再設定を手動で行うものであってもよい。
また、上記第2実施形態では、基準点Dとして光ファイバセンサ2の測定点が採用され、測定歪みと仮定歪みとを対比するものとなされているが、例えば光ファイバセンサ2が敷設されていない点を基準点として採用することもできる。この場合には、光ファイバセンサ2による測定歪みを用いて基準点における解析歪みを算出し、この解析歪みと仮定歪みとを対比することになる。
(第3実施形態)
この第3実施形態に係る構造体監視システム1は、その基本構成において上記第2実施形態と共通するが、監視の対象が歪み分布ではなく温度分布である点、及び同定の対象が亀裂ではなくて異常高温部位である点で上記第2実施形態と異なる。また、構造体Sの形状についても異なる。この構造体Sは、図9に示すように、円形筒状体として構成されており、内部に高温流動体が充填され、この高温流動体に起因して内壁が損傷欠落することがある。従って、本第3実施形態の構造体監視システム1は、構造体Sである円形筒状体の温度分布に基づいて該筒状体の壁厚を監視するものとなされている。
計測部3は、その基本構成が上記各実施形態と同様に構成されているが、監視対象が異なることに起因して次のように構成されている。すなわち、計測部3の光ファイバセンサ2は、その物理量検出部2aが円盤体Sの外周縁に巻き回し状に固定されているとともに、その上から断熱材で被覆されている。このように物理量検出部2aの外側を断熱材で被覆することにより外気温による影響を低減させるものとなされている。
計測部3は、光ファイバセンサ2により円盤体Sの温度変化に基づく温度歪みを検出し、この検出結果に基づき円盤体Sの外周縁上の温度(測定温度)分布を計測し得るものとなされている。その他の構成は、上記第1及び第2実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
この計測部3により計測した測定温度を用いて境界上の節点における温度及び熱フラックス(導出物理量)を導出し、この導出した温度及び熱フラックスを境界条件として数値解析部5で構造体Sの境界上または内部の温度分布を解析し得るものとなされている。
この数値解析部5の構成も上記各実施形態と同様であるが、監視対象が異なるのに起因して支配方程式が異なり、これによりこの支配方程式から導出される境界積分方程式等が異なる。監視対象が温度である場合の境界積分方程式は、次式で表される。

ただし、T(x)は温度であり、q(x)は熱フラックス、b(x)は領域Ω内部の等価ヒートソースである。
また、上記境界積分方程式が異なることに起因して、その基本解も異なり、基本解は次式で表される。


向微分係数である。なお、解析内部の熱源はないものとして考える。
そして、上記境界積分方程式(11)を離散化して境界条件を適用することにより、構造体Sの内部及び境界上の1点における温度を数値的に解析することができる。そして、この離散化した境界積分方程式をマトリックス表示すると、次式で表される。

ただし{T(y)}は、領域Ωまたは境界Г上の任意点における温度であり、{T},{q}は節点jにおける温度と熱フラックスである。また、[H],[G]は基本解から算出される係数である。
上式(13)に所定の初期条件及び計測部3により計測した測定温度等に基づく節点情報の境界条件を代入することにより構造体Sの任意の点における温度を算出することができ、これを構造体Sにおける複数個の解析点で繰り返し行うことにより、構造体Sにおける温度分布を解析することができる。そして、この温度分布を構造体Sの位置と関連付けて表示部6に表示することにより構造体Sの温度分布を監視することができる。
一方、数値解析部5は、上記第2実施形態と同様に、同一の測定点における異なる時間に計測された測定温度の差が所定の範囲を超える場合に、円盤体Sの内部に異常高温部位が発生したと認定し、上記第2実施形態と同様の手法により、異常高温部位の位置及び形状を特定し得るように構成されている。具体的には、数値解析部5は、高温部位が拡大した場合には、構造体Sの内壁の一部が欠落し、構造体Sの形状が変化したことに起因して高温部位が拡大したと認定し、この拡大高温部位を異常高温部位としてその位置及び形状を同定し、この同定結果に基づき構造体Sの形状を再設定するものとなされている。
すなわち、計測部3は同一の測定点について複数回にわたって温度(測定温度)を計測するように構成されている。そして、数値解析部5は、同一の測定点について異なる時間に計測した測定温度を対比して、これらの測定温度の差が所定の許容範囲を超える場合に、異常高温部位が発生したと認定するものとなされている。この認定があった場合には、数値解析部5で異常高温部位の位置及び形状について同定が実行される。この異常高温部位の位置及び形状についての同定は、光ファイバセンサ2により計測された基準点Dにおける測定温度を補助情報として用い、内在する異常高温部位の位置と形状が未知であると仮定して、境界要素法順解析により仮定温度を解析し、上記測定温度と仮定温度との残差二乗和を最小にする最適化問題として解析する。この具体的な手法は、上記第2実施形態で説明しているので、ここではその異なる点について説明する。
すなわち、この第3実施形態では、内部境界である境界Гが内壁の欠落に伴い境界Г10になったと仮定し、この境界Г10上の節点座標をパラメータに設定するものとなされている。ここで、境界Г10上の節点数は予め設定入力部9を介して設定されており、例えば16個の節点により構成されるとする。また、各節点は、境界Г上または領域Ω内の範囲内で設定され、隣接する番号の節点を結ぶとともに第1節点と最終節点とを結ぶことにより閉領域を形成するように設定される。例えば、各節点により閉領域を形成するために、第1節点と中間番号の節点である第9節点とを設定し、この第1節点と第9節点とを結ぶ線を8分割し、各分割点につき上下にそれぞれ節点を設定するものとしてもよい。
そして、境界Г10上の節点を仮定、すなわち各節点座標をパラメータとして同定することにより、新たな境界Г10を特定することができる。
この第3実施形態に係る構造体監視システム1によれば、構造体Sの境界上または内部に予め設定された複数個の解析点について解析温度を算出することができる。そして、この解析点と解析温度とを相互に関連付けることにより、構造体Sの位置と解析温度とを関連付けることができ、構造体Sの温度分布を求めることができる。この温度分布を表示部6に表示することにより、構造体Sにおけるあらゆる位置での温度を高精度で監視することができ、しかもユーザはこの表示部6を監視することにより、一定の温度変化がある構造体Sの位置を容易かつ迅速に特定することができる。従って、構造体Sの補修等の後作業にあたって従来技術のように緻密な再検査を要さず、迅速に対応することができる。また、第2実施形態と同様に、円盤体Sに生じた異常高温部位の位置及び形状を高精度で推定することができ、この異常高温部位の位置及び形状に基づいて構造体Sの形状を再設定することができ、これにより内壁等の欠落等に伴う異常高温部位を特定し、この結果に基づきユーザにおいて補修の要否を判定することができる。
(第4実施形態)
この第4実施形態に係る構造体監視システム1は、その基本構成において上記第1実施形態と共通するが、その監視対象である構造体Sの形状、及び光ファイバセンサ2が構造体Sの内部に配置されている点、並びに数値解析部5で実行される解析手法において前記第1実施形態と異なる。
すなわち、この第4実施形態に係る構造体監視システム1が監視する構造体Sは、図10に示すように、一端縁が固定面に固定された第1の構造体S1と、その他端縁側に配設され、第1の構造体S1と異なる材質で構成される第2の構造体S2と、これらの第1及び第2の構造体S1,S2を連結する2本の連結体Jとからなる。
第2の構造体S2の先端部には、この先端部を横切るように光ファイバセンサ2が配設されている。計測部3は、この光ファイバセンサ2を用いて少なくとも後述する境界Г上に設定された節点における節点情報(トラクション及び変位値)の未知数分に対応する数の測定歪みを計測し得るように構成されている。すなわち、測定点mの数は、少なくとも境界上の節点nにおける未知節点情報の数以上に設定されている。
ところで、上記第1実施形態に係る数値解析部5における数値解析手法では、亀裂の発生等の監視対象である構造体の形状変化に柔軟に対応することができる反面、図10に示すような構造体Sのように複数の異なる材質からなる構造体S1,S2が連結棒Jにより連結されている場合に、連結棒J周りの境界条件等の設定が困難である等の理由により解析が困難で、第1の構造体S1及び連結体Jの監視には効率及び精度に問題が生じると考えられる。
そこで、本第4実施形態に係る構造体監視システム1は、数値解析部5で、上記第1実施形態に係る数値解析手法と、有限要素法とを組み合わせて解析するものとなされている。すなわち、数値解析部5は、構造体Sを一部において重なる領域Ωと領域Ωとに区分けし、領域Ωの内部または境界上の歪み(解析歪み)を上記第1実施形態における数値解析手法により算出するように構成されている一方、領域Ωの内部または境界上の歪みを有限要素法により算出するように構成されている。
この解析処理を、図11の数値解析部5でのフローチャートを用いて具体的に説明する。
すなわち、まず構造体Sについてのモデリングに関する情報を設定入力部9を介して受け付ける。(ステップS50)。このモデリングに関し、具体的には、構造体Sを一部において重なる領域Ωと領域Ωとに区分けし、領域Ωでは、その境界を複数個の線形要素に分割し、各要素毎に一の節点nが設定される一方、領域Ωではその内部領域を複数個の方形の領域要素に分割し、各要素の角が集合する点について一の節点nが設定される。ここで、領域Ωと領域Ωとが一部において重なる重合領域Ωの領域Ω側の境界(領域Ωの境界)を境界Гとし、領域Ω側の境界(領域Ωの境界)を境界Г’とした場合に、境界Г上では領域Ωと領域Ωとの節点n,nが重複するように設定されている。
そして、境界Г上の節点nではトラクションsがゼロであり、境界Г上の節点nでは節点情報(トラクション及び変位値)がともに未知であり、これらの初期設定情報を設定入力部9を介して入力する。
次に、光ファイバセンサ2を用いて、上記初期設定で未知数とした境界Г上の節点nにおける節点情報を算出する(ステップS51)。具体的には、境界Г上の節点nにおけるトラクション及び変位値がともに第1及び第2方向について未知数であるため、未知数の数は境界Г上の節点nの数の4倍あり、この数に対応した測定点mにおける測定歪みが計測部3において計測される。そして、この計測部3による測定歪みを上式(7)に代入することにより、連立方程式を導出する。この連立方程式を解くことにより、上記未知節点情報(トラクション及び変位値)が全て算出される。
この境界Г上の節点nにおけるトラクション及び変位値を算出することができたため、領域Ωの境界上または内部の任意の点における解析歪みを上記第1実施形態における場合と同様に解析することができる。そして、領域Г’上の節点nにおけるトラクション及び変位値を算出し(ステップS52)、この算出結果のうち変位値だけを後述する領域Ωにおける解析に利用する。
一方、領域Ωにおいては、上記のようにして算出した領域Г’上の節点nにおける変位値と、領域Ωの節点nと重なって設定されている境界Г上の節点nの変位値とを境界条件として有限要素法により内部または境界上の解析歪みを算出する(ステップS53)。なお、有限要素法による数値解析手法は公知のものであり、その汎用ソフトも多数出回っていることからここではその説明を省略する。また、境界と境界との間の区域を注目すると、有限要素法(FEM)により求めた応力場をトラクションに変換すると、必ず境界要素法(BEM)により求めたトラクションが一致している。
ここで、有限要素法では、解析対象である構造体を領域要素に分割するため、異種材料等からなる別部品等の存在を許容する。従って、第1及び第2の構造体S1,S2、連結棒Jを含む領域Ωのように複雑な結合条件がある場合についても比較的容易に解析することができる。
また、この第4実施形態でも、領域Ωに亀裂が生じた場合には、上記第2実施形態と同様に、亀裂の位置及び形状について同定することができる。
(実施形態5)
この第5実施形態に係る構造体監視システム1は、その基本構成において上記第1実施形態と共通するが、その監視対象である構造体Sがトンネルであり、これに伴って数値解析部5に入力される境界条件において前記第1実施形態と異なる。
すなわち、本第5実施形態では、図12に示すように、その監視対象がトンネルS(より詳しくはトンネル口を構成する構造体)であり、例えばトンネルを構成するコンクリート塊の剥落、落盤等を監視するものとなされている。
そのため、計測部3の光ファイバセンサ2が、トンネル内壁面(境界上)に沿って配設されている。具体的には、光ファイバセンサ2は、トンネルの一端開口からトンネルの周方向に沿って往復させつつトンネルの軸方向にその他端開口向かって敷設されている。
このように監視対象がトンネル等非常に大きいものである場合に、山肌近傍位置等のトンネルの内壁面から十分に離れた位置での物理量の影響に対してどのように取り扱うかが問題となる。ここで、このシステム1はトンネル内のコンクリート塊の剥落等を監視するものであるので、トンネル内壁近傍の歪み分布を監視すれば十分である。
そこで、本第5実施形態に係る構造体監視システム1では、その数値解析部1において初期境界条件の入力に工夫を凝らし、トンネル内壁近傍の歪み分布を高精度で監視しうるように構成されている。
ここで、トンネル口を構成する構造体Sの解析対象である領域Ωは、図12に示すように、トンネルの内壁である境界Гと、この境界Гに連続する接地部である境界Гと、境界に連続する無限境界である境界Гとに囲まれて構成されているとする。境界Гを無限境界とするのは、このシステム1で監視する範囲が境界Г近傍であり、境界Гと境界Гとが十分に離れているため、境界Гの項の基本解がゼロとなり、境界Гの項を無視することができるからである。
そうすると、構造体Sの支配方程式を境界積分方程式に変換すると次式になる。

上式(14)において、境界Гに関する積分の項は境界Гが接地していることからその変位値及びトラクションはともに垂直成分のみ存在することが明らかである。そして、この境界Гにおけるトラクションの分布は、境界Гが直線で表されるので簡単に求めることができる。すなわち、図12に示すように、境界Г上の点aから十分に離れた点bを設定し、aとbとの間のm個の節点を隣接する節点間の間隔が漸次広くなるように設定し、点bよりも大きい境界上の基本解が十分に小さくなることを利用して、ab間のトラクションと変位値を未知数として、Г上の未知数と一緒に求めることができる。
従って、上式(14)を整理してマトリックス表示すると、次式になる。

ここで、{ε(y)}は領域Ωまたは境界Г上の任意の1点における歪みであり、{uГ6},{tГ6}は境界Г上の節点における節点情報(トラクション、変位値)である。また、[H],[G]は前記基本解から算出される係数である。
数値解析部5には、上式(15)が収納されており、この数値解析部15に対して設定入力部9から境界Гに関する初期境界条件(変位値がゼロ)等の初期条件が入力される一方、入力部8から光ファイバセンサ2により計測された境界Гに関する測定歪みが入力される。そして、これらの条件のもと、数値解析部5が構造体Sの境界Г上またはその近傍の内部領域における任意の点の歪み(解析歪み)を解析することができる。
このように、本第5実施形態では、数値解析部5における境界積分方程式(15)の境界Гに関する未知境界条件を補完することができ、例えばトンネルなどの非常に大きな構造体であってもトンネルの内周壁近傍について高精度で監視することができ、その適用範囲を広げることができる。
(第6実施形態)
この第6実施形態に係る構造体監視システム1は、その基本構成において上記第1実施形態と共通するが、本第6実施形態に係る構造体監視システム1は境界条件としての測定歪みを計測する光ファイバセンサ2の他、数値解析部5による解析歪みの精度を確認するための確認用光ファイバセンサ200が敷設されている点で上記第1実施形態と異なる。なお、本第6実施形態では、監視対象である構造体Sの形状も第1実施形態と異なる。
すなわち、構造体Sは、図13に示すように、略方形状の板状体ある。そして、計測部3の光ファイバセンサ2は、この構造体Sの一の周縁に沿って固定され、該固定部分である物理量検出部2aで複数の測定歪みを計測し得るように構成されている。そして、この構造体監視システム1では、上記第1実施形態と同様に、数値解析部5によりこの測定歪みを用いて構造体Sの境界上または内部の任意の点における歪み(解析歪み)を解析し得るものとなされている。
一方、この構造体Sの中央部には、上記光ファイバセンサ2と平行に確認用光ファイバセンサ200が敷設されている。この確認用光ファイバセンサ200は、この確認用光ファイバセンサ200上に確認用測定点mが予め設定されており、この確認用測定点mでのブリルアン散乱光を計測部3で受光してこのスペクトルに基づき、確認用測定点mでの測定歪みを算出し得るものとなされている。そして、計測部3からこの測定歪みが確認用測定点mの座標とともに数値解析部5に出力されるものとなされている。
数値解析部5は、光ファイバセンサ2からの測定歪みに基づいて確認用測定点mにおける解析歪みを算出する一方、この確認用測定点mにおける解析歪みと確認用光ファイバセンサ200によって確認用測定点mで計測された測定歪みとを対比するものとなされている。
図14は、数値解析部5での解析処理を示すフローチャートであり、以下この図を用いて具体的に説明する。
解析処理がスタートすると、第1実施形態と同様に、光ファイバセンサ2による測定データ(測定歪み、測定点の座標)の取得を確認する(ステップS60)。そして、確認用光ファイバセンサ200による測定データ(確認用測定点mでの測定歪み、確認用測定点mの座標)を取得したか否かを判定し(ステップS61)、取得している場合には光ファイバセンサ2による測定データを用いて確認用測定点mでの解析歪みを算出する(ステップS62)。この数値解析手法は、上記第1実施形態における場合と同様であるのでここではその説明を省略する。
次に、数値解析部5は、確認用測定点mでの測定歪みと解析歪みとを対比し(ステップS63)、その誤差(解析歪みと測定歪みとの差)が予め定められた許容範囲内にあるか否かを判定する(ステップS64)。ここで、両歪みの対比は、両歪みの差の二乗同士を比較するものであってもよいし、両歪みの差の絶対値を比較するものであってもよい。また、許容範囲内にあるか否かの判定の基準になる既定値は、予め設定入力部9を介して入力されており、監視レベルに応じて複数個の既定値を設定するものであってもよい。
そして、誤差が許容範囲内である場合には(ステップS65でYES)、記憶部51に記憶されている測定データを更新するとともに(ステップS66)、表示部6に歪み分布を表示して解析処理を終了する。
一方、確認用測定点mでの解析歪みと測定歪みとの誤差が許容範囲内を超えている場合には(ステップS64でNO)、表示部6に誤差が許容範囲内を超えている旨の表示とともに、該誤差を表示し(ステップS66)、構造体Sのモデリングを再設定する。このモデリングの再設定は、具体的には例えば構造体Sにおける節点数や節点座標の変更、境界要素分割の設定し直し等が行われる。本第6実施形態では、節点座標の変更が実行されるように設定されている。その上で、計測部3に対して構造体Sの所定の測定点mでの再計測を指示する信号を出力して(ステップS69)、ステップS60に移行する。
この第6実施形態に係る構造体監視システム1によれば、数値解析部5による解析歪みの推定精度を確認用光ファイバセンサ2による測定歪みとの対比を通じて確認することができ、これによりモデリングや初期設定等の精度を確認することができるとともに、このモデリング等を設定し直して精度の改善を図ることができる。これにより、構造体Sの歪み分布を高精度で推定することができるとともに、歪みが高く損傷の虞がある部位を高精度で特定して迅速に修理等実行することができる。
なお、本第6実施形態では、誤差が許容範囲を超える場合に、構造体Sのモデリングを再設定するものとなされているが、この誤差が構造体Sに生じた新たな亀裂に起因する場合もある。従って、構造体Sのモデリングの再設定に換えて、或いは複数回のモデリングの再設定にも拘わらず誤差が許容範囲内に収まらないような場合には、第2実施形態における場合と同様に、亀裂の発生を認定し、この亀裂の位置及び形状を同定するように構成してもよい。
また、本第6実施形態では、確認用光ファイバセンサ200として光ファイバセンサと別個に設けているが、光ファイバセンサ2にこの機能を持たせるものとしてもよい。この場合には、光ファイバセンサ2に、解析歪みを算出するために用いられる測定歪みの測定点とは別の確認用測定点が設けられ、該確認用測定点での測定歪みが対比の対象となる。
さらに、本第6実施形態では、解析歪みの精度を確認するために、光ファイバセンサを用い、この光ファイバセンサによって計測部3で測定歪みを算出するものとなされているが、確認のための測定歪みは例えばその他の歪みセンサ等の公知の計測手段を用いるものであってもよい。
(第7実施形態)
この第7実施形態に係る構造体監視システム1は、その基本構成において上記第1実施形態と共通するが、本第7実施形態に係る構造体監視システム1は表示部が無線またはインターネット回線を通じて制御部に接続されている点で上記第1実施形態と異なる。
図15は、本第7実施形態に係る構造体監視システム1を示す構成図である。
この構造体監視システム1は、図15に示すように、通信部14を有する制御部4と、この制御部4に有線回線を介して接続された表示部6と、上記制御部6にネットワークシステム11を介して接続された第1遠隔表示部12と、上記制御部4と通信部14,15を介して通信する第2遠隔表示部13とを備える。
第1遠隔表示部12は、表示部6と同様の構成に加えモデムを有し、このモデムによりインターネット等のネットワークシステム11を介して制御部4から出力される情報を受信する。この制御部4からの情報としては例えば解析歪みやその解析座標、並びに構造体Sの形状に関する情報があり、第1遠隔表示部12は、その画面に図形または文字等で表示する一方、監視部10としての機能をも有し、解析歪みが既定値を超える場合にはユーザに対してその旨の報知を行う。
第2遠隔表示部13は、表示部6と同様の構成に加え通信部15を有し、この通信部15により制御部4から送られた搬送波としての電磁波を捉え、この電磁波に含まれる通信信号を抽出して電気信号に変換し、この電気信号に基づいて構造体Sにおける歪み分布を画像として表示するものである。
この第1及び第2遠隔表示部12,13により、前記数値解析部5の設置場所に拘わらず解析物理量を取得することができる。
(その他の実施形態)
以上に、本実施形態に係る構造体監視システムについて説明したが、この発明に係る構造体監視システムは、上記各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、以下のような変更が可能である。
▲1▼上記各実施形態に係る構造体監視システム1では、物理量として歪みまたは温度を解析するものとなされているが、この解析の対象となる物理量はこれに限定するものではなく、例えば磁場、音波等の波動、流れ、変位、トラクション等であってもよい。
この場合には各物理量の支配方程式としてLaplace方程式やPoisson方程式、Helmholtz方程式等が用いられる。
また、解析対象である物理量によっては、光ファイバセンサを用いて各物理量を計測するために、光ファイバセンサに改良が施される。例えば、監視対象が磁場である場合には、光ファイバセンサが磁力に応じて変形する磁気歪み部材で被覆される。この場合には、光ファイバセンサが磁力に応じて変形するので、光ファイバセンサを用いて計測部で磁場を演算することができる。
▲2▼上記各実施形態に係る構造体監視システム1では、構造体を平面的にとらえ、2次元問題として取り扱っているが、構造体を立体的にとらえ3次元問題として取り扱うことも可能である。この場合には、基本解や構造体のモデリング、例えば境界要素分割、節点の取り方等が異なるが、これらは境界要素法として公知のものであり、ここではその説明を省略する。
▲3▼上記各実施形態では、構造体監視システム1により構造体の全体の物理量変化を監視するものとなされているが、監視範囲は構造体の全体に限定されるものではなく、構造体の一部であってもよい。この場合には、設定入力部9を介して監視範囲(解析範囲)を特定する。
▲4▼数値解析部5で実行される数値解析手法は、上記各実施形態におけるものに限らない。数値解析手法としては、境界条件を設定して、その境界条件を用いて数値解析する手法であれば有限要素法等その他の公知の数値解析手法であってもよい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
境界または内部の一点における温度、歪み等の物理量が支配方程式により表現される構造体の所定の点における前記物理量を、特定の境界条件を設定して数値解析手法により解析し、この解析結果に基づいて構造体を監視する構造体監視システムであって、
前記構造体の境界上に敷設された光ファイバセンサを用いてこの光ファイバセンサが敷設された境界上の各点における前記構造体の物理量を計測する計測手段と、この計測手段による測定物理量を境界条件として構造体の所定の点における物理量を前記数値解析手法により算出する数値解析手段と、この数値解析手段による解析物理量に関する情報を前記構造体の位置と関連付けて表示する表示手段とを備えることを特徴とする構造体監視システム。
【請求項2】
境界または内部の一点における温度、歪み等の物理量が支配方程式により表現される構造体の所定の点における前記物理量を、特定の境界条件を設定して数値解析手法により解析し、この解析結果に基づいて構造体を監視する構造体監視システムであって、
前記構造体の境界上及び内部の少なくともいずれか一方に敷設された光ファイバセンサを用いてこの光ファイバセンサが敷設された部分の各点における前記構造体の物理量を計測する計測手段と、この計測手段による測定物理量を用いて前記光ファイバセンサが敷設されていない前記構造体の境界上の各点における物理量であって境界条件として入力するために変換された物理量を前記支配方程式から導出するとともにこの境界上の導出物理量及び前記測定物理量の少なくとも一方を境界条件として構造体の所定の点における解析物理量を前記数値解析手法により算出する数値解析手段と、この数値解析手段による解析物理量に関する情報を前記構造体の位置と関連付けて表示する表示手段とを備えることを特徴とする構造体監視システム。
【請求項3】
前記数値解析手段による解析物理量が予め定められた既定物理量を超える場合に報知する報知手段を更に備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の構造体監視システム。
【請求項4】
前記光ファイバセンサは、構造体の表面に敷設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の構造体監視システム。
【請求項5】
前記数値解析手段は、前記数値解析手法として境界要素法により解析物理量を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の構造体監視システム。
【請求項6】
前記数値解析手段は、前記構造体を一部において重なる2領域に区分けし、一方の領域の点における解析物理量を境界要素法により算出する一方、両領域の重合領域における各点の物理量を境界要素法により算出してこの重合領域上の解析物理量を境界条件として他方の領域の点における解析物理量を有限要素法により算出することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の構造体監視システム。
【請求項7】
前記計測手段は、前記物理量としての歪みを少なくとも実質的に同一の点において複数回にわたって計測するように構成されている一方、
前記数値解析手段は、前記計測手段による測定歪みが所定の許容範囲を超えて変化した場合に構造体内部に亀裂が発生したと認定し、当該亀裂の位置及び形状を仮定して境界要素法により前記構造体の所定の基準点における仮定歪みを算出すると共に、この仮定歪みが前記基準点における測定歪みまたは測定歪みを境界条件として境界要素法により算出された前記基準点における解析歪みとの差が最小になるように前記亀裂の位置及び形状を同定することを特徴とする請求項5に記載の構造体監視システム。
【請求項8】
前記計測手段は、前記物理量としての温度を少なくとも実質的に同一の点において複数回にわたって計測するように構成されている一方、
前記数値解析手段は、前記計測手段による計測温度が所定の許容範囲を超えて変化した場合に構造体内部に異常温部位が発生したと認定し、当該異常温部位の位置及び形状を仮定して境界要素法により前記構造体の所定の基準点における仮定温度を算出すると共に、この仮定温度が前記基準点における計測温度または計測温度を境界条件として境界要素法により算出された前記基準点における解析温度との差が最小になるように前記異常温部位の位置及び形状を同定することを特徴とする請求項5に記載の構造体監視システム。
【請求項9】
前記数値解析手段は、この数値解析手段により解析する所定の点から前記境界条件を無視することができる程度に十分に離れた無限大境界を有する前記構造体における所定の点を解析する場合に、当該無限大境界における境界条件をゼロに近似して前記解析物理量を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の構造体監視システム。
【請求項10】
前記計測手段は、前記構造体の任意の位置に敷設された確認用計測手段を含みこの確認用計測手段が敷設された位置の各点における物理量を計測する一方、
前記数値解析手段は、この確認用計測手段によって物理量が計測された点における前記解析物理量を算出するように構成され、
前記表示手段は、同一の点における測定物理量と解析物理量との比較に関する情報が表示されるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の構造体監視システム。
【請求項11】
前記光ファイバセンサが前記確認用計測手段を兼用していることを特徴とする請求項10に記載の構造体監視システム。
【請求項12】
前記表示手段は、前記数値解析手段と別個に設けられ、情報を送受信する通信手段を介して前記数値解析手段に接続されていることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の構造体監視システム。
【請求項13】
前記光ファイバセンサは、磁力に応じて変形する磁気歪部材により被覆されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の構造体監視システム。

【国際公開番号】WO2005/003689
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503378(P2005−503378)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008395
【国際出願日】平成15年7月2日(2003.7.2)
【出願人】(303021609)ニューブレクス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】